スーパーヒーロー作戦CS   作:ライフォギア

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第10話 それは、不思議な出会いなの

 プリキュアに変身したなぎさとほのか、即ちキュアブラックとキュアホワイト。

 2人は名乗りを上げた直後、巨人アルゴスにいきなり向かっていった。

 ブラックは右手を握りしめ、思い切り振りかぶり、飛びかかっていく勢いも利用しながら巨人アルゴスの右肩を抉るように殴った。

 

 

「……かったーぁい!!?」

 

 

 しかしその拳は巨人アルゴスにダメージを与えることなく、むしろブラックの手に痛みを与えた。

 元々、ビーストの攻撃すら弾く強度のアルゴス。

 『ザケンナー』と化した事で、その強度もより上がっているようだ。

 ブラックは自分の右手の痛みを冷ますように、息を吹きかけている。

 

 もう1人、ホワイトは何度か側転、バク転を交えた後高く飛び上がり、巨人アルゴスの腕の上に両手を交差させながら逆立ちするように立った。

 

 

「ハァ!」

 

 

 気合を込めて、ホワイトが逆立ちから元の姿勢に戻る。

 それと同時に巨人アルゴスの体が反転した。

 彼女は巨人アルゴスの腕を掴み、その巨体を持ち上げたのだ。

 10m以上の巨体の腕に手を置くホワイトは、掴んでいると言うよりも逆立ちで乗っているだけという表現の方が見ている分には正しいように思えた。

 しかしそれは、否なのだ。

 

 

「やあぁぁぁぁ!!」

 

 

 再び気合の入った叫びを上げ、声と共に腕を思い切り振りかぶる。

 当然、腕を掴まれている巨人アルゴスはそれに合わせて投げ飛ばされてしまった。

 

 だが、巨人アルゴスは何事も無かったかのように起き上がった。

 

 

「あ、あら?」

 

 

 あまり、というか全く効いていない様子にホワイトも少し焦った。

 未だ右手に息を吹きかけ続けるブラックと戸惑うホワイトに向け、巨人アルゴスがその剛腕を振り下ろす。

 振り下ろされる直前、2人はそれぞれ左右に跳んで何とかその攻撃をかわした。

 巨人アルゴスの腕は、小さなクレーターを作っていた。

 

 その光景を見たウィザード、ビースト、そしてなのは。

 

 

「…………」

 

 

 なのはは呆けたような、どうしていいか分からない戸惑いの表情。

 青年魔法使い2人は、仮面の中で2人仲良く引き攣るような表情だ。

 

 どうしてこう、次々に変な事ばっかり……

 ファントムや魔法使いで異常事態に慣れたと思っていた晴人と攻介の気持ちは、見事に粉々に砕かれていた。

 世の中には不思議がいっぱいだな、と場違いに浮かぶくらいに。

 

 3人に共通しているのは、急に現れたプリキュアとシャイニールミナスなる存在が現れた事への戸惑いと驚愕、というところだろう。

 

 

「「きゃああああ!!」」

 

 

 ブラックとホワイトが巨人アルゴスから放たれる光弾をまともに浴びてしまい、悲鳴を上げた。

 巨人アルゴスの力は通常のアルゴスの力を上回っていた。

 力も、スピードも、光弾の威力も全てが。

 ただでさえ怪人であったアルゴスが、どんな物でも怪物にしてしまうザケンナーに取りつかれたのだ、その力は計り知れない。

 悲鳴を聞いて3人は我に返った。

 

 

「おっと、あぶねぇ。俺とした事がボーッとしちまった!」

 

 

 ビーストが手をパンッと鳴らし、仕切りなおすように口を開いた。

 

 

「アイツは俺のメインディッシュだ。行くぜェ!!」

 

 

 そう言ってビーストもダイスサーベルを構えて突進していく。

 その光景を見てウィザードは「やれやれ」とぼやきつつも、二刀のウィザーソードガンを構え、臨戦態勢を整える。

 なのはも苦笑しながらもレイジングハートを構えた。

 

 

「大丈夫かい?」

 

 

 自身の杖を構えるなのはに、ウィザードが声をかける。

 助けるべきゲート、それがウィザードのなのはへの認識だ。

 助ける対象が自分と同じように戦っている、というのは何とも妙な感覚であった。

 それにどうみても、まだ小学生ぐらいの年齢。

 そんな子にこれ以上戦わせるのは気が引けた。

 しかしなのはは強く、強く答える。

 

 

「大丈夫です、慣れてますから!」

 

 

 なのはは空中高く飛び上がり、桃色の光球を作り出し、それを巨人アルゴスに向けて放った。

 空中からの援護射撃、それはブラック、ホワイト、ビーストに当たらないよう正確にコントロールされた上で敵に直撃している。

 

 

(今日は驚いてばっかだな……!)

 

 

 なのはの言葉、『慣れてますから』。

 一体全体小学生が何をどうしたらこんな事に慣れるのか。

 今戦っている黒と白の少女達だってそうだ。

 しかし、今は敵を同じにしている事は確か。

 ならば今、魔法使いウィザードとしてやるべきことは1つ。

 少しでも少女達の危険を減らすため、自分も戦う事だった。

 

 

 

 

 

 

 

「……チッ」

 

 

 サーキュラスが遠くから巨人アルゴスが魔法使いとプリキュアの混成チームと戦っている様子を見て、舌打ちをした。

 負けているわけではない、しかし、圧倒的に押してもいなかった。

 巨人アルゴス自体は弱くはない。

 むしろ、今までのザケンナーに比べれば強いぐらいだ。

 しかし相手が多すぎる。

 プリキュア2人とルミナスだけならまだしも、妙なのが3人もいる。

 さらに揃いも揃ってプリキュアクラスの力ときていた。

 

 

「脅威になるかもしれんな、奴ら……」

 

 

 ウィザードとビースト、なのはの3人を見据え、サーキュラスは静かに呟いた。

 

 

 

 

 

 総勢6人となった戦士達は巨人アルゴスと戦いを続ける。

 巨人となったアルゴス、それを利用して、6人はそれぞれ素早く動き回って攪乱をしていた。

 小さな敵ほど攻撃が当てにくいのは道理。

 同時に、小さな者が巨大な者から攻撃を喰らえば一溜りもないのも当然。

 故に6人とも示し合わさずとも自ずとそういう動きになっていた。

 

 

「ザケンナー!!」

 

 

 いつまでも攻撃が当たらないことに苛立ったのか、巨人アルゴスは吠え、それと同時に大量の『目』を展開した。

 先程なのはが撃墜した目よりも一回りほど巨大な、目。

 

 

「なによこれ!」

 

 

 この姿となる前のアルゴスとの戦いを知らないブラックは辺りを取り囲む『目』に困惑気味だ。

 ホワイトとルミナスも同様の反応を示している。

 一方でウィザード、ビースト、なのはの3人はすぐさま状況を理解し、打開に向けて動き出そうとした。

 しかし、巨人アルゴスの判断の方が一瞬早い。

 

 

「ぐああああッ!!?」

 

 

 悲鳴を上げ、ウィザードは目から放たれる光弾をまともに浴びてしまう。

 それはビーストも、ブラックもホワイトも、ルミナスもなのはも同じ。

 倒れはしなかったが、膝をつくほどのダメージはあった。

 巨人の姿となったせいか、確実に目からの光弾の威力も上がっていたのだ。

 

 

「……ッ、私に任せてください!」

 

 

 そう言ってルミナスが一旦、その場から真上に跳躍して目の包囲網から抜け出した。

 今、ルミナスの真下にはウィザード達5人と、無数の目、巨人アルゴスがいる。

 ルミナスはハートの形をした『ハーティエルバトン』を召喚した。

 それは弓のように変形し、バトンのような形になる。

 真下に変形したハーティエルバトンを向け、ルミナスは唱える。

 

 

「光の意思よ、私に勇気を! 希望と力を!!」

 

 

 言葉に反応したかのように無数の目が上空のルミナスの方に向く。

 何かをしようとしているのを察知したのだろう、光弾が一斉に発射される。

 しかしそれよりも早く、ルミナスは技を発動させた。

 

 

「『ルミナス・ハーティエル・アンクション!!』」

 

 

 バトンが一回転し、巨大化すると同時に巨人アルゴスと無数の目めがけて発射された。

 それは虹色の円形の光となり、真下に向かっていく。

 虹色の光は光弾を全て弾き、虹色の光が通過した目達は次々と動きを止める。

 

 ルミナスに注意が向いた事でウィザード達は目の包囲網から解放され、そこから抜け出す。

 ただし、ブラックとホワイトを除いて。

 虹色の光は離脱したウィザード、ビースト、なのはを除いたプリキュア2人と巨人アルゴス、そして全ての目を通過した。

 すると目だけでなく、巨人アルゴスもその動きを止めた。

 

 

「すっげぇ……」

 

 

 たった一度の技で全ての目と巨人アルゴスを止めた事にウィザードは素直に驚いていた。

 さらに信じがたい事が1つ。

 巨人アルゴスや無数の目と同じように虹色の光を喰らったはずのブラックとホワイト。

 彼女達2人も動きが止まってしまったのかと思っていたら。

 

 

「「ルミナス、ありがとう!」」

 

 

 2人は見事にハモり、上空から着地したルミナスに元気にお礼を言っていた。

 しかも先程の光弾のダメージなど無かったかのように。

 お礼を聞いたルミナスも微笑んでいる。

 

 

「どうなってんだ? あのお嬢ちゃん達もあの光浴びたんだろ?」

 

 

 ビーストの、だったら動けなくなるのでは? という疑問に、なのはが憶測で答える。

 

 

「もしかして、味方は元気にしちゃう……とかですかね?」

 

 

 確かに現状を見る限り、それが一番しっくりくる。

 だったら自分達も浴びておけばよかったかとウィザード、ビーストは思った。

 そして同時に、都合が良すぎる技だとも思う。

 

 驚いてばっかの3人を余所に、プリキュア達は決めの体勢に入っていた。

 

 

「よし、動きが止まってる今のうちに……ホワイト!!」

 

 

 ブラックの言葉にホワイトは頷く。

 2人は変身する時とは逆にブラックは左手で、ホワイトは右手でお互いの手を握り、空いている方の手を上空に向けた。

 

 

「ブラックサンダー!!」

 

「ホワイトサンダー!!」

 

 

 ブラックの右手に黒い雷が、ホワイトの左手に白い雷が落ちる。

 雷を受けた2人は虹色の輝きを身に纏った。

 

 

「プリキュアの、美しき魂が!」

 

 

 ホワイトの口上に続き、ブラックも叫ぶ。

 

 

「邪悪な心を、打ち砕く!!」

 

 

 2人はさらに手の繋ぎを強めながら、示し合わせたわけでもないのに同時に叫んだ。

 

 

「「『プリキュア! マーブルスクリュー!!』」」

 

 

 2人はそれぞれの空いている手を大きく引いた。

 雷を握りつぶすように握りしめた拳。

 

 

「「『マックスゥゥゥ!!』」」

 

 

 叫びと同時に、握りしめた拳を大きく広げながら前方、即ち巨人アルゴスへ向けて突き出した。

 突き出した手からブラックからは黒い雷撃が、ホワイトからは白い雷撃が放たれる。

 それは螺旋を描き、混じり合い、大きな一撃へと変化していく。

 放たれた雷撃のようなエネルギーは動きを止めていた巨人アルゴスに直撃し、その巨体の全てを巻き込んだ。

 これがプリキュアの決め技、ザケンナーを浄化する一撃だ。

 

 

「ザ、ザケンナーァァァァァ!!?」

 

 

 悲鳴を上げ巨人アルゴスはどんどん縮小していく。

 そして『マーブルスクリュー・マックス』の光が消えた後、取り付いていたザケンナーは弾け、小さな星型の『ゴメンナー』へと分裂した。

 

 

「ゴメンナー! ゴメンナー!」

 

 

 小さな体格通りのか細い声でゴメンナー達は何処かへと去っていく。

 足元を通り抜けるゴメンナーは敵意も悪意も感じられず、弱々しく、それでいて逃げるように消えていった。

 ウィザード達はその光景を呆気にとられた様子で見ていたが、次の瞬間にウィザードとビーストは様子を一変させる。

 

 

「ヌ、ゥ……まぁだぁ……!!」

 

 

 元のアルゴス、それがフラフラとした足取りながらも立っていたのだ。

 プリキュアの技は確かに、物理的なダメージを与える事もできる。

 だが、ザケンナーが取り付いていた場合、それを浄化する事が優先されるのだ。

 アルゴス本体にもダメージは残るが、倒すまでには至らなかった。

 ブラックとホワイトもまだ油断していない。

 キッとアルゴスを睨み付けていた。

 しかしブラックとホワイトが動くよりも早く、ファントム退治の専門家達が動き出していた。

 

 

「こっから先は俺たちの仕事だ、仁藤。

 下拵えはあの子達にしてもらっちまったけどな」

 

「この際何でもいいぜ。さあ、メインディッシュだ!!」

 

 

 ウィザードは右手の指輪を先程発動させようとしていた『コネクト』から『キックストライク』の指輪につけかえた。

 ビーストは両手を叩き、既に走り出す準備が完了している様子だ。

 ビーストの言葉に「ああ」と返事をした後、ウィザードは最後を意味する一言を発した。

 

 

「フィナーレだ!!」

 

 

 言葉と共にウィザードライバーを操作する。

 中央の手形が変身の時とは逆の方向を向いた。

 

 

 ────ルパッチマジックタッチゴー!!────

 

 

 再び不思議な呪文が流れ出した。

 そして右手を手形とタッチするようにあわせ、右手の指輪の効力を発動する。

 

 

 ────チョーイイネ! キックストライク! サイコー!!────

 

 

 ウィザードの足元に赤い、燃えるような魔法陣が現れる。

 ローブを翻しながら、右足に力を溜めるように構える。

 そして走り出してロンダート、その後、天高く跳び上がった。

 

 

「こっちも行くぜェ!」

 

 

 ビーストは左手の指輪を変身の時と同じようにベルトの左斜め上の窪みに押し当てた。

 変身の時と違うのは鍵を開けるような回す動作が無い事か。

 

 

 ────キックストライク! GO!────

 

 

 そしてビーストもまた、空中に跳び上がった。

 

 

「ブラック! ホワイト! 上を!!」

 

 

 ルミナスの声にブラックとホワイトが振り向き、ルミナスの指差す方向を向いた。

 上空に2人の戦士が跳び上がっている。

 赤い戦士はその身を反転させ、右足を突き出した。

 目の前には赤い魔法陣が出現している。

 一方の黄金の戦士は前方に回転した後、同じく右足を突き出した。

 右足にはライオンのようなエネルギーを纏い、赤い戦士と同じく目の前には魔法陣が出現している。

 

 2人の戦士はそれぞれ目の前に出現した魔法陣を通り抜けながら、猛烈な勢いでアルゴスへ向けて突進していく。

 右足を突き出しながらの突進、つまりは上空からのキック。

 

 ウィザードの『ストライクウィザード』。

 ビーストの『ストライクビースト』。

 

 それぞれの必殺技がプリキュアの頭上を通り越し、2人の強烈な右足が、アルゴスを捉えた。

 

 

「グ、アァァァァ!!!」

 

 

 断末魔と共に、アルゴスは爆散。

 爆発した後から黄色い魔法陣が出現し、ビーストドライバーに向けて吸収されていく。

 魔法陣を吸収した後、ビーストは両手を食事をする時、もしくはした後のように手を合わせた。

 

 

「ごっつぁん!!」

 

 

 一方のウィザードはアルゴスを倒した事を確認すると、気の抜けたような一息をついた。

 

 

「ふぃー……」

 

 

 2人をそれぞれの魔法陣が通り抜ける。

 魔法陣が完全に通り抜けると、ウィザードは晴人に、ビーストは攻介に。

 変身を解除したのだ。

 その様子を見たブラックとホワイト、ルミナス、そしてなのはもそれぞれの変身を解除した。

 

 

「いやー、久々に満腹だぜ!! グールにファントム! こんだけ食えれば十分だ」

 

 

 攻介は命を繋ぎとめる事に成功したため、かなりハイテンションだ。

 実際、グール10数体とファントム1体。

 これだけの魔力が補給できれば攻介の命が脅かされる事はしばらくないのだ。

 そんな攻介を余所に、晴人はなぎさ達に向かい合っていた。

 

 

「……えーっと」

 

 

 その言葉の後、全員言葉を発しなくなってしまった。

 全員が全員、今まで知らない戦士と出会ったのだ。

 何を切り出せばいいか全くわからなかった。

 様子に気づいた攻介もハイテンションを引っ込め「あー」とか「うー」とか言いながら困り果てているようだった。

 

 

「えっと……私、高町なのはです。小学3年生で、魔法少女です」

 

 

 意外にも、切り出したのはこの中で最年少のなのはだった。

 全員がなのはに注目する。

 なのはは自分の使っていた杖、赤い球体の姿へと戻ったレイジングハートを見せた。

 

 

「これが、相棒のレイジングハート」

 

『こんにちは』

 

 

 赤い球体が点滅し、言葉を発した事に全員が一斉に驚いた。

 晴人がレイジングハートを興味深そうにまじまじと見た。

 

 

「しゃ、喋るんだ…!?」

 

「はい! ちゃんとこの子自身の意思もあるんです。ね? レイジングハート?」

 

『はい。マスターの命令には従いますが、私自身が思考する事もあります』

 

 

 かなり流暢な英語だったが、意味が何故か晴人達には伝わっていた。

 実際、このレベルの英語は小学3年生に理解させるには難解すぎる。

 それでも普段からなのはと意思疎通できるのはレイジングハートにその為の機能が備わっているからだ。

 そんな事を知る由もない晴人達はその事にも驚くばかりなのだが。

 

 

「な、なんか英語の意味が理解できるんだけど、これなに!?」

 

「この子の機能なんじゃないかしら?」

 

 

 なぎさの疑問にほのかが答えた。

 他の面々と同様にほのかも驚いていたが、やや冷静でいた。

 どちらかというと驚きよりも知的好奇心的なものの方が上回ったようだ。

 そしてほのかの返答に納得しつつも、魔法少女やレイジングハートのような存在をなぎさは評した。

 

 

「あ、ありえない……」

 

 

 その言葉を聞いたレイジングハートはなぎさへ向けて言った。

 

 

『それを言うならば、貴女方もそうです。何者なのですか?』

 

 

 なぎさとほのか、ひかりは顔を見合わせる。

 話していいものなのかと考えたのだ。

 だが、この場にいるのはどうも全員非常識な存在らしい。

 ならば、と、なぎさ達は切り出した。

 

 

「あの、それを言う前に1つだけお願いが……

 私達の事、誰にも言わないでくださいね?」

 

 

 3人を代表してのほのかからのお願いに晴人と攻介、なのはは頷いた。

 尤も、誰かに話したところで信じてくれるかは怪しいところだが。

 

 

「なぎさと私は『プリキュア』、ひかりさんは『シャイニールミナス』って言って……」

 

 

 なぎさとほのかは自分達の事について話し始めた。

 手始めに自分達の名前と学年。

 そして1年間戦い抜いた事、最近新たな戦いが始まった事。

 ひかりとシャイニールミナスの事を。

 

 彼女達には現在、目的がある。

 それは『クイーンの復活』だ。

 『クイーン』とは、『光の園』、即ちメップルやミップル、ポルンの故郷の王女の事だ。

 光の意思そのもの故、凄まじい光の力を誇っていたが、1年前の戦いで『生命』、『こころ』、『12の意思』の3つに分裂し、消えてしまったのだ。

 蘇らせるにはそれら3つを揃える事が必要になる。

 『こころ』は常時ひかりを見守っているらしい。

 何故ならひかりはクイーンの『生命』であるからだ。

 つまり目下のところのなぎさ達の目的は『12の意思』、別の呼び方をするなら『ハーティエル』を集めることにある。

 

 とはいえ、これを全て説明するのでは時間がかかるので『私達はドツクゾーンと1年前から戦っている』という事、『先程の怪物は『ザケンナー』である』という事、そして『今の目的はハーティエルというものを集める事』という事を要約して説明した。主にほのかが。

 なぎさはどうも、そういうのが苦手なのだ。

 ひかりはというと、説明はできるが1年前の事を知らないのもある。

 それに先輩の説明に口を挟まない事に徹していた。

 

 

「……んじゃ、流れ的に次は俺達の番だな。俺は操真晴人」

 

 

 なぎさ達の説明を聞き終わった後、晴人が自己紹介を交えながら言った。。

 

 晴人は4人に『ゲート』、『ファントム』、『魔法使い』の3つについて説明した。

 ゲートであるからなのはファントムに狙われ、ファントムの目的はゲートを絶望させ仲間を増やす事。

 そして魔法使いである自分達はそれを阻止するために戦っているのだと。

 ついでに攻介も自己紹介をしておいた。

 

 

「……ってわけ、分かってくれたかい」

 

「は、はい。私がゲート……」

 

 

 なのはは自分の胸に手を当てた。

 自分の中に魔法の力が備わっている事を知ったのは、まだ割と最近の事だ。

 少し不安そうな顔をしているなのはの頭に晴人は手を乗せた。

 

 

「大丈夫、俺が最後の希望だ。君が狙われた時は必ず駆けつける」

 

 

 その言葉になのはは顔を明るくさせ、「はいっ!」と元気の良い返事をした。

 如何に戦った事があるとはいえ、なのははまだ小学3年生。

 多少なりとも怖いという感情はある。

 それだけに今の晴人の言葉はなのはにとって不安を打ち消してくれる言葉であった。

 

 本当はこの辺りから引っ越すとファントムから狙われにくくなる。

 ゲートを見つけるメデューサの行動範囲が東京一帯だからだろうか。

 だが、さすがにそれを実行できる人はいない。

 親戚の家に預けるならまだしも、『命を狙われてるから今すぐ引っ越せ』と言ってもそういきなり引っ越しというわけにもいかない。

 一応提案はしてみたが、なのはも此処をあまり離れたくないらしい。

 

 

「……ん?」

 

 

 自己紹介が終わった後、晴人の携帯が鳴った。

 画面を開くと、画面には『凛子ちゃん』と表示されていた。

 

 

「もしもし?」

 

『もしもし晴人君? そっちはどう?

 他の監視カメラじゃメデューサは見当たらないんだけど……』

 

「ああ、大丈夫。ファントムは倒したし、ゲートも守ったよ」

 

 

 そして、そこではたと気づく。

 メデューサが去り際に吐いた言葉。

 

 ──────この町にはまだまだゲートがいそうだからな。

 

 確かそんな事を口走っていた。

 だとすれば、早めに行方を探さなくてはならない。

 

 思案する晴人だが、先の言葉を聞いて凛子は安堵していた。

 

 

『そう、なら良かった……

 ところで晴人君、実は木崎さんから貴方と仁藤君を連れてくるようにって言われたの』

 

「木崎に? 何でまた」

 

 

 木崎とは、国安0課を指揮する警視、『木崎 政範』の事だ。

 やや冷徹な面もあり、晴人としては少し気に食わない部分もある。

 しかしその実、根はいい人という事も知っていた。

 ウィザードとして活動する上で助けてくれる信用できる人物、それが木崎だ。

 

 

『それが……何でも0課に新しい、それも木崎さんが引き抜いた人が来るみたいなの。

 一応魔法使いの2人も顔合わせをしておけって』

 

 

 0課に新人。

 という事は、少なくとも魔法やファントムを知っている人間という事になる。

 刑事の知り合いは凛子と木崎ぐらいなので、晴人としては思い当たる節はない。

 しかも0課の指揮をする木崎がわざわざ引き抜いたという事はそれなりに見込まれているという事だ。

 どういう人物なのか気になるが、メデューサも追わなくてはならない。

 

 

「あー……それが、メデューサがこの町で他にもゲートがいそうとか言ってたから……。

 悪いけど、そっちを追うよ」

 

『そう……じゃあ、せめてどっちかだけでも来れない?』

 

「じゃあ仁藤でいい? あいつ、今回のファントムとグールの魔力食ったし」

 

 

 それだけ言うと凛子は納得したようで、「それじゃあ、0課に直接。宜しくね」とだけ最後に言って電話を切った。

 携帯を切って他の5人の方を向いてみれば、みんな仲良く談笑していた。

 その輪に攻介まで加わっているが、一体何の話をしているのだろう。

 ちょっと気になったが気にしない事にし、晴人は攻介を呼んだ。

 

 

「おい仁藤! ちょっと頼みがある」

 

「ああ? なんだよ」

 

「0課に呼ばれたんだけど、俺はメデューサを追いたい。だから仁藤、代わりに……」

 

 

 行ってほしい、と告げようとしたら、攻介は開いた右手を突き出した。

 

 

「みなまで言うな! つまり、俺に0課に行けっていうんだろ?

 ま、今回は魔力もたらふく食わせてもらったし、ライバルの頼み事1つくらい聞いてやんないとな」

 

 

 得意気な笑みで言う攻介。

 攻介は晴人の事を魔法使いとして一方的にライバル視している。

 その為、晴人に借りを作ったままにする事をあまり良しとしない。

 今回は魔力を譲ってくれたという事で素直に言う事を聞いてくれるようだった。

 

 

「じゃあ、頼むぜ。あと、なのはちゃんを家まで送ってけ。またファントムが出るかもしれない」

 

「おうよ」

 

 

 晴人は攻介以外の少女達4人に明るく「じゃっ」と言うと、丘の上から思い切り飛び降りた。

 その様子に驚く4人だが、すぐに風が舞い、風と共に緑色の戦士、『ハリケーンスタイル』のウィザードが上がってきた。

 

 ウィザードは何処かへ飛んでいった。

 空から海鳴市を偵察するつもりなのだ。

 さらにプラモンスターも呼び出し、偵察に当たらせた。

 魔力の消費は激しいがゲートの命には代えられない。

 それにメデューサの口ぶりだと、既にゲートがいる事は確定しているらしかった。

 だとすればまた活動を始めるだろう。

 ファントムを増やさせる事、人間がファントムになるのは、即ちその人間の『死』を意味する。

 それだけは絶対に阻止せねばならない。

 

 決意を胸に、同時に今日の不思議な出会いを胸に止めつつ、ウィザードは空を駆けて行った。




────次回予告────
「ねぇほのか、私達なんか大変な事に巻き込まれてない?」
「そうね、ファントムに魔法使いさん、魔法少女だなんて……」
「でも仲間が増えるのは良い事だよね!」
「そうだ、折角だし、親睦会とかどうかしら?」
「あ、それさんせーい! でも、晴人さん忙しそうだね……」
「ファントムがまた出たからじゃないかしら?」

「「スーパーヒーロー作戦CS、『希望と孤独と仮面ライダー』!」」

「ところで私達、ヒーローなの?」
「ヒロインでしょ?」
「だよねぇ……?」

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