どうしてこうなった?   作:とんぱ

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第九話

 ぬぬ! これはなかなか……おお? そう来るか!? く、これはまずいか? やられてたまるか! そ、そんな!? 技が通用しない!? この投げが外されるなんて……!

 

「……シャ……ま1……5……とう……じ……まで……そ…………こしく……い……」

 

 ああ! やられる! くそ、逆転するには必殺技に賭けるしかない! 逝くぞ!

 

「アイ  様。あと 分以内  6 階闘 場までお越し  さい」

 

 さっきからうるさいな。ゲームに集中出来ないじゃないか! ああ? 敵の超必に当ってしまった! ユールーズ……負けてしまった……。

 もう、せっかくラスボスまで行けたというのに。さっきの放送の所為で集中が乱れてしまった。一体何だったんだ?

 

「アイシャ選手は不参加の為、ゴメス選手の不戦勝となります」

 

 ……ああ! しまった! 試合を忘れていた!

 ふ、不戦敗になってしまった……く、これも何もかもこのジョイステが悪い! 久しぶりにゲームをしたら昔の血(ゲーマー)が騒いでしまって、ついのめり込んでしまった……。

 

 いやあ、ようやくゲームが出来るようになったんで、我を忘れて熱中してしまうとは。……恥ずかしい。次は気をつけよう……。

 

 

 

 あの後、流星街を出てから私は何とか日雇いの仕事をして食い繋いでいた。幸い私は母さんの母乳のおかげか成長が早く、実年齢は10歳程でも見た目は16~18歳くらいには成長していたので、年齢は誤魔化して働く事が出来た。

 しかしそれも長続きはしない。表の仕事は身分証明が出来ない者には厳しい。まともな仕事に就くのは難しい。裏の仕事なら大丈夫かもしれないけど、あまりそっちには関わりたくないし……。

 私に何の取り得もなかったら仕方なかったかもしれないけど、幸い私にはとびっきりの取り得がある。

 武術である。

 

 という訳で、天空闘技場に来た。来た理由はいたって簡単。お金稼ぎと修行のためである。お金稼ぎに関しては言うまでもない。生きていく為にはお金がいる。ここはそれなりに腕の立つ者には絶好の金稼ぎポイントだ。ゆえに天空闘技場だ。ここなら190階以下の階層を行ったり来たりすれば簡単に億の単位を稼げてしまう。

 

 修行に関しては、もう十分じゃね? と思うかもしれないが、実はそうでもない。……私は確実に前世の私・リュウショウ=カザマよりも、弱い……。

 

 身体能力では今の私の方がすでに上だ。私はまだ11歳だが、前世でもっとも肉体を鍛え上げた時よりも遥かに高い身体能力を持っている。

 ……これは前世の私は元の世界の肉体で、今の私はこの世界で生まれ変わったことでこの世界の肉体を手に入れたことが原因だろう。明らかにおかしいスピードで成長し、筋肉の限界とか体の許容量とか無視したような筋力になっている。身体のスペックは圧倒的に現在が上だ。

 

 さらに言えばオーラ量も現在が上。生まれた時からすでに前世の私を越えていたオーラ量は、この11年でさらに成長していた。……堅の修行はしてはいたけど、一番の原因は母さんの母乳にあるかもしれない……なんか飲むたびに潜在オーラが少しずつ増加していた様な気がする……。

 

 ともかく、それでもリュウショウの頃の私と今の私が戦えば、恐らくリュウショウが勝つ。原因は、私の技術と肉体の関係にある……。

 私の持つ技術はリュウショウが90年近くに渡って磨き上げてきた努力の結晶。それは反復に反復を繰り返した結果、当時の私の肉体に最適の動きを刻み込んだ技術だ。

 今の私の肉体に最適な技術ではないのだ。それゆえに、どうしても技がぎこちなく、以前の様にしっくりとこない。肉体と技が喧嘩しているかのようだ。そもそも転生してから誰かと技の稽古をしてはいないのだ。鈍りに鈍ってる。まさか母さんを技の稽古台にするわけにはいかなかったし。

 

 それはまだいい。その点に関してはこうして天空闘技場で戦いながら、前世の技術を今の私の肉体に最適になるよう調整している。 

 一番の問題は私の精神性の差だ。

 以前のリュウショウの精神はもはや植物の域と言えるほどの高みにあった。だが、今の私の精神は普通の女の子……とは言えないが、確実にリュウショウの頃の領域にはいない。

 戦闘において精神の在り方は重要なファクターの1つだ。心の乱れ1つで技が乱れ、相手に必殺の間を与えることとなりうる。これはそこら辺の雑魚ならともかく、一級品、それもかつての我が友ネテロクラスになると致命的だろう……。

 

 

 

 ……まあ、あのクラスの化け物がそうポンポンいたら堪らんな、うん。これに関しては杞憂だったかもしれない。

 そういやネテロ元気かな? 久しぶりに会いたい気持ちもあるな。今の私を見てリュウショウだと気付く事はないだろうけど……。

 

 とにかく、まさに心技体ともにばらばらなのだ。ここでしばらく戦って体を慣らすとしよう。それに身体能力が上がったのは悪い事だけではない。以前の私では出来なかった事も今なら出来るだろう。体の調整も兼ねて色々ここで試してみよう。

 

 その後はどうしようかな?

 グリードアイランド(一応ネットで調べた)を手に入れたいけど、あの値段は今の私では手が届かない。何とか入手したいけど、バッテラという大金持ちが買い集めているらしく、たまにブラックマーケットに出品してもあっさり最高額で手に入れている……オノレバッテラ。

 一応、時々ネットでグリードアイランドに関する情報を集めておこう。買う以外にももしかしたら上手い方法が見つかるかもしれない。

 

 今はそれでいいとして。本当にどうしよう? 別にフロアマスターに興味はないし。今さら道場とか建てたりしないし名誉だとかはいらない。

 色々世界を廻ってみようかな? 世界各国ぶらり旅も面白そうだ。

 

 それともハンター試験でも受けてみるか? ハンター自体にそこまで興味はないけど、ハンターライセンスは今の私には必要になるだろう。持ってるだけで身分証明として最高の証明証になり、グリードアイランドの情報を調べる上でも役に立ってくれるはず。

 あの時、ネテロに誘われた時は断ったけど、今なら受けても合格出来るかもしれない。今は1997年2月27日だから、受けるとしたら来年の試験か。

 

 ん~?

 確か再来年、1999年の試験になんか有った様な気がする……。未来の事が気になるという事は、恐らくあの知識が原因だな。今さらこう言うのもなんだが、いわゆる原作開始だったはずだ……。

 

 ……あの知識は殆ど覚えていない。なんせ100年以上前に見た漫画の知識。これが実際に経験した記憶ならともかく、そんな漫画の知識を100年以上も記憶しておくなんて不可能だ。それが出来ていれば前世の私は【原作知識/オリシュノトクテン】なんて能力作ってはいないよ……。

 

 せいぜい覚えているのは、始まりがハンター試験であること。主要人物が少年2人(4人だっけ?)。あとは……確か天空闘技場とグリードアイランドが関わってたかな。そして色々あった後になんか凄いヤバイ生き物がでてきて世界がやばかったくらいか。

その場面をみて記憶と照らし合わせれば、少しは思い出すかもしれないけど。

 

 ……ヤバイ生物(確か蟻?)どうしよう? 今の私なら勝てるかな? でもネテロでも勝てなかったはず。ならネテロより弱い私が勝てるわけがない。

 

 いや、念能力者には相性もある。私はネテロの【百式観音】相手には勝つことは出来なかったが、ネテロの【百式観音】が通じなかった相手に私の技術が勝る可能性はある……。さらに今の私の心技体が完全に一致すれば、確実に前世の私より強くなってるはずだ。

 もっとも、技と体はともかく心は厳しいかもしれない。当時の精神にまで至るのは難しそうだ……。本当は戦うことなく発生前に潰したいのだけど、そんな細かい事覚えているわけがないよ。はあ……。

 

 暇つぶしになんか新しい念能力でも考えてみようかな?

 

 

 一応ここに来る前に作った能力はある。あまりにも燃費が悪すぎる能力だけど……普通に生きてく為には便利なんだけどね。

 

【天使のヴェール】

・特質系能力

 自身のオーラを覆い隠し、体から出るオーラを感知できないようにし、一般的なオーラに見せかける念能力。念能力者が見てもただの垂れ流しのオーラとしか確認できない。ONとOFFの切り替えは可能。

 

〈制約〉

・この能力の発動時は纏の状態でも通常時の練と同じ量のオーラを消耗する。

・この能力を発動した状態で念を使用するとその念を使用するのに必要なオーラ量は通常の10倍となる。

・体から離れたオーラにはこの能力の効果は及ばない。

 

〈誓約〉

・特になし

 

 ……いや、いざ流星街を出てから他の街に行ったんだけど、常に絶をするか隠をしていないと普通に過ごせなかったんだ。でも、常時絶や隠をし続けながら生活をするなんて精神に負担掛かりすぎる。

 そこで、このオーラをごまかす事の出来る念能力を作ればいいと思ったわけだ。

 

 最初はオーラの質を誤魔化すだけの能力を作ろうと思っていたんだが、いざ色々考えながら作り上げてみると凶悪な能力に仕上がってしまった。

 この能力を発動しているとこちらが堅をしても凝をしても、硬をしてさえも相手は無反応。もちろん相手は念能力者だ。こちらが念能力者であるとさえ気付かなかった。これだけでこの能力の凶悪さが分かるというものだ。

 

 その分デメリットも多くなってしまったが。並みの能力者なら纏をしているだけで一時間もしないうちに倒れるだろう。私の膨大なオーラ量でさえ、この能力を発動した状態で練をすれば6時間ほどしか持たないからなぁ。

 ……10倍の消耗率で練が6時間持てば十分過ぎるか。

 

 まあ所詮は通常時。臨戦態勢時はオーラの消費量は応用技も使いながら戦った場合、通常の6~10倍のスピードで減っていく。私の場合は、まあ戦い方にもよるけれど、これが60~100倍のスピードになるわけだ。

 

 消費が激しすぎて戦闘時に纏以外は出来るだけ使わないようにしてます。まあその辺の相手でしたら纏すら必要ないけどね。弱体化したとはいえ、元風間流師範を舐めてもらっては困るな。

 ワタシtueeeeeeeee。

 

 さて、新しい能力はどんな能力にしようかなぁ?

 なんか参考になるものがあればいいんだけど。ん~、なんかないかな?

 

 ……はて、かつてもこんな風に念能力について色々考えたようなことがあった気がする。なんか、とてつもなくまずいことを忘れてる気がする……。

 

 だめだ。思い出せないな……。ま、いっか。思い出せないならたいしたことないってことだし。多分……。今は新しい能力について考えよう。

 

 

 

 天空闘技場に来て2週間。新しい念能力が出来た。いやあ。考えた考えた。何を考えたかと言うと、どうすれば自身の危険を減らせるか。別に戦いから逃げるとかではなく、戦いの中での危険を減らす方法を、だけど。

 

 念能力者の戦いは何が起こるか分からない。これの一番の理由は、相手がどんな能力を持ってるか分からないから。操作系ならこちらを操る能力かもしれないし、具現化系ならなにか特殊な能力を持った道具を具現化するかもしれない。いくら強くても操作されたり特殊な念を喰らったりすれば負けるだろう。

 

 そこで作ったのがこれ。

 

 

 

【ボス属性】

・特質系能力

 自身に及ぼされる念による状態異常や特殊効果を無効化する念能力。自身の用いた念は無効化することはない。この念は常時発動している。

 

〈制約〉

・無効化するたびにオーラ量を消費する。消費されるオーラ量はその念に込められたオーラ量×nのオーラ量を消費する(nは強い影響を及ぼす念能力ほど高い数になる)

・死者の念による特殊効果を無効化することは出来ない。

・自身の意思で無効化する効果を選ぶ事は出来ない(治癒能力なども無効化する)

 

〈誓約〉

・この能力によりオーラが枯渇した場合、即座に気絶をしてしまい、かつ30日間絶状態となってしまう。またその間は【ボス属性】も発動しない。

 

 

 

 これなら特殊な効果を持った念も怖くない! もっとも、念で防げるのは特殊効果のみで念による物理的なダメージは普通に通るけど……。

 そこまで便利には出来ない。しかもこれまた燃費悪いし、【天使のヴェール】発動中にこの【ボス属性】の効果が出てしまったら……。消費されるオーラ量にもよるが、あっという間に私のオーラは枯渇してしまうだろう……。

 

 ON/OFF出来ないのは結構厳しかったかもしれない。でもそれだけの制約がないとこれほどの能力は作ることが出来ない。自由に受ける能力を選べないことがいい制約になっている。自身の念能力も無効化する様にすればもっと強力に出来たかもしれないけど、それだと【天使のヴェール】が無意味になってしまうし。

 

 もう一つの問題は念とは関係ない通常の毒とかは無効化出来ないことか。

 なにせそれを無効化してしまえば性転換の薬も無効化してしまうかもしれないしなぁ。仕方ないから通常の毒に関しては自分が気をつけるしかない。逆にその方が完全に油断しない分いいかもしれない。

 

 しかし見事に攻撃系の念能力がない。まあ、これ以上念能力を作るのは難しいかもしれない。出来てもたいしたレベルの能力にはならないだろうしね。

 

 

 

 

 

 

 さて、私は現在天空闘技場から逃げ出している……。

 

 あの後はお金稼ぎの為に190階と180階を往復していた。わざと負けるのは気が引けたけど。すでにお金は10億近くになっている。こんなに貰っていいのだろうか? なんか炭鉱で働いていたのが馬鹿らしくなるほどだ。

 

 しかし190階に来て幾度目か、とうとう警告を受けてしまった。これ以上負けるようなら意図的に負けているものと判断し1階層よりやり直しとなり、その後もまた同じ事をすれば闘技場の参加資格を剥奪する、と。

 

 どうやら露骨過ぎたようだ。……仕方ない、次の試合には勝って200階に上がるとしよう。お金は十分に稼いだし、念能力者相手の稽古もしておきたいしね。そう思って勝ちはしたのだが、200階で妙なのに出会った。

 

 ピエロだ……。なんかもう、とても嫌なオーラをはなってる変なピエロがいた……

こっちを見る目がなんかキモい。

 変なピエロが話しかけてきた。

 

「くくく、200階にようこそ♥」

「……なんの用でしょう? 特に用がないならどいてくれませんか。登録出来ませんので」

「んー、そうさせてあげたいんだけど、君にはここは少し早すぎるかな? ボクの横に何があるか分からないだろ♠」

 

 ……念で作った髑髏。見たところかなりの実力者。今戦っては苦戦はまぬがれないかも……。戦うならもう少し体と技を馴染ませたいところだ。

 

「何の話ですか?」

 

 ここは引く。何というか、負けるとか勝つとか戦うとか以前にこいつとは一緒に居たくない。なんか絡みつくような粘着質なオーラをはなっているし。

 

「君は今でもおいしそうだけど、将来はもっとおいしく育つ。ここで壊れるには少々おしい♦」

 

 うわぁぁぁぁ!? ぞわっとした! 気持ち悪いよこいつ。なんだろう、生理的に受け付けないタイプだ!

 

「なんだったらボクが君を育てても……」

「全力でお断りします!!」

 

 脱兎の如く200階から逃げ出す! そのままの勢いで天空闘技場から出て行ってしまった。今さら戻る気持ちはない。なんだあの変態ピエロは……!?

 

 ……なんかまたも記憶を刺激されている気分? 変態ピエロもあれ(原作)関係かもしれない……。

 

 とにかく、こうなった以上は仕方ない。お金も十分貯まったし、することもないから世界各国ぶらり旅でもしよう。

 

 さらば、天空闘技場よ!!

 

 

 

 

 

 

『アイシャ選手! 華麗な投げによる一撃でクリティカルヒット! 合計11ポイント先取により190階突破ァァァァ!!』

 

 ふぅん。勝ち上がって来ちゃったんだ……♥

 最初に見た時はわざと負けて180階と190階を昇降してたからかまわなかったけど、200階に上がってくるなら話は別だね♣ ここで戦ったらいくら強くても初心者じゃ壊されちゃうからね♠ せっかく美味しく実りそうな果実なんだ。じっくり育ったところを頂かなきゃ♦

 

 

 

「くくく、200階にようこそ♥」 

 

 来たか。くくく、直接見るとまあ、なんて美味しそうなんだ……♦

 

「……なんの用でしょう? 特に用がないならどいてくれませんか。登録出来ませんので」

「んー、そうさせてあげたいんだけど、君にはここは少し早すぎるかな? ボクの横に何があるか分からないだろ♠」

 

 オーラを髑髏の形に変化させる。彼女はオーラが垂れ流しの状態で常にいる。念能力者ではないはず♣

 

「何の話ですか?」

 

 案の定、念は使えないようだ。だとしたらこのオーラの流れは天然か。ますます美味しそう♥

 

「君は今でも美味しそうだけど、将来はもっとおいしく育つ。ここで壊れるには少々おしい♦」

「なんだったらボクが君を育てても……」

「全力でお断りします!!」

「逃げられちゃった……少し念を放出しちゃったみたいだね♠」

 

 仕方ない。また会う機会もあるさ。その時はもっと美味しく育っている事を期待しよう♣

 

 しかし、垂れ流しとはいえオーラの流れに変化がなさすぎた。もしかして彼女使えたのかな? だとしたら勿体無かったかな……♥


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