スーパーヒーロー作戦CS   作:ライフォギア

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第31話 モノクロなH/先・輩・後・輩

 日曜の午前中、『新・天ノ川学園高等学校』の校門前。

 翔太郎は自身のバイク、ハードボイルダーに跨って人を待っていた。

 午前中故に斜めから差し込んでくる光が眩しくて、翔太郎は帽子を少し目元に寄せた。

 待っている人物はリーゼントという今時不良でもしないような特徴的な格好をしているような人物。

 待ち合わせ場所を此処に指定してきたのもその人物だ。

 指定された待ち合わせ時間の5分前に到着した翔太郎が待つ事1分、意外と早く目当ての人物は来た。

 

 

「うっす、お久しぶりっス! 翔太郎先輩!!」

 

 

 走り込んできた青年は明朗快活、天真爛漫と言った言葉が似合う眩しい笑顔で大袈裟に頭を下げてバッと頭を上げた。

 言い方から行動まで大袈裟な、その人物、如月弦太朗に翔太郎も軽く手を挙げて「おう」と返した。

 

 

「すんません、待たせましたか?」

 

「いや、待ち合わせ時間までまだ何分かあったろ。むしろ早くて驚いたぜ」

 

「先輩を待たせるわけにはいかないっス!」

 

 

 にこやかに言う弦太朗。

 服装はかつて見た学ランではなく、恐らく私服であろう恰好はしている。

 センスは良くも無いが悪くも無い。

 意外と着ている服は年相応に普通の恰好だった。

 ただしリーゼントだけは相変わらずでそこが異彩を放っている。

 

 

「んじゃ行きましょう! 多分、あいつ等ももう集まってるんで!」

 

 

 意気揚々と天高の校門をくぐった弦太朗は少し感慨深いものを感じていた。

 既に卒業してしまった高校。

 仮面ライダーとしての、高校生としての、色んな思い出が、青春の記憶が詰まった学園。

 今では同級生はそれぞれの道に進み、下級生は彼等が創立した『仮面ライダー部』という部を支えている。

 卒業してから何ヶ月も経っていないが、やはり最高の思い出が宿る学園に再び足を踏み入れるのは何となく嬉しかったのだ。

 

 

 

 

 

 翔太郎は弦太朗の案内の元、天高の校舎の中を歩く。

 既に帽子は外し、腰の帽子をかけられる部分に置いてある。

 

 天高の中に入ると先生や高校生が何人か歩いているのを見かけた。

 玄関前には『本日、オープンキャンパス』と書いた張り紙がしてあったからそれの案内などをしているのだろう。

 そういえば中学生ぐらいの生徒が天高に入って行ったような気がすると翔太郎は思い返した。

 特に部活に所属している人間は今の内に中学生達に自分達をアピールしておけば、来年度の新入部員が見込めるかもしれないのだ。

 恐らく生徒達が何人か日曜日なのに慌ただしく動いているのはその為だろう。

 

 とはいえ今は6月手前の5月下旬。

 今年入部したばかりの生徒の勧誘も未だ継続している所もあるだろうに、忙しいものである。

 その内の何人かとすれ違うのだが、その度に「あ、弦太朗さん!」とか、「お久しぶりです!」とか、果ては「オープンキャンパスに来たって事は、また高校生するんですか?」なんて冗談めかしく言ってきていた。

 そして言われている弦太朗は1人1人に笑って応対し、「またなー!」と元気よく別れるという事が続いていた。

 そんな弦太朗に翔太郎が話しかけた。

 

 

「随分知り合いがいんだな」

 

「みんなダチっスから!」

 

「あン? 高校の連中全員か?」

 

「俺が卒業前の連中はみんなそうっス!」

 

「……すげぇな」

 

 

 学校に行った事がある人なら分かるだろうが、友達は増やす事が難しい。

 数名の仲の良い友達ならともかく、校内全員が友達なんて夢物語もいいところだ。

 だが弦太朗という人間は『ダチ』という存在を非常に強く、真剣に考えた。

 

 自分からぶつかりに行き、どんなに最初が険悪でも必ず友達になる。

 さらに弦太朗の哲学の1つに『気に入らねぇからダチになる』というものがある。

 

 そんな信念を持ち、尚且つ曲げない彼は周りから徐々に認められ、いつしか校内の人間の殆どが友達となっていたのだ。

 翔太郎はその経緯を知らないし、どれほどの友達がいるかは知らない。

 しかし校内の人間全てが友達という凄まじさは分かる。

 それに弦太朗はそんな事で嘘をつくような人間にも見えない。

 後輩ながら結構な事をやってのけている弦太朗に少しばかり感心する翔太郎であった。

 

 

 

 

 

 しばらく歩くとある部室の前に到着した。

 部室の前には『宇宙仮面ライダー部』と書かれた看板が立てかけられている。

 翔太郎は看板に顔を近づけて怪訝そうな表情を作った。

 

 

「……宇宙仮面ライダー部……なんだそれ?」

 

「学園の平和を守る部活っス。『ゾディアーツ』が出てた頃に、俺と一緒に戦ってくれたダチと作った部活なんスよ」

 

「へぇ、協力者の集まりってわけか」

 

 

 弦太朗は勢いよく宇宙仮面ライダー部の部室の扉を開けた。

 扉が開く時に中々に派手な音がしたせいで部室の中にいた人の視線は一斉に扉の方に、弦太朗に向けられた。

 そして弦太朗と認識するや否や、彼を笑顔で迎えた。

 まず1人の女子が元気一杯に大袈裟に手を振って弦太朗に寄ってきた。

 

 

「弦ちゃーん! 久しぶりー!!」

 

「おー! 元気してたかぁ!?」

 

 

 挨拶代わりにハイタッチする2人。

 それに続いて他の面々も弦太朗に歩み寄った。

 そしてメンバーを代表して1人の青年が落ち着いた口調で口を開く。

 

 

「こうして集まると、もう懐かしく感じるな」

 

「おう。でも、今でも思い出は胸に焼き付いてるぜ!!」

 

「ホント、変わらないな」

 

 

 何処となく嬉しそうに微笑む青年。

 弦太朗も決して笑顔を崩さず、それどころか笑顔はさらに輝きを増しているようだった。

 と、此処で青年は弦太朗の少し後ろにもう1人、見た事の無い人物がいる事に気付いた。

 

 

「そちらの人は?」

 

 

 弦太朗はその言葉を聞き、翔太郎を自分よりも前に押し出して大きな声で紹介を行った。

 

 

「この人は俺の先輩ライダー、仮面ライダーWの左翔太郎先輩だ!!」

 

 

 その紹介に翔太郎含めて、全員が驚愕の表情となった。

 翔太郎はバッと弦太朗の方に振り向き、できるだけ小さめの声で焦った。

 

 

「普通に仮面ライダーって言っちまうのかよ!?」

 

「えっ、ひょっとして……マズかったっスか……?」

 

「いや、いいけどよ……」

 

 

 まさか開幕一発目から自分が仮面ライダーである事を暴露されるとは思っていなかった翔太郎は心の準備ができておらずに戸惑ってしまったのだ。

 

 翔太郎は基本、非常時以外は風都の人にも自分が仮面ライダーである事を隠している。

 ガイアメモリを使用する事は用途にもよるが犯罪である。

 そもそもガイアメモリ自体、風都以外で出回る事は少なく、その風都でも知る人は少ない。

 更に言えばガイアメモリを持っている事イコール罪、ではなく、それによる傷害、器物破損、殺人、誘拐、窃盗などが主な刑罰対象だ。

 

 とはいえWとアクセルの正体が翔太郎、フィリップ、竜だと知られてしまえば何らかのいざこざは発生するだろうし、最悪捕まる。

 そんな中でライダーをやって来たので正体を隠す事がデフォルトな翔太郎としては今の発言には驚かざるを得なかったというわけだ。

 

 仮面ライダー部の面々はじっと翔太郎を見つめる。

 先輩ライダーと共闘したという話は聞いた事があるが、こうして対面する事はあまり無かった。

 精々、一度とある事件でオーズの変身者とちらりと会った程度だ。

 基本的に他のライダーと関わり合いがあるのは同じくライダーの弦太朗が主だった。

 弦太朗は仮面ライダー部の面々の中に飛び込み、今度は自分の友人の紹介を翔太郎に始めた。

 まず先程声をかけてきた冷静そうな青年の両肩に手を乗せた。

 

 

「こいつは『歌星 賢吾』! ウチの参謀っス!」

 

 

 紹介をされた賢吾は軽く頭を下げた。

 続いて弦太朗は最初に声をかけてきた明るい女子に駆け寄る。

 

 

「こっちは『城島 ユウキ』、俺の幼馴染で……明るい変な奴!!」

 

「ちょっ、弦ちゃん! それ人の事言えてないからね~?」

 

 

 2人して笑いあう姿を見てどっちもどっちという感想を抱いた翔太郎の考えはそこまで間違ってもいないだろう。

 次に弦太朗は、ガタイの良い青年、高飛車そうな女子、対照的にちょっと暗めの雰囲気の女子、如何にもお調子者な青年の元に寄った。

 

 

「『大文字 隼』に『風城 美羽』、『野座間 友子』と『JK』!」

 

 

 隼と呼ばれたガタイの良い青年は敬礼の様なキザなポーズを取る。

 美羽と呼ばれた高飛車そうな女子は意外に律儀で、軽く頭を下げた。

 友子と呼ばれた暗めの雰囲気の女子は怪しげな笑顔を向け、JKと呼ばれたお調子者に見える青年はニッと笑って見せた。

 最後に弦太朗は今まで紹介した面々から一歩引いた位置にいた2人を前に押し出して紹介をした。

 

 

「最後に、この2人は『黒木 蘭』と『草尾 ハル』! 宇宙仮面ライダー部で一番後輩の2人!」

 

 

 天然パーマのおとなしそうな雰囲気のハルと強気と真面目が合わさった雰囲気を醸しだす蘭は揃って礼儀正しく頭を下げた。

 

 

「で、俺と流星も合わせて、俺達宇宙仮面ライダー部! 学園の平和を守る部活っス!!」

 

 

 この場にいない流星を含め、総勢10人の仮面ライダー部。

 そのうちの9人、約半数がOB、OGの中、こうして揃う事は非常に稀だ。

 現役生であるJK、友子として懐かしい。

 ゾディアーツ事件解決後に正式に入部した蘭とハルにとっては、ゾディアーツ事件で助けられた先輩の集合だ。

 面々はジッと翔太郎の方を見つつ、賢吾は弦太朗に尋ねた。

 

 

「W……確か、なでしこの時に助けてもらったとお前は言っていたな」

 

「おう。映司さんに案内された所で会ったんだよ」

 

 

 忘れもしない、『SOLU』と呼ばれる宇宙生命体が擬態した女子高生との思い出。

 その際に『なでしこ』という名のSOLUに弦太朗は友情を、いや、恋を感じたりとか、SOLUを狙う組織が襲い掛かってきたりとか、色んな意味で大変だった事件だ。

 

 SOLUを狙う組織は財団X、かつては風都に出現し、オーズやグリードの力の源であるコアメダルに投資を行い、ゾディアーツ関係のスイッチにも同じく投資をしていた死の商人。

 しかしその事件の際には幹部の1人が暴走を起こし、独断行動をしただけだったのだが。

 とはいえ共通の敵を持ったW、オーズ、フォーゼ、即ち、翔太郎とフィリップ、映司、弦太朗は一致団結して財団Xと戦ったというのが翔太郎と弦太朗の初の出会いだ。

 

 翔太郎を見てユウキはテンション高めに口を開いた。

 

 

「弦ちゃんや流星君以外の仮面ライダーとこんな風に会うのって珍しいよね! なんか緊張するなぁ……」

 

 

 仮面ライダー部も他に仮面ライダーがいる事は把握している。

 何人かの仮面ライダーと知り合った弦太朗や流星が元部員である事や、ライダー部自体がその名の通り仮面ライダーとの関わりが深い事もあり、ライダーとの人脈はかなりある。

 実際、弦太朗は今や伝説と言われている7人ライダー全員と知り合いだ。

 しかしこうして変身前の生身で会う事はあまり無い。

 こうしてライダー部の部室まで先輩ライダーが御足労するという状況は皆無だったのだ。

 

 ところで今回、ライダー部が集結した理由は流星からの報告、『仮面ライダーが狙われている』という言葉が発端だ。

 流星は自分が襲われた事や他のライダーも既に襲われている事をライダー部に話した。

 新たな戦いを予感した面々はこうして再び集まったわけなのだが、先輩ライダーまで来るとは弦太朗以外の誰も聞いていない。

 美羽がその事を弦太朗に質問する。

 

 

「でも弦太朗、何故先輩ライダーを呼んだの?」

 

「それは俺から説明させてもらうぜ」

 

 

 答えようとする弦太朗を遮り、翔太郎が口をはさんだ。

 

 

「俺達Wやディケイドってライダーも、既に襲撃を受けた」

 

 

 聞き覚えの無いディケイドの名に弦太朗は首を傾げた。

 

 

「ディケイド……?」

 

「俺が映司やお前よりも前に知り合ったライダーだ」

 

「って事は、俺の先輩っスね!!」

 

「まあ、そうなるな」

 

「おぉぉぉ!! ディケイド先輩! ぜってぇダチになるぜ!!」

 

 

 突如テンションを上げて燃えだした弦太朗の叫びに思わずビクッと反応してしまった翔太郎。

 以前に一緒に戦った時もそうだが、弦太朗という人間は叫び癖でもあるのだろうかと考える翔太郎だが、周りのライダー部の顔が「やれやれ」と言いたげな表情になった事でいつもの事なのだと理解した。

 弦太朗が叫び終わった後、賢吾が翔太郎に「すみません」と言いつつ一礼した。

 苦笑いしつつ、翔太郎は話を続ける。

 

 

「敵の名は大ショッカー。少なくとも俺や、俺の仲間の前に現れた奴はそう名乗った。

 その辺は流星とかってのから聞いているか?」

 

 

 その言葉に全員が頷いた。

 流星と竜がフランスでの一件で知り合った事で、この2人を通して情報は共有できているようだ。

 

 

「そんでもって、大ショッカーの狙いはこの世界にいる全てのライダー。

 裏を返せば俺達全員にとっての敵だ」

 

 

 その言葉を聞き、ハッと何かに気付いた友子が机の上に置いてあったパソコンを開いた。

 既に電源が入っていてスリープ状態だったパソコンを操作し、ある動画を開き、それを全員に見えるように見せた。

 

 

「これ、もしかしたら……」

 

 

 パソコンの画面は4分割され、4つの動画を映し出していた。

 4つの動画全て、仮面ライダーと怪人が相対している。

 それぞれ1号、V3、X、ストロンガーが何らかの怪人と戦っている様子だった。

 1号は蜘蛛のような印象を受ける怪人と。

 V3は亀の甲羅に大砲を埋め込んで人型にしたような怪人と。

 Xは魚のヒレのような体に三叉の鉾を持った怪人と。

 ストロンガーは全身バネの様な体をした怪人と。

 

 

「1号はヨーロッパ、V3はエジプト、Xはインドネシア、ストロンガーはロシアで撮影された映像みたい……」

 

 

 友子が言った国名を聞いて翔太郎は竜から聞いた話の1つを思い出した。

 7人ライダーが大ショッカーと思わしき怪人に襲われた場所。

 それらが確か、この映像の国々と合致している筈なのだ。

 翔太郎は映像を見せた友子の方を向き、頷いた。

 

 

「ああ、多分大ショッカーと戦闘中のライダーだ」

 

 

 全員がその映像を険しい顔で見つめている。

 仮面ライダーが狙われている事は弦太朗や流星が狙われている事と同じ。

 そしてその2人は宇宙仮面ライダー部の面々にとっても大切な友達だ。

 彼等2人が大ショッカーと戦うというのならライダー部だって黙っているつもりは無い。

 美羽が腕を組んで深刻そうにつぶやく。

 

 

「また戦いが始まるかもしれないのね……」

 

 

 戦う事に躊躇いは無い。

 勿論恐怖は無いわけじゃない。

 それでも弦太朗の為、流星の為、戦いに巻き込まれるかもしれない誰かの為に戦える者達がライダー部という人間達だ。

 未だ流れ続ける映像から目を離して翔太郎が全員に向かって再び口を開いた。

 

 

「で、だ。俺が此処に来た理由は……」

 

 

 弦太朗と連絡を取ってライダー部に顔を出した理由を語り出そうとした翔太郎。

 しかし、それを全て口に出す前にそれは遮られた。

 生徒の悲鳴と、爆音によって。

 

 

 

 

 

 なぎさとほのかの通うベローネ学院は高校までエスカレーター式だ。

 だが、他の高校への受験が禁止なわけでは無く、実際に中学から高校に行く際にベローネを離れる人もいる。

 そんな訳でオープンキャンパスに行く事は無駄では無い。

 なぎさはほのかに連れられて新・天ノ川学園高等学校にやってきていた。

 ひかりは中学1年という事でオープンキャンパスはいいだろうという事と、ひかりが住んでいる『TAKO CAFE』の手伝いという事で今日は一緒では無い。

 校門を通る際にちょっと変わったバイクに跨る帽子の青年を見かけたが、誰かと待ち合わせでもしていたのだろうか。

 

 さて、校舎の中に入ったなぎさとほのかは一先ず先生方から話を聞くためにオープンキャンパス用に解放され、先生や現役天高生とオープンキャンパスに来た生徒が話す為の場所となっている教室に向かった。

 そこで色んな質問をした後、学園内を見て回るというのがほのかの提案だ。

 至極真っ当にオープンキャンパスを回る方法である。

 オープンキャンパス用の教室の場所を確認した後、なぎさとほのかは早速そこに向かったのだが、その道中、とある教室の前でなぎさは急に止まった。

 

 

「どうしたのなぎさ?」

 

 

 ほのかが声をかけるが、なぎさは何かを食い入るように見つめている。

 なぎさが見ている物にほのかも視線を向けた。

 それは看板、そして看板にはこう書かれていた。

 

 

「宇宙、仮面ライダー部……?」

 

 

 ほのかが声に出して読んだその部活の名は、確かになぎさとほのかの足を止めるのに十分だった。

 彼女達2人は先日、仮面ライダーと出会っている。

 魔法使いで仮面ライダーの2人、晴人と攻介だ。

 今まで都市伝説でしかなかったそれと知り合った2人にとって、仮面ライダーという言葉はちょっとだけ馴染みがある言葉となっていた。

 

 

「こんな部活あるんだ……」

 

 

 興味深そうに見つめるなぎさだが、ほのかは冷静に部活に関して分析した。

 

 

「でもなぎさ、都市伝説を調べる部活なだけかもしれないわよ?」

 

 

 仮面ライダーの存在はほぼ確定されているとはいえ、世間一般では非現実的なライダーの存在を信じない人も多い。

 ヴァグラスが跋扈しゴーバスターズが公に戦っている世界で何を今更、という感じではあるが、40年以上前から都市伝説にあった仮面ライダーの存在は、『都市伝説』という肩書きが定着してしまっている節がある。

 都市伝説を調べるオカルト研究会的なそれではないかとほのかは考えた。

 

 

「だよねぇ、まさか本物の仮面ライダーがいるわけないもんね」

 

 

 なぎさも笑ってほのかに返した。

 宇宙仮面ライダー部の部室前を後にして、2人はオープンキャンパス用に解放された教室に向かおうとした。

 だが、その足が進むよりも前に足を止めさせる事態が起こる。

 生徒の悲鳴と、爆音が。

 

 

 

 

 

 翔太郎と宇宙仮面ライダー部のメンバーは生徒が逃げている方向を逆走し、爆音の正体に向かっていく。

 そうして校門近くの広場についた彼等が見たのは、荒れた学校の姿だった

 校舎の一部は破砕しており、暴れた影響と瓦礫が崩れた影響で辺りには砂埃が舞う。

 砂埃の中からは生徒やオープンキャンパスに来ていたと思わしき一般人が逃げ惑う。

 ライダー部の面々は安全な方、天高の外に逃げるように人々を誘導する。

 

 その最中、砂埃の中に更に2つの大きめの人影が写る。

 砂埃が晴れ、その姿が日に照らされ、くっきりと露わになった。

 1体は見るからに動物のサイをイメージさせる怪物。

 もう1体は体の左側が赤く、頭から蠍の尻尾のような物が生え、左手にはハサミ。

 更に体の右側はトカゲのような表面となっている怪物。

 2体とも明らかに『怪人』と形容できるそれ。

 蠍とトカゲを合わせたような怪人の名は『サソリトカゲス』。

 サイのような怪人は正しくそのまま『サイ怪人』という名だ。

 

 

「ソォォォリィィ!! 仮面ライダーァ、でてこぉいッ!!」

 

 

 サソリトカゲスがハサミを乱暴に振り回しながら大声を上げた。

 翔太郎は手首を顔の横でスナップさせつつ、2体の怪人を睨む。

 

 

「どうやらご指名の様だぜ、弦太朗」

 

「うっす。賢吾達はみんなを避難させといてくれ!」

 

 

 ライダー部の面々は弦太朗の言葉に強く頷くと、すぐさま辺り一帯の人間達の避難誘導に入った。

 怪我をした者には手を貸し、ガタイの良い隼を中心に男連中は瓦礫を除けたりと、各々に出来る事をしている。

 その様子をちらりと見る翔太郎と全く見ずに怪人に向かって走る弦太朗。

 避難誘導を行うライダー部を一瞬たりとも見ない弦太朗の行動は仲間への信頼の証と言えるだろう。

 出会って日が浅いどころか1時間も経っていない翔太郎もライダー部の面々が伊達に仮面ライダーと肩を並べていなかったのだと理解し、怪人へ意識を集中させた。

 一瞬遅れた翔太郎を余所に、弦太朗は怪人の前に立っており、翔太郎はその左隣に並び立った。

 

 2人は2体の怪人の前に立ち塞がる。

 突如対峙した2人の人間を前に怪人達も一瞬、動きを止めた。

 サソリトカゲスが翔太郎と弦太朗をそれぞれ一瞥する。

 

 

「何だぁ? 貴様等は」

 

 

 その言葉に弦太朗は『フォーゼドライバー』を取り出す事で答えた。

 4つの『アストロスイッチ』が装填され、バックルの右側にはレバーが取り付けられている。

 それを腰に宛がうと、フォーゼドライバーはベルトとなった。

 2体の怪人はそれを見て一気に警戒の色を強めた。

 

 

「ほう……! 成程、ようやく出たか仮面ライダーァ!!」

 

「おっと待ちな、こっちもそうだぜ」

 

 

 弦太朗を注視する怪人達に余裕の笑みで語りかけつつ、ダブルドライバーを見せつけて腰に巻く翔太郎。

 翔太郎はダブルドライバーを通してフィリップと通信を始めた。

 ダブルドライバーは翔太郎の腰に巻かれた瞬間、別の場所にいるフィリップにも巻かれるのだ。

 フィリップはそれにメモリを装填する事で翔太郎側にメモリと意識を転送させ、ダブルとなる。

 それ以外にもダブルドライバーは2人の意識を共有させる機能が備わっており、装着するだけで2人は通信する事が可能なのである。

 

 

「フィリップ、大ショッカーの野郎だ。……おい?」

 

 

 語りかけても返事が来ない。

 だが、眠っているというわけでも気付いていないわけでもないらしい。

 その証拠に翔太郎へ数瞬間を置いてから、フィリップが返事を返してきた。

 

 

『ああ、翔太郎。僕は今、プリキュアについて調べているんだ。実に興味深いよ彼女達は。

 古代にも存在したという記述、地球の本棚にも詳細は載っていない数々のアイテム。

 調べても調べても調べ足りない、それどころか謎が増えていくよ。今知ったのはだね……』

 

「分かった、分かった!!」

 

 

 翔太郎は手で制止させるようなジェスチャーをしてフィリップとの通信を中断し、溜息をついた。

 

 フィリップがまた『ハマって』しまった。

 

 彼は気になった事柄があると地球の本棚に籠って調べ物をするという癖がある。

 プリキュアについてハマっていたのは知っていたが、まさか今日にいたるまで引き摺っているとは思わなかったのだ。

 こうなったフィリップは余程の状況でない限り動いてくれない。

 それが例え、ダブルへの変身を要求するものだったとしてもだ。

 

 だが、これは裏を返せば『翔太郎ならその程度、大丈夫』というフィリップなりの信頼の表れでもある。

 翔太郎も溜息をつく事こそあるが、本当に大事な時は共に戦ってくれるフィリップを心の底から信頼している。

 さて、信頼関係云々は良いとしてもダブルへの変身は実質不能になってしまった。

 翔太郎はダブルドライバーを腰から外して仕舞いこんだ。

 

 

「どうしたんスか?」

 

 

 既にフォーゼドライバーを巻いて臨戦態勢の弦太朗が尋ねた。

 翔太郎は怪人から目を離さず、呆れた表情を作る。

 

 

「フィリップの奴がな……まあ、ダブルへは変身できねぇ」

 

「フィリップ先輩、何かあったんスか!?」

 

「いや、ンな深刻な事じゃねぇよ、もっとどうでもいい事だ。さてと……」

 

 

 翔太郎は新たにバックルを取り出した。

 それはダブルドライバーから左側のスロットを取り外したような形状をしている。

 片側を失ったダブルドライバー、『ロストドライバー』だ。

 1つしかない変身用のスロットが表している通り、これは1人で変身する為のツール。

 腰に宛がわれ、ベルトとなったロストドライバー。

 そして翔太郎はジョーカーメモリを左手で持ち、右斜め上、顔の右隣辺りの位置まで持っていって構えた。

 

 

「悪いが、こいつで相手してもらうぜ」

 

 ――――JOKER!――――

 

 

 ジョーカーメモリを起動させる。

 状況を飲み込めていない弦太朗だが、一先ず変身する事が先だと頭を切り替えて、フォーゼドライバーを操作する。

 スイッチ装填用のソケットの前部に付いている赤いスイッチを右側2つを左手で、左側2つを右手で順に押し、下に向けて倒していく。

 スイッチを1つ倒していく度に起動音が鳴り、だんだんと音が高くなっていく。

 4つのスイッチを全て押した後、フォーゼドライバーから電子音声が鳴り始めた。

 

 

 ――――Three――――

 

 

 始まったのはカウントダウン。

 それと同時に弦太朗は左手の拳を握って右側に振りかぶり、右手でベルト右側面にあるレバーを握った。

 同時に翔太郎も左手に持ったジョーカーメモリをロストドライバーに装填し、ゆっくりと変身の姿勢を取る。

 翔太郎は右手を握って左側に振りかぶるように持っていく。

 並び立つ翔太郎と弦太朗の腕の形はまるで、アルファベットの『W』を形作るかのようになっていた。

 

 

 ――――Two――――

 

 

 避難誘導が完了しつつある中で、怪人達が警戒と臨戦態勢を整える中で、変身のカウントが進んでいく。

 

 

 ――――One――――

 

 

 そして、最後のカウントが告げられたと同時に、2人の青年は同時に叫んだ。

 

 

「「変身!!」」

 

 

 弦太朗は右手で握っていたレバーを引いた後、右手を勢いよく真上に伸ばすと同時に上を向き、左手は左斜め下にこれまた勢いよく伸ばす。

 翔太郎はロストドライバーのスロットを右側に倒す形で展開、それと同時に握っていた右手の親指と人差し指を伸ばしてアルファベットの『J』を形作った。

 

 弦太朗の体には眩い光、大量の『コズミックエナジー』が降り注ぐ。

 それはスイッチのエネルギーである特殊なエネルギーの事だ。

 そして弦太朗の体にスーツが装着されていき、変身が完了する。

 パッと見は白い宇宙飛行士のようなスーツに、右手に丸、左手に四角、右足にはバツ、左足には三角のマークがついていて、白い体にオレンジ色の2つの複眼が光る。

 その名は、『仮面ライダーフォーゼ ベースステイツ』。

 

 翔太郎の体にはジョーカーメモリから解放されたエネルギーが鎧となって装着されていく。

 ジョーカーメモリが鳴らす特有の電子音声と共に、変身は完了する。

 シルエットはダブルそのもの。

 だが、色を分けていた中央の銀色のラインは消え、全身黒一色。

 ダブルのジョーカー側の色でダブルを染め上げたような姿。

 メモリと同じく切り札の名を持つ仮面ライダー。

 その名は、『仮面ライダージョーカー』

 

 フォーゼは体をグッと屈めた。

 

 

「宇宙……」

 

 

 そして、体全体でバツを描くように思い切り両手を挙げ、伸びをするようなポーズをしながら叫んだ。

 

 

「キタァァァァァッ!!」

 

 

 そしてフォーゼは右手で自分の頭をキュッと撫でた後、右腕を眼前に突き出して怪人達に宣言する。

 

 

「仮面ライダーフォーゼ! タイマン張らせてもらうぜ!!」

 

 

 タイマンとはつまり1対1という意味だ。

 本来なら2体の怪人相手に使うのはおかしいが、これを言うのはフォーゼの変身者である弦太朗の拘りみたいなところがある。

 それに今回はタッグマッチに近く、そういう意味で言えば1対1と1対1のタイマンと言えなくもない。

 タッグパートナーとも言える、真っ白なフォーゼとは対照的な真っ黒なジョーカーは右手を顔の位置まで挙げた後、手首をスナップさせた。

 

 

「行くぜ、怪人さんよ」

 

 

 この言葉を皮切りに、2人の仮面ライダーと2体の怪人の戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 外の避難誘導が完了し、校舎の中の避難誘導を進めるライダー部。

 そんな中で隼はフォーゼとジョーカーが2体の怪人と戦う様子を見て、賢吾に緊迫感をそのままに質問をした。

 

 

「賢吾、ダイザーは出せないのか?」

 

「すまない、しばらく使っていなかったからメンテナンス中なんだ。今すぐという訳には……」

 

「そうか……」

 

 

 ダイザーとは、『パワーダイザー』という黄色いパワードワーカーの事だ。

 元々は月面の建設、土木作業の為に造られた物なのだが、賢吾達が在学していた頃はフォーゼの戦闘支援の為に使われていた。

 隼以外の人間にも乗れない事は無いのだが、体力を相当に消耗する為、アメフトで鍛えられた身体を持つ隼が最適任者として乗っていた機体。

 

 戦いが終わった後、ダイザーの使用頻度は当然の事ながら激減した。

 ゾディアーツとも渡り合える機械とはいえ、それは機械である事に変わりは無い。

 使わなかった時間が長かったのだからメンテナンスも当然と言える。

 流星に今回、ライダー部が再び集まる理由は説明されていた。

 新たな戦いを予感した賢吾はダイザーのメンテナンスをする事にしたのだが、メンテナンスは流星から連絡が来てからなので日数があまり経っていない。

 しかも間の悪い事にそのタイミングでの敵襲にダイザーのメンテナンスは間に合っていない。

 ダイザーで加勢したい隼と、すぐにでもそれを実行したい賢吾は歯痒さを感じつつも避難誘導を続けた。

 

 

 

 

 

 なぎさとほのかは避難誘導をしている青年達の目から避難する人達に紛れることで逃れた。

 青年達、つまりライダー部の面々の目から逃れた2人はフォーゼとジョーカーが怪人と戦う様を見ていた。

 

 

「ほのか、あれってやっぱり仮面ライダー……?」

 

「そう、みたいね……」

 

「うっそ……」

 

 

 こっそりと隠れながらひそひそと話す2人。

 悲鳴と爆音を聞いて、今までの経験則上只事では無いと判断した2人は急ぎ此処まで来たわけなのだが。

 隠れているのは避難誘導をしている青年達に見つかってしまえば避難を強制的にさせられてしまい、この場にいれなくなると考えたからだ。

 本来なら避難するのが正しいと理解してはいるのだが、プリキュアという力を持っているのに人を助けないという選択肢は彼女達には無かったのだ。

 

 まず様子を見る為に隠れた2人が見つけたのは仮面ライダーと思わしき戦士と天高を襲う怪人。

 なぎさとほのかもこれには驚いた。

 ウィザードとビーストというライダーと会ったばかりだというのに、またも別の仮面ライダーをこの目にする事になるとは思ってもいなかったからだ。

 なぎさもほのかもプリキュアという普通の人なら到底信じないであろう戦士なので、異常事態への耐性は少なからずある。

 しかしこう何度も都市伝説にもなっているような戦士を見ると驚きも隠せないというものだ。

 それにある程度の慣れはあるにしても、彼女達はまだ中学生。

 大人のように冷静な対応や分析ができるような歳では無いのだ。

 

 

「ありえなーい!!」

 

 

 だからこんな風に、目の前の異常事態を前に叫んでしまうのも仕方が無いのかもしれない。

 ほのかは慌ててなぎさの口を抑え、見つかっていないかと辺りを気にした。

 幸い、戦闘の音で気付かれていないようだった。

 しかし例え、大人のように振る舞えずとも2人には善良な心がある。

 それを正義というのか、純粋な心というのかは別にして、2人は天高を襲い、人々を傷つける怪人を前にして黙っていられるような人間では無かった。

 見れば仮面ライダー達は怪人達に苦戦をしている様子だった。

 人々を襲う怪人達を放ってなどおけない。

 

 

「とにかく……私達も、ほのか!」

 

「うん!」

 

 

 2人は隠れていた場所から飛び出し、戦場へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 ジョーカーはサイ怪人相手に攻めあぐねていた。

 サイ怪人はパワーファイターだ。

 突進攻撃と頭の角による突きは脅威だろう。

 対して、ジョーカーの力はダブルの半分。

 パワー勝負に持ち込めるはずもなく、ジョーカーは避ける事に専念していた。

 幸いにも突進攻撃は単調で避けること自体は容易だった。

 だが、ジョーカーとしてもパワータイプの相手に不用意な接近は避けたい。

 

 ジョーカーはメモリ1本で変身した分、ダブルよりも各能力が劣る。

 ただしその代わりに、ジョーカーメモリ特有の『技』の部分が極限まで高められた技巧に特化した戦い方ができるようになるのだ。

 そこに翔太郎の経験も加わるのでジョーカーは技術という面で見れば、かなり強力と言えるだろう。

 だが、例えば大きな一撃を何度も与えなければいけないような防御力とか、単純に技術よりも力に物を言わせるタイプには少し弱い。

 何度か隙を見て攻撃をした反応を見るに、サイ怪人の皮膚は少し硬い程度。

 ジョーカーでもダメージは与えられる範囲内だ。

 とはいえパワーを封殺できない以上、そう簡単に攻められないのも実情だった。

 

 

「さぁて、上手く捌かねぇとな……」

 

 

 敵の攻撃をいなし、如何に自分の攻撃を当てにいって隙を作るかをジョーカーは考えていた。

 それが勝てる最良の方法だと判断したからだ。

 サイ怪人は再び突進を仕掛けてきた。

 それをギリギリのところで避け、すれ違いざまに左拳で一撃を入れたジョーカー。

 後頭部に一撃を食らったサイ怪人は派手に転げる。

 が、ダメージを受けたのはサイ怪人だけでは無かった。

 

 

「ぐあっ……!!」

 

 

 脇腹に走る痛みにジョーカーの仮面の中で翔太郎も顔を歪める。

 突進は完璧に避けた。

 だが、すれ違いざまに拳を入れてきたのはジョーカーだけでなくサイ怪人もだ。

 只のパワー馬鹿と思っていたが、さすがに何度も突進をかます中で学習したらしい。

 防御能力もダブルより劣るジョーカーにパワーファイターの拳はクリーンヒットでなくともそれなりに効いてくる。

 幸いにも痛みは収まってすぐに体勢を整えられたが、相手のサイ怪人は今の一撃を受けても元気そうに立ち上がって見せた。

 攻撃力だけでなく防御能力の差も見せつけられた形となるも、ジョーカーは余裕の態度を崩さない。

 

 

「まだまだ行くぜ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 フォーゼはサソリトカゲス相手に攻めきれずにいた。

 フォーゼの戦闘スタイルはスイッチを使って武装を出現させ、それを使っての攻撃と接近しての挌闘戦だ。

 戦いが始まってからフォーゼは接近し、ハサミに注意しつつ腕や足、時には頭突きすらも行使して攻撃を仕掛けた。

 しかし、硬い体を持つサソリトカゲスは中々怯まない。

 ならば大きな一撃を、と、フォーゼは一旦距離を取った。

 

 

 ――――ROCKET ON――――

 

 

 ベルトの一番右側、丸型のスイッチを押して右腕に『ロケットモジュール』を出現させるフォーゼ。

 右腕に装着されたオレンジ色の大型のロケットは大きな推進力とそれによる突撃を可能にする。

 

 

「おぉぉぉらぁぁッ!!」

 

 

 気合を込めた叫びと共にロケットモジュールを点火、サソリトカゲスに向かってロケットモジュールの先端をぶつける形で突っ込んだ。

 ロケットパンチという言葉があるが、ロケットを腕に付けて突撃する文字通りのロケットによるパンチな攻撃だ。

 胴体に決まった一撃はサソリトカゲスを後ろに数歩下がるも、すぐにハサミを振るって逆襲を開始した。

 

 

「ソォォリィィィィ!!」

 

「おわっ!?」

 

 

 スイッチをオフにしてロケットモジュールを外し、フォーゼは背部のブースターを使ってその場から飛び退く。

 背部のブースターは推進や姿勢制御に用いられる汎用性があるフォーゼの通常武装だが、推進力だけを見た場合はロケットモジュールの方が上で使い分けられる事が多い。

 こういう飛び退いて攻撃を避けるのならロケットモジュールよりも小回りの利くこちらの方が良いというわけだ。

 

 

「かてぇな、こいつ」

 

 

 ロケットモジュールのパンチは勢いも威力も通常のパンチよりもずっと強力だ。

 しかし、それが胴体にクリーンヒットしたサソリトカゲスは目に見えるダメージは受けていないように見えた。

 最初の接近戦、ロケットモジュールのパンチ、そのどれでもダメージが無い。

 勿論フォーゼも必殺の一撃を含め、他の手を大量に残してはいるが、大抵の敵は多少なりともダメージを受けた様子を見せるのだが。

 直接殴った感触といい、サソリトカゲスは非常に硬い。

 恐らく甲殻類である蠍の特性を持っているからであろう。

 

 

「んじゃ、これならどうだ!」

 

 

 フォーゼはベルトの左から2番目にある三角のソケットから『ドリルスイッチ』を引き抜き、新たに青い『19番』のスイッチを装填した。

 そしてそのスイッチをガトリングのように回転させ、起動させた。

 同時にベルトの右から2番目にあるバツのソケットに装填されている『ランチャースイッチ』も起動させる。

 

 

 ――――GATLING ON――――

 

 ――――LAUNCHER ON――――

 

 

 右足に5連装のランチャー、左足に6連装のガトリングが装備される。

 フォーゼは両足でしっかりと踏ん張り、両足の遠距離武器を一斉に発射した。

 ランチャーモジュールからミサイルが、ガトリングモジュールから無数の弾丸が放たれる。

 派手な見た目に違わずこの2つのスイッチは高威力な攻撃だ。

 ミサイルとガトリングの着弾による爆発の煙でサソリトカゲスの姿が見えなくなる。

 倒せずともダメージぐらいは、そう考えていたフォーゼ。

 

 だが――――。

 

 

「ソォォォォリィィィィィ!!!」

 

 

 雄叫びと共に煙の中からサソリトカゲスが現れ、ハサミを突き出してフォーゼの首を捉えた。

 突然の突進とランチャーとガトリング、両足のモジュールで咄嗟の回避運動ができず、フォーゼは首をハサミに挟まれてしまった。

 

 

「がっ……!!」

 

「ソォォォリィィィィ……」

 

 

 サソリトカゲスの鳴き声はまるで嘲笑うかのようだった。

 ハサミは徐々に、本当に徐々に挟む力が強くなっていく。

 じわじわと締め付けていくそれは相手を苦しめようという意思が伝わってきた。

 動く両手で両足のスイッチを解除した後、ハサミに対抗しようとするが、サソリトカゲスの力は強く、中々離れてくれない。

 

 

「ぐぁっ……!!」

 

「フハハァ……死ね、仮面ライダーァ……!!」

 

 

 諦めないフォーゼ、何らかの打開のスイッチがあるか、相手の何処かに弱点があるか、首を絞められながらも考える。

 まだまだ戦いは始まったばかりなのだ。

 首も絞められているとはいえ、相手が余裕を見せている為か意識は未だハッキリしている。

 苦しみに耐えつつ打開策を探すフォーゼ。

 だが考えが纏まるよりも先に、打開の瞬間は訪れた。

 

 

「「デュアル・オーロラ・ウェーブ!!」」

 

 

 突如乱入してきた少女の叫び。

 その声に避難誘導を終えた仮面ライダー部が、フォーゼが、ジョーカーが、サソリトカゲスが、サイ怪人が一斉に目を向けた。

 目を向けた先には眩い光が球体上に、虹色に輝いていた。

 その光は戦場に迫っていく。

 

 そして――――――。

 

 

「だぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 叫びと共に、光の球体から黒い衣装に身を包んだ少女が飛び出した。

 黒い姿の少女はサイ怪人に殴り掛かり、呆気にとられていたサイ怪人を吹き飛ばす。

 

 

「やぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 更に、今度は白い衣装に身を包んだ少女がサソリガドラスに接近した。

 フォーゼの首を挟んでいる為、サソリトカゲスとフォーゼの距離は限りなく近い。

 しかし首を挟むために伸ばしている腕の分だけ隙間が空いており、白い姿の少女はその隙間に足を滑りこませてサソリトカゲスを蹴り飛ばした。

 それによってフォーゼはハサミから解放され、痛む首をさすりながら白い姿の少女の後姿を見た。

 ジョーカーとフォーゼの目の前に、黒と白の2人の少女が並び立った。

 その姿を見たフォーゼとライダー部は呆気にとられるが、ジョーカーだけは違った。

 

 

(こんな事、前にも……)

 

 

 ほんの数日前、今目の前にいる少女達と同じくらいの年頃の少女2人に助けてもらってしまった事がある。

 その時と敵の数も状況も違うが、何かがダブって見えた。

 2人の少女は吹き飛ばして距離を離した2体の怪人を目の前にして自らの名を名乗った。

 

 

「光の使者、キュアブラック!」

 

「光の使者、キュアホワイト!」

 

「「ふたりはプリキュア!!」」

 

 

 ホワイトが怪人達を鋭く指差す。

 

 

「闇の力の僕達よ!!」

 

 

 続き、ブラックも同じように怪人達を指差した。

 

 

「とっととおうちに、帰りなさい!!」

 

 

 プリキュア2人の攻撃を受けた怪人達はゆっくりと起き上がり、敵意を剥き出しにしてプリキュアを睨む。

 一方でフォーゼやライダー部は反応に困っている様子だった。

 

 

「プ、プリキュア、キター!?」

 

 

 プリキュアなるものが何なのかさっぱりわかっていないフォーゼだが、とりあえずそう言っておいた。

 後ろのライダー部の面々は参謀、つまりは一番色々知っていそうな賢吾に質問をしていた。

 ユウキがフォーゼと同じタイミングで「プリキュア、キター!?」と叫ぶ中、全員を代表してJKが賢吾に聞いた。

 

 

「ちょちょ、なんすか!? アレ!?」

 

 

 だが、JKは賢吾の顔を見て、返答に期待できない事を一瞬で悟った。

 何故ならプリキュアを見る彼の顔もまた、驚愕と呆気が混じった、ともすれば間抜けな表情だったからだ。

 賢吾はJKの質問に、現在の自分に出せる回答で答えた。

 

 

「そんな事、俺が知るか……」

 

 

 そんな中、ジョーカーだけが全く違う反応を示した。

 

 

「なぁるほど、これがフィリップの言ってた……」

 

 

 フィリップの言っていた『もう1組のプリキュア』。

 それが彼女達の事であるとジョーカーは瞬時に理解した。

 プリキュアという存在は既に一度目にしている為、驚く事は無かった。

 各々に様々な反応を示す中、ブラックとホワイトがジョーカーとフォーゼの方を向いた。

 ブラックがまず口を開いた。

 

 

「助太刀します!」

 

 

 腕でガッツポーズを作ってウインクしながら笑顔でそう言った。

 隣にいるホワイトも同じように優しい笑顔を向ける。

 急に言われてもフォーゼとしては戸惑うばかりだ。

 だが、ジョーカーはそんな2人に戸惑う事なく受け答えた。

 

 

「おう、助かるぜ。嬢ちゃん達」

 

 

 まるで知っているかのように話すジョーカーをフォーゼは不思議そうに見つめた。

 

 

「しょ、翔太郎先輩? この子達は?」

 

「ああ、心配すんな、味方だと思うぜ。プリキュアってのは」

 

 

 物を知っているかのように語るジョーカーに今度はブラックとホワイトが不思議そうな顔を向けた。

 

 

「プリキュアを知ってるんですか?」

 

「色々あってな。ま、相手さんは待ってくれねぇし後でな」

 

 

 ブラックの質問に答えるジョーカーの言葉でフォーゼとプリキュア達は怪人を見据えた。

 敵意、というよりも殺意の籠った視線を感じる。

 表情の読めない怪人の顔ではあるが、その雰囲気で相当に頭に来ている事は分かった。

 4人の戦士は並び立ち、怪人と相対した。

 と、そこでジョーカーは非常にどうでもいいが、ちょっとした事実に気付く。

 

 

「……おっ、丁度俺達白黒なんだな」

 

 

 その言葉に4人はお互いを見やる。

 フォーゼは白く、ジョーカーは黒く、ブラックとホワイトはその名の通り。

 丁度仮面ライダーが白黒で、プリキュアも白黒な姿だった。

 ホワイトがそれを面白く思ったのか、3人に言った。

 

 

「ホント。モノクロですね、私達」

 

 

 戦いの真っ只中だというのに仲良さげに話す4人。

 だが、こんな時でも平常心を保っている事は他の仲間にとっては心強い事だ。

 それに何より、こうして話していると見ず知らずの相手とはいえ『信頼できる』と思わせてくれる。

 プリキュアと仮面ライダー、人の為に戦うという行動理念は同じであり、こうして打ち解けるのはある意味必然なのかもしれない。

 

 

「んじゃ、ブラック同士俺達はあのサイ野郎を倒すとするか」

 

「はい! えっと……」

 

 

 ジョーカーの提案に返事をするブラック。

 その後に宜しくお願いしますと言おうとしたのだが、名前を知らないので何と呼んでいいか分からない。

 それを察したジョーカーはフッと笑って自分の名を名乗った。

 

 

「俺は左翔太郎、仮面ライダージョーカーだ。君はブラックちゃん……で、今はいいか?」

 

「あ……はい! 翔太郎さん、宜しくお願いします!」

 

 

 一方でフォーゼとホワイトも似たようなやり取りをしていた。

 ジョーカーとブラックが組むのなら必然、フォーゼとホワイトが組む事になる。

 しかしホワイトもフォーゼの名を知らず、困った表情をしていた。

 

 

「えっと……」

 

「俺は仮面ライダーフォーゼ、如月弦太朗。この学校の生徒全員と友達に……は、なったから……」

 

 

 以前までなら『この学校の生徒全員と友達になる男だ!』と宣言していたのだが、今となっては卒業生。

 何と宣言しようか悩んだ挙句、ホワイトに手を差し出した。

 

 

「とりあえず、お前達とダチになるぜ!」

 

 

 明るく放たれた言葉に、思わずホワイトもニッコリと微笑む。

 差し出された手に応じると、フォーゼは独特の握手をした。

 まず手を握った後、握手の組み方を変え、手を一度離し、お互いの拳を数回打ち合わせた。

 通常の握手では無い知らない行動にホワイトはキョトンとした表情になる。

 フォーゼは仮面の中で満足そうに笑顔になった。

 

 

「友情のシルシだ! ほら、お前も」

 

 

 フォーゼはブラックとも同じ事をした。

 これは弦太朗特有の握手、友情を確かめる行動だ。

 友達になった人間とは必ずこれを交わしている。

 

 

「これでお前等ともダチだ!」

 

 

 すっかり和やかなムードが漂ってしまったがが、いい加減に怒り心頭の怪人達がいる。

 更に言えば目の前で悠長な行動をする4人に更に怒っている様子だった。

 4人は気を引き締め、再び横に並び立って臨戦態勢を整えた。

 

 

「さぁて、再開と行こうぜ……!」

 

 

 ジョーカーの言葉で、プリキュアを加えた戦いが始まった。




――――次回予告――――
「仮面ライダーとこんなに何度も会うなんてビックリ!」
「そうねぇ。でも、良い人そうで良かったじゃない」
「うん! さ、協力してみんなを守らなきゃ!」

「「スーパーヒーロー作戦CS、『モノクロなH/White-Black-Xtreme』!」」

「リーゼントに探偵!? あ、ありえなーい……」
「魔法使いもありえないと思うんだけど……」





――――ここから後書きになります――――
今回と次回の題名にある『H』は『HERO』(ヒーロー)と『HEROINE』(ヒロイン)という意味です。
白黒のHERO=ジョーカーとフォーゼ。
白黒のHEROINE=ふたりはプリキュア。
という事ですね。

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