とある幻想郷の幻想殺し   作:愛鈴@けねもこ推し

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The Fall〜幕開け〜

上条当麻SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

(主に垣根の所為で)温泉満喫中に火炎弾が降り注ぎそうになるとか中々出来る体験じゃない。貴重過ぎるから私のような超庶民にはご遠慮致す次第なんでせう

 

「垣根…お前はそろそろ自重って言葉を知ったらどうだ?マナー云々以前に犯罪だぞ」

 

「仕方ねぇだろ、むしろ覗かない当麻の方がどうかしてるっての」

 

「その台詞を火炎弾の雨が降り注いでまだ抜かせるってなら俺はお前を尊敬してやるよ……言うまでもないけど妹紅と鈴仙の前では顔には出すなよ?」

 

「へいへい……でもよ?射命丸の野郎はどうなったんだろうな?アイツのことだから被弾は望めそうもねぇが」

 

俺は脱衣場で着替えを終えて扇風機の風に当たっていると垣根は「射命丸」の名前を出した。もしかして顔見知りか?

 

俺はすぐに訪ねてみた

 

「いや、顔見知りって程交友は無い。お前が幻想郷に来るより少し前……取材だとかで病室に押し掛けられた記憶がある、ちなみに人間じゃなくて鴉天狗な。オマケに新聞記者らしい…後うどんげが射撃で仕留め損なう程度には疾い―――本気出したら音速は出るとか抜かしてやがったな」

 

「電車も飛行機も不要な人生、上条さんには羨ましい限りですよーっと。でも新聞の記事に覗きのワンシーンを掲載するとか垣根の脳みそ以上に問題あるんじゃねぇか?」

 

「おいおい忘れんなよ、当麻。ここは幻想郷、外界の常識は非常識に、その逆もまた然りだろ」

 

「あー駄目だ…今一瞬『あぁ、そう言われれば』と納得しかけた上条さんがいる…!」

 

まぁ、ともかくだ…次に遭ったら四人でシメれば良いだろ?と早速不穏な発言を放つリーダーに胃がキリキリする不安を抱えつつも、俺達は着替えを終えて脱衣場をで―――

 

「はーい♡二人共、共謀関係だから処刑でーす♡」

 

「…あー…鈴仙?表情と現状が反比例してるぞ?てか、バレてた…のか?」

 

「隣接した壁一枚しか仕切りが無い空間で派手に歓声を上げる馬鹿が居れば気付くな…って方が無理な話。オマケにモラルと反比例した言動を取るアンタ達に言われたくはない台詞よね…取り敢えず風呂上がりの鳩尾に銃弾叩き込まれたく無いなら無抵抗で付いてきなさい」

 

何と脱衣場の出口には拳銃を構えた鈴仙が青筋を浮かべながらも引き攣った笑顔を維持して俺達を待ち構えていた。

 

(おいおいどうしてくれる垣根…!?ちゃっかり俺達もバレてるじゃねぇか!しかも鈴仙さん、処刑って言い切ってますけど!?)

 

ヒッソリと背後の垣根(しゅはん)を振り返って表情を伺ってみると…

 

「…オ、オレシラナイヨー」

 

「…駄目だこいつ早くなんとかしないと」

 

「同意見ね」

 

俯いてブツブツと『シラナイシラナイ』を繰り返す垣根の首筋には冷や汗がつたっている。怖がるくらいなら初めから覗くなよ!?というのは後の祭りなんだよなぁ…

 

とここで当麻は真っ先に激怒していそうな妹紅の姿と声が無い事に気付く。

見えない恐怖の方が恐ろしい事は数多のモンスターパニック映画やホラー映画が証明している通り。ジョーズし然り、ジュラシックパーク然り、総じて危機を乗り切った直後に油断する奴が真っ先に食べられる事はよく知られた定石(セオリー)だろう。

 

ちなみに当麻はマニアとは行かずともその手の映画は再放送があれば録画して観る程度にはファンだったりする。そんな彼が見えない最恐(もこう)の気配を警戒するのは当たり前なのかもしれない

 

「妹紅ならもう一人の覗き魔の方に向かったわ、感覚的には何発かは微妙に被弾させた…らしいから心配しなくても大丈夫」

 

「妹紅もお変わり無いようで何より……あぁ、上条さんの憧れ…風呂上がりのフルーツオーレが遠ざかる…!」

 

「次が万に一つもあるのならたらふく飲み干しなさいよ、今回はアンタ達が悪い!」

 

(靴を履き替えつつも銃口は常に俺達へ向ける鈴仙に『俺は無実だ…!』なんて言っても通じないんだろうな…)

 

垣根に奢ってもらう予定のフルーツオーレ…温泉卵に温泉饅頭はどんどん遠ざかっていく……あぁ……

 

「不幸だ…」

 

 

 

 

 

 

 

藤原妹紅SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

さーてと、鈴仙の事だから馬鹿二人の確保は抜かりはねェはず。ともすれば私は私の役目を果たすだけだ

 

「出てこい、お誂え向きに巫山戯た気配の隠し方なンてしてンだ。まさかただ許しを乞う訳じゃねェだろ?」

 

露天風呂から歩くこと数分、雑草と木が鬱蒼とした空間を作り出していた場所も今や綺麗さっぱり地面が姿を覗かせている。さながら焼畑の後と言った所か

 

そんな焼き野原の中にもう1人の覗き魔は平然と佇んでいる。元よりあの程度の爆撃(ひばな)で焼き上がるとは妹紅自身、微塵も思っていなかったが

 

「あやや…酷い言われようですね。ところで話は変わりますが紙の原料は木、紙を糧に食べていく我々記者としてはこの焼き討ちは是非社会問題としてうったえ」

 

「慧音に報告しといてやンよ、射命丸は特ダネの為なら手段を選ばない。早急に人里を出禁にすべきなンじゃねェか?ってな」

 

「や、止めてくださいよ!?良識とか無いんですか!?」

 

「どの口がほざきやがンですかねェ」

 

そりゃそォなるに決まってるわな。コイツの新聞を購読する奴なンざ余程の物好きに決まってる、そんな物好きで新聞なンざに金が回る人間は人里にはそうそうに居るわけが無い。出禁にされたら妖怪と言えど困るンだろ

 

覗き魔こと射命丸文(しゃめいまるあや)、自身の覗きを棚に上げて妹紅を批判したりする辺り小物臭漂う所はあるがその実は計略と力技を併せ持つ生半可な妖怪よりも更に厄介な妖怪である―――とは妹紅の弁。

実際に不意打ちの爆撃を受け、その中心地で無傷で佇んでいるのだからやはり計り知れない妖怪である

 

(だがまァ…躱された事自体別に構やしねェ、問題はコイツの目的だ。―――搦手でコイツに勝負を仕掛けるのは得策じゃねェ)

 

「人払い―――只の人間では寄り付かないこの場所、加えて鈴仙と馬鹿二人も私から引き離せた…」

 

「妹紅さん、それでは読者心理は操作できま……動かせませんよ。夢見がちでメルヘンチックな思考回路をした読者ならまだしもですが、些か貴女の個人的に基づく憶測に過ぎません」

 

「本性が見え隠れしてンだよ、クソッタレ。それにあくまで私の直感で感じた事を言ったまでだしなァ。ただまァ…」

 

「ただ?ただ何です?」

 

「昔からお前はパシリで有名だからよォ、どうせ今回も私に伝言があるが他三人には聞かれたくない内容、オマケにその本人は姿を見せる訳にはいかない事情があった―――あァわりィわりィ!素直に純粋に感じたことを口に出すのは良くねェンだったな。気ィ悪くしたンなら謝っても良いぜ?」

 

「話の筋が見えませんねぇ、大体挑発する気満々で煽ってくる辺り謝る気なんてサラサラ無いでしょう?…確かに私は昔から偉い方々の御用聞きをこなしてきましたが―――まぁこれ以上押し問答を繰り返しても何にもなりません、実際伝言も頼まれていますし」

 

ドンピシャかよ。…しかも当麻達には聞かれたくない伝言の内容。否が応でも想像が付くのは悲しいねェ

 

「紫さんからの伝言です―――『地底では極力戦闘は控えなさい、特に外界からのお客を巻き込んではならない』……だそうですよ」

 

「あン…?紅魔館での一件がそこまで紫の癪に触ったって事か?大体外界からの客ってもあの二人は訳ありだろォが、他に何か無かったか?」

 

拍子抜け、思わず糸目になる感覚を妹紅は数テンポ遅れて感じ取っていた。

良い意味で私の直感は外れた…か?コッチは選り好みして戦闘吹っ掛けてる訳じゃねェンだ、前回はレミリアにも過失があるだろォが

 

と、まぁそんな弁明がここには居ない紫に通じる訳も無く。

念のため紫が伝言の中に真意を隠しているのかとも勘繰ってみたが検討もつかない、ミステリー小説の類は序盤の展開とトリックの種明かし、犯人さえ分かれば満足という妹紅にとってこの手の頭脳戦は向いていない

 

「特に他の伝言は預かって居ませんよ」

 

「だとしたらご苦労なこった、まァ紫に伝えとけ。善処はする…ってな」

 

要件は済んだだろう、文の次の句が飛び出ない事でそう判断した妹紅は勝手に会話を切り上げると文に背を向けた。

 

(……紫から、しかも当麻達と引き離して聞かせなきゃならねェ伝言…まさか件の一件絡みかと思ったが。こりゃマジモンで私の思い込みが過ぎただけかもな)

 

件の一件―――私が当麻と出会ったその日に聞かされた話。

 

『このままでは幻想郷で戦争が勃発する、恐らくそれは回避出来ない』

 

その戦争とやらは当麻達外来人、正確には学園都市の住人が絡んでいる事もほぼ確かだろう。それならば不用意にあの二人に情報を与えたくはないと言うのも分かる。

 

―――まァやる事はこれからも変わらねェ、戦争だろうと何だろうとそれは私のような闇の世界の住人の行事だ。それを分別無く光の世界の住人を巻き添えにしようってンなら容赦無く焼き殺す

 

そんな時、妹紅が歩き出した時―――だった

 

「…これは独り言ですがね、もうカウントダウンは始まっているんですよ。貴女にすれば既知の話題かもしれませんが端から回避出来ない事だった、幻想郷の重鎮達もようやくその現実を受け入れ始めたのです」

 

「…あ?」

 

「落ち着いて、妹紅さん。独り言だ…そう言ったではありませんか。それに重大な事件が起きた際、情報規制の為にマスコミだけに情報を公開して口止めをするのは珍しい事じゃありません」

 

「随分思わせぶりな発言してくれンじゃン―――つまり噛み砕くとアレか?今、幻想郷で異変とは訳が違う何かが起ころうとしている…少なくとも八雲紫が直に干渉する程度にはヤバい事案ってのは確定だろォな」

 

「私から否定はしません―――さぁこれで私の独り言は終わりです」

 

独り言は、終わった。何とも他の話題提起を匂わせる発言である。

まだ続くのか――思わず口から漏れ出しかけたその言葉を妹紅はすぐさま飲み込んだ。内容が内容だけあって簡単には切り捨てられない、そう警戒させるには文の独り言は十分過ぎた

 

(さァ次は何を言ってきやがる…?)

 

「まぁ先程の滅多やたらに長い独り言は置いておきまして。個人的に外来人のお二人には興味があるので薬売りの終始を取材させて頂けませんか?あぁ勿論仕事のお邪魔は致しませんよ」

 

「…なっ…!テメェ自分の覗きを棚に上げて吠えてンじゃねェぞ!!妖怪ってのはどいつもこいつも自分中心の自己現実が出来上がってンですかァ!?」

 

何と文がボカした核心に迫る訳でも無ければ妹紅の求める情報を提供する訳でもない、文は取材を要求したのだ。あまりの唐突な切り返しと自身の覗きを棚に上げたとも取れる言動……辛うじて鎮火しかけていた妹紅の怒りに再びガソリンが大量投入される。

 

「まぁまぁ、それに取材に協力して頂ければ先の紅魔館でのどんちゃん騒ぎの払拭にもお力添えが出来ますし。噂話は沈静化したとは言え人里の皆さんは怖がるでしょうし慧音さんも貴女と親しい以上は立場的に困るんじゃないですか?勿論先程うっかり偶然撮影してしまったお二人の入浴写真も破棄しますから」

 

「…成程、そォいや紅魔館で殺りあった後の薬の売上が悪いとか何とか永琳や鈴仙が話してた気もするわ。慧音に至っては間違いなく迷惑被ってンだろォしなァ」

 

どの道妹紅が何と怒鳴ろうが弾幕を浴びせようが文は取材を諦める程生温くは無いし、もしその気にさせてしまえば覗き魔よりもっとタチが悪い。

 

慧音や永遠亭の事を引き合いに出すのはかなり癪なンだが…頭に血が登ったまま言い合ってもコイツの思い通りに事が運ぶに決まってンだ。……つか、射命丸…お前まさか私が拒み続けたらその写真を記事にする気だったのか?

 

「好きにしろ、だが私以外の三人は冗談抜きで今回の売上に命がかかってンだ。もしかすると男二人に関しては私が先にぶっ殺す羽目になるかもしンねェけどな」

 

「あやや、もしかして覗きでもしていたんですかね?だとすれば多少のお仕置きは許されますよ、慧音さんも同じ方針ですから」

 

「…その都度お前の言動が私を煽るように聞こえンのは気の所為か?」

 

滅相も無い、射命丸はそォ返すが相変わらずの営業スマイルが絶えないのが逆に信用ならねェんだっつの

 

 

 

何はともあれこうして不幸な四人組の旅路に新たな仲間(?)が加わったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上条当麻SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

遅いな…妹紅、まさか覗き魔と口論の末に戦闘になった?口調が荒々しかったから可能性は否めない、けど……それにしては静かすぎるんだよな

 

爆発音や雄叫びは勿論殺気の一つも感じられないし、鈴仙に聞いても近くで波長の急激な変化も無い。あの状態の妹紅が波長も感知出来ない程静かな戦闘を行える訳が無いのだから覗き魔との争いの可能性は否定して良いだろう。

 

「とは言え……心配な物は心配よね」

 

「あぁそうだな…でも上条さんの末路もちょっとだけ、ほんの僅かに心配して貰えると嬉しいんでせう…」

 

「グジグジしつけぇぞ当麻、賄賂に甘えたお前が悪い。甘んじて処刑されろ、出来れば俺の分まで」

 

「前半に関してはぐぅの音も出ないから反論しないし後半に関してはお前の平常運転だもんな。安心した」

 

殴りたい、今猛烈に垣根に自慢の右ストレートを放ちたいがここは我慢だ上条当麻…!

 

怒りでピクピクとなるこめかみに当麻はそっと指を添えて激情を抑える。勿論こんな事で苛立ちは治まらないのだが…このような時の対処法を当麻は永琳から聞いていた。

 

『垣根君の言動で怒りが爆発しそうになった時は数字を6から0まで逆に脳内で数えなさい、家族の不幸でも笑われない限り怒りはマシになるわ』

 

『ありがとうございます、でも何で垣根限定なんでせう…?』

 

『上条君はレミリアの傍若無人な態度にも耐え切ったでしょう?あのレミリアで君の逆鱗を逆撫で出来ないのなら後は垣根君位しか居ないじゃない。ほら…彼って挑発が大好きな上に煽り上手だから』

 

………流石八意さん、でもレミリアのフランドールに対する接し方には上条さんも本気でキレかけたけどな。

 

ただそれも不器用な姉だからこそ、妹を思えばこその行動。結果としてレミリアは間違えてはいたが常に求めていた物は間違って居なかった――

 

「後はあの天上天下唯我独尊みたいな性格さえ治れば上条さんも仲良く出来そうなんだが……っと。1、0……沈静化完了」

 

「どうしたの、当麻?さっきからブツブツと…あぁもしかして『コレ』の所為?」

 

「あ、あぁいやちょっとな…っておいおい鈴仙」

 

6カウントのはずがついフランドールとレミリアの事を考えていたらボーッとしていたらしい。とは言え一分も経過していないはずなんだが……気付けば垣根が鈴仙に逆エビ反り固めを決められていた。必死に垣根は我慢してるっぽいが顔青ざめてるぞ

 

「ちょ、ちょっと待ってうどんげ!マジ死ぬ!決まってる決まってるこれ完全に決まってる!背骨折れちゃう、今もミシミシ音響いてるから!」

 

「あ、やっぱり?私ってばこの手のじゃれあい風の締め技を知らないから…加減が分からないのよね。まぁアンタならこれくらいで調度口が塞がって良い位でしょ!」

 

「ざけんなボケ!加減分からねぇなら力を緩めろってんだ…!第一ちょっと当麻煽ったくらいで脊髄損傷とか笑えねぇぞゴラ…!」

 

「まぁアレだ、垣根……処刑までは生き延びろよ。俺は今度は温泉まんじゅうでも動かないからな」

 

何だかんだ二人共楽しそうではある、しかし垣根の骨からいかにも「ヤバイ!」と警告する生々しい音が響いているのもまた事実なのだが。とは言えこれも見慣れた光景で日常、そうそうに割り切って見捨てるが易し――上条当麻はそう認識していた

 

(しっかしアレだな、レミリアとフランドール……フランドールはともかくとしてレミリアは御坂にソックリだ。妹への思いは誰より強い癖に不器用でそれで居て真っ直ぐで……俺がレミリアを心の底から嫌いになれなかったのもそれが引っ掛かってたりしてな)

 

近くの岩に腰掛けながら妹紅を待つ間、当麻はふと学園都市で今日も元気にビリビリしているであろう少女とレミリアを重ね合わせる。

 

――――俺は嘘つきだ。本当はレミリアに初めからキレていた、すぐにでも飛びかかって…胸ぐらを掴んで…叫んでやりたかった。

 

(――――何でお前『逹』はそんなやり方でしか妹を思えねぇ、ってな)

 

分かっている、彼等が言葉では拭い切れない十字架を背負っていることも。

 

知っている、彼等の心の奥底には『今』笑顔を浮かべる妹の姿よりも『過去』に自身が傷付けた妹の姿が刻み込まれていることも。

 

だったら尚更だ、尚更そんな自己犠牲紛いの在り方は誰も―――

 

「本―――にそ――か?」

 

「ッ!?」

 

風が、吹いた。強い風だった。恐らく近くにある地底へと続く穴から吹き出したのだろう――だが。何かが上条当麻の耳元で語り掛けた、オマケにその声は―――

 

(違う…!今のは風音なんかじゃ…!)

 

慌てて俺は立ち上がって背後を振り向く。だが背後には誰もいないし唯一近くに居た鈴仙と垣根は未だに締め技の真っ最中だ。垣根に至っては泡を吹いている。

じゃあ今のは…一体…?

 

「………止めだ止め、考え過ぎだきっとな。そんな暇があるなら妹紅への謝罪内容でも考えよ」

 

あまりにも重なる二人の姉は背負っている十字架さえ重なっていた。

それがきっと聴こえもしない空耳を響かせた原因に違いない、自然とオカルトじみた方向へ思考を走らせる自身の頭に喝を入れるべく当麻は軽く右手の甲で額を小突いた。

 

 

 

パリン―――

 

 

 

今度は空耳なんかじゃない、この音を俺が……幻想殺し(かみじょうとうま)が聞き間違える訳がない。

 

 

…幻想を殺す音なんだからな。

 

「頭を小突いて消える異能(げんそう)…鈴仙の狂気か?いやいや幾ら何でもそれはやり過ぎだろ、でもそれ以外に脳に干渉するって言うと…。垣根は――違う、アイツは冗談でも仲間の脳を弄ったりはしない」

 

となると新手の妖怪か?確かに間欠泉センターに辿り着くまでにそれなりの数の妖怪を黙らせたからな…恨みを買ったかそれとも道中で気付かない内にって可能性もある。ただそうだとしても鈴仙や妹紅が一切気付かなかったのはおかしい…

 

とりあえず鈴仙と垣根に知らせないと……何か妙だ。ハッキリしない辺りが特におかしい

 

「なぁ、鈴仙!垣根!今俺達が幻術か何かに掛かって―――」

 

「幻術?幻覚ってこと…?私は何もしていないし垣根もそこまで巫山戯た真似は…って当麻?話を振っておいてそっぽを向くのは酷いんじゃない?」

 

「…あー…?どうしたうどんげ…当麻がどうした…つーかいい加減俺から降りろよ…」

 

「いや、当麻が私達は幻術に掛かっているんじゃないか?って…でも見ての通り、間欠泉を見つめたまま固まっちゃったのよ」

 

「お前があんまりにも処刑だ何だと脅すから可笑しくなっちまったんじゃねぇの?―――おーい当麻、とりあえず詳しく説明しろ」

 

 

 

この瞬間、上条当麻の起こした行動は誰がどう見ても口を揃えて同じ見解を示すだろう。

事実、一番近くで当麻を見ていた鈴仙と垣根(なかま)でさえ―――動揺を隠せなかった…疑ってしまったのだから。

 

 

「ッ…!?ウワァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 

上条当麻は――自身の足で間欠泉の穴の中へと転落した。




学校が自由登校になったのに今度は教習所が執筆を許してくれない

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