スーパーヒーロー作戦CS   作:ライフォギア

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第21話 三・者・三・面

 オーズの登場は双方に僅かな衝撃を与えた。

 怪人達は新たな仮面ライダーの登場に狼狽え、アクセルとメテオは更なる助っ人に驚きつつもその姿を頼もしく感じていた。

 だが、変身したオーズは怪人には目もくれず最初に瓦礫を除ける。

 少女の父親を救うためだ。

 

瓦礫から解放された少女の父親。

 苦しそうだが、呼吸する音が聞こえる。少女の父親の命はまだ繋がっていた。

 

 

「よかった……」

 

 

 と、安堵するオーズであるが状況は全く良くない。

 少女と父親を何処かへ運ぶために離脱しようにも3体の怪人に背を向けて走り出すのは自殺行為だ。

 仮面ライダーが他に2人いる事はオーズも確認している。

 しかし、怪人達は全員オーズの方を向いている。

 何よりハサミジャガーはまだそれなりの近距離にいるのだ。

 此処で下手に動こうものなら攻撃を食らう事は避けられない。

 バッタの跳躍能力を持つ足で運ぶ事も考えたが、こっちは少女とその父親の2人。

 

 2人を絶対に離さず、尚且つ攻撃にも当たらない事がこの場を無事に切り抜ける絶対条件。

 しかしそれには危険が大きすぎる。

 どうしたものかと思案するオーズ。

 

 と、そこに予想外の乱入者が現れた。

 

 

「ぬぉりゃぁぁぁぁ!!」

 

 

 女性の声、だがおよそ女性らしからぬ叫びと共に女性が駆け込んできた。

 オーズはその女性を、たった一度だけだが見た事があった。

 Wと共に戦った時の事だ。

 

 そう、その女性とは物陰に隠れていた亜樹子。

 唐突な登場と亜樹子の叫び声も相まった迫力にオーズも気圧されてしまう。

 

 

「あ、貴女は……!」

 

「久しぶりね! とりあえずこの人達はあたしに任せて!」

 

 

 極めて良い笑顔で親指を立てる亜樹子。

 そして何の迷いもなく少女の父親をその背に担ぎ、少女の手を取った。

 

 

「運び慣れてるから!!」

 

 

 そう言うと、亜樹子は少女の父親を背負って少女の手を引きながら猛烈なスピードでその場を離れて行った。

 変な話だが、その一連の行動が本人の言葉通りやけに手慣れているようにオーズは感じた。

 

 Wが変身する時、フィリップの意識は翔太郎側に転送される。

 その為フィリップの体は抜け殻同然に意識を失う。

 限定的な話ではあるが、フィリップ主体で変身する時には翔太郎の体が同じようになる。

 オーズは知る由もないが、いつもその体をせっせと運んでいたのが亜樹子なのだ。

 妙に手慣れているのはその為である。

 闖入者にオーズは呆気にとられ、メテオは呆れ、アクセルは苦笑いだ。

 しかし、3体の怪人の殺気は全く消えていない。

 

 オーズは足のバッタの跳躍能力を生かして3体の怪人を跳び越え、アクセルとメテオの元に合流した。

 

 

「っと……どうも。赤いライダーさんとは、一応……久しぶり、になるんですよね」

 

「ああ。オーズだったか、何度か左達が世話になった」

 

「いえいえ、こちらこそ。で、えっと……君は?」

 

 

 オーズとアクセルが話す中、オーズはメテオの方に顔を向けた。

 

 

「俺は仮面ライダーメテオ、話は後だ」

 

 

 3体の怪人は暢気に状況説明をさせてくれるほど優しくはない。

 ハサミジャガー、ワニーダ、吸血マンモスはじりじりとこちらに近づいてきていた。

 3人の仮面ライダーは横に並び、それぞれ構えを取る。

 怪人をしっかりとその視界に捉えながらもメテオはオーズに話しかけた。

 

 

「オーズ、戦ってくれるか」

 

「勿論、ほっとけないよ。それに……」

 

 

 オーズはメテオとアクセルを交互に見た後、得意気に言った。

 

 

「やっぱりライダーは助け合いでしょ!」

 

 

 その一声が合図になったのか、3人の仮面ライダーと3体の怪人は戦闘を開始した。

 

 

 

 

 

 アクセルはハサミジャガーと交戦状態にある。

 相手が得意とする刃を全て剣で受け止め、拳や足で反撃する。

 しかしハサミジャガーも馬鹿ではなく、あの手この手で攻めてくる。

 隙を伺っては不意を突いた一撃を与え、アクセルは時折ダメージを喰らってしまう。

 先程ハサミジャガーからもらったダメージと吸血マンモスによる一撃の為か、アクセルはやや劣勢に立たされていた。

 

 ハサミによる斬撃がアクセルの胴体を切り裂き、火花を散らせた。

 

 

「ッ!!」

 

「フハハ! どうした仮面ライダー!」

 

 

 たじろぐアクセル、得意気に挑発するハサミジャガー。

 しかしアクセルにはまだ余裕があった。

 何故なら、彼にはまだ手の内が幾つか残されていたからだ。

 アクセルはストップウォッチを取り出す。

 いや、それはストップウォッチなどではなく、メモリ。

 ストップウォッチが取り付けられたようなかなり特殊な形状のガイアメモリだった。

 

 

「余裕の台詞は、これを見切ってからにしてもらおう」

 

 

 アクセルはそのメモリ、『トライアルメモリ』の上部を回転させ、メモリを起動させた。

 

 

「全て……振り切るぜ!」

 

 ────TRIAL!────

 

 

 言葉と共にアクセルメモリを引き抜き、トライアルメモリをスロットに装填。

 そして変身の時と同じく右側のハンドルを捻った。

 

 

 ────TRIAL!────

 

 

 音声の後、トライアルメモリの信号機のような3つのランプのうちの1つが赤く点灯する。

 そして、赤のランプが消えて次は黄色のランプが点灯。

 同時にアクセルの装甲の色が黄色く変わった。

 そして最後に青いランプが点灯した後、すぐに全てのランプが点灯した。

 一連の流れは音も相まってレースの開始時を思わせる。

 アクセルの装甲は弾け飛び、かなりの軽装となっている。

 さらに色は全身青に変わり、重装甲で赤いアクセルとは対照的な姿だ。

 パワーと防御を捨てて速さを会得した姿、『アクセルトライアル』。

 アクセルの2つ目の姿だ。

 

 この姿を見たハサミジャガーは突然笑い出した。

 

 

「クッ、ハハハッ!! なんだぁ、その見るからに脆そうな姿は」

 

 

 ハサミジャガーの余裕の態度には理由があった。

 先程までのハサミによる斬撃をアクセルはその重装甲で防いでいた。

 それを自ら捨て、一目見ただけでも防御能力が低い姿へと変わった事に笑っているのだ。

 しかし、アクセルトライアルには焦りも怒りも一切なかった。

 

 

「試してみるか?」

 

 

 その言葉がハサミジャガーの耳に届いた直後、ハサミジャガーの胴体に強い衝撃が走った。

 衝撃で後ずさると、先程まで自分がいた位置に拳を前に突き出したアクセルトライアルがいた。

 先程まで自分とは数m間隔で離れていたはずのアクセルトライアルが、だ。

 さらに恐るべき事に、今のは一撃ではなく、5,6発程度の拳が入ったのをハサミジャガーは感じていた。

 

 確かにアクセルトライアルは防御能力や力を犠牲にしている。

 だが、それによって得た速さはそれに見合うだけの速度だ。

 怪人ですら目で追えるか怪しいほどの速さと、それによる連続攻撃。

 それがアクセルトライアルの戦法なのだ。

 

 

「ハアッ!」

 

 

 挑発も一切なく、アクセルトライアルは加速し再びハサミジャガーに接近、拳を当てた。

 先程よりも強烈な衝撃が体を襲い、ハサミジャガーの体は低いながらも宙を舞った。

 そして後ろに着地しようとしたその瞬間、今度は背中に痛みが走る。

 ハサミジャガーが宙を舞い、後方に降りようとしたこの僅かな時間でアクセルトライアルは背後からハイキックを決めていたのだ。

 たったそれだけの時間で前から後ろに回り込み、尚且つ攻撃を決められる。

 ハサミジャガーはアクセルトライアルの速度が恐るべきものという事を理解した。

 が、それは文字通り、遅すぎた。

 

 ハイキックで吹き飛びながらも何とか地面に着地したハサミジャガーはアクセルトライアルを睨んだ。

 睨みなど意に介さず、アクセルトライアルはトライアルメモリを引き抜く。

 そして元のストップウォッチのような形状に戻し、正しくストップウォッチのようにスイッチを押した。

 

 トライアルメモリがカウントをスタートさせ、それを空高く放り投げる。

 直後、アクセルトライアルは先程までの速度すらも上回る速度で駆けだした。

 一瞬にしてハサミジャガーまで接近したアクセルトライアルは高速で蹴りを繰り出す。

 

 しかも一発ではない。

 十発、百発……もはやどれだけ繰り出しているのかわからない。

 恐るべき速さでアクセルトライアルはハサミジャガーに連続で蹴りを決めていた。

 蹴りの軌跡はアルファベットの『T』を描いている。

 空中を舞うトライアルメモリが9秒台に差し掛かかりながら、地面に向けて落ちてきていた。

 アクセルトライアルは最後の蹴りを叩きこんだ後、半回転してトライアルメモリをその手に掴み、ストップウォッチを止めた。

 

 

 ────TRIAL! MAXIMUM DRIVE!────

 

 

 トライアルメモリのストップウォッチは『9.8秒』を示していた。

 

 

「9.8秒、それがお前の絶望までのタイムだ」

 

 

 瞬間、ハサミジャガーの体から蹴りの軌跡の『T』が青く浮かび上がった。

 アクセルトライアルのマキシマムドライブ、『マシンガンスパイク』。

 それは10秒以内に連続で蹴りをどれだけ当てられたかで威力が変動する技。

 10秒以内に決めなければ自分にだけダメージが跳ね返るが、10秒以内に収めればアクセルトライアルの攻撃は必殺となる。

 一発一発は確かに通常のアクセルよりも軽い。

 だが、それを補う連続攻撃がマキシマムドライブによって増幅されるのだ。

 

 

「グ、アァァァァァ……!!」

 

 

 青いT字の軌跡が浮かび上がるハサミジャガーは耐えきれぬ威力に苦しみ、爆散。

 振り向く事も無く、アクセルトライアルは爆炎に照らされていた。

 

 

 

 

 

 一方、メテオはワニーダと戦っていた。

 ワニーダの鋼鉄のような表皮は見た目だけでなく、実際に硬い。

 メテオはこれ以上に頑丈な相手と戦った事もある。

 とはいえ、硬い事は攻撃が通りにくい事に繋がり、厄介なのは変わらなかった。

 

 さらにワニーダの大きな口は脅威だった。

 強靭な歯と怪人の口から繰り出される噛みつき攻撃はどれほどの威力を誇るだろうか。

 少なくとも、岩や鉄程度ならば噛み砕いてしまう事は容易に想像がつく。

 あんなものに噛まれるわけにはいかない。

 

 

「クエェェェェッ!!」

 

 

 叫びと共にワニーダが尻尾を振るう。

 この長い尻尾もまた、ワニーダの武器であった。

 全身が鋼鉄で覆われているワニーダは当然その尻尾も硬い。

 そこから繰り出される尻尾を振るう攻撃にもそれなりの威力がある。

 先程その一撃を貰っているメテオはそれを理解していた。

 メテオは尻尾の攻撃を大きく後ろに跳んで躱す。

 そしてそのまま一旦距離を置いた。

 

 メテオにはある考えがあった。

 敵の体は確かに硬い。

 だが、例え怪人であっても脆い箇所は必ず存在している。

 

 

「フッ、その程度か? 貴様の尻尾も、顎も、大した事はないな」

 

 

 突然の挑発。

 尻尾はともかくワニーダの顎は一番の武器。

 それを貶される事は非常に癇に障るらしく、ワニーダはあからさまに怒りの様相を見せた。

 

 

「なぁにぃ!?」

 

「大した事がないと言っている」

 

 

 尚も煽るメテオ。

 メテオは右腕を水平に横に伸ばして、さらに挑発した。

 

 

「噛めるものなら噛んでみろ」

 

 

 その言葉はワニーダを激怒させるには十分なものだった。

 自分の最も強力な武器である顎を馬鹿にされた上、それを試してみろとほざく。

 しかも相手は、怪人としては憎き仮面ライダーだ。

 これで怒らない筈がなかった。

 

 

「貴様ァァァァァ!!」

 

 

 ワニーダが挑発に乗り腕に噛みつこうと突進してきた。

 大きく開かれた口はメテオの右腕に一直線だ。

 

 勿論、メテオはこの自殺行為にも等しい発言の裏に策があった。

 メテオは突進してきたのを見計らない、素早く右手の『メテオギャラクシー』を操作した。

 メテオギャラクシーの3つあるレバー式のスイッチの内、真ん中のスイッチを上に押し上げる。

 

 

 ────JUPITER! READY?────

 

 

 電子音声の後、待機している事を示す音楽が流れ出した。

 しかしその音を一切聞くことなく、メテオは左手の人差指をメテオギャラクシーの指紋認証を行う部分に重ねた。

 

 

 ────OK! JUPITER!────

 

 

 認証されたと同時に、メテオの右手に大きな球体型のエネルギーが形成される。

 その模様は電子音声の『Jupiter』が告げた通り、木星そのものだ。

 メテオギャラクシーには『Mars』、『Jupiter』、『Saturn』。

 即ち火星、木星、土星の三種類の惑星をモチーフにした力を引き出す機能が備わっている。

 

 

「ホォォォ……ワチャァ!!」

 

 

 メテオ特有の叫びと共に、右手の木星をワニーダの大きな口目掛けて繰り出した。

 突進していたワニーダは止まり、口を閉ざそうとするものの、一歩遅い。

 木星は見事にワニーダの口に叩きこまれたのだ。

 

 

「グェッ……!!」

 

 

 苦しそうな呻き声を上げるワニーダ。

 その木星型エネルギーを飲み込もうにも噛み砕こうにも、エネルギーそのものが大きすぎる。

 ワニーダの口は飲み込むでも吐き出すでもない、塞がれた状態になってしまったのだ。

 

 

「ホォォ……ワチャァ!」

 

 

 さらに力を込めるメテオ。

 木星は太陽を除けば、太陽系の中でも最大級の質量を持つ惑星だ。

 その巨大な拳が持つ圧力も相当なものだ。

 メテオは右手に力を込める事でそれを炸裂させた。

 

 

「グッ、イッ……!」

 

 

 木星から放たれたインパクトによってワニーダは衝撃で後ろに吹っ飛んだ。

 衝撃の瞬間の時点で口を塞がれていたため、呻き声のように詰まった悲鳴をあげるワニーダ。

 口は木星から解放されたものの、先程の一撃は口内で発生したもの。

 結果、今の一撃はワニーダの外側ではなく、内側にダメージを与えていた。

 

 これがメテオの策だった。

 全身がどんなに硬くても、生き物として脆い箇所、即ち体の内部。

 ワニーダは幸い、大きな口というダメージを与える入り口となる箇所が目立っていた。

 ならばそれを利用するまで。

 そしてその目論見は上手くいったというわけだ。

 

 

「グェ……貴様なぞにィ……!!」

 

「言ったはずだ。お前の運命(さだめ)は、俺が決める」

 

 

 口や腹部、体のありとあらゆる箇所が痛みつつも尚も立ち続けるワニーダだが、最早戦えるほどの力は残っていない。

 メテオはワニーダの怨讐の言葉に即座に切り替えしつつ、メテオドライバーにセットされた『メテオスイッチ』を起動させた。

 

 

 ────METEOR! ON! READY?────

 

 

 音声の後、メテオはメテオドライバーで一際目立つ天球儀を回した。

 メテオドライバーから眩い青い光が発せられる。

 

 

 ────METEOR! LIMIT BREAK!────

 

 

 『リミットブレイク』、限界突破の名を冠したそれは、メテオの必殺技の合図だ。

 メテオは上空高く跳び上がる。

 

 

「ホォォォォォ……」

 

 

 そして、左足をワニーダに向けて突き出して急降下。

 メテオは青いエネルギーを光として纏っている。

 左足を伸ばして急降下する青い光、その姿は正しく流星。

 メテオの必殺の蹴り、『メテオストライク』。

 これがこの流星の名。

 

 

「ワチャァァァァァ!!!」

 

 

 今までの中で一番気合が籠っているであろう叫びと共に、メテオストライクがワニーダの脳天に直撃した。

 

 

「ギギャアァァァァァァ!!?」

 

 

 脳天から体中に伝わる壮絶な衝撃は、先程の一撃も相まってワニーダに致命的なダメージを与えた。

 それは痛みに耐える事に必死なワニーダにならともかく、メテオから見れば確実な一撃だった。

 

 

「お、のれぇ……仮面ライダー…いずれ、必ず貴様等をォォォ……!!」

 

 

 ワニーダの言葉には尋常ではない怒気が感じられる。

 それを感じられないメテオではない。

 しかし、メテオは微動だにしなかった。

 

 

「何度来ようと負けは無い。俺の運命(さだめ)も、俺が決めるからだ」

 

 

 怒気に全てを使い果たしたのか、メテオの確信したような一言が引き金となったのか、直後、ワニーダはその体を爆散させた。

 爆発の影響で残った炎。

 揺らめく炎の向こうに佇む青い流星は、確かな勝利を得た。

 

 

 

 

 

 オーズは吸血マンモスと戦っているのだが、苦戦を強いられていた。

 今の姿、オーズの姿の中でタトバコンボはバランスの取れた形態だ。

 所謂基本という奴で、様々な状況に対応できる面もある。

 だが、特化した部分のない、というのがタトバコンボの弱点でもあった。

 吸血マンモスのパワーは強大であった。

 伊達に仮面ライダー2人を吹き飛ばしてはいない。

 しかも現在の吸血マンモスはキバ男爵の姿の時から持っていた槍を左手に構えている。

 槍は直線的な得物だから何とか避けているが、そのパワーから繰り出される突きは脅威だ。

 

 オーズは上半身を構成するトラメダルの力によって生成されている両手の爪、『トラクロー』を展開した。

 

 

「……そこだッ!!」

 

 

 トラクローの一撃が吸血マンモスの左手を捉えた。

 屈強なマンモスの足のような右手とは違い、怪人とはいえ左手は普通の左手。

 手の甲に当たった一撃の為に吸血マンモスは思わず手を開いてしまった。

 結果、槍は地面に落ち、オーズはすぐさまそれを蹴り飛ばした。

 

 

「ヌッ……!」

 

 

 遠くに転がった槍に気を取られる吸血マンモス。

 その隙をオーズは見逃さない。

 

 

「ハァ!!」

 

 

 両手のトラクローが吸血マンモスの胴体を切り裂く。

 しかし、直後にオーズは焦った。

 

 

(浅い……ッ!!)

 

 

 槍を蹴り飛ばした直後に間髪入れずに入れた為踏み込みが足りなかったのか、その一撃は胴体に深く切り込むものではなかった。

 しかし、深さはどうであれ切り裂いた事に変わりはなく、吸血マンモスも痛みを感じてはいる。

 

 だが、相手も怪人。

 僅かな痛みでは動じなかった。

 それどころか槍に気を取られていたのがその痛みによって我に返り、オーズに再び目が向けられた。

 

 

「ヌゥ……ン!!」

 

 

 重く放たれた右手の一撃。

 マンモスの足のような右手から放たれるパンチは通常の怪人のソレの数倍は強力だ。

 トラクローで攻撃した直後だったオーズは咄嗟に両手をクロスさせる事でしか対処ができなかった。

 

 

「ぐっ、あぁぁぁぁぁ!!?」

 

 

 防御はしたものの、力強く、重い一撃はオーズを後方に追いやった。

 余りの威力に、立ったまま後ろに滑っていくオーズ。

 腕ではなくトラクローに当たったのが幸いして、腕へのダメージは少ない。

 しかしそれでもトラクローから伝わる衝撃で腕が少し痺れていた。

 

 

(並じゃない……!)

 

 

 オーズも幾度もの修羅場を乗り越えてきた仮面ライダーだから分かる。

 これほどの力を持つ相手はそうはいない。

 勿論、強大なパワーを持つ敵とは戦った事もある。

 だが完全に打ち負せる対策を持ち合わせているわけではなく、脅威なのに何ら変わりはなかった。

 

 しかし、打ち負かせずとも、対抗できる力はオーズにもある。

 オーズはオーズドライバーを元の水平の形に戻し、3枚のメダルを引き抜いた。

 そして新たに、灰色のメダルを3枚取り出す。

 それぞれ『サイ』、『ゴリラ』、『ゾウ』の絵が彫られていた。

 オーズドライバーにその3枚をセットし、バックル部分を傾ける。

 そして変身の時と同じ要領でオースキャナーを滑らせた。

 

 

 ────サイ! ゴリラ! ゾウ!────

 

 

 変身の時と同じように円形のエネルギーがオーズの周囲を回る。

 そして、オーズの姿は変わった。

 

 

 ────サゴーゾ! ……サゴーゾ!!────

 

 

 全体的な姿は灰色。

 体の形状も大きく変化していた。

 サイのような角を持った頭。

 ゴリラのような強靭な腕と、大きな鎧を身に着けた腕。

 ゾウのように太く、重い足。

 

 オーズ、『サゴーゾコンボ』。

 

 数々の姿を持つオーズの中でも、取り分け力が強い姿だ。

 姿を変えたオーズを見て、吸血マンモスも一瞬ピタリと止まった。

 

 

「ほう……」

 

 

 感心したような、警戒するような態度で吸血マンモスはサゴーゾコンボへ変身したオーズを見つめた。

 見た目からしてパワータイプなのは吸血マンモスにも分かる。

 つまり、相手は力比べをしようとしている事も。

 

 

「面白い……!」

 

 

 吸血マンモスは気迫の籠った叫びと共に頭の角と両手を突き出してオーズ目掛けて走り出した。

 その姿は全てを跳ね除け直進していくマンモス。

 助走による勢いも重なった猛烈なパワーの突進。

 先程までのオーズなら回避行動に移っていただろう。

 だが、今のオーズは違う。

 ゾウの足で思い切り踏ん張り、ゴリラの腕に力を籠め、サイの頭を仰け反らせた。

 

 

「ハァァァァァ!!」

 

 

 そして吸血マンモスの突進に合わせ、相手に負けないほどの気迫の籠った叫びでゴリラアームとサイヘッドを突き出した。

 吸血マンモスの牙とオーズのサイヘッドが、吸血マンモスの両手とゴリラアームがぶつかり合う。

 激しい音と衝撃が辺りに響いた。

 同時に、吸血マンモスはその足を止めていた。

 オーズは吸血マンモスの猛烈な突進をその場で止めて見せたのだ。

 ぶつかり合ったお互いの頭と両腕に強烈な衝撃が走るのを感じた。

 

 吸血マンモスも相手がパワータイプなのを分かった上で突進攻撃に移った。

 とはいえ、まさか完璧に止められるとは思っていなかったのだ。

 だが、止めた側のオーズにも余裕はない。

 

 

(サゴーゾでも、これが限界ッ……!?)

 

 

 止める事には成功した。

 だが、走ってきた衝撃は相手も並のパワーの持ち主ではないという事を物語っている。

 簡単に言えば、サゴーゾでも止めるのがやっと、という事だ。

 受け身側として突進を止めたのだから、純粋に力で勝負をすれば勝てるかもしれない。

 だがそれは僅差で、ともすれば拮抗するレベルであるという事をオーズは理解する。

 

 

「ウ、オオォォォォォ!!」

 

 

 だが、諦めない。

 オーズは咆哮と共に体中に力を籠めてサゴーゾの力を最大まで引き出していく。

 すると、拮抗状態にあった2人の力関係が徐々にオーズに傾倒していった。

 

 

「ッ、ヌゥゥゥゥ……!!」

 

 

 負けじと吸血マンモスも力を籠めるが、オーズの力は跳ね返せない。

 だが、それでも力の差は僅差だ。

 僅かでも手を緩めれば緩めた方が押し返され、跳ね飛ばされる。

 オーズは限界まで力を籠めた。

 

 

「ハァァァ……セイヤァァァァァ!!」

 

 

 自身にとって最も気合の入る叫びと共に、オーズは頭を大きく振り上げた。

 振り上げられた頭には鋭利なサイの角がついており、オーズの角は密着していた吸血マンモスの体を縦に切り裂いた。

 

 

「グヌォォォォォ!!?」

 

 

 サイヘッドと競り合っていた吸血マンモスの頭が鋭利な激痛に襲われる。

 さらにサイヘッドによる渾身の一撃は吸血マンモスを放物線上に吹き飛ばした。

 明確な損傷を与える事ができたのをオーズは確信する。

 

 しかし、吸血マンモスはその一撃を受けてもなお、立ち上がって見せた。

 

 

「仮面ライダー……侮れないか」

 

 

 だが受けたダメージは大きい。

 頭から胸の辺りまでを左手で抑えていた。

 切り裂かれたような痛みが走り続け、怪人の身であれどそれは応えているようだった。

 

 オーズは警戒を一切緩めない。

 相手は疲弊しているとはいえ、幹部クラスの怪人。

 しかも傷を負っても悠々と立ち上がって見せたのだ。

 力に関してもサゴーゾと渡り合うほど。

 油断は論外、警戒も解けるような状況ではなかった。

 

 

「オーズ!」

 

 

 オーズに呼びかけてきたのは青い姿のアクセル、アクセルトライアルだ。

 オーズの横に並び立つアクセルトライアル、それと同時にメテオも並び立つ。

 2人ともそれぞれが相手にしていた怪人を倒し、オーズの加勢に来たのだ。

 

 

「フン、あの2人はやられたか」

 

 

 3人のライダーを見て、吸血マンモスはそれを確信した。

 そうでなければ状況の説明がつかない。

 が、さして気にしているような声色ではなかった。

 

 

「さすがは仮面ライダー。この場は一旦退かせてもらう」

 

 

 言いつつ、吸血マンモスは屈んだ。

 様子に警戒する3人のライダーは、吸血マンモスの足元に先程の槍がある事に気付いた。

 どうやら吹き飛んだ際に槍の近くに飛ばされたらしい。

 吸血マンモスはそれを左手で持ち、3人のライダーに向ける。

 そして、槍の先端、牙の部分がまるでミサイルのように3人のライダーに向かって飛んだ。

 突然の事態に一歩下がる3人のライダー。

 牙のミサイルは3人の足元に着弾し、大きく土煙を巻き起こし、3人の視界を奪った。

 

 

「ッ! あいつは……!?」

 

 

 辺りを警戒するメテオだが、吸血マンモスが土煙に乗じて襲ってくる気配はない。

 土煙が晴れると、そこに吸血マンモスの姿は無かった。

 残されたのは3人のライダーと町の瓦礫のみ。

 辺りを見渡す3人だが、どうやら先程の言葉通り、撤退したようだった。

 

 

「……逃げたか」

 

 

 アクセルトライアルの言葉で全員が警戒を解いた。

 3人の仮面ライダーの勝利でこの場は収まったのだった。

 

 

 

 

 

 3人は変身を解除し、辺りの安全を確認した後、それぞれの自己紹介と状況報告に移った。

 最初に切り出したのは竜だ。

 

 

「俺は照井竜、風都署の刑事で仮面ライダーアクセルだ」

 

 

 それに続き、映司も名乗った。

 

 

「俺は火野映司、仮面ライダーオーズ。照井さんとはお久しぶりですね」

 

 

 その後2人の視線は流星に集まった。

 この場で一応とはいえ顔見知りの竜と映司はともかく、流星と一度でも会った事のある人間はいなかったからだ。

 場の流れ、そして視線に気づいた流星は一瞬、どうすれば自分の事を分かりやすく説明できるか考えた後、名乗った。

 

 

「朔田流星、弦太朗の友達と言えば伝わるか?」

 

 

 弦太朗、という人名を聞いて竜は首を傾げ、映司は驚きの様相に変化した。

 

 

「弦太朗君の友達!? そっか、じゃあ俺達も無関係ってわけじゃないんだね」

 

「誰の事だ?」

 

 

 映司の言葉に頷く流星だが、竜はその名前を聞いた事が無い。

 その言葉に映司が意外そうな目を向けた。

 

 

「あれ? 聞いてませんか? 翔太郎さんとフィリップさんから」

 

 

 弦太朗――――『如月 弦太朗』は、朔田流星の友人にして仮面ライダーの1人。

 『仮面ライダーフォーゼ』である。

 過去にオーズとWと共に戦った事があり、その際に映司は弦太朗と友人関係を築いている。

 その弦太朗の友人、そして仮面ライダーなのだから信用も十二分おけるだろう。

 Wとも変身前の状態で顔を合わせた事があるので、仲間である竜ならてっきり知っているものかと映司は思っていたのだが。

 

 

「……そういえば、先輩がどうのと喜んでいた事があったが」

 

 

 竜は1,2年程前の翔太郎の様子を思い出した。

 何処かからかフィリップと共に帰ってきた後、やけにテンションが高かった事を覚えている。

 『後輩が増えた』だの、『先輩になれた』だの、何やら喜んでいる様子で、フィリップはそんな様子の翔太郎に苦笑いしていた。

 事情を聞けば新しい仮面ライダーと知り合ったという。

 名前は聞かなかったが、その人物の事だろうかと竜は思案した。

 思い当たる節と言えばこれぐらいしかないが。

 

 

「あ、多分それです」

 

 

 映司は竜の言葉を肯定した後、何かに気付いたようにハッとなって、言葉を続けた。

 

 

「翔太郎さん達と同じころに戦ってたって事は、照井さんも先輩ですね!」

 

 

 今度は竜に2人の視線が集まり、竜は思わずたじろいでしまう。

 

 

「……そう言われてもな」

 

 

 竜自身、W以外の仮面ライダーと関わる事は少ない。

 基本他のライダーと関わる事が多いのはWの方だ。

 そんなわけで自分よりも後に仮面ライダーになった人から『先輩』などという言葉をかけられるとは思っておらず、少し戸惑っていた。

 

 

「すまないが、話を進めてもいいか」

 

 

 戸惑う竜を察してか、それとも本当に話を進めたいだけなのか、流星が割って入った。

 視線は再び流星に集中し、その視線を受け取った流星は本題を切り出した。

 

 

「今回は協力、感謝する。照井さんには話したが俺はインターポールの訓練生をしている。

 だが、今は仮面ライダーという事もあって『ある事件』を調査しているんだ」

 

 

 流星の言葉に映司が切り込む。

 

 

「ある事件って?」

 

 

 その言葉に流星はゆっくりと、そして簡潔に事件の名だけを告げて答えた。

 

 

「『仮面ライダー連続襲撃事件』……と言ったところか」

 

 

 竜と映司の顔が、今までも真剣だったがさらに険しい目つきになる。

 事件の名からして仮面ライダーが何らかの理由で狙われている事件である事は察しがついた。

 

 

「世界各国に存在する仮面ライダー……1号を初めとする『7人ライダー』達が各国で襲われた」

 

 

 流星曰く、仮面ライダーの襲撃は世界の何処にライダーがいても起こっているとの事だ。

 

 1号はヨーロッパで、2号は南アフリカで、V3はエジプトで、ライダーマンはタヒチで、Xはインドネシアで、アマゾンは南米アマゾンで、ストロンガーはロシアで……。

 

 このように、7人ライダーは全員怪人の襲撃を受けていた。

 しかしさすがは他のどのライダーよりも戦闘経験豊富な7人ライダー、その全てを返り討ちにしていた。

 

 

「俺は調査をしていく中でヨーロッパにいた1号と接触する事ができた。

 そして聞いたのが『大ショッカー』という謎の組織の話だ」

 

 

 その組織の名は竜も先程の戦闘で聞いた。

 流星の話は尚も続き、2人も真剣に話を聞き続ける。

 

 

「かつて『ショッカー』や『ゲルショッカー』と言った組織が存在したが、それらは1号と2号により叩き潰されている」

 

 

 ショッカー、及びゲルショッカーはかつて世界征服を企んだ悪の軍団だ。

 それを倒したのが最初の2人、1号と2号なのである。

 今回現れた組織、大ショッカーにも『ショッカー』の言葉が使われていた。

 故に、インターポールもそれに関連しているという線で調査をしている。

 

 此処で竜が手を上げ、質問を挟んだ。

 

 

「『財団X』は関係していないのか」

 

 

 財団Xとは、各国に武器や兵器を売る『死の商人』。

 しかもその武器や兵器は『ガイアメモリ』などの怪人になる為の超常的な兵器。

 そしてその技術を手に入れる事も財団Xの目的だ。

 未だに得体も全貌も知れぬ組織故に、7人ライダーや財団Xを知るライダーは警戒をしている。

 

 今回の大ショッカーなる組織にもそれが絡んでいるのではないか、そう思った竜なのだが、返答はノーだった。

 

 

「違うらしい。1号曰く、『財団Xを追う最中での出来事だった。向こうから仕掛けてきた辺り、どうも財団Xとは違う組織に感じた』、という事だそうだ」

 

 

 漠然としてはいるが、確かにおかしな話ではある。

 財団Xは仮面ライダーを特別敵視しているわけではない。

 目的さえ果たせれば良く、自分達から仮面ライダーに勝負を挑む事は殆ど無い。

 それが財団Xの尻尾を掴むのを難しくさせている要因の1つである。

 なのに、今回は怪人の方から仕掛けてきた。

 あまつさえ大ショッカーなる財団Xとは違う名を名乗っている。

 関係があるようには現状思えなかった。

 

 

「もしかしたら何らかの協力関係にある可能性はあるが、今のところ目立って関わっているという事はない」

 

 

 流星自身、説明するのはいいが要するに『敵の事は分かっていない』という事だ。

 この説明を聞いて3人とも考え込んでしまっている。

 大ショッカーの目的が仮面ライダーの抹殺にあるにしても、今回の事件はおかしい。

 竜が流星に問う。

 

 

「何故奴らはフランスに現れた。俺達が此処に揃ったのは偶然。

 仮面ライダーを狙うにしてはおかしな話だろう」

 

 

 映司はたまたま鴻上の話を聞いたから、竜はたまたま新婚旅行に来ていたから。

 この場で3人のライダーが揃ったのは偶然以外の何者でもなかった。

 流星はその問いに少し考えこみつつ、答える。

 

 

「以前、俺も大ショッカーと交戦した事がある。俺狙いだったんだろうな、それに人間を守っているという意味でインターポールが邪魔なのかもしれない」

 

 

 流星の答えでは更なる疑問が生まれる。

 インターポールが邪魔なら何故この場を襲ったのか?

 怪人の力をもってすれば本部に直接攻撃を仕掛ける事も容易なはずだ。

 それを疑問に思って竜はさらに質問を投げかけた。

 

 

「どういう意味だ?」

 

「実は以前のヨーロッパでの1号の戦闘以降、ヨーロッパ全体に捜査官が張り込んでいる。

 此処もその一か所なんだ。ピンポイントで狙ってきたのは、恐らく……」

 

 

 流星の言葉の続きを理解した映司が、流星の言葉を引き継いだ。

 

 

「『警戒しても無駄だぞ』って示すため……?」

 

「憶測だがそうなる。どうやら奴らの抹殺対象はライダーだけでなく、自分達に敵対する一般人にも及んでいるらしい」

 

「脅しのつもりか……!」

 

 

 右手の拳で左の手の平を叩き、苦々しい顔で竜が吐き捨てるように呟いた。

 フランス、パリにて。

 3人の仮面ライダーは新たな戦いを何処か予感していた。

 

 

「流星!」

 

 

 と、此処で出し抜けに3人以外の、4人目の声、女性の声が響いた。

 名前を呼ばれた流星は聞き馴染みのある声に普通に振り向く。

 髪の長い美しい女性、黒いボディスーツは戦闘などを想定しているように見える。

 

 

「インガか。……彼女は『インガ・ブリンク』。俺と同じでインターポールの訓練生だ」

 

 

 駆け寄ってきたインガなる女性は、竜と映司に軽く会釈をした。

 

 

「初めまして、インガ・ブリンクよ」

 

 

 挨拶も早々に、インガは流星に現状報告をしだした。

 

 

「今のところ、犠牲者は出てない。ただ此処を張っていた捜査官2名が重傷。

 ……市民を庇ったのね」

 

「そうか……大ショッカーめ……!」

 

 

 流星の顔は悔しそうなであると同時に、申し訳なさそうな顔にも見える。

 同僚に怪我を負わせてしまった事を悔いているのだろう。

 もう少し早く到着できていれば。

 結果論だが、そう考えてしまうのは仕方のない事だ。

 

 

「竜くぅぅぅぅん!!!」

 

 

 2度目の出し抜け。

 声の主、亜樹子が半ば竜の腹部にヘッドバットを決めながら跳び込んできた。

 予想外の衝撃を食らいふらつく竜だが、このままだと亜樹子まで倒れると思ったからか、何とか踏ん張る。

 

 

「しょ、所長……あの2人は無事か?」

 

「うん! このインガって人と途中で会えたから! あの娘のお父さん、無事みたいだよ!」

 

 

 笑顔で答える亜樹子のその笑顔が眩しかった。

 この場でこれだけ屈託のない笑みができるのは亜樹子ぐらいのものであろう。

 

 

「所長が世話になったようだな、礼を言うぞ」

 

「いいえ、いいのよ仕事なんだから。ところで……」

 

 

 丁寧に頭を下げる竜にインガは微笑しながら返答。

 ついでに先程から気になっていた事を口にした。

 

 

「貴方達は何でフランスに?」

 

 

 問いは映司、竜、亜樹子に向けられていた。

 その問いには率先して映司が答える。

 

 

「俺は鴻上ファウンデーションってところで遺跡調査をしていて、鴻上さんから事情を聞いて、インターポールがあるフランスに」

 

 

 インガはそれに納得したようで、今度は竜に「貴方は?」と問うように手を向けた。

 竜は至って真面目に、一切の照れもなく、一言言ってのけた。

 

 

「新婚旅行だ」

 

 

 空気が固まった。

 竜と亜樹子以外の3人が、凄く珍しい、特別天然記念物でも見るような目になっている。

 

 

「……もう一回、いいかしら?」

 

「新婚、旅行だ」

 

 懇切丁寧に言葉を切って、それはそれは分かりやすく伝えてくれた。

 その2度目の言葉で映司は遂に大声を上げてしまう。

 

 

「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!? し、新婚旅行って……」

 

 

 言っている最中、映司は以前に竜と亜樹子に会った時の事を思い出す。

 初めて見た時、彼女は派手な衣装に身を包んでいた。

 今にして思えば純白のウェディングドレスだったようにも思い出されるのだが。

 

 

「あ、そう言えば前に会った時にドレスみたいなの来てたような……? もしかして…!?」

 

「うん、あたし達その時結婚式だったのよー」

 

 

 平然と言ってのける亜樹子に映司はさらに衝撃を受けた。

 あの時は強敵の出現もあって、かなり大変な状況であった事を記憶している。

 結婚式当日がそんな事になってしまっていたのか。

 別に映司のせいではないが、何故だか映司は申し訳ない気持ちになった。

 一方、流星も過剰な驚きはしないが目を見開いていた。

 

 

「仮面ライダーに結婚している人がいるとは……」

 

 

 流星の言葉を聞いたインガが悪戯っぽい顔を浮かべた。

 

 

「あら? あなたにもいるんじゃないの?」

 

 

 瞬間、亜樹子の目が光った。

 

 

「おぉ? なんだい青年、思い人がいるのか~い?」

 

「あ、いや……」

 

 

 何故か食いついた亜樹子は凄まじい勢いで流星に詰め寄る。

 その謎の迫力に流星もたじたじといった様子だ。

 流星は恨むような目でインガを見たが、インガは不敵な笑みを浮かべるのみだ。

 嬉々とした様子の妻を見て竜は溜息をつきつつも顔は綻び、映司も微笑む。

 戦いの後の安息だった。

 

 

 

 

 

 

 

「と、こんなところだ」

 

 

 一連の竜の話を聞き終わった翔太郎は至って真面目な顔だった。

 最後の結婚の話はいらなくないかとも思ったが、そこを指摘しているような場合の話ではない。

 

 

「何かが起こる前触れだってのか?」

 

「かもしれないな……。そっちの方はどうだったんだ、大ショッカーだったのか?」

 

「ああ、大ショッカーを名乗ってやがった。こっちは何とか倒したぜ、俺達の方にも助っ人がいたしな」

 

 

 電話をしながらちらりと士と咲、舞の方を見やる。

 しかし電話越しの竜にはその助っ人が誰なのか分からない。

 

 

「助っ人? ……もしや、弦太朗という奴か?」

 

「いや、お前がまだアクセルになる前に一緒に戦った事のあるやつだよ。今度紹介してやるさ」

 

 

 ディケイドと共に戦ったのはいずれもアクセル、つまり竜と知り合う前。

 映司や流星はおろか、竜すら知らないのも当然だ。

 それにそれ以来、今日になるまで全く関わっていなかったので話題にも上がらなかった。

 精々、オーズやフォーゼと共に戦っている時にディケイドをちらりと思い出す程度だったのだ。

 結果的に、何があるわけでもないが、翔太郎とフィリップはディケイドの事を誰かに話した事が無かったのだ。

 

 咲と舞に関しては一応、伏せておいた。

 ウザイナーやプリキュアに関しては翔太郎もまだ事情も何も聞いていない。

 どう説明していいか分からないし、本人達もそれを隠したがっていたのを覚えていたのもある。

 

 翔太郎は士達を待たせているのもあって一先ず、この話を切り上げる事にした。

 

 

「ま、何かあったらまた連絡してくれ」

 

「ああ、こっちも所長が「昨日の分を取り戻すんだ」と叫んでいるからな」

 

 

 亜樹子がやたらハイテンションで半ばヒステリックに叫んでいる様がまざまざと想像できて、翔太郎も思わず笑ってしまった。

 

 

「じゃ、切るぜ」

 

「待て。もう1つある」

 

 

 いざ切ろうとしたところで竜がそれを止めた。

 一度耳から離しかかっていたスタッグフォンを再び耳に当てる。

 

 

「なんだよ?」

 

「朔田と火野が分かれる前に言っていたんだが、日本にいる自分の仲間と連絡を取るらしい。

 弦太朗という奴にも連絡がいくだろう。会ったらでいい、情報を共有しておけ」

 

「分かった。……今回の件、でかいヤマになりそうだな」

 

「ああ。気を付けろよ、左」

 

「お前もな」

 

 

 2人はそれぞれスタッグフォンとビートルフォンの電源を切った。

 翔太郎はふと、士に目をやった。

 士は大ショッカーとの縁が深く、正体も知っているようだ。

 話を詳しく聞かないと分からないが、竜達の読み通り、恐らく財団Xとは関係ないだろう。

 1人思案に暮れる翔太郎。

 と、そこに士が近づいてきた。

 咲と舞は舞が撮ったデジカメの写真を1枚1枚見ている。

 恐らく、どれを絵に使うかを決めているのだろう。

 

 

「おい、どうしたさっきから」

 

「……大ショッカーが外国にも出たとよ。ったく、何なのかねぇ」

 

 

 呆れたような物言いの翔太郎。

 

 

「翔太郎。今の俺は、ある組織にいる」

 

 

 対して士は、今の話の流れからはおかしな話を切り出した。

 唐突な話に思わず耳を傾ける翔太郎。

 

 

「世界を守る組織らしい。ゴーバスターズって名前、聞いた事はあるか?」

 

 

 翔太郎はその言葉に「ああ」と頷いた。

 ゴーバスターズはヴァグラスという悪の組織と戦う戦士達。

 最近それはかなり有名だ。

 正体などは公表されないが、ゴーバスターズの存在は認知されてきている。

 風都にもその情報は届いていた。

 

 

「俺はそこで戦ってる」

 

 

 そして士は翔太郎に向き直り、一言。

 

 

「お前も来るか、W」

 

 

 風が通り抜ける中、仮面ライダー達は交錯する。

 そしてそれは、ライダーだけではない。

 あらゆる場所で交わっていくそれぞれの道。

 確実に重なっていくそれは、何処に向かい、どのように変化するのだろうか。




────次回予告────
『スーパーヒーロー作戦CS』!

「私達、プリキュアなんです」
「喋る人形に伝説の戦士。実に興味深い」
「この世界には何でもいるんだな……」
「どうも、ムッシュ・キバ。いえ、バロン・キバの方がよろしいですか?」

これで決まりだ!

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