スーパーヒーロー作戦CS   作:ライフォギア

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第60話 力は善にも悪にも

 時間は響、未来、翼、士の4人が平和な一時を過ごしていた時よりも、少しだけ前に遡る。

 

 エンターにとってエスケイプという新たな女性アバターが出現した事は気がかりなところだが、実は気になる事がもう1つできていた。

 そのエンターが『気になる事』に対しての解答を持っている可能性があるDr.ウォームの元を訪れたのだが。

 

 

「あら、だぁれ? 貴方」

 

 

 待っていたのは黄金の衣装を纏う女性。

 この場に居るのだから、間違いなくジャマンガの関係者だろう。

 が、エンターにはその女性が誰なのか分からない。何せ初対面だ。

 

 

「これはこれはマドモアゼル。私はエンター。Dr.ウォームに要件があって来たのですが」

 

「ああ、私達ジャマンガに協力してるヴァグラスとかいうところの?」

 

「ウィ。貴女こそ、何者で?」

 

「私はレディゴールド、ジャマンガの幹部よ。ふぅん? Dr.ウォームよりはマシに見えるわね」

 

 

 エンターは知らぬ事、尚且つ興味の無い事だが、ジャマンガの幹部は全員折り合いが悪い。

 一部には仲が良かったりある程度気の合う者もいるが、基本的に仲良しこよしではないのだ。

 ウォームとレディゴールドもそう。険悪というか、邪険に扱いあうような関係。

 気の強さが影響してか、レディゴールドの方が若干優位に立つ事が多いのだが。

 

 

「なんじゃなんじゃ、儂を呼んだか」

 

 

 と、会話を聞きつけてDr.ウォームが奥の方から早足で出てきた。

 エンターを視認したウォームは「おお」と声を上げると、エンターとレディゴールドへと近寄る。

 

 

「エンター、来ておったのか」

 

「ええ。ジャマンガは新たな幹部の投入ですか。リュウケンドーに新たな力が加わった事が原因で?」

 

「フン、こいつが勝手に来おっただけじゃわい! 頼んでもおらんというのに……!」

 

「あら? 随分な物言いじゃない。未だに大魔王様を復活させる事もできていない癖に」

 

「なんじゃと!」

 

 

 ウォームとレディゴールドのやり取りを見たエンターは特に反応を見せないが、内心、溜息を付きたくなるような心境だった。

 造られたアバターが『心境』というのもおかしいのかもしれないが、エスケイプと出会った時の事を思い出していたのだ。

 エンターをヴァグラスの幹部というのなら、同じアバターであるエスケイプは新たなヴァグラスの幹部と言っていいだろう。

 ジャマンガとヴァグラスにほぼ同タイミングでの女性幹部追加。

 しかし性格を考えると手放しに喜んでいいのか。

 

 ジャマンガの事情などエンターとしては知った事ではないが、手を組んでいる現状、自分に関係の無い事と言えなくもない。

 それに自分の主であるメサイアが『人を苦しめる』という快楽の為だけに生み出したという、造られた理由からして呆れ果てるエスケイプの存在。

 そして目の前にいる、見るからに癖のある性格をして、ウォームと険悪そうなレディゴールド。

 もう少し機械的に、私情抜きで行動できないものかとエンターは呆れるばかりだ。

 

 

「そちらにも女性幹部の追加ですか。実はこちらにも1人、アバターの増員がありまして」

 

「ほう? アバターというのはエンター、お主もそうなのであったな? データの塊じゃったか」

 

「ウィ。まあ、いずれ会うかもしれませんので、一応」

 

 

 呆れた心境を表には出さず、エンターは軽くだがエスケイプの事を紹介しておき、さっさと本題に入る事にした。

 この場に長くいるのも面倒だと感じたのだろう。

 

 

「本題に入らせてもらいます。実は、見てほしいものがありまして」

 

 

 エンターは1つの小さな石を取り出した。

 形としては緩く菱形を描いたような、手の平で簡単に覆えるくらいの小さな石。

 しかし、それは淡く青い輝きを発しており、人間の感性で言うのなら、美しい物。

 パッと見だけで判断するのなら、間違いなく宝石だった。

 

 

「へぇ~、綺麗な宝石じゃない!」

 

 

 こういう高価そうな物に飛びつくのはレディゴールドの性格故か。

 エンターが差し出してきたそれに手を伸ばそうとするが、その手はウォームによって弾かれてしまった。

 当然、そんな行動に出たウォームに対してレディゴールドは食って掛かる。

 

 

「ちょっと何するのよ! こういう宝石は私にこそ……」

 

「待たんか!! ……お主、これを何処で手に入れた?」

 

 

 普段も怒る時は語気を荒げるウォームだが、今回のウォームは普段以上の荒げ方だった。

 いつもと違う様子に気付いたレディゴールドがウォームの顔を見てみれば、その表情は何処か険しい。

 レディゴールドを諌めたウォームはエンターに尋ねるが、その言葉は恐る恐る、と言った感じである。

 

 

「亜空間に突然飛来したんです。何処からか転送……というより、空間を突き破って来た、という感じでしょうか。全部で9個、これと同じものが」

 

「むむ……」

 

 

 険しくなっていた表情を、より一層深刻なものへと変えるウォーム。

 一方でエンターは、どうやら此処に持ってきたのは正解だったようだと考えていた。

 今回ジャマンガの本拠地にやって来た理由は、現在エンターが手にしている宝石の正体を探る為だった。

 

 この宝石は亜空間に突如、本当に前触れなく飛来した謎の物体。

 エンターはおろか、亜空間内部でヴァグラスのメガゾードを造りだしている創造する者達ですらも詳細は分からない。

 

 

「エネルギーに満ちている事だけは分かったのですが、そのエネルギーが何なのか、用途は、使用方法は……。とまあ、殆ど分かっていないので、Dr.ウォームなら何か知っているのでは、と」

 

「何故、儂だったんじゃ?」

 

「我々にとって魔法や魔力は専門外ですからね。逆に言うなら、我々に解析できないエネルギーであるという事は魔法に関係したものである可能性がある……そう判断したんです」

 

 

 ヴァグラスは人間が造りだした機械から発生した組織だ。

 故に、人間社会で使われるエネルギーや機械全般に関してはかなりの情報を持つ。

 そんなヴァグラスですら判別不能なエネルギー。

 逆に言えば、人間社会であまり使われる事の無いエネルギー。

 そこでエンターが最初に思いついたのが魔法や魔力だったのだ。

 ダメもとではあったし、此処で駄目ならフィーネや大ショッカーも当たろうかと思ったが、その必要はなさそうだった。

 

 何せ、ウォームは宝石を心底訝し気で、警戒の目で見ているからだ。

 つまり正体が何であるか、察しがついているらしい。

 

 

「少し貸してもらうが、よいな?」

 

「ええ、これの正体が分かるのなら」

 

 

 ウォームはエンターの手から慎重に宝石を手に取り、宝石に向かって普段から用いている杖を向けた。宝石を解析しているのだろう。

 エンターには何がどうしてそれで解析ができるのかは分からないが、魔法とはそういうものだ、と、特に深く考えなかった。

 そうしている内にウォームの表情は見る見る強張り、その白い顔は青ざめているようにも見えた。

 

 

「こ、これは……何と、とんでもない……!」

 

「なぁに? その宝石、一体何なの?」

 

 

 レディゴールドの言葉に、エンターもそれは私も知りたいところだと、首を軽く傾げて見せる。

 ウォームは余程動揺しているのか、宝石から顔を上げる時、ややカクついた動きだった。

 

 

「一目見た段階から、魔力の塊である事は分かっておった……。

 じゃが、まさかこれほどとは……」

 

「何よ。勿体付けずに言いなさいよ」

 

 

 急かすレディゴールドの言葉に怒る事も無く、ウォームは重々しく口を開いた。

 

 

「……これは、パワースポットに匹敵する魔力の塊じゃ」

 

 

 瞬間、レディゴールドですらも驚愕の表情に染まる。

 パワースポットに匹敵。

 つまりそれは、破壊されれば町1つを吹き飛ばす大惨事を引き起こすそれと、この小さな宝石が同等という事。

 ヨーロッパにてパワースポットの魔力爆発が起こり、そのせいでヨーロッパから去る事を余儀なくされたレディゴールドは非常に嫌な事を思い出してしまう。

 最初にレディゴールドが触ろうとした時、ウォームが彼女の手を払ってまで警戒していたのも、宝石を一目見た時点で『魔力の塊』だと看破していたからだ。

 

 レディゴールドとは対照的にエンターが表情を変える事は無い。

 しかしそれなりに興味が湧いたらしく、レディゴールドに変わって質問を続けた。

 

 

「パワースポット……確か、大きな魔力の塊と伺った記憶があります。

 以前にムッシュ・ジャークムーンがそこを目指して、城を飛ばしたとか」

 

「うむ。パワースポットは破壊すれば町1つが滅びる程の魔力を秘めておる。

 ジャークムーンの奴はその魔力を利用しようとでもしたんじゃろうが、そんな事をすれば何が起きるか儂らにも分からん。

 じゃから儂らも滅多に手を出さん場所じゃな」

 

「それと同等である、と?」

 

「しかもこれ1つでじゃ。残り8個もあるんじゃったな……全く、とんでもない物が亜空間とやらに流れ着いたものよ」

 

「オーララ。拾い物にしては、いささか物騒ですね」

 

 

 フム、とエンターは思案する。

 どうやらこの宝石は魔力の塊で、とんでもないエネルギーを秘めているようだ。

 しかしこれが一体どういう理由で亜空間に流れ着いたのかが分からない。

 

 

「Dr.ウォーム。これが魔力の塊であり、非常に強力な物であるという事は分かりました。

 では、これが何処から来て、何の目的で造られたかは……」

 

「流石に分からん。ただ……」

 

「ただ? 何ですか?」

 

「お主、これは亜空間に、空間を突き破るように現れた、と言っておったな?」

 

 

 その言葉にエンターが頷くと、ウォームは宝石を睨むように見つめた。

 

 

「確かにこれが9個も集まって暴走か何かすれば、空間すら壊れてもおかしくはないじゃろう。

 じゃが、これもパワースポットも危険ではあるが、外部からの刺激が無い限り暴走はせん」

 

「成程……。つまり、9個の宝石は『何者かが発動させ、その影響で亜空間に流れ着いた』、と?」

 

「憶測にすぎんがな。あと、これも恐らくなんじゃが、これは地球の物ではない。

 宇宙から来たか、あるいは全くの異世界から来たか……。

 少なくとも地球上で9個ものこれが暴走したのなら、地球はただですんでおらんじゃろうからな」

 

 

 纏めると、この宝石は『別世界か宇宙の何処かで何者かの手によって暴走し、その影響で空間を突き破って亜空間に流れ着いた、パワースポット並の魔力の塊』という事だ。

 とんでもない危険物ではあるが、そのエネルギーはかなりのもの。

 下手に利用しようとして暴走、挙句にエネトロンタンクごと吹き飛んだのではヴァグラスとしては困る。

 あけぼの町でこれが暴走しようものなら人間も町ごと吹き飛んで、マイナスエネルギーが回収できなくなる。

 ヴァグラス、ジャマンガ、両者にとってこれが暴走した際のリスクは大きい。

 が、その阿保みたいなエネルギーが何かに使えないかと思案するエンター。

 

 折角した拾い物だし、こんな危険な物を適当に放置しておくわけにもいかない。

 色々と考えた結果、エンターはウォームにある提案を持ちかけた。

 

 

「……Dr.ウォーム、この宝石の危険性は十分に分かりました。

 それを踏まえたうえで、この宝石を利用した提案があるのですが」

 

「危険を承知でこれを使うというのか?」

 

「まずは私の提案が可能であるかどうか……。それを確認してから、ですがね」

 

 

 ニヤリと笑うエンター。

 2人のやり取りに珍しく無言を貫いていたレディゴールドもまた、笑う。

 何だか面白い事になりそうだ、と。

 唯一、ウォームだけは不安の色を隠せていないが、聞くだけ聞いてみるかと、エンターの提案に一先ず乗っかる事にした。

 

 思わぬ拾い物をしたエンターの提案には訳がある。

 実はエンター、次なる作戦を既に考案しており、その準備も進めてきていた。

 

 

(万が一、がありますからね。この宝石……使えるに越した事はありません)

 

 

 その作戦とは、大量のエネトロンを一気に奪う大規模な作戦。

 準備は進んでいるのだが、問題は勿論、ゴーバスターズを初めとした戦士達。

 バスターマシンを使う事なくメガゾードを倒せる戦士すらいるのだ。エンターの警戒は強い。

 もしもこの宝石が彼等への迎撃に使えるのなら、それは非常に有意義な使用方法だ。

 次の作戦の万が一に備え、この宝石を使用できるようにしておく。

 それがエンターの狙いだった。

 

 

 

 

 

 時間は戻り、デートを終えた翌日、月曜日。二課本部にて。

 現在時刻は午後2時。響や弦太朗のような高校生、大学生などの面々は学業に励んでいる時間帯。

 そんな中、教師である門矢士は自分の担当授業が今日は終わったという事で二課に顔を出していた。

 二課の本部はリディアンの職員室がある中央棟からエレベーターを使う。

 故に、教員である士にとっては足を運びやすい場所でもあるのだ。

 二課本部の司令室には弦十郎、朔也、あおい、了子、翔太郎といった面々が揃っていた。

 

 士は報告が遅れていた夏海とユウスケ、光写真館の事を弦十郎に伝えた。

 2人もまた仮面ライダーであり、この部隊に協力をしたいと言っていると。

 仲間は多いに越したことはないし、Wと同じく士のお墨付きなら信用もできるだろうと考え、弦十郎はそれを承諾。

 あとは他の責任者である黒木や天地の承諾も得るだけ、という段階に入っていた。

 

 ちなみに写真館は「響と未来がパン屋に行った時に偶然見つけて士に話した」という事にした。

 プリキュアの事を話すのは咲や舞に悪いし、写真館をどう見つけたかを正直に話してしまうとプリキュアの秘密を暴露する事になってしまう。

 正直、協力して貰ったほうがお互いにいいとは思うのだが、咲や舞の秘密はシンフォギアの秘密とはまた違って意味でややこしい。

 咲や舞をこの部隊に巻き込むという事は、政治的な云々にも巻き込まれかねない。

 協力して貰うにも、きちんと彼女等の意思を確かめる必要もある。

 それに夕凪に住む彼女等には彼女等の日常があるのだ。

 二課はリディアンの真下にあるから響や翼は学校と両立できているが、別の街に住んでいる咲や舞はそうはいかない。

 そういう兼ね合いから、プリキュアとの合流は見送っている。

 これは翔太郎と弦太朗が以前出会ったなぎさとほのかに対しても同様だ。

 

 また、モエルンバとの戦闘時に懸念されていた『響が変身した事が二課に伝わり、そのままプリキュアの事も知られてしまう』という事態も、どうやらザルバが言っていたようにモエルンバ出現と同時に発生していた結界により通信が阻害されていたらしく、ガングニールの起動は感知されていなかったらしい。

 それとなく士と翔太郎が「最近、何か変わった事はあったか?」「シンフォギアの起動とか」と、朔也やあおいに聞いてみたところ、クリスの事を聞いているのだと受け取られたのか、「イチイバルの反応が時折確認されるくらい」という返答だったのと、弦十郎達が何も言ってこないので大丈夫だろうという事になった。

 

 しかしシンフォギアを知ってしまった咲と舞をそのままにしておくわけにもいかない。

 いずれ、今は無理だが、二課には来てもらわなければならないだろうなとは士も翔太郎も考えている。

 そこのところは彼女等と何処かで相談しなくてはならないだろう。

 辛いところではあるが、咲や舞の事情ばかり優先するわけにもいかない。

 

 なお、シンフォギアを直接目撃していない鋼牙は特にどうこうする必要もないだろうと、士はそっちに関しては放置する事にした。

 士はシンフォギアについて話したりもしていないので、鋼牙はシンフォギアの事を実際に何も知らない。問題は無いと言える。

 

 さて、その辺りはいい。

 写真館どうこうの話をしたという事は、士が写真を現像した、という話にもなる。

 そしてその結果は。

 

 

「あっはっはっはっはっ!!」

 

 

 櫻井了子の高らかな笑いが二課本部に響き渡るというものだった。

 つられるように朔也やあおいがプルプルと、笑いを堪えるように震える。

 弦十郎や慎次も苦笑いを浮かべる中、門矢士だけがどんどん機嫌の悪そうな表情となっていった。

 

 察しの言い方ならお分かりだろう。見られたのだ、写真を。

 

 写真館に行ったという事は現像したのか? という話になり、そこから見たいと押され、仕方なく見せた結果である。

 以前から部隊のメンバー、特に了子は彼女の性格的に、見せたら絶対に面倒くさい反応になるだろうとは思っていた。

 予想通り、了子は尋常じゃなく笑っている。

 

 

「はははははっ!! あー、お腹いたぁい……! なぁにこのピンボケ……!!」

 

「黙れ。俺の芸術性が理解できないとは、できる女が聞いて呆れる」

 

「ふぅん? ま、天才は後世になってから評価される事もままあるものね。

 でもそれにしたってこれは……フフッ……!!」

 

「チッ……」

 

 

 ニヤニヤと見つめてくる了子に対し、鬱陶しそうな舌打ちをくれながら顔を逸らす士。

 そんな士の肩にポンと手を置いて、「ま、ご愁傷様だな?」とニヤけた面で口にした翔太郎の手を、士は肩を跳ね上げて乱暴に振り払う。

 

 死後に評価される芸術家は多いが、果たして門矢士はその中に入れるのか。

 現在進行形で櫻井理論を評価されている天才、櫻井了子は笑いながら疑問に思う。

 他の誰にも撮れない写真と言えば聞こえはいいが。

 

 

「さて、まあ話題を移そうか」

 

 

 弦十郎が全体を見渡して言う。

 そんな彼も先程まではちょっと笑っていたのを士は見逃していない。

 内心「この野郎」と思いつつも、写真の話をこれ以上されてもたまらないので、一先ずは話の切り替えに乗っかった。

 他の面々、オペレーター陣と了子、翔太郎もこの場の司令官という事もあり、その言葉に従う様子だ。

 

 

「此処最近、グレートゴーバスターやサンダーリュウケンドーと言ったように、戦力の強化が為されている」

 

 

 切り出しは最近の事柄から。

 実際、マサトやJの実質的な部隊加入からサンダーキー入手など、戦力強化は何度も起こっていた。

 それこそ仮面ライダーの部隊参加、ガングニールの新たな装者出現などが良い意味で想定外だったというのもあり、予想よりも部隊はずっと強力なものになっていた。

 ジャークムーンという強力な幹部を1人倒したというのも大きいだろう。

 

 

「とはいえ、だ。ヴァグラスやジャマンガ、フィーネを名乗る謎の存在、大ショッカーが手を組んだ事。疑似亜空間なども含め、敵も新たな手を繰り出してきているのも事実だ」

 

 

 例えば失われたネフシュタンやイチイバルの出現が挙げられる。

 雪音クリスはフィーネとは既に繋がりが無さそうではあるのだが、ネフシュタンとイチイバルがいつの間に、如何な経緯でフィーネの手に渡っていたのかは不明のまま。

 ソロモンの杖というノイズの制御を可能にする完全聖遺物も敵の手の内である。

 

 さらに、ヴァグラスが繰り出してきた疑似亜空間という新たな一手。

 これはあけぼの町に発生させればマイナスエネルギーの回収にもなりえ、ジャマンガにまで恩恵が及ぶ。

 グレートゴーバスターという対抗手段はあるが、逆に言うとグレートゴーバスター以外では対応できないのが疑似亜空間の厄介さだ。

 考えたくはないが、グレートゴーバスターが負けた時、あるいは何らかの要因で使えない時の代替策が一切ない。

 加えて、ゴーバスタービートと同型の新型メガゾード。

 特命部に『メガゾードδ』と名付けられたそれは、ダンクーガにも勝る能力を持っていた。

 こちらも無視できるような代物ではない。

 

 ついでにいうなら大ショッカーの規模だ。

 デュランダル強奪未遂の際に、大ショッカーは5体もの怪人を投入してきた。

 他にも、栄光の7人ライダーやディケイドやW、フランスでアクセル達を襲った際にも怪人を数体放っている。

 怪人を使う、という点だけ見れば他の組織でも似たような事はやっている。

 だが、実はこの部隊には大ショッカーを一番に警戒している人物がいた。

 

 ──────門矢士だ。

 

 彼は大ショッカーと関わりが深い。

 敵と味方とかそういうレベルでなく、かつて大ショッカーの大首領であったのだから。

 結局、自分がかつて大ショッカーに身を置いていたという事実は話していない。

 話す必要が無いから、と士は言うだろう。

 しかし心の何処かでは、それを言う事を恐れているのかもしれない。

 

 ともあれ、士は大ショッカーという存在を隅々まで知り尽くしている。

 にも拘らず、今回の大ショッカーは得体が知れなさすぎた。

 いつの間に結成され、いつの間にあれだけの怪人を用意できるようになったのか。

 かつての大ショッカーを知っているからこそ、得体の知れない今回の大ショッカーに士は警戒心を抱いているのだ。

 

 一同が敵の事を考えて表情を険しくする中、弦十郎は続ける。

 

 

「しかも最近、ある国でこんな映像が目撃されている。藤尭」

 

「了解」

 

 

 朔也がコンピュータを操作すると、メインモニターにある映像が映し出される。

 監視カメラか何かの映像らしく画質は荒い。

 しかし、そこに映っていた人物に士と翔太郎は目を見開いた。

 代表し、翔太郎が声を上げる。

 

 

「あの野郎……エンターか……!?」

 

 

 映像の人物は黒いコートにサングラス、その演技のような仕草など、正しくエンターだ。

 既に内容を知っている他の二課メンバーは驚く様子は無いが、モニターを睨んでいるようでもあった。

 

 映像のエンターは無数のバグラーを連れ、何処かの軍事施設の格納庫を襲っているらしかった。

 兵が銃で応戦するが、バグラーやエンターの繰り出すコードのような触手に次々と伸されていく。

 そうしてエンターは格納庫にある機体を見上げて……というところで映像は終了した。

 恐らく、銃かバグラーの流れ弾か何かで監視カメラが破壊されたのだろう。

 

 砂嵐が一瞬流れた後、メインモニターが閉じ、同時に弦十郎が言葉を再開した。

 

 

「格納庫にあったのは『ウォーロイド』と『ジェノサイドロン』。各国の紛争地域や戦争などで用いられる、変形機能を有した機動兵器だ」

 

「ああ、戦争なんかじゃよく使われてるやつか……」

 

「この世界じゃそんなもんが戦争に持ち出されてるのか」

 

 

 翔太郎はこの世界の人間という事でウォーロイドやジェノサイドロンの事を知っていたが、この世界の紛争や戦争の事情に詳しくない士は、ああいった機動兵器が使われている事に僅かに驚いていた。

 士のイメージする戦争は戦闘機や戦車や歩兵がどうこうする、というイメージだったためだが、この世界ではああいう機動兵器がある事も、既に常識の範囲内らしい。

 Aという世界の常識がBという世界では通用しないという事はよくある事なので、そういうものだと士は気にしないが。

 

 さて、ウォーロイドとは戦車や戦闘機の姿をした無人兵器であり、人型形態への変形機構を有している。数も多い量産型だ。

 一方でジェノサイドロンは巨大な、例えるなら蛇とか龍とかそういう類の姿をした有人機動兵器であり、その巨体は物によってはダンクーガをも上回る。

 

 どちらも戦争などで使用される兵器なのに代わりはない。

 だが、エンターはそれが格納されている場所に何の用があったのか。

 弦十郎はそれを語った。

 

 

「今の映像は、エンターが関わっているという事で入手できた映像だ。

 何でもその後の調査では、ウォーロイドやジェノサイドロンがごっそりと無くなっていたらしい」

 

「さらに、格納庫内のエネトロンが異常に消費されている事も判明しています。

 恐らくメタロイドに変えたか、転送して亜空間か何処かに送ったんでしょう」

 

 

 どうにもエンター、格納庫内のエネトロンを使ってジェノサイドロンやウォーロイドを強奪したらしい。

 目的は明白。戦力の増強だろう。

 仮にメタロイドに変化させたのだとしても、ジェノサイドロンをそのまま奪ったにせよ、新たな兵器を手に入れた事に変わりはない。

 警戒するには十分な理由だろう。

 

 

「エンターの行動含め、油断ならない現状だ。

 そこで、俺と黒木、天地両司令が話し合った結果、できる装備強化はしておこうという話になってな。今頃、ゴーバスターズが新装備を発見している頃だろう」

 

 

 士と翔太郎は『装備を発見』という言い方に引っ掛かりを覚えた。

 完成とか輸送なら分かるが、発見というと、まるで普段はその装備が何処かをうろついているかのような。

 果たして、それはどういう意味なのか。

 士と翔太郎がそれを知る由は無かった。

 

 

 

 

 

 一方その頃、S.H.O.T基地でもS.H.O.Tメンバーが魔法発動機を囲む形で全員集合していた。

 装備強化の話が上がると、まず真っ先に何かを尋ねられるのは瀬戸山だ。

 瀬戸山はマダンキーの調整などを行える人。そしてマダンキーはイコールで魔弾戦士の力だ。

 つまり、瀬戸山は魔弾戦士の武装を取り扱う人間である事を意味している。

 そんなわけで瀬戸山は「何か新装備は無いの?」と聞かれ、簡単に言わないでほしいとボヤきつつも、1つだけ思い当たる節があったのを思い出したのだ。

 

 魔法発動機の中央には1本のマダンキーが置かれている。

 マダンキーにはそれぞれ模様があり、それによってある程度、それが何のキーであるのかが判別できる。

 例えばファイヤーキーなら炎が描かれた赤いキー、アクアキーなら水晶のようなものが描かれた青いキー。

 

 そして魔法発動機に置かれたマダンキーの模様は、何処かおどろおどろしい目のような模様。

 これは魔物を倒した後に回収し、そのままのマダンキー。

 つまり魔弾戦士用の調整を行っていないキーだ。

 

 マダンキー調整の役割を担う瀬戸山が杖でキーを指しながら、説明を始める。

 

 

「これは、リュウケンドーに関係するキーである事が分かっています」

 

「だったらさっさと調整してくれよー。なんかまたすげぇキーなのかも知れないんだろ?」

 

「いえ、間違いなく凄いキーですよ」

 

 

 剣二の言葉に瀬戸山は確信をもって答えた。

 調整をしてみなければ、そのキーがどんなキーなのかは分からないものだ。

 調整前でも誰が使うキーなのかは分かるが、その『誰』が『何』をするためのキーなのかが分からない。

 何かしらの強化武装をするのか、何かを召喚するのか。

 勿論、このキーもリュウケンドー用であること以外には何も分かっていなかった。

 しかし瀬戸山には、自信を持って「これは凄いキー」だと言ってのけられる理由がある。

 一同がその自信へ疑問符を浮かべる中、瀬戸山は続けた。

 

 

「こんなに厄介なキーは初めてなんです。何せ、此処での調整ができませんからね」

 

 

 そう、なんとこのマダンキー、魔法発動機での調整が不可能な代物。

 手に入れたのは随分前なのだが、調整していないのはそもそも調整できないという理由からだった。

 調整できないという事は使えないという事である。

 まさか未調整で使うわけにもいかない。それではいつぞやのサンダーキーの二の舞である。

 自分のキーでありながら使えない宣告をされた剣二は、食って掛かるように瀬戸山へと振り向いた。

 

 

「おいおい、じゃあ使えねぇじゃねぇか!?」

 

「慌てないで。調整する方法が1つだけあります」

 

 

 しかし流石は魔法エンジニアである瀬戸山。きっちりと解決策も用意してあった。

 ただ、その解決策が容易ではないのも確かなのだが。

 

 

「パワースポットです。あれだけのエネルギーが満ちている場所なら、このキーの調整ができるでしょう。

 ですが、パワースポットは知っての通り危険な場所。行けば、何が起こるか分かりません」

 

 

 その名を聞いて一同は表情を少し強張らせる。

 パワースポット。再三再四の話になるが、非常に危険な場所だ。

 ジャマンガですら滅多に手を出さず、S.H.O.Tが厳重に封印、監視を行っている場所。

 だが、パワースポットのように強大な魔力が満ちた場ならば、どんなキーでも調整できるだろうと瀬戸山は語る。

 逆に言えば、そんな危険な場所でもない限り調整ができないという事でもあり、このキーの特異性が伺えた。

 

 何が起こるか分からないパワースポットに突入するのは危険だ。

 流石に今すぐパワースポットに出発というわけにもいかない。万全の態勢で臨むべきだろう。

 

 

「他の組織とも連携を取って、パワースポットへの突入を考えよう。

 いきなりの突入では、あまりに危険すぎるからな」

 

 

 司令官という権限を持つ天地の言葉に、他の面々も頷いた。

 自分の装備をお預けという事があってか剣二だけはちょっと不服そうだが、渋々と頷く。

 パワースポットは魔力爆発を起こせば町1つが壊滅するほどの被害を出すような代物。

 とはいえ、そこでしか調整できないマダンキーがあるのなら、選択肢は無い。

 いずれパワースポットに向かう事になるであろう事は予感しつつも、天地はこの話を一旦終わらせるのだった。

 

 

 

 

 

 一方、ゴーバスターズ。東京湾沿岸にて。

 リュウジとヨーコは海沿いの道路を歩きながら、ソウガンブレードを双眼鏡として用いて海を見渡し、捜索を行っていた。

 今回は捜索に人手が欲しいという事もあり、バディロイドのゴリサキとウサダも同伴している。

 

 ところでヒロムはというと。

 

 

「すみません、遅くなりました」

 

 

 ヒロムとバディロイドのニックがリュウジ達の元へ走り寄って来た。

 4人に頭を下げるが、ヒロムとニックの遅刻は特に気にしてはいなかった。

 緊急事態というわけでもないというのもあるが、ヒロムはむしろ誰よりも早く来るタイプであり、こういう遅刻は珍しい。

 むしろそこが気になって、リュウジは不思議そうな顔をヒロムに向ける。

 

 

「珍しいね、ヒロムが遅刻だなんて」

 

「いや、ニックがいつもみたいに道に迷って。道案内に関しては頼らない方がいいですね」

 

『うぉいヒロム! 人を方向音痴みたいに言うなよ!?』

 

「みたいじゃなくて方向音痴そのものだろ」

 

 

 いつもみたい、という言葉から分かる通り、ニックは方向音痴だ。バイクなのに。

 ヒロムをバイク形態の自分に乗せるのはいいのだが、そのナビゲートが方向音痴なのだ。

 勿論ヒロムはそれを知っている。が、それが改善されているのではないかと淡い期待を持ったのが間違いだったと、ヒロムは溜息をついた。

 

 幼い頃から兄のような存在であるニックの事をヒロムは信頼しているし、頼りに模している。

 しかし幼い頃から彼の事を知っているからこそ、欠点をずけずけと言うのだ。

 ストレートに物を言うヒロムだからこそでもあるし、長年の付き合いの相棒だからでもある。

 翔太郎とフィリップ辺りならそういう関係性に理解を示すだろう。

 

 成程ね、と苦笑いのリュウジ。

 完璧なんてつまらない、というのはマサトの弁だが、彼のバディロイドであるJも含めたバディロイド達は何処かしら欠点がある。

 それは性格に癖があるとか、それこそニックの方向音痴のような物だ。

 人間らしくて親しみやすいとも言えるだろうか。

 

 

「ところで、見つかりましたか?」

 

「全然。ヨーコちゃん、そっちは?」

 

「うーん……見えない、かな。ウサダ、そっちはどう?」

 

『何にも。ねぇゴリサキ、そっちは?』

 

『こっちも何にも見えないよぉ~……。うん?』

 

 

 彼等が探しているのは、二課のメンバーが言っていた『新装備』だ。

 新装備を捜索するという表現には違和感があるかもしれないが、その新装備というのは普段、東京湾やその近辺を漂っているとの事。

 

 一同がキョロキョロと海を見渡している中、ゴリサキが最初に異変に気付いた。

 彼等が捜索しているすぐ傍の海が、突如として隆起したのだ。

 明らかな異常に全員が目を向ければ、隆起した海からせり上がる1つの巨大な影。

 影は海から彼等の前に、その機械的な緑色のカエルのような姿をさらした。

 大きさで言えばイエローバスターのRH-03と同程度の大きさか。

 緑色の機体が海から出てきた影響で水飛沫が少しかかるが、それよりも面々はその巨体に目を奪われていた。

 

 

「これが……」

 

 

 ヒロムの呟きと共に、モーフィンブレスに特命部から通信が入る。

 声の主は司令官、黒木だ。

 

 

『そうだ。『FS-0O』、通称『フロッグ』。初期のバスターマシンで、主に水中での活動を目的としている』

 

 

 基本的にバスターマシンの形式番号に付けられているアルファベットは、そのバスターマシンが変形する動物と乗り物のモチーフの頭文字だ。

 例えばゴーバスターエースことCB-01の『CB』はそれぞれチーターの『C』とバギーの『B』。

 FS-0Oの『FS』とはフロッグの『F』とサブマリンの『S』。

 サブマリン、即ち潜水艦。

 黒木の言葉通り、というか海から出てきた見た目通り、これは水中を得意とするバスターマシンだ。

 

 陸と空の機体は存在していたが、水の機体は初めてとなる。

 これが彼等の探していた『新戦力』だ。

 

 

『一先ずFS-0Oに乗りこめ。付属するバディロイドがいるだろう』

 

 

 バスターマシンを動かすにはコックピットとなるバディロイドが必要だ。

 マサトが亜空間で新たに開発したBC-04とSJ-05は例外だが、それ以外の3機はそういう設計となっている。

 そしてそれ以前に開発されているFS-0Oもその例に漏れない、という事。

 指示通り、ゴーバスターズの3人とバディロイド達はFS-0Oに乗船。

 その後、あまり大衆に姿を見られるのはマズイという判断の元、FS-0Oは再び海中へと潜っていった。

 

 

 

 

 

 流石は潜水艦というべきか、FS-0Oの中は広い。

 他のバスターマシンはパイロット1人が入るだけのスペースしかないのに対し、FS-0Oは複数人で搭乗できる程のスペースが用意されていた。

 窓からは青い海に漂う魚達を眺める事もでき、乗り心地も快適だ。

 

 FS-0Oの操縦桿は、CB-01などの例に漏れず、バディロイドが務めている。

 操縦桿にいたのはヨーコの膝下程度しかないウサダをさらに小さくして、それを緑でカエルのデザインにしたようなバディロイドだった。

 

 

『こんにちは、私は『エネたん』! よろしくね!』

 

 

 小さな手を上下に動かしながら歓迎の意を示すバディロイド。

 どうやらエネたんというのが名前らしい。

 新たなバディロイドという事もあって興味津々の一同。

 

 バディロイドの中で一番小さかったウサダすらも下回る小ささだった。

 他のバディロイドがバスターマシンに操縦桿として接続する際に頭部だけしか見えなくなるのに対し、エネたんは全身が見える程の小ささ。

 ゴリサキやニック、Jが成人男性程度の大きさという事もあり、バディロイドの大きさの差異は意外と極端である。

 

 操縦桿はカエルの手を細長くしたようになっており、これも他のバディロイドとは違う点だが、どうも本体のエネたんとは関係の無いパーツで構成されているようだ。

 ニックとゴリサキは頭部のハンドル、ウサダは耳が操縦桿になるのに対し、エネたんは自分とは関係の無いパーツが操縦桿。

 初期型という事もあって色んな違いがあった。

 ちなみにもう1つ、他のバディロイドはオスに設定されているが、エネたんはメスである。

 

 

「へぇ……かなり小さいんだな」

 

 

 エネたんの小ささを指摘しつつ、頭に手をポンと置いてみる。

 直後、エネたんは手を上に振るって、ヒロムの手をどけさせた。

 結構勢いのある乱暴な動きに驚くヒロムと一同。

 

 

『人の頭に手を置くな! 失礼な奴だな……』

 

 

 そして友好的な態度を一変、口が悪くなった。

 第一声の快活な声は何処へやら。語気も荒く、不機嫌な様子がありありとしている。

 態度の急な変化という癖のある性格を見たリュウジが、一言。

 

 

「バディロイド……だね……」

 

 

 欠点というか、人間味というか、何というか。

 そういうところを見て、間違いなくエネたんはバディロイドであると、全員が納得したのだった。

 

 

 

 

 

 善も悪も、お互いに殆ど知られぬまま、着実な動きを見せていた。

 そうして戦いは、突然始まる。

 

 

 

 

 

 エネたんとゴーバスターズが出会って数十分後、モーフィンブレスに司令室からの通信が届く。

 声は森下のもの。通信機からは森下の声の後ろに、警報の音が聞こえていた。

 

 

『エネトロン異常消費反応確認!』

 

 

 警報音から察してはいたが、予想通り、エネトロンの異常消費。

 即ちメタロイドの発生。

 異常消費反応が確認された位置情報が送られ、ゴーバスターズはバディロイドも含めて各々に「了解」の言葉を口にした。

 メタロイドが現れたのなら、ヴァグラスはエネトロン強奪、そうでなくとも碌でもない事を企んでいるに決まっている。

 ならば、彼等のする事は1つ。メタロイドを倒す為に、現場へ急ぐ事だけだ。

 

 

 ────Let’s Driving!────

 

 

 モーフィンブレスを操作すると、電子音声が鳴り渡る。

 これはバスターマシンを操作するモードへと移行した事を示す音声だ。

 さて、このままFS-0Oで現場に向かおうと、ヒロムは操縦席に座り、操縦桿を握るわけだが。

 

 

『うわっ! やめろ! 勝手に触るなお前!』

 

「黙れ」

 

 

 猛烈な拒否反応を見せるエネたん。どうやら不用意に触られるのが嫌らしい。

 しかし、ゴーバスターズとしても非常事態。悠長な事は言っていられないとして、ヒロムがエネたんの言葉を短くぶった切る。

 が、エネたんはそれでも食い下がる様子だった。

 

 

『離せ! 離せよぉ!!』

 

「おい、言う事聞け……うわぁっ!?」

 

 

 エネたんはFS-0Oの管理者同然であるが故、自分で操縦桿を操作できる。

 操縦桿を握るヒロムの手を何とか振り払おうと、エネたんは操縦桿を右へ左へ動かした。

 結果、FS-0Oそのものが揺れる。そして内部にいるヒロム達はその揺れでてんてこ舞いになるわけで。

 

 

「ちょ、ヒロム! 何とかしてぇ~!」

 

『ヒロム! バディロイドに接する時は、もっと優しくだな!』

 

「黙ってろニック!」

 

 

 目を回すヨーコに、ここぞとばかりにバディロイドへの接し方を説いてきたニック。

 方向音痴と言われた事を気にしているのかは知らないが、そんなニックをバッサリと切り捨てたヒロムであった。

 

 

 

 

 

 東京都内のとある噴水公園。

 老夫婦が穏やかにベンチに座り、恋人同士がデートを楽しみ、母親と父親が子供と和気藹々と遊ぶ、平和な公園。

 そんな平和は、脆くも崩れ去っていた。

 

 

「オラオラ! どけどけぇ!! 此処は大人の仕事場なんだよォ!」

 

 

 現れたのは機械の怪物。

 右手はまるでベルトコンベアのような棒状の武器となっており、目につくのは頭部と肩から生えた煙突。

 パイプも繋がっているその外見は、まるで工場を人間の形に落とし込んだような姿をしていた。

 その名は『スチームロイド』。

 ある工場にメタウイルスをインストールしてエンターが製造したメタロイドだ。

 

 複数のバグラーを引き連れたスチームロイドが現れ、公園内はパニック状態。

 多くの人々が逃げ惑う中、スチームロイドとバグラーは人間達には目もくれない。

 彼等が目的としているのは、噴水公園の噴水。つまりは水だった。

 

 

「おら! 早く持って来い! どんどん入れろ!!」

 

 

 工場のガテン系とでも言えばいいのだろうか。工場から生まれた為か、スチームロイドはそういう性格をしている。

 スチームロイドはバグラー達を急かした。

 一方でバグラーは器を持って、噴水公園の水を汲んで、それをスチームロイドの背中にある給水口へと流し込んで行っている。

 複数のバグラーが次々とスチームロイドに水を溜め込んで行っているのだ。

 

 何かをしでかすつもりなのは火を見るより明らかだ。

 だが、そんな勝手を彼等は許さない。

 

 

「待ちやがれ!」

 

 

 いの一番に駆け込んできた、勇ましい声。

 走り込んできた青年の名は鳴神剣二。S.H.O.Tの魔弾戦士だ。

 それに続いて、サングラスをかけた不動銃四郎が剣二の横に並ぶ。

 メタロイドの出現に伴い、各組織から戦士達が向かっているのだが、ゴーバスターズはFS-0Oに悪戦苦闘中。

 その為、誰よりも早く彼等が付いたのである。

 

 

「なんだなんだァ! この仕事場は関係者以外立ち入り禁止だ!!」

 

「こっちも仕事で来てんだよ! お前等をぶっ倒すってな!」

 

 

 スチームロイドが怒りを見せるが、剣二も負けじと言い返す。

 その後、剣二は辺りを軽く見渡すと、得意気に鼻を擦った。

 

 

「へっ、一番乗りか。俺達で決めちまおうぜ、不動さん!」

 

「それに越した事はないが、油断するなよ剣二」

 

 

 ゴーバスターズが遅れている理由を露知らぬ剣二は、誰よりも早く来た事に自慢げだ。

 剣二の言葉はともかく、さっさと倒せる事に越した事はない。

 スチームロイド、バグラーと剣二、銃四郎が睨み合っていたその数瞬の中。

 バイクのエンジン音が響き渡った。

 

 

「何っ、うおっ!?」

 

 

 バイクは大きく跳び上がり、サングラスとヘルメットを着けた搭乗者はイチガンバスターでスチームロイドを狙撃。

 突然の登場に驚き、跳び上がったバイクに気を取られてしまったスチームロイドは反応する事もできず、良い様にイチガンバスターのビームを浴びてしまった。

 火花を散らして仰け反るスチームロイドを尻目に、バイクは着地。

 

 バイクとその搭乗者を見た剣二は、少々残念そうな反応を見せていた。

 搭乗者の名は桜田ヒロム。そしてバイクは彼の相棒、ニックだった。

 

 

「ちぇっ、お前等が来る前にさっと終わらしちまおうと思ってたのによー」

 

 

 ヒロムはヘルメットを外すと剣二と銃四郎の隣に駆け寄るように並び、ニックもまた、人型に変形し、3人よりも一歩後ろの位置に立った。

 

 

「別にそれでも構わないけどな。俺達の仕事が減って助かる」

 

 

 軽く返すヒロム。

 そんなヒロムに続き、彼の両隣に並ぶようにリュウジとヨーコ、そしでバディロイドのゴリサキとウサダもやってきた。

 バディロイド3機は全員、それぞれのパートナーの斜め後ろに立つようにしている。

 彼等は戦闘用ではない。その為、前に出ない事を意識しているのだろう。

 

 FS-0Oに悪戦苦闘していた彼等だが、現着に時間がかからなかったのには理由がある。

 それは単純明快。FS-0Oから降りてさっさと自分の足で向かったのだ。

 エネたんには、無理矢理に操縦しない代わり、自分で特命部の格納庫へ行くように言っておいた。あとは特命部の整備班辺りが上手い事収容してくれるだろう。

 

 ところでゴーバスターズの3人は全員サングラス着用をしている。

 彼等はあまり派手に立ち回らず、どちらかと言えば裏方に近い行動をとる事も多い。

 例えば広木防衛大臣暗殺の捜査をしているのが二課の調査部に加え、ヒロムとリュウジがいる事からもそれは伺える。

 何よりゴーバスターズが自分達であると必死に隠しているわけではないが、あまりに知れ渡りすぎるのも問題。

 その為、顔を隠すなどの意味もあり、サングラスをかけているのである。

 

 

「…………!」

 

 

 剣二はゴーバスターズを見た後、先輩の銃四郎を見て、気付く。

 銃四郎もサングラスをしているが、それは単純にファッションだ。

 年齢的にも大人びて、比較的ハードボイルドな雰囲気の為によく似合っている。

 そんな銃四郎とゴーバスターズを何度か見やった後、剣二は苦虫を噛み潰したような顔で口を開いた。

 

 

「なんてこった……!」

 

 

 深刻そうな声色が全員の注目を集め。

 

 

「俺もサングラスしてくりゃよかった……ッ!!」

 

 

 どうでもいい一言が飛んだ。

 

 単純な偶然だが剣二以外全員サングラス。

 そんな中、剣二1人だけが浮いているのだ。

 疎外感というかなんというか、そんなどうでもいい相棒の一言にゲキリュウケンから一言。

 

 

『アホかお前は』

 

「だってよぉ! これすっげぇ空気読めてないみたいじゃねぇか!!」

 

『この状況でその話の方がよっぽどだろ』

 

 

 剣二に対してゲキリュウケンは冷ややかである。

 お互いに信頼しているのは確かなのだが。

 

 さて、そんなばかばかしいやり取りの間に、イチガンバスターで撃たれたスチームロイドは復帰し、立ち上がっていた。

 

 

「ゴーバスターズまで来やがったか……。

 このヴァグラスの一番星、スチームロイドの仕事を邪魔するんじゃねぇ!!」

 

「お前こそ俺達の仕事を増やすな!」

 

 

 地団駄を踏むように、見るからにイラついた様子で体を震わせるスチームロイドに対し、ヒロムが敵意の混じった強い言葉で返す。

 そして並び立った5人はサングラスを外し、投げ捨てた。剣二だけエアだが。

 

 

「やっぱあった方がカッコつくよなぁ……」

 

 

 サングラスを捨てて臨戦態勢を見せる彼等の仕草をちょっとカッコいいなと思うと同時に、自分だけそれができない事の悔しさと疎外感に溜息を付く剣二。

 

 

 ────It's Morphin Time!────

 

「ゴウリュウガン! リュウガンキー、発動!」

 

「っと! ゲキリュウケン! リュウケンキー、発動!」

 

 

 そんな剣二を尻目に、それぞれがそれぞれの変身アイテムに手を掛けていく。

 流石にその空気の中でサングラスの話を続ける気は失せ、剣二もまた、ゲキリュウケンを操作した。

 

 

 ────チェンジ、リュウガンオー────

 

 ────チェンジ、リュウケンドー────

 

「剛龍変身!」

 

「撃龍変身!」

 

「レッツ、モーフィン!」

 

 

 銃四郎の声が、剣二の声が、ゴーバスターズ3人の声が、それぞれの変身を指し示す。

 そうして戦士達は戦装束に身を包み、名乗りを上げる。

 

 

「レッドバスター!」

 

「ブルーバスター!」

 

「イエローバスター!」

 

「リュウケンドー!」

 

「リュウガンオー!」

 

 

 そして魔弾戦士の2人が同時に。

 

 

「ライジンッ!!」

 

 

 バディロイドの3人も名乗りに合わせてそれぞれのパートナーの後ろでちょっとだけポーズを取った後、その場から離脱した。

 彼等は自分達が戦闘用ではない事を十分に自覚している。故に、邪魔にならないように離脱したのだ。

 

 

「バスターズ、レディ……」

 

 

 戦士5人とスチームロイド率いるバグラー軍団が睨み合う。

 そしてレッドバスターの言葉で、戦いの火蓋は切って落とされるのだ。

 言葉に合わせ、バスターズが腰を落とし、魔弾戦士は各々の相棒兼武器を構えて。

 

 

「ゴー!!」

 

 

 それは、戦士達が悪の群れへと駆けだす合図だった。




────次回予告────
ジャマンガとヴァグラスの新しい幹部だって?
おまけに謎の黒い戦士。ジャマンガの新幹部と因縁があるみたいだ。
メタロイドの奴もほっとけねぇ。どんな敵でも、負けねぇぜ!
次回も、スーパーヒーロー作戦CSで突っ走れ!

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