スーパーヒーロー作戦CS   作:ライフォギア

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第20話 戦いの中、R/怪人と3人と前触れ

 時は照井夫妻がフランス、パリに飛び立った日に遡る。

 飛び立った日は翔太郎達が咲、舞と出会った日の1日前だ。

 飛行機でのフランス行きは13時間程度。

 朝一の飛行機に乗って7時頃で、そこから13時間なので日本時間で言えば20時。

 だが、フランスと日本では7時間の時差があるのでフランスに着いたのは丁度昼過ぎの13時頃だった。

 

 照井夫妻の妻の側、亜樹子は13時間のフライトでたっぷりと睡眠をとっていたためか非常に溌剌としていた。

 竜も寝てはいたが、とても亜樹子の活発さには勝てそうにはないほどだ。

 早々にホテルに向かって荷物を置き、2人は観光を開始した。

 飛行機の乗っている最中に寝ていたせいで2人は食事を取っていなかった。

 

 

「腹が減っては戦はできぬぅ!」

 

 

 何と戦うつもりなのか分からないが、亜樹子の一声でまずは食事をする事に決まった。

 そんなわけで食事できる店を探すため、パリの中を歩く2人。

 

 

「なぁんかぁ。竜君とこうしてるのって、不思議だねぇ」

 

 

 道中、ふと亜樹子が呟いた。

 竜がそれに対して「どういう事だ?」と疑問を投げかける。

 亜樹子は歩きつつも竜の顔を見上げた。

 

 

「だってさぁ、数年前まで竜君は戦ってて、あたしも翔太郎君達と知り合ったばっかりで……」

 

 

 亜樹子の脳内に思い出がフィードバックする。

 

 自分の父親の事務所に乗り込み、翔太郎と会った事。

 大きなガレージを発見し、フィリップと会った事。

 この2人が変身してドーパントなる怪人と戦う戦士である事を知った時の事。

 初めて、竜が変身した時の事。

 

 思い返していけばきりがなかった。

 亜樹子と竜、そして翔太郎とフィリップの思い出の大半はドーパントなどの、悪との戦いが中心の思い出だ。

 だがそれは決して戦いだけの思い出でなく、かけがえのない仲間やそんな彼らと過ごす日常、風都での生活。

 辛い事もあったが、決してそれを不幸と思った事は無かった。

 

 

「俺もだ。また俺に、家族ができるとはな……」

 

 

 感慨深そうに、憂うような笑みで亜樹子に顔を向ける竜。

 彼の両親、そして妹はある時、とあるドーパントにより殺害されている。

 一家惨殺、生き残ったのは竜ただ1人。

 彼の抱える重たい闇。

 その言葉を聞いた亜樹子はハッとした顔になった。

 

 

「ご、ごめんね! そんなつもりじゃ……」

 

 

 慌てて手を振って謝る亜樹子。

 竜にとっては一番思い出したくない記憶であろうに、それを思い出させてしまった事に慌てたのだ。

 だが竜は優しく声をかけた。

 

 

「いや、違う。単純に嬉しいんだ、所長」

 

 

 誰かと一緒にいれる、家族がいる。

 当たり前のようでそれは非常に尊いものである事を竜は誰よりもよく知っている。

 だから今この平和と幸せを噛みしめていた。

 

 『所長』とは、亜樹子が鳴海探偵事務所の所長に、勝手だが就任しているから竜がそう呼び、結婚した今でもそれは続いている。

 傍から聞けば変な呼び方だし、亜樹子も一度それに苦言を呈した事もある。

 だが、今は違う。

 この呼び方は唯一無二、亜樹子にだけの呼び方なのである。

 

 平和、幸せ。

 家族だけでなくこれも尊いものであると竜も亜樹子も知っている。

 だからこそ、壊れやすい事も。

 

 

「ッ!?」

 

 

 竜がある声に反応した。

 悲鳴。

 男性、女性、子供、大人、とにかく大勢の悲鳴がやや遠くから聞こえた。

 亜樹子も何事かと、その声に振り返った。

 

 

「こっからじゃよく見えないけど、まさか……」

 

 

 人が右往左往しているのはかろうじてわかるが、それが何故なのかが分からない。

 イベントなのか、トラブルなのか。

 しかし亜樹子には嫌な予感がしていた。

 実は彼女、結婚式の際にも怪人が登場するというハプニングに見舞われている。

 だからこそ思ってしまうのだ。

 まさか、と。

 

 

「……様子を見てくる」

 

「あ、あたしも行く!」

 

 

 竜と亜樹子は急ぎ、悲鳴の聞こえた方向へ駆け出した。

 

 

 

 

 

 大通りを大勢の人が川の流れのように駆け抜け、何人かは小さな路地を通って複雑な道を通り抜けていく。

 ともかくこの場から一刻も早く離れる。

 恐らくだが、この場にいた人全員の気持ちはそれで一致していただろう。

 それは『怪人』のせいであった。

 

 

「ドーパントだと……!?」

 

 

 駆けつけた竜はその光景を見て驚愕した。

 目の前に『怪人』が存在しており、それが辺りの店を荒らし回っているのだ。

 

 見た目はネコ科の動物、ジャガーに近く、両手は鎌のようになっている。

 その鎌は丁度、ハサミの刃を2つに分けて両手に割り振ったような形だ。

 何より異質なのは、両手が刃のジャガーが人型である事だ。

 

 

「シィィザァァァス……」

 

 

 奇妙な声を上げるハサミのついたネコ科怪人。

 さらに、その横にはもう1体怪人が存在していた。

 姿はワニを人間大まで大きくしたような姿。

 尻尾が長く伸びており、その体表はワニとは違って機械的だ。

 

 

「クワックワッ……!」

 

 

 口を見かけ通りワニのように大きく開けて笑う。

 笑い声からはこの状況を面白がるような感情が見て取れた。

 

 町を荒らし回るなか、2体の怪人は竜と亜樹子に気付く。

 

 

「ほう、まだ逃げていない人間がいたか」

 

 

 ネコ科の怪人はハサミを構え、じわりじわりと近づいてくる。

 竜は右手を亜樹子の前に伸ばし、避難するように促した。

 

 

「所長、隠れていてくれ」

 

 

 亜樹子はその言葉に頷いて少し離れた建物の影に隠れ、顔だけ覗かせる。

 避難した事を確認した竜はバックルを取り出した。

 バイクのハンドルのような物で、中央には何かを装填するようなスロットが空いている。

 それを腰に宛がうと、ベルトとして巻き付いた。

 ベルトの名は『アクセルドライバー』。

 竜にとって、最大の武器。

 

 

「フランスに来てまでこうなるとはな……」

 

 

 そしてエンジンメーターでアルファベットの『A』が描かれている赤いUSBメモリを取り出す。

 その様子を見たネコ科の怪人をワニの怪人は一瞬その身をたじろかせた。

 

 

「きっ、貴様ッ!? ベルトだと……!」

 

 

 ネコ科の怪人がハサミでベルトを指差した。

 その少し後ろにいるワニの怪人も先程までの笑みが消え失せ、一気に警戒するような雰囲気を纏いだした。

 

 竜は赤いUSBメモリ、『アクセルメモリ』を起動させた。

 

 

 ────ACCEL!────

 

「変…………身ッ!」

 

 

 溜めて放った言葉の後、アクセルメモリを中央のスロットに差し込む。

 そして右側のハンドルを外見通りバイクのハンドルのように一度回す。

 

 

 ────ACCEL!────

 

 

 アクセルドライバーによりメモリの力が解放され、竜の体に瞬時に赤い鎧が纏われる。

 フルフェイスヘルメットにアルファベットの『A』を模した鋭利な角が装飾された仮面。

 青い複眼状の青いモノアイが2体の怪人を睨むように光っている。

 

 

「やはり、仮面ライダー……ッ!」

 

 

 ワニの怪人が苦々しげに呟いた。

 ベルトとメモリと同じ名を冠した仮面ライダー、『仮面ライダーアクセル』。

 照井竜の仮面ライダーとしての姿。

 

 

「さあ、振り切るぜ!」

 

 

 自分の中のエンジンを始動させるかのような言葉と共に、アクセルは2体の怪人に走り出した。

 

 

 

 

 

 アクセルには『エンジンブレード』という武器がある。

 それは竜のバイク『ディアブロッサ』に収納されていているのだが、当然フランスにバイクなど持ってきてはいない。

 現在のアクセルは丸腰だ。

 

 だが、徒手空拳でも十分にアクセルは強かった。

 ネコ科の怪人は何度もアクセルにその刃を斬りつけてくるが、アクセルはものともしない。

 時には攻撃をいなし、時には腕で防ぐ事もある。

 腕で防ぐと言っても腕に殆どダメージは無く、火花が散る程度だ。

 赤い鋼鉄の鎧がその身を完全に守っていた。

 勿論、変身している竜自身が腕の最も鎧の分厚い部分に当たるように調整しているのもあるが。

 

 

「チッ、おい『ワニーダ』、貴様も手伝え」

 

 

 ネコ科の怪人が一旦アクセルから離れ、ワニの怪人、『奇械人ワニーダ』の横に並ぶ。

 

 

「どうやらさすがは仮面ライダーらしいな。いいだろう、確実に潰すぞ『ハサミジャガー』」

 

 

 アクセルはワニの怪人がワニーダという名である事、ネコ科の怪人が『ハサミジャガー』という名である事を理解した。

 しかし、一応耳に入れただけで名前などどうでもよかった。

 

 

「貴様等……ドーパントなのか」

 

 

 アクセルの質問にハサミジャガーが答えた。

 

 

「我々は大ショッカー。貴様等仮面ライダーの抹殺を目的としている」

 

 

 両手のハサミ同士を磨ぐようにこすり合わせる。

 確実に獲物を仕留める、という気迫が感じられる。

 ワニーダも口を何度も開閉させている。

 ワニの口同様、あの口と歯には相当な威力がありそうに見えた。

 

 

「数ではこちらが上、仮面ライダー! 死んでもらうぞ!!」

 

 

 ワニーダの勇ましい声と共に2体の怪人が同時にアクセルに突進する。

 迎撃の構えを見せるアクセル。

 が、次の瞬間、火花が散った。

 それを起こしたのはアクセルでもハサミジャガーでもワニーダでもない。

 同時に、この場に接近するエンジン音を3者の耳が捉えた。

 

 

「何……!?」

 

 

 混乱した状況下の中で逃げていないのは自分と亜樹子だけだと思っていたアクセルはバイクを見て驚くような声を上げた。

 

 接近するバイクの形状はやや特殊なものだった。

 フロントは銀の球状の装飾がされており、中央には青い球体がはめ込まれている。

 バイクから青いビームが放たれ、それらは2体の怪人の足元に着弾した。

 どうやら先程の火花もあのバイクの仕業らしい。

 

 バイクはアクセルの横で停止し、運転手がバイクから降り、ヘルメットを脱いだ。

 バイクに乗っていた男はアクセルに向かい合う。

 アクセルの目にその男はまだ年端もいかぬ青年に見えた。

 精々高校生か、大学生程度の年齢に見える。

 

 

「仮面ライダーアクセル、だな?」

 

 

 正体不明の人物からの唐突な質問に、アクセルは思わず返した。

 

 

「俺に質問をするな」

 

 

 竜の口癖のようなものだ。

 その言葉に青年はフッと笑い、懐から何かを取り出した。

 それはバックル。

 中央にはまるで天球儀のような物が大きく取り付けられている。

 青年がそれを自分の腰に宛がうと、バックルはベルトとなった。

 まるで先程のアクセルドライバーのように。

 

 

「お前……!?」

 

 

 様子を見ていたアクセルが再び驚愕した。

 ベルトを巻くその姿は、正しく先程までの自分。

 それが意味するところは、1つ。

 

 青年はベルトの上にあるトリガーを右にスライドさせた。

 

 

 ────METEOR! Ready?────

 

 

 電子音声と共に音楽が流れ出す。

 青年は右手を左斜め上に、右手を肘から曲げて水平に向けた。

 そして両腕を一周させて同じ態勢に戻ると同時に、叫ぶ。

 

 

「変身!」

 

 

 掛け声と共に右手でベルトの右側のレバーを勢いよく下に下げ、その勢いのまま右手を斜め下に振り下ろす。

 左手も同時に勢いよく左側に水平に伸ばした。

 すると、上空から眩い青い光が青年の体に降り注いだ。

 アクセルも2体の怪人も一瞬目が眩む。

 

 光が止めば、そこには青年の姿は無く、代わりに別のシルエットが存在していた。

 頭部には青い流星のような装飾、体全体は黒く、白い点がところどころに輝くその様はまるで星空。

 右肩のアーマーからベルトに向かう青く太い線はベルトの球体も相まって流星のようだと、アクセルは感じた。

 そして右腕に3つのスイッチがある装置を装備している。

 

 

「2人目だとォ……!?」

 

 

 ワニーダの声に反応し、青い仮面ライダーは1歩前に出て、自らを名乗る。

 

 

「『仮面ライダーメテオ』」

 

 

 そして右手で鼻をこするようなポーズと共に、メテオが常に相手に投げかける言葉を口にした。

 

 

「お前の運命(さだめ)は、俺が決める」

 

 

 挑発ともとれる言葉の後、アクセルはメテオの横に並んだ。

 メテオはちらりとアクセルを見やった後、2体の怪人にすぐに目を向けた。

 

 

「お前は……?」

 

「インターポールだ、訓練生だがな。……味方だ、今はこれで納得しろ」

 

「……いいだろう」

 

 

 メテオは左腕を斜め上に、右腕を斜め下に向け、まるで円を描く様な独特の構えを取る。

 アクセルも素手ながらも構えた。

 2体の怪人は先程のメテオの言葉を挑発として受け取ったようで、既に臨戦態勢を超え、2人の仮面ライダーに向かってきていた。

 

 

「ホォォ……ワチャァ!!」

 

 

 怪人に合わせるようにメテオも走り、ワニーダに接近しながら身を屈める。

 そしてまるでカンフー映画のようなこれまた独特な掛け声と共に助走をつけた拳をワニーダの懐に打ち込んだ。

 大きな口とワニのような姿を見て、噛まれたらマズイと一瞬で判断したためだ。

 

 

「ク、エッ……!」

 

 

 機械的な体にもメテオの拳は響いたようで呻き声を上げるワニーダ。

 メテオは一旦ワニーダから離れた。

 その大きな口は、全力で開ければ自分の懐にいる敵まで対象内な程大きい。

 攻めに焦って体の一部どころか体全体を噛まれれば、さすがにひとたまりもない。

 

 一方、メテオがワニーダと交戦を始めた為、必然的にアクセルはハサミジャガーの相手をする事になった。

 しかし先程と同様、ハサミジャガーの攻撃を全て防御している。

 

 

「効かん!!」

 

「ならばァ!!」

 

 

 ハサミジャガーはハサミで斬りかかる速度を上げた。

 その速度はいなす事ができず、アクセルも防御する事を強いられる。

 そして、ハサミを防ぐ事に気を取られていたアクセルの腹部にハサミジャガーは一発蹴りを入れた。

 

 

「ぐっ!?」

 

 

 強く押し込まれた蹴りはアクセルを怯ませ、その隙をついたハサミジャガーの下からの斬撃がアクセルの胸部装甲に火花を散らせた。

 アクセルは後方に吹き飛び、地面に激突。

 すぐさま立ち上がり体勢を立て直すが、ハサミジャガーは余裕の表情を浮かべていた。

 

 

「どうした、効かないんじゃないのか?」

 

 

 舌打ちをするアクセルだが、まだ体力は余裕だ。

 とはいえ防戦一方の状態なのも事実だ。

 一方のメテオも最初の一撃以降はやや苦戦気味のようであった。

 

 

「……ッ!」

 

「クエェェッ!!」

 

 

 雄叫びと共にワニーダはその身を素早く半回転させた。

 ワニーダの長い尻尾は素早い回転と共に凶暴に振られ、メテオの体を捉えた。

 脇腹の辺りに尻尾が叩きつけられる直前、メテオは腕で何とかガードをするが、それでもその衝撃にたじろいでしまった。

 

 

「クエックエッ! どうした仮面ライダーァ!!」

 

 

 笑うワニーダを苦々しく睨みながらメテオは一旦下がる。

 アクセルの吹き飛んだ位置の近くでメテオは止まり、2人は横に並んだ。

 

 

「フン、もう勝った気か……メテオだったな、お前もまだやれるな?」

 

「当然だ! 軟な鍛え方をしているつもりはない!」

 

 

 お互いに攻撃を喰らってはいるが、戦いは始まったばかりだ。

 2人とも1年以上戦い続けてきた仮面ライダー。

 そう簡単にやられはしない。

 ハサミジャガーとワニーダがゆっくりと近づいてくる。

 2人とも迎え撃つために再び構えを取った、その時。

 何者かの声が突然、横槍を入れた。

 

 

「『この世界』の仮面ライダー……」

 

 

 その声に怪人2体は歩みを止め、2人の仮面ライダーもバッと勢いよく声のする方向を振り向いた。

 遠くから歩いてくる人物が1人。

 特徴的なのは獣の皮を被ったような服装と、頭に着いたマンモスの頭部の骨のような被り物。

 そして手に持った骨でできた槍。

 一言で形容するなら、その姿は原始的な風貌だった。

 

 

「お前達の手並み、見せてもらう」

 

 

 直後、原始的な何者かは槍をその場に突き刺し、体中に力を込めた。

 瞬間、その姿が変わっていく。

 象というよりはマンモスのような大きな耳と大きな鼻、そして鼻の辺りから伸びる小さな2本の牙と、頭部から伸びる大きな2本の牙。

 普通の形状をした右手とは対照的に、左手はマンモスの足のように巨大で丸い。

 2人の仮面ライダーはその姿を見て、考えるまでもなく悟った。

 怪人であると。

 

 原始的な何者かがマンモスの怪人に姿を変えたのを見て、ハサミジャガーとワニーダは狼狽えていた。

 ハサミジャガーがマンモスの怪人に恐る恐る近づく。

 

 

「キ、『キバ男爵』! 何故自ら……」

 

 

 キバ男爵と呼ばれたマンモス怪人。

 ワニーダもハサミジャガーと同様の事を思っているようで、戸惑っているようだった。

 

 

「この世界の仮面ライダーの力……この目で見る事にした」

 

「し、しかしキバ男爵自ら……」

 

「くどいぞハサミジャガー」

 

 

 キバ男爵とハサミジャガーのやり取りで2人の仮面ライダーは、キバ男爵が2体の怪人よりも高位に位置していると予想した。

 彼らがかつて戦ってきた組織にも上下関係があった。

 所謂『幹部』というやつだ。

 キバ男爵は恐らくそれ、もしくはそれに近い立場なのだろう。

 キバ男爵の言葉にハサミジャガーは頭を下げ、さっとその場を離れた。

 そしてキバ男爵は、アクセルとメテオに目を向ける。

 

 

「このキバ男爵が真の姿、『吸血マンモス』の力……」

 

 

 キバ男爵の変身したマンモスの怪人の姿。

 それが吸血マンモス。

 吸血マンモスは自身の名を宣言した後、走り出すような姿勢を取った。

 

 

「見せてやろう」

 

 

 言葉と同時に猛烈な勢いで突進。

 敵に向かって頭の牙を突き出して突進する様は、正しく暴れだしたマンモスだ。

 急な攻撃、そして吸血マンモスの一直線に走るそのスピードにメテオとアクセルは反応が一瞬遅れてしまった。

 吸血マンモスの頭の牙が2人を捉え、2人の間をその勢いのまま通り抜ける。

 牙による一撃を喰らった2人は火花を散らして大きく空中に飛ばされた。

 

 アクセルもメテオも宙を舞い、着地する事も出来ず地面に倒れ込む。

 体を切り裂かれたような痛みに耐えながらもゆっくりと立ち上がり、何とか立て直す2人だが、2人は直感した。

 この怪人は並ではない、と。

 

 ワニーダはアクセルとメテオの様子を見て高笑いをしながら吸血マンモスの横に並んだ。

 

 

「さすがは吸血マンモス殿。仮面ライダーなど……!!」

 

 

 そんなワニーダに振り向く事も無く、吸血マンモスは冷徹に2人の仮面ライダーを見つめていた。

 

 

「どうした仮面ライダー。そんなものか」

 

 

 余裕を感じさせるわけでも、油断しているわけでもない。

 ただ威圧を感じるそれは、上に立つ者の風格を感じさせた。

 しかしそんな吸血マンモスに2人は敢然と立ち塞がった。

 

 

「俺に質問をするな……ッ!!」

 

 

 アクセルは強く言い放った言葉と共に3人の怪人を睨む。

 当然、横にいるメテオもだ。

 2人の仮面ライダーは抵抗の意思を全く消していない。

 ハサミジャガーとワニーダ、そして吸血マンモスと対峙して、まだ一撃貰っただけだ。

 ギブアップにはあまりにも早いし、する気もない。

 

 仮面ライダーが簡単に根を上げる筈がない。

 だが、その反応は吸血マンモスにとっては想定内の事だ。

 

 

「成程、仮面ライダーだけはある。ならば……!」

 

 

 吸血マンモスは自身がキバ男爵から変化した時に地面に突き刺した槍を再び手に取った。

 得物を振るう吸血マンモスに2人の仮面ライダーは警戒を強める。

 さらにその後ろではハサミジャガーが両手の刃をこすり合わせ、ワニーダが口を大きく開閉させている。

 吸血マンモスという幹部級の怪人、それに人数的にも状況は悪かった。

 さらに、状況はますます悪くなる。

 

 

「……アクセル!」

 

「ッ!?」

 

 

 メテオが気付いた。

 辺りの建物であった瓦礫の中、僅かに聞こえる鳴き声。

 人間の少女の鳴き声だ。

 声のする方向に目を凝らしてみれば、瓦礫の中で蹲ってフランス人の少女が泣きじゃくっていた。

 

 さらに少女の近くには男性の上半身が見える。

 下半身は瓦礫に巻き込まれ身動きが取れない状態、さらに男は意識を失っているようだった。

 いや、もしかしたら既に。

 少女の父親であろうか、身を挺して少女を守ったのだろうか。

 怪人達も少女を確認したようで、ハサミジャガーは冷徹に告げる。

 

 

「ほう、生き残りがいたか」

 

 

 それだけ口にしてその刃を少女に向けながらゆっくりと近づいていく。

 最悪の可能性がアクセルの脳裏を過る。

 

 

「何をする気だ!?」

 

「この場にいた以上人間は殺す。例外などないわ」

 

 

 笑っていた。

 ハサミジャガーは少女を殺すと宣言した上で、心底楽しそうな笑い声を上げていたのだ。

 父親が目の前で死にかかっている少女の心はどれ程辛いだろう。

 それをして見せたのは、目の前の怪人達だ。

 あまつさえ少女を殺そうとするハサミジャガーに、アクセルのエンジンが点火した。

 

 

「させるかッ!!」

 

 

 なりふり構わず向かって行くアクセル。

 人を助ける為にメテオもそれに続いた。

 しかし、吸血マンモスとワニーダが行く手を阻む。

 構わずに目の前の怪人を殴りつけようとするアクセルとメテオ。

 走りながらの勢いのついた拳だった。

 だが、その攻撃は届かない。

 

 

「ヌゥ……!!」

 

 

 吸血マンモスはマンモスの足のような屈強な左腕でアクセルの拳を、長い鼻を絡ませてメテオの拳を止めて見せた。

 そして鼻を大きく振るってメテオを投げ飛ばし、左腕はお返しと言わんばかりにアクセルに突き出す。

 突き出された吸血マンモスの左腕はマンモスに踏まれたような重みで、アクセルを吹き飛ばした。

 

 

「クソッ……!」

 

 

 投げ飛ばされたメテオは舌打ちしながらも再び走り出す構えを取った。

 先程のダメージと合わさって痛みは増すが、命がかかっている以上気にしてはいられない。

 しかし、その間にハサミジャガーは少女の元に辿り着いてしまった。

 

 

「しまっ……!!」

 

 

 言いつつ、メテオは全力で駆けだした。

 勿論アクセルも痛みに耐えて走る。

 2人とも手を伸ばす、しかしその距離は本当の距離よりずっと遠く思えた。

 そして、ハサミジャガーの刃は無情にも少女に向かって突き立てられ────。

 

 

「ヌウッ!!?」

 

 

 なかった。

 

 突如、頭部に走った衝撃でハサミジャガーはたじろぐ。

 衝撃の正体をすぐに確認するハサミジャガー。

 その目には青年が映った。

 ハサミジャガーは目の前にいる人間が、自分の頭部に跳び蹴りを放ったのだと理解する。

 一方の青年は少女の方に目を向け、優しく微笑んだ。

 

 

「大丈夫かい?」

 

 

 少女は泣きながら小さく、何度も同じ言葉を呟いていた。

 『papa』、日本語でも殆ど同じ意味だ。

 少女は必死に『お父さん』の横で呼びかけていたのだ。

 青年はすぐにそれを理解した。

 そして青年はハサミジャガーを強く睨みつけた。

 

 

(絶対に、助けるッ!)

 

 

 心で叫んだ決意の元、青年────火野映司はバックル、『オーズドライバー』を取り出した。

 腰に宛がい、ベルトとなったオーズドライバー。

 右腰には手で持てる窪みがある丸い機械が取り付けられており、バックル部分にはメダルを3枚セットできるようなスロットがある。

 映司はメダル、勿論只のメダルではなく、力を持った特殊なメダル、『コアメダル』を3枚取り出した。

 赤い『タカメダル』、黄色い『トラメダル』、緑色の『バッタメダル』。

 それぞれ名前にちなんだ動物、昆虫の絵が彫られたメダルだ。

 まずはタカメダルとバッタメダルをそれぞれ右と左にセット、そして残ったトラメダルを真ん中のスロットにセットした。

 右手で右腰に付いている機械、『オースキャナー』を持ち、左手でバックルを傾ける。

 そして傾けたバックルに沿ってオースキャナーを滑らせつつ、空いた左手を右手と交差させるように構えた。

 そして、叫ぶ。己を変身させる、戦いの前台詞を。

 

 

「変身ッ!!」

 

 

 直後、オースキャナーが読み取ったメダルの名を宣言する。

 

 

 ────タカ! トラ! バッタ!────

 

 

 同時に、映司の周囲をメダル型のエネルギーが周回し始めた。

 映司はオースキャナーを持つ右手を胸に持ってきて、左手を腰の辺りで構える。

 

 

 ────タ・ト・バ! タトバ タ・ト・バ!────

 

 

 流れ出したのは不思議な歌。

 さらに周回するメダル型のエネルギーが映司の目の前で止まった。

 赤いエネルギー、黄色いエネルギー、緑のエネルギー。

 それらは1つに纏まり、1つの大きな円型のエネルギーとなり、映司の胸に張り付いた。

 

 同時に映司の体は変わった。

 頭は赤く、上半身は黄色く、下半身は緑色。

 胸に付いた円形のプレートにはメダルに彫られたものと同じようにタカ、トラ、バッタの意匠が刻まれている。

 3つのメダルで様々な能力を使いこなす、上下3色の『仮面ライダー』。

 

 

「あいつは……!」

 

 

 アクセルにはそのライダーに見覚えがあった。

 話した事はないし、直接共闘した事も無い。

 だが、Wが知り合いで時折共闘しているし、自分と亜樹子の結婚式の時に起きた事件でも見かけた事がある。

 そしてメテオもその仮面ライダーの名を知っていた。

 メダルの仮面ライダー、その名は。

 

 

「『仮面ライダーオーズ』……!」




────次回予告────
『スーパーヒーロー作戦CS』!

「仮面ライダー……侮れないか」
「やっぱりライダーは助け合いでしょ!」
「朔田流星、弦太朗の友達と言えば伝わるか?」
「何かが起こる前触れだってのか?」
「お前も来るか、W」

これで決まりだ!





────ここから後書きになります────
前回と今回の題名である『R』の意味ですが。
R……Rider(ライダー)、Ryu(竜)、Ryusei(流星)、reunion(再会)
と言ったところでしょうか。

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