スーパーヒーロー作戦CS   作:ライフォギア

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第65話 塔・守・乱・戦

 天羽々斬を纏う翼とリュウガンオーはパワースポット内部を歩いていた。

 遺跡のような道が続き、至る所で炎が揺らめき、それが道を照らしている。

 しばらく直進を続けると、翼のヘッドギアとリュウガンオーの通信機から瀬戸山の声が響いた。

 

 

『その先です。強い魔力反応があります』

 

「分かった」

 

 

 しかし、パワースポットでは何が起きるか分からない。

 瀬戸山が言っていたその言葉通りの事が起きてしまう。

 

 歩を進めていくうちに、リュウガンオーが何かの気配に気づく。

 翼もまた、妙な気配に気づいていた。

 天羽々斬から細身の太刀を1本取り出し、ゆっくりと気配のする方向、天井へと顔を向けた。

 

 

「……不動さん」

 

「ああ……」

 

 

 天井には気配の正体が。

 蝙蝠のように、群れとなって天井に逆さで張り付く遣い魔の姿があった。

 

 

「何故、遣い魔が此処に……?」

 

『パワースポットの魔力が生み出した幻影のようなものだと考えられる。

 恐らく、あけぼの町に現れていた遣い魔の姿を模倣したのだろう』

 

 

 翼の言葉にゴウリュウガンが答えた。

 そしてもう1つ、ゴウリュウガンは付け加える。

 

 

『よって、その特性は遣い魔とほぼ同等』

 

 

 天井から降り立つ複数体の遣い魔。

 どれもこれもが「ギジャギジャ」と、普段戦っている遣い魔と変わらぬ声と、変わらぬ動きでリュウガンオーと翼を囲む。

 

 

『つまり、敵だ』

 

「すんなり通しちゃくれないってわけか……!」

 

「不動さん、あまり無理は……」

 

「ああ。だが、できるだけの無理はさせてもらうぜ!」

 

 

 心配する翼の声を受け入れつつも、リュウガンオーは果敢に立ち向かう。

 ゴウリュウガンの銃口が火を吹き、翼の一太刀が遣い魔を切り裂いた。

 パワースポット内部にて、戦いの幕が上がったのだ。

 

 

 

 

 

 一方、激戦と乱戦の続くエネタワー。

 ロッククリムゾンは2号が抑え込んでくれている。

 頼りきりになりたくないとは言ったが、状況が状況だ、背に腹は代えられない。

 大ショッカーが繰り出してきた航空部隊を始めとする怪人軍団は今現在、メテオが半分を引き受けている状況だった。

 カニバブラーを相手にしつつ、上空のプラノドンとギルガラスをメテオストームシャフトで振り払うメテオ。

 

 

(チッ! あっちにこっちに……!!)

 

 

 どれかに気を取られていれば、どれかが襲い掛かってくる。

 一瞬でも気を抜けない。

 勿論、戦闘中に気を抜く気はないが、それにしたって敵が多かった。

 それに今だわらわらと存在しているバグラーや遣い魔の存在もあり、メテオは自由に身動きが取れない。

 

 が、そこにさらなる救援がやってくる。

 それもメテオの『友達』が。

 

 

「うおぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 勇ましい叫び声とともに、2mはありそうな巨体が戦場に突撃。

 勢いそのままに戦闘員達にタックルをかまし、ちぎっては投げを繰り返していた。

 人型の黄色いパワードワーカー。メテオはそれに見覚えがある。

 ダチであり先輩が操縦する、仮面ライダー部の強い味方だ。

 

 

「パワーダイザー!?」

 

「待たせたな、流星」

 

 

 敬礼のような、「キラーン」という擬音が聞こえそうなその仕草はよく知っている。

 仮面ライダー部元部員にして流星の先輩である、大文字隼。

 ちょっと三枚目なところもあるが、頼りになる先輩の1人だ。

 そして戦闘員相手に無双しているパワーダイザーの正パイロットでもある。

 

 パワーダイザーはパイロットが必要なパワードワーカーなのだが、その際に操縦者にかかる負担が尋常ではない。

 鍛えていない人間は長くは乗れないし、鍛えていても長く乗っていると疲労困憊になる代物だ。

 しかし、アメフト部で相当量のスタミナを持つ隼ならば話は別だ。

 彼ならばパワーダイザーで全力を出し、長く戦う事もできる。

 おまけにパワーダイザーの全力は幹部ゾディアーツすらも退けてしまうほどであり、非常に強力な戦力と言えるだろう。

 

 以前に賢吾も言っていたように、しばらく使用していなかったためにメンテナンスを行っていたのだが、そのメンテナンスがつい先日終わった。

 その為、早速前線に投入されたというわけだ。

 

 

「ダイザーのメンテナンスが終わってな。此処からは俺も戦うぞ」

 

「助かる。特に今の状況ではな」

 

 

 周囲を見渡すメテオ。

 と、此処でメテオスイッチに通信が入る。

 メテオスイッチは当時、流星をメテオにした人物と通信を取るためにも用いられていたのだが、既にその通信相手はもう、この世にはいない。

 それを応用し、今は仮面ライダー部と連絡を取れるようになっていた。

 

 

『流星さん』

 

「友子ちゃん! ……久しぶり」

 

『挨拶しに来てくれなかった』

 

「え!? いや、それは急を要したから……」

 

 

 野座間友子からの通信だが、どうにも声がおどろおどろしい。

 何だか怖くてメテオは動揺してしまう。

 実際、メテオは帰国早々戦場に飛び、その後S.H.O.Tに行き、またもや戦場という多忙な状態。

 とてもじゃないが仮面ライダー部のみんなのところに顔を出すタイミングはなかった。

 ちなみに今、仮面ライダー部の面々は特命部司令室にて戦場のサポートを彼等なりに行っている。

 

 さて、流星と友子は仲が良い。

 それは友情という意味ではなく、どちらかと言えば愛とか恋の部類で。

 しかし付き合ってはいないので、『友達以上恋人未満』が2人の関係である。

 

 

『インガさんと仲良くやってるんでしょ?』

 

「いや、友子ちゃん! ちょっと待ってくれ!?」

 

 

 割と露骨に嫉妬されているようではあるのだが。

 そんな戦場には似つかわしくないやり取りの中、友子は笑った。

 

 

『嘘。帰り、待ってるから。頑張って、秘密の仮面ライダー2号さん』

 

「……フッ、ああ! 必ず会いに行く!」

 

 

 かつて、流星は仮面ライダー部に対しても『仮面』を被っていた。

 自分の真の目的も、自分がメテオである事も隠し通していたのだ。

 そしてフォーゼから数えて、仮面ライダー部にとって2番目の仮面ライダー。

 故に、友子はメテオの事を『秘密の仮面ライダー2号』と呼んでいるのだ。

 

 そんなやり取りを聞いていた隼は、パワーダイザーのコックピットでニヤリと笑っていた。

 

 

「好きな人にいいところを見せたいのは、お互い様だな」

 

「……いや、別にそういうのじゃ……」

 

「よぉっし!! 俺も美羽にカッコいいところを見せないとなッ!!」

 

「少しは話を聞いてくれ!?」

 

 

 学生みたいな軽いやり取りをしつつも、パワーダイザーとメテオは周囲の敵を蹴散らしていく。

 流石に幹部を相手できるだけあり、パワーダイザーの力は凄まじい。

 おまけに巨体なので、戦闘員程度なら腕を振るってるだけでも十分に倒せるほどだ。

 それでいて鈍くない。むしろ機敏だ。

 

 

「チィッ、厄介な……!」

 

 

 吐き捨てるようなカニバブラーの発言を聞き、メテオストームシャフトを構えたメテオは鼻でそれを笑った。

 

 

「随分弱気だな? それで勝てると思ってるのか?」

 

「ほざくなァッ!! プラノドンッ! ギルガラスッ!」

 

 

 挑発に怒ったカニバブラーの号令の元、空中より2体の怪人の攻撃が迫る。

 口からミサイルを飛ばすプラノドンと、薙刀を携えて急速接近してくるギルガラスが。

 だが、その攻撃はどちらもメテオに届く事は無かった。

 

 ミサイルはパワーダイザーが振るった左手に弾かれてあらぬ方向に飛んでいき、戦闘員達の群れに着弾し、数体の戦闘員をふっ飛ばした。

 ギルガラスはパワーダイザーが伸ばした右手が捕まえ、それを地面に容赦なく叩きつけた。

 

 

「グッ、エッ……!!?」

 

 

 声にならない呻き声を上げるギルガラス。

 パワーダイザーは巨体だ。怪人1体程度、片手で掴む事もできる。

 そしてそのパワーで地面に叩きつけられれば、大ダメージは必至だ。

 

 

「大文字先輩ッ! 俺を空にッ!!」

 

「分かった!」

 

 

 直後、メテオが隼に叫ぶ。

 そしてその言葉だけで全てを察した隼はパワーダイザーをくるりと一回転させ、その道中でメテオを掴み、回転の勢いのままにメテオを上空に投げ飛ばした。

 勿論、適当にではない。狙いは未だ上空にいるプラノドンだ。

 メテオはパワーダイザーの力で放たれた豪速のままプラノドンへ迫っていた。

 突然の接近にプラノドンは対応できず、下から尋常でない速さで迫ってくるメテオに怯んでしまっている。

 

 

「グッ!?」

 

「ホワチャアッ!!」

 

 

 投げ飛ばされたメテオは一瞬だけプラノドンよりも高い位置に陣取った。

 そしてその位置からメテオストームシャフトを思い切り叩きつける。

 落下と振り下ろし、双方の勢いが乗ったメテオストームシャフトの一撃を脳天に受けたプラノドンは地上へ落下。

 土煙と轟音を伴い、プラノドンはアスファルトを砕きながら地面に倒れ伏してしまった。

 

 

「お、のれェ……!!」

 

 

 苦し紛れに声を上げるプラノドンではあるが、ダメージが抜けきっていない。

 流石の怪人でも仮面ライダーからの攻撃で高空から叩きつけられればそうもなる。

 そしてメテオはその隙を見逃すほど甘い仮面ライダーではない。

 

 

「止めだッ!」

 

 

 上空より落下しつつ、メテオはメテオストームスイッチをベルトから引き抜き、メテオストームシャフトにスイッチを装填する。

 メテオ、必殺の一撃の前フリだ。

 

 

 ────LIMIT BREAK!────

 

 

 音声の後、メテオストームスイッチに『ストームワインダー』という紐を装着する。

 その後、メテオはストームワインダーをスイッチから一気に引き抜いた。

 メテオストームスイッチに取りつけられた風車、『ストームトッパー』が激しく回転。

 そしてそれを地上に向けた状態でスイッチの側面ボタンを押した。

 メテオ必殺の一撃の掛け声と共に。

 

 

「『メテオストームパニッシャー』ッ!!」

 

 

 メテオストームスイッチから回転ゴマのようにストームトッパーが分離し、地上へ向けて高速回転しながら落下していく。

 直後、ストームトッパーは地上に叩き伏せられたギルガラスとプラノドンへ容赦なく襲い掛かり、素早い動きで2体を連続で切り裂いた。

 メテオストームパニッシャー。それはメテオストームの姿でのみ放てる必殺技だ。

 メテオは着地後、ストームトッパーを元の位置であるスイッチに回収。

 そしてプラノドンとギルガラスは何度も切り裂かれた結果、爆砕した。

 

 

「お前もだッ!!」

 

 

 メテオストームシャフトを振るいながら、再びストームトッパーを射出。

 目標はカニバブラー。必殺技を彼へ向けて方向転換させたのだ。

 しかし、カニバブラーは左手の巨大なハサミでそれを捌ききっていた。

 何度か切り裂かれつつも、甲殻類であるカニの特性を併せ持ったカニバブラーはそれに耐え、ストームトッパーの攻撃をハサミで防御していた。

 

 

「俺はそう簡単にはやられんぞォッ! 仮面ライダーァッ!!」

 

 

 メテオストームパニッシャーを防ぎきるのは容易ではない。

 それを防御し続ける辺り、カニバブラーも決して弱い怪人ではないのだろう。

 だが、メテオは焦る事無く次の行動に移っていた。

 ストームトッパーに気を取られているカニバブラーを余所に、メテオは普通のメテオスイッチをメテオドライバーへセットし、スイッチをオンにした。

 

 

 ────METEOR! ON! Ready?────

 

 ────METEOR! LIMIT BREAK!────

 

 

 メテオドライバーの中心にある天球儀を回し、メテオは構えた。

 左足に集う青き光と共に、メテオは跳び上がって蹴りの体勢を取る。

 嵐を纏い進化した流星が放つ、必殺の一撃。

 メテオストームによるメテオストライクが、カニバブラーを狙った。

 

 

「ホォォォォワチャァァァッ!!」

 

「ゴォ、ガァァァッ!!?」

 

 

 ストームトッパーの連続攻撃を防いでいるところに放たれた必殺の蹴り。

 メテオの蹴りはカニバブラーの防御をすり抜け、胴体へ直撃。

 ストームトッパーが囮の役割を果たしていたという事だろう。

 叩きこまれた蹴りの後、メテオはカニバブラーを足場に後ろへ下がるように跳ねた。

 着地後、メテオストームシャフトを構え直しながらメテオは苦しむカニバブラーから目を逸らした。

 ただ1つ、言葉を添えて。

 

 

「お前の運命(さだめ)は、俺が決める。お前には事後報告だがな」

 

 

 カニバブラーもまた、メテオストライクの一撃に耐えられずに爆散。

 メテオはそれを見る事も無い。確実に倒したという確信があったから。

 パワーダイザーの助けもあったとはいえ、3体の怪人を退けたメテオは早々に気持ちを切り替え、戦闘員達へと思考を集中させた。

 倒した敵の事など考えている暇はない。

 パワーダイザーと共に、メテオは戦場を駆け抜け続ける。

 

 

 

 

 

 メテオが怪人と戦っていたのと同じ頃、ゴーバスターズはレディゴールドと戦っていた。

 レディゴールドの強さは何も速さだけではない。

 彼女は本来策謀を巡らせるタイプなので頭も良い、敵を惑わす術にも長けている。

 しかもロッククリムゾン程ではないにせよ、幹部クラスと言って差し支えの無い白兵戦での実力も持っていた。

 

 

「チッ!」

 

「フフッ!」

 

 

 超高速の中での戦闘。

 レッドバスターのソウガンブレードがレディゴールドのステッキと火花を散らす。

 両者共に高速移動を一旦解き、距離を取って睨み合った。

 

 

「私のスピードについてこられるのは褒めてあげる。でもね、それだけ?」

 

「…………」

 

 

 煽るレディゴールドに対し、マスクの奥でムッと顔を顰めるレッドバスター。

 悔しいが事実だ。

 現状、レッドバスターだけでレディゴールドを攻略する事は難しい。

 

 

「ヒロム、どうする?」

 

「もう! メタロイドはすぐそこなのに……!」

 

 

 冷静に務めるブルーバスター。

 目と鼻の先にいるスチームロイドを見て、歯痒さを感じているイエローバスター。

 スチームロイド撃破が現状最優先の任務だ。

 目的の敵がいるのに手が届かないのは何とももどかしい。

 しかし、功を焦って突破できる程、レディゴールドも甘くはないのだ。

 

 

「気持ちは分かるが、今はレディゴールドだ。……リュウさん、ヨーコ」

 

 

 レッドバスターが2人に近づくように促し、ゴーバスターズの3人は小声で作戦会議を始めた。

 勿論、レディゴールドに攻撃されないように警戒は解かない。

 そして必要最低限の事を極短時間で伝えるだけだ。

 時間にして僅か数秒。そして内容を聞いたブルーバスター、イエローバスター両名は小さく首を頷かせる。

 

 3人はそれぞれに武器を構えた。

 レッドバスターは新たにイチガンバスターを転送し、両手にソウガンブレードとイチガンバスターを。

 ブルーバスターは素手のまま。

 イエローバスターはイチガンバスターを。

 

 先程とそう変わらない武装と構えを見て、レディゴールドは怪しく笑う。

 

 

「面白い小細工でもしてくれるのかしら?」

 

「さて、な!」

 

 

 レッドバスターが高速移動に入った。

 対抗するようにレディゴールドも高速移動に入る。

 言ってみれば高速移動はレッドバスターとレディゴールドが1対1になる為の場だ。

 どちらかが高速移動に入れば、対抗の為にもう片方も高速移動せざるを得ない。

 

 ソウガンブレードと黄金のステッキが火花を散らせたかと思えば、次の瞬間には数百m先の場所で金属音が鳴り響く。

 そんなレベルで場所を目まぐるしく変えながら赤と金が戦場を駆け巡っていた。

 

 

「ッ!」

 

 

 激しい剣捌きでレッドバスターはラッシュをかけた。

 突然の挙動の変化にレディゴールドは防御に転じる。

 攻撃を防ぎつつ、その勢いのせいで後ろに下がる事を余儀なくされるものの、全ての攻撃を防ぎきっていた。

 この競り合いも全て高速の世界で行われている。

 ブルーバスターもイエローバスターも、2人の姿は見えていない。

 

 

「こんなものぉ?」

 

「此処だッ!!」

 

 

 挑発を無視しながらイチガンバスターの引き金を引いたレッドバスター。

 だが、その光弾はレディゴールドを大きく外し、レディゴールドの斜め後ろに着弾。

 大暴投にも近い攻撃。

 レディゴールドはちらりと着弾点を見やりながら、それを鼻で笑った。

 

 

「何処を狙って……ッ!?」

 

 

 瞬間、レディゴールドの表情は驚愕の色に染まる。

 着弾点の近くには、腕を振り上げたブルーバスターがいた。

 イチガンバスターの攻撃で焦げた後の残るアスファルト。

 その一点に向けて、ブルーバスターは握った拳を振り下ろす。

 

 

「GOッ!!」

 

 

 ブルーバスターが叩いた地面から衝撃が広がっていく。

 アスファルトが砕け、前方へ広がる衝撃波はレディゴールドをも巻き込んだ。

 衝撃のせいで宙に浮きあがり、まるで無重力のような状態に囚われてしまったレディゴールド。

 高速移動自体は宙に浮いていても問題なくできるのだが、衝撃波の檻のせいで身動きが完全に取れなくなってしまっていた。

 

 此処でようやく理解した。

 何故、レッドバスターがいきなり動きを変えて激しい攻撃を行ってきたのか。

 何故、イチガンバスターを外したのか。

 

 

(私を後退させてあの場に無理矢理移動させるためッ……! さっきの銃が合図ッ!?)

 

 

 元々、あの場所に誘き寄せるためのレッドバスターとの1対1。

 そしてイチガンバスターでブルーバスターに攻撃のタイミングを、着弾点で攻撃の場所を指示した。

 その結果が、今のレディゴールドの状態という事。

 誘き寄せるレッドバスター。動きを止めるブルーバスター。

 そしてもう1人、ゴーバスターズは残っている。

 

 

「ハアァァァァッ!!」

 

 

 いつの間にか跳んでいたイエローバスターが上空より、重力の勢いを加えて右足を突き出した跳び蹴りの構えへと移行する。

 それは宙に浮かんでいるレディゴールドの脇腹目掛けて、見事にヒットした。

 

 ブルーバスターが起こした衝撃波による一瞬の無重力のような状態。

 その僅かな間に、イエローバスターは既に蹴りの体勢へと入っていたのだ。

 そしてレディゴールドが衝撃波の檻から解放されるのとほぼ同タイミングで蹴りの一撃。

 しかも、イエローバスターの能力は『脚力強化』。

 その威力は跳躍だけでなく、蹴りでも十分に発揮される。

 

 

「ぐっ、あぁぁッ!!?」

 

 

 脇腹へのクリーンヒットを貰って吹き飛ぶレディゴールド。

 レッドバスター1人では勝てない相手だろう。

 だが、ゴーバスターズはそもそも個人ではなくチームである。

 コンビネーションを想定して動き、複数での戦い方に長けている。

 1人で駄目ならコンビネーションで対応するのが彼等のやり方なのだ。

 

 イエローバスターの蹴りの直後、ゴーバスターズの3人は横に並び立つ。

 唯一イチガンバスターが手元にないブルーバスターはそれを転送させ、3人は同時にイチガンバスターを構え、操作した。

 

 

 ────It's time for buster!────

 

 

 エネトロンがチャージされ、3つのイチガンバスターは吹き飛んだレディゴールドを正確に狙う。

 そして、3人のバスターズは引き金を同時に引いた。

 レディゴールドは吹き飛んだ後、地面に叩きつけられる前に何とか体勢を立て直し、膝立ちの姿勢で着地に成功していた。

 だが、そんな彼女が次に前を向いた時に見たのは、自分に迫る3つの閃光。

 

 イチガンバスターから発射された強烈な3つの光線がレディゴールドに着弾。

 爆発と共に煙が上がり、その姿が見えない。

 

 

「やったか……」

 

 

 レッドバスターが呟く。

 当たりはした筈だ。外れたなら、そもそも着弾による爆発が起こる筈がない。

 爆炎を一切の油断は無しに睨み付けるゴーバスターズ。

 必殺の一撃を叩きこんだとはいえ、完全に仕留めたか分からないからだ。

 そしてそんな嫌な意味での予感は当たってしまっていた。

 

 爆発による煙を切り開くように、黄金女王が煙の中からゆらりと現れた。

 足取りはフラついているが、苦々しく唇を噛みながらゴーバスターズを睨むだけの体力はあるらしい。

 

 

「やってくれたわね……。この借り、いずれ返すわよ」

 

 

 テンプレートとも言えるような捨て台詞。

 直後、レディゴールドの姿は消えた。どうやら撤退したようだ。

 耐えこそしたものの、流石のレディゴールドも状況不利だと思ったのだろう。

 そして今回の作戦はヴァグラス主導のもの。

 他組織の作戦に自分の身を削ってまで参加する義理は無い、という事か。

 あくまでもヴァグラスとジャマンガの関係は、お互いの利害の一致によるものである。

 決して信頼関係のようなものは無い。

 仲間の相談に乗るとか、助け合うとか、そんな感情は一切存在しないのだ。

 

 

「……急ごう、次はメタロイドだッ!」

 

 

 スチームロイドへの道を邪魔するものはいなくなった。

 一方ですぐ近くにいたスチームロイドも、自分を守護していたレディゴールドの撤退を見ていたようで。

 

 

「んだよッ! 仕事放棄とは感心しねぇぜ!」

 

 

 怒鳴り声を上げながらベルトコンベア型の腕を振り回すスチームロイド。

 工場から生まれたメタロイドな為か、性格も仕事場の上司のようなものであるらしい。

 ともあれゴーバスターズは目当てのスチームロイドに漸く辿り着いた。

 本当の戦いは、此処からだ。

 

 

 

 

 

 一方、立花響。

 ノイズ相手に奮戦する彼女だったが、今、彼女は別の存在から喧嘩を売られている。

 

 

「ウアッウアッ! 食らえぇィッ!!」

 

「う、あッ!!」

 

 

 稲妻を食らい、体に流れる電撃に悶える響。

 敵の名前はエイキング。

 名前通りのエイの怪人であり、稲妻を操り、空も飛べる相手だ。

 エイキングは自由に稲妻を発生させ、それを使って敵を攻撃する。

 

 稲妻は別に光速なわけではない。

 現象としての『稲妻』というものが発光していて、その光は確かに光速だ。

 つまり『稲妻』という現象自体はもっと遅い速度である。

 だが、遅いと言っても比較対象は光速。

 当然ながら人間感覚で言えば凄まじい速さである。

 

 エイキングは稲妻を操る。

 そしてそれは回避できるような速度ではない。

 シンフォギアの防御性能ならば稲妻を受けても死にはしないが、流石に平気というわけにはいかない。

 

 では、反撃に転じたい。

 しかしそれが簡単に行かない理由があった。

 

 

「どうしたァ? 手も足も出ないか、小娘が」

 

「くっ……!」

 

 

 エイキングは悠々と空を飛んでいるのだ。

 彼はプラノドン達同様、大ショッカー航空部隊のメンバー。

 飛翔能力を持ちながら稲妻を操るエイキングは、空中から爆撃のように稲妻を落としてくる。

 対して響は高いジャンプこそできるものの、基本的には接近戦主体だ。

 はっきり言って、相手が悪すぎる。

 今の響にとってエイキングは、下手をすればロッククリムゾンよりも強敵だ。

 

 

「ウアッウアッ……このまま嬲り殺してくれるわッ!」

 

(何とかしないと……。でも、空飛ぶ相手に対しての映画なんて見てないし……)

 

 

 映画は何でも教えてくれる。敵の攻略法だって何のその。

 とはいえ対空中戦用映画は未見だ。

 そんな響が思いつく攻略法と言えば、空を飛べるようになるか、遠距離からのミサイルとか銃での迎撃。

 響が使っている今のガングニールにそんな性能は無い。

 

 せめてアームドギアが手にできれば、と響は思わずにはいられない。

 2年前のライブ会場で見た、前任ガングニール装者である奏の戦い。

 あの時、奏は槍を構え、それを投擲したり竜巻を起こしたりと色々していた。

 それができれば空中戦もこなせるのだが。

 

 

「走れ、稲妻ァッ!!」

 

「うぅ、あぁぁぁッ!!?」

 

 

 考え事をしている内に稲妻を浴びてしまう響。

 警戒していたので防御態勢こそできていたものの、体中を駆け巡る電流相手に防御はあまり意味をなさない。

 電流が流れ切った後、ガックリと膝をついてしまう響。

 このまま何度も受けていたら流石にもたない。

 

 空を飛べる仲間達もそれぞれに戦っている。

 メテオはプラノドン含めて3体も相手にしているし、フォーゼも他の面々が怪人を相手にしている影響で無数の戦闘員相手に奮戦している状態だ。

 射撃で打開したいところだが、それができるゴーバスターズはレディゴールドと戦い、ディケイドとWもアルティメットD相手に手が離せそうにない。

 

 

(このままじゃ……ッ!!)

 

 

 助けは期待できない。

 打開策は思いつかない。

 それでも、此処で自分が倒れるわけにはいかないと諦めない。

 

 そんな諦めない気持ちが起こしたのかは分からない。

 ただ、間違いなく最高のタイミングでそれは起こった。

 

 

 ────聖詠────

 

 

 戦場に鳴り響く、響とは違う『歌』。

 間違いなくそれは聖詠であり、聖詠とはシンフォギアを纏う為の歌である。

 その声、その歌、響の耳には聞き覚えがある。

 

 

「食らえッ!!」

 

 ────MEGA DETH PARTY────

 

 

 声のした方向から放たれたミサイルの群れ。

 それらは全てエイキングを狙い、逃げるエイキングを追尾し続けた。

 遂にミサイルはエイキングに着弾。

 爆炎の中から落下という形で姿を現すエイキングは、そのまま地上に激突。

 怪人だけあってそれだけで死ぬ事は無いが、ダメージは十分に与えただろう。

 

 そして、ミサイルを発射した張本人が現れた。

『彼女』はジャンプしてきたのか、響の近くに着地。

 顔は無表情というよりかは、どちらかというとムスッとした感じだ。

 響の方へ顔を向ける事も無く、エイキングの事しか目に入れていない。

 今もって敵とも味方とも付かぬ、それでいて響達は友達になりたいと思っている彼女。

 そんな彼女が、思いがけぬ増援としてやってきたのだ。

 

 彼女の名は雪音クリス。

 イチイバルの聖遺物を身に纏う少女だ。

 

 それを見た響の表情は、怖い表情のクリスと正反対に笑顔だった。

 

 

「クリスちゃん!」

 

「んだよ、早々に耳元でうっせぇ」

 

「だって助けに来てくれたんでしょ? 嬉しいよ!」

 

「バッ、勘違いすんなッ! 私はただ……ッ!!」

 

「ただ?」

 

「ッ……。なんでもねぇッ!!」

 

 

 グイグイ迫ってくる響を振り払い、クリスは立ち上がろうとするエイキングをキッと睨んだ。

 

 

(此処にいるアイツ等と一度でも手を組んだ罪が消えるなどと思っちゃいねぇ……。

 それでも、あたしの起動させちまったソロモンの杖が操ってるノイズまでいる。

 だったら何もしないわけにはいかねぇだろうが……ッ!!)

 

 

 響が大分片付けたが、周囲にはノイズがちらほら残っている。

 統制された動き、この乱戦の中にタイミングよく発生している事から見ても、間違いなくソロモンの杖によるものだ。

 ソロモンの杖はクリスの歌声で起動している。

 だからこそ、クリスは責任を感じていた。

 

 その上、デュランダルを巡る戦いの際にクリスはヴァグラス、ジャマンガ、大ショッカーと組まされた。

 その後もヴァグラスと二面作戦を展開する事もあった。

 クリス本人は争いを憎み、無関係な誰かが傷つく事を嫌う。

 当然、人間を傷つけるヴァグラス達など論外もいいところだ。

 そんな奴等と、事情はどうあれ組んでしまった過去をクリスは悔やんでいた。

 幾らフィーネに良い様に使われていただけとはいえ、罪の意識をクリスは背負っていた。

 

 エネタワー周辺が戦場となり、周辺住民の避難が行われている事。

 二課が鳴らしたであろうノイズの警戒警報まで鳴った事。

 これらエネタワーを中心とした大規模な騒動は根無し草のクリスにも伝わった。

 だからクリスは此処に来た。

 罪を償う為、自分のしてしまった過ちを自分の手で、少しでも撃ち貫くために。

 

 

「じゃあクリスちゃん、協力しよう!」

 

「ハッ、あたしはあたしで好きにやらせてもらうッ!」

 

「え、あれッ!?」

 

 ────魔弓・イチイバル────

 

 

 クロスボウを両手に構え、歌を口にしながら、クリスは1人で飛び出してしまう。

 あっ、と声を出しながら手を伸ばす響だが、クリスはエイキングと交戦状態に入ってしまった。

 既にかなり大きなダメージを貰っているエイキングに対し、クリスはエネルギーの矢を連続で発射し、絶え間なく攻撃をし続けていた。

 矢は避けても次の一撃がすぐに放たれ、食らえばそこから攻撃が立て続け。

 とにもかくにも矢のせいで自由に動きがとれなくなってしまったエイキングは防戦一方。

 

 雪音クリスは強かった。

 響やフォーゼと戦った時も、相手が話し合いを求めていたとはいえ、2対1で戦って見せた事もあるのだから。

 

 クリスの言葉は置いて置き、響が「とりあえず、私も加勢しないと」と、自分も参戦しようとした時、声をかけてくる人がいた。

 

 

「響ちゃん!」

 

「へっ? あ、夏海さん!?」

 

「はい。久しぶり……って程じゃないですね」

 

 

 あまり時間は経っていないが、咲と舞の喧嘩の一件以来の再会。

 仮面ライダーキバーラこと夏海は戦闘員を蹴散らしている内に戦っている響の姿を見つけ、此処までやって来たのだ。

 キバーラは重火器を扱う初めて見る女の子の方を見た。

 響と話していたようだが、一体誰なのかと。

 

 

「あの子も響ちゃんのお友達ですか?」

 

「えっと……これからそうなる予定ですッ!!」

 

「?」

 

 

 共闘しようとしている割には妙な返答に首を傾げるが、複雑な仲か何かなのだろうとキバーラはとりあえず納得した。

 士と海東だって最初はとても仲間といえる間柄ではなかったが、いつの間にやら共闘するようになったし、そういう事なのだろうと。

 

 ともかく会話も長くしているわけにはいかず、2人はエイキングと戦うクリスに手を貸す為に彼女の元へ駆けた。

 クリスは矢のエネルギー弾に腰部アーマーからのミサイルを交えて攻撃を行い、その威力でエイキングを再び遠くへ吹き飛ばす。

 そこに響とキバーラが合流した。

 

 

「とにかく! クリスちゃん、手伝うよ!」

 

「好きにやらせてもらうって言った筈だ、お前はお前で戦えってんだ。

 で? そっちのアンタは何モンだ。またライダーかなんかじゃねぇだろうな」

 

「はい。私は光夏海、仮面ライダーキバーラです。クリスちゃん、って言うんですね?」

 

「フン、言っとくがあたしはお仲間ってわけじゃねぇからな。勘違いすんなよ」

 

「え、あ、はぁ……?」

 

 

 つっけんどんな態度は変わる事無く、クリスはキバーラに対しても突き放す様な態度だ。

 そのわざと突き放そうとする態度、わざと関わらないようにするような言葉。

 実のところキバーラはそういうのに多少耐性があった。

 何せ、いちいち皮肉や悪態をついてくる士と旅をしていたのだ。

 この程度の言葉でおたついていては、彼の相手などできるわけがない。

 そんなわけで、キバーラはクリスの言葉に一瞬戸惑いつつも、すぐにどういう子なのかを把握した。

 

 

(素直じゃない子、何ですかね?)

 

 

 クリスが知ったら「ちげぇッ!?」と怒鳴りそうな把握の仕方だが。

 素直じゃないのは士も一緒。

 今更物怖じする必要もないし、敵でないなら問題は無い。

 そんなわけで、思いのほか早くキバーラは雪音クリスという少女に順応したようで。

 

 

「ならクリスちゃん、一緒に戦いましょう」

 

「ってオイ、聞いてなかったのか? あたしはダチでも仲間でも……」

 

「敵は一緒です。私達が争う理由も無いんですよね?

 じゃあ、いいじゃないですか。今だけですから、ね?」

 

「……チッ、足引っ張んじゃねぇぞ」

 

 

 ぐいぐいと推す響や弦太朗とは違う、やんわりとした物言い。

 どちらかと言えば丸め込むような発言でクリスから上手く共闘の了解を取り付けたキバーラ。

 なお、キバーラ自身が意識してやってわけではないが、『今だけ』と言う事がミソである。

 この一言により『仕方なく今回だけ共闘する』というニュアンスが生まれ、素直じゃない人でも「じゃ、じゃあ仕方ないな」と協力を承諾しやすくなるのだ。

 士や大樹を見てきたからこそのキバーラの言葉。

 横で聞いていた響は密かに感銘を受けていた。

 

 

(はぇ~、クリスちゃんを納得させちゃった。ああ言えばいいのかぁ……)

 

 

 今度私も使ってみようと密かに思う響だった。果たして響で上手くいくかは、また別の話だが。

 一方、吹き飛ばされたエイキングは既に立ち上がり臨戦状態にまで復帰。

 既に空へ飛び立とうと翼と一体化した腕を動かしていた。

 が、会話の直後でもそれを見逃す様なクリスではない。

 

 

「させるかッ!!」

 

「グギィッ!!?」

 

 

 クロスボウの引き金を引いて矢を放ち、正確にエイキングの左腕を撃ち抜いた。

 羽ばたけなくなったエイキングは左腕を右手で抑えながら一瞬悶えるものの、すぐにその眼光を蘇らせ、女性3人組を睨んだ。

 

 

「こ、むすめどもがァッ! 走れ、稲妻ァッ!!」

 

 

 しかし飛ぶだけがエイキングの能ではない。

 全身から発生した稲妻はエイキングの意のままに、3人に向けて放たれる。

 速度を考えれば避ける事はできない。できるのは耐える事だけだ。

 両腕をクロスさせるものの、電撃そのものは身体に伝わる。

 かと言ってそれだけで倒れ伏せる程、彼女達もやわではない。

 何より、エイキング自体が手負いな為か、響が食らっていたそれよりも電撃の威力は落ちていた。

 

 

「ん、の野郎ッ!!」

 

 

 故にすぐさま反撃に転じられる。

 電撃が収まったところで、クリスがクロスボウでエイキングを狙う。

 しかし狙いこそ正確でも、攻撃された直後の反撃で初動が遅れてしまっていた。

 エイキングは跳躍して自分を狙ったエネルギーの矢を躱し、それらはエイキングが元いた場所へ着弾した。

 

 跳躍の途中から飛翔に転じようとするエイキング。

 再び上空からの稲妻で仕掛けてくるつもりなのだろう。

 クリスのミサイルも、先程のような不意打ちでなければ全方位の稲妻で全て撃ち落とせる。

 そう考えての飛翔の体勢。

 が、飛翔姿勢に移る一瞬の隙を正確に突くものが1人。

 

 

「ハアァァァァァッ!!」

 

「グッ、オォォッ!!?」

 

 

 高速で接近し、地面から離れていたエイキングを地面に叩きつけるようにぶん殴ったのは立花響。

 彼女は特に何を考えていたわけでもない。

 クリスの攻撃を躱したエイキングを見て、上空に飛ばれると厄介だから追おうとした、ただそれだけ。

 躱されたクリスの攻撃が陽動となり、急接近した響が一撃をぶちかます。

 偶然にも彼女達の攻撃が奇跡的に噛み合ったのだ。

 

 

(今なら!)

 

 

 クリスの攻撃を数度浴び、響の一撃で地面に無理矢理叩きつけられたエイキングはそう簡単に立ち上がれない。

 大きな隙が生まれた瞬間、キバーラは右手に持ったサーベルを逆手に持ち替え、構える。

 サーベルが薄紫の輝きに包まれたかと思えばキバーラの背中にも同じ色をした光の翼が出現。

 その翼をはためかせて飛翔したキバーラは、立ち上がろうとしていたエイキングへ突進した。

 

 

「グウッ!?」

 

「ヤアァァッ!!」

 

 

 女性らしい声ながら気合の入った一声。

 すれ違いざま、逆手に持ったサーベルがエイキングの胴体を斬り裂いた。

 仮面ライダーキバーラの必殺技、『ソニックスタッブ』。

 女だからと馬鹿にしてはいけない。

 他のライダーと同じく怪人に炸裂すれば、その一撃は間違いなく必殺である。

 

 胴体を切り裂かれたエイキングは爆砕。

 腕で顔を庇うような姿勢で爆風をやり過ごす響とクリス。

 そして爆発の向こう側には、光の翼が消えて地面に降りたったキバーラが背を向けて立っていた。

 キバーラは2人に振り向くと左手で小さなガッツポーズを取って見せた。

 

 

「やりましたね!」

 

「はいッ!」

 

「フン……」

 

 

 キバーラの声に同調する響。素っ気なく顔を背けるクリス。

 クリスの態度にも気を悪くする事なく、それどころか士のつっけんどんな態度を思い出して「フフッ」と笑う様子まで見せた。

 尤も、そんな風に笑っている余裕は極僅か。

 仮面の奥の顔はすぐに凛々しい顔つきへ変わり、キバーラはサーベルを再び順手に持ち替え、周囲の戦闘員へ斬りかかる。

 

 

「私達も行こう、クリスちゃん!」

 

「あたしはあたしでやるって言ってんだろッ!」

 

 

 キバーラに続いて響が拳を振るい、クリスがクロスボウを周囲の敵へ向ける。

 口ではどうこう言いつつも、決してクリスは響やキバーラに銃を向ける事は無い。

 その意地っ張りな態度のせいでコンビネーションなど取れたものではない。

 それでも彼女は、間違いなく強力な助っ人であると言えるだろう。

 

 

 

 

 

 それぞれの戦場と同じ頃、キバーラと手分けして戦闘員を片付けていたクウガもまた、怪人と戦っていた。

 キバーラは響と、何やら赤い姿の女の子と合流している様子だが、クウガにそちらを気にする余裕はない。

 相手の名はドクガンダー。空を飛ぶ蛾の怪人だ。

 大ショッカーの空飛ぶ怪人軍団の1人だけあり、敵は常に飛行し、それでいて指先から強力なロケット弾を発射してきている。

 

 

(せめて銃っぽいのが落ちててくれればなぁ……!)

 

 

 クウガには『緑のクウガ』、正式名称『ペガサスフォーム』という姿がある。

 様々な感覚が研ぎ澄まされ、耳や目といった感覚器官が強化される。

 それこそ透明な敵を足音だけで見つけるとか、遥か上空の敵を射抜く事など造作もない程に。

 そしてペガサスフォームには固有の武器、『ペガサスボウガン』がある。

 しかしクウガの周囲の物体を武器に変えるという特性は当然ながらペガサスフォームにも適用され、『銃を連想させるもの』が無ければ得物を手にする事ができないのだ。

 水鉄砲でも何でもいいのだが、そんなものが都合よく落ちているわけがない。

 

 武器の無いペガサスフォームは戦闘に向かない。

 感覚器官の強化もあって遠距離戦が得意なのだが、その遠距離戦をするための武器が無いのだ。

 そういうわけもあってクウガは攻めあぐねていた。

 

 

「逃げてばかりか、ライダーッ!!」

 

「俺だって反撃したいけど、さッ!!」

 

 

 回避に専念しているだけあり、クウガに攻撃は当たらない。

 ロケット弾が当たらない事にイラつくドクガンダーは挑発のようにクウガを煽るが、気に留める様子もなく、上空からの攻撃を躱していく。

 

 

(せめて、何かしら銃が……?)

 

 

 周囲の戦闘員を蹴散らして動けるスペースを確保しつつ、ドクガンダーの攻撃を躱しつつ、辺りを見渡すクウガ。

 そこで彼の目に入ったのは、この戦場に来た時に最初に会ったゴーバスターズだ。

 彼等はレディゴールドを退け、現在はスチームロイドと交戦中。

 レッドバスターがスチームロイドと戦い、残り2人が周囲の戦闘員を受け持って、レッドバスターの1対1を邪魔させないようにしている様だ。

 

 が、クウガが気にしているのはそこではない。

 とにもかくにもこのままでは埒が明かないので、クウガは一旦、青の姿、ドラゴンフォームに変身して俊敏性を強化。

 走った後に横跳びに近い跳躍をして、ゴーバスターズ達へ一気に近づいた。

 当然、それについていくように上空のドクガンダーもついてきてしまうのだが。

 

 青いクウガは同じく青い姿のブルーバスターに近づき、詰め寄るように近づいた。

 

 

「なあ! その銃、貸してくれないか!?」

 

「貴方はさっき会った……。分かりました、どうぞ」

 

「サンキュー!」

 

 

 流石はプロというべきか話が早く、ブルーバスターは戦闘員掃討に使っていたイチガンバスターをクウガに手渡した。

 イチガンバスターやソウガンブレードは基地内に予備があるので、呼び出そうと思えば幾つか呼び出すことができるので困らない、という事もあるのだろう。

 

 

「食らえィッ!!」

 

 

 そんなやり取りの最中でもドクガンダーはお構いなくロケット弾を発射してくる。

 クウガを狙ってのものだったが、近くにいたブルーバスターも巻き込まれる形となってしまい、2人は同時に回避行動をとった。

 それぞれ左右に転がった2人。

 そしてイチガンバスターを受け取っているクウガは、その姿を変える。

 

 

「……超変身ッ!」

 

 

 一瞬、息を落ち着かせてからの変身。

 ペガサスフォームは感覚強化のフォーム。

 それだけに目や耳から入ってくる情報量が通常のそれとは比較にならない程で、それに耐える為、情報を取捨選択する必要がある。

 その為には集中力が必要で、ペガサスフォームになる事自体、それなりに神経を使うのだ。

 

 クウガは青から緑へ、ペガサスフォームへと変化。

 さらに手にしていたイチガンバスターもペガサスボウガンへ変わった。

 

 即座にクウガはペガサスボウガンのトリガーレバーを引いた。

 すると、ペガサスボウガンの前部にある弓のような部分が、文字通り弓のように引き絞られる。

 そしてクウガはそれを構え、上空を舞うドクガンダーを狙った。

 

 

「何になろうとも無駄だァ!!」

 

 

 遥か上空のその声も聞こうと思えば聞こえるが、今のクウガにそれを聞く余裕はない。

 クウガを狙って、ドクガンダーの指先から発射されるロケット弾。

 しかしクウガは回避行動をとらず、ただ狙いを定め続けた。

 

 緑のクウガには見えていた。

 複数個発射されたロケット弾の内、近くに着弾するものが数発、直撃が1発。

 真正面から向かってくるロケット弾が直撃コースのそれだ。

 それでもクウガは怯まず、動かない。

 

 

「ッ!」

 

 

 ペガサスボウガンの引き金を引いた。

 圧縮された空気弾が発射され、それは正確に、直撃コースに乗っていたロケット弾に命中。

 さらにロケット弾を貫通した空気弾は、その一直線上にいたドクガンダーにまで命中した。

 ペガサスフォーム必殺の一撃、『ブラストペガサス』はドクガンダーに致命的なダメージを与えたのだ。

 

 

「アッ、グゥッ!?」

 

 

 突然の衝撃。痛みに落下したドクガンダーは、上空で爆散。

 直後、クウガは息を吐いて肩の力を抜きつつ、赤いマイティフォームへ戻った。

 それに伴いペガサスボウガンもイチガンバスターに戻る。

 これが緑のクウガ。一撃必殺で相手を仕留める姿だ。

 

 とはいえ休んでいる暇もなく、クウガはそのままゴーバスターズに協力する形で戦闘員との交戦に入った。

 イチガンバスターを返却しようと、ブルーバスターに近づくクウガ。

 

 

「ありがとう、助かった!」

 

「いえ、こっちこそ助かってます。状況が状況なんで」

 

「じゃあお相子って事で! ……それで、物は相談なんだけどさ」

 

「?」

 

「……今度は、剣を貸してほしくて」

 

 

 クウガには紫色の『タイタンフォーム』が存在している。

 剣を使う姿で、鎧のような硬い身体はちょっとやそっとの攻撃じゃビクともしない。

 この集団戦、赤いクウガで戦い抜く事もできるかもしれないが、得物があった方が、何よりも何処から攻撃が飛んでくるか分からないので、頑強な姿でいた方がいいと判断したのだ。

 

 そんなわけでブルーバスターは予備のソウガンブレードを転送し、クウガにレンタル。

 紫の姿となったクウガはソウガンブレードを大剣、『タイタンソード』へ変化させて戦闘員を薙ぎ払っていった。

 

 

 

 

 

 東京エネタワーの展望台の外。

 通常なら人間が立つべき場所ではない危険な場所に、エンターは立っていた。

 

 

「……戦況は不利、とは言い切れませんが、有利……ではありませんね」

 

 

 2号は覚悟していた事だが、まさかさらに仮面ライダーの助っ人が2人、妙な黄色いパワードワーカーが1機、シンフォギア装者が1人、計4人も増えるとは思っていなかった。

 魔弾戦士がいないとはいえ、ただでさえメテオが増えた直後にこれである。

 敵はどれだけ仲間がいるのかと、ほとほと困るばかりだ。

 

 

「仕方ありません。エネタワーの転送は遅れてしまいますが……」

 

 

 エンターは自前のノートパソコンを開いて操作し始めた。

 画面にはエネタワーにどれだけのエネトロンが集まったかが表示されており、既に6割を突破している状態だ。

 しかし、エンターがキーを操作するとそれは一気に3割程度まで減ってしまう。

 転送の為のエネトロンをエネタワーに溜まったエネトロンで賄ったのである。

 

 そして、転送されてくるのは──────。

 

 

 

 

 

 特命部が転送反応を感知し、それがゴーバスターズに伝えられる。

 オペレーターの仲村が言うには、『どのメガゾードとも質量が一致しない』という事らしい。

 スチームロイドと戦うレッドバスターは通信に答える余裕はないが、戦闘員と戦うブルーバスターとイエローバスターはクウガの助力もあり、返答できるだけの余裕が作れた。

 

 

「メタロイドが出してる煙はまだあるわけだし、メガゾードじゃないって事かな」

 

「じゃあ、陣さんが言ってた……」

 

「うん。多分そうだ」

 

 

 作戦前に陣マサトが口にした可能性。

 それが、現実に転送されて来ようとしていた。

 

 

『3、2、1、来ます!』

 

 

 通信機越しに、仲村が転送完了を告げた。

 東京エネタワー周辺に現れたのはバスターマシン程ではないにせよ巨大な青いヘリが複数機。

 パッと見だけでもかなりの武装が施されており、どうみても通常のヘリのそれではない。

 さらに、バスターマシンよりも巨大な地上空母が1隻。

 戦場の誰もがそれに目を向ける中、ブルーバスターがその兵器達の名前を告げる。

 

 

「ウォーロイドに、ジェノサイドロン……」

 

 

 メガゾードとは違う材質の巨大兵器。

 つまりは、スチームロイドの煙の中でも活動できる兵器達が、現れてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 同じ頃、パワースポット内部にて、翼とリュウガンオーは遣い魔を蹴散らしていた。

 いくら手負いとはいえ、遣い魔程度にやられる程リュウガンオーもやわではない。

 何よりフルで戦える翼がいるのだ。殲滅にそう時間はかからなかった。

 

 

「これで全部か……」

 

「そのようですね」

 

 

 群れとなって現れた遣い魔を1匹残らず倒したのを確認して、2人は奥へと進んでいく。

 そうして歩いていく内に、大きく開けた空間に出た。

 空間の真ん中にはオブジェのようなものが存在している。

 翼はそれを訝し気に見やる。

 

 

「羽……? いや、剣……?」

 

 

 オブジェはまるで、巨大な剣が柄に近い部分まで地面に突き刺さったような形をしており、柄の部分には羽のようなデザインが施されていた。

 そしてその柄の部分に丸い空洞があり、そこからは眩い光が溢れている。

 そこだけが周りの炎とは違い、未知の輝きで光っていた。

 

 

『猛烈なエネルギーがそこから……。そこに鍵を置いてください!』

 

 

 2人の耳に瀬戸山の声が響く。どうやら目的の場所についたようだ。

 そのエネルギーの影響なのかどうか分からないが、剣のオブジェの周囲には草花が生えていた。

 此処に来るまでの間は、道が炎で照らされただけの殺風景な場所だっただけに、余計にそれが目立っている。

 

 ともかく瀬戸山の言葉に頷き、2人は剣のようなオブジェに近づいていく。

 けれどもパワースポットでは何が起こるか分からない。

 そんな言葉通り、新たな敵が2人の前に現れた。

 

 

「ッ!」

 

 

 何処からか現れたそれは、遣い魔だった。

 ただし黒い道着と鉢巻を巻いた、何やら普通の遣い魔と雰囲気の違うタイプだが。

 2人は悟った。

 これは恐らくレディゴールドの遣い魔と同じで、並の遣い魔ではないのだと。

 黒い道着の遣い魔はパワースポットを守護するかのように立っていた。

 落ち着いた佇まいと迫力からして、既に普通の遣い魔ではない。

 

 

「不動さん……」

 

「ああ……。一筋縄じゃ行かなさそうだ」

 

 

 ゴウリュウガンを構えるリュウガンオー。

 アームドギアである細身の太刀を構える翼。

 相対するは、仁王立ちをして2人を睨む黒い道着の遣い魔。

 

 此処まで来たら後は鍵の調整だけなのだ。

 今この時も、仲間達は必至に戦っている。

 こんなところで時間を食われている暇はない。

 そんな想いを胸にして、翼とリュウガンオーは遣い魔へ向けて足を踏み出した。




────次回予告────
敵はさらに戦力を投入してきた。
怪人、ノイズ、しかも今度はジェノサイドロンにウォーロイドだって?
でも、仲間ならこっちにだっている。
しかも新しい仲間まで。まだまだ負けちゃいねぇぜ。
次回も、スーパーヒーロー作戦CSで突っ走れ!

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