とある幻想郷の幻想殺し   作:愛鈴@けねもこ推し

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電磁掌握は飛び込む、暗闇の中へ【学園都市編】

御坂美琴SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園都市第七学区――学園都市内でも一、二を争う程の建物が犇めき(ひしめき)合うそのビル群の一角の屋上で喧騒を撒き散らす人物が居た。

そこにいるのは二人だが怒気を放っているのは1人、淡く栗色の短髪の下には青筋が浮かびかねない赫怒の形相。それを受け止めるのは怒れる少女とは裏腹にロングヘアーの金髪少女、どこかふわふわとした印象を抱かせる彼女は食蜂操祈。自身の胸ぐらを掴み惜しげなく怒気をぶつけてくる御坂美琴の―――パートナーだ。

 

私は今猛烈に腹がたってる、こんな激情はあの上条当麻(バカ)にだって抱いた事が無いかもしれない

理由は単純…!

 

「いきなりビルの屋上に呼び出した挙句、何で私に断りなくアンタは独断専行したわけ!?足元を掬われたらヤバイのはお互い重々承知してる筈でしょ!?」

 

「あらぁ?わたしは確かに御坂さんと協力関係にあるし頭も下げたわぁ、でもでもぉわたしの言動を逐一報告する義理は無いんだゾ☆」

 

「……アンタがどうなろうと、別に私は構わないって言ってんのよ。ただそれでアイツに繋がる手掛かりが消えるのは許さない、言いたい事はそれだけ」

 

「以心伝心、思考共有――お互い考える事が微塵も違っていなくて安心したわぁ。まっ、心理掌握(メンタルアウト)が通じない相手には御坂さんの野蛮力が必要になる事は分かっているからその時が来るまで大人しくしているつもりよぉ」

 

……何で私はこんな奴と手を組んだんだろう。いくらlevel5(超能力者)とは言えこれなら黒子の方が万倍良い。

 

掴んでいた食蜂の胸ぐらを叩きつけるように手放すと美琴は改めて状況を思い返す。

紆余曲折を経て臨時のコンビを組んだ二人ではあったが上条当麻に関する情報収集は予想通り難航した。

 

御坂美琴は警備員(アンチスキル)風紀委員(ジャッジメント)の情報保管サーバーにハッキングを仕掛けて表の世界から

 

食蜂操祈は心理掌握とコネをフルに駆使し、暗部関連の情報を裏の世界から

 

しかし…結果、上条当麻の情報は何一つ出てこない。それどころか提出された上条当麻の捜索願すら無かったことにされていたのだ。

ここまで来れば暗部が絡んでいる事にまず間違いは無い、寧ろそれより先……暗部より更に奥深くの闇……

 

「学園都市統括理事会…この一件には連中が絡んでいる可能性がある、そうなれば今以上に警戒して動かないと私達の巻き添えを食らう人達が現れるかもしれない―――だから独断専行で情報を仕入れる真似、して欲しく無かったのよ」

 

「はいはい、お説教は聞き飽きたわ。それより御坂さんもわたしが得た情報…知りたいでしょ?」

 

「ッ…時間も惜しいもの。それでアンタは何を掴んだって言うの?」

 

(本音を言えば焦ってる…アイツが居なくなってからもう数週間…!でも私は何一つ情報を掴めていない…この際、可能性があるんなら藁よりタチの悪い食蜂の手でも…!)

 

それに食蜂操祈は美琴が律儀に問い質したところで『はいそうですか』と頷く素直な性格ではない。それはこれまでの彼女の言動が指し示す通り、理由も話さないままでわざわざビルの屋上に美琴を呼び出したのもまた然り。

 

怒りを覚ます為、冷静になる為――美琴は瞳を閉じて壁に背を預ける。ビル群にぶつかって吹き上げる風とコンクリートのヒンヤリとした冷たさはそれには最適だった。

 

「まず結果として、上条さんに直接関わる情報は見つけ出せなかったのよねぇ」

 

「…それで?続けなさい」

 

「あら…ここで御坂さんの堪忍袋が粉砕されると思ったのにぃ」

 

「安心しなさい、本当にそれだけで終わらせたり確証の無い情報を流したらアンタの頭を電撃で粉砕するから」

 

「キャー怖い☆…まぁわたしとしてもこんな無駄話で時間を浪費するのは望まないし、情報は掴んであるわぁ。それと言うのも暗部の組織…組織名や詳細は分からないけれど。とにかく暗部の中でも謎の多い組織が1ヶ月程前から動いているのを確認したわ」

 

「1ヶ月…確かアイツが失踪(消えた)のも大体それくらい。確かに気になるけど…その組織がアイツに関わっている確証は?暗部なんて絶えず暗躍しているじゃない」

 

謎の暗部組織の暗躍……食蜂の心電図に変化は無し、嘘では無いようね。……アイツが自分自身の記憶を弄っていなければ…だけど。

 

「……有り得ないのよぉ、今この時期に暗部が暗部として動いているなんて」

 

「…?まさか連中は揃いも揃って今の時期は有給消化中だから、なんて言わないでよ?」

 

「それの方がまだ笑い種にはなったかしらね。――――解体されたのよ、学園都市の暗部は。大小、古参新参問わず全て……暗部として機能している組織なんて今この瞬間存在する訳がないわ」

 

「暗部が…解体された!?誰に、何の為に…いやそれよりも…!それが事実だとして…!」

 

「ちなみに暗部が解体されたのも1ヶ月と少し前、その組織はそれと入れ替わるようにして活発化――不自然力が強すぎるのよねぇ」

 

これが黒子が掴んでくれた情報なら私はこれでもか!と抱き締めて頭を撫でたに違いない。……まぁ現実には食蜂の手柄なんだけど

 

(…動けないどころか存在しないはずの暗部がある時期を境に活発化して、それと時を同じくして幻想殺し(アイツ)が消えて…暗部でしか出来ないような裏技を使われて…)

 

「勿論証拠不十分だと言われればそれまでだけどぉ、大体名前も実態も不明瞭な相手に無策で突っ込みたくないもの。そもそも学園都市がバックアップに用意していた秘匿の組織だった、その可能性も捨てきれないしねぇ」

 

「…例えそうだとしても、学園都市からバックアップを任される程暗部に染まりきった連中ならこの事件の噂程度は知ってるんじゃない?まぁ別に口を割らないなら割らないで構わないわ」

 

「そうそう、心理掌握(わたし)の前で黙秘力なんて無意味極まりないものねぇ―――どうやら再び意思疎通力が働いたかしら?」

 

「らしいわね」

 

「良かったぁ!それでこそ潜入したい施設の前に呼び出した甲斐があるってものなんだゾ☆」

 

「…は?施設の前ってアンタ…ねぇ…!!」

 

……ほんのちょっと。ちょっとだけ芽生えた仲間意識を尽く(ことごと)握り潰す。わざとやっているのだろうか?いやそうに違いない―――とは言え。感謝の気持ちは伝えた方が良い

 

「ねぇ、食ほ――――」

 

「…御坂さぁん、貴女は誓えるかしら?私達はお互い利用して利用され合う関係。ただし互いに利用する目的は同じ、目指す物に変わりはない――この大前提を崩さない、と」

 

――――食蜂操祈は暗に語っていた。

 

心理掌握(わたし)超電磁砲(アナタ)を利用する、その逆も然り。

この関係性は通常ではまず成り立ちえない、ましてや犬猿の仲の超能力者(LEVEL5)を結び付けたのは2人が上条当麻に対する特別な感情(こいごころ)があったから。少なくともその感情は2人にとって一時的な共闘も必要と思わせる程度のもので、絶対的な信頼関係とは程遠い脆い繋がり。

 

つまり―――食蜂操祈は警告しているのだろう

 

超電磁砲(アナタ)がその前提を崩せば心理掌握(わたし)との協力関係は崩壊する、と。

勿論美琴は犬猿の仲の食蜂とは言え自ら率先して裏切るような冷酷な造りをしていない。それは自他共に認めること。

 

(―――この先、これを進んだ先に…この闇の奥に。私を狂わせるかもしれない『ナニカ』がある、それにぶつかっても尚目的を忘れずに居られるか、我を忘れずに居られるか?そう心理掌握(アンタ)は問いたいのよね?)

 

「…私は命を賭けても信念を捨てなかった英雄(ヒーロー)を知っているし何度も救われた……そしてこれはその英雄(ヒーロー)を救う、恩返しの為の闘い。それだけは例え心理掌握(アンタ)でも改ざん出来ない位脳に刻み付けているつもりよ」

 

「端から能力は通用しないんだけどぉ…御坂さんがそこまで言うなら、一時的に信じるフリ位は演技力を発揮してあげる」

 

決意改め食蜂操祈から告げられた目的の施設はビル群の中に紛れる中型の研究施設、この屋上から飛び降り上手く着地すれば研究施設の屋上に辿り着ける。周囲の通行人の記憶改ざんは食蜂操祈に任せておけば抜かりは無い。では御坂美琴の、超電磁砲の担当は―――

 

「舌―――噛まないでよねッ!」

 

時刻は昼間、陽の灯がビル群を照らす明るさの中―――2人の少女(電磁掌握)が闇に挑む

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食蜂操祈SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

焚き付けた私が言うのもあれだけどぉ…

 

「ちょっと御坂さん野蛮力高過ぎよぉ!落下する前に一言あっても良いじゃない!!」

 

いやまぁ…何となく?予想通りだけど?まさか100m以上下の狭い屋上に2つ返事で躊躇無く、それも私を抱えたまま飛び降りるとか狂っているんじゃないかしら?

 

「喋ってると舌噛むわよ、大体アンタは前置きしたら怖気付くかもしれないし」

 

「御坂さんが慣れ過ぎてるんじゃない!こんなのみさきちが先に壊滅力発揮しちゃうわよ!」

 

「うるさいわねアンタは…!でも、もう少しで着地よ。磁力操作で衝撃はゼロにするけど目撃者の記憶操作はやっときなさいよ?常盤台の女子生徒2人が抱き合って投身自殺なんてニュース見たくないからねッ!」

 

「そうねぇ―――白井さん辺りがヤンデレ力を発揮しそうだもの」

 

「……ちょっと背中に冷や汗が流れたわ」

 

とは言え御坂美琴、特定の人物が絡まない限りは思慮深く思いやりの出来る良い子である。着地の際の衝撃は勿論落下により発生する風圧までカバーすると言う中々の配慮っぷり

 

そんな美琴の配慮により彼女達の真下の通行人達が風圧でめくれ上がった制服の中を拝める訳も無く。

百歩譲ってラッキースケベがあったとしても数秒後には操祈の心理掌握により記憶改ざんでその景色どころか記憶を失ってしまうのだが。

 

「よっと…そう言えば聞き忘れてたけど、ここは敵のアジト?それとも関連施設?」

 

「…さぁ?ただ連中の足跡を辿れば必ずここに行き着くの、それ以上は調べる気になれなかったわ」

「…妥当な判断ね」

 

妥当―――確かにその通り。学園都市内部でも極秘中の極秘とされる暗部組織の影を追う、自殺にも等しい行為。

この場所を突き止めるだけでも相当な危険を犯したのだろう、だから情報量が少ない事を責めはしない。

それが御坂美琴の本心。仮初であろうと犬猿の仲だろうとコンビを組む相手への最低限の礼儀であり信頼の表れ。

 

そんな美琴は周囲の監視カメラの位置を確認し次々とハッキング、自分達が現れる前の無人の監視映像を『現在』の映像として大元に送り返す…という離れ業を成し遂げていた。

 

対して機械相手には出番が失せる食蜂は美琴の背中に隠れている。

 

(―――悪いわねぇ、御坂さぁん…本当はこの施設の事はもっと知っているのよねぇ。でもそれを全て伝えた所でわたしにメリットは無いし貴女も不利益を被るわぁ。……だからこれは思いやりと思って頂戴)

 

この施設を謎の組織が利用している事は事実、その目的などが分からない事も事実。

ただ……

 

「知っている…じゃなくて、知って『いた』」

 

「…?何か言った?それと監視カメラの映像書き換えとドアロック解除、出来たわよ」

 

「何でもないわぁ、独り言よ。―――さぁここからは御坂さんの野蛮力を思う存分に発揮して良いんだゾ☆」

 

「はいはいっと…」

 

そうして御坂さんを先頭にいよいよ施設内へと侵入して静かに階段を一段ずつ降りていく。

こんな怪しげな建物はあちらこちらにトラップが溢れ返っているのが常だけどぉ…大丈夫なのかしら?

 

思わず浮かんだ不安を御坂さんにぶつけてみると『電子的な方は全部焼いといた』との希望力溢れる台詞が返ってきた。この娘将来は工作員になるのかしらねぇ

 

ちなみに以前も2人はとある施設に侵入紛いの突入を実行した、その際は追っている人物を逃さない為に二手に別れたりもした。だが今回はその必要は無い――と言うのが2人の意見。

 

「そもそも内部構造が分からない以上は迷子力を発揮する可能性があるわけでぇ……主に御坂さんが」

 

「アンタ喧嘩うってる?その気になれば反響定位(エコロケーション)の真似事で1人でもどうにかなるわよ」

 

「あらあらぁ、そんな敵にも居場所を知られる方法なんて不用心過ぎるんじゃない?私なら出会い頭に全員洗脳してみせるゾ☆」

 

「じゃあ出会い頭に撃たれてもそうやって強がってなさい……まずは監視カメラの映像を監視している部屋と敵を抑えるわよ、そこでなるべく多く施設内部の構造と人員の配置を確認出来れば理想的ね」

 

「はぁ…分かったわよぉ、でも当然部屋の位置は把握しているんでしょうねぇ?」

 

「監視カメラのデータの送受信の流れで大体は掴めたかな、だから問題はそこに辿り着くまでに……敵に見つからないかどうかよ」

 

勿論1人や2人に見つかった所で御坂さんのビリビリ力がビリビリすれば片は付くけど…間違い無く他の仲間には警戒される。そうなれば無駄に難易度が上がっちゃうのよねぇ……

 

「私の心理掌握(メンタルアウト)は相手をちゃんと対象として認識出来ないと発動は難しい、先手は厳しいわよ」

 

「勿論私も全力で生体電気の磁場は感じ取る……でもやっぱり最後は運絡みね、もしくは日頃の行―――――」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい御坂さん…!そうやって意味もなく死亡フラグを建てるのは反則よ!?」

 

「ご、ごめんってば!ただちょっと頭に浮かんじゃったなぁ…って…ッ…!?」

 

「おい急げ!実弾で構わん、侵入者だ!」

 

「う、そ…!?」

 

まさか幾ら何でもフラグ回収力が速過ぎはしないかしら?その手のお約束は上条さんの担当じゃない…

 

だがそう悠長に構えても居られない、戦闘か?撤退か?美琴と食蜂、2人が同時に顔を見合わせる

 

「―――仕方ない」

 

「―――そうねぇ」

 

言葉を交わさずとも分かる、2人は例え今以上の窮地に追い込まれようと―――

 

「返してもらうわよ…!」

 

退く事はしない、絶対に。

 

(でも何処でバレたのかしら?ハッキングを御坂さんがしくじった?…まさか、ねぇ)

 

リモコンを構えて辺りを警戒しつつそれは無いと食蜂は頭の中の考えを振り切る、仮に下手を打てばこの少女は即座に自分に打ち明けるだろう。

そもそもこんな中途半端に自分達を泳がせた意味が分からない

 

「とにかく急げ、地下通路へ急ぐんだ!超能力者(LEVEL5)を2人同時に相手取るんだ、殺す気で行けッ!!…クソッ、俺達はまだ『奴等』を捕まえなきゃいけないってのに…!」

 

「…?食蜂、まさかここって地下、通路…?いやまさか…そんな訳ない」

 

「わたし達は学園都市で洗脳力がダントツに通用しない面子だからぁ、現在地を誤認させられている…って線は無いわぁ。勿論屋上から侵入した私達が地下通路に何時の間にか迷い込んでいた可能性もあるけれどぉ」

 

「…それも限りなくゼロに近い可能性よね、と…なると」

 

心理掌握と超電磁砲(わたしたち)以外の超能力者(LEVEL5)がこの施設を奇襲した…?

 

考えられるとすれば一方通行(第1位)念動砲弾(第7位)の組み合わせ、現場を見ていない以上断言は出来ないが学園都市の現状では彼等以外の登場は有り得ない

 

第2位の垣根帝督(ダークマター)は暗部を解体するキッカケとなった抗争の果てに生死・行方ともに不明となり

 

第4位の麦野沈利(メルトダウナー)も第2位との抗争の果てで安否が不明

 

第6位は相も変わらずの行方どころか情報の欠片も出てこない、こんな所にひょっこり顔を出す訳が無いし敵がその人物を超能力者(LEVEL5)だと断定出来るかも怪しいところだ

 

以上の消去法から現れた2人の超能力者(LEVEL5)は一方通行と念動砲弾の組み合わせだと食蜂は見出した訳だが…

 

(それこそ笑い話にもならないわよねぇ…1位と7位がコンビ?7位の彼はともかく……1位の彼がよくこんな場所に顔を出せたわねぇ、それが学園都市トップの在り方なのかしら)

 

だとすれば怖気がする、恐怖ではなく軽蔑だ。

 

(…『ココ』で御坂さんと1位が遭遇して、しかもこの施設の詳細を知られたら―――RSPK症候群(ポルターガイスト)を引き起こされるかもねぇ)

 

「…ねぇ、食蜂。『もしかして』の話をしても仕方が無いけど――地下から侵入したLEVEL5の片割れは一方通行じゃない?アンタはアイツがここを奇襲する可能性を知っていたからあの時私に覚悟の話を…」

 

「あらぁ?襲撃してきたLEVEL5の片割れが一方通行だと確信力があるのかしらぁ、先入観での思い込みは良く無いゾ☆」

 

「…呼吸が苦しいのよ、まるで心臓を鷲掴みにされたみたいにね。これじゃあ身体の全てが進む事を拒んでいる事に変わりない―――こんな感覚…一方通行以外に抱く訳が無いわ」

 

「――まっ、御坂さんのトラウマなんて私にはどうでも良い無関係な話だからぁ。勝手に妄想してればぁ?☆……ただ仮にも共闘戦線を結んだ以上上条さんを助け出すまでは私に利用されて頂戴、こんな所で1人へこまれても困るのよ」

 

「…アンタは手厳しいわね…っと。でもそうね、この目で確かめるまでは分からないし…上手く行けば地下の2人に敵を押し付けて私達は安全に行動出来る。そうでしょ?」

 

それに、連中は地下のLEVEL5の他に追うべき連中が居ると言っていたのよねぇ…?既に全てを揺るがしかねないファクターが2人もいるってのに更にオマケとか有り得ないわぁ!

 

周囲の警戒を一時美琴に任せて食蜂は思案に耽る。だがどれ程記憶を読み返しても今新たに現れる可能性のある勢力など思い浮かばない。

 

「とにかく、情報を集めましょう。都合良く単独行動をしてくれるおバカさんが居れば安全に捕まえて尋問出来るけど…訓練された暗部には期待薄だしねぇ」

 

「分かった…となると引き続き監視カメラの制御室を目指せば良いって事よね」

 

「そうなるわぁ」

 

(奴等…単純に考えれば複数形、最低でも2人。間が悪いのよ、まったく……おかしくないかしら…?まさか私達が今日侵入する事がバレていた?…御坂さんには当日呼び出したから裏切りの線は薄い、じゃあまさか……端から監視されていた…?)

 

学園都市に7人しか居ないLEVEL5の内4人が1箇所に集まり、謎の第3勢力までもが同じタイミングで現れる。確かに偶然と割り切るには過ぎた話だ。

 

…とここで食蜂の呼吸が荒い物に変わり壁に手を付いて進み始める。これは勿論敵組織の仕掛けた毒物の類ではない、事実美琴は未だにピンピンしている。

潜入開始からおよそ20分…大半を息を潜めた隠密行動で過ごしたのだが……

 

「分からない事だらけって嫌になるわぁ、後激しい運動もねぇ…」

 

「はやっ…アンタまさかもうバテたの…!?冗談でしょ?まだ30分も歩いてないじゃない!」

 

「貴女みたいな野蛮力溢れる人と違ってこっちは平均的な身体の造りになってんのよぉ……貴女には分からないでしょうねぇ…!中腰を維持したままの身動きの辛さは…!」

 

立ったままでは敵から目立ちすぐ発見されてしまう

かと言って座り込むのは問題外

そうなると選択肢は中腰での移動に限られてくる。

 

「いや別に分かんなくは無いけどさ…とりあえず監視カメラの制御室の近くまで来たわ、中に敵が居た場合は私が殺るよりアンタに任せたいし…せめて呼吸だけは落ち着けてくれない?いざって時に息切れで能力を使えませんでした、じゃ笑えないんだから」

 

「は、早いのねぇ…?じゃあここで30分程休息力を発揮していーかしら…?」

 

「1分で回復させなさい」

 

即答、慈悲無し。

 

ブーブーと独り言を呟きながらここまで張り詰めてきた緊張を解く、すると逆に疲れが押し寄せてきた。何時の間にか無駄な緊張まで背負い込んでいたのかもしれない。

 

(…でも御坂さん、表面上は大丈夫そーねぇ…?あそこでブレる位なら切り捨てる可能性も十分有り得たけどぉ…って彼女相手にここまで気を回すなんて私も愉快力を増してきたかしらぁ)

 

とここで服の襟首が掴まれて真上に引き上げられる。

私、体重は軽い方だけどぉ…女の子が片手で軽々引き上げられる程じゃないわぁ…

 

「…御坂さんって腕に力こぶがあるんじゃない?」

 

「馬鹿にしてんのかアンタは?…私がわざわざ手を貸してやったのよ、ありがたく思いなさいよね」

 

「じゃあ今からその借りを元本と利子を含めて叩きつけてあげる☆――いくわよ、制御室内部の敵は何人かしらぁ?」

 

「……ダメ、距離が離れてるのと壁の厚みで探知出来ない。ただ場所が場所だけにさっき地下へ向かった連中程の重武装は心配しなくても良いと思うんだけど…」

 

「じゃあ私が真っ先に侵入して見える範囲の敵を洗脳するから御坂さんは私の周囲の警戒を。流石に室内ならお得意のソナー力は使えるでしょ」

 

こーいう時能力が通じる相手なら頭に直接書き込んで指示出来るのにぃ…御坂さんってつくづく不便力発揮してるわねぇ

 

そこからは言葉は交わさず不慣れなハンドサインで意思疎通を図る

幸いに敵の姿どころか声も聞こえず、2人は無事監視カメラの制御室の前に辿り着いた。まずは食蜂、焦る事無く最後の確認として美琴から合図がないか確かめる

 

御坂さんは―――特に伝達無し

 

私からも特に伝える事は無いから―――作戦開始よ

 

3……

 

リモコンを突き出したまま熱感知式の扉の前に立つ。背後では美琴がパリパリと音を響かせつつ警戒を続けている、中に入るまでは背後は気にしないで良い

 

2……1…!

 

シュー、という静かな音と共に扉が開く…と同時に部屋の中へ。

 

だが意外にもその部屋は…………もぬけの空だった。

 

まさか私達がここに来る事を見越した上での待ち伏せ?

 

すぐさま食蜂は物陰に身を隠し美琴を見つめる、同じく美琴も身を隠していたが怪訝そうな顔つきと共に隠れるのを止めたのは数秒後。

 

どうやら待ち伏せでは無いらしい。

 

「居ない…少なくともこの部屋には私達以外は誰も居ない。…結果オーライ…なの…?」

 

「…微妙よねぇ、理想を言えばここにいるであろう敵を何人か操って無線でダミー情報を流したかったから。ただ戦闘が避けられたのは良かったんじゃない?御坂さんが暴れたらこの部屋の機器類がご臨終しちゃうから」

 

「ひ、否定出来ない……じゃあ監視カメラの映像を手分けして確認するわよ。まずは地下通路で交戦中の超能力者2人組の確認、次は暗部の連中が追っていた『奴等』…だけど。これは情報に欠けるから見た目次第じゃ区別が難しいかもねー…」

 

警戒を解いた2人が室内前方に広がる監視カメラのモニターに目を向けようとしたちょうどその時、デスクに取り付けられた小型マイクから女の声が流れた。

 

『こちら地下の迎撃担当、忍び込んだLEVEL5は第7位の削板軍覇と第3位の御坂美琴と判明。内、第3位は交戦中に射殺した。至急処理班の手配を願いたい』

 

「ッ!?こ、これって…いや違う…!まさか…!」

 

「あ、あぁ…そんな…!まさか私の妹(シスターズ)を…!?何で…何で…ッ…!」

 

ようやく理解出来たわ…!。消去法で浮かび上がった有り得ないLEVEL5の組み合わせの謎――端から一方通行はこの施設を奇襲などしていなかったのよぉ…!

 

地下にいたのは削板軍覇と御坂美琴、しかし御坂美琴本人はこの場にいる――つまり地下の御坂美琴と思われる人物は偽物(フェイク)。………確かに、彼女には。御坂美琴には―――遺伝子レベルで合致する…偽物(クローン)がいる…!

 

「よ、く、も……よくも…!今すぐ全員を…!!」

 

「御坂さん、待ちなさい!これ、何かがおかしいわぁ!大体このタイミングで都合良く、しかも空の部屋に無線なんて有り得な―――」

 

「ご明察、ただ御坂美琴が反響定位を無意識に解く時間が数秒あれば私としては御の字なんだ」

 

これはついさっき無線から聴こえた女の声…!やっぱり、ねぇ……

 

ドサッ!

気付いて背後を振り返ろうとした時には既に全身の力が抜けていき強烈な眠気に襲われる。唯一首筋からピリリと走る鈍痛が食蜂の脳裏に「薬物」の二文字を浮かばせた。

 

に、げなさぁい……そんな悲痛な食蜂の叫びは御坂美琴には届かない。

 

もはや消え掛かる寸前の意識と声

 

激情に呑まれかけた御坂美琴

 

そして……2人の間を遮るように立ちはだかる狐の尻尾が生えた女性。

 

その女性―――八雲藍(やくもらん)は手元の注射器を投げ捨て微笑(わら)っていた




上条さんが転落した続きが読めると思った?残念、学園都市SIDEの話でしたー

まぁそのあれです、お前が1番の原因だろ!って話ですが。学園都市で奮闘する皆も忘れないであげて…?って言う話がしばらくは続きます。
当初は学園都市SIDEのメンバー3組×2話で片付けようと思ったんですが構想を練ってみると面白い位に誰しもが説明キャラに成り下がっちゃうんですよ!え?今も大概に?学園都市編は本当に久しぶりだから説明は必要なの!

そんな訳(?)で予定としてはもう少し学園都市編(各コンビ1、2話程度)をキリの良いところまで進めてから幻想郷SIDEに視点を移しまたしばらくして学園都市編を再開…と言う形にしようかと思っております。

「話がややこしくなるからどちらか絞って進めろ!」等のご意見があれば是非参考にしたいので宜しくお願いします。

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