ハイスクールD×D wizard 希望の赤龍帝   作:ふくちか

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サプラーイズ(ドゥーン)


MAGIC159『ファンガイア……ではなくヴァンパイア』

良い子は寝静まっているであろうド深夜の駒王学園、今日は噂の吸血鬼との会談当日だ。

 

今日この場に集合したのは俺達グレモリー側オカルト研究部全員、シトリー側のソーナさんに真羅副会長、堕天使代表?のアザゼル先生…

 

「クエスチョンマーク付けんな!」

 

失敬、そして最後に天界側からシスターが一人という布陣で臨むのだ。

 

ベールを深く被ったシスターさんで、北欧的な顔つきをした女優さんも裸足で逃げそうな美貌の美人さん。

 

……この人、どっかで見た事があるな。

何処だっけなぁ……?

 

「挨拶が遅れました。私、この地域の天界スタッフを統括しておりますグリゼルダ・クァルタと申します。シスター・アーシアとは少し前にご挨拶できたのですが、皆さまとはまだでしたので、改めて今後とも何卒よろしくお願いできたら幸いです」

「私の上司様です!」

 

へぇー、イリナの上司さんなんだ。

 

「おぉ、話は聞いてるぜ。ガブリエルのQ!シスター・グリゼルダって言えば、女のエクソシストの中でも五指に入ってたな」

「恐れ入ります。堕天使の前総督様のお耳に届いているとは……光栄の至りですわ」

 

ガブリエルさんの部下で女性エクソシストでも上位の存在か、すげぇ!

 

「シスター・グリゼルダは『クイーン・オブ・ハート』って呼ばれているの!」

『キング・オブ・ハートじゃねぇのか?』

「ドモン・カッシュかよ」

 

ガンダムファイターじゃねーんだから。

 

「申し訳ございませんでした。本来ならもっと早くに挨拶に伺うべきでしたのに……諸々都合がつかず、今になってしまい、己の至らなさを悔やむばかりです」

「いえいえ、そんな」

 

丁寧な物腰だなぁ、これだけで好感が持てるぜ。

 

「あらあら?ゼノヴィアったら、顔色が悪いわね?」

 

だけど何故だか、この人が来てからはゼノヴィアの様子がおかしい。

まるで視界に入れようとしないように、顔を強張らせていた。

 

そして当のゼノヴィアはイリナのその質問にカチコチになりながらも応えた。

 

「…揶揄うな、イリナッ!?」

 

おおっと、ここでシスターさんがゼノヴィアの顔を両手でがっちりと押さえつけた。

 

「ゼノヴィア?そんなに私と顔を合わせるのが嫌なのかしら?」

「ち、違う……ただ………」

「ただ?」

「…で、電話に出なくて、ごめんなさい」

 

…そう言えば、ゼノヴィアが時折着信が来ていたけど無視していたっけな。

あれってグリゼルダさんからの電話だったのか。

 

でも何であんなにゼノヴィアは怖がってるんだ?

 

「シスター・グリゼルダはゼノヴィアのお姉さん的存在なの。同じ施設の出身で、いつもお世話になっていたせいか、彼女には頭が上がらないのよ」

「あー、それでか。じゃあゼノヴィアが悪魔になった時も滅茶苦茶ショック受けたんじゃないのか?」

「先日お会いした時にお聞きしたんですが…それ以上にゼノヴィアさんに連絡を貰えなかった事がショックだったそうです」

 

成程ねぇ……まぁ、心配する気持ちも分かる。

 

「今度一緒に食事でもしたらどうだゼノヴィア?」

「な、イッセー何を!?」

「お前にとっても大切な人だろ?アンダーワールドに映っていたぐらいだしな」

 

グリゼルダさんを何処かで見た事がある――――彼女は以前ゼノヴィアのアンダーワールドに入った時にその景色に映っていた人だ。

幼い時のゼノヴィアと一緒に祈りをささげていた……それだけゼノヴィアにとっては大切な人だって事だ。

 

「…その事で、赤龍帝さんには大変感謝しております。ゼノヴィアを助けていただいて、本当にありがとうございます」

「い、いえそんな!大した事じゃないですよ!」

「それだけに……ゼノヴィア。赤龍帝さんにご迷惑をおかけしていないでしょうね?」

「だ、大丈夫だぞ?」

 

何で疑問形?…と、そんなこんなでシスターさんとの挨拶も済ませて、後は吸血鬼の来客を待つだけとなった。

 

 

 

夜もさらに深くなり、外も完全に静まり返った頃――――旧校舎の入り口のある方向から異様な冷たさを感じた。

 

「来たようね……相変わらず、吸血鬼の気配は凍ったように静かだわ」

 

リアスが木場に視線を向けると、木場は一礼をしてから部屋を後にした。

 

吸血鬼――――彼らは招待された事のない建物に入れない。

鏡に姿が映らず、影もない。流水を渡れず、ニンニクを嫌い。教会のシンボル――――十字架、聖水に弱い。

 

そして、自分の棺で眠らなければ自己回復が出来ないらしい。

 

ハーフのギャスパーに関してはそれらの制約のうち、いくつかが異なる。

影はあるし、鏡に姿も映る。川も渡れるし、ニンニクも克服しかけている。

 

専用の棺で絶対に眠る必要もない。

これに関しては人間の血の方が濃いかららしい。

 

……さて、肝心の交渉は『王』クラスの俺、リアス、ソーナさん、グリゼルダさんとアザゼル先生が受け持つ。

俺も『王』だから、今回は事に当たらなければならない。

 

眷属達は来客に備えて『王』の傍らに立つ。

朱乃さんとグレイフィアは給仕係の為か、専用の台車の前に待機している。

 

 

「お客様をお連れしました」

 

木場が紳士な応対で扉を開き、客を招き入れる。 

 

入ってきたのは中世のお姫さまが着るようなドレスに身を包む人形のような少女で、目と鼻、口元まで人間味の感じられない、作られたような美しさがある。

 

長い金髪はウェーブがかかっていて、どう見ても美少女……なんだが、生気が感じられない肌色が目を引く。

 

何つーか、美少女だけど俺の苦手なタイプだな。

 

『ゾンビみたいだな』

『吸血鬼ってのはあぁいうのばっかだぞ』

 

お前ら発声すんなよ、頼むから。

 

その子の背後に控えているのは恐らく護衛の吸血鬼か。

両方共に生気を感じられず、冷たい気配が漂う……後、刺々しいのも。

 

 

少女は丁寧に俺達に挨拶をくれる。

 

「ごきげんよう、三大勢力の皆様。特に魔王さまの妹君お二人に、堕天使の前総督さまとお会いできるなんて光栄の至りです」

 

リアスに促されて、リアスの対面の席に吸血鬼の少女は座ることに。

 

座る前に少女は名乗る。

 

「私はエルメンヒルデ・カルンスタイン。エルメとお呼びください」

「…カルンスタイン。吸血鬼二大派閥のひとつ、カーミラ派。その中でも最上位クラスの家だ。純血で高位のヴァンパイアに会うのは久しぶりだな」

 

カーミラ派って確か――――

 

『女尊主義の派閥だな』

 

ドライグの言う通り、吸血鬼には二大派閥が内部に存在している。

…その前に、吸血鬼の業界についてある程度語っておくか。

 

吸血鬼は古くから存在する闇の世界の住人……断っておくけど、地獄兄弟とは全く関係ないので、悪しからず。

それは兎も角、吸血鬼の世界は上級悪魔と似たような階級制度を持ち、更には弱点まで共通している。

 

けど、価値観や文化は全く異なっている。

 

悪魔と吸血鬼は長年、お互いに縄張りを刺激せずに人間を糧に生きてきた。

天界――――神の従僕たちが天敵なのも一緒だけど、共闘する事もなくずっと一定の距離を置いて来ている。

 

悪魔は今夏に行われた三大勢力の和平に応じ、長い三つ巴の様相を収束させたけど、吸血鬼はまだ和平のテーブルに着こうとすらしていない。

 

そんな訳で、未だに天界――――教会の戦士達と小競り合いがあるみたいだ。

 

 

そして肝心の二大派閥。

 

数百年前に吸血鬼の業界で大きく袂を分かつ事件があった。

それがツェペシュ派とカーミラ派――――男尊主義と、女尊主義の派閥と言う訳だ。

 

純潔の吸血鬼を残すため、男の真祖を尊ぶか、女の真祖を尊ぶかで長年主張を対立させていた者同士が、拗れに拗れまくってグループが真っ二つに分かれたんだとか。

 

先生の説明通りなら彼女――――エルメンヒルデは女尊主義のカーミラ派の吸血鬼って事だ。

 

 

「エルメンヒルデ、いきなりで悪いのだけれど、質問させてもらうわ。――――私達に会いに来た理由をお話ししてもらえるかしら?今まで接触を避けてきたあなた達カーミラの者が何故今になってグレモリー、シトリー、アザゼル前総督の元に来たの?」

 

リアスの質問にエルメンヒルデは一度瞑目すると、静かに頷いて口を開いた。

 

「――――ギャスパー・ヴラディのお力を借りたいのです」

 

――――マジか。

 

予想してなかった答えに、俺達は絶句する。

…当のギャスパー本人はぶるぶると全身を震わせていた。

 

『このタイミングで吸血鬼の小僧の力を借りるとなると……例の力か』

 

…あぁ、確か魔獣騒動の折に覚醒したっていう能力だ。

 

『だが解せんな。何故このタイミングで求める?』

 

それだ、そこが分からん。

 

「率直な質問に率直な答え。済まないが、順を追って説明してもらおう。――――吸血鬼の世界に何が起きた?」

「我々吸血鬼の世界で起きたある出来事が、根柢の価値観を崩すほどのものになってきているのです。情報が流出しご存知かもしれませんが、神滅具を持つ者がツェペシュ側のハーフから出てしまったのです」

 

神滅具、か……そんな話を小耳に挟んだけど、だからって何でギャスパーを求めるんだ?

それに……何でツェペシュ側から出たというのに、ここに来たのはカーミラ側の吸血鬼なんだ?

 

理由は分からんないけど、絶対に面倒な事だって言うのは分かるぞ…!

 

「それで、ツェペシュ側が所有している神滅具は何だ?」

 

――――この世に現存している神滅具は全部で十三種。

 

現在分かっている所在は「赤龍帝の籠手」「獅子王の戦斧」の二種類が悪魔側、天界側に二番目に強いと目される「煌天雷獄」をジョーカーが保有し、堕天使側には先生の配下に「黒刃の狗神」こと「刃狗」がいる。

 

魔法使いの協会――――三大勢力と懇意にしているメフィストさんの組織に「永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)」、多くの魔法使いから危険視される無法者のはぐれ魔法使いの集団に「紫炎祭主の磔台(インシネレート・アンセム)」。

他はヴァーリの「白龍皇の光翼」、そして英雄派にあった最上種の「黄昏の聖槍」「魔獣創造」「絶霧」の三つ……この三つに関しての所在は不明だけど、次の所有者に移ってはいないらしい。

 

今のところの所在が分かっているだけでもこれらだけ……しかもここまで認識できたのはホント最近になってからなんだとか。

 

所在が全く把握できていないのは後の三つ――――「幽世の聖杯(セフィロト・グラール)」「蒼き革新の箱庭(イノベート・クリア)」「究極の羯磨(テロス・カルマ)」。

 

『どれも碌なものじゃないな』

 

知ってるのか?

 

『「幽世の聖杯」以外はよく知らん』

『流石にそこまでは調べられなかったと言いますか……人間の限界って事で』

 

まぁ、そうだよな…人間以上の情報ネットワークを持っている三大勢力ですら補足するのが困難だってのに、人間一人じゃ無理な話だ。

 

けど「幽世の聖杯」は知ってるんだな。

 

『はい。そこはキリスト関連の書物を漁っていたら偶然合致するものを見つけちゃったんですね』

 

合致……?まぁそれは置いといて、吸血鬼側が所有しているという神滅具に戻ろう。

 

 

「――――「幽世の聖杯」ですわ」

 

エルメンヒルデの答えに、先生は更に目元を厳しくさせた。

 

『ほぉ、よりにもよってそれが吸血鬼の陣営にあったとはな』

「聖遺物の一つ――――聖杯か」

 

聖遺物って確か……曹操の聖槍と同じものだっけ。

 

『イエス関連の物は大抵聖遺物さ』

『…その聖杯って、どんな力があるんだ?』

『イエスの最後の晩餐に使われたとされる杯だ。だがただの器じゃない。生命そのものに干渉できるヤベー代物だ。使い方を誤れば生命の理すら覆しちまう。おい小娘、不死者の吸血鬼がそれで何を求める?』

 

ドライグの声にエルメンヒルデは少し驚いた様子だった。

 

「…赤龍帝ドライグ、如何に伝説の龍であっても立場をお考えなさい。貴方はもはや過去の残滓でしかないのですから」

『そうか?俺の宿主は上級悪魔の『王』だ。なら俺の質問は宿主である兵藤一誠のものでもある……そうは考えられないか?』

「…屁理屈ですが、理には適っていますわね、良いでしょう。……絶対に死なない体――――杭で心臓を抉られても、十字架を突き付けられようとも、自分の棺で眠らずとも、太陽の光を浴びようとも、決して滅びぬ体をツェペシュの者達は得ているのです。いえ、正確に言いますと、滅びにくい体を得た…でしょうか。聖杯の力はまだ不完全なようですから」

 

彼女は続けてこう加えた。

 

「何も弱点のない存在になろうとしているのです。吸血鬼としての誇りを捨てる。それだけならまだしも、あの者達は此方に攻撃をしてきたのです。既に犠牲者も出ております。これら一連の蛮行を私どもは決して許すつもりは御座いません。同じ吸血鬼として粛正するつもりです」

 

そう語るエルメンヒルデの瞳は暗く、強い憎悪の色を帯びていた。

 

「カーミラ側は吸血鬼としての生き方を否定して、襲ってきたツェペシュサイドのやり方が気に入らないって事か。まぁ、攻撃されたら誰だってカチンとくるわな」

「その通りです。そして、私達の目的は――――」

 

エルメンヒルデの瞳は、その赤い双眸は、ギャスパーの双眸を捉える。

 

「そちらにいらっしゃいますギャスパー・ヴラディの力を借りて、ツェペシュの暴挙を食い止める事です」

 

…散々除け者にしてたギャスパーを今更吸血鬼の抗争に参戦させるってか!?

 

「それはギャスパーがヴラディ家の、ツェペシュ側の吸血鬼である事と関係があるのかしら?」

 

淡々と質問をしているリアスだけど……内心では激情を煮えさせているというのは察せられた。

可愛い眷属を、今まで交渉にすら応じなかった吸血鬼の抗争に貸せと言われたんだ――――情愛の深いリアスが、それを知って黙っている訳がない。

 

リアスの質問にエルメンヒルデは意味深な笑みを見せる。

 

『アイツ殺していいか?』

『落ち着けドラゴン』

「それもあります、リアス・グレモリー様。けれど、本当に私どもが欲しているのは、ギャスパー・ヴラディの力です。眠っていた力が目覚めたと、小耳に挟んだものですから」

 

――――こいつ等、何処からその情報を!?

 

いや、俺もまだ見た事はないけど、あのゲオルクを一方的に倒したって言うのは知ってる。

その力が破格なのは間違いないけど……。

 

「私どもは吸血鬼同士の争いを吸血鬼の力で解決しようと思っていますわ。その為に、ギャスパー・ヴラディのお力をお借りしたいのです」

「…あの力は何?あなた達はそれを知っているの?」

「…極稀に本来の吸血鬼の異能から逸脱した能力を有する者が、血族から生まれる事があります。今世においてはハーフの者に多く見られておりますわ。ギャスパー・ヴラディもその一人でしょう。カーミラに属する私どもでは、詳細を調べ上げられるほどの資料を有しておりません。しかし、ツェペシュ側には手掛かりになる物があるやもしれませんわ」

 

…要するに、知りたきゃヴラディ家の門を叩けって事か。

 

「そして、問題は聖杯について。所有者は勿論忌み子――――ハーフではありますが、名はヴァレリー・ツェペシュ。ツェペシュ家そのものから生まれたのです」

 

その名前を聞いて、ギャスパーは泣きそうな顔をしていた。

 

「…ヴァレリーが?う、嘘です!!ヴァレリーは僕みたいに神器を持って生まれてはいませんでしたっ!!」

『後天的に覚醒するパターンもある。恐らくその吸血鬼も、幼年期には眠っていたんだろう』

 

ドライグはそう言ってギャスパーを落ち着かせる……確か、神器が発現するのは個人差があるって言ってたな。

俺は小さい時に気付いたら発現していたし、そのヴァレリーって子はつい最近発現したんだろう。

 

「俺達や天界が観測、特定が済む前に隠蔽されたと思って良いんだろうな。ったく、どうしようもないな。聖なる力を嫌う吸血鬼が聖遺物の神滅具――――聖杯を捨てもせず、こちらに預けようともしないで自分達の元に隠すなんてよ」

「私もそう思います」

 

先生の言葉に、エルメンヒルデもそう同意すると、ギャスパーに再び視線を向ける。

対するギャスパーはおどおどしながらも、今度は真っ直ぐに視線を返していた。

 

「ギャスパー・ヴラディ。あなたは自分を追放したヴラディ家に――――ツェペシュに恨みはないのかしら?今のあなたの力なら、それが可能ではないかと思うのだけれど」

「……ぼ、僕はここにいられるだけで十分です。部長達と一緒にいられれば、それだけで――――」

「雑種」

「っ!」

 

その言葉を聞いた途端、ギャスパーの顔が曇り始める。

それを確認して、エルメンヒルデは続けていく。

 

「混じりもの、忌み子、もどき、あなたはどのようにヴラディ家で呼ばれていたのかしら?感情を共有できたのはヴァレリーだけでしたわね?ツェペシュ側のハーフが一時的に集められて幽閉される城のなかで、あなた達は互いに助け合って生きてきたと聞いておりますわ。ヴァレリーを止めたいと思いませんか?」

「ちょっと良いか?」

 

俺は内心で溜まった鬱憤を何とか抑えつつ、口を開く。

 

「ギャスパーにとって大切な人が危ない目に遭っていたとしても、最後に決めるのはギャスパー自身だ。此奴の意思を封じたうえで誘導させるような言い方は止めてもらいたいな」

 

俺がそう言うと、今まで沈黙を保っていたグリゼルダさんも口を開いた。

 

「あなた方はハーフの子達を忌み嫌いますけど、元々人間を連れ去り、慰み者として扱い、結果的に子を宿させたのは吸血鬼の勝手な振る舞いでしょう? あなた方に民を食い散らかされ、悔しい思いをしながらも憂いに対処してきたのは我々教会の者です。できれば、趣味で人間と交わらないでもらいたいものです」

 

柔らかい物腰だけど、言葉の端々には毒が満載だ。怒っているのはどうやら俺達だけじゃないらしい。

 

エルメンヒルデは口元に手をやり、小さく笑む。

 

「それは申し訳ございませんでしたわ。けれども、人間を狩るのが我々吸血鬼の本質。ですが、それはあなた方、悪魔も天使も同じなのでは? ――――我々異形の者は人間を糧にせねば生きられぬ『弱者』ではありませんか」

 

純粋な吸血鬼、ハーフは『雑種』、人間は『糧』……これがこの少女の考え方か。

そんなつまらない考え方で、この先やっていけるのか?

 

 

こいつ等の世界には、目に映っているのは、純粋な吸血鬼か、他の種だけしかない。

 

『古臭い価値観に縛られた哀れな種族だな。これほどつまらん奴等は初めて見た』

『…なんか腹立つな。お前と意見が合うなんてよ』

 

いや、お前ら案外馬が合っているからな?――――エルメンヒルデは、後ろで待機していたボディガードを呼び、鞄から書面らしいのを取り出した。

 

「手ぶらできた訳ではありませんわ。書面も用意しました」

 

エルメンヒルデが差し出した書面を受け取り、内容を一瞥した先生は息を吐く。

 

「…カーミラ側の和平協議について、か。今日のこれは外交――――特使として、お前さんが俺達の元に派遣されたって事か」

「はい。我らが女王カーミラ様は堕天使の総督様や教会の方々との長年にわたる争いの歴史を憂いて、休戦を提示したいと申しておりました」

「順序が逆だ、お嬢さん。普通は和平の書面が先で、神滅具の話は後だろうが。これじゃまるで、力を貸さなきゃ和平には応じないって言ってるようなもんだ」

 

いけしゃあしゃあと言ってのけるエルメンヒルデに、先生は青筋を立てながら言い募る。

グリゼルダさんも目元を細めて、先生に続く。

 

「隔てることなく各陣営に和議を申し込み、応じていた我ら三大勢力がこれに応じなければ他の勢力への説得力が薄まりますわね。『各勢力に和平を説いているのに相手を選んで緊張状態を解いているのか』、と。しかも停戦ではなく、休戦。こちらの弱味を突かれた格好ですね」

 

随分やらしい真似してくれるな、和平に応じてほしけりゃギャスパーの力を寄こせってか……。

けどグリゼルダさんの言う通り、ここで応じなきゃ今後の活動に影響が出るのは確実だし、リアスのお兄さんで魔王のサーゼクス様の信用だって失う。

 

エルメンヒルデは嬉しそうに口の両端をつり上げていった。

 

「ご安心ください。吸血鬼同士の争いは吸血鬼同士でのみ、決着をつけます。ギャスパー・ヴラディをお貸しいただければ、後は何もいりませんわ。和平のテーブルにつくお約束と共にヴラディ家への橋渡しも私どもが行いましょう」

 

この会話の流れが完全に向こう側に移ろうとしていた、そんな時だった。

 

 

 

 

『――――なら応じなければ良い』

 

と、この状況でそんな声が俺の右手から響いた。

 

「…ど、ドラゴン?」

 

俺は戸惑いも隠さずに右手に問いかける……そう、まさかドラゴンがこの会話に首を突っ込むなんて思いもしなかったからだ。

 

「あなたは?赤龍帝ドライグではなさそうですが」

『この赤トカゲと一緒にするな、蝙蝠もどき』

「……下僕ですらないあなたがこの場で発言する権利はないでしょう?」

「いんや、生憎とこいつは俺の魔力そのものだ。だったら『王』である俺としての意見でもある。それで十分だろ?」

「またそのような屁理屈を……」

『黙れ。殺すぞ。今は俺のターンだ』

 

……こちらを絶望させるほどのプレッシャーが、右手を中心に発せられる。

それを間近で受ける俺は兎も角、向けられているエルメンヒルデは不快そうに顔を歪ませる。

 

『グレモリー次期当主のリアス・グレモリーの眷属一人を犠牲に吸血鬼側は休戦協定を結ぶ……貴様らの言い分をまとめるとこういう事になる』

「…犠牲になるとは決まっておりません。曹操と決着が付けばそれに越した事はありませんわ」

『欺瞞だな』

 

エルメンヒルデの言い分を、ドラゴンはバッサリと切り捨てる。

 

「……何ですって?」

『犠牲にはしない、とは言ってはいないではないか。俺が貴様らの立場なら早々に決着がつくなら喜んでそこの女装吸血鬼を生贄にする。人間との交わりで生まれたハーフの吸血鬼なら『雑種』で『糧』にもなると考えは付く。その可能性があるのなら、俺達はそれに応じる気はない。そうではないか?』

「……」

 

エルメンヒルデは何も答えない……交渉だから、自分達に不利な状況を生み出しかねない事は言わないか。

 

『沈黙は肯定と捉えるぞ。……次にだ。ならばこちら側の介入の是非は?戦力が不足しているのなら、こいつ等の仲介ないし加勢があった方が効率的だとは思うが』

「先程の言葉を聞いていませんの?決着は私達が付けます。アドバイザーぐらいでしたら、構いませんが」

『随分と身勝手な物言いだな』

「純血の吸血鬼同士の決着のどこがおかしいのですか?同じ吸血鬼同士ですもの、ギャスパー・ヴラディはハーフですが吸血鬼です。何も矛盾はしてはおりませんが」

 

エルメンヒルデの物言いに、ドラゴンは『そうだな』と一言置くと――――

 

 

 

 

 

『ならばこちらの答えも最初に述べた通りだ。――――今回の休戦協定に応じなければ良い』

 

――――えっ!?

 

『おいお前何言ってくれちゃってんの?和平掲げてる三大勢力が和平拒否するって事だぞ?』

『あぁ。だが――――信用に足らない者達を相手には応じない、それなら理屈は通る』

 

っ、そうか……ドラゴンの言いたい事が分かって来たぞ。

 

『確かにどの勢力も腹に一物抱えているだろう。だがある程度信用できるのならその休戦協定を受け入れている。だが表面上も信用できない相手(きゅうけつき)なら話は別だ。上っ面すら嘘と欲望で塗り固めたような奴等の休戦協定なぞ、後から消されて内部から崩される。ならば最初から跳ね除ければいい』

「…私達のどこが信用できないと?」

『全部だ。和平を盾に女装吸血鬼を求め、それを盾にして交渉してくる奴等なぞ欠片も信用できん。――――吸血鬼の諍いは吸血鬼同士で解決する、だったよな?ならここにいる女装吸血鬼は今は悪魔陣営の存在だ。貴様等の内輪揉めに駆り出す理由などない……そもそも純血の吸血鬼同士の諍いに、普段蔑んでいるハーフの吸血鬼を投入するのかが全く分からん。それが理由だ、言いたい事があるなら聞いてやろう。蝙蝠もどき共』

 

もう一度の蝙蝠もどき、その前に言われた煽りに近い意見にエルメンヒルデはどうやら我慢の限界らしく、殺気が漏れだしてくる。

 

「……争いを無くしたくはありませんの?表面上とは言え、休戦協定を結べば、民は安寧に過ごせるでしょう」

『何度も言わせるな。信用できる要素が欠片もない貴様等との和平なぞ結ぶつもりはない。その書面に関しても後で燃やして無くせば幾らでも反故に出来る。後は知らない振りをすれば良いだけだからな』

「吸血鬼の誇りにかけて、そのような真似は絶対にしませんっ!!」

『その辺の埃より軽い誇りでよくもまぁほざく。血の気がない割には随分面の皮が厚い種族なのだな、貴様ら蝙蝠もどきは』

 

三度目の煽りに、目の前の吸血鬼からの殺気が更に強くなる。

 

「ドラゴン、そこまでだ」

『まだ一万字以上は言えるぞ』

「文字数多くなって読み辛くなるわ!……ドラゴンが無礼な事沢山言ったのは謝る。けど、ドラゴンの言った事の中にも事実はある。今のところあんた達を信用できる要素はない。…和平は確かに大切だけど、だからこそ二つ約束してほしい」

「…何をでしょうか」

「俺達も自分の目で状況を確認したい、だから領地内の行動の許可。二つ目は俺達の中から誰かをギャスパーと同行させる事。自分達の信用に箔をつけたいなら、最低でもこの二つは許可してもらいたい」

 

俺は一息つくと、ギャスパーに目を向ける。

 

「ギャスパー、お前はどうしたい?この諍いはお前が無理に関わる事はない、殺気ドラゴンが言った通りに、ややこしい吸血鬼の問題は此奴らが解決するだろうからな」

 

ギャスパーは一度瞑目すると、次に決意の眼差しで力強く言った。

 

「僕……行きます!!吸血鬼の世界に戻るつもりはありませんし、僕の居場所はここです。でも、ヴァレリーを助けたいから!あの時、虐められて絶望していた僕の希望が、ヴァレリーでした。だから今度は、僕がヴァレリーを救いたい!!救いたいんです!!」

『……本人はこう言ってるぜ、蝙蝠もどきさんよぉ』

 

あぁ、良い顔になったじゃねぇか、ギャスパー!

 

「後はお前たちの対応次第だ、どうする?」

 

先生に促され、エルメンヒルデは瞑目して息を吐く。

 

「では、一度カーミラ様に伺ってみましょう。領内に戻って検討した内容を後日お送りします」

「妥当な所だな。リアスはどうする?」

「ギャスパーが良いのなら、私はその意思を尊重したいわ」

「よぅし。エルメンヒルデ、その連絡に関してはここに頼むぞ」

 

先生はメモ用紙をエルメンヒルデに手渡す。

エルメンヒルデはそれを受け取ると、静かに立ち上がった。

 

「それでは、これで失礼いたしますわ。今夜はお目通りできて幸いでした。何よりも自分の根城に吸血鬼を招き入れるという寛大なお心遣いに感謝いたしますわ、リアス・グレモリーさま」

『さっさと失せろ』

 

お前本当に嫌いなんだな、吸血鬼……。

 

『あの視線が気に食わん』

『折角の美貌も台無しだな』

『まず血の気がない時点でないだろ、アレは』

 

俗っぽい会話で〆るなよ!

 

 




劇場版ジオウ、まさに『平成』――――この時代を体現した映画でした。
予想の斜め上からこけ坂転がりながらな作品でした、平成仮面ライダーが好きな人なら見ましょう、見なさい。

ドラゴン『俺も出るぞ』
イッセー「こらぁぁぁぁ!!」

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