ハイスクールD×D wizard 希望の赤龍帝 作:ふくちか
転移が終わった俺達の視線の先には――――見知らぬ広い空間が広がっていた。
「よう、来たか」
「おっす!」
聞き覚えのある声がしたのでそちらを向くと、アザゼル先生と吼介がいた。
「無事そうで何よりっす、先生。吼介も無事で何よりだ」
「あぁ。早速で悪いが移動するぞ。詳しくは車の中でする。エルメンヒルデ、案内を頼む」
先生がそう言うと、傍らから姿を現したのは以前出会った吸血鬼の少女だ。
「――――かしこまりました。皆さま、カーミラの領地までよくぞ起こしになられました。……手前どもはギャスパー・ヴラディだけで宜しかったのですが……」
「そう言いなさんなよ」
相変わらず刺々しい対応ですこと……そう言ってられる状況かってんだ。
俺の発言を無視しつつ、彼女は淡々と続ける。
「到着早々で申し訳ございませんが、車まで案内致しましょう」
その発言に従いつつ、俺達は転移した部屋を抜け、地上へと出た。
どうやら地下だったらしい、だから肌寒いのかと思っていたが――――外は深夜、そして一面の雪景色だった。
『四季は同じでもルーマニアの方が寒いというしな。しかも人里離れたこの山奥だ。気温は日本より低いのもやむ無しだろう』
「寒いな……」
エルメンヒルデは…白い息すら吐いちゃいない。
これも純血の吸血鬼故なのかねぇ……うちのヴァンパイアはと言うと。
「さ、寒いですぅ……」
震えてらっしゃる……純血とハーフってこういうとこにも違いが出るんだな。
「ひゃー、やっぱ日本より寒いにゃん」
「はい、寒いです」
アーシアと黒歌も寒そうだ……黒歌なんてちゃんと和服着て仙術で保温してるだろうにも拘らず、だ。
それにしても……こんな山奥だってのに立派な城下町があるのは驚きだな。
しかも周囲は雪山だらけの絶景ときたもんだ。
『閉塞的な吸血鬼の生態を現してると言えるな』
「お前なぁ…」
相変わらず吸血鬼嫌いなのな、絶対に発声すんなよそれ。
ゼノヴィアは雪景色の城下町を見ながら呟く。
「あれが教会が長年探し求めていた吸血鬼の本拠地か。教会の戦士だった頃は、尻尾すら掴めなかったのに、まさか悪魔になってからここへ来られるなんてね。ふふ、皮肉も相当効いてるよ」
確かに、でもそれだけ情勢と勢力図が変貌したって事だろうな。
俺達は監視用の塔から出ると、彼等が用意した荷台のワゴン車に分乗して乗り込んだ。
運転手は先生とロスヴァイセさんだ、因みにロスヴァイセさんはちゃんと運転免許を取得してるぜ。
「…………悪魔の趣味は理解出来ませんわ」
エルメンヒルデを始め、吸血鬼達がルガールさんを見た時の反応が驚きだった。
『…胸糞わりぃ眼付きだな』
ドライグの言う通り、全員が嫌悪と畏怖に満ちた顔でルガールさんを見ていた……一体何だってんだ?
そんな事がありつつも、俺達はカーミラの吸血鬼に別れを告げて出発する。
「――――っ! ツェペシュの新たなトップが……ヴァレリー!?」
先生からの説明に俺達は驚きを隠せずにそう叫んだ。
クーデターが起きた以上、トップが変わるのはある程度予想してたけど……まさかそれが、ギャスパーの恩人かよ!
「ヴァ、ヴァレリーが…!?」
俺達も驚いたけど、ギャスパーはそれ以上に狼狽していた。
そりゃそうだ…救おうとしてた自分の恩人がツェペシュのトップになってるなんて、予想できるかよ!
「男性の真祖を尊ぶツェペシュ派のトップがハーフ、しかも女性だなんて……かなりの事があちらで起こっているのは明白ですわ」
朱乃さんがそう言っているけど、それもそうだ。
純血であることに過剰なまでに固執するヴァンパイアがハーフの子を王に据えるなんて、普通有り得ないからだ。
「『禍の団』が裏から奴等を誘導してそう言う状態を作り出したんだろう。『禍の団』と手を組んでいるのは、ツェペシュの反政府グループだ。現政権のへの不満と、聖杯による『弱点克服』の恩恵に目がくらんで、テロリスト共の甘言に乗っかっちまったんだろう。強化した吸血鬼をカーミラ側にぶつけていたのもそいつらだ」
…向こう、スゲェ混乱してんじゃねーのか? リアス達は大丈夫なのか?
「流石にツェペシュの政府側もテロリストと結託した反政府グループには対処できなかったのか、カーミラの元に援助を求めて来たのさ。ツェペシュの王に借りを作るのはカーミラとしても願ったり叶ったりだろうからな」
先生が息を吐きながら続く。
「んで、通信でも言ったが……俺はツェペシュの方も気がかりになったから行くことにしたって訳だ。流石に俺だけじゃ何ともし難いもんでな。リアス達を迎えに行くのも含めて、お前達を緊急に召喚したって事だ」
成程ねぇ……納得は出来る話だ。
「結構大事になりそうだぜ、イッセー。何せカーミラ側も今回のクーデター鎮静に参加するらしいって話だからな」
「マジでか…?」
「大マジだ。一応話し合いって体だが、戦闘の事も頭に入れておけ。城下町の周囲には既にカーミラのエージェントが配置されつつあるからな」
つまりその真っただ中に飛び込んで内情を探りつつ、場合によっては中央突破しなきゃいけないって事か……気を引き締める俺を余所に、先生は忌々しそうに眉根を寄せていた。
「……あの野郎が関わってるなら、高い確率でろくでもない事になる」
「あの野郎?」
『どの野郎?』
「……いや、まだ確定事項じゃないからな。この事はあまり考えなくても良い」
……気になるな、先生がこんなに嫌そうな顔をするなんて。
『気にはなるが、今はこのクーデターをどうにかする事を優先すべきだろ』
『それもそうだな』
それにろくでもない事も起きるであろうというのも承知の上でここに来てる。
覚悟は出来てますよ、先生。
「…ハッ。変に若い連中がこの手の荒事に場慣れしちまうのも頼もしいやら申し訳ないやら。――――俺達はリアスと木場と合流次第、あわよくばヴァレリーを連れだせばいい。後の始末は吸血鬼連中がうまくやってくれるだろうさ」
「うっす」
先生が苦笑いしながらそう言う中、ギャスパーは強く意気込んでいた。
「ヴァレリーは僕が……!」
「あんまり毛負い過ぎるなよ? みんな一緒だ。だから遠慮なく頼ってくれよな」
「はい!」
随分強い男の子になって来たじゃねーか、ギャスパー!
そうこうしてる内にワゴン車はツェペシュとカーミラの領土を繋ぐ巨大な橋を抜け、とある山の中腹にあるゴンドラ乗り場に到着した。
「ここがカーミラ側が確保できたツェペシュの城下町に続くルートの一つなんだとよ」
「へぇ……何かかなり結界敷いてるけど通れるのか?」
「特別製らしいぜ。カーミラ側の大使さんが言うには」
雪山を眺めながら吼介の説明を聞いているが……全く景色変わんねぇな。
しかも真っ暗だし、退屈が更に助長されてく一方だ。
そんな中、ちょっと珍しい行動をしてる奴がいたので話しかける事にした。
「ゼノヴィア、何してんだ?」
「ん? あぁ、これは単語帳だよ。日本の難しい文字、漢字を覚えるためのものだよ」
「どら……ホントだ」
見せてもらったが、確かに文字だ漢字だが書かれていた。
「……お前、そんなにテストの結果悪くなかったろ?」
「国語だけは苦手だけどね」
「それでも平均点は越えてるもんなー」
吼介がからからと笑うが、実際ゼノヴィアの……と言うかオカ研メンバーは俺以外の全員が成績優秀だ。
え、俺?……ある程度の計算できてある程度漢字が読めりゃそれで良いんですぅ。
「やりたい事が出来たんだ。その為にも知識が必要になってね、必死に覚えているところなんだ」
そりゃ殊勝なこって。……裸でエロゲしようとか誘ってきた奴と同一人物とは思えんな。
『僻みか?』
『ある種の妬みもあるんだろう』
『……あー、そうか』
うるへぇぞお前ら。
「実はゼノヴィアさん、学校の行事にとても関心を示すようになりまして。…学生という立場をもっと堪能したいと仰ってるんですよ」
「へぇ……ま、元々学校に通ってなかったもんな。それに楽しそうだもんな、アイツ」
「はい」
アーシアが微笑んで肯定する通り、ゼノヴィアは学校の行事イベントに毎度楽しそうに参加している。
体育祭も学園祭も、全身全霊で楽しんでいるんだ。
行く末は生徒会かな?そう思っている俺の傍で、イリナがゼノヴィアに進言した。
「うふふ、私で良かったら日本の言葉を教えてあげるわ」
「遠慮しておこう」
うぉ、バッサリ断った。
「イリナの日本の知識は怪しい所が多々ある。独学か、リアス部長や朱乃副部長やイッセーに訊いた方が確実だ」
「な、何でよ! 失礼しちゃうわっ!」
イリナの抗議の声を無視して、ゼノヴィアは嘆息する。
「この間、盛大に四字熟語の意味を間違っていたじゃないか。――――『弱肉強食』、弱者でも強者でも平等に焼き肉を食べられる権利を持つ、と堂々と公言していたが全く意味が違うそうだが? 他国でも同じような言葉があるというのになぜ故国のだけ間違えるんだ……」
「「うわぁ……」」
俺と吼介は揃って引いた声を出してしまう……そりゃ酷いぞイリナ。
『相棒ですらちゃんと意味理解してんのに……』
『自称日本育ちというのも些か虚言でもなさそうだな』
「イッセーの相棒たちの言う通りだな……自称『日本育ち』か」
『『そりゃ酷い』』
また称号が増えたな、イリナ。
でも今回は全く擁護できんからすまんな、幼馴染よ。
「じ、自称じゃないもん! 日本で生まれて育ったもん!!」
「はいはい分かったよ。焼肉定食のA」
「うわーん! ゼノヴィアがいじめるわ、アーシアさーん!!」
アーシアは苦笑いしつつイリナを宥める。
「え、えーと…今度イッセーさんに日本語の勉強教わりましょうね。イリナさん」
「アーシアさんまでぇ!!?」
おおっと、アーシアちゃんの天然カウンター炸裂。イリナは崩れ落ちたぞ!
「うふふ、微笑ましいですわね」
「そっすね」
「IQ下がって来てる気がするにゃ……」
黒歌はげんなりとしてる横で朱乃さんは楽しそうに見つめていた。
「朱乃ちゃんは楽しそうにゃ……楽しいの?」
「えぇ。気持ちが穏やかになりますから」
「そうっすね。…ああいう笑顔のさせ方もあるんだなって思いますよ」
「ふ~ん……」
黒歌は素っ気なく頷くと、そのまま外の風景に目を向けた。
「そう言えば朱乃さん」
「はい」
「シトリー出資の学校が建てられるって知ってました?」
「えぇ。ソーナ会長から聞いてますわ」
あぁ、リアスとソーナ会長の親密さからすれば聞いてて当然か。
それを聞いていたロスヴァイセさんも会話に参戦する。
「私も聞きましたよ。会長さんから将来的にその学校の教師にならないかとオファーをいただいたほどです」
「凄いじゃないっすか!」
それは知らなかった! まさか教師のオファーとは……!
「それで、どう返事したんすか?」
「…まだ考え中です。断る理由もなかったものですから。確かに駒王学園で教員になって教職というもの――――人にものを教える事が楽しいと思えているのも事実ですからね。今度、その学校が立ったら一度見学に行こうと思います。その為にも今回の事件が穏便に済めばいいのですが……」
…確かに、シトリー眷属が出資した学校に行くにも、まずは今回の事件を解決しなきゃいけないよな。
「じゃあ、猶更みんな無事に帰りましょう。その学校を見に行くために」
「えぇ。勿論です」
「……そう言えばさ」
そのやり取りを景色を見ながら聞いていたのか、黒歌が口を挟んできた。
「どした?」
「イッセーの将来の夢って、何なの?」
「…そう言えば、聞いた事がなかったね」
「私もです!」
黒歌のその発言に、アーシアやゼノヴィアと言った面々も参加してきた。
「…………」
皆が興味深そうに見てくる中、俺は何と言えばいいか分からず、口を噤んでしまった。
「イッセー君?」
「……あ、えっと」
『…どうやら到着するみたいだぞ』
と、ここでドライグが気を利かせてくれた?お陰でみんなの興味がそちらへと移った。
視線の先には確かに、ゴンドラ乗り場があった。
って事は向こう側はもうツェペシュの領内か……。
『……ドライグ、サンキューな』
『俺ぁこういう時の為にいるんじゃないんだがな』
ーーーー
ゴンドラから降りた俺達を出迎えたのは、数名の吸血鬼だった。
「アザゼル元総督と、グレモリー眷属の皆さまですね? 我らはツェペシュ派の者です」
俺達は頷いて肯定する。
それを認識して、彼等は此方を招き入れる姿勢でこう言った。
「こちらへどうぞ。リアス・グレモリー様はツェペシュ本城でお待ちです」
本城? てっきりヴラディの家にいると思ったんだが……。
『本城に連行されたのかもしれんな』
『だとしても何のために?』
『さぁな』
心チャットをしているうちに、俺達は馬車の元へと連れていかれた。
……因みにこの時点でルガールさんとベンニーアちゃんはいない。
これに関してはこちらに来る前に予め予定していたのだ。
二人は独自に行動――――市街の様子を探るのと、いざって時の為の脱出ルートの確保、この二点の為だ。
だけど音もなく、ツェペシュの吸血鬼に気付かれる事無く行けるとは……こりゃかなり期待のルーキーだな、ソーナ先輩。
『吸血鬼の連中も今頃気付いたらしい。だが、それでも俺達を連れて行くだろうな』
『何で分かるんだ?』
『領内まで入れた以上、ここへ来て門前払いというほど余裕はないだろうからな。何しろクーデターの真っただ中だ。自分達の事で手いっぱいだろう』
成程……おぉ、馬車に案内させられた。
リアス、木場……待ってろよ。
今年も頑張って投稿していきます故、宜しくお願いします