どうしてこうなった?   作:とんぱ

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第十一話

 街で大量の保存食と水分、一応予備の服を数点補充しておいた。背中のバッグが結構な重量になったけど仕方ない。これくらいあれば多少試験期間が長くても食料と水は持つだろう。

 さて、準備も出来たしめしどころに行きますか。

 

「いらっしぇーい!! ご注文は――?」

「ステーキ定食」

「焼き方はミディアムレアかい?」

「弱火でじっくり」

「あいよー」

「お客さん奥の部屋へどうぞー」

 

 ……覚えられていた。なんか恥ずかしい。

 奥の小部屋に入ると既にステーキ定食が用意されていた……あ、ご飯が大盛りになってる。……嬉しいけど、やっぱり恥ずかしい。そんなに大食いに見られてたのかな?

 

 エレベーターになっている部屋で下に着くのを待ちながらステーキを食べる。うん、美味い。弱火でじっくりも中々いける。しかし、この店ってハンター試験の為に作られたのかな。だとしたらすごいな。普通の定食屋って感じだったのに。一回の試験でどんだけの金が動いてるんだろう?

 

 そんな事を考えているとエレベーターが止まった。着いたのか? B100……地下100階か、どれぐらい深いんだろう?

 

 開いた扉の向こう側には……おお、予想以上の人数がたむろっている。これ全部受験生なのか。そんな彼らが入ってきたばかりの私を鋭く睨みつける。こっち見んな。まあすぐに興味を失ったように視線を外したけど。

 

「はい、番号札です」 

「! ……どうも」

 

 おおビーンズ! ネテロの秘書のビーンズじゃないか! 久しぶりだな! 元気そうで何よりだ。変わってないな相変わらず。……本当に変わってないな。あれから13年以上経ってるのに。成長しきってこの姿なんだろうか?

 

「あの、何か質問でも?」

「い、いえ。なんでもありません」

 

 思わず凝視してしまっていた様だ。ごめんねビーンズ、久しぶりだったからつい。でもビーンズは今の私のことは知らないんだよな……。少し寂しい。

 

 ……気を取り直そう。私の番号は……401番か。

 

 おっといけない。ハンター試験を受けた目的を果たさなくては。恐らく転生者や漂流者と言われる存在がいるとしたら、念を覚えて試験に挑む可能性が高い。なら纏をしている者を探せばいい。

 

 ……いないかな? いた。纏をしている。誰だ? 転生者か、それとも……。

 

 変態ピエロだった。

 どうして? どうして変態ピエロがここにいる!? もしかしてあいつ……そうだ思い出した! あの変態ピエロ、確か物語に関わっていた! それも結構重要な位置にいなかったか!?

 

 やばいよ。あれがここにいるなんて予想外だよ……。強さはともかくなんか気持ち悪いんだよアイツ。っ! ひぃぃぃぃ! 眼が合ったよう! こっちに来る!? 助けてネテロ! 今こそ百式観音の使いどころだ! 親友の貞操の危機だぞ!!

 

「やあ久しぶりだね♣」

「人違いではないでしょうか。私にあなたの様な変態ピエロの知り合いはいませんが」

「くくく。つれないなあ。ところで君、やっぱり使えるんだね♦」

 

 なんでだ? 念を使える事がばれた? 私は【天使のヴェール】を解いていない。念能力者には垂れ流しのオーラしか見えていないはず……。

 

「前にもそのような事を言ってましたね。何の話ですか?」

「とぼけても無駄だよ。君のオーラはあまりにもボクのオーラに無反応過ぎる。いくら念が使えないからといっても、オーラの動きは多少なりとも見て取れるはずだからね♠」

「……」

 

 そんな僅かなことで見抜くか……。ちょっと想像以上の使い手だな。

 

「つまり君はオーラの制御が出来ている、ということになる。あと、“前にも”って言ったね。やっぱり覚えてるんじゃないか♥」

 

 余計な事を口走ってしまったな。まあバレバレだったから別にいいけど。

 

「いいねぇ。君すごくいいよ。今すぐ食べちゃいたいくらいだ♠」

 

 うわぁぁぁ……。もうやだこの変態。こんな変態に食われるくらいなら帰ったほうがマシだよ……いや、いっそヤるか? その方が後顧の憂いが残らない分いいかも……。

 いやいや。なに危険な思想をしている私。

 

「私なんておいしくないですよ。ほら周りを見てください。私なんかよりも歯ごたえがありそうな人たちが一杯います」

 

 ……なんか周りから余計な事を言うな! といった感じの無言の圧力を感じる……ごめんなさい、変態の視線に耐え切れずつい……。

 

「周りにいるのでおいしそうなのは一人だけでね。他は今のところどうでもいいかな♥」

 

 誰だその可哀想な人は。っていうか私以外にいるならそっちに行って下さい。

 

「とにかく。私は試験に集中したいので失礼させてもらいます」

「残念。嫌われちゃったかな♦」

 

 さっさと変態ピエロから離れる。出来るだけ一緒にいたくないタイプの存在だ。長い私の人生でもああいう変態はそうそう見ないぞ?

 

 いけない。あいつの所為で目的を忘れるところだった。他に纏を使える人はいないかな。お、いた……顔面針男だ。……あれが転生者だとは思いたくない。ましてや漂流者だとは認めたくもない。あれが同郷の出身だったら軽く絶望するよ。

 

 

 

 その後も何人かエレベーターから人が降りてきたけど念能力者じゃないな。あ、またエレベーターが開いた。今度は3人組だ。

 

 ……つんつん髪の少年と渋めの青年と美形の青年だ。もしかして……多分あれがそうかな。いわゆる物語の主人公たちかもしれない。物語だとか主人公だとかの言い方は嫌だけど、他にいい表現がないし。

 ……う~ん、主人公(名前忘れた)たちの中にも纏が使える人はいない。やっぱり私以外にはあの世界から来た人はいないということかな?

 

 無駄足だったかな?

 まあいいや。取れるならハンターライセンスは取っておこう。あれは便利だ。公共施設の95%はタダだし。素敵すぎる。

 そう考えているといきなり銅鑼か何かの音が大きく響き渡った。ハンター試験の開始の合図だろうか?

 

「受付時間は終了だ。これからハンター試験を開始するぜ」

 

 なんか無精髭生やした四角い鼻のおじさんが試験の開始を宣言した。……あれはおじ様とは言いたくないなぁ。船長さんの渋さには敵わないね。

 

「オレは1次試験担当官のトンパだ。よろしくな」

 

 ……なんか、こんな人だったっけ。1次試験の試験官って? なんか違う気がするんだけどなぁ。でもこの人の名前も何となく覚えがあるから、多分私の勘違いだろう。それにあの知識どおりに進むなんて限らないしね。

 

「今から始まる1次試験は至って簡単。2次試験会場まで俺について来ることだ」

 

 ああ、そんなのだったな。やっぱりこの人が試験官であってたか。記憶なんて曖昧なもんだからね。あれだけ昔の事なんて覚えてなくても仕方ないか。

 

「結構な距離を走るから頑張るんだな。そうそう、途中に水分補給の為のコーナーをいくつか用意してある。そこのドリンクは自由に飲んでいいぜ」

 

 ふぅむ……親切というよりは罠と見るべきか? ハンター試験でそんなスポーツの様な配慮があるとは思えないし。

 

「さて、それじゃあ早速始めるか。ついて来な」

 

 その言葉と共に走り出すトンパさん。後を追いかける受験生たち。トンネル内に凄い音が響き渡る。……私も行こうっと。

 

 

 

 

 

 

 おお、中々集まっているな。受験生は412名か……こいつらの何人が合格するのやら。

 

 オレはトンパ。かつては“新人つぶしのトンパ”と言われていたハンター試験のベテラン……だった。

 

 ハンター試験で俺が求めているのはほどよい刺激。合格する気なんかハナからなかった。ベテランの動向をチェックし常に危険を察知しながら自分の安全を守り、すぐ側で死の瞬間を見物する。

 新人の夢や希望が失われる時の絶望の表情を見るのは最高のショーだったね。次第に自分から進んで新人の夢を刈り取るようになった。

 

 そんなオレが本当にハンターになるなんて夢にも思わなかったぜ……。

 

 ……あれは7年前の試験の時だったか。当時の試験でも例年通りオレは新人に様々な罠や嫌がらせを行なってきた。あいつもその対象、新人の一人だった。

 

 何時ものように俺はその新人を罠に嵌めようとした。しかし、そいつはオレがどんな罠を仕掛けてもことごとく回避しやがった。いや、それはいい。オレの罠を回避する奴は今までもいた。別にそいつだけが特別ってわけじゃない。

 

 問題はそいつが合格した後だった……。

 オレは試験の危険が増してきた時に試験を降りたから、そいつが合格したのは後から直接そいつから聞いた……。

 

 そう、直接聞いたんだ。あいつは合格した後にわざわざオレを探していやがったんだ。探した理由は、オレの性根を叩き直すのが理由だった……。それを聞いたオレは即座に逃げ出したね。あっさり捕まったけどな……。

 そしてオレは精神修行の名目であいつの入門している道場。風間流合気道場へと強制入門させられた……。

 

 3年間に及ぶ厳しい鍛錬だった……。脱走も何度も企てたが、修行中はあいつがほぼ四六時中付きまとってオレを監視して無理だった……なんでも一度やると決めた以上は最後まで責任は持つらしい。夜寝静まっている時は様々なセンサーを張り巡らせてやがって猫の子1匹出入りするのも無理だった……そこまでするか?

 

 3年も陸の孤島で缶詰になって訓練したおかげで体は大分すっきりしちまったよ。あいつが言うにはまだ搾れるらしいが、勘弁してくれ……。

 

 とりあえず合格をもらってハンター試験を受けた。あいつからは新人つぶしとかしたらオレのピーーをつぶすと脅しを喰らった……。あの眼はマジだった。恐ろしくて新人つぶしなんて考える暇もなかったね。

 

 結果は合格。まさかのハンターライセンス入手だった……。その後はまたあいつに捕まった。まあその時の試験官だったし、待ち構えていたんだろう。合格したその日にまたも道場へ直行。

 そのまま今度は念(その時初めて知った)の修行をやらされた。

 

 こんなものがあるとは思わなかったぜ。3年の修行で念の基本を修めたオレはハンター資格の裏試験なる物に合格した。これで正式にハンターになったってわけだ。

 

 しかし、ハンターになってもやりたい事なんて今さら思いつかなかったオレは、何をしようかと考えていた……。

 その時だ! まさに天の啓示の如く素晴らしいアイディアが俺の脳に浮かんできた。

 

 

 

 ハンター試験の試験官になれば新人の絶望に染まった顔を見る事が出来るじゃないか!

 天恵を得た気分だったねあの時は。どうして今まで思いつかなかったのか不思議なくらいだ。 

  

 すぐさま試験官を申し込んだ。無償らしいが全く問題ない。むしろこっちが払いたいくらいだ。

 

 こうして、オレの初の試験官が始まるわけだ。試験のために発、能力まで作った。これで試験内でのオレの安全は確実だし、受験生の絶望の表情もじっくり観察出来る。一次試験が終わっても最終試験まで付いていけばもっと楽しめるしな。

 

 ……あいつにはばれないようにしないとな。ばれたら想像するだに恐ろしい罰を与えられるに決まっている……。さあ、1次試験を始めるとするか。

 

 

 

 

 

 

 皆が走り出したので私も走りだそうとする。

 そこでふと思いついた。最後尾を走れば変態ピエロに絡まれなくてすむのでは? と。もし変態ピエロが最後尾まで来たら全力で前に行けばいい。

 ついでに絶もしておこう。【天使のヴェール】をしたままだと纏の状態でもオーラを消耗する。絶ならオーラも消耗しにくい上に変態ヒソカにも見つかりにくくなるだろう。

 

 それに何だかオーラの消費がいつもより少しだけ早い気がする。ハンター試験に対して緊張しているのかな? 精神状況でオーラの消費速度は変わってくるからな。そんなに柔な精神じゃないと思っていたけど……まあいいや、オーラの消耗を抑える為にもやっぱり絶でいよう。

 

 

 

 感覚的には50~60㎞は走ったかなぁ。前世の私ならここら辺でばてばてだったかな? 確か若かりし頃の持久走自己ベスト距離が100㎞ほどだったはず。

 もっともこんなスピードではなくもっとゆっくり走ってだけど。今のスピードならもっと早くにギブアップしてるよ。やっぱり前世の私にはハンター試験合格は無理だったかもね。

 

 しかしこの体のスペックの高さときたら……。こんだけ走ってもぜんぜん疲れません。でも他の受験生たちもまだ誰も脱落していない。やっぱりこれくらいの身体能力がこの世界の標準なのかな?

 

 そんな事を考えながら走っていると、少し前を走っていた渋めの青年が隣を走っていた。……かなり疲れてるな。呼吸が荒いし、汗もかなり出ている。あ、コーナーにあるドリンクを取った。水分補給は確かに大切だけど……。

 

「あの~」

「うお!? はっ、はっ、なん、だよ、はっ、はっ、ねーちゃん!?」

 

 あ~。絶をしていたのでびっくりさせてしまったか。すいません。

 

「そのドリンクなんですけど、多分毒かなにかが混入されている可能性がありますから飲まない方がいいと思いますよ」

「はあ!? はっはっ、ま、マジ、かよ!?」

「多分ですけど。ハンター試験でドリンクなんてそんなサービスのいいことあるのかなって思いまして」

「レオリオ~。今試しに味見してみたけど、なんか味が変だよ。そのおねーさんの言う通りに飲まない方がいいと思う」

 

 お、つんつん髪の少年よ。ナイスフォローだ。でも味見するなよ。猛毒だったらどうするんだ。

 

「はっはっ、くそっ! あのクソ試験官め!!」

 

 なんか可哀想だな。結構な距離を走って汗も大量にかいたところに水分が置いてあったんだ。飲みたいと思うのは当然の欲求だ。罠と分かり易い仕掛けな分、飲みたくても飲めないという状況に追いやられる。精神を削る嫌な罠だな。

 

「よければこのジュース飲みますか? 私が試験前に購入したやつですが」

「はっはっ、い、いいのか!?」

 

 このままでは体力よりも精神が折れてしまうかもしれない。買っておいた水分はかなりあるからペットボトル1本くらい問題ないしね。

 

「はい。構いません。あ、でもこれ私の飲みかけでした。すいません。開封してないのを渡しますね」

「! い、いや! それで、いい!」

「え、いやでも開いてるやつだと……」

「いいから、その飲みかけのをくれ!」

 

 あ、私の手から飲みかけのペットボトルを取って勢い良く飲んだ。そんなに喉が渇いていたのか。しかも開いてるペットボトルを飲むなんて……。もし私が毒を入れていたらどうするんだ? 初めて会った私をそんなに簡単に信用するなんて……。

 

 単純だけどいい人なんだな。

 

「ぷはぁっ、あ、ありがとよねーちゃん! この礼は、必ずするぜ!」

「いいですよ。別に大したことをしたわけではありませんから」

「よ~し。気合入ったぜ! 絶対ハンターになったるんじゃーーーーーー!!」

 

 おお、すごい勢いで走っていった。そんなスピードで走るとまたばてちゃうよ?

 

「おねーさん。レオリオを助けてくれてありがとう」

 

 お、つんつん髪の少年が話しかけてきた。レオリオさんと言うのかあの渋めの青年は。

 

「構いませんよ。先ほどの方にもいいましたが大したことではありません」

「あんたお人好しだな。ハンター試験で赤の他人を助けるなんてな」

 

 銀髪の美少年が話しかけてきた……きっと以前の私ならイケメン氏ねなどと思っていたことだろう。ふ、私も成長したものだ。

 

「お人好しですか……余裕があるだけですよ。本当のお人好しは自身が窮地に陥った時にも他人を助けにいく事が出来る人です」

「はあ? 自分がピンチなのに他人を助けるなんてお人好しじゃなくて馬鹿のすることじゃねえの?」

「……そうかもしれませんね」

「とにかく、おねーさんがレオリオを助けてくれたことに変わりはないよ。だから、お礼は言っておかなきゃ」

「そうですか。では素直に受け取っておきますね」

 

 う~ん。いい子だ。確か物語では主役の……名前なんだったっけ?

 

「おねーさんはさ――」

「――アイシャです」

「……へ?」

「私の名前です。何時までもおねーさんでは言いにくいでしょう」

「そっか。オレはゴン! よろしくねアイシャさん!」

「オレはキルア。ま、短い間だろうけどよろしく」

「よろしくお願いします。ゴン君、キルア君」

「ゴンでいいよ。おねーさんが年上なんだし」

「別にオレも呼び捨てでいいよ」

「なら私もアイシャでいいですよ。歳もそんなに変わらないはずですし」

『え?』

「……なぜ2人とも驚くのですか」

 

 まあ、大体理由はわかるけど……。

 

「いや、あんた何歳なんだ? オレはもうじき12歳だけど……どう見ても同い年には見えないね」

「オレももうじき12。アイシャは?」

 

 ゴン君……ゴンは慣れるのが早いな。許可は出したけどすでに呼び捨てとは。なんか自然な感じで嫌ではないけど。

 

「同い年ではないですね。私は13歳です。今年で14歳になります。二人より1年ちょっと年上ですね」

「13!? 1つだけしか違わないのかよ! 5つは上かと思ってたぜ……」

「……早熟だったんですよ。11歳くらいには今の見た目でしたし……」

「そうなんだ」

「まあ11歳過ぎた辺りで成長がかなり緩やかになりまして、身長は殆ど伸びていませんね。せいぜい胸が大きくなってるくらいです」

 

 多分母さんの母乳を飲まなくなったからかな。身長が伸びなくなったのは。あれには成長促進の効果もあったに違いない。胸だけはいまだに成長している……正直いらないんだけど。

 

「胸って……」

 

 はて? キルアの視線が胸に集中している気がする。

 

「ふぅん。いいなあ。オレももっと背が欲しいよ」

「元々女性の方が成長期が早いんですから。ゴンやキルアは今からが成長期でしょう。これからどんどん背が高くなりますよ。3、4年もしたら私の身長などすぐ追い抜きますよ」

「そっか。それならいいや」

 

 う~ん。ゴンは素直ないい子だ。

 

「へっ、あっという間に追い抜いてやるよ」

 

 ……キルアはちょっぴり生意気な子だ。少しはゴンを見習え。まあでも子どもだからこれくらい生意気でも可愛いものかもしれないな。

 そういやゴンは最初に何を言おうとしてたんだろう。その後の会話で言いたい事を忘れたのか?

 

「おい、あんまとろとろ走ってるとおいてくぜ」

「構いませんよ。私は私のペースで走りますから。2人は気にせず先に行ってください」

 

 あまり前に行くと変態ピエロとエンカウントしてしまうからね。

 

「んじゃ。先に行こうぜゴン」

「う、うん。またねアイシャ。頑張ってね」

「はい。2人も頑張って下さい」

 

 2人とも行ったか。ゴンとキルア……確かに記憶の底にあったな、この名前は。この二人が中核となって物語は進んでいたはずだ。

 しかしこの世界ではどうかわからない。生きた人間がいるこの世界は紙の中の世界とは違う。

 この世界で生きている全ての人間に、その人だけの物語があるのだ。変化なんていくらでも起こりうる。例え私という異物がなかったとしても、物語通りに進むとは限らないのだから。

 

 

 

 ゴン達と離れてスローペースで走っていると、少し前にパソコン持った人がフラフラと走っているのが見えてきた。

 

「ゼッ ヒューッ ゼーッ ヒューッ ゼヒューッ」

 

 うわっ? 大丈夫かこの人? ……いや駄目だな。レオリオさんの時よりも遥かにひどい……。これはもう無理じゃないかな?

 あ、コーナーにあるドリンクを取った。一応止めておこう。

 

「あの~」

「ンゴッンゴッげほっげほっヒュー、ヒュー、ングッングッ!」

 

 あ……止める間もなく一気に飲んでしまった……。大丈夫なんだろうか?

 

「しん、じない、ヒューッ、オレが、ゼーッ、負け犬に、ゼヒューッ、なるなんてっ」

 

 ……大丈夫なのかな。もしかしたら普通のドリンクも置いてあったのかもしれない。

 

「い、いや……たくない…………うっ!?」

 

 あ、お腹を押さえてうずくまった……。やっぱりなんか入っていたか……。さすがに命に関わる毒ではないと思うけど……そこまではしないだろう?

 

「あの、大丈夫で……」

 

 ピーゴロゴロゴロギュルリリリリリ!

 

「水をここに置いておきますので自由に使ってくださいそれではさようなら」

 

 全力前進だ!! 後ろでなにか聞こえるのは気のせいだ! 前だけを見て走れ!!

 ……私にも、助けられる人と助けられない人がいる……。ああ、なんて無力なんだ……。

 

 

 

 お、階段だ。あ~、もしかしたらエレベーターで降りてきた分昇らなきゃいけないのかな。何人かここでリタイアしてるな。さすがに階段はキツイよね。私は今のところは大丈夫だな。でもペースは上げない。変態ダメ絶対。

 

 なんか前の方から話し声が聞こえてきた。マラソン中に会話なんて余裕あるな。あ、私たちもしていたか。うすらうすらとクルタ族がどうのこうのと聞こえてくる。クルタ族ってあのクルタ族か?

 

 ……大分脱落している人が増えてきたな。すでに100人近くは脱落したか。今のところ変態とのエンカウントはない。良し、このアイディアは大成功だ。……ん? 明かりが見えた。出口か?

 これで薄暗いトンネルからもおさらば出来るな、ってちょっと待って! なんでシャッターが閉まってくの!? 時間制限あるなんて聞いてないよ!? ダッシュだ間にあえー!

 

 ふう。滑り込みセーフだ。あ~びっくりした。冷や汗出たよ。間に合わなかったらシャッター破壊するところだった。

 

 

 

「さて、ここからが本番だ。ここはヌメーレ湿原、通称“詐欺師の塒”と呼ばれる場所だ。二次試験会場へはここを通らなければ行く事は出来ない」

 

 トンパさんが説明をしてくれている。ヌメーレ湿原か。……どうしてそんな湿原とあの定食屋の地下が繋がっているんだ? 今回の試験の為だけに作ったわけじゃないよね?

 

「ここにいる動植物たちは特殊な進化をしていてな。その多くが人間を欺いて食料にしようとする狡猾で貪欲な生き物たちだ」

 

 なんでこんな人が住んでなさそうな場所の生物がそんな進化してるんだろう? 明らかに進化の方向を間違っていると言わざるをえない。

 

「十分注意してついて来ないとだまされて死んじまうぜ」

 

 あなたももしかしてここの出身なのでは? ……ありうるかも。

 

「ふぅん。だったらボクらも騙されてないか確認しないとね♦」

 

 なっ! 変態がトンパさんに向かってトランプを投げた!? 何してんだこの変態は! しかもあのトランプしっかりと周してるし! 

 ……へ? 投げたトランプがトンパさんの体から全部逸れた。……何をしたんだトンパさん? 変態がわざと外したとは思えないし、何かの発か?

 

「……何をしたのかな?」

「そいつは秘密だな。あと言っておくが、いくらオレが本物の試験官か確認するためとはいえ、試験官に攻撃するのは許されない。次に俺に攻撃をしたら失格にするぜ」

「くっくっく。仕方ない。先ほどのが何なのか気になるけど、キミ自体はあまり好みじゃないしね♥」

 

「さあ、二次試験会場へ行くとするか。しっかりとついて来な」

 

 

 

 うわ、ぬかるみがうっとおしいな。霧も濃くなってきた。前もほとんど見えないくらいだ。これはあまり後方だと前とはぐれるかもしれないな。気配を辿ればいいけど、一応円を使うか。これなら多少後方でも大丈夫だろう。

 

 ……うわぁ、すでに何人も別の方向に走っているよ。なにか人間とは違う生き物があちこちにいるな。周りから悲鳴が聞こえてきた。まさに詐欺師の塒、こんなに多種多様な生き物が人を騙すための進化を遂げてるって意味分からん。

 

 っ! ……殺気。それもかなり強い。これは獣ではない、人特有の殺気だ。

 

 誰だ。こんな場所で殺気を放つなんて?

 

「ってえーーーーーー!!!」

 

 !? ……この声は、レオリオさんの声! 殺気の強い場所から聞こえた!! この殺気の持ち主から何かされたのか? くっ、少しだけど会話をした人が危ないとなると助けに行きたくなってしまうな。そう遠くないようだし、様子を見に行こう!

 

 遠くから悲鳴と一緒に変態ピエロの笑い声が聞こえてきた……。ってこの殺気は変態ピエロのか!! 道理で粘っこいやな感じの殺気だと思ったよ! レオリオさんは変態ピエロに狙われてるのか……。

 ん? 変態がレオリオさんを狙ってるってことは……まさかの両刀か!? お、恐ろしい……どちらもいけるなんて、まさに真正の変態だ……。

 

 うわぁ……あれがいると分かった瞬間に助けに行きたくなくなっちゃったよ。でもあんないい人を見捨てるのも嫌だ……。

 

 相手が確認できる離れた場所で様子を見よう。絶をして気配を消していれば真・変態にもばれない、はず。もしレオリオさんが殺られそうになったら助けにいこう。そうでないなら静観だ。何でもかんでも私が助けたらハンター試験にならないし。……いやでもこれは試験とは関係ないから大丈夫か? ヒソカは試験官じゃないしな。

 

 お、いたいた。茂みに隠れて様子を見る。いるのは変態とそれに対峙しているレオリオさん、美形の青年、濃いおっさんの3人か。良かった、レオリオさんは無事だったか。

 

 お、3人がばらばらの方向に逃げた。いい判断だ。変態も追いかけずに待っている。余裕の表れだな。

 ちょっ! なんで戻ってくるのレオリオさん!? うわ、突っかかっていったよ! そんな攻撃があの変態に当たるわけない! 無理無茶無謀の三拍子そろってますよレオリオさぁん!

 

 仕方ない、援護射撃をするか。石を投げて変態の気を逸らそう。その間に逃げてくれ!

 あ、変態の顔に何かが当たった。私の石じゃない。……私の石は何かが当たって仰け反った変態の顔の側を通り過ぎてレオリオさんの横顔に当たった。……あ、レオリオさんが気絶した。

 レ、レオリオさーーーーーーん!?

 

 ど、どうしてこんなことに!? 私はただレオリオさんを助けようとしただけなのに……今のは、ゴンの釣竿か! レオリオさんを助けに来たのか。く、本当にいい子だけど、タイミングが悪すぎた……。

 

 はっ!? こ、こっちに視線を感じる。……明らかにこの茂みを見ている……この粘っこい視線、変態のだ。

 

「そこにいるのは誰だい? なかなか上手に隠れていたね♠」

 

 まだ私だとは特定出来てはいないようだけど時間の問題だな……。

 

「さっきの石。本当はボクを狙ったものだね。そこの釣竿のボウヤといい、先ほどの彼といい、意外と期待できるのがいるね♦」

 

 私には何も期待しないで下さい。あとこっち来んな。

 あ、ゴンが変態に釣竿で殴りかかった。いけ! そこだ! ぶっ飛ばせ! 私が許可する! まあ無理だろうけど。……やっぱり避けられた。このままじゃゴンも殺られる? 殺気は感じられないから大丈夫かもしれない。けどもしもの時は私が止めるしかない。

 

「仲間を助けにきたのかい? いいコだね~~~~~♣」

 

 うわ。またも粘つくかのような嫌なオーラを放っているよ……。これはゴンもロックオンされたかな? 可哀想に。

 

「うん! 君も合格♥ いいハンターになりなよ♣」

 

 やっぱりか。どうもあの変態は強者か強者になりうる可能性を持つ者に執着するみたいだ。ゴンとレオリオさんは変態のお眼鏡に適ったと言うことかな? あ、こっちに来る。くそっ、こうなったら仕方ない。私も出るか。

 

 ――ピピピ――

 

 ん? この音はケータイかな。あ、変態のケータイみたいだ。

 

 “ヒソカそろそろ戻ってこいよ。どうやらもうすぐ二次会場につくみたいだぜ”

 

「OKすぐ行く♦」

 

 変態の名前はヒソカ、か。思い出したくない名前だったよほんとに……。

 

「お互い持つべきものは仲間だね♥」

 

 変……ヒソカの仲間、やっぱり変態なのかな?

 

「あとは……」

 

 おっと! こっちにトランプ投げてきたか!

 

「っ!」

「なんだ。誰かと思ったらキミだったのかいアイシャ♠」

「……なんで私の名前を知っているんですか? あなたの様な変態に教えた覚えはありませんが?」

「変態とは随分だね。キミの名前は天空闘技場にいた時に知ったよ。普通に選手紹介されてるだろ♦」

「……そうでしたね。それで、まさかここで私と戦う気ですか?」

「そうしたいところだけど、今は我慢するよ。2次試験が始まるまでに終わるとは限らないし、さすがに三度も試験を受けるのはボクも面倒だからね。キミと殺り合うのはまたの機会にするよ♥」

 

 そんな機会は永遠に訪れないでほしいものです。

 

「自力で戻ってこれるかい?」

「大丈夫ですからさっさと行ってください」

「くっくっく、つれないな♣」

 

 笑いながらヒソカは霧の向こうに去っていった。はぁ、難儀な奴に目をつけられちゃったな……。

 

「ゴン!?」

 

 あ、美形の青年が戻ってきた。この人もレオリオさんを心配してきたのか。仲間思いの人だな。

 

「クラピカ……」

「どうしてここに……ヒソカは?」

「もういないよ。二次会場に行ったんだと思う」

「そうか……レオリオ!? ヒソカにやられたのか……」

 

 いえそれは私がやりました……。

 

「あ~、すいません。それは私の所為です……」

「……キミは?」

「その、レオリオさんの怪我は、私が投げた石が当たってしまって、その、え~と……すいませんでした……」

「レオリオを助けるために投げたんでしょ。オレの釣竿がヒソカに当たらなかったら、アイシャの投げた石が当たっていたよ」

「ゴン、知り合いか?」

「うん。トンネルの中で知り合ったんだ。その時もレオリオを助けてくれたんだよ」

「そうか。礼を言わせてくれ。レオリオを助けてくれたみたいで感謝する。私の名前はクラピカだ。よろしくな」

「いいえ。今回は助けたと言うより危害を加えてしまいましたから。……あと、私はアイシャといいます。よろしくお願いしますね」

 

 美形青年の名前はクラピカか。

 

「アイシャ、さっきの大丈夫だった?」

「あのトランプですか? 当たってないから大丈夫ですよ。ゴンこそ大丈夫ですか?」

「うん。オレは平気だよ……」

 

 心拍数が上がってるな。さすがにアレを目の前にして平常ではいられなかったか。

 

「とにかく、いつまでもここにいても仕方ないな。はやく二次会場に行かなければ失格になってしまう」

「レオリオは……ダメだ。完全に気絶してるや」

「あ、レオリオさんは私が背負って行きます。私の所為で気絶してしまいましたからね」

「しかし、君の様な女性にその様な事は……」

「大丈夫ですよ。私そこそこ力ありますから……すいません、バッグを持ってもらえますか?」

「……本末転倒な気がするが、分かった……」

 

 うう、重量的には問題ないけどバランスが悪くて一緒には背負えない……。

 

「こ、このバッグ、一体何を入れているんだ?」

「えっと、保存食と水分と他数点ですね」

「そ、そうか……(こんなのを背負ってあれだけ走ったのか……)」

 

 レオリオさんを背負う私。うん。これくらいなら大丈夫だ。早く追いかけないと失格になってしまう。円でヒソカの位置を確認できるかな? ……ダメだ。ヒソカは既に円の範囲外に行ったみたいだ。でもヒソカが行った方向にたくさんの動物の死骸と思わしき物が転がってるな。これを追跡すれば大丈夫かな?

 

「さあ、早く行きましょう」

「うん」「分かった」

 

 さて、間に合えばいいんだけど。

 

 




 バタフライ効果現る。
 まあ、主人公は結構世界に影響を与える事を前世?で行なっているので、バタフライ効果も出て来ます。トンパが大分前に新人つぶしをしなくなった所為で受験生の人数にも変化があります。原作ではトンパの所為で挫折して二度と試験を受けなかった新人っていたと思うんですよ。
 しかしバタフライ効果が現れても原作の基本的な流れは極端には変わりません。完全なオリジナルを作れない作者の力不足です……。

念能力説明
【箱庭の絶対者】
・特質系能力
 ハンター試験中にハンター試験会場の中でしか使用できないトンパの念能力。発動中はまさに強靭! 無敵! さいきょー! になれる(あらゆる攻撃・念能力を無効化する)。自分が担当している試験なら罠も自在に配置でき、自由に試験会場で起きた出来事を鑑賞することも出来る。

〈制約〉
・この能力が発動している時に直接他者を攻撃する事は出来ない(罠は大丈夫)
・他者を直接死に至らしめるような罠は配置出来ない。
・ハンター試験中にハンター試験会場の中でしか使用できない。
・試験会場で起きたことを鑑賞出来るのは最終試験までの間となる。また鑑賞で手に入れた情報を他者に伝えてはならない。

〈誓約〉
・鑑賞で手に入れた情報を他者に伝えると今後三年間試験官になることは出来なくなる(試験官になろうと思う気持ちが三年間なくなる)。

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