ハイスクールD×D wizard 希望の赤龍帝   作:ふくちか

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ドライグ『この聖杯は過去に様々な英雄が求めて血で血を洗う諍いを繰り広げてだな』
イッセー「聖杯戦争かよ」
アザゼル「俺も昔参加した事があるぜ。アーサー王と一緒にな」
ドラゴン『仲悪そうだな』


MAGIC176『聖杯の女王』

 

「イッセー、皆!」

 

ツェペシュの城へと連れてこられた俺達は、暫し待たされた後にリアス達と漸く再会できた。

 

「リアス!……無事みたいだな」

 

俺が安否を確認すると、リアスは頷いた。

良かった……何もされてなくて。

 

「クーデターの事を察知したのね、アザゼル」

「あぁ。何かあると思ってこいつ等を召喚させてもらった。文句なら後で言ってくれよ?」

 

先生の言葉にリアスは首を振る。

 

「文句は言わないわ。私もどうにかして皆を呼ぼうと思ってたから。…ただ、この城に軟禁されていて、どうにも動けなかったのよ」

 

リアスが言うには、王に招かれたにしては今の今まで謁見は出来ず、ついさっき俺達が来た事を知らされて来たんだそうだ。

 

「お前も無事みたいで何よりだぜ、木場」

「うん。警戒していた割には、僕と部長には火の粉が掛からなかったよ」

「それだけ内部の情勢が切迫してるって事ね。ここに来るまでの道中も、びっくりするぐらい静かだったし」

 

黒歌の言葉はもっともだった。

この城に来るまでの途中の町並みは、クーデターが起きたとは思えないほど静かだったし、住民だって普通に街を闊歩していた。

 

先生曰く、「住民に知られないように最低限の行動でクーデターを成功させたんだろう」との事だ。

……内部からも裏切り者が結構出たんだろうな、と俺でも何となくだけど察せた。でなきゃそんなスムーズにクーデターなんて成功させれないだろうし。

 

「……イッセー、一つ聞いても良いかしら」

「ん?」

「何で黒歌がいるの?」

「あぁ、実は――――」

「イッセーのお嫁さんの一人になっちゃったの♪ これからよろしくねん♪」

 

黒歌は俺の腕に抱き着きながら笑顔でそう言い放った。

 

「「え……」」

「えーっと、俺の眷属になりまし、た……ハハ」

「「――――えぇぇぇぇえ!!」」

 

俺の発言にリアスと木場はめったに出さないであろう大声で驚きを露にした……あの、びっくりする気持ちは分かるけど、ここ他勢力の城だからね?

 

 

 

「っていう経緯で、眷属になったんだ」

「所謂社会奉仕ってヤツにゃん」

 

直ぐに落ち着きを取り戻した二人に俺は改めて事の経緯を説明した。

 

「そう……だったのね」

「別にアンタが気にする必要なんてないわ。……これからは大船に乗ったつもりで任せにゃさい」

「そう、ね……これからは頼りにさせてもらうわ」

 

…悪魔であるリアスからすれば、同族が起こした事件が原因と言う事もあって罪悪感もあるんだろう。でも黒歌は気にする必要がないと朗らかに笑った。

 

「小猫ちゃん、良かったね」

「…はい」

 

木場の言葉に小猫ちゃんも嬉しそうにはにかむ……うんうん、仲良きことは美しきってやつだな。

 

「……で、肝心の王様との謁見はまだできないのか?」

「――――いや、どうやら漸くらしい」

 

先生が両開きの扉を見据えていたのでそちらを見てみると、扉の両脇にいた兵士が俺達へと近づいてきた。

 

『役者がそろったからと言う事か』

「…では、新たな王への謁見を――――」

 

どうやらドライグの言う通りらしく、彼等は巨大な両開きの扉を開けた。

 

先生が先、次いでリアス、その次に俺達という配置で扉の奥へと進んでいく

 

広大な室内の床には真っ赤な絨毯が敷かれ、その先には――――玉座が一段高い所に置かれていた。

 

玉座に腰かけてるのは若い女性とその少し離れた位置には側近っぽい感じの若い男性も列席している。

……やっぱり血の気のない顔だ。端正な容姿だけど、血の気のないせいで人形のようにも見える。

 

……意外に数が少ないな。

 

『これだけの数なら、確かにあっさりクーデターも成功させられそうだな』

 

それに他の勢力から距離を取っていた吸血鬼の根城だからこそ、『禍の団』の協力もあって簡単に計画を達せたんだろう。

 

っと、玉座の前だ。姿勢を正さないと。

 

玉座に座る女性は砂色の強いブロンドの髪を一本に束ねた優しそうな雰囲気の女性だ。

端正な顔立ちだけど、エルメンヒルデのような人形染みた生気のない感じもなく、ちゃんと人間味もある、まさしく美女と呼べる女性だった。

 

この人がハーフだからだろう、吸血鬼と人間の両方の美しさを持っているのだろう。

 

 

だけどその人の赤い双眸は――――酷く虚ろだった。

生気ある輝きを失った正気を感じられない虚ろな眼差しのまま、女性は俺に挨拶をくれる。

 

「ごきげんよう、皆さま。私はヴァレリー・ツェペシュと申します」

『…痛々しいな』

 

同情を滲ませたドライグの言葉通り、彼女の微笑みは儚さと痛々しさが滲み出ている。

それに視線はかなり朧気で、この場の誰をも正確に視界に収めてはいないだろう。

 

……いや、唯一見知った者を捉えて視線を定めた。

 

「ギャスパー、大きくなったわね」

 

見知った者――――ギャスパーに話しかけるヴァレリー。

話しかけられたギャスパーは……彼女の状態を把握して悲痛な感情を露にした。

 

だがそれでもギャスパーは、無理矢理笑顔を作った。

 

「ヴァレリー……会いたかったよ」

「私もよ、ギャスパー。とても会いたかったわ。さ、もう少し近くに寄ってちょうだいな」

 

ヴァレリーはギャスパーを招くが、側近の者達はそれを別段止める気配も見せない。

 

「…元気そうでよかった」

「うん。……悪魔になっちゃったけど、僕は元気だよ」

「えぇ、その事は報告を受けていたわ。あちらでは大変お世話になったそうね」

「うん、友達や先輩も出来たんだ。もう一人じゃないよ」

 

そう言うとギャスパーは俺達を振り返る。それに釣られるようにヴァレリーもこっちを見て微笑んだ。

 

「まぁ…ギャスパーのお友達ですのね。……あら」

 

ヴァレリーはふとあらぬ方向へと顔を向けると、

 

「――――。―――――」

 

聞いた事もないような言語を口にして、何もない空間に話しかけていた。

 

…何だ、あの言葉は?

悪魔になって全ての言語が共通のものとして聞き取れるようになってるのに、それが全く機能していない。

 

つまり……この世にはない言葉って事か?

 

『ひでぇな……』

『どういう意味だ。それにあの言葉は何だ?』

『……』

 

ドラゴンの問いにドライグは黙ったままだ……いや、何を話せばいいか分からないって感じだ。

 

そして彼女の言語を理解できてないのはこの場にいる全員そうらしく、眉根を寄せていた。

 

何かを話していたヴァレリーだったけど、途端に顔を輝かせた。

 

「 そ う、そ う よ ね。私 も そ う 思 う わ。え?…………け れ ど、そ れ は ま だ……――――。―――――本当? そうよねぇ……――――」

 

……まただ。また分からん言語が飛び出てきた。

 

訝しげになる俺達に構わず尚もナニカに話しかけている恩人の姿に、ギャスパーも強い戸惑いを隠せずにいた。

 

「…お前達、あれを真正面から捉えるな。聖杯に引っ張られる。特にアーシア、ゼノヴィア、イリナ、協会出身のお前達はあれから視線を外しておけ」

 

…曹操の時と同じか。教会出身の信者を忘我の境地をと至らせる――――呪いにも等しい、聖遺物の力。

 

『なぁドライグ。あれって何なんだ?』

『…噂には聞いてはいたが、あれが聖杯を使用した代償か。こればかりは俺よかアザゼルの方が詳しいだろう』

「…あれが聖杯に取り憑かれた者の末路だ。決して見えてはいけないモノが見えてしまうんだよ。…詳しい話は後でする」

 

先生がそう言った時、俺は不意に何かの視線を感じた…………その感じた先には、ヴァレリーが話しかけている虚空があった。

 

『…相棒?』

 

ドライグの戸惑いの声が聞こえる中、俺はその場を凝視する。

何もない筈のそこから、確かに視線を感じる――――そしてそれは、ナニカは俺をじっと見つめていた。

 

そして、見えないナニカは俺へと徐々に距離を詰めていき――――

 

 

 

『相棒!!!』

「っ!」

 

俺はドライグの怒声によって、意識が戻って来た…戻って来た?

気付けば全員が俺を心配そうに見つめており、背中には黒歌が掌を押し当てていた。

 

「陰の気に中てられるところだったわよ、イッセー。気を付けなさいな」

「っ、あぁ…ゴメン」

 

深く深呼吸をして改めてそっと視線を向けると、そこには相変わらず何も見えない。そして視線も感じない……何だったんだ、今のは。

 

「ヴァレリー」

 

すると傍にいた男性が手を鳴らした。

 

「その『方々』と話し込んでばかりでは失礼ですよ? きちんと王として振舞わなければなりません」

 

男性の言葉に、ヴァレリーも笑顔で相槌を打った。

 

「うふふ、ごめんなさい、皆さま。でも、私が女王様である以上、平和な吸血鬼の社会が作れるそうなの。楽しみよね、ギャスパーもここに住めるわ。だーれも貴方や私をイジメる事なんてしないわ」

 

……誰が聞いても分かる。その発言は彼女の本心ではない、良い様に騙されたものだと分かる発言だった。

 

……クーデターを起こした心無き連中に利用されつくしたんだろう。

神器も、彼女の心も、深く――――。

 

「…ヴァレリー……ッ」

 

恩人の変わり果てた姿にギャスパーは涙を堪え切れずに、泣いてしまった。

先生は傍に控えていた若い男の吸血鬼を睨んだ。

 

「よくもこんなになるまで仕込んだもんだ。それを俺達に堂々と見せるたぁ、悪趣味も度が過ぎれば外道のそれだ。お前さん、この娘を使って何をしたい? 見たところ、今回の件の首謀者なんだろう、お前さんが」

 

若い男は端正な顔を醜悪に歪めながら肯定する。

 

「首謀者、確かにそう言うのが適切でしょう。そう言えばご挨拶がまだでしたね。私はツェペシュ王家、王位継承第五位マリウス・ツェペシュと申します。暫定政府の宰相と神器研究最高顧問を任されております。まぁ、どちらかと言えば本職は後者の方ですが……叔父上に頼まれましてね。一時的ではありますが、宰相となっております。一応、系図的にヴァレリーの兄でして、ツェペシュの将来を憂いた可愛い妹が王として吸血鬼の世界を変えていくのか、それを見守りたいのですよ」

 

よりにもよって王族かよ……しかも、明らかに見え透いた嘘を堂々と喋るんじゃねぇっての!

 

「…こちらがカーミラ側と接触しているのは知っているんだろう? ここにまで招き入れても良かったのか?」

 

先生の問いにマリウスは肩を竦める。

 

「新政府はカーミラだろうと、堕天使の総督様であろうと友好的に交渉していきたいというスローガンを――――ま、半分は冗談ですがねぇ」

「言ってくれるじゃねーか……」

 

先生は静かに言うが、恐らくは内心かなりキてるだろう。

半分煽りみたいなもんだろ、これ。

 

「正直な話、私は別に政治などあまり興味はありません。それに関しては私のクーデターに乗った同士一同に任せるだけですので。ただ、今回はヴァレリー女王があなた方に会いたいと仰ったものですし、私もあなた方に興味があったのですよ。何せ、協力者からよくあなた方のお噂を伺っているものですから」

「……それはこの際置いておくとして、主犯のお前さんに訊こう」

「はい?」

「何故クーデターを起こした? あの野郎の立案か?」

 

…いきなり核心に触れたか。それを聞いていたツェペシュの吸血鬼達もこのやり取りにはどよめいていた。

 

先生の問いに、マリウスは別段隠す様子も見せずにこう答えた。

 

「私が聖杯で好き勝手出来る環境を整えているだけです。ヴァレリーの聖杯は興味の尽きない代物でして、色々と試させているのですよ。はい、本当にそれだけでして。その為には前王――――父や兄上達が邪魔でしたので、少々強引に退場していただきました。『あの野郎』とは、恐らくはあの方の事でしょうが――――今回の行動は我々が独自に起こした事です」

 

……つまり、自分の欲求を満たすために国一つを滅茶苦茶にしたのか!?

 

だがそれを聞いてもヴァレリーは笑顔を浮かべたまま……彼女の心をここまで操ってるってのか!

 

今の発言を聞いていた周囲の吸血鬼の貴族たちのどよめきも大きくなった。

 

「マリウス殿下、それは今ここで話すべき事ではありませぬぞ!」

「こ、ここは仮にも謁見の間です! 暫定の宰相ではありますが、それ以上の発言は慎んでいただきたい!」

「相手はグリゴリの元総督とグレモリー家の次期当主なのですから、今の発言を総意と取られてしまうと我々の立場がありませぬ!」

 

マリウスの大胆な物言いに仲間であろう貴族たちが慌てて窘めるが、当の本人は「これは失敬。早く宰相の任を解いてもらいたいぐらいです」と苦笑いしつつ皮肉をかます始末だ。

 

こんな態度を見せる奴を窘めるだけで物理的にも政治的にも抑えられないって、やっぱりこいつが全部を握っているって事か。

 

こんな外道は久しぶりに見たぜ。

 

「…酷いです。酷過ぎます」

 

優しいアーシアには酷だろう、一人の男のエゴで多数の者が不幸に落とされているのだから。

 

「…ヴァレリー・ツェペシュは解放できないというのね?」

「えぇ、当然です」

 

マリウスはにべもなく言い放った。

 

「話し合いは無駄だよ、リアス部長」

 

今まで静かに話を聞いていたゼノヴィアだったが、その顔は今までにない程冷たい表情を浮かべていた。

ゼノヴィアが何をしようとするのか察したリアスは、ゼノヴィアを手で制する。

 

「お止めなさい、ゼノヴィア。……相手は宰相よ」

「……ッ!」

 

今にも斬りかからんばかりの殺意をむき出しにするゼノヴィア……元々吸血鬼にはいい感情を持ってなかったこいつだ。

マリウスの醜悪さを見て、抑えてた怒りが一気に解放されたんだろう。

 

だけどゼノヴィア、堪えろ。彼女の、ヴァレリーの生殺与奪はアイツが握ってるんだ……!

 

「怖いですねぇ。では、私もボディーガードのご紹介をさせていただきましょう。私がここまで強気になれる要因の一つをね」

 

マリウスが指を鳴らすと、俺達全員に悪寒が走った――――!

 

『ッ!!!』

 

一瞬で全身が硬直するのが分かった……動けば殺される、本能的に察した俺達はただ一点を睨み付けるしかなかった。

 

その一点には――――黒いコートを着た長身の男が一人、柱を背に預けて立っていた。

金色と黒色が入り乱れた髪に、相貌が金、黒のオッドアイが俺達を捉えたと思うと、視線を床へと移した。

 

『…まさか、お前がここにいるとはな』

 

俺の左手に籠手が出現し、ドライグはその男へと語りかける。

男は下げた視線を再び上げ、俺の左手を見つめる。

 

「……久しいな、ドライグ」

『グレンデルやアジ・ダハーカと同じように、お前も蘇っていたとはな……クロウ・クルワッハ』

 

クロウ・クルワッハって………滅んだ邪龍の!?

 

邪龍最強……確かにそうらしい。あのグレンデル以上のヤバいオーラを放ってやがるッ!

今戦っても、絶対に勝てない……そう思わせるだけのプレッシャーを感じていた。

 

『お前ほどのボディーガードがいるなら、確かにクーデターも容易かったろうな』

「歯応えがなさ過ぎた。……だが、お前の宿主なら或いは――――」

「ッ」

『止せ相棒。戦おうと思うな。今のお前ではあいつに勝てん』

 

分かってるっての……第一こうしてロクに動けないのに戦えるわけないだろっ。

 

「…さぁ、今日はここまでにしましょうか。お部屋はご用意しております。皆さまも暫しご滞在ください。――――あぁ、そうでした。ヴラディ家の当主様もこの城の地下室に滞在しておりますので、お会いになると宜しいでしょう」

 

マリウスの言葉で謁見は終わりを迎え、俺達は王の間からの退室を余儀なくされた。

 

 

今回の事件も――――やっぱり一筋縄ではいかなそうだ。

 

 

 




多分次回はあの野郎が登場するかもです

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