スーパーヒーロー作戦CS   作:ライフォギア

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第61話 赤い風

 戦士達がバグラーと交戦状態に入った。

 スチームロイドを守るようにバグラー達は立ち塞がる上、その数は普段の比ではない。

 是が非でもスチームロイドを守るという意思が感じ取れるようだった。

 戦いの最中、その状況を見たゲキリュウケンはふと呟いた。

 

 

『妙だな』

 

「あ? 何がだよ?」

 

『普段ならメタロイドも戦闘に参加するだろう。だが、今回はバグラーだけだ。

 まるでバグラーがメタロイドを守っているような……』

 

「はっはぁーん……んなの、考えるまでもねぇ!」

 

 

 ゲキリュウケンの言葉の意味を察したリュウケンドーは、近くのバグラーを切り捨てた後に、遥か後方でバグラーに指示を飛ばすスチームロイドの方向へゲキリュウケンを向けた。

 

 

「アイツが何か、よからぬ事を企んでるって事だ! 行くぜッ!!」

 

 

 スチームロイドの背中にある給水口に、バグラーが器に入れた水を注ぎこんでいく。

 その水を使ってスチームロイドが何をする気なのかは分からない。

 分かるのは、間違いなく悪巧みの類であるという事。

 ならばそれを止めない理由は無い。

 

 しかし、スチームロイドへ突進するリュウケンドーの行く手は、紫色の怪物に阻まれる事になる。

 それはリュウケンドーにとっては馴染み深い戦闘員の姿だった。

 

 

「ギジャッ!」

 

「遣い魔か!」

 

 

 空中で一回転を決めて飛び込んできた3体の遣い魔。

 しかし遣い魔は戦闘員であり、数十体いても蹴散らす事ができるような相手だ。

 たかが3体、さっさと倒して先に進もうとするリュウケンドーであったのだが。

 

 

「うおっ!?」

 

 

 3体の遣い魔は素早い身のこなしでリュウケンドーを翻弄。

 ゲキリュウケンを振るうも全てが空を切り、逆に3体の遣い魔達は手に持った短剣でいいようにリュウケンドーを攻撃していた。

 1発1発はそこまでではないが、何度も食らえば大きなダメージとなってしまうのは必然。

 最終的に3体の遣い魔のうち1体に跳躍からの蹴りを叩きこまれ、リュウケンドーは大きく後退してしまった。

 

 遣い魔達の身のこなしは明らかにおかしかった。

 普段なら遣い魔なんて10体いても勝てる相手なのに、今回は3体に対して追い詰められてしまっている。

 別に遣い魔だからと油断をしていたわけではない。が、その実力は明らかに普通の遣い魔を逸脱している。

 

 

「な、なんだぁ……!? やたら強ぇ……!」

 

 

 蹴られた胸を左手で抑えつつ、ゲキリュウケンを右手に構え、遣い魔に切っ先を向ける。

 悠々とした、それでいて女性的な仕草でリュウケンドーへ視線を向ける遣い魔達。その後ろ側。

 そこから現れた声が、リュウケンドーの疑問に回答する。

 

 

「当然よ。この私、直属の部下なのだから」

 

 

 右手に持った金のステッキを左手に何度も軽く打ち付けながら、優雅に登場した金色の姿。

 見覚えのない、それでいてただものではないと感じる事のできる存在だった。

 一切の警戒を解かないリュウケンドーは、仮面の奥から鋭い眼光を飛ばす。

 

 

「テメェ、何モンだ!」

 

 

 ニヤリと不敵に笑う黄金の女は、律儀にもその言葉に答えて見せた。

 

 

「私はレディゴールド。ジャマンガに咲く花一輪……」

 

 

 直後、彼女が直属の部下と語った3体の遣い魔がレディゴールドを守るかのように集まる。

 よくよく見てみれば、そのやたらと強い遣い魔達は手甲や膝当てなどで軽装ながらも武装をしていた。

 普通の遣い魔ならばそんな恰好はしない。

 かつてリュウケンドーはゴーバスターズ達と合流するよりも前に、ツカイマスターと呼ばれる上位遣い魔と戦闘をした事がある。

 そのツカイマスターも通常の遣い魔とは異なり、武装をしていた。

 つまり、この3体も選ばれた遣い魔であるという事なのかとゲキリュウケンは思案する。

 

 

「そしてこの子達は私の親衛隊。『ガニメデ』、『ユウロパ』、『フォボス』」

 

 

 金色の装備を纏うガニメデ、銀色の装備を纏うユウロパ、桃色の装備を纏うフォボス。

 それぞれがレディゴールドに名を呼ばれると同時に見得を切って見せた。

 女性的な仕草で行われるそれは、レディゴールド同様、彼女達も女性なのだろうという事を伺わせる。

 遣い魔に性別があるのかは知らないが、少なくともこの3体に関してはそういう事らしい。

 

 と、苦戦するリュウケンドーを見てか、相手取っていたバグラーを軽く蹴散らした後にリュウガンオーが駆け寄って来た。

 

 

「剣二! 大丈夫か!」

 

「ああ。それより不動さん、こいつ……!」

 

「ジャマンガの幹部……みたいだな」

 

 

 明確に人語を話し、意思を持ち、親衛隊まで抱えている存在。

 これを幹部と言わずして何というのか。

 レディゴールドはその言葉に対しても不敵且つ余裕の笑みを見せ続けるのみ。

 いい加減にその薄ら笑いに腹が立ったのか、リュウケンドーはゲキリュウケンの切っ先をレディゴールドへ向けた。

 

 

「ったく邪魔すんな! 俺達はメタロイドをぶっ潰しに来てんだよ!」

 

「そうはいかないわ。私達とあの人達が手を組んでいるのは知ってるでしょう?」

 

 

 ご尤もで、とリュウガンオーは吐き捨てる。

 最近ようやくジャークムーンを打倒したというのに、即座の幹部補充。

 Dr.ウォームはあまり前線に出る事は無いが、このレディゴールドなる幹部はわざわざ前線に出てきた。

 という事は、ジャークムーン並の実力があると考えてもいいだろう。

 厄介どころか脅威だと言わざるを得ない。

 

 明らかな大物の登場に反応したのはゴーバスターズも同じだった。

 彼等もバグラーを相手取りつつ、リュウケンドーやリュウガンオーへと合流を果たす。

 依然としてバグラーは大量。

 目の前にはレディゴールドと親衛隊の遣い魔3体。

 状況を見渡した後、レッドバスターは敵の戦力に呆れたような溜息をついた。

 

 

「うんざりするな、全く。もう少しで門矢達も来てくれるが……」

 

「へっ、来る前に終わらせるくらいの気概で行こうぜ」

 

「同感だな。それぐらいじゃなきゃ突破できなさそうだ。だが、無茶はするなよ」

 

 

 おう、と頷いた後、リュウケンドー達は構えを正す。

 バグラーは積極的に攻めてはこず、奥で水を貯え続けるスチームロイドを守る、完全な守備姿勢だった。

 とにもかくにも敵を倒さなければ先には進めない。

 ならば、行動はシンプル。戦うだけだ。

 

 そうして5人は再び戦闘状態へと突入する。

 レディゴールドは動く事なく、バグラーも接近されるまで攻めてはこない。

 結果、5人と相対するように動き出したのは親衛隊の遣い魔3体だった。

 

 

「ッ!」

 

 

 レッドバスターは既に転送済みのソウガンブレードを振るい、遣い魔が持つ短剣と剣を交える。

 一発目はお互いに弾き、二発、三発目も剣同士が火花を散らせる結果に終わった。

 体術を交えようと左脚を繰り出す遣い魔、ガニメデだが、レッドバスターも同じように右足を繰り出しており、両者の蹴りがぶつかり合うだけに終わってしまう。

 

 

(並の遣い魔じゃないのは分かってたが……!)

 

 

 その後も数撃交えるものの、レッドバスターの攻撃は躱されたり当たる事もあったが、逆にガニメデの攻撃も外れたり当たったりとしている。

 技量という点において、間違いなく訓練されているそれだった。

 リュウケンドーはユウロパと、リュウガンオーはフォボスと、ブルーバスターとイエローバスターはバグラーとそれぞれ交戦を続ける。

 しかしバグラーと戦う2人はともかく、リュウケンドーとリュウガンオーも苦戦気味だ。

 

 

「っの野郎! どきやがれっ!!」

 

 

 何とかユウロパの腕を右脇に抱える事に成功し、一度突き飛ばした後に、縦に振りかぶって一閃。

 直撃が入り、流石の親衛隊もふらりとよろけ、そのまま地面へと倒れ込んだ。

 そしてリュウケンドーはゲキリュウケンをレディゴールドへと向ける。

 

 

「俺の相手はおま……ッ!?」

 

 

 正確には、レディゴールドが『いた』場所に。

 そこにレディゴールドの姿は無い。

 一体何処へ、と思考する間もなく、戸惑うリュウケンドーには次の瞬間に衝撃が襲った。

 胸から火花を散らすリュウケンドー、その僅か1秒後に右膝裏に攻撃を受け、ガクリと崩れ落ちるリュウガンオー。

 さらにリュウガンオーはその隙を突かれ、相手にしていたフォボスのハイキックをモロに浴びてしまった。

 上空へ浮いたリュウガンオーは地面へと落下し、倒れ伏せてしまう。

 

 ガニメデの相手をしながらも、その攻撃方法をレッドバスターは冷静に分析していた。

 いや、分析などしなくとも分かる。

 何故ならその攻撃は、レッドバスターもよく使用するのだから。

 

 

(高速移動か……!)

 

 

 目にもとまらぬ速さで動き、リュウケンドーとリュウガンオーを同時にも近いスピードで攻撃して見せたのだ。

 それは同じ速度で動けるか、その攻撃速度に反応できる超感覚でも無ければ対応はできない。

 これこそレディゴールドの『ゴールドラッシュ』。

 流石は幹部と言ったところか、魔弾戦士を圧倒する力を持っているのだ。

 

 その後、さらに何度かの衝撃がリュウケンドーを襲い、リュウケンドーも膝をついてしまった。

 瞬間、リュウケンドーの目の前に突然レディゴールドが現れる。

 表情は変わらず余裕のまま、嘲笑うような笑みを携えていた。

 しかし次の瞬間、その顔は怒りの表情にも近い、厳しい表情へと変わる。

 

 

「身の程を知る事ね」

 

 

 金のステッキを持って冷徹に言い放たれた言葉。

 そこには「自分と対等に勝負ができるとでも思っているのか?」というプライドを感じさせる。

 敵に対して容赦などする気もなく、止めを刺そうとレディゴールドはリュウケンドーへと一歩一歩近づいていく。

 レッドバスターもガニメデを相手しており、リュウガンオーは倒れたまま、ブルーバスターとイエローバスターもすぐに手が離せる状況ではない。

 

 しかし──────。

 

 

「ッ!?」

 

 

 リュウケンドーとレディゴールドの間を、高速の『何か』が通り抜けた。

 間一髪で反応できたレディゴールドはその攻撃を腕で防ぐものの、高速の何かはそのまま彼等から少し離れた場所へと着地した。

 リュウケンドー達に背を向けるように出現したそれは、ゆっくりと振り向く。

 黒と銀を基調とし、オレンジや金色も目に付く戦士。

 

 その戦士は振り向くや否や、左腰に両手をかざし、小型化されていた自分の武器を取り出す。

 

 

「『ザンリュウジン』」

 

 

 武器の名と思わしき言葉を呟けば、左腰についていた物が巨大化した。

 柄の両端に両刃の斧が取り付けられ、その丁度中央には金色の龍のようなレリーフが施されている。

 龍の装飾は何処となくゲキリュウケンやゴウリュウガンを想起させた。

 さらに謎の戦士は右腰のホルダーを回転させ、一本の鍵を取り出し、展開させる。

 

 

「あれって!?」

 

 

 リュウケンドーが驚くのも無理はない。

 何せその鍵は、どこからどう見てもマダンキーだったのだから。

 

 

「『ナックルキー』、召喚」

 

 

 龍のレリーフがある部分に鍵を差し込み、レリーフを引く事で鍵が内部に挿入された。

 直後、ザンリュウジンと呼ばれた武器は鍵の力により召喚される武器の名前を読み上げる。

 

 

 ────マダンナックル────

 

 

 上に掲げた謎の戦士の右手に、魔弾戦士専用の手甲型武器、マダンナックルが召喚される。

 マダンキー、マダンナックル、そして鍵を発動させたザンリュウジンなる武器は間違いなく魔弾龍だ。

 それが意味するところは1つ。謎の戦士は間違いなく、『魔弾戦士』であるという事。

 

 

「お前! 俺達の仲間か!?」

 

 

 マダンナックルを構える謎の魔弾戦士を指差すリュウケンドー。

 突然現れ、自分達と同種の武器を扱う謎の戦士。

 まるでゴーバスターズに対してのビートバスターとスタッグバスターのようだった。

 そうでなくともS.H.O.Tしか所持していない筈の武器を使う謎の魔弾戦士を仲間と思うのは必然。

 

 リュウケンドーに返答する事も無く、龍の装飾部分を引く事で、マダンナックルの牙を展開する。

 そして謎の魔弾戦士はマダンナックルから衝撃波を放った。

 

 

「邪魔するな……」

 

 

 ────あろう事か、リュウケンドーとリュウガンオーへと。

 

 

「ぐあっ!?」

 

 

 立ち上がっていた2人は、その攻撃を受けて再び後ろへ倒れ込んでしまう。

 しかし衝撃波の威力そのものはそこまででもなく、2人はすぐさま立ち上がることができた。

 ところが、謎の魔弾戦士はその瞬間にはもう接近してきており、2人をザンリュウジンで何度か切り裂いてしまった。

 三度倒れてしまった2人は、何とか顔だけを起こして謎の魔弾戦士を睨み付ける。

 

 

「ぐっ……! 何しやがんだ……!!」

 

「……フン」

 

 

 切りつけられた胸を抑え、リュウケンドーは怒りを見せるものの、謎の魔弾戦士は歯牙にもかけない。

 ゴーバスターズ達もその戦士が単純な味方ではないという事を認識したが、一方でレディゴールドだけは全く別の反応を見せていた。

 

 

「お前は……! くっ……!」

 

 

 謎の魔弾戦士に対し、逃げるように高速移動に入ったレディゴールド。

 しかし驚く事に、謎の魔弾戦士もそれを追うように高速移動に入って見せたのだ。

 後方、前方、右方、左方と、方角も距離もバラバラの場所で何度も武器と武器が衝突する音が聞こえた。

 高速移動の中で戦い、次々と移動をしているせいだろう。

 

 

「アイツも高速移動ができるのか……!」

 

「ちょっとヒロム、何する気!?」

 

「アイツを捕まえて正体を見せてもらう。ジャマンガの幹部も、できるなら倒す!」

 

 

 ソウガンブレードを手の中で回転させ、腰を落とすレッドバスターへイエローバスターが驚きながら疑問をぶつけるも、即刻返答したレッドバスターはワクチンプログラムによる高速移動へと突入する。

 同時に、あちこちで聞こえる武器の衝突音はさらに苛烈な物へと変化した。

 1対1の勝負が三つ巴へと変化したせいだろう。

 ザンリュウジンが、ソウガンブレードが、金色のステッキが、それぞれにぶつかり合う。

 

 高速の世界で言葉は要らない。

 ザンリュウジンの両端がソウガンブレードと金色のステッキを弾き、直後にレディゴールドに一太刀を浴びせる謎の戦士。

 優先すべきはジャマンガの幹部であると考えて追撃を行おうとするレッドバスターだが、ザンリュウジンの片刃に阻まれる。

 

 そして高速移動を終えた時、謎の戦士は遠くの位置で悠々と立ち止まり、レッドバスターはブルーバスター達の近くで息を切らせながら停止し、レディゴールドは親衛隊の近くに倒れるように現れた。

 誰が優勢な結果となったのかは明らかだ。

 レディゴールド親衛隊達は彼女を守るように周囲を囲み、ブルーバスターとイエローバスターもまた、レッドバスターへ駆け寄る。

 

 

「ヒロム! 大丈夫!?」

 

「ああ……。強いな、どっちも」

 

「高速戦闘を挑まれたら、今はヒロムしか対抗手段がないからね。

 さて、どうしようか……」

 

 

 バグラーは然程脅威ではないが、数が多い。

 レディゴールドは親衛隊込みで強いし、挙句に第三勢力の謎の戦士と来ている。

 しかも謎の戦士はジャマンガ幹部であるレディゴールドと拮抗するほどの実力の持ち主。

 どれもこれも油断できるものではない。

 ブルーバスターの思案を余所に、リュウケンドー達は行動を起こしていた。

 リュウケンドーとリュウガンオーは高速移動中の3人には手が出せないとして辺りのバグラーを倒す事に終始していたが、高速移動終了と同時にレディゴールドの元へと駆けていたのだ。

 

 

「遣い魔共々、一気に吹っ飛ばしてやるぜ!」

 

 

 ふらついているレディゴールドとそれを庇う3体の親衛隊遣い魔へゲキリュウケンを向けるリュウケンドー。

 攻撃してきた謎の戦士にあやかるようで癪だが、敵、それも幹部を倒すのに四の五の言ってはいられない。

 此処でファイナルキーを使えば、止めを刺す事もできるかも、そんな甘い考えが2人の中には少なからずあった。

 彼等だって間違いなく強くなっている。だから自惚れでは無かったかもしれない。

 

 ──────ところが、状況はさらに悪化の一途を辿る。

 

 

「だぁっ!?」

 

 

 突如、上空から落下してきた巨大な物体。

 リュウケンドー達とレディゴールド達の間に落ちたそれは、落下の衝撃で小規模ながらクレーターを作り、衝撃でリュウケンドーとリュウガンオー、親衛隊遣い魔達はそれぞれのやや後方へ飛ばされてしまう。

 唯一、膝をついていた事でかえって踏ん張りが効いたレディゴールドだけが、その場に留まることができた。

 謎の戦士も僅かに顔を動かし、突然の事への驚きを示している。

 

 

「んっだよ! 次から次に!!」

 

 

 吹き飛んだ後、何とか体勢を立て直したリュウケンドーが苛立った声を上げる。

 巻き起こった大規模な砂埃の中から現れたのは巨大な岩石。

 ただし、それは不自然なまでに綺麗な球体を描き、黄色いクリスタルが埋め込まれているという不可思議な物だった。

 おまけに身長は人間よりも大きく、この噴水公園の周辺には当然ながら崖など存在しない為、明らかに自然の岩石ではない。

 何だこの岩石は、と誰もが思った。敵も味方も関係なく。

 その答えに誰かが行きつくよりも早く、岩石自体がその答えを提示する事になる。

 

 岩石は一瞬の輝きの中に包まれたかと思えば、その姿を変化させていた。

 岩石のようなゴツゴツとした体、右肩に備えられている大砲、尖ったサングラスのような目。

 人間大でこそあれ、腕や足のゴツさからはパワータイプであるという事が十分に窺い知れる。

 そしてその岩石の魔人ともいうべき怪物は、腕を振り上げて名乗りを上げて見せた。

 

 

「『ロッククリムゾン』!」

 

 

 ロッククリムゾンと名乗るそれが出現したのと同時に、魔弾戦士とゴーバスターズ達にS.H.O.Tの瀬戸山からの焦ったような通信が届く。

 

 

『気を付けてください、強力な魔的波動が確認されています! その岩の怪物も魔物です!』

 

「何だと!? ……まさか、また幹部なのか!?」

 

 

 リュウガンオーがロッククリムゾンを睨むが、当の岩石巨人は腕を上下に動かして嘲笑うような声を出しているだけ。

 一方でブルーバスターは周囲を見渡し、冷静に状況を整理していた。

 

 

(ジャマンガの幹部が2人、妙な魔弾戦士が1人、バグラーは大量で、メタロイドはまだ何かしてる……。こうなってくると、流石に手が足りないかな……)

 

 

 そもそも彼等の目的は何かをやろうとしているメタロイドの行為を止める事にある。

 邪魔をしてくるジャマンガと、敵にも味方にも攻撃を仕掛けてくる第3勢力である謎の魔弾戦士。

 そしてその第3勢力までもジャマンガ幹部と同等以上の力を見せているときていた。

 これが単純に味方であったらどれだけ心強かったか。

 溜息を1つ付くブルーバスターだったが、此処でようやく、この状況に必要な人手がやって来た。

 

 響き渡るバイクの音。

 それと共に現場にやって来たのは、3台のバイク。

 翼が乗る緑のバイク、翔太郎のハードボイルダー、士のマシンディケイダー。

 尚、今回は翼の後ろに跨るように響はバイクに乗っている。

 現着、さらにバイクから降りた直後、4人はそれぞれに変身を行った。

 現れるのはディケイドとW、そしてガングニールと天羽々斬を纏う2人の装者。

 近寄ってくるバグラーの波にそれぞれに向かいつつも、ゴーバスターズと魔弾戦士達にいの一番に声をかけたのは響だ。

 

 

「お待たせしました!」

 

「悪くないタイミングかな。助かるよ」

 

 

 代表して返答するブルーバスター。

 一気に4人の増援。同時に4人はバグラー達と戦闘を始めてくれている。

 響も最近ではかなり力をつけているし、翼やW、ディケイドは戦闘経験豊富な実力者だ。

 と、バグラーを相手にしていた4人であったが、翼がその場を飛び上がる形で離脱し、ゴーバスターズの元へ着地した。

 ゴーバスターズと魔弾戦士達の元へ着地した翼は、簡潔な説明を行った。

 

 

「あちらとこちら……どちらが難儀な状況かは、見て分かるつもりです。

 あの3人が居れば向こうは大丈夫でしょう。こちらに加勢します」

 

「俺達だけで十分……って言いたいが、助かるぜ、翼」

 

 

 翼と同じく青い剣士であるリュウケンドーが素直な感謝を述べた。

 普段なら軽口や生意気な事を言うリュウケンドーだが、流石に幹部クラスが相手となれば話は別。

 ジャマンガ幹部であるジャークムーンと1対1の勝負をした事もあり、幹部の実力はよく知っているからこそ、リュウケンドーは油断をしない。

 一方でレディゴールドはロッククリムゾンに近づき、まじまじとロッククリムゾンを見つめていた。

 

 

「へぇ、貴方がオーストラリア支部にいた幹部?」

 

「…………」

 

 

 頷くだけのロッククリムゾン。

 実はこの2人、名前こそお互いに知っているが、初対面なのである。

 

 

(ふぅん? 『アイツ』が来てどうなる事かと思ったけど、こっちもまあまあ使えそうなのが来たじゃない)

 

 

 基本的にレディゴールドは打算的なタイプだ。

 判断基準は『使える』か『使えない』かである事からもそれは分かる。

 だから別段、ロッククリムゾンと仲良くしようなどと考えてはいなかった。

 そして彼女の考える『アイツ』とは謎の魔弾戦士の事。

 レディゴールドは視線だけを謎の魔弾戦士へと睨むようにくれる。

 一方で謎の魔弾戦士はそこから動かず、悠々と状況がどうなるかを眺めているだけだった。

 

 

(ホンットに頭にくる。こんなトコまで追っかけてきたのかしら)

 

 

 レディゴールドからすればムカつく相手だが、自分のスピードについてくるだけならまだしも、同速の勝負において自分に匹敵するほどの実力を持つ相手。

 とても油断ができる相手ではない事も確かだった。

 

 一方で、謎の魔弾戦士は。

 

 

『おい、どうする? 妙なのまで来ちまったぜぇ~?』

 

 

 軽い感じで言葉を発するザンリュウジン。

 ゲキリュウケンやゴウリュウガンの例に漏れず、ザンリュウジンにも意思が宿っていた。

 問いかけられた謎の魔弾戦士は、周囲の状況を一瞥した後、冷静に告げる。

 

 

「あの岩の魔物も幹部なら、それ相応の実力がある筈だ。

 なら、あいつ等と勝負させて様子を見ればいい」

 

『いやいや、でもアイツ等、対して強くないだろ? 見てても意味ねぇんじゃねぇの?』

 

「どんなに弱くても魔物どもの体力を削るくらいは役に立つ。

 それに、S.H.O.Tの連中が倒されようが、どうでもいい事だ」

 

『はいはい。久々に暴れられるかと思ったら、見てるだけになっちまうとはねぇ~』

 

 

 冷徹な態度を崩さない謎の魔弾戦士と、ほぼ真逆の明るく軽い印象を受けるザンリュウジン。

 敵でも味方でもない彼等は、傍観者に徹する事に決めたのであった。

 

 こうして、乱入者と増援を交えた混戦の幕が開く。

 

 

 

 

 

 ディケイド、W、響がバグラーの数を着実に減らしていく中で、徐々にスチームロイドへの道が開けていく。

 一方でバグラーと同じように邪魔をしてくるが、実力は段違いな2体の幹部と3体の親衛隊に彼等は手こずっていた。

 

 親衛隊はレディゴールドを守る事が役目。

 その為、3体の親衛隊はレディゴールドのゴールドラッシュに付いていけるレッドバスターを最も危険視した。

 3体の親衛隊はゴーバスターズ3人にそれぞれ1対1を仕掛け、主であるレディゴールドからゴーバスターズを引き離す。

 元よりチームとして動くゴーバスターズ達を1対1に持ち込む事で分断しつつ、レッドバスターをレディゴールドに近づけさせない動きだった。

 さらにロッククリムゾンの相手は魔弾戦士の2人がしている。

 その為、自ずと翼が相手をするのはレディゴールドとなっていた。

 

 

「貴女に見切れるかしら?」

 

 

 ゴールドラッシュのスピードは凄まじい。

 超スピードの中で金色のステッキの連続攻撃を受ける翼。

 一発の威力も決して弱くは無く、腹に、腕に、足にと打ち込まれる一撃は翼を確実に苦しめる。

 

 

「くっ、あっ……!!」

 

「フフッ、そうよ。貴女も身の程を知る事ねッ!」

 

 

 挑発的な言葉の後に、再び高速移動に入るレディゴールド。

 いくら機動力に長けている天羽々斬といえど、この異常なスピードは脅威だ。

 

 

(ならば……ッ!!)

 

 

 翼も戦闘や訓練を多くこなしてきたベテラン。

 彼女の判断は咄嗟であったが、その場で打てる最良手であっただろう。

 

 

 ────天ノ落涙────

 

 

 右手に持った細身の剣を掲げる事で、上空より剣の雨が降り注ぐ。

 あわや自分自身を巻き込みかねない程の距離に降り注いだ剣だったが、自分の放った、自分が加減を決めている技だけに、翼は一切動じない。

 翼を中心として降り注いだ剣は、いかに高速移動中のレディゴールドでも無視できるものではなかった。

 彼女が高速移動の中で行う攻撃は金色のステッキによる物理攻撃。

 つまるところが近接攻撃だ。

 ならば自分に近づけないように、あるいは近づいてくる事を見越して、周囲全てに攻撃を放てばいい。

 翼のしている事はそういう事だ。

 

 

(くっ……!)

 

 

 何回かは避ける事もできるかもしれないが、本物の雨のように降り注ぐ無数の剣の全ては流石に躱し切れない。

 たまらずレディゴールドは離脱し、高速移動を一旦停止させた。

 

 

「そこッ!!」

 

 

 そしてその隙を、周囲を全力で警戒していた風鳴翼が見逃すはずがない。

 既に構えていた短剣をレディゴールドの影に目掛けて投擲する。

 短剣は見事にレディゴールドの影を突き刺した。

 

 

「ッ! 体が……!?」

 

(あぶり出し、縫い付ける。上手くいったようね……)

 

 

 ────影縫い────

 

 

 レディゴールドの体が動かないのは当然。これはそういう技だ。

 相手の影に剣を刺して、まるで影ごと本体を縫い付けたように動きを止める技。

 まずは範囲攻撃で高速移動中のレディゴールドに無理矢理高速移動を止めさせ、再度、高速移動に入る前に影縫いで縛る。

 高速で動くなら、動けなくすればいい。至極真っ当であまりにも直球な解決法だった。

 が、間違いなく効果は得た。

 

 

「今なら────」

 

「くっ……!!」

 

「当たるッ!!」

 

 

 ────蒼ノ一閃────

 

 

 細身の剣は僅かな間に大剣へと変形し、大きく振りかぶった一太刀から発せられた青い衝撃波がレディゴールドを飲み込んだ。

 動けぬレディゴールドは高速移動で回避する事もできず、いいようにそれを喰らって吹き飛んでしまう。

 同時に地面までも抉られたため、レディゴールドは自由を取り戻すことができた。

 できたのだが、直撃したという事実は変わらない。

 

 

「ぐっ……! よくもやってくれたわね、小娘!」

 

「流石に一撃というわけにはいかないか……」

 

「甘く見てるのかしら? そんなムシの良い事考えてたなんて、屈辱だわッ!!」

 

 

 蒼ノ一閃の直撃を喰らわせたとはいえ流石は幹部。

 吹き飛んだ場所からすぐに立ち上がり、元気に怒りを見せてきた。

 攻撃をされた事に怒っているという事は効いてはいるのだろう。

 しかし、レディゴールドはすぐさま態勢を整え、金色のステッキを持って翼に接近した。

 高速移動こそ使っていなかったが、素のスピードもかなりのもので、翼はすぐに接近を許してしまう。

 

 

「ッ!」

 

 

 金色のステッキを横薙ぎに振るうも、翼は大きく飛び退いて後方へ着地。

 その間に蒼ノ一閃を繰り出す為の大剣を再び細身の剣へと変え、取り回しやすくした後、構えを整える。

 2年以上の戦闘と訓練の賜物か、翼はレディゴールドを相手に一歩も引いていなかった。

 

 しかし、ロッククリムゾンと戦うリュウケンドーとリュウガンオーはそうはいかないでいた。

 

 

「ぐあぁぁぁ!!?」

 

 

 大きく吹き飛び、地面へ叩きつけられるリュウケンドー。

 敵のロッククリムゾンは、見た目通り岩のような体を持っていた。

 勿論、岩程度の強度の筈がない。それならゲキリュウケンで真っ二つにできる。

 ロッククリムゾンの頑強さは今までの敵とは段違いであり、攻撃は一切効いている様子が無い。

 リュウケンドーの全力の一太刀も、リュウガンオーがいくら弾丸を連射しようとも、ロッククリムゾンの体には傷1つ付かない。

 さらにその硬度はそのまま武器にもなり、尋常でない硬さから放たれる拳と蹴りもまた、尋常でない威力を誇る。

 おまけに当人がガタイのいいパワーファイターというのも相まって、一撃もらえば大ダメージという強烈さ。

 

 

「くっ……そぉ……ッ!!」

 

 

 痛みを堪え、リュウケンドーは再び立ち上がってゲキリュウケンを振るう。

 既に吹き飛ばしたリュウケンドーに背を向け、リュウガンオーに意識を向けていたロッククリムゾンの背中にゲキリュウケンの刃が当たった。

 しかし、当たっても刃が体に食い込む事は無いし、傷をつける事も無い。

 そしてロッククリムゾン本人も一切気にする様子もなく、リュウガンオーの首を持ち、片手で悠々と放り投げて見せた。

 

 

「ぐあぁぁッ!!」

 

「不動さん! ッの野郎!!」

 

 

 何度も斬りつける。しかしロッククリムゾンに効いている様子は無い。

 そして岩石の魔物はゆっくりリュウケンドーの方を振り向き、その体を一瞬の内に担ぎ上げた。

 放しやがれ、と抵抗するよりも早く、ロッククリムゾンはリュウケンドーを真下の地面へと思い切り叩きつける。

 肺の中の空気が一気に吐き出された感覚に襲われながら、背中に走る痛みに苦痛を示すリュウケンドー。

 そんなリュウケンドーをロッククリムゾンは無慈悲に踏みつけた。力強く、思い切り。

 魔弾戦士の装甲が守ってくれているとはいえ、踏みつけの威力にリュウケンドーは痛みを堪え切れず、叫んでしまう。

 元がパワーファイターで、裏まで硬いその足、しかも見た目通りに重量もある。

 そんなものに踏みつけられて無事でいられるはずが無かった。

 

 

「ぐっ、あぁぁぁぁッ!!?」

 

「剣二ィ! このッ!!」

 

 

 膝立ち状態まで復帰したリュウガンオーはゴウリュウガンをロッククリムゾンに向け、幾度も発砲する。

 しかし何度も試したその結果が変わる事は無く、ロッククリムゾンが動じる様子は無い。

 ロッククリムゾンは左腕よりも大きく発達した右腕で踏みつけていたリュウケンドーの腕を掴み、リュウガンオーの方へ放り投げた。

 抵抗もできずにリュウガンオーにぶつかったリュウケンドーは2人ともに地面へ転がってしまう。

 その隙を付き、ロッククリムゾンは2人に接近し、リュウガンオーの脇腹を蹴飛ばした。

 打ち上げられ、再び遠くに追いやられるリュウガンオー。

 そして転がったままのリュウケンドーは再び踏みつけられる。

 しかも今度は、何度も足踏みをするように足を何度も何度も叩きつけられて。

 

 

「ぐっ、がっ、うあっ、ぐあぁッ!!」

 

「この程度か」

 

 

 圧倒的であった。

 硬くてパワーのある、極めて純粋に、極めて単純に『強いだけ』の幹部。

 技巧は無いが重たい一撃。回避などする必要もない装甲の厚さ。

 その強固な壁を打ち破る一撃が無いのなら、正しく彼は無敵。

 だからこそ、ロッククリムゾンは強かった。

 

 そして此処で、さらに問題が起きてしまう。

 

 

「ふぅ~! 来た来た来たァ!!」

 

 

 座り込んで給水口に水を持って来させていたスチームロイドが体を震わせ、突如立ち上がる。

 全身にエネルギーが満ちるのを感じるスチームロイドの声は高らかだ。

 そう、彼の力を発揮するのに十分な水が完全に補給されてしまったのである。

 噴水公園の水を利用し、数体のバグラーに水を汲ませ、他のバグラー達には足止めを任せる。

 通常のメタロイドが連れているバグラーの数とは比にならない程のバグラーがいたのは、それが理由だ。

 スチームロイドの能力を確実に発動させるための壁。それこそが無数のバグラーの役目。

 

 

「行くぜぇ~! フォォォォォッ!!」

 

 

 スチームロイドの頭と両肩に伸びる煙突から黄色い煙が上がり始める。

 工場から出る排気ガスを思い起こさせるそれを放ちつつ、スチームロイドはその場から駆けだした。

 走り出した方向はゴーバスターズや魔弾戦士、ジャマンガ幹部の戦闘をしている方でこそあるものの、彼等を全てスルーしてスチームロイドは何処かへと駆け抜けていく。

 ディケイドもWも、響も翼も、その全てに目もくれず、何処へともなく走るスチームロイド。

 彼が撒き散らした黄色い煙だけが辺りに立ち込めていた。

 

 

「くっ、なんだ……!」

 

 

 レッドバスターが煙の中で周囲を警戒する。

 彼だけでなく、味方全体が煙と、煙によって悪くなった視界を警戒していた。

 しかし敵からの攻撃が来る気配はない。

 レディゴールドは怪しく笑い、ロッククリムゾンはリュウケンドーを踏みつけたまま動かない。

 当のスチームロイドは戦線に干渉せずに走り回るだけ。

 そして異常は、すぐに起こった。

 

 

『う、うわあぁぁぁぁ!?』

 

 

 電子音に近い声が出す悲鳴。

 その声の主はゴーバスターズにはすぐに分かった。

 

 

「ニック!?」

 

 

 悲鳴の主はニック。

 いや、ニックだけではない。バディロイド3基全ての悲鳴。

 戦いから少し離れた場所にいた彼等に一体何があったのか、相棒であるゴーバスターズ3人は気が気ではない。

 黄色の煙のせいで視界が悪く、彼等の安否は全く確認できない。

 煙は徐々に上空に昇り、視界は再び澄んでいく。

 バディロイドがいる筈の戦線から離れた一点を見つめる全員の目に飛び込んできたのは、どこか鈍い動きで苦しむバディロイドの姿。

 膝のあるニックとゴリサキは膝をつき、ウサダは普段よりも動かし辛そうに腕を動かしていた。

 

 

『体が……!』

 

『なにこれぇ……なに、これぇ……』

 

 

 ニックもウサダも苦しそうな声色を上げていた。

 動きに違わず、本当に苦しいのだろう。

 その異常事態にゴーバスターズの3人がそれぞれにレディゴールド親衛隊を振り切り、相棒に駆け寄った。

 

 

「ニック!」

 

「ゴリサキ、大丈夫か!?」

 

「ウサダ! しっかり!!」

 

 

 バディロイドの体に起きている異変。

 それは外目で見ても分かるほど、赤黒い何かが体表に侵食している事。

 見た目からして、錆。そう、バディロイド達の体はところどころ錆び付いていたのだ。

 関節の動きが鈍い事から、恐らくは関節もやられている。

 

 

(錆……さっきの煙か!?)

 

 

 状況とタイミングからして原因は明らかだ。

 レッドバスターは戦線から遠ざかったスチームロイドを睨み付けるが、当のスチームロイドは一度ゴーバスターズの方を振り向く。

 

 

「俺の目的はお前等の相手じゃねぇ。じゃあなぁ!!」

 

 

 スチームロイドはベルトコンベア型の右手を振って、その場から走り去り、完全に戦線を離脱した。

 逃がすまいと動き出したいゴーバスターズだが、錆び付いて動く事すらままならないバディロイドをこのままにしておけばいい的になってしまう。

 故に、彼等は動けない。

 バディロイドはバスターマシンの起動に必須という戦力的な意味でも、相棒という精神的な意味でも必要な存在だ。

 その唯一無二の相棒を守る為、ゴーバスターズはその場にいる事を余儀なくされてしまう。

 

 その上、スチームロイドが水を溜め込むまでの時間稼ぎとして放っていた相当数のバグラーがまだ残っており、ロッククリムゾンとレディゴールドという2人の幹部、そして並の魔物よりも強い3体のレディゴールド親衛隊も健在。

 一方こちらはロッククリムゾンの猛攻で満身創痍の魔弾戦士2人と、動けないゴーバスターズ。

 明確に戦力として数えられるのは、最早仮面ライダーの2人とシンフォギア装者の2人だけとなってしまった。

 謎の魔弾戦士は未だに傍観を続けるだけで、戦力としてカウントできない。

 

 このままではマズイと誰もが感じていた。

 手が足りない上に、バディロイドと魔弾戦士の2人が危ない。

 しかもゴーバスターズが相手をしていたレディゴールド親衛隊はゴーバスターズを狙おうと動き出している。

 それなりの強さを持つ親衛隊相手に、バディロイドを守りながらのゴーバスターズが勝てるのか。

 下手を打てば、ゴーバスターズの隙を付いて錆びたバディロイドに止めを刺してくるかもしれない。

 状況を見渡したディケイドはカードを1枚取り出し、Wと響の方を見やった。

 

 

「お前等はそのまま雑魚の相手をしてろ!」

 

 

 それだけ言い残すとバグラーの群れから飛び出し、ディケイドは取りだしたカードを発動させる。

 

 

 ────ATTACK RIDE……ILLUSION────

 

 

 ディケイドライバーがコールした『イリュージョン』のカード。

 直後、ディケイドは『3人』になった。

 名の通り、それはまるで錯覚でも起こしたかのようにディケイドを『分身』させるカードなのだ。

 ただしそれは錯覚などでは無く、完全な実体を持つ分身。

 カード発動直後ならともかく、軽くシャッフルすればどれが本物かなど分からなくなるだろう。

 

 3人に分身したディケイドは、ゴーバスターズに迫るレディゴールド親衛隊である3体の遣い魔の前に立ちはだかった。

 

 

「門矢!」

 

「俺がこいつ等の相手をする。お前等はそいつらしっかり守ってろ!」

 

 

 分身した事への驚きも含んだ声でディケイドに呼びかけるレッドバスターに返答し、ディケイドは3体の遣い魔をゴーバスターズ達から遠ざけていく。

 加勢したいが、相棒を放っておけない。

 動けないゴーバスターズはディケイドの言葉に甘えるしかないのだ。

 

 しかし状況は変化し続け、悪化の一途を辿る。

 再び悲鳴が上がった。今度はバディロイドではなく、魔弾戦士達の。

 

 

「「ぐあぁぁぁぁッ!!!」」

 

 

 リュウケンドーとリュウガンオーが大きく投げ飛ばされ、地面に転がる。

 挙句の果てにはあまりのダメージに耐えかねたのか、変身まで解けてしまった。

 鎧のせいで今まで分からなかったが、剣二も銃四郎も体中が傷つき、血を出し、その姿は誰がどう見ても重傷と言えるものだった。

 

 

「剣二さん、不動さんッ!!」

 

「ッ、響ちゃんッ!?」

 

 

 バグラーの群れから足のパワージャッキを用いて全力で跳び上がった響。

 さらにジャッキの方向を調整して再び全力加速し、ロッククリムゾンへ向かっていく。

 それを見た翔太郎は響の行動に驚き、何をする気だ、とでも言うかのように名前を呼んだ。

 

 全力で上空に跳び上がり、ロッククリムゾンに向かって加速するという行為はバグラーに捉えられるものではない。

 が、その為、響が相手をしていたバグラーまでもがWの元に寄ってきてしまう。

 剣二達を助けたいのはWも同じだが、バグラーが行く手を阻んでくる。

 どっちにしろバグラーをそのままにはしておけないので、Wに残された選択肢は1つしかなく、響に託すしかなかった。

 

 響は力を籠め、引き出す様に歌を歌う。出力を目いっぱいまで引き上げる為に。

 右腕の腕部ユニットを引き延ばし、上空からの落下と加速の勢いをそのままに、右腕に渾身の力を籠めて一撃。

 さらに腕部ユニットがバネのように戻り、強烈なエネルギーを叩きこんだ。

 

 

「ハアァァァッ!!」

 

「ぬぐぅ……!?」

 

 

 今までリュウケンドーやリュウガンオーの攻撃にも怯まなかったロッククリムゾンが、怯み、たじろいだ。

 岩のような体でも、流石に体の内部まで強烈な振動が伝わる響の一撃は効いたのだろう。

 それにしてもリュウケンドー達の攻撃でびくともしなかったのに、1歩でも後退させた。

 響の成長が窺い知れ、レディゴールド親衛隊と戦うディケイドも横目でその様子を見やり、「意外とやるようになったか」と心の内で呟く。

 しかし、勘違いしてはいけない。

 ロッククリムゾンはダメージを受けたのではない。『怯んだだけ』なのだ。

 

 

「小娘が……フンッ!!」

 

「ッ、きゃあぁぁぁッ!!」

 

 

 怯みから回復したロッククリムゾンは、大きく振りかぶった右腕をお返しと言わんばかりに響へ振るう。

 攻撃直後という隙の為か、思いっきり胴体へ一撃貰ってしまった響は大きく吹き飛んで乱回転しながら地面をバウンドし、最後は摩擦で止まるまで地面を滑った。

 

 その光景に響の先輩である翼は一瞬、気を取られてしまう。

 

 

「立花ッ!」

 

「余所見をしている暇があるのかしら?」

 

「くっ……!」

 

 

 後輩がやられた事は心配だが、レディゴールドの言う通り、余所見をする暇はない。

 確かに一度、翼は高速の中にいるレディゴールドを捉えて見せた。

 だが、あれは千ノ落涙で足を止めてくることが前提で、そこに影縫いを突き刺すという手順だ。

 つまり初段の千ノ落涙に警戒、あるいは見切られるなどされると使えない手なのである。

 最悪、千ノ落涙発動中は、範囲外の場所を高速で駆けまわっていれば影縫いの餌食にはならない。

 つまりあの手段は一発芸のような物に過ぎないのだ。

 

 とはいえ、何処から攻撃が来るかは、ある程度攻撃を受ければだんだんと予測がついてくる。

 だからある程度の防御ができるし、攻撃を通す事も可能になって来た。

 

 

(攻撃と防御は何とかなる……。何処かで決めなければいけないが……)

 

 

 しかし、如何に戦えるようになっても高速移動が脅威であるという事実は変わりない。

 何処かでもう一度動きを止めて直撃を当てなければ、決めきれない。

 それに、仮にもう一度直撃を当てたとしても決められるかは怪しい。

 何せ相手は女性とはいえ魔物であり、幹部である以上、耐久力もあるだろう。

 決められるか、当てられるか分からない以上、安易に絶唱を口にするわけにもいかない。

 

 

(一瞬でやられる事は、恐らくない。だが、間違いなく不利だ……ッ!)

 

 

 レディゴールドの手の内がこれで全てかどうかはともかくとしても、不利な状況である事は覆らない事実。

 誰かの加勢も期待できないこの状況下で、翼もまた、苦戦を余儀なくされていた。

 

 

 

 ────そして、状況の悪化は尚も続いた。

 

 

 

「貴方達が、ゴーバスターズね?」

 

 

 バディロイド達を守っていたゴーバスターズの前に、謎の女性が姿を現した。

 腰の裏に2丁の銃を携え、やや露出度が高い服装をした、頭にサングラスをかけている女性。

 その服装が何処かエンターの着ている服に模様が似ているのは、ゴーバスターズの気のせいか。

 

 

「お前は……?」

 

「フフ……」

 

 

 レッドバスターの問いに対し、女性は不敵に笑いながら腰の裏にある銃を両手に取ってみせた。

 

 

「こっちがゴクで、こっちがマゴク。そして私はエスケイプ。とびっきりいいモノよ」

 

 

 2丁の銃をそれぞれに視線をやって、最後に銃を下ろして自分を示して名を名乗る。

 銃を持った、この状況下の中に飛び込んできて、立ちはだかって来た女性。

 エスケイプは妖艶な笑みを崩さず、ゴーバスターズ達をそれぞれに一瞥する。

 

 

「貴方達がいいモノなのか……確かめさせてもらうわ」

 

「よく意味が分からないんだけど。エスケイプ、だっけ? 目的は何なのかな」

 

「パパ、メサイアを喜ばせる事。そして、ゴクとマゴクに相応しい『いいモノ』を探す事よ」

 

 

 ブルーバスターが投げかけた質問への解答を聞き、ゴーバスターズの警戒は一層に強くなった。

 服装などからエンターに似た印象を受けていたが、メサイアを『パパ』と呼ぶエスケイプ。

 つまりヴァグラスのメンバーである事を意味し、新たなアバターであるという事だ。

 それぞれにソウガンブレードを構えるゴーバスターズ。

 そしてエスケイプは一旦降ろしていた銃を再び構え、2丁共をぶっ放した。

 

 

「くっ!!」

 

 

 3人はソウガンブレードを振るい、銃弾を全力で叩き落とす。

 後ろにいるバディロイドに当てさせるわけにはいかない。避けるという選択肢は無かった。

 銃撃を捌いたのを見たエスケイプは銃を止め、ニヤリと笑う。

 攻撃を止められた事に怒るでもなく、むしろ嬉々としている様子を見せていた。

 が、3人にその反応を気に留めているような余裕はない。

 

 

「リュウさん、俺とヨーコでアイツの相手をします」

 

「OK、ゴリサキ達は俺が。気を付けて!」

 

「うん。行こう、ヒロム!」

 

 

 銃撃が止んだ瞬間にそれぞれの役割分担を即座に決め、レッドバスターは高速移動でエスケイプに急速接近する。

 同時にイエローバスターはイチガンバスターを転送。エスケイプをいつでも撃てるように構えた。

 接近したレッドバスターは背後からソウガンブレードをエスケイプへ振るうが、それを白い銃、マゴクで受け止める。

 ゴクとマゴクはそれぞれ先端に刃も取り付けられている遠近両用の武器。

 それを用いて、ソウガンブレードと激しく斬り合う。

 

 レッドバスターの右手にあるソウガンブレードがエスケイプの胴体へ迫るが、エスケイプは左手のマゴクで抑えつけるように受け止める。

 即座に攻めに転じ、エスケイプはゴクの刃をレッドバスターの首目掛けて横薙ぎに放つが、レッドバスターは右腕で壁を作ってそれを受け止めた。

 

 

「あはっ!! いいわぁ、レッドバスター。貴方、中々いいモノみたいね」

 

 

 楽しそうに笑うエスケイプ。対照的に、レッドバスターの仮面の奥の表情は険しい。

 膠着状態の2人を見かねてか、イエローバスターがエスケイプを狙ってイチガンバスターを発射する。

 が、すぐにそれを察知したエスケイプはレッドバスターを突き飛ばし、銃撃を回避する。

 イエローバスターは移動するエスケイプを狙って撃ち続けるが、俊敏な動きを中々捉えられない。

 レッドバスターやレディゴールドの超高速は別にしても、エスケイプの動きはかなり身軽だ。

 さらにエスケイプは2人から距離を取るように駆け抜け、上空へ跳び上がって、イチガンバスターの照準を撹乱しつつ、ゴクとマゴクを構えた。

 

 

「フフフ……ッ!」

 

「ッ!」

 

 

 怪しげに笑い、ゴクとマゴクによる銃撃を空中から落下しつつ行うエスケイプ。

 狙いはイチガンバスターを構えるイエローバスターだ。

 勿論、黙って当たる気もなく、イエローバスターも左に転がり、走り、何とか銃撃を回避していく。

 そして着地したエスケイプは再び銃を下ろして、一切消えぬ笑みを見せつけた。

 

 

「貴女もまあまあやるわねイエローバスター。あっははは!」

 

 

 どうやら敵が強いという事に喜びを感じているらしい。

 バトルジャンキーなのか、思考回路は結構なものであるようだ。

 その考え方をゴーバスターズ達は理解できない。

 が、ただ1つはっきりしている事がある。それは。

 

 

「何コイツ、強い……!」

 

「ああ。これは本格的にマズイな……!」

 

 

 エスケイプは強い。

 この状況下の中で、最悪の援軍が到着してしまったという事実だった。

 

 

 

 エスケイプの登場によって、形成は完全な不利へと変わってしまった。

 3人になってレディゴールド親衛隊を一手に引き受けるディケイド。

 新たなヴァグラスのアバター、エスケイプと戦うゴーバスターズ。

 そして、ジャマンガ幹部2体をそれぞれ相手取る響と翼。

 ロッククリムゾン、レディゴールド、エスケイプの実力は、流石に幹部というべきか、恐るべきものがある。

 

 一方、Wはバグラーを全滅させた。

 直後に戦局を見渡すが、一瞬、ピタリと止まってしまう。

 

 

(やっべぇ……これ何処助けりゃいいんだ!?)

 

 

 ディケイドとレディゴールド親衛隊の戦いは、ディケイドが分身できるという事もあり、数の上で不利ではないので何とかなるだろう。

 ただ、問題は幹部。

 ロッククリムゾンとレディゴールドの実力は圧倒的で、エスケイプと戦うレッドバスターとイエローバスターも苦戦を強いられている。

 W1人の手が空いたとしても、増援が必要な場所は3つ。手が足りなさすぎる。

 

 さらに悪い事が起きてしまう。

 吹き飛ばされても立ち上がり、ロッククリムゾンへ立ち向かう響。

 体の内部にまで及ぶ響のインパクトは確かに効いてはいるものの、倒すには足りない。

 それを耐えたロッククリムゾンはカウンター気味に響を殴り飛ばしてしまう。

 そして響を再び吹き飛ばしたロッククリムゾンが、重傷で動けない剣二と銃四郎の方へ振り向いたのだ。

 

 

「止めだ……」

 

 

 止めを刺せる敵を見逃す道理は無いという事か。

 ロッククリムゾンの攻撃は、何も接近しての攻撃ばかりだけではない。

 右肩の砲台を放てば遠距離からでも強烈な一撃を見舞うことができる。

 そしてその砲台は、倒れ伏す剣二と銃四郎を照準に合わせていた。

 重傷の、いや、例え重傷でなくても生身の体に砲台の一撃が直撃すれば、待っているのは当然、死。

 マズイ、と誰もが助けに行こうとするが、それぞれの距離から考えても、誰も間に合わない。

 響が立ち上がっても、それは同じ。

 

 そうして無情にも、ロッククリムゾンの右肩から砲弾が発射され────。

 

 

 

 ────着弾するよりも早く、それは爆発した。

 

 

 

「ぬう……ッ!?」

 

 

 撃った張本人が誰よりも早く異常を察知した。

 どう考えても着弾点とは異なる場所で砲弾が炸裂したのだ。

 まるで、『何かに遮られた』かのような。

 砲弾の爆発による煙が晴れた後に、その原因が徐々に姿を現す。

 

 剣二と銃四郎の危機に、誰もがそこに目を向けていた。

 だからこそ、誰もが目を奪われた。

 突如として現れた、その『異形』に。

 

 砲弾を叩き潰す為、前へ突き出された赤い右腕。

 爆風ではためく、赤いマフラー。

 深緑の仮面に光る、赤い目。

 その赤は、まるで怒りの赤。

 

 

「ふぅん、あの一撃を拳で潰すなんて、少しはやるみたいね?

 貴方、何者? 目的を言いなさい」

 

 

 突然現れたその存在に翼だけでなく、それと戦うレディゴールドも気を取らてしまっていた。

 そしてそれがロッククリムゾンの邪魔をしたという事実に対し、レディゴールドはあくまでも余裕の態度を見せる。

 

 その存在は突き出した右腕を下ろし、彼女の言葉に答えた。

 緑の鎧と、体に走る白く太い1本の線。

 

 

 ──────その異形の名は。

 

 ──────その異形の目的は。

 

 

「正義。『仮面ライダー2号』」

 

 

 戦局を変える、風が吹いた。




────次回予告────
新しい幹部はどいつもこいつも強敵で、俺達も大苦戦。
助っ人のお陰で助かったけど、メタロイドはまだ倒せてねぇ。
ヴァグラスの奴等、一体何をするつもりなんだ?
次回も、スーパーヒーロー作戦CSで突っ走れ!

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