スーパーヒーロー作戦CS   作:ライフォギア

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第16話 天秤を傾けた調停者

 世界中でその姿が目撃され、戦争に介入する存在。

 そしてその戦力を均等になるように優勢な方に攻撃をすると去っていく謎のロボット。

 紛争を調停するその姿は、各地の戦場で希望であり、恐怖の対象である。

 それが、その『ダンクーガ』が、今まさに目の前に出現していた。

 

 呆気にとられるゴーバスターズを余所に、ダンクーガは合体を完了すると機体を少しゴーバスターオーに向けた。

 

 

「初めまして、ゴーバスターズ」

 

 

 ダンクーガの女性パイロットの声が戦場全体に響く。

 こちらへの通信方法が分からないからだろう。

 ゴーバスターズもダンクーガへの通信方法は分からないので、同じく辺り全体に聞こえるように通信機器を設定して応じた。

 

 

「ダンクーガ、か……!?」

 

「あら? ご存じとは光栄ね。正確には『ダンクーガノヴァ』、なんて言うらしいけど」

 

 

 レッドバスターの言葉に飄々とした口調で声が返ってくる。

 

 

「この戦いに介入するのか。目的は!」

 

 

 レッドバスターの口調は強めだった。

 その理由は、相手がダンクーガであるからだ。

 戦争中に戦力を均等にする行いは、決して良い事ではない。

 何故なら戦力が均等になれば決着はつかず、悪戯に戦闘を長引かせているだけ。

 ダンクーガがやっている事はそういう事なのだ。

 

 ダンクーガはお互いの戦力を均等にするため、負けている方の味方に付く。

 今、負けているのはゴーバスターズの方だ。

 そう考えれば増援が来たとも思えるだろう。

 だが、これまでの戦争での行いを鑑みれば信用できるような相手ではなかった。

 

 レッドバスターの強い口調にも動じず、女性の声は答える。

 

 

「ダンクーガは負けている方の味方……なんだけど、今回はちょっと事情が違うの」

 

 

 その言葉を引き継ぐように、別の女性の声がダンクーガから響く。

 

 

「人類の敵はダンクーガの敵。って事らしいわ」

 

 

 どうやらパイロットは複数らしい。

 合体前は4機だったのだから当然ともいえるが。

 さらにその言葉を継ぎ、今度は男性の声がした。

 

 

「そういうわけだ、助太刀させてもらうぜ」

 

 

 さらに最後に、その言葉を補足するかのように先程の男性よりも冷静そうな男性の声が辺りに響く。

 

 

「今回の目的はヴァグラスの殲滅。戦力を均等にする事ではないので、安心してください」

 

 

 つまるところダンクーガは今回、ゴーバスターズ達の完全な味方、という事らしい。

 願ってもいない展開ではある。

 だが、今までの世界各国での行いを考えると信用できるかは微妙なところだ。

 

 とはいえ敵であると断言できる材料もない。

 そして今すべきはヴァグラスを倒し、エネトロンを守る事。

 であれば、答えは1つ。

 

 

「……分かった。ダンクーガはタイプβ、フォークの方を頼む」

 

 

 協力の申し出に応じる事をレッドバスターは決断した。

 ブルーバスターもイエローバスターもその決定に文句は無かった。

 現状における最善の決断だろう。

 

 

「オッケー。それじゃあいっちょ……」

 

 

 最初の女性の声が軽い調子で響いた。

 そして、自らに気合を入れる言葉なのか、非常に気迫の籠った一言が戦場に響く。

 

 

「やってやろうじゃん!!」

 

 

 その言葉が戦闘再開の引き金になった。

 

 

 

 

 

 目的が何であれ、助っ人が来たことは非常に頼もしかった。

 例えタイプγであってもゴーバスターオーで1対1なら問題なく戦える。

 一方のダンクーガもタイプβ、フォークゾード相手に優勢だった。

 基本的には殴る、蹴るといった方法でフォークゾードを追い詰めている。

 その動作は非常に軽快だ。

 何より、ダンクーガの力はフォークゾードを寄せ付けていなかった。

 各地の戦場を戦い抜ける程の実力は伊達ではないようだ。

 

 通信は既にカットしているので、ダンクーガのパイロット達が何を話しているのかはゴーバスターズには分からない。

 

 

「朔哉、出番よ!」

 

 

 最初にゴーバスターズに話しかけた女性、容姿端麗なピンクに近い赤い髪をしている『飛鷹 葵』。

 ダンクーガ全体の操縦を担当し、戦闘機型──『ノヴァイーグル』に搭乗している。

 

 対して朔哉と呼ばれた男性、先程サイの姿に変形した軽戦車型、『ノヴァライノス』に搭乗する若々しい茶髪の青年、『加門 朔哉』は待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑って答えた。

 

 

「おっしゃあ! 行くぜぇ!!」

 

 

 狙いを定めるように操縦桿ごと右手を前に突き出す。

 するとダンクーガそのものも右手を突き出した。

 握られた拳はフォークゾードに向いている。

 

 

「『ブーストノヴァ……ナックル』ッ!!」

 

 

 朔哉の気合の籠った叫びと共に、操縦桿のスイッチが押される。

 それと同時にダンクーガの右腕からロケットのように炎が噴出した。

 ダンクーガの右腕は文字通りロケットのようにフォークゾードに突進していく。

 正しくロケットパンチ、『ブーストノヴァナックル』。

 その一撃をフォークゾードは自らのフォーク、つまり右腕を体の前に出す事で防御しようとした。

 しかし、ダンクーガの力は生半可なものではない。

 フォークゾードを倒す事は無かったが、その拳はフォークゾードのフォークを砕き、ダンクーガの腕に戻ってきた。

 様子を見て葵が不敵に笑う。

 

 

「これで丸裸ってわけね……」

 

 

 これで残るは止めのみ。

 葵はパイロット全員に叫ぶ。

 

 

「『断空砲』で行くわ!」

 

 

 その言葉には重戦車型、『ノヴァエレファント』のパイロットであるやや金髪がかった青年、『ジョニー・バーネット』が答えた。

 

 

「では、僕の出番ですね」

 

 

 ジョニーが辺りの機器を操作し、即座に準備を整えていく。

 ダンクーガの背中、両側の腰が変形し、砲台に。

 その砲台は当然ながら全て前方に、つまりフォークゾードを狙っている。

 

 

「アブソリュート・アクティブ・フォース・ジェネレーター安定!

 断空砲、アルティメットフォーメーション!!」

 

 

 ジョニーの宣言と共にダンクーガの両手が内部に収納され、代わりに砲台が飛び出す。

 さらにダンクーガ自身を支えるように両足からアンカーが飛び出し、地面に突き刺さった。

 ダンクーガの持つ全ての砲台を展開し、アンカーで機体を固定する。

 此処までの火器管制がジョニーの仕事だ。

 そして此処からの『発射』は先程ライガーの姿に変形した軽戦車型、『ノヴァライガー』のパイロットの仕事だ。

 

 ノヴァライガーのパイロット、ショートカットの青い髪が特徴的な『館華 くらら』が操縦席のトリガーを握る。

 目の前の画面にはロックオンカーソルとその先に映るフォークゾード。

 何秒も時間をかける事は無い。

 くららはものの数秒でフォークゾードに完全に狙いを定めた。

 

 

「断空砲! マキシマムレベル、シュゥゥートッ!!!」

 

 

 くららの強い叫びと共にトリガーは強く引かれた。

 ダンクーガの前方に向けられた全砲門から一斉に強力なエネルギーが放たれる。

 その大火力は容赦なくフォークゾードに炸裂。

 見るものを圧倒するであろう凄まじい一撃はフォークゾードを完全に包み込んでいる。

 砲撃が終了したとき、フォークゾードはまだ立っていた。

 否、原型を残しているだけである。

 既に今の一撃で内部の機械は完全に壊れ、外装もところどころ破損していた。

 

 バランスの制御はおろか動く事も完全にできなくなったフォークゾードは前のめりに倒れ、そのまま大きな爆発を起こして砕け散った。

 

 残ったのはフォークゾードだった残骸と、ほぼ無傷の状態のダンクーガだけだった。

 

 

 

 

 

 一方のゴーバスターオーとタイプγ。

 確かにタイプγはゴーバスターオーでしか対処できないほど強い。

 だが、裏を返せばゴーバスターオーなら対処ができるという事でもある。

 先程までは2対1だったから苦戦を強いられていた。

 しかし今なら何の問題も無い。

 

 ゴーバスターオーのブーストバスターソードによる斬撃はタイプγに確実に当たっている。

 3体合体を果たしたその攻撃は重く、タイプγにダメージを与えていた。

 しかしタイプγも強い事に変わりはない。

 エネトロンが切れる前に何としても決着をつけなくてはならない。

 

 

「止めだ!」

 

 

 レッドバスターの声と共に、ブルーバスター、イエローバスターがそれぞれの操縦席で必殺の一撃への準備を始める。

 

 

「エネトロン、インターロック!」

 

 

 イエローバスターが辺りの機器を操作し、ブーストバスターソードにエネトロンを送り出す。

 それに続いてブルーバスターも自身に与えられた役割を果たす。

 

 

「出力アップ。50%、60%……」

 

 

 ブルーバスターはレバーを押し続け、出力を上げていく。

 10%上がるごとにカウントが入る。

 そして、出力100%に到達した。

 それと同時にゴーバスターオーの胸部と足に取り付けられたGT-02のパーツ。

 そのタイヤ部分からエネルギーが発せられ、それによって発生した疑似亜空間フィールドでタイプγを捕まえた。

 

 

「ディメンションクラッシュ!!」

 

 

 ────It's time for buster!────

 

 

 レッドバスターが必殺の名称を宣言しつつ、モーフィンブレスのスイッチを押した。

 エネトロンが完全に充填されたブーストバスターソードを携え、ゴーバスターオーは身動きの取れないタイプγに全力で接近。

 そしてブーストバスターソードで一閃、タイプγを斬り裂いた。

 

 ゴーバスターオーは接近した勢いをそのままにタイプγの後方に抜け、急ブレーキをかけて止まった。

 疑似亜空間フィールドから解放されたタイプγはディメンションクラッシュの一撃に耐えきれず、爆散。

 つまり、ゴーバスターズが勝ったのだ。

 3人ともホッとしたように息をつき、作戦終了の言葉を司令室に向けて送った。

 

 

「シャットダウン、完了……!」

 

 

 計器を見れば、ゴーバスターオーのエネトロン残量は残り1桁までになっていた。

 ディメンションクラッシュの一撃を使ったのも大きいが、恐らくそれ以前に分離状態で戦っていたのもあるだろう。

 確かにゴーバスターオーでいるよりも3機で戦っていた方がエネトロンの減りは遅い。

 だが遅いだけで減りはするし、何よりCB-01に至ってはレゾリューションスラッシュという大技を使った後での合体であった。

 今回の苦戦の要因はそれだろう。

 リュウケンドーとリュウガンオー、そしてダンクーガには本当に助けられてしまった。

 勿論ディケイドや翼、響もだ。

 メタロイドを誰かに任せておかなければより苦戦を強いられていたに違いない。

 ゴーバスターズの3人だけでなくバディロイドも、司令室の面々もそれを感じていた。

 

 

「ダンクーガは……!?」

 

 

 レッドバスターが残り少ないエネトロンを使ってゴーバスターオーを動かし、ダンクーガがいる筈の方向にメインカメラを向ける。

 モニターに映ったのは既に4機に分離しているダンクーガの姿。

 4機は空中の輸送機に帰還しようとしていた。

 

 

「待て! お前達は……!!」

 

 

 追おうとするレッドバスターだが、ゴーバスターオーの残りエネトロン残量を考えれば追うのは最早不可能。

 そんな事は分かっていたが、今回は味方してくれたとはいえダンクーガが正体不明なのは変わらない。

 そんな存在を野放しにしておくわけにはいかない。

 レッドバスターのそんな感情を知ってか知らずか、ノヴァイーグルのパイロットの声が再び辺りに響く。

 

 

「またいずれ会うかもしれないわね。その時はよろしくね、ゴーバスターズ」

 

 

 それだけ言ってノヴァイーグルは輸送機に帰還した。

 4機全てを回収した輸送機はすぐさまその場を飛び去っていった。

 追える者は、誰1人としていなかった。

 

 

 

 

 

 2時間ほど経ち、特命部の司令室。

 司令の黒木にオペレーターの仲村と森下。

 ゴーバスターズとバディロイド、士、響、翼。

 そして今回は剣二と銃四郎もその場に呼び出されていた。

 ついでに言えばゲキリュウケンとゴウリュウガンもいる。

 

 剣二達の司令である天地は後で説明する、なんて言っていたが、今後の説明ならこちらの方が手っ取り早いとして特命部に行くように命じられたのだ。

 

 剣二と銃四郎はこの場にいる戦士達と素顔で対面するのは初だ。

 勿論、ゴーバスターズ達にとってもそれは同じである。

 

 全員が集まったところで、黒木が早速話を切り出した。

 

 

「彼らは『S.H.O.T』の魔弾戦士。鳴神剣二君がリュウケンドー、不動銃四郎君がリュウガンオーなのは、既に知っての通りだ」

 

 

 黒木の言葉にヨーコが挙手する。

 

 

「S.H.O.Tと魔弾戦士って、何なの?」

 

 

 ヨーコの疑問は剣二と銃四郎以外が全員抱いている疑問だ。

 恐らく特命部と二課、さらにそこに加わる組織なのだろうという事は分かる。

 だが組織としての目的が分からない。

 此処でヒロムは最初にリュウケンドーと会った時の言葉を思い出した。

 

 

「確か、ジャマンガとかいう奴がどうとか言っていたな」

 

 

 剣二は頭を掻いて困ったような表情を作った。

 

 

「こういう説明は苦手なんだよなぁ……おっさん頼む!」

 

 

 剣二がわざとらしく手を合わせて大袈裟に頭を下げる。

 態度そのものは別にどうでもいいのだが、銃四郎としては発言の1つが見逃せない。

 

 

「おっさん言うな! 初対面の人にまでおっさん呼ばわりされたら堪ったもんじゃない……」

 

 

 実は銃四郎、剣二の『おっさん』呼びがあけぼの町でも一部に定着してしまっているのだ。

 故に極めて不本意ながらおっさんと呼ばれる機会が多くなっている。

 ちなみに銃四郎本人は25歳である。

 

 その剣二と銃四郎の態度を見て、他の面々はクスリと笑みを零す。

 新たな仲間がどんな人かと思っていたが、どうやら親しみやすそうな人だ、と。

 

 周りの笑みを銃四郎は一度大きな咳払いで止めさせた後、全員の前に立った。

 

 

「じゃあまず、俺達とジャマンガの事を簡単に説明させてもらう」

 

 

 銃四郎は要点だけを掻い摘んで説明した。

 

 魔弾戦士はS.H.O.Tという組織に所属する戦士の事。

 彼らの使命は『魔人軍団 ジャマンガ』の脅威から人々を守る事である。

 ジャマンガは『魔物』という怪物を繰り出し、人々を恐怖に陥れる。

 ジャマンガの狙いは『マイナスエネルギー』と呼ばれる人々の負の感情から生成されるエネルギー。

 故にあけぼの町の人々を生かさず殺さず苦しめているのだ。

 

 ジャマンガが現れたのは半年ほど前。

『パワースポット』と呼ばれる膨大な魔力を発する物の封印が解けてからだ。

 恐らくこれが引き金になったのだろうと推測されている。

 

 そしてS.H.O.Tは『都市安全保安局』に所属する組織。

 対魔戦特別機動部隊の事であり、その存在は外部の人間すべてに秘密である。

 人々はS.H.O.Tの存在を知ってはいるが、誰が所属し何処にあるかは知らない。

 

 S.H.O.Tという言葉に響が反応を示した。

 

 

「S.H.O.T……あ、ワイドショーとかで見た事あります。

 でも、最近聞かないような……」

 

 

 彼女の言う通り、S.H.O.Tはそれなりに有名な組織である。

 だがある時を境にパッタリとS.H.O.Tに関しての特集が組まれなくなっていった。

 銃四郎曰く、「所詮対岸の火事程度にしか思われなかった」という事らしい。

 

 魔物はあけぼの町にしか現れない。

 これは恐らくパワースポットがある事も関係しているのだろう。

 それが分かって以来、あけぼの町外部の人間は魔物、引いてはS.H.O.Tに関心を抱かなくなっていったという。

 

 

「……とまあ、こんなところか」

 

「さすがだぜおっさん! 俺、そういうのって上手く言えなくてよぉ」

 

「だからおっさん言うな!」

 

 

 相も変わらずおっさん呼びをやめようとせず、勿論今回も抗議するが剣二は笑って流してしまう。

 銃四郎としても困りものであった。

 溜息をつく銃四郎を余所に、黒木が司令室の椅子から立ち上がり、剣二と銃四郎に近づく。

 

 

「この合併案に参加してくれたことを、特命部と二課を代表してお礼を言わせてもらう」

 

 

 その厳格な態度に剣二と銃四郎も思わず背筋を伸ばして対応してしまう。

 差し出された手には銃四郎が答え、しっかりと握手を交わした。

 

 

「あ、いえ。こちらこそ、宜しくお願いします」

 

 

 銃四郎の横で剣二も緊張した表情で軽く頭を下げた。

 さすがに司令官という立場、それに黒木はかなり堅物なイメージを抱かれる人間だ。

 その様子にあまりふざけられないと思ったのだろう。

 そんな2人を見て黒木は少し笑うと、剣二と銃四郎の肩を優しくポン、と叩いた。

 

 

「此処にいる面々はみな、君達と同い年ぐらいか年下の者ばかりだ。こちらこそ宜しく頼むぞ」

 

 

 少し親しげな雰囲気で語り掛けられた為か、緊張もややほぐれた。

 

 さて、新たな仲間が2人加わってくれたのは極めて喜ばしい事である。

 だがもう1つ、今回の戦場に現れた乱入者の事を忘れてはならない。

 

 

「……ところで、ダンクーガの事は」

 

 

 ヒロムが切り出した。

 全員がヒロムの方を振り向き、黒木は考え込むような顔をしている。

 

 

「今回の合併案、あと1つ組織が参入する予定だが、それにダンクーガは関係ない」

 

 

 黒木は剣二、銃四郎と握手を交わした後に2人から離れ、再び司令席に戻って全員の顔を見渡しながら言う。

 

 ダンクーガ。

 

 今回の乱入者の中で完全に想定外だった謎のロボット。

 その目的、パイロット、所属と所在は完全に謎に包まれており、特命部も二課も実態を掴めないでいる。

 

 

「敵じゃないようだったが、どうなんだ」

 

 

 士の言葉にゴーバスターズとバディロイドは頭を悩ませる。

 どうなんだ、と言われても、それはこっちが聞きたい事だった。

 ダンクーガのパイロットの言葉を信じるなら味方である。

 

 

「少なくとも、今の所は敵じゃない……のかな?」

 

 

 リュウジも曖昧な答えしか出せない。

 だが、その答えが一番しっくりくる回答でもあった。

 

 

『変な連中だよね!』

 

 

 ウサダが手を上下させて強い口調で言った。

 戦場に現れては戦力を均等にし戦争を長引かせていると思えば、急に片方に加担する。

 相手が人類の敵だから、という理由に納得はできるが、だとすれば普段の戦争への介入行為は何なのか。

 ウサダの評価も尤もであった。

 

 ダンクーガについて考え込む一同を余所に、剣二と銃四郎はウサダを奇異の目で見ていた。

 

 

「……あのよ、このオモシロロボットはなんだ?」

 

 

 指を指してきた剣二にウサダが手を先程よりも激しく上下させた。

 

 

『何それ! 僕はオモシロロボットじゃなくてウ・サ・ダ!!』

 

 

 ウサダは手を上げ、剣二の腰を示しながら尚も抗議を続ける。

 

 

『それに、僕がそうならそれはなんなのさ! そのヘンテコな剣は!』

 

 

 その言葉は剣二にではなく、剣二の腰に付いているゲキリュウケンに向けられていた。

 

 

『んなっ!? 誰がヘンテコな剣だ! ……剣二! お前のせいだぞ!』

 

 

 ゲキリュウケンは相棒を責めたてる。

 どう考えても剣二の失言が原因なのに自分に被害が及んだのだから当然と言えば当然である。

 ゲキリュウケンやウサダの激しい抗議にやや気圧されつつ、剣二は「悪ィ悪ィ」とあまり誠意が籠っていない謝罪をした。

 やや不満そうなゲキリュウケンやウサダを余所に、剣二はもう1人、気になっていた人物に目を向けた。

 

 

「ところでよぉ……そこの嬢ちゃん、なぁんかどっかで見た事が……」

 

 

 沈黙を守ってきた翼が剣二を流し目で見やった。

 剣二も銃四郎も自分達の説明はしたが、まだゴーバスターズやシンフォギア、仮面ライダーに関して何も知らされていないのだ。

 

 ダンクーガについては幾ら話し合っても分かるはずはないと一旦話題を打ち切り、剣二達にこの部隊の説明をする事になった。

 ゴーバスターズの事、シンフォギアの事、仮面ライダーの事を。

 

 

 

 

 

 しばらくして説明が終わった後、各々は各自で打ち解け始めた。

 ゲキリュウケンやゴウリュウガンがニック達と相棒に関して話し合ったり。

 

 

『ヒロムの奴、ストレート過ぎてさぁ……』

 

『冷静なだけいいじゃないか。ウチの剣二を見てみろ、冷静さの欠片もないバカだぞ』

 

「おいゲキリュウケン! 俺の事好き勝手言いすぎだろ!?」

 

 

 銃四郎がやけにリュウジと意気投合したり。

 

 

「俺、28なんですよ。おっさんて言われると何か凹みますよね」

 

「分かってくれるのか! まだ20代なんだからなぁ。……年長者なのは確かだが」

 

「ええ、まあ。ヒロムやヨーコちゃんが凄い若いっていうのもあるんですけどね」

 

 

 先程の戦いで剣二と士が話していたり。

 

 

「よう! さっきは助かったぜ! ええと、ディ……なんだっけ?」

 

「ディケイドだ。さっさと覚えろ」

 

「な、なんかいちいち棘があんなお前……」

 

 

 それなりに和気藹々としていたのは別の話。

 

 しかし、例外が1つ。

 みんなが打ち解けている空間から翼が離れようとするのを、響が恐る恐る止めた。

 

 

「あ、あの、翼さん、何処に行くんですか?」

 

「……関係ないでしょう」

 

 

 だが、返って来たのは冷たい言葉。

 その言葉だけ置いて、翼は司令室から出て行った。

 

 ────不協和音は、未だ止まず。

 

 

 

 

 

 戦いが終わった後、エンターはある場所を訪れていた。

 そこは辺り全体が暗く、空中には巨大な緑色の卵が浮かんでいる。

 中央には炉のようなものが置かれており、そこに1人の老人が佇んでいた。

 老人と言ってもその姿はおよそ普通の人間ではなく、背中などから虫の足のようなものが幾つか飛び出している。

 さらに巨大なサソリの尻尾のようなものまで付いているうえ、頭にも小さく角がついている。

 

 老人の名はジャマンガ幹部、『毒虫博士 Dr.ウォーム』。

 そして此処はジャマンガの本拠地である。

 

 

「Dr.ウォーム。貴方の言っていた魔弾戦士とやら、中々に手強いようですね?」

 

「だからいったじゃろ。油断はするなと」

 

 

 エンターはウォームと親しげに会話を始めた。

 実はエンター、ある1つの作戦を始めていたのだ。

 それは他の組織と協力関係を結ぶ事。

 世界を守る組織が幾つか存在するように、人間と敵対関係にある組織もまた複数ある。

 エンターはゴーバスターズ達がシンフォギア装者や仮面ライダーと手を組んだ事を察知した。

 で、あれば、こちらも戦力増強を考えるべきである、というのがエンターの考えであった。

 

 組織によって目的は違う。

 例えばヴァグラスはエネトロンを集める事で、ジャマンガはマイナスエネルギーを集める事だ。

 収集対象が違うのだから、当然利害関係は一致しないように思える。

 だが、共通点はあった。

 それは敵対し、自分達の邪魔をする戦士がいるという事だ。

 人類にとって敵であるという共通点があり、お互いに狙う物は違う。

 おまけに相手方の戦士は手を組み始めた。

 ならば協力関係にこそなれど、敵対関係になる筈もない。

 

 人類と敵対する組織を探す中で、エンターはジャマンガという組織の事を知った。

 そこでエンターはあけぼの町にしばらく潜伏し、魔物の登場を待った。

 そしてある時、魔物が出現した際にジャマンガと接触し、今のように協力関係を結んだというわけだ。

 

 

「じゃが、感謝するぞよ。お主達が暴れてくれたおかげで、こちらは労せずしてマイナスエネルギーを溜める事ができたわい」

 

 

 ウォームは空中に浮かぶ巨大な緑色の卵を見る。

 マイナスエネルギーは全てこの卵に吸収されるようになっているのだ。

 この卵の正体はジャマンガのトップに位置する『大魔王グレンゴースト』。

 マイナスエネルギーを集め、この大魔王を復活させる事がジャマンガの目的なのだ。

 

 ウォームの言葉にエンターは機械的な調子で返した。

 

 

「いえいえ、こちらの作戦に遣い魔達を貸し出してくれましたし。

 できれば、今度は魔物というのも貸してほしいところですが」

 

「本当なら断るところじゃが、いいじゃろう。今後とも、頼むぞよ?」

 

「世の中はギブアンドテイクです。こちらこそ宜しく、Dr.ウォーム」

 

 

 エンターは軽くお辞儀をして見せた。

 ウォームの「うむ」と頷いた反応を見た後、エンターはデータの粒子となりその場から消えた。

 再び作戦を考えに行ったか、自らの本拠地に戻ったのだろうか。

 残されたDr.ウォームは炉に顔を向けた。

 

 

「油断ならん奴じゃが、今の所は敵ではない……」

 

 

 エンターという人物は芝居をするような口調や、ややふざけた印象とは異なり合理主義者の側面も持ち合わせている。

 正しく掴みどころがないというか、ウォームもそれを感じ取っていた。

 故に、油断ならない。

 だが取り立てて敵対行動に移ろうとしているわけでもない以上、やたらに警戒する意味もない。

 

 

「……今は精々、利用させてもらうとするかの」

 

 

 醜悪な笑みを浮かべるウォーム。

 結局のところエンターが言っていた『ギブアンドテイク』。

 この言葉が両者の関係を物語っているという事だろう。

 

 

 

 

 

 さて、再び舞台は特命部。

 魔弾戦士達との初体面も無事に終わり、現在司令室には黒木1人だ。

 黒木は弦十郎と通信をしていた。

 

 

「ヴァグラスとジャマンガが手を組んだか……どう見る? 黒木」

 

「こちらが手を組んだから。そう考えるのが妥当だろう」

 

 

 今回のエンターはジャマンガと共同戦線を張ってきた。

 ダンクーガ介入のインパクトで薄れていたが、それもまた見逃せない事態の1つである。

 敵が手を組むのなら、こちらも手を組む。

 だがそれは、言うは易く行うは難しだ。

 それをいとも容易くやってのけたエンターは、やはり侮れない敵である。

 

 

「……話は変わるが黒木、さっきの相談の話。なんだったんだ?」

 

 

 2人が連絡を再び取りあっているのは黒木が敵の出現直前に言った『13年前を知る仲を見込んでの相談』についてだった。

 黒木はその事か、と一度顔を俯かせた後、決心したように語りだした。

 

 

「実は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当なのか……!?」

 

 

 その内容は、弦十郎を驚愕させるのに十分なものだった。

 弦十郎だけでなく、これを聞いた時には黒木本人も衝撃を受けた。

 それこそ、本当なのか疑うくらいに。

 弦十郎の言葉に黒木は落ち着いて答えた。

 

 

「分からん。だが、『アイツ』の言う事だ。もしかすると……」

 

「では、指定された場所に?」

 

「……行くつもりだ」

 

 

 黒木は『ある人物』から呼び出しを受けていた。

 その人物は本来この世界に存在する事が有り得ない存在。

 だが、『こちらに来る』と連絡を寄越してきたのだ。

 

 その連絡が何らかの罠、あるいはまた何か別の、色々と可能性は考えられる。

 だが、本当にこの世界にやってくるという可能性も捨てきれずにいた。

 何故ならその『彼』は、調子の良い軽い奴だったが、誰よりも天才だった。

 不可能も可能にしてしまうのではないか、そう思えるほどに。

 そしてその事は黒木が一番理解していた。

 

 

「アイツの事だ、有り得なくはない」

 

「……そうか。それにしても、再び彼と会えるかもしれないとはな」

 

 

 弦十郎は懐かしそうに、その名を呟いた。

 

 

「『陣 マサト』……か」




────次回予告────
不協和音の止まらぬまま、出会いと再会も止まらない。

行動が起こす連鎖は未熟な戦士を渦中に導く。

例え1人が未熟でも、2人ならば奇跡だって────

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