とある幻想郷の幻想殺し   作:愛鈴@けねもこ推し

28 / 50
兵士 〜Solder〜

垣根帝督SIDE

 

 

 

 

 

 

正直な所ヒヤヒヤしたもんだぜ、うどんげも中華門番も『殺さない!』とか言ってたからかるーく殴り合うのかと思えば地面に叩きつけるわ内臓損傷だわ…ったく、加減を覚えろ加減を。手加減をされずに蹂躙される側の奴の事も考えろっての

 

サラサラとした金髪を風で靡かせながらポケットに手を突っ込んだまま2人の勝負を観戦していた垣根帝督は心の中で安堵する、現状は未だに彼が応援する兵士が不利なのだがその敵である格闘家はまだ地面に転がったまま起き上がらない。いや、それには語弊があるだろう。正確には『起き上がれない』のだ

 

「くっ…!ひど、い揺れだ…!まるで地震に襲われたかのように…ッ…視界が揺れる…!」

 

「…でしょうね、靴越しにでも手応えがあったわ.多分脳だけでなく三半規管にも衝撃が伝わっている、この勝負が終わったらキチンとした治療を受けるべきね」

 

どうやらあの回し蹴りは俺達が見た以上に効力があったらしい、あんなもん俺は食らいたくねぇな。大体頭に蹴りを食らった門番の耳から血が流れ出るってのはどんな状況だ?今の所単純な打撃じゃ当麻の右ストレートが一番破壊力があると思ってたが―――女とは言え軍隊上がりのうどんげは半端ないな

 

「おーい、うどんげ!茶々入れる気はねぇがさっさとその門番を楽にしてやれよ、さっきうどんげがやったみたいに追い込まれてからのカウンター食らったらどうするんだ?…言いたくはねぇがお前、足が震えてるぜ」

 

事実、地面でもがいてる美鈴と対して変わらない程鈴仙も追い込まれていたのだ。膝はガクガクと震えて笑いだし口の端からは血が流れ脱臼させた肩からは激痛が走る。更に間の悪いことにアドレナリンの効力が切れ始めた

 

いくら軍隊上がりとは言えお前は女だ、そして俺はお前や妹紅に当麻を巻き込んだ張本人…その過程で万が一億が一でも身体に後遺症が残りましたごめんなさいは許されねぇ.何かが起こってからじゃ遅い、最悪の場合は割って入るがルール違反になる以上今の俺に出来るのはこれくらいだからな

 

「……分かってる、分かってる、でもね……これは勝負なの.殺し合いでも戦争でもない、美鈴さんは私に礼を尽くしてくれた…だから私も私なりに礼を尽くして戦う義務があるの.必ず勝つからもう少し、もう少し時間を頂戴?」

 

「……あぁそうかよ、なら頑張れ.そこまで格好つけて負けましたなんて永琳に知られてみろ?末路は知らねぇからな」

 

「あぁ怖い怖い…ここは暖かい声援が欲しかったんだけどね…まっ、それが垣根なりの声援って事で妥協してあげる」

 

頑固だな、本当によ…ちょっとは俺の心境も察して欲しいもんだぜ

 

「…美鈴さん、そろそろ体力も回復したころでしょ?私もある程度は落ち着いた…」

 

「わざわざ、ありがとうございます.その余裕が仇にならなければ良いのですが」

 

「ならないわよ、勝つのは私…それだけの話」

 

美鈴はようやく立ち上がり頭を数回横に振る、実際問題平衡感覚はとうに破壊されているのだがそれでも戦えるのは鈴仙の闘気を全身で感じているからかもしれない――美鈴は表情には出さないがここに来て心底鈴仙を尊敬していた.ただただ愚直に鍛えられた格闘術とそれを支える心と身体、自分が追い込まれても正々堂々と在り続けようとするプライド、全てが賞賛に値する領域に到達しているからだ.恐らくそれは鈴仙も変わらないだろう

だからこそ、だからこそ美鈴は目の前で変わらぬ闘気を放つ兵士を本気で倒したい、否倒すと心に決めたのだ.

 

「すげぇな、うどんげにしてもそうだがあの門番…何で三半規管がいかれてまだ戦えるんだよ、とっとと降参してくれりゃ俺としては大助かりなんだが」

 

「段々と精神が肉体を凌駕して痛みも理屈も関係無くなってきてるのさ、それは鈴仙の奴も同じだよ.昔はあんな奴らがゴロゴロいたんだけどね」

 

「精神が肉体を凌駕、ねぇ…俺には分からねぇ感覚だな.少なくともあの一週間は俺はそんな状態になる前にお陀仏だったからよ、てか昔って何年前の話だ?」

 

「もう100年以上昔の京の都での話、1つ道筋を外れれば妖怪は跋扈してるし大通りは大通りで妖怪以上にタチの悪い連中が道のど真ん中を歩いたりしてね.それはもう最悪だったよ」

 

100年以上も昔の京都の話を真顔で語り出す蓬莱人、妹紅の表情はどこか懐かしむようなそれだった。言葉では最悪と罵りながらもあの頃の彼女には殺意と狂気溢れる京の都が性に合っていたのかもしれない

 

俺は目で門番と鈴仙の攻防を追いながら頭の端でふと妹紅が言う100年以上前とやらを考えてみる.今から100年前で京都にタチの悪い連中がいた時代...となると幕末のことか?確かあの時代は新撰組やら維新志士だか何だか知らねぇが血の気の多い連中が刀を振り回していた、らしい.俺は当たり前だがその時代に産まれちゃいねぇし興味も無いから人並みの知識しか無い、ただその時代を生きた張本人の話となると面白いかもな

 

「面白そうな話だな、鈴仙が落ち着いて時間がある時に詳しく聞かせてくれよ」

 

「ん~…私から振った話だし仕方ないか…でも聞いて楽しい話じゃないよ?何人も人は死ぬし私だって何回死んだことか」

 

「その話が楽しくなるかどうかは俺次第ってな、ただ今気になるのはあの門番の訳の分からねぇ格闘術だ.大して衝撃を加えたようには見えなかったが実際鈴仙は相当のダメージを受けた…どう言う理屈か妹紅は分かるか?」

 

「格闘術は私の専門外だから詳しくはないけど多分衝撃を拡散させずに集中させたんだと思う」

 

妹紅の話を大雑把に纏めるとこうだ、通常敵を殴ったりすればもちろん衝撃が発生するしその衝撃は対象を揺らしながら拡散して消えていく.だがあの門番は特殊な打撃の打ち込み方を使う事で衝撃を拡散させずにうどんげの内臓に集中させた…とのこと

 

垣根を始めその場の全員が知るはずもないことだが、ロシアで生まれた格闘術に『システマ』なる物が存在する.それは近接格闘術の一種で拳をやや下降させながら打ち込む事により敵の骨に衝撃を与えるというものである、もちろん美鈴はシステマなどという単語は聞いたこともそれに類する何かを極めた訳ではない.ただ単にその打ち込み方が1番自身のスタイルに適っていると理解したのだ

 

「厄介だね、本当に...私は何をされても再生するから大丈夫だけど鈴仙みたいな普通の身体のやつがあれを何度も食らったら洒落にならない.止めに入ろうとした当麻の気持ちも分からない訳じゃない」

 

「だがこれは勝負だ、うどんげもそんな事は誰よりも理解している……だから俺もその意思を汲んで我慢してるんだぜ?」

 

散々煽ってた奴がよく言うよ、と妹紅には呆れられたが仕方がない.俺は短気だからな

 

そんな会話を交わしている間にも2人の攻防は止まることを知らずに動き続ける、だからこそその場の全員が、レミリアでさえ何も喋らずにただただ己が信じる者の勝利を疑わずに待ち続ける

美鈴が腹部に正拳突きを放てば鈴仙は身体を半歩横にずらし回避する、鈴仙が脇腹にボディーブローを放てば美鈴はそれを脇で挟み込んで受け止めてカウンターに持ち込む.そんな一進一退の攻防が続く最中互いに有効打を放てずにいる状況が続いた

 

「…っ…ハァ…ハァ…まだ…倒れない、のね…」

「…これでも、鍛えて…いますから」

 

既に2人は満身創痍となり膠着状態が続いている

何度蹴りを放ったことか、何度ボディーブローで身体を揺らしたことか...最早それは闘っている当人達ですら記憶していない.それくらいに長丁場となっているのだ、それに比例して2人に蓄積した疲労感は計り知れないものとなっていた.つまりそれは『次に何らかの攻撃を相手に当てた方が勝つ』状況になった、ということだ

 

(頭は動けと命令するが身体がそれを拒む、むしろ拒否反応が出ているのかすらも怪しいもんだ...クソが!ただ見ている事しか出来ないってのも辛いじゃねぇか...!)

今すぐにでも俺が翼を使ってアイツを吹っ飛ばせばそれで済む、それだけでうどんげはもう苦しまずに済む...だがそれをうどんげは望んじゃいねぇ...

拳を交えている2人が苦しんでいるようにそれを見守るしかない垣根や当麻も悩み苦しんでいた

 

だがそんな膠着状態にも終わりが見え始める、先に動いたのは――――――美鈴だった.震える自身の膝を殴りつけて立ち上がり鈴仙に襲いかかる.鈴仙はその動きに気付いてから反応するが既に痛みと疲労感で満身創痍のその身体が満足に動くはずも無く呆気なく美鈴に捕らえられる

 

「これで、終わりに…しましょう!」

 

美鈴は鈴仙の背を膝で踏みつけて拘束しながら手を振りあげる

 

もがく鈴仙にはもう肩を脱臼させる力など残ってはいない上美鈴は肩には手を置かず背骨に手を添えた状態のまま振り上げた手を肩甲骨付近に振り下ろす

 

その場の誰しもが万事休す――――そう感じた時には地面がひび割れる音と大量の舞い上がった土埃が美鈴の放った技の威力を物語っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴仙・優曇華院・イナバSIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美鈴が鈴仙の背骨に向けて渾身の一撃を放った直後、上条当麻が感じた事は焦りでも恐怖でもなく――――違和感だった

 

(…な、んで俺は鈴仙がやられたのに落ち着いてるんだ…?今すぐに助けに行かないと…!)

 

状況が見えなくたって俺には...というか誰にだって分かる、あの一撃で誰が勝ったかなんて明白だ.でも今はそれ所じゃない!急いで鈴仙を永遠亭に運ばないと手遅れになる!

とにかく土埃が晴れないとどうしようもない、先程レミリアのグングニルを打ち消した時のように垣根が土埃を纏めて吹き飛ばしてくれれば楽なのだが.こんな時に俺の右手は役にも立たないと内心舌打ちしながらとにかく上条当麻は冷静であろうとした、だがなかなか煙は晴れない、垣根は何をしているのだろうか?徐々に焦りが募るが無鉄砲に突っ込んだ所で何もならない、そこで上条当麻は自身の周囲の土埃を手で払いながら自身の中に募っていく違和感の正体を探り始める

 

「何か、何かあるはずなんだ…あぁクソッ!こんなに土埃があったんじゃマトモに考えられない!!たたでさえ上条さんは考える力がないんですのことよ!!」

 

そう、土埃だ.この喉の奥に引っかかって思わず咳込んでしまうこの土埃…これさえなければ上条さんはもっと落ち着いて考えられるのに、大体さっき鈴仙が一撃を貰った時はこんなに土埃は舞い上がらなかったぞ……待て…!さっきは舞い上がらなかった土埃が今は舞い上がった…?あの門番が攻撃方法を変えた、のか…?

 

時を同じくして藤原妹紅は上条当麻と同じく舞い上がった土埃に悪戦苦闘しながらこの一撃を放った格闘家とそれを恐らく『受け流した』であろう兵士に素直に驚いていた

 

(よくやるよ、全く…いくら永い月日をかけて武術を磨いたからって張り手で地面が割れるなんて有り得ないぞ普通.そしてそれを妖怪とは言え不死身でもない身体に放つんだから尚更タチが悪い、でもまぁ…鈴仙の方が1枚上手だったってことかな)

 

妹紅にはまだ2人の決着が着いたのかは視えていない、勿論未来予知の能力がある訳でもない.ただ...一昔前までは目の前で展開されている極限の戦いが日常的に繰り広げられその渦の中に妹紅自身が身を置いていた、だからこそ何となくだが土埃の中の結末が予測出来たのだ.

 

だけど、と彼女は徐々に晴れてきた土埃の中で付け加える

彼女が予想した通りの展開ならば恐らく鈴仙は致命傷を負ってはいないだろう,ただ無傷という訳にはいかない.極限まで疲弊した今の鈴仙が立ち上がって反撃出来るのか?それが未だに妹紅の判断を鈍らせていた.とは言えその結果もすぐに分かる,土埃が晴れてきたのだ

 

「さぁ鈴仙…私はお前を信じたぞ」

 

 

 

 

紅魔館門前でその闘いを見守った人間や妖怪達がそれぞれ確信や困惑を抱く中,当事者である2人はどうなったのか?それを知るには少し時を巻き戻すべきだろう

時は数分前,美鈴が鈴仙を拘束し張り手を肩甲骨付近に放ったまさにその瞬間だ

 

美鈴は勝利を確信した,今度ばかりは油断や誤算もなく正真正銘の『勝ち』である.眼下にもがくことすらままならず拘束された兵士は疲弊しきっている,先程のようなどんでん返しを2度も貰わぬように反撃にも充分気を配った

 

(もう、良いでしょう?私も疲れました,貴女も間違いなく全身が悲鳴をあげているはず…安心してください,殺さないという約束は守りますから)

 

今ここでもう一度腹部に張り手を加えれば間違いなく彼女は絶命するだろう,勿論それはルール違反だ.だがそれだけではない,敬意を払ったというのもあるがそれ以上に今ここでこの宿敵を失うのは惜しい――――そう本能が叫んだのだ,だから私は彼女を,宿敵を殺してしまわぬよう既に攻撃した腹部は避けたのだった

 

美鈴の掌が鈴仙の背中に触れるまで後0,03秒…0,02秒…そして0,01秒を切った辺りであっただろうか?まさに刹那の瞬間ではあったが美鈴はその刹那に違和感を覚えた,美鈴の感覚では自身の掌が鈴仙の背中に触れるのは0,01秒後のはず…のはずにも関わらず美鈴の掌からはブレザーの質感が伝わってきた.つまりは既に彼女の背中に触れている,そういうことなのだろうか?

 

だが,全ては刹那の間に感じ取ったこと.ただでさえ全力を込めた一撃な上にそれを1秒の1/100以下で変更するなどまず不可能,瀟洒なメイドならば涼しい顔でやってのけるのだろうが生憎と美鈴はそんな愉快な手品は持ち合わせていない

そしてまた0,01秒の時間が経過,鈴仙は美鈴の掌から加えられた衝撃と地面との間に挟まれノックアウト――――――されるはずだった

 

何故か彼女が地面との挟み撃ちにされた瞬間,地面が揺れ大量の土煙が舞い上がる.特に地面の揺れはその場にいた者への影響が激しく身体まで揺らされる

 

「っ!?な、何でこんなに土煙が…!いや衝撃が分散して…!?打ち込み方を間違えた!?」

 

「…美鈴さんはさ,玉突き――あぁ紅魔館じゃビリヤードだったかな…経験は?」

 

有り得ない,有り得ない.有り得るわけがない,彼女がまだ動けるなんて,その瞳に闘気をまだ宿しているなんて.何より…私の拘束から抜け出してギュウゥ…!という音を響かせて握った拳を振りかざしているなんて…!

 

「ビリヤードで3つの球を一列に並べて弾くと…1番遠くまで飛ぶのは外の球,これは最初に弾かれた球から中心の球へ次に中心の球から外の球へと衝撃が逃げるように伝わるから…ここまで言えばもう分かって貰える?」

 

「まさか…っ!それと同じ要領で鈴仙さんと私をビリヤードの球に見立てて衝撃を…!?」

 

「正解…一か八かの賭けだったから成功確率は間違いなく0に近かった,でも…!私は賭けに勝ったわ!!」

 

何が賭けなものですか、と美鈴は内心呟く.そんな真似が賭けで出来る訳がない,それは間違いなく鈴仙の実力にほかならない

理屈はどうであれ賭けに勝った者にはそれに見合う物が与えられなければならない,今鈴仙に最も見合って最も望む物は?……そんな物は決まっている

 

ドスンッ!!!!土煙の中で限界まで力を込めた兵士の右ストレートを額に食らった門の護手は力なく大の字で紅魔館門前の地面へと倒れ込む

 

紅魔館対永遠亭グループのそれぞれ大切な物を賭けた闘いの第一戦目は――――――こうして幕を閉じたのであった

 

第一戦目

種目:総合格闘技

鈴仙・優曇華院・イナバ(○)VS紅美鈴(×)

 

第二戦目

種目:???

???VS???




まず初めに......私が長年愛用してきたPCがお釈迦になりました。それに合わせて書き溜めた原稿もお陀仏になりましたはい、もう発狂して良いのか泣いていいのか両方なのか分かりません。とりあえず原稿消失は2度目なのでまだ耐えられるのですが...パソコンで書けないのは辛いなぁ...。
でも今は携帯から投稿しているんですがやっぱり予測変換があると非常に便利ですね、その点は助かってます。
さて、これにて優曇華対美鈴の決着が着きました。いやぁ何がアクションだ何が格闘だ!ってツッコミは置いておいて。次話からは早速第2戦目に入るのですがそれから後は回想編を挟んだり皆さんお忘れかも知れませんが学園都市の愉快な仲間達の話も投稿していきますのでどうぞお楽しみに!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。