スーパーヒーロー作戦CS   作:ライフォギア

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第28話 揃うは7人

 エンターはあるマンションの屋上に来ていた。

 高い場所で日が照りつけていて普通の人間なら暑いと感じるところだろうが、生憎とエンターはそんなものは感じない。

 涼しい顔をするエンターの周りにいるバグラーはみな、手に1つ1つダストカップを持っている。

 昨日ソウジキロイドが集めたそれだ。

 その数およそ20。

 

 さらにエンターはダストカップとは別に大きな容器を持っている2体のバグラーに指示を出した。

 2体のバグラーは大きな容器を地面に置き、周りのダストカップを持つバグラー達が次々とその容器の中にダストカップの中身、即ちエネトロンを注いでいく。

 20個ものダストカップに入っていたエネトロンは大きな容器一杯となった。

 

 

「さて、これだけのエネトロンを使えば……」

 

 

 エンターは自分の持つパソコンから伸びるコードの先端を、マンションの屋上に取り付けられたパラボラアンテナに張り付ける。

 さらにもう一方はエネトロンの中に。

 ソウジキロイドが回収した莫大な量のエネトロンを使い、メタロイドを生み出すつもりなのだ。

 エンターはメタウイルスカードをパソコンにスラッシュ、パラボラアンテナにメタウイルスをインストールする。

 

 

「メタウイルス、『探す』。インストール」

 

 ────パラボラロイド パラボラロイド パラボラロイド────

 

 

 誕生しようとしているメタロイドの名前が電子音声で3回コールされた。

 エンターのパソコンに繋がれたアンテナは変形するかのようにみるみるその姿を変えていき、最後にはパラボラアンテナを模した人型となった。

 両手にアンテナを模した槍を持ち、体の至る所にアンテナらしき部位がある。

 この『パラボラロイド』はメタウイルスの中身通り、探す事に長けたメタロイドだ。

 

 

「ビートバスターとクワガタロボットを探し出してください。

 色々と聞き出さなければ。その後はゴミとして処分です」

 

「この僕の探査レーダーならすぐですよ、なんていうのは自惚れでしょうか?」

 

 

 エンターの命令に「フフフフ」、と笑うパラボラロイド。

 メタロイドは総じてそこまで知能は高くない。

 通常の会話や作戦遂行には支障がないのだが、我が強いというか、癖があるというか。

 

 

「自己評価はご自由に」

 

 

 パラボラロイドに素っ気ない返事と冷ややかな目線を浴びせるエンター。

 エンターも時折メタロイドに「もう少し利口であれば……」と思う事もある。

 今の一言だけでパラボラロイドも面倒な性格をしているように感じた。

 どれだけ面倒くさがってもキチンと仕事をやり遂げ、おかしな喋り方をしないソウジキロイドはかなりマシに見える。

 

 

「フフフ、それでは……」

 

 

 パラボラロイドは高台で非常に優秀な探索能力を発揮する。

 その探索範囲なんと半径20km。

 さらに此処はマンションの屋上、能力を発揮するには最適な場所だった。

 アンテナ型の杖を上空に向け、探知を初めておよそ数十秒。

 パラボラロイドは愉快そうな声で呟いた。

 

 

「ん? もう引っかかりましたよ! さすがは僕の探査レーダー、なんていうのは驕りでしょうか?」

 

 

 目標が見つかった事は素直に称賛に値するが、その面倒な言い回しで褒める気が削がれたエンターだった。

 

 

 

 

 

 休憩を言い渡されたバスターズと剣二はすぐに寝静まった。

 だが、敵はこちらの都合など全く考えてくれないものである。

 寝静まっておよそ3時間後、朝10時に叩き起こされたバスターズは道路を疾走していた。

 

 ヒロムはニックが変形したバイクに、リュウジとヨーコは特命部支給の車にリュウジ運転の下、とあるトラックを追跡中だ。

 車には3つほどのダストカップが乗せられている。

 つまり、ソウジキロイドが再びエネトロン強奪を始めたのだ。

 ちなみにこのトラック、昨日ソウジキロイドが奪ったトラックや陣マサトが持って行ったトラックとは別の物。

 つまりそのトラックに乗っていたエネトロンは依然行方不明、ないし既に使われてしまった後だろう。

 

 今回のトラックにはまだ3つしか溜まっていない辺り、被害は少なく抑えられたようだ。

 とはいえ被害が出ていないわけでは無いし、逃がしたらさらに被害は拡大する。

 此処で必ず仕留めるという決意を胸に、3人は追跡を続けていた。

 

 市街地からは離れ、トラックとバスターズは工場地帯近くまで来ていた。

 トラックの荷台にはソウジキロイドが乗っている。

 荷台のソウジキロイドのノズルの先端は掃除機において基本のヘッド。

 本来ならゴミを吸い込む部分からエネルギー弾を発射し、ヒロム達目掛けて撃ってきた。

 バイクのニックを巧みに操作して上手くそれらをかわすヒロム。

 リュウジもハンドルを左右に切って避けた。

 しかし相手の弾幕は止まず、避ける事に集中すると前進だけに集中するトラックと距離をあっという間に離されてしまう。

 

 

「なら……!」

 

 ────It's Morphin Time!────

 

 

 ヒロムはモーフィンブレスを操作してバスタースーツを転送。

 一瞬両手をハンドルから離して、変身完了の為にブレスをモーフィンブレスのスイッチを押した。

 

 

「レッツ、モーフィン!」

 

 ────Transport!────

 

 

 レッドバスターへと変身し、トランスポッドを勢いよく叩いた。

 基地より転送されてきたのはイチガンバスター。

 イチガンバスターを右手で構え、トラックの荷台とソウジキロイドに向かって引き金を引く。

 ダストカップに当たらないように細心の注意を払いつつだが、その攻撃はソウジキロイドを確実に怯ませている。

 さらにトラックに走った衝撃は運転席のバグラーにも通じたらしく右に左にフラフラと蛇行運転をするようにトラックは減速した。

 

 

「チィ、しつこいですねぇ……!!」

 

 

 苦々しく憎々しげに吐き捨てるソウジキロイド。

 さらに突如としてトラックが止まった事で、荷台のソウジキロイドは勢いよく荷台に叩きつけられてしまう。

 

 

「なぁんですかぁ今度は……!」

 

 

 立ち上がったソウジキロイドはトラックの進路に目を向けた。

 そこにはトラックの行く道を塞ぐように止まっている1台の三輪バイク。

 しかしおよそ通常の三輪バイクでは無く、青と白と金の3色が基調となってフロントカウル部分にはライオンの頭部が付いている。

 さらに、それに乗っているのは肩にゲキリュウケンを担いだ青き剣士、魔弾剣士リュウケンドー。

 この三輪バイクは『レオントライク』。

 通常形態のリュウケンドーの獣王、『ブレイブレオン』が変形したリュウケンドー専用の三輪バイク。

 

 ソウジキロイド出現の報せに、当然剣二も叩き起こされた。

 そしてバスターズが後ろから追跡し、リュウケンドーが先回りをする。

 初めからそういう手筈だったのだ。

 

 

「逃がさねぇぜ、掃除機ヤロウ!」

 

 

 レオントライクから降りてゲキリュウケンの切っ先を見得を切るようにソウジキロイドへ向ける。

 後ろにはレッドバスター、さらに車の中で変身済みのブルーバスター、イエローバスターが続いた。

 横に逃げようにも、一度止まってしまったトラックではそんな小回りは効かない。

 

 

「貴方方はァ……!!」

 

 

 心底腹立たしそうに呟きながらノズルの先端を剣に付け替えるソウジキロイド。

 ソウジキロイドは荷台から飛び降りてバスターズとリュウケンドーをそれぞれ一瞥すると、むしゃくしゃしたような声で叫んだ。

 

 

「本当に私を怒らせてしまったようですよ!!」

 

 

 ソウジキロイドはノズルについた剣を振り回し、まずはリュウケンドーに斬りかかった。

 同じく剣、ゲキリュウケンで斬撃を防ぐリュウケンドーだが、激昂したソウジキロイドの勢いは先日よりも凄まじい。

 一発一発に怒りが込められた重みを感じ、それでいて我を見失っていない。

 ソウジキロイド元来の性格である面倒くささが冷静という形で表れているのか、怒りを伴いながらも攻撃そのものは闇雲でも何でもない。

 

 単純に言えば怒りでパワーアップした。

 それが今のソウジキロイドの状態だ。

 

 

「うわっ!?」

 

 

 下から振り上げた一撃でゲキリュウケンを持った腕が上に弾かれ仰け反るリュウケンドー。

 それは即ち胴体が無防備になった事を意味し、そこをソウジキロイドは蹴りこんだ。

 吹き飛び、アスファルトに転がるリュウケンドー。

 

 

「剣二!」

 

 

 気遣うように叫びつつ、ニックから降りたレッドバスターも戦闘に参加する。

 ニックは人型に変形し、戦闘から少し離れた物陰に隠れた。

 車から降りたブルーバスター、イエローバスターはレッドバスターの後を追って戦闘に加わる。

 レッドバスターはまず、接近しつつイチガンバスターで牽制に数発の射撃を見舞うが、全て剣で叩き落とされてしまう。

 次にイチガンバスターを一旦手放し、レッドバスターはソウガンブレードを転送、接近戦に打って出た。

 

 

「無駄ですよォ!!」

 

 

 敵の攻撃を受け止めるのではなく受け流す事で衝撃を軽くするレッドバスターだが、それは防戦一方である事を意味している。

 気迫の籠った機械音と共にソウジキロイドは瞬く間にラッシュをかけ、レッドバスターに一撃を与えた。

 ダメージで後ろに下がるレッドバスターと入れ替わるように、ソウガンブレードを手にしたブルーバスターとイエローバスターが斬りかかった。

 素早い立ち回りでソウジキロイドの攻撃を避けつつ攻撃を加えていくが、決定打となるような一撃を与えるには至らない。

 怒りによるパワー、それでいて我を失わない冷静さ、そして意外なほどに頑強な体。

 ソウジキロイドは少々手強いと感じ、ブルーバスターとイエローバスターは一旦後ろに下がった。

 ダメージを受けていたレッドバスターとリュウケンドーもそれぞれに得物を持ってその横に並ぶ。

 

 

「っくしょー! 負けねぇぜ!!」

 

 

 攻撃をどてっぱらに受けたとはいえリュウケンドーはピンピンしていた。

 ダメージとはいえまだ一撃、まだまだやれると気合十分だ。

 いざもう一度とゲキリュウケンを構えるリュウケンドーだったが、それを妨げるかのように通信が入った。

 バスターズはモーフィンブレスで、リュウケンドーは鎧の内側、耳の辺りにある通信機でそれぞれ通信に応じた。

 通信の相手は特命部の仲村だ。

 

 

『メガゾード転送反応です!』

 

 

 言葉に全員が驚愕した。

 基本的にメタロイド1体につきメガゾードも1体。

 あけぼの町の戦いの時のような例外もあるが、メガゾードの転送はメタロイドの誕生を意味するからだ。

 目の前にはソウジキロイド、そしてソウジキゾードは既に倒している。

 つまり、新たなメタロイドが発生したという事になる。

 

 

「メタロイドは!?」

 

『今のところ異常消費反応はありません……!』

 

 

 森下も同じ事を思って既に各地の消費反応を調べているが、異常消費は何処にも検知されていない。

 彼等は知らぬ事だが、これはパラボラロイドが生み出された事によるメガゾードだ。

 そしてパラボラロイドに使ったエネトロンは既に奪われ、エネルギー管理局の監視から離れたエネトロン。

 つまり、異常消費反応を検知する事は出来ないのだ。

 

 

『転送完了時間は15分、タイプはα……えっ?』

 

 

 疑問は解けないが自分のやるべき仕事をしようと仲村が転送されてくるメガゾードのタイプを伝えるが、疑問符がついた。

 

 

『質量がいつもと違います……! βやγとも一致しません!!』

 

 

 驚きが通信機越しでも伝わってくる。

 メガゾードの質量は誕生したメタロイドに倣ったチューンナップが施された影響で多少なりとも増減がある。

 とはいえその重量はほぼ一定、今までのデータも持ち合わせる特命部にとってそれを特定する事は容易い。

 しかし、従来のメガゾードの質量全てと一致しないとなると、これはつまり特命部のデータにないメガゾードが出現する事を意味していた。

 

 

「まさか、新型……!?」

 

 

 ブルーバスターの言葉が疑問を解消するのに一番簡単かつ、一番現実的な話だろう。

 かつて奪われた設計図の事もあり、新たなメガゾードが完成しているというのはありそうな話だ。

 

 

『メガゾードも気がかりだが今は目先のメタロイドだ、そちらの殲滅に専念しろ』

 

 

 黒木の司令に全員が「了解」と頷き、臨戦態勢を再び整える。

 通信自体がごく短く済んだおかげか、ソウジキロイドが攻撃を仕掛けてくることは無かった。

 しかしその代わりと言わんばかりに、いつの間にやらソウジキロイドの周りにはバグラーがうようよと出現していた。

 

 

「メガゾードの方も気になる。一気に行こう。」

 

 

 レッドバスターの声に全員が頷き、4人はソウジキロイドとバグラーに突っ込んでいった。

 バグラー達は次々とソウガンブレードとゲキリュウケンに斬り捨てられていくが、ソウジキロイドはそうはいかない。

 

 

「うっとおしいんですよ!!」

 

 

 バグラーの相手をしながらソウジキロイドの相手をするのは厳しく、4人全員でかかっても中々ソウジキロイドには届かない。

 それどころか下手にソウジキロイドを攻撃しようとすればバグラーに止められ、バグラーを気にし過ぎるとソウジキロイドの一閃が来るという悪循環。

 誰もが劣勢と感じていた。

 そんな時、リュウケンドーが閃いた。

 

 

「そうだ……こんな時の獣王だ! 来いブレイブレオン!!」

 

 

 リュウケンドーの叫びに呼応し、レオントライクはその姿を変形させてライオンの姿へと変わった。

 レオントライクはブレイブレオンへと変わり、正しく獲物を狩る獣のように辺りのバグラーを蹴散らしていく。

 

 獣王の力は強大で、バグラー程度の戦闘員なら物ともしない。

 更に一方ではバグラーをニックが倒していた。

 ニックはバディロイドの中では最も素早く、かつ人と同じように立ち回れる。

 ウサダはそもそも人型では無いし、ゴリサキも動きはやや鈍い。

 ニックも戦闘用なわけでは無いが、機械の体であるためかバグラーを相手にする事ぐらいはできるのだ。

 

 

『みんな! こいつ等は任せな!!』

 

 

 バグラーを倒す片手間に親指を立ててサムズアップをしながらニックが言う。

 ニックとブレイブレオンがバグラー達を引き受ける事になった。

 1体と1匹はバグラーに苦戦する様子も無く、4人はソウジキロイドの相手に専念する。

 これでバグラーを気にする事なく戦える。

 戦局は変わり、見た目だけ見ればソウジキロイドが不利だ。

 しかし忘れてはいけない、先程も1人1人を相手にしただけとはいえ、ソウジキロイドはこの4人に引けを取らない戦闘能力を有しているのだ。

 更に言えば新型の疑いがあるメガゾードの転送も迫っている、時間はかけられない。

 

 

「おぉりゃァ!!」

 

 

 いの一番に飛び出したのはリュウケンドー。

 ゲキリュウケンを振るってソウジキロイドを攻撃するが、ノズルの剣で止められてしまう。

 何度も何度もゲキリュウケンで攻撃するが、その全てをソウジキロイドは受け止める。

 

 

「生意気ですッ!!」

 

 

 斬撃を食らったのはリュウケンドー。

 ソウジキロイドの勢いに競り負けてしまったリュウケンドーは火花を散らす。

 さらにソウジキロイドの勢いは止まらず、剣を構えてバスターズに走り出す。

 ソウガンブレードで何とか対峙しようとするバスターズだが、ソウジキロイドはバスターズの間を駆け抜けながら全員に一太刀を浴びせていく。

 結局、全員がソウジキロイドの攻撃を受けるという結果になってしまった。

 

 これはソウジキロイドの怒りによる所も大きいが、4人が焦っている事も起因している。

 メガゾードの転送反応があるという事はメタロイドが別にもう1体存在しているかもしれない事を意味している。

 さらに新型と思わしきメガゾードもあと十数分でやってくる。

 焦りの影響は戦闘に如実に表れていた。

 

 

「さぁ、止めです……ッ!?」

 

 

 ソウジキロイドがノズルを4人に向けた。

 ノズルには小さな銃口がついており、狙撃で最後の一押しをしようという魂胆だった。

 だが、ノズルを向けて狙いをつけた瞬間、4人のさらに後方にいる2つの人影にソウジキロイドは気付いた。

 

 

「虫どもですか……ッ!!」

 

 

 2人の人影、即ち、陣マサトと銀色のバディロイド。

 エネトロンを奪った正体不明の2人が再び乱入者として現れたのだ。

 マサトは4人に向けて叫んだ。

 

 

「おーおー、だぁらしないねぇ。そいつぐらい倒してもらわないとォ」

 

 

 そいつ、という言葉と共に人差し指を指した先にはソウジキロイド。

 隣の銀色のバディロイドも同じポーズを取っている。

 既に怒りを抱えていたソウジキロイドの堪忍袋はその挑発的な態度に完全な限界を迎えた。

 

 

「ポッと出の虫如きが生意気な口をォォ!!」

 

 

 虫と罵る言葉には先日の邪魔による苛立ちが含まれている事が窺える。

 怒りの矛先をぶつけられながらも、マサトは不敵に笑う。

 そして携帯程の大きさの金色の機械を取り出した。

 同じく、銀色のバディロイドも同じ物を持つ。

 

 

「行くぞ、『J』」

 

「了解」

 

 

 Jと呼ばれたバディロイドは頷き、携帯のような機械の後部を引き出し、折り曲げた。

 マサトも全く同じ動きをしている。

 さらに、銃のような形となった機械の前面に付いているグラス部分を展開。

 その状態でトリガーを引いた。

 

 

 ────It's Morphin Time!────

 

 

 その電子音声は何度も耳にしたソレ。

 バスターズがその身を鎧に包む時の言葉に相違ない。

 それがマサトとJと呼ばれたバディロイドの手に持っている機械から発せられた。

 彼等が持つのは『モーフィンブラスター』。

 ゴーバスターズ3人のモーフィンブレスに相当する物だ。

 

 しかし、此処で疑問が生まれる。

 何故バディロイドまでそれを持っているのか?

 ゴーバスターズ3人のバディロイドであるニック、ゴリサキ、ウサダは戦闘用ではない。

 メガゾードの操縦、その他サポートの為に存在している。

 だからバディロイドは戦闘をする存在ではないという先入観があったのだ。

 

 マサトにスーツが転送されていく。

 それと同時に隣のJからは次々とアーマーがパージされていく。

 パージされた部分はマサトの纏うスーツに移動し、装着されていく。

 そうしている内にマサトには金のバスタースーツが、Jには銀のバスタースーツが装着された。

 最後に2人はモーフィンブラスターのグラス部分を目の高さまで上げ、声を揃えた。

 

 

「レッツ、モーフィン!」

 

 

 言葉と共にヘルメット部分が転送され、目の部分にモーフィンブラスターのグラスが装着されて完全な仮面に。

 マサトが変身したのは、金色のバスターズ。

 

 

「ビートバスター」

 

 

 左手の中指と薬指を曲げてそれ以外の指を伸ばした独特なポーズを取る。

 隣にいるJは右手を左斜め上に振り上げながら銀色のバスターズとなった自分の名を名乗った。

 

 

「スタッグバスター!」

 

 

 名乗りを上げた2人の戦士にこの場にいる全員、驚きを隠せない。

 

 

「嘘!? バディロイドも変身した!?」

 

 

 イエローバスターが放った言葉こそ、驚きの原因だ。

 マサトがビートバスターである事は前回の戦いで分かっていた事だが、まさかバディロイドまで変身するとは誰も思っていなかった。

 

 

『いや、あれ変身ってか脱いでるだろ!?』

 

 

 バグラーをブレイブレオンと共に蹴散らしたニックがスタッグバスターを指差してツッコむ。

 確かに変身プロセスを見ると、スタッグバスターのそれは装甲を切り離してスマートになった上からバスタースーツを転送している。

 ぶっちゃけた話、変身の脱ぐと装着の比率が明らかに脱いでいる方が大きいのだ。

 そしてハッとニックは気付く。

 自分にも、もしかしてあんな機能が────!?

 

 

『ねぇ、脱げんの? 脱げんの!?』

 

 

 自分の装甲をベタベタと触りながら自分もバスタースーツを纏えるのかとドタバタ騒ぐニック。

 跳ね回るニックにレッドバスターは言う。

 

 

「ニック! ……脱げるか」

 

 

 相棒からの容赦のない否定におとなしくなるニックであった。

 一方、変身を完了した2人はソウジキロイドと睨みあっていた。

 

 

「お前は……」

 

「お前は俺が削除する」

 

「被ってる被ってる!!」

 

 

 ビートバスターの言葉を見事に遮るスタッグバスター。

 マサトが姿を見せてから時間はあまり経っていないというのに、このやり取りは3回は見ただろう。

 どうにもJというバディロイドには被り癖とでもいうべき物があるらしい。

 そんなスタッグバスターにビートバスターは頭を小突きながらボヤく。

 

 

「ったくお前、バディロイドとして問題ありすぎだろ?」

 

 

 しかしスタッグバスターは即答する。

 

 

「問題は無い」

 

 

 直後、ソウジキロイドに向かって走り出したスタッグバスター。

 ビートバスターの乱入は想定内な面もあった。

 が、想定外のもう1人の戦士にソウジキロイドも戸惑っていたようで、スタッグバスターの攻撃を咄嗟に防ぐ事しかできていなかった。

 

 1人で勝手に突っ走る、自分の事しか考えていないような目立ちたがり屋なスタッグバスターに苦笑いしつつ、ビートバスターも戦闘に加わった。

 

 

「ま、そういうダメな所が面白いんだけどな!」

 

 

 バスターズとリュウケンドーの横を走り抜けながら呟いた言葉。

 言った本人からすれば何でもない言葉だった。

 だが、その言葉はブルーバスターの1つの記憶をサルベージした。

 

 

「ダメな所が、面白い……」

 

 

 それはかつて、ロボットコンテストの際に陣マサト本人から言われた言葉だ。

 完璧を求めて何が悪いのか。

 ヒロムと同じように当時のリュウジもそう思っていた。

 ロボットコンテストの1位に輝いた人間のロボットは素晴らしい作品であるとリュウジも思った。

 しかし、審査員であるマサトの言葉である『完璧を求めるだけじゃ面白くない』が納得できずにそれを直接問いただした時がある。

 

 『完璧を求めて何がいけないんですか?』

 それに対しての返答だった。

 

 

 ────ダメじゃねぇよ。けどよ、ちょっとぐらいダメなトコがあっても面白いと思わねぇか?

 

 ────完璧なんてつまんねぇ。人間と一緒だよ。

 

 

 天才なのに完璧を求めないそれは、陣マサトの持論であった。

 

 

「本当に先輩……なんですか?」

 

「リュウさん?」

 

 

 呟くブルーバスターに、呟きの意味の分からないレッドバスターが声をかけた。

 ブルーバスターはこの時、確信したのだ。

 

「エネトロンを持って行った理由も、姿がどうして若いのかも分からないけど……。

 あの人は、陣マサトだ」

 

 

 彼が陣マサトそのものであるという事。

 先の言葉でブルーバスターはそれを確信した。

 そして確信めいた口調は他のメンバーにも伝わり、ブルーバスターは何らかの確証に気付いたのだと理解する。

 

 ソウジキロイドと戦うビートバスター、スタッグバスターを見つめる面々。

 どちらにせよ、メタロイドと戦ってくれるのなら加勢しない理由は無い。

 今は敵では無いのなら、そう思いソウジキロイドとの戦いに参加しようとした。

 その瞬間だった。

 

 

「フフ、やはり此処でしたか!」

 

 

 全く唐突な、出し抜けに響いた第3者の声。

 後ろから聞こえた声にバスターズとリュウケンドーが振り向いた。

 その時にはもうミサイルが目前にまで迫っていた。

 

 

「ッ! 危ないッ!!」

 

 

 レッドバスターの声は全員に「避けなくては」という意識を働かせた。

 横に転がる、後ろに跳ぶ、各々回避行動をしようとしたが間一髪遅かった。

 ミサイルは彼等の足元近くに着弾し、大きな爆発を巻き起こした。

 それぞれに回避行動をとっていたお陰で全員、直撃は免れた。

 

 しかし『直撃は』というだけであり、爆発とその衝撃に全員が巻き込まれている。

 爆炎と煙が収まると、地に伏せるバスターズとニック、そして剣二の姿。

 さらに最悪な事にバスターズのヘルメット部分に強い衝撃が加わったためか、ヘルメット部分の装着が解けていた。

 これは鎧が不完全である事を意味し、次の攻撃を食らえば只では済まない事を意味していた。

 しかも剣二に至ってはリュウケンドーの鎧が強い衝撃によって解けている。

 その影響でブレイブレオンも元いた場所に魔方陣を通じて戻ってしまった。

 地に伏せる戦士達は体を起こそうとするが、思いのほか爆発の影響が強い。

 

 戦士達は何とか顔だけでも上げ、ミサイルが飛んできた方向を見た。

 視界に映ったのは、複数の人影。

 

 

「サヴァサヴァサヴァ、ゴーバスターズ」

 

 

 人影の1つ、エンターが実に有意義そうな声を上げ、舞台を歩くかのような演技がかった歩き方でゆっくりと近づいてきていた。

 その横にはアンテナのようなメタロイド、パラボラロイドと取り巻きに数体のバグラー。

 人影の正体は2度目の乱入者、それも新手だった。

 最初の声はエンターの声では無く、バグラーの「ジー」という鳴き声でもなかった所から察するにパラボラロイドのもののようだった。

 

 

「新手のメタロイドか……!」

 

「じゃあメガゾードが転送されてくるのって、あいつのせい!?」

 

 

 吐き捨てる様なヒロムとヨーコの言葉は当たっている。

 これから転送されてくるメガゾードはパラボラロイドの誕生によるものだ。

 一方でエンターは全く倒れ伏す戦士達を見ていない。

 その視線の先にいるのは、ビートバスターとスタッグバスター。

 エンターはパラボラロイドに指示をして、体に仕込まれた機関銃のような物を撃たせた。

 ソウジキロイドと金銀2人のバスターズの間に機関銃によって物理的な火花が散る。

 戦っていた敵味方3人はその一撃でエンター達に気付き、バッとエンターとパラボラロイドの方に振り返った。

 

 

「フム、貴方方ですね?亜空間から来たというのは」

 

 

 相手が自分を認識した事を確認し、ビートバスターとスタッグバスターに対してエンターは切り出した。

 それと同時にソウジキロイドの攻撃が止む。

 未だに怒りに身を震わせるソウジキロイドだが、生みの親であり実質的な上司であるエンターのしようとしている事を邪魔するわけにはいかない。

 

 エンターは「はて」と首を傾げた。

 ビートバスターの他に銀色のバスターズがいる。

 もう1人はクワガタロボットと聞いていたのだが。

 銀色のバスターズがクワガタロボットとイコールなのか、それとも別の何かなのか。

 ともあれ目の前に目的の人物が居る事に変わりは無く、その疑問は今解決しなければならない疑問に比べれば些細な事と割り切り、エンターは再び口を開いた。

 

 

「少々お尋ねしたい事がありますので、付き合っていただきますよ?」

 

「お生憎様、男と付き合う趣味はねぇよ」

 

 

 軽口で返すビートバスターにほんの少し片眉を吊り上げながらも、エンターは2体のメタロイドに指示を出した。

 

 

「ゴーバスターズとリュウケンドーは任せます」

 

 

 言いつつ、エンターはバスターズと剣二を通り過ぎてビートバスター達に接近、自分の袖から数本のコードを伸ばしてビートバスターを縛り上げた。

 近くにいるスタッグバスターがそのコードを切ろうと向かうが、行く手はソウジキロイドに阻まれてしまう。

 

 一方でパラボラロイドと相対するバスターズとニック、剣二の5人。

 何とか地面からその身を起こすが、バスターズの3人はヘルメットの再装着を早くしなくてはいけない。

 剣二もゲキリュウケンを再びモバイルモードから大型化させマダンキーを構える。

 しかし、敵は一切待ってはくれなかった。

 

 

「それでは、追跡ミサイル第2射です!」

 

 

 パラボラロイドが先程と同型のミサイルを発射した。

 ミサイルの標的はたった1人、ヒロムに絞られている。

 1人1人確実に仕留めていくつもりなのだろう。

 ヒロムは何とか体を捻る事でミサイルを避けるが、先程のダメージが残っているのか、ふらついてしまう。

 

 更にマズイ事に、パラボラロイドのミサイルは本人が口にした通り追跡ミサイル。

 例えかわしても追ってくるのだ。

 ヒロムの背後からミサイルが迫る。

 それに気付いてはいるのだが、体が上手く動いてくれない。

 既に誰もがまともに動ける状態では無かった。

 ヒロムは先の攻撃を避けたふらつきが残り、他の2人もヘルメットを装着していない不完全な状態。

 剣二も爆発の影響がモロに残っている上、変身しているうちに着弾してしまうだろう。

 ニックもダメージがあるし、仮に盾になってしまえば今後バスターマシンを動かす事ができなくなる。

 スタッグバスターは依然、ソウジキロイドと交戦中だ。

 

 

「ったく、しょうがねぇなァ……」

 

 

 動けるのは自分だけだとビートバスターは判断し、コードに巻かれたままヒロムの前に立った。

 標的とされていたヒロムの前にビートバスターが立ちはだかった事で、追跡ミサイルの標的はビートバスターへと変わった。

 ビートバスターは迫るミサイルを一度転がって避けると、エンターの元へと走った。

 

 

「やっぱ付き合ってもらうわ!!」

 

 

 ビートバスターが何をしようとしているのかに気付いたエンターだったが、一瞬遅かった。

 エンターに飛びかかるビートバスター。

 追跡ミサイルはビートバスターの背後に迫っている。

 そして、ミサイルは正確に標的へと命中し、辺りを巻き込んだ爆発を起こした。

 これが意味するところは1つ。

 ビートバスターはエンターを道連れにミサイルの餌食となってしまったという事だ。

 

 その光景に誰もが驚いた。

 自分の命を投げ打つような行為をいとも容易く行ってしまったのだから。

 爆発が収まった後、そこにはビートバスターもエンターもいなかった。

 粉々に吹き飛んでしまったかのように。

 

 

「先輩……」

 

 

 驚きが詰まった声、本人と確信して数分と経たない急展開の現状に悲しみすら湧き上がる余地がない。

 

 

「フッ!!」

 

 

 一方でマサトの相棒であったスタッグバスターは何1つ動揺せずに戦闘を続けていた。

 むしろその様子にソウジキロイドが困惑している。

 

 

「貴方の相棒は消えましたよ! なのに何故平然としているのですか!!」

 

「消えてなどいないからだ」

 

 

 言葉の意味を理解する前に、ソウジキロイドはスタッグバスターのハイキックを食らって吹き飛んでいた。

 スタッグバスターはソウジキロイドを後に回して大きくジャンプし、バスターズとリュウケンドーの元に着地。

 パラボラロイドに相対した。

 当のパラボラロイドはと言うと、事故とはいえエンターに攻撃を当ててしまった事に慌てている様子だった。

 

 

「……了解、俺のマーカーシステム起動」

 

 

 スタッグバスターは何かに対して了解と頷き、両手をこめかみに当てる様なポーズを取る。

 するとスタッグバスターのヘルメット、その丁度こめかみの辺りが点滅した。

 

 次の瞬間、衝撃的な光景が目の前に映った。

 

 スタッグバスターから少し離れた地点に何らかのデータが転送されてくる。

 それはイチガンバスターやソウガンブレード、バスタースーツが転送されてくるそれに非常に酷似していた。

 それは成人男性程の高さまで積み重なり、多量のデータは人の形を造り上げた。

 その後ろ姿にこの場の全員見覚えが、否、先程まで見ていた。

 データより出現した男性は高らかに叫んだ。

 

 

「ふっかーつッ!!」

 

 

 陣マサトが再び、この世に出現した。

 驚愕に次ぐ驚愕。

 爆散したと思われていた人間が目の前でデータとして再構成されたともなれば驚かない筈がない。

 

 

「よっ! 驚いた?」

 

 

 当事者は何食わぬ顔で手を振っている。

 しれっととんでもない事をやらかしている先輩にリュウジが食ってかかる。

 

 

「当然ですよ……! 今のは一体……!?」

 

「成程……」

 

 

 この状況下の中、納得したような声を上げる者が1人。

 声の主はこの空間には『まだ』いない。

 先程のマサトと同じく、データが何処からか転送され人型を構成する。

 形作られたその姿はエンター。

 今の声の主もまた、エンターだ。

 

 

「貴方、アバターですね?」

 

「当たり。ま、お前も同じだから当然か」

 

 

 アバターという言葉に聞き覚えの無いヨーコがリュウジに質問し、その場の全員に向けて説明をした。

 要するにアバターとは『自分の分身』の事である。

 エンターもマサトも本体は亜空間に存在し、そこから自分の分身を送り込んでいるに過ぎないという事だ。

 データとして送る姿は発信者がある程度自由に決める事が出来る。

 つまり、マサトが13年前の容姿である事もこれなら説明がつくのだ。

 

 

「俺は違う。俺は本当に亜空間から来た」

 

 

 エンターの言葉と周りの考えを否定するようにスタッグバスターが割り込んだ。

 曰く、彼はマサトの『マーカー』なのだという。

 マーカーとは何かを転送するときの座標となるものだ。

 例えば敵メガゾードの転送はメタロイドをマーカーに行われる。

 つまりJという存在はマサトというアバターが存在するのに必須の存在なのだ。

 

 

「俺は絶対に亜空間から戻る。

 だからゴーバスターズ、お前達にはもっと強くなってもらわなきゃ困るんだよ。

 特にエースパイロットの桜田ヒロム! お前にはな」

 

 

 マサトはヒロムを指差し、強い眼差しで自分の決意を語る。

 彼が戦いに赴く明確な理由はそれであった。

 生きたい、帰ってきたいという亜空間に巻き込まれた人間なら皆思ったであろうと想像できる思いを胸に。

 

 

「今のままじゃヴァグラスは倒せない。いや、この世界の危機全部そうだ。

 その点じゃリュウケンドー……だっけ? お前もだぜ」

 

 

 全員が押し黙った。

 そう、この世界に迫る脅威はヴァグラスだけではない。

 頻発するノイズ、ジャマンガ、まだ見た事は無いが怪人の存在……。

 ゴーバスターズやリュウケンドーがこれから相手にしていかなければならない連中は多い。

 

 マサトの言葉に剣二は拳を握りしめた。

 こいつは強いと心の底から感じた敵が剣二には1人いる。

 一度は退けた、いや、あれを退けたと言っていいのか分からない、同じく剣を使うジャマンガの騎士。

 それに、以前あけぼの町に来た兄弟子から送られた言葉。

 鹿児島弁で頑張れの意、『きばいやんせ』。

 もっともっと強くなりたい。

 今のままではダメだと、剣二も感じない事は無かった。

 

 

「おうよ……!!」

 

 

 剣二の気迫の籠った返事にマサトも満足げにニヤリと笑う。

 

 

「亜空間でエネトロンを盗んだのも貴方方ですね? 大方転送用ですか」

 

 

 エンターは状況を冷静に分析した。

 転送という行為は何を転送するにしてもエネトロンを使う。

 メガゾードは元より、アバターであっても、バスタースーツであってもだ。

 最初にJを送りこんだ時の転送はメガゾードに紛れ込んだものだとしても、その後活動し、バスタースーツを転送する為にもエネトロンは必須。

 恐らくその為にエネトロンを掠めていたのだろうとエンターは判断した。

 

 

「そんなトコかな」

 

 

 マサトもエンターの考察を認めた。

 別段隠すような事でもないからだ。

 しかし、エンターは気が晴れたように口角を上げた。

 今此処で、エンターの持っていた疑問は全て解消されたのだ。

 ノイズを操る人間、亜空間から漏れるエネトロンの行方、ビートバスターとクワガタロボットの正体。

 大小の程度はあれどエンターに思考を余儀なくさせていた事象は全て解決した。

 

 

「問題解決。これで心置きなく貴方方を潰せます」

 

 

 心底スッキリしたようなエンターの言葉を切っ掛けにソウジキロイドとパラボラロイドが横に並ぶ。

 取り巻きには数十体のバグラー。

 しばらく放っておかれ、エンターの登場もあったソウジキロイドは怒りも少し沈静化したのか、それとも興が削がれたのか、最初の面倒くさがりな一面を取り戻していた。

 

 

「ハァ、じゃあまずはバグラー。行ってください」

 

 

 バグラーにやる気なく指示するソウジキロイド。

 やる気のない上司の指示でもバグラーは素直に従う。

 変身する間も与えず、数十体のバグラー達は戦士達に突っ込んできた。

 手に持っている武器は爪としても使えるハンドガン。

 何体かはそれを構えている辺り、攻撃を避けながら変身するしかない。

 現状、スタッグバスター以外は変身も出来ていないのと相違ないからだ。

 各々構える戦士達。

 

 だが、突如として今回3度目の乱入者が現れた。

 

 

「ジー!!」

 

 

 何者かがこの戦場にバイクで突っ込んできて、あまつさえ勢いそのままにバグラーを軒並み轢いて行ったのだ。

 バグラー達は悲鳴を上げてその衝撃に倒れ伏していく。

 倒せてはいないがダメージを与え、変身する隙は十分に与えただろう。

 バイクはバスターズと剣二の元で止まり、操縦者はヘルメットを脱いだ。

 

 

「門矢!」

 

 

 ヒロムがバイクの主の名を呼んだ。

 今しがたバイクで登場したのは士、彼等にとっての心強い仲間の1人だ。

 当の士は不機嫌そうな顔をしながら二課で支給されている通信機をポケットから引っ張り出した。

 

 

「こいつがピーチクパーチクうるさいんだよ。仕方なく来ただけだ」

 

 

 見るからな悪態をつく士。

 だが、その言葉を通信機越しに聞いていたのか、通信機からツッコミが飛んできた。

 

 

『口では色々言っても、現着は随分早かったじゃないか』

 

 

 二課の弦十郎の声だった。

 素直になれない子供をなだめる様な弦十郎の言葉に士は顔を背けて黙ってしまった。

 そんな様子に苦笑いする一同、剣二だけはからかうようにニヤニヤとしている。

 士という人物は尊大な態度の裏に優しさなり、人を思う心を隠している。

 1ヶ月そこらの付き合いでそれに気付くものは少ない。

 だが、少なくとも弦十郎はそれに気付いている様子だった。

 

 なお、本日は平日なので響は学業優先という二課の判断で出撃していないそうだ。

 それを聞いた士は「俺だって先生だぞ」とボヤいている。

 自分で授業数を減らしたが為に出撃可能になってしまった事を少し悔いたような表情だった。

 

 

「あれ、もしかして弦ちゃん!? ひっさしぶりー!」

 

 

 一方で通信機の声を聞いて過剰な反応を示したのはマサトだ。

 聞き慣れない『弦ちゃん』という単語を出して士の通信機に声を向けた。

 

 

『その声その呼び方……陣か!』

 

「そういやお偉いさんになったんだっけ?黒リンから話は聞いてるぜー」

 

 

 親しげな様子で話す弦十郎とマサトの間で、これまた聞き慣れない『黒リン』という単語が出た。

 不謹慎な状況と分かりつつもヨーコは好奇心を抑えられなかった。

 

 

「あの、弦ちゃんとか黒リンって……?」

 

「ん?弦ちゃんは弦ちゃん、黒リンは黒リンだよ。お前等の司令官だろ?」

 

 

 ほんの一瞬、全員が思考した。

 そして全員がほぼ同じタイミングで同じ思考に辿り着いた。

 弦十郎に対して弦ちゃん、これは弦十郎に対してのあだ名と見ていいだろう。

 では黒リンとは?

 黒から始まる名前で、マサトと親しい人物は彼等が知るところには1人しかない。

 

 

「……弦十郎司令に黒木司令?」

 

 

 ヨーコの出した名前にその場の全員が噴出した。

 士は嘲るように、ヒロムやリュウジもやや口角を上げているし、剣二に至っては大笑いだ。

 

 

「ハッハハハ!! 黒『リン』って……似合わねー!!ハハハ……」

 

 

 剣二の言葉に全員が賛同していた。

 普段厳格で真面目で仏頂面の黒木司令に『リン』なんて末尾は大よそ似合わない。

 ぶっちゃけ、イメージ崩壊待ったなしである。

 あの屈強な弦十郎に対して『弦ちゃん』というあだ名も相当でそれも彼等のツボに入っていた。

 

 しかしながら今は戦闘の真っ最中。

 笑みが零れる中、やはりというべきか真面目なヒロムの立ち直りが早かった。

 

 

「みんな! いい加減笑ってられないぞ」

 

 

 ヒロムの一声でリュウジとヨーコの表情が一変した。

 さすがはプロというべきか、バスターズの3人は切り替えが早い。

 剣二も笑いを徐々に収めて「おっし!」と気合を入れた後、ゲキリュウケンを構える。

 士もいつもの不機嫌なのか仏頂面なのか分からない表情に戻った。

 マサトだけは笑みを崩さない。

 その笑みは、所謂余裕の笑み。

 勝てると踏んだような、油断でも慢心でもない笑みだ。

 轢かれたダメージが抜けたのか、バグラーはようやく立ち上がる。

 短い時間ではあったが、今のやり取りでイライラが再び募った様子のソウジキロイドと、物腰穏やかというか、エンターも呆れた妙な態度を崩さないパラボラロイド。

 

 ヒロム、リュウジ、ヨーコ、マサト、剣二、士、そして変身しているスタッグバスターが横に並ぶ。

 ニックはヒロムに特命部に戻るように促され、その場から離脱した。

 メガゾードに対抗するためのバスターマシンの発進にはバディロイドが本部に戻る事が不可欠だからだ。

 去り際に「気をつけろよ、みんな!」と言い残してニックは走り出した。

 ニックは戦闘能力があまり無い、言わば守護対象に近い。

 だがその対象が安全な場所に離脱したとなれば、心置きなく戦えるというわけだ。

 

 

「行くぞ!」

 

 

 ヒロムの一声と共に、各々が変身のアイテムを構える。

 バスターズの3人はヘルメットの再装着の為にモーフィンブレスを。

 マサトはアバターの再構成に伴って変身解除されている為モーフィンブラスターを。

 剣二は先程から手に構えていたゲキリュウケンとマダンキーを。

 士はディケイドライバーとディケイドのカードを。

 

 

 ────It's Morphin Time!────

 

 ────It's Morphin Time!────

 

 

「リュウケンキー! 発動!」

 

「変身!」

 

 

 ────チェンジ、リュウケンドー────

 

 ────KAMEN RIDE……DECADE!────

 

 

「撃龍変身!」

 

「レッツ、モーフィン!」

 

 

 それぞれにそれぞれの変身プロセスを経て、全員が変身を完了した。

 5人となったゴーバスターズ、さらにリュウケンドーとディケイドが一堂に会した瞬間だ。

 

 

「レッドバスター!」

 

「ブルーバスター!」

 

「イエローバスター!」

 

「ビートバスター!」

 

 

 ビートバスターは自分が名乗った後、何も言おうとしないスタッグバスターを「お前もだ」と小声で言いながら小突いた。

 所謂、場の流れというやつだ。

 おとなしくそれに従うスタッグバスターはもう一度先程と同じポーズを取った。

 

 

「スタッグバスター!」

 

 

 バスターズの名乗りに続き、リュウケンドーも名乗りを上げた。

 

 

「リュウケンドー! ライジン!」

 

 

 リュウケンドーはちらりとディケイドの方を向く。

 視線に気づいたディケイドはリュウケンドーを横目で見やった。

 

 

「なんだ」

 

「お前は何かねぇのか?」

 

「無い」

 

 

 場の流れというものは確かに存在しているだろうが、名乗りに相当する言葉などディケイドは持ち合わせてはいない。

 しかしそのぶっきらぼうな態度がリュウケンドーの癇に障ったらしく、リュウケンドーは頭の後ろを掻いて不機嫌そうにディケイドに半ば怒鳴るように言った。

 

 

「ったぁー! ノリ悪ィな!! 前から思ってたけど何だよその態度!

 何なんだよお前!?」

 

 

 普段の尊大な態度もあってかリュウケンドーは怒った。

 しかし、その怒りをなだめるでもなく、ディケイドはリュウケンドーの問いに答えて見せた。

 

 

「通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけ」

 

 

 ディケイドから放たれた言葉にポカンとするリュウケンドー。

 

 

「なんだよ、名乗りあんじゃねーか」

 

 

 ディケイドからすると今の台詞は名乗りなのかと疑問に思う。

 確かに色んな世界で「何者だ」と聞かれるたびにこう答えてきたが、別段名乗りでは無い、というか結局名乗っていないと思うのだが。

 そんなやり取りに溜息をつきつつ、レッドバスターは両手首を重ね、場を仕切りなおすように普段よりも大きな言葉で言った。

 

 

「バスターズ!! レディ……」

 

 

 バスターズ全員が腰を落とし、走り出す体勢に移る。

 ディケイドはライドブッカーをソードモードにして構え、リュウケンドーもまたゲキリュウケンを担いだ。

 

 

「ゴー!」

 

 

 レッドバスターが両手首を叩くのが合図となり、戦士達は敵の群れへと駆け出した。




────次回予告────
メタロイドにメガゾード、敵は多いがこっちも7人だ。
俺達7人、力を合わせて戦うぜ!
だけど、新型メガゾードまで現れちまった。
ビートバスターとスタッグバスターには何か策があるみたいだ。
次回は、ゴーバスタービート、ライジン!

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