とある幻想郷の幻想殺し   作:愛鈴@けねもこ推し

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第1位の矜持、第3位の意地

八雲紫SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食蜂操祈は既にダウン、この調子ならば御坂美琴もすぐにダウンの知らせは入るだろう。元より差が歴然と開いているからこその藍をわざわざぶつけたのだから当然の結果ではあった。

 

次に削板軍覇とミサカ10046号だが…こちらは確認するまでもない。紫自身が叩き伏せた上に現に二人は彼女の前で意識を失っている。これも又先程同じ理由で見えていた結果、多少心こそ揺れたとは言え紫のプランを反れるには至らない。

 

そして残すは一組、人数にして二人。監視を任せた式からその二人が自身のプラン通りに動き始めたとの報告もあった。

 

事は不気味なまでに恙無く、しかも迅速に運んでいる。

 

全く問題は無い

 

だからこそ(・・・・・)紫は苦い顔持ちで呟いた。

だがその呟きは独り言ではなくこの学園都市(いきょう)に放り込まれた式へと向けられたものだ

 

『藍、貴女ならじゃれ合いの片手間に私と話す余裕は持ち合わせているでしょう?』

 

『えぇ、えぇ。しかし紫様、あえて文明の利器ではなく魔術による通信を選んだのは大正解です』

 

『第三位の超電磁砲、怒りに身を任せて狙いもつけずに放電を繰り返しています―――っと危ない…これでは電波通信なんてあったものじゃない』

 

『―――藍、その報告は後で良いから今すぐ第三位を片付けて私に合流しなさい』

 

『お言葉を返すようですが、何故でしょう?紫様の指示された定刻までには十二分に片が付きますが』

 

第一位(あらし)が来ます、とてつもなく大きなこの街では収まりきらず――――この世の科学の頂点に君臨する第一位(あらし)が。嵐を制御するには非常に骨が折れる、万が一を考慮して…ね』

 

『分かりました―――じゃれ合いは終わりにして第三位を片付けます、すぐにそちらで落ち合いましょう』

 

そうして交信は終了した。恐らく藍は第三位に本気……とまでは行かずとも圧倒程度はするつもりなのだろう

 

「悪い癖ね、本当に―――藍。貴女は科学サイドを見下し過ぎるキライがあるわ、今まで何人の魔術サイドの者が科学サイドだと見下した上条当麻に敗北したのか…知らない訳では無いでしょうに」

 

――――幾ら何でも過敏過ぎるだろうか?

 

理解不能な力を備えているとは言え彼等はまだ己の全力すら掌握出来ない子供達。科学サイドも、魔術サイドも淘汰しうる藍や紫……『幻想サイド』からすれば能力の序列など馬鹿げた話だ。

 

――――初めは幻想殺し(かみじょうとうま)の中身を映像で見た時だった。

 

瞳孔が開いていた、すぐに理解出来た、『コレ』はあまりにも危険過ぎる…と

 

だからこそ紫は削板軍覇と交戦した際に加減こそすれど見下しはしなかった。自分が何かの拍子に足元をすくわれる可能性が0とは言い切れなかったから

 

「―――ここからが、今この瞬間からが―――学園都市第一位を相手取る時からが正念場。加減なんてしていれば足元をすくわれるでは済まないわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

科学サイド、残す戦力は御坂美琴・一方通行のみ

 

幻想サイド、残る戦力は八雲紫・八雲藍…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

藍は呟いた

 

 

「残る戦力は紫様と私…充分過ぎる」

 

 

紫は呟いた

 

「残る戦力は私と藍…のみ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方通行SIDE

 

 

 

 

 

 

 

モーニングコール

 

 

一般的には朝、目覚まし代わりの電話や知らせを指す。

 

だが一方通行にとってモーニングコールとはニュアンスこそ同じなれど余り良い思い出はない

 

例えばある朝は同居している幼女に叩き起されたりするのだが。鳩尾へ落下速度が加わったダイブを一方通行はモーニングコールと認識出来なかった

 

他にも愉快痛快なモーニングコールを彼は味わって来たのだが……今日のモーニングコールはその中でも癪に障るという点で群を抜いていたのは確かだろう

 

今日のモーニングコールは携帯の呼出音、寝起きの彼は無意識に相手の名を確認することなく呼出に応じた

 

『おはようございます、一方通行。実は折行ってお願いがありまして』

 

『死ねよクソが…何でよりにもよって今日のモーニングコールがストーカーからのモンなンですかァ?』

 

『寝起きから死ねとは寝起きが良いのか悪いのか……しかし今はそんな事はどうでも良い、以前あなたと小さな御坂さんが追っていた件の新しい情報が入りまして』

 

途端、一方通行のスイッチは即座に切り替わる

 

『その話、詳しく聞かせろ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

御坂美琴と食蜂操祈は研究所への侵入を上空から

 

削板軍覇とミサカ10046号は地下からそれぞれ行った。

 

当然彼等は打ち合わせや示し合わせなどは一切行っていない。それは研究所の正面に立ち塞がる彼とて同じこと。

だが…偶然かそうでないのかはさておき、一方通行は正面入口からの侵入を測っていた。

 

『まっ、クソ共の隠家にはお誂向けってかァ。外装は一般施設に偽装することでかえってカモフラージュ、そのカモフラージュもストーカー慣れした野郎にかかれば意味もねェンだがな』

 

『アハハ、これは手厳しい。ですが一つ訂正しておきます、自分は御坂さんの安寧を願いそれを守ろうとしただけです。決してストーカーなどではありませんしこの役目も本来は自分の役割ではありませんから』

 

電話越しでも彼の声色は変わらない。常に笑顔で爽やかに…海原光貴の仮面(・・)を被り続ける少年。敢えて彼を海原光貴と呼ぶべきか?否、そう呼ばれるべきなのだろう

 

『―――そして、肝心の内部情報ですが外部からのハッキングを一切受け付けない。明らかに本来のセキュリティレベルを越えたファイヤーウォールの構築、何を警戒したかは知りませんが面倒な話です』

 

一方通行は通話を維持したまま受付に目を走らせるが人どころかその気配すら感じられない

 

(…海原の話はマジ…らしいなァ、元より封鎖されて悪人共の隠家になるよォな建物で受付嬢がいたらそれはそれでおかしな話だが)

 

『――ではここで改めて情報を整理します、どうせ一方通行も今から弾を込めるんでしょう?』

 

『ご名答ォ、だが要約は装填を終える30秒以内にしろよ』

 

常盤台の国語の入試でさえそんな無茶苦茶な要約は問われませんよ…なんてぼやきつつ手早く海原は要点を纏め始めた

 

・この施設はとある暗部組織が使用していたものではあるが利用開始時期はかなり日が浅い

 

・暗部が解体されたはずの今、何故その組織が存在しているのか等詳細は一切不明

 

・上記二点を踏まえこの組織は比較的創設後日が浅いと考えられる

 

『わざわざ要約するほどの情報はありませんが…何か質問は?』

 

『ンだァ?質問なンざねェよ、それと前もって言っとくがあのガキは置いてきた。テメェとくだらねェ言い合いをしてる間も勿体ねェからよ』

 

『結構、では無事の帰還を願いますよ』

 

『誰の、とは野暮だから聞かねェぞ』

 

そうして通話を切ると改めて一方通行は辺りを見回して呟いた

 

「妙、だな。クソ共の掃き溜めの割には殺気もねェ、オマケに部外者の侵入だっつゥのに出迎えも無し……まァ表向きには廃墟ってンだから間違っちゃいねェけどよ」

 

それにしても…気に入らねェ、あの一件で暗部は解体したンじゃなかったのか?大体何で今のタイミングで情報が漏れた?そもそも解体を免れた程の暗部組織を何故海原が名前も知らねェ?

 

考えれば考える程謎が謎を呼ぶ、一方通行に取っては久しく覚えた感覚であった

 

(……止めだ、領分を弁えねェ三流(かくした)一流(オレ)が叩き潰す。謎もクソもねェ、少し前と変わらねェだろうが)

 

どうやら光の世界で俺は照らされ過ぎたらしい、一々クソ共を叩き潰す事に理由が必要か?…ダメだよなァ、そンなンじゃ全ッ然ダメだ

 

この先は光の無い、暗い道

 

この先は落ち度無しに命を奪われる奈落の底

 

この先は悪意に天井が無い空間

 

そしてこの先は――――

 

「俺が通ってきた道、その物だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八雲藍SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雷は一般的には『降る』と表現する。

 

最も…それは自然現象として大地を穿つ雷であれば、の話だ。

 

その一室では摩訶不思議な事に電撃があらゆる角度からある一点にのみ集中していた。これでは雷が降る…とは表現出来ないだろう

 

「いい加減にしないか、怒りで我を忘れた電撃に臆する程式神は温くは無い」

 

「…何だ、喋れたのね。それに式神…さっきから私の攻撃を防ぐ半透明のバリア、自分を科学の範疇を超えた式神という人外だと思い込み自分だけの現実(パーソナルリアリティ)を拡張・強化。…最悪超電磁砲(ワタシ)心理掌握(コイツ)を同時に相手取っても劣らない自信はあるって訳」

 

「――まぁそういう理解で構わない、元より根本が違うんだ。分かり合いたい訳でもないからな」

 

「あっそ…じゃあとっとと終わらせて貰うわよ…!」

 

「こちらもそのつもりだ、決着は急がせて貰う!」

 

再び美琴は藍へ電撃を放つ、その威力は既に内装や設備を一撃で無に還していく。幾ら藍が式神であるとは言え何発も被弾出来るものではない。

 

勿論藍とてそれは承知の上、的確に雷を捌き続けては虎視眈々と美琴を沈めるその一撃を伺っている

 

(…とまぁ、超電磁砲は考えているだろうな。いや実際にこの電撃を浴びるわけにはいかないのだが)

 

それでも彼女は八雲藍、八雲紫の式神である。身を焦がす電撃など見慣れたを通り越して見飽きた部類、この程度の電圧ならば幻想郷の住人達が用いる弾幕の方が未だ警戒に値する

 

(…本来ならば超電磁砲が集中を欠いた所を叩くつもりだったが、時間が押している。食蜂操祈(ウィークポイント)を狙うとしよう)

 

美琴は苛立っていた。

 

科学Side(じぶんたち)を見下す藍の表情や言動に

 

反響定位で感知できた筈の不意打ちを見逃し食蜂操祈を守れなかった自分に

 

…何より先程から一向に収まらない謎の不安に

 

そんな美琴が未だに怒りに呑まれないのは守らなければならない存在があるからだ。

 

(事前の情報では二人は犬猿の仲と聞いていたが、見捨てる程冷めきってもいなかったのか?―――とにかく。施設の耐久度を考えれば十八番の超電磁砲や落雷、心理掌握を巻き込み兼ねない大放電は警戒しなくて良い。)

 

何にせよ中途半端に食蜂操祈を庇いながらでは乱雑な攻撃しか繰り出せない事は当然、そんな揺れる美琴の隙を藍が見逃す訳も無い

 

そしてその瞬間――光の速さで空間を走り抜ける電撃が藍の腹部へ被弾するその刹那より僅かに前のタイミング

 

「貰ったッ!」

 

「しまっ…!食蜂…!!」

 

藍は特に何か変わった技を放った訳でもない。これまでと同じく結界を用いて電撃を弾き返したに過ぎないのだ。問題は弾き返された電撃の矛先が…意識を失った食蜂操祈だったという点にある

 

(あぁ…馬鹿だなぁ、私…あの九尾の掌の上で踊らされて…。この展開だってずっと警戒してた、食蜂がダウンした時点で全力で撤退すべきだった―――――上条当麻(アンタ)なら…あんなヤツすぐに倒しちゃうのかな…?)

 

気絶した食蜂を狙い撃ちされてそこを庇いに入った美琴が叩かれる。分かっていたし警戒もしていた…が藍は美琴よりも何枚も上手だった。だからこうなった、分かっていた――――だから美琴は考えるよりも先に食蜂に飛びかかっていたのかもしれない。

 

「ッ…!こんな運痴に私の電撃なんて浴びせたら一発で昇天しちゃうじゃない、の……」

 

何とか間一髪の所で電撃を無効化、食蜂操祈は無傷で済んだ。

 

だが忘れてはならない、何も藍は気絶した食蜂に追い討ちを掛ける為に電撃を弾いたのではない。本命はあくまで―――

 

「お前だよ、第三位の超電磁砲。電撃の速さを抜いて間に合った事は賞賛に値するだろう、だが…余りにも場面展開が稚拙過ぎる」

 

「そもそもお前が放った電撃は人間でさえ致死量には値しない、火傷やその他の後遺症こそあれどこの展開で…被弾すると分かっていて庇う理由があるのか?心理掌握は好き好んで組んだ間柄じゃないだろうに」

 

一滴、また一滴と零れ落ちる…御坂美琴(しょうじょ)の唇から紅い液体が。美琴はその雫を飲み込み、拭いながら立ち上がる。

 

「まだ続けるのか?理解が及ばないなら教えよう、今お前の腹部は戦闘続行が叶う状態じゃない。続けるだけ無駄だ」

 

美琴が食蜂を庇ったその瞬間からコンマ数秒の後、つまり藍は電撃を食蜂に向けて弾き返すとほぼ同時に数発の弾幕を放った。美琴は電撃使いとして余程の高圧電流で無ければ電撃は無効化するも弾くも自由自在、だが非科学の魔力弾幕ではそうは問屋が卸さない

 

「…自分の身体の事なんだから、んなこと私が一番分かって…テテ…るわよ…でもね。負けさせちゃくれないのよ」

 

「何…?」

 

「アンタには…ううん、この感情を理解してくれるヤツはこの世界に一人だけ。その一人すら今、私の世界から消えようとしてる……そんなヤツが今どこでどんな苦しい思いをしてるとも解らないのに…!私一人が暴走して仲間を巻き添えにして降参…?そんなふざけた真似、私自身が許さない…!」

 

「何よりッ!降参すら許されなかった妹達が私にはいる、そんなあの娘達を救えなかった私に降参の権利は無いんだから…!!」

 

「…最早そこまで来れば狂気だよ、お前のその正義は」

 

「狂気でも良い、狂った程度でアイツに手が差し伸べられるなら…知らないとは言わせない。何かしらは知ってるはずよ、上条当麻に関する何かをアンタは…!」

 

―――だから学園都市という地獄は嫌いなんだ。そこに住まう者達を私は心底軽蔑する。

 

弱い人間のくせに異能とそれによる発展を求めその欲は天井を知らない。

 

そんな発展に囲まれた子供達は何時しか『何かを成さなくては』と考えるようになる。そんな思考が何万何十万と集まれば『何か』のハードルは自然と跳ね上がる

 

普通では届かぬハードルを飛び越そうとした彼等は―――ごく自然に狂っていく、壊れていく。

そんな者達の骸を足場に時折ハードルを超えてしまう飛び抜けた哀れな子供達……それが超能力者、LEVEL5。この地獄を造り出した者に食い潰される運命にある7人の少年少女。

 

(……学園都市は何一つ変わってなどいない、『あの時』と同じだ。何もかも……)

 

「あぁ、知っているとも」

 

あぁ知っている、私達が攫ったのだから

 

「だったら、洗いざらい話して貰うわよ…!」

 

…止めるんだ、そんな踏み込みでは腹部に掛かる負担が大き過ぎる。

 

…止めるんだ、私を倒す電撃に演算処理を回す位なら先程のように生体電気に干渉しろ。その方が痛みはずっと和らぐし身体も傷付かない。

 

何度藍は止めろと心の中で叫んだか。届くはずのない攻撃を繰り返されるのは見ていて腹が立つし虚しいだけだ

 

そんな藍の叫びも届かず、美琴は宣言通り一歩も退かない。常に操祈を背後に庇いながら、演算処理を阻害する激痛の中藍へ繰り返し放たれる電撃の数々。

 

電撃の数々、そう言えばまだ聞こえは良いかもしれない。しかし…その場にいる者であれば誰であろうと分かる。

 

「…止めるんだ、もう自分でも気づいているはずだ」

 

「…る…さい…同情なんて、いらない…っての…」

 

端から乱れた精神、理解の及ばぬ非科学(げんそう)の力、そして10代の少女にはあまりに不釣り合いの激痛―――それら全てが彼女自慢の『電撃』を見るに耐えないレベルまで劣化させていた。

 

「…デンキウナギは放電の際自らも感電している、しかし平然としているのは感電から身を守る備えがあるから。それは発電と同時に体内へ流れる電流を逃がす演算処理を行うお前も同じだろう」

 

「だが今のお前は違う、私と遭遇する前から僅かに精神が乱れていた上に集中を阻害する激痛。――私への攻めにしか演算が回っていない、するとお前の身体には放電した何割かの電流が流れ込む」

 

「…ハッ。馬鹿に…しないで、その程度の痛みで…能力が使えないなら、LEVEL5なんて…やって、られないわよ…!」

 

…やれやれ、中々どうして

 

「やっぱり私は嫌いだよ、学園都市が…学園都市に住まうお前達が…!」

 

「奇遇ね、私もアンタはいけ好かないっての…よッ!!」

 

学園都市の住人達は私の機嫌を逆撫でしてくれる…!

 

八雲藍は弾幕ごっこを含めた闘争よりは話術や交渉術などを用いて闘争を避ける傾向にある。それは本人の性格や式神という立場による物が大きい。

だが彼女とて九尾、本質は妖怪―――妖怪とは人間を力でねじ伏せ、蹂躙する

 

やはり放電の継続には支障があるのか美琴は戦法を切り替え砂鉄の剣を精製する。対する藍は砂鉄の剣の切れ味と間合いの広さに……九尾、九つの尻尾(てかず)で応戦する。勿論九つ全ての尾には妖力が込められ機動力も強固さも跳ね上がった。

 

砂鉄剣(いちげき)九尾(てかず)か―――

 

同時に複数撃の刺突を絶えず放つ藍に対して美琴もまた変幻自在の間合いと形状、触れれば即切断の切れ味で藍に予断を許さない

 

(成程―――常に一手の超電磁砲に九手の私が攻めあぐねるか。だがあぁも好き放題に形状を変化させられては最低5本は防御に回さなければ…!)

 

即、斬………人を斬った事の無い美琴、ましてや砂鉄剣には峰など存在しない。手加減は一切期待出来ない、つまりは――――一撃喰らえば敗北も有り得る

 

(……コイツは防戦一方、でもコイツの目が私に慣れて攻める尻尾がこれ以上増えたなら…洒落にならないわね…)

 

(一度距離を取って…いや駄目だ、この剣のリーチはほぼ無限。耐久戦に持ち込めるのなら理想的だが紫様からの命令がある以上早期決着は大前提…)

 

(間合いを離される心配は無い、それより厄介なのは時間を掛けすぎる事ね。手数は相手が何倍も上、耐久戦に勝ち目はない…)

 

「この一撃で…!」

 

「ケリをつけるッ!!」

 

仕掛けたのはほぼ同時、強いて順番を付けるならば僅かに美琴が先手を取った

 

ムチのように撓る長い刀身を短縮、右手は柄尻左手は柄に添えるだけ……そう平突き。藍のガードを破るならば『斬る』よりは『突く』の方が遥かに理に適っている。

 

ならばと藍は妖力を込める尾を減らし一本辺りの強度を強化、残る尾で美琴の一撃をいなした後にカウンターの刺突でトドメを刺す。

 

勝つのは――

 

…藍か?美琴か?

 

九尾(てかず)か?砂鉄剣(いちげき)か?

 

(が、甘い…!平突きならば今までとは違って動作が全て読める!突き出すタイミング、刃先から推測されるターゲットポイント…この勝負貰ったぞ超電磁砲!)

 

刃先と軸足の左足から藍は一瞬たりとも目を離さない、動き出せば即座にぶつかり合う瞬間を見越して全力でガードする。

 

完璧だ、完璧な運び――――のはずだった

 

だがおかしなことに美琴の軸足が動かない。今更怖気ついたか?そんな感情さえ浮かび上がったその瞬間

 

「…馬鹿ね、私は剣道なんてしたことないから正しい足裁きなんて知らないわ。だからいくら脚の動き(・・・・)を観察したって無駄よ」

 

「何…ッ!?」

 

藍はここでようやく気付いた。御坂美琴は戦術の一環に砂鉄剣を取り入れただけで剣道の経験者でもなければ武道の心得もない、そんな人間がまともな平突きを放てる訳が無いのだ。……そう、『自分の体捌き』では

 

藍は一秒にも満たない間にその事に気がついた、いや考え辿り着いたと言うべきか?だがそれはつまり…思考の間意識が砂鉄剣から離れていた事に他ならない!

 

―――突き、つまり剣を突き出せればそれで良い。ましてや美琴の剣は…

 

『一度距離を取って…いや駄目だ、この剣のリーチはほぼ無限』

 

リーチは無限、その伸縮は自由自在

 

瞬間的に縮んだ砂鉄剣は今度は真逆に一気に伸びる。

伸びるその先に藍の尾を捉えた刃先は……確かに尾と身体を貫いていた。

 

「グッ…ハッ……!?」

磁力により伸びた刃先、否。最早磁力で突き出された刃先は藍の右肩を貫くだけでは飽き足らずその身体を吹き飛ばした。

 

「…正直危なかったわ、アンタがもっと私に警戒して殻に籠るようにガードされたんじゃ不意の突きようもなかった。大体今の一撃もアンタが私にタイミングを合わせてガードするつもりなのが分かったから良かったものの…」

 

「私が…ッ…お前を観察し動きを読む前提で……敢えてモーションが完全に盗める突き技を選ん…だな…?」

 

「私はまんまと引っかか、り…突き出されるタイミングだけに気を取られ瞬間的に伸びる砂鉄剣の発見が遅れた…か……」

 

「…とにかく私の勝ちよ、洗いざらい私からの質問に答えなさい」

 

肩口に突き刺さった剣先は藍の苦痛と共に引き抜かれその在り処を首筋へと移す。勝敗は決した、幾ら人間と妖怪の実力差とは言え僅かでも動けば首が跳ねられる状況では打てる手も無い。

 

 

 

……申し訳ありません、紫様。私は、私は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また『ミサカ』を救えなかった……」

 

「今、アンタ何て……!」

 




何から謝れば良いんでしょう?やはり投稿が遅れたことか…

ですがこればかりは言い訳しません、書くだけ言い訳のようで心苦しいですしきっと皆様も見苦しいと思います。

とにかくこのお詫びはこれからも投稿を続けるということでお許しくださいませ。………なるべく一ヶ月に一本のペースで頑張りますです、はい。

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