スーパーヒーロー作戦CS   作:ライフォギア

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第46話 あけぼの町は諦めない

 あけぼの町民の一部は地下の一角に避難していた。

 あけぼの町の人々は基本的に横繋がりが深く、歩けば知り合いに会う、というか殆どの人が顔見知りだ。

 人情溢れる下町、とでも言おうか。お互いがお互いの事をよく知っているのだ。

 そんなわけで避難先でも大抵は顔見知りしかいないという状況が発生する。

 

 地下にはあけぼの署の署長、『雪村 雄三郎』と巡査の『牛山 塩三』がいの一番に駆け込み、2番目にやって来たのは肉屋、『肉のいのまた』を営む帽子の男『猪俣 熊蔵』と『猪俣 邦子』の夫妻だった。

 熊蔵の手には店の看板が。邦子の手には仏壇の先祖の戒名が刻まれている石と、最近流行りのドラマのイケメン俳優が写っているポスターが丁寧に丸められて握られている。

 避難命令を受けて『これだけは持って行かなくては』というものを持ってきたわけだ。

 地下の避難所にいた警察官2人に熊蔵は声をかけた。

 

 

「よう、避難命令とは穏やかじゃねぇじゃねぇかよ」

 

「S.H.O.Tによれば、今回のは今までのとは違うらしいんだ」

 

 

 雄三郎はぶっきらぼうに答える。

 警察はジャマンガ戦では無力だ。いや、本人達の逃げ腰も多分に影響しているのだが。

 そんなわけであけぼの町民は警察よりもS.H.O.Tを頼る事が多い。

 何処の誰がS.H.O.Tかは分からないが、少なくともS.H.O.Tだと分かっているリュウケンドーとリュウガンオーを特に。

 凄く大雑把に言うのなら、ご当地ヒーロー的なそれだ。

 

 当然、頼られない警察としてはあまり面白くないわけで。

 誤解の無いように言うと、別にあけぼの署は嫌われているわけではない。

 警察官という事で通っている剣二や銃四郎は一定の人望があるし、あけぼの署の中で『3バカ』と揶揄される署長の雄三郎含む2人の課長だって、ある程度信頼されているからそんな風に言われているのだ。

 

 

「それに、リュウガンオーは健在だが、リュウケンドーはいないらしい。ゴーバスターズとかが頑張ってるそうだ」

 

 

 塩三がついでに付け加えた。

 リュウケンドーが不在という事実はあけぼの署にも伝わっている。

 S.H.O.Tは隊員も公開できない秘密組織という都合上、現地の警察、つまりあけぼの署と協力しなければ自由な行動ができない。

 避難誘導などもS.H.O.Tを通して警察にしてもらい、魔物退治をS.H.O.Tが請け負う、というスタンスだ。

 

 そんなわけで魔弾戦士が誰かまでは伝えられていないが、魔弾戦士がどうなっているか程度の話は入ってくる。

 リュウケンドーはあけぼの町民のヒーロー。そんな彼がいないというのは猪俣夫妻としても聞き捨てならない事だった。

 

 

「ちょっとぉ、それ何でよ」

 

「知らんよ。S.H.O.Tの事なんか……」

 

 

 邦子の言葉にも雄三郎はやっぱりぶっきらぼうに答える。

 S.H.O.Tの事は嫌いではないが、自分達よりも頼られているというのは複雑な気分なのだろう。

 だったら少しは頼られるように逃げ腰を改善しろよ、とは誰もが言いたくなる事だろう。

 

 と、新たに避難してきた人が2人やってきた。

 そのうちの1人に気付いた熊蔵が帽子を取って頭を下げる。

 

 

「あ、これはこれは御前様! ご苦労様です!」

 

 

 入って来たのは手に数珠を持って寺の住職の格好をした、通称『御前様』とアフロヘアーをして髭を蓄えている『ガジロー』だ。

 2人、特に御前様は見ての通りあけぼの寺の住職で、御前様はそれに加えて町内会長をしている。

 

 御前様は偉い。何せ住職で町内会長だ。

 どれくらい偉いかというと、あけぼの署の署長よりも発言力があるくらいには偉い。

 何かがおかしい気もするが此処はあけぼの町なので仕方が無い事である。

 

 2人が入ってきたのとほぼ同時に、地下の避難所が揺れ始めた。

 天井はミシミシと嫌な音を立て、土が埃と一緒になって落ちてくる。

 この時、地上ではジャークムーンの城から雷による攻撃が始まっていた。

 その衝撃により地下の避難所までもが影響を受けているのだ。

 

 

「おいおい、大丈夫なのか此処ぉ!?」

 

 

 警察官であるはずの雄三郎がいの一番に情けない声を出しながら慌てだす。邦子やガジロー、塩三も大分ビビっているが、熊蔵はそんな彼等を「大丈夫だから静かにしろ」と激励し、御前様は微動だにしていない。

 

 

「……熊蔵さん!」

 

 

 揺れが収まった直後、御前様が大きく声を上げる。

 そして熊蔵が振り向くと、御前様はある提案を熊蔵にした。

 

 

「『アレ』を、出してくれ」

 

「……! アレ、ですかい? 本気で?」

 

 

 2人以外の全員が熊蔵と御前様を交互に見やった。

 熊蔵の妻である邦子や御前様と同じ職場のガジローですら『アレ』について思い当たる節が無く、警察官2人も何の事やら分からない様子だ。

 邦子が『アレ』について問おうとするも、その前に御前様の次なる言葉が放たれる。

 

 

「リュウケンドーがいないという言葉を聞いた。彼なき今、リュウガンオー達だけに頼るのは、あけぼの町民の、名折れじゃ!」

 

「確かに……」

 

 

 御前様の目は覚悟の色に、それを受けた熊蔵の目も強く鋭い。

 2人の初老が何を覚悟し、アレとは結局何なのか、邦子にもガジローにも警察官にも分からぬまま、2人は避難所から外に出て行った。

 

 

 

 

 

 二課では弦十郎がモニター前で唖然とした。

 特命部では黒木もモニター前で唖然とした。

 

 リュウガンオー達が必死でパワースポットに誘導しようとしている。

 シンフォギア装者とディケイドが一刻も早く現場に向かおうと急いでいる。

 ゴーバスターズ達が戻り、疑似亜空間攻略に移るのも時間の問題だ。

 

 しかし、モニター前に移されていたのはそういう物ではなかった。

 映し出されていたのは、城に対抗して編隊を組む十数機の『ジェット戦闘機』。

 自衛隊辺りがそれを出した、というのなら驚きはないだろう。

 だが、自衛隊が出してきた何て報告は上がっていない。

 というか問題は、『それがあけぼの町から出てきた』という事だ。

 

 

「……何だ、アレは?」

 

 

 弦十郎の言葉は二課と特命部メンバー全員の総意だ。

 オペレーター陣ですら硬直してしまっている。

 しかしそんな中、S.H.O.Tのメンバーだけは驚きつつも割と平静を保っていた。

 戦闘機を見た瀬戸山の感想もまた、表情と同じく冷静だ。

 

 

『やりますね、あけぼの町民……』

 

 

 ツッコミどころはいっぱいある。

 何でただの下町であるはずのあけぼの町から戦闘機が出てくるんだ? とか。

 ああいう武力って他国から目が付けられないか? とか。

 確かにある程度の武装保有は対ジャマンガ用としてあけぼの町は認められているが、流石に凄すぎじゃないか? とか。

 何処の戦闘機か分からないのに何故に当然のようにあけぼの町民が乗っていると断定しているんだ? とか。

 というか瀬戸山さん反応薄すぎじゃね? とか

 

 

『いや、あの、おかしくないですか。色々と』

 

 

 そんな諸々を含んだ特命部の森下の言葉だが、その言葉は、天地のあまりにもあまりにもな一言で叩き伏せられてしまう。

 

 

『まあ、あけぼの町だからな』

 

 

 あけぼの町とは何なのだろうか。

 

 

 

 

 

 戦闘機に乗っているのは熊蔵や御前様含む、あけぼの町民で年を食った人々。

 御前様が言っていた『アレ』とはこれの事だったのだ。

 避難所から出て、戦闘機達の勇姿を見上げるガジローと邦子はポカンとした表情である。

 

 

「昔、戦闘機乗りだったとは聞いてたけどなぁ……」

 

 

 ガジローは同じ住職として御前様と関わる機会が他の人に比べて多い。

 その時に少しだけ聞いていたのだが、それは『まあ、昔の事』と処理していたのだが、まさか割と現役とは思わなかった。

 

 

「あんなのさ、よく仕舞ってたよねぇ……」

 

 

 邦子の言葉に、ガジローも頷く。

 戦闘機が出てきたこと自体にツッコミを入れるような感性の持ち主は、この場にいなかった。

 

 あけぼの町とは何なのだろうか。

 

 

 

 

 

 一方であけぼの町の地上では『高倉 律子』と『中崎 市子』が銃を手に上空の城に発砲を繰り返していた。

 銃と言っても拳銃ではなく、散弾銃や機関銃と言った、およそ通常の警官では触れる事も無い様な代物である。

 これらが支給されているのにはジャマンガが定期的に現れるから、という明確な理由がある。

 通常の警察を遥かに上回る過剰な武装が許され、尚且つ支給されているのはその為なのだが、署長である雄三郎が事なかれ主義の為にあまり使う機会は無い。

 恐らくそう言った火器類を一番多く使ってドンパチしてるのが婦警コンビのこの2人だ。

 交通課の割には大分あぶない刑事である。

 

 機関銃をぶっ放しながら音に負けぬように、市子が律子に声をかけた。

 

 

「これ当たってんのかなー!?」

 

「知らなーい!!」

 

 

 2人の正義感は本物で、ジャマンガから人々を守りたいという気持ちは強い。

 ちょっと軽いノリでも、あけぼの町の為に戦いたいという思いはS.H.O.Tと同じだ。

 彼女達なりに戦いたいと、武器を手に取っているのだから。

 

 

 

 

 

 さらに一方、逃げ遅れた2人がいた。

 1人は『野瀬 かおり』。剣二も思いを寄せている『フローリストのせ』という花屋を営むあけぼの町のマドンナだ。

 1人は『蝶野 富雄』。ラーメン屋、『豚々亭』を営む若い主人だ。

 豚々亭はガジローや剣二もよく訪れるあけぼの町では人気のあるラーメン屋である。

 

 2人は建物から逃げようとしたが逃げ遅れ、おまけに雷の影響で辺りは瓦礫に塞がれてしまっていた。

 何とかできないかと模索したものの結局ダメで、階段で座りながら救援が来るのを待っているという現状。

 富雄の横には出前でラーメンを入れて運ぶ岡持ちが置かれ、かおりの横には『かっぱ地蔵』が置かれている。

 2つとも2人が避難の時に持って行こうとしたもので、岡持ちはともかくかっぱ地蔵は石でできている為、かおりが持つには少々重たいのだが、構わず持ってきていた。

 

 ちなみにかっぱ地蔵とはあけぼの町の守り神で、石造の地蔵である。

 手にキュウリを持たせて『ベレケベレケ』と唱えると願いが叶うそうだ。

 

 

「あーあ、そろそろ引っ越しかなぁ」

 

「豚々亭はどうするんです!?」

 

「閉めるしかないだろ?」

 

 

 此処までの被害と命すら危うい状況で、富雄は弱気にもそう考えてしまう。

 しかし、ある意味当然だ。今までのジャマンガは人を殺す様な真似は基本的にしなかった。

 マイナスエネルギーは生きた人間からしか出てこないので、人を殺す事はむしろ不利益に繋がるからだ。

 だが、今回の攻撃は本気の攻撃。潰しにかかっていると言っても過言ではない。

 発現した本人含めて誰も気付かずとも、富雄の言葉は今回の襲撃が今までとは違う事を示していた。

 

 

「……あたし、あけぼの町で生まれて、小中高通って、初恋もしたし……。初キッスは、かっぱ地蔵のとこでした」

 

「み~んなあそこで初キッスするんだよなぁ。酷い時には行列までできてたっけ」

 

 

 自分の人生を振り返りながら、かおりは語り、富雄も笑って当時を回想する。

 あけぼの町には大切な思い出が沢山あるのだ。

 

 

「この町には、私の全部があるんです」

 

 

 思い出の詰まったこの町を離れたくない。壊されたくない。そう思っていた。

 富雄だって想いは同じだ。引っ越すと口にしても、豚々亭には自分の全てが詰まっているのだから。

 

 

「でもさ、命あっての物種だし……」

 

 

 あけぼの町と自分の命。天秤にかければ簡単な事で、自分の命が優先だ。

 命があればまたあけぼの町に戻ってくる事もできるだろうし、壊されても命があれば再建する事だってできる。

 正に命あっての物種なのだ。

 だけど、できる事なら離れたくないという想いだって富雄の中にはある。

 

 

「……もし、このまま閉じ込められたままだったら」

 

 

 弱気な富雄はふと、そんな事を口にしてしまう。

 むしろこの命をも知れぬ状況下で『弱気』で済んでいる富雄は精神面が強い方だろう。

 流石はあけぼの町民と言ったところだろうか。

 だが、そんな富雄を上回る精神力を持つ者が、此処にはいた。

 

 

「そんな事はありません!」

 

 

 女性のかおり。彼女が富雄の言葉を強く否定する。

 

 

「リュウケンドー達が、必ず来てくれます」

 

 

 彼女は信じていた。S.H.O.Tを、リュウガンオーを、リュウケンドーを。

 この町を守って来てくれた正義の味方達を。

 かおりに力は無い。守る力も、立ち向かう力も、相手を倒す力も。

 ジャマンガという強力な武力に対しては逃げる事しかできない弱い人間だ。

 だが、信じる事はできる。

 何もできなくともヒーローの登場を信じ続け、ヒーローを信じ抜く事ができる。

 それしかできないのなら、それを全力でするだけだ。

 かおりは信じ続ける。リュウケンドーが来てくれる事を。

 

 

 

 

 

 3人の戦士の足が並びながらあけぼの町を駆け抜けていく。

 ハードボイルダーとマシンマッシグラー、そしてバスターウルフ。

 バイク達は並走しながら、戦士達をパワースポットへと運んでいく。

 

 

「でぇやァッ!」

 

 

 リュウガンオーは時折、後方を向き、城へ向けて『マダンナックル』という装備による衝撃波を放つ。

 マダンナックルは魔弾戦士共通の装備。手に嵌めて使用し、殴る事は勿論、拳を突き出す事で衝撃波を繰り出して遠距離攻撃もできる代物だ。

 マダンナックルから放たれた衝撃波は城に命中するものの、全く効果が無い。

 Wも火力の高いヒートトリガーに変わってトリガーマグナムを放つが、同じく効果は無い。

 フォーゼも『20番』のスイッチを使って『ファイアーステイツ』へと変身し、『ヒーハックガン』という専用武器を使って炎の弾丸を撃ち込むものの、こちらも同じくだ。

 

 さらに何処からともなく現れた戦闘機達のミサイルによる援護も入るが、これも効き目はない。

 

 彼等はバイクでパワースポットを目指しつつ、時折後方を向いて誘導の為に攻撃を仕掛ける、という事を繰り返していた。

 攻撃による効果は無い。だが、誘導は上手くいっている。

 ただ、『上手くいきすぎている』程に。

 

 

「不動よりS.H.O.Tへ! 気のせいか、誘導無しでもパワースポットに向かってるぞ!」

 

 

 そう、攻撃などしなくとも城はパワースポットを目指しているようにしか思えなかった。

 町を雷で破壊しながら進む城は脇目も振らずにパワースポットへの道を一直線に進んでいる。

 Wの右側、頭脳担当のフィリップもその行動には薄々気が付いていた。

 

 

『敵の狙いもパワースポット、という事なのかもしれない。何が目的なのかは分からないけど』

 

 

 誘導関係無しにパワースポットへ進んでいるという事はそう考えるのが自然だ。

 パワースポットに莫大な魔力が溜まっている事を考えると、目指す理由は十中八九碌でもない事なのは確かだが。

 

 

「つっても、他に手はねぇんだろ?」

 

 

 翔太郎の言葉には誰もが反論できず、押し黙った。

 結局、こっちに手は1つしかないのだ。例えそれが敵の狙いと同じだとしても、その土俵で戦う他ない。

 そんなWの言葉に応えるように、リュウガンオーの通信に瀬戸山が返答した。

 

 

『その通り。どちらが強いのか、一騎打ちです』

 

 

 賭けに等しい勝負ではあるが、それをする以外に方法は無く、その賭けに挑まなければあけぼの町は火の海となって壊滅する。

 だったら、迷っている暇などなかった。

 

 パワースポットへ進んでいく道中、城から雷とは別に歪な槍のような物が落ちてきた。

 見れば、城の上部から遣い魔達が自分の手持ち武器である槍を投擲しているではないか。

 さらに何処かに槍を貯蔵してあるのか、遣い魔達はバケツリレー方式で槍を運び、投擲する遣い魔に渡していく事で間髪入れずに槍を投げ続けている。

 ジャマンガ本部から連れ出された遣い魔はかなりの数で、それだけ投擲されている槍もおびただしい数になっている。

 狙いは戦闘機達。上空を飛び交う敵と、そこから放たれるミサイルがうっとおしく、ジャークムーンが撃墜命令を出したのだ。

 

 戦闘機達は槍の包囲網を掻い潜るが、人間以上の腕力で投げられる槍の投擲は普通の人間が投げる槍よりもずっと攻撃範囲が広い。

 おまけに槍による弾幕は槍とは思えぬほどに厚く、あろう事か戦闘機の1機が槍に当たってしまい、翼から火を出してしまっていた。

 高度がどんどん下がっているその戦闘機が墜落するのも時間の問題だろう。

 

 

「! ちょっと行ってくるッス!」

 

 ――――ROCKET!――――

 

 ――――ROCKET ON――――

 

 

 フォーゼはファイアーステイツから元のベースステイツへと戻り、右腕にロケットモジュールを展開してマシンマッシグラーから飛び出した。

 ロケットの推進力で上空を駆け、墜落しかかった戦闘機まで辿り着くと、左手でバツのソケットにあるランチャースイッチを外し、代わりにラベンダー色の『28番』スイッチ、『ハンドスイッチ』を差し込んだ。

 

 

 ――――HAND!――――

 

 

 ハンドスイッチのスイッチ部分を押すとスイッチからは手形のようなものがせり上がる。

 

 

 ――――HAND ON――――

 

 

 右足に現れたのはラベンダー色をした機械の腕、『ハンドモジュール』だ。

 これは細身な見た目とは裏腹に5t程度の物なら持ち上げる事ができる、フォーゼ第3の腕とでも言うべき高性能な腕だ。

 ロケットモジュールで墜落しそうな戦闘機を追跡しつつ、ハンドモジュールでキャノピー部分を無理矢理引きはがし、そのまま中のパイロットをやや乱暴だが掴む。

 

 

「よっ、と!」

 

 

 ハンドモジュールで掴んだパイロットを自分の左肩に移して抱え、未だに放たれ続ける槍から逃れるように急速に離脱。地上まで降りてパイロットを下ろしてやった。

 パイロットは寺の住職のような恰好で額に白い鉢巻を巻いている老人。御前様だった。

 御前様は身体に怪我らしい怪我もなく、ロケットとハンドのスイッチをオフにしたフォーゼに両手を合わせて頭を下げた。

 

 

「かたじけない」

 

「気にしないでくれよ。アンタ等こそすげぇな、あんな戦闘機まで持ち出して」

 

 

 上空では残弾がある戦闘機達が奮戦している。

 誰もが諦めずに城に攻撃を仕掛けているのだ。

 この老人もそんなパイロットの1人なのかと思うと、あけぼの町民にはすげぇ人が多いな、と心底思う。

 空を見上げて感嘆するような声を出すフォーゼに、御前様は質問をした。

 

 

「白き戦士よ、1つお尋ねしたい」

 

「ん? おお、何スか?」

 

「リュウケンドーはどうしているのか、貴方は知っているのですか?」

 

 

 その言葉にフォーゼはすぐに答える事ができず、詰まってしまった。

 リュウケンドーが、鳴神剣二がどうしているのか。彼はよく知っている。

 変身できない、つまりはあけぼの町に現れられない事も。

 あけぼの町民にとって魔弾戦士は仮面ライダー以上にヒーローだと聞かされている。

 であるならば、彼がいない事は彼等にとってもショックな事なのだろうと。

 

 

「えっと、その、リュウケンドーは……」

 

「……よいですぞ。知っておるのですな? そして、今は何かがあって戦えないのですな?」

 

 

 答えに詰まるフォーゼの態度を見て御前様も察し、その言葉にフォーゼもゆっくりと頷く他ない。

 リュウケンドーとリュウガンオーはあけぼの町の希望、ヒーローなのだ。

 片方でもいなくなるという事がどれほど不安な事だろうか。

 正確には答えられない歯痒さと、彼等の心境を考えてフォーゼも言葉が見つからない。

 だが、御前様の表情には動揺も不安の色も無かった。

 

 

「もし、リュウケンドーと会えるのなら、彼に伝えてほしい」

 

「……?」

 

「我々は待っていると。必ず戻ってきてほしいと」

 

 

 言葉にフォーゼは驚いた。御前様の言葉は、リュウケンドーを信じ切っていたから。

 フォーゼが思うよりも、あけぼの町民はずっと強かった。

 御前様や熊蔵を筆頭にした戦闘機の部隊も、婦警コンビも、閉じ込めらているかおりと富雄も、あけぼの町の誰もが。

 彼等は弱音や弱気にはなっても、諦めや絶望は無い。

 幾度も魔物に襲われようと強かに逞しくあけぼの町で生き抜いてきたのだ。

 ジャマンガの初襲撃から半年も経っているが、それでもあけぼの町から出て行った人間は殆どいない。

 むしろ魔物をモチーフにしたキャラで一儲けを考えるくらいには逞しいのが彼等だ。

 誰もが信じている。S.H.O.Tを、リュウガンオーを、リュウケンドーを。

 

 

「儂らは彼等に頼るしかない。だからこそ、せめて信じ抜くつもりじゃ。あけぼの町民として、この町を奴らの好き勝手にはさせとうない」

 

 

 御前様の言葉は、あけぼの町民の総意と言ってもいいだろう。

 例え魔弾戦士がいなくとも戦い続けるような人までいるのがあけぼの町という場所。

 だからこそあんな戦闘機まで飛んで、婦警コンビもドンパチしている。

 

 そんな御前様の言葉にフォーゼは。

 

 

「くうぅぅぅ……!」

 

 

 泣いた。

 仮面の奥の涙は拭えやしないが、目を擦るフォーゼ。

 

 

「おっしゃ! アンタ達の気持ち、確かに受け取った! この熱い気持ちは絶対、リュウケンドーに届けて見せる!!」

 

「よろしく、頼みますぞ」

 

 

 御前様はもう一度頭を下げ、フォーゼもそれに強く、強く頷いた。

 そしてフォーゼは再びロケットモジュールを起動して城の方、パワースポットへと向かう。

 御前様の、あけぼの町民の思いを受け取った彼は、その大きな思いを胸にあけぼの町の空を飛ぶ。

 

 

(帰って来てくれよ、剣二さん! アンタはあけぼの町みんなから想われてるんだからよ!)

 

 

 彼は剣二が何処にいるか知らない。だから、今すぐに言葉を届ける事はできない。

 だけどせめて、ほんの少しでも何かが届けばと思って心の中で叫び続ける。

 再び龍の剣士が魔を断つために現れるその時を、待っていると。

 

 

 

 

 

 撃墜される戦闘機。焼けていく町。効かない攻撃。未だ居座る疑似亜空間。

 あけぼの町でも少し高い場所にある神社から、剣二はそんな様子を見ていた。

 どんどん悪化していく地獄絵図に、ただただ立ち尽くして。

 

 

「やめろ……。やめてくれ!!」

 

 

 思わず叫ぶが、ジャマンガはそんな事で攻撃を止めない。

 城の主がジャークムーンである事を剣二含めて誰も知らないでいる。

 ジャークムーンが一度も姿を現していないのだから当然だが、目の前で暴れる相手がジャークムーンだというのは、その戦いで変身できなくなった剣二への当てつけのようにすら思える。

 

 雷撃は容赦なく民家を焼き、戦闘機は少しずつ数が減らされていく。

 それでいて城には傷1つ付いていない。

 疑似亜空間も未だ健在で、それがより一層不安感を煽った。

 

 

「……ゲキリュウケン」

 

 

 返事の無いゲキリュウケンを手に持って見つめながら、心から思った。

 自分が今、あの戦場に立てるなら、と。

 リュウケンドー1人で何かが変わるかは分からない。でも、いないよりもいる方がマシだと思う。

 例え未熟でも、病み上がりでも、何もしないで見ているより戦いたい。

 

 

「俺が、あんな奴にライバル心なんか持ったばっかりに……」

 

 

 ジャークムーンを『剣使いの好敵手』と見てしまったが故に、そこに意固地になりすぎたから起きてしまった悲劇。

 銃四郎の、「魔物だ、ただの」という言葉が頭を過った。

 その通りだ。そう思って戦ってさえいれば、こんな風にならなくても済んだかもしれないのだ。

 でも、それでもジャークムーンと剣で競いたいと思った心は本心。

 それで痛い目を見たという自覚があるからこそ、その本心を捻じ曲げたくないという思いが剣二の心を締め付ける。

 

 

「……でも、俺は」

 

 

 剣二は思う。守りたいという思いもまた、本心なのだと。

 敵にライバル心を持つ事と、町を守りたいという思いは反対の思いというわけではない。

 つまり共存できる思いなのだ。

 要はどちらが重要か。どちらが剣二にとって、より大切な事かという話。

 翔太郎に言われた「『守りたいもの』を危険に晒しちゃ意味がない」という言葉が浮かぶ。

 その通りだ。守りたいものを危険に晒してまで、ライバルに勝つ事は重要な事なのか。

 場合にだってよるかもしれない。けれど、敵は人を脅かす魔物だ。

 

 彼の欠点は直情的過ぎるところ。それが悪い方向に全力で向いた結果が今。

 彼はそれを見つめ直し、今自分がやるべき事を、本当にやりたい事を見つける。

 

 そう、答えは1つだ。

 

 

「俺は守る事よりジャークムーンと戦う事を優先した。

 アイツへのライバル心が本心なのは事実だ。だけど今度は間違えねぇ。

 俺は町を守る為に戦う! アイツとの事はその後だ! 何よりもまず、町と人を守りたい!

 不動さんをおっさんとはもう呼ばない! 強くなんかならなくたっていい!

 だから頼むッ! 俺をもう一度変身させてくれッ!!」

 

 

 溢れる思いを勢いのままに叫ぶ剣二は、手の中の相棒を握りしめた。

 

 

「――――――ゲキリュウケンッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 特命部の格納庫。

 急ピッチで進められた5体合体は今、完成を見ていた。

 バスターマシンへ乗り込む為のリフトには既にマサトとJが待機し、ゴーバスターズの3人が帰ってくるのを待ち続けている。

 そして、格納庫の入口の方から走る足音が聞こえてきたのを耳にし、マサトは笑って3人を出迎えた。

 

 

「来たな?」

 

 

 メットを脱ぎ、バスタースーツのみを纏っているヒロム、リュウジ、ヨーコが駆け込む。

 ゴーバスターズがすれ違う作業員達は皆、ゴーバスターズに特命部式の敬礼をして出迎えた。

 此処まで徹夜で頑張ってくれた作業員達1人1人に丁寧に返していきたいところであったが、緊急事態に悠長にしてはいられない。

 3人は急ぎマサトとJがいるリフトに乗り込むと、リフトはすぐに上昇を始めた。

 

 

「1つ強くなったみたいだな、ヒロム」

 

 

 フィルムロイドとの戦いで何があったのかを知ったマサトが言う。

 だが、ヒロムは苦笑いで首を横に振った。

 

 

「逆ですよ。自分でもあんなに弱いとは思いませんでした」

 

 

 家族がいなくて寂しいと思っていた事は紛れもない事実。

 だが、偽物程度であそこまで動揺するとは自分でも全く思っていなかった。

 自分の中にある家族への弱さに驚くと同時に、自分があんなにも脆いのかと。

 強くなったワケがない。むしろ、弱さを露呈してしまったとヒロムは思っていた。

 

 

「それこそ逆だ」

 

 

 しかしマサトはそれを否定した。

 

 

「『強さ』ってのは、『弱さ』を知る事だ」

 

 

 完璧じゃないから面白い、というのがマサトの持論だ。

 そして完璧な人間など、この世には存在しないというのも。

 完璧でないという事は人には必ず欠点があり、弱さが何処かに存在している。

 一見完璧でも、一見強く見えても、何処かに必ずウィークポイントがあるものだ。

 マサトは語る。『強くなる』とはその欠点を、弱さを自分で自覚する事だと。

 

 

「ま、これで迷いなく、新マシンを預けられるってモンだ」

 

 

 そしてその『弱さ』を知ったヒロムになら安心してメインパイロットを任せられるとマサトは考えていた。

 まだまだ未熟。だが、その未熟を自覚した彼なら大丈夫だと。

 マサトはリフトの目と鼻の先にある、特命部作業員達が徹夜して造り上げたバスターマシンを見上げて、宣言した。

 

 

「驚異の5体合体! 名付けて……」

 

 

 そんなマサトの前にJが躍り出て。

 

 

「『グレートゴーバスター』!」

 

「何でお前が言うんだ!?」

 

 

 一番決めたいところを掻っ攫われたマサトはJの頭を小突いた。

 これじゃカッコつかねぇとマサトは溜息を漏らし、そんな2人に3人は笑う。

 リフトは間もなくグレートゴーバスターの乗り込み口まで上昇。

 ヒロムはどつき漫才を繰り広げるマサトとJ含む4人を一瞥し、決意新たにモーフィンブレスを構えた。

 

 

「行くぞ!」

 

 ――――It’s Morphin Time!――――

 

 

 マサトとJにバスタースーツが転送され、既にスーツだけは纏っているヒロム達3人にはメットが転送。

 5人がゴーバスターズへと変身を果たしたのとほぼ同時にリフトが乗り込み口にまで上がり切る。

 そして5人は、最強のバスターマシンへと乗り込んだ。

 

 乗り込み、各々のコックピットでヒロム達3人はバディロイドと顔を合わせた。

 バスターマシンへ乗り込む時ではいつもの事。

 だが、今日は何となく感じが違う。新たな合体という事もあるのだろうが、ニックは特にそれを感じていた。

 

 

「頑張ったな、ヒロム。お疲れ!」

 

 

 ヒロムにとって家族がどれだけ大切か、誰よりもヒロムを見てきたニックはよく知っている。

 ヒロムの事なら特命部の誰よりもニックが詳しいと言ってもいいだろう。

 何せヒロムとヒロムの姉であるリカと10年以上もの間、一緒に暮らしてきたのだから。

 例え偽者でもそれを見せつけられたヒロムがどれだけ苦しかったか。それを振り切ったヒロムがどれだけ強くなったか。ニックにはそのどれもが痛いほど分かる。

 だけどヒロムは、レッドバスターはニックの、言葉だけではわからない程、様々な意味を含んだ労いの言葉に笑った。

 

 

「まだ早いぞ、ニック。これからだ!」

 

 

 そう、これからなのだ。

 いつか両親を救い出し、メサイアをシャットダウンするまでは――――!




――――次回予告――――
大ピンチのあけぼの町の為に、みんなは諦めずに立ち向かう。
だったら俺だけ何もしないわけにはいかないよな。
どんな強敵だって、力を合わせて倒してみせるぜ!
行くぜゲキリュウケン! 俺達でみんなを守るんだ!
次回は、2つの切り札、ライジン!

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