スーパーヒーロー作戦CS   作:ライフォギア

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第6話 久しぶりの初対面

 翼が全てのノイズを倒してからすぐの事だった。

 特異災害対策機動部が工業地帯にやってきて、その辺り一帯を立ち入り禁止の壁を作って封鎖したのは。

 兵隊のように武装した職員達が己の仕事をする為に走り回ったり、警護の為に等間隔で並んで直立不動を貫いていたりしている。

 一方では大型の掃除機のようなもので、ノイズの残骸、即ち炭の塊を取り除いている職員もいる。

 報道だろうか、ヘリも飛んでいて、正しく騒ぎの真っただ中、という感じだ。

 

 少女と響は無事、保護された。

 士も特異災害対策機動部が来る前に変身を解き、何とかその場を誤魔化している。

 

 

「あの……」

 

 

 一方、鎧の解除方法が分からない響はそのままの姿であった。

 そんな響に女性職員の一人が声をかけてきた。

 

 

「あったかいもの、どうぞ」

 

 

 そう言って差し出してくれたのは紙コップに注がれた暖かい飲み物だった。

 落ち着くための計らいであろう。

 ふと奥の方を見てみれば、同じような紙コップで士が飲み物を飲んでいた。

 そういえば助けた少女も何か飲んでいた気がする。

 今回の騒ぎに巻き込まれた3人に配っているようだ。

 

 

「あ、あったかいもの、どうも……」

 

 

 善意を無下にする気もないし、非常にありがたかったので素直に受け取ることにした。

 

 丁寧に紙コップを受け取り、何度か息を吹きかけてある程度冷ます。

 そしてちょっと飲んでみる。

 美味しかった。

 そしてそれ以上に、とても落ち着いた。

 此処まで驚きの連発で恐らく立花響の人生の中で一番驚きが続いた時間だったであろう。

 

 そんなわけで、暖かい飲み物で落ち着いた響は「ふぇー」と極めて間抜けな、そして安心感に満ち溢れた声を上げた。

 

 そうして気を抜いた瞬間、鎧が弾けた。

 正確に言えば変身が解除されたのだ。

 気が完全に抜けたせいであろうか。

 突然のことに驚き、紙コップを落としてしまう響。

 

 

(……消え、た?)

 

 

 どういうわけかわからないが、鎧を着る前に着ていた制服を自分は着ていた。

 あの姿のままでいるのも問題ではあるから別に構わないのだが、さっきの力は結局何だったのか。

 思案に暮れても意味はないと分かりつつも、考え出そうとしたときだった。

 

 

「ママー!」

 

 

 職員に保護されていた少女が声を上げた。

 振り向いてみれば母親と対面し、抱き付いている少女の姿が見える。

 母親の方もしっかりと少女を抱き留めて頭を撫でてやっている。

 響だけでなく士もその様子を見ており、その瞬間をカメラに収めていた。

 

 

(……ま、少しはライダーらしいことしたか)

 

 

 響が助けたのだから自分が誇らしげにする事ではない。

 だが、ノイズと戦って響と共に少女を守ったのは事実だ。

 少女と母親が喜んでいる姿を見て、顔にも口にも一切出さないが士も少し嬉しく思っていた。

 

 さて、実は士には気にかかっている事が一つある。

 それは職員達と話して、時折どこかに通信をしている特異災害対策機動部とは微妙に違う服装をした3人組。

 それぞれ赤、青、黄色のベスト、腕に付けた同じブレス。

 その特徴は士の知る『特命戦隊ゴーバスターズ』の変身する者達によく似ていた。

 というより、そのままだ。

 

 

(あいつら、特異災害なんたらってのと協力しているのか……?)

 

 

 ゴーバスターズらしき3人組の方をじっと見つめる士。

 士の疑問と少女と母親の感動的再会を余所に、職員の一人がタブレット端末の画面を少女と母親に提示していた。

 『情報漏洩の防止』だとか『外国政府への通謀が確認されたら』など、何やら小難しい事を説明している。

 少女と母親も困惑気味の表情だ。

 その様子に響も思わず苦笑いし、士は露骨に面倒くさそうな顔をしている。

 

 

(俺も何か面倒なことしなきゃいけないのか……?)

 

 

 士はゴーバスターズらしき3人組から少女と母親の方に視線を移していた。

 ノイズに関わった事で自分にも何か制約なりなんなりがあるのではないか、と面倒な事になるのかという懸念をしていた。

 適当に済ませればいいか、とも考えてはいるが。

 

 

「じゃあ、私もそろそろ……」

 

 

 自分もあんな難しい事言われるのかなぁ、と響も考えたようで早くこの場を立ち去りたいという気持ちで翼の方を振り向いた。

 振り向いた先には翼が、そして翼以外の人間も存在していた。

 

 ただ、1人ではない。

 翼を中心に黒服のサングラスをかけたエージェントめいた人がずらりと並んでいる。

 ざっと10人はいる。

 

 

「貴女達をこのまま返すわけにはいきません」

 

 

 翼にそう言われた直後、翼の横に並ぶ黒服と同じデザインの服、しかしサングラスをしていないため顔が見える優男風の人に響は手錠をかけられた。

 しかも警察とかの銀色の輪っかではなく、かなり巨大で分厚い機械の手錠だ。

 

 

「すみません、貴女達の身柄を拘束させていただきます」

 

 

 優男な外見通り、かなり優しげに話してくるが響としては堪ったものではない。

 手錠をかけられたことに慌てていると、後ろから「何しやがる!」という声が聞こえた。

 振り向いてみたら士も同じようなことをされていた。

 

 そこで響は、さっきから貴女『達』と複数形だった事に気付いたのだった。

 

 

 

 

 

 車で連行された響と士。

 護衛用なのか他にも数台の車がついてきた。

 二人は翼と先程の優男風の人と共に、ある場所で降ろされた。

 そこは響と士も知っている場所だった。

 

 

「士先生は何か知ってるんですか?」

 

「知ってたら手錠されてるわけないだろ」

 

 

 ご尤もで、と響は苦し紛れに、力無く笑った。

 

 連行された場所は『私立リディアン音楽院』。

 響が通い、士も教員として勤め始めた場所だ。此処はその中央棟、職員室などがある。

 誰もいない、消灯時刻などとっくに過ぎている真っ暗な廊下の中を進んでいた。

 先程の響の質問は、場所が先生に関係深い場所だったので何か知らないかな、と思っての事だ。

 勿論、この世界に来て日の浅い士が知る筈もないが。

 

 しばらく歩き、エレベーターに乗った。

 エレベーターは何の変哲もない、ごく普通に教員も階の移動に使用するもの。

 しかし階数のボタンを押さず、優男は何やら手の平サイズの機械を取り出し、隅に置いてあるパネルにかざした。

 その瞬間、エレベーターのドアは通常のドアとは別に頑強そうなドアで塞がれ、両横からは手すりのような物がせりあがってきた。

 

 

「さ、危ないから捕まってください」

 

 

 優男が響と士に黄色い手すりに捕まるよう促した。

 なんのこっちゃだが、言う事を聞くしかない響は恐る恐る手すりに捕まった。

 士も渋々といった表情で手すりに捕まる。

 次の瞬間、エレベーターはとてつもないスピードで下へ降り始めた。

 どれぐらい凄いかというと。

 

 

「うひゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 響がこんな風に悲鳴を上げる程度には。

 

 

 

 

 

 しばらくすると慣れたのだが、随分と奥深くまで降りている。

 周りの様子を観察してみるが、誰もかれもが黙ったままだ。

 同じ境遇である士は響と違い、不機嫌そうながらも、かなり冷静な態度だ。

 巻き込まれるのは御免というスタンスの士だが、異常事態とか厄介事には慣れている節がある。

 

 士からの助け舟は期待できないと考えた響は、あまりの空気の重さに耐えかね、翼に苦笑いにも似た笑顔を向けた。

 

 

「愛想は無用よ」

 

 

 一刀両断にされたが。

 

 少しショックを受けて落ち込む響。

 エレベーターは尚も地下へ向けて進む。

 すると、エレベーターの外に何かが見え始めた。

 見えたのは様々な色彩の広大な空間。

 一面には古代文字とか壁画とか、そういう類のものと思わしき物が無数に描かれている。

 その様子を見て素直に感嘆する響。

 そんな響に翼は、先程の言葉に続けるように口を開いた。

 

 

「これから向かうところに、微笑みなど必要ないのだから……」

 

 

 重々しげに、そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ! 人類守護の砦、特異災害対策機動部二課へ!!」

 

 

 赤い服を着て服の胸ポケットにネクタイの先を入れ、さながら平仮名の『し』のようにネクタイが曲がっている、頭にシルクハットをつけた男性にかなり軽いノリで出迎えられた。

 後ろの職員達もクラッカーを鳴らして拍手と笑顔で出迎えている。

 お菓子やら食事やらも数多く並んでいるようだ。

 

 さらに大きく「ようこそ二課へ!」と書かれたパネルが用意されている。

 他にも「熱烈歓迎! 立花響さま」と書かれたパネルも上から吊り下げている。

 そのパネルには「立花響」と「さま」の間に吹き出しのような形の画用紙で「と、門矢士」と書かれていた。

 入れ忘れた言葉を記入する時のような、あれだ。

 

 それを見た士は「俺はオマケか?」と心の中で不服そうに悪態をつくのだった。

 パネルは学園祭とかでよく見るフラワーポムが飾られている。

 部屋全体の装飾も折り紙の輪っかを繋げたものだったり、決して豪華ではないが友達同士の誕生会や、その雰囲気に近いものだった。

 

 風鳴翼の言う通り、確かに微笑みはなかった。

 微笑みどころではなく満面の笑みだった、という意味でだが。

 

 響は呆気にとられ、口を開けてポカンとし、士も顔を歪めて「なんじゃこりゃ」とでも言いたげな表情でいる。

 翼も頭を抱え、優男は苦笑いだ。

 

 

「さあさあ! 笑って笑ってー!」

 

 

 携帯を持った蝶の髪飾りと下縁眼鏡の女性が何やらハイテンションで響と士に近づいてきた。

 呆然とする2人と強引に肩を組み、携帯をやや上に構えて角度とピントを調節している。

 

 

「お近づきの印にスリーショット写真~♪」

 

 

 その言葉に慌てて響は眼鏡の女性から離れた。

 

 

「い、嫌ですよ! 手錠したままの写真だなんて、きっと悲しい思い出として残っちゃいます!」

 

「あらそう? ならもう1人の男の子とツーショット~!」

 

「離せ! 俺は撮る側だ!!」

 

 

 ぎゃあぎゃあと言い合う眼鏡の女性、士、響。

 士も手錠込みの写真は不服なのかだいぶ抵抗している。

 

 が、状況の飲み込めていない響からすれば、写真はともかくこの状況の意味を知りたいという思いが先行していた。

 

 

「それはともかく! どうして初めて会う皆さんが私の名前を知ってるんですか!?」

 

 

 その質問を聞き、眼鏡の女性は未だ拘束していた士を離し、何処からか物を持ってきて得意気に見せびらかした。

 

 

「こういうことだったりして~?」

 

「あー! 私のカバーン!?」

 

 

 それは少女を助けるときに何処かに置いてきてしまった響の通学鞄だ。

 ちゃっかり回収されていたらしい。

 

 

「鞄の中身、勝手に調べたって事ですかー!?」

 

「ハッハッハッ。まあキチンと返すから、許してくれ」

 

「ハッハッハッじゃないですよぉ~!?」

 

 

 軽く笑い飛ばすシルクハットの男性に頬を膨らませて言う響。

 そんな風にぎゃあぎゃあと騒ぐ響とテンションが高めの完全に宴会ムードな二課職員達を見て翼は再び溜息をついた。

 

 

「……お前らの組織ってのは、いつもこうなのか」

 

「そんな訳ないでしょう」

 

 

 眼鏡の女性から何とか逃れて消耗している士の質問に即答したが、正直説得力は無い事は翼も理解していた。

 

 

 

 

 

 響と士は優男に手錠を外された。

 そして一言、「手荒な事をしてすみません」と詫びられた。

 響は「いえいえ」と答えるが士は悪態をつくだけだ。

 

 悪態をつきたくなる気持ちは響にも分かる。問答無用で手錠をかけられて良い感情を抱く人間がいる筈もない。

 元々士は悪態をつくようなちょっと曲がったタイプ、というのもあるのだが。

 

 

「では、改めて自己紹介だ」

 

 

 切り出したのは先程のシルクハットの男性。

 と言っても、今はもうシルクハットも手品めいたステッキもないが。

 

 

「俺は『風鳴 弦十郎』、此処の責任者をしている!」

 

 

 親指を立てて、サムズアップ。

 ついでに滅茶苦茶満面の笑みの挨拶だ。

 ガタイはよくて、ともすれば威圧感もありそうな人だが、感じの良さそうな人だ。

 それが響の第一印象だった。

 

 士は先程までの弦十郎の格好や行動を思い返し、責任者? と、だいぶ疑るような視線を向けている。

 そして、もう1つの疑問も湧いてきていた。

 

 

「風鳴?」

 

 

 士の疑問符は苗字に関してだ。

 翼と同じ苗字である事に疑問を持った士に弦十郎は即座に答える。

 

 

「ああ、俺は翼の叔父でな。ま、あまり気にしないでくれていいさ」

 

 

 まあ親戚である程度なら、確かに気にする程度でもない。

 しかし芸能人の叔父が、リディアンの地下で何やら責任者をしている、というのも気になる話ではあるが。

 とりあえずその辺の話は後回しに。弦十郎に続いて響と士の2人と写真を撮ろうとした女性も笑顔でウインクをしつつ自己紹介をした。

 

 

「そして私はぁ……できる女と評判の『櫻井 了子』。よろしくね!」

 

 

 こちらも弦十郎と同じく人当りや感じが良さそうな人である。

 ただ、ノリの軽さは現在の弦十郎を超えているが。

 

 

(誰の評判だよ、できる女ってのは……)

 

 

 士は変わらず、口には出していないが態度と心の中で悪態をついている。

 二課の中で有名なのかは知らないが、自分で『できる女』とか言うか? と思っているのだ。

 ちなみにその考えは自分にブーメランすることに士は気付いていない。

 

 さて、そんな了子に続いて、今度は優男が一歩前に出た。

 

 

「先程は手荒い真似を失礼しました。僕は『緒川 慎次』です。

 二課のエージェントですが、普段は風鳴翼のマネージャーをしています」

 

 

 そう言いながら懐から眼鏡をかけて見せた。

 他の2人は人当りが良さそうだが、似た表現かもしれないがどちらかと言うと物腰穏やか、と言った感じだ。

 

 響や士は知らないが、慎次は眼鏡を外すとエージェントモード、眼鏡をかけるとマネージャーモードと使い分けている。

 本人もあまり意識はしていない、癖のようなものだ。

 

 

「こちらこそ、よろしくお願いします……」

 

 

 戸惑いつつも礼儀よく頭を下げる響。

 横にいる士はふてぶてしい態度をとっているが、弦十郎と了子、慎次も特に気にしはしない。

 

 

「自己紹介なら、俺達も」

 

 

 2人の自己紹介の後、先程現場にいた赤いベストの青年が割って入ってきた。

 隣には青いベストの青年と黄色いベストの少女も一緒だ。

 

 

「おお、そうだな。これからは共に行動するかもしれないし、挨拶はしておくべきだろう」

 

 

 そう言って弦十郎は了子と共に響と士の前から退いて、代わりにその3人組が2人の目の前に立った。

 

 

「俺は……」

 

 

 赤いベストの青年────ゴーバスターズの桜田ヒロムが自己紹介をしようとしたとき、

士が先に口を開いた。

 

 

「特命戦隊ゴーバスターズのレッドバスター、桜田ヒロム……で、合ってるか?」

 

 

 その言葉に虚を突かれたようで、ヒロムは一瞬押し黙ってしまう。

 ヒロムの隣にいたリュウジ、ヨーコも同じだ。

 そんな様子を気にも留めず、士は畳みかけるようにリュウジとヨーコを見やった。

 

 

「ブルーバスターの岩崎リュウジ、イエローバスターの宇佐美ヨーコ……」

 

 

 2人の素性も見事言い当て、ついでと言わんばかりに驚いている3人にカメラを向けてシャッターを切った。

 正体が既に割れているという事にヒロム達3人だけでなく、弦十郎と了子も驚いている様子だ。

 

 ゴーバスターズの活動は多くの人にも認知されている。

 だが、その素性を知る者は少ない。

 さらに言えばフルネームまで言い当てられるのはそれこそ関係者だけだ。

 

 

「何で、俺達の事を……」

 

「知ってるからだ」

 

 

 狼狽するヒロムに士は素っ気なく返答した。

 答えとしては正しいが、何故知っているかを聞きたいのだが。

 

 

「フム……やはり君は謎が多いな」

 

 

 横に退いていた弦十郎が顎に手を当てた。

 彼は何者なのか、と考えているのだが、当然その答えは出ない。

 この場を進めることを優先したのか、弦十郎は話を切り替えた。

 

 

「……さて、では本題だが、君達を此処に呼んだのは他でもない、協力を要請したいことがあるのだ!」

 

 

 先程までの軽いノリで響と士に向けて言う。

 

 

「協力って……あっ……!」

 

 

 此処に連れてこられた理由。

 こういう組織の人に協力を求められる理由を響は考えた。

 勿論答えはすぐに出た。

 自分がノイズに襲われた時に纏った謎の鎧。

 きっとあれの事なのだと。

 

 

「教えてください! あれは、一体何なんですか?」

 

 

 弦十郎が了子の方を向いた。

 それに気づいた了子は弦十郎と顔を見合わせ、一度頷いた。

 そして笑顔で響に近寄った。

 響の腰に手をまわして、自分の近くに抱き寄せる。

 そして顔を近づけて、一言。

 

 

「ならとりあえず、脱いでもらいましょうか?」

 

 

 悪戯っぽい顔の了子の言葉。

 ただのセクハラ発言。あまりにも急すぎる怒涛の展開と、特異災害対策機動部の明るすぎるテンションに翻弄され続けた響は、ちょっと泣きそうな顔で。

 

 

「なぁんでですかぁぁぁッ~!!」

 

 

 もうちょっと事情を言ってから言えばいいのに。

 ゴーバスターズや周りの職員は、特にそう思いつつ、若干遊ばれている響に同情の目線を送った。

 

 

 

 

 

 了子があんな言い方をしたが、要するに響のした事は身体検査だ。

 シンフォギアを纏った影響や、その他それに関する諸々の事を調べるそうだ。

 当然シンフォギアと一切関係のない士は身体検査などしなくていい。

 ただし、それでもすぐには帰せない理由が十分にある。

 

 

「さて、彼女の事は、了子君に任せるとして……」

 

 

 二課に用意されたお菓子や食事を幾つか食べた後、士と弦十郎、そしてゴーバスターズの3人は飲み物が置いてあるテーブルの周りで集まっていた。

 弦十郎が話を切り出す。

 

 

「君は一体、何者なんだ?」

 

 

 最近されたばかりの質問だ。

 というかその質問ばかりされている気がした士は、適当に手をヒラヒラと振って答える。

 

 

「ただの通りすがりだ」

 

 

 真面目に答えてない。第三者からはそうとしか見えなかった。

 

 世界を渡り歩くという意味では嘘はついていない。

 尤も、この説明が一発で通ったことはどんな世界でもない。

 そしてこの世界もそれは例外ではなかった。

 素性を知られて警戒しているのとその態度に苛立ったヒロムが言う。

 

 

「ふざけないで、ちゃんと説明しろ」

 

 

 ヒロムを制しつつ弦十郎が続ける。

 

 

「翼の話では、君は『鎧を纏った戦士』になったという。さらにバイクも」

 

「だからなんだ?」

 

「これは職員の1人から聞いた話だが、響君と君が助けた少女が言ったらしい。

 『カッコイイお姉ちゃんと仮面ライダーに助けられた』……とな」

 

 

 そういえば、あの少女は自分を見て『仮面ライダー』と口走っていたな、と思い出す。

 士は『通りすがりの仮面ライダー』を名乗っている。

 それは嘘偽りなく、旅をしているライダーであるからだ。

 この世界では都市伝説で割と周知されている仮面ライダーの存在。

 ならば、そう名乗った方が通りがいいのは確かだ。

 

 

「……ああ、確かに俺は仮面ライダーだ」

 

 

 話をややこしくすると帰れるものも帰れなくなりそうだと思い白状した。

 別に知られても問題がある事じゃなと考えたからだ。

 

 

「やはり……しかし、翼の報告と合致する姿の仮面ライダーは確認されていないが」

 

「仮面ライダーを知っているのか」

 

「ああ。二課の前身は、大戦時に設立された特務機関でね、調査はお手の物なのさ」

 

 

 得意気な笑みと朗らかな態度を一切崩さない弦十郎。

 悪態をついて怒られるのには慣れているが、此処まで朗らかに対応されるのに士はあまり慣れていない。

 毒気が抜かれた、というべきか。

 

 

「……フン、まあ俺を知らないのは当然だ。俺がこの世界に来たのは先日の事だ」

 

「この世界?」

 

「並行世界って言えば、お前らならわかるか? 別の世界から俺は来た」

 

 

 並行世界、弦十郎も概念として知らないわけではない。

 存在するかもしれないとは言われているが、そこから来たと言ってのける人間は前代未聞だ。

 

 

「並行世界……この世界とは別の、パラレルワールドの事か?」

 

 

 弦十郎の言葉に頷く士。

 一方で後ろのゴーバスターズ3人の1人、ヨーコがリュウジに疑問顔で訪ねていた。

 

 

「リュウさん、並行世界って何?」

 

「ん? ああ、此処とは違う別の世界の事だよ。

 例えば……俺達がゴーバスターズじゃなくて学校の先生の世界……とか」

 

「何それ? そんなこと有り得るの?」

 

「可能性の話だからね。あったかもしれない世界って事。

 例えば、分かれ道があって、右に行くか左に行くかの2択。

 でも、どちらに進んでも『右に進んだ世界』と『左に進んだ世界』が発生する、これが並行世界……かな?」

 

 

 リュウジの説明に分かったような分からないような顔をして首を傾げる。

 そんな様子にリュウジは苦笑いしつつ、俺も詳しくないから、と付け加えておいた。

 

 士の言葉は信じがたいものである。

 言ってみれば『俺は別世界の住人です』と面と向かって言われたようなものだ。

 信じれるはずがない。

 

 

「信じられるか、そんな事」

 

 

 正直すぎる、ストレートすぎるとよく言われるヒロムは当然それに食って掛かる。

 だが士はそれを気に留めることなくさらりと返した。

 

 

「だったら、俺がお前達の事、何で知っていたと思う?」

 

「何で……だと?」

 

「別の世界でもお前達がゴーバスターズをしていたから……と言えば、信じるか?」

 

 

 その言葉にゴーバスターズ全員に衝撃が走った。

 ゴーバスターズの素性を知ろうと思えば、それなりに特殊な組織、特殊な地位にいなければできない。

 もしくはゴーバスターズ本人と会ったことがあるか。

 だが、ヒロム達にはそんな記憶はないし、二課が素性を既に調べたが、門矢士と言う人間は『私立リディアン音楽院の新任教師というだけの普通の人間』という結果が出ていた。

 

 

「ま、ノイズやら立花響や風鳴翼の鎧みたいなのを見たのは初めてだったけどな」

 

「そういう世界は無かったと?」

 

「あるんだろうが、行った事がない。元々俺は仮面ライダーの世界を回ってたからな」

 

 

 弦十郎、そしてヒロム達3人も考え込む。

 門矢士という人間を信じていいものなのか。

 もしも『仮面ライダー』であるならば、仮面ライダーは世界を守る為に活動しているという。

 で、あれば信用に置けるし、協力要請も仰ぎたい。

 

 もう少し確証を得たいと、弦十郎は次の質問をぶつけてみた。

 

 

「何故リディアンの教師に?」

 

「俺は各世界で役割が与えられる。警察官とか、色々な。今回はリディアンの教師だったって事だ」

 

 

 これまた信じがたい理由だが、二課責任者である弦十郎にはそれは少し納得のいく話でもあった。

 特異災害対策機動部二課はリディアンの地下に本部を構えている。

 その為、私立リディアン音楽院で位の高い人間とは当然ながら協力関係にある。

 だから教員、生徒に関しては把握済みだ。

 勿論、素性についても。

 

 『門矢士』という新任教師が決まったのはつい最近の事だ。

 本当に、教師としてやって来る数日前ぐらいに突然書類が送られてきたのだ。

 転任という事だが、微妙に新任式を外した時期、本来ならばもっと前に来るはずの書類。

 謎めいていたが、何らかの手違いが発生したのだろうと思っていた。

 だが、もしも『この世界』が役割を与えたのなら強引だが説明はつく。

 

 ただし、それには弦十郎達が『並行世界の存在を信じる』という前提条件がつく。

 とはいえこんな事で嘘をついているとは思えない。

 何せ二課をもってしても士の素性は『普通の先生』だったのだ。

 それが突然仮面ライダーでした、では二課側としても驚きを隠せないのが本音。

 もしもそれが『世界』によって仕組まれていた事なら、気付くのは無理な話だ。

 神の所業に、人間が気付けるはずがないのだから。

 

 

「……うむ、では、君に頼みたいことがある」

 

「なんだ」

 

 

 確証を得るには程遠い質問と返答。

 だが、弦十郎の心は決まった。

 

 直感したのだ。

 どんな理由であれ、響と少女を助けたのは事実。

 ならば信じる理由も明確に存在している、と。

 弦十郎は自分の直感を信じ、意を決して。

 

 

「我々に、協力してくれないか?」




────次回予告────
異質が交わり、動き出す世界。

それは1つに留まらず、集結は重なる。

混ぜ合わせた物語は何を生み出すのか────

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