スーパーヒーロー作戦CS   作:ライフォギア

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第66話 敵と味方と第3勢力

 エネタワー周辺に現れる巨大兵器、ジェノサイドロン。

 ジェノサイドロンよりも小型ではあるものの、間違いなく兵器であるウォーロイド。

 スチームロイドの煙に影響されないそれらは、ゴーバスターズがバスターマシンを使えない中で非常に厄介な存在だ。

 

 現れたジェノサイドロンは地上を走行する空母、そのまま地上空母型と言われるタイプ。

 転送されて地上に降り立ったそれは、まるで立ち上がるかのような変形を始める。

 四角い空母が変形していき、両腕が生えた蛇のような姿へ変わった。

 それでいて顔に当たる部分は上顎からは牙が生え、下顎が無く、髑髏のような形の顔に。

 ジェノサイドロンの『グラップルモード』。

 これはジェノサイドロンが戦闘に特化した時の姿である。

 

 

(マズイか……!)

 

 

 スチームロイドと相対するレッドバスターは焦る。

 早くスチームロイドを何とかしなければならないが、スチームロイドは強かった。

 メタロイドというのは基本的に1個体でそれなりに強いものだ。

 しかも戦う中で分かったが、スチームロイドは今まで戦ってきたメタロイドの中でも上位に入るほどに強い。

 攻撃自体は効いてはいるがタフだし、攻撃も大柄な見た目通り、一撃が重い。

 戦闘員の相手をしているブルーバスターとイエローバスター、そして怪人を倒してこちらに参戦してくれたクウガがいるとはいえ、1対1に持ち込めても厳しいのが現状だ。

 

 と、此処でスチームロイドに異変が起きる。

 

 

「んお? チッ、水が切れたか!」

 

 

 スチームロイドが煙突から常時噴出していた煙が出なくなった。

 スチームロイドは水を動力源に、メガゾードの特殊金属を錆びさせる煙を放出する。

 当然、エネルギー源である水が切れれば煙は止まり、その度にバグラーを使って背中の給水口に水を汲んでもらわねばならない。

 そして、それを見たレッドバスターに閃きが過る。

 

 

(……そうかッ!)

 

 

 レッドバスターはスチームロイドがバグラーに水を汲んでくるように指示をする一瞬を付いて、高速移動に入った。

 すぐに戦闘を再開するスチームロイドだが、流石にその高速移動についていけない。

 スチームロイドの目前で停止したかと思えば、すぐにまた遠くへ走り去り、またも近づいて停止。

 まるでおちょくるかのようなその行動にスチームロイドは苛立ちを隠せない。

 

 

「っのぉ、舐めるな! そこだァ!!」

 

 

 が、スチームロイドはレッドバスターの足音と今までの動きから簡単な予測を立て、右腕のベルトコンベアをその方向へ振るった。

 何とそのスイングは、高速移動中のレッドバスターへ直撃してしまう。

 振るわれた大きな一撃が胴体へ直撃し、後方へ飛ばされてしまうレッドバスター。

 彼は地面を転がり、胴体に走る痛みにやや苦しんでいた。

 

 レディゴールドのように同じ速度で動ける敵にならともかく、それをしない相手に高速移動している状態を捉えられたのはレッドバスターも初めてだ。

 スチームロイドの性能の高さを物語っていると言ってもいい。

 

 

「がッ!!?」

 

「ヒュー! オラ、今の内だバグラー共! 水だ水だァ!!」

 

 

 この隙にと、バグラーに水を催促するスチームロイド。

 何とか阻止しようとするブルーバスター達の行く手を阻むように、水を汲む以外の戦闘員達が邪魔をする。

 そうでなくとも捌き切れない戦闘員の数だ。水の補給は免れなかった。

 

 

「フゥゥゥゥゥ! おっしゃあ、来たぜ来たぜぇぇぇ!!」

 

 

 テンション高く、水が溜まってエネルギーが満ちるのを感じたスチームロイド。

 彼の煙さえ絶やさなければ、巨大戦力はジェノサイドロンのあるヴァグラスの1強となる。

 気合十分にスチームロイドは、頭と肩にある3つの煙突から再び錆びる煙を────。

 

 

 ──────出せなかった。

 

 

「うおっ、何だ何だ!?」

 

 

 自身の不調に自分が一番驚いていた。

 煙が出ない。そればかりか、煙突部分に熱がこもっていくような感覚すらしていた。

 その熱はどんどん高まり、そして最終的には。

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉッ!!? お、俺の煙突がァァッ!?」

 

 

 煙突は何かが溜まったかのように膨張し、破裂。

 スチームロイドの3つの煙突は全て破損し、最早煙を噴射できるような状態ではなくなってしまった。

 と、それを見ていたレッドバスターが痛みなど嘘だったかのように起き上がる。

 何をした、と憎々しい目線を送るスチームロイドに対し、彼は仮面の中で口角を挙げながら答えた。

 

 

「ピッタリだったな」

 

 

 右手に持った小石を見せつけるレッドバスター。

 彼が何をしたのかは簡単だ。

 スチームロイドに超高速で近づき、気付かれないように3つの煙突全てに小石を幾らか投入して、詰まらせたのだ。

 結果、出る事の出来なくなった煙は煙突の中に溜まり、煙突内部で溜まりに溜まった煙が、空気の入りすぎた風船のように破裂した。

 煙を出している最中にやってもすぐに異常に気付かれるだろうが、煙が出ていない時にやってしまえば煙を出そうとするまで気付かない。

 そして、煙を出そうとして異常に気付いた時には煙突が破裂して終わり、という事だ。

 

 

「て、めぇぇぇ! よくも俺の商売道具を!!」

 

 

 怒り心頭、地団駄を踏むスチームロイド。

 今回の目的はあくまでも『バスターマシン発進の為に煙を止める事』である。

 それをするのにスチームロイドの撃破は関係ない。

 最終的に撃破はしなくてはならないが、まずは煙をどんな形でも止めてしまえばいいのだ。

 とはいえ周辺から煙が完全に消え去るまで時間は少しかかる。

 今すぐにバスターマシンを、というわけには行かないのが辛いところだ。

 

 スチームロイドを煽るように持っていた小石を放り、代わりにレッドバスターはソウガンブレードを手にした。

 錆びる煙の元が消えた今、後は滞留している煙さえ消えてくれればFS-0Oが使える。

 バディロイドの錆の除去が完了すればそちらもだ。

 

 そのタイミングで動く1人の戦士がいた。

 戦闘員を相手に奮戦していた仮面ライダーフォーゼだ。

 彼の元には、司令塔である賢吾からレーダーモジュールを通じて指示が届いていた。

 

 

『メタロイドの煙が止まったと特命部から報告があった。

 あとは大気中の煙を消せばバスターマシンが出せる。だから弦太朗』

 

「えーっと、大気は空気で……『36番』! 合ってるか!?」

 

『フッ、その通りだ』

 

「おっしッ!」

 

 

 大気中の煙を消せばいいという事は、大気や空気に干渉できるスイッチを使えばいいという事。

 弦太朗は馬鹿だが、一度聞けば自分でスイッチを応用できる程度にはアドリブが効く男だ。

 だからなのか、自分が使うべきスイッチを判断し、スカイブルーの色をした『36番』のスイッチを三角のソケットに差し込んだ。

 

 

 ────AERO────

 

 ────AERO ON────

 

 

 引き金のようなスイッチを押すと、左足にモジュールが展開する。

 使用したのは『エアロスイッチ』。

 スイッチと同じスカイブルーの、掃除機のような装置が左足に装着された。

 続いてフォーゼはロケットスイッチを起動させた。

 

 

 ────ROCKET ON────

 

 

 右腕に現れたロケットモジュールでフォーゼは飛翔。

 そして次の瞬間、フォーゼは謎の挙動に打って出た。

 ロケットモジュールを用いて、でたらめな機動を描き出したのだ。

 誰を追うわけでもなく、何か目的があるわけでもなく、ただ戦場全体の上空を掻き回す様な軌道で。

 

 

「どんどん行くぜぇぇぇぇ!!」

 

 

 当然意味もなくやっているわけではない。

 フォーゼはロケットモジュールと同時にエアロモジュールも動かしていた。

 エアロモジュールは周囲の空気を吸い込み、それを圧縮して放つ事ができる。

 つまり空気を吸ったり吐いたりできるモジュールなのだ。

 フォーゼは戦場全体を忙しなく飛び回りながら、エアロモジュールで空気を吸い込み続けていた。

 その行動の結果に誰よりも早く気付いたのは、特命部の森下だった。

 

 

『大気中の煙の濃度が急速に減少! 戦闘領域内でのバスターマシンの活動、いけます!』

 

 

 ゴーバスターズへ通信する森下の目には、大気中に錆の煙がどれだけの濃度で存在しているかを示すモニターがある。

 モニターは間違いなくその濃度が下がっている事を示していた。

 

 フォーゼの、延いては指示を出した賢吾の狙いはそこだ。

 空気を吸い込むエアロモジュールを使う事で、一緒に錆の煙まで吸い込む。

 メガゾードと同素材の特殊金属はフォーゼに用いられていないので、どんなに吸い込もうが無害。

 発生源が断たれた錆の煙はしばらく待てば自然に消えていくだろう。

 だが、のんびり待っている余裕はなく、手立てがあるなら待つ必要もない。

 だから賢吾はフォーゼを動かしたのだ。

 

 飛び回っていたフォーゼは戦場近くの海に接近し、エアロモジュールを左足ごと水面に入れて、溜まった空気を放出した。

 特命部の分析で、水の中では錆の煙の効果は半減すると判明している。

 そして煙自体は特殊金属以外には無害。水の中に解き放つのは正解だ。

 

 

「う、おぉぉぉとッ!?」

 

 

 と、大量に溜めた空気を一気に放出した影響で、空気が思いっきりフォーゼを上空に押し上げてしまった。

 海面から遥か高空まで、ロケットモジュールは一切使っていないのに打ち上げられるフォーゼ。

 エアロスイッチを切り、ロケットモジュールで飛ぶ方向へシフト。

 そんな彼は上空から戦場全体を見渡した。

 

 

「……ッ!?」

 

 

 どのライダーにも言えるがフォーゼの視界は人間の比ではない。

 そんな彼は戦場のある一点を見た瞬間、ロケットモジュールで一気にその場所へ向かった。

 ウォーロイドや巨大なジェノサイドロンが現れてはいるが、それらには怪人を倒し手の空いた響達やメテオ達が応戦している。

 そんな中にいつの間にか混じっているクリスはちょっと気になるが、そんな場合じゃない場所が戦場に1つあったのだ。

 

 フォーゼが見たもの。

 それは、『アルティメットDに叩きのめされるディケイドとW』だった。

 

 

 

 

 

 地べたにうつ伏せに転がるディケイドとW。

 対し、アルティメットDは悠々と地面を踏みしめていた。

 戦いを見つめるだけで手を出さないキバ男爵は、黙っていた口を開く。

 

 

「どうした、ライダー。そんなものか」

 

 

 テンプレートな煽りだ。

 だが嘲笑にも似たその言葉は、今のディケイドとWには痛い程刺さる。

 アルティメットDは以前にも戦った事のある相手。

 そしてこの2人で打倒した事のある相手だ。

 しかし今回は倒すどころか、攻撃が通っているかすら怪しいという状態だった。

 

 

(何だコイツ……別物もいいとこだぞ!?)

 

 

 立ち上がりながらアルティメットDを睨み付けつつも、翔太郎の心中は穏やかではない。

 以前戦ったアルティメットDも確かに強かったが、それを考えても明らかにレベルが違う。

 前回の戦いを『苦戦』と称するなら、今回は間違いなく『圧倒』されている程に。

 

 

『以前と同じではないと警戒していたつもり、何だけどね……』

 

 

 Wの右目が点滅してフィリップが呟く。

 闘志は失われていないが、流石に声色が少し苦々しげだ。

 キバ男爵はそれを鼻で笑うと、淡々とした口調で語りだす。

 

 

「当然だ。このアルティメットDには相当の強化改造を施している。

 並の怪人ならば耐えられるものではない、複数回に及ぶ強化改造をな」

 

 

 語られるのはアルティメットDの異常な強さの理由。

 その語りを邪魔しないようにアルティメットD本人はピタリと大人しくなっていた。

 ただ、威嚇するかのような奇妙で不快な唸り声を絶やす事は無いが。

 

 

「アルティメットDは元々、ドーパントとネオ生命体の融合によって誕生した怪人。

 元となったドーパントのメモリは『ダミー』。コピーを得意とする能力だったな?」

 

「よく知ってるじゃねぇか……」

 

 

 翔太郎の脳裏に浮かぶのは、かつて解決した『死人還り事件』。

 死人が甦るというホラー染みた事件だったが、蓋をあければ『ダミードーパントが死んだ人間に化けていた』というものだった。

 尤も、ダミードーパントは記憶や能力まで完全に再現する為、相当に厄介なドーパント出会った事も確かなのだが。

 ダミードーパントの事を前置きしつつ、キバ男爵は尚も語る。

 

 

「ダミードーパントはあらゆる姿への変身能力。

 転じて、『どんな姿になっても耐えられる体』を持っていた。

 ネオ生命体はあらゆるものを取り込み、変質する特性。

 こちらも『何を取り込んでも崩壊しない体』を持っていた。

 そして両者の融合体であるアルティメットDはその特性を引き継いでいる」

 

 

 手に持っている槍でアルティメットDを指し示したキバ男爵は声を荒げるでもなく、冷静な声色で語る。

 

 

「どんな姿になっても朽ち果てない究極の肉体を持っていたこいつを、我々は蘇らせた。

 元々アルティメットDを支配していた、厄介なネオ生命体の人格だけは復元せずにな。

 我々は強化改造をこいつに施した。

 通常の怪人なら幾度もの負荷に耐えられない程に回数を重ねて。

 予想通り、究極の肉体を持っていたこいつはそれに耐えた。

 そして今、自我の無いコイツは大ショッカーが誇る『究極の人形(ultimate doll)』となったのだ」

 

「ハッ、究極の人形で『アルティメットD』だと? 寒い駄洒落だな」

 

「っつっても、強さは洒落になってないけどな……」

 

 

 キバ男爵の語りに嘲笑を返すディケイドだが、Wの左側は乾いた笑いを漏らすばかりだ。

 ディケイドもこの状況は問題しかない事を理解している。

 はっきり言ってアルティメットDは強い。キバ男爵の言葉はハッタリのそれではない。

 以前に戦ったアルティメットDも見かけによらず凄まじい速度で動く敵だったが、今回はその比ではない。

 攻撃も重く、速さも力も幹部すら超えた域に達していた。

 

 ディケイドとWはこの部隊の中ではトップクラスの戦歴を持っている。

 それだけの経験を積んでいる為、実力も相応だ。

 少なくとも以前にアルティメットDと戦った時よりは確実に強くなっている。

 その2人が思うのだ。こいつは強すぎる、と。

 

 

(切札は切ってない。……問題は、切っても勝てるかどうか……)

 

 

 まだ手は残されているが、フィリップが思案する不安もあった。

 ディケイドには『コンプリートフォーム』、Wにも『エクストリーム』というそれぞれに上位の姿がある。

 他にもディケイドとWが揃う事で使用できる『切札』も。

 ところが目の前の敵はそれすらも凌駕しかねない敵ときていた。

 

 キバ男爵の語りが終わり、アルティメットDは再度、ゆっくりと歩み出す。

 ゆっくり作戦会議をするわけにもいかないディケイドとWは態勢を整えるも、既に肩で息をしているような状態だ。

 

 そこに、轟音と共に1人の戦士が切り込んできた。

 

 

 ────ROCKET DRILL────

 

 ────LIMIT BREAK!────

 

 

「ライダーロケットドリルキィィィィックッ!!」

 

 

 右手のロケットモジュールを全力噴射、左足のドリルモジュールを全力で突き出し、ドリルそのものも全力回転。

 ついでに雄叫びも全力と四拍子揃って全力の仮面ライダーフォーゼがアルティメットDを真正面から捉えた。

 腕を交差する事でドリルを防ぐアルティメットD。

 対し、力を籠め続け、何としてでもアルティメットDを貫こうとするフォーゼ。

 腕とドリルが火花を散らすが、アルティメットDはその勢いに一歩も後退していなかった。

 

 

「こ、の、や、ろ……おォッ!!」

 

「────オオォォォ!!」

 

 

 必死のフォーゼを嘲笑うかのようにアルティメットDはビクともしない。

 そして咆哮と共に、アルティメットDは腕を全力で開き、ライダーロケットドリルキックを完全に弾いた。

 宙に浮いた状態で隙だらけのフォーゼのどてっぱらに一撃、アルティメットDの拳が炸裂する。

 

 

「う、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?」

 

 

 地面に叩きつけられるも勢いは止まらず、地面を滑るように飛ばされるフォーゼ。

 進行方向にいたディケイドとWが受け止めるが、その2人もフォーゼのあまりの勢いに大きく後退ってしまう。

 土煙の中、何とか止まったフォーゼは腹部を抑えて咳き込んでいた。

 苦しむフォーゼにWが駆け寄る。

 

 

「弦太朗! オイ!?」

 

「だい、じょう……ぐ、ゴホッ……!」

 

 

 心配をかけないようにと強がろうとするも、それすらもできないレベルの痛みだった。

 モロに一撃を貰ったせいか、相当のダメージが来ている。

 ディケイドとWの倒れた姿に居ても立っても居られなくなり助けに入ったフォーゼ。

 そんな彼は今、痛みに耐えつつ何とか立ち上がる。

 彼も今の一撃で察した。目の前の敵が尋常でない事を。

 

 ディケイド、W、フォーゼ。

 3人のライダーが並ぶものの、感情の無いアルティメットDは動揺の1つも見せない。

 その後ろに立つ、感情がある筈のキバ男爵ですら動揺は無かった。

 

 

「3本の矢は折れないと言うが……圧倒的な力の前でも折れないでいられるか?」

 

 

 変わらず静観を決め込むキバ男爵は怪しげに口角を上げる。

 咆哮するアルティメットDを前にする3人のライダー。

 彼等の仮面の奥の表情は、これから始まる戦いを予感してか、険しいものだった。

 

 

 

 

 

 一方のゴーバスターズ。

 バスターマシンの発進はフォーゼのお陰でできるようになった。

 目の前には煙突が潰れ、慌てふためくスチームロイド。

 しかしジェノサイドロンやウォーロイドの出現のせいで状況は芳しいとは言えなかった。

 

 特命部曰く、バディロイドの錆はまだ除去しきっていない。

 つまり使えるバスターマシンはFS-0Oのみだ。

 次の行動をどうするべきか一瞬思考するレッドバスター。

 

 

「……ッ!?」

 

 

 しかし、その一瞬の内に新たな展開が起こった。

 水中ではスチームロイドの煙の効果が半減するという事を知り、FS-0Oを近海に待機させていたのだが、それが突如として海面より跳ね上がるように現れたのだ。

 

 

『オタマ爆弾、発射!』

 

 

 海面より戦場に跳びだしたFS-0Oは、エネたんの声と共に上部の砲門からオタマジャクシ型の砲弾を放つ。

 数発放たれたそれはヘリコプターの姿で飛び回る数体のウォーロイドを破壊。

 跳び上がっていたFS-0Oはそのまま、戦場に着地した。

 誰もが突然現れたその巨体に目を奪われるが、何よりも疑問なのはゴーバスターズだ。

 

 

「エネたん!? まだ何も……」

 

 

 バスターマシンはバディロイドの意思である程度の行動ができる。

 しかし、エネたんにはまだ何も命令は出していなかった。

 このタイミングで出てきてくれた事自体はいいのだが、突然なんだ、という話。

 ところがそれに答えたのはエネたんではなかった。

 

 

『いやぁ、俺だよおーれ!』

 

「……って、陣さん!?」

 

『やっほーヨーコちゃん。それにヒロムにリュウジ』

 

 

 意気揚々とした声の主は陣マサトのものだ。

 どうやらマサトがFS-0Oを操縦しているらしい。

 

 

『スーツが転送できないからって何もしねぇのもカッコ悪いしな。

 ま、それにJや他のバディロイド達ももうすぐ復帰するはずだ。それまでは持たせてやるさ』

 

「陣さん……。分かりました、お願いします。俺達はメタロイドを」

 

『頼んだぜ』

 

 

 複数のウォーロイドと大型のジェノサイドロンを相手に、FS-0Oだけでは分が悪いどころではない。

 しかし、変身できないのを理由に傍観するのも納得がいかなかったマサトは自分にできる事を考えた結果、こうなったのだ。

 アバターである彼が死ぬ事は無い。最悪、FS-0Oの損害だけで踏み止まれる。

 そんな事を言えばエネたんから猛抗議が飛ぶだろうし、心のあるエネたんを犠牲にする気などマサトには毛頭ない。

 

 ともあれ彼もまた、弦十郎の言うような意味で『大人』であるという事だ。

 子供が、未来ある若者が命がけで戦っているのを見ているだけ、というのが耐えられないのだろう。

 

 

「さぁて、エネたん。ひと暴れと行くかぁ!」

 

『でも、あのおっきいのは流石に無茶ですよ?』

 

「何とかできる時が来るまで、何とかするんだよ!」

 

『無茶苦茶じゃないですか!?』

 

 

 エネたんと意思疎通を行いつつ、生身──アバターの彼を『生身』というのかはともかく、変身せずにコックピットに乗り込んでいるマサトはFS-0Oを操縦する。

 バスターマシンの設計者はマサトである。

 そして初期の試作型であるFS-0Oもまた、マサトが造ったマシンだ。

 マシンスペックは全て把握しており、それもあってかウォーロイドを次々と殲滅していく。

 

 口を開けばカエルのように舌が伸びて『シタベロパンチ』を繰り出す。

 高高度までジャンプしてウォーロイドを押し潰したり、オタマ爆弾で遠距離から攻撃。

 カエルさながらにピョコピョコと飛び回って敵を殲滅していくFS-0O。

 

 その様子を、FS-0Oが現れるまでウォーロイドを相手にしていた響達が見ていた。

 

 

「はぇー、アレがヒロムさん達の新しい……」

 

(シンケンジャーの世界で見た大きなロボットみたいな感じですかね?)

 

 

 感心したような響と、かつて巡った世界の事を思い出すキバーラ。

 一方でクリスはFS-0Oではなくウォーロイドやジェノサイドロンを注視していた。

 クリスがあの機体達に釘付けなのは、いや、睨むような視線を送っているのには理由があった。

 彼女は戦争の中で凄惨な体験をしてきた過去があり、それだけに戦争を憎んでいる。

 ウォーロイドやジェノサイドロンは戦争で用いられる兵器だ。

 クリスが穏やかな心境でいられるはずもない。

 

 

(あの野郎共……ッ! あんなモンまで持ち込んで来たってのかッ!!)

 

 

 心中で怒りを爆発させるクリス。

 しかしそれらを出現させたと思われるヴァグラスと、かつて信じたフィーネが手を組んでいる事を思い出すと、彼女の心の中は一気に暗く、淀んだものへと変わった。

 

 

(ハッ、一度は片棒担いで、ソロモンの杖を起動させたあたしが言えた義理じゃねぇか……。

 分かってんだよ、そんな事はッ!!)

 

 

 沈む気持ちを怒りで無理やり跳ね上げる。

 それは半ばやけっぱちにも近い。

 だが、それでもとクリスは引き金に指を添える。

 細かい御託も後にする。後悔なんて死ぬほどしてる。

 罪を償いきれるなどとこれっぽっちも思っちゃいない。

 

 それでも────────

 

 

「纏めてぶっ潰してやる。こんな力は、全部ッ!!」

 

 

 許せないものは許せない。

 それが今の雪音クリスの考えだった。

 やはりというべきか響達と連携を取る気は一切ないらしく、独断で飛び出してしまう。

 

 響、キバーラ、メテオ、パワーダイザー、クウガは戦闘員とウォーロイドを相手に立ち回っている。

 大ショッカーと思わしき怪人の姿もちらほら見受けられる為、どいつもこいつも雑魚、というわけではない。

 クウガやキバーラを初めとした助っ人達が来てくれているとはいえ、物量では圧倒的に敵が上。

 制圧に向いた武装を持つイチイバルのクリスがいるとはいえ、油断は一切できない。

 

 何より、ウォーロイドを数体倒したFS-0Oが単独で相手にしているジェノサイドロンが一際厄介だった。

 

 

『や、やっぱりこのままじゃ無茶ですよ!?』

 

「分かってる分かってる! つってもこうするしか無いわけだから今は我慢だッ!」

 

 

 エネたんは不安げな声を上げ、マサトも字面だと軽いが声に圧がある。

 それだけジェノサイドロンは苦戦する相手という事だ。

 FS-0Oは得意の跳躍とオタマミサイルでジェノサイドロンの巨体を翻弄していた。

 しかし獣のように荒々しい動きをするジェノサイドロンは時にFS-0Oにその腕を当ててくる。

 大きく振りかぶっている上に、腕だけでもFS-0O全体を叩けるくらいの太さだ。

 体格差からして厳しい戦い。装甲もかなり厚い。

 頑強な装甲と体格差から繰り出される腕の一撃はFS-0Oを捉え、軽々と吹き飛ばしてしまう。

 

 

「うおぅ!?」

 

 

 コックピットもそれ相応に揺れる。

 一瞬視界が反転するも、マサトは焦らずに体勢を立て直した。

 

 

(やっばいな、このままじゃ被害も……!)

 

 

 エネタワー、及び周辺の転送を止める事が最優先事項である今回の作戦。

 しかし転送を止められても、ビルや民家に被害が出てしまうのは頂けない。

 被害ゼロで終わらせたいというのが本音だが、これだけの乱戦ではどうしたって被害が出る。

 おまけに目の前で暴れているウォーロイドとジェノサイドロン。

 巨大戦力の出現で被害はどんどん広がっていた。

 

 動くだけでも標識や駐車してある車を押し潰し、ひとたび動けばビルや民家が壊れていく。

 敵が出すミサイルや弾丸の流れ弾が周辺に被害を出す事もある。

 ついでに見ての通りの大苦戦。

 このままでは転送が止められても町が壊滅してしまう。

 

 早くJが復帰してくれれば、と奥歯を噛みしめるマサト。

 FS-0Oがいてくれなければ被害はさらに深刻化しただろう。

 不幸中の幸いといえる状況ではあるのだが、このままではその幸いも無に帰してしまう。

 

 雪音クリスや2号のように都合よく助っ人が出てくる、という事もないだろう。

 マサトは自他共に認める天才であり、尚且つおちゃらけた姿勢とは裏腹に合理的な思考もしている。

 故に都合のいい助っ人の可能性など考えない。

 

 

 ──────だからこそ、この出現は天才の想像を超えていた。

 

 

『戦闘宙域近辺に反応! これは……以前あけぼの町に出現した輸送機ですッ!』

 

 

 各戦線で戦う面々に向けて、特命部より仲村の声が飛ぶ。

 以前あけぼの町に輸送機。

 あけぼの町に現れた4体のメガゾードと戦い、初めて魔弾戦士と出会ったあの時の。

 その輸送機は戦闘が行われているエリアから少し離れた場所で、その身を開いた。

 

 中から現れたのは4機の機体。

 それらは各々にウォーロイドを殲滅せんとある機体は飛びかかり、ある機体は砲撃を行い始めた。

 その内の一機、最も小型な鳥型の機体は人型に変形したかと思えば、FS-0Oの近くのビルに着地。

 

 ハッ、と笑うマサト。

 可能性として有り得なくは無かった。

 それでも来てくれるのは楽観的な想像に過ぎなかった。

 ところが、たまにはそういう楽観的な想像も当たるらしい。

 

 ビルに着地した機体から戦場全体に、パイロットの声が響く。

 

 

『チャオ。可愛い機体が増えたみたいね、ゴーバスターズさん?』

 

「あららぁ、随分と都合よく来てくれるねェ」

 

『今回も味方のつもりなんだけど、迷惑だったかしら?』

 

「いいや、超ナイスタイミングだよ。惚れちまいそうだぜ」

 

『あら、それはどうも?』

 

 

 軽口を叩きあうが双方共にお互いをよく知っているわけではない。

 それでもこんなノリなのは性格故か。

 内心本気で「ありがたい」と思っているマサトを余所に、現れた4機はそれぞれにウォーロイドを倒すと、一度陣形を組み直す様に集結した。

 

 このタイミング、敵の巨大戦力に対する、恐らく最高の助っ人の登場だ。

 

 

「んじゃ、宜しく頼むぜ? ダンクーガさん!」

 

『OK、やってやろうじゃんッ!!』

 

 

 乱戦が続く戦場に新たな勢力、そして新たな味方。

 ダンクーガチームの4機が降り立ったのである。

 

 

 

 

 

 一方、パワースポット内部。

 黒い道着の遣い魔と戦いを続ける翼とリュウガンオー。

 通常の遣い魔とは違い、細身の太刀を装備したそれは身軽な動きで2人を翻弄していた。

 俊敏に立ち回りつつ太刀を振るうのが道着の遣い魔の戦闘スタイル。

 まるで天羽々斬を纏った翼のような動き。

 遣い魔の戦い方が翼に似ていると気付くのに、そう時間はかからなかった。

 

 

(その立ち回り……ならッ!)

 

 

 翼と遣い魔の太刀が火花を散らす。

 数回の打ち合いの後、両者共に埒が明かないと踏んだのか同時に距離を取った。

 そしてそれは翼の予想通り。

 

 

「フッ!」

 

「!?」

 

 

 遣い魔と違いギジャギジャと声を発する事はない。

 しかし遣い魔は間違いなく驚いていた。

 当然だろう。突如として体の自由が奪われたのだから。

 

 この空間は密閉されて日の光など差し込む隙間もない空間だ。

 しかしパワースポットが放つ強烈な光や、周囲の火が空間内を照らしている。

 つまり、影がある。

 ならば翼はあの技を使う事ができる、ということだ。

 

 

 ────影縫い────

 

 

 遣い魔が距離を取る事を見越して、翼は距離を取ると同時に短剣を投げていたのだ。

 完全聖遺物ネフシュタンやレディゴールドにすら効力を発揮する影縫いだ。

 この遣い魔が如何に強く、特別だったとしても、そう簡単に逃れられはしない。

 

 

「不動さんッ!」

 

「ああ!」

 

 

 動きを止め、翼の叫びに答えてリュウガンオーがゴウリュウガンを構えた。

 動けない遣い魔に向けてゴウリュウガンの銃撃を何発も放つ。

 回避手段の無い遣い魔にそれは全弾命中し、最後の弾丸が命中した頃には、遣い魔は影縫いの影響とは別の意味で、動きを止めているかのように見えた。

 

 

「…………」

 

 

 油断せず、ゴウリュウガンで狙いを済ませたまま、力が抜けたような遣い魔に警戒の目を向けるリュウガンオー。

 同じく翼も太刀を構えて警戒しつつも、影縫いを解除。

 それと同時に遣い魔はその場に力なく倒れ込んだ。

 先の銃撃で力尽き、影縫いが解けた事で完全に支えを失ったのだろう。

 完全に動かなくなった事を確認した2人はそう判断すると、警戒を解いた。

 

 仮にも翼は2年間戦ってきたシンフォギア装者。

 対し、リュウガンオーも経験と訓練を積んできたリュウケンドーの先輩魔弾戦士だ。

 その2人でかかれば、如何に強い遣い魔でも敵ではないという事か。

 しかし、やや足を引き摺るリュウガンオー。

 やはりロッククリムゾンに受けたダメージが抜けきっていない様だった。

 

 

「大丈夫ですか、不動さん」

 

「ああ、何とかな……」

 

『まだ終わっていないぞ、リュウガンオー』

 

「分かってる……!」

 

 

 怪我を押して此処に来た影響が出ていた。

 最初に戦った通常の遣い魔の群れと、黒い道着の遣い魔。

 勝てたとはいえ、どうしても戦闘に要求される動きをすると傷が痛む。

 それでも、と、リュウガンオーはマダンキーを取り出してパワースポットの剣のようなオブジェへと歩を進めた。

 

 オブジェから放たれ続けるエネルギー。

 剣の柄の部分に当たる部分にある空洞に、瀬戸山の指示通りにマダンキーを置くリュウガンオー。

 すると放たれていたエネルギーが、より強く、より激しくスパークしだす。

 エネルギーがダメージになるという事はないが、その勢いにリュウガンオーと翼も警戒していた。

 相手はパワースポット。暴走すれば町が吹き飛ぶ代物だ。

 辿り着けたからとはいえ、油断してかかっていいものではない。

 

 

『よし、エネルギー急上昇! 僕に続いてカノン語を唱えてください!』

 

 

 S.H.O.Tの瀬戸山の言葉にリュウガンオーが頷く。

 古代の文字、『カノン文字』。それはマダンキーの調整の為にも必要な言語。

 瀬戸山が解読に力を入れている光のカノンの書を開き、そこに書かれているマダンキー調整の為のカノン文字を唱え始めた。

 この呪文を唱える事でマダンキーの調整は完了する。

 リュウガンオーはオブジェの前で跪き、片手で拝むような姿勢になりつつ瀬戸山の言葉を復唱していった。

 正直、意味はさっぱりだが、ともかくこれでマダンキーの調整が始まった。

 当然ながら横で聞いている翼にも、リュウガンオーが何を唱えているのか分からない。

 しかし間違いなくオブジェの中のマダンキーは反応を示していた。

 

 

(……ん?)

 

 

 ふと、翼が何かに気付く。

 オブジェの裏側で何かが光っていた。

 最初はパワースポットのエネルギーによるものかと思っていたのだが、どうも別の光源がある。

 呪文を唱えるリュウガンオーを気にしつつも翼は光源に向かう。

 地面に転がり輝きを放っていたのは、1つの石だった。

 

 

(宝、石……?)

 

 

 淡く金色の輝きを放っている石を見つけた翼は、それを拾い上げた。

 周囲を見渡しても同じような石は何処にも落ちていなかった。

 どうやらパワースポット内部なら何処にでも落ちている代物というわけではないらしい。

 

 綺麗な輝きに目を奪われていた翼。

 呪文を唱える事に集中していたリュウガンオー。

 だから、気付けなかった。

 

 

「ぐっ!?」

 

「ッ、不動さんッ!?」

 

 

 オブジェの前で跪いていたリュウガンオーの首に、突如として圧迫感が襲った。

 正体は、黒い道着の遣い魔。

 先程銃撃で倒した筈の遣い魔は完全に撃破されていたわけではなかった。

 普通の遣い魔ならまずしないであろう『死んだふり』をして、2人が油断したところで密かに立ち上がっていたのだ。

 そして頭の鉢巻を外し、それを使ってリュウガンオーの首を絞めたというのが現状である。

 

 

「ッ!」

 

 

 片手に宝石、もう片手に細身の太刀を握り、翼は黒い道着の遣い魔へ駆ける。

 しかし遣い魔は首を絞める為の鉢巻を無理矢理動かし、リュウガンオーを自分の前方に置いた。

 すぐに意図は分かった。

 

 

(くっ、盾に……! ならばッ!)

 

 

 そう、リュウガンオーを盾にする気なのだ。

 しかしながら天羽々斬の得意とするのは機動力。

 ならば、その力を持ってして一気に背後を取ってやればいいだけの事。

 故に翼は本気で動いた。遣い魔の死角に回る為に。

 が、敵も流石に並の遣い魔ではない。

 

 

(……反応が速いッ!)

 

 

 遣い魔は翼の動きに合わせ、リュウガンオーを無理矢理に動かし続けた。

 天羽々斬の動きに完全についてきていたのだ。

 レッドバスターのように超常のスピードではないとはいえ、スピード特化の天羽々斬に。

 この速度なら本来、通常の怪人程度ならば翻弄できるというのに。

 反射神経は遣い魔どころか並の怪人以上だ。

 

 既にリュウガンオーの命は遣い魔の手の中。

 最後に一矢報いようとでもいうのだろう。

 より一層に鉢巻を握る力を強くし、リュウガンオーの首を締め上げる。

 しかし、有利な状況に持ち込んだが故に遣い魔も油断をしていた。

 

 

「ぐぁ……ンのッ!」

 

「!?」

 

 

 だからこそ、反撃を許した。

 声も出さずに遣い魔が驚いたのは、腹に走る痛みだろう。

 首を絞められた事に苦しみつつも、リュウガンオーはゴウリュウガンを裏返し、背後の遣い魔に突き立てていたのだ。

 しかもゴウリュウガンはその形状をほんの少しだけ変えていた。

 

 先端から伸びる刃。

 そう、ゴウリュウガンは刃を展開して『ソードモード』となっていたのだ。

 腹に突き立てられた刃のせいか、鉢巻をするりと放してしまう遣い魔。

 

 

「ッ、ハアッ!」

 

 

 間髪入れずに翼が駆け、黒い道着の遣い魔の背後に回り、一刀両断。

 遣い魔は今度こそ本当に力なく倒れ、その体を霧散させて消滅した。

 今度は死んだふりなどでは無い。本当の消滅だ。

 

 遣い魔を倒したはいいが、マダンキーの調整はまだ完了していない。

 リュウガンオーは本気で締められた首に痛みを感じつつも、もう一度オブジェの前で跪く。

 

 

『リュウガンオー! あと少しだ!』

 

 

 瀬戸山が鼓舞と共に、残りの呪文を唱え、リュウガンオーはそれを復唱。

 パワースポット内部が輝きを増していくと同時にオブジェに置かれたマダンキーが徐々に、その紋様を変えていった。

 

 S.H.O.T側でもマダンキーの変化は確認している。

 そしてその変化こそ、調整成功の証であるという事を知っていた。

 最後の一文までを読み切った瀬戸山は光のカノンの書を勢いよく閉じ、声を荒げつつ椅子から勢いよく立ち上がる。

 

 

『来た! 成功だ!!』

 

 

 マダンキーの専門家、瀬戸山の言葉通り、マダンキーの調整は成った。

 オブジェから回収したマダンキーには、おどろおどろしい目の紋様ではなく、短剣のような紋様が描かれている。

 リュウケンドーに力を与えてくれる、新たなキーの誕生だ。

 それを握り締めたリュウガンオーはオブジェの前から立ち上がり、翼の方を向いた。

 

 

「よし、翼ちゃん。脱出だ」

 

「はい。……申し訳ありませんでした、先程は私がフォローすべきだったところを」

 

「いや、気にするな。ただ珍しいな、翼ちゃんが敵の気配に気づかないなんて」

 

 

 黒い道着の遣い魔の気配に気づかなかった事を責める気はない。

 むしろ、真面目な性格で、ストイックに戦いに臨む翼は油断とは無縁である。

 その彼女が黒い道着の遣い魔に気付かなかった事がリュウガンオーは不思議でならなかったのだ。

 対し、翼は片手に持っている宝石をリュウガンオーに見せた。

 未だ淡く金色の輝きを放つそれを見て、リュウガンオーは首を傾げる。

 

 

「すみません、これに気を取られていました」

 

「これは?」

 

「このオブジェの近くに落ちていたものです。どうにも、同じ物は見当たりませんでした。

 何か特殊なものではないのかと思ったのですが……」

 

『推定は出来る』

 

 

 疑問に対し、推測という形ではあるものの答えがあると口を挟んだのはゴウリュウガンだった。

 

 

『強力な魔力反応。恐らく、パワースポットの魔力の欠片が凝固したものだと考えられる』

 

「何だと? じゃあこいつも、パワースポットと同じで放っておいたらマズイのか?」

 

『いや、そこまでの力は無い。強力ではあるが、あくまでパワースポットの魔力の欠片がパワースポット本体とは関係なく、偶然に寄り集まって固まっただけに過ぎない。

 これ自体にパワースポットのような役割は無く、暴走の危険もないと判断する』

 

 

 ゴウリュウガンの憶測を整理するとこうだ。

 これは常時強力な魔力を放つパワースポットの力の一部が凝固した石。

 しかし、強力ではあるがパワースポット程ではなく、それ自体はパワースポットのように無尽蔵のエネルギーを秘めているわけでもない。

 さらに魔力が凝固したのも完全に偶然であり、周囲にこれ1つしか落ちていない事から、これが発生する可能性は極低確率だと推測できる。

 また、石のような状態で安定している為、下手に突っついても魔力爆発が起きる心配はない。

 

 とどのつまり、放っておいても問題の無い魔力の石、という事だ。

 じゃあ捨て置いてもいいのかと思うリュウガンオーと翼だが、通信の向こうの声がそれを否定した。

 声の主はS.H.O.Tの瀬戸山だ。

 

 

『リュウガンオー、翼さん、それを回収してください。

 それの魔力が非常に安定している事はこちらでも確認しています。

 貴重な研究材料になるでしょうし、魔力由来の代物なら魔弾戦士の役に立つかも』

 

「了解だ」

 

 

 輝く金の宝石を持った翼と調整したマダンキーを握るリュウガンオー。

 2人は顔を見合わせ頷くと、先程来た道を引き返す為に走り出した。

 

 此処までの戦闘のせいで、正直、リュウガンオーの体力はかなり削られていた。

 帰る道中で何度もふらつき、既に満身創痍なのが伺える。

 それでも急ぐ。一刻も早く鍵を届けなければと、リュウガンオーは自分に無理をさせる。

 

 

(待ってろよ、剣二……!!)

 

 

 それは偏に、後輩を信頼しているからこそだった。

 

 

 

 

 

 マダンキーの調整が完了したリュウガンオーと翼。

 2人がパワースポットからエネタワーに向かおうとしている中、戦場の状況は目まぐるしく変わる。

 

 一度状況を整理しよう。

 ロッククリムゾンと相対するのは、仮面ライダー2号。

 煙突が壊れて逃げるスチームロイドを追う、ゴーバスターズ。

 戦場のあちこちに散らばるバグラーや遣い魔、ノイズ、そしてウォーロイドを相手にするのは、メテオ、パワーダイザー、クウガ、キバーラ、響、クリス。

 最も巨大な戦力、ジェノサイドロンを相手にするのは、FS-0Oに乗り込んだマサトとダンクーガの4機。

 そしてアルティメットDと戦う、ディケイド、W、フォーゼ。

 

 最初に状況が変わったのは、ロッククリムゾンと仮面ライダー2号の戦いだった。

 

 

「オォッ!!」

 

 

 気合十分な叫びと共に右の拳を突き出し、ロッククリムゾンの砲撃を潰す。

 パンチで砲撃を潰すのを当然のようにやってのけているが、普通ならパンチの方が力負けをして爆発に巻き込まれるのがオチだ。

 それこそ仮面ライダー2号の力が無ければできない芸当だろう。

 

 

「ヌゥ、このォッ!!」

 

 

 埒が明かないと、接近戦に切り替えるロッククリムゾン。

 岩のように頑強な体から繰り出される大きな拳が2号に振るわれる。

 対し、同じく2号も赤い拳で対抗。

 2つの拳がぶつかり、その力が拮抗する。

 

 

「のっ、野郎……ッ!」

 

「ヌゥゥゥゥ……!!」

 

 

 力の2号と呼ばれ、技術も速度も尋常ではない仮面ライダー2号。

 力という面だけ見れば今までの敵の中で最強を誇るロッククリムゾン。

 どちらの視点から見るにせよ、それと真っ向勝負ができるのは凄まじい。

 

 ぶつかっていた拳を離し、飛び退いたのは2号。

 突然ぶつかる相手がいなくなったロッククリムゾンの拳は勢いのままに地面を殴りつけた。

 小さなクレーターが出来上がる。

 凄まじいパワーである事が伺えるが、2号は特に動揺もしない。

 

 

(ったく、ホント、パワーだけは一人前だ)

 

 

 かつて1号と2号が戦ったショッカー、ゲルショッカーという組織の幹部達も強かった。

 中にはちょっと抜けた幹部もいたが、基本的に知能も高く、中には『博士』の名を持つものもいた。

 知能という面で見ればロッククリムゾンはこれらの足元にも及ばない。

 しかし力という面で見れば、ロッククリムゾンの方が圧倒的だ。

 

 

「ぬぬぬ……いい加減にしろ!!」

 

「へっ、そうはいくかよッ!」

 

 

 何度戦っても決着のつかない2号に、ロッククリムゾンは苛立っている様子だった。

 いい加減にしたいのは2号も同じなのだが、焦って戦って勝てる相手ではない。

 もしそれで何とかなるのなら、何度も逃がしたりしていないわけだ。

 

 

「行くぜ……ッ!?」

 

 

 もう一度攻め込む為、地面を蹴りあげようとする2号。

 しかし、その足は踏み出す前に止まってしまった。

 理由は1つ。ロッククリムゾンと2号の間に、1人の怪人が割って入ったからだ。

 

 

「そこまでだ、ライダー2号!」

 

 

 割って入って来た怪人は、大きく発達した左手と長い鼻が特徴的だった。

 大きな左手は3つのカギ爪で構成されている。

 その左手、そしてその姿を見た2号は即座に怪人の名前を看破した。

 

 

「『アリガバリ』ッ!?」

 

「そうだライダー2号ッ! 貴様の相手は私がする!」

 

 

 アリガバリ。ショッカーの改造人間であり、2号が戦った相手だ。

 しかしこの場に現れた彼はショッカーではなく、大ショッカー所属である。

 突如として現れたアリガバリに驚くのは2号だけでなく、ロッククリムゾンも同じだ。

 

 

「何だ、お前は」

 

「ジャマンガのロッククリムゾンだな。お前の強さは見せてもらった。

 キバ男爵様の命令で、お前に助力させてもらう」

 

「余計なお世話だ」

 

「まあ聞け。奴は強く、お前も苦戦しているのだろう?

 だが逆に言えば、ライダー2号以外にお前に勝てる者はいない」

 

「ヌゥ……」

 

「だからお前は他で暴れて来るのだ。他の戦士も十分に強い。

 奴等の戦力を削いだとなれば、お前も大戦果だろう?

 何、別にライダー2号から逃げろというわけではない。

 ただ、お前の活躍をお膳立てすると言っているのだ」

 

「…………」

 

 

 まくし立ててくるアリガバリに対し、ロッククリムゾンは黙ってしまう。

 ロッククリムゾンは馬鹿である。

 故にというかなんなのか、何処か純粋な面があるのだ。

 だからアリガバリの達者な言葉を、彼は鵜呑みにしてしまう。

 成程、活躍をお膳立てしてくれる。結構な事ではないか、と。

 

 

「分かった」

 

「ああ、お前は強く頼れる幹部なのだろう? 此処は任せろ」

 

「うむ」

 

 

 それだけ言葉を交わすと、ロッククリムゾンは背を向け、どしどしと足音を立てながらその場から離れていった。

 

 此処で逃がすのはマズイ。

 実際、ロッククリムゾンとまともにやりあえるのは2号だけだ。

 2号本人もそれを自覚しており、この場から逃がさない為に2号はロッククリムゾンを追う為、跳び上がろうとする。

 

 

「逃がすかよ……ッ!?」

 

 

 なのだが、その足が動かない。

 誰かに掴まれているような足の違和感に、バッと真下に視線を向ける。

 そこにいたのは、またもや2号の見知った顔だった。

 

 

「『モグ、ラング』……ッ!?」

 

「ムォー! 行かせんよ!」

 

 

 踏みしめていたのはアスファルトの筈なのに、そこが掘り返されている。

 そこから顔を出していたのは少し潰れた饅頭とでも表現すべきか、そんな顔をした怪人。

 その怪人が両腕で2号の右足を抱き締めるようにして掴んでいた。

 モグラングと2号が呼んだ通り、この怪人の事も2号は知っている。

 急ぎ、2号は拳を地面に叩きつけるが、モグラングは再び地中に潜ってしまった。

 

 地中を掘り進んだモグラングはアリガバリの隣に姿を現した。

 右手は剣、左手はシャベルのようになっている。

 モグラングは名前から連想できるように、モグラの改造人間。

 剣とシャベルは武器であり、同時にそれを用いる事で地中を自由に掘り進めるのだ。

 そんな彼に気を取られている内に、ロッククリムゾンは別の戦場へと行ってしまう。

 焦る2号だが、すぐに目の前の敵へ思考を切り替えた。

 

 

(悪いな、後輩のみんな。何とか持たせてくれ……! まずはこいつ等だッ!)

 

 

 後輩を信頼する。そう考えて、2号は目の前の2体を睨んだ。

 油断はできない。何せ、この2体には苦い経験があった。

 両者共に2号が戦った事のある怪人。

 そして同時に、『ライダーキックが通用しなかった怪人』でもあった。

 

 

「俺からすれば初対面だが、お前は俺を知っているな? ライダー2号」

 

「まあな。あんなに口八丁とは知らなかったぜ、アリガバリ」

 

「フン、貴様の知る個体と私は違う。さあ、私達と勝負をしてもらうぞ」

 

 

 アリガバリに続き、モグラングが怪しく鈍い笑い声を響かせた。

 

 

「俺達は幹部じゃねぇが、甘く見るなよ。ライダーッ!」

 

「ああ、全力でやってやるよ!」

 

 

 別個体ではあるが、かつて戦った怪人達を前に、2号の雰囲気は険しい。

 

 

(早く倒……したいが、コイツ等も十分に強い。

 チッ、厄介なの寄越してきやがってよ、大ショッカーの野郎ッ!!)

 

 

 モグラングは最初に戦った時、ライダーキックを含む様々な攻撃が悉く効かなかった。

 アリガバリに至っては、撤退を余儀なくされた。要するに一度敗北した事がある相手だ。

 辛酸を舐めさせられた相手なのは事実。

 だが、2号は決して怯まない。

 確かに戦意を滾らせながら、彼は赤い拳を握りしめた。

 

 

 

 

 

 一方、他の戦場へ足を踏み入れようとするロッククリムゾン。

 そんな彼の前に、1人の戦士が立ち塞がった。

 

 

「貴様は……」

 

 

 S.H.O.Tからは『黒いS.H.O.T』、あるいは『黒い魔弾戦士』と呼称された謎の存在。

 ザンリュウジンを構えた彼がこの戦場に姿を現したのだ。

 黒い魔弾戦士はロッククリムゾンにゆっくりと目をくれると、左手のザンリュウジンを背後に構え、中指だけを軽く折った右手を右側へ伸ばした。

 

 

「『リュウジンオー』……ライジン」

 

 

 構え、名乗る。その仕草は魔弾戦士のそれだ。

 今のところ第3勢力として動く黒い魔弾戦士が、初めてその名を名乗った。

 

 

「お前の力は見せてもらった。俺が倒す」

 

「フン……!」

 

 

 リュウジンオーは何でもないかのように、余裕たっぷりに話す。

 ロッククリムゾンの力を見た上で、『倒す』と口にしたのだ。

 一方で自分が相当に舐められている事を理解したロッククリムゾンも、リュウジンオー相手に敵意を露わにした。

 

 未知数の実力であるリュウジンオーと、圧倒的パワーの持ち主ロッククリムゾン。

 ザンリュウジンの刃とロッククリムゾンの拳が火花を散らし、2人の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 ダンクーガが明確に味方として参戦。

 アリガバリとモグラングが敵の増援に。

 そしてリュウジンオーが第3勢力として現れた。

 

 それらと時を同じくして、アルティメットDと戦う3人のライダーの戦場では。

 

 

 ────HEAT! TRIGGER!────

 

 ────FIRE ON────

 

 ────ATTACK RIDE……ILLUSION────

 

 

 Wがヒートトリガーに、フォーゼがファイヤーステイツに姿を変える。

 両者共に文字通りの意味で火を吹く銃、トリガーマグナムとヒーハックガンを構えた。

 さらにディケイドが3人に分身。アルティメットDを撹乱するように動く。

 

 

「グゥ……オオォォッ!!」

 

 

 アルティメットDは鬱陶しく、煽るように動き回るディケイドに苛立つように咆哮し、それを潰す為に動いた。

 速い。ディケイドでも見切れるかどうかギリギリのレベルだ。

 1体目のディケイドの分身、その顔面にアルティメットDの拳が迫るが、すんでのところで躱す。

 フォローするように2体目の分身がライドブッカーを銃に変形させ、アルティメットDの背中に放った。

 着弾するものの効いている様子は無く、1体目から狙いを変えたアルティメットDが、今度は2体目の分身に迫る。

 2体目に気を取られている間に1体目と本体は位置をシャッフル。

 一方で躱し切れないと判断した2体目の分身ディケイドは敵の拳を両手で受け止めようとするが、勢いが上乗せされた拳に難なく吹き飛ばされてしまう。

 

 ディケイドの攪乱は上手くいっているが、そう長くはもたない。

 当然、そんな事は理解しているWとフォーゼも動き出していた。

 

 

 ────TRIGGER! MAXIMUM DRIVE!────

 

 ────LIMIT BREAK!────

 

 

 トリガーメモリをトリガーマグナムに装填し、銃口を上げるW。

 ヒーハックガンの銃口の下部にあるソケットにファイヤースイッチを装填するフォーゼ。

 アルティメットDがディケイドに気を取られている内に挟み込むような位置についた2人は、それぞれに銃をアルティメットDに向けた。

 

 

「「トリガーエクスプロージョン!」」

 

「『ライダー爆熱シュートッ』!!」

 

 

 銃口より放たれた超高温の火炎は左右からアルティメットDを包み込み、焼き尽くさんばかりに燃え盛る。

 同時に撹乱を担当していたディケイドは巻き込まれないように、分身を解除しつつその場から飛びのいた。

 続き、ディケイドは黄色いカードを取り出してディケイドライバーへ装填した。

 

 

 ────FINAL ATTACK RIDE……DE・DE・DE・DECADE!────

 

 

 ディケイドの前方に現れるディケイドの紋章が描かれた10枚のカード。

 それにライドブッカーの銃口を向け、トリガーを引いた。

 放たれた光弾はカードを通過するごとに巨大になっていき、1つの大きな弾丸として炎に包まれてもがき続けるアルティメットDに着弾する。

 これはファイナルアタックライドのカードで発動するディケイドの必殺技の1つ、『ディメンションブラスト』。

 本来なら、その光弾の威力は対象を貫く程だ。

 

 しかし──────。

 

 

「……ッ、グッ、オ……オォォォォッ!!」

 

 

 炎の中のアルティメットDは、その一撃に耐え抜いた。

 そればかりか炎の中を突っ切ってWに左拳を一撃、さらにフォーゼに蹴りを一撃、最後にディケイドには右拳を一撃。

 3方向に散っていた3人はそれぞれの後方へ転がってしまい、それまでのダメージも響いてか、痛みに耐えるようによろりと立ち上がった。

 Wもフォーゼもディケイドも、闘志は一切消えていない。

 傍観を続け、その光景を見つめるキバ男爵の表情は険しかった。

 

 

(フン、流石にそれぞれに戦い抜いているだけはある、か)

 

 

 ライダーを見つめる目を今度はアルティメットDに向ける。

 まだまだ余力を残してはいるもののダメージがゼロかと言われればそうでもない。

 微々たるダメージではあるが、アルティメットDからは僅かに疲弊が見て取れる。

 先程の必殺技三連撃にせよアルティメットDは耐えただけに過ぎず、余裕でやり過ごした、というわけではないのだ。

 

 大ショッカーはこの世界に来てから数体の怪人を犠牲に、仮面ライダー達の実力を図った。

 結果は、『誰も彼もが相当に強い』という事実。

 栄光の7人ライダーは元より、Wやオーズなど、比較的若いライダー達も。

 それはフランスでの戦いで自ら出張り、オーズと一騎打ちをしたキバ男爵自身、理解している。

 だからこそ仮面ライダー達への油断はできない。

 

 

(……さて、勝敗はともあれ、だな)

 

 

 今はアルティメットDが圧倒的に優勢だ。

 故にキバ男爵は今の内に自身の『目的』を果たすべくアルティメットDに指示を出す。

 

 

「アルティメットD! まずはディケイドだ!」

 

 

 瞬間、アルティメットDはピクリと反応を示し、ディケイドへ向かって行く。

 キバ男爵の言葉から狙いがディケイドにあるとWもフォーゼも理解はしていた。

 しかし、体の痛みがそれを許さない。

 蓄積されたダメージが、ディケイドのフォローに回る力さえも奪う。

 結果としてディケイドはアルティメットDと1対1をせざるを得なくなってしまった。

 そして、Wやフォーゼが受けているレベルのダメージはディケイドにも。

 

 

「ぐっ! がっ、ああああァァァァッ!!?」

 

 

 一発目に拳が入り、その後は抵抗しようとするディケイドのガードを真正面から打ち破るアルティメットDの乱舞。

 拳が入り、蹴りが入り、それら全ては重たくディケイドに突き刺さる。

 一撃目から既にそれは一方的で、ディケイドは苦痛に悲鳴を上げた。

 そうして最後の一撃を受けて吹き飛んだ時、ディケイドは門矢士に戻ってしまっていた。

 

 

「さて……」

 

 

 此処に来てキバ男爵は重い腰を上げた。

 怪人態、吸血マンモスに変身した彼は長い鼻を地面に突っ伏す士に巻き付け、その体を無理矢理に持ち上げる。

 吸血マンモスの鼻はただ巻き付いているだけではない。

 その証拠に、士は苦悶の表情を浮かべて歯を食いしばっていた。

 明らかに何かをされているその様子に、体をふらつかせながらもWの左側が精一杯まで声を張る。

 

 

「てっめぇ……! 何してやがるッ……!?」

 

「何、殺すにしても殺し方がある。

 一撃で潰すもよし、あるいは……血でも吸ってじわじわと殺すもよし、だ」

 

 

 言葉だけで察する事はできた。

 吸血マンモスが『吸血』と言われているのは当然、血を吸えるからだ。

 蚊のようなレベルではない。時間をかければ、人間1人の血を吸い尽くせるほどの。

 

 させるものかと、Wもフォーゼもなりふり構わず体を動かそうとするも、アルティメットDが割って入って軽くあしらわれてしまった。

 このままでは間違いなく士は、死ぬ。

 戦場の異変に気付いた部隊の一部メンバーが士達の危機に気付くものの、辺りの敵が邪魔をする。

 吸血マンモスは悠々と士の血を吸い続けていく。

 

 

(……こ、の世界が……俺の、死に……場所か……?)

 

 

 士は意識が遠のくのを感じた。

 一度死んだ事のある彼にとって、この感覚は二度目だ。

 抵抗しようとしていた力も徐々に抜けていき、だらりと腕が垂れ下がる。

 士を助けようと叫ぶ仲間の声もまだ聞こえるが、だんだんと遠くなっていった。

 

 夏海が、ユウスケが、翔太郎が、弦太朗が、響が、ヒロムが、誰もが士の危機を助けようと動き、叫ぶ。

 

 

「士君!! 士君ッ!!」

 

 

 キバーラ、夏海は名前を叫び続け、目の前で邪魔をし続ける戦闘員や怪人達を切り捨てていく。

 その乱暴な太刀筋には、彼女の心中がどれ程までに荒れているのかがまざまざと現れていた。

 

 

(嫌ですよ士君……! 再会できたのに、こんな、またッ!!)

 

 

 この手で士の命を奪い、目の前で士の命が消えた事のある夏海。

 どうしようもなかった。そうしなくてはいけなかった。

 だとしても拭えない後悔があり、脳裏に焼き付いたあの光景が彼女を焦らせる。

 故にキバーラ、夏海にとって、『士の死』とは何よりも耐えがたい事だ。

 あんな瞬間を二度と見たくはない。あんな事を二度と起こしたくはない。

 誰よりも強く士を想い、彼女は祈る。

 

 

(私が……!! いや、誰でもいいんです! 誰か……誰かッ!!)

 

 

 

 

 

 誰かあの人を、助けて──────。

 

 

 

 

 

「……ッ!!」

 

 

 2つの音が戦場に響いた。

 

 1つはバイクの排気音。

 2号のように、あるいはクウガのように、何者かがこの場所に迫っている。

 1つは銃声。

 その銃声の直後、吸血マンモスは大きく怯み、士を解放してしまう。

 何者かの銃弾が炸裂したのだ。

 

 

「っ、あっ……」

 

 

 解放された士は片膝を立てた状態で疲労困憊だった。

 アルティメットDからのダメージに加え、血を吸われ過ぎている。

 それでも何とか立ち上がろうと、生きているのだから戦えると力を振り絞る。

 そんな彼の元に、バイクの音が近づいていた。

 

 バイクの排気音はこの戦場に近づくにつれ、大きくなる。

 同時に、それが2台のバイクから発せられている事が士やW達には分かった。

 倒れそうな士を挟む形で、音の正体である2台のバイクが止まる。

 

 バイクから降り立つ2人の戦士。

 1人は上下3色、上から赤、黄、緑の姿をしていた。

 手に何も持たない彼は、立ち上がろうとする士を支え、起こし上げた。

 1人は赤い宝石のような姿をしていた。

 右手に持った銀色の銃は、士を救った銃弾を放ったものだろう。

 

 士を助けてくれという夏海の望みを叶えた、その2人の名は。

 

 

「貴、様等はァ……!!」

 

 

 吸血マンモスは知っている。

 自分の邪魔をする2人が、宿敵の名を冠した戦士である事を。

 

 

 『欲望』を力とする戦士──仮面ライダーオーズ。

 

 『希望』の魔法使い──仮面ライダーウィザード。

 

 

 2号、メテオ、クウガ、キバーラ、クリス、ダンクーガ。

 続々と現れる味方の連鎖に呼応するように現れた彼等。

 

 『仮面ライダー』の称号を持った、頼もしき戦士達だった。




────次回予告────
舞台に役者が集い始め、戦場の天秤が傾いた。
託した鍵で龍が閃き、鋼鉄の巨人に魔が宿る。
魔がもたらすは希望と混沌。

EPISODE 67 魔法と仲間と英・雄・五・人

未だ脅威は降り立ち続け、けれどその度、何処かで繋がった手が希望となる。
また1つ、煌く白い輝きが、彼等の元へ飛び立った。

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