スーパーヒーロー作戦CS   作:ライフォギア

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第3話 共鳴

 ────地球。

 

 生命に満ち溢れる青き惑星。

 

 地球にはかつて、数々の魔の手が襲った。

 人間の人知を超えた者達が、ある時は人間を滅ぼさんと、ある時は地球を支配せんとして現れたのだ。

 

 その多くは、所謂『悪の組織』であるが、それは人知れず潰されてきた。

 だが今、世界からは未だに『脅威』が去ってはいなかった。

 

 『ヴァグラス』と『ノイズ』。

 

 主な原因である2つは、片や人間世界の支配、片や人間を本能のままに抹殺する、いずれも人間と相対する者達だ。

 

 だが、生命を奪われるのを黙って待つほど、人間はおとなしくない。

 

 かつての戦いでは、その『悪』や『闇』に立ち向かう『戦士』がいた。

 そして当然、現代にも────

 

 

 

 

 

 新西暦2012年。

 都市生活を支える巨大なエネルギー、『エネトロン』。

 それを狙い人類を脅かす存在、『ヴァグラス』

 『ゴーバスターズ』とは、人々を守る『特命』を帯びて戦う若者達の事である。

 

 

 

 

 

 この世界におけるエネルギーはエネトロンという物で賄われている。

 完全クリーンで採掘量も豊富な資源であり、一般家庭などでも普及しているとても便利なエネルギーだ。

 当然ながら利便性のある物は世界に瞬く間に普及し、今やエネトロンは世界に無くてはならない物となっていた。

 

 エネルギー管理局とは、それを管理する組織。

 そしてそこにある部署の1つ、『特命部』。

 それこそ、エネトロンを狙う世界の脅威、ヴァグラスと戦うゴーバスターズが所属する部署だ。

 

 

「平和っていうのは、脆いモンですね」

 

「何さヒロム、藪から棒に。どうしたの?」

 

 

 特命部司令室の中で、デザインの似通ったジャケットを着た青年2人が机を挟んで座っていた。

 

 新聞を見て、急に話を切り出した赤いジャケットを着た青年、『桜田 ヒロム』。

 それに反応しつつ、コーヒーを飲んでいる青いジャケットの青年、『岩崎 リュウジ』。

 

 自分の言葉に反応したリュウジに、ヒロムは「これ」とだけ言って、新聞を手渡した。

 リュウジはコーヒーを片手にヒロムの呼んでいた記事を見始める。

 

 

「んー? ……『ノイズによる被害、多発する』、か」

 

 

 見出しを声に出して読み、記事内容を一読すると、ヒロムの言わんとしている事をリュウジは即座に理解した。

 

 

「成程ね、俺達がヴァグラスと戦っている間に、また別の所では何かが起こっている……だから中々平和にならないってわけだ」

 

「何処か一箇所を平和にしてたら、また何処かが別の何かに襲われる。

 全く、バスターズがもう1チーム欲しいですよ」

 

「それなら今のバスターズにいない色がいいなぁ。ブラックとかグリーンとかピンクとか」

 

「何でそうなるんですか」

 

「ははは、ごめんごめん」

 

 

 新聞をヒロムに返しつつ、リュウジとヒロムは会話を続けていく。

 こんな談笑が出来るのも、彼等が戦って平和をもたらしたからだろう。

 だがヒロムの言うとおり、自分達が戦っていても『完全な平和』は訪れていなかった。

 

 ヒロムは歯痒く感じていた。自分達がいくら戦っても、世界から脅威が取り除かれる事の無い現実に。

 そしてそれは、表情には見せなくともリュウジも同じであった。

 

 

「何の話してるの?」

 

 

 ピョコン、という擬音が似合いそうな感じに入ってきたのは、黄色いジャケットを着ている『宇佐見 ヨーコ』だ。

 ヨーコの質問にリュウジは苦笑い気味に答える。

 

 

「平和って続かないねって話さ」

 

「もー、何でそんな暗い話題話してるの! 例えば……ほら! こういう話題!」

 

 

 ヒロムが見ていない裏側の新聞記事を見て、ヨーコはヒロムの新聞をひったくり、自分が見た記事を見せた。

 

 

「ほら、今人気の『風鳴 翼』! 私ファンなんだよねー」

 

 

 新聞の記事を指差しながら屈託の無い笑顔で2人に言う。

 そこには今人気沸騰中のトップアーティスト『風鳴 翼』のライブ写真が写っていた。

 それだけ言い終わったヨーコから、ヒロムはお返しとばかりに新聞を取り上げた。

 しかしそれを気に留めず、ヨーコは2人に向き直り、自分の一番言いたかった事を口に出した。

 

 

「そういう暗い話題してると、本当に悪い方向に転んじゃうよ?

 良い方に考えれば、きっと今も良くなる。ううん、そう考えなきゃ始まらないよ!」

 

 

 良い事を言ってはいるのだが、「私今、良い事言った!」とでも言いたげな顔なので、台無しな感じがする。

 溜息をついたヒロムは新聞を畳んで机に置き、ヨーコの方を呆れたような表情で見やった。

 

 

「楽観的だな。現状を見てから言ったらどうだ?」

 

「何よ! 大体ヒロムは……」

 

 

 ヒロムはいつも辛辣だ。いや、辛辣と言うか正直すぎるというか。

 そこがヒロムの長所であり、欠点。あまりにもはっきり言いすぎてひんしゅくを買ってしまうのである。

 主にヨーコから、だが。

 そういうわけで、いつものように食って掛かろうとするヨーコだが、それはヒロムが言葉をつづけた為に、遮られた。

 

 

「でも、確かにそうかもしれない……とも、思う」

 

 

 それだけ言うと、ヒロムは椅子から立ち上がり、司令室から出て行った。

 リュウジが行先を問うと、「訓練に」とだけ開いた扉の向こう側で答え、司令室の扉が閉まった事で、ヒロムの姿は見えなくなった。

 

 一方、ヨーコはポカンとした顔をしている。

 辛辣な事だけ言われて軽くあしらわれるばかりだったのに、何だか急に発言に同調されてしまい、戸惑っているのだ。

 

 

「直球じゃないヒロムなんて珍しい……ねぇリュウさん、なんでだろ?」

 

「んー……ヒロムも変わってきてるんだよ」

 

 

 微笑みながらの回答に、ヨーコは「そんなものなのかなぁ」と、ヒロムが出て行った司令室の扉をじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 数時間後、突然特命部のサイレンが鳴り響いた。

 それは世界の『脅威』が発生した合図である。

 

 

「ヴァグラスか!?」

 

 

 司令室に走り込んできたヒロム。

 それに続くように、リュウジ、ヨーコも走り込んできた。

 

 そこには、オペレーターの『仲村 ミホ』、『森下 トオル』。

 それに司令官『黒木 タケシ』が既にそれぞれの持ち場の席についている。

 

 さらにもう3人、ロボットがこの場には集まっていた。

 バイクのメーターとハンドルを合わせたような頭部の赤いロボット。

 ヒロムの相棒、『チダ・ニック』。

 

 車のハンドルのような頭部と、3体の中で一番ガタイのいい青いロボット。

 リュウジの相棒、『ゴリサキ・バナナ』

 

 ゴリサキとは逆に最も小柄な60㎝程の、ウサギの意匠が盛り込まれている黄色いロボット。

 ヨーコの相棒『ウサダ・レタス』。

 

 彼等は『バディロイド』。

 その名の通り、ゴーバスターズの3人の相棒であり、感情のある機械だ。

 そして彼等はゴーバスターズの巨大戦力、『バスターマシン』の出撃にも必須である特命部の要とも言えるロボット達である。

 

 オペレーターと司令官、バディロイド、そしてゴーバスターズの総勢9人がこの場に集まった。

 この9人が特命部の主なメンバーである。 

 

 

「エネトロン消費反応無し……ですが、別のエネルギー反応が!」

 

 

 2人いるオペレーターのうち、男性オペレーターの森下がモニターとコンピュータを操作し、エネルギーの正体を確認し始める。

 そして、ものの数秒で見事にその正体を突き止めた。

 

 

「エネルギー反応、特異災害対策機動部からのデータと照合。

 ……『ノイズ』と思われます! ポイントは、S-16!」

 

「S-16って言うと……市街地か! そんな所にノイズが……!」

 

 

 S-16ポイントはヒロムの言うとおり市街地。

 そしてノイズの『人に触れたらもろとも炭化=死』という性質上、認めたくはないが、犠牲者は確実に出ただろう。

 ヒロムが苦虫を噛み潰したような顔をして言葉を吐き捨てたのは、その為だ。

 

 『ノイズ』。

 先程ヒロムが読んでいた新聞にも載っていた怪物だ。

 しかしその実、ノイズはヴァグラスのようにある程度の意思を持つわけでは無い。

 その為なのかは分からないが、ノイズは『敵』ではなく『災害』として認知されている。

 

 被害も気になるが、リュウジはまた別の事に反応していた。

 今しがた聞こえた『特異災害対策機動部』の名前にだ。

 

 

「特異災害対策機動部って言うと、確か、黒木司令のお知り合いがいた筈ですよね?」

 

 

 リュウジが司令室のオペレーター2人のさらに一段上に座る、黒木を見やり、言う。

 黒木はリュウジの言葉に頷き、その問いに答えた。

 

 

「ああ、昔からの友人がそこの二課の責任者でな。

 ノイズに関しては、戦う力を持つ我々特命部も協力しなくてはならないと、少し前にデータを受け取ったんだ」

 

「そんな簡単に? 重要なデータではないんですか?」

 

「バスターズの力は通常のそれよりも大きな力だ。

 元々ゴーバスターズはヴァグラス以外の敵に対しても有効に働くように造られた側面もある。

 その為か簡単に渡してくれた。無論、その期待には応えねばな」

 

 

 組織間のやり取りにしては簡単すぎるとリュウジも疑問を持つが、すぐさま黒木が理由を説明する。

 しかし、微妙に納得できない理由だ。

 如何に知り合いがいるとはいえ、バスターズに通常よりも大きな力があるとはいえ、そんな簡単に情報を与えるものなのかと。

 

 それに今の返答で更なる疑問も生まれた。

 バスターズが他の敵に対しても有効に働くというのであれば、何故今までヴァグラス『のみ』と戦っていたのか。

 ヴァグラス以外との戦闘に駆り出されたのはこれが初めてなのだ。

 

 だが、今は目の前の事を解決するのが先決。

 リュウジはその疑念を押し殺し、ノイズに集中しようと切り替えた。

 

 

「でも、ノイズって人を炭化させるんでしょ……?

 バスターズのスーツって、大丈夫なんですか?」

 

「バスターズのスーツは対ノイズ対策も兼ねているからな、心配無い」

 

 

 ヨーコの不安の言葉にも、黒木は冷静に答える。

 その後ヒロム達3人は横に並び、黒木が『特命』を発令した。

 

 

「特命。ノイズを殲滅し、人命を救え」

 

 

 特命。即ち、任務。

 それを受け取った3人は、右胸に左手をつけてサムズアップをする特命部特有の敬礼と、はっきりとした「了解」の言葉で答えた。

 

 

 

 

 

 特命部の司令室には、すぐに現場へ到着できるようにシューターという通路が設置されている。

 それは特命部が設置した秘密通路で、そこを通る事でどんな場所にヴァグラスが現れても各地域へすぐさま駆けつけられるのだ。

 

 S-16ポイントのシューター出口に到着したバスターズの3人。

 ニック達バディロイドはバスターマシンの発進はノイズ相手なら必要無いと判断し、司令室に待機している。

 

 ノイズの被害はシューターの近くではなく、少し離れたところで起こっているという話を司令室で既に聞き及んでいる。

 

 

「急ごう」

 

 

 ノイズの洒落にならない特性を思い出しつつ、ヒロムは2人を急かす。

 が、それに一度待ったをかけたのはリュウジだった。

 

 

「その前にヒロム、一応おさらいしておこうか」

 

「何がです?」

 

「ノイズについて、さ」

 

 

 今しがたこの現場に来る前、司令室の面々からノイズに関しての軽い説明を受けた。

 しかしノイズそのものが、人間の理解を超えているという点もある。

 戦う前に敵の事をもう一度考えるというのは、敵がいない今しかできない。

 

 

「そうだね、初めて戦う相手なわけだし……」

 

「確かに戦う敵の事はきちんと把握、整理しておくべき、か。

 でも、手早く終わらせましょう」

 

 

 ヒロムの言葉に2人が頷くと、3人は先程司令室の面々に言われた事を思い出しつつ、ノイズに関しての情報整理を始めた。

 

 

 

 ────数分前。

 

 

 

「いいか、ノイズは人を炭にして殺してしまう『炭化能力』が危険と思われがちだ。

 確かにそれも危険極まりない。しかしバスタースーツのように無効化できるものがあればそれまでだ。

 この場合厄介なのは、我々とは微妙に存在が『ズレている』、という点だ」

 

 

 黒木の言葉に、リュウジがいの一番に反応した。

 

 

「物理的攻撃、つまり俺達の攻撃は一切受け付けないって事ですよね。

 だから通常兵装ではどうしようもできない……」

 

 

 ノイズの特性の1つ、『位相差障壁』。

 難しい話を省けば『ノイズは見えていてもこの次元に存在していないから攻撃が通り抜ける』という事である。

 もっと簡単に言えば攻撃が効かない相手、という事だ。

 

 リュウジの言葉に黒木は頷き、残りの説明をするように森下と仲村に促す。

 それを確かに受け取った2人は、付け加えとなる説明、加えて対抗策を説明し始めた。

 

 

「こちらから攻撃を仕掛けても意味はありません。

 ですが、向こうが攻撃してくるときはこちらに触れられるようになる、即ち実体化するという事です。つまりノイズが攻撃してきた時のみ、攻撃が効きます」

 

 

 ノイズは触れられない代わりに、向こうもこちらに触れられない。

 ただ一瞬、人を殺す時のみ、人に触れなければならないから実体化する。

 その瞬間を狙う、という事だ。

 

 ノイズは人だけを追いかけて、炭にして自分もろとも殺すという特性がある。

 ヒロム達もバスタースーツを纏ったとしてもノイズの認識は『人間』。

 つまり、炭化能力が効かないスーツを纏っていても相手が人間ならノイズは愚直に迫ってくるのである。

 

 森下の説明の後、それに続けて仲村が話し始める。

 

 

「敵はしばらく待てば炭化して自壊します。ですが長く留まらせるわけにもいきません。

 ヒロム君達を人間だと認識したノイズは、接近してしまえば恐らく自分からこの世界に実体化するでしょう。

 そうすればこちらの攻撃も通るようになります。

 なのでノイズの殲滅は、接近戦で行った方が効率がいいです。」

 

 

 この作戦はバスターズのスーツが対ノイズ用になっており、炭化能力が効かないからこそ出来る芸当だ。

 炭化能力を防がなければ、例え実体化してきていても倒せない。

 だが逆に言えば、炭化能力さえどうにか出来れば、後は接近すれば勝手に向こうが実体化してくれる。

 そこをつく、というのが今回のノイズ殲滅の作戦だ。

 

 とはいえ、その作戦はかなり無茶な要求でもある。

 何せノイズの実体化の瞬間を狙うのは『神業』とも言える程のタイミングを要求されるからだ。

 けれどそれしか手は無い。

 

 3人は今の説明をしかと覚え、頭の中に叩き込んだ。

 

 

 

 ────そして、現在に至る。

 

 

 

 ノイズに関しての情報が間違っていないかを3人は確認し、お互いに見合い、頷く。

 

 3人はそれぞれのベスト、ベストに取り付けられた『トランスポッド』、手に巻いている『モーフィンブレス』に不備が無いかを一通り確認した後、辺りを警戒しつつ歩を進めて行った。

 

 

 

 

 

 

 

「酷いな……」

 

 

 しばらく進んだ後、かけていたサングラスを外し、ヒロムは辺り一面を見やる。

 そして出た言葉がそれであった。

 

 周りには炭が大量に落ちていた。

 ノイズの炭化能力により人間が炭化したものだろう。

 即ち、この炭の塊1つ1つが『死体』なのだ。

 

 ヴァグラスはエネトロンのみを狙うので、民間人の被害をお構いなしで行動したとしても、実害を受けている人間は実は多くない。

 だが、ノイズは明確に『人を殺す』事に特化している災害。

 辺りに散乱した炭が最早誰なのかもわからない死体だと思うと、怖気を通り越して吐き気がした。

 

 

「……急ごう、ヒロム、ヨーコちゃん」

 

「こんなの……何とかしないと」

 

 

 リュウジとヨーコもサングラスを外し、その惨状を目の当たりにし、早急にノイズを食い止めなければならない事を改めて悟った。

 3人はやや小走り気味に、前へと歩を進めて行った。

 

 

 

 

 

 ヒロム、リュウジ、ヨーコは市街地を歩いていく。

 無論、辺り一帯の警戒は怠らない。

 

 本来ならば人が多くいて車が通って活気づいている市街地だが、今は人っ子一人おらず、車も一台も通っていない。

 文字通りゴーストタウンと化していた。

 

 

『反応、近いです! 気を付けてください!』

 

 

 3人のモーフィンブレスより、森下の声が聞こえてくる。

 森下は司令室のコンピュータを前に、ノイズの反応を確実に捉えていた。

 

 そしてその通信の内容に違う事なく、数十秒後、3人は『ノイズ』と接敵した。

 

 

「……あれか」

 

 

 その影を、ヒロムはいち早く見つけた。

 生物的な外見で、形容しがたい声を上げ、こちらに接近してくる無数の影。

 

 それが『ノイズ』だ。

 

 多種多様な姿をしている中共通しているのは、顔に相当するであろう部分が液晶ディスプレイのようになっている事だろうか。

 

 3人は無言で横に並び、まるでそうする事が当然とでも言うかのように、モーフィンブレスを同じタイミングで、同じように操作した。

 

 

 ────It's Morphin Time!────

 

 

 モーフィンブレスのグラスが展開し、それと同時に3人の体に『バスタースーツ』が転送され、体に装着されていく。

 

 

「レッツ、モーフィン!」

 

 

 3人はモーフィンブレスのグラスを目の位置と並行にし、ブレスの側面のスイッチをその言葉と共に押す事により、頭部にヘルメット、そしてモーフィンブレスのグラスがヘルメットのバイザー部分となり、彼等は『変身』を終えた。

 3人は完全に『戦士』へと姿を変えたのだ。

 

 

 ヒロムの変身した、赤い戦士。

 

 

「レッドバスター!」

 

 

 リュウジの変身した、青い戦士。

 

 

「ブルーバスター!」

 

 

 ヨーコの変身した、黄色い戦士。

 

 

「イエローバスター!」

 

 

 それぞれが自分の名を名乗り、全員が同時に構えを取りつつ、レッドバスターが掛け声を発し始める。

 

 

「バスターズ、レディ……」

 

 

 ノイズを確かに見据え、3人は臨戦態勢を取る。

 そして、レッドバスターの最後の一言と共に、3人は一斉にノイズに向かっていった。

 

 

「ゴー!!」

 

 

 彼等の名は『特命戦隊ゴーバスターズ』。

 地球を守り、人々を守る『戦士』。

 

 

 

 

 

 

 

 ────Transport!────

 

 

 変身前にもつけていて変身後はスーツに備え付けられているトランスポッドを押し、基地より転送された『ソウガンブレード』を各自手に取り、構えた。

 ノイズは着実に前進し、バスターズの元へ向かってきている。

 

 

「接近すれば向こうから実体化してくれるんでしたね」

 

「その通り。そうすれば俺達の攻撃も通るってわけ」

 

「つまり接近して一気にやっちゃおう、ってことだね!」

 

 

 レッド、ブルー、イエローがお互いに状況を確かめ合うように口々に言う。

 

 如何にバスタースーツに対ノイズ用の力があったとしても、向こうも攻撃を無効化できるのでは話にならない。

 しかし、敵が自分から実体化してくれるのならば話は別だ。

 

 幸いノイズに動物のような知能は無い。

 人間を襲う時に実体化する。

 その本能に近い習性を利用すれば、こちらの攻撃を当てる事も容易だ。

 

 そうこう言っているうちに、ノイズは自分の体を細く変化させ、高速移動を行ってきた。

 3人を同時に狙ったこの高速移動を見事に見切り、同時にソウガンブレードで斬り付けた。

 すると確かな手ごたえがあり、斬られたノイズは炭になって地面に落ちた。

 作戦通り、敵が実体化した時ならば効果があるようだ。

 

 だが、最初の一撃こそ上手くいっても、その後は何度か空振りに終わってしまう事も多かった。

 何せ神業的タイミングを行わなければならないのだ。炭化による即死が無いにしても、それを合わせるのは難しい。

 ノイズに問答無用で攻撃ができる力があれば。そう考えずにはいられない程にノイズへの攻撃は難しかった。

 

 

 

 しかし、此処でゴーバスターズが予想だにしていなかった事が起こる。

 

 

 

 3人はまず、驚愕した。

 突如、ノイズ達が『何者か』に倒されていった事に。

 無論それは、3人の手によるものではない。

 

 ノイズは自身の炭化能力の弊害によるものなのか、時間が経てば勝手に自壊する。

 だがそういうものとは明らかに気色が違っている。

 まるで、何かの衝撃を受けて炭化したかのように、3人には見えていた。

 

 そもそもノイズは攻撃の意思を見せる前に倒されているようにも見えた。

 つまりそれは、『実体化するタイミングを待たずに倒されている』という事。

 転じて、『ノイズを一方的に攻撃している』という有り得ない光景だという事。

 

 そうこう考えているうちに、その場にいたノイズの半数はその何者かに倒されていた。

 ノイズの群れの中から、1つの影が跳び上がり、ゴーバスターズの前に背を向ける形で降り立つ。

 

 その影は、紛れも無く人間の女性だった。

 青の髪に、青と黒と白の三色を基調にした鎧を纏った女性。

 手には1本の細身の剣を携えている。

 

 

「貴方達が『ゴーバスターズ』、ですか?」

 

 

 青い髪の女性が、その長い髪を靡かせ、3人に問いかけた。

 

 ゴーバスターズは割と大っぴらに活動している。

 最近では知名度も上がってきている。

 だから名前を知られているのはいいとしても、謎の女性がノイズを倒すという何とも摩訶不思議な状況に、3人はやや混乱していた。

 

 狼狽しつつもレッドバスターは、問われた事に答え、更なる問いで返した。

 

 

「あ、ああ……貴女は?」

 

「ノイズを倒す者。貴方達と同じで、人を守る防人です」

 

 

 防人────随分古風な言葉を使う人だ。

 

 戦闘中には場違いかもしれないが、それが第一印象だった。

 

 しかし、要は自分達と同じ『戦士』である事を3人は理解する。

 そして、目的が同じである事も。ならばやるべき事はたった一つだろう。

 驚きも冷めやらぬまま、レッドバスターは自らの任務を頭に浮かべ、その異常事態にも冷静に対応して見せる。

 

 

「なら一緒に戦おう。その方が早い」

 

「ええ、こちらでもそう指令が出てますから」

 

 

 ヒロムも青い髪の女性も、そして他の3人も考えている事は皆同じのようで、お互いの顔をちらりと見やって頷き、ノイズと向き合う。

 

 

「行くぞ!」

 

 

 レッドバスターの一声と同時に、4人全員が一斉に駆け出した。

 

 バスターズの3人は接近後挌闘、及びソウガンブレードでの攻撃に移っていくという方法を取った。

 接近すれば、ノイズはバスターズに触れようと自分自身を実体化する。

 そしてそうなれば、バスターズの攻撃にも、タイミングが難しいが当たってくれる。

 3人はこの方法を用い、ノイズを殲滅していった。

 

 一方、青い髪の女性は剣で、辺り一面のノイズを切り裂いていっている。

 時折、剣より青い閃光を放って攻撃したりしている所も見ると、どうやらただの武器、というわけではないようだ。

 

 ノイズは触れられたら終わりだが、逆に言えば触れられるようになれば脆いだけだ。

 数こそ多いが、謎の女性助っ人もあって、バスターズの3人には、謎の女性の戦いを所々見る程の余裕があった。

 

 ノイズに有効打を与え、人間以上の身体能力を持つ。

 しかし明らかにバスターズとも、都市伝説の仮面ライダーのような存在とも気色が違う。

 疑問は尽きないが、4人は着実にノイズを倒していっていた。

 

 

 

 4人が戦う中、残っていたノイズは一箇所に集中しだした。

 すると、ノイズ達は一つに結合し、一つの巨大ノイズとなった。

 4本足で、体には大きすぎるぐらいの口が特徴の、歪な、化け物極まりない姿へと変貌したのだ。

 

 

「小さい方が愛嬌はあったんだけどね」

 

「愛嬌があって炭にされるって方が逆に怖いよ……」

 

 

 4人はその姿を見ても怯まず、ブルーバスターとイエローバスターは暢気な事まで言いだしていた。

 そう言いつつも、バスターズの3人は、イチガンバスターを基地より転送。

 その後、イチガンバスターとソウガンブレードの2つを合体させ、手慣れた手つきで一つの大きな銃へと変形させていく。

 

 

 ────It's time for special buster!────

 

 

 イチガンバスターとソウガンブレードは、合体した必殺形態、『スペシャルバスターモード』へと移行した。

 3人はイチガンバスターを巨大ノイズに向けて構える。

 

 まだ撃たない。タイミングを見る。先程まででノイズの実体化のタイミングは何となく掴めている。

 睨み合う巨大ノイズとゴーバスターズ。

 その膠着に痺れを切らしたのか、はたまた人間がいる事で本能的に動いたのか、巨大ノイズはバスターズを叩き潰そうとその大きな前足を振りかぶった。

 

 叩き潰す為。

 つまりそれは、『実体化した』という合図に他ならない。

 

 瞬間、3人は同時に引き金を引いた。

 放たれたビームは、通常のものよりも巨大で、威力の高い攻撃。

 ノイズが如何に巨大であろうとも、攻撃が通る瞬間を狙われ、必殺級の威力3発を同時に受けて、無事に済むはずが無かった。

 

 実体化のタイミングに合わせたビームが直撃すると、爆発の煙が上がった。

 煙はすぐに晴れ、そこには巨大ノイズなどおらず、大きな炭の塊が転がっているだけ。

 ラストの一撃は見事にノイズを捉え、撃滅した、という事だ。

 

 

「削除完了」

 

 

 レッドバスターのその言葉はミッションコンプリートの合図でもあった。

 と、間を置かずモーフィンブレスが鳴る。

 

 

『お疲れ様です。辺り一帯のノイズ反応は、もうありません』

 

 

 特命部、司令室にいる森下からの通信だ。

 

 しかしバスターズ3人は変身を解かなかった。

 その前に問うべき事があった。

 ノイズという問題の中で現れた、もう1つの謎が、まだ目の前にいる。

 

 

「貴女は何者なんですか?」

 

「…………」

 

 

 ブルーバスターの問い。

 だが、青い髪の女性はバスターズ3人を見やるだけで答える気配はない。

 

 どうやらお互い考える事は同じようだ。

 本当に味方かも分からない相手に、自分の正体を明かすわけにはいかない。

 が、此処で思わぬ事で青い髪の女性の正体が露見する。

 

 

「あーっ!!」

 

 

 それはイエローバスターの驚愕の声からであった。

 青い髪の女性を指差し、マスクの奥で驚きの表情をしていた。

 

 

「も、もしかして! 風鳴翼さん!?」

 

 

 風鳴翼。確かそれは、今人気のトップアーティスト。

 ヒロムやリュウジはそういう事には疎いのだが、ノイズ出現の報を受ける前にヨーコが言っていた事を思い出した。

 

 風鳴翼だと指差された女性は一瞬表情を歪めた。まるで、図星とでも言うかのように。

 そして女性は、ゴーバスターズに向き直り、観念したかのように頷いた。

 

 

「……ええ、そうです」

 

「えーっ! どうしよう!! ア、アイドルが、目の前にッ!!」

 

 

 さすがはファンというべきか、かなりハイテンションなイエローバスター。

 ヒーローと名の知れているゴーバスターズがピョンピョン跳ねるのはちょっとシュールである。

 そんな事も気にせず「サイン? 握手? ああーメアド交換とか……」と呟くイエローバスター。

 ブルーバスターは苦笑い、レッドバスターのマスクの奥は白い目だったが、そんな事はもお構いなし。

 

 そんな感じで話がおかしな方向になって来た時、今度は青い髪の女性、風鳴翼の方に通信が入った。

 

 

『翼、彼らと接触を図ってくれ』

 

「何故ですか? この鎧や二課の事は機密の筈です」

 

『我々がノイズに対応しているように彼等もヴァグラスと戦っている。そして……』

 

「そして?」

 

『……いや、すぐ分かる。

 ともかく、彼らとコンタクトをとってくれ。

 恐らく本部への同行を迫られるだろうが、問題ないからOKしてくれて構わない』

 

「……はい」

 

 

 そして一方、レッドバスター達にも通信が入っていた。

 通信が入った事で色々と考えていたイエローバスターの脳内も真面目なものに切り替わる。

 

 その内容は翼に来た通信とほぼ同じ、正体を開示しても構わないという事だった。

 ただ1つ違った点は、「風鳴翼を特命部までお連れしろ」という命令が出た事だった。

 

 

「……どういう事なんだ?」

 

 

 レッドバスターが疑問符を浮かべるが、今は黒木司令の指示に従うしかない。

 

 

「こっちから指令が出た。貴女を特命部までお連れするようにって……」

 

「奇遇ですね。こっちもそれに従え、という指示が出てます」

 

 

 リュウジの中で、出撃前の疑問が浮かんでいた。

 

 特命部と、特異災害対策機動部二課の関係。

 

 お互いに重要機密を抱える身、そう簡単に接触してもいいものなのか。

 そんな疑問をリュウジが抱きつつ、変身を解除した4人は特命部へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「良く来てくれた、風鳴翼君」

 

 

 特命部司令室では黒木とオペレーターの2人が出迎えを行った。

 黒木はいつものように厳格な表情。オペレーターにも動揺とか、戸惑いは見られない。

 先程までの疑念が道中も全く解けないままでいたリュウジは、開口一番に黒木に質問をぶつけた。

 

 

「司令、お聞きしたい事があります」

 

「なんだ、リュウジ?」

 

「何故急にヴァグラス以外との敵の戦闘に向かわせたんですか?

 バスターズがヴァグラス以外も想定しているなら今までだって出動がかかっても良かったはずです。それが今になって急に……。

 それに特命部と特異災害対策機動部の関係についても」

 

 

 その言葉に黒木は悩んだような顔をする。

 横に居る仲村と森下も同じような顔をしている所を見ると、どうやら事情を知っているらしい。

 リュウジも、リュウジ以外の3人も黒木に目を向ける。

 睨みとまではいかないが、事情を聞きたい、といったような視線だ。

 黒木は「そうだな……」と間を置き、口を開き始めた。

 

 

「実は今後ゴーバスターズにも、シンフォギア装者にも関わる大きな事がある」

 

 

 この言葉で驚愕したものが1名、さらに疑問を抱えたのが3名だ。

 

 疑問を抱えたのはバスターズの3人。

 驚愕したのは風鳴翼だ。

 

 

「何故……何故、『シンフォギア』の事を?」

 

 

 声色からは動揺が見て取れる。

 

 シンフォギア、ゴーバスターズには聞き慣れない言葉だ。

 

 特異災害対策機動部と特命部の関係。

 今後起こるという大きな事。

 シンフォギアという名称。

 

 バスターズ3人の疑問は増え、深まるばかりだ。

 

 

「元々弦十郎とは交流が深くてな」

 

「叔父様とお知り合いなのですか?」

 

「そんなところだ」

 

 

 端的な会話。その中でも正体不明の『弦十郎』なる名詞が出つつ、黒木は少し間を置いて、再び話を始めた。

 

 

「諸君も知っての通り、最近ヴァグラス、ノイズの被害は増え続けている。

 それに加え、新聞等公共の情報網には掲載されないが『怪人』の存在。

 ……このように世界は今、混沌に包まれている」

 

 

 黒木は司令室の自身の席に戻りつつ、ゆっくりと話し始めた。

 4人は黒木の話にじっくりと耳を傾けている。

 しかし、話の本筋が見えてこないし、疑問の答えにもなっていない。

 黒木は話を続けた。

 

 

「数々の混乱の中それに対抗する者もいる。

 しかしそれだけではどうしても防げない、例えば幾つもの事象が同時に起こったとして、一々組織同時で連絡をしなくては連携も取れず、対処も遅れ、被害は増える……。

 そこで提案されたのが、特命部と特異災害対策機動部の一時合併だ」

 

「提案って、そんなものいつの間に……」

 

「つい最近だ。

 完全な決定事項では無かったから、あまり混乱させないようにお前達には秘匿にしてあったんだ」

 

 

 黒木はリュウジの言葉にも的確に返してくる。

 話の概要としては、これから特命部も特異災害対策機動部二課も同じ括りになるという事。

 

 翼とバスターズ3人は顔を見合わせた。

 今顔を合わせている人物が、これから共に戦う同じ部隊の『仲間』となる。

 話が急すぎて黒木達の気遣いなど無駄であったかのように混乱してしまう。

 

 

「さすがに急なのでは……叔父様は何と?」

 

「弦十郎は快諾してくれている。というか、そもそもこの提案は弦十郎からだ」

 

 

 弦十郎なる人物の発案である事をゴーバスターズはそこで知ったが、翼からすればそも十分に驚きだった。

 何せ弦十郎は特異災害対策機動部の司令。つまり特命部の黒木のような存在なのだ。

 自分にまで秘匿にされていた事に翼も戸惑いを隠せない。

 

 突拍子が無い、あまりにも。

 その提案に文句そのものは無いのだが、さすがに驚愕に次ぐ驚愕だ。

 流石に戸惑うな、という方が無理である。

 4人とも口を押し黙ってしまい、その様子を見た黒木は一息ついて再び口を開いた。

 

 

「急な話になったのは申し訳ないと思っている。

 リュウジが言っていたように組織同士はそう簡単に交わる訳にはいかない、故にお前達にも秘匿だった。

 だが、これは人々の平和を守る為により最善の方法を我々がとっているつもりだ。納得できない事もあるだろう。

 反論も甘んじて受けようとも思う。が、これは皆にとっても人々にとってもより良い事のつもりだ」

 

 

 黒木が4人の顔を見渡し言う。

 対して、4人は唖然とした顔をするばかりだ。

 

 勿論、この提案は悪くないし、よりスムーズに人命を助ける事も可能となるだろう。

 それに単純に考えてみよう。今までと何が違う?

 何も変わらない。人を助け、敵を倒す。その相手にノイズが加わり、仲間に風鳴翼が加わっただけの事。

 そう、変わらないのだ。自分達の使命は。

 

 先程まで話の急さに混乱していたバスターズの3人はそう考える事で話を飲み込み、納得した。

 そうなれば返答はただ1つ。

 

 

「反論なんてありません、みんなを守る為ですから」

 

 

 代表とでもいう形でヒロムが皆の気持ちを代弁した。

 バスターズの2人もその言葉に頷いている。

 しかしただ1人、風鳴翼は未だに微妙な表情をしていた。

 

 

(一緒に戦う仲間、か……)

 

 

 その脳裏には、かつての相棒の姿が浮かんでいた。

 

 『特命戦隊ゴーバスターズ』。

 

 そして『シンフォギア装者・風鳴翼』。

 

 黄金の狼と世界の破壊者が出会った頃、此処にもまた、出会いがあった。

 その出会いがもたらすものは────




────次回予告────
真を写す来訪者は旋律と雑音に立ち会う。

あの日、あの時教えられた、命の絶唱。

諦めを忘れさせた歌が起こした奇跡が胸に煌めく────

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