スーパーヒーロー作戦CS   作:ライフォギア

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第38話 デュランダル争奪戦

「『ショットキー』! 発動!!」

 

 ――――ドラゴンショット――――

 

 

 ゴウリュウガンに装填されたショットキーが力を与える。

 ドラゴンショットは10秒間に100発の弾丸を撃ち放つ連射攻撃。

 戦闘員の群れに放てばかなりの効果が期待できる。

 実際に放たれたドラゴンショットは戦闘員達を次々と打ち倒していった。

 

 

「ったく、大分減ったな」

 

『残存敵勢力、初期より20%まで低下』

 

 

 ゴウリュウガン曰く、戦闘員の数は最初の20%まで減ったそうだ。

 最初は数を数えるのすら億劫になるほどの、正しく無数としか言いようの無い数だったが、今は数えようと思えば数えられる程度の人数にまでなっていた。

 どれだけ減らせばいいのか分からなかった初期に比べれば、敵全滅の見通しが立った今は気も楽というものだ。

 そういう気持ちもあってか、3人が残りの戦闘員を倒す際の動きは、何処となく余裕を感じさせるものだった。

 

 

「ハァァァァ……GO!!」

 

 

 ブルーバスターは思い切り力を籠めた右腕を振り下ろし、地面に叩きつけた。

 アスファルトが凹み、地割れのように地面は砕け、轟音と共にまるで無重力状態にあるかのように割れたアスファルトの破片が浮き上がる。

 それと同時に辺り一帯にその力によって引き起こされた強烈な衝撃波が伝わり、衝撃を受けた戦闘員達は全て、波に押されるかのように倒れていった。

 

 

「はぁ、いい加減にしないと熱暴走起こしそう……」

 

 

 地面に叩きつけた右手を軽く振りながらボヤくブルーバスター。

 ゴーバスターズの3人にはワクチンプログラムによる強力な能力が備わっている。

 が、それと同時に普通の人には無い弱点、即ち『ウィークポイント』まで備わってしまったのだ。

 

 例えばブルーバスターは『熱暴走』。

 その状態に陥ると普段以上に力を引き出す事が出来るが、人格が豹変し、味方にまで攻撃をしかねない程に凶暴になってしまうのだ。

 戦術も戦略も滅茶苦茶になってしまい、チームワークもへったくれもない熱暴走は力が上がるというところ以外、利点は無いに等しい。

 起こさない方法は1つ、体を冷やす事。

 熱暴走の名の通り、体があまり暑くなりすぎるとその状態にシフトしてしまう。

 その為、リュウジは時折湿布や保冷剤で体を冷やすのだが、戦闘中はそうもいかない。

 最も、今回は長丁場になる事を想定して冷えピタを体に貼ってきているのだが。

 特にブルーバスターの『力』を引き出す関係で腕からは熱が発生しやすく、そこを重点的に。

 それでも戦闘員達との長い戦いにより、冷えピタの冷却を上回る熱気がブルーバスターの体に纏わりついていた。

 

 今が5月の下旬であるという事を思い出すとリュウジは憂鬱な気分になる。

 夏場はそもそもが暑い為、熱暴走しやすいのだ。

 今はまだ春先の気温が残っているから良いにしても、これからが大変な時期。

 思わず溜息も出るというものだ。

 

 

「リュウさん! 大丈夫なの?」

 

 

 今の言葉を聞きつけたイエローバスターが駆け寄って来た。

 熱暴走がいかに大変な状態に陥る事か、ゴーバスターズのメンバーか一番良く分かっている。

 一度熱暴走すると暴れ切った後に倒れ込むまで暴走は止まらない。

 しかも熱暴走後はしばらく動けなくなるため、戦場のど真ん中であるこの場で熱暴走する事はあまりにもよろしくない。

 ブルーバスターはイエローバスターを安心させるように笑いかけた。

 

 

「大丈夫だよ」

 

 

 仮面の中で微笑みながら返答したブルーバスター。

 勿論熱暴走の危険性がないわけではないので、冗談でも何でもないのも確かなのだが。

 

 

「ヨーコちゃんは?」

 

「まだ大丈夫。あんまり長いと充電するかもしれないけど……」

 

 

 リュウジに熱暴走というウィークポイントがあるのと同じように、ヨーコにも『エネルギー切れ』というウィークポイントが存在している。

 カロリーの摂取を怠ると一切の身動きが取れなくなるというものだ。

 お菓子なり何なりでカロリーさえ取れればいいのだが、戦場のど真ん中で所謂『充電切れ』が起こると洒落にならない。

 特に戦闘中はエネルギーの消費も激しい。

 こまめに気を配らないといけない事なのだ。

 ヨーコも任務前という事でしっかりとカロリーは取ってきているが、それもあまり長引きすぎると切れてしまう。

 携帯電話を長く使って入れば何処かで充電が切れ、電源が落ちるので、充電が必要。

 ヨーコのウィークポイントとは、とどのつまりそういう事なのだ。

 

 

「ウィークポイント、とか言ったか。不便だな」

 

 

 辺り一帯を掃討したリュウガンオーが2人の会話を聞きつけて駆け寄って来た。

 リュウガンオーの言う通り、ウィークポイントは不便だ。

 何せ日常的にウィークポイントは発動してしまうのだから。

 真夏の日にうっかりしていると熱暴走を起こしたり、カロリー摂取をサボると歩いている最中に突然倒れる羽目になったり。

 

 

「ええ。でも、それで俺達は力、貰ってるんで」

 

 

 ブルーバスターが右腕でガッツポーズを取りつつ、左手で右の二の腕を触った。

 人知を超えたゴーバスターズの力もウィークポイントも、彼等にインストールされているワクチンプログラムによる影響だ。

 ウィークポイントというデメリットはあっても、そのお陰でヴァグラスと戦えている。

 転送に耐えられるのもワクチンプログラムがあってこそだ。

 不便ではあるかもしれない。

 だが、それでもお釣りがくるほどに、この力には感謝していた。

 

 戦闘員達はあらかた片付いた。

 既に両手で数え切れる程しか戦闘員は残っていない。

 追い詰められている事を感じたバグラー、遣い魔の両戦闘員はじりじりと後退っていっている。

 勝てないという事を意識し始めたのだろう。

 このままさっさと押し切って、早くデュランダルの元へ。

 しかし、そうやって急いでいる時ほど、事というのは簡単に進まないものだ。

 

 

「ファァァイアァァァ!!」

 

 

 残りの戦闘員の数に完全に油断していた。

 だから、突如として戦闘員の隙間から飛んできた炎に反応できなかった。

 3人はそれぞれに纏う鎧越しでも感じる凄まじい熱気に思わず飛びのいた。

 

 

「リュウさん!」

 

「大丈夫……一応、ね」

 

 

 飛びのいてイエローバスターはいの一番にブルーバスターを気遣った。

 当然だ、熱暴走の話をした直後に炎の攻撃。

 体温が上がって熱暴走しかねない攻撃なのだから。

 今の所、ブルーバスターは平常と同じ状態を保っている。

 だが、『一応』という言葉を自信無く呟いてもいた。

 既に熱気を帯び始めた体に炎の攻撃は、ブルーバスターにとっては致命的。

 次が来たら今度こそ暴走しかねない。

 

 炎が飛んできた方向を3人の戦士はキッと睨んだ。

 戦闘員達の奥から、1体の影が現れる。

 見た目はイカを人間大にして手足を付けたような姿で、体色は真っ赤。

 左腕は機械になっており、背中のタンクと思わしき部分と繋がっている。

 恐らくあれが火炎放射を発射した部分であろう。

 

 

「イカの……化物!?」

 

 

 イエローバスターの言葉はとても的を射ていた。

 そう、要するに火炎放射器を持ったイカの化物だったのだ。

 イカの化物――――大ショッカー5人目の刺客、『イカファイア』は3人をじろりと見やった。

 

 

「ふぅむ、仮面ライダーはいないか……。しかし、貴様等はライダーに匹敵する力と聞いている」

 

 

 表情こそ分からない物の、その声色はニヤリと笑うような、悪巧みをしている時のそれに近い雰囲気があった。

 

 

「大ショッカーに敵対する者は誰であろうと死んでもらう!」

 

 

 その言葉をきっかけに、有無を言わさずイカファイアは左腕の火炎放射器から炎を発射した。

 一直線に飛ぶ炎は左腕の動きに連動し、まるで鞭のように撓って3人に襲い掛かった。

 ブルーバスターを庇いつつ、イエローバスターとリュウガンオーも後退する。

 これ以上ブルーバスターに熱気が溜まれば熱暴走は免れず、それは避けたいからだ。

 

 

「この……ッ!」

 

 

 ゴウリュウガンを突き出してイカファイアを狙って引き金を引くリュウガンオー。

 しかし、その弾丸はイカファイアが火炎放射を躍らせる事で全て炎と相殺されてしまった。

 

 

「一旦バラけよう!」

 

 

 ブルーバスターの提案に2人ともすぐさま頷き、3人は別々の方向に転がり込むように散開した。

 直後、イエローバスターは自身の跳躍力を持って空高くジャンプ。

 上空からイチガンバスターを構えてイカファイアに攻撃を行った。

 さらに別の方向、イカファイアから見て右からリュウガンオーもまた、ゴウリュウガンを放つ。

 イカファイアに上空と右から弾丸の雨が降り注ぐ。

 それを掻い潜る為に一旦火炎放射を中止し、前方に転がり込んでそれらを避けた。

 しかし、前方に転がったイカファイアが立ち上がろうとするのと同時に、ブルーバスターがタイミングを合わせて駆け込んでいく。

 

 

「どうもッ!」

 

 ――――It’s time for buster!――――

 

 

 ブルーバスターが好機と捉えた声を上げ、2人の攻撃に気を取られている間に転送したソウガンブレードにエネトロンをチャージし、それをイカファイアに対してすれ違いざまに振るう。

 立ち上がる最中にあったイカファイアは碌な回避行動も取れず、その攻撃を直撃させる事になった。

 その刃は左腕の火炎放射器を見事に捉えていた。

 

 

「ガアァッ!!?」

 

 

 ソウガンブレードの一撃を左腕に受け、悶絶するような声を上げたイカファイア。

 攻撃の影響で火炎放射器からは煙が上がり、既にそれが故障しているのは火を見るよりも明らかだった。

 何より、それが体の一部分であるイカファイアにはそれが一瞬で分かってしまった。

 

 熱暴走を引き起こしかねない、自分にとっての天敵とも言える火炎放射器を潰したブルーバスターに他の2人も続く。

 空中から着地したイエローバスターはイチガンバスターのズームリングを回し、ピント部分を合わせる。

 それはイチガンバスター単体で必殺の一撃を放つ、その予備動作だ。

 一方でリュウガンオーもファイナルキーを取り出し、ゴウリュウガンに勢いよく装填する。

 

 

「ファイナルキー! 発動!!」

 

 ――――ファイナルブレイク――――

 

 ――――It’s time for buster!――――

 

「ドラゴンキャノン、発射ァ!!」

 

 

 リュウガンオーの宣言と共に、イエローバスターも同時に引き金を引いた。

 ゴウリュウガンから発射された龍のように唸る巨大な弾丸と、イチガンバスターから発射された特大ビーム。

 2つの強力かつ強烈な弾丸はイカファイアに容赦なく襲い掛かり、その体では受け切れない程のダメージを一瞬で与えるに至った。

 

 

「ファイ……アァァァァァァ……!!」

 

 

 攻撃を受けた後のイカファイアは断末魔と共に後ろに倒れ込み、爆散。

 火炎放射を使う為の燃料を背負っていた事もあってか、爆風と熱気は今まで倒してきたメタロイド等の爆発よりも強烈だ。

 爆発の勢いに思わず、3人は腕で顔を覆った。

 そして爆風をやり過ごした後、リュウガンオーは改めてゴウリュウガンを構え直し、敵を倒した時の『決め台詞』を呟いた。

 

 

「ジ・エンド……」

 

「削除完了! ってね」

 

 

 同時にイエローバスターもゴーバスターズ特有の、敵を倒したという宣言を年相応の口調で口にした。

 

 

「それにしても、すっごい爆発だったね……。リュウさん?」

 

 

 爆発と爆風が収まった後、イエローバスターはブルーバスターに駆け寄る。

 ブルーバスターが暴走しないで終わった事に胸を撫で下ろしているのだ。

 だが、ブルーバスターから返答が一切ない。

 返答どころか、声に対しての反応も。

 

 

「? ……リュウさん?」

 

「……っせぇ」

 

 

 クエスチョンマークを浮かべるイエローバスターに対し、漸く何かを口に出した。

 しかし小声過ぎてよく聞こえない。

 もう一度リュウジの名前を呼ぶイエローバスターだったのだが――――。

 

 

「うるっせぇぇぇぇ!!」

 

 

 返答は怒号と剛腕の一振りによってなされた。

 反射的に避ける事が出来たイエローバスターだが、ブルーバスターのパワーから繰り出される一撃を食らっていたら只では済まなかっただろう。

 

 

「お、おい!?」

 

 

 その光景を見ていたリュウガンオーも流石に焦った。

 突然、普段は温和なリュウジからは考えられない叫びが飛んできたのだから誰だって驚く。

 

 

「嘘ッ!? まさかリュウさん……!?」

 

「あァッ!? うっせぇっつってんだろうがよォ!!」

 

 

 再び振り下ろされるブルーバスターの攻撃を思い切り後方に飛んで躱すイエローバスター。

 今のブルーバスターは明らかに異常だ。

 体からは白い煙、熱気が常に放出され、声は電子音声のようにくぐもり、極めて凶暴な性格に豹変している。

 これが示している事はたった1つだった。

 

 

「熱暴走ってやつか……?」

 

「うん……。多分、さっきの爆発がきっかけかも……」

 

 

 先程の爆発は普通のメタロイドや怪人の爆発よりも熱気に溢れていた。

 イカファイアが抱えていた燃料によるものだろう。

 しかも最初の炎や、イカファイアが常に出していた炎のせいで辺りの温度も上がっている。

 攻撃を避けるにしても加えるにしても動く事が強要されて、体を動かした事による温度の上昇もあっただろう。

 体温が上がる要因は腐るほど考え付く。

 そしてそれだけ要因がある中での爆発による熱気。

 それがトリガーになってしまったのだろう。

 

 未だ残っていた僅かな生き残りの戦闘員達、特に遣い魔は何事かとおろおろとしている。

 一方でヴァグラス出身のバグラーはこれを好機と見たのか、熱暴走するブルーバスターを無視して2人に向かってきた。

 半ばそれに釣られるように遣い魔もそれに続く。

 戦闘員達の相手はそこまで苦ではない。

 ただ、状況が非常に面倒だった。

 

 

「テメェら邪魔なんだよッ!!」

 

 

 イエローバスターとリュウガンオーに組み付いていた戦闘員達を無理矢理引っぺがし、乱暴に地面に叩きつける。

 だがそれだけに留まらず、何とかブルーバスターを制止させようとする2人をも腕を強烈に振り回して寄せ付けない。

 今の状況、言うなればイエローバスター、リュウガンオーとブルーバスターと戦闘員達の三つ巴状態だった。

 

 戦闘員はともかく荒れ狂うブルーバスターは強敵だ。

 力が2人よりも強い上に、性格が豹変しているだけで明確に仲間であるというのだからタチが悪い。

 攻撃して止めようという考えが浮かぶ事はあるものの、それを実行に移そうとは思えないからだ。

 

 

(何とかリュウジを止めないと……!)

 

 

 ブルーバスターの攻撃対象には止めようとする2人も入っている。

 それにこのままでは何時までたってもデュランダル防衛の増援に向かえない。

 何時かは勝手に止まるとはいえ、それを待っているような時間は無いのだ。

 

 止める方法は何かないのか、リュウガンオーは考える。

 熱暴走というキーワードから、恐らくは冷やせば止まるであろうという事はすぐに考え付いた。

 だが、その冷やす手段がない。

 リュウケンドーがいてくれればアクアリュウケンドーという手もあるのだが、生憎とリュウガンオーにアクアモードに相当する力は無い。

 やはり攻撃して止めるしかないのか、ゴウリュウガンを構えなおすリュウガンオー。

 

 その時だ、何処からか轟音が響き渡ったのは。

 

 

「おおぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 ロケットの噴射のような音と共に、何者かの叫びが木霊す。

 轟音と叫びは徐々にこの戦場に向けて近づき、最終的にはその音の主が上空より降って来た。

 右手にオレンジ色のロケットを携えているが、着地した『彼』はそれを解除した。

 そして埃を払う様に膝の辺りを軽く叩いた後、顔を上げ、右手を前方に伸ばして見せた。

 

 

「仮面ライダーフォーゼ! 助太刀させてもらうぜ!」

 

 

 どう解釈した物か、唐突かつ突然な乱入者が口走った言葉。

 大きく発声されたそれに、イエローバスターとリュウガンオーだけでなく、暴走中のブルーバスターも柄の悪い反応を見せた。

 

 

「あァッ!?」

 

 

 フォーゼはそんな態度にも動じる様子は無い。

 というかむしろ、その態度と状況に対して首を傾げていた。

 

 

「あ? 青いのと黄色いのはゴーバスターズ……だよな? 何か……喧嘩でもしてんのか?」

 

 

 フォーゼが視界に収める状況を説明すると、戦闘員達と戦いながらもブルーバスターの暴走を止めようとするイエローバスターが、ブルーバスターからうざったそうに振り払われている、というものだ。

 ともすれば青と黄色が争っているようにすら見える。

 青が一方的に、だが。

 

 

「おい、お前は?」

 

 

 後ろからフォーゼに肩を置き、リュウガンオーが訪ねた。

 大ショッカー、ヴァグラス、ジャマンガ、ノイズと来て、さらによく分からない存在の出現は警戒に値するものだ。

 例え、仮面ライダーと名乗っていたとしてもだ。

 疑うような声にもフォーゼは正面から堂々と答えてみせた。

 

 

「俺は仮面ライダーフォーゼ。あんたらの助っ人に来たんだけど……」

 

 

 リュウガンオーに正面切って答えた後、ちらりと2人のバスターズを見やる。

 

 

「どうしたんだ? あれって両方ともゴーバスターズ……だよな?」

 

「ああ。実はリュウジ……青い方が暴走してるんだ」

 

 

 暴走という言葉にフォーゼは首を傾げる。

 

 

「どういう事だ?」

 

「詳しくは省くが、アイツは熱暴走ってのを起こすとあんな風に豹変するんだ」

 

「へぇ……止めねぇのか?」

 

 

 止められるものならとっくに止めている、そう言おうとした時、リュウガンオーはふと、閃いた。

 彼は仮面ライダーと名乗っていた。

 リュウガンオーの知るライダー、ディケイドは多種多様な能力を持っていた。

 では、このライダーにもそれと同じように色んな力があるのではないか?

 もしかしたら、氷や水の力を持っている可能性も十分にあるのではないか?

 

 

「……そうだ、フォーゼ……だったな。氷か水を使う事は出来るか?」

 

「氷に水? ああ、一応できるけど……」

 

 

 言いつつ、フォーゼは2つのスイッチを取り出した。

 片方は×型、つまり右足の装備、ナンバリングは32番の『フリーズスイッチ』。

 もう片方は三角型、左足の装備、ナンバリングは23番の『ウォータースイッチ』だ。

 フリーズスイッチはダイヤルを回転させるタイプのスイッチ、ウォータースイッチは蛇口のハンドルそのものなスイッチだ。

 

 

「なら、それを使って青い奴を冷やしてくれ」

 

「え……いいのか?」

 

「ああ。アイツは熱で暴走してる。逆に言えば冷やせば止まるって事だ」

 

 

 確信しているかのように言っているが、リュウガンオーに確証はない。

 だが、熱暴走にならないための予防策が『体を冷やす事』で、体中の熱気のせいで暴走しているのなら、冷やしてしまえばいいというのは道理だ。

 仮に止まらなかったとしても余程の威力、それこそアクアリュウケンドーのファイナルブレイク並の威力で放たない限り氷や水なら大したダメージにもならないだろう。

 

 仕方ない事とはいえ味方に攻撃紛いの事をするのはやや気が引けるのか、フォーゼは戸惑いつつもベルトからランチャーとドリルのスイッチを引き抜き、それぞれフリーズとウォーターを装填した。

 

 

 ――――FREEZE!――――

 

 ――――WATER!――――

 

 

 次いで、フォーゼはその2つのスイッチをオンにした。

 

 

 ――――FREEZE ON――――

 

 ――――WATER ON――――

 

 

 フォーゼの右足に四角い、まるで冷蔵庫のようなモジュールが、左足にはそのものズバリ蛇口のモジュールが展開する。

 冷蔵庫はフリーズモジュール、その名の通り冷気を発生させる。

 蛇口はウォーターモジュール、見た目通りに水を出す。

 

 

「これで、冷やせばいいんだな?行くぜ!」

 

 

 一応の確認を取った後、ブルーバスターに左足の裏を向けるように足を上げる。

 ウォーターモジュールは蛇口から水が出る様に水を出す。

 が、本物の蛇口宜しく、出る口が下を向いているので足を上げなくては水を相手に当てる事が出来ないのだ。

 弦太朗ですら最初は首を傾げたモジュールだったが、威力を高めて発射すれば戦闘員程度は倒せるほどの高威力を叩きだせる馬鹿にならない装備だ。

 

 足を上げたフォーゼ、それに合わせてウォーターモジュールの蛇口がブルーバスターに向かい、勢いよく発射された水はブルーバスターに当たった。

 

 

「何だ、この……ッ!!」

 

 

 水の噴射の中でもがくブルーバスターだが、水の勢いが強すぎて抵抗が出来ない。

 力任せに振り払おうとしても、相手は掴みようのない水だ。

 むしろ抵抗しようともがくせいで体中に水を食らい、良い様に冷却が進んですらいる。

 

 

「っしゃ、次はこいつだ!」

 

 

 フォーゼは水の噴射を止めると同時に左足を下げ、今度は右足を一歩前に出した。

 すると冷蔵庫の蓋が開き、中から凄まじい冷気が飛び出す。

 冷蔵庫を開くと冷えた空気が外にも流れ出すが、これはそれを壮絶に強化したものと言ったところか。

 見た目は冷蔵庫だが冷却機能は冷凍庫以上。

 さらに言えばブルーバスターは既に水を食らい、体に水分が付着している。

 冷凍庫以上の冷却は水分を見る見るうちに凍らせ、ブルーバスターの体のあちこちを凍り付かせた。

 しかしブルーバスターが味方である以上、完全に凍らせるわけにもいかない。

 フォーゼは頃合いを見てフリーズモジュールを停止させた。

 

 

「こ……の……」

 

 

 乱暴な言葉を吐こうとしたのだろうが、既に覇気は微塵も感じられない。

 体からは煙が上がっている。

 煙というよりは馬鹿みたいに熱い物体に水をかけた時のような、要するに水蒸気だが。

 ブルーバスターはやがて動きを止め、変身が解けるとともにその場に倒れた。

 その顔は眠っているかのように穏やかである。

 

 

「……どうだ?」

 

 

 スイッチを切り、モジュールを解除したフォーゼは恐る恐ると言った感じで倒れたリュウジを見やる。

 先程まで暴れていた人間とは思えぬほど大人しくなった。

 どうやら冷却の効き目はあったようだ。

 リュウジの暴走が止まりホッと胸を撫で下ろしたイエローバスターは辺りの戦闘員達を軽く掃討し始めた。

 リュウガンオーも「よし」と頷き、残りの戦闘員を正確な射撃で1人残らず撃ち倒していく。

 

 フォーゼが介入しようとするよりも早く、本当に僅かであった戦闘員達は2人の前に全滅。

 この場の戦いは一先ず収まった形となるのだった。

 リュウガンオーはゴウリュウガンをモバイルモードにして腰に装着。

 武器を持たぬ状態でフォーゼの方に向いた。

 

 

「ありがとな、助かった」

 

「いいって事よ。……まあ、ちょっと考えてた状況と違ったけどな」

 

 

 ちらりとリュウジを見て仮面の中で苦笑いするフォーゼ。

 本当なら『苦戦する戦士の前に降り立って颯爽と敵を倒す!』ぐらいの勢いだったのだが、まさか仲間の暴走を止める役回りになるとは思っていなかった。

 勿論、仲間を助けられた事は喜ばしい事なのだが、想定外の事態に少し戸惑ったのも事実だ。

 

 

「でも、どうしよう? このままにしておくわけにもいかないし……」

 

 

 イエローバスターが2人の元に駆け寄りながら言った事は尤もだ。

 任務はまだ終わっていない。

 イエローバスターもリュウガンオーも、この先にいる響と了子と剣二の援護、及びデュランダルの護衛に回らなくてはならない。

 それに自分達よりも前に敵を足止めする為に別れたレッドバスターとディケイドの事もある。

 かといってリュウジをこのままにしてもおけない。

 最悪、生身の状態ではノイズに見つかって炭素転換されてしまうし、そうでなくとも戦場のど真ん中に寝ている人間を放っておくわけにもいかない。

 

 

「連絡して、風鳴司令のヘリに回収してもらうか」

 

 

 リュウガンオーの提案はこの場で最も確実な方法だろう。

 まさか特命部、特異災害対策機動部二課、S.H.O.Tのいずれかの基地まで運ぶために戻るわけにもいかないし、このままにしておくのも論外。

 ならば、人を回収できる乗り物に乗せておき、誰かに見ていてもらうのが一番だ。

 そうすると条件を満たすのは自ずと上空のヘリだけとなる。

 

 

「だったら、俺が運ぶぜ」

 

 

 フォーゼの言葉に他の2人が振り向く。

 

 

「あんた等はやる事があんだろ?俺もこの人を運んだら合流するから、先行けよ」

 

 

 腰に手を当てて得意気な口調で語るフォーゼ。

 明るさと若さが入り混じった口調の中に、頼もしさを感じさせた。

 突然現れたフォーゼを、ブルーバスターを止めてくれたとはいえ、安易に信じるのは危険かもしれない。

 だが敵ではない、そう感じさせる雰囲気が彼にはあった。

 リュウガンオーは少し考えた後、リュウジを彼に託す事に決めた。

 

 

「……すまない、頼めるか?」

 

「おう、任せといてくれ!」

 

 

 フォーゼはそうと決まれば善は急げ、とでも言うかのようにリュウジを左腕で担ぎ、右腕のモジュールを展開するスイッチを入れた。

 

 

 ――――ROCKET ON――――

 

 

 右腕に大きなロケットが装着され、見た目通りにエンジンが噴射したロケットモジュールはフォーゼとフォーゼに抱えられたリュウジを上空へと運んでいく。

 空高く舞い上がってヘリに向かって行くフォーゼを見送る2人。

 大丈夫そうであることを確認すると、2人の思考はリュウジとフォーゼの事から、任務の事に即座に切り替わった。

 

 

「よし……行くぜ、ヨーコちゃん」

 

「うん!」

 

 

 リュウガンオーはバスターウルフを召喚し、ウルフバイクに変形させて搭乗。

 イエローバスターは持ち前の脚力を活かして建物の屋上をまるで忍者のように跳び、渡っていく。

 

 この戦場こそ収まったものの、他の戦場はまだ、渦中の中にあるのだ。

 

 

 

 

 

 デュランダルの入ったケースを抱え、響は了子と共にひた走る。

 そんな2人を工場の建物、その上に立つネフシュタンの少女が見下ろしていた。

 ノイズを操り、確実に追い詰めている。

 だがその表情は険しいものだった。

 

 

(何でだ、何で……)

 

 

 彼女はヴァグラス、ジャマンガ、大ショッカーと手を組む事に納得がいっていないのだ。

 彼女には彼女自身のある『目的』がある。

 はっきり言うと、その目的を達成するにはヴァグラス、ジャマンガ、大ショッカーの存在はむしろ邪魔とすら言える。

 フィーネも自分の目的は知っているはずなのに、何故。

 そんな疑念が苛立ちとなって表情に現れているのだ。

 

 

(『目的の為なら、手段を問うよりも必要な事がある』ってフィーネは言った……)

 

 

 フィーネの言葉は理解できる。

 しかし納得がいっていないのだ。

 自分のしている事は正しいのか?果たして、あの連中と手を組む事は……。

 だが、既に行動を起こしてしまった今となっては後の祭り。

 いずれにしてもデュランダルを手に入れるという目的は果たさなくてはならないのだ。

 ネフシュタンの少女は思考を切り替え、デュランダルに意識を集中した。

 

 

(……いいさ、やってやるよッ!)

 

 

 今はただ、自分が為すべき事を。

 愚直なまでに終わりの名を信用している彼女は迷いを振り切った。

 僅かな疑念も捨て去って。

 

 

 

 

 

 薬品工場の爆発によるデュランダルの破損は敵にとっても喜ばしい事ではない。

 そういう理由もあってかノイズの攻撃はそこまで激しいものではなかった。

 とはいえノイズが脅威であることに変わりはなく、逆に言えば破損さえしなければどれ程攻撃を加えようと相手はお構いなし。

 対してデュランダルを『守る』側の響は圧倒的に不利だった。

 

 今回の任務において最重要なのはデュランダルの安否だ。

 作戦行動中のメンバーの安否も重要な事ではあるが、任務自体の中心はデュランダルである。

 故に、デュランダルに防衛戦力を割くのが正しい事だろう。

 しかし移送を妨害しようと怪人が出現した為に戦力の殆どがそちらに持ってかれてしまった。

 追ってくるかもしれない怪人を足止めする事も重要な事であり、それは仕方のない事だ。

 とはいえ現部隊の前線メンバーの中でも最年少且つ経験の浅い響が単独というのは些か厳しい面もあるだろう。

 

 当たり前だが、そんな事情を敵は考慮してくれない。

 まるで瞬間移動のように高速で体当たりを行うのがノイズの主な攻撃方法であり、一瞬でも遅れたらノイズの餌食になるだろう。

 容赦のないノイズの攻撃を必死に避ける響と了子だが、避けたノイズの攻撃が工場の一角に直撃した事による爆風で大きく吹き飛ぶ形になってしまった。

 

 

「きゃぁッ!!?」

 

 

 倒れ込む2人と、響の手から離れ、整備されたコンクリートの地面を滑るデュランダルのケース。

 こういった爆発による煙のせいで、この辺りの視界は益々悪くなっていく。

 響と了子の視界はともかく上空のヘリから目視する事が出来なくなっているのはこのためであり、一向に煙が収まる気配がないのは収まりかけた傍から別の場所が爆発しているからであった。

 

 何とか立ち上がる2人だが、容赦なくノイズの攻撃は続く。

 ノイズの波状攻撃は歌を歌う隙すら与えてもらえない。

 シンフォギアを纏うのは仮面ライダーやゴーバスターズのように一瞬ではなく、歌を歌うという手順を必ず踏まなくてはならない。

 歌を歌うという事は、確実に装着までに数秒の時間が必要であるという事だ。

 ノイズ相手に響はシンフォギアを纏わないのではなく、纏えない状況にあった。

 このままでは、そう思った矢先だった。

 

 

「……?」

 

 

 ノイズが再び高速移動に入ったものの、何時まで経っても攻撃が来ない。

 そして、目の前の光景に小首を傾げる響。

 響は目の前で起きている異常事態に目を丸くした。

 

 一介の研究者でしかない筈の櫻井了子が、右手から響までカバーできるほどの紫色の防壁を出し、ノイズの攻撃をせき止めていたのだ。

 

 

「了子、さん……?」

 

 

 思わぬ状況に動揺したのか、たどたどしく名を呟く響。

 ノイズ達は防壁にぶち当たると炭となって消えていく。

 防壁に当たった際の衝撃や風圧だけは了子にも伝わっているのか、髪留めや眼鏡が吹き飛び、了子の纏めてあった髪の毛は本来の長くストレートな姿となった。

 眼鏡が外れた事も相まって普段とは違う印象を受ける横顔を響は見つめた。

 

 

「しょうがないわね! 貴女のやりたい事を、やりたいようにやりなさい!」

 

 

 防壁を張りつつも笑みを浮かべながら響に語り掛ける了子。

 その言葉に響は立ち上がった。

 了子がこんな力を使えるのは、きっと弦十郎が恐るべき力を持っているのと同じような理屈なのだろうと響は自分を納得させる。

 そして防壁に激突を続けながらも減る様子のないノイズ達を見据えた。

 

 

「私、歌いますッ!」

 

 

 その目は既に、『巻き込まれた少女』ではなく、『1人の戦士』としての風格すら感じさせる決意の瞳。

 正真正銘自分の意思で、自分が守りたいと思ったもの、自分がやりたいと思った事を本気で貫くために。

 そうして響の口は、『歌』を歌いあげた。

 

 体に装着されていく鎧、未だ手にできないアームドギア。

 しかし、弦十郎や士との特訓を経た響自身の力は確かに上がっている。

 

 

 ――――私ト云ウ 音響キ ソノ先ニ――――

 

 

 ギアより流れる曲を歌い上げつつ、響は構える。

 ノイズによる高速突進による攻撃を最小限の動きで躱すも、ギアの靴部分にあるヒールが工場に張り巡らされているパイプの1本に引っかかってしまい、やや間抜けにもすっ転んでしまった。

 予想外の出来事だったがすぐさま立ち上がる響はパイプに引っかかったヒール、そして今までの練習を思い返した。

 

 今までの練習は動きやすい服、動きやすい靴で行っていた。

 ディケイドとの模擬戦においても練習場は整備された地面であり、ヒールがあっても特に問題にはならなかった。

 しかし実戦はありとあらゆる地形が想定できる。

 凸凹とした地形、木の根が張り巡らされている森林、今のような工場地帯……。

 それを考えると、今のように引っかかりかねないヒールは不要と言える。

 

 

(ヒールが邪魔だ……!)

 

 

 響は両足の裏を斜めに打ち付け、ヒール部分をわざと分離した。

 ヒールをパージし、両の足でしっかりと地面を踏みしめた響は再び構えた。

 今までのように適当なそれではなく、どんな攻撃が来ても対応し、どんな攻撃でも繰り出せる、弦十郎直伝の構えだ。

 

 1体のノイズが急速接近するのを見極め、1歩進みでて地面をしっかりと踏みしめつつ、右手を打ち付ける。

 次の瞬間、ノイズは背中から弾け飛んだ。

 拳を置くだけという最小限の動きからの特大の衝撃。

 所謂寸勁というやつで、威力は折り紙付きだ。

 ノイズとの戦いにおいて1対1は基本的にあり得ず、多対1である事が専らだ。

 動きが小さく威力が高いこの技、というよりも響が学んだ動きは対ノイズ戦に置いて理想的なものであると言えるだろう。

 その後も押し寄せるノイズを響は的確に、自身が学んだ型を活かして確実に仕留めていく。

 

 弦十郎から習った事だけでなく、それを使っての応用を利かせている事を響自身も気づいていない。

 ディケイドとの実戦訓練は響が習った事を試す機会となり、響に経験値を積ませていた。

 その経験が応用を自然と出せる、自然と判断できるレベルにまで響を押し上げていた。

 この光景を弦十郎が見れば『粗がある』とか、『まだまだ未熟』というかもしれない。

 実際、訓練を積んできたゴーバスターズや実戦経験の差がある仮面ライダーや魔弾戦士には敵わないだろう。

 だが、その差は最初に比べれば格段に縮まり、響の成長が目覚ましいのも事実であった。

 

 響の一撃はノイズを砕き、攻撃は紙一重で躱す。

 紙一重であった攻撃にも一切の怯みを見せず、むしろギリギリで躱したからこそ、次の反撃を活かす一撃を見舞う。

 力を籠めて足に踏ん張りを効かせるたび地面が砕け、振るわれた四肢はノイズを仕留める。

 既に響の実力は素人のそれを完全に脱却していた。

 

 何より、その響の実力に目を見張っていたのはネフシュタンの少女であった。

 

 

「コイツ、戦えるようになっているのか……!?」

 

 

 建物の上で響の戦いぶりを見ていたネフシュタンの少女も驚きを隠せないでいる。

 脅威でないと思っていた、確実に問題が無い素人としか思っていなかった。

 前回の戦いの時点では、立花響というシンフォギア装者は無視できるレベルだった。

 それがどうした事だ、響は女性だが『男子三日会わざれば刮目して見よ』という言葉を体現しているかのように見違えた動きをしている。

 その動き、その力は既に『戦力』と考えても差し支えない程だ。

 シンフォギアを除くディケイド以外の戦士達はノイズにまともに対応できない。

 さらにディケイドは怪人と戦っている。

 では、残るは素人装者1人と高を括っていたのだが、その考えは一瞬でひっくり返されてしまった。

 

 味方である了子ですら、その戦いぶりに驚いている様子を見せている。

 そしてもう1人、ネフシュタンの少女にも了子にも響にも気取られる事なく、その光景を見つめる戦士がいた。

 

 

「へぇ、あんなものもあるんだ」

 

 

 青い――本当のところはシアンらしいが――戦士、仮面ライダーディエンドだ。

 彼もこの世界に来て情報収集を色々と行ったのだが、機密として外部に漏れていないシンフォギアの事までは知らなかった。

 海東大樹は各世界の事を知る情報通な一面を持っていたが、この世界は知らない事の方が多い。

 仮面ライダーやゴーバスターズはともかく、魔弾戦士やシンフォギアという存在はあまり耳にした事が無い。

 だが、だからこそというべきか、海東はワクワクしていた。

 自分の知らない戦士がいるという事は、自分の知らないお宝が未だ存在するという事だ。

 コソ泥、もとい、トレジャーハンターとしての性なのか、まだ見ぬお宝に思いを馳せているのだ。

 

 ディエンドは響ではなく、響の纏う鎧に着目していた。

 歌を歌った直後に身に纏った鎧、そこから察するに歌を変身のトリガーにする力なのだろう。

 シンフォギアや聖遺物といった専門用語を知る由もないディエンドだが、ただ1つ、あれが自分の考える『お宝』というカテゴリに合致するという事だけは分かった。

 そしてそんなお宝を使って防衛しなければならないほどの物が、了子の近くに落ちているケースの中には入っているのだろう。

 

 

「お宝にも期待できそうだ」

 

 

 彼は自慢の銃を携えながら、軽い足取りで戦場に足を踏み入れようとした。

 しかし――――――。

 

 

「……おっと」

 

 

 ディエンドが思わず足を止めて見つめた光景。

 それは自分が今まさに向かわんとしたケースの中から、石のような折れた剣がひとりでに宙を舞い、空中に静止している、というものであった。

 

 

 

 

 

 

 

「覚醒……起動ッ!?」

 

 

 デュランダルが突如としてケースを突き破って空中に静止した。

 それは即ち、デュランダルの起動を意味していた。

 完全聖遺物の起動にはそれ相応のフォニックゲインが必要である。

 

 例えばネフシュタンの鎧であれば『ライブ会場にてツヴァイウイングの2人が歌い、それにプラス観客から発生するフォニックゲインを合わせる』という大多数の人間が関わって漸く起動するというものだった。

 それを1人で起動させるとなると相当量のフォニックゲインが必要となる。

 2年前のライブから鍛錬を積んだ翼でも『起動できるかもしれない』と可能性の域を出なかったほどだ。

 この場で歌を歌い、フォニックゲインを発生させているのは立花響1人。

 その状況下の中でデュランダルが起動したという事は、立花響は単独による完全聖遺物の起動をやってのけたという事になる。

 了子の驚きの理由はそれであった。

 流石に『移送中にデュランダルの起動』までは想定外だったのだ。

 

 ともかくとして起動してしまった事で外に飛び出たデュランダルはネフシュタンの少女にとってもそれを奪う絶好の機会となった。

 

 

「ハン! デュランダルともども、今日こそ物にしてやるッ!!」

 

 

 ノイズに任せて傍観を決め込んでいたネフシュタンの少女は建物から跳び上がり、ノイズの相手をする響に飛び蹴りをかました。

 咄嗟の事への反応が出来ず、経験の差も如実に表れたのか、それをまともに頬に受けてしまう響。

 頬を通して顔面に走る痛みに耐えつつ、吹き飛ばされながらも響はネフシュタンの少女から目を逸らさない。

 吹き飛び、地面に激突した響は壊れたコンクリートの破片を振り払いすぐさま起き上がる。

 

 

(まだダメなんだ、アームドギアはどうしたら……ッ!)

 

 

 自分が強くなったことは響自身も実感していた。

 だが、未熟なのも痛感していた。

 未だアームドギアが顕現しないことが未熟である事の証明だと響は考えている。

 ガングニールは槍の聖遺物。

 2年前のライブの日、天羽奏が纏っていたガングニールは確かに槍を携えていた。

 響の目にもそれは焼き付いている。

 だから余計に思うのだ、どうしたらガングニールを使いこなせるのかと。

 

 だがそれを考える時間をネフシュタンの少女も与えてはくれない。

 ネフシュタンの少女は鎧から薄紫色の茨のような鎖を放った。

 先の言葉からデュランダル奪取以外に『響を捕まえる』という目的も依然生きているようで、響の体力を削ぐつもりなのだろう。

 直線的に飛んでくる茨を響は跳び上がる事で避けるものの、ネフシュタンの少女は前方に走り込みつつ茨を轢き戻し、再び放つ。

 

 

「ッ!?」

 

 

 跳び上がって着地した直後の響は身動きが取れず、茨を躱すのが精一杯だった。

 前方に走り込む事でリーチを詰め、近距離からの茨に反応できなかったのだ。

 躱しはするものの、茨は響の体を掠め、鋭い痛みを与えた。

 

 一方、戦いとデュランダルを傍観する了子。

 

 

「中々やるね、どっちも」

 

 

 呆然か、もしくは傍観に集中していたのか。

 とにかく他に意識が向いていなかった了子は、後方から出し抜けに響いた声に驚きつつ振り返った。

 見れば異形、幾つものプレートが鎧となり、右手には銃。

 体は黒とシアンで色付けされた戦士が悠々と立っていた。

 

 

「貴方は……」

 

「通りすがりの仮面ライダーってとこかな」

 

 

 通りすがりの仮面ライダーという言葉は士が自分を自称する時の言葉だ。

 了子は今の言葉で目の前の仮面ライダーが士と何らかの関係にある事を察する。

 よく見ればディケイドと似ている部分も幾つか散見されたのも、その考えに拍車をかけた。

 

 

「さてと、じゃああの2人が小競り合ってるうちに、あの剣は僕が頂くよ」

 

「ちょっ……貴方、仮面ライダーなんでしょ?」

 

「そうだよ?」

 

 

 突然の火事場泥棒宣言に了子も目を丸くした。

 対してディエンドは飄々と了子の口をついて出た質問に答えて見せる。

 了子の思い描く仮面ライダーとは、この場で響の味方をする存在。

 だが、ディエンドの語るそれは味方どころか敵対に近い。

 了子は少し後ろに下がり、ディエンドから距離を取った。

 今の言葉は十分に警戒に値するものだ。

 少なくとも狙いがデュランダルである以上、味方という考えは無くなった。

 警戒する了子の目は鋭くディエンドを捉え、向けられたディエンドはおちょくる様に肩をすくめる。

 

 響とネフシュタンの少女の戦いも激化し、爆発の音が響く中、了子とディエンドの間には逆に静寂が漂っていた。

 警戒と睨み合いによるその空気。

 その空気に水を差したのは、爆発の音とは違うエンジンの排気音だった。

 

 

「おっと……もう追いついてきたのかい?」

 

 

 エンジンの排気音がする方向を見たディエンドは呆れるような声を出した。

 排気音の正体はバイク、マシンディケイダーのもの。

 ディエンドを追って仮面ライダーディケイドが到着したのだ。

 マシンディケイダーを止めて降りたディケイドは庇う様に了子の前に立ち、ディエンドと睨み合う形になった。

 

 

「間に合ったか。櫻井、大丈夫だろうな」

 

「え、ええ……。この仮面ライダー、何者?」

 

 

 了子の問いにディケイドは一瞬考え、その問いに答えられそうな言葉を並べた。

 

 

「コソ泥、盗っ人、火事場泥棒……好きなのを選べ」

 

「やれやれ、友情の加害者が被害者に送る言葉がそれかい?」

 

 

 極めて不愉快そうな雰囲気を纏いつつも押し黙るディケイド。

 会う度に言われる辺り、心底根に持っているらしい。

 確かに大樹が根に持っているそれは士が悪いので言い返しようがないのだが。

 第三者の了子にその言葉の意味は分からなかったが、どうやら因縁というか、この2人は奇妙な関係にある事を察した。しかも極めて面倒くさそうな。

 

 ディエンドの責めるような言葉をとりあえずスルーし、ディケイドは本題を切り出す。

 

 

「とにかく、お前にデュランダルは渡さない」

 

「へぇ、デュランダルって言うんだ。絶対に頂くよ」

 

 

 ディエンドの返答は想像の範囲内どころか、そういう返答になるだろうと予想すらできていた。

 ディケイドは辺りの様子も調べつつ、ディエンドにも注意を向ける。

 響はノイズとネフシュタンの少女と交戦中、ノイズはともかく、ネフシュタンの少女の力量は響以上のようで、苦戦を強いられていた。

 了子は一般人、この場で戦う力は無いだろう。

 デュランダルはどういうわけかケースを突き破って出てきた痕跡が見られた。

 何故そうなったかを聞く様な余裕はないだろう。

 そして、目の前にはデュランダルを狙う現状の敵、ディエンド。

 

 

(立花の方も何とかしないといけないが、海東が厄介だな……)

 

 

 状況を冷静に見極め、ディケイドはどのように動くべきかを考えた。

 後ろにいる了子は一先ず安全だろう。

 大樹は邪魔をする物になら銃を向ける事もあるが、逆に言えば邪魔さえしなければ銃は向けない。

 つまり、現状で銃を向ける対象はディケイドに対してのみだ。

 それに人殺しのような事はなんだかんだ言いつつもしないやつだ。

 ノイズの方もノイズを操る張本人であるネフシュタンの少女が響に気を取られている以上、こちらに来るという事は無いだろう。

 響がネフシュタンの少女を足止めしているのなら、自分が戦うべきはディエンド。

 そして早くどちらも倒し、デュランダルを保護しなくてはならない。

 

 ディケイドは溜息をついた。

 最初に出会った頃は勝負する事もあったが、旅も終わりになってくると完全に仲間となっていた。

 それが以前の仮面ライダーとスーパー戦隊を巻き込んだ壮絶な芝居で大樹を傷つけてしまったが故に、出会った最初期の頃のような、士としては非常に面倒な状態に戻ってしまった。

 まあ、それでもその頃よりかはマシなのは救いだが。

 

 それに裏切るような真似をしてしまったとはいえ、仲間意識があるのも事実。

 拳を向けるには気が引ける面もある。

 その2点がディケイドの溜息の理由だ。

 一方でディエンドは溜息をつくでもなく、銃をクルクルと回して非常に余裕そうな態度を取っている。

 

 

「僕の邪魔をするなら、容赦はしないよ?」

 

「今さらだな。前からいつもそんなんだったろ」

 

 

 軽口を叩きつつ、睨み合う2人。

 ディケイドはライドブッカーを銃の形にして右手に携え、ディエンドもまた、ディエンドライバーを回すのを止め、しっかりと握った。

 睨み合う2人はそのままの状態で横に1歩1歩進んでいく。

 了子を巻き込まないようにとディケイドが配慮した結果であり、ディエンドもそれに乗った形だ。

 そして、了子から十分離れたと判断した2人の銃が同時に相手に向けられた。

 

 銃声と共に、次元を渡る旅人と次元を渡る怪盗の勝負が始まったのだ。




――――次回予告――――
守りたいと握った拳は悪意の群れに放たれた。

守ることを忘れた剣は雷の前に跪く。

共に直進、直線なのは変わらず、諸刃である事も変わらない。

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