スーパーヒーロー作戦CS   作:ライフォギア

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第34話 新たな希望と、スタートなの

 はやてを前に跪くヴォルケンリッターを名乗った4人。

 説明を始める前に、ピンク髪の女性が立ち上がって晴人の方を向いた。

 その視線は半ば睨んでいると言ってもいい。

 

 

「失礼だが、貴方は何者だ。何故我等が主に近づいた」

 

「何故って……助けただけだけど」

 

「本当なのですか? 主」

 

 

 ピンク髪の女性の言葉にはやては微笑みながら答えた。

 その顔には先程までの驚きや戸惑いはあまり見られない。

 どうやら時間が経ったことで冷静に状況を飲み込み始めたようだ。

 

 

「うん、晴人さんは危ないとこを助けてもらった、命の恩人や」

 

 

 その顔とその言葉に嘘は無い。

 ピンク髪の女性や他の3人は主と呼ぶはやての言葉を信じつつも、晴人への疑念が完全に晴れない事を表情が示していた。

 

 いきなり疑いをかけられた晴人は苦笑いで返すしかない。

 素性も知れぬそっちの方が余程怪しいと言いたいところだが、話をややこしくしないためにその言葉を飲み込んだ。

 ピンク髪の女性は納得しきっていない表情をしつつも、晴人に非礼を詫びるように一礼し、はやての前に再び跪いた。

 

 

「我々の事、『闇の書』の事をお話しいたします」

 

 

 この言葉をもって、ヴォルケンリッターを名乗る4人が自分自身達の事を語り出した。

 

 そもそも『闇の書』とは。

 闇の書ははやてが物心ついたころからある不思議な書物だ。

 ずっとはやての部屋に置いてあり、厳重な鎖がかけられていた。

 しかし現在、鎖は全て解き放たれている。

 

 闇の書が『起動』したのは本日0時丁度。

 つまり、はやてが9歳になった瞬間である。

 かなり分厚い本で、表紙の剣と十字を足したようなデザインが印象的だ。

 

 まず前提として、闇の書とは魔法由来の物だ。

 その話は開幕から晴人を驚かせるものだったが、驚きを隠してその話を聞き続けた。

 闇の書は数々の世界を『転生』して渡り歩く魔導書。

 転生の際にその世界で闇の書は自分を持つに相応しい適任者を選ぶ。

 その主を守護するのが守護騎士、ヴォルケンリッターだ。

 

 つまり、八神はやてこそ現在の闇の書のマスターであり、ヴォルケンリッター達の主であるという事だ。

 そして闇の書とは、空白の666ページを埋める事で主に絶対的な力を与える。

 ページを埋める方法は魔力を持つ者から魔力を奪い取る、『蒐集』という行為だ。

 そして最後に4人の名前。

 一番小柄な少女、『ヴィータ』。

 4人の中で唯一の男性、『ザフィーラ』。

 ショートカットで金髪の女性、『シャマル』。

 そして先程から4人の代表、リーダー格として話をするピンク髪の女性、『シグナム』。

 

 以上がシグナム達4人が語る闇の書とヴォルケンリッターの説明だった。

 何とか理解したはやて。

 一方の晴人は自分にとっても縁深い『魔法』が絡んでいる事に驚いている。

 

 

「へぇ、魔法とはね……」

 

「信じられないのも無理はありません。この世界に魔法文明は無いようですから」

 

 

 シャマルが晴人の呟きに答えた。

 闇の書の起動後、はやてを病院に運ぶまでの間にこの世界の事はある程度把握したようだ。

 だからこそ晴人の呟きを魔法の存在が信じられない、という意味だと受け取ったのだろう。

 しかし晴人はその言葉を否定した。

 

 

「あ、いや、そっちじゃなくて。君達も魔法云々だとは思わなくて」

 

「君達、『も』?」

 

 

 シグナムの疑念の目が先程よりも強まったように感じた。

 だが、一度魔法を知る様な事を言った手前隠す事は出来ないし、晴人自身、別に隠す気も無い。

 晴人はコネクトの魔法ではやての部屋にある本棚から本を一冊手に取った。

 言葉で説明するよりもこの方が手っ取り早いと自分の魔法を見せる事にしたのだ。

 

 魔法で発生させた魔方陣に突っ込んだ手が、別の魔方陣から出てくる様にヴォルケンリッター一同が驚き、はやては見慣れたのか何食わぬ顔で見ていた。

 が、その行動はヴォルケンリッターの警戒を強めさせた。

 ザフィーラが晴人を睨み、静かに言い放った。

 

 

「……お前は本当に主を守るのが目的だったのか?」

 

 

 晴人は何かを疑われている事よりもその質問にキョトンとした顔になった。

 

 

「どゆ事?」

 

「お前の本当の目的が、闇の書だったんじゃないかって事だ」

 

 

 ヴィータは少女らしからぬ強く鋭い目つきとキツイ口調だ。

 晴人はそこで自分が何で疑われているのかを察した。

 自分がヴォルケンリッターから闇の書の強大な力を狙っているのではないかと疑われているのだ。

 話していない事だが、ヴォルケンリッターの記憶では過去、闇の書を狙う者は数多くいた。

 もしかすると、晴人もそういう人物かもと疑われている。

 魔法文明が無いこの世界で魔法を使うのだから疑われるのも当然かもしれない。

 だが、それを否定したのは主であるはやてだった。

 

 

「ちゃうよ。この人は私をファントムっていう怪物から助けてくれたんよ」

 

 

 ヴォルケンリッターは聞いた事の無い単語に眉を顰めた。

 

 

「失礼ながら主、そのファントムというのは一体……?」

 

 

 シグナムの言葉に自分の知る事を答えようとするはやてだが、はやて自身は晴人に聞いた知識でしかない。

 ならばファントムの事を良く知っているであろう晴人に頼もうと、はやては晴人の方を向いた。

 それだけで晴人は自分にファントムの説明を要求しているのを察し、自分の知る限りのファントムの事を話した。

 魔力を持った人間が絶望すると生まれる事、それと自分が戦っている事。

 ファントムの話をした後、ヴォルケンリッターの顔は疑惑から驚愕に変わっていた。

 

 

「えっと……分かってくれた?」

 

 

 恐る恐る聞く晴人にシグナムは答えた。

 

 

「……すまないが、余計に分からなくなった」

 

「あらっ。どの辺が?」

 

「ファントムという存在、そのものが」

 

 

 はやてには敬語で晴人には敬語を使わないという辺りがヴォルケンリッターの晴人への警戒度を示しているのだろうか。

 ヴォルケンリッター達はファントムという存在自体を疑問視していた。

 晴人のファントムへの認識は『魔力を持った人間が絶望すると生まれる怪人で、他の魔力を持った人間、ゲートを絶望させようとするから倒さなきゃいけない』というものだ。

 矛盾というか、おかしな説明は自分の知る限りはしていない筈だと首を傾げる晴人にシグナムは語った。

 

 

「もしも本当に魔力を持った人間が絶望しファントムが生まれるというのなら、我々がその存在を知らないのは妙だ」

 

 

 何が、と質問する前にシグナムは続けた。

 

 

「何故なら、闇の書が巡ってきた世界に住まう殆どの人間が、魔力を持った人間だからだ」

 

 

 

 

 

 

 

 なのははフェイトという友達とビデオメールで連絡を取り合っている。

 それぞれ別の次元世界にいる上に、フェイトは裁判中の為に全く会えない。

 その為、ビデオメールという方法を用いたのだ。

 そして数日前にフェイトからのビデオメールが届き、その返事を出そうとした時、なのはの頭に疑問が浮かんだ。

 

 晴人と攻介が語ったファントムの誕生方法だ。

 

 曰く、『ゲートという魔力を持った人間が絶望するとファントムになる』という。

 そのゲートは魔法少女である自分もそうであり、敵であるファントムもそう言っていた。

 だが、その説明では説明しきれない事がある事になのはは気付いたのだ。

 

 ある日の事。

 いつものようにシュートコントロールの訓練に出かけたなのは。

 再びファントムに襲われないとも限らない為、レイジングハートと共に細心の注意を払っている。

 晴人や攻介、凛子にも頼んで0課にも自分の魔法の事は秘密にしてもらっている。

 あまり多くの人に知られたくないというのが理由だ。

 

 ちなみに0課が護衛をつけないで納得しているのは晴人や攻介、凛子が必ず守るし、なのはの家族は武術に心得がある人も多いので護衛は大丈夫だろうという理由を無理矢理通した為だ。

 一度は木崎も意味が分からないとして護衛をつけようとしたが、晴人達の強すぎる押しに何らかの意図がある事を察してか、護衛をつけない事にしてくれた。

 あまり魔法少女である事を知られてはいけないなのはとしては、その方が安心なのだ。

 

 シュートコントロールの訓練を行うなのはだが、成績は芳しくなかった。

 調子が悪い日だってあると普通なら思うだろうが、その日の成績は幾ら調子が悪いとしても、なのはらしくなかった。

 

 

『マスター、どうされたのですか。今日の訓練には集中できていないようでしたが』

 

 

 訓練後の採点が終わった後、レイジングハートは早速なのはに今日の訓練で上の空だった理由を尋ねた。

 レイジングハートはなのはの相棒、気付くのも早い。

 レイジングハートには隠し事はできないな、と苦笑しつつなのはは自分の考え事を話し始めた。

 

 

「ねぇ、レイジングハート、フェイトちゃんの事なんだけど……」

 

 

 友達であるフェイト。

 しかし友達になる為にはかなりの紆余曲折があった。

 それも非日常的な派手なものだ。

 その中で、フェイトに起こった痛ましい出来事。

 

 

「何で、フェイトちゃんはファントムにならなかったんだろう?」

 

 

 フェイトは母親であるプレシアに酷い仕打ちを受けてきた。

 それでも彼女は母親の為だと、全力で我武者羅に頑張った。

 だが、フェイトはプレシアの本当の娘では無く、フェイト自身はその娘のクローンである事が判明。

 そして外見はともかく内面がまるで違うフェイトを失敗作と呼び、そしてプレシアから「貴女はもう要らない」とまで言い放たれた。

 この時、その時のフェイトの心情はなのはが思うに『絶望』だっただろう。

 

 そう、『魔力を持つ』フェイトという『人間』が『絶望』だ。

 

 確かに出自がクローンという特殊なものとはいえ、フェイトは人間である事に相違はない。

 例えば羊のクローンは羊で無いわけがない。

 人間のクローンなのだから生物学的に見ても人間なのだ。

 つまり、フェイトは『魔力を持った人間』という条件を満たした上で『絶望』した事がある。

 これらはファントムが生まれる要因であり、トリガーとなる事であるはずだ。

 立ち直ったとはいえ一度は絶望した事は明白である。

 しかしそれでは晴人と攻介、そしてファントム達自身が語るそれと矛盾してしまう。

 

 

「フェイトちゃんはプレシアさんの言葉で絶望してる。なのに、ファントムにならなかった。

 勿論、フェイトちゃんがファントムにならなくて良かったけど……」

 

『確かに妙です。では、彼等が嘘をついていたと?』

 

「ううん。私を守ってくれたし、ファントムさん達も同じ事を言っていたから違うと思う……」

 

 

 そう、晴人や攻介が味方のフリをして嘘をついているならともかく、本気で攻撃をしてきたファントムまで同じ事を言っていた。

 仮に晴人達がファントムと結託していたとしても、アルゴスに止めを刺す必要は無かったはずだ。

 嘘をついているとは考えにくかった。

 

 

「……リンディさんやクロノ君、ユーノ君なら何か知ってるのかな……?」

 

 

 かつて自分を支えてくれた仲間の事を思い返しつつ、頭に浮かんだ疑問が拭えぬまま、なのはは今日の訓練を切り上げた。

 

 

 

 

 

 時間はほんの少し前、なのはがシュートコントロールの訓練をしていた時まで戻る。

 

 

「あの魔法……」

 

 

 遠くからなのはのシュートコントロールの訓練を見つめているのは、白い魔法使い。

 晴人にウィザードの力とコヨミを託した張本人だ。

 白い魔法使いはなのはの使う魔法に見覚えがあった。

 威力も魔法の内容も全く違うが、専用のデバイスを用いて足元に魔方陣を展開して発動するその魔法。

 

 

「……そうか、プレシアと同系列の物か」

 

 

 かつて知り合った人物の名を呟き、過去の事を思い出していた。

 別次元の魔法を初めて知った時の事。

 自分の目的を果たすと誓ったあの時を。

 

 しばらくなのはの様子を見つめていると、訓練が終わった後になのははデバイスと何かを話し始めた。

 会話中のなのはの呟きを人間以上の聴力が捉え、そこで出た単語に白い魔法使いは興味を示した。

 

 

『ねぇ、レイジングハート。フェイトちゃんの事なんだけど……』

 

 

 白い魔法使いが反応を示したのは『フェイト』の言葉。

 その言葉を聞いた時、仮面の中の目が見開かれた。

 

 

「フェイトだと? ……まさか、プロジェクトF.A.T.Eの……?」

 

 

 志を同じくした友人を嫌でも思い出す魔法と単語に、白い魔法使いは思わず呟いた。

 

 

「……プレシア、お前は望みを叶えられたのか……?」

 

 

 再び思い出したのは過去の出来事。

 

 

「辿りつけたのか? アルハザードに……」

 

 

 誰にも聞かれぬ、誰にも向けていない言葉は虚空に溶け、霧散した。

 その問いに答える者は既にいない事を白い魔法使いは知らずとも、心の何処かで予感していた。

 白い魔法使いはその場から去っていった。

 過去に起こった、別れと出会いと決起を思い出しながら。

 

 

 

 

 

 さて、ヴォルケンリッター達もまた、存在すら知らないなのはと全く同じ疑問を持っていた。

 ファントムという存在は魔力を持った人間が絶望する事で生まれる。

 

 これは実に簡単なトリガーである。

 まず、魔力を持っているという部分をクリアすれば絶望という感情を抱く事は人生の中で一度はあるだろう。

 例えば家族や身近な人間の死は最も誰もが陥りやすい絶望のトリガーであり、生きていれば一度は体験する不可避な出来事だ。

 絶望の種は思いのほか何処にでも転がっている。

 非日常と無縁であったとしても、絶望に苛まれる事はある。

 で、あるならば、魔力を持った人間が普通に存在する別の世界群でも観測、少なくとも伝承ぐらいには残っていてもいいだろう。

 しかしながら数多の世界を見てきたヴォルケンリッターにファントムなる言葉は記憶されていない。

 

 だが、そう言われても晴人も嘘は言っていない。

 主であるはやてが信頼している為か、ヴォルケンリッター達も疑いこそすれ、敵意は見せていない。

 

 

「……ま、難しい話は後にしよか」

 

 

 手をパンと叩き、空気を変えて話を始めたのは、はやてだった。

 

 

「ともかく私は、その闇の書の主って事なんよね?」

 

 

 はやての言葉に頷くヴォルケンリッター達。

 頷きを見たはやては、車椅子を自分の机の方に動かして引き出しを開けた。

 

 

「つまり、私は闇の書の主として4人の衣食住を、キッチリ面倒みなアカンゆう事や」

 

 

 今度はヴォルケンリッターに晴人を含めた5人が頭上にクエスチョンマークを浮かべた。

 はて、今までの説明でそんな事を言っただろうか、と。

 

 

「幸い住む所はあるし、料理は得意や」

 

 

 言いながら引き出しに手を入れて取り出したのは巻尺だった。

 巻尺を少しだけ伸ばしたはやては、ヴォルケンリッター達に微笑みかけた。

 

 

「まずは、服買うてくるから、サイズ測らせてな」

 

 

 ニコリと微笑み主の言葉に鳩が豆鉄砲を食らったような表情になる守護騎士達。

 ヴォルケンリッター達は戸惑っていた。

 戸惑いを見せる理由ははやてにも晴人にも分からなかったが、はやてがこの4人を受け入れようとしている事を今の言葉で察した晴人は、はやてに待ったをかけた。

 

 

「服選びなら、直接4人にも来てもらった方がいいでしょ」

 

「勿論そうですけど、この恰好で出てもらう訳には……」

 

 

 シグナム達は黒いタンクトップ姿のままだ。

 しかしこの4人が着られるような服をはやては持ち合わせていない。

 つまり今から服を買いに行くとすれば、4人のサイズを測った上ではやてと晴人で買ってくる必要がある。

 しかし晴人はお任せあれ、とでも言いたげな得意気な顔で1つの指輪を取り出した。

 

 

「そういうところは、魔法使いらしいところ見せなきゃな」

 

 

 言いつつ、取り出した指輪を未だ跪いているシグナム達に向ける。

 指輪を見る4人の目にはやや警戒の色が混じっている。

 

 

「これは俺が魔法を使う為の指輪。付けてみて?」

 

 

 説明するも増々疑念が深まったのか、より警戒色を強くされた。

 指輪そのものに何らかの魔法が施してあり、罠か何かかもしれないと思っているのだ。

 自分が相当に疑われている事に肩をすくめながら、晴人はその指輪を右手に嵌め、ベルトのバックルに翳した。

 

 

 ――――Dress up Please――――

 

 

 音声と共に、晴人の全身を変身の時のように魔方陣が通過した。

 すると魔方陣が通過し終わった後に晴人の姿は変化していた。

 とは言ってもウィザードのような変身では無く、単純に服装が普段の私服からシルクハット付きのスーツ姿に変わっていた、という事だが。

 今使ったのは『ドレスアップウィザードリング』。

 一瞬にして別の服に着替える事の出来る魔法だ。

 

 

「こんな感じ、どう?」

 

「わぁ……そないな事までできるんですか」

 

「まあね。ただ、魔力で作った服だからあんまり長くは持たないけど」

 

 

 シルクハットを外してくるくると回して遊ぶ晴人。

 ドレスアップで着替えた服には触る事も出来るが、基本は魔力で出来ている。

 自分の意思で消す事も出来るし、脱いでしまえばあまり長くは持たずに消えてしまうし、そうでなくとも何時かは消える。

 つまりこの指輪があっても、本物の服は買う必要があるのだ。

 

 

「でも、服を買うくらいまでならこれで外に出れると思うぜ?」

 

 

 晴人は服を元に戻した。

 それと同時に手にしていたシルクハットも消える。

 ドレスアップの効力は一時的な物ではあるが外に出る分に問題は無い。

 例え途中で魔法が解けてしまっても、晴人がいる限り魔法をかけ直せばいい。

 晴人はドレスアップの指輪を外して再びシグナム達にその指輪を向けた。

 

 

「どう? 使ってみる?」

 

 

 どう?と言われても守護騎士達から警戒心は完全には抜けない。

 主が信用しているという面もあって疑いきっているというわけでもないのだが。

 その主ではというと、晴人の意見に賛成の意を示している。

 

 

「ほんなら、そうしましょうか」

 

 

 はやては巻尺をベッドに置いて、晴人にニコリと笑みを向けた。

 まずはシグナムが恐る恐ると言った感じに晴人の指輪を手に取り、晴人に倣って右手の中指に嵌めた。

 晴人は跪いている4人と同じ目線になるように膝を折り、シグナムの右手を取って、自分のバックルに翳させた。

 それを他の3人にも行い、4人は黒いタンクトップ姿から変わっていった。

 4人の服は最初からこの服を着ていたと言っても違和感がない様な、極々普通な外出用の服に変わったのだ。

 それを見たはやては「おおっ」と声を漏らした。

 

 

「これをベースに似合う服を買うてあげんとな」

 

 

 ドレスアップで着替えた4人は割といい感じの私服だった。

 これを基本に考えれば服を選ぶ手間も省けるだろう。

 4人全員を着替えさせてドレスアップの指輪を回収し仕舞った晴人は、この場の5人に向けて言った。

 

 

「善は急げってな、早速行くか」

 

 

 そんな訳で闇の書の主である車椅子の少女と魔法使いと守護騎士という、言葉にするとふざけているとしか思えない6人は服を買う為に街に出た。

 はやては家族の遺産もあって、金銭関係で困った事は全く無い。

 更に言えば父の友人を名乗る人物のお陰で大分楽に過ごさせてもらっていた。

 

 服選びはベースがあった事もあってスムーズに終わった。

 だが、1着や2着買えばいいというわけでは無い。

 4人の服を1から買うのだから洗濯している間の服とか、そういう事も考えると3着以上は欲しい。

 それを4人分となると12着程度、結構な数である。

 それに加えて下着など諸々も必要となり、買った物はかなりの数に及んでいた。

 しかし服選びをしているはやては心底嬉しそうだった。

 

 家族のいなかった彼女にとってこんな風に買い物する事は考えもしなかった事だった。

 晴人や瞬平と買い物をした事もあるが、彼等はあくまでも「はやてを守る」という目的がある。

 守護騎士達もそういう面があるとはいえ、はやては4人の衣食住の面倒を見ると決めた。

 つまり『共に暮らせる』4人なのだ。

 それははやてが欲しいと思いつつも諦めていた、奇跡のプレゼント。

 即ち、家族。

 

 

 

 

 

 服を買い終わって家に戻った6人。

 既に時間は夕方に差し掛かっていた。

 現在、晴人はザフィーラと共に八神宅のリビングの外にいる。

 服を整頓して今から着替えるという事で、他の3人はそれぞれの服に着替えているからだ。

 

 守護騎士の内、3人は女性。

 その着替えを男性である晴人やザフィーラが見るわけにはいかないからだ。

 更に服の整頓だけでも女性の下着云々まであるのだから男性陣は尚の事、今はリビングに入れない。

 ぶっちゃけた話、買い物の時点でもそれを意識しないように、見ないように結構気を使っていた。

 男としては今のリビングをちょっと覗きたい気持ちもあるが、ぐっと堪えた。

 

 

「…………」

 

 

 しかしながら晴人の隣に立つ威圧感あるザフィーラなる犬耳男は寡黙だ。

 晴人も何を話していいのかさっぱり分からず沈黙が続く。

 リビングの向こうでははやてが嬉しそうに3人と話し、対して守護騎士女性3名は戸惑っているのか、「はい」とか「ええ」とか取り留めのない相槌をどもりながら発している。

 楽しそうだなぁ、とリビングに続く扉をチラリと見る晴人。

 そして何の気も無く再びザフィーラの方を向いた。

 

 

「…………」

 

 

 相変わらず沈黙している。

 4足歩行の毛並みの良い蒼い狼が威風堂々と立っていた。

 だんまりか、と顔を正面に向けた直後、晴人は蒼い狼を二度見した。

 

 

「うおぉっ!?」

 

 

 スルーしかかったが、いつの間にやら褐色の屈強な男がいなくなって蒼い狼が代わりに立っているではないか。

 一瞬目を離した隙に何があったのか。

 腰を抜かすかと思った晴人を余所に、蒼い狼は口を開いた。

 

 

「こちらの姿の方が良いと思ってな」

 

 

 ようやく口を開いた、と思うよりも前に、この狼はザフィーラだったのかと晴人は思った。

 

 

「え、えっ? ザフィーラ……なの?」

 

「そうだ」

 

「何、その、犬というか、狼というか……」

 

「人間と獣、2つの姿になれる。此処では女性の方が多いだろう、この姿の方が主はやても俺に気を使わなくて済むと思ったからだ」

 

 

 これから守護騎士達はこの家で済むことになる。

 そうなれば男性と女性の比率は1:4というザフィーラただ1人が男性という事になってしまう。

 それで気を使われるかもしれないと気にしたザフィーラはこの姿を取った、というわけなのだが、晴人としてはこの姿になった事そのものに驚きだった。

 

 

「へぇ……触っていい?」

 

「構わない」

 

「……うおっ、フサフサしてんな」

 

 

 犬を撫でるかのように静かに優しくザフィーラの背中を触ってみると、蒼い体毛は見た目通りにフワフワとしていて触っていて心地いい。

 先程までの屈強な男性は何処に行ったんだと思わざるを得なかった。

 

 

「晴人さーん、ザフィーラー。入ってきてもええですよー」

 

 

 扉越しにはやての声が聞こえた。

 狼形態のザフィーラを気遣ってか晴人はドアノブを持って扉を開き、先にザフィーラをリビングに入れてあげた。

 軽く会釈してきたザフィーラを見て晴人も返事をするように頭を動かす。

 一方、リビングから出て行く前に比べて種族レベルで様変わりしたザフィーラに輝きの目と共に近づくはやて。

 

 

「ふぁ~……このワンちゃん、どうしたんですか? というか、ザフィーラは?」

 

「いや、それがザフィーラだってさ」

 

「へぇ~……えっ!? ザフィーラなんですか!?」

 

 

 蒼い狼をザフィーラと認識していなかったはやては晴人の言葉に驚いていた。

 晴人の魔法で姿を変える魔法と言えば、やはり変身だ。

 だが人の形は保っていて、獣に変身する事は無い。

 主に晴人のせいで魔法への順応は早かったはやてだが、姿を大幅に変えたザフィーラにはさすがに驚く他なかったようだ。

 よくよく考えてみれば蒼い犬耳も付いていたし、納得できない事も無い。

 かなりの非常識である事に違いは無いが。

 はやてはザフィーラの頭を抱えるようにして首元などを本物の犬を扱うようにして触っていく。

 

 

「犬を飼うの、ちょっと夢だったんよ。ええなぁ……」

 

 

 モフモフとしたザフィーラにご満悦の様子のはやて。

 ザフィーラの人間用の服も買っていたので少々申し訳なかったが、主の願いを叶える為にも出来る限りこの形態でいようとザフィーラは決意するのだった。

 さて、一方で晴人はそんなザフィーラとはやてのやり取りからシグナム達の方に目を向けた。

 着替えが終わっている女性達3人は先程のドレスアップの指輪で着ていた服とはちょっと趣の違う服を着ている。

 ドレスアップの指輪で着ていた服をベースにして買った服もあるのだが、「そればっかりもどうなんやろう?」と考えたはやてが選んだ服だ。

 はやて主導のコーディネートは中々センスが良く、本人達によくマッチしている服だと思えた。

 

 

「おー、中々いいんじゃない?」

 

「そう、なのか……?」

 

「ありがとうございます!」

 

 

 褒める晴人に戸惑うシグナム。

 どうにもこの状況に順応できていないというか、何か、慣れないと言った表情をしていた。

 対してシャマルはにこやかな笑顔で元気にお礼を言う。

 シグナムとは対照的にシャマルの方は意外と馴染むのが早い。

 

 

「ヴィータちゃん……だよね? 君も似合ってるよ」

 

 

 そっぽを向いていたヴィータに近づくも、ヴィータは更にツンと顔を背けた。

 晴人からは見えないが、その顔はほんのりと赤くなっている。

 まだ疑われてるのかな、と思う晴人の考えは外れていて、単に照れているのだ。

 

 晴人はもう一度4人を見渡した。

 着替えが終わった3人と、狼となった1人と、車椅子の少女。

 この5人はこれから一緒に住まう事になる。

 共に住まい、一緒にいる存在。

 それは家族と呼んでも差し支えないのではないだろうか?

 そう思った晴人は微笑みながら幸せそうな表情のはやてを見た。

 あの表情は晴人では引き出せない。

 勿論笑った顔を見た事はあるが、それでも晴人はそう思った。

 

 

(良かったな、はやてちゃん……)

 

 

 はやてに家族が出来た事を喜びつつ、心の何処かで羨望している自分に気付いて、晴人は自嘲にも似た笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 夕方という事もあり、晴人は面影堂へと帰って行った。

 家には守護騎士達とはやてが残される。

 昨日とは違い、晴人が去っても賑やかなままの家は、はやてにとって新鮮な気分だった。

 シグナムとシャマルが他にも買ってもらった自分の服を興味深そうに見て、ヴィータは目線を自分の体のあちこちに動かして、自分の今の恰好を見つめている。

 ザフィーラは犬が伏せるかのように突っ伏していた。

 ゼロだったリビングが一気に4人も増え、派手とも言えるぐらいには、はやての世界に色がついた。

 

 守護騎士達を歓迎するはやての一方で、当の守護騎士達は困惑が抜けきっていなかった。

 

 

『皆はどう思う……』

 

 

 シグナムが『思念通話』で他の守護騎士達3人に呼びかけた。

 思念通話は心に言葉を浮かべて会話する魔法の事で、石田医師への言い訳ではやてとシグナム達が口裏を合わせる為にも使用した魔法だ。

 はやてはまだ魔導師というわけではないので自由には使えないし、思念通話は誰と会話をするかを選択できるので、この思念通話ははやてには聞かれていない。

 

 

『どう、って?』

 

『今代の主の事だ……。何というか、その……』

 

 

 聞き返してくるシャマルにシグナムは明確な言葉が言えずにいた。

 言えないわけでは無い、信じられないのだ。

 それが言葉にできないという形になって表れていた。

 それを代弁したのはザフィーラだった。

 

 

『優しい……と言いたいのか?』

 

『……そうだ』

 

 

 守護騎士に優しさを振りまく主は前代未聞だった。

 守護騎士とは、言うなれば闇の書の主の道具である。

 命じられるがままに闇の書の蒐集を行い、完成させて……。

 それを繰り返してきた。

 意思を持つこの4人を本当に道具としてしか扱っていなかった非情な主もいた。

 

 その扱いは凄惨を極めている。

 時折、優しい主と出会う事もあったが、今回のはやて程では無かったし、何よりも悠久の年月の為か、かつての主の多くは忘却の彼方だ。

 言ってしまえば4人は絶望にも等しい感情を持っていた。

 いや、絶望すらも超えて諦めに近い感情を抱いていたのだ。

 闇の書が転生し続け、いつか朽ちるまでずっとこのまま、道具のように扱われるのだと。

 

 それがどうだ、今回の主は。

 衣食住の面倒をみると言ってのけ、実際に服を見立ててくれた。

 はやて曰く命の恩人だという晴人も、闇の書の話を聞いたにもかかわらず、まるで普通の人間と変わらないかのように接してくれた。

 

 

『あたしは……』

 

 

 ヴィータが弱い声を出した。

 

 

『あたしは、まだ信用したわけじゃねぇ。だけど……』

 

 

 ヴィータは4人の中で最も年下だ。

 彼女達は闇の書の擬似人格によるプログラムに過ぎず、生まれた時間に差異は無い。

 だが、外見年齢相応の精神を持っている彼女達の中で、ヴィータは最も多感で、感情的だ。

 諦めの感情の中でやり場のない怒りを常に募らせていたのも彼女だった。

 そんな彼女は今まで感じた事の無い思いを感じていた。

 それは心地良さだった。

 

 

『悪くねぇ……と思う……』

 

 

 そう言ったヴィータは慌てて次の言葉を紡いだ。

 

 

『も、勿論、今の状態が続けばの話だ! もしかしたら、掌返してくるかもしんねぇしな!』

 

 

 思念通話を通して響くヴィータの声は本気で言っているわけでは無いとすぐに3人には分かった。

 恐らくだが、はやてという主は今までの主とは決定的に違っている。

 力を求めず、守護騎士達をまるで家族の様に受け入れている。

 言葉では疑っていてもヴィータも心の内ではそれを感じているだろう。

 今のヴィータの言葉は照れ隠しに近い。

 他の3人もそれを感じていた。

 

 だからこそ、戸惑ったのだ。

 今まで感じた事も、された事も無い優しさに、どう反応していいか分からない。

 シグナムは思念通話を切って、優しく微笑む現代の主を見つめた。

 

 

(主、はやて……か)

 

 

 未だ無表情に近いシグナムの顔が、ほんの少し緩んだ。

 

 

 

 

 

 守護騎士の4人がはやての家に住みだした翌日、晴人は攻介、凛子、後藤と共に0課に呼び出された。

 いつものようにデスクの向こうに木崎が座っている。

 全員が揃った事を確認すると、すぐさま木崎は話を切り出した。

 

 

「お前達に集まってもらったのは、これから0課に関する重要な事を話すからだ」

 

 

 0課に関わる重大な事。

 そこに身を置いている凛子や後藤からすれば、木崎のその言葉には食いつかざるを得ないだろう。

 が、晴人や攻介は普段の飄々としたマイペースな雰囲気を崩さなかった。

 

 

「……って、俺と仁藤は関係無いだろ?」

 

「そうだぜ。俺達は別に0課ってわけじゃないんだろ?」

 

「もう、それ言い出したら私だってホントは0課じゃないのよ?」

 

 

 関係無いのに呼び出されたのかと苦言を呈する2人を宥める凛子。

 此処のところ完全に0課の警察官のようになっていたが、本来の彼女は警視庁鳥井坂署勤務の警察官なのである。

 あくまで0課と関わりが深いから重宝されているだけであり、0課に正式に所属しているわけではないのだ。

 ともあれ、木崎はそんな晴人と攻介に次の言葉を発した。

 そしてその言葉で2人は完全に押し黙る事になる。

 

 

「仮面ライダーに関係している事だとしてもか?」

 

 

 以前までならその言葉でも気に留めなかっただろう。

 だが、彼等2人は一部の人間だけとはいえ既に『仮面ライダー』の名前で通ってしまっている。

 しかも晴人に至ってはフォーゼという別の仮面ライダーから仮面ライダーとして認識されてしまっているのだから言い逃れは出来ない。

 そしてそれは0課所属の後藤もそうだ。

 

 

「どういう事ですか」

 

 

 後藤が仮面ライダーである事を隠している為、0課が仮面ライダーを1人所属させている事は秘密になっているし、晴人達2人も協力者というだけで0課と直接関係がある訳では無い。

 0課は仮面ライダーとほぼ関係の無い組織と言っても通るぐらいには希薄な関係性だ。

 だからこそ、0課に関係する重要な事と仮面ライダーは関係の無いように思えた。

 後藤の言葉はそういう疑問を含んでおり、木崎もそれを察してか、それに答えた。

 

 

「結論から言うと、我々国安0課は、特異災害対策機動部と特命部、そして都市安全保安局とその傘下にあるS.H.O.Tの合同組織に参加する事になった」

 

 

 何やら難しそうな組織名が多く出てきて、晴人達の頭の中はしっちゃかめっちゃかだ。

 

 

「まず、今挙げた組織達はそれぞれに武装を保有している。

 エネルギー管理局特命部のゴーバスターズとヴァグラスの戦いぐらい、報道で見た事があるだろう」

 

 

 それなら晴人達も知っている。

 時折報道で機械の怪物がエネトロンを奪い、巨大ロボットを出現させてもいると。

 そしてゴーバスターズという存在はそれと戦っているとよくニュースで報道されている。

 

 

「特命部のゴーバスターズと同じでS.H.O.Tや特異災害対策機動部も同じように何らかの戦力を保有している」

 

 

 2つの組織の戦力の名称を出さないのは、0課が今は正式に参加していない為に木崎もそれを知らないからだ。

 機密を簡単に漏らすわけにはいかないという事であろう。

 木崎は説明を続ける。

 

 

「そういった特殊な武装を保有する組織が一時的に集まり、世界を脅かす敵を倒す。

 それがこの一時的な組織合併の大まかな理由だ」

 

 

 つまりは手を取り合って地球や人類の危機からみんなを守ろう、というわけであった。

 それはいいのだが、その説明だけではまだ分からない部分がある。

 

 

「あの、今の話の何処に仮面ライダーが関係しているんですか……?」

 

 

 恐る恐る手を挙げて凛子が尋ねた。

 常に厳しい目をしている凛子は自分が怒られるのではないか、木崎は少し怖い、と言った風に、木崎の事をちょっとだけ苦手にしている部分がある。

 そんなイメージ通りの厳しい目を凛子に向けて、木崎はそれに関しても説明を始めた。

 

 

「まず、その組織の1つに仮面ライダーが既に参加している」

 

 

 その言葉に反応したのは後藤だった。

 後藤はかつての戦いや映司を通して聞いた話で、知っている仮面ライダーが何人かいる。

 もしや、と思ったのだろう。

 

 

「まさか……」

 

「君が考えているのはオーズというライダーの事か?」

 

「……はい」

 

「残念だが違う。その仮面ライダーの名は『ディケイド』と言う」

 

 

 聞いた事の無い名に首を傾げる後藤は晴人と攻介の方に顔を向けるが、2人も手を横に振っていた。

 この場にいる3人のライダーが誰も知らない仮面ライダーの名が出てきたらしい。

 

 

「話を続けるぞ」

 

 

 話がずれる前に木崎は説明に戻った。

 木崎の前に立つ4人は最初よりも話の内容に興味を持ったようで、真剣な面持ちで木崎の言葉に耳を傾けた。

 

 

「更に、最近仮面ライダー連続襲撃事件という事件が起こっている」

 

 

 事件の内容は世界各国の仮面ライダーが襲われ、既に日本のWやディケイド、フォーゼも襲われているという話だ。

 外国では栄光の7人を始め、オーズやメテオ、アクセルといったライダーも襲撃にあっている。

 全員怪人を返り討ちにしたらしいが、それら全てが大ショッカーなる組織を名乗っているらしい。

 

 

「大ショッカーは怪人の証言からして、『全ての仮面ライダーの敵』だという事だ。

 そこで我々は操真晴人と仁藤攻介、そして後藤慎太郎。お前達3名もこの組織合併に参加させたいと考えている」

 

 

 突如とした提案に驚きつつ、攻介は木崎に食って掛かった。

 

 

「おいおい、何でだよ」

 

「仮面ライダーが襲われているという事もそうだが、大ショッカーは人も襲っている。

 それに怪人は複数で現れる事も多いそうだ。この観点から見て、仮面ライダーを単独行動させるよりも、余程安全であると判断しただけだ」

 

「でもよ、だったらファントム退治はどうなるんだよ!」

 

「慌てるな」

 

 

 詰め寄る攻介を木崎は溜息交じりに嗜めた。

 

 

「0課に対してと同じで、お前達は協力者となってもらう。0課が参加する合同組織からの出動、応援要請に従ってもらう事以外は、今まで通りにしていて構わない」

 

 

 つまり木崎の言っている事はこうだ。

 普段と変わらぬ生活はしていていいが、協力を求められたら応じろ。

 これは0課と魔法使いの関係性と全く変わっていない。

 0課が大規模な組織に変わっただけの事だ。

 確かにそういう事なら理解もしやすいし、拒否するような理由も無い。

 だが、木崎は危険性についても述べた。

 

 

「これは即ち、ヴァグラスやジャマンガといった、ファントム以外の脅威と戦う事にもなる」

 

 

 そう、単純に戦う相手が増えてしまうのだ。

 今まではファントムやそれに準じた敵を相手取っていたが、今後は各地で暴れるあらゆる敵組織の怪人と戦う事になるだろう。

 もしかするとかなり厳しい戦いにも首を突っ込む羽目になるかもしれない。

 しかし晴人は笑って見せた。

 

 

「俺はいいぜ、希望を守るのが魔法使いだ。なら、人を襲う奴等はやっつけないとな」

 

 

 酷く単純な理由だ。

 希望を守る魔法使いにとって、それがゲートであるかゲートでないかは重要では無い。

 それが守りたいと思うものだから守るのだ。

 例えばそれはゲートにとっての希望であったり、ゲートそのものであったり、ゲートとはまるで関係の無い一般人である。

 晴人は誰かを守りたいと思える、誰かの希望になりたいと思える人間だ。

 ならば、人の生活や命を脅かす敵と戦う事に迷う事は無かった。

 

 後藤はと言うと、特に意見は無いようで頷くだけである。

 彼が戦おうと思った最初の理由は『世界を守る事』である。

 だが、グリードとの戦いを通して「人を1人助けるだけでもこんなに大変なのに、世界を守ろうと思っていた以前の自分が信じられない」と考えを改めている。

 が、世界を守るという目的、夢自体は未だ失われておらず、これはその夢に近い事であると言える。

 テレビで報道されるヴァグラスの活動に辟易していたのもあり、今回の0課の合同組織参加に文句はないらしい。

 まあ、そう言った大義名分を抜きにしても0課所属扱いの後藤は強制参加が決定しているのだが。

 

 だが最後の1人、攻介は不服な様子だ。

 

 

「えー、じゃあ俺の魔力どうなるんだよ」

 

 

 そう、魔力は彼にとって死活問題だ。

 ある程度の期間内にファントムを倒して食わなければ、彼は死んでしまう。

 まさかヴァグラスのメタロイドを倒したところで魔力は得られない。

 それに魔法を使うだけでも魔力は減るわけだ。

 人を守る事を嫌だと言いたいわけでは無いが、自分の命だって大切に決まっている。

 何より常に死と隣り合わせの攻介からしたら尚更だ。

 ところがそんな攻介の言葉で思い出したかのように木崎は衝撃の事実を語った。

 

 

「……確か、ジャマンガという組織の怪物達は魔力で動いていると聞いている。あるいは……」

 

「マジで!?」

 

 

 その話に攻介が目を輝かせて飛び付いた。

 実際ジャマンガの遣い魔や魔獣は魔力で動いている。

 ひょっとすると、ビーストが倒せば食らう事が出来るかもしれないのだ。

 

 

「だったら俺も協力するぜ!!」

 

 

 そして、熱い掌返しを行って見せるのであった。

 そんな攻介に表情1つ乱す事なく、木崎はデスクに置いてあった資料を各人に渡した。

 

 

「今度、正式に合同組織の方に顔を出す事になる。それには日程が書いてある」

 

 

 見れば、確かに日程が書かれている。

 場所は『エネルギー管理局・特命部』となっている。

 

 

「本当ならもっと早く参加するつもりだったのだが」

 

 

 後藤と凛子がしっかり日程に目を通し、晴人は斜め読みで、攻介に至っては碌に読んでいないと、各々で日程表に反応する中、木崎は心情を吐露するかのように語り始めた。

 

 

「0課も権限があるとはいえ、警察組織。上の説得に時間がかかってしまった」

 

 

 警察上層部は人を守る組織が複数もあるという事が気に入らないらしい。

 人を守るのは警察だけで十分だ、という独善にも近い考え方をする人物は存在する。

 そうした人間は特命部などは元より、0課自体をあまり快く思っていない。

 その為、合同組織に参加するのに時間がかかってしまったのだ。

 頭のお固い上層部にはうんざりしているのか、木崎も疲れが出たかのような溜息をついた。

 

 

「……人同士でいがみ合っている場合ではないだろう……!」

 

 

 最後の言葉だけでは小さく、しかし確かな怒りを籠めながら吐き捨てた。

 人類を脅かす脅威は数多い。

 その中で、人間達は己の利権や名声を求めて時に争い、傷つけあう。

 歴史の中でも人間達は数多の戦乱を繰り返してきた。

 まるで、呪いか何かのようだ。

 木崎はそう思わずにはいられなかった。




――――次回予告――――
知らない場所で物語は動き出して、気付かないうちに進んでいきます。
強くなりたいと思ったら、私なら特訓、ですかね?
誕生日の奇跡、深まる謎。
そんな事が起こる、ちょっと前のお話です。
次回、スーパーヒーロー作戦CS、第35話『強くなる事』。
リリカルマジカル、がんばります。

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