スーパーヒーロー作戦CS   作:ライフォギア

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第68話 紅い翼と桃色の羽なの

 S.H.O.Tの瀬戸山から戦士達に通達された言葉は衝撃的なものだった。

 

 

「αから魔的波動……!? メガゾードから魔力って事ですか!?」

 

 

 レッドバスターの驚きはそのまま操縦にも出て、エースそのものが少し挙動不審な動きを取ってしまっていた。

 他のメガゾードと戦うバスターマシン達も同じだ。

 

 

「気付いたようですね、ゴーバスターズ」

 

 

 そんな動揺を感じ取ったのか、エンターがタイプαの肩に現れた。

 突然現れた事はいつもの事だから驚きはない。

 誰もが彼を注視してしまう一番の理由は、魔的波動の事を分かっているかのようなエンターの態度にだった。

 

 

「エンター……! 大方、ジャマンガと何かしたな!?」

 

「概ね正解、と言ったところですかね。

 強力な魔力を宿す石を回収したもので、それをメガゾードの動力源にしてみたのです。

 あまりに強力過ぎたのでDr.ウォームが少し出力を抑え込んでいましたがね。

 で、実験としてメガゾードに組み込んでみました。いやぁ、上手くいって何よりです」

 

「……ッ! 倒せば関係の無い事だ!」

 

「おっと、いいのですか? Dr.ウォーム曰く、あの魔力機関は相当なものだそうですよ?

 パワースポットと同じく、刺激を与えれば……」

 

 

 αはエンターの指示なのか、動く様子がない。

 エースはバスターソードで斬りかかろうとするが、その言葉で思わず後退してしまった。

 パワースポットの危険性はジャークムーンの城の一件で説明されている。

 それと同等という事は、最低でも町1つが滅ぶような魔力爆発が起きてしまうという事だ。

 しかしそれは敵の言う事。信じきれないと、ダンクーガの葵が吐き捨てた。

 

 

「それ、ハッタリじゃないって証明できる?」

 

「おや、ダンクーガのパイロットは随分強気なんですね。

 別にいいですよ、攻撃してくださっても。そうなれば此処にいる貴方方は吹き飛ぶ。

 エネトロンタンクも同時に失われますが……ま、貴方方がいなくなれば何処からでも調達できるようになります」

 

 

 おちょくるエンターにイラつきが募る葵やレッドバスター。

 そんな中、魔的波動を分析する事でエンターの真偽を探っていた瀬戸山が、答えを導き出した。

 

 

『……皆さん、エンターの言う事は恐らく事実です。

 実際、メガゾード1機全ての動力を賄っている魔力機関ですから、相当なものでしょう。

 それもジャマンガが抑え込んだ上でこの出力だとすればかなりマズイレベルです。

 推定ですが……元は、パワースポット相当のものかも……!』

 

 

 仲間の言葉だから信用できる。だから真偽ははっきりしたと言えるだろう。

 ただし、最悪な形でのだが。

 こうなると他のメガゾードはともかくタイプαに攻撃はできない。

 エンターはニヤリといやらしく笑うと、データの粒子となって何処かへ去った。

 後に残されたタイプαはエースに迫り、戦闘態勢に入っている。

 

 

「くっ……! みんなは各自のメガゾードを倒してくれ! 俺はこいつを何とか抑える!」

 

 

 即座に対応に移る他のバスターズ。

 動きに一瞬の戸惑いを出しつつも、ダンクーガもそれに続いてγと戦闘を開始した。

 α以外からは魔的波動が出ていないことを確認している為、他を倒す事に問題は無い。

 今一番どうしようもないのは、エースに組み付いてくるタイプαだ。

 

 

(このままじゃ先にこっちのエネトロンが尽きる……。

 かといって、下手な攻撃を浴びせればみんなまとめて吹き飛ぶ可能性がある……。

 クソッ、どうするッ!?)

 

 

 エースもバスターソードを手放し、タイプαに対して取っ組み合いで対抗した。

 刺激せずにその場で抑えつけるという、言ってみればその場しのぎ。

 しかし時間を稼がれれば稼がれるほどに不利になるのはゴーバスターズ側だ。

 

 

(このまま時間が過ぎたらエネタワーの転送が始まる!

 エースでこいつを抑えている間に、他のみんなに……!

 いや、他のメガゾードを倒したとしてもエネトロン残量はどの機体も僅かだ!

 このままだと……!)

 

 

 冷静に考えてもあまり良い考えが浮かばない。

 それどころか、不利な現状が明確になっていく。

 しかも操縦席のレッドバスターとニックは、現状が芳しくない理由をもう1つ見つけている。

 タイプαと組み合うエースが、徐々に押されて足が後退していたのだ。

 

 

『ダメだヒロム! コイツ、出力が普通のαじゃない!』

 

「みたいだな……! それだけ強力な魔力で動いているって事なのか!?」

 

 

 タイプαは他のメガゾードに比べ、細身な見た目通りスピードに優れる。

 逆に言えば、決してパワーのあるタイプではない。

 故にエースとタイプαなら普通、一騎打ちであれ力比べであれ、基本的にはエースが勝てる。

 ところが目の前のタイプαはパワースポット並の魔力から動力を得ている為か、純粋なαよりもずっと馬力があった。

 魔力と科学の融合による新たなるメガゾード。

 その力をその身で感じているレッドバスターは悟る。

 このままこいつを放っておいても、どうしようもないと。

 

 

(このままじゃエースのエネトロンが尽きる。

 相手の動力源の魔力が仮にパワースポット相当だとすれば、それは半永久的だ!

 最悪、コイツ1機でこっちが全員行動不能にされる!!)

 

 

 普通のメガゾードなら持久戦に持ち込んで、相手のエネトロン切れを待つという手も無くは無い。

 が、だがこのタイプαにそれは通用せず、出力も異常だ。

 バスターヘラクレスやダンクーガ並の出力で向かえば五分に渡りあえるだろうが、恐らく持久戦になるだろう。レッドバスターがそう感じる程度にはこのタイプαは強い。

 そうなった時、先に倒れるのは持久戦に耐えきれる方。

 ダンクーガには5分の時間制限、バスターマシンにはエネトロンというエネルギー残量。

 対し、タイプαのエネルギーは恐らく無尽蔵。

 結果は明白と言えるだろう。

 

 他のメガゾードも決して弱くは無い。

 ジェノサイドロンとウォーロイドとの戦いで、各バスターマシンは既にエネトロンを消費。

 残量に余裕などなく、ダンクーガの5分という時間制限も悠長にできる時間ではない。

 

 バスターズとダンクーガが戦う、それぞれの敵。

 まずは最新型のタイプδとバスターヘラクレスの戦いだ。

 

 

「一気に決めるぞ、J! もう一発ヘラクレスクライシスだ!」

 

「陣、エネトロンが僅かになるぞ」

 

「時間が経てば不利なのはこっちで、どーせこのまま行ってもジリ貧だ!

 だったら、1体ぶっ潰してくに越したこたぁねぇ!」

 

「了解」

 

 

 そうしてバスターヘラクレスはタイプδに対し、容赦なくヘラクレスクライシスを叩きこむ。

 大火力による一斉砲火を浴びたタイプδは、先程のジェノサイドロンと同じく爆散。

 そもそも合体前のゴーバスタービートに攻略されているのだから、その強化型とも言えるバスターヘラクレスが負ける道理は確かにない。

 しかし、それ以前にヘラクレスクライシスを撃った事や今までの戦いが災いし、バスターヘラクレスは既に動けるような状態ではなくなってしまっていた。

 かろうじてエネトロンは残っているが、とても戦いに赴ける量ではない。

 

 

(グレートゴーバスターになったところで状況は解決しねぇから、動けなくなる事に問題はねぇ。

 一人一殺で行ってエースがタイプαを抑え込んでてくれりゃあ、最後にはFS-0Oが残る。

 あとはFS-0Oで転送装置を壊してシャットダウン完了……なんて、上手くいけばいいが)

 

 

 レッドバスターが割り振った各メガゾードとバスターマシンの戦闘相性は悪くない。

 例えばタイプδはゴーバスタービートの、マサト曰くモドキ。

 だからゴーバスタービート、及びバスターヘラクレスで行けば勝てる相手だ。

 また、ゴーバスターオーでなければ勝てないタイプγだが、ゴーバスターオーと互角以上の出力を持つダンクーガをそこに割り当てるのも頷ける采配だ。

 タイプβもRH-03で撹乱しつつ、火力のあるGT-02で攻撃すれば十分倒せる。

 タイプαも普通のαであれば、エース1機で十分だ。

 

 以上の点からレッドバスターの采配は決して悪くない。むしろ最良と言える。

 勿論それは、タイプαが魔力で動いていたというイレギュラーを除けば、だが。

 そして何よりビートバスターが危惧しているのは、『果たしてイレギュラーがこれだけなのか』という事。

 

 

(魔力で動くタイプαの止め方も思いついてねぇのに、それとは別に嫌な予感が……なんかまだ手の内を残してるんじゃねぇかって予感がしやがる。

 ったく、天才ってのは勘も鋭くなんのかねぇ。損だぜ)

 

 

 心中の言葉こそ軽い調子ながら、仮面の奥に浮かぶ表情に軽さは無い。

 この嫌な予感が、杞憂である事を祈る。

 祈るなんて柄じゃないと思いつつも、ビートバスターはそう考えずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 ヘリ形態のRH-03が、機首のバルカンで空中からタイプβを牽制。

 隙を付いてゴリラ形態のGT-02がアッパーの要領で拳を振り上げ、宙に浮いた相手に肩からバナナミサイルを連続発射。

 一発一発ならば耐えられても、連続で浴びせられるミサイルにβの装甲は持つ事無く、爆散。

 こうしてタイプβは問題なく処理された。

 メタロイドの能力で強化されていないからというのもあるが、GT-02は単独の出力ならエースに次ぐ。勝利の理由の1つはそれだろう。

 

 一方、ダンクーガは苦戦と言わずとも五分五分と言った具合の展開となっていた。

 そもそもγは初期から存在した3タイプの中で最も強力であり、その実力はゴーバスターオーのように合体したバスターマシンでなければ対処できない程。

 ダンクーガのスペックはゴーバスターオーに引けを取らないが、γもそれと同程度の力を持っている。

 だからこそ、如何にダンクーガといえど容易に勝利を掴む事は出来ていなかった。

 タイプγと格闘戦を繰り広げるダンクーガだが、防御や回避をお互いに成功させており、中々埒が明かなかった。

 

 

「運動性、馬力、どれをとってもαとβを超えてますね。流石はγ。

 葵さん、正攻法でも勝てるには勝てますが、時間かかりますよ」

 

「それも例の怪しい雑誌の情報かしら、ジョニー君。『月刊 男のメガゾード』ってとこ?」

 

「いいえ、もっと大きな括りで『月刊 男のロボット』です」

 

 

 ジョニーが定期購読する『月刊 男の~』シリーズ。

 その怪しげな雑誌群を4人の中ではジョニーしか読んでいないが、一応書いてある情報は確からしい。

 実際、γは強い。

 近接戦闘における殴り合いはほぼ互角。他の方法を使うしかないだろう。

 

 

「ンなろぉ……距離を取って一発ぶちかますか!」

 

「その案、頂き。ジョニー君!」

 

 

 朔哉の提案に乗っかる形で、葵はダンクーガを下がらせた。

 ミサイルデトネイターはノヴァエレファントの武器で、その発射権限もエレファントの操縦者であるジョニーにある。

 そこで葵はジョニーに呼びかけ、それに応じる形で腰のランチャーが展開し、数発のミサイルが発射された。

 しかしタイプγは片手を突き出し、そこからエネルギーバリアを展開。

 牽制用の側面もあるとはいえ決して低威力ではないミサイルを、そのバリアで防ぎきって見せた。

 

 

「ちょ、バリア持ち? そんなの聞いてないわよ」

 

「月刊 男のロボットには書いてありましたが……。

 まさかこんなに強度があるとは、驚きです」

 

「知ってたなら日和ってないで教えなさいよ、もう」

 

「だったら葵さん、バリアごと突き破れるような威力でいくしかないわよ?」

 

「となると、断空砲か『断空剣』ね!」

 

 

 今度はくららの提案を採用し、ダンクーガの誇る最強武器の使用を決めた。

 断空砲はゴーバスターズの前で披露した事があるが、断空剣は初披露となる。

 断空剣。それは、その名の通りダンクーガの強力無比な剣。

 ダンクーガ背面のスラスターを全開にして放つ断空剣の一閃、『断空斬』はあらゆる戦場で敵を両断してきた技だ。

 

 断空剣は合神と同じく葵の掛け声がトリガーになっている。

 それと共に柄が左腰部から射出され、手にした柄から放たれるエネルギーが剣の形をとる事で断空剣は完成するのだ。

 

 断空砲と断空剣はそれぞれ、遠距離と近距離におけるダンクーガの切札。

 だが2つで比べた場合、威力として大きいのは断空剣の側に軍配が上がる。

 近接戦闘には持ち込める以上、断空剣を選択しない理由は無い。

 

 そこでトリガーである葵が掛け声を──────。

 

 

「断、空、け……!?」

 

 

 ──────発しようとした、のだが。

 葵は、他の3人は、瞬間的な衝撃を感じた。

 ダンクーガ全体が揺れる。理由は突如巻き起こった突風だった。

 まるで、誰かが超高速で通り抜けた後の風がダンクーガを押しているかのような、そんな風。

 そしてメインパイロットである葵は見ていた。

 

 

「……ちょっと、今度は何なのよ……?」

 

 

 風を起こした正体。ダンクーガの頭上を超高速で通り抜けた、『紅い鳥』の姿を。

 鋭い意匠を持った機械の紅き鳥はダンクーガもタイプγも通り抜けた先のビルまで飛ぶと、そこでその身を人型へ変形させ、そのビルの屋上へ着地して見せた。

 背中に1対の羽、散見される羽を連想される意匠。

 人型の姿でありながら、やはりその紅い姿は鳥をイメージさせた。

 さらに、まるでダンクーガのように人面に近い顔。

 鋭い眼光がダンクーガとタイプγを見下し、睨み付けているようだった。

 

 謎の紅い機体の出現。

 どの組織も反応はしており、二課でもその出現が慌ただしく伝わっていた。

 司令への状況説明の任を果たしつつ、焦りを隠せない朔也の声が二課に響いている。

 

 

「戦闘区域に謎の機体が出現しました! 一体こいつは……!?」

 

「予期できなかったのか!?」

 

「レーダーに反応はありませんでした! 姿が現れたのも突然……。

 恐らく、高度なステルス機能が備わっていると推測されます!」

 

 

 弦十郎の言葉にあおいが分析、憶測ながらそれを答える。

 新たに加わった0課も含め4組織、戦場にいる数多くの戦士が揃いも揃って反応できなかった新たな機影。

 さらに状況の分析、敵の正体を調べる朔也が、この短時間である1つの事実を探り当てた。

 

 

「謎の機体から出ている反応はダンクーガと同一……!?

 動力が同じという事なのか……? なら、こいつは!」

 

 

 ダンクーガの持つ動力はどの組織も保有、観測した事がないものだと判明している。

 それと同じ反応を持つという事は、これもまたダンクーガと同じ、あらゆる組織にとって未知の機体であるという事。

 

 

「『紅い、ダンクーガ』……」

 

 

 思わず呟いた弦十郎の言葉。

 司令、オペレーター問わず、モニターされている紅い機体に皆、動揺を隠せないでいた。

 

 

 

 

 

 紅い機体は腕を組んでダンクーガとタイプγを見下していたかと思えば、組んだ腕を解いて、両腕をタイプγへ向け、そこからビーム砲を連続発射。

 両腕からマシンガンのように繰り出されるそれはタイプγのあちこちに被弾するが、怯む様子は無い。

 しかし臆することなく、紅い機体はビルの屋上から跳び下り、タイプγへ肉薄する。

 タイプγも反応して右手を振り上げるが、それよりも速く、紅い機体が横を通り抜けながら掠め取るように右腕を当てた。

 

 

(速い……! ひょっとしたら、ダンクーガよりも……!)

 

 

 飛鷹葵はつい先日引退を発表したが、トップレベルのカーレーサーだった女だ。

 故にスピードに自信を持ち、速さを見抜く目にも長けている。

 その彼女が思ったのだ。タイプγすら寄せ付けぬ紅い機体の速さは、自分達以上だと。

 

 バランスを少しだけ崩したタイプγに対し、紅い機体は上空へ飛んで再び鳥型の形態へ戻る。

 さらに機体下部より紅い機体は大きな竜巻を放った。

 それこそメガゾードをも飲み込むほどの大きな竜巻はバランスを崩していたタイプγを容赦なく飲み込み、その躯体を上空へと巻き上げていく。

 竜巻に飲み込まれた以上、エネルギーバリアすらも意味を成さない。

 体の動きを完全に封じ込まれ、超高圧の竜巻はタイプγへ凄まじい負荷をかけていく。

 そうして竜巻が止んだ頃には、タイプγは姿勢制御をする事も無く重力落下を果たし、直後に大爆発。

 圧倒的な力を持ってして、紅い機体はタイプγを屠って見せたのだ。

 

 

「ダンクーガと同じジェネレーター反応……? では、味方……?」

 

 

 ジョニーが見つめる計器も二課と同じように、紅い機体の動力がダンクーガと同じであると示している。

 同じ力を持ち、敵であるメガゾードを倒してくれた。

 此処まで考えれば味方と考えるのが自然だろう。

 当の紅い機体は鳥型の姿から再び人型へ変形し、地上に降り立った。

 紅い機体の目の部分に相当するカメラは、じっとダンクーガの方を見つめていた。

 それが、『獲物を見つけた鳥の目』の如き鋭さに見えたのは、葵の気のせいか。

 

 

「…………」

 

 

 沈黙。2機のダンクーガは両者共にその場から動かない。

 まるで睨み合いだった。

 両者を見て『味方同士』という言葉が浮かびそうにない程の緊張感。

 そしてその緊張による膠着状態は。

 

 

「ッ、来るわよッ!!」

 

 

 紅い機体が、両腕をダンクーガに向けた事で解かれた。

 両腕からマシンガンのようにビームを飛ばす紅い機体。

 先のタイプγへ発射した、牽制のような攻撃だ。恐らく低威力なのだろう。

 だが、低威力でも攻撃は攻撃。

 咄嗟に葵が横に跳ぶという判断をしていなければ、今頃あの攻撃は全てダンクーガに直撃していた。

 

 

「何だよ! 味方じゃねぇのか!?」

 

「敵の敵は味方、って奴かもね。で、その『敵』が1つ減れば当然……」

 

「標的が私達に移る……ってワケね? くららさん」

 

 

 突然の出現の後、突然にタイプγを倒し、突然に攻撃を仕掛けられた。

 何もかもが突然の中で朔也が叫び、くららと葵は冷静に状況を見る。

 攻撃を仕掛けてきたという事は、敵。

 シンプルな考えだが、それはごく当たり前の事であり、目の前の紅い機体が放つ殺気が何よりもそれを物語っていた。

 

 

(さっきのスピード、竜巻……。一気に決めないと、やられかねない……!!)

 

 

 タイプγを倒した時のスピードと攻撃力を見て、葵はそう考えていた。

 敵がダンクーガと同じ動力を使っているという事は、あの紅い機体の力はダンクーガと同等なのは確実。

 しかも速さはダンクーガ以上。

 竜巻の威力は、先程タイプγが身を散らす事で教えてくれている。

 ならばとる行動は1つ。先手必勝、一気呵成だ。

 

 

「何が目的なのか知らないけど、かかってくるっていうならッ!!」

 

 

 葵は虚空へ手を伸ばし、必殺の剣を召喚する。

 

 

「断、空、剣ッ!!」

 

 

 メインパイロットのコールと共に、ダンクーガの左腰部から棒状の柄が飛び出し、左手に収まった。

 さらに柄の上部が展開し、鍔へと変形。

 そこにエネルギーが集束する事で1本の剣として完成した。

 ダンクーガ最強の武器、断空剣。

 葵はそれを両手持ちで構え、R-ダイガンへと背面の全ブースターを全開にして高速で突貫。

 あまりにも一直線な動きだが、その接近速度は並ではない。

 

 

「こっ、のぉッ!!」

 

 

 振りかぶり、まず一撃。

 相手を大破させて万一にでもパイロットを殺してしまってはマズイと、葵は自制を効かせつつも断空剣を素早く振るった。

 

 しかし───────。

 

 

「ッ!? 避け……ッ!?」

 

 

 振るった場所に紅い機体はおらず、ダンクーガの脇を通って後ろへ回り込んでいた。

 隙だらけの背面へ、左足のハイキックに近い一撃が炸裂。

 前方へ押し出されてバランスを崩しかけるダンクーガだが、立て直しつつも後ろへ振り返る。

 そこには紅い機体が悠々とした佇まいで立っていた。

 

 今の一撃。背面からの一撃でダンクーガには更なる隙が生まれていた。

 そこに先程の連続ビーム砲なり、追撃をかける事は幾らでも可能だっただろう。

 しかし紅い機体はそれをしなかった。

 ただただ、余裕の姿勢を保ったままである。

 

 

「コイツ……! 俺達の事……!!」

 

「舐めてる、みたいですね。あの態度はそう受け取る他ありません」

 

 

 朔哉とジョニー、ダンクーガの男陣営が察したそれを、葵とくららもまた感じていた。

 その余りにも舐め切った態度は、数多の戦場で畏怖されてきたダンクーガが受けた事の無いものだった。

 ダンクーガ相手にそれができる相手などいなかった。

 各地の紛争地域でダンクーガは圧倒的だった。

 それこそ人知を超えた敵と言えるヴァグラスのメガゾードとも対等に戦える。

 そんなダンクーガに対して紅い機体は一言も語らずに態度で示しているのだ。

 間違いなく、『自分の方が強い』と。

 

 

「そんな程度か……?」

 

 

 いや、訂正しよう。

 一言も語らずに、ではない。

 紅い機体のパイロットと思わしき女性の声が戦場に響きだしたのだから。

 

 

「本当にそれでもダンクーガなのか?」

 

「何が言いたいわけ!? そもそもアンタが乗ってるその機体は何!?」

 

「……その様子だと、戦いの真の意味すら、知らないか」

 

 

 ダンクーガでもってしても勝てないかもしれないという焦りからか、葵の声色に余裕はない。

 一方、紅い機体から響く冷徹にも感じる女性の声は、多分に呆れを含んでいるようだった。

 

 『戦いの真の意味』。

 

 ダンクーガには謎が多い。

 何故、紛争に介入して弱い方の味方をしてきたのか。

 何故、ヴァグラスのような人類の敵との戦いに行動がシフトし始めているのか。

 何故、人類の敵に対しては一切の容赦なく叩き潰しても構わないのか。

 何よりも何故、『自分達』だったのか。

 

 この『自分達』とは、葵達4人の事であり、4人が共通して抱いている疑問だ。

 4人はダンクーガのパイロットに突然選ばれ、ダンクーガとして活動を始めた。

 そもそもパイロットには多くの前任者がいたらしく、必ず4人が選抜され、一定期間で記憶が消去された上で日常に戻っていくらしい。

 葵達は自分達が操縦しているロボットについて、それを指揮する組織について無知だ。

 選抜の理由は? 人員を入れ替える理由は? そもそもダンクーガとは誰が造ったのか?

 何も知らない。上司筋の人に聞いても答えてはくれない。調べても答えらしきものは無い。ダンクーガの正体を疑問に感じている人は世界中に多くいるが、正直なところ、パイロットである葵達ですらそれを知らないというのが現状なのである。

 

 だからこそ、葵達は紅い機体のパイロットの言葉に動揺した。

 何故自分達が何も知らない事を知っているのか。

 

 ──────こいつは、何かを知っているのか。

 

 

「何か知っているわけ!? ダンクーガの事を!」

 

 

 葵は叫ぶ。自分達が何よりも知りたい事の答えを知っているのかと。

 しかしその返答は言葉ではなく、右手から放たれた連続ビーム砲だった。

 

 

(……ッ! こうなったら、意地でも倒して聞き出すッ!!)

 

 

 横に跳び避けるダンクーガ。

 葵の動きにリンクするダンクーガの目は、紅い機体を睨み付けていた。

 攻撃を避けたダンクーガはその勢いのままに接近し、断空剣を振るった。

 一振り、右に避けられる。

 二振り、逆側に避けられる。

 三振り、バックステップで避けられる。

 四振り、直前に回り込まれ、軽い蹴りをもらってしまう。

 

 一撃も当たらないどころか、いい様に翻弄されていた。

 当たらない。当てられる気がしない。

 何処までも紅い機体は素早く、かつ冷静な動きでダンクーガを見切っていた。

 

 

「ダメです葵さん! こいつは並のスピードじゃない!」

 

「私がスピードでついていけないなんて……!!」

 

「だったらノヴァナックルで遠距離からァ!」

 

「あの速度に当てられるわけがない! ミサイルデトネイターか断空砲で広範囲を一気に……!」

 

 

 ジョニーの提言に対し葵が悔しさをにじませるのは、元レーサーとしてのプライドか。

 ならば遠距離で、という朔哉の言葉も、ジョニーは尤もな反論を返していた。

 しかしジョニーの声色にも焦りが出ていた。

 敬語こそ崩れていないが普段のような落ち着き計らった態度は全く見えない。

 そして直後、ダンクーガ内部にアラートが鳴った。

 アラートが意味する事は勿論知っている。タイムリミットだ。

 

 

「マズイわね……もうすぐ5分よ」

 

 

 くららだけは冷静で普段通り。

 多少の焦りはあるものの、少なくとも表面的な態度はいつも通りだった。

 とはいえ、砲手である彼女だけが冷静でもどうしようもない現状ではある。

 正体不明の敵に対し為す術がなく、攻撃も一切当てられない状況なのだから。

 

 

「フン……」

 

 

 対し、小馬鹿にするような態度を見せる紅い機体のパイロット。

 彼女は紅い機体を操作し、両手に武器を携えた。

 手にしているのは両刃の剣。それが両手に。

 謎だらけの紅い機体が見せる新たな武器、それは剣だった。

 紅い機体はダンクーガと同じジェネレーターで動いているという。

 であれば、あの紅い機体が持っている剣は。

 

 

「断空剣、二刀流……!?」

 

 

 形状と本数こそ違うものの、葵の言葉がその剣を指し示す言葉に相応しいだろう。

 さらに紅い機体は2本の断空剣の柄尻を合体させて1本の両剣として右手に構えた。

 

 

「『ダンブレード・ツイン』ッ!」

 

 

 それこそツインエッジゲキリュウケンのようになったそれの名を、紅い機体は高らかに宣言する。

 

 

「得物まで持ってやがんのかよ、アイツッ!!」

 

「見る限り、相手はスピード型です。鍔競りあう事さえできれば……!!」

 

 

 朔哉、ジョニーの言葉に続く形で、葵は再びダンクーガを接近させる事を考えた。

 敵の戦法は手数と速さ。つまり、単純なパワーだけならダンクーガの方が上だと考えられる。

 いや、もう付け入れる隙がそこしかないとも言えた。

 ブーストを噴かせてもう一度、断空剣を試すしかない。

 ところがその思惑は容赦のない形で打ち破られてしまう。

 

 紅い機体が、消えたのだ。

 

 

「最初と同じステルス……!?

 ダメです、強力なジャミングが働いていて、あの機体の位置を特定できません……!」

 

「……後ろッ!?」

 

 

 即座に気配を察知し反応できたのは流石と言えるかもしれない。

 しかし振り向き、断空剣を構えるまでの間に紅い機体はダンブレード・ツインを振っていた。

 何とか背面は斬られなかったものの、振り向いた瞬間には斬られてしまったがため、ダンクーガの胸パーツの一部が損傷してしまった。

 

 そんな事が数度続いた。

 ダンクーガは徐々に、そしてどんな戦線でも見せた事がない程に傷だらけになっていく。

 深手はない。違う、わざと深手を負わされていないのだ。

 いたぶるように、弱らせるように、紅い機体はステルスを駆使してダンクーガを追い詰めていった。

 右腕が傷つく。左腕が傷つく。背中が傷つく。あちこちが損壊していく。

 

 紅い機体の攻撃は、その度にダンクーガの装甲だけでなくパイロット達から冷静さを奪っていく。

 抱いていた焦りがさらに膨らみ、最初に戦場に飛び込んできた時の冷静さは、最早無い。

 

 

「ちくしょう、俺がッ!!」

 

「いえ、此処は僕がッ!!」

 

「貴方達、仲間割れしている場合じゃないでしょ!?」

 

「もう、うるさいッ!!」

 

「貴女まで熱くなってどうするの、葵さん! 落ち着いて!」

 

「落ち着いてアイツが見つかるなら、とっくにそうしているわよ!!」

 

 

 3人を宥めようとしているくららですら、冷静に務めようと必死に自制しているだけで、内心は「どうすればいい」という焦燥感しかない。

 最早声色という表面的な物すらも取り繕えていない有様だった。

 ダンクーガの動きは葵の動きをトレースして動いている。

 だからもしもパイロットに異常があると、バスターマシン以上にそれがダイレクトに表面化するのだ。

 故に、ダンクーガ側の焦りは紅い機体側からも筒抜けである。

 

 

「見苦しいな……。戦いの意味を知らないのも、無理ないか」

 

「ッ!?」

 

「この程度の事でパニックになるなど、笑止」

 

 

 とことん挑発してくる紅い機体のパイロット。

 焦らざるを得ない状況、嘲笑を含んだような言葉。

 それがますます頭に血を昇らせ、葵を激情に駆り立てた。

 

 

「こっ、のっ……馬鹿に、しないでよッ!!」

 

 

 なりふり構わずにダンクーガが断空剣をぶち当てようと、高速で突っ込んでいく。

 怒りに身を任せた単純かつ、どうしようもない程に考えの無い行動だった。

 

 

「愚かな……」

 

 

 ダンクーガが剣を振ってすれ違うのと同時に、紅い機体もダンブレード・ツインを振るった。

 お互いに背中を向け合う2機。

 紅い機体に損傷は見受けられない。

 対してダンクーガの胸には、深々とした切り傷が刻み込まれていた。

 稼働時間5分間近を知らせるアラートがコックピット内でけたたましく響く中で、ダンクーガはついにその膝を折ってしまった。

 

 

「所詮、この程度」

 

 

 紅い機体は再び鳥型へ変形し、下部のファンから竜巻を発生させた。

 それは先程タイプγを一撃で倒した、強力な風の渦だった。

 

 

「『アブソリュート・ハリケーン』ッ!!」

 

 

 武装の名前をコールしながら、紅い機体から発生した竜巻は膝をついたダンクーガを容赦なく巻き上げていく。

 竜巻でかき混ぜられる衝撃はコックピットにも当然ながらダイレクトに伝わっていた。

 特にメイン操縦者である葵が感じている衝撃は相当の物。

 それは単純なダメージだけではない。

 自分達の完全敗北という、今までに受けた事の無い心のダメージだった。

 

 

(う、そ……)

 

 

 竜巻が消え、ダンクーガが重力によって地面に叩きつけられた。

 既に4つのコックピットの誰もが声を発しない。

 生きてはいる。

 だが既に全員、意識は手放してしまっていた。

 

 ダンブレード・ツインとアブソリュート・ハリケーンという紅い機体の強力な攻撃を受けた事によるものか、ダンクーガはその動力をも停止してしまっていた。

 ダンクーガの合体していられる時間が5分限定なのは、合体時の動力が問題だ。

 だから動力を停止させれば、形としての合体を保ち続ける事は出来る。

 しかしそれは、合体しているだけの機械人形が動きもせずに横たわる、という事に他ならない。

 今のダンクーガは正にそんな状態になってしまっていた。

 

 

「…………」

 

 

 紅い機体のパイロットは何も語らず、鳥型の形態のまま上空へ飛び去ってしまった。

 ゴーバスターズに手を出すでもなくヴァグラスとダンクーガを屠っただけのそれ。

 謎だけを残し、紅い機体は戦場を後にした。

 

 

 

 

 

 紅い機体とダンクーガの戦いを誰もが見ていた。

 それこそ、まだ無事なビルの屋上で戦場を眺めていたエンターですら、その謎の存在に気を取られてしまっている。

 タイプγを倒したかと思えば、ダンクーガを容赦なく叩き潰す。

 どちらの味方なのか全く分からない。

 おまけに最後には他の誰にも手を出さずに離脱したときている。

 

 

(何なんだ……!? 敵、味方……。いや……!)

 

(どちらでもない……ですか。全く、黒い魔弾戦士といい……)

 

 

 奇しくもレッドバスターとエンターの思考が一致した。

 本来なら敵対しているゴーバスターズとヴァグラスが同じ考えをしてしまうほど、その登場は突然で、不可解だったのだ。

 ダンクーガが倒された事や紅い機体の出現で、特命部を初めとした司令室も慌ただしくなっている事だろう。

 しかし、戦場で戦う彼等にそれを気にする余裕はない。

 ダンクーガのパイロット達の事は確かに気がかりだが、そっちに気を取られている場合ではないのだ。

 

 

「瀬戸山さん! 魔力機関をどうにかする方法、ありそうですか!?」

 

『すみません、まだ……!』

 

 

 レッドバスターの声は荒い。

 エースでαを抑え続けるのも限界があり、このままではエースのエネトロンが尽きて押し切られるのも時間の問題だ。

 瀬戸山も決して分析に手を抜いているわけではないのだが、如何せん未知の魔的波動に手を焼いている。

 転送装置をどうにかできても、タイプαが町1つを飲み込むほどの爆発をするかもしれない以上、打開策は必須だ。

 

 その現状は地上部隊にも伝わっている。

 通信機を持たないウィザードのような途中参加の戦士達もいるが、通信可能なメンバーのお陰で話は通っているのだ。

 周囲の怪人、戦闘員を蹴散らしつつ、ウィザードとビーストは合流を果たしていた。

 

 

「魔法が原因ってなったら、俺達の出番っぽいけどなぁ。

 仁藤、お前アイツ食えないのか?」

 

「やれねぇ事は無いかもしれねぇけど、ファントムとはモノが違い過ぎだろ?

 第一刺激したらドカンなら、食う食わない以前に攻撃できねぇし」

 

「ま、そりゃそうだよな……」

 

 

 ビーストの『魔力を食らう』という行為は、対象を倒す事で初めて発動する。

 つまり必殺の一撃で敵に止めを刺してようやくそれができるのだ。

 しかしタイプαは下手に刺激して倒せば大爆発。

 魔力として食われるのが先か、魔法爆発が起きるのが先かという大博打になりかねない。

 

 

(さって、余裕ぶっこいてる場合でもない。

 でも、どうにかしないといけない事には変わりないし……ん?)

 

 

 魔法使い2人でも打つ手が見つからない状況。

 そんな中でウィザードが見つけたのは、戦闘区域上空に飛来した一筋の光だった。

 桃色の羽が舞い、白い衣装が風に揺れている。

 小学生くらいの小柄なその子は周囲を見渡し何やらおろおろしている様子だったが、地上にウィザードとビーストの2人を見つけるとそちらに向けて一気に降下。

 2人の元へ降り立った1人の少女。

 それは、彼等2人が以前に助けた、白い魔法少女だった。

 

 

「晴人さん、攻介さん! よかったぁ、誰に話しかけようかなって思ってたんです」

 

「なのはちゃん!? ちょ、え、何で此処に?」

 

「えっと、どう説明したらいいかな……。

 魔力を感じたんです。放っておくと凄い危ないもので……」

 

「危ない?」

 

「はい。使い方を間違えると色んな被害がでちゃうんです。

 それでその魔力っていうのが……」

 

「……もしかして」

 

 

 ウィザードとなのはの目線が同時にタイプαへ向く。

 未だエースと小競り合い、エースも手を出せない状況が続いていた。

 

 

「あのロボットから反応を感じるんです」

 

「やっぱり……。こっちもそれで困ってたんだ。なのはちゃん、それ何とかできる?」

 

「はい! 何度かやった事があります。その為には……」

 

 

 返答の後、なのはが何をすればタイプαを止められるのか、その為に周りのメンバーに何をしてほしいかを説明した。

 1つに動きを止めてほしい事。

 もう1つに、『解決方法』を行うには時間がかかると思うから、その間のフォローが欲しい事。

 その話は通信機を持たないウィザードからレーダースイッチで通信手段を持つフォーゼを介し、司令室、及び前線の仲間達全員に伝わった。

 ちなみにアルティメットDと戦っていた5人ライダーの内、ディケイドとWは傷も深いので、他の敵との戦闘こそ続行しているもののオーズがお目付け役となり、3人で別の場所で戦っている。

 

 戦闘員や怪人の残りがいる事や転送装置の制限時間も迫っている為にのんびりと説明はできない。

 なのはは掻い摘んだ言葉で説明をした。

 これからする事、そして自分を信じてほしい事を。

 その少しの間の後に、フォーゼのレーダーモジュールを介してS.H.O.Tの天地司令の声が飛んできた。

 

 

『……うむ、分かった。では高町なのは君。君に任せよう。

 君に頼る以外に方法が思いつかない現状だ、頼めるだろうか?』

 

「はい!」

 

『君のような子供に縋る他ない我々を、どうか許してほしい』

 

「いえ、そんな! 困った時はお互い様だと思います!」

 

「まだ小さいのにしっかりしてんなぁ。よろしく頼むぜ、なのは!」

 

「はい!」

 

 

 白い魔法少女と白い仮面ライダーが笑顔を向け合った。

 フォーゼの顔は見えていないが、雰囲気から伝わる程度には彼は明るかった。

 

 一方で小学生ながらそんな事を言ってのける彼女の言葉に、天地は少し心苦しさを感じた。

 ただでさえ未成年や、成人しているとはいえ若い少年少女に戦わせている現状。

 そんな中でさらにもう1人、戦いに身を投じようとしている少女がいるのだから。

 歯痒いが、勝つためには頼るしかない。

 

 なのはの説明が各員に伝わる。

 それに伴い、エースに向けて特命部司令室から指令が通達されていた。

 

 

『ヒロム、通信は聞いたな? タイプαは高町なのは君に任せ、転送装置へ向かえ。

 エースの機動力なら振り切れるはずだ』

 

「ッ、ですが」

 

『突然の事で戸惑うのは分かる。しかしそうする他ないのが現状だ。

 転送開始まであと6分、迷っている暇はない。行け! ヒロムッ!!』

 

「……了解ッ!」

 

 

 いきなり現れた見ず知らずの人間に状況を任せる事への抵抗感はある。

 その高町なのはなる人間の何もかもを知らないのだから当然だ。

 が、彼女以外に打開策を持たないというのなら、それに賭けるしかない。

 藁にも縋りたい現状だ。だからこそレッドバスターの判断は早かった。

 

 タイプαと取っ組み合っていたエースが脇を通り抜けるように動き、エネタワーへ向かう。

 同時にタイプβとの戦闘を追えていたGT-02も木に登るゴリラよろしく、アニマルモードでエネタワーによじ登り始めていた。

 敵の移動に反応して進行方向を変えるタイプαだが、それを邪魔するように魔法使いと仲間達が立ちはだかる。

 

 

「おっと、こっからの相手は俺達だ!」

 

 

 ────DORAGO TIME────

 

 

 ウィザードは強化形態、フレイムドラゴンへ変身し、右手にはドラゴタイマーが装着されていた。

 そのまま発動、ウィザードは4人へ分身する。

 ウォータードラゴン、ハリケーンドラゴン、ランドドラゴン、そして本体のフレイムドラゴンを合わせた4人のドラゴンスタイルが出現。

 と、それが初見のフォーゼが大層驚いた反応を示す。

 

 

「う、うおぉっ!? ウィザードが4つ子になった!?」

 

「4つ子ってお前……これも魔法だよ、魔法」

 

 

 そんなやり取りも早々にハリケーンドラゴンは上空へ、ウォータードラゴンは近隣で無事なビルの屋上へ跳び上がり、フレイムドラゴンとランドドラゴンはタイプαの足元へと移動する。

 

 

 ────BIND! Please────

 

 

 4人のウィザードは同時に同じ魔法を発動した。

 ハリケーンドラゴンとウォータードラゴンはそれぞれタイプαの腕を片方ずつ、フレイムドラゴンとランドドラゴンは両足首を掴むように魔法陣から鎖を放つ。

 フレイムドラゴンは普通の鎖、ウォータードラゴンは水の鎖、ハリケーンドラゴンは風の鎖、ランドドラゴンは岩の鎖と、それぞれのエレメントに沿った鎖がタイプαの自由を奪った。

 とはいえエースに対しても優位に立てるタイプαだ。

 その上、そもそもの図体が等身大の仮面ライダーとメガゾードでは違い過ぎるのもあり。

 

 

「うおあッ!?」

 

 

 一瞬動きを鈍らせたタイプαだったが、すぐさまエースの元へ向かおうと踏み出した瞬間、その余りのパワーに全ての鎖が引き千切られた。

 ドラゴンスタイルになって補強されたバインドの魔法はそう易々と砕けるものではない。

 それで4ヶ所を縛り上げておいたのに、これである。

 

 

「やっべぇ……! 仁藤! お前も……」

 

「みなまで言うな! やんなきゃいけない事くらい分かってるってーの!」

 

 ────Falco! Go!────

 

 ────Fa! Fa! Fa! Falco!────

 

 

 手伝え、と言いかけたウィザードを遮り、ビーストも行動を起こしていた。

 右手の指輪を『ファルコウィザードリング』に付け替えたビーストはそれを変身に使うのとは逆の、右側の窪みに押し込んだ。

 瞬間、魔法が発動。

 魔法陣を通り抜けたビーストの右肩にはハヤブサの頭部を模したマントが装着された。

 これは『ファルコマント』の魔法。

 ビーストにハヤブサのように飛行能力を与える魔法だ。

 

 

「やりすぎな攻撃じゃ周りごと全部吹っ飛んじまうかもしれねぇ……。

 だけど逆に言えば、やりすぎねぇくらいなら攻撃しても大丈夫って事だ!

 顔面に一発食らわせてやるぜ!」

 

 

 飛び上がり、ビーストは空を舞ってタイプαと相対した。

 身長差は何十mとあるが、飛んでいるビーストはタイプαの顔面と真正面に向き合っている。

 ビーストは右手に持っていたダイスサーベルの中央にあるダイス部分を回転させた。

 そしてサーベル右側面のライオンの口を模したソケットに右手の指輪を押し当て、回転を止めた。

 

 

 ────Four! Falco! Saber Strike!────

 

「ビミョー……だけど、むしろ加減しやすくていいぜ! おぉりゃぁッ!!」

 

 

 出目は4。

 ダイスサーベルの必殺技『セイバーストライク』は、発動時にビーストが纏っているマントに応じた動物の幻影を放ち、敵を切り裂く技だ。

 その際、ダイスの出目によって幻影の数が、即ち威力が変動する。

 6なら最強、1なら最弱。

 故に4は強い方ではあるが、威力としてはまあまあと言ったところ。

 しかし今回は過剰な攻撃ができないので、かえって好都合だった。

 勿論、高威力の6が出てしまったら少し外すつもりであったが。

 

 ダイスサーベルから放たれたハヤブサの幻影はタイプαの顔面、つまりメインカメラを重点的に襲った。

 視界が奪われ、慌てるような挙動で後退ってしまうタイプα

 無人で動くメガゾードとはいえ、センサーの1つがやられる事は大きなダメージだ。

 顔を狙ったのは得策と言えるだろう。

 

 

「おっし! ……っとと、おわぁッ!?」

 

 

 ガッツポーズをするビーストだが、ハヤブサを振り払おうとするタイプαの腕が危うく当たりかけてしまい、慌てて地上へ戻って来た。

 タイプα側としては当てる気が無い腕の動きだったが、その質量が人間大の戦士に直撃したらというのはあまり考えたくない話だ。

 地上に降り立ち、タイプαを見上げたながらビーストは安心したように息を吐いた。

 

 

「あっぶねー……ハエ叩きされそうだった気分だぜ」

 

 

 そんなビーストにバースとウィザードが駆け寄ってきた。

 ウィザードはまだ4人のままで、4人全員が集結している。

 

 

「悪くない狙いだ、仁藤。操真、今度は俺達で動きを止めるぞ」

 

「でもバインドじゃ止めれないし、どうするかな」

 

「いや、さっきの魔法でいい。

 あれは四肢を全て止めようとしたから力負けしたんだ。

 どこか1ヶ所に集中すれば、しばらく持たせられるだろう」

 

 

 言いつつ、バースは銀色のメダル、セルメダルを取り出して『バースドライバー』の左口に装填。

 続けて右側面のハンドルを回せば、ベルトからカポーンという小気味のいい音が響いた。

 

 

 ────Crane Arm────

 

 

 電子音声と共にバースの右腕に武装が装備された。

 バースはこのように、体の各部に武器を装着して戦う仮面ライダーだ。

 今装備したのは『クレーンアーム』。

 名前通り、クレーンの機能が備わった腕部ユニットだ。

 

 

「俺も同時だ。狙いは奴の右足。行くぞ、操真!」

 

「成程、足1本でも止められればいいわけだもんな」

 

「おっしゃ、今度は俺も一緒だッ!!」

 

 

 フォーゼの左腕は既にウインチモジュールが装着されており、どうやら2人がやろうとしている事は察してくれているようだ。

 

 そうして3人のライダー、合計6人は、それぞれの鎖やロープでタイプαの右足を縛り上げた。

 クレーンアームとウインチモジュールのロープが絡まり、各エレメントの鎖が右足をガチガチに縛り上げる。

 ようやくセイバーストライクのハヤブサを振り払ったタイプαは、今度は右足を取られてしまい自由に動けなくなってしまっていた。

 とはいえゴーバスターエースを振り払うほどの力。

 気を抜けば、幾ら6人のライダーでも一気に振り払われてしまうだろう。

 

 

 

 一方、この状況を任された高町なのは。

 彼女はタイプαから少し離れた位置の空中にてレイジングハートを構え、魔法陣を展開していた。

 今している事は、所謂『溜め』。

 自分の魔力を『砲撃』として放とうというのだ。

 

 この状況を打開する方法は、なのはの魔力をタイプαの魔力機関に叩きつけるというもの。

 しかしながらメガゾードの装甲はかなり頑強。

 それを貫き、原因となっている魔力機関になのはの魔力を届かせるには威力が必要だ。

 そして砲撃の弱点として、威力を上げようとすればするほどにチャージが必要になってしまうという点がある。

 故になのははチャージする事を余儀なくされているというのが現状だった。

 

 

(もう少し……晴人さん達も、必死に頑張ってくれてるんだ……)

 

 

 なのはが砲撃を放つ事に集中する時は、どうしても彼女自身が無防備になる隙ができる。

 その彼女を狙って攻撃を仕掛けてくる戦闘員や怪人も数体いた。

 上空のなのはを攻撃するのに空を飛ぶ必要はない。

 遠距離攻撃なりジャンプしてからの攻撃なりで届かせる事はできてしまう。

 それを察知したメテオやパワーダイザーといった数名の戦士がなのはのフォローに回っていた。

 ウィザード達もなのはの「動きを止めてほしい」という言葉を実行してくれている。

 突然現れた自分を信じ、それに賭けてくれているのだ。

 

 

(頑張らなきゃ。私にしかできない事が、あるんだから!)

 

 

 幼さを残したその顔は、幼さを貫くほどに凛々しい表情。

 砲撃の為、先端が尖った音叉のようになっている『シューティングモード』へ変形したレイジングハートを構え直し、なのはは少し距離の離れたタイプαを見据えた。

 彼女の砲撃はこの状況の打開策である。

 しかし外してしまっては元も子もない。だからウィザード達に足止めを頼んだのだ。

 

 チャージは終わった。後は放つタイミングを見据えるだけ。

 外すのは以ての外だが、タイプαにただ当たるだけでも意味がない。

 ちゃんと魔力機関に砲撃と魔力が届かなければ、足や腕に当たってしまうのはダメなのだ。

 タイプαのど真ん中、中枢に当てなければ。

 

 

(大丈夫、狙えてる。でも、撃ってから屈まれるだけでもダメ。慎重になりすぎるくらいで……)

 

 

 ウィザード達がタイプαの右足を固定してくれている事もあり、既に魔力機関がある部位をロックオンできている。

 何より砲撃主体の戦術を得意とするなのはにとって長距離攻撃は十八番だ。

 自信もある。だけど、それが驕りや慢心になってはいけない。

 

 

(あまり待ってられないけど、絶対にあると思うから……確実な一瞬が……!)

 

 

 右足に絡みつく鎖やロープを振りほどこうと暴れるタイプα。

 確実に動きを止めるなら四肢全てを縛り上げればいいのだが、如何せんそれをやろうとしたら力負けしてしまう。

 ウィザード達、特にロープを射出するユニットが体に装着されているバースとフォーゼは踏ん張りを効かせるのに相当必死だ。

 

 

「こうも体格差があると、流石に止めきれないな……!」

 

「負、け、る、か、よぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 バースは徐々に引き摺られており、フォーゼに至ってはロケットモジュールを右手に装備し、タイプαの進行方向とは逆にエンジンを噴射しているという全力も全力だ。

 魔法陣を介して鎖を操っている4人のウィザード引き摺られるという事こそないものの、敵のパワーは鎖を介して十分に感じ取っている。

 

 止めきれない。

 体格差があるとはいえ、分身したウィザードも勘定に入れて6人のライダーがいるのに。

 このままでは、と誰もが思う。その時だった。

 

 

「ダガー……スパイラル、チェーン!!」

 

 

 タイプαの頭上に光の鎖が輪を描いて出現し、そのまま降下。

 それは腕も含めて無理矢理タイプαの体を縛り上げた。

 抵抗する様子を見せるものの、さらにもう1つ同じように光の鎖が追加。

 鎖はタイプαの動きを完全に封じ込んでしまった。

 声の主、鎖を放った張本人の方へ思わず振り向くウィザード達。

 その戦士を、その名前をこの中で唯一把握していたフォーゼがその名を呼ぶ。

 

 

「剣二さん!」

 

「へっ、残ってて正解だったぜ……痛って……」

 

 

 ツインエッジゲキリュウケンをゲキリュウケンとマダンダガーに分離させ、それらを両の手に携えつつ、息を切らしながら立っていたのはリュウケンドー。

 その周囲を守るようにブレイブレオンと2号もそこにはいた。

 戦いの中、現状を把握したリュウケンドーはマダンダガーの力でメガゾードを止めて見せたのだ。

 

 

「ッ!!」

 

 

 その隙をなのはは見逃さない。

 レイジングハートを再度強く握りしめて、タイプαの中心をロックオン。

 まずは一発、魔力機関の正体を確かめるための一撃を放つ。

 それはタイプα内部の魔力機関にまで届き、その中枢にある宝石を見事に捉えた。

 そしてその正体は予想通りで、だからこそなのはは信じられなかった。

 

 

(やっぱり……でも、どうして……!? しかもこのナンバーって……!)

 

 

 エンター達の所有する『宝石』の事をなのははよく知っている。

 どういうものなのかも、どういう結末を迎えたのかも。

 故にこそ分からない。何故『ある筈の無いそれ』が『帰ってきて』しまったのか。

 

 

(分からない……分からないけど、やらなきゃいけない事は、分かってるッ!)

 

 

 しかし迷ってはいられない。

 それがどういうものなのかを理解しているからこそ、これをこのままにしておけない。

 なのはは放つ。本命の、宝石を封印する為の巨大な一撃を。

 

 

「ディバイィィン……バスターァァァッ!!」

 

 

 これが本命の一撃。

 チャージした魔力を一気に解き放つ、なのはの得意技にして必殺にもなりうる一撃。

 桜色の魔力砲撃、『ディバインバスター』が空を一直線に突き進み、身動きの取れないタイプαを飲み込んだ。

 それは、地上で戦う戦士達ですら目を見張るほどの勢いと威力。

 可愛らしい外見のなのはからは想像もできない程の一撃だった。

 

 

(……すげぇな、なのはちゃん……)

 

 

 初めてなのはと出会った時の戦いにおいて、ウィザード達の前でなのはは大火力の砲撃を見せなかった。

 だからウィザードも、そのタイプαを吹き飛ばしかねない程の砲撃に目を見張っていた。

 ただでさえなのはと初対面のフォーゼやバース、リュウケンドーも、まさかここまで激しい攻撃が飛ぶとは思っておらず、唖然としている様子である。

 

 ともあれ、なのはのディバインバスターは見事にタイプαへ直撃した。

 なのはの砲撃はタイプα内部の魔力機関にまで届き、その中枢にある宝石を見事に捉える。

 

 

「ジュエルシード、シリアル『Ⅱ』! 封印!」

 

『Sealing』

 

 

 開始されるのは魔力機関を構成する中枢、ジュエルシードの封印。

 レイジングハートのコールと共にそれが行われる。

 そうしてジュエルシードは無力化され、魔力のみで動いていたタイプαは心臓部を失った事となり、まもなくその動きを止めた。

 膝から崩れ落ちたタイプαに最早動く様子は無い。

 

 

『……魔力機関、完全に停止。魔力爆発の兆候も無し……! 凄い……!!』

 

 

 瀬戸山の報告と感嘆がタイプαの完全沈黙を肯定する。

 レイジングハートが大火力魔法を放った事で発生した余剰魔力を排出するのと同時に、フーッと息を吐いて胸を撫で下ろすなのは。

 何度かやってきた事とはいえ、物が物、事が事。緊張もしていたのだろう。

 

 

 

 タイプαはその活動を停止した。

 その事実を認識し、誰もが喜びを見せるよりも早く──────。

 

 

『ぐあぁぁぁぁぁぁぁッ!!?』

 

 

 エースとGT-02が、エネタワーから叩き落とされた。

 エネタワーによる転送開始まで、あと3分。

 

 

 

 

 時はなのはがディバインバスターを放つ少し前。

 エネタワーをよじ登り、転送装置の破壊か解除を目指すゴーバスターエースとGT-02の前に、それは現れた。

 エースとGT-02の2機がエネタワーに登る少し前に、特命部は転送反応をキャッチしていた。

 更なるメガゾード、しかし、今までのどのタイプでもないメガゾード。

 従来のメガゾードに比べて軽いわけでも重いわけでもなく、ただ単純に『詳細不明』のメガゾード。

 

 森下が咄嗟に名付けた『ε(イプシロン)』の名前。

 タイプδに次ぐ、新たな新型の襲来を意味していた。

 それを見たビートバスターは、先程感じていた『嫌な予感』の事を反芻してしまう。

 

 

(嫌な予感、当たっちまうとはな。新型……しかもあの形状、δとは違ってマジの新作かよ)

 

 

 この戦場に現れた未知なる機影、紅く、翼を持つ『メガゾード・タイプε』

 BC-04と同じ設計図から生まれた『モドキ』なタイプδとは違い、ヴァグラス完全オリジナルの新型だった。

 

 タイプεは右腕のレールガンを爪のようにも使い、接近戦も遠距離戦もこなせる機体。

 おまけに従来のメガゾードには存在しない肩より伸びた翼を広げ、高速の飛行を可能にする。

 そしてもう1つ、他のメガゾードとの相違点があった。

 その相違点が判明したのは、エネタワーを登り、無防備な状態のエースの裏側にタイプεが回り込んできた時だ。

 

 

『私のタワーから離れてください』

 

「ッ、エンターッ!?」

 

『アイツが乗ってやがんのか!?』

 

 

 そう、ニックの言葉通り、このメガゾードは有人。

 エンター自らが乗り込んで操縦しているのである。

 

 そうしてタイプεは右腕のレールガンからエネルギーを発射。

 エースとGT-02の2機を吹き飛ばし、海にまで転落させたというのが現状である。

 丁度その頃になのはのジュエルシード封印が完了。

 2機のバスターマシンを撃墜したエンターは白い魔法少女の方へ目線を配る。

 

 

(オーララ、『奴等が制御する事は無い』とのDr.ウォームの言葉でしたが……。

 大方、向こうにはあの宝石について詳しい存在がいる、という事なのですかね。

 ……本当に、何処までも厄介な方々です)

 

 

 町1つを吹き飛ばすほどのエネルギーを持った宝石を手に入れたというのに、今度はそれを律する事の出来る仲間が敵に加わってしまった。

 エンターとしては苦々しい話である。

 が、それはそれとして、エンターはエースとGT-02が落ちた海の方へ目線を戻した。

 

 

「浮かんできませんねぇ。これで終わりですか?」

 

 

 オープンチャンネルによる言葉。明確な挑発だった。

 実際、2機は全く浮かんで来ず、ヒロムもリュウジもニックもゴリサキも、応答は無かった。

 タイプαを止めた喜びも束の間、怪人軍団と戦う誰もがヒロム達の安否を気にする。

 さらに言えば、エネタワーによる転送までの時間も3分を切っていた。

 仮にエース達が行動不能なのであれば、ただちに次の一手を打つ必要がある程には時間的猶予は無いのだ。

 だからこそ誰もが焦っていた。

 

 ただ1人、天才エンジニア・陣マサトを除いて。

 

 

「おっし、J。バスターヘラクレスの残りエネトロンを全部そっちに託す。

 『アイツ等』を迎えに行ってやんな!」

 

『了解』

 

 

 バスターヘラクレス内の、戦闘を満足に行う事もできない程に僅かなエネトロンをビートバスターはSJ-05に託して分離した。

 残されたBC-04は一切の身動きが取れなくなるが、仮面の奥でニヤリと笑いながらビートバスターはSJ-05を見送る。

 

 攻撃はできないが移動くらいならできるようになったSJ-05は分離後、すぐにエンジンを噴かせてエースとGT-02が落下した海の上空にまで移動。

 到着すると同時に、ロープにくくられた持ち手のようなものを投下した。

 

 瞬間、『何か』が動き、水飛沫が舞う。

 

 

「おや……」

 

 

 あくまでもおどけたような態度ではあるが、エンターの内心には驚きがあった。

 海の中からせり上がってくる『何か』が、目を光らせていた。

 その『何か』は両手でSJ-05から投下された持ち手を握り、前進するSJ-05に牽引される形で海の中から姿を現した。

 

 赤、青、緑で構成されたその姿は何処かゴーバスターオーに似ていた。

 しかし頭部の形状や腕など、端的に言えば本来RH-03が合体すべき部分が全て緑のパーツで構成されていた。

 そこまで考えてエンターは気付く。

 新たなバスターマシン──FS-0Oは何処に行ったのか、と。

 

 

「『ゴーバスターケロオー』!」

 

 

 ビートバスターが高らかに宣言したそれこそがこの機体の名称。

 エースとGT-02が海に落ちた直後、FS-0Oもまた、それを追うように水中に潜り、そこで3機は合体を果たしていたのだ。

 

 

「元々フロッグは、他のマシンと合体できるように設計してあるんだよ!」

 

 

 動けないBC-04の中、頭の後ろで手を組んで悠々自適と言った感じのポーズ。

 初期型のバスターマシンといえどきっちりと合体できるように設計してあるのは流石と言ったところだろう。

 

 

「ま、お察しの通り昔の俺の仕事ね。てんっさいだろ?」

 

 

 尤も、自分で言わなければカッコいいのに、という感じではあるのだが。

 フォーゼのように「スゲェぜ!!」と素直に称賛する者もいれば、ウサダのように「自分で言わなきゃね」と呆れる者もいる中、ゴーバスターケロオーはSJ-05に牽引される形で水上スキーを続行。

 上空からタイプεのレールガンがケロオーを狙うものの、その全てを躱して水面を滑るように進んでいく。

 

 一方、レッドバスターとブルーバスターは操縦を続けつつも実は少し戸惑いがあった。

 FS-0Oに合体機構があるなど知らず、正直なところゴーバスターケロオーに突然合体した事に驚いている。

 恐らくはFS-0Oのエネたんがマサトの指示で強制合体という形を取ってくれたのだろうが、初めて乗る、想定していなかった機体に戸惑うなというのは無理な話だ。

 とはいえ、メインパイロットのレッドバスターは戸惑いつつも操縦の感覚を掴んでいく。

 

 

(やっぱり、基本はエースやゴーバスターオーと変わらない。これなら、行ける!)

 

 

 合体したバスターマシンの基本的な動作はレッドバスターに一任されている。

 そして彼は努力の人であると同時に、バスターマシンの操縦に関しては天才だ。

 一瞬で動作を把握したレッドバスターは機体の進路をエネタワーへ向けた。

 

 

「このままタワーに突っ込むッ!!」

 

「お、OK!!」

 

 

 ブルーバスターの声色からも戸惑いが感じられるが、それに構っている暇はない。

 牽引用のロープから手を離したケロオーが水飛沫と共に跳び上がり、巨体に似合わない身軽さで地上へと着地。

 同時に牽引を終了したSJ-05は元々微量だったエネトロンが底を付き、不時着気味に地上へと着陸した。

 

 

『急いでください! 転送開始まで、あと1分!!』

 

 

 特命部司令室の仲村からの焦燥に駆られた叫びがモーフィンブレスから聞こえる。

 最早一刻の猶予もなく、まともにエネタワーを登っているような時間は無い。

 ならば、と、エネタワーを見上げるケロオーはその両手を真下へ向けた。

 

 ケロオーの両腕はアームが取り付けられたスクリューになっている。

 そこから放たれる『エネたんスクリュー』は、名前こそ可愛らしいがメガゾードを撃破するほどの巨大な竜巻を発生させる代物だ。

 ケロオーはエネたんスクリューを地上に向けて放つ事で、その巨体を宙に浮かせる。

 まるでロケットのように、エネタワーの転送装置まで一直線に。

 

 

「させませんよ」

 

 

 しかし、当然エンターが黙ってはいない。

 上空で自由自在に動けるぶん、空での戦いはタイプεの方に分がある。

 一方でケロオーは上空での姿勢制御は出来ないし、エネトロンの残量自体も残り僅かだ。

 合体したバスターマシンのエネトロン残量は、合体前のバスターマシンが持っていたエネトロン残量の総計で決まる。

 エース、GT-02、FS-0Oは合体前からエネトロンの余裕はほぼなく、ケロオーにはもうエネたんスクリューを出せるだけのエネトロンも無い。

 転送開始まで、あと30秒

 

 瞬間、「どうする」という思考の迷いがレッドバスターに発生しかけたのと、ブルーバスターの声が響いたのは同時だった。

 

 

「ヒロム、分離だ! 俺のエネトロンを全部エースに託す!!」

 

「ッ! 分かりましたッ! エネたん、跳べッ!!」

 

『カエル使いが荒いです! でも、承知しました!』

 

 

 判断は一瞬。ケロオーは元の3機へ分離する。

 エネトロンを全て託したGT-02は身動き1つ取る事無く重力落下を果たすが、それを踏み台にしたFS-0Oは正しくカエルのように大きく跳び上がる。

 ただの一手で一気に転送装置へ迫る分離という手段。

 一瞬でもFS-0Oに気を取られるエンターだが、その一瞬の内に、エースが持てるエネトロンの全てを尽くしてブースターを吹かせ、空を舞う。

 転送開始まで、あと20秒。

 

 

「エンターァァァ!!」

 

『しまっ……!』

 

 

 残りエネトロン全てを消費してレゾリューションスラッシュの体勢に入るエースに対し、タイプεは一瞬遅れてレールガンで撃ち落とす事を試みた。

 エンターの判断が遅れた。レッドバスターの判断が早かった。

 ただそれだけの一瞬の差が、タイプεとエースの勝敗を分ける。

 転送開始まで、あと10秒。

 

 

「レゾリューションスラッシュッ!!」

 

 

 発射されたレールガン全てをブレードで弾き飛ばし、すれ違いざまの一閃。

 その一撃はタイプεの胴体を貫き、その身を2つに裂いていた。

 転送開始まで、あと5秒。

 

 残り5秒のカウントが始まると同時に、エネタワーの頂点が変形していく。

 転送の前準備。あとは膨大なエネトロンを一気に消費するだけ。

 エネトロンを失ったエースが地上へ重力落下を始める。

 エースの落下、カウントの終了、FS-0Oの口から放たれる『シタベロパンチ』による転送装置の破壊。

 

 その全てが、同時だった。

 

 

「転送は……!」

 

 

 落下の衝撃から回復したレッドバスターがエースのモニターで周囲を見やる。

 先程までの乱戦が嘘のような、不気味なほどの静寂だった。

 既に各戦士達によって数が減っていた怪人達は転送に巻き込まれまいと撤退。

 そして戦士達は誰もが、固唾を呑んでエネタワーを見上げていた。

 FS-0Oの着地と特命部・仲村からの通信は、ほぼ同時に。

 

 

『転送、失敗! 作戦成功です!!』

 

 

 誰が最初に叫んだかは分からない。多分、フォーゼ辺りだろうか。

 それを皮切りに静寂は打ち破られ、戦士達は各々に反応を見せる。

 豪快に喜ぶフォーゼ、心底ホッとする響、怪我でそれどころじゃないリュウケンドー等々。

 エネタワーの頂点部も、先程の変形が解除されて元の姿へ戻っていた。

 

 勝ちを拾えたこの勝負。守りきれたこの戦い。

 作戦終了の合図が、レッドバスターの号令で宣言された。

 

 

「シャットダウン、完了……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 全くもってギリギリの勝利だった。

 何せ最後の一撃の後にFS-0Oもエネトロンが尽きていたものだから、今回の戦いは全バスターマシンが行動不能に追い込まれたという状況なのだから。

 ロッククリムゾンにしてもダガーキーが間に合わなければ倒せなかったかもしれない。

 0課の早期合流などから始まる複数人の助っ人、ダンクーガの介入。

 敵だけでなく、こちら側にも多くの味方が来てくれた事が何よりも幸いしていた。

 

 戦いが終わって、まだ10分も経っていない。

 未だ戦士達は戦場だったこの場所にいた。

 

 

「……了解です。この場で待機します」

 

 

 モーフィンブレスによる通信を終えた、レッドバスターがニックと共にエースのコックピットから外へ出た。

 通信の概要は『全バスターマシンが動けないので補給用のエネトロンを輸送する。それまで戦闘区域だった地点は引き続き封鎖しておくので、その場で待機』というものだ。

 1台でも動ければ牽引するなりできるのだが、全てが動けないとなるとどうしようもない。

 巨体を運べそうな仮面ライダーか誰かに運んでもらうというのも検討したが、疲労困憊の彼等にそれをさせるのは酷だろうという判断に基づいている。

 

 

『やったな、ヒロム! 一時はどうなるかと思ったけど……』

 

「ああ。……被害はかなり出してしまったけど」

 

 

 メットのみを外して周囲を見やるヒロム。

 未だに煙の出ている建物があるし、中には完全に倒壊している建物もあった。

 ヒロムの表情は何処か苦々しげだった。

 被害ゼロの完全無欠の勝利など都合が良すぎる。

 しかし被害が無い方がいいのは当たり前なわけで、甚大とも言える被害が出た今回の戦いを手放しで喜べないでいた。

 だけど、相棒のニックはそんなヒロムの背中を軽く叩いて笑ってみせる。

 

 

『まあな、確かに酷ぇや。でも、終わっちまったわけじゃない。

 復興だってできるし、何より最悪の事態はヒロム達のお陰で避けられたんだ』

 

「ニック……」

 

『被害は無い方がいいし、満足いく結果じゃないかもしれない。

 でも、守れたものもあったはずだ。だから胸張っときな! ヒロム!』

 

 

 子供の頃から一緒のニックは、時に兄のようだとヒロムは感じている。

 自分を励ましてくれる彼は、正に兄のようだった。

 相棒であり、戦友であり、大切な家族と言える自身のバディロイド。

 クールなヒロムとは対照的に明るいニックに対し、ヒロムはフッと微笑んだ。

 

 

「ああ。……そうだな!」

 

 

 少なくとも今の勝利を喜べる程度には、ヒロムはニックに救われていた。

 

 さて、ヒロムとニックは瓦礫やひび割れたアスファルトを歩き、ある場所へと向かっていた。

 この戦いにおいて来てくれた助っ人の1人。ダンクーガの元へ。

 

 

『ヒロム、何で此処に?』

 

「まあ……色々気になったからな。三度も一緒に戦ったから、見ず知らずとも言えないし」

 

『そっかぁ、そうだな。……ダンクーガ、何が目的なんだろうな……』

 

「……さぁな」

 

 

 鳥のような、『紅いダンクーガ』と仮に呼称されている謎の機体に行動不能にされたそれは、未だに合体状態のままで地面に伏していた。

 そこに数多の戦場をたった1機で駆け抜ける脅威の面影はない。

 

 

(何でダンクーガはヴァグラスとの戦いで味方をしてくれる?

 そもそもダンクーガって何なんだ? あの紅い鳥のような機体も……)

 

 

 物言わぬダンクーガを見つめ、ヒロムの頭に様々な考えが過る。

 ダンクーガにはあまりにも謎が多すぎた。

 しかもその謎は何1つ解明されていないのに、さらに謎が増える始末。

 3回も共に戦った以上、最早無関係とも言えなくなってきているその存在。

 と、そこにモーフィンブレスへ再度通信が入る。特命部からだった。

 

 

「はい、ヒロムです」

 

『ヒロム。ダンクーガの近くにいるな?』

 

「え、はい。いますけど」

 

 

 声の主は司令官の黒木だった。

 ヒロムの位置を把握しているのは、まだ辛うじて生きているカメラでモニタリングしているのだろう。

 ともあれ正直に答えるヒロムに対し、黒木は続けた。

 

 

『可能ならば、パイロット達の状態を確認してほしい。

 生命反応は顕在だが、重傷を負っている可能性もある』

 

「了解」

 

『それから、もう1つ。ついでと言っては何だが……』

 

「? はい」

 

「……先程、『ダンクーガの関係者』を名乗るものから通信があった」

 

 

 静かに、しかし確実に目を見開いて驚きを隠せないヒロム。

 隣にいるニックも身振り手振り多めに、動揺を一切隠さないでいる。

 

 

『おいおいおい! ダンクーガの関係者って!?』

 

「多分、『上司』だろうな。上からの司令がどうとか言っていたし」

 

『その通りだ、一応の責任者だと語っていた。その人物曰く、ダンクーガを──────」

 

 

 次に黒木の口から語られた言葉は、またもヒロムとニックの動揺を誘うには十分すぎるものだった。

 

 

 

 

 

 一方、ヒロムとニックがいるのとはまた別の場所。

 ノイズ出現という事で姿を現していた雪音クリスはさっさとこの場から離れようとしていたのだが。

 

 

「よっ! クリス!!」

 

「…………」

 

 

 目敏くフォーゼに見つかっていた。

 数度に及ぶお節介にクリスも諦めの境地に入ったのか、最早怒号を飛ばすでもなく深く溜息を付くばかりだった。

 

 

「助けに来てくれたんだろ! サンキュー!!」

 

「ンなわけ……」

 

 

 ねぇだろ、と呆れ100%で反論しようとするクリス。

 ところがその言葉を言いきる前に、クリスの元へ駆けよってくる影がまた1人。

 

 

「あ! やっぱりあの時の!!」

 

「あぁ? ……ゲッ」

 

 

 さも知り合いのような言葉を発する戦士の1人に訝し気な目をくれてやるが、数秒もしない内にクリスはその戦士を、その仮面ライダーの事を思い出した。

 ある時、自分をお節介にも介抱したアイツである、と。

 上下3色の戦士、仮面ライダーオーズだ。

 

 

「元気だった?」

 

「ん? 映司先輩もクリスと知り合いなんスか?」

 

「うん、ちょっとね。えっと、クリスちゃんって言うんだ、君」

 

「あ? 何だよクリス、お前映司先輩に名前言ってなかったのか?」

 

「ンなのアタシの勝手だ。ってかアタシを巻き込むんじゃねぇ!」

 

 

 話を勝手にすいすいと進めていくフォーゼとオーズ。

 心底迷惑そうな表情で苛立ちを隠さずに文句を飛ばすクリス。

 そしてそんなクリスの感情を弄ぶかのように、さらにそこに1人が加わった。

 

 

「お、なーんか見覚えあると思ったら。まさかこんなとこで会うとはね」

 

「……は? 誰だお前」

 

「ん? あ、そっか。こっちの姿を見せるのって初めてか。

 俺だよ、おーれ。一緒にドーナツ食べたり、迷子の子を届けたりしたじゃん?」

 

「……テメェ……! まさかあの時の、胡散臭い魔法使い……!!」

 

「いや、酷くない?」

 

 

 クリスの取り巻きに増えたのは仮面ライダーウィザード。

 いきなり胡散臭い扱いされた事に異議を申すウィザードに対し、クリスの目線は肩を竦める宝石の戦士を睨み付けるように見ていた。

 というかいつの間にか、クリスは前後左右4方向のうち、3方向を仮面ライダーに塞がれている状態になっている。

 

 

「クーリスちゃーん!!」

 

「ッてぇな! 何を飛びついてきてやがる馬鹿が!!」

 

「アイタッ!!」

 

 

 そして最後の1ヶ所、現状のクリスの右側から立花響が満面の笑みで飛びついて思いっきり抱き付いた。

 結局その頭を叩かれて突き放されるのだが、響は頭を押さえていたがりつつも笑顔を崩さない。

 

 

「ありがとね、クリスちゃん!」

 

「だから! お前等の為に来たわけじゃねぇって何度言やぁ分かるんだ! どいつもこいつも!!」

 

 

 呆れの境地にまで達していたクリスの感情が一週回ったのか、いつの間にか再び怒りに戻って来ていた。

 さらにそこにもう1人。

 

 

「響ちゃん! あ、クリスちゃんも!!」

 

「あ、ヨーコちゃん!」

 

「だあぁぁぁぁぁ! これ以上増えんなッ!!」

 

 

 最初のフォーゼへの呆れかえった態度は何処へやら。

 キャパオーバーとでも言うべきか、遂に完全に囲まれたクリスは吼えた。

 何でどいつもこいつもアタシに構うのか、という意思を籠めた心の底からの叫び。

 

 そんなてんてこ舞いなクリスと彼女を振り回す彼等彼女等を遠巻きに見つめる2人がいた。

 アルティメットDにやられた傷がそのままで満足に動けず、疲労困憊の士と翔太郎だ。

 翔太郎はユウスケに、士は夏海にそれぞれ肩を貸してもらい、辛うじて立っている状態である。

 特に士は吸血マンモスに血を抜かれた事もあり、より辛そうだ。

 

 

「ははっ、後輩達は雪音クリスちゃんにご執心みたいだぜ? 士」

 

「フン、どいつもこいつも物好きだな……」

 

 

 先輩2人の言葉は呆れのようにも聞こえるが、その口角は上がっていた。

 後輩達の行動を理解はしているという証拠だろう。

 結局、囲まれたクリスは唯一空いていた上に向かって大きくジャンプし、その場から脱出。

 そのまま何処へともなく去って行ってしまい、その場の誰もが遠くなっていく彼女の姿を見送る事になったのだった。

 

 そしてまた一方、要件は無くなったとばかりに去ろうとする者がまた1人。

 謎の魔弾戦士、リュウジンオー。

 そこに声をかけて引き留めたのは、変身を解いてボロボロの姿が露わになった剣二に肩を貸す、仮面ライダー2号だった。

 

 

「よう」

 

「…………」

 

「お前は、こいつ等の仲間じゃないのか?」

 

「馬鹿な事、言うなよ……。だぁれが、こんな奴……!」

 

「ああ。俺もこいつ等と馴れ合う気はない」

 

 

 剣二の言葉に賛同するリュウジンオーだが、それはお互いに拒絶の意志。

 やれやれと息を吐きつつ、2号は両者を見やる。

 一触即発。少なくともすぐにでも相容れるようなビジョンは全く浮かばない。

 そういうレベルの拒絶が見て取れた。

 そんな3人の元へ割って入る者が1人、シンフォギア装者の風鳴翼だった。

 

 

「待ってください」

 

「…………」

 

「目的がどうであれ、貴方もまた奴等と敵対している。

 ならば、私達がいがみ合う理由は無い筈です」

 

「何が言いたい」

 

「手を組みませんか。私達と」

 

 

 翼の突然の提案。その眼差しは真剣そのものだ。

 しかし。それに剣二が食ってかかる。

 

 

「待てよ翼……! 何もこんな奴……!!」

 

「落ち着いてください剣二さん。敵対する必要が無いのなら、その方がいい筈です。

 それに、貴方も魔弾戦士。ならば……」

 

 

 現状、敵はどんどん強くなり、複数の組織が手を組んだ事で戦闘の規模自体も大きくなっている。

 グレートゴーバスター、FS-0O、サンダーキー、マダンダガー、そして仮面ライダーを中心とする多くの協力者。

 こちら側も強くなってきてはいるが、それでも今回の戦いは辛勝と呼べるほどにギリギリだった。

 ならば1人でも仲間はいてくれた方がいい。

 より確実に世界を守り、より確実に勝つために。

 

 

「くだらん」

 

 

 しかし、リュウジンオーはその言葉を一笑に伏した。

 

 

「言った筈だ、馴れ合うつもりは無い。それに、俺はS.H.O.Tが……」

 

 

 無感情無機質な、本当にどうでもいいのだと感じさせる平坦な声色。

 しかしS.H.O.Tの名前を出した時に、ほんの少しだけ彼の言葉に感情が乗ったように感じたのは翼の気のせいだろうか。

 

 

「……S.H.O.Tが?」

 

「……いずれ分かる」

 

 

 それきりリュウジンオーは翼達の方を向く事は一度もなく、その正体も現さぬままにこの場を離脱してしまった。

 何なんだよ、と吐き捨てる剣二の顔は険しい。

 一方で、翼の顔は何処か引っ掛かりを覚えたように疑問を抱えた表情だった。

 

 

(S.H.O.T……何故、S.H.O.T『だけ』を……)

 

 

 翼達の組織は混成部隊だ。

 組織の一部としてS.H.O.Tは加わっているが、それだけである。

 にもかかわらず、リュウジンオーはS.H.O.T『のみ』に何か含みがあるかのような言葉を残していったのだ。

 彼が魔弾戦士だからなのか、それともS.H.O.Tそのものと、あるいはS.H.O.Tの誰かと何かがあったのか。

 彼の正体の手掛かりになりそうな言葉ではあったが、翼にはそれが何を意味するのかは分からなかった。

 

 

 

 

 

 多くの助っ人が来てくれた中で、明確な味方というわけではないクリスやリュウジンオーは撤退。

 そんなわけでこの場には、明確に味方と定義できるメンバーのみが残っていた。

 数名の仮面ライダー、及びパワーダイザー。

 ゴーバスターズとリュウケンドー、シンフォギア装者の2人、そして高町なのは。

 変身をしているメンバーはその変身を解除。

 パワーダイザーはエネルギー残量と操縦者である隼の体力の事もあり、既に帰投済みだ。

 

 そんな中、唯一変身を解いていない仮面ライダー2号の元に全員が集まっていた。

 2号は重傷で動けない剣二をヒロムの肩に預けると、愛車である新サイクロン号へと跨り、その場の全員をぐるりと見渡した。

 

 

「凄いな、お前ら!」

 

 

 そして開口一番、後輩を褒め称える言葉を口にした。

 声色も仮面の奥の様子がまざまざと分かるのではないか、と思えるくらいの明るい音。

 突然の称賛にキョトンとした表情を見せる一同。

 そんな反応を余所に、2号は自分の想いを並べていく。

 

 

「ホント言うとな、俺を頼るんじゃないかって思ってたんだ。

 ロッククリムゾンとまともに戦えてたのは俺だけだし、お前等だって万全じゃなかった。

 だから正直、奴の相手は俺がしないとって思ってたんだよ」

 

 

 2号の自信は驕りではなく、これまでの戦いで積んできた経験による確かなものだ。

 実際、2号のパワーでなければまともに戦えていなかったのは事実。

 しかし彼等はそんな2号の予想を上回って見せたのだ。

 

 

「でも、リュウケンドー……だったよな? お前はロッククリムゾンを倒した。

 他の連中だって、俺の手なんか借りなくても戦いを切り抜けて見せた。

 こんな頼もしい奴等がこんだけいるんだ。スゲェと思うぜ、俺は」

 

「いや……俺の力じゃねぇ。不動さんがこの鍵を届けてくれたからだ。

 ロッククリムゾンを倒したのだって、マダンダガーがスゲェ力を持ってたから……」

 

 

 剣二の言葉は、彼らしくなく弱気な文面だった。

 勝利は事実だ。

 だが、鍵の力に頼り切ってしまった事も、また1つの事実。

 マダンダガーが強力だった事も、それを使う為に銃四郎に無理をさせた事も。

 今回の戦いで自分は鍵を使っただけだと、彼なりに反省していた。

 

 

「まあな、武器に『頼り切る』ってのは褒められたもんじゃない。

 だけどそれを『使いこなす』なら、話は別だ。

 それに自分のそういう弱さを自覚してるなら、きっとお前は強くなれる」

 

 

 2号は剣二の言葉を肯定した上で、彼の強さも肯定する。

 そして剣二に肩を貸しているヒロムの脳裏に、以前マサトからかけられた言葉が甦った。

 

 ──────『強さってのは、弱さを知る事だ』。

 

 家族の幻影を見せつけられて、自分の脆さを突きつけられたヒロム。

 そのウィークポイントを自覚したからこそ、ヒロムは1つ強くなったのだとマサトは語った。

 そんな経験があるからこそ、ヒロムには剣二の成長への確信があった。

 剣二もヒロムと同じだったから。

 ジャークムーンとの戦いで見せた心の弱さ。

 ロッククリムゾンとの戦いで感じた己の実力不足。

 しかしそれらを乗り越え、その両方を剣二は打倒して見せたのだから。

 自分の経験と剣二の成長を想うヒロムはフッと笑うが、剣二はそれに怪訝そうな顔を向けた。

 

 

「何だよ、急に笑いやがって……」

 

「いや、『お前も成長したんだな』と思っただけだ」

 

「んだよそれ、俺がお前より未熟みたいに」

 

「違うのか?」

 

「ッの野郎……怪我治ったらギャフンと言わせてやるぜ……」

 

「模擬戦くらいなら、いつでも付き合ってやるさ」

 

 

 笑み混じりの2人のやり取りを見て、2号も思わず仮面の奥で笑みを零した。

 そしておもむろに自分のかつてを、未熟だった頃の自分を語り始めた。

 

 

「未熟云々だったら、俺も昔は結構だったぜ。

 怪人にコテンパンにやられて、怖気づいちまった事があるんだ」

 

「アンタが……?」

 

「情けない話で恥ずかしいんだけどな。俺だって未熟な時はあったし、きっと今もそうさ。

 だけど、そんな時に檄を飛ばしてくれる人や、特訓に付き合ってくれる仲間もいた」

 

 

 2号の昔話は、まだかつて仮面ライダーが1号と2号しかいなかった頃の話。

 彼も負ける事があった。怖気づく事があった。

 その度に、『恩師』から叱咤激励を受けた。

 そして奮起した2号の特訓に付き合ってくれる『友』がいた。

 今の2号はまるで、自分も同じなのだと剣二へ論しているようでもあった。

 

 

「お前等もそうだった、って事なんだろうな。

 良い大人や良い師匠にも恵まれてるみたいだし、な?」

 

 

 言いながら、彼の目線は剣二とヒロムから響の方にも向いた。

 以前の戦いで彼女は言った。「良い師匠を2人も持った」と。

 同時に、彼女達の属する組織の『大人』達がどんな人間なのかも知った。

 

 彼等彼女等は本人達が自覚している通り、まだまだ未熟だ。

 だが、それを自覚している。

 そしてそれを支える大人や師匠がいる。

 だからこそ2号は笑っているのだ。

 

 

「はい!!」

 

「……へっ、おう! あ、イッテテ……」

 

「大声出すからだ」

 

 

 元気よく返事を返す響。

 うっかり気合十分な声を張ってしまったせいで傷に響いた剣二と、それを諌めるヒロム。

 2号は剣二に「無理すんなよ」と声をかけた後、再び全員へ言葉を向ける。

 

 

「追ってきたロッククリムゾンも倒れたし、俺はまた別の国に行く。

 ジャマンガなり財団Xなり、ここ以外でもやらなきゃいけない事は山ほどあるからな。

 これからの平和、頼んだぜ。後輩達」

 

 

 それだけ言うと2号は新サイクロン号を発進させ、みるみるうちに遠くへ、何処かへとその姿を消したのだった。

 赤いマフラーの靡くその姿を、大きな先輩の背中を見つめる後輩達。

 

 これからの平和。

 

 きっとそれは、とても重いものだ。

 1号から連なる仮面ライダーが、多くの人間達が守ってきたもの。

 今の自分達が守ろうとしているものであり、守らなければいけないもの。

 それは世界全体の平和かもしれないし、響が守ると誓った何てことの無い日常かもしれない。

 1つだけ確かなのは、どちらであれ、それを脅かす存在がいるという事。

 2号の言葉がどうであれ彼等彼女等のやる事は変わらないだろう。

 剣二は肩を貸してくれているヒロムに、顔は向けずに言葉をかける。

 

 

「重ェなぁ……」

 

「ああ。だけど、元々そのつもりだ」

 

「へっ、違いねぇ」

 

 

 決意は変わらない。

 ヒロムの13年前を取り戻すという決意も、これ以上誰も不幸にしないという決意も。

 剣二の「俺はヒーローだ」という決意も、町を守りたいという決意も。

 他の皆にもそれぞれの決意があって、守りたいものがある。

 世界なのか、町なのか、見知らぬ誰かなのか、友人なのか、希望なのか、日常なのか。

 全員がその決意をもう一度握り締めて、2号の背中を見送ったのだった。




────次回予告────
此処に集った戦士達は、1つに結集して互い互いを認め合う。
出会いと再会が交錯し、これまでの邂逅も回想される。
けれど傍観するしかない者もいて、その心中は如何ばかり。

EPISODE 69 及び EPISODE 70 総てが集まり、編纂される

定義するには名が必要。
彼等を表すその名前こそ、あらゆる悪への反撃の狼煙。



※今回の次回予告は69、70話双方の予告になります。

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