スーパーヒーロー作戦CS   作:ライフォギア

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第13話 摩擦と溝

 魔法使いが魔法少女と伝説の戦士との出会いを果たしている頃。

 特命部、廊下。

 背もたれのないソファに座るゴーバスターズの3人と士。

 ゴーバスターズの3人は非常に神妙な面持ちで、士は非常に面倒そうな顔をしていた。

 

 

「どうするんだ、あの2人」

 

「俺が知るか」

 

 

 ヒロムの言葉に面倒なのを隠す気もなく士が返す。

 実際、この問答に意味がない事をヒロムも分かってはいる。

 しかし解決策がまるで見つからないのだから仕方がない。

 二課と特命部が共同戦線を組み、士も合流してから約1ヶ月経った。

 しかし、まるで噛み合わないのだ

 

 士ではない。

 ゴーバスターズでもない。

 響と翼、同じシンフォギア装者であるはずの2人が、だ。

 

 

 

 

 

 時は約1ヶ月前、響が初めて覚醒し、メディカルチェックが終わってからの最初の戦闘だ。

 ノイズ出現の為に響と翼、ゴーバスターズと士が出撃をした。

 初めての共同戦線ではあるが、ノイズを殲滅できる戦士が6人もいるのだから余裕だったはずである。

 実際、余裕だった。

 その日のノイズは短時間で片が付いたからだ。

 問題はその後だった。

 

 全てのノイズを倒した後、翼の元に響は駆け寄った。

 

 

「翼さーん!!」

 

 

 その声に翼は振り向きもしない。

 だが、響は続ける。

 

 

「私、今は足手纏いかもしれません。でも、一生懸命強くなってみせます! だから……」

 

 

 屈託のない笑顔で響は言う。

 

 

「一緒に戦ってください、翼さん!」

 

 

 ゴーバスターズやディケイド、翼に比べて響の戦いは完全に素人の物だった。

 倒したノイズの数も雲泥の差だし、まともな戦いにもなってはいない。

 でも、少しでも誰かの助けになれば。

 いつか翼さんのように強くなり、多くの人を助けられれば。

 そう思った響はこの戦いに参加した。

 一緒に戦ってほしい、尊敬の念を込めて響はそう言った。

 

 

「……そうね」

 

 

 響の方に振り向く翼。

 肯定の言葉に喜ぶ響だが、続く言葉は予想外の一言だった。

 

 

「貴女と私、戦いましょうか」

 

 

 そう言って、自らの剣を響に向ける。

 この場にいる全員がその光景を見て固まった。

 ディケイドも、ゴーバスターズも。

 そして二課司令室にいる面々もそれは同じだった。

 

 

「な!? 何をしているんだあいつ等は!?」

 

「青春真っ盛りってやつ? いいわね~」

 

 

 驚く弦十郎とは対照的に、マイペースを貫く了子。

 剣を突きつける光景を青春というのなら、一体どれだけ殺伐とした青春なのだろう。

 了子の発言にツッコむ事も無く、弦十郎は司令室にある1人乗りの地上に上がるエレベーターに乗った。

 

 

「司令、どちらに?」

 

 

 オペレーターのあおいの声に弦十郎は強く答えた。

 

 

「あの馬鹿者どもを、誰かが止めんといかんだろうがよ」

 

 

 そう言って弦十郎はエレベーターで地上に上がった。

 エレベーターを見送った了子は、わざとらしく肩をすくめた。

 

 

(お疲れさま、弦十郎君)

 

 

 間違った事をしようとしている子供を止める大人としての役割を果たそうとする弦十郎を、了子は心の中で労うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんでそんな……!?」

 

「私が貴女と戦いたい。それでは不服かしら」

 

 

 戸惑う響の言葉にも翼は淡々とした様子だ。

 何が何だか響には分からなかった。

 共闘は持ちかけても決闘を申し込んだ覚えは一切ない。

 何より、自分と戦いたいという理由が分からなかった。

 

 

「そんなの、分かりません! 不服っていうか、受け入れられません!」

 

「私も、貴女を受け入れられない。貴女と力を合わせる……

 そんな事、風鳴翼が許せるはずがない」

 

 

 突き付けた剣はそのままだ。

 響はその翼の冷淡な様子と威圧に完全に怯んでいた。

 

 

「貴女も『アームドギア』を構えなさい。それは常在戦場の意思の体現。

 貴女が何物をも貫き通す無双の一振り、ガングニールを纏う者であれば……」

 

 

 より一層声の強みを増し、翼は怒鳴るように言い放った。

 

 

「胸の覚悟を、構えてごらんなさいッ!」

 

 

 アームドギアという言葉自体分からない響にとっては、何の事だかさっぱり分からない。

 何よりも、それとこの状況とが何の関係があるのか。

 戸惑う響に翼は畳みかけるように言った。

 

 

「覚悟を持たずにのこのこと遊び半分で戦場に立つ貴女が、奏の何を……」

 

 

 翼は先程の怒鳴りよりもさらに怒気を強め、全力で響を睨み付ける。

 

 

「何を受け継いでいるというのッ!!」

 

 

 言葉と共に思い切り跳び上がり、そこから剣を響に向かって投げる。

 剣は瞬く間に巨大化し、10数mはある巨大な剣へと変貌した。

 その剣の柄に足を当て、蹴り込むような姿勢となる翼。

 さらに翼が纏うシンフォギアの足に装着されているパーツが展開し、ブーストをかける。

 

 

 ────天ノ逆鱗────

 

 

 誰がどう見ても、それは『必殺』の一撃だった。

 

 それを見た瞬間、ゴーバスターズもディケイドも動き出していた。

 ゴーバスターズはイチガンバスターとソウガンブレードを合体させ、スペシャルバスターモードに。

 ディケイドは黄色いカード、『ファイナルアタックライド』のカードを取り出した。

 止めなくては響の身が危ない。

 だが、それを止めたのは響でもゴーバスターズでもディケイドでもなかった。

 

 

「オラァッ!!」

 

 

 響の前に立ったのは、弦十郎だった。

 弦十郎が突き出した拳は逆鱗を受け止め、さらに気合いを入れ、足に、拳に力を入れる。

 そして、拳は逆鱗の剣を止めた。

 踏ん張った衝撃と逆鱗の力の為か、地面にクレーターのような穴が空いた。

 しかし、弦十郎はその身1つで完全に逆鱗を防ぎ切り、あまつさえ弾き返してしまったのだ。

 クレーターの空いた地面からは水道管が通っていたのか、水が噴き出してきていた。

 噴き出した水はまるで雨のようにこの場に降り注いでいる。

 

 

「……あのおっさん、化物かよ」

 

 

 ディケイドは変身を解除しながら呟いた。

 正直なところ、それはゴーバスターズの3人も同じ感想を抱いていた。

 そして一瞬、この人と友人の黒木司令も似たような事が出来るのかと考えたが、それは無いと即座に否定した。

 だとすれば自分から前線に出てヴァグラスを叩き潰していそうなものだ。

 

 そんな事よりも、今は目先の状況の方が重要だった。

 へたり込む響、攻撃を止められ、顔を俯かせて座り込んでしまう翼。

 どちらもシンフォギアは解除されていた。

 

 

「ったく、この靴高かったんだぞ? 一体いくつの映画が借りられると思ってるんだ」

 

 

 攻撃を止めた弦十郎は、いつものように朗らかなテンションだ。

 見れば、先程の衝撃で靴が破れていた。

 残っているのは底の部分のみで、上の足を覆う部分は殆ど破れている。

 弦十郎は座り込む翼に近づいた。

 

 

「どうした、らしくないな翼。狙いつけずにぶっ放したか? それとも……」

 

 

 近づいて初めて、弦十郎は気付いた。

 翼の頬を伝う水。

 それは上から降り注ぐ水道管の水などでは無かった。

 

 

「お前、泣いて……」

 

「泣いてなんかいません!!」

 

 

 だが、その事実を翼は強く否定した。

 

 

「涙なんて、流していません。風鳴翼は、その身を剣と鍛えた戦士ですッ!」

 

 

 強がりだ。

 誰の目から見ても、それは明らかであった。

 響は立ち上がって、翼の元へ駆け寄った。

 

 

「私、自分が本当にダメダメで未熟者なのは分かってます。

 でも、でも……いつか必ず、凄い頑張って……」

 

 

 そして次の一言は、茫然自失と相違ない翼を目覚めさせた。

 

 

「奏さんの代わりに、なってみせますッ!」

 

 

 次の瞬間にはもう手が出ていた。

 響の頬を、強く、強く翼は叩いた。

 叩かれた衝撃で倒れ込む中、響の目は確かに見た。

 

 翼の頬には、確かな涙が流れていた。

 

 

 

 

 

 そしてそれから約1ヶ月の間、響と翼が仲良くなる兆候はない。

 この前の戦闘でも全くと言っていいほど噛み合っていなかった。

 

 

「……ま、今回のは両者とも悪いって気はするけどね」

 

 

 リュウジが肩をすくめる。

 全員がリュウジを見るなか、言葉を続けた。

 

 

「翼ちゃんは響ちゃんの事を、響ちゃんは翼ちゃんの事を分かってない」

 

 

 簡潔に言ってしまえばそうなる事は4人とも分かっていた。

 

 翼は奏の事を唯一無二のものだと思い、代わりなどいないと思っている。

 それは当然の事であり、間違っていない。

 だからこそ、響の最後の言葉は間違っている。

 だが、天羽奏の後継者として、まだ何も知らない響にありとあらゆるものを求めるのも間違っている。

 

 後継者と代わり、似ているようで、それは全く違うものだ。

 お互いに求めるものと思い描くものがすれ違っていた。

 響は翼の気持ちを考えず、翼は響の気持ちを考えていない。

 それが対立の原因だろう。

 

 

「ンなもんは自分で解決しろって事だ」

 

 

 士は椅子から立ち上がり、手をひらひらと振ってその場から去って行ってしまう。

 その後姿を残された3人は見つめていた。

 

 

「何アレ。冷たすぎじゃない?」

 

 

 ヨーコが顔を顰めながら言うが、ヒロムもリュウジもそうは思っていなかった。

 

 

「いや、アイツが正しい」

 

「これはあの子達が、あの子達で解決しなきゃいけない。

 手を貸すぐらいならともかく、俺達が必死に動いてどうにかしようって問題じゃないよ」

 

 

 今回の問題は2人の気持ちの問題だ。

 人の心は結局、その人自身でしか決める事ができない。

 ならば、最大限できる事を考えても手助けのみ。

 答えはあくまでも2人が2人で出さなくてはいけないのだ。

 

 

 

 

 

 それからまた1週間ほど経ったある日。

 特命部の廊下にて、自分達の乗る巨大な愛機、『バスターマシン』の操縦訓練が終わった後、通路を歩いていた。

 

 

「ねぇねぇ、ヒロムは『エイーダ・ロッサ』と翼さん、どっちが好き?」

 

「興味がない」

 

「少しくらいそういうのにも興味持ちなさいよねー。翼さん、折角仲間になったんだから」

 

「仲間と言っても、あの状態だぞ」

 

「う……」

 

 

 ヨーコの言葉を適当にあしらうヒロム。

 それを見て苦笑いするリュウジ。

 いつものようにいつものような会話が繰り広げられていた。

 翼が仲間に加わってから、ヨーコはたまにテンションが高くなる。

 やはりトップアーティストが身近にいるというのは1人のファンとしては堪らなく嬉しいのだろう。

 とはいえ、当の翼は響と絶賛対立中の一触即発な雰囲気で、とても仲良くお話という状況ではないのだが。

 

 1週間経っても響と翼の仲は一向に改善されない。

 

 

「まあヒロムは『ダンクーガ』とかの方が気になる?」

 

 

 リュウジの言葉にヒロムは顔を顰めて答えた。

 

 

「戦いの不利な方に味方して、均等な戦力になったら撤退……。

 あんなの、戦争を長引かせてるだけじゃないですか」

 

 

 リュウジの言った『ダンクーガ』とは、世界各国に現れる巨大ロボの事だ。

 世界から戦争や紛争は未だ消え去っていない。

 そんな中、その存在は現れた。

 

 ヒロムの言葉通り、そのロボットは戦争を行う両者の戦力を均等にすると去っていく謎のロボット。

 負けている側からすれば救世主、勝っている側からすれば悪魔。

 だが同時に、明日には味方にも敵にもなるかもしれない存在であるという事だ。

 時折、ロボットという特性を生かしてノイズからの人命救助を行うという話も聞くが、普段やっている事がやっている事だ。

 とはいえ、最近はあまり戦争に介入する事もないらしいが。

 

 

「特命部も調べたらしいけど、何か妙な構造してるみたいだよ。

 少なくとも『メガゾード』とは違うタイプだってさ」

 

 

 メガゾードとは、所謂巨大ロボであり、ヴァグラスが使う巨大兵器の事で、それは全てメタロイド出現から時間を置いて亜空間から出現する。

 ゴーバスターズのバスターマシンも分類的にはメガゾードとして扱われる。

 だがダンクーガのそれは、どうやらメガゾードの基本には当てはまらないらしい。

 

 

「誰が造ったんだろうね、それ」

 

 

 ヨーコの疑問は最もだ。

 戦力を均等にできるという事は、裏を返せば戦争に介入しても問題のない戦力と優勢な側を一方的に叩きのめせる力を持っているという事。

 1体のロボットでそれほどの事ができてしまうのだ。

 確かにバスターマシンでも可能ではあるだろうが、それでも十分に凄まじい能力であると言える。

 世界の為に戦い、様々な秘密を知るゴーバスターズにも、知らない事はまだ山ほどあるのかもしれない。

 

 3人はそこで真面目な話を区切り、また別の話題に切り替わった。

 談笑しながら3人は各々の部屋へ向かって歩を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 ヒロム達が訓練を終えて少し経った後、特命部司令室。

 3人は自室で休憩の為、今司令室にいるのはオペレーターの森下と仲村、そして司令官である黒木だけだった。

 森下と仲村がコーヒーを飲みながら談笑するなか、黒木だけは司令室の中央、自分の席にあるモニターを見ていた。

 

 

「こうして普通に話すのは久しいな、弦十郎。

 以前はお互いに組織の司令官として、だったからな」

 

「ああ、黒木」

 

 

 黒木は通信機越しに弦十郎と話をしていた。

 彼らは13年来の付き合いだ。

 

 元々、転送研究センターの転送技術の研究。

 二課の前身である『風鳴機関』が目をつけ、スポンサーとなった。

 対ノイズを調べ、聖遺物を研究した風鳴機関は『転送』という技術にノイズの位相差障壁を無効化できる可能性を感じたのだ。

 位相差障壁は簡潔に言えば『別の次元に自分の体を置く』事を意味する。

 

 この事実は、自然発生するノイズは別次元から零れ落ちてきている、と仮定する根拠となった。

 となれば、聖遺物を完全に制御し、そこに向かう事ができればノイズ根絶が可能かもしれない。

 その為、『転送』という技術を目的に風鳴機関はスポンサーとなったのだ。

 

 弦十郎と黒木はお互い、当時は今のような上の役職ではなかった。

 それどころか弦十郎は当時、ただの一介の公安警察官でしかなかった。

 しかし、警察官とはいえスポンサーの一族という事で転送研究センターを度々視察していた弦十郎と転送研究センターの職員であった黒木は自ずと知り合い、いつしか友人に。

 

 しかし打ち解けたのも束の間、そこで『メサイア』が暴走、亜空間が発生してしまう。

 さらにその影響で史上類を見ないほどのノイズの大量発生。

 転送研究センターの職員は亜空間に、その周辺の人間はノイズにより多大な犠牲が出てしまった。

 その時、黒木は丁度外勤からの帰宅中、弦十郎も視察には来ていなかったのだ。

 そして黒木は、後にゴーバスターズとなる3人とそのバディロイドを託された。

 その時はノイズから3人を守る為に必死で逃げた事を黒木は鮮明に覚えている。

 

 この事件の後、ノイズは認定特異災害に指定され、風鳴機関を元に『二課』が発足。

 そしてそれに合わせるように、対ヴァグラス対策として『特命部』も設置された。

 転送研究センターと風鳴機関に繋がりがあったためだ。

 

 そして弦十郎と黒木はそれぞれの司令官となり、現在に至るのである。

 

 

「しかし驚いたぞ。他の組織との一時合併なんて」

 

 

 これを発案したのは弦十郎だ。

 突拍子もない案であったから話が来たときは黒木も驚いたものだ。

 だが、最初に旧来の友人に話を持ち掛ける辺りちゃっかりしている。

 

 

「ヴァグラスの活動も本格化してきた。エネトロンが狙われて困るのはエネルギー管理局だけではないからな」

 

 

 弦十郎の言葉に黒木も頷く。

 

 エネトロンは電気や石油に代わるエネルギーとして、今や完全に定着している。

 爆発的なエネルギーを得れて、安全で、尚且つクリーン。

 正しく理想のエネルギーだ。

 だからこそ世界のエネルギーの殆どはエネトロンによって賄われている。

 故に、エネトロンが狙われるとは、即ち市民の生活が狙われているのと同義なのだ。

 

 

「ノイズも異常なほど多発しているらしいじゃないか。お互い大変だな」

 

 

 全くだ、と呆れたように返事をする弦十郎。

 

 

「ところで他の組織はどうなんだ?」

 

 

 黒木は話題を変え、ずっと気になっていた質問をした。

 弦十郎の提案した『一部組織合併案』。

 これは何も、特命部と特異災害対策機動部だけの合併ではない。

 他にも連絡を取っている組織がある。

 確か、以前の話ではまだ上と話し合っているとの事だが。

 

 

「ああ、比較的好意的だ。残りの組織も参加してくれるだろう」

 

 

 豪快な笑顔でそう言う弦十郎に、黒木も微笑んだ。

 組織同士はそう簡単に接触できるものではないが、利害関係の一致がなされれば例外もある。

 とはいえ、人と人が手を取り合い、人を助ける為に動く。

 素晴らしい事ではないか。

 

 

「……そうだ、実は13年前を知る仲を見込んで、相談が……」

 

 

 黒木が言いかけた瞬間、警報が鳴り響いた。

 

 

「すまない、緊急事態だ」

 

「こちらでも確認している。急ぎ、装者と士君を向かわせよう」

 

 

 特命部司令室は警報と同時に、黒木、森下、仲村が座る席が非常時の戦闘配置に移動した。

 数十秒後、ゴーバスターズ3人とバディロイドが駆け込んでくる。

 森下が司令室のパソコンを操作し、敵の居場所を割り出した。

 

 

「エネトロン異常流失反応、場所は……あけぼの町西地区!

 少し郊外ですが、エネトロンタンクも1つ存在してます」

 

 

 エネトロンの流失。

 それは即ち、ヴァグラスが出現した事を意味していた。

 ヴァグラスはエネトロンを奪うためにそれが貯蔵されている『エネトロンタンク』を狙う。

 となれば、今回の目的もエネトロンタンクに間違いはないだろう。

 

 

「久々にヴァグラスって事か」

 

「最後に現れたのが3週間と少し前。なんでこんなに間を空けたのか……」

 

 

 ヒロムとリュウジが口々に言う。

 最後にヴァグラスが現れたのは、響がシンフォギアを纏い、士が特命部と二課に接触するよりも前だ。

 それ以来、全く現れていなかったのだが、何故長期間間を空けてきたのか。

 しかし、司令官である黒木は別の事に反応を示していた。

 

 

「あけぼの町だと……!?」

 

「どうしたんですか? 司令」

 

 

 考え込む様子の黒木だが、ヒロムの声ですぐに我に返る。

 何よりもまず、指揮官としての務めを果たす事が先決だ。

 

「いや、何でもない……

 ゴーバスターズ出動。バディロイド達はバスターマシンで待機だ」

 

 

 3人と3機は握った左手を胸に当て、親指を立てた。

 そのポーズは特命部特有の敬礼。

 

 

「了解!」

 

 

 強い言葉と共に、ゴーバスターズは現場へ、バディロイドはバスターマシンへと駆けて行った。

 その姿を見送った後、黒木はすぐに弦十郎に連絡を取った。

 

 

「弦十郎、『あけぼの町』と言えば……」

 

 

 その言葉が深刻に語られる意味を弦十郎もよく分かっていた。

 

 

 

 

 

 あけぼの町。

 何処にでもありそうな平和そうな町。

 そんな町で、人々は逃げ惑っていた。

 

 逃げ惑う理由は1匹の化物と、それを取り囲む多くの兵士達が原因だ。

 1匹の化物は金属に覆われた全身銀の姿。

 頭部に三本の銀色の角。

 右手にはフォークのような三又の槍────いや、実際にフォークなのだ。

 この化物、『フォークロイド』は何処にでもあるフォークに『メタウイルス』、『抉る』をインストールされた生まれた怪物。

 そして周りを囲む紫を基調とした機械でできた兵士、『バグラー』。

 

 メタウイルス────それは無機物を怪物へと変貌させるヴァグラスが使うウイルスだ。

 そしてそれをインストールさせる人物は、現在の所1人。

 

 

「さて、後は彼等を待つだけですね」

 

 

 黒を基調にした服に身を包み、かなり特徴的なデザインのゴークルを額に当て、パソコンを携帯している見かけは普通の男性。

 彼がメタウイルスを使う存在、名を『エンター』。

 ヴァグラスがこの世界に送り込んだ『アバター』だ。

 ヴァグラスの首領であるメサイアを亜空間からこの世界に呼び出すためにエネトロンを奪い続けている敵。

 

 彼はゴーバスターズの到着を待っていた。

 エネトロンの奪取を邪魔する敵を。

 

 

「エンター!」

 

 

 自分の名を呼ばれたことで振り返ると、後ろからゴーバスターズの3人が走り込んできていた。

 名を呼んだのはヒロムだ。

 エンターは親しげに手を上げ、軽い挨拶をした。

 

 

サヴァ(ご機嫌いかがですか?)、ゴーバスターズ」

 

 

 サヴァ、とはフランス語。

 このようにエンターはフランス語交じりで話す事がある。

 ついでにおちょくるように軽いノリでもある。

 しかしそんな軽さは無視し、ヒロムはエンターに食って掛かった。

 

 

「こんなに期間を空けて……何が狙いだ!」

 

 

 その問いにエンターが答えるよりも早く、3人のモーフィンブレスが鳴った。

 司令室からの通信だ。

 通信に答えると、相手はオペレーターの1人、仲村だった。

 

 

「た、大変です! 『メガゾード』転送反応、あと5分。しかも……!!」

 

 

 声色は酷く焦っているように聞こえた。

 メガゾードの転送自体はメタロイド出現の時点で覚悟していた事だ。

 仲村だって以前までの戦いではこんなに焦った様子ではなかった。

 なら、何が。

 仲村は焦る様子をそのままに続ける。

 

 

「メガゾードの転送反応……4体! αが2体とβが1体、γが1体です!」

 

 

 ゴーバスターズ3人全員に戦慄が走った。

 これはつまり、50m超の巨大な敵が4体、5分後に現れるという事だ。

 通常メガゾードはメタロイド1体につき1体。

 例外がない事は無いが、4体という数は初めてであった。

 

 メガゾードにはそれぞれタイプがある。

 スピード特化の『タイプα』、パワー特化の『タイプβ』、そしてαとβ以上のスペックを誇る『タイプγ』。

 どれも強力だが、特にタイプγはゴーバスターズの3つの機体が合体した『ゴーバスターオー』でなければ敵わない強敵だ。

 挙句の果てに、タイプγを含めそれが4体。

 

 

「エンター! どういう事だ!!」

 

 

 ヒロムの怒鳴り声にエンターは笑って答えた。

 

 

「貴方方が他にも仲間を作った事はこちらでも把握済みです。

 ゴーバスターズ3人でさえメタロイドとメガゾードを退ける力を持っている……。

 で、あれば、その仲間が増えた事は脅威以外の何者でもない……」

 

 

 エンターは優雅にくるりと回り、自慢をするように、人を食ったような態度で続ける。

 

 

「でしたら、それを徹底的に潰すのが今後のエネトロン回収にも合理的であると判断したまでです。

 その為の準備期間として、少々間を空けました。……さあ、どうします? ゴーバスターズ」

 

「そんなの、決まってるじゃん!」

 

 

 ヨーコの言葉で3人は一斉にモーフィンブレスを構える。

 その目には諦めも恐れも微塵も無かった。

 

 

「なんであれ、やる事は変わんないよ」

 

 

 リュウジの決意と闘志の籠った言葉と共に、3人はモーフィンブレスを操作した。

 

 

 ────It's Morphin Time!────

 

 

 3人の体にバスタースーツが転送。

 その後バイザーの開いたモーフィンブレスを目の高さまで持ち上げ、3人は一斉にブレスのスイッチを押した。

 

 

「レッツ、モーフィン!」

 

 

 ヘルメットとバイザーが装着され、3人はゴーバスターズへと変身した。

 3人はそれぞれの名乗りを上げる。

 

 

「レッドバスター!」

 

「ブルーバスター!」

 

「イエローバスター!」

 

 

 レッドバスターは両手を握り、腕を伸ばして両手首を重ねた。

 その状態で体を沈める。

 まるでこれから走り出すかのように。

 

 

「バスターズ、レディ……」

 

 

 そして手首を叩くのを合図に、3人は一斉に駆けだした。

 

 

「ゴー!!」




────次回予告────
戦場となるは新たな戦士の舞台。

壇上に上がれば出会うのは必定。

亀裂をそのままに、戦いは止まらない────

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