スーパーヒーロー作戦CS   作:ライフォギア

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ビッキー、誕生日おめでとう!(6日遅れ)

※注意
響の誕生日は9月13日=ルナアタック以降なので
この話は現状のスーパーヒーロー作戦CSよりも未来の時系列になります。
ルナアタックまでの展開は既に決定しているのですが、その為、現状で士達に合流していないメンバーが数人ちらっと紛れ込んでいたりしています。

また、響の誕生日という事でシンフォギア1期の展開がガッツリネタバレされています。
もしもシンフォギア1期を未見でこの作品を見てくださっている方がいましたら、お気を付けください。


番外編
立花響の誕生日


 9月1日。

 二課仮設本部潜水艦内、自販機近くの休憩所にて。

 小日向未来が雪音クリスと会話しているのを門矢士が見つけたところから話は始まる。

 

 

「あ、士先生」

 

 

 士はそこを通るだけで特に話しかけるつもりは無かったのだが、未来の方から話しかけてきた。

 別段無視するような理由も無いので「何だ」と答えつつ、2人に近づく士。

 

 

「よかったら、士先生にも聞いてほしいんですけど」

 

「……まあ、話くらいならいいだろう」

 

 

 面倒な事を言われるのではないかと警戒しつつも、一先ず話を聞く士。

 未来はクリスにも話したそれを士にも話そうとしていた。

 それは目下、未来の頭を悩ませている事である。

 

 

「実は、響の誕生日なんですけど……」

 

「誕生日?」

 

「はい、もうすぐなんです。それでプレゼントをしたいなって思ったんですけど、中々決まらなくて……」

 

「ンなもん食い物とかでいいだろ」

 

「って、あたしも言ったが、どうやらその手は使っちまったらしい」

 

 

 響の誕生日に何かを送りたいが考え付かない、というのが未来の悩みだ。

 最初に相談を受けたクリスも『好きな物はごはん&ごはん』という響の自己紹介を律儀に覚えていたのか、食べ物を提案した。

 ところが未来は使った手は使いたくなく、その為悩みに悩んでいるらしい。

 

 クリスも『響へのプレゼント』を考えた時に最初に食べ物が思いつくわけだが、逆に言えば他に何をあげればいいのか特に思いつかないでいた。

 

 

「ってか、あの馬鹿の事ならあたしらよりもそっちの方が詳しいだろ?」

 

「確かにな。俺や雪音よりもお前の方が付き合いは長い。それに家でも常時2人なんだろ?」

 

「それは……そうなんですけど」

 

「……そのお前が思いつかないから、聞いてるわけか」

 

「はい……」

 

 

 未来は響の事を誰よりも理解している。

 その未来が思いつかないから難儀な状態なのだ。

 士もそれを理解するが、同時に「何で俺があいつの誕生日プレゼントを考えなくてはいけないのか」とも思う。

 人を褒める、祝うという行為に素直に同調するタイプではないのが彼。

 優しさを兼ね備えている事は事実だが、そこの辺りは変わらないらしい。

 

 心底面倒くさいのか、溜息を付く士。

 悩み悩んで思いつかず、溜息を付く未来。

 意外と真面目に考えるものの結局答えが出ず、溜息を付くクリス。

 

 それぞれに、特に士が違う理由で溜息を付く中、1人の青年がそこに割って入った。

 

 

「どうされました? 3人で溜息なんかついて」

 

 

 通りすがりのマネージャー、緒川慎次。

 基本的にマネージャー業務が無い時には二課にいる彼もまた、士同様、偶然通りがかっていた。

 

 

「緒川さん……。そうだ、緒川さんにも聞いてみたいんですけど」

 

「溜息には何か事情がおありなんですね。僕で良ければ相談に乗りますよ」

 

 

 士とは対照的なほどに朗らかな慎次に、未来は響の誕生日について話す。

 頷きながら話を聞いた慎次はしばし考えると、何かを思いついたように1つ、提案を口にした。

 

 

「それでしたら、誕生日会を開くというのは?」

 

「誕生日会?」

 

「聞くところから察するに、これまで響さんを祝う時には未来さん1人だったのでは?」

 

「はい、その通りです」

 

「ですから今回はそこを根本から変えるんです。

 幸い、この部隊には数多くの人がいますから。

 何処かで部屋を用意して、みんなで大々的に響さんをお祝いするんです。

 これなら今までにないインパクトもあるのではないか、と」

 

「成程……」

 

 

 確かに大人数で響の誕生会などした事は無い。

 中学時代はそれどころではなかった。

 響の境遇もあって、集まってくれる友人などいなかった。

 リディアンに入って初めての誕生日になるわけだが、今はあの頃のようなしがらみも無く、むしろ響は仲間が凄い人数に増えている。

 大きなパーティーをして祝うには絶好の機会だろう。

 

 

「それ、凄くいいです! ありがとうございます、緒川さん!」

 

「いえ、力になれたのなら幸いです」

 

 

 今まで響を支えてきたのは未来だ。

 過去の境遇もあって、響の味方をしていたのも未来1人。

 必然、響を祝っていたのも家族を除けば未来だけだった。

 だからできなかったのだろう。何人もの人で一斉にお祝いをする、という発想が。

 

 

「でもよぉ、その誕生日会をするにしても何処でする気なんだ?

 ……いっとくが、あんまり多すぎるとあたしん家でもキャパ足んねぇぞ?」

 

 

 問題提起をしたのはクリスだ。

 実際、この部隊のメンバーはかなり多い。

 それぞれに仕事もあるから全員が響の誕生日会に出席できるかは微妙だが、だとしてもそれ相応の人数が来る事が予想できる。

 そうなればその人数が入るだけのスペースがどうしても必要になる。

 

 クリスが二課から貰った家は広い。10人前後なら入るだろう。

 しかしこの部隊のメンバーは10人何てレベルじゃない。

 具体的な例を挙げれば、仮面ライダー部のメンバーだけでも10人だ。

 仮面ライダー部だけでこれなのだ。ゴーバスターズを始めとする他の組織のメンバーも勘定に入れたら、どう考えてもクリスの家では足りない。

 

 

「それでしたら、僕の方から司令に掛け合ってみましょう。

 1つくらい大きな部屋を用意できるかもしれません」

 

「え……そんな、いいんですか緒川さん?」

 

「はい、折角の誕生日です。司令もできる限りなら協力してくれると思いますよ」

 

 

 慎次や弦十郎は頼りになる大人だ。

 友達の誕生日を祝いたいと願う子供がいるなら、その願いを無下にする事は絶対にない。

 勿論、彼等も仕事があるからどうしても優先順位は発生してしまう。

 しかし、この部隊は二課、特命部、S.H.O.T、0課の4つの組織が合わさってできているのだ。

 その中から1日だけ1つ部屋を貸す程度なら、大した負担にもならないだろう。

 

 

「では日程の確認もあるので、先に響さんの誕生日を教えてもらっても?」

 

「9月13日です」

 

「9月13日ですね、分かりました。

 それでは、その日に何処かの部屋が借りられないか司令に話をしてみましょう。

 なので、部屋の方は僕の方にお任せください」

 

「ありがとうございます。すみません、何だか……」

 

「いえ、お気になさらないで。場所が取れたら、未来さんに連絡しますね」

 

 

 それでは、と言い残し慎次はその場を立ち去った。

 後に残された未来は、クリスと士に「どんな誕生日会にすればいいか」という話を切り出す。

 司令室に向かう慎次は、手帳を取り出して日程を確認した。

 そこに書かれている日程は、マネージャーとして当然だが風鳴翼の日程。

 9月13日の部分を見た慎次はニコリと笑いながら手帳を閉じ、服のポケットにしまう。

 

 

(翼さんにも声をかけておきましょうか)

 

 

 9月13日。

 その日付に、慎次の手帳には何も書かれていない。

 つまり偶然にも完全なオフである事が示されていたのだった。

 

 

 

 

 

 はてさて数日後、響の誕生日まで1週間を切った頃。

 未来の二課御用達の通信機に連絡が入った。

 

 

『未来さんですか? 緒川です』

 

「あ、緒川さん。こんにちは」

 

『こんにちは。響さんの誕生日会の件なのですが、無事に部屋を確保できましたよ』

 

「ホントですか!? ありがとうございます!」

 

 

 電話越しの穏やかな声が、未来に確保できたという場所を伝える。

 場所は特命部のある1室でそれなりに広い場所であるとの事。

 慎次が弦十郎にこの件を話したところ、何とかできないかと各組織の司令に打診し、基地としてかなり広い特命部が名乗りを上げたという事だそうだ。

 

 念の為に言っておくが、名乗りを上げていないS.H.O.Tと0課も決して非協力的だったというわけではなく、むしろ何とかできないか考えてくれている。

 確かに戦いも続く現状で弦十郎がこの話を振った時、それぞれに驚きはあっただろう。

 特に0課の木崎辺りは誕生日会がどうとか言っているイメージがないくらい厳格だ。

 それでも子供達の為に時間を割き、悩んでくれた。

 しかも響の誕生日会がある事を自らの部隊のメンバーに通達までしてくれたそうだ。

 

 と、此処まで聞いた未来はありがたいと思う反面、どんどん申し訳なくなっていていた。

 1人の女子高生の言葉がきっかけで4つの組織が動いているのである。

 普通に考えれば委縮してしまうのも当然だ。

 

 

「あの、本当にすみません。こんなにしてもらっちゃって……」

 

『僕もその場にいましたが、風鳴司令も黒木司令も、天地司令も木崎警視も、皆さん快く協力してくれました。本当にお気になさらず』

 

「でも……」

 

『風鳴司令は『子供の願いを叶えるのは俺達大人の役目。これくらいなんてことない』と言っていました。他の3組織の司令も同意見のようです。

 未来さんは響さんの事をお祝いしたくて、相談を持ち掛けてきた。

 何より首を突っ込んだのは僕の方からです。

 申し訳なく思うような事、謝らなきゃいけない事を未来さんは何もしていません。

 だから、いいんですよ』

 

 

 優しく語り掛けてくる慎次はそう言うが、やはり多少なりとも気にはなる。

 それもそうだろうな、と思いつつ、慎次は本当に気にしていない。

 弦十郎達司令官組も、慎次の言う通り気にしてなどいなかった。

 それどころか『平和な時間を過ごすのはいい事だ』と、全力で協力している節すらある。

 とにもかくにも、響の誕生日会に対し、この部隊はかなり好意的な反応を示しているのであった。

 

 

 

 

 

 さて、その後に未来がしたのは人数集め。

 それぞれに連絡を取って、誰が行けるか行けないかを確認していた。

 話は本当に通っているようで、連絡をすればすぐに要件を察してくれるのはありがたい。

 しかしどうしても来れる人と来れない人がいる。

 例えば剣二と銃四郎の魔弾戦士組は。

 

 

『すまん、俺は非番じゃないからいけそうにない。剣二、お前は非番だったな?』

 

『おう! 誕生日会かぁ、何か持ってった方がいいのか? 魔物コロッケとかでいいかな』

 

『剣二、相手は女の子だぞ。もう少し考えろ』

 

『んな事言っても思いつかねぇよ、ゲキリュウケン』

 

 

 銃四郎は警察官として仕事の日程がある為来れず、剣二は来れるとの事。

 一方で特命部は。

 

 

『話は聞いてるよ! 絶対行くね!』

 

『ヨーコ、特命部の部屋を使うんだから行けないわけがないだろ。

 ……俺達も参加させてもらう。よろしくな、未来』

 

『場所が此処だからね。飾り付けとかも俺達が手伝うよ』

 

『いいねぇ誕生日会! 俺も勿論参……』

 

『そこにエネトロンはあるのか!』

 

『被んなJッ!』

 

 

 場所が場所だけに、全員参加が決まった。

 他にも参加者はたくさん集まっていた。

 翼とクリスは勿論、翼の付き添いという形で慎次も来てくれる。

 それに夏海、ユウスケ、翔太郎、フィリップ、映司、後藤、弦太朗含む仮面ライダー部、晴人、攻介。

 加えて、なのは、なぎさ、ほのか、ひかり、咲、舞。

 ゴーバスターズはバディロイド込みで全員参加、S.H.O.Tからも剣二が来てくれるし、4組織のオペレーターや司令官組も、状況が許してくれるならできれば参加したいと言っていた。

 これだけでも30人を超えている辺り、今回は相当なお祝いだ。

 

 サプライズにしたいという事もあり、響に見つからないように連絡を取っていた未来は通学路から少し外れたベンチに腰掛けていた。

 一通りの連絡を終えた未来は通信機を置き、一息つく。

 

 

(沢山の人が、響の事を想ってくれている)

 

 

 中学時代。

 ツヴァイウィングのライブ会場の惨劇で生き残った響は、生き残ったが故に迫害を受けた。

 

 ────何故お前が生き残ったんだ。

 

 ────人殺し。

 

 ライブ会場でノイズが大量発生。

 しかしその時の死亡者の大半は、『我先にと逃げようとする人に踏みつけられた』事が原因だと報道された事が全ての始まりだった。

 だから、ライブ会場の生存者は人殺しだと誰もが考えた。

 勿論、響は誰も踏みつけてなどいない。それどころか逃げ遅れている側の人間だ。

 だが、事情の知らない周囲から見ればそんな事は関係ない。

 

 響は迫害を受けた。

 学校でのいじめ、家に投げ込まれる石。

 さらに父親にまで影響は及び、会社内で腫れ物を扱うかのようにされた響の父親は荒れてしまい、人が変わったかのように気性の荒い人となってしまった。

 しかも最後には、何処かへ行方をくらませてしまう。

 

 そんな一番辛い時期を知っているのは、現状では小日向未来ただ1人。

 翼やクリスですら知らない事だ。

 実のところフィリップも皆の事を検索しているので知っているが、事情が事情なので決して口にはしていない。

 未来とフィリップが響の過去について話す事などある筈もなく、結局、響の過去は部隊結成以降、一切語られていなかった。

 

 だからというべきか、未来の想いは人一倍だ。

 誰よりも響を見続け、誰よりも響を想い続け、誰よりも響を知っている。

 そんな響が数多くの仲間に囲まれ、誕生日を祝われるまでになっている。

 それが嬉しくない筈がなかった。

 

 

「……ッ」

 

 

 未来は自然と空を見上げ、ほんのりと涙を滲ませた。

 通信で響の誕生日会に出席できるかという話をした時、それぞれに反応は違った。

 だけど変わらないのは、誰もが響の事を想ってくれている事。

 

 

 ────『誕生日か。なら、しっかり祝ってやらないとな』

 

 

 ヒロムの言葉。

 

 

 ────『誕生日を祝われるって嬉しいもんな! パーッとやろうぜ!』

 

 

 剣二の言葉。

 

 

 ────『ダチの誕生日を祝わないわけにはいかねぇ! ぜってぇ行くぜ!』

 

 

 弦太朗の言葉。

 

 

 ────『誰かと祝えるのは幸せな事さ。もしその幸せに、希望に俺が協力できるなら。……って、ちょっとクサいかな?』

 

 

 晴人の言葉。

 

 他にも沢山の人が、多種多様な返事だったが、響の誕生日会に対してこんな風に言葉をかけてくれた。

 中学時代からは考えられない程に、響は沢山の仲間に囲まれている。

 年上だったり年下だったりバラバラだが、沢山の人と手を繋いでた。

 

 ところで、未来は1つだけ気がかりな事があった。

 それを考えつつ、未来は空から目を離し、通信機へ視線を向ける。

 

 

(……士先生は、来てくれるかな?)

 

 

 士へも勿論連絡はしたし、通信にも応じてくれた。

 しかし知っての通り、士は素直な善行はせず、人を祝う事をあまりしない。

 だからなのか、返答は『考えておく』という言葉をぶっきらぼうに言われるだけだった。

 ともあれ断られていないだけ上等なのかもしれないが。

 

 ともかくこれで一段落。後は誕生日会の飾り付けなんかをするだけだ。

 フゥ、と息を吐いた未来は、ふと思う。

 

 

(……響)

 

 

 今の響に仲間は多い。

 自分だけが響の隣にいたあの頃とは全く違う。

 それは良い事だ。ずっと彼女を傍で見てきた未来は心の底から想う。

 だけど、ほんの少しだけ寂しさを覚えるのは。

 

 

(……ワガママだなぁ、私)

 

 

 そんな自分に蓋をして、自嘲するような笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 響の誕生日の数日前。

 冴島邸にて、士は鋼牙と共に夕食を取っていた。

 いつも通りに無言で、食器の音がなるだけの静かな食事だ。

 

 

「聞きたい事がある」

 

 

 士が声を出した。

 珍しい事だったのでゴンザはちょっと驚き、鋼牙も表情こそ殆ど変えないものの、怪訝そうにしていた。

 

 

「何だ」

 

「お前は誰かに誕生日を祝われた事はあるか?」

 

「幼い頃は親父に、今はゴンザに、祝われた事はある」

 

「そうか。……嬉しいか、それは?」

 

「……ああ」

 

 

 切り出してきた話題が『誕生日』という事が余程意外だったのか、鋼牙は完全に食事の手を止めてしまっている。

 士から飛び出てくるとは考えにくい話題だったせいだろう。

 流石に本気で不思議に思ったらしく、鋼牙は疑問を口にした。

 

 

「何だ、突然」

 

「誕生日会をするんだと。俺にも来いってな」

 

「行けばいいだろう」

 

「はっ、何で俺が……」

 

 

 いつも通りに悪態をつく士。もう慣れてしまって気にも留めない鋼牙。

 士が行かないというのなら別に自由だと、鋼牙はあまり深くまで干渉する気が無い。

 そこで口を挟んだのは、2人の食事を見守るゴンザだった。

 

 

「士様、でしたら何故、誕生日の話題を口にされたのですか?」

 

「……フン」

 

「士様は、その方を祝いたいと思っているから、少なくとも気にかけているからではありませんか?」

 

「おい、勝手な事を言うな。誰があんな馬鹿の事を」

 

 

 抗議を申し立てる士だが、右手でそれを制し、遮るゴンザ。

 普段鋼牙や士にあまり意見する事の無いゴンザが見せるその態度は、士にとって少し意外な物だった。

 

 

「差し出がましいようですが、士様はもう少し素直になるべきです。

 祝福したいなら祝福する、それでいいではありませんか」

 

「待てゴンザ、お前何勝手に話を……」

 

「誕生日を祝われるという事は、自分の存在を肯定してくれるという事です。

 『生まれてきてくれてありがとう』と言われるに等しいのです。

 それが嬉しくない筈がない。きっと士様が行けば、その方もお喜びになられますよ」

 

「…………」

 

「何も難しく考えなくても、『誕生日おめでとう』と一言いうだけでもいいのです。

 いえ、『誘われたから仕方なく足を運んだ』。それだけでもいいのです。

 どうでしょうか、士様?」

 

 

 最後にはゴンザの勢いに押し負け、士は完全に黙ってしまった。

 一通り言い終わったゴンザはニコニコと、鋼牙は食事を進めつつも士とゴンザを見やり、士は黙って食事を再開した。

 その後、士は夕食を急いで取り終わると、足早に自分の部屋へと去っていってしまう。

 何処か不愉快そうな、というか照れているのを不愉快な顔で隠しているように見えるのは気のせいだろうか。

 

 一方で、まだ食べ終わっていない鋼牙は横に立つゴンザに顔を向ける。

 ゴンザは「ほほっ」と笑うと、士が空にした皿と食器を片付け始めた。

 

 

『珍しいな、お前さんがそこまでまくし立てるのは』

 

 

 鋼牙の指に嵌っているザルバがゴンザへ話しかける。

 皿を重ねつつ、ゴンザはにこやかな笑みで鋼牙とザルバの方を向いた。

 

 

「士様は素直な方ではありません。好意を表に出せる方ではないのでしょう。

 誰かを蔑ろにするような言葉こそ口にしますが、本心ではないと私は思っております」

 

「ゴンザ、何故そう思う?」

 

「亀の甲より年の劫……と申しましょうか、鋼牙様や士様よりも、長く生きていますので。

 それに、鋼牙様も何となくお分かりになられているのではないでしょうか」

 

「何?」

 

「士様は決して悪い人ではありません。ただ少し、不器用なだけなのです。

 私めは、ほんの少しだけ背を押しただけにすぎません」

 

 

 そもそも士を家に置いているのは、ディケイドを警戒する番犬所からの命令だからだ。

 黄金騎士と共に置いておく事で監視しようとでも思っているのだろう。

 しかし、始まりこそそんな強制的なものでも、今では家にいるのが普通になっていた。

 鋼牙が機嫌を悪くして強く当たっても士はヒラリと躱す。逆もまた然り。

 淡々と会話する中でも、何処か憎たらしい言葉が飛び交う。

 それでも2人は決定的な仲違いをしない。

 

 不思議で微妙な関係、良好と言える様な関係かと言われれば怪しいところだ。

 だが、1つだけ言えるのは、真に士が悪人ならばこうはならない。

 もっと険悪な仲になっている、最悪、既に剣を交えるところまで行っているだろう。

 仲が良いとは言い切れないが、仲が悪いわけでもない。

 一言では表せない妙な信頼関係が2人にはある。

 少なくとも、共に戦って合わせられるくらいには。

 

 

「…………」

 

 

 鋼牙は片付けを進めるゴンザを見つめる。

 ゴンザは士に、「『誘われたから仕方なく足を運んだ』でもいい」と口にした。

 確かにああ言えば、士が誕生日会に行く事の言い訳になるかもしれない。

 士自身もそう思い込む事で、誕生日会に出席しやすくなるかもしれない。

 それがただの照れ隠しにしかならない事に気付いているのはゴンザだけだが。

 

 士と自分の仲が良いか悪いかは置いておくとして、士をあんな風に言いくるめるゴンザは意外と強かな面もあるのだな、と、鋼牙は食事を再開しながら思うのだった。

 

 誕生日会に誘われたけど行くのに照れが残る士に発破をかけるゴンザ。

 今日の夕食の一幕は、そんな感じだった。

 

 

 

 

 

 はてさて9月13日当日。

 学校も終わり、響は椅子に座ったままぐいっと腕を上へ伸ばした。

 

 

「はぁー、終わったー! 未来、かえろっか! 私お腹ペコペコだよー」

 

 

 隣に座る未来へにこやかに笑いかける響だが、そこで携帯が鳴った。

 何だろうとポケットから出して手に取ってみてみれば、二課からのメールだった。

 

 

「どうしたの、響?」

 

「うん、二課からのメール。えーっと、『特命部で緊急ミーティング』……?」

 

 

 内容は響が読み上げた通り、ミーティングについてだった。

 ところがミーティング場所は二課ではなく、特命部。

 指定されている場所は特命部の1室。それも響は入った事の無い区画にある部屋だ。

 何故わざわざ違う場所でミーティングを? と首を傾げる響。

 

 

「変わった場所でやるみたいだけど……何があったんだろ?」

 

「あ、ちょっと待って……。アレ? 私の方にもメール来てるよ」

 

「え? ……じゃあ、未来も呼ばれたって事だよね?」

 

「うん……何だろう?」

 

 

 未来に戦う力は無い。

 確かに二課の民間協力者扱いではあるものの、未来は二課への出入りは多くはないのだ。

 にも拘らず、未来まで指定されて呼ばれているのはどういう事なのだろうか。

 メールの送信ミスか。

 しかし断定できない以上、ミスだとしても一応行っておく事に越した事はない。

 

 

「うーん、何だろ?」

 

「とにかく行ってみよう、響」

 

「そうだね。行けば分かる! ……お腹空いたなぁ」

 

「ミーティング終わったら、一緒にコンビニでも寄ろうね?」

 

「うん!」

 

 

 緊急のミーティングとは、一体何があったのか。

 何故特命部の使った事の無い部屋なのか、何故未来まで呼ばれているのか。

 疑問に思うものの、答えが出ない響はとにかく行ってみるしかないと足を動かした。

 

 

 ──────この先で何が起こるかなど、響『は』一切知らずに。

 

 

 

 

 

 特命部にやって来た響と未来は二課所属である事を示し、スムーズに特命部内部へ進んだ。

 基地内部では整備士と何度かすれ違った。

 此処とは違う区画だが、いつでも出撃できるようにバスターマシンの整備などをしているのだろう。

 ところでその整備士の殆どが、やたらとにこやかに手を振ってくるのは何なのだろうと響は思う。

 人の良い人達なのかな、と思いながら、「お疲れ様です」と声をかけて指定の場所へ向かう響と未来。

 

 やって来たのは会議室などがある区画。

 綺麗に整備された場所は、本当に会社の会議室前のようだ。

 確かにミーティングとかしそうな場所だな、と思いつつ、普段とは気色の違う場所にちょっと気を張ってしまう。

 一方、未来は特に様子を変える事も無く、指定された部屋の扉を見ていた。

 

 

「行こうか、響」

 

「うん。何があったんだろう……」

 

 

 特命部内部も特に変わった様子は無く、むしろ整備士の様子のせいで平和的にすら感じてしまう。

 だが、緊急ミーティングの知らせが来たという事は相応の事が起きた筈。

 それに未来まで呼んだ理由は一体……。

 答えが出そうもないちぐはぐな状況に響は少し顔を強張らせながら、響は部屋の扉を開く。

 

 

 ──────そして、数発の音が鳴り響いた。

 

 

「……へっ?」

 

 

 音の正体はクラッカー。パーティーで良く使われるアレ。

 そこから飛んできたリボンや紙吹雪を頭に乗せた響は、素っ頓狂な顔をしながら部屋の中を見渡す。

 最初に目につくのは、放ち終わったクラッカーを持って十人十色な反応を見せている面々。

 満面の笑顔で迎えるヨーコに剣二に弦太朗。

 彼等程ではないが、リュウジ、ヒロム、翼も微笑んでいた。

 そして照れくさそうにするクリスも、少しだけ口角を上げている。

 クラッカーを持っていない面々も同様に、響を笑顔で迎え入れていた。

 

 

「え、えっ?」

 

 

 状況がまるで飲み込めず戸惑い続ける響の前に、後ろにいた未来が前に出てきた。

 

 

「みなさん、せーの!」

 

 

 

 

「誕生日、おめでとう!!」

 

 

 

 

 未来の号令で放たれた合唱の意味。

 でかでかと飾られている、『誕生日おめでとう! 立花響!』の看板。

 何だか食事やお菓子に飲み物も用意されている会場。

 

 

「へっ、あのっ、えっと、え? ミーティングは……あれっ?」

 

「もう、響。まだわからない?」

 

「え、未来? え?」

 

 

 突然の事で脳の整理が追いつかない響が慌てふためいている。

 何故未来が訳知り顔なのかとか、ミーティングはどうしたのかとか。

 そうしてようやく響は状況を把握した。

 

 

「あ、あぁ! 私、誕生日!?」

 

「あぁ、やっぱり。響、自分の誕生日なのに忘れてたでしょ?」

 

「いや、あの、うん……。え、じゃあさっきのメールって……」

 

「うん、ごめんね。全部私が頼んだ事なの。

 部屋の中も凄いでしょ? 皆さんが協力してくれたんだよ?」

 

 

 自分が置かれている現状を理解するものの、やたら豪勢な場所に戸惑いは収まらない。

 サプライズで用意してくれたのであろう事は分かる。

 だが、部屋1つを貸し切ってパーティーなど、流石に想定外だ。

 まあ自分の誕生日を忘れていたので、想定外も想定内も無いのだが。

 

 

「私も聞いた話なんだが、立花の誕生日を祝いたいと、小日向が話しているのを緒川さんが見かけてな。

 そこで緒川さん経由でこの場所を借用し、こうして大きく誕生日会を開いたというわけだ」

 

「翼さん……」

 

「それに、私もスケジュールが空いていた。ならば後輩の誕生日を祝わない理由はあるまい?」

 

 

 にこりと微笑む翼。

 周囲を見れば結構な人数が揃っていた。

 10人どころではない。この部隊の前線で戦う仲間の、ほぼ全てが。

 

 

「それぞれの仕事もあるから、全員ってわけにはいかなかったみたいだ」

 

「ヒロム、さん……」

 

「それでも、此処にいる人いない人、みんなが響の誕生日を祝いたいと思ってるのは確かだ」

 

 

 響が周囲を見渡して、それぞれの人と目を合わせる度に、その人は笑みをくれる。

 ある人は豪快な笑み、ある人は優しい笑み、ある人はクールな笑み。

 ただ、共通しているのは絶対に笑顔を向けてくれるという事。

 

 状況は飲み込めてきた。自分が置かれている現状も分かった。

 だが、自分がどういう風に行動していいか分からず、結局慌ててしまう響。

 そんな響の背中を1人の少女が強く叩いた。

 

 

「あいたっ!?」

 

「おら、シャキッとしろシャキッと。いつまでもてんてこ舞ってんじゃねぇ」

 

「クリスちゃんまで……」

 

「ンだよ、あたしがいたらいけねぇってのか?」

 

「……ううん、嬉しい、嬉しいよ! ありがとう、クリスちゃぁん!」

 

 

 ようやくいつもの調子が戻ってきた響は満面の笑みでクリスへ振り返った。

 突然向けられた太陽のような笑みに、恥ずかしそうに、眩しそうに目を背けるクリス。

 しかしそんな事もお構いなく手を握ってぶんぶんと振ってくるものだから、クリスは顔を真っ赤にして手を乱暴に離した。

 

 

「お、おまっ、離せ馬鹿ァッ! いいから早くケーキの方へ行きやがれッ!」

 

「え、ケーキ?」

 

 

 会場の中央にあるテーブルには、1ホールのケーキが置かれている。

 そこには立っているロウソクは響の新たな年齢、16本だ。

 テーブルの横にはなのはが立っていて、彼女も響を祝福するように、それでいて子供っぽい明るい笑顔だった。

 

 

「なのはちゃん、もしかしてこのケーキ……」

 

「はい! 翠屋のケーキです! 響さん、お誕生日おめでとうございます!」

 

「えへへ。このケーキ、わざわざ持ってきてくれたの?」

 

「私にできるプレゼントは、ケーキかなって思って……」

 

「とっても嬉しいよ、ありがとう!」

 

 

 なのはと目線を合わせて、なのはの頭を撫でてやる響。

 撫でられているなのはも満更ではない様で、嬉し恥ずかしなのか顔を赤くしている。

 ロウソクにはまだ火が点けられておらず、ケーキの隣に置かれていたライターを持った未来が1本1本丁寧に火を点けていった。

 

 16本全てに火が点いた事を確認すると、みんなが響とケーキの周囲を囲むように移動。

 そして晴人がコネクトの魔法を使い、部屋の隅にある電気のスイッチを押した。

 

 真っ暗になる部屋。揺らめく16の火。

 それに薄く照らされるのは、ケーキに最も近い響と未来。

 

 

「さ、響」

 

「うん、じゃあ……」

 

 

 息を吸って、勢いよく吹く。そうして16の火が全て消えた。

 明かりが消えて完全に暗くなった部屋の中、再びコネクトを使い、手探りで明かりの電源スイッチを探し当てた晴人が電気を点ける。

 

 明かりに照らされた皆が鳴らす祝福の拍手で、部屋の中は一杯に。

 そして優しく見つめ合う響と未来の姿が、そこにはあるのだった。

 

 

 

 

 

 誕生日の様式美とも言える一連の流れを行った後も、響を祝う流れは止まらない。

 

 

「じゃあ私達からプレゼント!」

 

 

 どうやら、この場にいる中でもプレゼントを用意したものが複数人いるらしい。

 その一番手で声を上げたのは宇佐美ヨーコだ。

 

 二課と特命部が最初に組織として一時合併を果たした事。

 当時、翼と響の仲は険悪で、クリスもいなかった事。

 2つの組織で年齢が近かったのは響とヨーコだった事。

 こんな3つの要素から、ヨーコと響は仲が良い。

 だからというべきか、響を祝うとなった事でヨーコはちょっとテンションが高い。

 

 ヨーコは包装紙で包み、リボンで結ばれた、正しくプレゼントと言わんばかりの代物を差し出した。

 

 

「はい、響ちゃん! 中身はマフラーなんだ。これから寒くなるから、どうかなって」

 

「ありがとう、ヨーコちゃん! 大事にする!」

 

 

 ちょっと似た者同士というか、波長が合う部分があるのだろう。

 黄色い2人は「えへへ」と、元気一杯の笑顔を見せあっていた。

 そこに登場するのは、もう1人の元気一杯。

 

 

「おぉぉっしッ! 次は俺達だぜ、響ッ!」

 

「げ、弦太朗さんッ!?」

 

「俺達からは、これだ!!」

 

 

 ぐいっと押し出すかのように響へ渡したのは、先程ヨーコがくれたものと同じくらいの大きさのもの。

 勿論、これもプレゼント用に梱包されていて、リボンなどで装飾されていた。

 

 

「えっと、これは……?」

 

「俺達が選んだタオルだ! ほら、よく特訓とかしてるから、そういうのがいいかなって思ってな!」

 

「ありがとうございます! ありがたく、使わせていただきますねッ!」

 

 

 弦太朗が「おう!」と答え、響も此処まで一切絶える事ない笑顔を向けた。

 そこに流星とリュウジがやって来て、プレゼントについて付け加える。

 先程からヨーコも弦太朗もプレゼントを渡す際に、『俺達から』とか『私達から』と、複数形だった事についてだ。

 

 

「それは弦太朗個人からではなく、俺達仮面ライダー部からだ。

 全員プレゼントを用意すると、流石にこの人数だからな。

 お前にもかえって迷惑になるだろう」

 

「それは俺達特命部も同じだよ。本当は1人1人渡したいんだけど……ごめんね」

 

「あ、いえ! そんな事! それにお気遣いまで、ありがとうございます!」

 

 

 この場にいる全員がプレゼントを渡すと、響がどう考えても持って行けない量になる事は目に見えていた。

 そこでこの部隊の面々の一部は、組織1つからのプレゼントとして響にプレゼントを選ぼうと考えたのだ。

 決して手抜きではなく、間違いなく響への気遣いである。

 

 一方、その話の横で賢吾は苦笑を浮かべていた。

 

 

「それに俺達の場合、個人に選ばせると何を持ってくるか分かったものじゃないからな」

 

「へ?」

 

「何言ってんだよ賢吾! みんなが持ってくるプレゼントなんだ、すげぇ良い物に決まってるだろ!」

 

「そう言ってる君が一番不安になったんだ、弦太朗。

 君が個人でプレゼントする予定だったものを言ってみろ」

 

「え? いや、宇宙から地球を見せてやろうかなって。アレ、すっげぇいい眺めだろ?」

 

「うえぇ!?」

 

 

 どうやら一歩間違えばプレゼントと称して宇宙送りになっていた可能性があるらしい事に、響は素直に仰天した。

 いや、弦太朗からすれば100%善意のプレゼントなのだろうが。

 シンフォギアを纏えば宇宙でもなんとかなるだろうが、流石にプレゼントしてはやりすぎではないだろうか。

 

 

「分かってくれたか? 弦太朗がこの調子だから、俺達全員で普通の物を選ぼうとなったんだ」

 

「うーん、いいと思ったんだがなぁ」

 

 

 賢吾の言葉に弦太朗は「何がダメなんだろう」と素直に疑問符を浮かべていた。

 シンフォギアもあるし、宇宙に出て死んでしまうわけでもないのに何故、と。

 そんな彼は「常識的なプレゼントを贈れ」と、賢吾と流星からツッコミを受けるのであった

 

 

 こんな調子で、響へプレゼントは渡され続けていった。

 

 

「俺からはこれだ、魔物コロッケ! あけぼの町の名物だぜ!」

 

「ありがとうございます! お腹空いてたんですよぉ」

 

 

 剣二は結局魔物コロッケを選んでいた。

 

 

「俺達からはコイツだ、風花饅頭。風都名物の和菓子だぜ」

 

「誕生日には食べ物のような消え物がいいらしいからね。僕等で選んでみたんだ」

 

「あれ、マジで? 俺もはんぐり~の新作ドーナツなんだけど……」

 

「全部美味しそうなので問題ないです! ありがとうございます!」

 

 

 探偵と魔法使いが和菓子と洋菓子で攻めてきた。

 

 

「私はこれです! PANPAKAパンのパン詰め合わせ!」

 

「私は、響さんと未来さんの絵を描いてみました。未来さんに写真を貸してもらって、それで」

 

「ありがと、咲ちゃん、舞ちゃん!」

 

 

 咲と舞は、それぞれの得意分野を活かしたプレゼントをくれた。

 

 

 と、そんなこんなで響はプレゼントを皆から受け取った。

 プレゼントが多すぎるといけないから、と、配慮してくれたのはいいのだが、それにしたって数が多かった。

 しかしその内の殆どが食べ物である事が幸いし、何とか持って行けるだけの量にはなりそうだ。

 

 それに何より嬉しかったのは、プレゼントそのものじゃない。

 この誕生日会を開いてくれた事。そして、そこに参加してくれた事だ。

 これだけ多くの人が自分の事を祝ってくれる。

 これだけ多くの人が、生まれてきたこの日を祝ってくれる。

 

 

 死ね。

 消えろ。

 いなくなれ。

 何でお前が。

 

 

 そんな言葉を受け続けた彼女にとって、自分の誕生日を、自分が生きている事を肯定してくれる事が、嬉しくてたまらなかったのだ。

 

 プレゼントを渡す人も残り少なくなった。

 最終盤に差し掛かりやって来たのは、翼とクリス。

 同じシンフォギア装者の、ルナアタックを共にした仲間。

 そして、響によって繋がれた仲間達だった。

 

 

「改めて、誕生日おめでとう、立花」

 

「ありがとうございます、翼さん」

 

「思い返せば、立花との出会いは鮮烈なものだった……」

 

「……あの頃は、すみません。私、何にも分かってなくて」

 

「気にするな、私にも非がある。それに今はこうして、共に肩を並べ合う仲間だ。

 ……奏のガングニールを受け継いでくれたのが立花で、本当に良かった」

 

「翼さん……」

 

「それで、その……プレゼント、なのだが。

 情けない事に、何を渡していいか結局思いつかなくて……」

 

 

 プレゼントの話題になった途端、少し自信無さげに渡してきたそれは、CDだった。

 そのCDを響は知っている。

 しかしそれを見た瞬間、響は目を見開いて驚いた。

 

 

「これ……今度発売予定の翼さんのCDじゃないですか!? 発売まだまだ先じゃ……」

 

「ああ。無理を言って1枚だけ貰って来た。

 ……わ、私も自分のCDはどうかと思ったんだ!

 緒川さんや小日向にも相談したのだが、私の歌が一番だろうと、言われてしまって……」

 

 

 色々悩んで主催者である未来や、マネージャーの慎次に相談した結果、2人とも口を揃えて『翼が選んだものなら何でも』と『翼の歌とかいいのでは』という返答が来たという経緯がある。

 正直、気恥ずかしいなんてレベルじゃないのだが、2人の意見を参考にした結果、こういう事になったらしい。

 それを受け取った響は大切そうにCDを持って、翼と目を合わせた。

 

 

「私が、あのライブ会場の事故の後、辛いリハビリを乗り越えられたのは翼さんの歌があったから。そう言いましたよね。

 あの頃からずっと、私、翼さんの歌が大好きなんです。だから、とっても嬉しいです!

 ありがとうございます! 翼さん!」

 

 

 真正面から褒められて、屈託のない笑顔を向けられて。

 自分の歌を大好きだと言われて、自分の歌に励まされたと言われて。

 そんな気恥ずかしさで一杯となったせいか、翼は照れくさそうに顔を背けた。

 

 

(存外……恥ずかしいものだな)

 

 

 それでも響が喜んでいるのを見た翼は、自分も嬉しくなるのを感じていた。

 さて、此処で翼はクリスとバトンタッチ。

 クリスもまた、手にはプレゼントを抱えていた。

 

 

「あー……まあ、その、何だ。誕生日、おめっとさん」

 

「うん、ありがとう! クリスちゃん!」

 

「……で、よ、ほら。これやるよ」

 

 

 渡された小さな袋は綺麗に包装されている。

 丁寧に封を開けて中身を見てみれば、ふかふかの手袋がそこには入っていた。

 柄の入ったオレンジ色の手袋で、見るからに暖かい。

 

 

「あったかそうな手袋だね」

 

「これから、冷えてくっからな。それに、その……」

 

「?」

 

「……な、何でもねぇよッ!!」

 

 

 本当は『誰かと繋ぐお前の手は、それでも嵌めて大切にしろ』と続けるつもりだったのだが、恥ずかしさが勝ってしまったらしい。

 大切な事を言おうとしても、照れてしまって言えないのは流石雪音クリスと言ったところか。

 隣にいる翼や遠くで見守る晴人も苦笑いだ。

 顔をプイッと背けてしまったクリスを見て、いつも通りだなぁ、と、響もまた笑う。

 そしてそっぽを向く横顔に、言葉を贈った。

 

 

「クリスちゃん」

 

「あぁ?」

 

「あったかいもの、どうも」

 

「……おう」

 

 

 CDと手袋の入った袋を見つめる響。

 他にも抱えきれなくなったプレゼントが、空いているテーブルに置かれている。

 食べ物は此処で開けて皆で食べるとしても、それ以外にも沢山のものを貰った。

 響はCDと手袋を他のプレゼントと同じ場所に置くと、一旦、部屋の扉へ向かった。

 

 

「立花、何処へ?」

 

「ちょっと、お手洗いに……すぐ戻りますね」

 

 

 そんな様子に気付いた翼が声をかけるが、響は笑って部屋を出て行ってしまう。

 主役不在となってしまうが、理由がそれなら仕方が無い。

 それぞれに食事や談笑を始めた

 勿論、響へプレゼントした食べ物には手を付けない。あれを開けていいのは響だけだ。

 

 そんな時、ふと、部屋を見渡した夏海が気付いた。

 

 

「あれ? 士君……?」

 

 

 

 

 

 

 

 トイレに行くまでの通路を歩く立花響。

 その頬には、涙が伝っていた。

 ごしごしと涙を拭くが、あとからあとから涙が止まらない。

 

 

「なん、で、だろう。ぜん、ぜん、止まんない……」

 

 

 しゃっくりをあげながら、何とか笑顔を保っていた表情も、どんどん泣き顔へ変わっていく。

 遂には通路の壁に背中を預けて、座り込んで泣きじゃくってしまっていた。

 

 辛いのでも悲しいのでもない。嬉しいのだ。

 こんなに沢山の人が、自分の事を祝ってくれる。自分に笑顔を向けてくれる。

 何てことの無い会話で笑ったり、ちょっとしたバカをやって笑えたり。

 キチンと考えてプレゼントをくれて、みんながみんな、あったかくて。

 

 大分豪勢なパーティーで、みんなはしゃいでいる。

 ただ、浮かれている理由はパーティーだからじゃない。

 響の誕生日だからだ。

 パーティーという空気ではしゃいでいるのではなく、間違いなく『響の誕生日』という理由で皆が笑顔なのだ。

 

 それがどれだけ響にとって救われる事だろうか。

 誰からも生きている事を疎まれていた響にとって、誕生日を迎えた事をこんなに喜んでくれる人達がいる事が、どれだけ心に響いているだろうか。

 

 嬉しくて、楽しくて、幸せで、涙が止まらない。

 鏡は無いが、絶対にぐしゃぐしゃな顔になってしまっている。

 こんな顔見せられないなぁ、と、泣きながら笑ってしまった。

 

 

「何泣いてるんだ、お前?」

 

 

 だけど、通りすがりはそこに通りすがった。

 

 泣きながら顔を上げる響が見たのは、自分を見下ろす門矢士の姿。

 目を擦って何とか涙を誤魔化そうとするが、溢れて止まらない涙の前には意味のない事だった。

 

 

「ハッ、泣くほど嫌な事でもあったか」

 

「ちがい、ますよぉ。うれ、しいんです。幸せ、で……こんなに、しあ、わせで……!!」

 

「……ったく。おら」

 

 

 泣き続ける響に、小さな箱を放る士。

 放るというより、座り込む響に向かって落とした、という方が適切かもしれない。

 ともあれ落ちてきた箱を泣きながら受け止めた響は、これは何ですか、という視線を送る。

 

 

「……ま、他の連中も贈ってるから、仕方なくだ」

 

 

 顔を背ける士。

 響はしゃっくりをあげながらも、士の渡してきた箱を開けてみる。

 中に入っていたのは、ヘアピン。

 響がよく付けているN字のヘアピンによく似ているが、微妙にデザインが違っている。

 分かった事は1つ。これが士からのプレゼントである、という事。

 

 響は涙ながらに士の方をもう一度向きながら、泣きながら問いかける。

 

 

「つか、さ、先生。こ、れは?」

 

「……お前、訓練の時でもシンフォギア使ってる時も付けっぱなしだろ、それ」

 

 

 涙が止まらない響でも、その言葉で何となくわかった。

 日常生活でも、シンフォギアを纏う時も、基本的に響のヘアピンはそのままだ。

 その影響というべきか、響のヘアピンは時々ボロボロになる。

 新しいのを何度か買った事もあるのだが、どうやら訓練に付き合ってくれているもう1人の師匠、門矢士はそこに気付いていたらしい。

 

 

「……さっさと泣き止め。じゃあな」

 

「あ、あり、がとう、ご、ざいま、す……」

 

 

 大事そうに士からのプレゼントを抱え、再び泣き始める響。

 そんな響を見ないように、士は再び誕生日会の会場へ戻っていく。

 

 皆の前で自分がプレゼントを渡すのは気が引けた。

 そんな事をすれば、誰に何を言われるか分かったものじゃないからだ。

 だから、響が部屋を出たタイミングが丁度いいだろうと思い、自分も外に出た。

 そうしたら響が泣いていた、というのが事の顛末である。

 

 誰にも気取られる事無く部屋を出た士は、無事に用意していたプレゼントを渡せた。

 そう、その筈だったのだが。

 

 

「士君」

 

「……夏みかん、何してる」

 

 

 会場の近くの通路に夏海がいた。

 彼女は士へ微笑みながら近づく。

 

 

「用意してたんですね、プレゼント」

 

「……なんの話だ?」

 

「とぼけても無駄です。見てましたから」

 

「フン、覗き見か? ますます趣味が悪くなったな」

 

 

 とぼけようとするも夏海には物理的にお見通しで、それに対してお馴染みの悪態と悪口で返す士。

 普段ならば此処で夏海が怒ったり、呆れたり、酷い時には笑いのツボが飛んでくるわけだが、どういうわけだが今日はそういう気配がない。

 それどころか夏海は「フフッ」と笑っている。

 

 

「何笑ってやがる。マジで気持ち悪いぞ」

 

「いいえ、何でも。ただ、素直じゃないのは相変わらずですね」

 

「おい、何の話だ」

 

「何だか珍しい光景が見れたので、今日は何を言われても許します。

 それじゃ、先に戻ってますね」

 

「おい待っ……。ったく……」

 

 

 鼻歌を歌いそうなくらい楽しそうな様子で会場に戻っていく夏海を、心底怪訝そうな目で見つめる士。

 

 誰かの為に慣れない優しさを不器用に見せる士が何だかおかしくて、それでも『先生』として慕われている士が何だか嬉しくて。

 そんな理由で上機嫌なのを、士が知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 士と夏海が会場に戻ってからしばらくして、響も会場に戻ってきた。

 随分長かったね、と、ヨーコなんかに心配されていたが、泣き止んだ響は「へいき、へっちゃら」で押し通す。

 実際嬉し泣きだったわけだから、別段何か悪い事が起きたわけでもない。

 会場に戻ってきた響は士と目が合うと、その屈託のない笑みを見せる。

 無表情で顔を背ける士だが、誰にも気づかれない程度に口角が上がっている事に、本人は気付いているのだろうか。

 

 プレゼント渡しも完全に終了し、此処からはケーキを食べたり食事をしたりしながら談笑する、そんな状態になっていった。

 勿論響の誕生日を祝っているというところは忘れずに、だが。

 

 響が誕生日祝いに貰った食べ物は、持ちきれない分をその場で封を開けて、みんなで食べきってしまう事になった。

 晴人がくれたドーナツのように賞味期限の短いものを優先的に開けて、消費していく。

 食事はコミュニケーションを円滑にするというが、響の誕生日会というこの環境もまた、似たような状態にあった。

 

 響を中心に皆が会話をする誕生日会。

 手を繋ぐ事を信条とする響らしいというべきか。

 

 響は今日、沢山のものを貰った。

 それはプレゼントだけではない。

 皆がこうして集まって、ただ『誕生日おめでとう』と言ってくれるだけで、響は救われている。

 自分はこんなにも沢山の人と手を繋いでいるんだと実感した。

 いつまでも続いてほしい、幸せな時間と思い出。

 それが今日、響が貰った大切なものだった。

 

 

 

 

 

 響の誕生日会は笑顔の絶えないままにお開きとなった。

 尚、片付けは『響はするな』で満場一致。

 そもそも誕生日の主役に場の片付けをさせるってどうなの? という話である。

 また、そんな響と同室に住んでいるという事で未来も片付け免除を食らった。

 未来当人には「提案者だから」と食い下がるものの、提案者だからこそ、最後まで響と付き合えと言い返されてしまい、片付けに参加させてもらえない事になった。

 

 本来なら片付けはやりたがる人は少ないが、響は感謝があったから、未来は提案者として責任を感じていたから、というのが大きいだろう。

 そんなわけで、2人は沢山のプレゼントと片付けをしている皆への申し訳なさを抱えながらリディアンの寮への道を歩いている。

 

 

「響、楽しかった?」

 

「うん! とっても、とっても楽しかった! これ、未来が提案してくれたんだよね?」

 

「うん。ただ、私は殆ど何も。緒川さんから弦十郎さんや黒木さん達に話がいって、それで」

 

「でも緒川さん、最終的に皆を集めるために声をかけたのは未来だったって言ってたよ?」

 

「それは弦十郎さん達が予め言っておいてくれたから……。私は、ホントに何も」

 

 

 思えば今回、自分は何をしたっけと未来は考える。

 確かに提案はした。誰が参加できるのかの確認も取った。

 だけど一番重要な場所の確保とかは弦十郎達に頼ったし、飾り付けも自分1人でやったわけではない。

 そもそも誕生日会の発案は慎次だ。

 人に頼る事が悪い事と思っているわけではないが、やはり大まかな部分は人の力を借りている。

 だからだろう、未来は自分が何かをした、とは思えなかった。

 

 

「そんな事ないよ」

 

 

 けれども響は、そんな未来の言葉を否定する。

 

 

「だって、未来が私の誕生日の話をしなかったら、今日の事はそもそも無かったんだもん。

 皆を集めたのは未来。この誕生日会があったのは、未来のお陰。

 飾り付けとかだって、私の知らないところで頑張ってくれたんでしょ?

 だから、ありがとう、未来」

 

 

 響の笑顔は眩しかった。

 すっかり日も落ちた道で、自分だけが日に照らされているかのような。

 

 

「やっぱり未来は私の陽だまりだよ。

 未来がいてくれたから、こんなに幸せな事が起こったんだもん」

 

 

 気恥ずかしそうに俯く未来は思う。「そうじゃないよ」、と。

 陽だまりと言ってくれる響だが、そんな響は自分が太陽である事に気付いていない。

 そんな響が時々眩しくて仕方が無かったりもするのだが、それでも思う。

 

 

「ねぇ、響」

 

「なぁに? 未来」

 

「私がいるから幸せって言ってくれたけど、私も響がいて、幸せだよ?」

 

「えへへ、ありがと!」

 

 

 一番辛かった時代から、ずっとずっと支えてくれた未来が大切な響。

 そんな時期から頑張り続けている姿を見て、響が大切で仕方ない未来。

 2人はそんな持ちつ持たれつな関係だ。

 

 今日、この日の為に沢山の人が集まってくれた。

 響は嬉しかった。当然だ、当事者なのだから。

 未来も同じくらい嬉しかった。辛そうな響を見ていた頃があるから。

 

 

「私ね、今日泣いちゃったんだ。あんまり嬉しくて」

 

「うん、知ってる」

 

「うぇ?」

 

「お手洗いに行くって言った後、泣き腫らしてたもん。

 翼さんもクリスも、皆気付いてたよ」

 

「うえぇぇ!!? ちょ、言ってよぉ、恥ずかしい……」

 

「『泣くほど喜んでくれたなら、来年も』って、言ってる人もいたんだよ?」

 

「あー、そういう事言わないで! 絶対泣いちゃう!」

 

 

 笑いあう2人は間違いなく、今までの何時よりも幸せだった。

 プレゼントを右手に抱え、左手を空ける未来。

 それに気づいた響がプレゼントを左手に抱え、右手で未来の左手を握る。

 2人は手を握ったまま帰り道を歩き続けた。

 

 

「響、来年もこんな感じが良い?」

 

「うん。来年も、再来年も、そのまた次も。もしできるなら、これがいい。

 皆と一緒に楽しくお喋りしながら、楽しくご飯を食べたい。

 それで最後は、こうして未来と一緒に手を繋いで、帰りたいな」

 

「……うん、そうだね」

 

 

 完全に照れきってしまった未来。

 そんな未来を知ってか知らずか、響大きな声で口にした。

 

 

「あー、やっぱり未来は私の一番だよっ!」

 

 

 未来の想いが、こうして響に大きな幸せを運んでくれた。

 誰よりも響を想い、彼女の幸せを願った。

 そんな響は今、沢山の仲間に囲まれている。

 素直に祝福する未来もいれば、そんな響の周りが羨ましいと思う未来もいる。

 仲間に囲まれて幸せそうな響の顔を見ていると、もう私だけじゃないんだな、と、嬉しい様な寂しいような気持ちにさせられる。

 

 でも、響は未来を一番だと言った。

 まるで仲間や友達が増えて寂しさを感じていた自分の心を見透かしたかのような言葉を。

 凄く嬉しくて、でも何だか見破られているみたいで悔しくて、でもやっぱり嬉しくて。

 そんな未来はこれからも響を想い続けるだろう。

 どんなに仲間が増えても、友達が増えても、響の陽だまりは未来だけなのだ。

 

 響をこれからも支えよう。響とこれからも一緒にいよう。

 今日という日は、未来にとっても大切な1日になったようだ。

 

 響を大切に想うその心。その心に名前を付けるなら、そう──────

 

 

 

 ──────『愛』だろう。




響のバースデーガチャが来る→書けば出るという話→書こう!

くらいのノリで書いています。
スーパーヒーロー作戦CSの世界観で響の誕生日をしよう、くらいの感じです。
だから響と士の絡み多めにしようと思ったんだけど、いつの間にか響と未来が一番絡んでる! 何故だ。

本編の方は戦闘描写で四苦八苦している感じですね。
既に1万字を突破しているのですが、中々納得できる描写にできていません。

お目汚し、失礼いたしました。

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