スーパーヒーロー作戦CS   作:ライフォギア

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第55話 姉妹

 ブルームとイーグレット、キバーラがモエルンバと馬遊具ウザイナーに相対する中、みのりを抱える未来と護衛も兼ねて同伴する響は、それをやや離れた物陰から見やっていた。

 陽気な赤い敵とか、馬の遊具の化物とか、綺麗な衣装の女の子達とか、分からない事が多すぎる。

 唯一分かるのは夏海がライダーだというのが本当だったという事だけ。

 二課のメンバーとなった事で色んな摩訶不思議現象には慣れたと思っていたのだが、この世にはまだまだ不思議があるなぁ、と場違いな感想が浮かぶ始末だ。

 

 プリキュアという敵を倒す為に、馬遊具ウザイナーが動く。

 まずは口から火球を吐き出した。遊具要素皆無な攻撃だが、それに慌てずに手を突き出す事で対処しようとする2人。

 これで精霊の光によるバリアが出る筈だ。

 

 ──────いつもなら。

 

 

「……ってあれ!?」

 

 

 驚きと戸惑いの声を出したのはブルームだった。

 精霊のバリアが出てくれない。ブルームもイーグレットも、ホタルほどの光も出ていなかった。

 ゆっくり考えている暇もなく迫りくる火球を、一先ずそれぞれに飛んで避けるブルームとイーグレット。

 防御手段の無いキバーラも同時に離脱を図り、ブルームとイーグレットの近くに着地した。

 

 

「せ、精霊の光が……!?」

 

「出ないんだけど!?」

 

「あの2人とも、色々聞きたい事はありますけど……!!」

 

 

 イーグレットとブルームが焦る中、キバーラの呼びかけで2人は馬遊具ウザイナーの攻撃が続行中な事に気が付いた。

 馬遊具ウザイナーは巨体。故に、その口は空高くに位置しており、そこから繰り出される火球は最早火の雨と言っても過言ではない。

 降り注ぐ火球のシャワーを3人はダッシュで駆け抜けて、逃げる。

 

 

「ちょっとフラッピ、どうなってんの!?」

 

「精霊の力が弱まってるラピ!!」

 

 

 プリキュア変身時には携帯の姿で腰のポーチに収まっているフラッピに尋ねるブルーム。

 火球がいつ何時当たるか分からない状況なのでかなり焦っている中で、返された言葉がそれだった。

 

 

「ど、どどど、どうして!?」

 

「2人の気持ちが揃ってないからチョピ~!」

 

 

 普段は冷静なイーグレットですら焦りのせいでどもり気味。

 そこはまあ中学生らしい、なんて暢気な事を言っている場合ではない。

 要するに2人は、みのりを介した擦れ違いのせいで心に引っ掛かりがあるせいで、力を一切発揮できない状態に追い込まれているという事なのだ。

 

 それが2人の長所且つ短所。

 絆が深まれば深まるほど強くなれるが、仲違いや擦れ違いが起こってしまえば逆に弱体化してしまう。

 こういう場合におけるプリキュアの特性は、諸刃の剣と言ってもいいだろう。

 

 

「ええっと……だったら!」

 

 

 キバーラに分かる事は、2人は今、何か困った状態なのだという事だけ。

 ならば、全力で戦える自分が積極的に戦えばいい。

 彼女は足に急ブレーキをかけ、迫りくる火球へ向けてキバーラサーベルを一閃。真っ二つに火球を切り裂いた。

 そして間髪入れずに馬遊具ウザイナーへと走り出し、全力で跳び上がる。

 女性とはいえライダー。その跳躍能力は馬遊具ウザイナーの背中にまで簡単に届いた。

 

 

「やあっ!」

 

 

 一飛びのジャンプで後ろを取ったキバーラはオーバーヘッドキックの要領で後方回転し、馬遊具ウザイナーの首の後ろを蹴り飛ばした。

 男と女では男の方が力があるというのは一般的な見解であり、それは恐らく正しい。

 が、先程も言ったが彼女もライダー。今の彼女は一撃がt単位の威力を誇っている。

 相手が怪人だろうがウザイナーだろうが、ダメージが入るのは必定。

 

 馬遊具ウザイナーは蹴り飛ばされたせいで仰け反り、下半身のバネがその巨体を揺らした。

 苦悶の声を上げている事からも明確なダメージが通った事が現れている。

 ところがバネは徐々に揺れる感覚を小さくしていき、馬遊具ウザイナーの姿勢を元の通りに戻していっていた。

 ダメージこそ通っているものの、姿勢を崩すまでには至らない。そもそも子供が背中に乗る為、安全面を考慮されて作られている馬の遊具が変化したウザイナーだ。安定性はあるという事なのだろう。

 

 キバーラの蹴りでできた隙を見逃さず、空中から着地したキバーラと入れ替わりで、ブルームとイーグレットは馬遊具ウザイナーへ走り、跳び上がった。

 しかし大ジャンプができない。

 普段なら精霊の力によって馬遊具ウザイナーを跳び越える事など朝飯前なのだが、今の彼女達にはそこまでの力が無いのだ。一応身体能力自体は常人以上であるのだが。

 2人は馬遊具ウザイナーのバネに飛び乗り、螺旋階段を坂にしたようなバネを駆けあがっていく。

 馬遊具ウザイナーは馬の遊具がそのまま巨大化している。

 なのでバネも相当な巨大化を果たしており、人が横列に、しかも余裕を持って5,6人は乗れる程の幅を持ったバネになっているのだ。

 

 驚異的な跳躍のできない2人はそれを駆け上がる事で、馬遊具ウザイナーの頭頂部を目指す。

 そしてバネを駆け上がる道中の中で、2人はお互いの思いの丈をぶつけ合っていた。

 

 

「もしかして昼間の事が引っかかってるの!?

 確かに、舞には八つ当たりみたいになって申し訳なく思ってるけど……」

 

「えぇ……!? そうじゃない! 私が思ってるのはみのりちゃんの事!」

 

「みのりの……!?」

 

「私はみのりちゃんの事が心配だったの!」

 

 

 ぐるぐるとバネを螺旋階段のように駆け上がり、2人は途中でジャンプに切り替えた。

 彼女達の特大ジャンプは精霊の光に依存している。しかし精霊の光抜きだとしても、変身している彼女達の跳躍能力は凄まじい。

 2人はバネの途中で跳び上がり、怪物になる前は乗馬している人が足を置く場所だった、今は刃のようになっているそれの表面に足をつけ、再びジャンプ。

 そうした事で2人は馬遊具ウザイナーの顔部分にまで到達した。

 

 

「「ハアァァァッ!!」」

 

 

 右からブルームが、左からイーグレットが馬遊具ウザイナーの顔面に蹴り込む。

 掛け声が揃っている辺り、決して2人の息が合っていないわけではない事が伺えた。

 揃っていないのは心。みのりという少女に対しての、感情の相違だった。

 

 蹴られた馬遊具ウザイナーは威力に身体を歪ませ、一瞬怯むものの、すぐに立ち直ってしまう。やはり完璧な威力が出ていなかった。

 精霊の光は攻守、さらにはジャンプ等の移動にすら影響する。それが顕著に、且つ悪い方向に出ていた。

 

 蹴りをかました2人はそのまま地上へ自由落下していくわけだが、その間も口論は止まない。

 

 

「みのりちゃんもお姉ちゃんにあんな風に言われたら、きっとショックだったと思う!」

 

「私だって分かってるよ! でもみのりったら、全然人の話を聞かないんだもん!」

 

「でもあんな風に言わないであげて!」

 

 

 地上へ着地した2人。口論を続ける2人。精霊の光は一向に輝く気配が無かった。

 しかし敵は待ってはくれない。むしろ、それをチャンスとして見逃さない。

 

 

「これが伝説の戦士プリキュアの力か? ちょっと拍子抜けだぜ?」

 

 

 自分の使役するウザイナーに対してあまりダメージも与えられないプリキュアを見て、宙に浮くモエルンバは地面近くまで降りてきて挑発するように言う。

 同じ幹部であるカレハーンを倒したからどれほどかと思えば、ウザイナーにすらまともなダメージを通せない体たらく。

 少なくともプリキュアを初めて生で見るモエルンバにとって、今の2人はそう映っていた。

 これでは銀色のおかしな鎧を着た女戦士の方がまだマシ、とすら思っている。

 

 だが、モエルンバはプリキュアがどんな実力でも、全力を出せていようがいまいがどうでもいい。

 彼の目的は只1つ。太陽の泉の在処を聞きだす事。それだけなのだから。

 

 

「ま、何にせよチャンスだ。お前等の持っている妖精を渡してもらうぜ!」

 

「「嫌よ!!」」

 

「フッ。さっきも言ったが、手荒くしたって俺は何の問題もないんだぜ!?」

 

 

 言い争っている割には拒否の言葉がハモるプリキュアに対し、モエルンバは周囲に火の玉を作りだして、それを2人に向けて乱射し始めた。

 普段ならばバリアで凌げる攻撃だが、今回ばかりは躱すか自力で防御するほかない。

 さらに言えば相手は幹部。恐らく、最低でもカレハーン並みの力がある。

 そしてカレハーンは精霊の光が普通に発動する状態のプリキュアでも苦戦を強いられた相手だ。

 キバーラがいるとはいえ、ウザイナーと幹部クラスのモエルンバ。この2体を相手に、今のプリキュア達はあまりにも分が悪い。

 

 

「……ッ、咲ちゃん……!」

 

 

 モエルンバやウザイナーから離れた安全な物陰に、未来と共にみのりを守りつつ隠れている響が満足に戦えていない2人を見守っていた。

 みのりは未来が抱きかかえている形になっている。

 

 響の視線は、そして表情は「私も力になりたい」という感情がありありと表に出ている。

 今すぐにでも駆けだしたい。でも、自分の力は安易に見せていいものじゃない。

 きっと見せてしまえば、自分だけじゃない。二課の人にも手間を取らせるだろうし、目撃したという事で咲と舞も巻き込まれてしまうだろう。

 士の言葉、『お前の力は人前で見せられるもんじゃない』というのはそういう事だ。

 何より、万が一の為にも力を持つ彼女は、何の力も持たない2人を守る為にこの場にいるべきなのだろう。

 

 分かっている。けれど歯痒い。見ているだけなのがもどかしかった。

 しかし力を纏わず飛び出してもただの足手纏いにしかなれない。

 思わず歯を食いしばる響。そんな彼女を見ていた未来が、そっと声をかけた。

 

 

「響」

 

「え……何? 未来」

 

「行ってきても、いいよ」

 

 

 何が、とは言わなかった。

 でも、それがどういう意味なのかは響にも簡単に察せられる。

 

 

「みのりちゃんの事なら、私が守るから安心して。もし何かあったらちゃんと逃げる。

 元陸上部の足、速いのはこの前にも見たでしょ?

 ……大丈夫。みのりちゃん1人抱えてても、走るくらいはできるよ」

 

「いや、でも……。私の力はあんまり見せちゃいけないから……」

 

「もう、私にだって何度も見せたでしょ。もし怒られるなら、私も一緒に怒られる。

 それに響、今すぐに助けたいって顔に書いてあるよ? 響はそれを言い訳にして、人助けを止められる?」

 

 

 爆音が響く。ブルームとイーグレットがモエルンバの火球に遂に当たってしまった音。

 爆風の中から吹き飛んだ2人が跳び出し、地面に重力落下で叩きつけられてしまう。

 精霊の光が発動しない為、火球の威力も落下のダメージも軽減される事は無かった。

 苦しそうな2人、いや、完全に2人は追い詰められていた。

 

 

「咲さん、舞さん……!!」

 

 

 見かねて助けに行こうとするキバーラだが、今度は馬遊具ウザイナーの口から放つ火球が行く手を阻む。

 いくら仮面ライダーだからウザイナーと戦えるとはいえ、相手は巨体。そこから放たれる火球も巨体に比例するかのように高威力だ。

 何より、キバーラはまだ知らないが、彼女はウザイナーに止めを刺すことができない。

 状況は完全に相手が優勢だった。

 

 そしてそんな状況を見過ごせるほど、立花響は冷酷にはなれない。

 自分の気持ちに嘘はつけなかった。

 

 

「……未来、ごめん。行ってくるね」

 

「うん、いってらっしゃい。みのりちゃんの事は任せて」

 

 

 強く頷く響。その顔は、ニッと笑っているように見える。

 人助けをできるからか、それとも、私に任せてと言っているのか。どちらにせよ、彼女の顔は何処か笑顔だった。

 

 

「じゃあな、プリキュア。太陽の泉の事はお前等を倒した後、その妖精どもからじっくり聞かせてもらうぜ?」

 

 

 モエルンバは再び火の玉を作り上げ、倒れた体を必死に起こす2人に止めを刺そうとしている。

 今の彼女達にそれを避ける体力も、防ぐ為の精霊の光もない。

 相手が離れているうえに宙に浮いているせいで、接近して攻撃しようにも間に合いそうもない。

 彼女達が倒れれば、フラッピとチョッピには残酷な未来が待っているだろう。

 それだけはしちゃいけない。その気持ちは同じなのに、別の気持ちがバラバラで力が出ない。

 

 

アディオース(あばよ)!!」

 

 

 モエルンバは火の玉を全弾撃ちだした。

 その速さも、その威力も、先程2人が受けたものよりも強力なもの。

 確実に止めを刺そうとするモエルンバの気持ちが剥き出しになった、凶悪な一撃。

 キバーラも間に合わず、士も鋼牙も此処にはおらず、翔太郎とユウスケもまだ到着しない。

 

 故に、何にも邪魔されず、それは非情なまでに2人の命を狙い──────。

 

 

 ────聖詠────

 

 

 歌が、それをかき消した。

 

 

「チャッ!?」

 

 

 誰よりもまず驚いたのはモエルンバ。ふざけた声を上げてはいるが、当人は本気の驚きだ。

 叩き落とされた火球は全弾地面へと着弾して、爆風と土煙を巻き上げる。

 土煙のせいでブルーム達が隠れているが、その先に見えるシルエットは3つ。

 徐々に晴れる土煙から姿を現したのは、オレンジと白の鎧を身に纏う、少女が1人。

 

 同じくらい驚いているのは、助けられたブルームとイーグレットだった。

 火球が着弾しかかった瞬間、2人の前に人影が現れ、火球を全弾、その拳で叩き伏せて見せたのだ。

 それこそが目の前の少女。少女と言っても、咲と舞よりも年上の。

 

 鎧の少女はブルームとイーグレットに振り返って、笑顔を向けた。

 

 

「2人とも、私も手伝うね!」

 

 

 それは、シンフォギアを纏った少女、立花響の人助けの一環である。

 

 

 

 

 

 一方で、鋼牙と士はホラーを公園から引き離す事に成功。

 火球の音は尚も響いているし、馬遊具ウザイナーは流石に巨大で、まだまだ視認できる。

 が、それでも夏海や響、咲達の元からは大分離れた場所で戦っていた。

 舞台は極めて普通の道路上。幸いにも、車も人も全く通らない人気のない道だった。

 

 しかし、ホラーも流石に怪物。魔戒騎士である鋼牙と、それに肩を並べる士には正攻法では敵わぬと悟ったのか、空を飛んでのヒット&アウェイで2人を攪乱していた。

 一方で2人は未だに生身。変身すらしていない。

 元々、魔戒騎士は弦十郎よろしく、生身のままでも相当に強かった。少なくとも下級ホラー程度なら討伐できるくらいには。

 

 士は士で生身のままでも相当に強い。

 例えば彼はテニスの時に常軌を逸した技を放った事もある。

 相手は変身していないとはいえ、正真正銘の怪人とプレイしたテニスで、だ。

 しかもその怪人は自分の人間以上の身体能力を良い事に、常人では返せないようなボールを放ってきていたのにもかかわらず、士はそれに実質的な勝利を収めている。

 彼の身体能力もまた、魔戒騎士に近いものがあるのだろう。

 

 尚、そんな彼でも弦十郎の力は「おかしい」と思う。それは弦十郎が強すぎるだけである。

 

 

「チッ、飛ばれると面倒だな」

 

 

 士が毒づくが、それはその通りだ。

 人間がいくら鍛えたところで、飛べるようになるはずがない。

 鋼牙にせよ士にせよ、そしてあの弦十郎でさえも、自由自在な飛行能力を生身で発揮できるはずがないのだ。

 彼等の身体能力は、あくまで『人間として』の身体能力が凄まじいだけなのである。

 

 

「おい鋼牙。俺が撃ち落とす、決めるのはお前に譲ってやる」

 

「…………」

 

 

 無言のまま士を見て、もう一度ホラーに向き直る。

 鋼牙は否定の時には明確に否定の動作をする。つまり、それがなかった今の行動は肯定と捉えていいのだろう。

 士もまたホラーを睨みディケイドライバーを構え、鋼牙をその場に残して駆けだした。

 そうして士はホラーに接近するまでの間にディケイドライバーを装着、カードを取り出す。

 

 

「変身!」

 

 ────KAMEN RIDE……DECADE!────

 

 

 駆け抜ける士がディケイドへと姿を変え、姿が変わった事に一層警戒心を増したホラーが再び上空へと舞い上がる。

 自由自在に空を滑空するその戦法は、確かに飛行能力を持たないディケイドにはある程度有効であると言えるだろう。

 が、空を飛ぶ敵を相手にする事は、ディケイドだって初めてではない。

 

 

 ────ATTACK RIDE……BLAST!────

 

 

 飛び立ったホラーを目で追い、冷静にカードを選んで発動。

 ライドブッカーを銃の形へと変形させ、それを上空のホラーへ向けて、引き金を引いた。

 すると先程のカード、ブラストの効果により、ライドブッカーの銃身が分身。銃身は本体の他に、マゼンタの色をした4つに分身。

 計5つの銃身から放たれる弾丸が、ホラーを捉えた。

 

 弾丸はディケイドの狙い通り、ホラーの翼を貫く。

 その痛みに、おぞましい呻き声と共にバランスを崩し、地上へ落下していくホラー。

 ディケイドは間髪入れず、ホラーが墜落するであろう地点にまで走った。

 

 

「ハァ……ヤアァッ!!」

 

 

 墜落するホラーの腕を地面に着地する前に掴み、そのまま軽く一回転して勢いをつけた後、ディケイドはホラーを投げ飛ばす。

 此処で単純な追撃や追い打ちをせずに投げ飛ばしたのには、理由があった。

 さらに言うと投げ飛ばした方向は、決して適当ではない。

 

 

「……!!」

 

 

 ホラーが投げ飛ばされた先にいるのは、鋼牙。

 そう、ディケイドは言葉通り、止めを鋼牙に任せたのである。

 

 魔戒剣を握り締め、今まで直立不動で動かなかった鋼牙が魔戒剣を鞘から引き抜く。

 そして切っ先を上空へ向けて、円を描いた。

 剣の軌跡が光を放ち、光の輪から黄金の鎧が召喚される。

 携える魔戒剣が黄金かつ大型の剣、牙狼剣へと姿を変えたのは、鋼牙が鎧で身を覆ったのと同時だった。

 鋼牙は変わる。最強の魔戒騎士、黄金騎士・牙狼へと。

 

 ホラーが投げ飛ばされ、鎧を纏うまでは一瞬。

 自分の方へと向かってくる、正確に言えば向かわされているホラーを牙狼の緑の瞳が睨み付けた。

 

 

「オォォッ!!」

 

 

 投げ飛ばされたホラーが牙狼剣の射程範囲に入った瞬間、居合切りの要領で鞘から牙狼剣を引き抜き、横へ一閃。

 翼を撃ち抜かれていた事と投げ飛ばされていたせいで満足な姿勢制御もできずにいたホラーは、その一閃を為すすべなく受ける事しかできなかった。

 

 真っ二つに裂かれたホラーは形容しがたい醜悪な断末魔と共に、霧散。

 2つに分かれた身体すらも完全に散らせたホラーの痕跡は、もう何処にも残っていない。

 後に残るのは、手を払ってホラーの最期を見届けるディケイドと、黄金を輝かせて闇を照らし続ける牙狼だけであった。

 

 

 

 

 

 響が助けに入った事により難を逃れたブルームとイーグレット。

 まさか響が変身するとは思っていなかった2人は、完全に呆気に取られてしまっているが。

 響はそんな2人の手をそれぞれ握って引っ張り上げ、2人を起こしてあげた。

 

 

「ごめんね、私の力はあんまり人に見せちゃダメって言われてたから、助けに入るのが遅れちゃった」

 

 

 微笑む響だが、どうにも2人には理解できないでいた。

 仮面ライダーのようには見えない。しかし、その機械的な鎧の外観はプリキュアのようにも見えない。

 そんな2人の様子に、戸惑ってるのかなぁ、と苦笑いしつつ、響は2人の手を離さぬままに話し始めた。

 

 

「お互いの気持ちがすれ違うのって、すっごく、もどかしいと思う。

 でもね、さっきの2人みたいに本音をぶつけ合えば、すぐに仲直りできるはずだよ」

 

 

 その言葉は、ほんの少し前の経験に基づく確かな言葉。

 ブルームはイーグレットを見る。イーグレットはブルームを見る。

 視線が交錯した後、2人は再びお互いの感情をぶつけ合おうと口を開きかけた、のだが。

 

 

「何をごちゃごちゃと言ってるんだ? 余所見はダメだぜ!!」

 

 

 未だ上空に佇むモエルンバが指をパチンと鳴らし、火の玉を作りだしていた。

 このままではまた次の攻撃が来てしまうと、プリキュア達から手を離して構える響。

 

 だが、忘れてはいけない。この場にはまだ、はせ参じていない戦士がいる。

 

 

「おぉっと、ちょっと待ちな!」

 

 

 気取った声に気を取られ、モエルンバは火球を放つ事を忘れて声の主を捜してしまう。

 そしてその声の主はモエルンバが捜すまでもなく、目の前にまで走り込んできた。

 帽子を被った青年と、それに並ぶもう1人の青年。

 先程の声が帽子を被った青年のものだと知る響は、その名を呼んだ。

 

 

「翔太郎さん!」

 

「遅れて悪ィな、まさか敵が出てきてるとは思わなかったぜ」

 

「なあ、俺状況全然分かってないんだけど!?」

 

 

 かつてカレハーンやウザイナーと戦った経験のある翔太郎は状況を察する。

 それに同伴するユウスケはというと、ぶっちゃけ翔太郎が飛び出したのに合わせて出てきただけで、「赤いのとデカい馬が敵かな?」くらいの認識でしかない。

 馬の怪物と対峙するキバーラはともかく、咲と舞と響が何やら妙な姿の理由とか、咲と響と一緒に居たはずの士は何処に行ったのかとか、何一つ詳しく知らないのだ。

 まあ、士がこの場に居ない事に関しては翔太郎も疑問に思ったのだが、今はそれについて聞いている場合ではない事は、見れば分かる。

 

 

「赤い祭り男と馬の怪物が敵、響ちゃんと咲ちゃんと舞ちゃんは味方。

 とりあえず、そんなとこだ」

 

「あー……よし! じゃあ、事情は後で教えてくれよ!」

 

 

 この場で唯一、シンフォギアもプリキュアもダークフォールも知る翔太郎が、現状の状況説明をかなり大雑把に口にする。

 ユウスケはユウスケで、ちゃんと聞いたら長くなりそうな事を察し、今はそれ以上を追求しない事にした。

 そんなユウスケの返答に満足したのか、翔太郎はフッと笑いながらダブルドライバーを取り出し、腰に宛がう。

 一方でユウスケは特に何の道具も取りだす事も無く、両手を腹部にかざした。

 すると何処からともなく、正確に言うならユウスケの体内よりベルトが出現する。

 ディケイドやWとは違い、彼のベルト、『アークル』は常に彼と共に在り、彼の体内に存在しているのだ。

 

 

 ────JOKER!────

 

 

 ダブルドライバーが巻かれた後にジョーカーメモリを起動したところを見ると、フィリップが何らかの検索にハマっていた、という事態にはならなかったらしい。

 ともかく翔太郎はジョーカーメモリを持つ右手を左に振り被った。

 

 ユウスケは小指と薬指を少し曲げた右腕を左斜め上に突き出し、左手を腰に現れたアークルに沿うように右腰に付ける。

 そして右腕を左から右にゆっくりと動かし、それに連動するように左手をアークルに沿わせて左腰に移動させつつ、ユウスケは翔太郎と共に叫ぶ。

 

 

「「変身!」」

 

 

 ダブルドライバーの右スロットに現れたサイクロンメモリを差し込み、ジョーカーメモリを左スロットに差し込む。

 そして両手をクロスさせながら、ダブルドライバーを展開させる翔太郎。

 ユウスケは左腰にまで持ってきた左手を握り拳にし、突き出していた右手を左手の上に素早く移動させ、スイッチを押し込むように力を入れる。

 するとアークルの中心が赤く輝き、同時にユウスケは両腕を広げた。

 

 

 ────CYCLONE! JOKER!────

 

 

 鳴り渡った電子音声と風の中、翔太郎が仮面ライダーWへと変わっていく隣で、ユウスケもまた、自らの体を異質なものへと変質させていく。

 黒を基調としつつも、胴体や肩周りの赤い装甲、そして真っ赤な複眼のせいか、『赤い戦士』というイメージの強い姿へと。

 その姿は、その戦士はクワガタのような金色の二本角を携えていた。

 変身の為に用いたベルト、アークルの中央にはめ込まれた『アマダム』という霊石もまた、赤く輝いている。

 今の彼は『赤いクウガ』またの名を、『仮面ライダークウガ マイティフォーム』。

 

 クウガは同じく変身を完了したWと共に、モエルンバに対して立ちはだかる。

 その姿を見て反応を示したのは、意外な事にも響であった。

 

 

「へ、あれ? その姿……士先生も……」

 

 

 Wやフォーゼはおろか、リュウケンドー達すら合流する前の、翼と確執があったあの1ヶ月の間の事。

 要救助者を助ける為に士は青いクウガ、ジャンプ力に優れたドラゴンフォームの力を使った事がある。

 ディケイドの面影が一切ない姿に変わった事に大層驚いた事を覚えている。

 そういうわけで、響はクウガを見た事があったのだ。

 ただし、響を含めてゴーバスターズやリュウケンドー達は、ディケイドの別の姿が『誰かの模倣』である事を知らない。

 故に、こういう反応になったのである。

 

 響の声に反応したクウガは、背後にいる響をちらりと振り向く。

 

 

「士が? ……あー、そっか、士は色んなライダーになれるから……」

 

「おっと、話は後にしな。奴さんも、もう待ってくれそうにねぇしな」

 

 

 ディケイドの特性を知るクウガは1人納得をするが、モエルンバと馬遊具ウザイナーの様子は、それをのんびりと解説させてくれるような状況ではなかった。

 

 

「何人出てこようが焼き尽くしてやるぜ。チャチャチャァッ!!」

 

 

 モエルンバは再び火の玉を作りだし、火球を繰り出そうとしている。

 馬遊具ウザイナーも口を開けて、今にも火球を撃ちだしてきそうな状態。

 クウガとWが参戦したとはいえモエルンバと馬遊具ウザイナーは依然として健在だ。

 何より、その2体に止めを刺す事の出来る唯一の存在であるプリキュアが全力を発揮できないのだから、状況は芳しくない。

 

 

「翔太郎さん!」

 

「あン?」

 

「咲ちゃんと舞ちゃんに、時間をくれませんか? 2人とも、まだちょっと……」

 

 

 咲と舞のみのりを挟んでの喧嘩は翔太郎も知るところではあるが、仲違いしているとプリキュアとして全力を出せない事までは知らない。

 しかし響の言葉で、仲違いが戦闘にまで支障を出しているのだろうと考える事は、同じ『2人で1人』である翔太郎には容易かった。

 彼女達は伝説の戦士プリキュアである前に、年頃の女子中学生である。

 相棒との喧嘩の後、戦闘に全く影響が出ない方がおかしいだろう。

 

 

「……ったく、仕方ねぇな。ユウスケ、うだうだ説明してる暇はねぇが、お前もいいか?」

 

「勿論! 『事情は後で聞く』って言ったからさ」

 

 

 その会話を聞きつけ、先程まで馬遊具ウザイナーと対峙していたキバーラもまた、クウガとWに並んだ。

 

 

「だったら、馬みたいな怪物の方は私が何とかします」

 

 

 そしてキバーラも、響の言葉に頷いて見せる。

 そうしてクウガ、キバーラ、Wの3人はそれぞれに構えてモエルンバと馬遊具ウザイナーに相対した。

 

 この戦いに仮面ライダーは決して勝つ事はできない。

 本当に勝利するにはプリキュアの力が必要だからだ。

 それを知っているW。それを知らないクウガとキバーラ。けれど、思う事は同じ。

 咲と舞の仲直りを信じ、自分達は悪と戦う。それだけだと。

 

 

 

 

 

 

 

「さぁて、そういうわけだ。ちっと付き合ってもらうぜ」

 

「ハッ、こっちはお前達に用は無いんだよッ!!」

 

 

 翔太郎の軽口から始まるクウガとW、モエルンバの戦い。

 放ってくる火球をひらりと避けつつ、Wは宙に浮くモエルンバへと接近を試みる。

 しかし無数に放ってくる火球をいちいち避けていたら、埒が明かない状況にあった。

 ならば、と、Wはダブルドライバーを閉じ、左スロットからジョーカーメモリを引き抜く。

 そして新たに銀色のメモリを取り出した。

 

 

 ────METAL!────

 

 

 メタル、即ち鋼。その音声を響かせたメモリを左スロットに装填し、再びダブルドライバーを展開。

 

 

 ────CYCLONE! METAL!────

 

 

 Wの左側が銀色に染まり、同時に背中にはメタルシャフトがマウントされ、それを背中から取り外して構えた。

 構えられたメタルシャフトは左右に伸び、W本人よりも長い棒術武器へと変化する。

 読み上げられた電子音声の言葉通り、この姿の名は『サイクロンメタル』。

 サイクロンのスピードをメタルの重さが殺してしまう形態。

 そう言うと聞こえは悪いが、裏を返せばこれはお互いの欠点も潰し合っているという事。

 サイクロンのパワーの低さをメタルがメタルシャフトという得物も込みで補い、メタルの鈍重さをサイクロンのスピードが軽減。

 さらにこの姿だと、メタルシャフトの一振りはサイクロンの力を受けて風を纏う。

 その風は飛び道具などを払いのけるのにも用いることができるので、敵の攻撃を跳ね飛ばすにはもってこい。

 加えてメタルの頑丈さはそのまま。つまりは防御寄りの姿でもあるのだ。

 

 

「うぉらァ!!」

 

 

 メタルシャフトを一振りすれば風が起こり、それらは火球を弾く。

 Wはメタルシャフトで火球を吹き飛ばしながらモエルンバへと接近、十分に近づいたところで跳び上がり上昇しながら、宙にいるモエルンバへとメタルシャフトを左下から右上に振り上げた。

 が、すんでのところでモエルンバは横にスライドしてそれを躱してしまう。

 

 

「ハッ! 当たらないねぇ」

 

 

 悠々と飛行できるモエルンバならば、地上から跳び上がっての近接攻撃など恐れるに足らない。

 が、今相手にしているのはWだけではない。

 

 

「でぇりゃあァ!!」

 

「うおっとォ!」

 

 

 スライドした位置目掛けてクウガが跳び上がり、拳を振るう。

 だが、ギリギリ気付いたモエルンバはそれを上昇して躱してしまった。

 自由落下にて地上に降りたクウガは、上空にて悠々と見下してくるモエルンバを睨み付ける。

 飛行能力が無いせいで自由な戦いができない。せめて、相手を地上に引き摺り下ろせれば違うのだが。

 

 

「しつこいんだよォ!!」

 

 

 モエルンバは再び火球を繰り出し、Wとクウガに火の雨を降らせた。

 仮面ライダーに自分の目的を阻害されて苛立っているのか、語気は荒く、火球の威力も先程以上だ。

 メタルシャフトで振り払うW、左右へ転がって躱すクウガ。

 

 が、火球は威力だけでなく数まで増しており、躱しているクウガはともかく、振り払おうとしていたWは徐々に押されていってしまっていた。

 そして、乱れ撃たれた火球の威力と連打に耐えきれず、ついにメタルシャフトは弾かれ、Wの手を離れて宙を舞ってしまった。

 

 

「ッ、しまッ……!!」

 

 

 地面に落ちるメタルシャフト。気を取られてしまうWだったが、いつまでも気を取られている暇はない。

 火球は容赦なく振り続け、Wもまた、回避行動を余儀なくされる。

 そこで動いたのはクウガだった。

 クウガは地面を転がり、Wが落としたメタルシャフトを拾いながら、叫ぶ。

 

 

「超変身ッ!」

 

 

 超変身。それは、クウガが『別の色』へと変わる際にユウスケが気合を入れる為、ざっくり言うと気分的に口にする言葉だ。

 クウガはWのように機械を操作するのではなく、ベルトが変身者の意思に呼応するという特性を持っている。

 故に変身者の気分は意外と重要な要素になる。

 つまり今の言葉は精神統一とか、そういう類の意味を持っているという事だ。

 

 クウガは赤い姿から青い姿、いつぞや響達の前で士が見せた姿、『ドラゴンフォーム』へと姿を変える。

 その姿は原型を残しつつも鎧も複眼も全てが青く、ベルトのアマダムも青く輝いていた。

 同時にクウガが持っていたメタルシャフトもその姿を変えようとしていた。

 銀の棒から青い棒へ。色だけでなく姿形もメタルシャフトとは違い、共通点は棒術武器という部分だけ。

 ドラゴンフォーム専用の武器、『ドラゴンロッド』だ。

 ドラゴンフォームはマイティフォームに比べ、パンチ力やキック力などが劣る代わり、跳躍能力とスピードに優れた姿だ。

 そして下がってしまったパワーをドラゴンロッドという得物で補っているのである。

 

 

「ハアッ!!」

 

 

 クウガは跳躍し、跳び上がる中で降りかかる火球は全てドラゴンロッドで振り払って行く。

 そしてドラゴンフォームの跳躍能力は凄まじく、かなり上空に位置していたモエルンバを容易に飛び越した。

 

 

「チャッチャッ!?」

 

「でぇ……りゃァァァッ!!」

 

 

 跳躍が完了し、落下していくクウガはその勢いを利用してドラゴンロッドをモエルンバへと突き出した。

 ただのロッドによる突きではない。先端にエネルギーを籠めた、怪人ならば爆散させる事もできるドラゴンフォーム必殺の一撃、『スプラッシュドラゴン』だ。

 

 突然の行動に驚いていたせいで、モエルンバは一瞬、対応が遅れた。

 さらに言えばドラゴンフォームの速度により、反応が追いつかなかった。

 躱せない事を察知したモエルンバは両手を胸の前でクロスさせ、胴体を狙ってきた一撃を受け止める。

 が、浄化の力ではないとはいえ流石に必殺の一撃。さしものモエルンバも大きく吹き飛ばされ、地面に落下してしまった。

 

 

「どうだ!?」

 

 

 自由落下から見事に着地したクウガは、モエルンバが落下した地点の砂煙を見つめる。

 そこにWが並び立ち、クウガの姿を興味深そうに、特に右目が見つめていた。

 

 

『僕達の武器を別の武器に……興味深い』

 

「あ、えっと……返した方が良い?」

 

「いや、別のもあるからいいぜ。それからフィリップ、後にしろ」

 

 

 Wの左手が自身の右胸を叩いた。

 これは翔太郎がフィリップを制しているのだが、知らない人が見れば何をしているのかさっぱりだろう。

 言われて敵に意識を戻すフィリップだが、やはり微妙にクウガの事を気にしていた。余程気になるのだろう。

 

 クウガは自分の武器を生成する時、近くにあるものを『モーフィングパワー』で変質させる。

 その際、『その武器を連想させるもの』を手にする事で、それを武器に変えるのだ。

 例えばドラゴンロッドならば『長きもの』。先程のメタルシャフトは勿論、鉄パイプ、何なら長めの枝なんかでもいい。

 手にしたものの強度や威力は一切関係なく、武器を連想できれば何でもいいのだ。

 

 クウガが武器を手にするには『何かを変質させる』事が必須だ。

 裏を返せば、辺りに物がないと武器を手にできないという事でもある。

 故に、Wのようにメモリを替えれば自由自在に武器を取り出せるライダーよりも不便であると言えるかもしれない。

 

 しかし利点もある。

 例えばクウガとWが戦ったとして、クウガがメタルシャフトを奪えば、今のようにドラゴンロッドに変えてしまえるのだ。

 敵の武器を奪い、自分の物に完全に造り替えてしまうという芸当が可能なのはクウガの特徴の1つだろう。

 

 

「チッ、やってくれるな、セニョール」

 

 

 そうこう言っている間に砂煙が晴れ、中からは平然と地面に立っているモエルンバが現れた。

 実は彼の腕にはスプラッシュドラゴンを受け止めた痺れが残っている。

 逆に言えば、所詮は痺れ程度。

 流石に幹部というだけはあって、あの一撃でもダメージはそこまで通らなかったらしい。

 

 

「流石に、一筋縄ではいかねぇってか」

 

『翔太郎。トリガーを使うならヒートを併用しよう。

 サイクロントリガーの威力ではかえって炎を煽りかねない」

 

「ああ」

 

 

 Wはダブルドライバーを再び閉じ、今度は両サイドのメモリを引き抜き、新たにヒートとトリガーのメモリを取り出し、起動。

 次いで、それらをダブルドライバーに装填して、展開させた。

 

 

 ────HEAT! TRIGGER!────

 

 

 ガイアメモリより流れる音楽と共に、右側が赤、左側が青の姿、ヒートトリガーへと変わるW。

 元々トリガー自体が強力な威力を持つメモリなのだが、サイクロンの風の力が加わると連射能力が向上する代わりに威力が落ちてしまう。

 しかも相手は火。暴風ならばともかく、下手な勢いの風では火は消えるどころか威力を増すだけだ。

 同じ風の力であるとはいえ、サイクロンメタルはメタルシャフトで叩き落とす事が主立っていたから火球を防げた。

 が、サイクロントリガーでは風の弾丸を撃ちだすので、それで火球を撃ち落とそうとしようものなら、先程のフィリップの言う通り、火を煽りかねないのだ。

 ならば目には目を歯には歯を。火力には火力をぶつけようという寸法だ。

 

 Wの左目がちらりと背後を見る。

 できるだけ遠ざけたが、一応まだ視認できるくらいの位置にブルーム達はいた。

 

 

(ま、信じて待ってるしかねぇか)

 

 

 翔太郎は心の中で呟くと、再びモエルンバへと目を向ける。

 クウガはドラゴンロッドを構え、Wもトリガーマグナムを手にした。

 再び宙に浮かび出すモエルンバ。

 

 モエルンバは強敵だ。

 だが、決して怯まずに2人のライダーは少女達を背に、戦い抜いていく。

 

 

 

 

 

 クウガとWがモエルンバを、キバーラが馬遊具ウザイナーを相手にした戦闘。

 戦闘は苛烈さを増し、クウガやWは色を変えたりして、キバーラの方も巨体相手に苦戦を強いられている、という様相だ。

 

 一方でブルームとイーグレットは、響が見せた力からのクウガとWの出現という怒涛の展開に戸惑ったまま。

 しかも話が途中で遮られたために、どちらからも話を切り出せなくなってしまった2人は沈黙の中にいた。

 

 

「2人とも」

 

 

 そんな静寂を打ち破ったのは、ガングニールを纏う響。

 

 

「咲ちゃんには言ったよね。私もこの前、親友と喧嘩しちゃったんだ。

 でも、それでも私は親友と仲直りできた。本音をぶつけ合って、お互いの気持ちを確かめ合ったから」

 

 

 そこまで言った後、響はイーグレットに目を向ける。

 

 

「ねぇ、舞ちゃん。喧嘩の事は咲ちゃんから聞いたよ。

 だから不思議なんだ。なんで舞ちゃんは全然怒らないのか。何か理由があるんだよね?」

 

 

 誰が聞いても、咲と舞の喧嘩は不思議だった。

 みのりの不注意で絵を汚されたのは咲ではなく、舞。

 そして舞の事を親友だと思う咲は、舞の絵を汚した事に怒った。

 咲が起こった理由は、自分の注意を何度言っても聞かなかったうえ、そのせいで親友の絵を汚したからである。

 さて、此処までで舞がみのりを庇う理由があるだろうか?

 いくら咲を諌めようとしたとはいえ、舞は不自然なくらいに怒らなかった。機嫌が悪い素振りさえない。

 

 それをイーグレットは、みのりにも話した事を、ゆっくりと口に出した。

 

 

「私も、みのりちゃんと同じだから……」

 

 

 首を傾げて反応したブルーム。その話を見守る響。

 2人にイーグレットは自分の心からの思いを打ち明ける。

 

 

「私も妹だから。お兄ちゃんから怒られた時に、凄くショックで。

 だからきっと、咲の言い方にみのりちゃん、傷ついたんじゃないかって思って……」

 

「舞……」

 

「みのりちゃんを叱るのは、お姉ちゃんだもの、仕方ないと思う。でも、あんな風に言わないでほしい」

 

 

 そう、視点が違った。

 咲は姉の視点で、舞は妹の視点で。舞とみのりは立場が同じだから、どうしてもそちらに入れ込んでしまった、という話。

 その考えの違いが、今回の擦れ違いを生んでしまったのだ。

 

 

「だってみのりちゃんは咲の事、大好きなんだから」

 

 

 イーグレットの言葉。それはみのりを想って。

 姉、あるいは兄に強く言われる事がどれ程恐ろしいかを知っているからこそ。

 みのりの立場を理解してほしい、ただそれだけなのだ。

 いけない事をしたら叱るな、と言っているのではない。ただ、言い過ぎないであげてほしい。

 咲は舞に強く当たってしまった事ばかりを気にしていた。そうじゃなく、みのりの事を気にしてあげてほしかった。

 たった、それだけの事。

 

 ブルームは気付く。舞は自分とみのりに仲直りをしてほしいのだと。

 喧嘩してギスギスしてしまった姉妹に、元通りに。

 

 

「……そっか、だから舞はみのりの事……。

 ごめんね、舞。私にもみのりにも、気を使わせちゃった」

 

「ううん、大丈夫」

 

 

 2人はお互いに笑みを見せた。そこにぎこちない空気は無く、あるのは朗らかな雰囲気だけ。

 咲は「分かっている」と口にしても、みのりがどんな思いでいたかを真の意味では分かっていなかった。

 姉として叱るのは当然。けれど何度も注意した事と、舞の絵だった事が怒りの引き金だった。

 だから、カッとなってしまった。

 

 言い過ぎたのだ、単純に。

 「もう一緒に遊んであげない」とは幼いみのりからすれば、姉からの絶交宣言にも等しいだろう。

 舞を通してそれを教えられた。

 ともすればどちらも謝る事ができず、長く引き摺って今後にも影響しかねないところを舞が助けてくれた。

 

 咲の中にはもう、迷いも、気まずさも、怒りもない。

 そんな咲、ブルームに、響はそっと声をかける。

 

 

「もう、大丈夫?」

 

「……はい! すみません、色々」

 

「気にしないで。っていうか、別に私、いらなかったね」

 

 

 この2人なら何もしなくても解決してそうだったかな、と苦笑いする響。

 年下とは思えないくらいしっかりしたやり取りに驚いたものだ。

 ともあれ、これで2人の絆は再び盤石に。懸念も心配も、もう2人には無い。

 

 

「……みのりちゃんはまだ、あそこにいる」

 

 

 響が目線を、未来とみのりの方へと向ける。ブルームとイーグレットもそれに続いた。

 この戦場にはみのりが巻き込まれているのだ。咲にとって、大事な妹であるみのりが。

 

 

「だから、守ろうッ!!」

 

 

 響の強い言葉に、ブルームとイーグレットが力強く頷いた。

 そしてブルームは隣のイーグレットを見やり、その左手を差し出す。

 

 

「イーグレット、力を貸して。みのりを守りたい!」

 

「うん。力を合わせれば、きっと何とかできるわ。……フフ」

 

「なに?」

 

「やっぱりお姉ちゃんは、そうでなくっちゃ」

 

 

 ニコリと笑ったイーグレットは、ブルームの左手に右手を添える。

 

 2人の手が、繋がれた。

 

 

 

 

 

 その場にいた誰もが、突如とした起こった衝撃に驚いた。

 まるで暴風が突然発生したかのような、そんな衝撃を敵も味方も関係なく感じた。

 モエルンバは感じた。嫌な気配だ、と。

 しかし、仮面ライダー達と響は逆だった。何故だか、嫌な感じはしない、と。

 

 誰もが衝撃の出所を探し、全ての視線が一点に集中した。

 発生源はすぐに分かった。何故ならそこは、眩いばかりの金と銀の光が迸っていたから。

 

 その原因は手を繋いだプリキュア。ブルームとイーグレットによるものだった。

 ブルームからは金色の光が、イーグレットからは銀色の光が、凄まじい勢いで溢れ出ていた。

 その輝く光の正体は、精霊の光に他ならない。

 

 2人はしっかりとお互いの手を握り、地面を踏みしめて立ち、視線はモエルンバを射抜いている。

 

 

「せ、精霊の光が溢れてるラピ!」

 

「凄いチョピ~!!」

 

 

 プリキュアの腰に下げられているミックスコミューンキャリー。

 そこに収納されているミックスコミューン状態のフラッピとチョッピが、それぞれに声を上げた。

 

 まるでジェットを吹かせたような強烈な勢いと共に、精霊の光が噴出している。

 今まで見てきた中でも最大の輝き。カレハーンとの戦いで見せたそれよりも強力かもしれなかった。

 ブルームとイーグレットの力は2人の絆によって変化する。

 仲違いしていれば精霊の光は力を発揮しないし、仲が良ければ発揮する。

 

 では、その仲、言い換えれば『絆』が最大限ならば。

 

 プリキュアは正に、無敵と言える力を発揮できる事だろう。

 今の2人はそれ。これまでの戦いの中でも、最強の力を見せていた。

 

 

「すっ、げぇな……」

 

『あれが、あの2人のベストポテンシャル……?』

 

 

 2人で1人がいかに強いかを知っている翔太郎ですら、その迫力には圧倒されていた。

 フィリップも興味深いという気持ちより先に、驚愕のような気持ちが先行してしまうほど。

 隣にいたクウガや馬遊具ウザイナーと交戦中のキバーラもまた、思わずそちらに意識が行ってしまっていた。

 

 そしてそれは味方だけでなく、敵も同じ。

 

 

「オイオイ、ヤバそうだな……」

 

 

 モエルンバは即座に危険性を察知し、馬遊具ウザイナーの頭に飛び乗って、指示を出した。

 指示を受けた馬遊具ウザイナーはモエルンバを乗せたまま、そのバネの跳躍をもってして遥か上空へと跳び上がった。その高さ、雲とほぼ同等のところにまで。

 逃げるつもりではない。此処で退くつもりなど、一切なかった。

 

 

「行くぜ、セニョリータコス!!」

 

 

 意味の通じぬ言葉と共にモエルンバが燃え上がり、同時に馬遊具ウザイナーもたてがみを炎上させ、身体を縦に回転させながら落下を始めた。

 炎の車輪となった馬遊具ウザイナーとモエルンバは自由落下でどんどん地上へと迫っていく。

 遥か高くまで跳び上がっていたため、地上に激突するまでにはしばらくの時間がありそうだ。

 だが、その高さから馬遊具ウザイナーのような巨体が自由落下してくると考えれば、最早あれは砲弾にも等しい。

 しかもそれは炎を纏っている。その上、見るからにその火力は今までの火ではなかった。

 

 

「なん、ですか、アレ……!」

 

 

 上空を見上げ、呆然と呟くキバーラ。

 炎の車輪となった馬遊具ウザイナーとモエルンバは最早、ただの炎ではない。

 空がまるで昼のように明るくなり、その姿はもう1つの太陽と言ってもいい程に輝いている。

 無論、距離的な近さもあるからこそ明るく見える、というのもあるだろう。

 だが、その光が、その熱が、今まで放ってきた火球とは段違いである事を示していた。

 アレがまともに落ちれば、この辺り一帯は焦土と化してもおかしくはないだろう。

 

 

「私達に任せてください」

 

 

 その冷静な言葉を口にしたのは、ブルームだった。

 続き、ブルームと右手で繋がるイーグレットが口を開く。

 

 

「力を合わせれば、きっと大丈夫です」

 

 

 アレを防ぎきれる確証が何処にあるだろう。

 だが、何故だろうか。2人のまるで揺るぎを感じない言葉からは、言いようの知れぬ説得力を感じた。

 この場の誰もが、それを感じていた。

 だから全員が頷いた。Wが、クウガが、キバーラが、響が、プリキュアに託すと。

 

 

「大地の精霊よ……」

 

「大空の精霊よ……」

 

 

 大地から金色の光が、空から水色の光がプリキュアに集まっていく。

 初めて見る者達は幻想的な光景に目を奪われ、かつてそれを一度だけ見た事のあるWの右側、フィリップはその光景に、以前との差異を感じていた。

 

 

(光が、以前よりも強い……)

 

 

 精霊の光の収束率が前回の比ではない。

 これもまた、2人の絆が深まった影響なのだろうか。

 

 

「今、プリキュアと共に!」

 

「奇跡の力を解き放て!」

 

 

 イーグレットに続き、ブルームが唱える。

 そして2人は、完全に集まった精霊の光を上空に輝く邪悪な太陽へと向ける。

 

 

「「プリキュア! ツイン・ストリーム・スプラァァァァッシュ!!」」

 

 

 金色と銀色の光の奔流は空を翔け抜けて馬遊具ウザイナーとモエルンバへと迫る。

 交差する2つの光は地面に迫る炎を徐々に包み込んでいった。

 

 

「ウザイナー……」

 

 

 ウザイナー特有の、しかし穏やかな鳴き声を上げる。

 そしてウザイナーは元の馬の遊具へと、ご丁寧に設置場所まで同じ位置に戻り、同時に黒ずんだ何かが馬の遊具から抜け出た。

 そしてそれが弾けたかと思えば、赤い色の、可愛らしい笑顔を浮かべた光の粒が大量に出現した。

 カレハーンは緑色の精霊、つまり『木の精霊』を闇に染めて使役していたのと同じように、モエルンバは『火の精霊』を闇に染めて使役している。

 それが解き放たれたのである。

 

 精霊達は何処か、戦士達に感謝するかのように微笑むを向けた後、何処へともなく去っていった。

 続けざまに見せつけられる幻想的な光景にクウガやキバーラ、響は驚くばかりだ。

 

 

「ハッハァー! 中々やるじゃん?」

 

 

 そんな中、突如上空より声が響く。

 声の主は、先程ウザイナーと共にツイン・ストリーム・スプラッシュに飲み込まれたと思われていたモエルンバ。

 どうやら間一髪のところで脱出していたらしい。

 

 

「待たな、アディオースッ(さようなら)!!」

 

 

 上空より戦士達を見下ろすモエルンバは、特に悪役らしい捨て台詞を吐く事も無くその場から消えた。

 言葉の意味と、しばらくしても何も仕掛けてこない事から、どうやら撤退を果たしたようだ。

 

 戦闘終了が明確になり、戦士達はそれぞれに変身を解いていく。

 そんな中、お互いに微笑みあう咲と舞を、響はガングニールを解除しながら見つめていた。

 

 

(凄い……。手を繋げば、あんな力が出せるんだ……)

 

 

 響は自分の右手を見つめ、握りしめた。

 自分はあの、プリキュアなる戦士ではない。

 だから、誰かと手を繋いだってあんな爆発的な力を生み出せるわけではない。

 けれど思った。もしもあんな風に手を繋げれば、想いを通い合わせることができれば。

 未来や翼、二課や特命部、S.H.O.Tの仲間達。いや、それだけではない。クリスとだって。

 

 

(手を、繋ぐ……)

 

 

 何故だかそれは、不思議と響の中に残り続けた。




────次回予告────
「舞、本当にありがとね!」
「ううん、いいのよ。みのりちゃんとも仲直り、ね?」
「うん! あ、ところで舞、夏海さん達も翔太郎さん達の仲間になるんだって!」
「……ごめん咲、どの人が夏海さん?」
「あ、そこから説明しなきゃだね……」
「「スーパーヒーロー作戦CS、『想いと仲間と帰ってきた人』!」」
「「ぶっちゃけはっちゃけ、ときめきパワーで絶好調!!」」

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