ハイスクールD×D wizard 希望の赤龍帝   作:ふくちか

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下乳上のドスケベ礼装で賑わっておりますが、私はイベント未参加です。

何故なら、未だにロストベルトをクリアしてないからだぁ!!!


MAGIC137『氷解の時』

 

「…駐車場に死神が出現していました。相当な数です」

 

曹操達に手酷くやられた後の事。比較的軽傷だった木場は外の様子を偵察しに行ってくれていた。

 

「……ハーデスの野郎。本格的に動き出したって訳か」

 

先生は憎々しげにそう吐き捨てる。

取り合えず今はこの疑似空間のホテル上階に陣取っている。

 

同じ階層の別室に怪我人を休ませて、アーシアの治療を待っていたんだ。

ゼノヴィアと先生の治療は既に終えてるけどな。

 

黒歌に関しては今は別室で休んでいる。

レイヴェルと小猫ちゃんが一緒に様子を見ているみたいだ……ヴァーリに関しては、傷は治ったが呪いは解けなかったらしく、また別の部屋で激痛と戦っている。

 

 

……あのヴァーリですらあんな状態になってるのに、何で俺は平気なんだ?

まぁ、平気って言っても体力とか結構持っていかれたけど…でも被害らしい被害はそれだけだ。

 

ドライグ、どう思う?

 

『…そうだな。やはり、以前アスカロンをぶっ刺した事で、ある程度ドラゴン特攻のものに対して抵抗が生まれた、としか考えられん。だが奴に言わせればサマエルの呪いはそんじょそこらの龍殺しとは比較にならない……確かにあの存在は俺ですら寒気を覚えたほどだったからな。となると答えが益々分からん。お前が異常な体質だったとしか……』

『…一つ良いか?』

 

と、ここで俺達の会話に入り込んできた人がいた。

歴代赤龍帝の中で最強と言われた偉丈夫――――ベルザードさん。

 

『ベルザードか。どうした?』

『兵藤一誠君。君はファントムを宿しているだろう。もしかすれば、彼の存在が君への呪いを阻んだのではないか?』

『『!』』

 

……確かに。それは盲点だった。

ドラゴンは確かにドラゴンだ。

 

だけどあくまでドラゴンの姿をしているってだけで、その本質はファントム。

ベルザードさんの言う通り、ドラゴンの存在がサマエルの呪いを殺した……っていう可能性もある。

 

ドラゴン、どうなんだ?

 

『知らん』

 

…即答かよ。

 

『俺はそんな事をした覚えはない。だから当然だろう。……あの男なら、知っているかもな』

『あの男?』

『貴様を魔法使いにした、あの胡散な魔法使いだ』

 

…白い魔法使い。

確かに知ってそうだけど、今はこの場にいないし……肝心な時に限って姿を見せないもんなぁ。

 

『でも、君がこうして軽症なのは今は感謝するべきじゃない?』

『エルシャさん……そうっすね』

 

分かんない事を何時まで考えていても仕方がないよな、今はこっから脱出する方法を探らないと。

と、休憩中ないし看病しているメンバー以外の者が集結しているこの部屋で、ルフェイちゃんが嘆息した。

 

「本部から正式に通達が来たようです。砕いて説明しますと……『ヴァーリチームはクーデターを企て、オーフィスを騙して組織を自分のものにしようとした。オーフィスは英雄派が無事救出。残ったヴァーリチームは見つけ次第始末せよ』だそうです」

「…滅茶苦茶言ってんな」

 

捏造だらけの通達に苦笑いしちまう俺。

本物のオーフィスに関しては…十中八九こっちのオーフィスから奪い取った力の事だろうな。

 

「そう言う事になったのか。英雄派に狙われていた上に、オーフィスの願いを叶えようとしたってのにこの末路か。難儀なもんだ」

「…寧ろ、ヴァーリにとっては願ったり叶ったりなんじゃないっすかね」

 

息を吐く先生に、俺はちょっと違う疑問をぶつけてきた。

 

「どういう意味だ?」

「いや、ヴァーリから電話とかでよく聞くんすけど。アイツ、テロ組織に所属してるくせに殆どテロ行為してなくて、寧ろいろんな世界の謎を調べたりとかしてるんすよ。そんなだから、多分曹操達にとっても目障りになってたんじゃないかなって」

「…そうなのか、ルフェイ」

「はい。特にジークフリート様は私達の事が相当お嫌いだったようです。何より、元英雄派でライバルだった兄のアーサーがこっちに来たのがお気に召さなかったようでして」

 

前に聞いた通りだな。

嫌われてたのは知らなかったけど。

 

「他にも、ドラゴンの存在の事も調べたりしてたんだよな」

「はい!毎日が大冒険なんです!最近は二天龍が封じられる結果になった大喧嘩の原因も調査しているんです」

「やっぱアルビオンも話さないんだな。家のドライグも全く教えてくれないんだぜ」

『若気の至りなんだよ』

『そればっかりか』

 

そう、何時もこう言って教えてくれないんだよな。

 

「でも多分、アイツのそういう探究心は育ての親譲りなんだろな。な、ルフェイちゃん」

「はい、私もそう思います!」

 

俺とルフェイの揶揄いに、先生は「ほっとけ」とそっぽを向いてしまった。

 

「それにしても総督様、ここ最近は神滅具祭りですね。――――グリゴリにいらっしゃる『黒刃の狗神(ケイニス・リュカオン)』の方はお元気なのですか?」

 

そう振られた先生は天井を仰ぎ見ながら呟いた。

 

「…『黒刃の狗神(ケイニス・リュカオン)』、刃狗(スラッシュ・ドッグ)か。アイツは別任務に当たらせている。そっちも負けず劣らずに厄介なヤマだからな。アイツ、ヴァーリが嫌いだからなぁ」

「はい、お話は常々伺っております」

 

ルフェイちゃんの笑顔に、俺は気持ちが和らぐのを感じた。

こりゃアーサーが大事にしたがるのも分かるなぁ。

 

「…そういや先生。一番強い神滅具を曹操が持ってるなら、二番目に強い神滅具も英雄派が持ってるとかはないですよね?」

「あぁ、『煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)』…二番目に強い神滅具は、英雄派の中にはいない。あれは天界が制御してるんだ」

『ほぉ、そいつはまたレア物だな』

 

知ってんのか、ドライグ?

 

『使い方によっては世界を滅ぼす事も出来る代物だ。英雄派が持っている『黄昏の聖槍』『絶無』『魔獣創造』そして『煌天雷獄』の四つは上位神滅具と呼ばれてる』

『つまり貴様のこれは落ちこぼれと言う訳だ』

『落ちこぼれじゃねーし!使い方さえ極めたら世界だって余裕で取れるし!!』

「で、だ。イリナ、『御使い(ブレイブ・セイント)』のジョーカーは何してるんだ?」

 

ジョーカー?

 

「イッセー、最初に言っとくけどどの生物の始祖でもない不死身の怪物じゃねーからな」

「ボケ潰されたでござる」

「デュリオ様ですか?今は各地を放浪しながら、美味しいもの巡りをしてるとかなんとか…」

 

その答えに先生は絶句した。

 

「何で諸国漫遊してんだよ!?ミカエルの野郎、切り札をぶらぶらうろつかせるとはどういう神経してんだよ!?」

「私に言われましても…」

「切り札って言われてるって事は、滅茶苦茶強いんですか?」

 

俺の質問に答えてくれたのは、先生ではなくルフェイちゃんだった。

 

「ヴァーリ様の戦いたい方リスト上位に載っている程の方です。教会最強のエクソシストだそうですよ」

「碌でもないリスト上位に載ってるって事は滅茶苦茶強いんだな、うん」

「あ、安心してください!ウィザードラゴンさんも上位に入ってますので!」

「そこは喜ぶトコなのかな?」

 

出来ればリスト更新するほどの猛者が現れてくれるのを祈ろう。

 

「…デュリオ・ジュズアルド、教会でも有数の存在だった。直接の面識はなかったけど、人間であり乍ら凶悪な魔物や上級悪魔を専門に駆り出されていたよ」

 

へぇ、とんでもない人もいたもんだな。世の中って狭いねぇ。

 

とか思っていたら、先程まで外に出ていたオーフィスが戻ってきた。

 

「お、お帰りオーフィス」

「具合はどうなんだ」

「弱まった。今の我、全盛期の二天龍より二回り強い」

『うっわぁ、弱体化したなお前』

 

強さの基準が分かんねぇ。

どう弱体化したんだよ、それ。

 

『あんま馬鹿正直に考えねぇ方が良いぞ。何せ元は無限の体現者だったオーフィスが有限の存在になった、ってだけだからな』

「ふーん……。あ、そうだ。なぁオーフィス、何であの時アーシアとイリナを助けてくれたんだ?」

 

俺がそう聞くと、オーフィスは考える素振りもなくはっきりと告げた。

 

「紅茶くれた。後、トランプで遊んでくれた」

「――――そっか。ありがとな」

 

俺はポンポンと、オーフィスの頭を撫でる。

 

「有難う御座います、オーフィスさん!」

「…イッセーの父、困ってる人はなるべく助ける。そう教えてくれた」

 

…初めて会った時の事、ちゃんと覚えててくれてんだな。

そうしみじみと思っていると、先生は顎に手をやっていた。

 

「…しかし、二天龍より二回り強くなったぐらいか。妙だな…絞りかすと曹操が言っていた割には十分なくらいの力が残っている」

『………あ、まさかお前』

 

そう呟いた先生の言葉を聞いて、ドライグは何か得心したようだ。

オーフィスは無表情で、胸を張った。

 

「曹操、恐らく気付いてない。我、サマエルに力取られる間に我の力、蛇にして別空間に逃がした。それ、さっき回収した。だから二天龍より二回り強い」

 

オーフィスの衝撃的なカミングアウトに、全員度肝を抜かれた。

 

「…そうか、さっきこの階層を見て回るって言ったのは、別空間に逃がした自分の力を回収する為だったのか!!」

「いぐざくとりー」

「曹操め、オーフィスを舐めすぎたな。アイツは力の大半を奪ったと見込んでいたが、自分の力を別空間に逃がして、それをさっき回収してある程度回復させた。しかもそれが二天龍の二回り上と来たもんだ。こんだけありゃ十分ってもんだぜ!」

 

先生が鼻息荒く笑うのを尻目に、オーフィスは指先に黒い蛇を出現させる。

 

「力、こうやって蛇に変えた。でも、ここからは出られない。ここ、我を捕らえる何かがある」

「オーフィスが有限になった以上、向こうにもサマエル以外の対抗策があるだろう。死神が来たのは、オーフィスの抵抗を想定してたんだろうからな」

 

どっちにしても派手な動きは避けなきゃダメって事だな。

この後、脱出作戦を練り、それまでは各自待機と相成った。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

作戦開始までの間、俺は黒歌の部屋にやって来た。

 

「よっ」

「イッセー様」

 

どうやら今はレイヴェルが見ていてくれたらしい。

 

「あらら、見舞いに来てくれるなんて嬉しいにゃん」

「気まぐれだよ、暇とも言う。けど……小猫ちゃんを助けてくれたからな」

「それこそ気まぐれにゃん」

 

…はぁ、ホント嘘つくのが下手だよな。

その小猫ちゃんは、俯き気味にベッドの横の椅子に座っていた。

 

「…どうして、ですか」

 

小猫ちゃんは小さくそう呟くと、途端に立ち上がって叫んだ。

 

「どうして私を助けたんですか!?…姉様にとって私は道具になる程度の認識だったはずです!」

「…さぁ、何でかにゃ」

「茶化さないで下さい!……あの時、私を置いていったのに。そのあと、私がどれだけ周りの人に酷い事を言われたか……冥界でのパーティの時だって、無理矢理連れていこうとしました……」

 

普段は無口な小猫ちゃんがこれだけ喋るって事は……今まで溜まっていた心情を吐き出しているんだな。

 

「…私には、姉様が分かりません………ッ!!」

 

そう言い残すと、小猫ちゃんは部屋を飛び出してしまった。

 

「小猫さん…!」

「レイヴェル」

 

小猫ちゃんを追おうとするレイヴェルを引き留め、ある事を耳打ちする。

それを聞いたルフェイは一瞬目を見開くも、直ぐに頷いて小猫ちゃんの後を追って行った。

 

「あのお嬢さんに何を言ったのかにゃ?」

「態々聞こえない様に耳打ちしたってのに教える奴がいると思うか?……黒歌、前の主を殺したって言ってたよな。何があったんだよ」

「…別に。気に食わなかったから殺しただけにゃん」

「……小猫ちゃんに、何か強いたのか?」

 

黒歌はそれを聞くと、顔から笑みを消した。

 

「猫魈の…私達の力に興味を持ちすぎたから、目障りになったのよ。私は兎も角、当時の白音じゃ、私の元バカマスターに仙術を使うよう言われたら断らずに使用して暴走しちゃっただろうし」

「小猫ちゃん、正直だもんな。それに……自分達を救ってくれた奴の言う事なら、猶更か」

 

そう言うと、黒歌は静かに頷く。

 

「今考えれば、ホント最悪だった。アイツ、眷属の能力向上だけの為に、無理矢理な事をしまくってたわ。眷属だけならまだしも――――血縁者にも無茶な強化を強いたのにゃ」

「……あの時小猫ちゃんを連れていこうとしたのも、リアスが小猫ちゃんの強化――――仙術を使わせるかもしれないって、思ったからか」

 

黒歌は目を見開いて俺を凝視した。

どうやら、当たりだったらしい。

 

「…赤龍帝ちん、私の心でも覗いたの?」

「バーロ、んな魔法使えるかっての。不器用なお姉さん心を考えたら、そう至っただけだよ。…そう思ってんなら、何で小猫ちゃんに歩み寄らないんだ?」

 

俺の問いに、黒歌は何も答えない。が、やがてポツリと呟いた。

 

「……あの子に絶望を味合わせておいて、今更どの面下げて歩み寄れって言うのよ」

「そう思ってんなら、何で殺すなんて過激な方法選んだんだよ。他にもっとあったろ」

「あの時の私には、それ以外の手段がなかった!!やっと得られた幸せな生活を、今更手放してまであの子にひもじい思いをさせたくなかった……辛い思いをさせたくなかった……だけどっ」

 

黒歌はシーツを握り締めて、肩を震わせる。

 

「だけどそれでも、あの子に死ぬより辛い絶望を味合わせた……心無い誹謗中傷を受けさせた……私が犯した罪なのにっ、全部あの子を追い詰める絶望になったっ!そんな目に合わせた私が、今更白音と向き合うなんて……無理なのよ………」

 

徐々にその語気は小さくなっていき、やがて敷布団に小さなシミが生まれていく。

 

 

黒歌は――――泣いていた。

 

 

 

「…………………だそうだぜ。小猫ちゃん?」

「ッ!!!」

 

俺は息を吐くと、扉の向こう側にいるであろう人物にそう投げかけた。

黒歌がハッとして扉の方に視線を向けると、扉は開かれた。

 

 

その向こうには――――レイヴェルに連れられた小猫ちゃんがいた。

 

「赤龍帝ちん、アンタ……」

「お前、俺の家に来てからオーフィスが狙われないようにずっと見張ってたんだろ。だから気付かなかった。普段なら一発で気づいてただろうけどな」

 

俺がさっきレイヴェルに耳打ちしたのは、至極単純な事だ。

 

「小猫ちゃんを何とかドアの前まで連れてきてくれ」――――それだけ。

 

でも心中がぐしゃぐしゃだった小猫ちゃんが素直に従ってくれるか分からなかったし、他者の気配に鋭敏な黒歌が気付く可能性だってあった。

 

でもどうやったかは分からないけど、レイヴェルは小猫ちゃんを何とか連れてきてくれた。

そして黒歌は小猫ちゃんとレイヴェルに気付かないくらい弱ってて、心中を吐露した。

 

天邪鬼な此奴の事だ、絶対小猫ちゃんが近くにいる時に心中を話したりはしないし、罪悪感もあって適当に遠ざける一方だったろうからな。

敢えて強引な手を取らせてもらったって訳だ。

 

「姉様……今の、話は………っ」

「白、音……」

 

震える声で問う小猫ちゃんに対し、黒歌は何も言えないでいる。

まるで自分の罪が身内にバレたかのように。

 

「黒歌」

 

俺に出来るのは、そんな不器用な姉妹の背中を押してやる事だけだ。

 

「確かにお前は小猫ちゃんに絶望を与えた、それは事実だ。でも、小猫ちゃんはそれを乗り越えて、今お前に近付きつつある。少なくとも、お前がずっと抱えていたもんを共有できるぐらいには、小猫ちゃんは強い。だから――――小猫ちゃんから逃げるな。絶望を与えたんなら、それと同じくらい…いや、それ以上の希望を注げるのが、人ってもんだ」

 

次いで俺は「小猫ちゃん」と名を呼ぶ。

 

「黒歌は君にとって辛い境遇を味合わせた張本人だ。でも、君を守ろうとした、それもまた事実なんだ。直ぐに黒歌を受け入れられなくても、それだけは覚えていていいんじゃないかな。何時かは、向かい合わなきゃ駄目な事だ……ま、俺が言っても説得力ないけどさ。でも、これで少しは、向き合えるようになったとは思うぜ」

 

お膳立ては済んだ……後は、この二人次第だ。

 

「レイヴェル」

 

レイヴェルも察してくれていたようで、黙って俺に付いて来てくれる。

俺とレイヴェルは、その場を静かに出て行った。

 

 

 

「小猫さん、大丈夫でしょうか」

 

部屋の外にいる俺に、レイヴェルは心配そうに尋ねてきた。

 

「…あの二人、とことんまで不器用だからな。時間は掛かるだろうけど、大丈夫だよ」

「…どうして、そう確信が持てるのですか?」

「――――家族、だからな」

 

俺の答えに、レイヴェルは呆気に取られた様子だった。

でも直ぐに納得したらしく、笑顔で「はいっ」と言ってくれた。

 

「レイヴェルもありがとな。俺のお節介に付き合ってくれて」

「当然ですわ「。私は、イッセー様のマネージャですから!」

 

そう胸を張って言ってくれる後輩の姿は、これ以上ないってぐらい輝いて見えた。

 

 

 

ーーーー

 

 

もう一軒用事がある俺はレイヴェルと別れて、今度はライバルの部屋に訪れた。

 

「邪魔するぜ」

 

ノックして入ると、ヴァーリは上半身だけ起こしていた。

 

傷はアーシアのお陰で治ってはいるが、顔色が酷く悪い。

汗も掻いており、その呼吸も依然として荒い。

 

『サマエルの呪いの影響だろう。本当ならお前もああなる筈だったんだぞ』

 

そうなったら笑えないな。

…ヴァーリのこんな表情、見るのは初めてだけど、こんな形で見たくはなかったな。

 

「…邪魔をするなら帰ってもらえるか」

「へいへーい…って何でやねーん」

 

何てコントをしつつ、俺は椅子に腰かける。

ヴァーリは苦笑い交じりに、ポツリと呟いた。

 

「…君には、情けない姿を見せてしまったな。曹操を打つべく来たのに、このザマだ」

「仕方ねーだろ、相手は究極の龍殺しなんだからよ。それに、お前がタダでやられるなんて思えねーからな」

 

俺の言葉に、ヴァーリは意外そうに目を丸くする。

 

「随分買ってくれているんだね」

「そりゃーな。お前の強さは良く分かってるつもりだからよ。……で、お前は『覇龍』を超えた力は得られたのか?」

「だとしたら?」

「あるなら何よりだ。一矢も報いないなんて、らしくねーからよ」

 

ヴァーリは「そうだな」と小さく頷いた。

 

「曹操はゲオルクとサマエルを死守することと、あの場でド派手な攻撃をせずにオーフィスの力を奪い去ること、それを単独で行い、更には俺達を殺さずに攻撃する。この四つの高難易度の条件を抱えながら、無事に目的を果たしていった。君も奴の力は理解しているだろう?あれが人間の身でありながら、超常の存在に牙を剥く者達の首魁だ」

「嫌ってぐらい理解したよ」

 

アイツ、ホントに人間なんだろうな?とは思ったりもするけど、アイツは本当の意味で人間だ。

 

「…相手をよく観察して、徹底的に弱点を研究する。その上で自分達の武器の特性も研究し続けた。それが英雄派、その中心にいるのが、あの曹操と言う聖槍使い。あの男の禁手は、たとえ独りになっても複数の超常の存在と渡り合える為に、奴が研究に研究を重ねて発現させたものだ」

「それだけじゃねーんだろ?アイツの手札は」

 

覇輝(トゥルース・イデア)』――――どんなものか全く未知数の代物。

 

「あれは『覇龍』に近しい力だ。極めて遠い、とも言えるがね。それを使えば絶大な力を得られるが、暴走と隣り合わせだろう」

「曹操がそれを制御できると思うか?」

「…分からないな。だが、魔力を持っていないアイツでは、操り切れないだろうと踏んではいるが」

 

つまり全く分からない……って事だ。

 

「ま、その方が面白いんじゃねーか?ガチンコでやりあえば、嫌でも分かる。今それを考えたって仕方ないとも言うけどな」

「…それもそうだ」

 

俺の答えに、ヴァーリはフッと笑う。

 

「あ、そうだ」

「む?」

「オーフィスの事、ありがとな」

 

俺は礼を言う。

多分ヴァーリとしては、曹操をいぶり出すって目的もあったと思う。

 

でも、それ以外の理由もあったんじゃないかとも思うんだ。

 

「あぁ…君が気にする事はない。オーフィスの話し相手だった縁だ。時折、寂しそうだったからな……いや、余計な事を口走ってしまった。忘れてくれ」

「やなこった」

「は?……!!」

 

ヴァーリは俺の手に握られたものを見て、絶句した。

 

録音状態にされていた、俺の携帯だ。

 

「お前がらしくない事言ったんだ。録音しなきゃ損だろ」

「おい、頼むから拡散してくれるな……うっ!」

「はは、無理すんなよ。重病患者なんだからよ」

 

俺は苦しげに胸を抑えるヴァーリにひらひらと手を振ると、部屋を後にした。

 

 

 

脱出作戦は、間近に迫っていた――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………サマエルの呪いをも跳ね除ける程に馴染んできたか』

 

 

 

だがイッセーは気付かなかった。

 

 

死神の一隊の躯の上に立っているファントムの首魁、ワイズマンがいた事に。

 

『…首尾は怠るなよ。ガルム』

『……御意』

 

 

 

 




ドライグ『最近真面目にやりすぎて肩がいてぇ』

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