スーパーヒーロー作戦CS   作:ライフォギア

64 / 75
第64話 集結・エネタワー

 S.H.O.T病室。

 ゆっくりと目を覚ました剣二が最初に聞いた声は、女性の声だった。

 

 

「あ、剣二君。目が覚めたのね」

 

「ん、あ……。あぁ……『小町さん』……」

 

 

 彼女の名は『栗原 小町』。

 年齢は剣二よりも高いが、その実、おっとりとした大人の美しさを持った女性だ。

 ところがこの女性、この場所にいるのにも関わらずS.H.O.Tの制服を着ていない。

 剣二や銃四郎も普段はS.H.O.T隊員である事を隠してあけぼの署で勤務しているため私服であるのだが、彼女が制服を着ていないのには、もっと別の理由がある。

 それは、彼女が『剣二とゲキリュウケン以外の人間には見えない』という点だ。

 

 

「どうして、此処に……?」

 

「剣二君が心配だったから……。ほら、それに私、幽霊だし……」

 

 

 そう、今でこそ剣二も驚いていないが、栗原小町は『幽霊』なのだ。

 物をすり抜けたり、誰からも見えなかったりと、正真正銘の。

 どういうわけか剣二とゲキリュウケンにしか見えない、それが彼女なのである。

 尚、彼女はあけぼの署やその地下にあるS.H.O.Tに住み着いているらしい。

 故に、S.H.O.Tのメンバーではないにも拘らず、この場所にいる事ができるのだ。

 何せ剣二とゲキリュウケン以外には見えないのだから。

 それにつまみ出そうにも、見えている剣二ですら触れる事ができないのだ。

 幽霊故に物理的な干渉が意味をなさない為、彼女はかなり自由なのである。

 

 

「そうだ……魔物……ッ!」

 

「あっ、ダメよ、無理しないで」

 

 

 上半身を起き上がらせようとする剣二だが、痛みがそれを妨げる。

 上半身と頭は包帯に巻かれ、傷口は塞がり切っていない。

 銃四郎以上に重傷なのだ。動けなくはないが、動けば痛みが伴うのも当然と言える。

 小町に寝ているように促され、ゆっくりと、再び頭を枕に預けた剣二。

 促されたとはいっても、小町は人も物も触れないので、ジェスチャー的なものだが。

 

 どれくらい経ったのだろうか、魔物はどうなったのか、剣二の頭にそんな考えが駆け巡る。

 横になった剣二は首を動かして顔を小町の方へ向け、今の状況を尋ねた。

 

 

「……なぁ小町さん。魔物とか、どうなったんだ?」

 

「あ! そうなのよ……。実は、剣二君が寝ている間に色々あって……」

 

「何が、あったんだよ。まさか、魔物がまた出たのか……?」

 

「それもちょっとはあるんだけど……。大変よ剣二君。不動君が……」

 

「不動さんが……?」

 

 

 小町は、幽霊として誰にも見えないので、先程の作戦会議を聞いていた。

 当然、銃四郎と翼がマダンキーを持ってパワースポットへ行った事も。

 小町はそれを伝えた。

 エネタワー周辺が占拠されてる事。

 敵が大規模な転送を行おうとしている事。

 そして、新たな力の為に銃四郎と翼がパワースポットへ向かった事。

 

 それら全てを聞いた剣二は、無理矢理にベッドから飛び起きた。

 痛みに顔を歪めながらも、今度は全力で上半身を持ち上げる。

 

 

「ダ、ダメよ剣二君! 安静にしてなきゃ!」

 

「確かに、いってぇさ……!! けど、不動さんだって怪我してるはずだろ……!」

 

「それは、そうだけど……」

 

「不動さんが、体張ってんだ。しかも、俺のキーなのに……」

 

「剣二君……」

 

「だから、俺が寝てるわけには……!!」

 

 

 ベッドから足を投げ出し、痛みに耐えながら立ち上がる。

 そして近くの机に畳まれていたジャケットとゲキリュウケンを掴んだ。

 

 

「行くぜ、ゲキリュウケン……!」

 

 

 相棒を握り締め、足を引き摺りながら、胸を抑えながら、体中が痛みながらも歩き出そうとする剣二。

 小町にそれは止められない。何せ、触れられないのだから。

 言葉を尽くしても剣二は行ってしまうだろう。ならば力づくで止めるしかないが小町にそれはできない。

 

 しかし、それができる人物は別にいる。

 

 

「何処に行く気?」

 

 

 病室の入口に女性が立っていた。

 S.H.O.Tの制服を着た女性。オペレーターの左京鈴。

 剣二を見て、心底呆れたような溜息を付きながら、かつかつと剣二へと歩み寄る。

 

 

「止めんなよ……。俺は……ッ!!?」

 

 

 痛みを堪えながら絞り出した声で反抗する剣二だが、近づいて来た鈴が容赦なく、平手を腹に打ち込んできた。

 勿論全力ではない。が、その一撃は怪我をしている剣二に相応の痛みを与える。

 よろよろと後退り、ベッドが足に引っかかった剣二はそのまま、ベッドに座り込んでしまった。

 剣二は何も言わずいきなり暴力に訴えてきた鈴を睨み付ける。

 

 

「いってぇ……!! 怪我人に何しやがる!?」

 

「止めてんのよ馬鹿。女の子の平手一発でこんなに苦しんでるような奴が、今出てって何しに行く気?」

 

「……いや、お前の一撃はとても女の子のそれじゃ……」

 

「ンだとこの馬鹿剣二ッ!」

 

「いッ、てェッ!!?」

 

 

 今度は右腕を叩かれた。

 腕はそこまで大きな怪我をしていないが、どうやら先程よりも強めにひっぱたかれたらしく、怪我とは別件で痛そうだ。

 腹部と腕で悶絶する剣二に対し、鈴は再び溜息を付いた。

 本当に、この怪我でどんな無茶をしでかすつもりだったのかと。

 

 

「いい? 剣二。今、不動さんがアンタのキーをパワースポットで調整しに行ってるわ」

 

「ああ……。だから、不動さんも無理してんだから、俺も!」

 

「あのねぇ! できる無理とできない無理は違うの!

 不動さんはまだかろうじて戦えるけど、アンタは今、戦えるわけ!?」

 

「うっ……」

 

「生身の私1人すら振り切れないアンタが! 魔物やメタロイドと戦えるの!?」

 

 

 ぐうの音も出なかった。

 銃四郎はまだ痛みは押し殺せる範囲だし、動けるレベルの傷だ。

 だが、剣二の傷は違う。足も引き摺って、まともに動けていない。

 変身や戦闘もできない事は無いだろう。それでも、普段の何割程動けるというのか。

 そして剣二より動ける銃四郎が、自分の事を「足手纏いになる」と言っていた。

 ならば、より傷の深い剣二は確実に足手纏いだ。

 

 

「いい? 今のアンタじゃ足手纏いなの! ヒロム君達に迷惑かけるだけよ!?」

 

「でも! 不動さんと翼がパワースポットに持ってったマダンキーは、俺のなんだぜ!?

 俺がいなきゃ使えないキーなんだ……。俺が行かなきゃ、2人の頑張りを無駄にしちまう!」

 

「分かってるわよそれくらい!!」

 

 

 論争を心配そうに見守る小町。

 あえて口出ししないゲキリュウケン。

 そして論争がヒートアップしてきた中、それは突然だった。

 鈴は「ふぅ」と息を吐いたかと思えば、一転、冷静な表情へと切り替わったのだ。

 熱くなっていた先程までとは違う鈴の雰囲気に、剣二は一瞬、動揺したように口をつぐむ。

 

 

「だから、今は待ちなさい」

 

「……どういう意味だよ」

 

「不動さんと翼ちゃんがキーを持ち帰るまで、此処で待ちなさいって言ってんの。

 アンタの言う通り、どんなに強力なキーでも使えなきゃ意味がない。

 でもね、だったらアンタもできるだけ万全にしとかなきゃいけないの。

 だからキーの調整が終わるまで、休んでおきなさいって事。分かる?」

 

 

 急に論争が止まり、そして鈴の諭す様な言葉に呆気に取られてしまう剣二。

 そう、鈴が言いたいのはそれだった。

 強力なマダンキーを使えるようになるその時まで、それを使う事の出来るリュウケンドーは休んでいろ、と。

 

 

「天地司令も瀬戸山君も、みんなそういう考えよ。

 不動さんと翼ちゃんがキーを調整し終わってから、アンタが戦場に出る。

 そこで一発、ドカンとかましてくればいいの。分かったら返事ッ!!」

 

「お、おう……!?」

 

「……だったら寝てなさい。その時になったら呼ぶから」

 

 

 それだけ言うと、鈴はさっさと病室から出ていってしまった。

 後には呆然とする剣二、クスリと笑う小町、そして無言を貫いていたゲキリュウケンだけが残される。

 

 

「な、なんだぁ、鈴の奴……」

 

「要するに、みんな剣二君に託してるんだから、その時まで休んでろって事じゃない?」

 

「俺に……?」

 

「新しいキーを使うには、剣二君が必要なんでしょ? しかも怪我してるのに。

 でも、不動君はそんな剣二君を信じて、パワースポットに向かった。

 鈴ちゃん達もそうだって事よ」

 

 

 小町は微笑みながら、剣二としっかり目を合わせながら続けた。

 

 

「怪我をした不動君が出撃する事に、みんな反対してたわ。

 でも、不動君は無理を通したの。剣二君のキーの為にね。

 それって、よっぽど剣二君の事を信頼してないと無理だと思うなぁ」

 

「不動さんが……」

 

 

 そこまで言うと、沈黙を保っていた剣二の相棒であるゲキリュウケンが、小町の言葉を引き継ぐように声を発し始めた。

 

 

『小町と鈴の言う通りだ、剣二。

 そのマダンキーを使う為には、我々の力が必要になる。

 仮面ライダーにゴーバスターズ、シンフォギア装者だっているんだ。

 仲間は多い。だったらお前は、今お前がすべき事をしろ』

 

「俺が、すべき事……」

 

『休めって事だ』

 

 

 不謹慎かもしれないが、剣二の顔には自然と笑みが浮かんでいた。

 この前なんてサンダーキーの無断使用でみんなに迷惑をかけたのに、なのに信じてくれている。

 勿論、小町の憶測かも知れないが、それが剣二には堪らなく嬉しかった。

 自分の事を心配して、自分に懸けてくれる人がいる事は、こんなにも嬉しいのか。

 

 

「……へっ! じゃあ、張り切って休むかぁ!! ……ッイテテ」

 

『大声出すな。傷が開くだろう、この馬鹿』

 

 

 剣二はそんな事を想いながら、笑顔でベッドに寝そべった。

 

 

 

 

 

 パワースポットに車を走らせ、無事に到着した翼、銃四郎、慎次。

 ジャークムーンの城がやって来た時に一度赴いた場所だが、改めて、外観は普通の建物でしかない。

 それを見つめながら翼が呟く。

 

 

「やはり、一見ただの建物に見えますね」

 

「ダミーだからな。本物に見えなきゃ意味がない。

 特命部だってバスターマシンの発進口の真上に、ダミーのビルを建てたりしてるだろ?」

 

 

 特命部のバスターマシン発進口にせよパワースポットにせよ、近づくと危険な場所だ。

 だから誰も寄り付かないように、そこを関係者以外立ち入り禁止として、尚且つ監視を行う事で一般人がそこに寄らないようにしている。

 そしてその時、どんな一般人にも組織の事を知られないように、ダミーは中身こそ殆どないが、外観は限りなく本物の建物だ。

 

 車で建物の入口にまで来た3人は車から降りて、建物内へ入っていく。

 奥に、さらに奥に、そして地下に。

 様々な配管が入り乱れて繋がっている地下の奥に、パワースポットへの入口があった。

 鉄骨で構成された、人1人通るくらいのスペースがある無骨な長方形。

 これがそのゲートである。

 

 ゲートの近くで足を止めた銃四郎に習い、翼と慎次も足を止めた。

 入口の向こうはパワースポット内部。本格的に何が起こるか分からない、危険エリアだ。

 

 

「この先がパワースポットだ。念の為、突入前に変身しとこう」

 

 

 故に、先に変身して万全の状態で突入する事を提案する。

 それを断る理由は無い。

 が、それとは別に、翼はどうしても突入前に確認しておきたい事があった。

 

 

「……不動さん、お聞きしたい事があります」

 

「何だ?」

 

「何故、鳴神さんの為にそこまで? 鳴神さんの鍵ならば、不動さんが此処までの無理をする必要はないのでは?」

 

「……それは、まあな」

 

「不躾な言い方を謝罪します。ですが、どうしても気になったんです。

 同僚だから。仲間だから。そういう理由でも、一応の納得はできるかもしれません。

 ですが、不動さん自身が十全ではないのに無茶ができるのは何故なのか……と」

 

 

 それは翼だけではない。

 慎次も、士達も、果ては相棒のゴウリュウガンですら思っている事。

 確かに誰かの為に無茶ができる人間が揃い踏みしているのがこの組織だ。

 しかし、銃四郎も決して軽傷ではなく、お世辞にも万全とは言えない。

 仲間達も銃四郎を止めた。けれども、銃四郎は強行した。

 そこまでした理由を翼は知りたかったのだ。

 

 ふう、と一息つき、銃四郎はまず一言切り出した。

 

 

「俺は、ずっと1人で戦ってた」

 

 

 翼と慎次が「え」と短く声を漏らしてしまうよりも早く、銃四郎は二の句を継ぐ。

 

 

「特命部や二課と合流するよりも前、俺は1人でジャマンガと戦ってた時期があったんだ」

 

「しかし、鳴神さんがいたのでは……」

 

「いや、アイツはリュウケンドーになってそんなに経ってないんだ。

 お前達と合流する2ヶ月ちょい前くらいだったかな。アイツがリュウケンドーになったのは」

 

『ジャマンガが現れだしたのは、剣二がリュウケンドーになる半年程前だった。

 不動はその間、1人でジャマンガと戦い続けた。生傷も絶えなかった。

 時には連戦で、ボロボロになってしまう日もあったのだ』

 

 

 銃四郎の言葉を補足するようにゴウリュウガンが電子音を出す。

 黙って話を聞き続ける翼と慎次。

 

 

「そんな事を半年続けてたら、突然剣二がリュウケンドーに選ばれたんだ。

 無鉄砲で、馬鹿で、すぐ熱くなる。青さが服着て歩いてるようなアイツがな。

 何て奴だ、と思った事もある。でもそれ以上に……嬉しかった」

 

 

 自嘲気味な笑みを2人に見せながら、銃四郎は続けた。

 

 

「戦いに足を踏み入れる奴なんて少ない方がいいと思う。

 でも、やっぱ人間なんだな。1人で戦ってるのはキツかった。

 鈴もいた。瀬戸山もいた。天地司令もいた。ゴウリュウガンだって。

 でも、肩を並べられる奴はいなかったんだ。そんな時に……」

 

「剣二さんが、リュウケンドーになった……」

 

「ああ。刑事だった俺に、今までにも後輩はいた。

 でも、剣二は魔弾戦士として……初めてできた、後輩なんだ。

 だからかもしれないな。後輩の前で、少しは先輩らしい事をしたいのかもしれない」

 

 

 未調整のマダンキーを取り出し、見つめる。

 今では多くの仲間とも肩を並べるようになったが、銃四郎にとって、初めて肩を並べたのは剣二だった。

 それがどれだけ頼もしかったか。支え支えられる、戦場の相棒がいてくれる事が。

 銃四郎は再び笑った。しかしそれは先程の自嘲的なそれではなく、はにかんだ笑みだった。

 

 

「ま、それに俺は、アイツを信じてる」

 

「信じて、ですか?」

 

「負けず嫌いだからな。負けっぱなしで終わるようなタマじゃない。

 どんな怪我をしても、必ず立ち上がって食らいついていくような奴だ。

 だから俺はこのキーを届ける。立ち上がったアイツが、さらに強くなれるように。

 それにアイツが強くなる事は、俺達全員が助かる事にも繋がるしな。

 ……なんか照れくさいが、こいつが理由だ。納得してくれたか? 翼ちゃん」

 

「……ええ、とても」

 

 

 共に戦場に立つ仲間への想い。銃四郎が語ったそれに対し、翼はフッと笑みを浮かべる。

 そして彼女もまた、同じように語り始めた。

 彼女が想う、仲間の事を。

 

 

「肩を並べてくれる人……。その頼もしさも、大切さも、知っているつもりです」

 

「……! 悪い。嫌な事、思い出させちまったか」

 

「いえ、大丈夫です。それに今は多くの仲間と、奏の遺志と力を継いだ立花がいます。

 立花達を信頼しているからこそ、あちらを立花達に任せて、私はここにいるのですから」

 

 

 翼も、あの日を、2年前のライブを境に1人で戦ってきた。

 片翼を失い、慟哭も焦燥も使命もないまぜになって、翼は頑なに1人で戦おうとしていた。

 不意に現れた響に対しての衝撃は、今でも覚えている。

 奏の影がちらつき、それでいて奏と似ても似つかず、あまつさえ血を吐いて手に入れた奏の力を何でもないように振るう。そんな響を。

 

 だが、彼女は彼女なりに頑張ろうとしていた。

 むしろ奏の力を継いだからこそ、奏のようにならなければいけないと、響自身も焦っていたのだろう。

 冷静に考えるようになれてから、翼はそう思うようになっていた。

 だからだろうか。響の事を認められるようになったのは。

 

 いつしか響は、自分のまま強くなろうと踏ん切りをつけた。

 そうして、いつの間にかなっていたのだ。

 とても頼もしく、代わりなんてものじゃない存在に。

 新たな戦友にして後輩。立花響という人が。

 

 

「私も云わば立花の先輩です。不動さんの気持ち、少し分かるかもしれません」

 

「そうか。……じゃあ同じ先輩同士、いっちょ頑張るか。宜しく頼むぜ、翼ちゃん」

 

「はい。不動さん」

 

 

 銃四郎は、ゴウリュウガンに手を掛ける。

 翼は、胸に浮かぶ聖詠を口ずさむ。

 1人が赤き銃士に姿を変え、1人が青き剣士に姿を変える。

 2人の変身を前にして、慎次は微笑んでいた。

 

 

(『先輩』、か。そんな事、ついこの前までは考えてもいなかったんだろうなぁ……)

 

 

 翼を近くで見続けてきた慎次だから、翼の変化はよく分かる。

 奏が亡くなってしまった後の、自暴自棄にも似た変化も。

 響が現れてから、さらに加速してしまった自殺衝動に押されるような変化も。

 絶唱を解き放ち、成長した響と触れ合った後の、笑顔を見せるようになった変化も。

 変わったのか、それとも変えられたのか。それは慎次にも分からない。

 ただ1つ言える事は、間違いなく翼は変わった。良い方向に、成長とも言えるような変化を。

 慎次がそんな事を考えている内に2人は変身を終え、名乗りを上げる。

 

 

「リュウガンオー、ライジン!」

 

「天羽々斬、推して参るッ!」

 

「……そんなのあったか?」

 

「いえ、以前に立花が「自分達にも名乗りがあった方がいいのか」と聞いてきたんです。

 その時は私も門矢先生も「何を言っているのか」と思いました。

 ですが今にして思えば、あってもいいのでは、と……」

 

「お、おう……」

 

 

 こんなやり取りをする事も今までなかったろうに。

 慎次はクスリと笑うと、変身を完了した2人へ声をかけた。

 

 

「では僕は、外の車に戻って待機しています。

 パワースポットから帰還する時に、連絡をくださいね」

 

「了解だ。何かあっても、翼ちゃんには傷1つ付けさせないから安心しな」

 

「マネージャーとしてそれは有り難いのですが、今回は立場が逆だと思いますよ」

 

「その通りです。その怪我で、あまり無茶はしないでくださいね」

 

「入院中に出撃した奴に言われちまったよ……」

 

 

 苦笑うリュウガンオーと、フッと笑みを浮かべる翼。そしてそんな2人に微笑む慎次。

 しかし、パワースポットの入口を前にしたリュウガンオーと翼は表情を一変。

 睨むような、射抜くような、真剣な面持ちでパワースポットへと突入した。

 無骨な鉄のゲートをくぐると、もうそこにリュウガンオー達の姿は無い。

 ゲートは一見、くぐっても向こう側に出るだけのように見える。

 だがその実、一種のワープ装置のようなもので、足を踏み入れたら全く別の場所に通じているのだ。

 2人が消えたゲートを見つめる慎次にできる事は、2人を信じる事だけだった。

 

 

「どうか、ご無事で……!」

 

 

 

 

 

 

 

 東京エネタワー周辺。

 そこに揃うのはゴーバスターズ、士、翔太郎、弦太朗、流星、響。

 ゴーバスターズを初めとした戦士達が選んだ突入方法は1つ、正面突破だった。

 エネタワーの周囲殆どが包囲されている以上、何処から突入してもどうせ正面突破でしかないのだが。

 

 無数のバグラー、遣い魔、そして大ショッカーの怪人。

 スチームロイドが出していると思われる黄色い煙が、薄くだが上空に立ち上っているのが見えている。

 恐らく、そこにスチームロイドがいる筈だ。

 

 

「サヴァ、ゴーバスターズと、そのお仲間の皆さん」

 

「エンター、そのメタロイド潰させてもらう」

 

「これだけの戦力を相手にですか? それは無謀というものですよ、レッドバスター」

 

「やってみなくちゃ分からない。……行くぞッ!」

 

 

 全員がそれぞれに変身の体勢を取った。

 モーフィンブレスを起動するゴーバスターズ。

 ベルトを装着する士、翔太郎、弦太朗、流星。

 胸に湧き上がる歌を口ずさむ響。

 

 

 ────It's Morphin Time!────

 

 ────KAMEN RIDE……DECADE!────

 

 ────CYCLONE! JOKER!────

 

 ────METEOR! Ready?────

 

 ────聖詠────

 

 

 並び立つは、レッドバスター、ブルーバスター、イエローバスター。

 次いで、仮面ライダーディケイド、W、フォーゼ、メテオ、そしてガングニールの響。

 総勢8名。ゴーバスターズ初期のメンバーが3人だから、3倍弱の人数だ。

 しかしエンターは一歩も引かない。それどころか、余裕の笑みだった。

 

 

「それでは、私はこれで。サリュー」

 

 

 エンターはデータの粒子となって消える。

 後にはバグラーと遣い魔の大群。大ショッカーの怪人。

 そして、今しがた何処かにいるフィーネが例の杖で呼び寄せたのだろうか、ノイズが現れた。

 響と士の耳に、二課のオペレーターである朔也から通信が入る。

 

 

『ノイズの反応を検知! バグラー達と同じく、エネタワー周辺に散らばってます!』

 

「言われるまでもないな。……立花、今更ビビってないな?」

 

「はいッ! 精一杯頑張りますッ!」

 

 

 ここにいない翼の分まで、自分にできる限りの無理を。

 弦十郎直伝の構えで闘志と決意を露わにする響と、それをただ無言で見て、無言で敵へと視線を戻すディケイド。

 一方、レッドバスターはフォーゼへ作戦の確認を行っていた。

 

 

「弦太朗、お前みたいに空を飛べる奴は貴重だ。ノイズや怪人の邪魔が入るからそう上手くはいかないだろうが、隙があったら転送装置を狙ってくれ」

 

「おう、やれるだけやってみるぜ!」

 

「できるだけ俺もサポートする。1人で突っ込みすぎるなよ、弦太朗」

 

「頼りにしてるぜ、流星ッ!」

 

 

 長く会話をしている時間もなく、戦闘員達がいよいよ突っ込んできた。

 迫りくる敵の波を前に、レッドバスターの一声が響き渡る。

 

 

「バスターズ! レディ……」

 

 

 掛け声とともに構え、肩を並べる8人の戦士。

 そして彼等は、号令の元、一斉に敵の波へと駆けだした。

 

 

「ゴー!!」

 

 

 エネタワーを舞台に、決戦が始まる。

 

 

 

 

 

 戦闘員を相手取るのはブルーバスターとイエローバスター、そしてフォーゼ。

 フォーゼは何処かのタイミングでエネタワーにある転送装置を狙えないかと、隙を伺っていた。

 だが、敵の数が多すぎる事に加え、空飛ぶ怪人までいるのだからそんな簡単に隙ができる筈もない。

 その為、まずは目の前の敵に集中していた。

 転送開始まではまだ余裕がある。

 ちんたらしていられる程ではないにせよ時間があるため、焦るよりも慎重な行動を誰もが心掛けていた。

 

 

「クォーウッ!」

 

 

 バサバサと羽をはためかせ、鳴き声と共に上空から飛来する謎の怪人。

 大ショッカーの怪人と目されている翼竜の怪人、プラノドンだ。

 飛べる見た目通り、空中からの強襲は彼の得意とするところ。

 空中にも注意を払ってはいたが、突然の事に対応が遅れてしまうフォーゼ。

 プラノドンの鋭利な手の爪が振るわれる、が。

 

 

「させるかッ!」

 

「流星!」

 

 

 割って入ったメテオの拳がプラノドンの腕を掴んだ。

 ぐっ、と動揺するプラノドンに対し、目の前に飛び出してきたメテオの名を思わず口にするフォーゼ。

 

 

「こいつの相手は俺がする。こいつが大ショッカーなら、インターポールの案件だからな!」

 

「おっしゃ、頼んだぜ!」

 

 

 メテオと共に戦ってきたからこそ、フォーゼはメテオの強さを誰よりも信じている。

 だからこそ、あっさりと彼に任せる事ができる。

 戦いと青春の中で紡いできた絆は伊達ではないという事だ。

 

 

「ぬぅ……ッ! 離せ! 仮面ライダーァ!!」

 

 

 プラノドンは腕を掴むメテオを振り払おうと、必死で腕を振るう。

 そして腕と翼が一体となっている為か、プラノドンは徐々に浮き上がっていった。

 腕に掴まったままのメテオも当然、地面から足を離していき、流石は怪人というべきか、あっという間に上空まで連れていかれてしまった。

 

 

「フン、やりようはあるッ!」

 

 

 だが、メテオは動じない。

 プラノドンの腕を離し、自由落下を始めるメテオだが、すぐさま青い球体に包まれた。

 この状態のメテオは自由自在に空を駆け巡ることができる。

 飛翔し続けるプラノドンを追うように、メテオは球体の姿のまま、彼を追いかけた。

 

 

「ヌゥ、貴様も飛べるのか……!」

 

「飛べるライダーくらい、珍しくもないだろう?」

 

 

 プラノドンはメテオに向き直りながらも後ろに飛び続け、引き撃ちの形で口の中からロケット弾を撃ちだしてきた。

 メテオはそれを躱しつつ、プラノドンに近づこうとしていく。

 だが、プラノドンは引き撃ちのまま飛び続け、メテオは攻撃を回避しながらの接近の為、中々近づけない。

 

 

「チッ……!」

 

「ヌゥ……!」

 

 

 接近できない事への苛立ちを見せるメテオ。

 攻撃が当たらない事への苛立ちを見せるプラノドン。

 そこに、さらなる刺客が現れてしまう。

 

 

「クアーッ!!」

 

「ッ!?」

 

 

 鳴き声と共に、青い球体となっているメテオへ突進する謎の影。

 何とかそれを避けたメテオが見たのは、黒い怪人の姿だった。

 手は鳥の足のように鋭い爪と、鋭い嘴。

 さらにその右手には薙刀を持っている、全体的に黒が基調となっている鳥の怪人。

 黒の鳥、カラスを思わせるその人型は、もう1体の空を飛ぶ怪人だった。

 プラノドンは同胞の増援に、思わずその名を呼ぶ。

 

 

「『ギルガラス』! お前も来たか!」

 

「我等は同じ航空部隊、当然だろう」

 

「クク、そうだったな」

 

 

 2体の翼を持った怪人が、メテオの前に立ちはだかる。

 しかしメテオは怯まない。

 数の上での不利があっても、彼には今まで戦い抜いた経験がある。

 

 

「いいだろう、何体でも纏めてかかってこい。お前達の運命(さだめ)は、俺が決める」

 

 

 等身大のドッグファイトは、まだまだ続く。

 

 

 

 

 

 地上では戦闘員とノイズを同時に相手取るディケイド、W、響の姿があった。

 バグラーと遣い魔は歴戦の2人にとって何てことは無い相手だが、問題はノイズ。

 ノイズに対してはこの3人の内、ディケイドと響だけが有効打を与えられている状況だった。

 

 

「やっぱり、ノイズはシンフォギアか士じゃないとダメだな、フィリップ」

 

『その門矢士と立花響も、此処までノイズがバラけてるとやり辛そうだ』

 

「せめて、翼ちゃんが戻って来てくれると助かるんだかな……ッ!」

 

 

 2人で1人だからこそ、足を止めず、戦いながらでも冷静に会話ができる。

 独り言のような状態だからこそ、敵を倒す手を止めずに2人で状況分析ができるのだ。

 

 

「もう音を上げたか? 探偵ども」

 

「バーカ。ンなわけねぇだろ」

 

『ただの状況把握さ。見くびってもらっては困るね、ディケイド』

 

 

 この部隊の中で実戦経験値が最も豊富なのはこの2人だ。

 訓練時間ならばゴーバスターズだが、本当に命のやり取りをし続けた、という意味ではディケイドとWに軍配が上がる。

 この2人、特にディケイドにとって、こういう乱戦は初めてではない。

 余裕があるわけではないが、悪影響が出るような焦りや緊張があるわけでもなかった。

 

 

「ハアッ!!」

 

 

 同じく戦いを続ける響。

 彼女の掌底がバグラーの腹に炸裂し、そのバグラーは直線上の戦闘員を巻き込んで、一直線に飛んでいく。

 次々と敵を吹き飛ばし、掌底や拳、時には蹴りを重く、鋭く叩きこんでいく響を見て、Wの左側が感嘆の声を上げていた。

 

 

「しっかし、響ちゃんもやるな。女子高生の動きじゃねぇぜ」

 

「フン、どんな特訓したんだか」

 

『君も知らないのかい?』

 

「聞こうと思ってたが、今まで忘れてた」

 

 

 ディケイドは「今度、アイツが師匠とか言ってるし弦十郎のオッサンにでも聞くか」と頭の片隅で思った。

 まさか彼等も思うまい。響の強さの秘密が、『アクション映画』にあるなど。

 

 彼女の師匠である弦十郎が意味不明な強さだった事を思い出しつつ、今はそれを考えないようにしつつ、ディケイドはライドブッカーを剣として振るう。

 Wもサイクロンメモリによる風の力を受けた鋭い蹴りを、戦闘員達に放つ。

 響は自分とディケイドにしか処理できないノイズを積極的に狙う様に立ち回る。

 

 徐々にだが、確実に敵は減っていた。

 しかし、スチームロイドまではあまりにも遠い。

 

 

「もうっ、多すぎ!」

 

「そうだね。それにまだ、奴等も出てきてない……」

 

 

 イエローバスターが文句を言いつつ辺りの敵を相手にしつつ、ブルーバスターが周囲を警戒する。

 戦闘員も数の多さのせいで全く油断できないし、一番の問題である幹部クラスの敵が出てきていない。

 それを警戒していたブルーバスター。

 そしてそんな中、噂をすれば影が差すという言葉を地で行くかのように、それは突然現れた。

 

 

「仮面ライダー含め、我々に歯向かう愚か者共……。揃っているようだな」

 

 

 突如、戦場に現れる灰色のオーロラ。そこから現れる人影。

 驚きの色を示すブルーバスターとイエローバスター。

 それとは対照的に、灰色のオーロラが発生するのを見ていたディケイドは、即刻警戒の色を示して彼等2人に合流した。

 そのオーロラにディケイドは見覚えがある。何せ自分も使っている代物だ。

 灰色のオーロラとは、『世界を超えるオーロラ』。

 ディケイドのように世界を超える力を持った存在が出す事のできる、特殊なものだ。

 

 そしてそれができるのはディケイドの知る限り、自分と海東大樹。

 それとは別の存在であり、尚且つ世界を超えられる存在。

 ならば答えは確定したようなものだった。

 

 

「大ショッカーの新手、だな」

 

「……ディケイドか」

 

 

 ライドブッカーを構えるディケイドの目線の先には、灰色のオーロラから現れた人影がある。

 まるで原始人を思わせる姿と、マンモスの頭部の骨のような被り物。

 手に持っているのも、マンモスの牙のような骨を棒と繋げて作ったような槍。

 それは大ショッカー幹部、キバ男爵の姿だった。

 

 

「フン、貴様如きが……」

 

 

 ディケイドに対し、心底憎々しいという思いを込めて鼻を鳴らすキバ男爵。

 警戒を崩さないディケイドだが、そのいきなりの言われように対し、ディケイドは煽るように口を開いた。

 

 

「何だ? その『如き』に潰された事もあるのが、お前等だろ?」

 

「黙れ。貴様の知っている大ショッカーなど、断片に過ぎなかったという事だ」

 

「何……?」

 

 

 大ショッカーの事は、元大首領である士が隅々まで知り尽くしている筈だった。

 利用されていただけに過ぎない大首領ではあったが、間違いなく一時期はトップにいたのだ。

 知らない事などそうは無いはずだが、と、疑問が浮かぶディケイド。

 だが、そんな事を悠長に考えさせてくれるようなキバ男爵ではなかった。

 

 

「これ以上貴様に御託を並べる必要もない。貴様等の相手をするのは、『コイツ』だ」

 

 

 キバ男爵が現れても尚、彼の背後で消えずに残っていた灰色のオーロラ。

 そこからさらにもう1つ、人影がゆっくりと現れた。

 

 形こそ人ではあるが、その姿は完全に怪物のそれだ。

 獣のような獰猛な顔、両肩には甲羅のような装甲を持ち、基調となっている暗く濁ったような赤と銀が、何処か気味の悪い生物的なイメージを持たせている。

 そして筋骨隆々で頑強そうな、見るからに強敵と言わんばかりの存在。

 オーロラから現れたそれは、ただ静かに、無言で俯いたままだった。

 

 

「ディケイド、そして仮面ライダー。

 これが貴様等を倒す、最強の怪人。『アルティメットD』だ」

 

 

 アルティメットD。

 名前を聞くのは初めてだったが、この怪人にディケイドとWは見覚えがある。

 ディケイドとWの二度目の共闘。

 スーパーショッカーとの決戦の際に、Wが追っていた『ダミードーパント』とディケイドが戦っていた『ネオ生命体』が融合して誕生した怪物。

 そして、2人が既に一度倒した事のある怪人であった。

 

 

「懐かしい奴を引っ張り出してきたな。で、そいつが最強か? 一度倒したそいつが。

 意外と人材不足なのかよ、今の大ショッカーは」

 

「どうとでも言え。戦ってみれば分かる」

 

 

 アルティメットDは一度攻略した相手。

 だが、キバ男爵は冷徹な態度を貫いたまま。

 そこに同じくアルティメットDを一度相手取った事のあるWが、ディケイドの横に並び立った。

 Wの右目が点滅し、フィリップがディケイドへ忠告するような言葉をかける。

 

 

『油断はしない事だ、ディケイド。一度倒された筈の奴をわざわざ復活させて出してきた。

 何かあると見た方がいいよ』

 

「フン、だからどうした。どっちにしても倒すしかないんだろ」

 

「ま、ご尤もだな」

 

 

 ディケイドとWは未だ沈黙を続けるアルティメットDとキバ男爵から目を離さず、戦場で戦う仲間達へと声を飛ばした。

 

 

「ゴーバスターズ! こいつは俺達が倒した事のある相手だ!

 だから、こっちは任せなッ!」

 

 

 Wの翔太郎は少し離れた場所で戦っているフォーゼとメテオにも伝えておくようにと、「弦太朗と流星にもそう言っとけ」と付け加え、ゴーバスターズに周囲の敵を託した。

 ゴーバスターズは戦闘を続行しつつそれに頷く。

 そしてもう一方、ディケイドは自分の教え子へ言葉を向けていた

 

 

「立花! ……俺抜きでやれるな?」

 

「何とかやってみますッ! 士先生も、頑張ってッ!!」

 

 

 戸惑う様子も見せずに気合を入れつつ、ディケイドへエールを送りつつ、響は戦場を駆け抜ける。

 その様子を横目に、戦意を表すかのようにディケイドはライドブッカーの刃を撫でた。

 

 

「……アルティメットDッ!!」

 

 

 キバ男爵が槍を掲げ、その名を呼ぶと同時にアルティメットDは俯いていた頭を上げた。

 怪物的な表情の眼光は、しっかりとディケイドとWを見据えている。

 アルティメットDは力の抜けていた両手を握り、ゆっくりと歩みを進め始めた。

 先程までは無かった圧倒的な殺気。だが、2人のライダーは怯まない。

 

 

「さぁて……ッ!」

 

「いくぞッ!」

 

 

 Wが左手をスナップさせ、ディケイドの言葉と共に2人は駆ける。

 同時にアルティメットDも歩みを走りへと変え、宿敵とも言える仮面ライダーを迎え撃った。

 無表情のキバ男爵は、ただ悠々とその様子を見つめ続ける。

 あくまで自分が出るつもりは無い、アルティメットDだけで十分、とでも言うかのように。

 

 

 

 

 

 キバ男爵とアルティメットDの出現は、予想内が半分に予想外が半分だった。

 予想内なのは大ショッカーの介入。そもそも航空戦力は殆ど大ショッカーの怪人だ。

 予想外なのは幹部とアルティメットD。キバ男爵は戦う様子を見せずに諦観しているだけだが、アルティメットDはディケイドとWを同時に相手取っている。

 戦力の内の何人かが幹部やその他怪人に裂かれる事は想定内ではあるのだが、予想よりも大ショッカーは戦力を投入してきた、という感じだ。

 

 しかし、こちらにも来ていない味方が存在している。

 無数の戦闘員とノイズを相手取る中、それはバイクの音に乗って現れた。

 

 

「トオッ!!」

 

 

 つい数時間前にも見たバイクが戦場へ介入し、乗り手はそこから大きくジャンプして戦闘員の群れへ突入した。

 赤い拳と脚を振るい、マフラーをはためかせるその姿は、仮面ライダー2号だ。

 その介入に誰よりも早く反応したのは、たまたま彼が突っ込んだ場所の近くにいた響だった。

 

 

「2号さんッ!」

 

「よっ、全然経ってないけどまた会ったな、嬢ちゃん。加勢するぜ」

 

「ありがとうございますッ!」

 

 

 士抜きでもやってやると決意はしているし、その決意は揺らいでいないが、やはり助力があるのは頼もしい。

 しかし、如何に2号と言えどもノイズ相手には有効打は放てない。

 ある意味、2号にとってはロッククリムゾンよりもノイズの方が厄介とも言える。

 周囲を見やった2号は戦闘員の中に混じるノイズを見て、それを気にするような言葉を吐く。

 

 

「ノイズもいるのか……。こいつは面倒だな」

 

「なら、ノイズは私が!」

 

「おお? どういうこった?」

 

「シンフォギアはノイズを倒せるんです! だから、任せてください!」

 

「へぇ、そいつはすげぇ!」

 

 

 シンフォギアを口外するなとは言われたが、シンフォギアがどういう特性を持っているかは聞き及んでいなかった2号は初めて知ったその事実に、素直に驚いていた。

 2号が最初に割って入った戦闘の時にノイズが出現していなかった、というのもある。

 忘れてはいけないがシンフォギアは怪人とも戦えるほどのスペックを持つものの、それ以前にアンチノイズプロテクター、つまり対ノイズ用装備なのだ。

 ディケイドと翼が他の事で手一杯な以上、ノイズに対抗する術は響にしかない。

 

 2号も上手くタイミングを合わせれば倒せないわけではないが、効率が悪い。

 ならば、此処は彼女に任せてしまおうと即決した。

 彼女の実力は以前の戦闘で少し分かっていた。

 まだ未熟だが、決して頼りにならないというほど弱くもないと

 

 

「じゃあ悪いけど、今回も頼りにさせてもらうぜ」

 

 

 響へそう声をかけた後、彼は戦闘員の群れの中に混じる幾つかの人影を見やった。

 それは大ショッカーの怪人。まだ空中へ上がっていない航空戦力に加え、地上戦力も数体いる。

 今回の戦いにおいて、大ショッカーは相当量の戦闘員と怪人を出撃させていた。

 そしてそのどれもが、2号にとっては見覚えのあるものだった。

 

 

(『カニバブラー』に『ドクガンダー』、『エイキング』、空にプラノドンとギルガラス、か……)

 

 

 カニバブラーはカニの改造人間。左手のハサミと口から吐く人を溶かせるほどの泡が武器だ。

 ドクガンダーは蛾の改造人間。幼虫と成虫の姿があるが今の彼は成虫で、空を飛び、指先からロケット弾を発射する。

 エイキングはエイの改造人間。彼も空を飛ぶ事ができ、稲妻を発生させる怪人だ。

 加えてプラノドンにギルガラス。これらを見た2号は内心「おいおい」と溜息を付く。

 何せこれら全員、まだ1号と2号しか仮面ライダーがいなかった頃に戦った相手だからだ。

 

 

(ったく、同窓会でもおっぱじめようってのか?

 この前の『サボテグロン』といい……大ショッカーは懐かしいのを出してくるねぇ)

 

 

 仮面ライダー連続襲撃事件において、2号も当然襲われた。

 その際、2号に襲い掛かったのは棍棒とサボテン爆弾を武器にするサボテグロンだった。

 勿論、他のライダーと同じく返り討ちにしたが。

 昔を思い出す奴とよく会うなと思いつつ、できれば会いたくないとも思いつつ。

 

 

「さぁて、じゃあ行くかね。……ライダーファイトッ!!」

 

 

 両腕を右側で水平に構え、その両腕を上へ向けて半円を描くように左側に持って行き、左腕は力こぶを作るような体勢で、右手は左肘に当てるような位置に。

 そしてその両拳は力強く握られている。

 この『ライダーファイト』は、別に技でも何でもない。ただの掛け声だ。

 言ってみれば「いくぞ」とかと大差のない気合を入れる掛け声。

 それを言ったのは、かつての敵を前に2号が昔の事を思い出しているからだろうか。

 

 気合十分。2号ライダーは、戦闘員と怪人に拳を振るう。

 悪を砕く、正義を握り締めた拳を。

 

 

 

 

 

 ゴーバスターズは攻めあぐねていた。

 Wからの「こっちは任せろ」という言葉は、先程フォーゼとメテオに伝えた。

 と、伝言はともかく、問題は今の敵だ。

 フォーゼとメテオ、それに助っ人の2号は怪人と群がってくる戦闘員で手一杯。

 しかしそれでも怪人と戦闘員の全てというわけではない。

 ディケイドと翼がいない為、響は積極的にノイズ迎撃に当たらざるを得ない。

 

 ゴーバスターズは戦闘員を相手取っている。

 戦闘員は確かに弱い。正直、苦戦と言える苦戦はしない。

 だが、戦闘員達は何処の組織でもそうだが集団で襲い掛かってくる。

 おまけに今回の戦いにおいて、ヴァグラスもジャマンガも戦闘員を大量に出してきていた。

 バグラーだけでも無数と言ってもいいのに、そこにプラスで遣い魔も無数。

 正直、合計で数千はいるだろう。

 それだけいれば足止めには十分すぎる程だ。

 

 

(多すぎる……!)

 

 

 内心で毒づくレッドバスター。

 ブルーバスターとイエローバスターも同じく、焦っていた。

 彼等には熱暴走とカロリー切れというウィークポイントがある。

 ブルーバスターのウィークポイントは戦闘による激しい動きで体温が上昇する事で。

 イエローバスターのウィークポイントは戦闘でカロリー消費をしてしまう事で。

 どちらも戦闘が長引けば起こりうるものだ。そろそろ気を付けなくてはならない。

 レッドバスターの、実は特命部以外はまだ知らないウィークポイントは気を付けていれば問題ないのが救いか。

 

 ところが、2号に続いて彼等の追い風となる風が吹こうとしていた。

 

 

「うおぉぉぉぉ!!」

 

 

 何かに弾き飛ばされるように吹き飛ぶ戦闘員。

 勇ましい青年の声と共に、バイクのエンジン音が唸る。

 見た事の無いタイプのバイクが戦闘員を跳ね飛ばしながら突き進んでいた。

 よく見ればバイクは運転手と、その後ろにもう1人いる。

 そして2人は突然、その姿を変えた。

 

 1人は金の角を持つ赤い戦士に。

 1人は白の姿をした、女性的な姿の戦士に。

 白い女戦士がバイクから跳び上がり、着地してすぐに手に持った剣を振るい、戦闘員を薙ぎ倒す。

 赤い戦士はそのままバイクを走らせ、ゴーバスターズの前で停まった。

 

 

「来たぜ、士! ……って、アレ?」

 

 

 赤い戦士は明るく声を出すが、そこに士の姿は無い。

 士はディケイドとして別の場所で戦っており、此処にいるのはゴーバスターズ。

 士が此処にいると思っていたのか、赤い戦士は戸惑いながらレッドバスターに「貴方は?」と問いかけてきた。

 レッドバスターとしてはその赤い戦士には見覚えがあった。

 ディケイドが人命救助の際、この戦士の青い姿へと変身していた事を覚えている。

 が、どうやら目の前の戦士は士の事を呼んでいる辺り、士ではないようだ。

 

 

「アンタこそ誰だ? 門矢じゃないのか?」

 

「え? ……あ、士もクウガになれるもんな。

 俺は小野寺ユウスケ、仮面ライダークウガ。士に言われて、加勢に来たんだけど……」

 

「仮面ライダー? ……そうか、俺はゴーバスターズのレッドバスター、桜田ヒロム。

 門矢は俺達と一緒に戦ってくれている」

 

「ああ! あんたがゴーバスターズか! よくニュースとかで聞いてるよ」

 

 

 ゴーバスターズはニュースで報道される程度の知名度はある。

 そしてクウガはディケイドの仲間で、仮面ライダー。

 ならば、お互いに話は早かった。

 

 

「俺達も協力するよ!」

 

「助かる!」

 

 

 仲間の仲間なら、仲間。

 クウガもレッドバスターもそう考え、即刻共闘する事に。

 さらにそこに、戦闘員をある程度斬り捨てた白い女性戦士が駆け寄ってきた。

 

 

「どうも、私も士君に呼ばれてきました。仮面ライダーキバーラ、光夏海です」

 

「……女性の仮面ライダーなのか」

 

「あ、やっぱり意外ですかね? でも、女だからって甘く見ないでくださいね?」

 

「ああ」

 

 

 ディケイド、ディエンド、クウガと共闘した事のあるキバーラだ。

 その戦闘能力は決して低くはない。

 レッドバスターがそれを知る由もないが、今は1人でも戦力が欲しい状況だ。

 それにイエローバスターや響、翼の事もあり、女性だから弱い、何て事は決してないと彼も理解している。

 

 話の最中でも容赦なく戦闘員は襲ってくる。

 クウガ、キバーラ、レッドバスターは戦闘員の腕を脇に抱え込んで抑えたり、あるいは斬り捨てたりと各々で対処しながら、話を進めた。

 

 

「門矢は別の場所で戦ってる。そっちはそっちに任せて、貴方達にはこの辺りを任せたい」

 

「おっしゃ!」

 

「分かりました」

 

 

 話はこれだけで十分。

 やるべき事をはっきりさせ、クウガとキバーラはそれを信じるのみだ。

 会ってすぐの相手を信じる、というのは中々に勇気のいる事だが、彼等2人はそれを躊躇わない。

 何より、士に呼ばれてきたのだ。

 この場所に自分達を呼びつけた士を信じている。

 だからこそ、その仲間であるというゴーバスターズも信じられる。

 

 クウガは再び自分の愛車、『トライチェイサー2000』のエンジンを吹かせ、周囲の敵にタイヤで攻撃を行っていく。

 キバーラも身軽な動きで周囲の敵をキバーラサーベルで斬りつけていった。

 

 戦力の増強。それも2人。

 士が出撃前に呼んだのだろうが、ゴーバスターズとしては嬉しい誤算だ。

 ゴーバスターズの3人は次々と戦闘員を倒して徐々に、スチームロイドがいると思われる地点へ迫っていく。

 

 

「ハアァァァァ……GOッ!!」

 

 

 気合の入った声と共にブルーバスターが地面を全力でぶっ叩き、衝撃がアスファルトに伝わる。

 すると前方の広範囲に渡り、アスファルトごと戦闘員が吹き飛んだ。

 ブルーバスターのワクチンプログラム、『力』を全開にした一撃。

 単一の敵に凄まじい威力の一撃を繰り出す事も、この『力』を使って発生させた衝撃波で多くの敵を吹き飛ばす事も、ブルーバスターの攻撃力は意外と応用が利く。

 

 

「ハッ!」

 

 

 そして、今度はイエローバスターがワクチンプログラムによって強化されている跳躍能力を使い、遥か上空へジャンプ。

 イチガンバスターを下へ構え、周囲にはびこる戦闘員達に高空からの銃撃を行った。

 狙わなくても当たる程度には敵が多い為、イエローバスターの乱射は敵を見事に撃ち抜いていく。

 

 

「「ヒロムッ!!」」

 

 

 戦闘員達の群れが僅かに開き、その先にあるスチームロイドが見えた。

 活路を開いて見せた2人はレッドバスターを呼んだ。

 目と鼻の先まで来たのなら、此処からはレッドバスターの仕事である。

 

 

「いける……ッ!!」

 

 

 高速移動を可能とするワクチンプログラム。

 目にもとまらぬ超高速は薄くなった戦闘員の包囲門を駆け抜け、一気にスチームロイドまでの道を接近していった。

 幾ら超高速でも進路が塞がれていては先には進めない。

 先程までの戦闘員の群れはまさにそれだ。

 だが、通り抜けられる程度に隙間があるのなら、レッドバスターはそこを通って行く事ができる。

 邪魔になる数体の戦闘員をソウガンブレードで切り倒しつつも、レッドバスターは煙の根源、スチームロイドの元へと辿り着いた。

 

 

「ハアッ!!」

 

 

 スチームロイドの目の前へ辿り着いた直後、間髪入れずにソウガンブレードを突き立てるレッドバスター。

 まずは一撃入った。

 この距離、この速度、この奇襲、間違いなく避けられるはずがない。

 

 だが、それは防がれる事となってしまう。

 

 

「残念ね」

 

「ッ!?」

 

 

 あと数ミリでスチームロイドに届くところだったというのに、ソウガンブレードは金色のステッキに阻まれてしまった。

 そしてそのステッキは正に数時間前の戦闘でも見た、あの幹部のもの。

 金色のステッキの持ち主、レディゴールドはソウガンブレードを上へ弾くと、一撃、レッドバスターの腹に肘を打ち込んで後退させた。

 

 

「フゥ! 助かったぜ、ジャマンガさんよ!」

 

「私はレディゴールド。いっしょくたにしないでくださる?」

 

 

 スチームロイドは右手のベルトコンベアを挙げて感謝の意を示し、レディゴールドは不敵に笑う。

 対し、レッドバスターはダメージも早々にソウガンブレードを構え直していた。

 

 

「やはり出てきたか!」

 

「当然じゃない。貴方達を一網打尽にできるチャンスだもの」

 

「俺達ごと転送させるってワケか……!」

 

「そう言えば魔弾戦士はどうしたのかしらぁ? どっちもいないみたいだけど?」

 

「答える義理は無いッ!」

 

 

 ソウガンブレードを巧みに操って斬りかかるが、レディゴールドは後退しながらその全てをステッキで捌き切る。

 剣と杖がぶつかり合う度に、金属同士による甲高い音が鳴り響いた。

 打ち合いが続く中でレディゴールドは、自分に敵意をむき出しにするレッドバスターへ余裕そうな笑みを向ける。

 

 

「フフ、私だけじゃないのは、勿論分かってるわよね?」

 

 

 そんな言葉に動揺する事は無いレッドバスター。

 だが、次の瞬間に響いた悲鳴は、彼が動揺するには十分な物だった。

 

 

「うわあぁぁぁぁぁ!!?」

 

「きゃああぁぁぁぁ!?」

 

「ッ、リュウさん、ヨーコ!?」

 

 

 レッドバスターはレディゴールドと鍔迫り合いながら後ろを振り向いた。

 そこには吹き飛ばされ、地面に投げ出された2人の仲間の姿が。

 倒れる2人の先には屈強な怪物が1人。

 ジャマンガもう1人の新幹部、岩石巨人ロッククリムゾンがいた。

 

 

「余所見をしてていいのかしらッ!」

 

「ッ、ぐッ……!?」

 

 

 ブルーバスター達に気を取られた一瞬の隙を付き、レディゴールドがステッキを振るう。

 切り裂くように振られたステッキの一撃はレッドバスターの体に当たり、バスタースーツが火花を散らし、レッドバスターは痛みを受けつつ後退してしまう。

 

 ロッククリムゾンとレディゴールドの出現。

 それに反応したのはこの場の戦士の全員。

 数の上では有利とはいえ、流石に幹部2体をゴーバスターズだけで相手をするのは厳しい。

 そもそも幹部は1人1人が複数の戦士を相手に出来る程の強者なのだ。

 

 

「出てきやがったな? ロッククリムゾンさんよ」

 

 

 2号が戦闘員をかき分けてゴーバスターズの元へと合流してきた。

 元々、2号の目的は日本にやって来たロッククリムゾンの打倒。

 それ以外の敵も野放しにするつもりは無いが、2号自身、ロッククリムゾンの相手をできるのは自分だけだと自負している部分がある。

 だからこそ、彼等の前に出た。

 

 

「こいつは任せろ!」

 

 

 それだけ短く告げて、2号はロッククリムゾンへ殴りかかる。

 鬱陶しそうにしつつもロッククリムゾンはそれと相対した。

 

 今は2号に任せるしかない。

 そう判断したブルーバスターとイエローバスターは起き上がりながら頷くと、ロッククリムゾンと2号の脇を抜けてレッドバスターと合流。

 3人揃ったゴーバスターズはレディゴールドと対峙した。

 

 

「此処から先、行かせると思う?」

 

「力尽くで通させてもらうッ!」

 

 

 レディゴールドの後ろにはスチームロイドが煙を噴き出しながら仁王立ちしている。

 目の前には強敵がいるが、戦闘員達に阻まれていた時とは違い、今は目と鼻の先なのだ。

 これさえ超えればスチームロイドと戦い、倒すだけ。

 ゴーバスターズは気合を入れ直し、レディゴールドへ向かって行く。

 一方でレディゴールドは悠々とした態度で笑い続けていた。

 表情が語っていた。余裕だ、と。

 

 

 

 

 

 戦闘員達も同時に相手取りつつ、それぞれに戦いが始まっていた。

 ディケイドとWはアルティメットDと。

 メテオはプラノドンとギルガラスと。

 ゴーバスターズはレディゴールドと。

 2号はロッククリムゾンと。

 

 残るはフォーゼと響、そして助っ人にやって来たクウガとキバーラ。

 分散しているとはいえ無数にいる戦闘員を相手にするには少なすぎるくらいだ。

 特に響はノイズを倒せる唯一の存在。

 他の面々でも攻撃が当たれば倒せるが、当たるまでが一苦労なのだ。

 その中でバグラーや遣い魔も倒しているのだから大したものである。

 

 幾つかに分かれつつ、それぞれに戦う戦士達。

 その1つ、メテオの戦場では。

 

 

「クォーウッ!!」

 

「チィッ!」

 

 

 空中戦は続行中。

 プラノドンの口から発射されるロケット弾。

 いい加減に避けるだけでは埒が明かないので、メテオは青い球体状態を解除。

 直後、右手のメテオギャラクシーを操作した。

 

 

 ────SATURN! Ready?────

 

 ────OK! SATURN!────

 

 

 左手の人差指で指紋認証を行い、メテオギャラクシーが力を発動する。

 右手に小型の土星を携え、メテオは落下しつつそれを振るった。

 すると、土星の輪の部分がまるでブーメランのように飛んでいき、ロケット弾を切り裂いた。

 この技は『サターンソーサリー』。土星の輪を模したエネルギーで斬撃を飛ばす技である。

 サターンソーサリーの勢いはロケット弾を数発切り裂いても衰えず、そのままプラノドンの胴体に炸裂。

 胸を斜めに切り裂かれたプラノドンは、悲鳴を上げながらバランスを崩して落ちていくが、何とか体勢を立て直して飛行姿勢を整えた。

 

 

「グゥオ……!! おのれェ!」

 

「こっちもいるぞ仮面ライダー!」

 

 

 一時的とはいえプラノドンに集中しきっていたメテオは、背後から迫るギルガラスへの対応が遅れてしまっていた。

 青い球体の状態に戻るのも間に合わず、空中から接近するギルガラスは薙刀ですれ違いざまにメテオの背中を斬りつける。

 

 

「ぐぁッ!?」

 

「まだァ!!」

 

 

 ギルガラスは旋回、もう一度薙刀を構えてメテオへ接近した。

 ダメージ抜けきらぬメテオは、その一撃による斬撃を胴体に食らってしまう。

 

 

「ぐああぁぁぁぁッ!!?」

 

 

 そもそもサターンソーサリー発動の為に青い球体状態を解除し、自由落下に入っていたメテオはそのまま地面に落下してしまった。

 この程度で死にはしないが、やはり衝撃によるダメージはある。

 よろりと立ち上がりつつ上空を見上げれば、飛び続けるギルガラスとプラノドンは嘲笑のように鳴き声を上げていた。

 さらに、落下してきたメテオを狙う様に1体の怪人が、戦闘員を引き連れてやって来た。

 

 

「ククク、無様だなぁ、ライダー」

 

「カニの怪人、か」

 

 

 その怪人とはカニバブラー。

 まだ自分が高校生だった頃に戦った怪人の中で、カニの怪人がいた事を思い出すメテオ。

 その相手にそれなりに酷い目にあわされた事も。

 そして、その相手に勝った事も。

 

 メテオはカニバブラーを見た後、上空を飛ぶ2体の怪人にももう一度目をやった。

 その後、1つ溜息を付いた後、メテオは1つのアイテムを取り出す。

 

 

「全く……なら、これだ」

 

 

 取り出したのはスイッチ。

 しかし、フォーゼやメテオが普段使っているスイッチよりもかなり大きい。

 特徴的なのはスイッチ上部に取り付けられた大きな風車のようなもの。

 大きなスイッチを構えるメテオを見ながらカニバブラーは笑う。

 

 

「フン、知っているぞライダー。一部のライダーは姿を変化させるのだろう?

 だが、どうなったところで我々大ショッカーの敵ではないわ!」

 

 

 仮面ライダーは状況に応じて姿を変える者が多く存在する。

 それこそディケイドやW、フォーゼもそうだ。

 しかし、メテオはカニバブラーの言葉を否定する。

 

 

「変化だと? 違うな。これは────『進化』だ」

 

 

 メテオはベルトからメテオスイッチを引き抜くと、新たにその大きなスイッチを装填した。

 スイッチの名は、『メテオストームスイッチ』。

 

 

 ────METEOR STORM!────

 

 ────METEOR! ON! Ready?────

 

 

 装填後、メテオストームスイッチを押す。

 直後に鳴ったコールの後、メテオは右手でメテオストームスイッチの風車を回し、変身の際と同じようなポーズとなった。

 回された風車から青と金色の嵐が発生し、それがメテオの体を包み込んでいく。

 徐々に変化、いや進化していくメテオの体。

 左肩にもアーマーが追加され、流れる星を表現するように左側に尖っていた頭は右側も同じように尖った。

 そして色も変わり、黒かった部分は濃い青に、青かった部分は仮面含めて金色に。

 仮面の奥の複眼は鮮やかな赤色に輝いている。

 

 変化ではなく進化と表現された、もう1つのメテオの姿。

 

 

「『仮面ライダーメテオストーム』ッ!」

 

 

 メテオストームへと進化した彼は専用の棒術武器、『メテオストームシャフト』を構えた。

 嵐の中で進化した流星は、力強く啖呵を切る。

 

 

「俺の運命(さだめ)は嵐を呼ぶぜ!」

 

 

 より強力なコズミックエナジーを纏い、メテオ、否、メテオストームはカニバブラーへ向かって行く。

 相対するカニバブラー。その援護をしようと、上空から迫るプラノドンとギルガラス。

 

 

「ホォォ、ワチャァ!!」

 

 

 まずは1発、メテオストームシャフトをカニバブラーに叩きつけようとする。

 が、それは彼の左手そのものであるハサミに阻まれてしまった。

 嘲笑の鳴き声を上げつつ、カニバブラーはメテオを煽る。

 

 

「ゲエッエッエッ……進化ァ? だから何だというのだ」

 

「フン、すぐに分からせてやるッ!」

 

 

 挑発に乗りやすい性格をしている彼ではあるが、その実、頭は冷えている。

 言葉は熱くても冷静な判断力を持っているのがメテオ、流星という人間だ。

 

 

「オォォッ!!」

 

「ぬぐぅ……!?」

 

 

 ハサミとの鍔迫り合いを早々にやめ、メテオストームシャフトを連続で振るうメテオ。

 彼は『星心大輪拳』という拳法の達人であるが、同時に棒術の扱いにもたけている。

 メテオはアクション映画顔負けの動きでカニバブラーに連続で棒術による打撃を叩きこんでいった。

 ハサミで応戦するカニバブラーだが勢いのあるラッシュにそう長くは持たず、一瞬できた隙を付かれ、脇腹に一撃をもらってしまう。

 

 

「グオッ……!!」

 

「ワチャァッ!!」

 

 

 カニバブラーが怯んだ。

 メテオはメテオストームシャフトを左手に持った事で空となった右手を拳とし、カニバブラーへ放つ。

 拳法の達人が怪鳥音と共に放つ突きは、カニバブラーを後方へ大きく吹き飛ばした。

 警戒は解かないまま、転がるカニバブラーを流し目で見ながら、メテオはメテオストームシャフトを構え直した。

 

 

「この部隊の所属になって初めての戦いだからな。それに弦太朗やみんなもいるんだ。

 悪いが、下手な戦いをする気は微塵もない」

 

 

 そこに「尤も、そうでなくとも負ける気はない」と付け加えたメテオ。

 メテオとて、天ノ川学園高校でゾディアーツ相手に仮面ライダー部の一員として戦い抜いた仮面ライダー。

 それに加え星心大輪拳という達人レベルのジークンドーを操る拳法家としての側面を持ちつつ、日々犯罪を追うインターポールでも訓練を重ねる彼だ。

 豊富な実戦経験と適切な訓練を受け続けている彼が、弱い筈がない。

 少なくとも接近戦という面において彼の右に出るものはそうはいない。

 

 さて、ところでノイズを倒し続ける響は、隙を見つけてはメテオの戦いを時々見つめていた。

 何故メテオの戦いを観察しているか。

 実はその理由、最初は非常に下らない理由で、『『ホワチャー!』という特徴的な声が聞こえたから』というものだ。

 しかしその掛け声、最近の響にはちょっと馴染みがあるもので。

 

 

(師匠と見てる映画の人みたいだ……)

 

 

 彼女の弦十郎との特訓における教材はアクション映画である。

 それの真似をする事で弦十郎は武術を学んで、あれだけの強さを持つに至ったらしい。

 何かがおかしい気がした響だが、今ではその映画で力をつけた為、響もすっかり染まってしまっていて疑問にも思わなくなっていた。

 

 アクション映画とは所謂カンフー映画とかそういうものだ。

 そしてその映画群で用いられている拳法はジークンドーに類するものが多く、正しくメテオそのもののような動きも見た事がある。

 メテオの素性は『インターポールの捜査官』という点以外、時間が無くて説明されていない。

 だが、その動きだけで拳法を学んできたのだろうという事は響にも分かった。

 実際にそれを見てみると違うもので、響は自分の未熟さをまたもや感じていた。

 

 

(もしかして拳法の達人なのかな。型も凄いしっかりしてる……)

 

 

 響はこの1ヶ月と少しで驚異的な成長を見せている。

 しかしながら時間と成長はある程度比例するものであり、響のそれは未熟なそれ。

 付け焼刃と言ってもいいだろう。

 

 

(……私ももっと頑張ろうッ!!)

 

 

 未熟なのは分かっていた事。

 そして今はこの場に集中しなければいけない時だ。

 響は前向きに考えつつ、目の前の敵を自分が今できる最大限の技術と力で倒していった。

 

 ところが、実は響がメテオを見ていたように、メテオも時々響の事を見ていた。

 カニバブラー、プラノドン、ギルガラスと3体の怪人を相手取りつつも、メテオの視界には時々、ノイズを倒す響の姿があった。

 

 

(あの動き、あの構え。彼女も拳法使いなのか……?)

 

 

 半分事実。半分誤解。

 メテオはそんな微妙なラインの認識を響に持っていた。

 いつまでも響に目をやっているわけにはいかないので、再びメテオストームシャフトを振るって怪人を相手にするメテオ。

 敵は多い。ふんわり考え事をしている暇はないのだから。




────次回予告────
ついにエネタワーでの決戦が始まった。
敵はまだまだたくさん襲ってきやがる。
パワースポットへ向かった不動さんと翼の方でも戦いが起こっていた。
みんな、頑張ってくれ!
次回も、スーパーヒーロー作戦CSで突っ走れ!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。