御坂美琴SIDE
コイツは言った、確かに呟いた…!
「なん、て…?今アンタ何て呟いたのよ…ミサカが救えなかった…?」
「アンタも…あの実験に加担してた訳?」
スーッ…と心が冷めていく感覚がした。
激情も、興奮も…今までの感情全てが冷めていく。ただ分かるのはこれが冷静と呼べる心理状態ではないこと、ただそれだけ。
「否定はしない…あぁ、そうさ。私はとある事情から実験の一部に関わっていた、とは言え私が噛んでいたのは実験の本質とは全く関わりの無い部分だったが…ッ」
何時の間にか藍の首筋から零れる紅い液体
砂鉄剣の触れた箇所からそれは確かに零れ出していた
「質問しているのは私よ、聞かれたことだけ答えなさい…じゃあ、
…血を見たって何も思えなかった
(だってどうでも良いことじゃない。そんな事より今はコイツから情報を引き出さないと……)
(たとえコイツを…
意識すること無く浮かび上がった『
「…止めだ、どうやら今のお前に話す事は何も無い」
藍は――美琴の瞳を一瞥してからポツリとその言葉を吐き捨てる。
あまりに早い交渉決裂―――こうなった藍は如何なる拷問を受けようと何一つ話さない。そんな印象さえ瞼を伏せた藍からは感じられた。
では美琴はどうするべきか?だが美琴の脳内では次に取るべき手段は決まっていた
「そう…残念ね、アンタからは聞きたいことが山ほどあったのに」
黙秘を決め込む相手に更なる追い討ちをかけるのは悪手だ、相手に憎悪を抱かせてしまえば余計に口を割らせる手間が増える。
だからこそこの場は一度取り調べを中止して―――
「喋る気が無いなら、アンタは死になさい」
(アイツの事を……殺してでも…吐かせないと……)
八雲紫SIDE
その昔…とは言え100年や1000年と言った昔ではない。人間の感覚でいう一昔前の話を私は何故か回想していた。
…いや、要因が分かっているのだから『何故か』は訂正すべきかもしれない
迷いの竹林とその付近の妖怪の数が異様な程に激減しているとの報告があった。
人間の数が激減する事が幻想郷にとってマイナスであるように妖怪の個体数減少もまた同じ、私はその原因と場合によってはそれを排除するため自ら迷いの竹林に足を運んだ。
――――私はそこで魑魅魍魎や極悪人よりもタチの悪い者に出会うとはまだ考えすらしなかったのよ。
「あら嫌ね、思い出したくもない話を蒸し返すなんて――第1位に然り幻想殺しの彼に然り。第1位の事を思えば自然と彼女が浮かんでくる、それは逆の場合も同じであり半人半獣の彼女の場合もそう」
私が語るのも妙な話だとは思うけれど世界は実に狭い、つくづく学園都市ではそれを実感する。
上白沢や藤原妹紅と似た人種は間違いなく世界の少数派と断言出来る、あんな良くも悪くも狂った人間が溢れかえれば妖怪など繁栄出来る訳がない。
そんな世界の少数派であるはずの人種が同じ国に生まれ同じ運命の糸を引き当て……今や顔を合わせんとする手前まで迫っている。運命を操れると豪語する幼子を紫は知っているがこの運命が能力で引き当てられたのだとすればこんなにも笑いの止まらない話は無いだろう
ただ一つ…ただ一つ運命操作に難癖をつけるならば―――
「あァ…?随分と妙な光景だな、10代のガキ2人が気絶してる側で良い歳したババアが感傷に浸ってやがる」
「『18歳』の美少女には感傷に浸る権利は無いのかしら?」
私が出会う相手は同じヒーローと言えど悪党は御遠慮願う、その1点に尽きる。
出会い頭の女性に悪態を突くヒーローなんて悪役にジョブチェンジするべくハローワークに通うべきですわ
地下道に杖をつく音を響かせながら現れた一方通行に紫は『スキマ』から道路標識を数本お見舞いした。
「ケッ、最近の18歳は愉快なモンじゃねェか。だが愉快ってのは通じる相手と通じない相手がいるっつゥのは覚えとけ」
一方通行は奇襲の道路標識を反射で応戦する
「反射、つまりはベクトル操作。学園都市第1位の保有する能力」
「事前調査ご苦労さン、その調子だと俺の事は調査済みで大概の事には動じねェんだろォな」
「えぇ、強いて挙げるならば貴方がこの場所をすぐに探し当てた事かしら。これも能力の一部?」
「侵入者が地下で傭兵と交戦してるって話を上にいたお前のお仲間の5本目の指が教えてくれたからよォ」
詳しい座標と道案内も添えてなァ、そう一方通行は答えた。
なるほど、雇われの身で一方通行の尋問を耐えた傭兵には気の毒ですけど生憎馴れ合う筋合いは無いので捨て置きましょう。そもそも端から敵同士ですし
「俺からも一つ聞かせろ。―――テメェの背後で転がってる女、生きてンだろォな?」
「まさか!私は無益な殺生は好みませんわ、少し…ほんの少し気絶しただけに過ぎません。その上で一方通行、貴方は私に敵対するのかしら?」
「テメェがその2人を無傷で解放し俺が聞きたい話を洗いざらいぶちまけるってンなら俺も無益な殺生は避けたくなるかもなァ」
「あら奇遇ですわ!私も貴方がこちらの要求を呑んでくれるならば情報提供も吝かではないと考えていましたから!」
一方通行も笑っていた。普段の彼ならば奇襲を受けた後に相手を見過ごしてまで笑い声をあげるなど有り得ないだろう
笑っていたのは八雲紫もまた同じ。
二人の笑い声は地下道にはよく響く―――反響した声の所為でいつ二人の笑いが収まったのか分からなくなる程に。
「で…俺の事を調べたンなら分かるだろォが。その顔のガキに手を出した野郎は程度に関わらずぶち殺すってのが俺の主義だ、聞き出す事がある以上死なねェ程度にしか殺せねェけどよォ!」
「―――1万体以上のクローンを踏み台にした人間が無益な殺生は避けたいだなんて、中々人を笑わせるセンスがあるんじゃない?笑いのお礼に一つ提案よ」
彼にする提案が無駄なことはどこか分かっていた、何故ならば過去に似たような提案を似たような悪党にした事があるのだから。
「私は貴方をとある場所へ連れていく、それに無抵抗で従うのならクローンは貴方へ返却した上で知りたい情報を全て提供する」
「殺生はともかく無駄な争いは互いに避けるべ」
「オイオイ―――何寝惚けてやがンですかァ?」
その瞬間、視界に写る一方通行に私は回想していた中に現れた『もう1人の悪党』を重ね合わせていた。
『今から私にぶちのめされる野郎に無抵抗、だと?笑わせンじゃねェぞ…』
「まず何より…テメェは大前提をはき違えてンだ」
『その提案ってのは私がお前より弱い、その前提から成り立つモンだ。テメェまさか―――』
「
『
『「強いだとか思い上がってンのか、あァ!?」』
(ほらこうなった。だから嫌いなのよ、『悪党』なんて生き物は…)
八雲藍SIDE
今更自分の過去を嘆く気など更々無い、その因果応報で末路が悲惨になるのならば私は甘んじて受け入れよう。
それに私は紫様の式、あの方のプランにこれ以上不要な歪みを加えずに散れるのならば充分過ぎる
(ただ、ただせめて………いや…。何も言わんさ…)
「――私を殺すか、それも良いだろう」
「当たり前じゃない。―――
矛盾だ、あまりにも矛盾している。死した者が何を語るのか?
(それでもオリジナル、御坂美琴は本気だ。現に私の首筋からは血が零れる…と言うよりかは小気味よく噴き出し始めているじゃないか)
当初は刃先をつたっていた藍の血も、切り込みが深くなるにつれ零れ出す勢いは確実に強さを増していた。
…これならば美琴が手を加えずとも時間の経過が藍の命を奪うはずだ。
「因果応報…良い言葉だ―――殺せ、第3位の超電磁砲御坂美琴。貴様が私の首を跳ねるのもまた道理、一思いになどと温い事は言わんさ。好きなだけ苦しませろ」
「そう⋯せめて地獄で懺悔の真似事でもしてれば良いわ⋯!」
持ち上がる刃先、その先には敵の頸動脈。素人だろうと振り下ろすだけで片がつく。
皮肉にも上条当麻の手がかりを掴んだ少女は、御坂美琴は⋯⋯自分自身の手でその手がかりを握りつぶ―――
「流石の私も我慢力の限界よ、邪魔をするのなら⋯失せなさい」
握られた砂鉄剣が消滅する、だが美琴自身そんな気は毛頭無いし演算を終了してなどいない。ともすれば⋯⋯
何者かが彼女の脳に
「⋯へぇ、やってくれるじゃない。私相手にそれを発動させるなんて、何なら膝でもつかせてみる?」
「⋯そうねぇ、御坂さんが正常ならそれも一興かしら。ただ⋯アナタ、今自分がどんな表情でどんな状態か正しく理解してるのかしらぁ?」
「敵を倒す事に集中力を発揮するあまり周囲への警戒力は0⋯その結果私の能力で脳に干渉された。言葉にすれば呆気ないけれど―――アナタ、私が止めないと間違い無く堕ちていたでしょうねぇ」
刃先と藍の頸動脈まで後僅か、と言ったところだった。押せば勢いで頸動脈が断ち切れる⋯そんな距離。
上条当麻の手がかりを、御坂美琴が堕ちる事を寸前で救ったのは食蜂操祈。学園都市の第五位、心理掌握。
獲物のリモコンを片手に足元をふらつかせながら美琴の背後で立ち上がる、その様からは普段の彼女からは伺えない迫力すらも感じ取れる。
「恩着せがましいのは止めなさい⋯第一自分で自分の表情なんか見れる訳ないでしょ⋯馬鹿にしてるなら今すぐその下卑た能力を⋯ッ⋯」
「パチンッ」
乾いた音が響く、食蜂の平手打ちが美琴の頬を捉えた。
「今のアナタの表情、言動をあの人が見たら⋯ッ!どれだけ絶望するかも知らずに⋯!⋯⋯復讐に堕ちる事があの人の救済になると、妹達への贖罪になると⋯本気で想像力が働くのなら好きにしなさい」
「ただし今の御坂さんの表情はあの人には見せられない、自分が助けた人間がここまで堕ちていたら⋯きっと優しいあの人は自身を責める⋯またアナタを救おうとする。⋯そんな事を達観出来るほど私は忍耐力がある訳じゃないわぁ」
御坂美琴は動かない⋯いや動けないのかもしれない。しかしその要因は2人の少女だけが知る事だ。
「つくづく驚かされたよ、超電磁砲にも⋯心理掌握、食蜂操祈にも。しかし何よりも後悔している、君を抵抗出来ない状態で相手取るならば首を落とされた方が幾分マシだっただろうな」
「あらぁ、随分な言われようじゃない☆みさきち、これでも御坂さんよりかは戦闘力は低いんだゾ」
「先程まで超電磁砲に対して溢れんばかりの激情を向けていたにも関わらず直後に私には砕けた応対、その切り替えの速さは賞賛に値する。それに君にはそれなりの麻酔を打ち込んだ筈だ、どう見積ってもまだ気持ち良く夢の中⋯の予定なんだが」
「生憎昔から薬漬けだったせいで耐性力には自信があるのよぉ。そ・れ・よ・り☆貴女は御坂さんとは違ってインテリっぽいから自分の置かれた状況は理解出来るでしょ?」
あぁ、分かるとも。だからこそ藍は食蜂が美琴を制した際に助かったにも関わらず後悔の念を漏らしたのだから。
何せ美琴の様に暴力に訴える尋問ならば訓練次第で黙秘は保てる。事実藍は死を突き付けられても揺るがない
だが相手の記憶を読める食蜂には黙秘も何もない、記憶を読まれる以上虚偽も無意味だろう。
「やれやれ、だから君には真っ先に眠って貰ったのだが⋯こうなってしまえば後の祭りだ。――せいぜい真実を知って怒りに飲まれないようにすると良い」
意味深ねぇ、と呟いた食蜂は早速能力を行使。藍の記憶から情報を読み取っていく。
「⋯で、どうなのよ。アンタには読み取れたんでしょ?真実って奴が⋯」
「⋯知らずに居られるのなら、知りたくは無かったわぁ。気分力がマイナスまで下がるもの。それより御坂さんこそもう大丈夫かしらぁ?いつの間にか私の干渉も解けちゃってるし」
「腕を振り下ろす動作を止める干渉しかしなかったくせに何を言ってるのかしらね⋯でも心配には及ばないわ。まだ私はアンタにとって利用価値はある、真実とやらもアンタが確認したのなら今はまだ知らなくて良いもの」
「素直な御坂さんは大好きだゾ☆じゃあ早速地下に向かうわよぉ、そこに彼女のボスがいるらしいから」
あっそ⋯小さく呟いた美琴は踵を返し部屋を後にした。
「⋯?どうした、食蜂操祈。君も地下に向かわないのか?」
「⋯別にぃ、私もすぐ向かうわよ。ただ最後に貴女に言っておきたかっただけ。」
「御坂さんを壊さなかったこと、それは感謝してるわ。貴女が真実を話せば御坂さんは再起不能なレベルまで堕ちていた」
「そんな事か⋯私はただ黙秘しただけだ。感謝される筋合いは無いな」
「ただ私からも一つ助言じみたお節介を一つ。確かに私は黙秘により御坂美琴が真実を知ることを回避させる形にはなった、ただし――」
「このままだと御坂さんは間違いなく堕ちて壊れる⋯でしょう?あの瞳を見て気付かない程鈍感力は発揮してないつもりだから」
⋯⋯何時だったか紫様が離していた吸血鬼の妹の話。
彼女は生まれ持った狂気を姉から受けた数多の虐待により乗り越えることなく内側に溜め込んだ。
その結果ある程度は精神も安定した。ただしそれは根本的解決ではなく解決を先延ばしにするその場凌ぎの一手にしかならない。ましてや溜め込まれた物は何時か必ず
―――爆発する
一方通行SIDE
事態が芳しく無いことは一方通行自身が一番感じていた。
一方通行然り、紫然りとりわけ大きな被弾をした訳ではない。むしろ膠着状態が続いているのだ。しかし膠着状態とは一方通行には押されているに等しいと言える。
「バッテリーは何時までもつかしらね、15分?10分?仮に道中の傭兵達を能力無しで蹴散らしたとしても残りは20分も無いはずよ」
「何から何まで知られてるとはよォ、プライバシーって奴をちったァ学びやがれってンだ」
「私、こう見えても慎重なのよ。だから貴方が私をぶちのめす⋯なんて絵空事も良いところですわ」
確かに、あのふざけた
(俺を見下しているよォに見えて油断も隙もねェ、面倒な野郎だ)
紫が生み出すスキマから放たれる標識の数々、そこまでは反射でどうにでもなる。だが問題はその中に混ぜこまれた数発の妖力弾だった。何時であろうと何処からだろうと放たれる妖力弾は不覚にも第1位の攻め手を封じている
「弾除け、得意ですのね。避け方も無様には見えない、あぁこれは嫌味ではなく素直に褒めているの。私の住む場所では弾除けが流行っているものですからつい観察してしまうのは悪い癖かしらね」
「そのせェで無駄なバッテリーと時間を喰っちまったけどな、クソッタレが」
さァどうする?焦って突っ込めばアイツの思う壺、かと言って耐久戦に勝ち目はねェ―――
(⋯とここまで来りゃ特攻か耐久かの二択に割れる、だが耐久に勝ち目がない事は明白だ。⋯いや待て、そもそも何でアイツはここまで決着を先延ばしにしやがった?)
(俺を殺りてェだけなら不意打ちであの未知のベクトルを四方八方から乱射すりゃ片が付く。そもそも奴は端から俺に投降を促した⋯⋯要は生け捕りにしたいっつゥ事だ。―――まさか奴の狙いは⋯!)
一方通行の推察は限りなく憶測に近い推察ではあるが判断材料が無いわけでは無い。
仕掛けてみるかァ――
「⋯⋯こりゃあマジで学園都市最強は引退確定かもしんねェなァ。誇れよ、18歳――俺にバッテリーを使い切る前提の特攻を覚悟させたんだからなァ!」
「何を突然言い出したかと思えば。生憎、井の中で争う7匹の蛙の戯言に興味はありませんわ。第一その巫山戯た特攻で私を倒せたとしてバッテリーを切らしたアナタに何が出来るのかしら?」
「バッテリー切れ⋯ねェ、確かに無様に地べたを這う無価値の悪党が出来上がるのが関の山だろォな。だが勘違いしてんじゃあねェぞ」
「そこで気絶したガキと同じ顔をした連中を守れンのなら手段は選ばねェ、それが惨めに地べたを這うザマを晒したとしても⋯だ。分かるか?いや分からねェだろォなァ!テメェみてェな格下にはなァ!!」
一方通行、吼える。
それは八雲紫へ仕掛けた一手であり
自分への戒めでもあり
⋯彼自身はまだ自覚していないが。『憧れ』でもあったのだろう
「――知っているわよ、アナタ『達』悪党の矜恃なんて。先程の第7位と言いアナタと言い⋯つくづく学園都市は私の神経を逆撫でする」
先手は紫から仕掛けた。無数のスキマを一方通行の周囲へ展開させればそこから無尽蔵の妖力弾⋯⋯もとい弾幕が襲いかかる。
しかし一方通行、この弾幕をここに来て回避し続ける。
(未知のベクトルだァ?笑わせンなよ、反射が効かねェ野郎なンざもう飽きたっつゥの!)
(ただし事前調査に抜かりのねェアイツの事だ、俺相手に長時間未知のベクトルを晒す筈がねェ)
(確かに彼は第2位の未元物質を短時間で解析している、だからこそスペルは勿論弾幕すら張りたくはなかったのよ。実は短期決着を迫られていたのは私も同じこと)
(つまり奴は⋯!)
(つまり彼は⋯!)
((間違いなくすぐに仕掛けてくる⋯!))
再び先手は紫が取った。
タイミングは一方通行が回避の為に背を向けたその瞬間!
右手を伸ばし開いたスキマの中へ、スキマが開いた先は一方通行の首筋―――チョーカーのバッテリーを取り外すためだ
(取っ――――)
「ブチッ!!」
―――それは生々しい音だった。例えばちぎれるはずがない物を無理矢理引きちぎった時の様な音。
「⋯どォやら、そのザマだと手首から先を吹っ飛ばされたのは初めてか?まぁ初めから五体満足だったンだから初めてで当たり前だ。でどォよ?竜巻で手首が弾け飛ぶ感覚はよォ⋯!」
「なっ⋯ッ!?まさか、背後からの攻撃を予知していたと言うの⋯?そんな筈は⋯!仮に読んでいた所でタイミングまでは分からないはず⋯!」
音の正体は消え去った紫の手首から先が示していた――そう。紫の手首は背後から手を伸ばした際に彼の背中から噴出された竜巻に引きちぎられたのだ。
「流れだ、テメェがその不気味な能力を発動する度に空気が気持ち悪ィ空間の中に流れ込んで妙な動きをする。何も俺はベクトルを操るだけじゃねェ、観測だって出来ンだよ。そもそも未知のベクトルなンざ観測しねェと解析もクソもねェからなァ」
「となれば後は自然な流れで俺が背後を見せてテメェを誘えば良い。するとテメェは案の定手を伸ばしたきた訳だ。――まさか距離と空間を無視した離れ業があるとは思わなかったがな、とにかく離れた位置で空気の流れが変わったから俺はそのタイミングに合わせただけだっての」
「⋯ッ、成程。私が初めに投降を促した以上捕獲するつもりだった事はバレていた、だから狙いがチョーカーだった事も推測されていたのね」
そンなとこだ
「テメェの命はどの程度もつ?もしかすると俺のバッテリー切れよりは長持ちするかもなァ」
「⋯この出血の勢いですから、1時間位なら。⋯ただしそれはアナタ同様捨て身で挑むなら、の話よ」
「構わねェぜ、捨て身でも。――手足を弾くなンざ朝飯前だ、何なら上半身を弾くのも面白れェ!」
「止めましょう。このままでは」
勿論止めましょう、と言われて制止される訳もねェけどなァ!
手首を止血する紫の両手は塞がっている、まさに攻め時に違いない。
「私がアナタを
その言葉は意味合いとは裏腹に奇妙なまでに緩やかなトーンで、不気味なまでに微笑ましい微笑と共に紫から紡がれた。
だが⋯⋯いや、だから俺は踏み込めなかった⋯⋯あァ笑え。ありゃバッテリー切れで地べたを這うより無様で笑えるぜ
(だが確信出来る、今強引に踏み込んだら⋯俺はどうなってやがった⋯?)
「良い直感、アナタはさっきの一撃を流れで読んだと言うけれど。むしろその勘が役に立ったのでは無くて?」
「ハッ⋯!手首からボタボタ汚ぇモンを零しながら言う台詞じゃねェよなァ。大体まだケリはついてねェ、このまま妹達とそのオマケを返さねェってなら⋯」
「今日のところは引き分け、私は目的の物を手に入れた代わりに手首から先を失った。アナタは妹達を守りきれなかったけれど私に深手を負わせた――この勝負はそれで収めましょう」
「待て、まだ話は終わってねェぞ!」
「学園都市第1位の一方通行、私の身体を弾いたその力⋯今は幻想郷に利用出来るとして猶予を与えます。ですが次はありません、この次⋯またアナタが私に牙を剥くならば」
「
ミサカ10046号と軍覇は地面に現れたスキマに吸い込まれ、紫もそれに追随する
「――それはテメェも同じ事だ。次に会った時、妹達だけじゃねェ⋯⋯妹達の連れに何かしてみろ。殺される程度で済むと思ってンじゃあねェぞ、クソがッッ!!!」
完敗だと否が応でも実感させられた。
右手を弾いて尚⋯⋯むしろ右手を弾かれてから現した彼女の本性に一方通行は完敗したのだ。
人間は妖怪を恐れる。それは恥じる事ではなく古来よりの理であり世の常。ましてや相手が大妖怪ともなれば恐れを感じない者の方がどうかしている
ただ⋯護るべき対象を護り切れなかった少年には、悪党にはまだ受け入れられない現実なのだろう。
しかし彼はまだ知らない
人間が妖怪を恐れるばかりではない事を。
何時の時代、どの場所においても圧倒的絶望や暴力に立ち向かう者達は存在する。
人々を妖怪から護る巫女が居るように
2万人の虐殺を阻止した少年が居るように
何時だって妖怪は恐れているのだ。
何より⋯⋯彼自身がそんな
御坂美琴SIDE
馬鹿ね、私は⋯漏電で自爆しかけたり食蜂の心理掌握を受けそうになったり⋯。ったく、情緒不安定ったらありゃしないわ
「アイツへの恩返し、妹達への贖罪⋯か。確かに⋯ね、アイツは私が手を汚したって絶対に喜ぶ訳が無いし妹達に対する贖罪がこんな小さな事で許されて良いはずもないのよ」
ならば⋯何が彼への恩返しになる?何が妹達への償いになる?
生き残った妹達への償いならばまだ方法はある、しかし既に失われた彼女達には償える方法など無いに等しい。勿論上条当麻とてその命が失われてしまえば⋯
「⋯今は悩む時じゃない、アイツの手がかりを掴んだ以上前進した事は確かなんだから」
「あらあらぁ、御坂さんったらもう復活したのかしらぁ?もう少し暗い顔のままでも良かったのにぃ」
相変わらず皮肉った台詞と共に現れた食蜂の足取りは幾分かマシにはなっていた。それだけを確認すると私も皮肉には皮肉で応戦する
「アンタこそ麻酔を打ち込まれた癖に復帰が早いじゃない?せいぜい戦闘になった時に足元が揺らがないよう祈ってあげる」
「やーん、御坂さんってば怖ーい☆でもでもぉ」
「今の内から精神がグラつく様じゃ上条さんを助けるなんて戯言にもなりはしないわよ、それくらいに今回の1件は闇が深いし御坂さんの心を抉る」
無様な姿を上条さんに晒す真似だけはしないでねん、そう吐き捨てて食蜂は先へ進んでいく。
特に異論はない、食蜂の述べた事は事実。
「ここに潜入する前も似たような説教を聞いた気がするのは私の思い違いかしらね――それで?アンタが言う地下の敵はどうするの?ボス、って呼ばれるくらいなんだからさっきの敵よりは強いんだろうけど」
「上条さんを連れ去った位だし弱くは無いんじゃない、出来れば戦闘なんて避けたいけどぉ⋯この際贅沢は言ってられないわぁ」
その時はよろしくするわ、と食蜂は早くも戦闘を放棄。
別に良いけど⋯
「分かった、戦闘は私に全て任せなさい」
さっきの戦いで改めて感じた。この1件はもう激情任せじゃ解決しない――私情は捨てて冷静に⋯⋯
「相変わらず頭が固いのね、そんな判断力じゃ違うところでまた足元を掬われるゾ」
「⋯いい加減電磁バリアは復活させた筈なんだけど。妙に勘繰ってると季節外れの静電気に見舞われるわよ」
「そうやってまた漏電してる辺り図星ってわかりやすーい☆まっ、どう御坂さんが割り切ろうが私には無関係だしお互い利用し合うギブアンドテイクの関係だものねぇ」
「ご名答、だから私がアンタを見限ったら電撃で撃ち抜くのもアリってわけ。―――下らない事を言い合う余裕があるんなら走らせるわよ」
駄目だ⋯敵からならともかく仮にも協力すべき相手に激情を煽られたんなら話にもなんないじゃない⋯。
美琴は地下へ続く階段を飛び降りるように数段飛ばしで降りていく。
どの道待ち伏せした敵を一掃するため美琴は先行するつもりだったのだが今の彼女の心情を考慮してもその方が正解だろう。少なくとも超電磁砲と心理掌握を混ぜ合わせて起こる化学反応は総じて危険が過ぎる。
冷静になると言い聞かせた矢先に降り積もる苛立ち、もしかすると私には我慢する力が無いのかしらね?いやいや⋯!これはあくまでも食蜂の人を小馬鹿にする言動がそうさせているに違いない⋯!
真実はともかく無事待ち伏せに遭う事もなく地下通路に降り立った美琴はすぐさま辺りを反響定位で調査する
(⋯居ない、いやまぁ待ち伏せは無いに越した事は無いけど。てっきりあれだけ派手に暴れたからあの女が配置したと思ったのに)
壁に寄りかかりながら美琴は大人しく食蜂を待つことにした。
「食蜂の足ならまだ数分は降りてこれないわよね、完全に待ちぼうけになるわね⋯これは」
しかし不気味な場所よね⋯地下だから当たり前だけど。まるで、幽霊でも――
「幽霊でも出てきそう、かしら?残念私はそれより遥かにタチが悪い」
「ッ!?一体どこか⋯⋯ら⋯」
「それに2人は分断されているのね?都合が良いわ―――私の怒りが暴発する前に藍と食蜂操祈を回収して帰りましょう」
声の聞こえた箇所は彼女の背後、即ち壁の中
声の主は八雲紫―――意識と無意識の境界を弄られた美琴は気絶し彼女のスキマの中へ崩れ落ちる。
──この日、学園都市で4人の子供達が消えた。
お久しぶりです、こんな小説を楽しみにしていて下さった方が居るのなら嬉しい限りでございます。
さぁ、張るだけひたすら伏線を張って微塵も回収しませんが大丈夫ですかね、この話は?いやまぁ皆さんに問いかける前に自分で整理しろって話ですが。
個人的に伏線は一気に回収して欲しい派でして、恐らくこの小説も伏線は1度に多量の伏線が回収される事になるかと。
最後に⋯⋯
年内にあと2話は投稿したいなぁ、なんて思ってます。
そして恐らく次回からは幻想郷編に戻るはずです、半年(以上経過した)ぶりの不幸四人組に乞うご期待あれ!