これから活躍するから仕方ないんです
上条当麻SIDE
「…薬を売りに来たんだ、永遠亭の薬をさ。門番さんからは人間かどうかを疑われたけど俺達は人間だし、仮に人間じゃ無かったとしても敵意はないんだ。まずは話だけでも良いから聞いてくれないか?」
「話を聞くか、薬を買うか、それはこの紅魔館の当主である私が決める事だ。わざわざ人間がここまで来た事は褒めてやるが生憎とそれだけで情けをかけてやるほど私は優しくはないぞ」
…何故だか分からないけどどうやらこの吸血鬼、レミリア・スカーレットは素直に薬を買う気はないみたいだな。確かに学園都市でも学生の寮にまで推し掛けて勉強教材なんかを売り込んでくるセールスマンがいたような…そんな時は決まって居留守を使ってやり過ごすか不幸にも部屋にいることを勘付かれた時は適当に相槌を打って上条さんも追い返していたから嫌がる吸血鬼の気持ちが分からないでもない。
ちなみに上条当麻の場合、居留守を使う比率と勘付かれる比率では圧倒的に後者が多いのだがそれは言うまでもない。彼の幻想殺しは現代社会で戦うセールスマン達を365日24時間無償で応援しているのだ
「そうか、じゃあどうすれば良いんだ?自己紹介は…そっちの門番さんにしたから必要無いと思うぜ」
「それは惜しかったな、私も後少し早く出てくれば良かったか…だが自己紹介が終わってしまったのなら話す事はもうないな。興冷めだ、もう帰れ」
「待てよ吸血鬼、てめぇの都合で勝手に話を済ませられても俺達は困る。それに何か勘違いしているようだが俺達はてめぇみたいな吸血鬼に用は無い、どっちかって言うと客になるかもしれない喘息持ちの魔法使いに用があるんでな。お前は御託を捏ねずに俺達を案内しろ、仕事が終わって金さえ貰えるんなら自己紹介だろうが身の上話だろうと何だってやってやるよ」
…ここで早速商談がご破算になりかけてしまったんですのことよ、主に吸血鬼と垣根のせいで。このままでは非常にマズイ、商談が成功するとか潰れるとかその次元の話じゃ無くてそれ以上にマズイ展開になってしまう。学校のテストでの勘ならともかくこんな時の上条さんの不幸センサーはまず外れない
「おかしいな、私には人間が何か戯言をほざくのが聞こえたが…何かの聞き間違いか?」
「聞き間違いだろうとそうでなかろうと俺達としちゃ大助かりだ。安心しろ、お前みたいな傲慢なクソ野郎にも永遠亭の薬は対応できる、点耳薬も品揃えにあるから買って行けよ」
「馬鹿、垣根!何で無用に吸血鬼を煽るんだよ!?と、とりあえず謝れ!レミリアさんだったか?垣根はあんたに門前払いを食らってムカッと来ただけだ、気にしないでくれ!」
「…ハハッ」
「そうよ、垣根!何であんたって馬鹿は次から次へと…!今ここで垣根が吸血鬼と戦って勝てるつもり…!?百歩譲って弾幕ごっこで勝負したって勝ち目ゼロじゃない…!」
「フフッ…アハハッ…!」
とりあえず今日の所は引き返そう!妹紅にも垣根と吸血鬼を諌めるよう頼まないと…!
「妹紅からも何か言ってやってくれ!……って妹紅…?」
「…残念だね、当麻。後もうちょっと…とはお世辞にも言えないけど手遅れだよ
あの吸血鬼、もうスイッチが入ってる」
さっきから地味にアハハッ、って声が聞こえてただろ?と妹紅が俺に告げた時には手遅れ。さっきまで辺りを飛び回っていたはずの蝙蝠は既に消え去り、代わりに人外だけが放つ威圧感が俺達を貫いた
「面白い…良いぞお前達!!ここ最近は勘違いを起こした馬鹿な妖怪達が紅魔館を襲う事が数回あったが…!それらは全てそこの美鈴に退けられた!!だが今回は違う!お前達は確固たる自信を持ってこの夜の王たる吸血鬼を罵って来た、ならば私もその愚かな人間達には強さを持って応えよう!調度今からは吸血鬼の時間だ、存分に…!!」
…どうやら記念すべき第一回目の商談は見事御破算になったらしい、その証拠にレミリア・スカーレットは俺達を興冷めだ、とあしらった時のつまらなさそうな表情とは打って変わって獲物を狩る獣のような目つきを浮かべながら掌に何かエネルギー…多分魔力なんだろうがとにかくそれを集めている
「…俺も大概すぐに人を煽るけどよ、あいつも大概に短気だよな」
最初に身構えたのはこの商談を御破算にした張本人にして自らを責任者と名乗る垣根だった。頼むから責任者ならもう少し上条さんをヒヤヒヤさせないでください、お願いだから
当の垣根帝督はレミリア・スカーレットが放つ威圧感からこれより始まるのは弾幕ごっこでは無いと判断、その為懐の拳銃は抜かずに瞳を閉じてから集中して天使の翼を顕現させる
「ほんっと嫌になるわ、これだったら私一人で薬を売った方がよっぽど速いんじゃないかしら」
次に鈴仙が指で拳銃の形を作り、身構える。足が一瞬震えたけどすぐに立ち直したのはさすがだと思う
「やれやれ、私も文句を言いたい所ではあるけど…調度この吸血鬼には永夜異変の後の肝試しで私の友達が世話になってるんだ。今更報復云々と抜かす気は無いしその友達も報復なんて望まないけど…借りた借りは返さないってのもその友達の主義に反するんでね、良い機会だよ」
垣根、鈴仙と続いて今度は妹紅にもスイッチが入り背中から燃え盛る紅翼が出現する。
(何で皆こんなに冷静にスイッチ入るんだよ本当…上条さんは普通に薬を売り歩いて普通に永琳さんにお金を返したかったな…はぁ…まったく…)
「不幸だ…」
ここまでくれば否が応でも分かる、戦って勝つしかない、と。そしていくら俺達が人数的には圧倒的に勝っているとは言え戦力差も勝っている訳ではないことも
「存分に…!!存分に私を楽しませろっ!!!『神槍「スピア・ザ・グングニル」!!』
レミリアの手に現れたのは紅い槍、もしくは…人間も妖怪も神も無く全てを無慈悲に紅い肉塊に変える為の殺戮の権化。その銘をスピア・ザ・グングニル、レミリア・スカーレットの大技である
「で、先陣は誰が切るんだ?俺からで構わないってんならあのクソ吸血鬼ごと槍をぶち抜くぜ」
「出来もしないことを言わないの、この面子の中であの神槍と正面からぶつかれるのなんて2人しかいないじゃない」
「私は構わないけどあの槍を相殺するんなら垣根や鈴仙も間違いなく黒焦げになるくらいの炎じゃないと無理だよ、そうなると…あの吸血鬼に一泡吹かせるにも無傷で反撃するためにも適役は」
「…分かったよ、分かりましたよ!要は上条さんがあの槍に突っ込めば良いんだろ!?炎に散々油を撒いて消火活動をするのは上条さんなんですね分かります!…まったく、本当についてねぇよな。俺も…!あんたも、レミリア・スカーレット!!」
レミリアは神槍を四人に向かって放つ、上条当麻は右手を突き出しそれを迎え撃つ
片や、神の槍の銘を持つグングニル。片や神をも殺せる幻想殺し、その勝負の行方はグングニルと幻想殺しが衝突した事によって生まれた暴風と土煙の中に隠されたのだった
紅美鈴SIDE
まさかお嬢様とあの謎の少年達が出会って数分で激突するハメになるとは…。お嬢様にあしらわれただけで反応した金髪の少年の短気っぷりにも驚きましたがそれに反応するお嬢様の戦闘狂っぷりにも驚きです。確かに最近はこの紅魔館にも命知らずな妖怪が襲ってくる事が増えてお嬢様のイライラが募っていたのも原因の一つではあったんでしょうけど…いくら何でも初対面の子供に襲いかからなくても良いとは思うのですが
「ケホッケホッ!め、美鈴!いきなり2人がぶつかるなんてビックリなんだぜ!!そもそもいつレミリアは出て来たんだよ?」
「私が気付いたのは薬売りの皆さんが到着される少し前ですよ、恐らく私と同じく他とは違う彼らの雰囲気に気付いて気になったのかと」
私は目の前の土煙を手で払いながら必死に目を凝らす、辺りが土煙で覆われる直前に見えた光景はお嬢様が神槍を放ち上条と名乗る少年が右手を突き出した所。普通ならば少年は無残な肉塊どころか身体すら残らない、けれど鈴仙さんや妹紅さんがあの少年に任せた所を見ると一応対策は持ち合わせていたのでしょうか?気を探っても探知出来たのは3つのみ、元よりあの少年の気は探知できなかったので生死はこの目で確認するしかなさそうです
「しっかし、レミリアも大人げないな。いくら煽られたからっていきなりグングニルは無いだろ?周りの奴らもそれを止めようともしなかったし…さすがに不味いんじゃないか?」
「そうですね、いくら何でも永遠亭に関わりがある人間を殺してしまったとなるとごめんなさいではすま」
「…ゴホッゴホッ!!あれ?もしかして上条さんって死んだ事にされてるのか?でもこんなに土煙が酷いとさすがに喉が詰まって上条さんも死んでしまうんですの事よ…!」
「落ち着け当麻、全員分の薬は守り切ったから心配すんな。お前が耐え抜けば何も問題ねぇよ」
最初に響いたのは真正面からぶつかったであろう上条当麻の声だった、そのすぐ後に六枚の白い翼が風を巻き起こし舞い上がっていた土煙が雲散霧消していく
何故、金髪の少年から翼が生えているのか?それも気にはなりますが今は「何故上条と言う少年は無傷なのか?」というのが一番の疑問です
「おぉ、無事だったのか。それは何よりなんだぜ、さすがに目の前で人が死ぬのは寝覚めが悪いからな。でも何であの黒髪は無傷なんだぜ?」
他人事のように白黒魔法使いは問いかける、寝覚めが悪いのなら助けに行けば良いのでは?と美鈴は言い返したくなったが今更そんな事に意味はない
そんなこと私が知っている訳無いじゃないですか、むしろ私が聞きたいくらいですよ
それに彼自身は無傷でも…
(紅魔館の門はボロボロなんですよね…あぁ、これはもう咲夜さんに粛清されるのは確定かなぁ…)
グングニルが放たれた衝撃波の突貫工事により美鈴が守るべき門は風通しが良くなって、と言うかあまり原型を留めていない。専門用語を用いるならば半壊だ
そんな見るも無残な門だった場所を泣く泣く見つめて合掌をした後に、美鈴は完全で瀟洒なメイドに対する言い訳を必死に考えながらさっきから気になっている疑問を解決することにした
「こちらから仕掛けておいておかしな話ですが、どんな能力をどう使えばレミリアお嬢様の技を無効化出来たのですか?どうも貴方が魔法や妖術を用いた風には見えませんでしたから」
「あぁ~…何て言うかさ…多分信じて貰えないんだろうけど俺の右手はちょっと特殊なんだ、幻想郷の人に分かりやすく伝えるなら俺の能力は『右手に触れたありとあらゆる異能の力を打ち消す程度の能力』、それでさっきの槍に触れて打ち消した…って所だな」
上条さんはさもそれが当然であるかのように頭をかきながら応える
なるほど…確かにそれならば私が気を探れない事にも合点がつきます
羨ましい能力ですね、と美鈴が返答しようとした瞬間に今度は神槍の代わりに言葉の槍が放たれた
「やってくれるじゃねぇかクソ吸血鬼が、お前は煽られる度にさっきみたく槍をぶっ放すのかよ?…人間は数が多いからって何でもかんでもおもちゃにして良いとか思ってんのかお前は?」
「そう怒るな、第一吸血鬼を煽る物好きは人妖含めてそういないし人間を不用意に襲うのは幻想郷のルールに反する。最も…思いあがって誰にでも噛みつくような犬っころにまでそのルールが適用されるとは思わなかったんだよ」
「…そうかい、とりあえず俺の事を犬っころ呼ばわりした事については客になる可能性を考慮して許してやるよ。だが…煽られた位で殺しにかかってくる短気な蝙蝠を返り打ちにするな、なんてルールもねぇんだろ?」
売り言葉に買い言葉、お嬢様が挑発すれば金髪の少年も煽り返す。このままで行くと…投げられた槍に何が返ってくるのか分かったものではありません
「…フンッ、そこまで大層な口を叩くんだ。実力も伴っての発言だと見える、久し振りに威勢の良い人間と妖怪が訪れたんだ…口喧嘩で勝敗を喫するのはあまりに華がない
お前達もそうは思わないか?」
「要は…上条さん達に勝負を挑むってことか?」
「あぁ、お前達も知っているとは思うが幻想郷では揉め事は弾幕ごっこで解決すると決まっている。中には例外で不死である事を良い事にそれを平気で破る人間もいるらしいがな、生憎と私は不死身じゃない。そして弾幕ごっこによる取り決めは絶対だ、お前達が勝てば薬をいくらでも買おう、勿論言い値で良い。だが…もし私が、紅魔館が勝利した時は…」
「勝利した時は…?何だよ、まさか上条さん達に死ねって言うんじゃないだろうな?」
「まさか、殺そうと思えばお前たちなんていつでも殺れる。だが…そこの金髪には先程の非礼を土下座で詫びて貰おうか、それも私の靴を舐めるオマケ付きだ。他の3人にも同じ位の恥辱を味わわせてやるから安心しろ。どうだ、この勝負…受けるか?」
(提示された条件は…まぁスカーレット家の財力を考慮するならばこちらが勝っても負けても損はありませんが、彼らにとっては些か厳しい条件ではないでしょうか?しかもお嬢様には運命が操れる…今更断るとは言えないのでしょうが…これも彼等が選んだ道です)
提示された条件が条件だったため、さすがにあの金髪少年が怒りだす可能性もある。門番としてこれ以上の無駄な犠牲と咲夜さんからのお叱りを減らす為に私は万が一の時は動けるように身構えた
「よし、その勝負を受けるぜ」
「断る理由が無いな、薬を言い値で買ってくれる上に借りも返せるなんて最高じゃないか」
「断って手ぶらで永遠亭へ帰る方が恥辱よりよっぽど怖いわ、私も勿論受けるわよ」
「言うまでもなく俺は目障り耳障りな幼女をぶっ飛ばして稼ぐだけだ、生憎と土下座は俺よりクソ吸血鬼の方が様になって良いと思うぜ」
特に迷う訳でもなく相談する訳でもなく即答、それも全員揃ってと言うのだから驚かされる
なるほど…覚悟は十分だ、と。ならば私もお嬢様の、紅魔館の誇りにかけてそれを阻止しなければならない
「お嬢様、それでは彼らは4人ですがどうなさいますか?」
「そうだな、私がまとめて叩き潰しても良いが…せっかくだから4対4と洒落込もうじゃないか」
「…かしこまりました、細かなルールの方はお嬢様にお任せ致します」
「と、言う事だ。勝負は4対4で4戦の内先に3勝した側の勝利とする、勝負形式は完全な1対1で私達もお前達も妨害・手助けの一切を禁止、仮に引き分けた場合は両陣営の一番元気がある奴の一騎打ちで決めるとしよう。何か質問はあるか?」
「じゃあ1つだけ質問だ、上条さん以外の3人は弾幕を張れるんだが俺は張れないんだよ。勿論対抗策も用意してあるがあんた達はそれも弾幕ごっことして許容してくれるのか?」
「弾幕が張れないにも拘らずよく戦う気になれたな、だがお前の能力の特性上は不可抗力…か。良いだろう、ならば1つだけ妥協してやる。勝負の方法は弾幕ごっこ以外も可とする、ただしあまりにふざけた勝負方法だった時は…言うまでも無いな?」
4人を軽く威圧してから地面に降り立ったお嬢様は私を一瞥してきた、要は弾幕ごっこが苦手な私への配慮なのでしょうか?
「お、お嬢様…わざわざご配慮頂かなくとも紅魔館の門番として例え弾幕ごっこでもしっかりと門を護り切ってみせます、ですからご心配頂かなくとも…」
「勘違いするな、美鈴。私はお前に配慮したんじゃない、私は『本気』の勝負を望んでいるんだ…言いたい事は分かるな?」
私の本気…なるほど確かに私唯一の取り柄でもある『アレ』は弾幕ごっこ以上に本気になれるでしょう
「かしこまりました、この不肖紅美鈴…私の本気でこの門を4人から護り切ってみせましょう!」
「フンッ、せいぜい意気込み過ぎてあの4人以外の侵入者を見逃さないようにするんだな」
そう仰ったお嬢様の視線の先には……何とこんな時に場の空気も読まず紅魔館侵入を企む本泥棒が1人、私はその本泥棒の首根っこを捕まえて外に放り出す
「相変わらずしぶとい方ですね、少し位は場の空気を読んでください…それと今からここは門から争いの場に変わります。それなりに荒れるでしょうから無関係の貴女は帰って下さい」
「チッ…!後もう少しで侵入できたのに惜しかった…!!でも蚊帳の外にされた私としてはする事がなくて辛かったんだぜ?」
本当にこの泥棒は…反省どころか躊躇するという概念すらないのかもしれません…
「えっと…とりあえず勝負方法は何でも良くて一番手は…美鈴さん、貴女で良いのよね?」
恐らくお嬢様の望みを理解した上でこの人選…案外彼らも短気であっても話が分からない訳ではないようです
「えぇ、この勝負…紅魔館の一番手はこの紅美鈴が務めさせて頂きます」
「…この勝負、永遠亭側の一番手は私が、鈴仙が務めさせて頂きます」
「一応だが聞いておくぜ、2人はどんな勝負をする気なんだぜ?」
最後の最後で本泥棒…否、魔理沙さんは空気を読んだのかそれとも本当に勝負方法を想像できなかったから問いかけたのか…。今は空気を読んでくれたという事にしておきましょう
「…勝負内容はもちろん」
「「体術勝負!!」」
どうもお久になるとは思います、今後はこれくらいの投稿間隔になるかと…
さて、次の投稿までには近くのレンタルショップで格闘シーンが満載の洋画を借りてくるとしましょうか