スーパーヒーロー作戦CS   作:ライフォギア

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第36話 悪意の群れ

 日も落ち、夕方から夜に差し掛かろうとしている時間。

 特異災害対策機動部二課本部ではミーティングが行われていた。

 広木防衛大臣から了子が受領した機密任務。

 その為の会議に集まっているのは士も含めた二課の全職員、及びゴーバスターズと魔弾戦士だ。

 全員、椅子に綺麗に並んで座り、中央の大型モニターと、それを基に説明する了子の話に耳を傾けていた。

 任務の内容は『デュランダル』の移送だ。

 デュランダルの移送理由、並びに作戦目的を説明する了子。

 

 

「リディアン音楽院。つまりは特異災害対策機動部二課本部を中心に頻発するノイズの発生は、本部最奥区画、アビスに厳重保管されているサクリストD、デュランダルの強奪目的であると、政府は結論付けました」

 

 

 真剣な面持ちで聞く面々を前に、了子は「分からない人の為に説明するわね」と一言添えて、デュランダルについての説明を始めた。

 

 

「デュランダルとは、EU連合が経済破綻した際、不良債権の一部肩代わりを条件に日本政府が管理、保管する事になった、数少ない完全聖遺物よ」

 

 

 担保とでも言えばいいのか、とにかく完全聖遺物にはそれだけの価値があると日本が判断したためだ。

 それだけのリスクを持って手に入れた完全聖遺物だ。

 力の危険性もそうだが、価値としてもデュランダルを狙われては日本としては堪ったものではない。

 その為の移送任務である。

 

 

「ですが、移送と言っても何処にですか? 此処以上の防衛システムなんて……」

 

 

 会議に当然の事ながら出席しているオペレーターの朔也が、手を挙げて疑問を呈した。

 二課本部の防衛システムはかなり厳重だ。

 何より、デュランダルが保管されているアビスという場所は、その中でも一番厳重で、二課本部の地下深く。

 その深さ、何と東京スカイタワー3本分の地下1800m。

 アビスよりも安全な場所など、世界中を探してもあるかないか、と言ったほどだ。

 朔也の質問には弦十郎が答える。

 

 

「永田町最深部の特別電算室、通称、『記憶の遺跡』。そこならば……という事だ」

 

 

 だが朔也の懸念も最もであると、弦十郎はフッと笑った。

 

 

「それに、俺達が木っ端役人である以上、お上の意向には逆らえないさ」

 

 

 移送するだけでも相当な危険性を孕んでいるのだ。

 弦十郎だって疑問に思い、大丈夫なのかと疑念も抱いた。

 が、記憶の遺跡は十分に厳重な場所だし、どちらにしてもこの機密任務を放り投げるわけにはいかない。

 嫌でも義務、仕方のない事なのかもしれない。

 軽い触れ込みの説明が終わったところで、今度はヒロムが手を挙げた。

 質問を許可した了子がそんなヒロムを指差す。

 

 

「ノイズ以外の敵襲は起こると考えられますか?」

 

 

 デュランダル移送に関して、それを狙ってくるとなれば当然、ノイズを操っていたネフシュタンの少女だろう。

 ヒロムが危惧しているのはヴァグラスやジャマンガ等、他の組織からの襲撃。

 弦十郎は顎に手を当てた。

 

 

「なくはない、としか言えない。ヴァグラスとジャマンガが手を組んだように、ノイズを操る者が何かと手を組んだのなら……」

 

 

 語るのはあくまでも可能性だ。

 手を組んでいるかもしれないし、組んでいないかもしれない。

 確かめる術は一切ないのだ。

 最悪のシナリオとしては、今回の移送を邪魔する為に現在確認されている敵性勢力が総出で出てくる事だ。

 そうなればこちらも総出で当たるしかない。

 

 

「士君の報告にあった、大ショッカーの件もある。何処のどんな敵性勢力が襲ってくるかもわからん」

 

 

 腕を組み深刻な表情を作る弦十郎。

 既に士から大ショッカーの報告は受けており、情報を集めた二課によってその存在は確認されている。

 もしもこの大ショッカーも何処かの組織と手を組んでいたら?

 あまり考えたくはない話ではあるのだが。

 

 

「いずれにせよ、移送自体は決定事項だ。腹を括るしかない。厳しい任務になるかもしれないが、頼む」

 

 

 弦十郎の言葉にその場の全員が頷いた。

 特に剣二は闘志を燃やし、開いた左手に右手を打ち付けている。

 

 

「何が来ようと、ぶっ飛ばすだけだぜ!」

 

 

 あまり深く考えない剣二の言葉に銃四郎は顔を顰めた。

 

 

「あまり簡単に言うな。物が物だけに、敵が多い可能性だってあるんだぞ」

 

 

 一瞬「うっ」と怯む剣二だが、いつものように生意気小僧は食って掛かった。

 

 

「でもよぉ、どっちにしても倒すしかないんだろ? やるしかねぇじゃねぇかよ!」

 

 

 猪突猛進、ともすれば暴走にも近い一直線振りだが、剣二の言う事はある種、的を射ている。

 どちらにせよデュランダルを狙ってくるのならそれを倒すしかないのは道理なのだ。

 溜息をついて呆れつつ、銃四郎も内心、それには賛同していた。

 倒すべき敵が来たら倒し、守るべきものを守る。

 それは魔弾戦士だけではない。

 この場の誰にとってもいつもの事なのである。

 

 説明終了と共に、集まっていた二課職員達とゴーバスターズ、魔弾戦士達は一旦、散り散りに分かれた。

 真剣な面持ちの者、少し不安げな表情の者、やる気に満ち溢れている者と様々だ。

 それぞれが移送の準備に取り掛かる中、士だけが弦十郎の方へと向かっていた。

 

 

「おい、弦十郎のオッサン」

 

「ん? どうした」

 

 

 傍から聞けば失礼な呼び方だが、この礼儀とか敬語のような存在を完全無視するのが門矢士のスタイル。

 それにそんな事にいちいち突っかかるほど弦十郎の器量は狭くはない。

 この場の誰もが移送に向けての準備をする中、士は弦十郎に伝えねばならない事があった。

 

 

「大ショッカーの件と一緒に報告した、仮面ライダーの件。覚えてるな?」

 

「ん? ああ、こちらに協力してくれるかもしれないという、仮面ライダーの話だな」

 

 

 以前に会った仮面ライダー、Wの事について士は大ショッカーの事と同じく報告をしてあった。

 勿論、何処の誰がWに変身しているかは二課側には言っていないし、機密事項であるシンフォギアの事はW側に説明していない。

 ただ、Wというライダーが協力してくれるかもしれないという事を弦十郎には伝え、Wにはゴーバスターズと同じ組織にいるという事だけを伝えてある。

 機密や隠し事を漏洩するほど、士も状況が理解できない人間ではないのだ。

 

 弦十郎、二課側としても、多くの敵対組織と相対するなかで仮面ライダーが1人でも協力してくれるという事実は心強い。

 仮面ライダーというのは基本的に正体不明であるが、これまで一緒にいた士のお墨付きなら大丈夫だろうと弦十郎は考えている。

 

 

「その仮面ライダーが、どうかしたのか?」

 

 

 協力する事をその仮面ライダーは迷っているという話も士から聞いていた。

 だが、此処にきて何故その仮面ライダーの話題を持ち出すのか。

 疑問符を浮かべる弦十郎の目の前で、士は自分の携帯を取り出してニヤリと笑った。

 

 

「いいタイミングだったかもな」

 

 

 

 

 

 

 

 予定移送日時は明朝05:00。

 それまで二課の隊員はそれぞれの持ち場に、ゴーバスターズ等の実働部隊は二課から与えられた部屋で一晩泊まり込み。

 翌朝には激しい戦いが起こるかもしれないと、じっくり体を休める為だ。

 

 そんな中で響は寝付けずにいた。

 実戦になった時、上手く戦えずにみんなの足を引っ張るのではないかという不安。

 未来に何処に行くかも告げず飛び出してきてしまい、隠し事をしている後ろめたさ。

 今頃、翼は大丈夫なのだろうかという心配。

 日常、非日常の両方から負の感情が襲い掛かり、眠気すらも弾いてしまっている。

 響は二課の廊下途中にあるソファーとテーブル、自販機が用意されている簡易的な休憩スペースに座り込んでいた。

 

 

「……ハァ」

 

 

 溜息をついた拍子に下を見やると、テーブルの上に新聞が置いてあるのを見つけた。

 特にする事も無い響は何の気もなくその新聞を開いた。

 次の瞬間、女性が下着姿で誘惑するように四つん這いのポーズをしている写真が目に飛び込む。

 どうやら、誰かは分からぬがこの新聞を此処に置いた人物はそういうのを目的にしていたのだと響は一瞬で察し、そして勢いよく、慌てて目を逸らした。

 

 

「お、男の人って、こういうのとか、スケベ本とか好きだよねっ……」

 

 

 ふと頭に浮かぶのは士を含む二課の面々や、剣二達やヒロム達の顔。

 女の自分には分からないが、彼等もやはりこういうのに興味があるのだろうか。

 士やヒロムにそういうイメージは無い、むしろそんなキャラじゃないと思う。

 しかし失礼ながら、剣二は何となくこういうのが好きそうだと思った。

 それを思わせるのは偏に普段の態度や性格か。

 

 

「何やってんだ?」

 

 

 と、内心そんな事を考えていたら、響は唐突に声をかけられた。

 声の主は噂の剣二。

 噂をすれば影が差すと言うが、それは心の中で思うだけでも成立するらしい。

 

 

「け、剣二さん!?」

 

「何だぁ? 何そんなに驚いてんだよ」

 

「い、いえ! 何でもないですよ、ハハハ……」

 

 

 苦笑いをしながら咄嗟に新聞を畳み、平静を装う。

 装いきれていないが、剣二はその態度を少しだけ気にしつつも、特に深くは考えていないようだった。

 まさか「剣二さんってスケベ本好きそうだな」、なんて失礼な事を考えていたとは言えない。

 まかり間違っても女性が男性に言う言葉ではない。

 響は苦笑いのまま話題を逸らす事にした。

 

 

「け、剣二さんは、どうしたんですか?」

 

「いや、素振りでもすっかなって」

 

「素振り……ですか?」

 

 

 その割に剣二は剣とか棒の類を持っていない。

 疑問に思った響の目に、モバイルモードで腰に付けられているゲキリュウケンが目に留まった。

 そこで響はゲキリュウケンを使って素振りをするつもりなのだろうと納得する。

 

 

「何か寝付けなくてよ。そういう響はどうしたんだよ?」

 

「あはは、私も何だか寝れなくて。……色々、不安で」

 

 

 響の言う不安が何か、剣二には分からない。

 剣二の性格は不安という感情とそこまで縁が無い。

 しかし想像は何となくできた。

 魔弾戦士になって日が浅い剣二だが、響はそれ以上に日が浅く、素人だ。

 色々と思う所もあるのだろうと察する程度はできた。

 

 

「やっぱ、戦いとか翼の事とか、そんなんか?」

 

「……はい」

 

「何とかなるって。大丈夫だろ」

 

 

 特に深く考えず、剣二はそう言った。

 不安と無縁だからこその言葉だし、剣二にとって言葉以上の意味は無い。

 だが、この場に銃四郎がいたら「もう少しかける言葉があるだろう」と苦言を呈してくる事だろう。

 実際、剣二の相棒は苦言を発してきた。

 

 

『剣二、お前と違って響は女性で高校生だ。あまり無神経な事を言うんじゃない』

 

「何だよゲキリュウケン。別に変な事は言ってねぇだろ」

 

『少しくらい考えろと言っているんだ』

 

 

 前線で戦うメンバーの中で響は最年少だ。

 士やヒロム、リュウジ、剣二、銃四郎はとっくに成人しているし、年齢の近いヨーコも1歳年上、しかも幼い頃から訓練をしてきてプロフェッショナルと言ってもいい。

 二課や特命部への立ち入りは許可されていないが、マサトに至っては黒木や弦十郎と年齢が近い。

 結局、この部隊の中で実戦経験が浅く、年齢も一番下なのは響という事になる。

 そんな響が不安を抱くのは当然だとゲキリュウケンは考えた。

 故に、相棒に文句を言ったのだ。

 不安を和らげてやるような事ぐらい言ってやれと。

 が、剣二の性格上、そんな事はどだい無理な事も承知してはいるのだが。

 

 

「あの、私は大丈夫ですから。ありがとうございます、ゲキリュウケンさん」

 

『む……そうか』

 

「ほら、本人も大丈夫って言ってんだ。大丈夫だろ?」

 

『お前な……』

 

 

 強がりをしているとか考えないのか、と内心思うゲキリュウケンであった。

 一方で響は、ボケとツッコミのような2人に対して苦笑いだ。

 その苦笑いにはもう1つ、自然にゲキリュウケンと会話をしていた自分にも向けられていた。

 剣と会話をする事が自然とできるようになった辺り、非日常にも随分と慣れてしまったのだと響は実感した。

 普通に生きていれば剣と会話する事なんて一生有り得なかっただろう。

 

 

「……あ」

 

 

 ふと、机に目を向けた響は小さく声を漏らした。

 机の上に置かれている自分で畳んだ新聞。

 新聞の丁度一面が上に来るようになっている。

 一面には響が見知った、今でも憧れている人がいつかのコンサートで歌っている写真が乗せられていた。

 

 

「翼さん……」

 

 

 新聞の内容は『風鳴翼 過労で入院』というものだった。

 翼は絶唱を口にし、重傷で今も入院している。

 事実を知る響にとって、記事には虚構の内容が書かれている事になる。

 

 

「情報操作も、僕の役目でして」

 

 

 未だに言い合う剣二とゲキリュウケンを余所に、翼の記事を気にしている響に声をかける男の声が1人。

 声の方向に目を向ければ、いつの間にか緒川慎次が近くにまできて、立っていた。

 

 

「翼さんですが、一番危険な状態を脱しました」

 

 

 慎次が笑顔で語る報告に響の顔も明るくなった。

 翼が入院して以降の事はあまり聞かされておらず、此処の所忙しかったのも手伝って知る機会が無かった。

 しかし慎次が付け加えた「ですが、しばらくは二課の医療施設にて安静が必要」という言葉に、響の顔は再び、ほんの少し曇った。

 あれだけの重傷でいきなり復帰、というわけにもいかないだろう。

 さらに言うと、翼は月末にライブが控えていた。

 この調子だとライブもできないのではないかという響の考えは当たっていた。

 

 

「月末のライブも中止です。さて、ファンの皆さんにどう謝るか、響さんも一緒に考えてくれませんか?」

 

 

 響の近くに座った慎次が朗らかな笑顔で響に語り掛けた。

 が、様子を見ていた剣二がそれに食って掛かった。

 

 

「そんな言い方ねぇだろ? 翼が倒れたのは響のせいだってのか?」

 

 

 剣二には慎次の言葉が、まるで響への皮肉のように聞こえたのだ。

 言われた響もそのように言葉を受け取ったようで、顔を落ち込ませている。

 これっぽっちもそれを意図していなかった慎次は慌ててしまう。

 

 

「あ! いや、そんなつもりは……。ごめんなさい、責めるつもりはありませんでした」

 

 

 ばつの悪そうな顔で後頭部を掻き、頭を下げる。

 本心からそんなつもりは微塵も無かったのだが、言葉を思い返してみれば皮肉と取られても仕方のない事を言っていたと慎次は反省した。

 ただでさえ色々と思うところがあるであろう響に、無神経な事を言ってしまったと。

 

 

「ったくよぉ、もうちっと考えて言えって」

 

「剣二さん、ゲキリュウケンさんに同じ事を言われていましたよね」

 

 

 ここぞとばかりに自分の事を棚に上げて説教をしだす剣二だが、笑みを伴った思わぬ慎次の反撃に仰け反ってしまった。

 

 

「お、お前、どっから話聞いてたんだ!? 盗み聞きって、忍者か何かかよ……?」

 

「ご想像にお任せします」

 

 

 それだけ言うと、慎次は響の方に向き直った。

 ニコニコとした笑みを慎次は崩さない。

 一方で曖昧な返事をされた剣二はというと。

 

 

「えっ、まさか……マジで忍者!?」

 

 

 子供のように目を輝かせて慎次を見ていた。

 ゲキリュウケンは至って普通に冗談だと考え、剣二を窘めていた。

 しかし響はそう思わなかった。

 弦十郎という規格外のトンデモを目の前で見たせいか、この手の事に首を突っ込んでいる大人は皆、あんな感じなのではないかと。

 ぶっちゃけた話、特命部の黒木司令が前線に出て戦ったりしないかとか考えなかったわけではない。

 正直、弦十郎の事を考えれば、慎次が忍者と言われても信じられる自信がある。

 

 そもそも響の周りは今、師匠が弦十郎で、学校の先生が仮面ライダーなのだ。

 非常識に取り囲まれていると言ってもいい。

 それだけに日常と常識の塊である同居人、小日向未来の存在は大きいのだろう。

 

 慎次は一度咳払いをし、場を改めた。

 

 

「僕が言いたいのは、何事も沢山の人間が、少しずつ、色んなところでバックアップをしているという事です」

 

 

 慎次の目から見ても響は肩肘を張っているように見えていた。

 強くなりたいと考え、誰かの為にと頑張る響。

 だが、翼の一件や突如巻き込まれた非日常にストレスを感じないわけがない。

 自分もやらなきゃ、という責任感にも似た焦りの感情を響は抱いている。

 自分1人で抱え込もうとしているとでも言えばいいのだろうか。

 

 しかしどんな人も、1人で戦っているわけではない。

 ゴーバスターズやシンフォギア装者、魔弾戦士にはそれぞれの司令がいて、オペレーターがいる。

 特命部だけ見ても、バスターマシンの整備士達がいて、バディロイドがいて、組織の職員の全てが前線メンバーを支える為に動いていると言ってもいい。

 何より前線で戦う者達もまた、お互いに助け合うものだ。

 慎次の伝えたかったそれを、響は確かに感じた。

 

 

「優しいんですね、緒川さんは」

 

「臆病なだけですよ」

 

 

 優しいという言葉を否定した後、「本当に優しい人は、他にいますよ」と呟く。

 恐らくは翼の事を言っているのだろうか。

 風鳴翼という人物は肩肘張って、1人で立とうとした人間だ。

 硬く研ぎ澄まされた剣、切れ味は最高であっただろう。

 

 だが、故に折れやすかった。

 

 真面目過ぎて自分を追いつめて、頑なになったが故にその剣は、今回のような事を引き起こしたのだ。

 硬すぎるから、折れやすい。

 少しくらいしなやかさ、柔らかさがあった方が剣は折れにくいものだ。

 翼をよく知る者は思う、彼女は寂しがりやの優しい少女だと。

 生真面目だからそれを見せないでいるだけで、本当は誰よりも弱虫で泣き虫なのだと。

 

 

「少し楽になりました。私、張り切って休んでおきますね!」

 

 

 立ち上がり、響は慎次に満面の笑みを見せた。

 悩んでいた事ばかりだけど、思い詰めすぎる必要はないと言われた響の心境は明るかった。

 ところがそんな響の言葉に容赦のないツッコミが飛んだ。

 

 

『張り切っていたら休めないだろう』

 

「あらっ。もう! 物の例えですよぉ」

 

 

 ゲキリュウケンと響の愉快なやり取りに慎次も思わず顔を綻ばせる。

 その後、響は二課に用意されている部屋に足早に戻っていった。

 それを見送った後、慎次は剣二に顔を向ける。

 

 

「剣二さんも、休まれないのですか?」

 

「いやー、俺はなんか目が冴えちまって。素振りにでも行ってくるぜ」

 

「そうですか……。あまり遅くならないように気を付けてくださいね」

 

「おう、心配すんなって!」

 

 

 剣二は「じゃあな!」と声をかけた後、その場から外に向かう通路を全力で駆けて行った。

 

 

「翼さんも、響さんと剣二さんぐらい、素直になってくれたらなぁ……」

 

 

 どちらも一直線という言葉が似合い、自分を曲げる事を知らないであろう2人。

 慎次は響と剣二、若い2人を思い返し、思わず呟くのだった。

 

 

 

 

 

 明朝5時。

 日も登り切っていない中で、デュランダルの移送は行われようとしていた。

 車が数台、黒い車が複数と、ピンク色をした了子の車が1台。

 了子の車には了子本人と響、さらにこの車に厳重に保管したデュランダルを積み込む。

 複数台ある黒い車には、二課のエージェントが2人ずつ乗り込み、そのうちの1台にはリュウジとヨーコが乗り込む事になっている。

 士とヒロムはそれぞれマシンディケイダーとニックに乗って護衛。

 剣二と銃四郎はヘリコプターに弦十郎と共に乗り込み、空からだ。

 

 ヘリコプターがあるのに空路を使わないのには理由がある。

 それは飛行型ノイズへの対抗手段がない事だ。

 飛行型のノイズが出てきても、響、ディケイドと共に飛行能力を有していない。

 魔弾戦士やゴーバスターズも込みで考えたとしても、アクアシャークを伴ったアクアリュウケンドーのみだ。

 しかもアクアボードによる飛行もどちらかと言えばホバーに近く、あまり高い所までは飛べない。

 ディケイドは位相差障壁を無視して攻撃ができるが、射撃だけでヘリコプターを援護するにも限度がありすぎる。

 イエローバスターのRH-03で輸送する案も考えられたが、あんな目立つ機体を出してしまえば、相手に「私達は大事な物を運んでいます」と言っているようなものだ。

 ヘリコプターの護衛をさせるにしてもノイズに対しては無力だし、図体がデカすぎて護衛には向かない。

 そもそも出撃しているだけでも目立つのだから却下せざるを得なかった。

 

 さらに言えばノイズの襲撃は想定内、発車からしばらくしたら襲ってくる想定だ。

 そう考えると、対処がしにくい飛行型ノイズよりも対処のしやすい地上型ノイズの方が幾らかマシという事で、地上で移送を行うという事になったのだ。

 ちなみに地上を走れるバスターマシンであるCB-01やGT-02だが、その巨体さ故、道路によるルートが制限されるために、今回の移送任務には不向きであると結論付けられている。

 

 移送任務開始直前、二課のエージェントと響、士、ゴーバスターズの3人と魔弾戦士の2人は整列。

 エージェントと響、ゴーバスターズの3人と銃四郎はキチンとした姿勢だが、士はやや偉そうに腕を組み、剣二は少し姿勢を崩している。

 各々の性格故、という事だろう。

 弦十郎と了子がその前に立った。

 

 

「防衛大臣殺害犯を検挙する名目で、検問を配備! 記憶の遺跡まで一気に駆け抜けるッ!」

 

 

 ルートの確保は容易い。

 検問を配備すれば何も気にせずに一気に進む事ができるからだ。

 士やゴーバスターズの3人は顔色を変えず冷静に、魔弾戦士の2人はやる気十分に、響は緊張しているのか少し肩と表情を強張らせている。

 それぞれに反応を見せる中、了子が愉快に作戦名を告げた。

 

 

「名付けてぇ~、『天下の往来、独り占め作戦』!」

 

 

 デュランダルの移送任務が、始まった。

 

 

 

 

 

 車を四方に配置し、その中央にデュランダルを乗せた了子の車。

 その少し後ろを追従して士とヒロムが走行する。

 弦十郎と剣二、銃四郎はヘリで上空からの監視、支援。

 検問のお陰で、普段は車通りの多い道も我が物顔で通れるというもの。

 こんな状況でなければドライブに打ってつけだろう。

 さて、永田町までの道のりはやや遠く、しばらく走っても目的地の記憶の遺跡まではまだかかりそうだ。

 朝5時に出発したとはいえ5月の日の出は早いのか、時間も経った事もあって、既に辺りは明るい。

 

 

「つーか、何で俺達はヘリなんだよ?」

 

 

 特に何も起こる気配のない地上を見るのに飽きたのか、ヘリの中の席に気怠そうに座る剣二。

 やや態度の悪い後輩に銃四郎が溜息をついた。

 

 

「ブレイブレオンやバスターウルフじゃ目立ちすぎるだろ。それに、この機に乗じてあけぼの町にジャマンガが攻めてきた時、すぐにあけぼの町まで戻れるようにという風鳴司令の配慮だ」

 

 

 獣王を呼ぶには変身の必要もあり、魔弾戦士と獣王の組み合わせは流石に目立ちすぎるとして魔弾戦士は空路を使う事となった。

 それにヘリを使えば有事の際、あけぼの町に戻る事も容易い。

 それも考慮して、魔弾戦士をヘリに乗せているのだ。

 そこまで考えの及んでいなかった剣二は「へぇ」と声を上げた後、再び立ち上がってヘリの外を見た。

 現在、特に異常は見られない。

 

 

「ジャマンガの野郎、出てくるかな?」

 

「さあな。デュランダルを狙うか、あけぼの町を狙うか、それとも別のだけ出てくるか……」

 

 

 曖昧な返答をする銃四郎であったが、確信している事が1つ。

 それは、『ジャマンガかどうかは兎も角としても、確実に戦闘にはなる』という事だった。

 剣二以上の経験から来るものか、銃四郎はゴウリュウガンをいつでも取り出せるように腰に手をやっていた。

 それは文字通り、銃に手を置いて警戒する刑事のようだった。

 銃四郎だけではない、弦十郎も感じていたその予感。

 それは数瞬の後、現実となるのだった。

 

 永田町に渡る為の大きな橋、その橋を渡っている途中に異変は起きた。

 

 

「……あッ!?」

 

 

 車の窓を開けて周囲を警戒していた響が声を上げた。

 響の目は橋に不自然なヒビが入るのを見た。

 そして、次の瞬間。

 

 

「了子さんッ!!」

 

 

 咄嗟に運転席に叫ぶ響。

 轟音と共に橋のヒビが入った部分が崩れ落ちたのだ。

 崩落したコンクリートは下の海に音を立てて落ちていく。

 瞬間、了子は崩れた橋に車輪を取られぬように思いっきりハンドルを右に回した。

 急な移動に了子や響にもそれ相応の負荷がかかり、車体もガタガタと揺れるがそんな事を気にしている暇はない。

 何より、今しがた崩れた橋から落ち、爆発した護衛車両に比べればその程度の衝撃で泣きを言っている暇はないのだ。

 

 

「オイ! あの車の中……!!」

 

 

 ヘリから見下ろす剣二は爆発した護衛車両に乗り込んでいた2人のエージェントの事を気にしていた。

 当然だろう、目の前で命が失われたも同然なのだから。

 しかし、弦十郎は表情1つ崩さない。

 

 

「心配ない。すんでの所で脱出して海に飛び込んでいる」

 

 

 弦十郎の目は海に飛び込む2人の黒服の姿を確認していた。

 それなりの高さからの海への飛び込み、爆発の衝撃などの影響で痛みや怪我は免れないだろうが、命の心配はそこまでない。

 既に救出班も用意している事も剣二に告げ、剣二を落ち着かせる弦十郎。

 その後、その冷静さが逆に癇に障ったのか剣二は尚も食って掛かろうとした。

 

 

「そうだけどよ……!」

 

「落ち着け、剣二」

 

 

 が、そんな剣二を銃四郎は窘めた。

 何時になく、恐らく今まで見た中でも一番真剣な目つきに銃四郎に剣二も気圧される。

 

 

「頭に血を昇らせるな。ムキになるのがお前の悪い癖だ」

 

「だってよ……!!」

 

「お前の言いたい事も分かるが、最善の手を打ってこれなんだ。

 俺達ができる事は最善の策に最善の結果を伴わせる事。違うか?」

 

 

 弦十郎や銃四郎だって、人の命が失われかけているのに内心穏やかなはずもない。

 だが、それでも落ち着き払っているのは年上としての務めであり、大人としての責任であり、剣二のような若者のストッパーとなるためだ。

 剣二は銃四郎の言葉にしばしの間を置いた後に頷いた。

 

 

「……ああッ! やってやるよ!!」

 

 

 銃四郎の言葉と目の前で起こりかけた出来事に剣二の闘争心には完全に火が点いた。

 そうこう言っているうちに、地上の車達は何とか橋を抜けきっていたのだが――――。

 

 

 

 

 

 士とヒロムは背後を警戒しつつ前を走る車両に付いていく。

 しかし彼等2人の背後への警戒は異常なまでに厳しいものだった。

 否、それは警戒ではない、既に怪しい影を目視していたからだ。

 

 

「門矢! 気付いてるな!!」

 

 

 それなりに走行速度を出しているため、並走する相手に声を届かせるためには、声を張り上げなければならない。

 故にヒロムは出来るだけ大声で士に叫んだ。

 その甲斐あってか、一字一句聞き洩らさなかった士もまた、やや声を張り上げた。

 

 

「ああ、当たり前だ!」

 

 

 ニックとマシンディケイダーのバックミラーに、本当に小さくだが、影が見えていたのだ。

 士とヒロムはこの移送任務において最後尾に位置している。

 そう、検問も配備している今、彼等2人よりも後ろからやってくる存在は敵である可能性が高い。

 そしてその予感は、すぐに当たった。

 

 近づいてくるのはバイクの音。

 そして、バックミラーに写っていたのもまた、バイクだった。

 しかしバイクに乗っている人物が異常、いや、人ですらなかった。

 

 片方は虎、あるいはジャガーとかチーターのような顔をした人型の怪人。

 その名を、『ジャガーマン』。

 

 もう片方は一本角と醜悪な顔を携えた灰色が目立つ怪人。

 その名を、『サイギャング』。

 

 ヒロムは見た事のない怪物の姿に驚いていた。

 どうみてもそれはヴァグラスではない。

 対して士は、既にその怪人達の正体に答えを出していた。

 

 

「大ショッカーか……!!」

 

 

 このタイミングで現れた事から考えても、デュランダルの強奪が目的なのは明らかだ。

 問題は、怪人達はノイズを操る存在と通じているかどうかだ。

 ノイズを操る存在とは別に大ショッカーが単独でデュランダルを狙っているのか、それとも手を組んだうえで狙っているのか。

 橋の崩落に関してもあの怪人2体が行ったかどうかは定かではない。

 しかしその答えも、すぐに出る事になる。

 

 通信用にと士が耳に付けている小型の通信機とヒロムのモーフィンブレスに通信が入った。

 通信の向こうから聞こえてきたのは、二課の朔也の声。

 

 

『ノイズの反応を検知ッ! 橋の崩落もノイズによるものと思われますッ!!』

 

 

 怪しげな影をバックミラーに見つけたのは、橋の崩落の後すぐだ。

 つまり、ノイズによるものとみられる橋の崩落と怪人の出現がほぼ同時であるという事になる。

 偶然、いや、それにしてはタイミングがドンピシャすぎる。

 これが意味するところは。

 

 

『恐らくだが、大ショッカーとノイズを操る存在は、手を組んだ可能性が高いッ!!』

 

 

 怪人を視認したであろう弦十郎の鬼気迫る全体への通信が、それぞれの鼓膜に響いた。

 ノイズと怪人の出現が同時、それはつまり、大ショッカーとノイズを操る存在が結託している事の根拠となりうるだろう。

 

 

「リュウさん、ヨーコ! 後ろから敵らしき奴らが来てる。

 俺と門矢で食い止めるから、先に行ってくれ!!」

 

 

 ヒロムがモーフィンブレスを通じてリュウジとヨーコに通信を行う。

 通信先の2人からは即座に「了解!」の一言が飛び、すぐに通信は終わった。

 簡潔な通信、即座の判断、正にプロフェッショナルと言えるだろう。

 

 通信の後、士とヒロムはそれぞれのバイクを一旦止めて反転、バイクに跨る2体の怪人に向けてバイクを走らせる。

 そして、それぞれの変身プロセスを踏んだ。

 

 

 ――――It's Morphin Time!――――

 

「レッツ、モーフィン!」

 

「変身!」

 

 ――――KAMEN RIDE……DECADE!――――

 

 

 バイクを駆る2人の戦士が、同じくバイクを駆る2体の怪人と相対した。

 

 

 

 

 

 背後より迫りくる2体の怪人を士とヒロムに任せ、先へ進む一行。

 だが、その攻撃の手は益々激しくなっていた。

 護衛車がマンホールの蓋を通過する瞬間、下水が弾け飛び、その勢いで飛んだマンホールの蓋に押され、車が軽々と宙を舞う。

 よくよく見ればあちらこちらのマンホールが花火のように弾けていた。

 しかも、正確に車を狙うようにタイミングを合わせてだ。

 

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

 

 その度に、それを避ける為に了子は激しくハンドルを切り、アクセルを巧みに操作する。

 その度に、強烈な衝撃が響と了子を襲い、不慣れな響は悲鳴を上げた。

 必死なそのドライビングはジェットコースター以上のスリルと言っても過言ではない。

 いや、命の危険があるのだからスリルどころの話ではない。

 

 

「ごめんねー、私のドラテク結構凶暴よ?」

 

 

 事後報告を告げる了子だが、口調は軽くても表情は甘えもふざけもない真剣な表情。

 何かを射抜けそうな眼光は響の知る了子を大きく逸脱していた。

 本気の了子、とでも言おうか。

 

 

「こうなった以上、ひとっ走り付き合ってもらうわよ!」

 

 

 険しい表情で軽口を叩くミスマッチな了子の言葉を聞き、これっきりにしてほしいと切に願う響だが、このままでは別の意味でこれっきりになってしまう。

 そんな時、弦十郎からの通信が再び入った。

 ノイズが下水道から攻撃してきている、という通信内容だった。

 当然ながら護衛車の面々にもその通信は入っている。

 尤も、既に護衛車はリュウジとヨーコが乗り込んでいる車両1台にまで減ってしまったのだが。

 リュウジは運転の手を緩めず、通信を聞いた。

 

 

「マンホールの状況的にも、下水道なのは当然か……!!」

 

 

 マンホールを下から力任せにすっ飛ばすという芸当は、当然の事だがマンホールの下にいないとできない。

 そう考えればノイズが下水道を通っているのは明らかだ。

 二課のセンサーで現在攻撃を仕掛けてきているのはノイズである事が確定している。

 しかも、直接攻撃をせずに地下から攻撃をしてくるという理知的な行動を見るに、操られたノイズ。

 

 ノイズは位相差障壁を保ってさえいれば、シンフォギア装者とディケイド以外に倒される事は無い。

 そしてノイズを操る者は恐らく、それすらもコントロールできるのだろう。

 つまり、操られたノイズをバスターズや魔弾戦士が撃破する事はほぼ不可能に近い。

 ディケイドは怪人と交戦中、響はデュランダルの護衛でそれどころではない。

 結論からして、この攻撃は避け続ける以外に手は無いという事だ。

 

 

「……ッ! リュウさんッ!!」

 

 

 一方、助手席のヨーコが何かに気付いた。

 見れば眼前、遥か前方に影が見えた。

 それも1つや2つではない。

 10、20、30……まだまだいるように見えた。

 進めば進むほどその影は鮮明になり、姿が露わになっていく。

 

 

「ギジャー!!」

 

「ジー!!」

 

 

 特有の声を上げる紫色の兵隊と機械的な兵隊。

 見覚えがありすぎるそれは、遣い魔とバグラー。

 ジャマンガとヴァグラスの混成戦闘員の大群だった。

 

 

「ッ、ヨーコちゃん!!」

 

「うん!!」

 

 

 リュウジの叫びで全てを察したのか、2人は同時にシートベルトを解除、モーフィンブレスの起動を一瞬で行った。

 

 

 ――――It's Morphin Time!――――

 

 

 そして、車のアクセルを全開にしたままでリュウジとヨーコはドアから飛び出ると同時に、変身を完了した。

 

 

「「レッツ、モーフィン!!」」

 

 

 スーツとヘルメットの転送、及びグラスの装着が終わるのと、ドアから飛び出た2人が地面に着地し、勢いそのままに2回転程をしたのはほぼ同時だった。

 勢いを止めずに戦闘員の群れに突っ込んでいった車は戦闘員の一部を轢き、群れの中に穴を空けて見せる。

 

 

「行ってください、了子さんッ!!」

 

『オッケー……!!』

 

 

 ブルーバスターがモーフィンブレス越しに叫ぶと、了子は返事と同時に自分の車のアクセルを全開にした。

 了子と響が乗る、デュランダルを乗せた一番重要な車は戦闘員の群れの中に空いた穴を通り抜ける。

 そんな車を素通りさせるわけもなく飛びかかろうとする遣い魔やバグラーだが、凶暴なまでに右往左往と車体を振り回し、尚且つ法定速度をせせら笑うような勢いは戦闘員達を寄せ付けず、戦闘員の群れを抜ける事に成功した。

 

 

 ――――Transport!――――

 

 

 さらに間髪入れずにブルーバスターとイエローバスターはイチガンバスターを転送、戦闘員達に向かって銃撃を開始した。

 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるというが、なにぶん的が多いので、あまり狙わなくても百発百中だ。

 そしてついでにもう1人、戦列に参加する者がいた。

 

 

「リュウガンキー! 発動!!」

 

 ――――チェンジ、リュウガンオー――――

 

「剛龍変身!」

 

 

 上空から響く声。

 ヘリから飛び降り、変身の動作を行った銃四郎だ。

 銃口から放たれた銀色の龍は上空から地上に降り立ったかと思えば、再び上空、銃四郎の元にまで昇っていく。

 そして銃四郎の胸に龍は吸い込まれ、銃四郎は変身を完了すると同時に、地上に着地した。

 

 

「リュウガンオー、ライジン!! ……阿保みたいに多いからな、俺も手を貸すぜ」

 

 

 降り立った龍の銃士が颯爽と名乗りを上げ、その隣に青と黄色の2人が並ぶ。

 無数に群れる戦闘員達と3人の戦士が相対し、一瞬、睨み合った。

 そして次の瞬間、ほぼ同時に両者がお互いに向かって駆ける。

 

 任務の目的は移送だ。

 だが、人に害を為す遣い魔やバグラーのような戦闘員達を放っておくわけにはいかない。

 戦闘員を放置して移送そのものに影響が出る可能性も十分に考えられた。

 それから、ブルーバスターとイエローバスターの2人だけで相手をするには戦闘員達は多すぎる。

 故にリュウガンオーはヘリから飛び降りて加勢にきたのだ。

 

 3人は目の前の戦闘員の群れを片っ端から薙ぎ倒していく。

 

 

(頼んだぞ、剣二!)

 

 

 戦いの中、リュウガンオーは先に進んだ後輩の事を想起した。

 これより先に進んだのは了子と響、そして剣二と弦十郎の乗るヘリコプターのみ。

 ノイズが出てくる可能性を考えれば、生身の弦十郎は戦う事ができない。

 いかに規格外の力を持っていたとしても『人間』である以上はノイズに触れれば即死なのだ。

 デュランダル防衛の為に残った戦力は実質、響と剣二の隊の中でも若い2人。

 

 

(いつもみたいな直線行動はやめてくれよな……!)

 

 

 心の中で剣二の暴走が起きない事を祈りつつ、リュウガンオーは戦闘員を撃ちぬいていった。

 

 

 

 

 

 一方、その剣二はというと。

 

 

「撃龍変身ッ!!」

 

 

 リュウガンオーの期待空振り、早速暴走しかかっていた。

 ヘリから飛び降りた剣二は即座にリュウケンドーに変身、地上に降り立つ。

 舞台は薬品工場。

 此処に来たのには理由がある。

 

 まず、戦いの影響で薬品工場が爆発したとしよう。

 当然ながら工場で起きる爆発は洒落にならない威力だ。

 もしそれにデュランダルが巻き込まれれば、如何に完全聖遺物とは言え破壊されることは必至。

 車を運転していた了子はそれを危惧した。

 が、逆に弦十郎は薬品工場を目指すべきだと作戦を打ち立てた。

 それはデュランダルが破壊される可能性を逆手に取った作戦。

 敵の目的はデュランダルの強奪と見て間違いないだろう。

 それは敵としてもデュランダルが失われる事は避けたいという事を意味している。

 

 つまり薬品工場に逃げ込めば、デュランダルを手に入れたいのであろう敵側の攻撃は沈静化するだろう。

 そうでなくとも、勢いは止まる筈だと弦十郎は結論付けた。

 勿論、これはデュランダルを守らなくてはならない二課側としても博打に近い。

 勝算を尋ねた了子の言葉に弦十郎はこう答えて見せた。

 

 

「思い付きを数字で語れるものかよッ!!」

 

 

 何とも無茶苦茶な話であった。

 が、分が良いのか悪いのか分からない賭けは功を奏したのだ。

 薬品工場近くで待ち伏せていたノイズ達だが、邪魔をしようとする事はあれども積極的な攻撃は行ってこなくなったのだ。

 狙い通り。そう思ったのも束の間、車は工場のパイプに足を取られて横転、中にいた響と了子、そしてデュランダルは無事であったが、車という壁を失った彼女達はノイズの攻撃を受ける事になってしまったのだ。

 何とかデュランダルを抱えて逃げる響と了子。

 そしてヘリからそれを見ていた剣二が堪らずに飛び出した――――。

 

 普通に考えるならばそうだ。実際、それもある。

 だが、剣二が飛び出した理由はそれだけではない。

 

 

「来たか、リュウケンドー」

 

 

 理由は、目の前に佇む灰色の剣士。

 剣二にとってライバルであり、超えたい壁。

 ジャマンガ幹部の1人、ジャークムーンが現れたからだった。

 

 

「ジャークムーン……!」

 

「どれほどの腕になったのか、試してやろう」

 

 

 月蝕剣の切っ先をリュウケンドーに向け、睨むように顔を斜めに構えた。

 リュウケンドーの背後にはデュランダルの入ったケースを抱え、リュウケンドーを心配そうに見つめる響と了子がいる。

 

 

「剣二さん……!」

 

「お前はデュランダルを頼むぜ。こいつは、俺が……!!」

 

 

 響の声に答えるリュウケンドーだが、目線は一瞬たりともジャークムーンから離れない。

 最早リュウケンドーを突き動かしているのはデュランダルの移送任務に対しての使命感ではない。

 目の前の、剣を使う好敵手と戦い、勝利したいという欲求。

 早い話がリュウケンドーはジャークムーンに負けたくない。

 それは意地に近い。

 同じ剣を扱う者として、ジャークムーンにだけは負けたくないのだ。

 訓練をしている時にも考えていた負けたくない相手が目の前にいる。

 そんな相手を前にして、直情的なリュウケンドーが自制できるはずもなかった。

 

 

「……気を付けてくださいね、剣二さんッ!」

 

 

 一言言い残し、響と了子は背を向けてデュランダルを守る為に走り出した。

 響の声にリュウケンドーは反応しない。

 ただ、ゲキリュウケンを構え、ジャークムーンと相対するのみだ。

 鳴神龍神流特有の構えを取るリュウケンドーと、応えるように月蝕剣を構えるジャークムーン。

 2人の剣士は火花を散らし、睨み合う。

 

 

「今度こそ、勝つ……!!」

 

 

 愚直なまでの、意固地な闘志をリュウケンドーは燃やしていた。

 リュウケンドーがジャークムーンに対してムキになる事、超えたいと思っている事はゲキリュウケンも知っている。

 そんな目的で戦うのならゲキリュウケンは止めていた。

 が、ジャマンガがデュランダル強奪に加担しているかもしれない以上、この場を退く事は許されない。

 

 分かっている、分かっているのだが。

 その余りにも真っ直ぐすぎて、斬るべき『魔物』を『ライバル』と見ているリュウケンドーに、ゲキリュウケンは一抹の不安を抱いていた。




――――次回予告――――
色んな奴らが仕掛けてきた。
しかもあいつ等は手を組んで、目的は全員デュランダルだ。
俺達も大苦戦する中、助っ人が現れた。
絶対に勝ってみせるぜ!
次回は、仮面ライダー、ライジン!

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