スーパーヒーロー作戦CS   作:ライフォギア

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第18話 やって来たのはPから/2人で1人

 風都タワーの展望台からの風景は候補の1つという事になった。

 もう少し他も見てみたい、という舞の要望だ。

 非常に申し訳なさそうな顔をしていたが、翔太郎は笑ってそれを了承した。

 

 とにもかくにも、一旦風都タワーから出た翔太郎達は風都をぶらりと歩きつつ、何処を目的地にしようかと色々考えていた。

 

 

「さぁて、次は何処がいいかな……」

 

 

 風都は観光地としてもそれなりに有名だ。

 故に、見て楽しめるような観光スポットのような場所も幾つか存在している。

 舞の書く絵は『夏の絵』という事らしいが、それに関しても問題は無い。

 風都を歩き回ればわかるが、風都の何処からでも風車を1つは見る事が出来る。

 となれば、単純に外観が美しい所を考えればいいのだが。

 

 

「夏か……さざなみ海岸ってのもアリか」

 

 

 思いつくと同時にピタリとその場に停まる翔太郎。ついてきていた士や咲、舞もその後ろで歩を止める。

 

 さざなみ海岸はその名の通り、風都にある海岸だ。

 翔太郎は挫折したりくじけそうになった事がある。

 心折れたものが海岸に向かうというのはよくあるシチュエーションだ。

 形から入るタイプの人間である翔太郎はそんな理由でさざなみ海岸に来る事が多かった。

 理由はどうあれ、よく知っている場所である。

 尤も、翔太郎が風都で知らない場所の方が少ないのだが。

 

 

「よっし、次は海の方で……」

 

 

 振り返り、次の行き先を後ろの3人に告げようとすると、咲と舞が何やら話している様子だった。

 わざわざ翔太郎と士に背を向けて縮こまっている。

 「どうした?」と翔太郎が声をかけようとした、その瞬間。

 

 風が吹いた。

 

 翔太郎は、嫌な風だと感じた。

 風都の風をそんな風に感じた事は一度たりともない。

 誰よりも風都を愛している自信もあり、風都は何処よりも良い風が吹くと思っている。

 その翔太郎がそう感じた。

 だからこそ、虫の知らせだろうか、翔太郎は妙な『何か』を感じた。

 

 枯葉がその風に乗っている。

 風は翔太郎達の眼前に集まり、それに伴って枯葉もまた密集していく。

 翔太郎と士は仮面ライダーとしての本能か、竜巻を睨む。

 何かが起こる、そう予感したからだ。

 

 

「フフフ……」

 

 

 枯葉の竜巻が不敵な笑いを発する。

 予感的中、翔太郎と士は驚きながらも身構えた。

 枯葉の竜巻は人型を形成した。

 その姿は形こそ人ではあるが、見かけはおよそ人間の風貌ではない。

 全身は茶色っぽく、目から頭にかけて葉っぱのようなものがついている。

 出現の仕方とその風貌はさしずめ『枯葉の怪人』と言ったところか。

 

 

「ドーパント……!?」

 

 

 翔太郎は自分の見知った怪人の名前を上げる。

 言葉を聞いて、枯葉の怪人は答えた。

 

 

「俺は『カレハーン』」

 

 

 カレハーンと名乗った怪人はニヤリと笑い、一言付け加えた。

 

 

「カレッチと呼んでくれ」

 

 

 その言葉に翔太郎と士の緊張が一瞬緩む。

 異常事態なのに変わりはないが、唐突な間抜けな発言のせいだろう。

 

 翔太郎はカレハーンの目線が自分を見ていない事に気付いた。

 まして、士の方でもない。

 その目は何故か咲と舞に向けられていた。

 一方の咲と舞も驚きは一切なく、怒ったような、警戒の表情をしている。

 

 

「何しに出てきたのよ、カレーパン!!」

 

 

 咲の叫びにカレハーン含め、全員が肩をガクッと落とした。

 

 

「……カレハーンだ」

 

 

 カレハーンは名前を間違えられたが不敵に笑いつつ、冷静に返した。

 呆れつつも、翔太郎は今のカレハーンと咲のやり取りに違和感を覚えた。

 咲のカレハーンに対しての物言いが、まるで初対面ではないかのように聞こえたのだ。

 

 

「嬢ちゃん達、こいつと知り合いなのか?」

 

 

 翔太郎の言葉にドキッとしたように肩を跳ね上げ、2人は慌てた。

 さらにこそこそと内緒話を始める。

 ほぼ確実に何かを知っている人間の反応だった。

 だが、事情を話せない理由でもあるのか2人は討論を続けている。

 

 

「フッ、今日こそ『太陽の泉』の在処、教えてもらうぞ」

 

 

 今度は太陽の泉という正体不明の単語が出てきた。

 カレハーンの目的、太陽の泉、咲と舞。

 分からない事だらけの翔太郎と士だったが、思考する暇すらなくカレハーンが叫んだ。

 

 

「『ウザイナー』!!」

 

 

 枯葉の色のような茶色い竜巻がカレハーンの叫びと共に渦巻く。

 激しい竜巻に4人は顔を腕で覆いつつも竜巻から目を逸らさない。

 竜巻が止むと、そこには人の身の丈など優に超える怪物が姿を現す。

 

 それは形容するならば『木』。

 足は木の根っこが太くなったような形状で、5、6本程。

 腕は三本指のようになっており、指先には葉が大量に茂り、これまた木を形成している。

 顔は不機嫌そうな表情で、額には大量の葉がアルファベットの『U』のように生えている。

 そして体全体が木の幹のように太い。

 胴体は元より足も腕も指も、その全てが木の幹のように太く、大きさもまた、成長した木のように大きい。

 

 

「なんだそりゃあ!?」

 

 

 翔太郎の驚く声が木霊する。

 巨体と戦った経験は確かに何度かあるが、こうも唐突に出てこられれば声を上げるのも無理はない。

 士もまた目を見開いて驚きの様相を呈している。

 一方の咲と舞は後ずさりつつも、携帯電話のようなものを取り出した。

 

 

「舞! 早く……」

 

「駄目よ咲! ここじゃ……」

 

 

 2人は焦りを見せていた。

 だが、その焦りは一般人が怪物を見た時のそれではない。

 どちらかと言えば冷静な、対処をしようとしているような。

 

 そんな時、咲と舞に被るように翔太郎と士が一歩前に出た。

 翔太郎は差込口が2つある赤い機械を、士はカードの装填口がある白い機械を既に手にしていている。

 翔太郎は余裕たっぷりに、安心させるような笑みで咲と舞の方に振り返った。

 

 

「2人は下がってな」

 

 

 キョトンとした表情になる2人。

 そんな2人を余所に、翔太郎と士はそれぞれの手に持つ機械を腰に宛がう。

 すると、その機械は2人の腰に巻きつきベルトになった。

 士は1枚のカードを、翔太郎は黒いUSBメモリを右手で取り出し、メモリのボタンを押した。

 

 

 ────JOKER!────

 

 

 電子音声が告げる言葉は英語の『切り札』の意味。

 左隣にいる士はというと、ベルトを操作している。

 咲も舞も、唐突な2人の行動に立ち尽くすばかりだ。

 

 翔太郎はメモリを持った右手を左側に振りかぶる。

 士はカードを前面に構える。

 そして同時に、タイミングすら合わせずに2人は同じ言葉を言い放った。

 

 

「「変身!!」」

 

 

 その言葉と同時に翔太郎のベルトには不思議な事が起きた。

 メモリを装填すると思わしき差込口の右側に緑色のメモリが転送されてきたのだ。

 翔太郎は慣れた手つきでそれをベルトに押し込み、同じく自分の黒いメモリも左側の差込口に装填した。

 そして手を交差させてベルトを展開した。

 展開した赤い機械──『ダブルドライバー』は、その名の通りアルファベットの『W』を模した形になった。

 最後に翔太郎は両手を軽く広げた。

 

 

 ────CYCLONE! JOKER!────

 

 

 JOKERは先程の翔太郎が起動させたメモリの名前。

 CYCLONEの意味は『風』。

 緑色のメモリは『サイクロンメモリ』、黒いメモリは『ジョーカーメモリ』。

 風と切り札の力が解放され、翔太郎の周りにエネルギーが舞う。

 そのエネルギーは鎧として翔太郎の身体に装着されていく。

 鎧を纏ったその姿、右半身は翡翠色、左半身は黒色で、中央は銀色のラインで綺麗に分かれている。

 頭部には『W』の装飾があり、目は赤い。

 翡翠色の右半身からはマフラーが靡いている。

 

 『仮面ライダーW』。

 

 ドーパントと同じく、ガイアメモリを使用して変身する仮面ライダー。

 探偵事務所にいるフィリップと共に変身した、風都を守る戦士の姿。

 

 左隣の士はカードを裏返し、ベルトに装填、そして再びベルトを操作する。

 

 

 ────KAMEN RIDE……DECADE!────

 

 

 士もまた、自分の姿をディケイドへと変えた。

 Wはディケイドの姿をちらりと見やった。

 

 

「こうして並ぶのも久しぶりだな、士。……やれんな?」

 

「当たり前だ」

 

 

 ディケイドの返答にWはフッと笑う。

 そして今度は咲と舞の方に振り向いた。

 

 

「此処は任せな」

 

 

 Wに変身している翔太郎の声。

 咲と舞は突然、目の前の青年2人が変身を果たした事に度肝を抜かれてしまっていた。

 そんな2人を案じたのか、Wは次にこんな言葉を贈った。

 

 

『安心したまえ、僕達は味方だ』

 

 

 しかしその声は翔太郎のものではない。

 今の声を発する時、Wの右側の目が点滅していた。

 Wは2人で1人の仮面ライダーである。

 左半身は翔太郎が右半身にはフィリップの意識が宿っているのだ。

 だから1人のライダーから2人の声がする。

 そんな事を知る由もない咲と舞はさらに驚いてしまった様子を見せた。

 

 

「え、ええぇぇ!!? どういう事ですかぁ!?

 翔太郎さんと士さんが……それに今、何か別の人の声が……」

 

「さ、咲、落ち着いて!」

 

 

 「落ち着いて」、という舞の声も随分上ずっている。

 慌てふためく2人の様子がおかしくて、Wの2人は仮面の中で微笑んだ。

 可愛げと未来のある2人を守らなくてはならない。

 Wとディケイドは木の怪物の方に向き直る。

 

 

「さぁて……行くぜ」

 

 

 左手を顔の高さまで持ってきた後、軽くスナップ。

 Wの仕草と共にディケイドとWは同時に木の怪物に向かって駆けていった。

 

 

 

 

 

 木の怪物の主であるカレハーンも突然の事態に驚いた様子だったが、敵対の意思を見せる2人に対してすぐにその表情を変えた。

 木の怪物はカレハーンの指示の元、木のようにその場でずっしりと構えている。

 迎撃をするならわざわざ動く必要はないと判断したのだろう。

 

 

「ウザァイナ~……」

 

 

 やる気無さそうな声と共に右から接近するWに対して木の怪物はその手を伸ばし、パンチを繰り出した。

 巨体故に大振り、だから標的だったWも何の苦も無くジャンプで避ける事が出来る。

 だが巨体だからこそ、そのパンチ一発がどれだけ強力か、その空振りで発生した風が物語っていた。

 

 

「オラァ!」

 

 

 Wはジャンプしたまま翔太郎の気合の籠った叫びと共に、跳び蹴りにその姿勢を転換した。

 ディケイドはWの逆側、左側から同じように接近して跳び蹴りを浴びせようとしている。

 しかし、木の怪物はその両手を大きく振り回した。

 振り回した両手は先程のパンチのように伸び、ディケイドとWを捉えた。

 さながら巨大な鞭のようになった木の怪物の攻撃を飛び蹴りの姿勢を崩し、両手を交差させる事で何とか2人は防ぐ。

 だがその巨体の威力は半端ではなく、2人は吹き飛ばされてしまう。

 吹き飛ばされた2人は地面に激突する前に体勢を立て直し、地面を滑るように着地した。

 

 

「だったら、木には火だぜ……!」

 

 

 Wはダブルドライバーを展開前の状態に戻し、2本のメモリを引き抜いた。

 そして新たに赤いメモリと青いメモリを取り出し、起動させる。

 

 

 ────HEAT!────

 

 ────TRIGGER!────

 

 

 赤いメモリ、『ヒートメモリ』と青いメモリ、『トリガーメモリ』をそれぞれ右と左の差込口に装填し、再びダブルドライバーを展開。

 

 

 ────HEAT! TRIGGER!────

 

 

 電子音声と共にWの右半身が赤く、左半身が青く染まる。

 青く染まった左半身の胸部には青い銃がマウントされている。

 炎の力をWに与えるヒート、銃と銃撃の為の肉体を与えるトリガー。

 この2つの力が合わさった『ヒートトリガー』はWの中でも高火力の姿だ。

 メモリ同士の相性が良すぎて逆に制御が難しいほどに。

 

 だが、数年間Wとして戦っている今の2人にとっては然程問題ではない。

 そしてこの姿を選んだ理由は翔太郎が言ったように敵が『木』であるからだ。

 火の弾丸を武器とするこの姿なら、敵を遠距離から焼き尽くす事が出来る。

 Wは右手で左胸にマウントされた銃、『トリガーマグナム』を手に持ち、木の怪物に向かって引き金を引いた。

 

 木の怪物に炎の弾丸が当たる。

 すると、葉の部分が燃え出し、木の怪物は呻き苦しみだした。

 木は燃える、当然の事である。

 

 

「おっし……一気に行くぜ」

 

 

 Wはダブルドライバーをそのままに、トリガーメモリを引き抜いた。

 そしてそのメモリをトリガーマグナムに弾丸を装填するように差し込む。

 さらに普段は使われない下を向いているもう1つの銃口を起こす。

 

 

 ────TRIGEER! MAXIMUM DRIVE!────

 

 

 マキシマムドライブ。

 それはWにとって必殺の一撃だ。

 トリガーマグナムのもう1つの銃口が普段使われないのは、必殺技を放つ時にのみ使われるからである。

 Wはトリガーマグナムを未だ火に苦しむ木の怪物に向け、この技の名前と共に引き金を引いた。

 

 

「「『トリガーエクスプロージョン』!!」」

 

 

 翔太郎とフィリップの声が同時に響く。

 Wが技の名前を発声するのは、翔太郎とフィリップのタイミングを合わせるためだ。

 2人で1人であるが故、技を放つ時にタイミングがずれると真の力を発揮できない。

 その為の措置なのである。

 

 銃口から放たれた大きな炎は木の怪物を包み込んだ。

 木の怪物は今や、完全に炎で見えなくなってしまっている。

 Wは得意気にトリガーマグナムをクルクルと回した。

 

 

「ま、ざっとこんなもんか……」

 

 

 翔太郎の声だ。

 例え火に弱くなくても燃え尽きてしまうほどの炎で焼かれたのだ。

 ましてそれが木なら確実に倒した。

 ディケイドもそう思っていた。

 

 しかし、突如炎の中から二本の腕が伸びてきた。

 

 

「ンだとッ!?」

 

 

 舌打ち交じりに翔太郎が吐き捨て、急いでその場から跳び上がる。

 同じく狙われたディケイドもその場を大きく跳び、一旦後ろに下がる。

 

 

「ウザァイ……ナァァ……!!」

 

 

 やる気のなさそうな声が、逆に恐ろしげに感じさせる。

 そう、木の怪物は健在だった。

 炎を振り払ったその姿は完全に元のまま、焦げ目すらついていない。

 

 

「あの炎の中で無傷か……」

 

 

 冷静に状況を告げるディケイドだが、Wもディケイドもさすがにこれは想定外だった。

 木が炎の中で原型を留めるのは普通に考えれば有り得ない事だ。

 元々仮面ライダーも化物も有り得ない者である、と言われればその通りだが、それにしても焦げ目1つ無いのは明らかにおかしい。

 

 

『どうする翔太郎? どうやら僕達の常識は通用しないみたいだよ』

 

「ああ。さぁて、他に木に有効な攻撃ねぇ……」

 

 

 木に対しての有効だと言えば、燃やす事の他には斬る事だろうか。

 幸いディケイドは剣を持っているし、Wも他の姿に変われば剣や斬る技もある。

 しかし今の翔太郎の言葉を聞きつけてか、空中で静観を続けていたカレハーンが笑った。

 

 

「無駄だ。貴様らの攻撃ではウザイナーは倒せん」

 

 

 余裕綽々のカレハーンは尚も続ける。

 

 

「今の攻撃で確かにウザイナーは一度焼き尽くされた。

 だが浄化の力で無い限り、何度でもウザイナーは再生する」

 

 

 Wとディケイドはカレハーンの言う事の半分は理解できたが、もう半分が理解できなかった。

 カレハーンが言うには先程の攻撃で木の怪物は一度燃え尽きたが、その後に再生をした。

 これならば炎の中でも焦げ目1つ無かった事も説明はつく。

 だが、浄化の力とは何なのか。

 

 Wはそれへの答えを1つも持ち合わせていなかった。

 対してディケイドは1つだけ思い当たる節があった。

 

 

(……響鬼、か?)

 

 

 彼の出会った仮面ライダーの1人、響鬼。

 彼が戦う『魔化魍』という妖怪は音撃と呼ばれる『清めの音』でしか倒せない怪物であった。

 浄化でしか倒せない、という言葉でディケイドの脳裏に浮かんだのはまずそれだった。

 

 だが、それはおかしい。

 響鬼の敵は魔化魍であって、ウザイナーなどという敵ではないはずだ。

 

 Wとディケイドが考える中、さらに予期せぬ事態が起きた。

 

 

「ほう、中々やるな。カレハーンとやら」

 

 

 その声にWが、ディケイドが、咲が、舞が、そしてカレハーンまでもが辺りを見渡した。

 仲間ではないのか、カレハーンは大声で怒鳴った。

 

 

「誰だ!!」

 

 

 その言葉に答えるかのように、1人の人影が上空から姿を現した。

 何処かから跳躍してきたのだろうか。

 だが、だとすればその跳躍能力は人間のそれを遥かに超えていた。

 さらにその姿は人の形をしながらも、異形。

 カレハーンや仮面ライダーが戦ってきた怪人のように、その姿は怪物そのものだった。

 

 全身が茶色でカサカサとした表面、虫のような羽、2つの複眼。

 その姿はセミを思わせる姿だ。

 さらに、腰には鷲のレリーフがついたベルトをしている。

 

 

「そう殺気立つな、敵ではない」

 

 

 乱入してきた怪人を前に不快感と不信感を露わにするカレハーンにセミの怪人は落ち着いた様子で言った。

 その言葉にカレハーンは顔を冷静な普段の表情に戻した。

 が、勿論今の一言で疑惑が消えるほどカレハーンも馬鹿ではない。

 

 

「ほう、どういう事だ」

 

「我々はそこにいる仮面ライダーの抹殺が目的」

 

 

 セミの怪人はゆっくりとディケイドとWを見据えた。

 今の言葉で敵である事がはっきりしたセミの怪人に対し、2人も臨戦態勢をとる。

 

 

「お前……何モンだ?」

 

 

 翔太郎の問いにセミの怪人は一瞬笑う。

 そして、自分が何なのかを声高らかに叫んだ。

 

 

「我が名は『セミミンガ』! そして、我々は『大ショッカー』!!」

 

 

 セミミンガと名乗った怪人。

 セミのよう見た目に対してのその名前は正しく、と言った感じだ。

 そしてもう1つの単語、大ショッカー。

 この言葉に反応した人物はたった1人。

 その組織の名を聞いた瞬間、仮面の中で目を見開いたのはディケイド。

 

 

「大ショッカーだと……!?」

 

「そうだディケイド。『スーパーショッカー』、そして貴様が利用した大ショッカーを経て、我々は再び、正真正銘の大ショッカーとなったのだ」

 

 

 セミミンガとディケイドの間では言葉の意味が通じ合っているが、咲や舞、Wにはその意味はまったく分からなかった。

 

 

「おいなんだよ、大ショッカーとかスーパーショッカーとか」

 

「最初にお前と会った時の敵が大ショッカー。二度目に一緒に戦った敵がスーパーショッカーって連中だ」

 

 

 ディケイドはWに簡単に大ショッカーの事を話した。

 かつて、Wとディケイドはスーパーショッカーを潰した事がある。

 スーパーショッカーという名前こそ知らなかったものの、その事はWの2人もよく覚えている。

 だが、彼らはそのスーパーショッカーがある組織の残党の集まりだという事を知らない。

 スーパーショッカーの前身、それこそが大ショッカーである。

 

 ちなみにディケイドがWと初めて会ったのも大ショッカーとの戦いの時である。

 大ショッカーの組織としての規模は非常に大きい。

 何十人もの仮面ライダーが集結し、ようやく潰せた組織。

 その上でまだ残党が残るほどの組織力を有していたのだ。

 

 だが大ショッカーもスーパーショッカーも確実に潰したとディケイドは記憶している。

 スーパーショッカー壊滅後、ディケイドはとある世界で再び大ショッカーを結成した事がある。

 その時はその世界を救うために利用しただけであり、その際に自分が作り上げた大ショッカーも完全に潰している。

 つまり、大ショッカーもスーパーショッカーも既に存在しない筈。

 

 ディケイドは疑うような目でセミミンガを見た。

 

 

「正真正銘の大ショッカーだか知らねぇが、叩き潰されたのを忘れたのか?」

 

 

 ディケイドの言葉は正しかった。

 確かに苦戦もしたし、幾人ものライダーの力は必要だった。

 だが、大ショッカーもスーパーショッカーも壊滅させたという事実は事実。

 脅威でないと言えば嘘になるが、特別問題視するような敵ではない。

 油断でも慢心でもなく、今までの経験からしてディケイドはそう思っていた。

 

 

「舐めていると痛い目にあうぞ。今の大ショッカーは貴様が戦った時よりも強力だ」

 

 

 セミミンガの挑発するとも脅すともとれる発言をディケイドは一笑した。

 

 

「上等だ。また潰す」

 

 

 端的な言葉ながらその言葉には殺気が籠っていた。

 かつての敵、並々ならぬ因縁がある相手だからこそだ。

 

 さて、お互いに睨み合うセミミンガとディケイドだが、一方ではまた別に殺気を放つ怪人が存在していた。

 

 

「き、さまらァ……無視するなぁ!? やれ! ウザイナー!!」

 

 

 此処まで眼中から外されていたカレハーンが痺れを切らし木の怪物を襲い掛からせた。

 Wとディケイドはその場を退こうとするが、一瞬木の怪物に気を取られて隙が出来てしまっている。

 セミミンガはその隙を見逃さなかった。

 

 

「ミィーン!!」

 

 

 セミの鳴き声のような声と共に、セミミンガはその身を震わせた。

 その姿は夏によく見るセミの姿そのもの。

 直後、Wとディケイドの体に衝撃が走った。

 衝撃はダメージとなり、2人はその場で怯んでしまう。

 しかし何処から、どのように攻撃を受けたのか全く見えなかった。

 

 

『……音波……!?』

 

 

 衝撃を受けつつも、今の衝撃の正体を冷静に考えたフィリップ。

 フィリップの言う通り、それは音波だ。

 セミミンガの鳴き声と共に強烈な音波が発せられ、それがWとディケイドにダメージを与えたというわけだ。

 そして2人が怯んだ隙を突き、木の怪物はその巨体からは想像もつかないスピードでWとディケイドに接近。

 

 

「しまっ……!!」

 

 

 ディケイドが言い切る前に、木の怪物は木のような腕を伸ばしてWを左手に、ディケイドを右手に掴んだ。

 巨体の手は2人の体を包み込むほど大きく、手も足も動かない状態だ。

 何とか脱出しようともがく2人だが、木の怪物の巨体の力はそれを一切許さなかった。

 逃れようとすれば逃れようとするほど、木の怪物は握る力を強めてくる。

 幾ら鎧に身を包んだ体とはいえ、全身を握りつぶされるような状態は平気ではない。

 

 

「くっ……ぐぁぁぁ……ッ!!」

 

 

 堪らず、翔太郎が悲鳴を押し殺したような声を上げた。

 握力は留まるところを知らず、最早万力か何かで押しつぶされているような感覚だ。

 

 

「フッ、ウザイナー!! もっと力を強めろ!!」

 

 

 カレハーンの指示に従い木の怪物の力はさらに強まる。

 だが、まだ耐えられない範囲ではない。

 しかしこのままでは非常に危険な状態でもある。

 Wもディケイドも痛みに耐えつつ打開策を頭で必死に考えていた。

 

 

(ククク……いいぞ、そのまま死ね、仮面ライダー)

 

 

 セミミンガのセミのような顔は表情を作る事はない。

 だが、もしも表情ができるとすればそれはとても醜悪な笑みだろう。

 それを思わせるようにセミミンガはセミが鳴く様な声で笑った。

 

 例えウザイナーから抜け出せてもWとディケイドには木の怪物を倒す手段がない。

 さらにカレハーンと新たな乱入者、怪人セミミンガ。

 数的にも状況的にも圧倒的不利にある。

 Wとディケイドが思考を巡らせる中、聞き覚えのある声が木霊した。

 

 

「2人を離しなさい!!」

 

 

 その声に敵味方関係なく全員が反応した。

 声の主は咲、隣には舞もいる。

 少女2人はこの状況下において、未だにこの場にとどまっていたのだ。

 

 

「何してんだ、早く逃げろ……!!」

 

 

 翔太郎の声は体が圧迫されているためか掠れていた。

 その声を聞いた2人は、ますますこの場から離れない決意を固める。

 

 

「そんな事できません!」

 

 

 大人しそうだった舞から決意の籠った声が発せられた。

 

 

「翔太郎さんと士さんは私達が助ける!!」

 

 

 一切の迷いなく言い放った咲の言葉。

 Wもディケイドも痛みの中、思った。

 「何を言っているんだ」、と。

 視点は違えど、同じ事を思ったセミミンガは咲と舞を嘲った。

 

 

「たかが小娘2人に、何ができる!!」

 

 

 人間の人知を超えた怪人と怪物が合計3体。

 中学生の少女2人が対峙するには余りにも無謀な光景だ。

 だが、それに全く臆することなく、2人の少女は似たデザインの携帯電話らしき物を構えた。

 その様子を見てただ1人、カレハーンのみが強く睨むような表情に変貌した。

 

 

「フン、ようやく来たか……」

 

 

 咲と舞を見据えるカレハーンの目線は、まるで強敵を見るような目だ。

 およそ少女2人に向ける目ではない。

 咲と舞は携帯電話のようなものを開き、2枚のカードを取りだした。

 そしてそれらを円盤状の部分にセットし、円盤自体を一度回す。

 同時に2人は手を繋ぎ、携帯電話のようなものを構えつつ、アイコンタクトすら無しで同時に叫んだ。

 

 

「「デュアル・スピリチュアル・パワー!!」」

 

 

 瞬間、咲と舞は虹色の光に包まれた。

 光の発生と共におこった衝撃とその眩しさにセミミンガは思わず目を逸らした。

 一方のカレハーンは眼光をさらに鋭くし、光や衝撃など一切意に介していない。

 

 虹色の光は空高く跳び上がり、その内部で手を繋いだままの2人。

 咲の体は金色の光に、舞の体は銀色の光に包まれている。

 右手を伸ばしつつ、咲が唱える。

 

 

「花開け、大地に!!」

 

 

 言葉と同時に金色の光は桃色を基調とした服に変わっていく。

 間髪入れず舞も左手を伸ばし、唱えた。

 

 

「羽ばたけ、空に!!」

 

 

 銀色の光は白い服へと変わる。

 金色の光と銀色の光はみるみる変化していき、2人の体を普段の服装とは全く違う姿へと変えていった。

 

 咲の姿は桃色を基調としつつも向日葵の花弁を思わせるような黄色の縁取りがところどころになされ、胸には赤いリボンと金色のハート形の宝石。

 さらに髪型も変わっており、ハートがついているカチューシャで纏められた髪は先程までの咲とは違い大きく広がっている。

 舞の姿は白を基調にしつつ、服のデザインはまるで鳥の羽を思わせるようだ。

 胸には白いリボンと水色のハート形の宝石。

 こちらも髪型が変わり、普段はポニーテールというよりお団子結びに近い髪型だったのが、ハートがついたカチューシャで纏められ、完全なポニーテールになっている。

 

 虹色の光の中で『変身』を果たした2人は地上に降り立つ。

 まるで大地を踏みしめるかのように降り立った咲。

 否、今の彼女は日向咲ではない。

 

 

「輝く金の花、『キュアブルーム』!」

 

 

 直後、今度は鳥が降り立つようにゆっくりと舞が降り立つ。

 そして今の彼女も、美翔舞ではない。

 

 

「煌く銀の翼、『キュアイーグレット』!」

 

 

 降り立った2人は、自分達の名を叫ぶ。

 

 

「「『ふたりはプリキュア』!!」」

 

 

 イーグレットがその右手で3体の敵に鋭く指を向ける。

 

 

「聖なる泉を汚す者よ!!」

 

 

 言葉の後、ブルームの左手も同じく、敵に向かって鋭く突きつけられた。

 

 

「阿漕な真似は……」

 

 

 そして何かを止めるように、その手を大きく開く。

 

 

「おやめなさい!!」

 

 

 大地に咲く向日葵を思わせる金色の輝きを放つキュアブルーム。

 大空に舞う鳥の翼を思わせる銀色の輝きを放つキュアイーグレット。

 その姿にセミミンガが、Wが、ディケイドが一瞬思考を停止させた。

 状況が全く飲み込めなかったからだ。

 そんな中、カレハーンが口を開く。

 

 

「太陽の泉の在処、教えてもらうぞ」

 

 

 そして、今の言葉は抑えていましたと言わんばかりの怒気を発した。

 

 

「覚悟しろ、プリキュアァァ!!」




────次回予告────
「舞、行こう! 2人を絶対に助けなきゃ!」
「ええ! 風都を滅茶苦茶にするなんて、絶対に許せないわ!」
「翔太郎さん達と力を合わせて!」
「必ず守って見せる!」

「「スーパーヒーロー作戦CS、『戦いの中、R/精霊の光』!」」

「「ぶっちゃけはっちゃけ、ときめきパワーで絶好調!!」」

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