スーパーヒーロー作戦CS   作:ライフォギア

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第69話 総てが集まり、編纂される

 エネタワー戦から数時間ほど経ったある時、大ショッカー基地。

 正確に言えば『この世界に建設された支部』という方が適切だが。

 撤退したキバ男爵は、この世界ではなく別の世界の本拠地にいる大首領との通信機である鷲のレリーフの前に跪いていた。

 

 

「申し訳ありません、大首領。みすみすアルティメットDを……」

 

『別に構わない。倒されたのならそこまでだったというだけの話だ。

 出撃前にも、そう言った筈だが?』

 

「はっ……」

 

『どちらにせよ『アレ』は手に入ったんだ。問題は無い。

 そこはよくやった、と言えるな、キバ男爵』

 

「勿体なきお言葉……」

 

 

 レリーフのランプが怪しく点滅を繰り返し、大首領の声が響く。

 敗北に関しての咎めは特に無かった。

 むしろ、大首領としては今回の戦いは『目的を達成できた』と言える。

 頭を下げ、称賛の言葉に感謝を示すキバ男爵。

 

 

「ククク、良かったなぁキバ。勝敗が全ての作戦ではなくて」

 

 

 そこに水を差す様な声が響いた。

 突然の声に、普段のキバ男爵なら警戒するところだ。

 しかし、今回はただ顔を顰めながら立ち上がり、声のした背後へゆっくりと振り返るだけ。

 何故なら一声聞いた時、そしてその皮肉たっぷりの言葉に、すぐに誰なのか判別がついたからである。

 キバ男爵の瞳に映されるのは、スーツに身を包み、サングラスをかけた男性の姿。

 右手にはタバコを持ち、口から煙を吹かせていた。

 

 

「……『タイタン』。貴様、何故この世界にいる」

 

「おやおや分からないか? お前が随分と苦戦しているようだからなぁ」

 

「フン。貴様の助力など」

 

「仮面ライダーに惨敗した貴様がよくも吠える。

 結果が伴わない限り、それは負け犬の遠吠えという奴だ」

 

「……そうだな」

 

「何?」

 

「貴様の言う通りだ。敗北は事実。負け犬の遠吠えというのなら、そうだろう」

 

「チッ……潔い事だ」

 

 

 キバ男爵の敗北を嘲笑ったものの、彼はそれを事実として受け止めた。

 スーツの男性にとって、その反応自体は予想外というほどでもなかったが、少しは食ってかかってくるだろうと思っていたせいか、拍子抜けをしてしまったようである。

 張り合いがない、とでもいうべきか。

 以前から非は認める奴だったな、と男性はキバ男爵の性格を思い返した。

 

 スーツの男性の名はタイタン。真の名を、『一つ目タイタン』。

 見た目は人間だが、勿論これは仮の姿で、本来は一つ目の姿をした黒い怪人であり、大ショッカーの幹部の1人である。

 

 キバ男爵を煽った後、タイタンはタバコを吸って、再び煙を吐いた。

 その態度にキバ男爵は顔を顰め、険悪にも近い空気が流れるが、そこに大首領の声が割って入る。

 

 

『タイタンをそっちに行かせたのは俺だ。

 奴に任せていた、例の『サルベージ』が終わったからな』

 

「そういう事だ、キバ。お前の手に入れたアレと合わせて、これで揃ったというわけだ」

 

「成程……。では、いよいよ、ですか?」

 

 

 キバ男爵がレリーフに向かって話すが、背後のタイタンが首を横に振った。

 

 彼等には『仮面ライダーを排除する』、『世界を征服する』以外にももう1つの目的があった。

 どちらかと言えばそちらの方がメインで、その『目的』が達成されれば、ライダーの排除も世界の征服も容易であると考えられている、目的。

 キバ男爵とタイタンはその為に動いていたのだ。

 

 しかし、『目的』に必要な物こそ揃ったが、それだけでは不十分である事をタイタンは知っている。

 

 

「揃いはしたが時間がかかる、というのが研究班の弁だ」

 

「時間? どの程度だ?」

 

「この世界の時間で数えて、最速で半年。万全を期すなら、1年前後」

 

「長すぎるな」

 

 

 そう、最後に必要なものは『時間』。

 それは手に入れる云々ではなく、単純にそれだけの時間をかけなければ『目的』の完遂ができない、という事。

 幾らなんでも長すぎるとキバ男爵は苦言を呈し、口にはしないがタイタンも同様に思っている。

 が、それを制したのは、意外にも目的完遂を一番に望んでいる筈の大首領だった。

 

 

『構わない。むしろ、下手に早めて不備があったら困る。

 ディケイドやディエンドのように世界を移動できる仮面ライダーをそちらの世界に釘づけにしておけば、本拠地のある世界が特定される事もない。

 後はこっちの目的を悟られない様、適当に遊んでやっていればいい。

 勿論、その間にライダー達を抹殺できるなら、それに越した事は無いが』

 

 

 否、誰よりも目的完遂を望んでいるからこそ、失敗をしないように時間をかけろと言っているのだ。

 大首領はこの『目的』に関しては特に慎重だった。

 

 キバ男爵とタイタンは一瞬お互いに睨み合うかのように目を合わせた後、同時にレリーフの前に跪いた。

 

 

『お前達は引き続き、仮面ライダーやそれに協力する者達と戦い続けろ。

 目的を気取られる事は無いだろうが、一応の注意は払え。

 勝てるならそれでいい。負けるなら戦闘データは取っておけ。

 いずれにせよ、『アレら』が完成すれば、後はそれで十分だろう』

 

「はっ……。では、今後もこの世界の勢力と共闘をするという方針で、如何でしょうか」

 

 

 キバ男爵の言葉に大首領は肯定の言葉を発すると、それきり大首領との通信は途絶えた。

 跪いていた2人は立ち上がると、再び互いに視線を交わす。

 

 

「お前のような獣臭い男と同じ作戦行動とは、大首領の命令でもなければ有り得ないな」

 

「煙臭い目玉男に言われる筋合いはない」

 

「フン、精々吠えるがいい」

 

 

 タイタンはくるりと反対を向いて、何処かへ去っていこうとした。

 ところがキバ男爵がその背中を呼び止める。

 

 

「タイタン」

 

「何だ」

 

「貴様と私は折り合いが悪い。……が、同じく大首領に拾われた身でもある。

 元を正せば私はデストロン、貴様はブラックサタン。

 それぞれ別の世界で仮面ライダーと戦い、それぞれの大首領に仕えていた身だ」

 

「…………」

 

 

 背中を向けたままのタイタン。

 足を止めている辺り、彼の言葉を聞くつもりはあるようだった。

 

 大ショッカーはあらゆる並行世界に存在する仮面ライダーの敵対組織の複合組織。

 ショッカー、ゲルショッカー、デストロン……ありとあらゆる組織の怪人が属し、それらの技術を有している大規模な組織だ。

 その中でこの2人は、それぞれ別の世界の出身だった。

 

 

「私の目的はデストロンを壊滅させた、憎き仮面ライダーを潰す事。

 例え別の世界の仮面ライダーだろうと、私の憎しみは変わらない。

 奴等は私から、全てを奪ったのだから……!!」

 

「だから、何だと?」

 

「貴様も同じだろう、タイタン。

 ブラックサタンを滅ぼされ、唯一生き残った。……私と同じだ。

 境遇も、そして仮面ライダーを憎む思いも。

 いや、仮面ライダーだけではない。それに準ずるあらゆる『正義の戦士』などという陳腐な存在を」

 

 

 タイタンとキバ男爵はそれぞれ、古巣がその世界の仮面ライダーの手で壊滅していた。

 手下も、同じ立場の幹部も、そして大首領ですらも、彼等は失っている。

 仲間意識などというものは持たないが、忠誠を誓った組織を奪われていた。

 

 

「もう一度言うが、私と貴様は折り合いが悪い。

 が、今は同胞だ。共に大首領の悲願を……」

 

「くだらんな」

 

 

 キバ男爵が何を言おうとしているのか察したタイタンは、言葉を言いきられる前にそれを切り捨てた。

 後ろを見やり、横顔を見せたタイタン。

 サングラスの奥の瞳は、キバ男爵をはっきりと捉えていた。

 

 

「公私混同など愚の骨頂。今更確認すべき事項だとは感じん。

 それとも、獣の頭ではそんな事も分からないか?」

 

「愚問だったか。いらぬ世話だったようだな」

 

「……張り合いの無い奴だ」

 

 

 必要のない会話だと思ったから、タイタンはキバ男爵の言葉を一蹴していた。

 性格的な折り合いは良い方ではないが、1つの目的の為に集まった同胞。

 境遇を同じくする彼等の、『悪』なりの信頼感、というものなのかもしれない。

 

 タイタンは再び前方を見て、キバ男爵から視線を外した。

 と、そこでついでの言葉を口にする。

 

 

「そういえば、聞かれていたようだな」

 

「だからといって、どうでもないだろう。我等の『目的』が何かを話してはいない。

 仮にそれを知ったところで、別の世界で行われているそれを捕捉するのは不可能だ」

 

「分かっている。お前が鈍感にも気づいていないと思っただけだ」

 

「フン。そんな事を気にする暇があるなら減らず口かライダーを減らしていろ」

 

 

 タイタンの言葉は、『彼等と大首領の会話を盗み聞きしている第三者がいた』という意味。

 大ショッカーのこの世界における支部、この場所を知っている者は限られている。

 例えば、一度この場所に来た事のある者がそれに該当するのだが。

 

 

 

 

 

 大ショッカーのこの世界の基地にて、影に隠れて会話を聞いていた人物。

 彼は身体をデータ化して移動するという常套手段を使い、既に東京のとあるビルの上にまで来ていた。

 それはエンター。ヴァグラスのアバターの彼だった。

 

 エネタワーでの戦闘において、彼はメガゾード・タイプεが破壊された際の爆発に当然巻き込まれた。

 が、彼は元データ、つまりヴァグラスが存在する限り再生できるアバターである。

 故に彼は何ごとも無かったかのように再生し、再び暗躍せんと活動をしている、というわけだ。

 

 

(成程、大ショッカーも敵の排除だけでなく、別の目的がある、という事でしょうか。

 ……ま、だからどうするというわけでもありませんが)

 

 

 先のエネタワーにおける戦闘でそれなりの戦力を提供してくれた彼等に礼でも言って、次の作戦でも利用させてもらうくらいの気持ちで、彼は大ショッカーを訪れていた。

 その際、偶然にも話を聞いてしまったというのが、彼が盗み聞きをしていた理由である。

 別段、知ったからといって何があるわけでもない情報だったわけだが。

 

 

(むしろ、謎なのは彼女……マドモアゼル・フィーネの事でしょうか。

 何もかもを知っているかのような情報源については当たりを付ける事ができましたが、彼女の目的は何なのか……。

 大ショッカーの1年ほどかかるという目的とは違い、彼女のそれは既に最終段階間近のようにも感じます)

 

 

 エンターが思い返すのはフィーネを名乗る謎の金髪女性の事。

 ノイズを繰り出す奇妙な杖、雪音クリスという少女を使役する、謎めいた美女。

 デュランダル移送任務妨害の一件がきっかけで、フィーネが何故敵の情報に精通しているのかは分かった。

 が、肝心の目的や素性は一切不明。

 雪音クリスという唯一の手駒を切り捨てた事から、既に大詰めに入っている事はエンターにも予想できるのだが。

 

 

(彼女の目的がこちらの不利益にならなければ問題は無いのですがね。

 ジャマンガの方々くらい、何もかもはっきりしていてくれると気にする必要もないのですが)

 

 

 ジャマンガの目的は単純明快に、自分達のボスであるグレンゴーストの復活。

 ヴァグラスもメサイアという首領の現実世界への復帰を目指しているので、目的としては似通っていると言えるだろう。

 

 

(我々とジャマンガ、両方のマジェスティがこの世界に顕現する段階に入れば、自ずとジャマンガとの共同戦線も途切れるでしょう。

 まあ、その時はマジェスティ・メサイアの力と向こうのマジェスティのどちらが勝つかになる、というだけの話。今考える必要がある事ではありません)

 

 

 はっきり言ってヴァグラスとジャマンガ、そして他組織との共同戦線はいずれ崩壊する事が前提で組まれている。

 何故ならそれぞれがこの世界の支配、ないし人類の殲滅を考えているからだ。

 フィーネの目的は謎だが、少なくともヴァグラス、ジャマンガ、大ショッカーはその算段である。

 つまり、最終的にはこの世界の支配をかけてぶつかる事になるとエンターは考えていた。

 しかしゴーバスターズを初めとした世界の守護者達の集合組織は、どう考えても1組織で太刀打ちできる敵ではない。

 ヴァグラス達の共同戦線はだからこそ成り立っているとも言えた。

 

 

(今、考えるべき事は次の一手をどうするか、というところですか。

 幸いにして、例の宝石……創造する者達曰く、ジュエルシードでしたか。

 あれの利用には成功しました)

 

 

 ジュエルシードの名は創造する者達を通してエンターも既に把握していた。

 それを律する謎の魔法使いが現れたという一点のみ懸念点があるが、それでもあの出力、下手に倒せないという力は有用だろう。

 

 

(残り8個。まあ、元々私達のものではありませんが、無駄にする必要もありません。

 他にも用途を模索してみるとしましょうか。

 次の一手についても、色々と考えなければなりませんからね……)

 

 

 一先ず考えても仕方のない事は脇に置いて、エンターは次なる策を思案する。

 1つの大きな戦いが終わっても、次の戦いはすぐそこまでやってきていた。

 

 

 

 

 

 舞台は変わり、エネタワーでの戦いから数時間が経った後の世界を守る戦士達の側。

 門矢士は二課お抱えの病院の一室のベッドに横たわっていた。

 病院服に点滴と、完全に患者さんスタイルである。

 そのベッドの横に置いてある椅子には、光夏海が腰かけていた。

 

 

「全く、無茶し過ぎです。血を抜かれたのにあんなに動いて」

 

「別に、動けてたんだからいいだろ」

 

「よくないです! あまり心配かけないでください……」

 

 

 フン、と鼻を鳴らすばかりの士を見ていると溜息が出そうになる夏海。

 

 戦場を後にした戦士達の中で、士と剣二は真っ先に病院へ叩きこまれていた。

 アルティメットDからの猛攻の後、キバ男爵──吸血マンモスに血を抜かれ、その状態でW、オーズ、フォーゼ、ウィザードと共に戦ったディケイド。

 ロッククリムゾンとの戦いで来た傷も癒えぬまま、ダガーキーを使わざるを得なかったとはいえ戦場に出てきたリュウケンドー。

 同じく傷が癒えないまま、パワースポットでの任務をやり遂げたリュウガンオー。

 重傷度合いはこの3人がトップである。

 そういうわけもあり、士と剣二と銃四郎は大事を取るという意味でも即刻入院を言い渡されていた。

 恐らく剣二と銃四郎の方もS.H.O.Tお抱えの病院で暇そうにしている事だろう。

 

 エネタワーでの戦いが終わった直後の話。

 バスターマシンの回収は特命部バスターマシン整備班が運んできてくれた、帰投できるだけのエネトロンを補給され、自動操縦で格納庫へ戻っていった。

 今頃は整備班が修理を進めている事だろう。

 また、動力が停止したタイプαも特命部に回収されている。

 

 他の前線メンバーも既に各々の基地へ帰還し、身体検査の為にメディカルルームへ行く事になっている。

 しかし助っ人含めて20名を超えている前線メンバー全員が1つの基地のメディカルルームへ入るのは、人数的な問題で検査に時間がかかってしまう。

 そこで人数を3手に分ける事にした。

 

 響、翼、士、夏海、ユウスケ、翔太郎は二課に。

 剣二、銃四郎、映司、後藤、晴人、攻介はS.H.O.Tに。

 そしてゴーバスターズと弦太朗、流星、なのはは特命部に。

 尚、弦太朗と流星に関しては、後方サポートに当たっていた仮面ライダー部が特命部にいたからというのが理由で、ダイザーのパイロットをしていた隼もそこで検査を受けた。

 また、なのはが特命部に行ったのは、パワースポット並の魔力を持つ宝石、ジュエルシードの簡単な説明と一先ずの回収を行う為である。

 

 重傷の士、剣二、銃四郎は入院。

 他の面々は疲労や傷はあるものの入院するほどのものでもなく、手当てをしてもらって完了。

 そのままそれぞれの家や宿舎へと帰って行った、というのが事の顛末だ。

 本当は顔合わせ等々もしておきたかったが、今日の激戦の事を鑑みて、そういった事は後日行おう、という話に各組織の司令官達の間でなったらしい。

 

 全員の検査が終わる頃には日も暮れかかっており、既に夕陽が病院の窓からも差し込んでいる。

 ともあれ暇になったという事もあり、夏海は士のお見舞いに来ていたのだ。

 ユウスケは「栄次郎さんが心配しているといけないから」と、キバーラと共に先に帰ったが、彼は彼で士と夏海が久しぶりに2人で話せる機会を作ってあげたかったのかもしれない。

 

 

「それにしても、本当に凄い世界なんですね。

 シンケンジャーみたいな人達とか、全然見た事の無い仮面ライダーじゃない人達とか……」

 

「そこは同意してやる。どうやら、随分まぜこぜな世界らしい」

 

 

 プリキュアやシンフォギアは少しだけ目にした事のある夏海だったが、戦場には他にも沢山の戦士がいた。

 魔弾戦士やゴーバスターズ、なのはのような魔導士にダンクーガのような巨大ロボット。

 さらにそこに加えて仮面ライダーが複数人。

 士同様、夏海もしっちゃかめっちゃかな世界に驚きを隠せないでいるようだ。

 

 

「でも、士君。大ショッカーって……」

 

「あれは知らん。前に海東に会ったが、アイツも知らないようだからな」

 

「……やっぱり、ライダーを滅ぼす事が目的なんでしょうか?」

 

「かもな、ライダーを敵視してるのは変わってないらしい」

 

 

 大ショッカーの事は士と共に旅をしていた夏海もよく知っている。

 それが士が元々所属していた組織である事も、それが一度完全に潰えている事も。

 どんな世界の事でも訳知り顔で出てくる海東までも知らないとなると、情報に関しては完全にお手上げだ。

 いつ復活したのか、誰が束ねているのか、その実態は全て謎に包まれていた。

 

 悪びれる士だが、これはこれで意外と人の事を想っていて、時に無茶をする事も多い。

 特に大ショッカーの件は『自分が元大首領である』という点もあって、責任を感じてもいるだろう。

 彼はそういう人だ、と、夏海は少しだけ不安に思っていた。

 

 

「士君、この世界でもやるべき事があるんですかね?」

 

「さあな。まあ、どっちにしても大ショッカーを放っておくわけにもいかないだろ」

 

「そう……ですよね」

 

「別に、お前達は他の世界に行ってもいいんだぞ」

 

「もう、すぐにそういう事を言うのは変わってないんですね。『コレ』しますよ、コレ」

 

「おい、入院患者だぞこっちは」

 

「……分かってますよ。私は士君とは違うので」

 

 

 親指をピッと向けてくる夏海に抗議の声を上げる士。

 笑いのツボという武器もあるせいで夏海は士に対してとても強い。

 士は士で夏海を煽るのだが、その度に笑いのツボを食らっていた旅の頃。

 随分前の事のようにも、つい最近の事のようにも感じられる。

 こうして2人で話すのもいつ以来だろうか。

 

 

「本当、久しぶりですね、士君」

 

「は? この前会ったばかりだろ?」

 

「そうですけど! その……またこうして同じ場所にいるんだな、って。

 私達、それぞれの道に進みましたけど……やっぱり、嬉しいです」

 

「感傷に浸るほど繊細だったのかお前」

 

「少しは真面目に聞いてください!」

 

 

 こういうところは門矢士である。

 照れているのか、本気でバカにしているのか、何にしても士は斜に構える。

 褒められれば調子に乗るし、相手の事は煽るわ見下すわと、書きだすと碌なものじゃない。

 だけど、心の中にある仲間への想いや、身を挺してでも誰かを守るという行動は本物だ。

 偽悪者を気取る、ちょこっとめんどくさい人。

 夏海の目から見ても、やはりそれは変わっていない様だった。

 

 

「はぁ……ホント、相変わらずです」

 

 

 文面とは裏腹な嬉しさが、その言葉には宿っていた。

 この世界で士と最初にあった時、彼はこの世界で新たな居場所にいた。

 白いコートの青年や立花響達のような、新たな人間関係も築いていた。

 それは、何処か夏海の知らない門矢士がいるようにも感じて。

 夕凪町で咲の妹、みのりを探し回っていた時に、未来が語った言葉が甦る。

 

 ────『他の居場所で、誰かと凄く仲が良さそうだったから』

 

 未来は響と喧嘩をした。

 その時の事を振り返り彼女はこう語った。

『隠し事をされた事ではなく心配だった事、そして嫉妬も少しあったのかも』と。

 夏海もそれに同意した。全力で予防線を張った上でだが。

 でも今日の会話で、ほんの少しの会話だったけれど分かった。

 門矢士は変わっていない。夏海の知っている彼なのだと。

 だから夏海は、ちょっと癪だが嬉しく感じていたのだ。

 

 

「とりあえず、今日はもう帰りますね。おじいちゃんやユウスケにも心配かけますし。

 あ、今度は咲ちゃんの家のパンでも買ってきますから」

 

「そうか」

 

「はい。……これから、またよろしくお願いしますね、士君」

 

「……ああ」

 

 

 短い返答を聞いた夏海は椅子から立ち上がると、部屋から出る前にもう一度士の顔を見やった後、病室を後にした。

 自動ドアが閉まり、士と夏海の間にあった視線が途切れる。

 眼前にあるドアから離れて歩き出した夏海だが、もう一度ドアの方を振り返るとほんのりと笑顔を向けた。

 写真館へ帰る彼女の足取りは、心なしか少しだけ軽かった。

 

 

 

 

 

 エネタワーの戦いから2日後。

 0課合流と新たなメンバー加入に伴う人員増加。

 そんな彼等彼女等の歓迎会兼交流会という名目で、特命部の会議室が1つ貸し切られていた。

 二課の伝統というか趣味が思いっきり影響しているのか、組織同士の交流会である割には飾り付けが為されていて、二課的にはいつもの歓迎ムードが全開である。

 また、交流会という事で豪勢な食事やお菓子、飲み物も色々用意されていた。

 大量の円形のテーブルに乗せられたそれらは如何にもパーティー会場といった感じだ。

 バディロイド用のエネトロン缶も万全である。

 

 学校の歓迎会もかくやという飾り付けも相まって完全にパーティーなノリとなった室内を見て、一応正式な場なんだが、と、黒木は溜息を付く。

 そしてそんな黒木の隣には、0課の責任者である木崎の姿もあった。

 

 

「こういった雰囲気とは、意外ですね」

 

「いや、二課の風鳴の意向です」

 

「ははは、まあいいじゃないか黒木。木崎警視は、こういった雰囲気は?」

 

「あまり馴染みは……」

 

 

 黒木と木崎の元に二課の弦十郎とS.H.O.Tの天地もやってきた。

 黒木、木崎、弦十郎、天地それぞれが組織の責任者である。

 言ってみれば一番偉い人の並びの筈なのだが、擬音で表せば『ぽわわん』とした室内の雰囲気のせいでイマイチ締まらない。

 木崎は困惑、黒木は呆れ、天地はのほほんと、弦十郎はいつも通り、と言った感じだった。

 

 

「今回の目的の1つには前線で戦うメンバーの交流会もあります。

 あまり堅苦しい雰囲気になるのは避けたいという風鳴司令の提案でして。

 学生を始め、未成年のメンバーも多いですから」

 

「理解できる話です。彼等が馴染みやすい様にという配慮ですか」

 

 

 説明する天地と納得する木崎。

 天地は天地でマサトと気が合う程度にはノリがいいので、この空気に賛同している様子。

 黒木は「割と毎回こうじゃないか?」と思いつつも、その意見には一応同意だ。

 成人しているメンバーならともかく高校生、果ては小学生が今回加入してしまった。

 確かに厳格すぎる雰囲気は無駄なストレスになりかねない。

 緊張しないでいいといくら言ったところで、人間は緊張するものである。

 ならば場所の雰囲気からリラックスできるようにという配慮なのだろう。

 

 さて、現在会場にいるのは各組織のオペレーターと指揮官に加え、前線で戦うメンバー達だ。

 

 仮面ライダーの士、夏海、ユウスケ、翔太郎、フィリップ、映司、後藤、弦太朗、流星、晴人、攻介。

 フォーゼやメテオと共に戦ってきた仮面ライダー部の面々。

 Jを含めたゴーバスターズの5人と、新規加入のエネたん込みでバディロイド4機。

 魔弾戦士の剣二、銃四郎。

 魔法少女のなのは、相棒のレイジングハート。

 シンフォギア装者の響、翼。そして民間協力者の未来。

 

 士、剣二、銃四郎は頭や服の下に包帯を巻いていたりして、本調子ではない。

 その中でも特に重傷だった剣二に至っては松葉杖をついているという状態だ。

 2日で怪我が完全に回復するわけもないが、少なくとも歩く程度は大丈夫な様なので参加する事にしたらしい。

 ちなみにこの3人は会場に来る際、慎次の運転する車に乗せてもらっている。

 有名人である風鳴翼を特命部まで送るついで、という感じだ。

 

 学生もいるので開始は午後から。

 エネタワー戦の影響がまだあちこちに出ており、関東、特に東京周辺の学校の多くは休校であったり早期終了であったりしたので、集まろうと思えば早く集まれたのだが。

 とはいえ、学生勢も休みになった理由が理由なので全く喜べないようだ。

 

 メンバーが集合して10分程が経っているが、未だ歓迎会兼交流会が始まる気配はない。

 そんなわけで彼等彼女等は勝手に交流を始めていた。

 

 

「うえぇぇぇ!!? お前、ウィザードだったのか!?」

 

「おう、久しぶり」

 

 

 弦太朗と晴人。

 弦太朗はかつて、『自分』にフォーゼドライバーを貸した事がある。

 実はそれは5年後の未来から来た弦太朗自身だったりするのだが、彼はそれを知らない。

 そして5年後の弦太朗と共に戦ったこの時代の晴人は、彼からフォーゼドライバーを受け取り、現代の弦太朗に返却した、という出来事があったのだ。

 それとは別にウィザードが現代の、まだ天高で戦っていた頃のフォーゼを助けた事もある。

 

 そんなわけで弦太朗は『ウィザード』と『フォーゼドライバーを返してくれた青年』は知っていたが、それがイコールで結びついていなかったので、こういう反応になったのだ。

 

 

「へー、そっか。お前がなぁ。……あ、そういや」

 

 

 まじまじと晴人を見やる弦太朗は、ふと何かを思い出して物を1つ取り出した。

 それは指輪。ウィザードが使う魔法の指輪だった。

 指輪にはフォーゼの顔を模した形が彫られていた。

 勿論それには晴人も見覚えがある。

 フォーゼドライバーを返した時、晴人自身が渡したものなのだから。

 

 

「あん時、『また5年後に』とか言ってたけど、あれどういう意味だったんだ?

 つか5年どころか1年も経ってないんだけど……」

 

「あー……まあ、それはまた、一旦忘れていいよ。

 いつか分かるけど、今じゃないから」

 

「? ……よく分かんねぇけど、分かった!」

 

 

 疑問は全く拭えていないが、ダチの言葉は信じるという事か、一先ず納得したようだ。

 晴人の『また5年後に』という発言は、『5年後のお前が5年前に飛んで、そこにいる俺と一緒に戦うから』、というのを婉曲かつちょっと洒落た言い回しで言ったに過ぎない。

 まさかこんな形で再会するとは露とも思ってもいなかったのだ。

 5年後のコイツに先の事、少しくらい聞けばよかったかなぁと晴人は思う。

 

 また別の一角。

 映司と後藤が再会という事もあり、話しているようだ。

 

 

「お久しぶりです、後藤さん」

 

「ああ。お前も元気そうだな、火野。

 木崎警視からはこの部隊にお前はいないと聞いていたが……まさか同じタイミングで合流する事になるとは思わなかったぞ」

 

「俺も驚いてますよ。

 あ、最近は魔法使いのみんなといるって聞きましたけど。鴻上さんと知世子さんから」

 

「クスクシエにも顔を出してたのか。

 0課の木崎警視にスカウトされてな。そこでファントムの事を知って、魔法使いともな」

 

 

 世間話のような、久々に友人が会った時の近況報告のような感じだった。

 後藤は現在共に戦う仲間である晴人達の事も紹介しようと、弦太朗と話す晴人の方へ映司と共に歩を進め、合流。

 向かってくる映司と後藤に2人がそれぞれに反応を示した。

 

 

「オッス! 映司先輩と……」

 

「後藤慎太郎、バースだ。お前の事は火野から聞いてる、仮面ライダーフォーゼ」

 

「ウッス! 如月弦太朗ッス!!」

 

「宜しく頼む、如月。

 火野、こっちが魔法使いウィザード、操真晴人だ」

 

「ども」

 

 

 軽く会釈をする晴人。

 映司はというと、実のところウィザードの事は以前から少しだけ聞いていた。

 実は映司は弦太朗、厳密に言えば『5年後の弦太朗』から、ウィザードの事を少しだけ聞いていたのだ。

 晴人がまだ攻介と出会うよりも前、『アクマイザー』を名乗る敵との戦い。

 その際、晴人がアンダーワールドに入って不在の時、襲われそうになったコヨミを助けに入った事があるのだ。

 

 

「直接会うのは初めてだね」

 

「へ?」

 

「アクマイザー……だったかな? あの時の事件。

 その時の事、あの子から聞いてないかな? ほら、黒髪の長い女の子」

 

「コヨミの事? ……あ」

 

 

 晴人の知り合いで黒髪の長い女の子と言えばコヨミの事になるが、何故映司がコヨミの事を知っているのか。

 そこで晴人は思い出す。アクマイザー事件の後にコヨミから聞いた不思議な男性の事。

 下着を吊るした木の棒を持った、ヘンテコだが優しそうな青年の事を。

 

 

「コヨミを助けてくれたパンツの人って、アンタなのか?」

 

「あはは、パンツの人かぁ。うん、そうだよ」

 

「そっか、コヨミを助けてくれてありがとな。それに多分、俺も助けてもらっちゃってるし」

 

 

 晴人が回想するのは、これまたアクマイザー事件の事。

 アクマイザー事件の際、晴人はアンダーワールドの中でW、アクセル、オーズ、バースと出会った。

 正確に言えば『仮面ライダーの指輪』で召喚されたライダーで本人というわけではないが。

 だからバースを初めて見た時、晴人はその姿を知っていたが、後藤はウィザードの事を知らなかった。

 故に『多分』という曖昧な表現。

 そんな晴人に映司は右手を開いて差し出した。

 

 

「じゃあ、これ」

 

「ん?」

 

「握手しよう。どうやら俺達、遠くで繋がってたみたいだし、これから一緒に戦う仲間でもあるから」

 

「フッ……だな。宜しく、映司さん……で、いいんだよな?」

 

「うん。こちらこそ、晴人君」

 

 

 固く握手を交わす晴人と映司。それを見守る後藤と弦太朗。

 また1つ、映司の手が誰かと繋がれた瞬間だった。

 

 それとは別の一角でも会話を始めているものが数人。

 S.H.O.Tの剣二と銃四郎、ゴーバスターズのヒロム、リュウジ、ヨーコ、そして新メンバーかつ最年少の高町なのはだった。

 そんな彼等彼女等が話しているのは、エネタワー戦で現れた、『宝石を使って動いていたタイプα』の話。

 

 

「じゃあタイプαを動かしていたのは、その小さな宝石だったってわけか」

 

「ええ。先輩も驚いてましたよ、『こんな小さなもので動力賄ってたのか』って」

 

 

 銃四郎の言葉に対し、人差し指と親指で大きさを示しつつ、リュウジが答えた。

 タイプαはジュエルシードの機能を停止させられた事により完全に沈黙。

 そのまま特命部に回収・解体され、内部の宝石──ジュエルシードを取り出したのだ。

 それにはなのはも同席し、封印されたジュエルシードは既にレイジングハートの内部に格納されている。

 それが一番安全であり、かつてそうしてきたという諸々の話も特命部には済んでいるようだ。

 剣二はなのはへ顔を向けた。

 相手との身長差もあって、下を見るのとそう変わらない程の角度で。

 

 

「なのはだっけ? そんなヤベーもんの事、何処で知ったんだ?」

 

「私が魔法少女を始めたきっかけというか……。

 ジュエルシードのせいで、戦いとか、色んな事があったんです」

 

「はー、まだちっこいのに色々大変だったんだなぁ」

 

 

 それこそ今、剣二達が身を置いているような激戦。

 そんな中に少し前のなのはは放り込まれ、沢山の人と出会い、新しい友達を得たり、悲しい事もあったけど、どうにかこうにか世界を救ったという顛末がある。

 小学3年生にして此処にいるメンバーとそう変わらない道を歩んでいるのだ。

 

 

「剣二も若いが、響ちゃんにヨーコちゃんも若いし、そうかと思えば遂には9歳か……」

 

 

 しみじみとしているというか、遠い目をしている銃四郎。

 銃四郎は25歳。なのはは9歳。年齢差は16歳で、干支1週とオリンピック1回分。

 16歳や15歳のヨーコや響から見てもなのはは若い、いや、幼いのレベルだ。

 

 

「不動さん……マジのおっさんみたいだな!」

 

「おっさんって言うな剣二ィ!!」

 

「やめてあげてよ剣二さん! それ、リュウさんにも刺さっちゃう!」

 

「ちょっと待ってヨーコちゃん」

 

 

 いつかに『おっさんとはもう呼ばない』と決意した剣二は何処へやら。

 ついでにヨーコの言葉でまさかの流れ弾を食らうリュウジ。

 余談だがリュウジは28歳。銃四郎から見ても3つ上である。

 ギャーギャーと言い合いだした剣二、銃四郎、ヨーコ、リュウジを、物理的ではなく精神的に離れた目で見るヒロム。

 4人が年齢の話題で騒ぎ出したため、残されたなのはとヒロムが話しだすのは自然な事だった。

 

 

「皆さん、仲良しさんなんですね」

 

「まあ……そうだな。ごめんな、年上が見苦しいところを」

 

「いえ! 全然そんな事! むしろ普通の人達なんだなぁって、ホッとしちゃいました。

 やっぱりその、緊張、しちゃってて」

 

「そうか……緊張しないでいいって言っても、流石に無理だよな」

 

 

 たはは、と笑うなのはだが、緊張はごく自然な事だ。

 どんなに雰囲気が朗らかとはいえ、此処は秘密組織なり政府公認の機関なりと、中々に大層な肩書で活動している組織の集合体だ。

 いくら偉い人が「肩の力を抜いて」と言ったところで、そう簡単に緊張がほぐれる筈もない。

 それもそうか、と、ヒロムも思い直した。

 今でこそこの場にいる事を当たり前に感じているが、此処はそういう場所なのだと。

 

 

「配慮が足りなかった。ただでさえ同年代もいないのに、本当にごめん」

 

「い、いえ! ホント全然、大丈夫ですから!」

 

「なら、いいんだが……」

 

 

 11も上の大人に謝られては恐縮もするというものである。

 両手を胸の前でぶんぶんと振るなのはの挙動は可愛らしいが、やはりぎこちなさが拭えない。

 ところでそんななのはの様子を見て、ヒロムは1つ気になった点があった。

 

 

「……それにしても、緊張はしてるけど、落ち着いてるな」

 

「え?」

 

「いや、もっとはしゃぐか、今以上にガチガチに緊張するかのどちらかだと思ってたんだ。

 俺の中の小学生のイメージでしかないけど。君は冷静だな、と思って」

 

「あ、それはリンディさん……えっと、私が知り合った時空管理局の人の影響かもしれないです」

 

「時空管理局?」

 

「はい。私が魔法少女になってから色々お世話になった人達なんです。

 やっぱりそこも、こういう感じで大人の人もいっぱいいましたし……」

 

 

 場慣れ、とでも言えばいいのだろうか。

 管理局という言葉からして特命部等と同じくらいには組織立っていると推察できる。

 なのはの言葉から、恐らく以前にもこういう事があって、ある程度耐性ができたのだろうというのはヒロムにも想像できた。

 いくら耐性があるとはいえ、なのはが年齢不相応に落ち着いているのは間違いないが。

 

 

「時空管理局か……どういう人達がいたんだ?」

 

「えっと、最初に知り合ったのは……」

 

 

 と、何だかんだでなのはの過去話から会話を弾ませ始めたヒロムとなのは。

 その向こうで依然として年齢合戦が続いているのはご愛敬。

 

 と、面々がそれぞれに会話を広げている中、部屋の入口である自動扉がスライドして開いた。

 また誰か来たのか、と、扉の近くにいたメンバーは何の気も無くそちらへ目を向ける。

 新しくやって来たのは4人。

 彼等が部屋の中へ足を踏み入れると自動扉がゆっくりと閉まった。

 ところが4人を見た時、誰もが頭にクエスチョンマークを頂かざるを得なくなった。

 

 4人のうち2人は女性、もう2人は男性。

 長い髪の女性が1人、ショートカットの小柄な女性が1人、眼鏡で長身の男性が1人、眼鏡の男性よりワイルドな感じがする男性が1人。

 そんな誰もが見覚えの無い顔ぶれに、唯一笑みを湛えて迎え入れたのは弦十郎だった。

 

 

「おお、来てくれたか」

 

「ええ、折角の招待を無下にするわけにもいかないし。

 随分沢山いるのね……と思ったけど、『田中』さんはまだ来てないのかしら」

 

 

 弦十郎の言葉に答えつつ、長髪の女性は部屋の中をぐるりと見渡す。

 誰もが「この人達は?」という疑問を全く解決できない中、彼女の声色にヒロムが内心で反応を示した。

 

 

(……? 何処かで聞いた声だな)

 

 

 それもつい最近、何度も聞いた声な気がした。

 今の一瞬では判断できない、恐らく何度も言葉を交わした相手ではない。

 しかし確実に何処かで聞いた覚えがあるとヒロムが脳内を探り始めた。

 直後、再び自動扉が開く。

 

 

「おや、葵さん達は既に来ていましたか。やー、すみません。遅れてしまって」

 

 

 現れたのは無精髭を湛えた眼鏡の男性。

 わざとらしく右手を後頭部にもっていきながら、何処か胡散臭さを覚える笑みを見せた。

 葵さん、という言葉はどうやら長髪の女性に向けられているようだった。

 

 

「ま、私達も今来たばかりだけどね。……結局、私達に自由意思は無いのね」

 

「いやー、私もびっくりしてるんですよ、ハイ。まさかこうなるとは……」

 

 

 何処か吐き捨てるような葵と呼ばれた女性の言葉に、無精髭の男性はあくまでひょうきんな態度のまま。

 そうこうしているうちにヒロムは葵と呼ばれた女性の声色の記憶を探り当てていた。

 恐らくはこれで正解だ、と記憶を引っ張り出したヒロムは葵達の方へつかつかと歩み寄った。

 

 

「そうか、その声……ダンクーガのパイロットか」

 

「あら、そういう貴方はゴーバスターズのメインパイロットさん……かしら?」

 

 

 ヒロムの言葉に司令官達と特命部の面々以外の全体に衝撃が走った。

 ダンクーガ。各地の戦場に姿を見せ、何故かこの部隊には協力の姿勢を見せる謎の存在。

 凄まじい戦力を持つという点以外は全てが謎に包まれているダンクーガのパイロットが何故此処に、という疑問が多くのメンバーの脳内を駆け巡る。

 この部隊と合流して日の浅い晴人やなのは達だって、ダンクーガという名前は報道で耳にした事があるくらいだ。

 

 此処で意外な人物が反応を見せた。

 元仮面ライダー部の部長、風城美羽だ。

 

 

「Oops! ちょっと待って。もしかしてと思ったけど、飛鷹葵じゃないの!?」

 

「へぇ、私の事……って貴女……風城、美羽……?」

 

 

 お互いに名前を知っているかのような素振り。

 様子を見守る面々の中、ポンと手を叩いて反応を示したのはこれまた意外な人物。

 響の同級生にして親友、小日向未来だった。

 

 

「あっ、飛鷹葵さんって!」

 

「知ってるの? 未来」

 

「美羽さんも葵さんもファッションモデルだよ。響も知ってると思う。

 ほら、この前読んだ雑誌にも確か……」

 

「……あー! そう言えばッ!!」

 

 

 そう、葵は美羽と同じくファッションモデル。

 だから同業者でお互いに何となく顔を知っている美羽や、現役女子高生らしくファッション雑誌を買っている未来や響が誰よりも早く気が付けたのだ。

 その隣で翼も「そう言えば見た事が」と、芸能人としてなのかファッションモデルとして見た事があるのかは分からないが、合点がいったという顔をしていた。

 

 

「風城美羽っていったら期待されてる新鋭じゃない。此処の関係者だったの?」

 

「それはこっちの台詞よ。人気モデルの貴女が、ダンクーガのパイロット?

 ……まさか、モデルと兼業してたレーサーを最近になって辞めたのって……」

 

「想像通りかしらね。

 ま、レーサーの方は一番勢いがある内に辞めておきたかったっていうのもあったけど」

 

 

 飛鷹葵。

 美羽が語ったように、彼女は人気モデルとトップレーサーを兼業する女性だった。

 しかし、ほんの少し前にレーサーの引退を発表。モデル一本の仕事をしていたのだ。

 そんな同業者と思っていた彼女がダンクーガのパイロットとして現れれば、美羽も驚くというもの。

 尤も、同業者が既にこの部隊にいた、という意味で葵も驚いてはいるのだが。

 

 メンバーの間でも「なんだなんだ」とか「また有名人か」とかそんな言葉が飛び交う。

 ざわつく室内の中、手を大きく二度ほど叩いて場を静寂させる弦十郎。

 

 

「驚かせてすまないな、みんな。

 特命部以外のみんなには今日初めて話す、重大な発表がある」

 

 

 誰もが弦十郎を見つめる中、彼は今しがた入って来た5人を指し示した。

 

 

「今後、我々の部隊に、ダンクーガ……『チームD』が参加する事になった」

 

 

 再度ざわつく室内だが、弦十郎がそれを再び落ち着かせた後、今度は黒木が弦十郎の隣に並んで全体へ向けて経緯の説明を開始した。

 

 

「先日のエネタワーでの戦闘後、ダンクーガの責任者……此処にいる田中司令から特命部に向けて『ダンクーガを我々の部隊に預けたい』という要請があった。

 そこで特命部は傷ついたダンクーガを空いていた格納庫に回収し、同時にパイロット達の治療も請け負ったんだ。

 ヒロムを始め、特命部には前もって通達してあったが……顔を合わせるのはこれが初めてだな」

 

 

 ダンクーガを特命部で回収した関係で特命部は既に知っていた。

 しかしゴーバスターズとチームDが顔を合わせるのは初めて、という事らしい。

 経緯は分かったが、メンバーの中に戸惑いはある。

 各地の紛争地域に顔を出して戦力を均等化する、という、少なくとも善行とは言い切れない事をしてきたダンクーガだ。

 今までもイレギュラーな仲間が増える事は多かったが、相手が相手でどう反応していいか誰も分からず、それが戸惑いに繋がっている。

 

 そんな中、平静を崩さずにいつもの明るさを見せる櫻井了子が口を開いた。

 

 

「うーん、やっぱりみんな、色々あってびっくり仰天って感じねー。

 ま! 何はともあれ、よ! これで『全員』揃ったのよね?」

 

 

 目を向けられた弦十郎は肯定の意味を込めて強く頷く。

 どうやらいつまで経っても交流会が始まらなかったのはチームDを待っていたからのようだった。

 頷きを見た了子は口角を上げてニヤリと笑うと、全体へ向けて溌剌とした声を投げる。

 此処で了子は予め用意されていたお立ち台の上に乗って、みんなよりも1つ高い視点を得ていた。

 

 

「さぁみんな! というわけだから、いよいよ歓迎会兼交流会が始めるわよー!!」

 

「何でそんなテンションなんだお前……」

 

「折角なんだから楽しまなきゃ損よぉ?

 士君も、怪我なんて忘れるくらい羽目を外しなさいな」

 

「空気を考えろ、空気を。どう見てもそんな感じじゃねぇだろ」

 

「んもう、だからこうして第一声を高らかに発してるんじゃない。

 ほらほら、みんなも飲み物や食べ物を手に取ってー!」

 

 

 呆れかえる士だが了子はめげる事は無くテンションの高さを持続させている。

 それにつられて室内のメンバーも動揺と戦いつつも、それぞれに食器やグラスを手に取り始めた。

 周囲を見て「うんうん」と満足げに頷く了子は、今度は二課の藤尭や友里、特命部の仲村や森下、つまりはオペレーター陣に顔を向けた。

 彼等は部屋の一室に機材を設置し、それらを操作できるように機材の近くにスタンバイしている状態だ。

 

 

「じゃ、みんな飲み食いしながらでいいから、こっちを見てくれるかしら?」

 

 

 機材も問題なしである事を確認した了子は再びメンバーの方を見やる。

 

 

「これから、このできる女と評判の櫻井了子が! ちょっと色々お話しするわね。

 話す事は大まかに3つ。

 1つ目は何故この部隊が結成されたか。

 2つ目はこの部隊を構成しているメンバーの紹介。

 3つ目はこの部隊が戦っている相手について。

 で、何でこういう事を話すかっていうと、こうしてみんなが一堂に集まるのは初めてだから、情報共有ってこと」

 

 

 了子がそれはそれは得意気に話し始めた。

 説明、それも大勢の前で話せるので妙にテンションが上がっているのか、そうでなくとも普段から割とこんな感じな気もする、と士は1人思う。

 了子が話を進めていく中で部屋の中が薄暗く、同時にプロジェクターから映像が大々的に投影された。

 映像の投影が正常である事を確認した了子は再び満足げに頷く。

 

 

「説明は分かりやすさ重視で映像を交えながらいくわね。

 というわけで早速、1つ目の話題から──────」

 

 

 そんなわけで、了子のちょっと明るい解説が始まった。

 

 まずは何故、この部隊が結成されたかについて。

 理由は2つだった。

 1つは『ヴァグラスやジャマンガのような脅威に立ち向かうなら、組織同士の連携をすればいい。もっと言えば一時的にでも一緒になればいい』というもの。

 もう1つは『二課が動きやすくなるため』というものだった。

 

 2つ目の理由は少し世知辛い話。

 シンフォギアは対ノイズの為の武装ではあるのだが、当のノイズが『災害』判定の為、何より各国政府がその技術を狙っている為、色々と活動にしがらみがあるのだ。

 それをゴーバスターズや魔弾戦士を隠れ蓑にする事で動きやすくしよう、というもの。

 結果、少し無理を通す必要はあったが、何とか形になったという感じである。

 

 次に、この部隊を構成するメンバーの紹介。

 特異災害対策機動部二課所属のシンフォギア装者。

 エネルギー管理局・特命部のゴーバスターズ、及びバディロイド。

 S.H.O.Tの魔弾戦士、及びパートナーの魔弾龍。

 0課の協力者である魔法使い。

 チームD、ダンクーガのパイロット達。

 そして民間協力者という扱いの仮面ライダー達、及び高町なのはとレイジングハート。

 

 尚、門矢士と朔田流星の2人は少々特殊な立ち位置だ。

 基本的に『誰が何処に所属している』というのは組織の一時的な合併により半ば形骸化しているものの、士は二課所属、流星はインターポールからS.H.O.Tに出向しているという扱いになっている。

 士はリディアンの教師を兼任している事やノイズに有効打が与えられるという特異性から。

 流星はS.H.O.Tの大元である都市安全保安局に所属する御厨博士の紹介、という形だからである。

 

 最後の話題は敵勢力について。

 これに関してはヴァグラス、ジャマンガ、フィーネ、大ショッカーの現状判明している点を話した後、少し別の話へと移った。

 

 

「────以上が、私達の戦う相手なんだけど……此処からすこーし番外よ」

 

 

 了子の言葉と共に映像が切り替わる。

 映し出されたのは、1つの画面を4分割して、それぞれに別の人物が映っているという映像だった。

 その4人──正確に言えば3人と1機は、全て1つの共通点で括られる。

 

 

「これらは所謂『第3勢力』。つまり、私達の側でも、敵の側でもないという事よ」

 

 

 1人の映像が拡大される。

 まず1人目は、赤いギアを纏った少女、雪音クリスからだった。

 

 

「雪音クリス。第2号聖遺物、イチイバルの装者。

 元はフィーネの元にいたのだけれど、切り捨てられたみたいね。

 今は敵対行動自体は減ったけれど、仲間と言えるかは……どう? 響ちゃん?」

 

 

 と、了子はおもむろに目を向けた。

 話を振った相手が相手である。答えは恐らく分かりきった上で聞いているのであろう。

 そしてその期待を裏切らないくらい、響は真っ直ぐだった。

 

 

「きっと、分かり合えると思います!」

 

 

 その力強い言葉に、クリスと話した事のある未来と映司と晴人が、響と同じ思いを持つ弦太朗とヨーコが、そして後輩を見守る翼が微笑む。

 敵は同じだが、協力の姿勢を見せる気配は一向にない雪音クリス。

 だが、何度か言葉を交わす中で響は確信していたのだ。

 何より未来と日常の中で出会い、話してくれたというのであれば、分かり合えない道理はない。

 

 

「ん! やっぱり、響ちゃんはそういうわよね?」

 

 

 その回答に了子もにっこりとしっかり笑みを見せると、画面はまた次の人物を映し出した。

 2人目は変身した姿。リュウジンオーと名乗った魔弾戦士だった。

 

 

「じゃあ次はこの人よ。リュウジンオー、と名乗っているみたいね。

 恐らく剣二君達のように魔弾戦士のシステムで変身してると思われるけど、正体は不明。

 実際に会った剣二君達の話から総合すると、今のところ私達の方へも敵意がありそうね」

 

 

 剣二は実に不愉快そうな顔で画面を睨み、銃四郎も神妙な面持ちである。

 クリスと違い、何処か隙というか、甘さのようなものが現状、彼には見受けられない。

 被害など考えずに勝てばいいという言葉を直接聞いている剣二からすれば、リュウジンオーは一片の迷いもなく警戒の対象である。

 さらにリュウジンオーと直接言葉の交わした事のあるもう1人、翼が口を開いた。

 

 

「実は、私も彼とほんの少しだけ話す事ができたのですが……。

 どうにもリュウジンオーはS.H.O.Tに何らかの感情を抱いているようでした。

 もしかすると、S.H.O.Tと、あるいはS.H.O.Tの誰かと何かあるのかもしれないです」

 

 

 リュウジンオーの「俺はS.H.O.Tが……」という言葉が翼の中で引っかかっていた。

 何故、特命部でも二課でもなく、S.H.O.Tだけを名指しだったのか。

 その言葉の後には何が続くのか。

 S.H.O.Tの瀬戸山、鈴、そして司令官である天地の面持ちもやや険しい。

 

 

「私達と……。瀬戸山君、あの魔弾戦士の正体、何とかして分からないの?」

 

「無茶言わないでください左京さん。

 ……確かなのは、使っているシステムは魔弾戦士と同じ事と、強い、という事です」

 

 

 リュウジンオーはマダンダガーをもってして漸く倒せたロッククリムゾンを相手に互角以上の戦いを演じていた。

 下手をすれば、全快のリュウケンドーがマダンダガーを使っても勝てないかもしれない程の実力者なのである。

 

 

(もしや、都市安全保安局ならば……)

 

 

 一方で司令官の天地は、S.H.O.Tの大元である都市安全保安局ならば何か掴めるかもしれないと、考えを巡らせる。

 何はともあれ、少なくとも現状の情報だけでは何とも言えない。

 了子は話を切り上げ、また次の人物──今度は『機体』を映し出した。

 

 

「はい、次よ。これは先の戦闘で出現した紅い────」

 

「『R-ダイガン』……ですね」

 

 

 了子が口にしようとした「紅いダンクーガ」発言に田中司令が口を挟んだ。

 突然の固有名詞に全員の視線が田中に注がれる。

 それに気づいた田中は一瞬真面目だった顔を引っ込ませ、再びあっけらかんとした表情を見せた。

 

 

「あ、いやー、名称が無いと不便という事で。

 いちいち『紅いダンクーガ』と呼ぶより、分かりやすいでしょう?」

 

(にしては、随分とはっきりした名詞に聞こえるけどね……)

 

 

 口には出さない葵の内心。実際、田中を見る目には不信感がある。

 それは葵だけでなくチームDのメンバー全員に言える事だった。

 何せ今日に至るまで、チームDの4人もまた、ダンクーガの事を『何も知らない』のだから。

 

 

「ん、それじゃあR-ダイガンと呼びましょうか。

 高いステルス機能を備えた高機動のロボット……ってとこかしらね。

 判明しているのはダンクーガと同じジェネレーターを使っている、という事だけ。

 こちらも正体、目的は一切不明で、ヴァグラスにも敵対行動をとっているわね」

 

 

 ヒロムはR-ダイガンとダンクーガの戦いを思い起こした。

 あの、あらゆる戦地で圧倒的実力を見せ、メガゾード相手にも互角以上に渡りあっていたダンクーガを完膚なきまでに潰して見せた赤い翼を。

 

 R-ダイガンの行動の理由は一切不明だ。

 何故、ヴァグラスと敵対したのか。何故、ダンクーガにも攻撃を仕掛けたのか。

 

 

「アイツ、ダンクーガと敵メガゾード以外には何もしてこなかったですね」

 

「少なくとも俺達には敵対の姿勢は見せてないね。

 でも、ダンクーガのみんながこの部隊に入る以上、俺達も無関係じゃいられないかも」

 

 

 ヒロムの言葉に対するリュウジの返答は尤もだ。

 ダンクーガが味方になる以上、ダンクーガの現状敵であるR-ダイガンもまた、敵であるという事になる。

 何であれ、チームDの心境はあまりよろしいものではない。

 

 

「やれやれ、何処かで恨みでも買いましたかね。

 思い当たる節は山ほどありますが……」

 

「また現れるのかしらね、コイツ」

 

 

 ジョニーの軽口とは対照的にくららの言葉は鋭かった。

 目的も素性も不明だが、恐らくだが間違いなくまたぶつかる事になる。

 予感に過ぎないが、あの一度だけという事は無いだろう。

 

 

「さぁな。ま、そん時はそん時だろ」

 

「ま、そうね。……このままにしとく気もないけど」

 

 

 どこか冷めた印象を受ける朔哉の言葉と同じく、葵の言葉もクールだ。

 だが、口調とは裏腹に熱も感じさせる「このままにしとく気もない」という言葉と同時に、葵の目つきは鋭いものへと変化した。

 リベンジマッチをするつもりはある、という事だろうか。

 横目でチームDの様子を見やるリュウジはその様子に少し驚いている。

 

 

(……仮にもあれだけの敗北をしたのに、あまり動じてない。

 それだけの使命感があるとか? それとも……かなりの負けず嫌い、とか……いや……)

 

 

 命の危機まで経験しておいて『負けず嫌い』で済ますのは流石に何か違う気がした。

 何であれ、彼女達の闘争心が消えていないのは凄まじい。

 その険しくも熱い空気感を了子も感じ取ったのか、彼女はチームDの4人の顔をそれぞれ見やった。

 

 

「へぇ~、結構クールだと思ってたけど、意外と熱いトコもあるのね?

 やる気十分、若さ全開で結構な事だと思うわよ?」

 

「それ、からかってない?」

 

「ちょっとだけね? さ、それじゃ最後の1人の紹介に移るわよ」

 

 

 葵からのじとっとした目を向けられた了子だが、彼女はヒラリと躱して次に進む。

 画面に映し出された3人と1機のうち最後の1人が拡大された。

 監視カメラの映像を使っているせいか、映像は少しぶれていた。

 しかしそれに見覚えがある者にとっては、それが何であるかは簡単に把握できる。

 だから夏海は「あっ」と声を漏らしてしまった。

 

 

「仮面ライダーディエンド、海東大樹。

 デュランダル移送任務の際、デュランダルを奪取しようとして来た仮面ライダーよ。

 彼に関しては私よりも士君の方が詳しいわね」

 

 

 シアン色の仮面ライダー、ディエンド。

 邂逅したのは一度だけだが、彼も一応は第3勢力の扱いだ。

 夏海もユウスケも呆れから来る溜息をつき、了子から話を振られた士はフン、と鼻を鳴らす。

 

 

「ただのコソ泥だ。火事場泥棒、強盗……まあ、そういう奴だ」

 

「いやいや士、ちょっとはフォローしてやれよ。仲間だろ? な?」

 

「アイツにはそれで十分だろ」

 

 

 困った事に、デュランダル強奪未遂という事で間違った事は言っていなかった。

 性根の優しいユウスケはそれはないだろ、とツッコミを入れるが、士は意に介さない。

 もう1人、ユウスケと同じく苦言を呈するのは旅を共にしてきた夏海だ。

 

 

「士君、あんまり悪く言い過ぎるのもどうかと思います」

 

「否定できないんだからいいんだよ。

 トレジャーハンターなんて気取った名前よりお似合いだ」

 

「……怪我人だからと見逃してきた私が馬鹿でした。

 あんまり言い過ぎる士君には、やっぱり久々に『コレ』ですね」

 

 

 親指を立てる。

 あっ、と声を出して首筋を抑えるユウスケ。

 士も全く同じ危機感を感じるものの、夏海の親指はそれよりも速く士の首筋を捉えた。

 

 

「光家秘伝……笑いのツボ!!」

 

「ぐっ!? ……あっ、はっはっはっはっはっはっ!!」

 

 ツボ押し、一瞬の間、直後に笑いだす士。それも『爆』が付くやつを。

 突然の大爆笑、それも士が爆笑となると、結構な異常事態である。

 特に、1ヶ月以上を士と共に行動してきた響やヒロム達からすれば、クールで皮肉屋な士からはあまりにも想像できないその光景に口を開け、言葉を失ってしまっているようだ。

 

 

「すみません。海東さん、確かに泥棒ですけど、極悪人じゃないんです。

 以前は私達と一緒に戦ってくれた仲間で……。

 今度会ったら、私達からよく言っておきます」

 

 

 士の事を微塵も気にせず、夏海は申し訳なさそうな顔を見せて頭を下げた。

 夏海の大樹に関しての弁明の横で士が大爆笑しているという光景が中々に酷い。

 お陰で全員、夏海の言葉は殆ど頭に入っていなかった。

 あまりの衝撃に漸く響が出せたのは、この状況に対しての説明を求める言葉だった。

 

 

「いや、あの、え? 士先生は一体……?」

 

「えーっと……笑いのツボっていう技、かな。

 無理矢理笑わせちゃう夏海ちゃんの……必殺技?

 おーい、大丈夫か、士」

 

 

 苦笑いで説明するユウスケは笑い転げる士に駆け寄っていった。

 

 ──────いや、どんなツボだよ。

 

 この部隊が一番最初に心を結束させた瞬間だった。

 

 

「はっはっはっ……はぁ……。夏みかんテメェ、こっちは怪我人だぞ……」

 

「そうですね。でも海東さんの事を悪く言い過ぎです。そりゃあ悪い事してますけど。

 仮にも仲間なんですから、もう少し言いようって物があります」

 

「何でそこまで……」

 

「つ・か・さ・く・ん!!」

 

「分かった、分かったからその親指をしまえ……!」

 

 

 漸く笑いが収まった士だが、抗議の声も笑いのツボの前では無力である。

 あの弦十郎ですら「おぉ……」と感嘆なのか引いているのか分からない声をあげている辺り、笑いのツボの不可解さが伺えた。

 ともあれ、そんな士と夏海のやり取りを見た一同は思う。

 

 

(夏海さんには逆らわないようにしよう……)

 

 

 これが二度目の結束であった。

 

 

「……えーっと、とにもかくにも、これで第3勢力のお話は、終了!

 で、大まかな説明はこれで終わったんだけど、実はもう1個!」

 

 

 何だか凄まじい空気になったこの場を何とか平常に引き戻そうとする了子の努力。

 そんな彼女もちょっと動揺を隠せていないが、此処で一先ず、予定されていた一通りの説明が終了した。

 ところが付け加えがある、という了子の言葉の後、またも映像が切り替わった。

 映っているのはひし形の小さな、水色の宝石。

 

 

「ハイ、これでラストレクチャーだからもうちょっと頑張って。

 今、映像に映っている宝石は、エネタワーの戦いで現れたメガゾード・タイプαが持っていた、魔力回路の動力部分に設置されていたものよ。

 正式名称は、なのはちゃん曰く、『ジュエルシード』。

 パワースポット並の魔力を持ってる、っていうアレなんだけど、これは……なのはちゃん、お願いできる?」

 

「あ、はい!」

 

 

 了子に呼ばれたなのはは、早足で彼女の隣に駆け寄るとレイジングハートを起動させた。

 先端に赤い宝玉がセットされた金色の杖。絵に描いたようなマジカルステッキだ。

 その後、レイジングハートの赤い宝玉部分から映像と同じ水色の宝石がゆっくりと排出され、なのははそれを慎重に手の平に乗せた。

 

 

「これが、あのロボットを動かしていたジュエルシードです。

 ちょっと、見えづらいかもしれないんですけど」

 

 

 人数が多いこの空間では、全員が何か1つのものを見る場合には高く掲げるか大きく表示する必要がある。

 なのははジュエルシードの実物を取り出したわけだが、小学3年生の頭身では上に掲げたところでちょっと限界があった。

 その為に映像と実物を同時に使っているわけではあるのだが。

 

 メガゾードと実際に戦闘を行ったヒロムは特に興味深く感じているのか、なのはの近くに寄って、その手の平に収まる宝石を見やる。

 

 

「さっきも言ってたけど、本当に小さいな……。

 これが使い方を間違えれば、町1つ吹き飛ばしてしまうのか……」

 

「あ、私も見たい!」

 

 

 ヨーコも見たいみたいと駆け寄る。

 リュウジとマサトはタイプαの解体の際に既に実物を見ているので、取り立てて前に出て見に行くつもりは無いようだ。

 他にも数名が興味を持ってまじまじとそれを見るが、感想としては「見た目からは想像もつかない」というのが大半だろう。

 なにせ、小学生の手の平に収まるサイズの石が、町や、下手すれば世界を脅かしかねないというのだから。

 

 

「特命部の皆さんの中には知っている方もいると思いますが、もうこれは私とレイジングハートで封印してあるものなので、一応は大丈夫です。

 それで、今はレイジングハートに預かってもらっています」

 

「でも、危ないんだよね? なのはちゃんに持たせておいていいの? 了子さん」

 

「ヨーコちゃんの懸念はとてつもなく尤もよ。

 でも、この場の誰もなのはちゃん以上にジュエルシードの事を知っている人はいないわ。

 餅は餅屋、って言うじゃない? 詳しい人に預けとこうって話で決着がついたってわけ」

 

 

 この場の誰よりも高町なのはは幼いが、この場の誰よりもジュエルシードに関しての知識がある。

 対処方法に関しても、現状、ジュエルシードを完全に封じる事ができるのはなのはとレイジングハートのみだ。

 高校生ならいざ知らず、小学生に任せるのは何かあったら、とは思うだろう。

 それでもなのはを信頼する。そういう方向で話が纏まってのである。

 

 餅は餅屋って何だろう、と頭の片隅で思っているヨーコ含め、メンバーもそれぞれに納得の姿勢を見せていた。

 なのはは一通りジュエルシードを見せた後、再びそれをレイジングハートに回収。

 同時に了子は説明を再開していた。

 

 

「このジュエルシードに関しては『凄い魔力を持ったとっても危ない宝石』で、基本的には間違ってないわ。

 ヴァグラスやジャマンガが悪用してるって事もね。 

 で、問題はこれの出所なんだけど……それもなのはちゃんにパスするわね。

 ちょーっと年上の観客が多いけど、緊張せずにお話ししてね?」

 

「は、はい!」

 

 

 大勢の前で説明をする、というのは大なり小なりの緊張が伴う。

 それを小学3年生が一回り以上の年上が殆どの場所で行うというのだから、当然の緊張だ。

 了子は柔和な表情で緊張を和らげるような言葉をかけ、なのはは頷く。

 一度呼吸を整えて、自分の知る限りを話す準備をする。

 それは年齢以上に大人びた表情だった。

 

 

「そもそもジュエルシードは全部で21個あって、それぞれに番号が付けられています。

 それでその内9個は、私が魔法少女になったきっかけでもある、ある事件で無くなってしまったんです。

 虚数空間……ブラックホールみたいなものなんですけど、そこに消えていって……。

 でも、この前封印したジュエルシードはシリアル『Ⅱ』……消えたはずの番号だったんです」

 

 

 深刻そうな雰囲気を出すなのはの言葉に、メンバーの表情にも深刻と困惑が深まる。

 ただでさえ町1つがどうにかなる危機だというのに、それが元々21個も存在していた事。

 しかも消失した9個の内の1つが戻って来た、という事。

 どの情報であれ、厄介そうな言葉ばかりだった。

 

 

「消えたジュエルシードを、何でヴァグラスさん達が持っていたのかは分かりません。

 ただもし、消えちゃったジュエルシードを全部、あの人達が持っているなら……」

 

「残り8個も、エンター達は持っている可能性がある、って事か」

 

「……はい」

 

 

 ヒロムの言葉に頷くなのは。対し、ヒロムの表情はますます深刻になった。

 もう8回、今回と同じ事を繰り返す可能性が出てきたというのだから。

 でも、なのはは口にする。此処にいる事の理由は、正に『それ』であると。

 

 

「だから、私もお手伝いしたいって思ったんです。

 ジュエルシードの封印は私達にしかできません。

 何か少しでも、役に立てるのならって」

 

 

 その言葉は誰もが分かるくらいに決意を感じさせる言葉。

 驚くほどに芯の通った発言に、誰もが「本当に小学生か?」という戸惑いと「良い子だな」という良い印象の感情を持った。

 ただし、組織の司令官やマサト等の、一部年長者は除いて。

 

 

(……予期はしていた。やはり彼女もまた、響君達と同じ、か)

 

 

 いつぞや黒木と話した事を弦十郎は思い出す。

 果たして、誰かの為だからと自分の命を賭けて戦場に出られる事は、どれほど『真っ当』なのか。

 それが『歪』でないと、何故言えるのだろうか。

 

 だから弦十郎は、黒木は、天地は、木崎は、大人達は胸に刻み込むのだ。

 そんな若い戦士達に頼らざるを得ない現状、自分達にできるのはそれを支える事だけであるという事。

 絶対に命を持って帰らせる、その為に自分達がいるのだと。

 

 決意を固める大人組の向こうでは、なのはに話しかける晴人の姿があった。

 

 

「前も助けようと思って助けられちゃって、なのはちゃんの強さは知ってる。

 でも、君が傷ついたら家族も悲しむんだから、無理はすんなよ?」

 

「はい! 改めて宜しくお願いします、晴人さん!」

 

「あン? 何だよ晴人、元々知り合いだったのか?」

 

「まあ、前にちょっとね」

 

 

 翔太郎の言葉にさらりと答える晴人。

 さて、何であれ、これでジュエルシードも含めた一通りの説明が完了。

 全体の情報共有という目的は達成されたと言えるだろう。

 

 

「ありがと、なのはちゃん。良い説明だったわ!

 将来は教師とか、人に物を教える仕事が向いてるかもしれないわね?」

 

「そ、そうですか?」

 

「うん! その歳でそれだけしっかりしてるなら、似合うと思うわよぉ?」

 

 

 フフッ、と笑いかける了子になのはの顔も笑顔になる。

 そんなやり取りの後、ターンは再びなのはから了子に戻って来た。

 

 

「じゃ、これにてレクチャータイムは終了。

 此処から先は質問ターイム! 天才の私が、ずばりお答えしちゃうわよ?」

 

 

 そんなわけで放たれる了子の宣言。

 此処からは個人個人で聞いておきたい事を聞く時間となるわけだが、一番に手を挙げたのは翼だった。

 

 

「では、1つ」

 

「はぁい! 翼ちゃん」

 

「私と不動さんがパワースポットで発見した、金の石……あれは、どうなったのですか?」

 

「んー……ずばりお答えすると言った傍から何だけど、それに関してはS.H.O.Tの人に振った方が早いかしら?」

 

 

 了子の言葉と目配せは、プロジェクター等の機器を操作する瀬戸山や鈴に向けられた。

 この部隊で魔法の事に関して尤も詳しいのは、魔法エンジニアの彼であろうと。

 そんなわけで手を挙げたのは瀬戸山だった。

 

 

「でしたら、僕が答えますね。

 不動さんと翼さんが持ち帰ってくれた金の石は、パワースポットの魔力の残滓が凝固したものだと推測されます。

 また、0課の方々と調べて判明したのですが、金の石は魔力が固まった石……つまり、魔宝石である事が判明しました」

 

「魔宝石? って事は、俺の指輪にできるって事か?」

 

 

 不意打ち気味に自分と関連のあるワードが飛んできて、晴人は面食らった。

 魔宝石。

 それはウィザードの使う指輪の元となる魔力を秘めた宝石の事である。

 それを面影堂の輪島に指輪の形に加工してもらう事で、新たな魔法の指輪ができるのだ。

 晴人に頷きつつ、瀬戸山は説明を続けた。

 

 

「はい。ウィザード、晴人さんが使う指輪ですよね。0課から話は伺ってます。

 恐らく、指輪の形状にすれば何らかの魔法の発動も可能です」

 

「だったら、輪島のおっちゃんに指輪にしてもらわないとな。

 その石、今は何処にあんの?」

 

「すみません。実は、パワースポットから生まれた石という事で、精密なデータを取る為にヨーロッパの都市安全保安局の方へ送られてしまいました。

 石自体はパワースポットのように魔法爆発や暴走の危険は無いのですが、元が元なので、安全を確認する為です。

 データを取り、安全が確認され次第、こちらに返還されるので、それまでは……」

 

「そっ、か。じゃあ仕方ないな」

 

 

 パワースポットは取り扱いによっては暴走や魔法爆発が起こるものである。

 そこから生まれた石である以上、入念に調べておく事に越した事はない。

 何より、パワースポットから生まれた魔宝石、というだけでも資料的な価値があるのだ。

 そんな諸々の理由を話しつつ、申し訳ない、と瀬戸山は軽く頭を下げた。

 晴人も我が儘を言う事も無く、それに納得したようだ。

 

 

「じゃあ金の石についてはOKかしら? 翼ちゃんもいい?」

 

「はい。新たな力になりうる可能性があるというなら、持ち帰った甲斐がありました」

 

「ん! じゃあ次の質問を募集するわよ!」

 

 

 そこで、バッっという擬音が似合いそうな勢いで手を挙げたのは、またもシンフォギア装者。

 

 

「ハイッ!」

 

「元気がよくてよろしいわね。何が疑問かしら? 響ちゃん」

 

「さっきの了子さんのレクチャーの時とか、『この部隊』って言い続けてるじゃないですか」

 

「ん、そうね」

 

「今の私達って二課とか特命部とか、そういう名前は無いんですか?

 色んな組織が1つになってるから名前どうなるのかなって……」

 

「なぁるほど?

 つまり響ちゃんの疑問は、『この合同部隊に正式名称はないの?』って事かしら?」

 

「はいっ、そうです!」

 

 

 重要度が高いかは別にしても、響の疑問は尤もである。

 4つの組織と多数の民間協力者で構成されたのが今、この部隊である。

 即ち、この部隊は4つの組織それぞれであるともないとも言えた。

 現状、『この部隊』としか形容しようがないのだ。

 

 

「へー、名前なかったのか、此処」

 

「R-ダイガンじゃないですが、確かに名前が無いと不便ですね。

 『この部隊』じゃあ、分かり辛いですし」

 

 

 新規で入って名前が無いこと自体を知らなかった朔哉とジョニーがそれぞれに言う。

 響の質問、朔哉とジョニーの言葉を聞き、了子は「フフン?」と何故か得意気だ。

 

 

「大変良い質問よ! ね、弦十郎君?」

 

「ああ、そうだな。最後に話す予定だったが、折角だから言ってしまうとしよう」

 

 

 弦十郎が了子の立っているお立ち台まで歩いていき、バトンタッチ。

 元々長身の彼がお立ち台に乗ったせいで、了子の時以上に視点の高い弦十郎が、メンバー全体を見渡す。

 

 

「では、響君の質問に答えよう。

 我々はあくまで、一時的に合併したに過ぎない組織だ。

 だが、その『一時』の間、我々は間違いなく1つの組織として機能する事になる。

 そこで、だ。この合同部隊に何か1つ、チームとしての名前を付けようと思う!」

 

 

 メンバーの一部が「おおっ」と声を上げ、一部は冷静にその言葉を受け止める。

 反応を見た後、弦十郎は自分の言葉へ付け加えをした。

 

 

「それ自体に政治的、権力的な意味は全くないが、名前はあった方がいいからな」

 

 

 つまり記号的な意味合いである、という事だ。

 特異災害対策機動部二課とか、そういう仰々しい、組織的、あるいは何らかの役割を示した名前である必要はない。

 もっと砕けた言い方をするなら、何でも好きな名前が付けられる、という事なのだが。

 

 

「はいはーい! じゃあ俺から提案! 『鳴神華撃団』ってのはどうだ!!」

 

「ダメだろ」

 

 

 剣二が提案。銃四郎が却下。

 この間僅か2秒足らずである。

 

 

「早ぇよ! もうちょい考慮してくれたっていいだろ!?」

 

「お前こそ、名前考え付くの早すぎだろ。さてはずっと前から考えてたな?

 ……そもそもカゲキダンって何だ。俺達は舞台役者じゃないんだぞ。歌う連中はいるけど」

 

「ちっちっちっ、不動さん。カゲキダンは『歌う劇団』じゃないぜ。

『華』道の『華』に、『撃つ』の『撃』で、華撃団だ!

 ほら、カッコよくね!? ゲキリュウケン、しかもお前の『撃』だぜ?」

 

『むっ、そうか……私の文字も入っている……』

 

 

 姑息にも自身の腰に付いている相棒のゲキリュウケンを味方に付けようとする剣二だが、却下の姿勢を見せるのは何も銃四郎だけではない。

 割って入って来たのはゴーバスターズのヒロムと、チームDのくらら。

 

 

「騙されるなゲキリュウケン。名前の頭に『鳴神』って入ってるだろ。

 多分、自分の名前を主張したいだけだぞ」

 

「うぐっ」

 

「しかもそれ、紐解いたら殆ど『鳴神と愉快な仲間達』とかって感じの意味にならない?」

 

「ちょっ、新人にまでっ!?」

 

 

 情け容赦なく切り捨てられる剣二は不服そうな表情で抗議する。

 が、剣二と同じくS.H.O.Tの鈴がずかずかと迫り、耳を引っ張って止めを刺した。

 

 

「当然でしょ、そんなアンタが目立ちたいだけの名前却下よ!

 考えるなら、もうちょい真面目に考えなさい、バ・カ・剣・二!」

 

「イッ、テテテテテテ!! 俺、怪我人だっつの! 松葉杖見えてんだろ!?」

 

 

 そんなわけで満場一致で却下となった剣二の案。

 尚も「なんだよー、語呂はカッコイイだろー」とごちるが、鈴の一睨みで黙る事にしたようだ。

 しかし剣二に触発されたのか、名前を提案する者がもう1人。

 ハーフボイルド探偵、左翔太郎だ。

 

 

「だったらこういうのはどうだ? その名も、『ガイアセイバーズ』」

 

「そのまま訳すと、『地球を救う者達』といったところかい?」

 

「まあな。でも、分かり易くていいだろ?」

 

「フム、この手の名前を考えるのは好きだよね、翔太郎は。

 瞬時にそうした言葉が選べる辺り、頭の回転は悪くないんだけど」

 

「そうだろ……ってオイ、フィリップ! 頭の回転『は』ってなんだ!」

 

「おい翔太郎。1つ聞くが、ハードボイルドってのは気取って名前付けるモンなのか」

 

「ぐっ……!?」

 

「ダメだよ門矢士。そこはあまりつつかないでやって欲しい。

 普段から、ただでさえハードからは程遠いんだ」

 

「言いたい放題かお前等ッ!?」

 

 

 フィリップと士から総ツッコミを受ける翔太郎がハーフボイルドかハードボイルドかはともあれ、付けようとしている名前自体は真っ当だと思われたのか、特に批判は無かった。

 と、そんな感じで、剣二と翔太郎を皮切りに、なら俺も私もと、名前を思いついたメンバーが次々と案を出していく流れができてしまった。

 

 最初に2人の流れを汲んで発言したのは、翔太郎からの抗議をさらりと躱しきったフィリップだ。

 

 

「さて、からかうのはこのくらいにして、相棒に倣って僕も1つ提案を出そう。

 『マーチウィンド』、というのはどうだろう?」

 

「西洋の諺ね? 3月の風と4月の雨は5月の花を咲かせる……。

 転じて、辛い事を乗り越えた後に幸せが訪れる、っていう意味合いになるやつ」

 

「その通り。戦って、今を切り抜ける。そんな意味を込めたつもりだよ」

 

 

 過去に検索したのか諺を引用するフィリップと、知識を活かして解説する了子。

 風の言葉が入っているのはフィリップなりの拘りであろうか。

 

 此処で今度は、弦太朗と映司が部隊の名前決めに口を出す。

 

 

「じゃあ俺も先輩達に続くぜ!

 んー……『地球防衛部』! ってのはどう思う? 賢吾!?」

 

「仮面ライダー部と同じノリで名前を考えるな。そもそも、此処は部活じゃない」

 

「俺も何か考えてみようかなぁ。例えば……『リベルタッド』とか?

 スペイン語で『自由』って意味なんだけど」

 

「おぉ、流石映司先輩! 頭よさそーな名前だぜ!」

 

「カタカナ使ってる事に突っかからないのか? 俺にはあんなに言ってきたじゃないか」

 

「いや、それは……映司先輩は、先輩だからいいんだよ! な!?」

 

 

 以前の弦太朗は「カタカナ使えば頭いいと思ってんだろ!」とか「カタカナ多いって!」と言っていたのだが。

 まあ、そういうところも弦太朗か、と、賢吾は呆れているような苦笑いしているような、何とも言えない表情を見せるのだった。

 

 と、それとはまた別でシンフォギア装者の2人と未来が部隊の名前について話し始めていた。

 

 

「こういうのって、やっぱり英語の方がカッコイイんですかね?」

 

 

 響の言葉に翼がふむ、と思案する。

 

 

「格好のつく英単語か……イグニッション、アドバンス、他にはそうだな……。

 複数の組織が集まっているから、クロスという言葉を入れてもいいかもしれないわね」

 

「楽しそうですね、翼さん。ちょっと意外です」

 

「歌詞を考えるようなものだと思えばね。

 この部隊の名前は、私達を表すフレーズになるのだから、しっかり決めたいわ」

 

 

 未来の指摘に対して微笑みつつ返す翼。

 厳格な、ストイックなイメージの彼女がこういった話に嬉々として首を突っ込むのは未来の目から見ても珍しく映ったようだ。

 

 また一方、名前決めの光景を一歩引いて見つめるヒロムと葵は。

 

 

「別に私は何でもいいんだけどね……」

 

「ダンクーガにだってチームDって名前があるんだろ?

 ……そう言えば、Dって何のDなんだ? やっぱり、ダンクーガなのか」

 

「さぁ? デンジャラス、ドリーム、デトネイター……好きなように捉えればいいんじゃない?」

 

「後はダイナマイトとかダイナミックとかか。まあ、強そうではあるな」

 

 

 部隊の命名そっちのけでチームDの名前の由来について憶測を飛ばし合う2人。

 

 とまあ、メンバーは口々にあれはどうだこれはどうだと口々に言い合った。

 特に名前に頓着しないメンバーは、収集が付かなくなるな、と冷静に見つめていたが、同じくそれを見計らっていた弦十郎が数度手を叩き、場を静粛させる。

 

 

「そこまでだ、みんな。それぞれの提案も良い名前ばかりだとは思う。

 だが実は、俺達の方で先に考えておいた名前があるんだ。

 これ以上は時間もかかりすぎるし、一先ずそれで納得してもらえると助かる」

 

 

 一番上の人が名前を付けて話を終わらせる。収拾を付けるには一番良い方法だろう。

 収拾のつかなさは大なり小なりみんなが感じていたらしく、特に反論も無かった。

 士なんかは「だったら先に言っとけばどうだ」と呆れつつ思ったりもするが、弦十郎達からすれば、初めて全員集まったメンバーが話し合う姿を微笑ましく見ていたかった、という理由があったりもする。

 

 

「では、発表だ! 我々の今後の名前、それは────」

 

 

 弦十郎から、これからの名前が告げられる。

 

 

「────『カレイジャス・ソリダリティ』。直訳して、『勇気ある連帯』。

 少々ストレートな名前だとは思うが、どうだろうか?」

 

 

 誰かの為に戦う勇気ある者達が集まった、1つの部隊。

 即ち、『Courageous Solidarity』。

 先にも述べたように、この名前は何らかの役割を表した言葉ではない。

 此処に集ってくれた彼等彼女等そのものを表す、そんな気持ちで弦十郎達が付けた名だ。

 

 そして、その名前に対しての反応は。

 

 

「何でもいい……」

 

 

 と、士が。

 

 

「おぉ、何かカッコイイです!」

 

 

 と、響が。

 

 

「えぇー、やっぱ鳴神……」

 

『いや諦めろよ』

 

 

 と、剣二とゲキリュウケンが。

 

 

「意義は無いです。それに、これで場も纏まる」

 

「右に同じ。長々と続けるよりは良い気がするしね」

 

 

 と、ヒロムと葵が。

 

 反応は様々だが、明確な否定意見が出る事も無く、半分なし崩し的といった感じではあるが、部隊の名前は此処に可決される。

 メンバー全体の反応を見やった弦十郎はニコリと笑って見せた後、大きく声を張り上げた。

 

 

「よし! では、今後我々は、カレイジャス・ソリダリティを名乗る事になる!

 それぞれに生まれや育ち、元の組織、そもそも組織に属していない者など、様々だ!

 だが、こうして1つのチームに集まったのも何かの縁!

 これからは共に世界を守るために、力を貸してほしい!!

 よろしく頼むぞ、みんなァ!!」

 

 

 世界を守る為、それぞれに守りたいものを守る為。

 それぞれの正義を胸に秘めつつも一堂に会した戦士達。

 

 これがこの世界の守護者となる、彼等の名前の始まりだった。


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