スーパーヒーロー作戦CS   作:ライフォギア

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第22話 新しい出会い! 仮面ライダーって何?

 無事に写真を撮り終えた舞と士。

 翔太郎の電話も終わった事で、咲と舞、士と翔太郎は一先ず鳴海探偵事務所に戻った。

 後回しにしていたが、結局のところ咲と舞の変身したあれはなんなのか。

 咲や舞からすると、翔太郎や士は一体何者なのか。

 お互いの認識を整理しなくてはもやもやして仕方がない。

 

 事務所に戻ってきた後、咲と舞は翔太郎に促されてソファに座る。

 それと相対するように反対側に翔太郎と士が隣り合って座った。

 ちなみにフィリップはガレージに籠っているようだった。

 何か検索しているのだろうと、一先ず翔太郎は放っておく事にしている。

 

 

「さって……咲ちゃんと舞ちゃん、さっきのあれは一体?」

 

 

 切り出したのは翔太郎からだった。

 質問にはまず、咲が答えた。

 

 

「私達、プリキュアなんです」

 

 

 プリキュア。

 確かにカレハーンという怪物もその名を口にしていた事を翔太郎と士も覚えている。

 何よりこの2人が名乗っていた。

 しかし、名称はともかくとしてもそれが一体何なのかが分からない。

 咲の言葉を継いで舞が口を開く。

 

 

「私達は『ダークフォール』という人達と戦っていて、さっきみたいにウザイナーから奇跡の雫を取り返しているんです」

 

「奇跡の雫?」

 

 

 翔太郎の疑問符に答え、咲が1つの小さな球体を取り出した。

 

 

「これです」

 

 

 見せられた物に翔太郎も士も見覚えがあった。

 ウザイナーが浄化された後、これが出てきて、それを咲と舞が回収していた。

 翔太郎は相棒宜しく興味深そうに奇跡の雫を見つめる。

 

 

「へぇ……何でこれが必要なんだ?」

 

 

 奇跡の雫なんて大層な名前が付いているものだ、大切な何かであろう事は察するところ。

 だが、用途が分からないし、収集する理由もわからない。

 

 

『それには僕達が答えるラピ!』

 

 

 唐突に響いた謎の声。

 咲ではないし、舞でもない。

 翔太郎でもないし、士でもない。

 フィリップはガレージ。

 

 何だ今の声、と翔太郎と士が辺りを見渡していると、咲と舞が腰に付けていた携帯のケースと思わしきものから何かが机の上に飛び出る。

 ポン、という可愛らしい音と共に、飛び出て来た『何か』の姿が露わになった。

 

 咲の方から飛び出て来たのは水色のぬいぐるみ。

 ウサギのように大きな耳が巻かれているのが特徴的だ。

 舞の方から飛び出て来たのは乳白色のぬいぐるみ。

 水色の方と同じくウサギのように長い耳がツインテールのように垂れていて、先端が少し巻かれている。

 

 

「僕は『フラッピ』ラピ!」

 

「私は『チョッピ』チョピ」

 

 

 この2匹が何処に隠れていたのかといえば、先程2人がプリキュアに変身する際に使用した『ミックスコミューン』というアイテムに変身していたのだ。

 だから咲と舞が腰に下げている携帯のポーチ、『ミックスコミューンキャリー』から登場した。

 彼等は摩訶不思議な生き物であると同時に、プリキュアの変身アイテムにもなるというわけである。

 

 元気の良い水色ことフラッピと、おしとやかそうな声を出す乳白色のチョッピ。

 さて、この様子を見た仮面ライダー2人はというと。

 

 

「…………」

 

 

 2人とも目を見開いて硬直していた。

 驚く時に人は悲鳴を上げるなり、大袈裟なリアクションをするなりするものだ。

 だが、驚きというものは行き過ぎると硬直と無言という反応になる。

 所謂絶句というやつだ。

 今まさに、2人はそんな状態だった。

 

 

「…………」

 

 

 士は無言でカメラを構えた。

 

 

「あ、上手に撮ってほしいラピ!」

 

 

 カメラに向かってポーズを取るフラッピ。

 チョッピもその横に並んで仲が良さそうに笑顔でカメラに目線を向けていた。

 悠然かつ当然のように歩き、喋るぬいぐるみを目の前にして士は、何となくシャッターを切る気がなくなった。

 毒気を抜かれたとか、呆れたとか、そういうものではないが何故か脱力してしまったのだ。

 

 

「士、これなんだ?」

 

「知るか。……この世界には何でもいるんだな……」

 

 

 引き攣った半笑いな翔太郎とカメラを下ろし、至って真顔ながらも硬直が解けていない士は2匹をじっと見つめた。

 

 

「いい加減シャキッとするラピ! 今から大事な事を話すラピ!!」

 

 

 張り上げられたフラッピの声で2人とも少しだけ我に返る。

 驚きは何1つ取り除かれていないが、こちらが聞きたい話をするというのなら聞いておきたい。

 

 

「僕達は『泉の郷』という場所からやってきた精霊ラピ!」

 

「泉の郷は世界樹とそれを支える泉があって精霊達が住む美しい世界だったチョピ。でも……」

 

 

 2匹の精霊を名乗るぬいぐるみの表情が曇った。

 泣きそうに体を震わせつつ、先程までの明るさを引っ込め、フラッピが語った。

 

 

「ダークフォールに6つの泉が枯らされ、世界樹も枯れて……。

 泉の郷は奴らに支配されたラピ……」

 

 

 およそ深刻な顔の似合わない2匹から暗い雰囲気が醸し出されていた。

 その雰囲気は翔太郎や士には演技のようには見えなかった。

 つまり、この2匹は支配された故郷からこの世界にやって来たという事になる。

 

 見かけだけ見れば可愛らしい生き物だ。

 だが、その来歴は何一つ可愛らしくない。

 それどころかこの2匹がそれだけの苦境の状態に立たされている事が翔太郎と士にとっては驚きだった。

 

 

「私とフラッピは奇跡の雫を集めて泉を復活させて、ダークフォールの支配から泉の郷を救いたいチョピ」

 

「それに奴らは、『緑の郷』も泉の郷と同じように滅ぼそうと企んでるラピ。

 だから今はこうして、咲と舞と一緒にダークフォールと戦ってるラピ」

 

 

 緑の郷という新しく出た単語について翔太郎が問うと、フラッピが「この世界の事ラピ」と答えた。

 つまり、そのダークフォールなる連中はこの2匹の妖精の故郷を滅ぼした後に、この世界も滅ぼそうとしているというのだ。

 語られた過去を聞いて翔太郎が口を開いた。

 

 

「……咲ちゃんや舞ちゃんは、戦うのに抵抗ないのか?」

 

 

 聞いたのには理由がある。

 彼女達はまだ中学生、戦いの日々に身を置く様な年齢にはとても思えない。

 それがこの2匹の精霊の都合によって戦わされているのではないか。

 翔太郎はそれが気になったのだ。

 だが、返ってきた言葉は翔太郎の予想を超える回答だった。

 

 

「私達、フラッピやチョッピと友達なんです」

 

 

 咲との言葉に間髪入れず、舞が口を開く。

 

 

「だから、助けたいんです! それに……みんなを守りたい!」

 

 

 とてつもなく単純な考え。

 それだけに、とても純粋な願いのようにも聞こえた。

 友達を助けたい、みんなを守りたい。

 ただ、それだけの理由で彼女達は戦いに身を置いている。

 

 

「恐怖は無いのか?」

 

 

 士の非常にストレートな質問に、咲と舞は一瞬黙り込む。

 だが、答えに詰まる事はなく、すぐに口を開いた。

 咲が舞の手を握った。

 

 

「怖い時もあります。でも……」

 

 

 そして舞も、咲の手を握り返した。

 

 

「2人一緒ですから。私達は、『ふたりはプリキュア』なんです」

 

 

 この年の少女にこんな事を感じるのもおかしな話かもしれないが、決意のようなものを2人は感じた。

 2人にとって少女達を戦わせるのは男として、人として、仮面ライダーとして避けたい事だった。

 だがその為に、友達を助けたいという無垢な願いを無視するような2人でもない。

 翔太郎は諦めたような呆れたような、だが何処か嬉しそうな笑顔で笑った。

 

 

「決意は固いみてぇだな……。お前達も、『2人で1人』ってわけか」

 

 

 翔太郎は咲と舞の力が自分と同じところから発揮されている事を悟った。

 同時に、翔太郎は戦闘中に聞かれた、『翔太郎とは別の声』について話し始めた。

 

 

「さっき俺から別の声がしたよな? あれは俺の相棒、フィリップの声だ。

 出かける前に事務所にいたろ?」

 

 

 その名を聞いて、咲と舞は出かける前に事務所にいて、翔太郎が一度だけ名前を呼んだ青年の事を思い出した。

 咲は驚いたような声を上げる。

 

 

「……あ! あの時の人なんですか!?」

 

「ああ。俺は変身する時、あいつと二心同体になるんだ」

 

 

 Wの説明をしつつ、翔太郎はさらに言葉を紡ぐ。

 

 

「『Nobody's perfect』、俺の好きな言葉の1つだ」

 

 

 翔太郎が突如発した英単語に首を傾げる咲と舞。

 フラッピとチョッピも疑問を持った顔で翔太郎の顔を見上げている。

 

 

「意味は、『誰も完璧じゃない』。1人じゃ無理でも、2人なら……って事さ」

 

 

 言葉の意味を語った翔太郎。

 2人で1人に変身する、仮面ライダーW。

 1人が不完全で、2人なら最強になれる事を翔太郎は人一倍知っている。

 翔太郎は格好付ける事無く、とても普通に、語るように話した。

 

 

「相棒の事、大切にな」

 

 

 経歴を知らない咲や舞、フラッピとチョッピ、そして士にも、その言葉はとても強く放たれたように聞こえた。

 一度相棒を失った事もある翔太郎だからこその言葉だ。

 

 一時期、翔太郎はフィリップを失い、1人で戦っていた時期がある。

 その約1年の期間、翔太郎は必死だった。

 たった1人で無理して踏ん張っているだけ、と自分でも自嘲気味に語っていたほどだ。

 結局のところフィリップは帰って来たが、それは結果論だ。

 本来なら二度と会えないはずだったのだから。

 本気で二度と会えない、二度と2人で1人になれないと思った翔太郎だからこそ、この2人にそんな思いはしてほしくないと思ったのだ。

 

 

「「はい!!」」

 

 

 咲と舞の威勢の良い返事に、翔太郎は笑顔で返した。

 

 

 

 

 

 ところで話はまだ終わっていない。

 咲と舞がプリキュアで、泉の郷を取り戻し、緑の郷を守る為にダークフォールと戦っているのは分かった。

 しかし咲と舞は依然、翔太郎と士が何者なのかを知らない。

 まず、咲が問う。

 

 

「あの、翔太郎さん達は一体……?」

 

「俺は、俺達は仮面ライダー」

 

 

 翔太郎の言葉に何度目になるか、首を傾げる咲と舞。

 仮面ライダーという単語には少しだけ聞き覚えがあった。

 確か、都市伝説や噂の一種だ。

 それを思い出した舞が口を開く。

 

 

「あの都市伝説の……?」

 

「お、よく知ってんな。その仮面ライダーだよ」

 

 

 仮面ライダーの都市伝説は至る所で有名だ。

 士は響と名もなき少女を助けた時、名もなき少女が仮面ライダーの事を知っていたのを思い出した。

 どうやらこの世界では、都市伝説や噂という形で『仮面ライダー』の存在が広く認知されているらしい。

 その原因の1つは、実は風都だ。

 

 確かに仮面ライダーの都市伝説は40年以上前から存在していた。

 だが、本格的になったのは『風都』や『天ノ川学園高校』といった特定の地域において連続で確認され、尚且つその存在が証明された事だ。

 未だにその非常識を信じる人が少ないため、依然都市伝説という形に収まっているが、仮面ライダーの存在はほぼ確定したと言ってもいい。

 というのが、最近の世間における仮面ライダーへの認識だ。

 勿論、その正体を知る者は極少数に限られているが。

 

 咲が翔太郎の言葉に苦笑いしながら返す。

 

 

「まあ、ニュースとかでも時々やってますから……」

 

 

 実はこれらの実証が重なった影響で、ニュースや報道で特集が組まれた事があるのだ。

 そんなわけで、仮面ライダーという存在を信じる信じないはともかく、その名称を知る人はかなり多いのだ。

 

 

「あー……まあ、そうだろうなぁ」

 

 

 翔太郎がこれまでの戦いを思い出した。

 仮面ライダーの戦いは派手に行われる時がある。

 一番酷い被害は、風都タワーの風車が壊された時だろうか。

 実は今の風都タワーは『第2風都タワー』で、『第1風都タワー』が以前存在していたのだ。

 傭兵集団、『NEVER』との戦いで倒壊した風都タワー。

 それだけの被害を残した戦いなのだから、それを解決した仮面ライダーの存在も必然的に有名となる。

 至極当然の事であった。

 

 

 

 

 

 そんなわけで仮面ライダーとプリキュアが無事、お互いの自己紹介を終えた。

 戦いの話から一旦離れ、彼らは絵や写真の話に移った。

 

 

「士さんのカメラって、珍しいですね」

 

 

 咲の言葉に全員の視線が士のカメラに集中する。

 色合いもそうだが、今時2眼レフのトイカメラ、フィルムカメラを持っているのはかなり珍しい。

 風都タワーで翔太郎も似たような事を言っていたが、咲や舞にはさらに珍しく映ったようだ。

 

 

「お陰で現像もできないけどな」

 

「フィルムの現像って、あんまりやってないもんな」

 

 

 士の言葉に翔太郎が頷く。

 フィルムの現像は一時期、写真関係の店ならやっていた事だ。

 だが、今はすっかりデジカメや携帯のカメラが主流になってしまっている。

 フィルムを現像するような場所はなかなか見つからないのだ。

 ちなみに最先端技術の塊である二課や特命部にもフィルムの現像ができるような場所は無かった。

 

 

「じゃあ、そういうところ見つけたら教えます!」

 

 

 その咲の言葉で、翔太郎が閃いた。

 

 

「そうだ、じゃあついでに連絡先交換しとくか。

 俺達全員、一緒に戦った仲だし、悪くないだろ?」

 

 

 翔太郎の提案には全員が賛同した。

 もし何かあった時に頼れる仲間がいる安心感。

 1人で駄目でも2人なら、2人で駄目でも3人なら……。

 それに翔太郎としては、この年端もいかぬ少女2人を危険な目に遭わせたくなかった。

 戦う意思は消えないだろうし、決意を聞いた今、止めるつもりもない。

 だが、本当に危険な状況になった時に助けに行けるなら。

 それに越した事はないと思ったのだ。

 

 4人はそれぞれ連絡先を交換した。

 風都を見て回り、戦いもあり、その上自己紹介にも大分時間を使ったせいで、日はすっかり落ちかかっていた。

 窓から差し込む夕日が眩しい。

 

 

「咲、そろそろ帰らないと」

 

 

 舞の言葉に咲も「そうだね」と頷く。

 4人は立ち上がって事務所のドアに向かった。

 ドアを開け、事務所の外に出た咲と舞は半回転して翔太郎と士の方を向き、頭を下げた。

 

 

「「今日は、ありがとうございました!」」

 

「ああ、また会おうぜ」

 

 

 咲と舞は頭を上げて、笑顔で風都の外を目指して歩く。

 翔太郎と士も外に出て、その姿が見えなくなるまで見送る事にした。

 夕日で照らされた2人の姿と、笑顔で話す咲と舞は、非常に明るく、美しく見えた。

 見送りに気付いた咲と舞が笑顔で2人に手を振る。

 翔太郎は軽く振り返し、士は夕日も交わったその光景に思わずシャッターを切った。

 

 2人の姿が見えなくなった後、士が事務所の前に停めていたマシンディケイダーに向かう。

 

 

「俺もそろそろ帰らせてもらう」

 

「おっ? そうか」

 

 

 士はヘルメットを被りながら少し間をおいて切り出した。

 

 

「……さっきの話だが、俺達の組織に来る気はあるか?」

 

 

 その質問には即答できないのが本音であった。

 翔太郎は風都を誰よりも愛している。

 その愛に偽りも陰りもなく、それこそ少年の心のように町を昔も今も愛している。

 だからこそ、彼はこの町を守る為に戦い続けていた。

 その町から離れるのは少し不安なのだ。

 ホームシックなんてお子様な理由ではなく、未だ時折出現する試作型ガイアメモリの暴走によるドーパント。

 それに仮面ライダーがいない事を良い事に、再び財団Xが風都に狙いをつける可能性もある。

 彼は風都を愛し、風都の事を誰よりも案じていた。

 それはかつて、風都を愛したもう1人の男との誓いでもあった。

 

 

「…………」

 

 

 無言の回答に対し、士はマシンディケイダーのエンジンをかけた。

 既に発進の用意はできている。

 

 

「ま、来る気になったら俺に連絡しろ。質問にも極力答えてやる」

 

 

 士はヘルメットのゴーグルを下ろし、完全にバイクを走らせる形を取る。

 そしてもう一度翔太郎の顔を見た。

 

 

「またな、仮面ライダーW」

 

 

 またな、という言葉に再び何処かで会うという事を予感させつつ、士はマシンディケイダーを走らせて行った。

 

 

「……ちったぁ考えてみるさ」

 

 

 既に聞こえない距離にいる士に向かって、小さく呟いた翔太郎は、事務所の中に戻っていった。

 

 

 

 

 

 事務所から翔太郎はさらにガレージに向かった。

 ガレージには『リボルギャリー』というWのサポートメカが置かれている。

 さらにそこにはホワイトボードが置かれ、フィリップは『検索』の際にそこに検索した情報を書き込んでいくようになっている。

 

 ガレージに入った翔太郎が見たのは、何かを熱心に書くフィリップと、ホワイトボード一面にビッシリ埋まった文字の数々だった。

 

 

「案の定かよ……」

 

 

 全力で呆れる翔太郎の声を無視し、フィリップは尚もホワイトボードに書き連ねていく。

 そして、一通り書き終わったフィリップは満足気にホワイトボードを見上げた。

 

 

「喋る人形に伝説の戦士。実に興味深い」

 

 

 興味深い、という言葉が出てさらに翔太郎は溜息をついた。

 調べ終わった事にフィリップは基本、関心を持たない。

 だが、これだけ調べても興味深いという言葉が出るという事は、まだ調べ足りないという事なのだろう。

 

 

「しっかし、よく調べるよなぁ……」

 

 

 ホワイトボードに近づいて書かれている文字をまじまじと見つめる。

『プリキュア』、『泉の郷』、『奇跡の雫』、『プリズムストーン』、『ハーティエル』……。

 聞いた単語は前者3つ、後者2つは聞き覚えのない単語だった。

 

 

「おや、翔太郎」

 

 

 と、此処でようやくフィリップは相棒の存在に気付いた。

 検索の時に周りが見えなくなるのがフィリップの癖だ。

 

 

「フィリップよぉ、このプリズムストーンとかハーティエルってなんだ?」

 

「僕も気になっているんだよ。プリキュアの事を調べていくうちにその単語が出たんだ。

 今度はそれについても調べようと思ってね。ところで翔太郎!!」

 

 

 ずいっと詰め寄るフィリップに思わず後ずさり、たじろぐ翔太郎。

 

 

「な、なんだよ……」

 

「どうやらプリキュアは他にも存在するようなんだよ!」

 

 

 熱の入ったその言葉の衝撃は半端ではなかった。

 

 

「なんだと!?」

 

 

 思わず全力で驚いてしまった。

 翔太郎の大声に全く動じず、フィリップは得意気かつ流暢に語りだした。

 

 

「どうやら1年前からプリキュアは存在しているようだね。日向咲や美翔舞とは別にね」

 

 

 咲と舞とフィリップは自己紹介をしていない。

 なので名前は知らない筈だが、それも検索していく中で知ったのだ。

 それに戦闘中、自己紹介をしていない筈の士の名もフィリップは口走っていた。

 

 ディケイドの詳細は確かに地球の本棚に載っていない。

 だが、載っていないのは詳細だけ。

『この世界』に一度でも現れたせいか、『門矢士』という名とディケイドの一部の情報だけは地球の本棚にも残されていたのだ。

 しかし翔太郎にそんな事を考える思考は欠如していた。

 今しがた受けた衝撃的な言葉のせいで。

 

 

「じゃあ、まだ何処かで、あの子達みたいに戦ってる子がいるのか……?」

 

「そのようだ、あまり歓迎すべき事ではないがね。僕はもう少し調べてみるとしよう。

 何せ、プリキュアに関しての『記憶』も膨大だからね」

 

 

 そう言うとフィリップは目を閉じて両手を広げ、『地球の本棚』にアクセスを始めた。

 こうして地球の本棚にアクセスする事で、フィリップは地球に記憶されている知識を得るのだ。

 一方、翔太郎は1人考えていた。

 

 

(色んな場所で色んな事が起こってやがる……)

 

 

 ディケイドとの再会、大ショッカーの襲来、プリキュアとの邂逅。

 この短時間で随分と色んな事が起こった。

 それどころか、プリキュアという存在が他にいるという事まで判明してしまった。

 それに加え、士が参加しているという組織への協力まで求められている。

 

 

(何にも起こんないわけ、ねぇよな……)

 

 

 既に予兆を見せつつある、これから起こるであろう出来事。

 翔太郎は仮面ライダーとしての新たな戦いを予感していた。

 

 

 

 

 

 大ショッカー本拠地。

 精密機器が至る所で稼働し、内部はまるで迷路のように複雑。

 中では骸骨の意匠を施した黒服を来た『ショッカー戦闘員』があらゆる場所に常駐している。

 そして、怪人も多く存在している。

 

 フランスでの戦いから大ショッカー本拠地へと帰還したキバ男爵は本拠地の中心部への通路を歩いていた。

 胸の傷は未だ痛み、傷跡を残している。

 新しく作らせた槍を右手に持ちつつも、左手では時折、胸をさすっていた。

 

 

(この痛み……忘れぬぞ、仮面ライダー)

 

 

 周りの戦闘員が右手を斜め上に上げて「イーッ!」という奇声が響く。

 これはショッカー戦闘員の敬礼で、キバ男爵を敬っているという事になる。

 幹部であるのだから当然だが、キバ男爵が歩く通路は戦闘員達が横に避けている。

 しかしそんな戦闘員に目もくれず、キバ男爵は中心部へと向かった。

 

 大ショッカー本拠地中心部。

 黄金の鷲のレリーフが全てを見下ろすような位置に取り付けられており、中央にはめ込まれた緑色の球体が怪しく光り、『何者か』の声が響いた。

 

 

『キバ男爵、この世界の仮面ライダーはどうだ?』

 

 

 その声に対し、キバ男爵は膝をつき、鷲のレリーフに対して敬うような姿勢を取った。

 

 

「はっ。他の世界同様、なかなかに手強いようです」

 

『ほう、倒せると豪語すると思ったが……。成程、それほどか?』

 

 

 自分を強く見せず、相手の強さを素直に認めたキバ男爵に感心するような『何者か』の声が再び質問を投げかける。

 

 

「はい。現にただの怪人とはいえ、ハサミジャガーとワニーダ、そして私も恥ずかしながら、敗退を喫しました」

 

『そうか……まあそれぐらいでなくてはな』

 

 

 『何者か』は怪しく笑ったような声だ。

 表情があるとすれば、恐らく口角を上げて怪しげな笑みを浮かべているのだろう。

 

 

「他のライダーの力量は、いかがなさいますか?」

 

『別にいい。7人ライダーと今回の3人、それにWとディケイドの戦闘能力も知れたのだから十分だ。

 インターポールにもある程度、脅しは効いただろうからな』

 

 

 今回のハサミジャガーとワニーダはインターポールへの牽制が目的だった。

 だから仮面ライダーの登場に驚いていたのだ。

 尤も、今回の仮面ライダー登場は本当に予想外だったのだが。

 故にキバ男爵が出張る事になってしまったのだ。

 

 

「では、次は……ッ!?」

 

 

 キバ男爵が新たな策の提案を切り出そうとした瞬間、キバ男爵の後ろに何かが現れた。

 データが結晶し、人型を形成していく。

 ゴーグルを額に当て、全体的に黒い服に身を包んでパソコンを持つその姿。

 キバ男爵はすぐさま後ろを振り向き、槍を向けた。

 

 

「貴様、何奴ッ!?」

 

 

 向けられた槍にも怯まず、突如現れた黒服の男は飄々と答えた。

 

 

「どうも、ムッシュ・キバ。いえ、バロン・キバの方がよろしいですか?」

 

 

 どうでもよかった。

 どちらにせよキバ男爵を、自分を名指ししている事に変わりはないからだ。

 

 

「先程の戦いの後、失礼ながらつけさせて頂きました。私はエンター。

 以後、お見知りおきを」

 

 

 睨み、警戒を緩めないキバ男爵に黒服の男は深々とお辞儀をした。

 鷲のレリーフの緑色の球体が再び光り、『何者か』の声がエンターに向けられた。

 

 

『何故此処に来た?』

 

「私は貴方方と同じく、仮面ライダーを敵視する者……」

 

 

 そこにわざとらしく、「おっと」とジェスチャーを加えた動きで訂正した。

 

 

「正確に言えば、仮面ライダーと協力しているゴーバスターズを敵視する者です」

 

 

 『何者か』も戦闘員の報告で知っている。

 仮面ライダーに協力しているものがいる事を。

 例えば、セミミンガを倒した際にWとディケイドに協力したという謎の2人の戦士。

 それにディケイドが今、何らかの組織に属しているという事も。

 

 

『ほう、ゴーバスターズか……。目的は?』

 

 

 他の世界に存在するため、『何者か』もゴーバスターズの事を当然知っていた。

 『何者か』の問いにエンターは答える。

 

 

「協力関係を結びたいのですよ。大ショッカーとの、ね」

 

「何を馬鹿な……!!」

 

 

 キバ男爵の槍がエンターの喉元に向けられる。

 しかし、尚もエンターは悠然としていた。

 何一つ恐怖を抱いていない顔、それどころか「やれやれ」とでも言いたげな呆れ顔。

 

 

「悪い提案ではありませんよ。向こうが一致団結しているんです。

 人間はよく言うでしょう? 『目には目を歯には歯』を、と」

 

「貴様を信じろと?」

 

「ノンノン! 利害一致程度の協力関係で結構ですよ。

 お互い、倒す敵が一致しているのですからね」

 

 

 キバ男爵の強い言葉にエンターはフランス語混じりの、いつもの調子で答えた。

 目的を聞いた『何者か』の声が空間に響く。

 

 

『……面白い、一時の協力、受けようではないか』

 

「なっ!? しかし……ッ!」

 

『言うなキバ男爵。信じる気はない。だが、倒す敵が一致しているのなら利害関係も合う』

 

 

 『何者か』の返答に満足したのか、エンターは笑みを見せた。

 そして「ありがとうございます」と言いつつ深々とお辞儀をした後、頭を上げて鷲のレリーフとキバ男爵を交互に見やった。

 

 

「理解ある組織で助かります。それでは、今後とも宜しくお願いしますね……」

 

 

 それだけ言うとエンターは、現れる前のデータのような姿となり、その場から消えた。

 キバ男爵は悔しげに槍を乱暴に下ろし、鷲のレリーフの方を勢いよく向いた。

 

 

「何故、協力を?」

 

『言っただろう? 利害関係の一致だ。我々にとってライダーは憎き相手、それを倒せればどんな形であれ、問題ないだろう?』

 

「……尤もです」

 

『ならば、これからも頼むぞ?キバ男爵』

 

 

 キバ男爵は再び膝をつき、鷲のレリーフに向かって頭を下げた。

 そして『何者か』の名前を、いや、異名とでも呼べばいいのか。

 その名を呼んだ。

 

 

「はい、我らが『大首領』」

 

 

 大ショッカーの『大首領』。

 即ち、数多の怪人を束ねる存在。

 キバ男爵すら敬うその声は、姿すら見せる事はない。

 

 

 

 

 

 一方、無事帰路についた咲と舞は、電車から降りて夕凪を歩いていた。

 日もすっかり落ちて、あと30分もすれば完全に日が沈むだろう。

 歩みを止めずに咲は言う。

 

 

「それにしても、ビックリしたよね」

 

 

 これは当然、仮面ライダーや怪人についての事だ。

 中学2年の少女は3月の春休みに初めてプリキュアになった。

 それから1ヶ月程度しか経っていないのに、新たに仮面ライダーという存在との出会い。

 普通の人間にはまずできない人生を送っているに違いなかった。

 

 

「うん。……ねぇ咲、これからはもっと大変な戦いになるのかしら」

 

 

 舞の不安は、セミミンガが現れたところからきている。

 セミミンガの登場は新たな敵の存在を決定づけた。

 そして今回の件に関わったプリキュアの2人も、もしかしたら……。

 そう考えると楽観視はとてもできない状況だ。

 だが、咲は笑顔だった。

 

 

「大丈夫だよ! 翔太郎さんや士さんもいるんだし!」

 

 

 今回現れたのは怪人だけではない、仮面ライダーもだ。

 彼らが頼れる人物である事は今回の戦いで十分に分かった事。

 戦いは怖いし、できることならしたくないのは彼女達にとっての本音である。

 だが、フラッピとチョッピ、そしてこの世界の人々の為に。

 それが彼女達の戦う原動力なのだ。

 

 

「……あれ?」

 

 

 歩いていくうちにふと、咲がある建物に気付いて歩みを止めた。

 古ぼけた建物、看板には写真館の名前があった。

 

 

「こんなところに写真館なんてあったっけ?」

 

 

 夕凪の中はパンの配達でいつも駆け巡っているし、子供の頃からずっと夕凪で暮らしてきた咲に知らない場所など滅多にないはずなのだが。

 

 

「きっと、士さんのカメラの話があったからじゃない? それで気付いたのよ」

 

 

 今まで気に留めていなかった建物だったが、写真の話をしたからこの場所が目に留まったのだと、舞は言った。

 言われてみればそういう事もあるかもしれないと咲も納得する。

 

 

「今度、士さんに教えてあげないとね!」

 

 

 咲の言葉に舞も「そうね」と微笑み、2人は再び足を動かしていく。

 

 咲がいつの間にあったのかと疑問に思った写真館。

 実はその認識こそが正しく、この写真館はこの場所に現れてから間もない。

 写真館の看板にはこう書かれていた。

 

 

 

 『光写真館』、と。




────次回予告────
「ねぇねぇ舞、翔太郎さんは探偵だけど、士さんって普段は何してるんだろう?」
「えっ? カメラマンさんなんじゃないかしら?」
「そうなのかなぁ? 仮面ライダーって色んな事をしてるんだね」
「咲、戦ってるのは仮面ライダーだけじゃないみたいよ」
「ええぇ!? 高校生の人まで!?」

「「スーパーヒーロー作戦CS、『陰謀と、渦中と』!」」

「「ぶっちゃけはっちゃけ、ときめきパワーで絶好調!!」」

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