スーパーヒーロー作戦CS   作:ライフォギア

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第29話 ゴーバスタービート

 メタロイドとの戦いは確かにエネトロンの強奪被害を食い止めるために大切な事ではあるが、忘れてはならないのはメガゾードだ。

 今回のメガゾードには新型の疑いがかかっている。

 戦闘中にモーフィンブレスに入った森下の推察によれば、「以前奪ったエネトロン全てを使ってメタロイドを生み出したとしたら、新型が来る事にも納得がいく」との事だ。

 

 実際、その推察は当たっている。

 勿論、それが本当かどうかを確かめる術はバスターズにはないが、悪い意味での可能性がある以上油断はできない。

 2体のメタロイドの取り巻きであるバグラーを蹴散らしながらも頭の片隅でそんな事をレッドバスターは考えていた。

 そんな中、モーフィンブレスに仲村からの通信が入る。

 

 

『バスターマシンを発進させました。メガゾードはあと1分で転送完了です!』

 

「了解!」

 

 

 徒手空拳で正確にバグラーを仕留めつつ返事をする。

 バグラーを相手取っているのはレッドバスターとディケイド。

 他の5人はそれぞれメタロイドを相手に奮闘中だ。

 

 

「一気に決める。できるか門矢」

 

「誰に物言ってる」

 

 

 レッドバスターと背中合わせになったディケイドは実に偉そうな口ぶりで1枚のカードを取り出しながら答えた。

 カードには黄色い複眼のライダーが描かれている。

 ディケイドはそれをディケイドライバーに変身と同じ要領で装填し、発動した。

 

 

 ────KAMEN RIDE……FAIZ!────

 

 

 赤いラインがディケイドの全身に走り、一瞬強く発光したかと思うとディケイドは全く別の姿へと変わった。

 赤いラインに黒いボディ、黄色の大きな複眼が特徴的な仮面ライダー。

 別の世界の仮面ライダー、『仮面ライダーファイズ』にその姿を変身させたのだ。

 以前救助の時に見たクウガやリュウケンドーとの初共闘の際に見た響鬼に続き、また新たな姿を見せたディケイドにレッドバスターは驚きを通り越して呆れる様な声を出した。

 

 

「どれだけあるんだ、そういうの」

 

「さてな。こういうのも含めたらかなりあるぜ」

 

 

 こういうの、と言いつつさらにカードを取り出した。

 カードにはファイズが描かれている。

 しかし相違点があり、今ディケイドファイズが取り出したカードに描かれたファイズは赤い複眼で、胸の装甲が展開している。

 ディケイドファイズはそのカードを発動した。

 

 

 ────FORM RIDE……FAIZ! ACCEL!────

 

 

 そしてディケイドファイズはカードに描かれた姿へと変わった。

 赤い複眼に胸の装甲が肩の位置まで展開、さらに体に走っていた赤いラインは銀色へと変化した。

 この姿はファイズがフォームチェンジした姿、『ファイズ・アクセルフォーム』だ。

 

 

「あと1分でメガゾードが来る、急ぐぞ!」

 

「1分? 10秒で十分だ」

 

 

 言いつつ、ディケイドファイズ・アクセルフォームは左手首に追加された腕時計型の装備、『ファイズアクセル』の赤いボタンを押した。

 

 

 ────Start up────

 

 

 電子音声と共に腕時計の電子数字を表示する部分が『10』を示した。

 次の瞬間、バグラーとレッドバスターの視界からディケイドファイズは消え去った。

 否、視界にはいる。

 あまりのスピードに視認できていないだけだ。

 

 アクセルフォームとはその名の通り加速する為の姿。

 その速度、およそ通常の1000倍。

 常人どころか怪人でもそれを捉え切れる存在は少ない。

 ただし、アクセルフォームの加速を使える限界時間は10秒間。

 ファイズアクセルが10からカウントを始めているのは制限時間を知らせる為なのである。

 

 

「加速か、なら……!!」

 

 

 レッドバスターも腰を落とし、勢いよく走りだした。

 瞬間、今度はバグラーの視界からレッドバスターも消え去った。

 ワクチンプログラムをインストールされた事による常人を超えた力。

 ヒロムの場合はそれが『加速』という形で表れている。

 加速と言っても常人が視認できるような加速では無く、アクセルフォームのように人知を超えた加速だ。

 相手からすれば瞬間移動にも等しいその速度はアクセルフォームに匹敵するかもしれない。

 

 2人の戦士は超加速の中でバグラー達を蹴散らしていく。

 バグラーは何が起こったのか分からないまま次々と倒れ伏していった。

 もしもこの光景を見ている第3者がいたとしたら、何もしていないのにバグラー達が倒れているようにしか見えないだろう。

 それほどまでに2人は驚異的なスピードで動いているのだ。

 

 

 ────Three Two One────

 

 

 ファイズアクセルが残り3秒である事を告げ、遂にカウントは0になった。

 

 

 ────Time out────

 

 

 電子音声と共にディケイドファイズの高速移動が終了する。

 それに続いてレッドバスターも超加速を止めた。

 

 

 ────Reformation────

 

 

 ファイズアクセルから発せられた電子音声に連動してディケイドファイズの肩に展開していた胸部装甲が元の位置に戻り、複眼の色も再び黄色に。

 アクセルフォームから元のファイズの姿へと戻ったのだ。

 10秒という制約つきでも十分すぎる程の加速を手に入れる事が出来る姿。

 それがアクセルフォームなのだ。

 

 ディケイドファイズはさらに、自分の姿を元のディケイドの姿へと戻した。

 辺り一帯のバグラーは全滅させ、アクセルフォームも解かれた今、ファイズの姿である意味は無いと判断したためだ。

 レッドバスターはディケイドの方に振り返る。

 

 

「やるな、お前のスピードも」

 

 

 自惚れではないが、レッドバスターは自分の加速能力が驚異的であると自覚している。

 ワクチンプログラムによるヒロムのスピード、リュウジのパワー、ヨーコのジャンプ力はどれも常人がどれだけ鍛えても達せない程の域だ。

 だが、ライダーの力を行使するディケイドはそれに付いていく事ができる。

 しかしディケイドは鼻を鳴らしてその言葉を否定した。

 

 

「『俺の』、スピードじゃないがな」

 

 

 レッドバスターにその言葉の意味は分からなかった。

 ディケイドの力は他の9人の仮面ライダーに変身し自在にその能力を使う事。

 しかしそれは他のライダーの力であって、ディケイド本人の力では無い。

 尤も、ディケイドの力が『他のライダーの力』とイコールなのだからどうしようもないのだが。

 

 そうこう言っている内にバスターマシンが到着した。

 CB-01、GT-02、RH-03の3台がすぐ近くに停まっている。

 CB-01から離脱していたニックの声が響く。

 

 

『ヒロム! 早く乗れ! メガゾードが来るぜぇ!!』

 

 

 頷いたレッドバスターはCB-01に向かって急いだ。

 直後には敵メガゾードが空中に出現。

 転送が完了して、今まさに地上に自由落下しようとしているところだ。

 ディケイドはレッドバスターの後ろ姿を見送り、他の戦闘中の仲間を見渡した後、呟いた。

 

 

「……この調子なら、あとはデカブツだけか」

 

 

 敵メガゾードが降り立つ中、既に他の戦闘にも決着がつきかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

「おぉらよっと!!」

 

 

 ビートバスターの余裕の拳がソウジキロイドに突き刺さる。

 ビートバスターとスタッグバスターはソウジキロイドの相手を続けていた。

 新たな戦士という事で2人の力が推し量れていないのもあってか、かなり優勢だ。

 そもそも先程、一時的にマサトが消えていた時にスタッグバスター1人にすら苦戦していたソウジキロイド。

 それにビートバスターが加われば勝てるのは道理。

 勿論ソウジキロイドはバスターズ3人とリュウケンドーを苦戦させた強敵ではある。

 スタッグバスターが1人で戦えたのも新たな戦士である事と敵の動揺による所も大きいだろう。

 

 今や初登場故のアドバンテージはビートバスターにもスタッグバスターにもない。

 だが、だからと言って勝てなくなるほどその差が埋まる訳でもない。

 

 

「本当、生意気ですねぇ!!」

 

 

 イライラを一切隠さないまま、ノズルを剣に換装してビートバスターに斬りかかる。

 しかし、ビートバスターの足を払うように振るった剣は縄跳びを跳ぶかのようにヒョイと避けられてしまう。

 その隙にスタッグバスターが後ろから飛び蹴りを浴びせた。

 背後からの衝撃で前に仰け反ってしまったソウジキロイド。

 前方にいるのは斬りかかろうとしたビートバスターなのだから、そちらによろければ追撃が来るのは当然だ。

 ビートバスターはよろけるソウジキロイドに上手い事タイミングを合わせてソウジキロイドの顎にアッパーを繰り出した。

 正確に顎を捉えた拳による衝撃でソウジキロイドは宙を舞って背後のスタッグバスターすらも飛び越えた先の地面に落下した。

 

 しかしまだまだ体力は残っている。

 あまり時間をかけずに立ち上がったソウジキロイドはノズルの先端を剣から通常のヘッドに付け替え、光弾を発射した。

 

 

「おっと!」

 

 

 地面を左に右にと転がって光弾を避けるビートバスターとスタッグバスター。

 着弾した光弾はアスファルトに穴を空けていく。

 相手が射撃に攻撃方法を転換した事を機に、2人は3人のバスターズと同じ位置に取り付けられている銀色のトランスポッドをタッチした。

 

 

 ────Transport!────

 

 

 転送されてきたのは変身に使用したモーフィンブラスター。

 モーフィンブラスターは変身用のツールである。

 しかしモーフィンブレスとは違い『ブラスター』の名を冠しているだけあり、それは銃にもなるのだ。

 

 モーフィンブラスターを構え、引き金を引く2人は敵の光弾を相殺していく。

 ソウジキロイドは1人、対して金銀の昆虫は2人。

 単純に手数が2倍であるのだからソウジキロイドが押されるのは当然。

 スタッグバスターの銃撃がソウジキロイドの攻撃を全て相殺し、ビートバスターの銃撃は障害に晒される事無く命中する。

 銃撃が直撃したソウジキロイドは火花を散らして仰け反り、後ずさる。

 それと同時にソウジキロイドの光弾も止んだ。

 

 この時丁度、敵メガゾードの転送が完了する。

 巨体が空中から地面に着地した衝撃でそれに気付いたビートバスターは目の前のメタロイドとの決着を急ぐ事にした。

 それにはある理由があり、『ある事』を試してみたいからだ。

 その為には敵メガゾードには居てもらう事が望ましい。

 とはいえその為にメタロイドを放っておくわけにもいかない。

 ならば、決着をつけるという形で早々にこの場を切り上げるのが一番だ。

 

 

「決めるぜ」

 

 

 ビートバスターの言葉と共に、2人は同時にモーフィンブラスターの引き金を長く引いた。

 

 

 ────Boost up! for buster!────

 

 

 2人のモーフィンブラスターから同時に電子音声が鳴り、エネトロンがチャージされる。

 さらに2人はグリップ部分に向かって必殺のキーワードとなる言葉を叫んだ。

 

 

「「Come on!」」

 

 

 モーフィンブラスターは変身の際も攻撃の際にも音声入力を必要とする。

 気取るように言ったこの一言も認証の為の言葉だ。

 スタッグバスターはビートバスターの前に立ち、モーフィンブラスターを構えた。

 物の見事にビートバスターの前に被っており、射線はおろかソウジキロイドすら見えない。

 

 

「被るな!」

 

 

 スタッグバスターの頭を右に倒し、それによって空いたスタッグバスターの左肩にビートバスターは自分の手を置いた。

 2人のモーフィンブラスターは変身の時と同じようにグラスが展開しており、そのグラスは敵を狙う照準器となっている。

 エネトロンが完全にチャージされ、音声入力も認証されたモーフィンブラスターの引き金を2人は引いた。

 2つの強烈な弾丸はソウジキロイドを真正面から突き破る。

 断末魔を上げる間もなく、ソウジキロイドは爆散した。

 

 

「まっ、こんなもんかァ?」

 

 

 スタッグバスターの左肩から手を退け、くるりと回って自慢するようなポーズを取った。

 新たな戦士ビートバスターとスタッグバスター。

 少々おちゃらけた一面もあるが、実力は本物だ。

 ビートバスターは降り立ったメガゾードに目をやった。

 

 

「さぁてと……」

 

 

 ビートバスターは『ある事』を試すのが楽しみなのか、仮面の中でニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 リュウケンドーとブルーバスター、イエローバスターはパラボラロイドを相手にしていた。

 しかし彼等はやや決着を急いでいた。

 何故なら、既に数十秒前にメガゾードの転送が完了してしまっていたからだ。

 戦いが長引けばGT-02とRH-03で援護に向かう事が出来ないし、ゴーバスターオーにもなれない。

 

 戦闘中のパラボラロイドの機銃攻撃は隙が無く、ミサイル攻撃は強力の一言だ。

 おまけにミサイルは追尾式。

 しかしながら、その逆に近接戦はあまり得意では無いらしい。

 アンテナ型の槍を持っていても近接戦においてソウジキロイド程の強さは感じない。

 ブルーバスターとイエローバスターのイチガンバスターでの援護を受けて接近戦に持ち込めたリュウケンドーはそれを感じていた。

 

 

「良い勝負になる、そう思うのは自惚れでしょうかっ!?」

 

「自惚れどころか勘違いだぜッ!!」

 

 

 パラボラロイドの言葉を強く斬り捨て、アンテナの槍を叩き落としてゲキリュウケンの斬撃を浴びせる。

 さらにリュウケンドーの後ろで控えるブルー、イエローバスターの銃撃が追い打ちをかける。

 怯むパラボラロイド、今がチャンスと言わんばかりにリュウケンドーはマダンキーを取り出した。

 

 

「一気に行くぜ! ファイナルキー、発動!」

 

 

 ────ファイナルブレイク────

 

 

「ヨーコちゃん、俺達も」

 

「うん!」

 

 

 ブルーバスターとイエローバスターは基地からソウガンブレードを転送し、イチガンバスターと連結。

 スペシャルバスターモードへと移行した。

 

 

 ────It's time for special buster!────

 

 

 2人はスペシャルバスターモードとなったイチガンバスターをパラボラロイドに照準を合わせ、パラボラロイドが怯みから抜ける前にエネルギーを放った。

 2つの強力なエネルギー弾はパラボラロイドに命中し、それだけでも爆散しかねない威力。

 高威力の攻撃を食らったパラボラロイドにリュウケンドーはエネルギーの溜まったゲキリュウケンを携え接近。

 

 

「ゲキリュウケン! 魔弾斬り!!」

 

 

 掛け声とともに縦に真っ二つに切り裂いた。

 既に最初の一撃で機能停止寸前だったパラボラロイドにとって、今の一撃は完全な止め。

 火花を散らせて前屈みに倒れ、内部の機械がショートした影響なのか、その身を爆散させた。

 リュウケンドーはゲキリュウケンを構え直す。

 そして弔いか、はたまた二度と帰ってくることなかれという意味を込めてか、敵を撃破した時に必ず発する言葉を贈った。

 

 

「闇に抱かれて、眠れ……!」

 

 

 パラボラロイドの機能停止が起こした爆炎に振り返るリュウケンドー。

 その向こうのブルーバスターとイエローバスターはGT-02とRH-03に向かおうとした。

 が、しかし。

 

 

「させませんよ」

 

 

 出し抜けに響いた声に3人が勢いよく振り返った。

 見れば、いつの間にか3人の近くにはエンターがGT-02とRH-03への道を塞ぐように立っていた。

 更にエンターが手をスッと上に上げると、何処からともなく紫色の兵士が現れる。

 

 

「ギジャー!」

 

 

 それは遣い魔。

 ジャマンガが保有する戦闘員だ。

 突然のジャマンガの登場にリュウケンドーも驚きを隠せない。

 

 

「何でだ!? ジャマンガ何てどっから!?」

 

 

 リュウケンドーの言う通り、今回の事件の中でジャマンガは一切その姿を現してはいない。

 バグラーならともかく何がどうして遣い魔が出てくるというのか。

 エンターは口角を上げ、その疑問に律儀にも答えた。

 

 

「我々とジャマンガは既に協力関係にあります。遣い魔程度でしたら私にも貸し出してくれたのですよ」

 

 

 遣い魔はバグラーと同程度の戦闘員である。

 だが、これを貸してくれるというだけでもエンターにとっては少し助かる面があった。

 バグラーはメタロイドに比べると非常に少量のエネトロンで大量に生み出す事が出来るコストのかからない兵士だ。

 

 とはいえ微量とはいえかかるのは事実。

 それを何度も繰り返して行けば塵も積もれば山となるわけで、使わない事に越した事はない。

 一言で言うと節約になるというのが助かる主な理由だ。

 節約と言ってしまうと人知を超えた悪の組織なのに何やら間抜けに聞こえるが、これは意外と馬鹿にできない。

 

 これを続けられると前回のあけぼの町での戦いの時のように、メガゾードを大量に転送する分のエネロトンを溜める事ができたりもする。

 先の事を考えると、例えばヴァグラス側が何処かのタイミングで勝負に出た時、大量のエネトロンを一気に使う事ができるようにもなるのだ。

 そもそもエンターが他の組織と組んだ利点はそこにある。

 

 

「では、遣い魔達とお戯れを……」

 

 

 深々としたお辞儀と共にエンターは遣い魔だけを残してデータとなり消えた。

 残された大量の遣い魔は3人に向かってくる。

 放っておくわけにもいかず、更に遣い魔は明らかにGT-02とRH-03に行かせないように動いていた。

 

 ただ戦うだけならリュウケンドーに任せて先に行くという事もできるのだが、足止めのみに遣い魔が集中しているせいかそれができる気配すらない。

 何より数が馬鹿にならなかった。

 レッドバスターの援護に行けない事に歯痒さを感じつつも、3人は遣い魔との戦いを余儀なくされてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 メガゾードの転送完了はソウジキロイド、パラボラロイドの撃破を待たずして完了してしまった。

 その為、先にバグラーを片付けたレッドバスターがゴーバスターエースで相対する事になっていた。

 エースの眼前にはパラボラロイドのデータをインストールされたタイプαが既に地上に降り立っている。

 

 姿形は殆どパラボラロイドそのもので、ご丁寧にアンテナ型の槍も所有している。

 名付けるなら『パラボラゾード』と言ったところか。

 しかし此処で特命部司令室にも、そして戦場のゴーバスターズにも1つの疑問が過った。

 その疑問を代弁するかのようにモーフィンブレス越しに仲村の戸惑う声が聞こえてくる。

 

 

『やっぱり、ただのα?』

 

 

 質量がいつもと違い、新型の可能性があると示唆した。

 だが、送られてきたのは見ての通りのただのタイプα。

 そうであるならばあの質量の違いはなんだったのかと疑問に思わざるを得ない。

 しかしメガゾードを前にしてゆっくり考え事というわけにもいかず、レッドバスターは早々にゴーバスターエースを動かした。

 

 

「とにかく、コイツを倒す!」

 

 

 エースはバスターソードを構えてパラボラゾードに向かって行く。

 バスターソードとアンテナ型の槍がぶつかり合い、巨大な物同士がぶつかって激しい音が響く。

 αはスピードに優れている形態ではあるが、現れる敵メガゾードの中では一番古参の型番。

 ゴーバスターオーにならずともエースだけで十分に対応できる。

 事実、エースはパラボラゾードと互角以上の勝負を繰り広げていた。

 

 攻守ともにエースが完全に優勢だった。

 恐らく容易に止めまで持っていけるだろう。

 そう確信した、その時だった。

 

 

「……!?」

 

 

 パラボラゾードはバスターソードの斬撃に火花を散らしながら後退した。

 そこまではいい。

 

 だが、次の瞬間にレッドバスターは己の目を疑った。

 パラボラゾードが猫背になったかと思うと、その背中が割れたのだ。

 勿論、背中を斬った覚えなどないし、その割れ方は外部から割られたというよりも、内部から何かが殻を突き破ろうとしているそれに近かった。

 脱皮と表現するのが一番分かり易いだろう。

 パラボラゾードの背中から現れたのは見た事のないタイプのメガゾード。

 

 

「新たなタイプ……これか!」

 

 

 質量が違った理由をレッドバスターは理解した。

 この新たなタイプのメガゾードが取り付いていたからだ。

 右腕は斧状で、カブトムシの角のような頭部に単眼のカメラアイが光る新メガゾード。

 まるで寄生するかのようにパラボラゾードに取りついていたそれは、エンターがメサイアから動かすように言われていた新戦力である。

 新たなメガゾードが降り立つ光景を遠くから見つめるエンターは大袈裟な身振り手振りと共に、歓喜を表現していた。

 

 

「ようやく完成です! 世界を支配するマジェスティ・メサイアの先触れ!!

 破壊のメガゾード……ッ!!」

 

 

 うっとりするような顔で「トレビアン」と呟くエンター。

 一方、戦場のレッドバスター、エースは敵メガゾードが増えた事に警戒を示していた。

 脱皮して新たなメガゾードが出現したわけだが、パラボラゾードはそのまま活動を再開している。

 どうやら抜け殻になって活動停止とはいかないようだ。

 

 それに新たなメガゾードは新型。

 もしかしたら現状の敵メガゾード最強であったタイプγすら凌駕している可能性があるのだ。

 更に此処でもう1つの予期せぬ事態が起こった。

 司令室がこちらに接近する何らかの熱源をキャッチしたのだ。

 急ぎ、バスターズにそれを知らせる森下。

 

 

『何者かが戦闘区域に侵入してきます! これは恐らく……!』

 

 

 恐らく、と言うように森下も、いや、この戦闘の前線、支援メンバー全員がその正体に心当たりがあった。

 この状況下で戦闘に乱入しようとする者といえば1つ。

 そして目と鼻の先に迫っていた『乱入者』である輸送艦とそこから発進する機体を見て、その考えは確信に変わった。

 それを見たビートバスターは遠くを見るように右手を額に付けて呟いた。

 

 

「ほー、あれがダンクーガか。生で見るのは初めてだな」

 

 

 輸送艦から発進した4機の機体は合体、その姿をダンクーガへと変えた。

 続けてダンクーガは通信をしてきた。

 ただし、お互いにお互いの通信方法が分からないのは以前の邂逅から変わっていないので戦場全体に響くように通信を設定している。

 

 

「大分早い再会だったけど、元気してたかしら?」

 

 

 女性パイロットの声は以前に聞いたそれと同じだった。

 軽い調子で響く言葉にレッドバスターはダンクーガに対しても警戒の色を隠さずに答えた。

 

 

「また現れたか。今度もヴァグラス退治か?」

 

 

 疑問の言葉であったが、声色には期待だとかそういった感情は含まれておらず、ダンクーガを味方とは思っていないようなキツい口振りだった。

 信用が一切ない事に我ながら自嘲したのかダンクーガ、ノヴァイーグルのコックピットに立つ葵は「やれやれ」と首を振りながら苦笑いだ。

 

 

「少しくらい警戒を解いてくれてもいいんじゃない?」

 

「信じる理由が無い。一度助けてくれた事には礼を言うが、普段のお前達の行動を考えれば当然だろ」

 

「アンタ、ストレートねぇ」

 

 

 呆れる葵の声。

 お互いに素性も何も知らないが、一度は共闘した仲なのだからもう少し警戒を解いてもらえると思ったのだが、どうにもゴーバスターズのメインパイロットは頭が固い。

 とはいえダンクーガの行動を見れば信用が無いのも当然だと葵自身思っていた。

 葵もダンクーガの行動に関しては疑問を持つ事もある。

 何故なら、彼女達4人はダンクーガのパイロットになって『日が浅い』からだ。

 

 

「ま、とにかく今回もヴァグラス退治ってのは間違ってないわ。新型もいるみたいだしね?」

 

「助かるとは言っておく」

 

「もうちょっと素直に言えないの?」

 

「気を許した覚えはない」

 

「成程、今のでも十分に素直なわけね」

 

 

 レッドバスターは直球な人間であるというのが葵の印象だ。

 普通なら「助かるとは言っておく」なんて言い回しは素直に礼が言えない人間が吐きそうな台詞だ。

 しかし今回の場合、レッドバスターがダンクーガに対して一切警戒を解いていないからこその言葉。

 そういうところや先程までの会話も含めての葵が感じた印象がそれであった。

 

 印象がどうあれ、一時的な共闘をする事に変わりはない。

 エースとダンクーガは新型メガゾードとパラボラゾード相手と睨み合う。

 

 

「さぁて、やってやろうじゃん!!」

 

 

 葵の一声で両者が一斉に動き出した。

 パラボラゾードはエースが、新型はダンクーガが相手をする形となる。

 パラボラゾードの方は先程までの戦い同様、エースが優勢だ。

 2対1だったらヴァグラス側に分があっただろうが、1対1のままとなれば力関係が変わるわけもない。

 問題は新型と対峙するダンクーガだった。

 ダンクーガは相手の斧を振るう攻撃を受け止め、防御をする形をとっていた。

 だがさしものダンクーガも新型の勢いには少々押され気味だった。

 

 

「パワーは今までのタイプとは比較にならないですね……!!」

 

 

 ノヴァエレファントのパイロット、ジョニーが揺れる衝撃に耐えながら状況を分析する。

 ヴァグラスとの戦いに介入するにあたって独自にダンクーガ側が調べていたメガゾードのデータ。

 そのどのデータよりも新型のパワーは強烈だった。

 

 一旦距離を取り、牽制の為にミサイルデトネイターを放つ。

 しかしミサイルの幾つかはカメラアイからの光弾に撃ち落とされ、残りも斧によってガードされてしまった。

 普通のメガゾードなら少しは対応が遅れると思われるのだが、反応速度まで上がっているらしい。

 更には耐久度まで上がっているのか斧に着弾したミサイルにも怯んだ様子は無い。

 右腕の斧はその大きさの副産物により盾代わりにもなるようだ。

 通常兵器になら無双同然の活躍を見せるダンクーガだが、目の前の新型はそうはいかない事を4人のパイロットは悟る。

 しかしメインパイロットの葵は臆することなく、むしろその戦意を高揚させていた。

 

 

「ちょっと強敵かもね……!」

 

 

 苦戦するダンクーガ。

 一方でエースはパラボラゾードとの戦いを有利に進めていたが、タイプα特有の能力である量産型メガゾード、バグゾードを2体放出した事でやや戦局が変わっていた。

 バグゾード自体は大した事が無いのだが、2体いる上にパラボラゾードも残っている。

 となると、この状況はあまり歓迎できない。

 

 

「くっ……!」

 

 

 バグゾードはエースに組みつこうと食らいついてくる。

 こちらの動きを止める事が狙いなのだろう。

 振り払うエースではあるが、このままだとバグゾードに意識が行き過ぎてパラボラゾードとまともに戦えなくなってしまう。

 かといって組みついてくるバグゾードを無視すれば動きが制限されて結局パラボラゾードに狙い撃ちにされるだけ。

 

 その様子をビートバスターとスタッグバスターは見つめていた。

 ブルーバスター、イエローバスター、リュウケンドーは依然、遣い魔と交戦中。

 遣い魔退治にディケイドも参戦してくれたのだが、如何せん遣い魔達の動きは相手を倒す事では無く、足止めする為の動きであるから4人としても立ち回り辛い。

 相手はこちらを足止めできればいいわけで、無闇に突っ込んできてはくれず、持久戦をするかのようにちまちまとした攻撃を繰り返してきていた。

 普段の遣い魔ならば突っ込んできたのを返り討ちにするところなのだが。

 エンターの命令で戦っているからこその戦法なのだろうか。

 

 

「J、いっちょやるぞ」

 

 

 ビートバスターは遣い魔討伐を手伝うでもなく、スタッグバスターに軽い調子で言った。

 スタッグバスターはそれに「了解」と答えると両手をこめかみの辺りに当てた。

 

 

「俺のマーカーシステム起動」

 

 

 スタッグバスターのこめかみの辺りが二度三度光った。

 それは先程、マサトのアバターを転送した時と同じ挙動だった。

 つまり今回も何かが転送されてくるという事である。

 

 そうして転送されてきたものは──────。

 

 

 

 

 

 一方で特命部の司令室はある反応をキャッチしていた。

 キャッチした反応に驚きながら、かつ焦った口調で仲村が黒木に報告をした。

 

 

「!? メガゾード転送反応確認!」

 

 

 黒木も森下もその言葉に最悪の可能性を考えた。

 エースとダンクーガが苦戦し、GT-02とRH-03は未だパイロットが乗りこめず。

 相手には新型もおり、苦戦を強いられている中でのメガゾードの転送。

 

 ────追い打ち。

 

 浮かんだ言葉はそれだった。

 だが、転送にはある程度の時間がかかる筈、そこに付け込めれば。

 黒木はそれを仲村に驚き冷めやらぬままに尋ねた。

 

 

「転送完了時間は!?」

 

「……早い!? もう来ます!!」

 

「何ッ!?」

 

 

 予想外の返答に黒木は戦場が映し出されている前方のモニターにすぐさま目を向けた。

 そこに映し出されていたのは、転送されてきたバスターマシン並の大きな車両。

 クレーン車とその上に乗った戦闘機だった。

 

 

 

 

 

 司令室がキャッチしたメガゾードの転送反応はクレーン車とその上に乗る戦闘機によるもので間違いはない。

 ただし、これを呼んだのはヴァグラスでは無かった。

 

 そのメガゾードの中に乗り込んだのはなんとビートバスターとスタッグバスター。

 クレーン車にはビートバスターが、戦闘機にはスタッグバスターが既に乗り込んでいる。

 ゴーバスターズと同じくバスタースーツとバディロイドを持つ陣マサト。

 ならば、それらと同じようにバスターマシンを持つ事は考えてみれば当然と言えるのかもしれない。

 

 この2機は普段、亜空間に存在しているマサトが秘密裏に建造したドックに格納されている。

 そして必要とあらばマサトのアバターと同じくJのマーカーシステムを目印に、亜空間から転送されてくるのだ。

 

 ビートバスターとスタッグバスターは『ドライブレード』と言う剣を転送、それを折り畳んだ。

 折り畳まれたドライブレードは車のハンドルのような形となり、それをそれぞれのコックピットに取り付けた。

 ドライブレードは戦闘では剣に、バスターマシンの中では操縦桿になる代物だ。

 さらに2人はドライブレードの起動スイッチを押した。

 

 

 ────Roger! BC-04 Beetle! Shift up!────

 

 ────OK! SJ-05 Stag beetle! Take off!────

 

 

 ドライブレードがそれぞれの機体の名称と操縦が可能になった事を告げた。

 クレーン車のBC-04、戦闘機のSJ-05だ。

 ビートバスターは辺りの機器を操作して機体を完全に起動、戦闘も可能な状態にした後、手をパンと叩き、まるで品物を物色するかのようにコックピットの中を見渡した後に操縦桿を握った。

 

 

「んじゃま、試運転がてらやってみるかァ」

 

 

 言葉と同時にSJ-05がBC-04のクレーン部分を滑走路として飛び立ち、その姿を変形させた。

 前方に突き出るハサミのような2本の角は正しくクワガタムシだ。

 

 一方でSJ-05が飛び去った後のBC-04もまた変形を果たしていた。

 前方に突き出る1本の角はカブトムシのそれ。

 CB-01のチーター形態など、所謂アニマルモードに相当する姿だ。

 2匹の鋼鉄の甲虫は戦闘に乱入しエースに取りつくバグゾードに虫さながらに張り付いて引きはがした。

 

 2体のバグゾードはそれぞれに張り付いてきた虫を引きはがそうと必死になり、エースはその場から逃れる事に成功した。

 助かったエースではあるが、パイロットのレッドバスターは突然現れた謎のメガゾードに驚きを隠せない。

 

 

「あいつ等は……!?」

 

 

 驚いている最中、バグゾードの動きが徐々に鈍くなっていくように見えた。

 まるでエネルギーを失って駆動を停止しているかのような。

 それもそのはず、何とBC-04とSJ-05は取りついたバグゾードからエネトロンを吸っていたのだ。

 それに気付いたニックは気味悪がるような声を上げた。

 

 

『うえぇ! あいつ等エネトロン吸ってる! マジで虫だ!!』

 

 

 さながら虫が樹液を吸うようにエネトロンを吸っていく。

 相手のエネトロンを自分のエネトロンとするような力は今までのバスターマシンには無い力だ。

 他の機体からエネトロンを集めて補給する事はできるが、それは相手が動かない事が条件。

 この条件は相手が合意の上、つまりは味方でなければ本来満たせない。

 だが、目の前の2機のバスターマシンは強制的に相手からエネトロンを吸っている。

 とはいえこの戦法は相手がバグゾードという戦闘能力の低いメガゾードだからできる事。

 αを初めとする通常のメガゾードが相手ならこうはいかないのが実状なのだが。

 

 ともかく、バグゾードはその動きを完全に止めた。

 動くためのエネトロンを完全に奪われてしまったのだ。

 BC-04はバグゾードの股にカブトムシの角を引っかけて、角を思い切り振り上げる事で敵を投げ飛ばした。

 ついでに角を思い切り振り上げた際に角の先端を強く打ちつけてダメージを与えている。

 SJ-05はそのハサミでバグゾードを挟み込み、出力を全開に。

 挟み込む力が出力と共に上がる事で、バグゾードにかかる圧力が増していく。

 投げ飛ばされたバグゾードは角を打ち付けられたダメージも合わせて投げられた衝撃で爆散。

 挟み込まれたバグゾードはハサミの力に耐えられず、こちらも爆散した。

 敵がバグゾードとはいえ上々の動きを見せるBC-04とSJ-05に満足気な顔を仮面の下で浮かべるビートバスターだった。

 

 

『やるなぁ!』

 

 

 一方でエースのニックは虫の2機に感嘆する声を上げ、レッドバスターもその能力に素直に感心していた。

 だが、感心してばかりではいられない。

 まだパラボラゾードが残っているのだ。

 レッドバスターはすぐさま気持ちを切り替えパラボラゾードにエースを向き合わせた。

 そして間髪入れずにモーフィンブレスを操作。

 

 

 ────It's time for buster!────

 

「レゾリューションスラッシュ!!」

 

 

 エネトロンがチャージされたバスターソードでパラボラゾードを槍ごと一刀両断。

 エースは単機でもタイプγやそれ以上の機体以外には十分に対応できるようになっている。

 αが素体となっているパラボラゾード相手ならこんなものだ。

 しかし、まだシャットダウン完了とはいかない。

 ダンクーガが新型相手に依然、苦戦しているからだ。

 

 

「……参ったわねぇ、まさか断空砲に耐えるなんて」

 

 

 メインパイロットの葵は呆れる様に呟いた。

 緊張感をあまり感じない言い方であったが、その実これは非常事態だ。

 ミサイルデトネイター、ブーストノヴァナックル、断空砲。

 これら3つの武装を試したのだがどれも効果が見られない。

 

 特に断空砲はこの中でも必殺の威力を誇る一撃だ。

 もう1つ、ダンクーガには使っていない武装があるのだが、それが効かなかったらダンクーガに勝ち目はない。

 それに何より由々しき問題が彼女達に襲い掛かっていた。

 

 

「葵さん、合神から4分過ぎました。そろそろマズイですよ」

 

「あー、蒸し風呂はゴメンね」

 

 

 ジョニーの通信に葵は軽い調子で答えるが、実はこれが由々しき事態の正体だ。

 ダンクーガはゴーバスターオー並みかそれ以上かもしれない驚異的な出力の代わりに5分しか連続稼働できないというデメリットを持つ。

 5分を過ぎると機内の気温が急上昇し、パイロット達はただでは済まないどころか死の危険性がある。

 今から最後に残った武装を使って何とかしたいところだが、仮に効かなかった場合、隙を突かれて攻撃されて、挙句の果てに5分オーバーという可能性が考えられる。

 早く分離をしなければならないのだが相手が悪い。

 相手は機械的にこちらを潰そうとしてくる。

 

 普段葵達が相手にしているのは、人間の乗った戦闘マシンだ。

 人間が乗るという事はパイロットに動揺が走れば、それが機体にも現れて隙にもなる。

 だが完全に無人機であるという事は、その隙は一切無い。

 例えどれだけズタボロにされようとも命令だけを忠実に実行しようと迷いなく突き進んでくるそれは時として恐ろしいものだ。

 しかも、今回の場合は敵の方が強い。

 武装の殆どが効かない以上、分離をするための隙を作るという事もできるかどうか分からない。

 

 

「おーい、ダンクーガさん!」

 

 

 手をこまねくしかなかったダンクーガ一同に呼びかけたのはBC-04こと、ビートバスターだ。

 カブトムシの姿からクレーン車の姿へと再び変形しなおしている。

 上空を飛ぶSJ-05もまた、クワガタムシの姿から戦闘機の姿になっていた。

 

 

「そいつは俺にやらせてもらうぜ。俺がぶちのめさないと気が済まない理由があるんでな」

 

 

 ビートバスターがコックピットの中で新型を鋭く指差して宣言する。

 ぶちのめしたい理由とやらはダンクーガ側には当然分からないが、この状態が維持できないダンクーガにとっては願ってもいない提案だった。

 

 

「あら、ナイスタイミング。ちょっとこっちも訳有りでね、悪いけど一旦離脱させてもらうわ」

 

「訳有りねぇ。ま、いいや。そいじゃこいつの真の力のお目見えと行くか!」

 

 

 上空を飛び回るSJ-05は機銃を新型目掛けて発射。

 戦闘機から発射された攻撃に耐える事はできても華麗に避ける事は新型にはできない。

 それに威力も中々あるらしく、新型は怯む様子を見せた。

 

 

「行くぜ!」

 

 

 隙を見計らってビートバスターはドライブレードの中央、つまりはクラクションに相当する部分を押した。

 それが『真の力』の起動スイッチだ。

 

 BC-04はクレーン部分を一度分離したかと思えば、なんと本体が突然縦方向に立ち上がった。

 車が立ち上がるという表現は何とも奇妙だが、本当にそういう状態なのだから他に言いようも無い。

 さらにBC-04の本体部分が見る見るうちに変形していく。

 地面に接地している部分が真っ二つに割れ、両足を形作る。

 続けて上半身部分が変形して頭部、肩部分を形成した。

 最後にボディ側面の空洞にクレーンが通過し、半分まで入りきったところで折れ曲がり、クレーンの先と先がそれぞれ両手となった。

 右手のクレーンの先端部分は2つに割れ、まるで斧の様になっている。

 

 その姿は黒に金が輝くロボット。

 

 

「完成、『ゴーバスタービート』!」

 

 

 その名も、ゴーバスタービート。

 BC-04が変形したのはCB-01のゴーバスターエースに相当する、単体の人型。

 これがビートバスターの試してみたかった『ある事』であり、BC-04の真の力だ。

 

 

「そんじゃ行くぜ、パチモン野郎!」

 

 

 新型に堂々と宣言するビートバスターの内心は穏やかなものでは無かった。

 ゴーバスタービートと新型のシルエットは右腕の斧や頭部、全体的なフォルムが非常に似通っている。

 これはエンターが盗んだ設計図が関係している。

 元々それはマサトが設計したものであり、その設計図を元に完成させたのが敵の新型であり、BC-04なのだ。

 姿形が似るのは当然と言える。

 

 設計者からしてみれば目の前の新型はモドキ同然。

 更に言えば自分の設計図が悪用されている事。

 これら2つの点が、ビートバスターが心中穏やかでない、ぶちのめしたい理由だった。

 

 

「へぇ、あんな隠し玉もあったんだ」

 

 

 葵が初めて姿を見せたゴーバスタービートを見て面白そうな表情を浮かべた。

 ダンクーガはSJ-05が作った隙を見計らって、BC-04の変形と同時に既に4機の機体へと分離していた。

 

 

「お手並み拝見ってトコか?」

 

 

 ノヴァライノスのパイロット、朔哉が操縦桿から手を離して頭の後ろで両手を組んで投げやる様な姿勢になる。

 何にしてもダンクーガへの合体は不能、ダンクーガで効果的なダメージが与えられなかった敵に対して分離した状態で挑んでも結果は見えている。

 

 

「まっ、そうなるでしょうね」

 

 

 ノヴァライガーのくららもそれに同意、ジョニーと葵も通信機越しで見えないが頷きながらも「ええ」と答え、傍観を決め込む方向で話が纏まるのだった。

 

 

 

 

 

 鏡というには色合いや外装が違いすぎるが、シルエットが似ていて同じ設計図から造られたという意味では兄弟のようなものか。

 

 新型とゴーバスタービートは睨みあう。

 バグゾードは2機とも爆砕、パラボラゾードはエースが撃破、残るは新型のみ。

 ダンクーガは実質戦闘不能、エースはゴーバスターオーならともかく単体ではダンクーガに及ばない、つまりダンクーガが敵わない新型への対処には不安が残る。

 それにエースはパラボラゾードとバグゾードを相手にした時の稼働とレゾリューションスラッシュでエネトロンも大分消費している。

 ブルーバスター達は依然、遣い魔と戦闘中。

 横槍無しの同じ設計図から生まれた者同士の1対1が成立────。

 

 

「俺はやる!」

 

 

 ────していなかった。

 SJ-05、スタッグバスターの乗る戦闘機が上空から機銃を撃ち、新型を牽制する。

 そこで怯んだ隙にゴーバスタービートは接近、右手の斧型の武器で1発、2発と攻撃を加える。

 

 

「うっし、上々だぜ」

 

 

 一先ずゴーバスタービートの挙動に異常はない。

 さすがは自分の設計したBC-04だと心の中で酔いしれてみるわけだが、敵も同型機なのだから油断はできない。

 それにSJ-05の機銃は決定打ではなく、あくまでも牽制。

 一時の怯みにはすぐに慣れたのか新型もまた右手の斧を振るって対抗してきた。

 斧同士がぶつかり合い、巨体の巨大な斧がぶつかった轟音が響き、お互いに力比べに足元を踏ん張ったせいで土煙が上がる。

 

 

「っと、じゃあコイツだ!」

 

 

 力比べは同型機だけありほぼ互角。

 ゴーバスタービートは一旦距離を置いて、手足のリーチではお互いに届かない場所まで離れた。

 そしてその位置からゴーバスタービートは右腕を突き出す。

 届かないかに見えたその腕は、何と伸びていき、新型の胸に拳を繰り出した。

 ゴーバスタービートの腕を形成しているのはクレーン車の形態の時にクレーンだった部分。

 つまり、その腕もクレーンのように伸縮が可能なのだ。

 

 何度も伸縮を繰り返して幾度も右腕でパンチを繰り返すゴーバスタービート。

 単純なパンチでは無く、右手には斧の様な得物を携えているのだから威力も中々の物だ。

 見たところ新型は変形機能などがオミットされている。

 で、あるならば、クレーン機能を使っているこの攻撃は真似できない。

 

 

「やっぱしモドキだったな」

 

 

 同じ設計図から生まれたのにも関わらずゴーバスタービートに押される新型を見て得意そうに笑みを浮かべる。

 敵も同じ攻撃が出来れば少しは対処できただろうに、その様子が見えない事からも敵は所詮模造品なのだとビートバスターは確信した。

 とはいえ実力はダンクーガ以上、勿論新型も新型だけあって強いのだ。

 ただ、今回の場合は設計した張本人が同じ設計図から造った機体で立ち塞がったというのが悪かった。

 

 

「J! 止めだ!」

 

 

 ビートバスターはゴーバスタービートの右腕を伸ばし、斧の様な部分をフックのように新型の頭に引っかけた。

 新型はゴーバスタービートの右腕から逃れようとするものの、暴れる新型にゴーバスタービートは右腕を通して電流を浴びせる。

 火花を散らして一瞬、動きを止める新型。

 その瞬間にゴーバスタービートの伸びた右腕に戦闘機形態のSJ-05が乗り、腕の上をカタパルトのように走り新型目掛けて突進。

 

 

「『ビートカタパルトアタック』!!」

 

 

 ゴーバスタービートとSJ-05から繰り出される必殺の一撃を宣言するのはビートバスター。

 SJ-05が新型に突っ込むと同時にゴーバスタービートは右腕を元の長さに戻した。

 一方でSJ-05が猛スピードで突っ込んできた新型は体に大穴を空け、爆散。

 爆発の中からはSJ-05が悠々と飛び立ち、帰還した。

 実質2対1とはいえ、ゴーバスタービートは見事、同型機である敵の新型相手に勝利を収めたのだった。

 その勝利をビートバスターは得意気に締めくくった。

 

 

「Shut down! 完了だ」




────次回予告────

Super Hero Operation!Next Mission!

「お前はどうしていつもそう適当なんだ……!」
「父さん達は、どうなったんですか」
「いけない子ね……」
「初めまして、マドモアゼル」

バスターズ、レディ……ゴー!

Mission30、13年の再会

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