スーパーヒーロー作戦CS   作:ライフォギア

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第19話 戦いの中、R/精霊の光

 カレハーンの発する怒気は戦闘開始の合図となった。

 怒気などまるで感じていないかのように変身した少女達はウザイナーめがけて跳ぶ。

 跳ぶ瞬間に2人の足元で何かが強く光った。

 ブルームは黄色く、イーグレットは白い色の光。

 これは2人が使う『精霊の力』が可視化したものだ。

 この光こそが2人のエネルギー源であり、戦うための力でもある。

 

 跳んだ2人はブルームがウザイナーの右腕に掌底を、イーグレットはかかと落としをウザイナーの左腕に決めた。

 打撃の瞬間にも光は瞬いた。

 精霊の力は凄まじく、2人が攻撃を加えた箇所はまるでゴムのように曲がった。

 相手の体全体が巨木のようであるにも関わらずに。

 

 

「ウザ……イッナァァ~……!」

 

 

 2人の手加減無しの攻撃が効き、ウザイナーの腕から一瞬、力が抜けた。

 Wとディケイドがその隙を見逃すはずもなく、2人は痛む体ながらも手の中から素早く跳び上がる。

 

 

「助かったぜ……」

 

 

 勢いのよい跳び上がりからの重力落下中に翔太郎がホッと息をつきながら呟いた。

 落ちつつ、Wとディケイドは地上のブルームとイーグレットを見つめる。

 突如として変身した咲と舞。

 助けは嬉しいが彼女達は何者で、あの敵達と何か関係があるのだろうか。

 そう思わざるを得なかった。

 

 ディケイドは響や翼という存在がいるのである程度、何らかの使命を帯びた人間が変身しているであろうという事は理解できた。

 が、ディケイドの知るシンフォギアとは明らかに雰囲気が違っている。

 プリキュアと名乗る2人はシンフォギアとは一切関係がない別の何か。

 ディケイドの、士の直感がそう告げていた。

 

 無事に着地したWとディケイドにブルームとイーグレットが心配そうな顔で近づいていく。

 敵をちらりと見つつ、ディケイドは2人に声を向けた。

 

 

「お前ら、変身できるとはな」

 

「隠しててすいません!事情があって……」

 

「……何処も訳ありってわけか」

 

 

 ブルームの言葉にシンフォギア装者を思い出した。

 彼女達も機密の為に変身できる事を外部の人間に隠している。

 恐らく、プリキュアもそういう事情があるのだろうという事は簡単に想像がついた。

 そしてそれは、同じく風都市民に姿を隠すWにも痛いほど気持ちが分かるようだ。

 だからこそW、翔太郎は深く詮索せず、早々に敵に体を向けた。

 

 

「話は後だ。あの木のバケモンを何とかしないとな」

 

 

 4人が一斉にウザイナーに目線を集中させた。

 先程の痛みが引いたのか、ウザイナーも4人を睨むように見ていた。

 カレハーンはウザイナーの力に自信があるのか、空中で不敵な笑みを浮かべるのみだ。

 それに忘れてはいけない、セミミンガの存在。

 

 翔太郎は考えた。

 セミミンガは怪人で、おまけに仮面ライダーと敵対する組織だという。

 となれば、セミミンガと戦うべきは仮面ライダーである。

 という事はカレハーンとウザイナーは?

 奴らにも対応する敵、つまりこちらから見た『味方』がいる筈である。

 今この状況で該当するのはプリキュアの2人。

 

 

「……なぁ、もしかして、君達って浄化ってやつができたりすんのか?」

 

 

 恐る恐る自分の仮定を2人に訪ねた。

 すると返って来たのは。

 

 

「はい! 私とイーグレットなら!」

 

「ああいう敵はいつも、そうやってやっつけてるんです」

 

 

 いつも、という言葉からは何度も戦ってきたという事実が垣間見える。

 全く普通の少女に見えたこの2人が。

 そこが一番気になる翔太郎だが、今大事なのはそこではない。

 大事なのは、翔太郎の予想が当たった事だ。

 

 

『フム……なら、勝機もある』

 

 

 そう、先程まで打開策が無かったが、今ならば。

 

 フィリップの声にブルームとイーグレットは再び驚いたような様子を見せた。

 だが、それどころではないので翔太郎は「後で説明すっから」とその場をやり過ごす。

 

 そうこう言っているうちにウザイナーとセミミンガが4人に接近してきた。

 ウザイナーは再び手を伸ばし、4人を捉えようと。

 セミミンガは怪人特有の仮面ライダーに匹敵するかもしれない素早さで。

 しかし、4人の元にウザイナーとセミミンガが辿り着く事は出来なかった。

 

 

「「ハアッ!!」」

 

 

 ブルームとイーグレットが両手を前に突き出した。

 跳びあがる時や攻撃の時にも発生した光が、今度は2人の全身から発せられている。

 さらに光は大きくなり、手の平を中心に球状に広がっていく。

 黄色と白の球状の光はプリキュアだけでなくWとディケイドをも包み込んでいる。

 驚くべき事に、ウザイナーとセミミンガはこの光と物理的にぶつかり、押し返されるように吹き飛んだ。

 広がっている光は広範囲に及ぶバリアなのだ

 

 ウザイナーとセミミンガが吹き飛ぶと同時に2人はバリアを解除し、ウザイナーに向かって跳んだ。

 その後を追うようにWとディケイドも仮面ライダーの俊足を用い、敵に向かって行く。

 

 

「助けられっぱなしじゃ、仮面ライダーの名が廃るってもんだぜ」

 

『だったら僕達に出来るのは、ウザイナーなる敵を倒すサポートだ。門矢士、君も行けるね?』

 

「フン、当たり前だ」

 

 

 走りつつの短い会話だった。

 ブルームとイーグレットが戦えるとはいえ、まだ中学生なのは変わらない。

 例えそれが守る側の人間であろうと、彼女達を守るのが仮面ライダーの役目。

 その意志を胸に刻みながら、Wとディケイドは駆ける。

 

 

 

 

 

 ブルームとイーグレットは跳び回りウザイナーを翻弄する。

 その光景は最早跳ぶというよりも飛ぶに近いかもしれない。

 実際、2人は驚異的な跳躍能力とある程度の滞空時間がある為空中戦が得意だ。

 時折隙を見ては空中から重力落下の勢いを加えた一撃。

 ウザイナーは忙しなく動く2人を全く捉えきれずにいる

 苦戦する様子を見たセミミンガは軽く舌打ちをした。

 仮面ライダーを捉えた時は中々やると思ったが、乱入者にはものの見事に翻弄されてしまっている。

 

 

「ミィーン!」

 

 

 それを見かねてか、セミミンガは再び空気を振動させた。

 音波は衝撃となり、辺り一帯に広がっていく。

 音波による攻撃は当然目に見えない。

 ブルームもイーグレットも避けようがなかった。

 

 

「「きゃあ!?」」

 

 

 女の子らしい悲鳴と共に2人は音波攻撃を浴びてしまった。

 攻撃が当たった瞬間にも精霊の力は発動する。

 それは自動的なもので2人が自分の意思で展開するものよりは少し弱いが、バリアとなって2人を守るのだ。

 とはいえ攻撃の威力は中々の物で、2人は明確にダメージを受けていた。

 

 

「ブルーム。今の、さっき翔太郎さん達が受けた……」

 

「見えない攻撃……」

 

 

 2人にその攻撃が何らかの衝撃波であり、セミミンガが鳴いた時に放たれる事は分かった。

 が、分かっていても見えないのだから避けようがない。

 しかしこのままセミミンガを放っておけばウザイナーの相手どころじゃない。

 

 

「そのセミ野郎は任せな」

 

 

 ブルームの肩に手が乗せられると同時に声がした。

 振り向いてみれば、そこには綺麗に2色に分かれた戦士、W。

 それに続くようにゆっくりと後ろからディケイドも歩いてきている。

 先程までウザイナーに握りつぶされかけ、随分とダメージを負っていたはずだが。

 

 

「だ、大丈夫なんですか?」

 

「何年も仮面ライダーやってるからな。あれぐらいじゃ倒れねぇさ」

 

 

 余裕綽々の声ではあるが、確かに体に痛みは残っている。

 だが、今までの戦いの中で辛い事は何度でもあった。

 それに比べれば、という事。

 翔太郎もフィリップも士も、長い戦いの中で経験を積んでいる。

 それにうら若き中学生を戦わせて自分達は見ているだけでは仮面ライダーとしての示しがつかないし、何よりも彼らの気持ちがそれを許さない。

 

 

『ディケイド、君は彼女達と共に向こうを頼む』

 

 

 フィリップの声はウザイナーを指し示している。

 その言葉に疑問を抱くディケイド。

 

 

「どういう意味だ」

 

『あのカレハーンとかいうのが加勢してこないとも限らないからね。

 どうやらセミミンガとやらの仲間ではないから、加勢してくるとしたら向こうだろう。それに……』

 

 

 フィリップ、引いてはWはセミミンガを見やり、強く言い切った。

 

 

『奴の相手は僕達だけで十分……だろう? 翔太郎』

 

「へっ、当たり前さフィリップ」

 

 

 その余裕が何処から来るかと尋ねられれば、それは経験だ。

 経験で培われてきた戦闘センスはWやディケイドにはあってもプリキュア2人には無い。

 それに先程の苦戦の理由はほぼウザイナーの特性によるものだ。

 逆に言えばウザイナーを倒せる、あるいは横槍が入らない状態でセミミンガと戦えれば勝機は十分すぎるほどにある。

 慢心でも油断でもない確信。

 しかしその言葉が余程気に障ったのか、セミミンガは激昂していた。

 表情があるとすれば憤怒と形容するべきだろう。

 

 

「貴様ァ……舐めた事を言ってくれるなッ!!」

 

 

 強い口調と殺気にもWの余裕の態度は崩れない。

 Wは他の3人よりも1歩前に出て、トリガーマグナムを構えて戦闘態勢をとった。

 

 

「早く行きな」

 

 

 翔太郎の言葉、その余裕に戸惑いながらもプリキュアの2人は頷き、ウザイナーに向かう。

 一方でディケイドは特に戸惑う様子もない。

 ディケイド、士もまた、幾重もの戦いを経験してきていた。

 それに同じ仮面ライダーだからだろうか、Wにはある程度の信頼を置いている。

 故に、ディケイドはWの心配をまるでしていなかった。

 ディケイドはWに何も言うことなくウザイナーと交戦状態に入る。

 それを見送ったWもまた、セミミンガと相対した。

 

 

「覚悟してもらうぜ、セミ男」

 

 

 Wは左手の人差指と親指を伸ばし、それ以外の指を軽く曲げた。

 そしてその左手をセミミンガに向け、指を指しながら翔太郎とフィリップは口にした。

 風都を泣かせる悪党に、2人が永遠に投げかけ続ける言葉を。

 

 

「『さぁ、お前の罪を数えろ!』」

 

 

 Wが戦う理由は2つある。

 1つは勿論、みんなを守る為、自由と平和の為だ。

 そしてもう1つは、贖罪。

 Wの2人はある『罪』を背負っている。

 2人で1人の仮面ライダーは戦い続け、その罪を償い続ける。

 この言葉も、自分達の罪を数えたからこその問いかけだ。

 

 

「知った事かァ!!」

 

 

 問いかけに答える気など毛頭ないセミミンガの急速な突進と共に繰り出された拳を、Wはその場で落ち着いて受け止める。

 ヒートトリガー、遠距離タイプの姿であるWにはやや不利な接近戦に持ち込もうという魂胆だ。

 トリガーマグナムで接射するという手もあるにはあるが、ヒートトリガーの強すぎる火力でそれを行うとW本人もただでは済まない。

 

 

「だったら……!」

 

 

 攻撃を受け止め、いなしつつ、Wは左側のメモリを再びジョーカーメモリに差し替えた。

 

 

 ────HEAT! JOKER!────

 

 

 青い左半身が再び黒く染まる。

 Wの戦闘スタイルは主に左半身のメモリで決まる。

 対して右半身のメモリはその戦闘スタイルにヒートなら炎、サイクロンなら風というように属性を加えるのだ。

 ジョーカーはその身1つ、素手で戦う格闘戦タイプ。

 そしてヒートは炎を与える。

 これを足した『ヒートジョーカー』は拳や蹴りの1つ1つに炎の力を加える姿だ。

 

 

「うぉらぁ!!」

 

 

 セミミンガの攻撃にカウンターするようにWが右腕を伸ばす。

 伸ばした腕の先、Wの燃え盛る拳はセミミンガの顔面を捉えた。

 炎と顔面への一撃はセミミンガにも怯みを与えた。

 期を逃さず、Wは右拳を振るい続ける。

 1発、2発、3発と、炎の拳を顔面や胴体に叩きつけていく。

 そして数発決めた後、Wは仰け反るセミミンガの下から拳を空に向かって思い切り振り上げた。

 つまりはアッパーであるその一撃はセミミンガの体を宙に舞わせた。

 

 

「グギャアァァ!!?」

 

 

 焼ける痛みと拳の衝撃が抜けきらないまま、空中に浮いたセミミンガは重力で地面に叩きつけられる。

 Wは左手をスナップさせた。

 

 

「へっ、だから言ったろ?」

 

 

 これでもWは先程のウザイナーにより手負いだ。

 セミミンガ自身も煽られて冷静でなかったという点もあるかもしれない。

 だが、1対1で戦えるなら能力が多彩で対怪人の経験も豊富にあるWに分がある。

 

 

「グゥ……おのれぇ、仮面ライダー……」

 

 

 地面から苦しそうに立ち上がるセミミンガ。

 茶色い体表には幾つか黒ずんだ焦げ目がついていた。

 ややふらついているその姿は、確かなダメージがあった事を意味していた。

 

 

「これで決まりだ……!」

 

 

 Wはジョーカーメモリを引き抜き、ベルトの右腰にある『マキシマムスロット』にジョーカーメモリを装填。

 その後、マキシマムスロットのボタンを叩き、メモリの力を解放した。

 

 

 ────JOKER! MAXIMUM DRIVE!────

 

 

 マキシマムドライブ。

 つまりトリガーと同じく必殺の態勢である事を電子音声は告げた。

 Wの赤い右拳に赤い炎が、黒い左拳に紫の炎が宿る。

 

 

「まぁだ……!!」

 

 

 負けじとセミミンガも再び音波攻撃を放った。

 不可視の攻撃、当然Wには攻撃が見えていない。

 だが、自分に向けて放たれた事は分かっている。

 

 

「ハアッ!!」

 

 

 Wは両手の炎を地面に向かって噴射し、ロケットのように跳び上がった。

 音波攻撃はWに向かって放たれている。

 で、あるならば、それを跳ぶなりして避ければいい。

 不可視の攻撃ではあるが、セミミンガの攻撃にタイミングを合わせれば避ける事は可能なのだ。

 

 Wは上空で両拳に力を込めた。

 さらに、こともあろうにWの体が中央の銀色の線に沿って真っ二つに割れた。

 ジョーカーによるマキシマムドライブは格闘攻撃による一撃。

 そしてその技はWの体を真っ二つに割って波状攻撃を仕掛ける、というものだ。

 息を合わせるために、再び翔太郎とフィリップは技の名を口走った。

 

 

「「『ジョーカーグレネイド』!!」」

 

 

 Wの左側と右側が時間差でセミミンガに向かって下降し、交互に殴りつける。

 力と炎の籠った拳を連続で受けたセミミンガは大きく吹き飛び、再び地面に体を打ち付ける形になった。

 セミミンガは最後の力を使ってよろよろと立ち上がった。

 

 

「こ、これで終わったと思うな仮面ライダーァ……!

 大ショッカーに…栄光あれぇぇ……!!」

 

 

 それが、セミミンガの最期の言葉だった。

 断末魔と共にセミミンガは後ろに倒れ、爆散。

 後に残るは爆発とジョーカーグレネイドで発生した炎だけだ。

 仮面ライダーの必殺の一撃は、ウザイナーのような特殊な事例ならともかく怪人ならば受け切る事ができる者は少ない。

 Wの右半身と左半身は元に戻っており、セミミンガの爆散を見送った。

 そして勝利の余韻に浸る事も無くウザイナーに目を向けた。

 見れば、ウザイナーは身動きが取れず、プリキュア2人が何らかの技を放とうとしている真っ最中だった。

 

 

「決着つきそうだな」

 

『プリキュアの力……興味深いねぇ』

 

 

 

 

 

 

 

 ブルームとイーグレットの力は見た目によらず非常に強力だった。

 ブルームの掌底は確実にウザイナーを怯ませ、イーグレットの足技は相手の攻撃を払い、大きなダメージを与えている。

 そして2人が使用するバリアもまた、ウザイナーの攻撃を受け止めるのに一役買っていた。

 一方のディケイドもライドブッカーをソードモードにしてウザイナーに斬りかかる。

 鞭のように伸びる木を何度も切り裂いているが、しばらくすると再生されてしまう。

 

 ディケイドの力は世界のルールを壊す破壊の力。

 ノイズの位相差障壁ですら、彼の前では無力だ。

 だが、浄化の力ではないためか、ウザイナーは攻撃しても再生してしまう。

 ダメージによる疲労は与えているようではあるが、ディケイドでは止めが刺せない。

 いや、刺せるには刺せるかもしれないが、それには『一撃』という条件が付く。

 そうでないとウザイナーは再生してしまう。

 響鬼の世界で戦った魔化魍も再生できる種類の怪物ではあったが、一撃で仕留めていたからこそ、清めの音が必要なかったのだ。

 不死者ですら破壊した事のあるディケイドだが、彼にとっては不死の能力よりも再生能力の方が余程厄介だった。

 

 しかし、今回はブルームとイーグレットがいる。

 だったら自分にできる事はサポートに徹する事。

 

 

「俺が脇に回るとはな……!」

 

 

 ディケイドは一枚カードを取り出し、ベルトを操作してそれを使用した。

 

 

 ────KAMEN RIDE……AGITO!────

 

 

 ディケイドは自分の姿を金色の二本角の戦士、『仮面ライダーアギト』へと変えた。

 戦いの最中、ブルームとイーグレット、そして上空で見ていたカレハーンもその姿に驚いた。

 唯一変わっていない腰のディケイドライバーだけが、彼がディケイドである事を示している。

 アギトとなった士にブルームは恐る恐る近づいた。

 

 

「つ、士さん……ですよね? 何だか、全然違う格好ですけど……」

 

「言ってる場合か。……来るぞ!」

 

 

 ディケイドアギトの言葉と共にウザイナーは巨木の腕を振り下ろした。

 ブルームとイーグレットは跳び上がり、ディケイドアギトは横に転がってその攻撃を回避する。

 さらに、ディケイドはもう一枚カードを発動させた。

 

 

 ────FORM RIDE……AGITO!STORM!────

 

 

 ディケイドアギトの姿が青く染まった。

 対称だった両腕も、左腕だけが青く染まり、左肩がやや盛り上がっている。

 さらにその手には薙刀のような武器、『ストームハルバード』が握られていた。

 『アギト・ストームフォーム』、風の力を宿した姿だ。

 

 ディケイドアギトはストームハルバードを風車のように全力で回す。

 風が巻き起こる。

 アギト・ストームフォームはストームハルバードを回転させる事で強風を発生させる事ができる。

 その風の威力は怪人ですら怯み、最悪吹き飛んでしまうほどだ。

 

 

「ウザイッ……ナァ……!?」

 

 

 強風に煽られてウザイナーの葉がちらちらと飛んでいく。

 ウザイナー自身もその葉のように吹き飛ばされそうだ。

 だが、ウザイナーは体勢を立て直しその場でずっしりと構えた。

 まるで根を張る大木のように、ストームハルバードの強風をものともせずに。

 しかしそれこそがディケイドアギトの狙いだ。

 

 

「今の内だ!!」

 

 

 ディケイドアギトは風を一切緩めず叫んだ。

 叫んだ対象はブルームとイーグレット。

 言葉の意味は2人にもすぐに理解できた。

 今ならば、ウザイナーは動けない。

 動こうものなら風で吹き飛ばされるのがオチだからだ。

 だが、それに耐えて動かなくなっている今ならば。

 2人は顔を見合って頷き、手を繋いだ。

 

 

「大地の精霊よ……」

 

 

 右手を前方に伸ばし、ブルームは誰かに呼びかけるような言葉を呟く。

 瞬間、辺りの大地から金色の光が溢れる。

 

 

「大空の精霊よ……」

 

 

 イーグレットも上空に向けて手を伸ばし、同じく呼びかけるように呟いた。

 すると、空一面から水色の光の粒が降りる。

 2つの光はブルームとイーグレットに集まり、伸ばした手を中心にどんどん収束していく。

 

 

「今、プリキュアと共に!」

 

「奇跡の力を解き放て!」

 

 

 イーグレット、ブルームの順でさらに唱える。

 集まった光は手の甲のマークに集まり、それを円状に展開。

 声を揃えながら、円状に展開した光を叫びと共に全力で打ち出した。

 

 

「「『プリキュア! ツイン・ストリーム・スプラァァァッシュ』!!」」

 

 

 金色の光と水色の光は光の奔流となり、ウザイナーに向かって突き進んでいく。

 2つの奔流は交差しながらウザイナーをどんどん包み込んでいく。

 

 

「ウザイナー………」

 

 

 光に包まれたウザイナーは元の大木に戻り、黒ずんだ何かが大木から離れていく。

 それこそがウザイナーの本体である。

 ウザイナーの本体である闇の塊は光の中で弾けた。

 弾けた闇の塊は緑色の小さな光の粒になった。

 光の粒には1つ1つ、ニッコリとした目がついている。

 何やら可愛らしいが、これは精霊達である。

 精霊達が闇に染められ、利用されたのがウザイナーの正体なのだ。

 

 

「……何だこいつら」

 

 

 そんな事を知る由もないディケイドは解放された緑色の精霊達を見送っていた。

 これがカレハーンの言っていた『浄化』である。

 浄化に成功した後、大木は元の通り、夏らしく葉を青々と茂らせていた。

 

 

「あっ、ブルーム」

 

 

 イーグレットが指さした場所にはゆっくりと、何かが降りてきていた。

 本当に小さな、1粒の球体だ。

 ブルームはそれを優しくキャッチする。

 

 

「『奇跡の雫』……これで6個目だね」

 

 

 ウザイナーを倒すと、奇跡の雫という物も精霊と同時に解放される。

 これを集める事もまた、プリキュアの目的だ。

 

 

「さてと、残るは……」

 

 

 ディケイドアギトが周りを見渡す。

 セミミンガはWが、ウザイナーも今、無事に倒された。

 だがもう1人、カレハーンが残っている事を忘れてはいない。

 しかし辺りを見渡しても何処にもカレハーンはいなかった。

 ウザイナーが倒されると同時に既に撤退したのだ。

 

 

「あのカレハーンとかいうのなら帰ったみたいだぜ」

 

 

 ディケイドアギトに声をかけたのは翔太郎、Wだ。

 遠巻きに見ていたWはその瞬間をはっきりと見ていたらしい。

 

 

「お互い、女の子に助けられちまうとはなぁ」

 

 

 翔太郎が奇跡の雫を手に取るブルームとその横に並ぶイーグレットを見ながら呟いた。

 頭を掻いて困ったような声だ。

 ハードボイルドを公言している翔太郎としては女性に助けられるのは些か恰好がつかない。

 そんな風に思っていた。

 例え翔太郎でなくとも成人している男性達がまさか中学生の女子2人組に助けられるなんて思いもしないだろう。

 状況が状況であった、という事もあるのだが。

 

 

「フン……」

 

 

 ディケイドアギトは鼻息を鳴らしながら変身を解いた。

 女性で戦える人間なら何人も知っていたし、助けられる事もあった。

 最近知り合った未熟な生徒、古めかしい言葉を使う気難しいアーティスト、3人組の1人である黄色い少女。

 それに、かつて旅を共にした居候先の娘。

 だからだろうか、確かに変身には驚いたが目の前の『プリキュア』という存在をすんなり受け入れている自分が何処かにいるのを士は感じていた。

 

 士が変身を解いたのを機に、翔太郎と咲、舞も変身を解き、1か所に集まった。

 

 

「さっきは助かったぜ。ありがとな」

 

 

 翔太郎の言葉に咲が慌てる。

 

 

「い、いえ! こちらこそ、あのセミみたいなのがいたら私達も危なかったかも……」

 

 

 セミミンガの攻撃を受けた時、あの2体を相手にするのは厳しいと感じた。

 そんな時に「任せな」、と言って加勢してくれたのが翔太郎と士。

 ダメージだってあったはずなのに。

 何よりも一番初め、人前で変身できない自分達の前に出て戦ってくれた。

 

 

「だから、お相子って事じゃ……だめですか?」

 

 

 咲の言葉に翔太郎は少し口角を上げ、「おう」と答えた。

 その後、帽子を被りなおすように帽子の位置を調節しながら言った。

 

 

「さぁて、行くか」

 

 

 3人に背を向けて翔太郎は歩き出した。

 咲と舞はキョトンとした表情を作り、思わず舞が疑問符を上げてしまった。

 

 

「え?」

 

 

 その疑問符に、翔太郎は笑顔で振り向いた。

 

 

「依頼再開だ」

 

 

 

 

 

 

 

 当初の目的通り、4人はさざなみ海岸についた。

 海岸から見える海と風車を舞は一発で気に入ったらしく、写真を撮っている。

 此処で書くには時間がかかるので写真を撮ってそれを見本に書こうという事らしい。

 夏という事もあり、観光客や遊びに来ている人もいるようではあったが、写真を撮るには特に問題ない程度だ。

 士もあちこち写真を撮っていた。

 写真家としての血が騒いだのだろうか、色々なところを色々な角度で撮っていた。

 そんなわけで、写真を撮り続ける2人とは別に、暇をしている咲と翔太郎はというと。

 

 

「士もだけどよ、舞ちゃんって子も何枚も撮ってんなぁ……」

 

「多分、一番良い風景を描きたいんだと思います。

 舞ってば、集中すると周りが全然見えなくなっちゃって」

 

「はは、俺の相棒もそうでな。何か調べだすと止まらねぇんだ」

 

「それって士さんですか?」

 

「いいや、事務所に残ってる方さ」

 

 

 他愛のない相棒談義を続け、意気投合していた。

 

 だが話しつつも、翔太郎は少し引っかかっていた事があった。

 それは、『仮面ライダー』を狙ってきたセミミンガの存在だ。

 どうやらセミミンガの所属していた大ショッカーなる組織はディケイドとの因縁があるらしい。

 だがセミミンガが言ったのは『仮面ライダーの抹殺』。

『ディケイド』と名指しをしていないのだ。

 もしも大ショッカーがディケイド以外のライダーも狙っているのだとしたら?

 そう考えずにはいられなかった。

 それに何より、翔太郎の『探偵の勘』がその予感を告げていた。

 

 

(一応、照井達にも連絡しとくか)

 

 

 咲に断って、翔太郎が常備している『メモリガジェット』の1つ、『スタッグフォン』を取り出した。

 これはクワガタムシのように変形し敵への攻撃もできる優れものだ。

 勿論、名前の通り携帯電話にもなる。

 翔太郎はスタッグフォンとほぼ同規格の竜の『ビートルフォン』に電話をかけた。

 

 ちなみに日本とフランスの時差は7時間ほどで、日本の方が早い。

 現在日本の時刻は昼過ぎの大体14時頃だから、向こうは朝の7時ぐらいだ。

 かけてから翔太郎はそれに気づき、朝早くだから一度切ろうかと考えた。

 だが、そう考えた直後、電話が繋がった。

 

 

「もしもし、照井か?」

 

『左か』

 

 

 聞き馴染んだ刑事の声がした。

 冷静な声で無事なのが分かる。

 だが、次の竜の言葉は、翔太郎としては思いもよらないものだった。

 

 

『こちらもかけようと思っていた。急ぎだから早く起きたんだが、丁度いい』

 

「あン? なんだよ」

 

『昨日、こちらで怪人が出た』

 

 

 翔太郎は思わず声を荒げた。

 

 

「何だと!?」

 

『落ち着け、倒す事は出来た。助っ人も2人来てくれたからな』

 

「助っ人?」

 

『それは後で説明しよう。ところで左、奴らは『仮面ライダー』を狙っているらしい、お前の方は大丈夫か?』

 

 

 『助っ人』の存在も気になるところだが、翔太郎は一先ず気持ちを落ち着けた。

 そして冷静に、竜の質問に答えた。

 

 

「……いや、こっちも出てついさっき倒した」

 

『そうか……無事ならいいんだ』

 

「それよりそっちは? 亜樹子もいるし、第一、助っ人2人とか何があったんだよ?」

 

『……そうだな、少し長くなるぞ』

 

 

 竜は、昨日起きた一連の騒動について話し始めた。




────次回予告────
「舞、いい写真は撮れた?」
「うん、この感じなら良い絵が描けそう。……あれ?翔太郎さんどうしたの?」
「ずっと深刻そうな顔で電話の話を聞いてるみたいでさ、なんだろう?」
「何かあったのかしら、心配ね……」

「「スーパーヒーロー作戦CS、『戦いの中、R/怪人と3人と前触れ』!」」

「「ぶっちゃけはっちゃけ、ときめきパワーで絶好調!!」」

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