スーパーヒーロー作戦CS   作:ライフォギア

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第30話 13年の再会

 無事、敵の新型を退けたビートバスターとスタッグバスター。

 戦闘後にダンクーガは早々に撤退、BC-04とSJ-05も亜空間へと転送され、帰還した。

 エースを帰投させ、レッドバスターは地上に降りる。

 新型が倒されたと同時に遣い魔達の執拗な妨害も収まり、遣い魔を殲滅できた事で、この場は全て収まった。

 

 今、戦闘が終わった後の工場地帯に戦士達は変身を解いた姿で集まっていた。

 ヒロム、リュウジ、ヨーコ、剣二、士、マサト、そしてJと呼ばれていたバディロイドの7人だ。

 ヒロムはマサトを厳しい目つきで見ている。

 

 

「説明してもらいますよ。エネトロン強奪の件、バスターマシンの事も、全部」

 

「ハイハイ、そう睨みなさんなって。じゃあまずはエネトロンの件ね」

 

 

 マサト曰く、エネトロンを持って行ったのは「バスターマシンの起動と維持、それにアバターの転送に必要だから」との事だ。

 結果としてそれによって転送されてきたBC-04とSJ-05に救われたのだから何とも言えないが、実際は犯罪にあたる行為である。

 今回は特命部のお陰で不問になっているのだが、だからと言って目を瞑れるような事でもない。

 

 

「だってよぉ、頼んだってエネルギー管理局はどうせ気前悪ィしさ、急を要したし、な?」

 

 

 な? と言われても困る。

 特に特命部の3人は立場的に尚困る。

 と、そこでマサトのモーフィンブラスターが鳴った。

 モーフィンブラスターはモーフィンブレスと同じく通信機能も存在している。

 マサトは突然の通信にクエスチョンマークを浮かべながら通信に出た。

 

 

『陣……』

 

 

 厳かに聞こえてきたのは黒木の声。

 どうやらどうすればモーフィンブラスターに通信ができるかをいつの間にやら調べ終わっていたらしい。

 その辺りはオペレーター陣の仕事が早かったという事だろう。

 声を聞いたマサトの表情は余裕の顔から「やべっ」とでも言いたげな表情に変わった。

 

 

『お前はどうしていつもそう適当なんだ……!!』

 

 

 どうやら先程の会話は戦闘をモニターする時の要領で司令室にも聞かれていたらしい。

 そこそこの怒気を含んだ声にマサトは軽く返答した。

 

 

「そう言うなって、く~ろリン!」

 

 

 またも放たれたおよそ黒木には似合わぬ可愛らしいあだ名を呼ばれて今度は司令室の黒木が顔を歪めた。

 マサトが来てからというもの、ずっと警戒していたその呼び名。

 マサトだけが呼ぶ、自分に似合わないと黒木自身自覚しているあだ名だ。

 

 司令室の仲村と森下も一瞬疑問に思うも、それが黒木の事を指していると分かった瞬間に吹き出している。

 更に言えば同じくこの場をモニターしていた二課のオペレーター達も笑いを堪え、弦十郎も苦笑していた。

 

 

『その呼び方はやめろ……ォ!!』

 

 

 怒りに嘆願が混じったような器用な声色を発する黒木。

 勿論と言うと失礼かもしれないが、ヒロムやリュウジ、ヨーコ、士、剣二も笑いそうになっている。

 それをモニターして様子が分かるからこそ黒木は尚の事その呼び方を止めて欲しいわけだが。

 と、此処でまた別の人物がモーフィンブラスターの通信に割り込んだ。

 当時の陣を知るもう1人の人物、弦十郎だ。

 

 

『久しぶり、それからさすがだな陣、バスターマシンを開発しているとは』

 

「でしょ!? 俺の天才は13年経っても健在なわけよ。弦ちゃんはどうなの?

 相変わらず鍛えてんの?」

 

『ハハハ、まあな。……変わらんなぁ、君は』

 

「当ったり前よ」

 

 

 そこそこ歳を食っている男性、しかも鍛えているせいでかなり屈強な弦十郎に『弦ちゃん』というあだ名は如何なものだろうか。

 弦十郎は愉快な面も持ち合わせているから、普段は厳格な黒木に対しての『黒リン』程のインパクトは無かったが、それでも二課の面々を笑わせるには十分なあだ名だった。

 二課オペレーターの1人、朔也が呟く。

 

 

「そう呼ばれてるんだ、司令……」

 

 

 独り言であったが、それに答えるようにあおいも小声で朔也に言った。

 

 

「意外というか、何というか……」

 

 

 小声とはいえ司令の席と2人の席は距離が近いが故に弦十郎の耳にも届いていた。

 別にその会話が聞こえたからどうこうというわけではないが、弦十郎も苦笑いするしかない。

 黒木程あだ名を嫌がる事は無いが、確かに今の自分には不相応なあだ名だとは感じている。

 

 同年代トークはまだ続く。

 弦十郎の鍛えている発言に黒木が突っ込んだ。

 

 

『今の弦十郎の力は規格外すぎるんだ……。少しは自重をしろ……!』

 

「あら、そんな強くなったの弦ちゃん? でもいいじゃないの、頼りになって」

 

『そういってくれると助かる。これでも頼りになる大人で在りたいからな』

 

「いいねぇ~、そういうの。いっそメタロイドも弦ちゃんが倒したら?」

 

『お前はまたいい加減な事を……! 天才とはいえ少しは真面目な態度を見せる気は無いのか』

 

「おっ? 俺の事天才って言ってくれんの? さっすが黒リン!分かってるぅ~」

 

 

 黒木は頭を抱えた。

 どうにもこうにも陣マサトという人物は昔からこうなのだ。

 弦十郎もそこそこノリが良いせいでこの2人でバカしていた日もあった。

 その度に真面目且つ厳格な黒木がストッパーになっていた。

 

 片や、頭脳が13年前当時から人並み以上。

 片や、身体能力が13年前当時から人並み以上。

 

 人外染みた2人を相手にしていたわけだが、その度にこうして頭を、特にマサトに対して抱えた事を黒木もよく覚えている。

 二度とないと思っていたそんなやり取りを懐かしく思ったりするわけだが、今回はエネトロンやヴァグラスも絡んでいる以上、感傷に浸るばかりではいけない。

 

 

『……いい加減、色々と説明してもらおうか』

 

「いいぜ、何が知りたい?」

 

 

 マサトの言葉にヒロムが一歩前に出た。

 何かを決意したかのように、そして自分の心を落ち着けるように深呼吸し、ずっと聞きたかった事を口にした。

 

 

「……父さん達は、どうなったんですか」

 

 

 和やかな雰囲気が一転、その一言だけで二課と特命部の司令室も、ヒロム達7人がいる場も静かに、そして少しだけ重い空気が流れた。

 

 ヒロムとヨーコの戦う理由。

 亜空間の中に閉じ込められた両親を助けたい。

 だが、亜空間の中で人は生きているのか、マサトがアバターとしてやってきたとはいえ、他の人は無事なのか。

 正直、これを聞きたくない気持ちも多分に有ったのも事実だ。

 もしかしたら既に死んでいるという事実を突き付けられるかもしれない。

 そう考えただけで、例えそれが『もしかしたら』だとしても怖かった。

 ヨーコもそうだが、普段は毅然としているヒロムですら怖かった。

 それでも聞かずにはいられなかった。

 

 マサトは頭の後ろを掻きながら先程までの軽い雰囲気を引っ込め、ゆっくりと自分の知る事実を告げた。

 

 

「……知らねぇ」

 

「……え?」

 

 

 生きているか死んでいるかという2択で考えていたヒロム達にとって、それは予想外の答えだった。

 だが、ふざけている、はぐらかしているという風でもなく、至って真面目な顔でマサトはそう言ったのだ。

 

 

「あの夜、俺はクリスマスパーティーを欠席して別ブロックで仕事してたからな。

 悪いが他の連中がどうなったか俺は知らない。転送された後もバラバラだったし」

 

 

 転送研究センターが亜空間に転送されたのは丁度、クリスマスの日。

 クリスマスパーティーをしていたのだがその時にメサイアの一件が起こってしまったのだ。

 知らないというマサトの言葉の後、Jと呼ばれているバディロイドが口をはさんだ。

 

 

「俺は、ずっと陣と一緒に……」

 

 

 しかしそれを手で静止するマサト。

 普段と違い真面目な雰囲気でJを諌め、Jも素直に一歩引き、押し黙った。

 マサトは続ける。

 

 

「他の人間と亜空間で会った事は、無い」

 

 

 言葉の雰囲気からそれは誤魔化しているわけでもなさそうだった。

 ヒロムとヨーコは半分残念に、半分はホッとしていた。

 親がどうなったのか知りたかったという反面、もしも最悪の回答が返ってきたらと考えると気が気では無かったのだ。

 リュウジが2人の肩に慰めるかのように手を置いた。

 13年前の惨劇をこの目で見たリュウジには痛い程気持ちが分かったのだろう。

 

 

「でも、1つだけ」

 

 

 落ち込む2人にマサトは何かを取り出し、差し出した。

 それは透明なプラスチックの箱に入っており、木箱の上にサンタやクリスマスツリーが乗っかっているというオブジェ。

 プラスチックの箱にはプレゼントのように赤と金のリボンが結ばれており、中身から言ってもそれはクリスマスと形容するに相応しい代物だった。

 

 

「亜空間で拾ったモンだ」

 

 

 手渡されたそれをヒロムは大事そうに手に収め、中身を空けた。

 よく見れば、木箱の横にはハンドルがついている。

 ゆっくりとハンドルを回すと、聞こえてきたのはクリスマスソングの『ジングルベル』。

 クリスマスの為のオルゴールだった。

 ヒロム達の両親がクリスマスプレゼントに用意していた物だろうという事は想像できる。

 いや、ヒロムもヨーコもリュウジも、そう直感した。

 

 オルゴールから流れる優しい音色に皆、聞き入っている。

 親の温もりすら感じさせる音色に自然と笑みを零すヒロムとヨーコ。

 その笑顔はとても戦士であるようには見えない。

 ゴーバスターズの覚悟と決意は確かなものであり、響の様な付け焼刃でも、翼のような自棄でもない。

 しかしその実、辛い使命を理不尽に背負わされた子供達である事に違いは無いのだ。

 

 肉親が生きているかもわからない、酷く残酷な事実を突き付けられるかもしれない戦い。

 だが、だからこそ、彼等は戦える。

 人の為であり、親の為であり、何よりも自分の為であるから。

 

 

「みんな無事だね、きっと」

 

 

 オルゴールを止めたヒロムにヨーコが笑顔で言った。

 その顔に陰りは無く、確信めいた物言いにヒロムも強く頷く。

 リュウジは2人の肩に置いていた手を一旦離して、2人を抱き寄せる形に変えた。

 

 

「俺達も頑張らないとな?」

 

 

 ヒロムはヨーコに13年前、『きっと元に戻す』と約束をした。

 この約束をした事もされた事も、ヒロムとヨーコは忘れていない。

 その場にいたリュウジも同じだ。

 一度だってブレた事の無い、親を助けるという覚悟。

 眩しい笑顔で3人は決意を新たにした。

 

 

(……悪くない、か)

 

 

 士は自然と3人に向けてカメラのシャッターを切っていた。

 笑顔を悪くないと思う姿は、普段の士を知る者からすれば意外に見えるだろう。

 だが、そういう捻くれた優しさを持ったのが門矢士なのだろう。

 一方、その横で剣二は何やら涙目だった。

 

 

「なんって、素晴らしいんだ……ッ!!」

 

 

 こんな健気に頑張っている子達がいるのだ、俺も頑張らなくては。

 何だか胸が暖かい。これがまさか、親心というやつなのか。

 いや、しかし、自分はまだそんな歳では……。

 ああ、彼等の為に俺は何をしてやれるのだろう。

 

 口を手で押さえてゴーバスターズの3人を見つめるその姿は感動して泣いているようだ。

 しかしてその脳内では意味不明な思考の暴走が僅か0コンマ何秒単位で行われている。

 そして、何かよく分からない決意をした剣二は、誰もいない明後日の方向を向いて涙を拭った。

 

 

「そうだ……頑張んなきゃな……。俺、やるぞー!!」

 

 

 謎としか言いようがない決意を叫ぶ剣二。

 一体何をやるのか、というかそもそも今ので何を覚悟したというのだろうか。

 感動するという行為自体は別に悪くは無いのだが、ツッコミどころがあるのではないか?

 はっきり言ってノリで叫んでないか?

 そんな考えが全員の脳内を過り、マサトが呟いた。

 

 

「……なんっか、違くね?」

 

 

 

 

 

 

 

 剣二の男泣きを余所に、ゴーバスターズは基地に帰還。

 マサトとJは何処へともなく去っていき、剣二は非番という事もあり、家でゆっくりする為にあけぼの町に戻り、士も居候先の冴島邸に戻った。

 

 さて、遣い魔を放って以降、姿を見せなかったエンターだが、またネフシュタンの少女がいる屋敷へと足を運んでいた。

 ネフシュタンの少女に時間を置いて出直すと言ってから1日と経っていない。

 それでもエンターが屋敷に足を運ぼうと思ったのは、今回の新型とゴーバスタービートの戦いが原因だ。

 

 

(新型がああも早く敗れるとは)

 

 

 道中、考え事をするエンターはほんの少しショックを受けていた。

 折角起動させた新型がこうもあっさりと敗れるとは思っていなかった。

 少なくともダンクーガに対応できた事は良かったのだが、ゴーバスタービートは完全に想定外だったのだ。

 

 

(メガゾードはエネトロンを回収できれば御の字、足止めできれば及第点、程度に考えた方が良いのかもしれませんね……)

 

 

 実際の所、エネトロンが目的の彼等にとって敵を倒すという行為は優先されるべき事柄ではない。

 しかし相手がエネトロン回収を邪魔してくる上に、戦力を増しているのだからそうも言ってられないというのが実状だ。

 とはいえ新型も敵わないとなると、エネトロン回収を第一に考えてメガゾードは足止めにしかならないと考えた方が良いとエンターは考えた。

 

 そこまで考えてエンターは深く溜息をついた。

 1体転送するだけでもそこそこエネトロンがかかるメガゾードが足止め程度なんて、コストパフォーマンスが悪すぎる。

 それこそ多少の戦果を挙げてくれなければ損にしかならない。

 

 

(やはり、ノイズの力は借りたいところです)

 

 

 しかし、メガゾードを簡単に倒させない策はある。

 簡単な話だ、ゴーバスターズをバスターマシンに乗せなければいい。

 今回も無数の遣い魔で足止めを行ったが、それと同じだ。

 

 足止めという意味ではノイズは遣い魔以上に扱いやすい性質をしている。

 エネトロン回収をより円滑にするためにもノイズの力はできれば手に入れたい。

 しかもゴーバスタービートやビートバスター、スタッグバスターの存在を考えれば早急に。

 詰まる所、エンターはやや焦りがあるが故に、日を置かずネフシュタンの少女の屋敷に向かっているというわけだ。

 そうこう考えている内に屋敷の前まで辿り着いたエンターは、何の遠慮も無く屋敷に入っていった。

 

 

 

 

 

 前回来た時にネフシュタンの少女が苦しんでいた大きな部屋。

 そこから今回は絶叫が聞こえた。

 部屋を除けば、磔にされたネフシュタンの少女が電気を流されているという衝撃的な光景だった。

 磔にされたネフシュタンの少女の近くには長い金髪の大人の女性が佇んでいる。

 しかも事もあろうに、服に関係するものを何も身に着けていない、まさに一糸纏わぬ姿だった。

 金髪の女性は電流を一旦止め、ネフシュタンの少女に近すぎなくらいに接近して顎を持った。

 

 

「いけない子ね……命令した事もできないなんて……」

 

 

 恐らくこれは『立花響を攫う』という目的を果たせなかった事を意味しているのだろうとエンターは察した。

 そして金髪の女性はネフシュタンの少女から離れ、再び電流のスイッチを入れる。

 電気が磔となったネフシュタンの少女に流れ、再び悲鳴が木霊した。

 人が苦しむのを見ようが女性の裸体を見ようが何も感じないエンターだが、状況があまりにも特殊すぎて一瞬たじろいでしまう。

 

 

(……来る度に苦しんでますねぇ)

 

 

 はて、健康状態のネフシュタンの少女を見た事があっただろうかと考えるが、風鳴翼と交戦していた時が一番元気だった様な気がした。

 エンターはふと、金髪の女性を見た。

 ネフシュタンの少女には命令を下している何者かが存在している。

 もしや、彼女が? そう思うのは当然であり、自然であった。

 

 兎にも角にも、話をしてみなければ始まらないと考え、エンターは大部屋に入った。

 堂々と入ってくるエンターに金髪の女性が気付く。

 

 

「お前はヴァグラスの……」

 

 

 金髪の女性はエンターの事を知っているような口ぶりだった。

 一先ずエンターはお辞儀をする。

 

 

「初めまして、マドモアゼル。私はエンター。

 急な事かもしれませんが、今日は少々お話があるのですが……」

 

 

 頭を上げたエンターはちらりと磔のネフシュタンの少女を見た後、金髪の女性の方を見た。

 

 

「お取込み中でしたら、出直しましょうか?」

 

「別にいい。貴方かしら? この子が言っていた妙な奴って」

 

 

 ネフシュタンの少女を親指でくいっと指差しながら平然と受け答えをする金髪の女性。

 一方のネフシュタンの少女は電流が余程堪えたのか、口を開く元気すらも失っている、というか気を失っていた。

 

 

「協力関係を……と聞いているが」

 

 

 どうやら金髪の女性に話は通っているらしく、エンターとしては話が早くて助かった。

 

 

ウィ(はい)。我々ヴァグラスに手を貸してほしいというのが、今回足を運ばせてもらった理由です」

 

 

 フランス語を交えつつ、エンターはこの場に姿を現した理由を語った。

 そのままエンターは続ける。

 

 

「貴女方の、ノイズの力を我々に貸してほしいのです」

 

「ほう……」

 

「勿論、その代わりに我々も貴女方に協力する事を約束しましょう」

 

 

 金髪の女性はエンターから決して目を離さずに考えた。

 彼女には彼女の目的がある。

 それは二課やゴーバスターズを潰す事では無く、もっと別の目的だ。

 

 問題は此処でエンターにそれを話すか、という事だ。

 金髪の女性は、自分が果たしたい目的を二課やゴーバスターズは止めに来るであろうことは想像できた。

 その時に戦力はあっても損では無い。

 そういう意味で言えば確かにヴァグラスとは協力関係を結びえる存在かもしれない。

 とはいえ相手はヴァグラスという人外、油断はできない。

 

 

「そちらの目的は、エネトロンの回収だったな」

 

「ええ。それさえできれば私どもは貴女方に協力はすれど、敵対はしません」

 

「どうかしらね、こちらの目的にもよるのではないかしら?」

 

 

 エンターの思い描いた通りの展開になった。

 敵対する存在を倒したいと考える大ショッカーやジャマンガとは違い、やはりこの女性は敵を倒す事を目的とはしていない。

 こうなってくると相手の目的を聞き出すか、もしくは何とか協力だけでも漕ぎ着けるか、最悪、交渉決裂になるか。

 

 だが、それはお互いに目的を隠している場合の話である。

 今回エンター側に探られて痛い腹は無い。

 何故ならエンター側の目的は既に敵対組織どころか世界中にバレている。

 テレビをつけてニュースにでもチャンネルを合わせれば『ヴァグラスがエネトロンを狙う事件が……』と言った風な報道がされている。

 エネルギー管理局もヴァグラスはエネトロンを狙う悪の組織であると発表しており、今更隠すような事は無い。

 

 強いていうのであれば極一握りの人間しか知らない『メサイア』の存在であろうか。

 メサイアについて知っているのはヴァグラスを除けばエネルギー管理局関係者のみ。

 この場合の問題は仮に金髪の女性がメサイアの事を知り、メサイアが復活すれば人間世界を破滅させるであろう事を知って金髪の女性がどう思うか、という一点だ。

 だが、それを教えるメリットはエンターにはない。

 ならばそれを隠して『エネトロン回収が目的』という事だけで協力関係を取り付ければいいだけの話だ。

 

 

「では、そちらの目的をお教えくだされば」

 

 

 エンターは直球を投げる事を選択した。

 うだうだと腹の探り合いをしても時間を無駄に浪費するだけだ。

 

 敵になるなら敵になる、協力できるなら協力する。

 

 2つに1つな上、それを決めるのは相手の目的によるわけだからエンターがどうこうできるものでは無い。

 交渉においていきなり直球で行くのは悪手である事も多いだろう。

 しかし今回の場合、人知を超えた力を持った者同士の交渉な上、政治等の折り合いが必要な組織に属していない者同士。そういった通常の交渉は無意味なのだろう。

 

 一方の金髪の女性は表情を一切崩さない。

 いきなりの踏み込んだ発言に戸惑う様子も見せず、冷静に返答をした。

 

 

「……そうね、安易に教えるわけにはいかないわ」

 

 

 予想していた反応。

 だが、続けられた一言は予想外の物だった。

 

 

「でも、協力はしてあげましょう」

 

 

 エンターはやや虚を突かれた表情になった。

 目的を話してはくれないが協力はしてくれる、という展開は考えないでもなかったが、少し意外だったのだ。

 一番良いのは目的を話してくれた上で協力してくれる事。

 でなければ協力できずに終わるか、最悪敵対する事になるか。

 それぐらいの考えだったのだが、相手は意外とあっさり協力を了承したのだ。

 

 

「条件は2つ。こちらの策に協力する時に理由と目的は聞かない事、そしてノイズを必要とする時は私に連絡を取る事。これだけよ」

 

「オーララ、問題ない条件ですが、随分と秘密主義ですね?」

 

「私が目的を教えるメリットは無い。それに、不都合不愉快な答えが返って来るよりは、秘密主義でもイエスの返答の方が貴方にはありがたいんじゃなくて?」

 

 

 怪しく微笑み金髪の女性。

 エンターからすれば金髪の女性の『目的』とやらが俄然気になってしまうところなのだが、それを深く掘り下げてしまって交渉決裂となってしまったら元も子もない。

 

 

「全くその通りで。話が分かるようで助かりましたよ、マドモアゼル」

 

「そちらの不都合になる事はしない。ノイズも無条件で与える事を約束するわ」

 

「気前が良すぎて気持ち悪いぐらいですね」

 

「ノイズ如きなら幾らでも呼び出せる。こちらは実質ノーリスクだ」

 

「成程、損は一切ないと」

 

 

 ノイズは無尽蔵に発生させる事ができる。

 その程度の協力なら金髪の女性としては痛くも痒くもないのだ。

 それと引き換えにメタロイドを始めとするヴァグラスの戦力を取り込めるのはこれからの行動にも使えるかもしれない。

 相手は人外且つ超常の組織であるヴァグラス、何をしてくるか分からない相手に目的は簡単には話せない。

 だが、それさえ何とかなれば協力関係で損する事は無い。

 つまり金髪の女性側に断る様な理由は無いのだ。

 

 ともかくエンター側としては願ってもいない好条件。

 エンターは再びお辞儀をしてから頭を上げ、金髪の女性と目を合わせた。

 

 

メルシィ(ありがとうございます)。良き返事に感謝します」

 

 

 礼を口にした後、エンターはふと気になった疑問をぶつけた。

 

 

「ところで、貴女のお名前は?」

 

 

 金髪の女性は答えない理由も無いとして、名乗った。

 

 

「私の名は、『フィーネ』」

 

「ほう、『終わり』の名ですか?」

 

「貴方が詳しいのはフランス語だけだと思っていたけど」

 

「フランス語にも似た単語がありますからね」

 

 

 フィーネという言葉はイタリア語で『終わり』の意だ。

 もしくは楽譜の終止を表しており、どちらにせよ『終わり』を意味している事に変わりは無い。

 ちなみにイタリア語でフィーネは『fine』と書き、フランス語で同じ意味は『fin』と書く。

 

 

「それでは、またの機会に」

 

 

 目的を果たしたエンターは、長居は無用と言わんばかりにその体をデータ化し、一言残してその場を去った。

 屋敷は再び、気を失ったネフシュタンの少女とフィーネのみの静寂な空間となる。

 

 フィーネはちらりと気を失い、未だ目覚める様子の無いネフシュタンの少女を見やった。

 磔にして電気を流すという拷問紛いの行いは、実はれっきとした治療なのだ。

 ネフシュタンの鎧はその再生能力で、破損した箇所を修復する。

 だが、その際に装着者をも蝕んでいくのだ。

 以前エンターが訪れた際にネフシュタンの少女が苦しんでいたのは、鎧を解除した後もその欠片が体内で体を食い破ろうとしていたからだ。

 取り除くには電気を流してネフシュタンの欠片を休眠状態にするしかない。

 その為の処置なのであるが、この方法にはフィーネの趣向も大なり小なり影響はしている。

 

 

「さて、今の会話を聞いていたら貴女は何て言うかしらね、クリス……」

 

 

 クリスと呼ばれた少女は未だ、深い眠りの中にいた。

 

 

 

 

 

 場所は変わり風都。

 風都の電気屋、ショーケースの中のテレビでは『本日昼頃に起こったメガゾードの事件はゴーバスターズが解決し……』という報道がなされている。

 パラボラゾードと新型がゴーバスターエースやゴーバスタービートと戦う姿が流れ、更にその場で助っ人として現れたダンクーガも映し出されていた。

 散歩をしていた翔太郎は歩みを止め、テレビの内容に聞き入っていた。

 

 

『各地の紛争に現れるダンクーガも姿を現したそうですが、目的は依然不明との事で……』

 

 

 ゴーバスターズに関係した報道を見る度に、翔太郎は士の言葉を思い出す。

 

 

 ────『お前も来るか、W』

 

 

 ゴーバスターズが属している組織に現在、士は参加しているらしい。

 仮面ライダーWとしてそこに来ないかと言われて数日が経過していた。

 ヴァグラスが放っておけない組織である事は理解しているし、大ショッカーという脅威が現れた以上、仲間と共にいる事は悪い事では無い。

 

 とはいえ試作型ガイアメモリの脅威が完全には去ってないため、簡単に風都を離れるわけにもいかない。

 しかし、最近フランスから帰国した竜にその話をした際に翔太郎はこう言われた。

 

 

「お前かフィリップのどちらかが風都に残れば済む話だろう。それに俺もいる」

 

「……けどよ」

 

「……愛した街を守りたいという気持ちは分かる。俺も同じだ」

 

「照井……」

 

「不在の間は俺が守り抜く。心配するな」

 

 

 確かにフィリップが風都に残れば、もしもの時は『ファングジョーカー』という姿で対応できる。

 翔太郎がしばらく町を離れても戦う事はできるし、離れると言ってもかなり遠い場所というわけではない。

 竜の力だって今まで一緒に戦ってきた仲なのだから、信用している。

 それでも街を離れたくないという考えが未だに残るのは、風都に対しての愛情故だ。

 

 

「……やっぱ、行くべきかねぇ」

 

 

 頭を掻いて誰にともなく呟いた。

 考え込んでいる内に報道は『次のニュースです。大人気アーティスト、風鳴翼さんが過労で入院……』という話題に入った。

 ツヴァイウイング時代からファンな翔太郎としては聞き逃せないニュースである筈なのだが、ボーッと考え込む翔太郎の耳には入らない。

 

 翔太郎も士やその仲間に協力する事に抵抗は無い。

 強制されているわけでは無いのだから、風都を案じるのなら断ったっていいだろう。

 それでも悩んでしまうのは偏に翔太郎の人の好さからだろう。

 

 

「ま、答えを出すのはアイツ等とあってからでも遅くねぇか」

 

 

 翔太郎は再び歩み始め、再び呟く。

 先日、翔太郎は大ショッカーの事で話があるとして連絡を取った人物がいる。

 会うのは今週の日曜日。

 直接会った事があるのは1回だけだが、その姿は強く覚えている。

 学ランにリーゼント、所謂『不良』な恰好をした、ダチを傷つける奴は許せないと言っていた仮面ライダー。

 

 

「久々だよなー、あのリーゼントとも」

 

 

 名は如月弦太朗。

 翔太郎の後輩ライダーの1人であった。




────次回予告────
『スーパーヒーロー作戦CS』!

「お久しぶりっス! 翔太郎先輩!!」
「弦ちゃーん! 久しぶりー!!」
「また戦いが始まるかもしれないのね……」
「宇宙、仮面ライダー部?」
「ありえなーい!!」

これで決まりだ!

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