ハイスクールD×D wizard 希望の赤龍帝   作:ふくちか

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めっちゃお久しぶりです。まさかウルトラマンZが最終回を迎えるまで停滞していたとは……


MAGIC179『ヴァレリーとの約束』

 

 

「失礼しまーす……っと」

「…」

 

俺と小猫ちゃんが連れていかれたのは、城の上階に位置する室内庭園だった。

…窓が一切ないって事を除けば、人工的な明かりと色取り取りの花、穏やかな流れの水音という、いたって普通の空間だ。

 

庭園の中央にはテーブルが置かれ、既にリアスとギャスパー、そしてヴァレリー・ツェペシュが席に腰かけていた。………そのすぐ横から感じる異様なプレッシャーは、勿論護衛役でいるだろう邪龍、クロウ・クルワッハだ。

 

「……」

 

一瞥しただけか……まぁ、下手な行動を打たない限りは動かないって事だな。ヴァレリーがくすくすと笑う。

 

「あちらは私のボディーガードさん。クロウ・クルワッハさんです」

『ボディーガードとしちゃこれ以上ない適役だな、嬢ちゃん』

 

お前が喋るんかい!?

 

『良いだろ別に』

「ふふっ、伝説のドラゴンさんともお話が出来ちゃうなんて、今日はとっても幸運だわ」

『いやぁ、俺としてもこんな美人な嬢ちゃんとティータイムをご一緒させてもらえるなんて、永い事生きてみるもんだな。あ、もう魂だけだから生きてるとは言い難いな』

「アハハッ! とってもユニークなのですね、ドライグさんって」

『ただの口達者なロリコン野郎だろ』

『誰がロリコンだゴラァ!!』

「お前ら止めろって!……ホントすみません、うちの馬鹿共が…!」

 

ヴァレリー・ツェペシュは一応陛下なんだぞお前ら! こんな事してたら不敬罪でしょっ引かれるわ!!

 

「兵藤一誠さん」

「は、はいっ!」

「うふふ、そんなに縮こまらなくても良いのですよ? リアス様にも普通に接してくれるようにお願いしているから、気兼ねなくヴァレリーと呼んでくださいな」

「い、良いんすか?」

「本人がそう言ってくれてるのだから、是非そうなさい、イッセー」

 

ご本人に加えてリアスまでそう言ってくれるのなら……遠慮する必要はないな。

 

「じゃあ、遠慮なくそうさせてもらうよ。ヴァレリー」

「はい、有難う」

 

年相応の良い笑顔だ――――でも、その顔には何処か陰が差していた。儚くて、痛々しい……その感じから、彼女がどんな環境で過ごしてきたのかを何となく察してしまう。

 

そんな胸中は露知らず、ヴァレリーは今度は小猫ちゃんにも話しかけていた。

 

「塔城小猫さんは美味しいお菓子をたくさん知っているのよね? 日本にはどういうのがあるのかしら?」

「そうですね。私が好きなのは――――」

 

そこからの会話は酷く普通な、他愛もない談笑が続いた。俺達にとっては何気ない日常の一コマも、彼女からすれば新鮮で興味を惹かれるものが多いらしく、予想外な質問が投げかけられたりもした。

 

「そうなの。ギャスパーが女の子の格好をするのは小さい頃に私が着させて遊んでいたからなのよ。最初は嫌がってたけど、いつの間にか自分から進んで着るようになっちゃって…うふふ♪」

「も、もう! ヴァレリー、それは言っちゃダメだよぅ!」

「へぇ~、調教されちまった訳か」

「イッセー、言い方」

「あ、そう言えば…ぬいぐるみを抱かないと寝られない癖は直ったのかしら?」

「え、え~っとぉ……それは……アハハ」

「うふふ、まだなのね。でも、ギャスパーらしいわ」

 

揶揄ってるみたいだけど、彼女とギャスパーのやり取りはとても穏やかだ。ギャスパーも、遠慮なく話に絡んで行ってるし。

 

「良いわねぇ。私も日本のケーキを食べてみたいわ。きっと神秘的な美味しさがあると思うの。私、血よりもお菓子の方が好きだわ。吸血鬼としては可笑しいかもしれないけど、ふふ」

「きっと気に入ると思うぜ。な、ギャスパー?」

「はい! 絶対ヴァレリーも気に入るよ!」

「うふふ、そうなの? 益々食べて見たくなっちゃうわ」

 

浮世離れした雰囲気の彼女も、こうして話をしてみると普通の女の子と何ら変わりない………けど、その視線は時折虚空へと向いていく。

 

「――――そ う よ ね。…――――分 か る わ。――――――――け れ ど、そ れ は……」

 

……聖杯の力を通じた、亡者たちとの会話か。俺は小猫ちゃんに耳打ちする。

 

「小猫ちゃん、何がいるか分かるか?」

「……いえ。ですがヴァレリーさんの話しかけてる方角に負の気が渦巻いています。姉様ほどの精度は難しいですが、私でも探知は可能なほどには」

「そっか。ありがと」

「……イッセー先輩は、大丈夫ですか?」

「ん…大丈夫だよ」

 

……なんて、ホントはじーっと見られてる気がするんだよな。相変わらず何も見えないし感じないけど、その視線だけは感じてる。

 

とはいえ向こうから接触してくる感じではないだろう、多分。あの時も多分視線を合わせたからだと思うんだよな。

 

だから意図的に無視する……うん、大丈夫だな。

 

『俺は何も感じぬが……貴様はどうだ、変態』

『俺もてんで感じねーな。…後、ナチュラルに変態って言うな』

 

……お前らが感じなくて俺だけ感じるってのは何なんだろうな? そう内心思っていると、ヴァレリーはふと天井を見上げた。

 

「…ギャスパーは、お日様を見た事があるのよね」

「うん。僕はデイウォーカーの力を持っているから……ヴァレリーだってそうじゃないか」

 

ギャスパーのその言葉に、ヴァレリーは薄く笑った。

 

「そうよね。けれど……私は、お外に出してもらえたことがないから。一度で良いからお日様の下でギャスパーとお茶がしたいわ。ピクニックって、とっても楽しいものなのでしょう?」

 

…そう言えば、生まれてからずっと幽閉されていたんだっけか。神滅具――――聖杯の力に目覚めてからは、きっと俺達が想像できないような拘束をされてきたんだろう。

 

俺達が普段何気なくお日様の元で暮らしている事も、彼女にとっては非日常なんだ……。それを聞いていたリアスは、明るい口調でこんな事を提案した。

 

 

「それなら、皆で行きましょう。オカルト研究部のメンバーとヴァレリーとで、日本の観光地巡りはどうかしら?」

 

その提案にヴァレリーは、眼に輝きを宿して笑った。

 

「まぁ、それは素敵だわ! お日様の下で皆とピクニック、とてもとても楽しそう!」

 

……やっぱどんな人でも、笑っている顔が一番だな!

 

「…あぁ、リアスの言う通りだぜ! 日本の良い所、俺達が紹介してあげるよ! ギャー助だって沢山知ってる筈だからさ。な、ギャー助?」

 

俺の言葉にギャスパーはうんうんと頷く。

 

「勿論です! そうだよ、ヴァレリー! 僕と一緒に日本へ行こうよ! 女王様になったばかりで大変かもしれないけどさ…混乱が落ち着いたら、お暇だって貰えるかもしれないし! ううん、僕が迎えに行くよ! 日本はとてもとてもやさしい人ばかりで、美味しいものだって沢山あって、四季がとっても華やかなんだよ!」

 

おぉ、何時になく盛り上がってるじゃねーか、この引き篭もり!

 

「ギャスパー、普段引き篭もってるくせに気合入ってんなぁオイ!」

「冷やかさないで下さいよ、イッセー先輩! 僕は真剣にヴァレリーに提案してるんですからぁ!」

「そうですよ、先輩。ギャーくんは人生初のデートのお誘いをしてるんです。冷やかし禁止です」

「おっと、それもそうだな。わりぃなギャー助!」

「小猫ちゃんまでぇ!!」

 

小猫ちゃんにまで揶揄われちゃ面目丸つぶれだな、こりゃ!

 

「ふふ、ギャスパーったら」

 

リアスもおかしそうに笑ってた。

 

…彼女はこうしてまだ笑えるんだ。だったら、精神状態を元に戻すことだってまだ不可能と決まった訳じゃない。現に今見せてくれてる笑顔は、彼女が生来から持つものだろう。

 

なら、皆で楽しい事をすれば――――そう思って楽し気な会話を繰り広げる中、それを引き裂くように第三者の声が。

 

「おやおや、何が楽しいのかな?」

 

そう言って歩み寄ってくるのは――――マリウス・ツェペシュ。明らかな作り笑いを浮かべてくる様はまさに歩く悪意そのもの、って感じだ。……そしてマリウスが来た事で、ヴァレリーの顔は再び不自然な笑みを作る。

 

「マリウスお兄様、実はギャスパーとリアス様達とお話をしていたのです」

「それはそれは、実に素晴らしい。…いえね、ヴァレリーがお客様と面会されていると聞きましたもので。顔だけでも覗かせてもらった次第で御座います……これはお邪魔をしてしまいましたかな?」

 

……随分ワザとらしい質問してくれるじゃないの、この野郎は。それに対し、さっきまでの笑顔とは違う、渋めの笑顔でリアスは対応した。

 

「いいえ、そんな事はありませんわ。こちらこそ、先程は眷属の『騎士』がご無礼を働いてしまい、申し訳ありません」

 

あー、ゼノヴィアの態度な……まぁあれは此方に非があると言っても過言じゃない気が、する…多分。

 

「いえいえ。下界の者がこの世界に飛び込めば、分からない事もありましょうや」

 

…得に糾弾はしてこない、か。余裕からくるのか、それとも別の思惑があるのか。そのマリウスに、意を決した表情のギャスパーが進言した。

 

「あ、あの!」

「ん。何かな、ギャスパー・ヴラディ」

 

冷たさを感じる笑みにも臆さず、真っ直ぐに。

 

「…ヴァレリーを、解放していただけませんか? 僕に出来る事があるなら、何でも協力します!……だから、ヴァレリーをこれ以上、苦しめないで下さい!」

 

……男らしくなったじゃないか、ギャスパー。最初に出会った時の臆病っぷりがまるで遠い過去のようだぜ。

 

「ふむ、そうですねぇ……」

 

マリウスは暫し考えるように沈黙するが、数秒と経たずににっこりと微笑んでこう言ったのだ。

 

「分かりました。解放しましょう」

 

……何?!

 

「ただし、少しだけ時間をいただきたい。何せ政権が移り変わったばかりですからね。女王に据えたヴァレリーがいきなり降りるのも体裁が悪い。ですから、暫しお時間をいただければ、ヴァレリーをあなた方にお渡しいたしましょう」

「……直ぐにって訳には行かないんですね」

「えぇ。こればかりは申し訳ありませんが、早急に済む話でもありませんから。そこはご容赦願います」

 

マリウスは俺にそう言うと、今度はヴァレリーの元に向き直る。

 

「ヴァレリー、日本に行っても良いですよ。あちらで、ギャスパー・ヴラディと平和を満喫なさい」

「けれど、聖杯は……」

 

困惑するヴァレリーに、マリウスは肩に手を置いて微笑む。

 

「気にせずとも良い。貴方はもう使わなくても良いのですよ。十分に役目を果たしてくれましたからね。聖杯から”解放”されても良いでしょう」

「ほ、本当に…?」

「えぇ。宰相の名に於いて、二言はありませんよ」

 

マリウスのその言葉に、ヴァレリーは歓喜を露にギャスパーの手を取る。

 

「ギャスパー! 私、日本に行けるみたい…!」

「うん、良かった! 本当に良かった!!」

 

ギャスパーも同じく喜びながら、マリウスに頭を下げる。

 

「本当に、本当にありがとうございます!」

「いえいえ、良いのですよ。ふふふ」

 

……当のギャスパーとヴァレリーは、意味深に笑むマリウスに気付いてないみたいだ。その様子に俺、リアス、小猫ちゃんは口を挟むのも憚れた。

 

 

………一体何を企んでやがんだ、コイツ。

 

『”解放”か。やけに強調していた二語だな』

『何もない事を願いたいけど……』

『それはないだろう、奴のあの様子では』

 

……あぁ、そうだな。

 

 

 

胸中に新たな疑念を抱えながら、ヴァレリーとのお茶会は終える事になった。

 

 

 

 

 




伊吹童子いいよね……あの近所のお姉さん感。大好きです

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