とある幻想郷の幻想殺し   作:愛鈴@けねもこ推し

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・自己満足
・世界観とか時間軸とか気にしちゃダメ
・「本編とは一切関係ない」上×琴を愛でるだけのお話

……私は只2人に幸せになって欲しかった、それだけだ。

後、読み切りになったのは某運命的なゲームで絶滅させなきゃならない奴がいたから、そっちにかかりっきりで
次話を考える余裕が無いとかそんな理由じゃないからね!


一夜限りの―――Holy Night【番外編】

上条当麻SIDE

 

 

 

 

 

 

宣言しよう

 

『私こと、上条当麻は不幸である』

 

…と。

何度だって叫んでやるしこの確信がブレる事はない。

それが何故か?って?話は簡単だ

 

「…今年の上条さんも安定してクリスマスは独りなんでせう、まぁ良いんですけどねーっと…」

 

学園都市第六学区のデパートの中を哀しげな背中で歩くのは上条当麻、普段では見かけない程落ちぶれた彼にも色々とやんごとなき事情があったりなかったり。

 

別に上条当麻は彼女が居ない事を嘆く気はない、ただ……ただ今年は学園都市の道行を幸せそうにケーキ屋の箱片手に歩く幻想(カップル)(スルー)してくれていた仲間達に難があった。

次に挙げるのはごく一部ではあるが上条当麻を憂鬱に追い込んだ者達をプライバシーに配慮した上でご紹介しよう。

 

頭がハッピーセットな友人Aは

 

『クリスマスはキリストの義妹の誕生日だにゃー!よって共に聖夜を過ごせる義妹を持たない人間に人権はないんだぜぃ!』

 

何より人権無いのはお前だよ!

 

また別のハッピーセットBに至っては

 

『来た来た来たんやでぇ!クリスマス!クリスマスと言えば?ヒャッハァ!勿論電子アイドルちゃん達を大いにプロデュースする期間なんや!今行くでゆきぴょーん!!』

 

あぁダメだコイツに至っては…いやAも十二分に重症患者だったがBは末期だよな

 

まぁそんな訳でクリスマス位男友達と遊びに行こうかなー、なんて上条さんの幻想は見事義妹と電子アイドルにぶち殺されましたとさ。

 

だが彼の不幸はこんな所では終わらない、365日年中無休の幻想殺しにはクリスマスも何も無いのである。

 

友人が駄目なら家族のような関係の人と束の間の平和を楽しもう!そう考えた上条さんは貯めたへそくりの中からなけなしのお金を支出しホールケーキを購入!これなら我が家の居候、禁書目録(インデックス)異次元腹(ブラックホール)も満たされよう!

 

……そんな幻想を抱いていた時期が上条さんにもありましたよーっと。

 

『当麻へ!火織とステイルが美味しいチキンやケーキをご馳走してくれるって言うからお泊まりでお出かけしてくるんだよ!明日には帰るからケーキは買っておいてね!』

 

…あぁ分かったよ。何時も満腹食えない分今日くらいは楽しんできてくれ、義妹だプロデュースだのと騒ぐ連中よりかはキリスト様も敬虔なお前達クリスチャンに加護を与えるだろうさ。

 

上条当麻、とある高校2年生の普通の高校生。

 

本日―――即ち12月24、ホールケーキを半ば自棄糞に冷蔵庫に叩き込み自室を後にした。

 

――その足取りは重く

 

――しかし確実にうっすらと積もる白雪に足跡を刻んでいく。

 

――――寂しさと悲しみが入り混じったような感覚に襲われた彼はまたなのか…なんて内心愚痴りつつお決まりの台詞を口にした。

 

『不幸だ…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

御坂美琴SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁもう何なのよ黒子ったら!!

 

『お姉様、宜しいですか!?今宵は結ばれぬ運命の者達がその運命(げんそう)をぶち殺し結ばれる聖なる、いいえ!……性なる夜!ご安心ください、2人の外泊の許可願いからホテル予約、事後の処理までこの黒子めが全てセッティングして―――アガビラブッ!?』

 

『どっから突っ込んで良いか分らん暴走してんじゃないわよ!まずは私の電撃で昇天して七夕の主役2人に土下座してこい!!』

 

勝手に外泊許可なんてとって…!アレって取ったからには後で寮監に色々と問い質されるじゃない…!オマケに何でわざわざこの寒い季節に外出しなきゃならないわけ!?

 

12月24日、時刻は上条当麻が自身の不幸を味わう1時間程前。この少女、御坂美琴もまた自身の不幸をたっぷりと味わっていた。

 

彼女が嫌がる理由は、半ば婦女暴行罪宜しくの後輩の痴態が主なのだが……実は4割は他の理由から来ていた。

それは1度外泊許可を取得した以上はその期間内は絶対に外泊しなければならない、そんな面倒な常盤台の校則に拠る。これを流石と言うか否かは賛否両論分かれるだろうが、少なくともこれが覆る可能性はまずない

 

(私は…じゃなくて黒子は勝手に……12月24日〜12月25日の午後までで許可証を受領している。要はイブとクリスマス当日は寮で過ごせないってことじゃない…!)

 

24日、つまりは本日私は学舎の園に佐天さんと初春さんを招待してクリスマスパーティーをする予定を立てていた

幸いサプライズの為に2人には何一つ伝えていないからそこは良しとしても予約していた店のキャンセル料が発生してしまう、いくら財政力のある学園都市第3位とは言え無駄遣いには抵抗はあるのだ

 

最早どうしようもないと割り切った私は佐天さんと初春さんへの埋め合わせを考えつつ黒子を縄とガムテープで縛ってベッドの下へ、それから予約を入れた店にキャンセルの意向を伝えて何とか一息をついた。

 

「…とりあえず今日泊まるホテルを探さないと。佐天さんと初春さんの寮は気まずくて頼めないし……かと言ってクリスマスシーズンに予約無しで泊まれるホテルは個人的には使いたくないのよね…」

 

勢い任せに着替えとその他物品をカバンに詰め込んで寮を飛び出したは良いものの、真っ先に思い浮かぶのは宿の心配だった。

 

学園都市に住まう学生達のほぼ全ては寮暮らし、だが勿論寮での生活には規則規律が伴う。常盤台中学校などはその良い例だろう、そんな中訪れた1年に1度だけのイベント『クリスマス』――!これを外泊せずに、友や恋人と過ごさずに何が学生だ!

そんな学生達の心理を逆手にとったホテル業界の学割プランも相まってクリスマスに限らずイベント毎にわざわざ外泊してアミューズメント施設などを楽しむ学生はかなり多い。

外泊先には規律も無い、あるのは楽しみだけ―――強いて名付けるならばその数日間、自身の世界全ては『幻想郷』

 

「ただ面倒なトラブル回避や女の子の防犯上の問題もあるからその点キッチリしたホテルは大人気、当日予約で泊まれる訳がないのよね。残っているとすればそれは大半が風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)の監査が必要な悪どいホテル……はぁ……」

 

別に今更不良如きにビビって寝れないわけじゃないけど。……やっぱり寝る時は無駄な気は張らずに安心して寝たい。でもこんな時にアイツがいたら…助けてくれるのかなー…

 

なんて柄でもなく1人アイツの事を寒空の中考えてみる。『これだから常盤台のお嬢様は〜』とか言われるかしら?…頭ごなしには否定出来ないけど。

 

『アイツ』…それはこの少女にとっては特別な響きを持つ。

 

いつでもどこでも駆け付けて―――

 

どんな敵からも守ってくれて―――

 

まさに、まさに御坂美琴にとっての―――

 

「〜っ!?私ったら何脳内で暴走してんの!?私は黒子かっての!……独り言も馬鹿らしいしとりあえず第六学区で遊んで時間を潰しますか!」

 

何もかもが唐突過ぎてネガティブになりがちだったが外泊も悪い事ばかりではない、少なくとも美琴は今日明日は合法的にハメを外せる事になる。

これまで数多の寮則違反を繰り返し時には死すらも感じた御坂美琴、考え方が常識に囚われなくなってきたことはご愛嬌である

 

幸い美琴達が住まう寮は学園都市第七学区、季節感に漏れず寒風は吹き荒んでいるものの隣の学区への移動すら困難になるレベルではない。

そんな訳で電車を乗り継ぎ難なく第七学区に到着、しかしここは第七学区。イベント毎の人口密度は学園都市トップクラスだろう、改札から出口付近まで人が所狭しと溢れていた

 

「っ…!こんなんじゃ風邪が流行るわけよね…!」

 

(抱えた荷物を預けようにもコインロッカーが見つからない…!いやでも、この人の量じゃどの道空きは期待出来ないかしら?)

 

しかし進む度にカバンが通行人にぶつかっていては進むものも進めなければ謝るのにも疲れてくる。そんな事で、何とか案内板まで辿り着きコインロッカーの場所を把握した美琴は再び覚悟を決めて人の海の中へ

 

ダメ元で目指したコインロッカーは……何と…!

 

「嘘…!空きあるじゃない!朝から良いこと無しだったけどこの人だかりで空きのコインロッカーを見つけられるなら今日は良いことあるかもねッ!」

 

全て『使用中』の表示で埋め尽くされたコインロッカーの中に一つだけ取り残された『空き』のマーク。まさかコインロッカーに事故物件のような訳ありもないだろう

 

但し、本日の御坂美琴嬢……何かとツいてない。本当に。

 

「あっ、ありましたよ空きのコインロッカー!いやぁ〜良かった!上条さんも必死に探した甲斐がありますよーっと」

 

「…は?」

 

いざ見つけたコインロッカーを使用するため小銭を取り出そうと顔を下に向けたまさにその瞬間。聴き忘れる訳など有り得ない声が美琴の鼓膜を駆け抜ける。

 

慌てて確認のために顔を上げてみればそこには予想通りデパートの買い物袋を抱えた『アイツ』……と誰かは知らないが美人の女性が居た。それもかなり頭に来るけど…!

 

何時もの如く電撃を放つ―――数秒前。普段と変わらぬお人好しな笑顔を浮かべる彼に抱いたのは苛立ちと――――困惑

 

(…何で、そんな…顔をしてるのよ…!)

 

「お前まで私に何か怨みでもあんのかー!!」

 

「ちょ!?ビリビリ!?ここ駅中!駅中ですからねッ!?」

 

とは言え……怒りと電気を溜め込んだ美琴の再優先事項はまずは制裁、これに限る

 

 

 

うっすらと雪すら積もるこの季節、放電(せいでんき)には気をつけねばなるまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上条当麻SIDE

 

 

 

 

 

 

 

気晴らしに向かった第六学区の駅で困ってそうな女の人を見つけたので声をかけてみればバーゲンセールで買った物をしまっておくコインロッカーが見つからず困っているとの事。別に時間を気にすることもない上条さんは『じゃあ一緒に探しましょう』と請け負った。流石にクリスマスイブと言う事で探すのに苦労はしたがようやくの思いでコインロッカーを発見、お礼がしたいと言われたが流石にバーゲンセールの邪魔をするのもあれなので遠慮したら『それでは私も困る』と気前良くお姉さんは第六学区内のショッピングモールで使える金券1000円分を上条さんに授けてくれた。

 

そんな久しぶりのグッドラックに歓喜していた上条さんは今―――――

 

「人だかりの中放電とか正気か!?あわや傷害事件だぞっ!?」

 

「うっさい!アンタが私の機嫌を逆撫でするからでしょうが!」

 

―――冬場の大敵、放電(せいでんき)と戦いを終えたところなんでせう。

 

(はぁ……不幸の二連撃の後に舞い降りた幸運だったからどこか分かっちゃいたが……いくら何でもこんな不幸はないだろ神様…!)

 

御坂の頭頂部から放たれた放電(せいでんき)は上条さんの腹部を狙い済まして襲いかかる。勿論右手で叩き落とす事は忘れない、いや忘れたら洒落にならないんでせうよ

 

「ったく…!とりあえず騒ぎになる前に逃げるぞ!上条さんは小萌尊師のお陰で欠点は回避出来たんだ、これ以上迷惑はかけられねーよ…!」

 

「…ッ…!?う、うるさい!あと人混みの中で引っ張るなッ!」

 

また数万ボルトの放電(せいでんき)をされてはたまらない、そんな予防措置から当麻は美琴の腕を右手で掴み引っ張っていく。その予防措置が効いたのか引っ張られる美琴は湯気を上げつつ俯き素直になった

 

「はぁはぁ…!…ビリビリ、ちょっとは自重した方が良いぞ?そりゃお前の不機嫌を煽った上条さんも上条さんだけどだな…」

 

「ふぇ…?えっ、いやその…私もちょっとやり過ぎたかなー…って……あ、でもちょっと聞きたい事もあったから…」

 

「……あの、御坂…サン?お身体はご無事で?」

 

あのビリビリが、あの御坂が!何と自分から反省した!?まさかあの人混みの中で頭でもぶつけたか!?

 

「え、えっとその……そろそろ駅からかなり離れたから手を離してくれても良いん…じゃない?あぁでも勘違いしないで!べ、別に気に食わなかったとかそんなじゃなくて…!人目もあるし!?」

 

「あ、あぁ分かった。にしたって…本当に今日の御坂はどうしたんだ?急にビリビリしたと思ったら潮らしくなっちゃってさ、まさか上条さんの所為かと心配しちゃいましたよアハハー」

 

「…主にアンタが原因だゴラァァァ!!」

 

「御坂美琴嬢復活かよ!?」

 

何か御坂は上条さんに聞きたい事があるみたいだがこれじゃあそれどころじゃねぇよ!?

今度は一応周りに配慮したのか回し蹴り、出来れば上条さんにも配慮が欲しかった…

 

電撃かと右手で待ち構えていた当麻の予想は外れて放たれたのは『チェイサー!』の掛け声と首筋への回し蹴り。直撃すれば楽に眠れただろうとは後の当麻の談

とは言えそこは上条当麻、難なくその一撃を上体を反らして回避してみせる

 

「本当にしぶといわね…!主にアンタが悪いんだから責任とんなさいよ責任!」

 

「……あぁ分かった、ただしもう暴力や周りに迷惑かける行為は禁止な」

 

「ほらやっぱり!責任な、んて…?……ゴメン、もう1回言ってくれない…?」

 

「いやだーかーら。確かに目の前で残り1個のコインロッカーを取られたら仕方なくたってイライラするのは人情だもんな、幸い今日の上条さんは時間も財政力もあるから責任取ってやるよ」

 

「……は、はい…宜しく…お願い、しましゅ……」

 

何か良く分からんが御坂は再び大人しくなった、今日の御坂は1段と分りにくいんでせう

ちなみにこんな降りは彼らが出会ってから幾度と繰り返されて入るのだが……何分この上条当麻、無能である。唐変木である。

 

兎にも角にも彼の放電少女に再び発電のスイッチが入ってしまう前にご機嫌を取ろう、そんな思惑から当麻が選んだ場所はゲームセンター内のクレーンゲームコーナー。腕が切断されても高笑いを浮かべ、上空から鉄柱にダイブしても平気な幻想殺しも普段は普通の高校2年生。規律に厳しい常盤台の生徒よりはゲームセンターには来慣れている

まずは受付で金券を硬貨に変えてから物色を始める

 

「さーて、御坂。偶には上条さんが甲斐性見せるんだからこれはレアだぜ?何せ今の上条さんは軍資金が何と1000円も――――」

 

「―――まさかアンタ、1000円でクレーンゲームが遊べるなんて思ってないでしょうね?」

 

「…え、えっとだな?御坂…お金持ちのお前には馴染みが無いかもしれないが1000円ってのは結構な大金でだな…」

 

「いやいや、流石の私も1000円札は分かるっての。私は何処の財閥のお嬢様なのよ、いやお嬢様でも分かる人は分かるけどね。…とにかく、あんまり大きな声じゃ言えないけどこの手の景品を取るクレーンゲームって店側に損失が出ないように特定金額以上を突っ込まない限りアームの力が弱くなったりするものよ。目安は欲しい景品の売価の数倍ってとこかしら?でもクリスマスシーズンで浮き足立ってる連中から搾り取る為に今はもうちょっと厳しいかなー…」

 

おっとこれは想定外のトラップが…。言われてみれば確かに美少女系抱き枕を狙って青髪ピアスも散財してたっけか…

とは言え美琴が脅しをかけているようにも見えなければ言われてみれば確かに、と頷ける。もしその理論に乗っ取るならば当麻の全財産を注いでゲット出来る可能性のある景品は――――

 

「……スマン御坂、いかにもパクリ感満載の絵柄がデザインされたマグカップしか取れそうに無い…」

 

「まっ……分かっちゃいたけどアンタ本当に何時も金欠よね。まぁ良いわ、私もコインロッカー云々でアンタに強く当たれる立場じゃないしね。ちょっと付き合いなさい、美琴センセーがその1000円を授業料代わりに面白いもの見せてあげる!」

 

「お、おう!?一体何する気だよ!?」

 

「来ればすぐ分かるわよ!」

 

ゲームセンターでは無力な10枚の100円玉をポケットにしまいこみつつ今度は俺が御坂に引っ張られていく。御坂が浮かべた表情はイタズラが思いついた子供が浮かべるまさにそのもの、オマケに最近感度が高まっている脳内不幸察知センサーは既に針が一周回って振り切れたと来た。――――とは言え

 

(……御坂もこんな風に無邪気に笑うのか)

 

「ほらほら!アンタもちゃんと自分で走らないと置いていくわよ!」

 

「あぁもう分かったから落ち着けよ御坂!…心配されなくてもちゃんと付いて行くからさ」

 

――――何時もの様な怒鳴り声や戦闘狂ではなく。こんな無邪気な少女になら、俺は振り回されたって―――

 

「―い――も―――な」

 

「ん?何か言った?」

 

「気のせいだろ?それより…俺の目が狂ってないなら目の前にある筐体の景品には最新ゲーム機の筈のPP4があるんだが。…まさかこれをゲットする…なんて言わない、よな?」

 

多分あれは朝からの不幸の立て続けでしょげた上条さんの心が抱いた幻想だろうな、なんてふと口から漏れた言葉を否定する。やっぱり出来ることなら不幸な運命は避けたいもんな

 

刺々しい髪型を掻き毟ってふと浮かんだ思考を掻き消すも次に彼の脳内へとインストールされた情報も大概にヘビーであった。

 

Play Port4、通称『PP4』……学園都市で開発されてきた『Play Port』シリーズの4作目、実は当麻もこのシリーズには昔からかなりお世話になっている。彼自身は勿論そんな新作ゲーム機を購入する余裕などある訳ないが今回もファンからの熱い期待に恥じぬだけの性能を誇っていると土御門が自慢げに語る様子は当麻にも印象的だった

そんなPP4がガラス1枚隔てた向こうに数台寝かされている―――が問題はそこではない

 

「ここまで来て別の景品、なんて興醒めな展開美琴センセーは勿論アンタだって嫌でしょ?それにアンタだって高校生なんだからこれくらい持ってた方が話の輪にも入れるかなーってね」

 

「そりゃ気持ちは嬉しいぜ、でもな御坂…。このPP4、機能が前作よりも追加・改善されてる分馬鹿みたいに高いんだよ。とても1万、2万じゃ買えないしましてや売価の数倍は必要なクレーンゲームで軍資金が1000円じゃ足りる訳ないだろ!」

 

「へぇ、やっぱりそこそこ高く付くのねー。流石は常盤台でも話題にはなるPP4…って私は買わないわよ?流石に手持ちじゃちょっと足りないし…だから使うのはアンタのその1000円ね」

 

「だからさ、御坂!さっきお前がある程度突っ込まないとアームの強さ…が…!ってまさか御坂お前!」

 

「ようやく察してくれたみたいね、まぁここはいっちょ美琴センセーの華麗なるテクニックに見惚れなさいっての!」

 

そう、景品をゲットするには何らかの方法でアームの腕力を強化する必要がある。勿論運や実力でマグレが起こらないように店側も最大限に仕掛けはしてあるだろう。

ではアームを強化するにはどうするか?当然方法は特定金額以上を投資して、機械にアーム強化の『コマンドを指示させる』こと

 

(そう、特定金額を突っ込まなくても基盤の代わりに指示を出せる…そんな離れ業が出来る電撃使い(エレクトロマスター)が居れば…例えば。学園都市第3位の―――)

 

「御坂なら、お手軽に…ってか?」

 

投資金額にしてちょうど1000円、当麻が渡した硬貨を使い切った時にこれまでとは違う高らかな電子音が鳴り響く

 

「お手軽に…とはいかないかもね、やっぱり不正アクセスを防止するファイアーウォールに引っ掛からない程度を探るためにある程度は無駄打ちしなきゃならないもの。ただ流石に超電磁砲(ワタシ)電子介入(ハッキング)を防ぐ設備なんて考えても無いでしょうけど」

 

そもそも学園都市のトップシークレットに公衆電話からハッキングを仕掛ける第3位(レールガン)相手に通用するファイアーウォールなど無理難題に近い物があるのだが

 

当の御坂は取り出し口より景品引換券を取り出して悪戯が成功した子供のような得意気な表情を浮かべている。これってバレたら間違いなく警備員(アンチスキル)に連行されるんだろうな…なんて俺の内心を伝えられる状況を作らせないあたりコイツは本当に罪作りな奴だよ…

 

「何よ、ゲッソリした顔して?そりゃ1回や2回で…って言うなら詐欺と言われても仕方ないけどね、一応1000円は貢いだんだから良いじゃない。それともあれかしら、この美琴センセーが危険を犯してでもゲットしたクリスマスプレゼントをアンタは―――」

 

「…それだけじゃ遊べないだろ?まったくこれだから常盤台のお嬢様は」

 

「あ、アンタ…!私の親切心を…!」

 

「ほら、PP4で遊べるソフトを探しに行こうぜ―――美琴センセーよ。美琴センセーからのクリスマスプレゼント、家で腐らせる訳にもいかないからな」

 

「あ…うん……そ、そういう事なら別に私も付き合ってあげないことも無いわよ!ここまで来てアンタを見放すのは常盤台の信用にも関わるから!?」

 

「…ツッコミませんよー、上条さんの不幸察知センサーはまだ生きてますよー」

 

先程両替をした受付で引換券を渡し当麻の自宅に届くように手配した後、2人は次なる目的地『電化製品売場』へ―――

 

人混みの中を何とか2人はぐれないよう進みながらふと当麻は思考に意識を沈めていた

(プレゼント……クリスマスプレゼント、か。クリスマスに限らず誰かからプレゼントされるってのは俺にしては珍しい経験なんだよな。―――すげぇ、嬉しい)

 

別に欲しかったPP4だから、ではなくて。誰かからのプレゼントと言うのが嬉しかったりする。何時か御坂に恩返しを―――

 

「今、『何時か御坂に恩返ししないとな』って考えてたでしょ?」

 

「か、上条さんの心を読むなよ…。まぁ当たってるけどさ…仮にも御坂の学歴に傷がつくような真似までさせちまったんだ、お返しをするのは当たり前だろ?」

 

気付いた時には既に俺の眼前は電化製品売場、もしかすると今度は上条さんが御坂に引っ張られてたりしたかもなー…

 

「アンタって……そんな所はきっちりしてるのよね、他はトリ頭なのに」

 

「今度は精神攻撃か?御坂って本当ブレないよなぁ…」

 

「悪かったわね…ただお礼なんて考えてなくて良いわよ。あれはあくまでアンタの『友達』の御坂美琴として贈っただけ、だから…ね?アンタが…笑って、くれるなら私としては費用対効果は充分…なのよ」

 

「―――御坂って友達思いなんだな、分かった…!御坂のその気持ち、有難く頂くぜ!んじゃ、上条さんも御坂の『友達』として何かクリスマスプレゼントを探してみるか!」

 

「――――そうね」

 

―――何処からともなく、硝子に亀裂が入るような…そんな音がした。

 

―――別に傷つけるような台詞なんて言ってない、でも…

 

((ワタシ)は今……御坂(アイツ)を…)

 

(傷付けてしまった、そんな気がする―――)

 

 

 

結局会話が続かなかった2人に取れた手段は……その場を後にするだけであった

 

 

 

 

 

 

 

 

御坂美琴SIDE

 

 

 

 

 

 

 

何であぁなっちゃうのかな……折角アイツと2人きりで遊びに来れたのに…

 

何かを喋ろうとしても喉元まで飛び出た言葉がその勢いを失ってしまう。それは御坂美琴にとって最もらしくない言動と言える

 

(…アイツとは、普通に友達じゃない…)

 

皮肉にも季節に合わせたイルミネーションが階下のカップル達を余計に眩しく魅せる。きっとあの中にも私達のような友達付き合いで遊びに来た組み合わせもあるはずなのに……皆全て輝いて見えるのだから不思議な物だと思う

 

「アイツに無駄に気を使わせる辺り私も駄目ね…本当なら、アイツにはもっともっと笑って、楽しんで……あんな顔はして欲しく無かったのに…」

 

思えばそもそもの始まりはアイツの顔を見たことだった。

何時もみたいに人助けをしてそれを威張ろうともしない絵に描いた様な英雄(ヒーロー)、それがアイツ

 

…でも今日のアイツはちょっと違っていた。人助けを躊躇わない事もそれを威張らない事も…私を適当にあしらうムカつく態度も……でも。

 

(アイツ、無理をしてた…用も無いのに人混みを訪ねて…本当に助けて欲しいのはアイツ自身の筈なのに…まるで子供が強がるみたい人助けをして…)

 

だから私はアイツに何かをしてあげたかった。…アイツが私と一緒に居る時位は、強がった英雄(ヒーロー)じゃなくて上条当麻で在って欲しかった

 

「結局…物で釣ろうなんて甘いのよね」

 

「それを聞くだけだと上条さんは魚かよ…ほら、御坂。お前はイチゴおでんで良かったっけか?」

 

「アンタみたいな大きな魚を釣ってみるのも面白いかもね、っとと…ありがと」

 

気を利かせてドリンクを買って来た当麻は缶から未だ湯気のあがるそれを手渡した。商品名がイチゴおでんだと言う事は…まぁ敢えて言及しない事が華というやつだ

 

そんなアイツの飲み物は普通のココア、そこは変わり種を選びなさいよ…まったく

 

「いやぁしかし難しいもんだよな…女の子との買い物ってさ。上条さんもトーク力に自信はあったんだぜ?でもいざ!ってなるとな…アハハッ…」

 

「私も普段から友達との買い物は慣れてるんだけどね、中々男性と…ってなるとアンタ位しか相手が居ないのよ」

 

「…海原、俺はお前の味方だからな」

 

「ん、何か言った?」

 

「いやぁ日本語は難しいなー!って思ってな」

 

さり気ない親密度アピールもサラッとスルーされたのは…うん、ムカつくけど今は良いわ…!

 

それに日本語が難しいって言うのは私も共感出来る。今胸の中に溜まったモヤモヤを言葉に出来たらどれ程楽になれるんだろ…

 

「…だからさ、この際とりあえず言葉にしてみようかなーって上条さんは思うんだよ。折角だから御坂、聞いてくれないか?」

 

「任せなさい、アンタよりは歳下だけどこれでも『お姉様』の経験はこの世界の誰にも負けないんだから」

 

俯いたまま、互いにそれぞれ自分の缶を包み込んだまま……ようやく2人は『らしさ』を取り戻し始める

 

友達と過ごせると思っていた時間が呆気なく独りになってしまったこと

 

共に過ごしてきた人も呆気なく居なくなってしまったこと

 

最後にアイツは『全部俺の身勝手な我儘で1日2日過ごせば元通りなんだけどな』とだけ付け加えてまたココアの缶のそこだけを見つめ直す

 

確かに、傍から見れば『たかがクリスマス程度で』なんて馬鹿にされるんだろう。…でも私はそうは思わない

 

「ごめんね、私にはアンタのその気持ち…全然分かんないわ」

 

「…だ、だよな!確かに上条さんも言ってみたらすっげー馬鹿げてるなー!って恥ずかしく―――」

 

「だって私には常に仲間やアンタが居てくれたもの」

 

「楽しい時は一緒に笑ってくれる友達が」

 

「辛い時は一緒に戦ってくれる仲間が」

 

「根本から破綻した自殺未遂を犯そうとした時だってアンタは私を独りにさせなかった」

 

「そんな恵まれた私が、孤独を知らない私が気安くアンタの辛さを『分かる』なんて言えないわよ」

 

だって―――

 

だって――――アンタは何時も、誰かの孤独に『寄り添う』側だから。寄り添う相手も、寄り添ってくれる相手も居なくなってしまえばそれは例え1日2日でも絶対に辛い。……私だって同じ境遇なら寂しいと思うかもしれない

だから今日は、せめて今日だけは恩返しに……私にカッコつけさせてくれない?

 

 

「そんなアンタの気持ちも分かれない私だけど……いや、そんな無神経な私だから!アンタの気持ちは誰よりも分かりたいし、辛い時はその友達や一緒に過ごしてきた人よりも近くで支えたいのよ!!」

 

「い、いや御坂さん!?ちょっと話がオーバー過ぎるぞ!?何も上条さんはそこまで深く考え込んでは無くてだな…!」

 

「うるさいまだ私が喋ってる!…大体見れば分かるわよ!アンタが本当に辛いって事くらい!じゃなきゃ、じゃなきゃ…そんな暗い顔なんてしないでよ…!」

 

何がカッコつける、なんだか…。鏡こそ無いから未だしもきっと言い切った私の顔は恥じらいもなく真っ赤になってるんだろうな…

 

本人も自覚ある火照った美琴の頬に雪が舞い降り始めた。付着しては直ぐに溶けて頬が冷えて――それでも火照りは冷めなくて。そんな事が何度繰り返されただろう?

雪すら溶かす少女の火照りが収まり始めたのだからそれは恐らく数分は過ぎた頃―――涙のように少女の頬を伝う雪解け水を…代わりに拭ったのは『少年』の指

 

「ありがと、御坂……そうか。俺…そんな暗い顔してたんだな」

 

「…うん、そんなアンタを励ましたくて私なりに今日1日頑張ったわ…。だから……もう少し頑張ってみたいの、聞いて…くれる?」

 

「あぁ…今度は俺が聞く番だからな。歳上の上条さんにドーンと…任せてみろよ」

 

「…わ、わ、私…実はあ、アンタに伝えたい事があるのよ…!!」

 

「おう、何だ?」

 

「わ、私…!私はアンタの…!」

 

えぇい!?何で今ここで心拍数が跳ね上がるのよ!?さっきアイツに頬を撫でられたから!?表面上では落ち着いていられたのに…!

 

今度こそ伝えなきゃ、そう強張れば強張る程焦ってしまう

 

焦りは緊張を生み、緊張は決めていた覚悟を半減させてしまう

 

それでも…!私は伝えると決めたのよッ!

 

私はアンタの事が―――――!!

 

 

 

 

 

 

 

「わ、私はアンタの家に泊まりたいッ!!」

 

「………あ、あぁ。そりゃ上条さんは勿論構わないぜ?でも確か御坂って寮住まいだよな、もしかして何か事情があったりするのか?」

 

「あ、あぁ…!あぁぁぁぁぁぁぁぁ何やってんのよ私はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ちょっと御坂さん!?あれだけ放電(せいでんき)は止めてって言ったよな!?」

 

もはや今日1日だけで慣れてしまったこの下り、とは言え当人…主に外せば感電死まっしぐらの当麻はそうはいかない。幸い右手が美琴の皮膚に触れていたため最悪の自体は回避出来た

 

(あぁもう馬鹿馬鹿!私のポンコツ…!臆病者…!さっきまでシリアスな雰囲気で良い感じに進んで、アイツもそれを察してくれたから私の頬を―――はっ!?)

 

「あ、アンタ私が言おうとした事…!分かってたのよね!?だから柄にもなくあんな真似をしたんでしょ!?」

 

「…?何の事だか上条さんにはサッパリでせう、それより早く帰ろうぜ!聞いて驚け見て笑え!何と今日の上条さん宅の冷蔵庫にはクリスマスケーキがスタンバイしているのだ!」

 

「話を逸らすなッ!分かってたのならアンタから聞かせてくれても――」

 

「分かってる、でもさ――今この気持ちを伝えたとしてもそれは勢いに身を任せただけの物だ、って俺は思うんだ。―――だから、もうちょっと…本心から惚れるまでは…見蕩れたままで良いか?―――美琴」

 

「ッ!?」

 

「さぁさぁ、布団の準備に掃除に…後はPP4の置き場も考えないとなー」

 

何よ――――さっきまで友達と過ごせないだけでピーピー喚いてた癖に。

そんな顔されたら――――惚れ直さない訳ないじゃない

 

「―――ケーキは先を越されたかー…。じゃあ私は料理担当、かしらね。何か―――」

 

「何か食べたい物はある?―――当麻」




世には様々な文字書き様がいらっしゃいます。それはとあるシリーズにも然り。
ギャグ展開で笑わせてくれる方
シリアスな結末でティッシュの浪費をさせてくれる方
…等々、皆様の作品を拝見しているとやっぱり「とあるって愛されてるな〜」と思いますよ。
そんな中でも私は上条さんが「美琴」って呼び捨てしたりその逆だったりの展開に萌え死ぬタイプです、だから今回の話は本当に自己満足だけで書き上げました

本編ではまだまだ恋愛要素を出す気は無いので縁遠い話ですが何時かは誰かの恋物語も書きたいなー、とは考えてたりします。

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