とある幻想郷の幻想殺し   作:愛鈴@けねもこ推し

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不幸な四人組、白黒魔法使いと出会う

藤原妹紅SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやら垣根と当麻はあの妖怪を殺さず、お灸を据える程度で終わらせたらしい。被害者である私からすれば人里に手を出さないよう焼いておきたかったけど…滅多やたらに殺生をすると慧音に怒られるし、度が過ぎるとスキマ妖怪まで現れるから面倒なことこの上ない。それに今の二人にはあれくらいの妖怪は冷静に対処できるってことも分かった、これは主観になってしまうけど当麻の右手で妖力を破壊できることも証明されて先生としては嬉しい限りだ

 

「ふぅ…それにしてもここ最近は輝夜とも殺しあっていなかったから臓器を貫かれただけで意識が飛んじゃったよ。昔なら上半身と下半身がサヨナラしたってしばらくは意識があったんだけどね」

 

「あー何も聞こえない聞こえない…まったく、それで?早々にリザレクションをしたにも関わらず垣根と当麻を観察した気分はどう?私は結構ヒヤヒヤさせられたんだけど?」

 

私の隣で河童印の双眼鏡をしまった鈴仙は立ち上がりながらジト目でこちらを睨んできた、特に悪びれる様子もなく傷口の消毒と臓器の再生を終えた私は立ち上がって当麻と垣根の元へ向かう

 

「私だって気分は良くないさ、ただ…あの二人はただ私達に守られるだけの存在じゃないのもまた事実だろ?それにいつもいつも私達が守ってやれるとも限らない、時には子供に試練を課すこともまた大人の役目だって」

 

「慧音さんが言ってた、でしょ?確かにそうだけど…ってまさか2人を試すためにわざとあの妖怪に襲われたの?」

 

「まさか、いくら死に慣れた私でもそこまでえぐい事はしたくないね。あと私のお気に入りの台詞を先に言うんじゃない」

 

確かにいつかは適当な相手…まぁ私の予定では紅魔館の門番にお願いして当麻と弾幕ごっこで勝負してもらおうかと思ったんだけどその必要も無さそうだ、思いのほか予定が短縮出来たから

 

「実際、気配に気づいたんだけどね…それから回避しようと思ったその瞬間にはあのザマだ。完全な平和ボケってやつ」

 

「それなら仕方ないけど、でも最近は妙に妖怪が活発なような…妹紅はおかしいとは思わない?」

 

「その話なら当麻達が幻想郷に来る数週間前から慧音から聞いたよ、昼間でも…あぁ勿論人間に友好的な妖怪は別問題だけど妖怪が昼間でも派手に行動するようになったらしい。博麗の巫女に相談はしたらしいから心配は要らないと思うけど」

 

あのぐうたら巫女がちゃんと働けばね、と鈴仙はため息をつきながら背中の荷物を背負い直す。

(…実際問題、あの時私は妖怪の気配には気付いていた。気付いたからこそ回避しようとした、でも…いや考えすぎだろう。本当に私が平和ボケしてた可能性だってゼロじゃないんだ、気を引き締めないとな)

 

さっきの妖怪の件にしかり…スキマ妖怪があの日口にした「戦争」と言う言葉…無関係なら良いんだけど。どうも幻想郷に来る前…いやこっちに来てからもそうだけどよく生き死にの現場に立ち会う事が多かったせいで何となく不穏な空気は読めてしまう

 

「はぁ…不幸だな…」

 

「それは上条さんの口癖の真似なのか?まったく…皆揃いも揃って似てないんですよーっと」

 

「おっ当麻…ごめん、応援に行くのが遅れて悪かった。ちなみにだけど垣根も今の『不幸だー』ってのを真似たのか?」

 

永遠亭での訓練の一週間、余りにも当麻が『不幸だ』と呟くので直接指導に携わっていた私にもその口癖が移ってしまった。その為私は憂鬱な気分になると時々そう呟いてしまう、何と今回は更に不幸な事にその迷言の本家にそれを聞かれてしまったと来た。と、言うかいつの間にか合流してたんだな

 

「垣根の物真似の件も含めて気にする事は無いだろ、って言うか妹紅は仮にも怪我人…だった、の方が正しいな。その様子だとリザレクションも消毒も終わったんだな?」

 

「あぁ、おかげさまでね…そっちこそあの妖怪に無事勝利したんだろう?」

 

「トドメは勿論俺だぜ、あと当麻の口癖を真似たのは事故だ。ということでこれ以上突っ込まない方向性でお願いします」

 

「大事なのはトドメじゃなくて怪我の有無でしょ?当麻にしても垣根にしても1人で突っ込んだんだから打撲くらいはあるんじゃない?とっとと見せなさい」

 

とりあえず最初に私が襲われた場所から少し離れた木陰で垣根と当麻は足などを捻っていないかを鈴仙が見ることになった。でも結果としては二人とも特に怪我は無し、当の本人達もあの訓練漬けの一週間を思えばこんなのはぬるま湯以下だと余裕の発言。そこまでスパルタだったか?と鈴仙と2人で小首を傾げた時の垣根と当麻の顔面蒼白っぷりは面白かったなぁ

そんな訳で垣根と当麻が問題なく紅魔館を目指せると分かった所で出発、思わぬ戦闘で時間を取られた事がちょっと心配だけどこの際気にしても始まらない。それが私達の総意だった

 

「妹紅や永琳さんの話を聞いてはいたけど本当に妖怪が出るんだな、それもかなり好戦的な…もしかして幻想郷はどこもこんな感じなのか?」

 

「う~ん…どこもかしこも妖怪で溢れ返っているわけでも無いんだよ、最近は何故か妖怪の動きが活発になってるらしい。ただ出会う妖怪が皆全て好戦的って訳でもないさ、事実そこにいる鈴仙だって玉兎って名前の妖怪だろ?」

 

少し無言で歩き続けたけどまずは当麻がその空気に耐え切れず会話の口火を切る、こうなれば後は出発した時のように自然に会話に華が咲く

 

「そう言われてみればそうだったな、見てくれがまんま人間だったからすっかり忘れてたわ。ははっ、つくづく幻想郷ってのは愉快だな!住んでみれば暇にはならないだろうぜ」

 

「幻想郷の妖怪なんてそんなものよ、そもそも外界で言い伝わる吸血鬼だって人間に似た姿形でしょ?それに右ストレートで妖怪を黙らせたり、背中から天使の翼が生える人間なんて早々いないもの、おかげさまで私も毎日が退屈しなくて満足よ」

 

鈴仙・垣根組も冗談を交えながら雑談を楽しんでいるようだな

その後も体力を使いきらない程度に会話を維持して、紅魔館を目指す。そして何時間…とはいかなくとも一時間は確実に歩いた頃、ようやく幻想郷には珍しい洋風の屋敷の屋根が森から覗き見えた

 

「えっと、ここが霧の湖であれが紅魔館…由来は見たままの通りなんだろうけどいつ見ても目立つ屋敷だよ」

 

「…すっごいな…上条さんはこんな大きな屋敷、中々お目にかかる機会はないからな…。湖に面した大豪邸…ははっ…上条さんには10億光年以上距離のある家なんですのことよ…」

 

「豪邸だけが全てじゃないだろ、あとこんな馬鹿でかい屋敷を持つ幻想を抱くならまずは薬を売り切る事を考えようぜ。幻想(かみじょう)殺し(とうま)が幻想抱いてどうすんだよ?それとうどんげ、これはもう正面切って薬を売りに行けば良いのか?」

 

紅魔館を視界に入れるや否や垣根は早くもお仕事モードに突入、か。まぁそれが妥当なんだろうけど…よし、私も今は気持を切り替えて背中の荷物を全てお金に換えるとしよう

そんなことを私が考えていると不意に鈴仙が再び双眼鏡を取り出して覗き込みながら私達を呼びとめた

 

「待って、皆!紅魔館の門に美鈴さんと…誰かもう一人いる」

 

「どうしたんだ、鈴仙?こんな時間に尋ねてくるんだから紅魔館のお客さんじゃないのか?」

 

「てか、双眼鏡もあったのな。それで?その誰かもう一人ってのはお客さんなのか?もしくはうどんげも知ってるやつなのかよ?」

 

一気に2人から質問を受けた鈴仙はその質問に答えるでもなく、がっくりと双眼鏡から目を離してうなだれていた

一体誰が…いや大体の想像は付くけれど…。私の予想が外れていることを願いながら私は鈴仙から双眼鏡を借り、それを覗き込んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霧雨魔理沙SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は実に天気も良い、気温も快適で湿度も問題ない。そんな日には読書に限る、と言うのが私のモットーだ

 

「そんな訳だから大図書館の魔導書を借りに来たぜ、だからそこを退いてくれ」

 

「いやいや!何が『そんな訳』なんですか!?それにあなたのやっていることは借りるじゃなくて盗みでしょう!門番としてここを通す訳にはいきません!!」

 

いつもならこの時間帯にはこいつは昼寝しているから余裕で突破出来ると踏んだのは早計だったみたいなんだぜ、でもここで引き下る程私も甘くは無いぜ

普通の泥棒…もとい普通の魔法使いこと霧雨魔理沙は柄にもなく珍しく居眠りもせず職務を遂行している紅(もん)美鈴(ばん)を突破する為の思案を始める。普通の状況であればここでいくら押し問答を通そうがそれが通らないのが道理で、また門番も相手の反論には応じずさっさと追い返すのが定石なのだ。ただそれはこの紅美鈴と言う門番に霧雨魔理沙(ほんどろぼう)に対する半ば諦めのような感情が無く、霧雨魔理沙に『最悪、マスタースパークで美鈴ごと門をぶち抜けば良いや』などという暴論を通り越した強盗紛いの発想が無ければ、の話だが。

 

「盗みとは失礼だな、私はパチュリーの友達として魔導書を借りに来ただけだぜ。確かに貸出期間は長いかもしれないが盗人呼ばわりは心外なんだぜ」

 

「ほら、やっぱり!世間一般ではそれを盗みと言うんですから!それにあなたがマスパで門をぶち抜いて大図書館へ向かった時なんてお嬢様や咲夜さんには睨まれるし、そのぶち抜かれた門を誰が徹夜で修復しているか分かります!?」

 

ちっ、今から私がしようとした事が読まれてしまったんだぜ…!と、言うか私が言うのも何だがあれだけ跡形もなく瓦礫の山と化した門を美鈴は徹夜で直していたのか?見上げた根性だな

心の内では同情しながらも、こっそりと取り出したマジックアイテム……その銘を八卦炉と言うのだがそれをしまう姿には同情も憐れみも見受けられない。良く言うならばこの霧雨魔理沙は己の欲に素直、悪く言うならば……単なる泥棒であった、それも飛びきり腕が立つと言うのだから尚更性質が悪い

 

「それにしても美鈴がこんな時間帯に起きているなんて珍しいな、何かの異変の前触れじゃないのか?」

 

「し、失礼な…!私だって常に舟を漕いでいる訳ではありません、それに今屋敷の近くに『三つの気』を感じまして…その内二つは私も魔理沙さんもよく知る鈴仙さんと藤原妹紅さんだったのですが後一つの気は初めてお会いする方の気でおまけに…少々血の匂いが…したので少し気になりまして」

 

「血の匂いがする私も美鈴も初めて会う人間、か?それも鈴仙やあの不死鳥と一緒…う~ん、分からないな」

 

今更過ぎて忘れてたけど確か美鈴の能力は『気を操る程度の能力』だ、多分と言うか以前に美鈴本人が言っていたのを聞いたんだがある程度距離があってもその能力の応用で対象から放たれている『気』があれば美鈴にはそれだけである程度誰かは分かるらしい。そう言えば妖夢も前に『一流の剣客は敵と対峙した時に殺気を放ちません、何故ならある程度の剣客であればその殺気だけで相手の動きや太刀筋をある程度は予測しますから』って言ってたな。あの半人前でそれくらいは出来るんだから気に関する能力の持ち主である美鈴からすれば訳無いのも頷けるんだぜ

 

「確かに血の匂いもするのですがそれ以上に何と言うか…何となく嫌な気を内面に隠しているんですよ、その方。人間であることは間違いないのですが私も門番ですからね、本泥棒に加えてそんな物騒な方をお屋敷に無断で侵入させたとあっては今度こそ私が咲夜さんに粛清を受けてしまいますから」

 

「言っておくが私は本泥棒じゃなく借りて、いるだけなんだぜ!まっ、久しぶりに面白そうな話に出会えたんだ!私はその危ない奴の顔を拝んで出来れば弾幕ごっこもやってみたいぜ!!」

 

私の隣で美鈴が『はぁ…頼もしいんだか災難が増えたのかどっちか分からないなぁ…』なんてため息交じりにぼやいてるけどここはスルーだ。今はその気の正体を確かめるのが先決だ

そして待つこと数分、まず最初に見えたのは頭から真上に向けて生えたウサギの耳だ。これは言うまでもなく鈴仙だな。次に見えたのは紅と白のもんぺ、こいつもこいつで毎日服が変わらない蓬莱人の藤原妹紅だ。さすがは不変(かわらず)の蓬莱人ってことか?さて、これで2人は目視出来たから次で最……後?おかしいな、私の目に映っているのは…1人ではなく2人だ。なまじ美鈴が堂々と読み取った気は三人だ、って言ったからちょっと驚いたんだぜ

 

「おいおい、美鈴~いたのは三人じゃなくて四人じゃないか。やっぱり昼寝不足で集中できていないんじゃないか?」

 

「…いえ、私はちゃんと冴えてます。昼寝を一度抜いた位で能力が不安定になるほど華奢な鍛え方もしていません…、ですが…あの彼、黒髪のとげとげとした髪の少年からは…こんな至近距離になってもどれだけ能力で探りを入れても気が…感じられないんです」

 

(これはまたおかしな事になったな、美鈴がこんな小さなミスをするとも思えないし…それにいくらなんでも『気』がまったく感じられない人間なんているのか?既に死んだ幽霊の幽々子にも気はあるんだからどう見たって人間のあいつにだって)

妙だな、と私が呟こうとした所で門前に辿り着いた四人組の1人…私と同じ金髪の男が先に口を開いた

 

「取り込み中だったか?だったら悪いがちょっとここの喘息持ちの魔法使いに取り次いでくれ、永遠亭の薬を売りに来た。何だったらあんた達も買わねぇか?永遠亭の薬だから効能は俺が説明するよりもあんた達の方が詳しいだろうからな」

 

「永遠亭の薬売り?鈴仙がよく売り歩いているから効能なんかはよく知ってるから疑う気はないんだぜ、でもお前とそっちの黒髪の男は初めて見る顔だな」

 

「当たり前だろ、こいつら…金髪の方は垣根帝督、それで黒髪の方は上条当麻って言うんだが2人とも外来人だよ。訳合って今は私達4人で薬を売り歩いているんだ」

 

「そうですか、では1度パチュリー様に喘息の薬の在庫を窺ってみましょう。ですが…そちらの2人の男性は人間、ですか?」

 

私からの質問に妹紅が答えた後で今度は美鈴が門の前に立ち塞がったまま2人に問い掛ける、いきなり『人間なんですか?』って質問はどうかと思うが…

 

「失礼な門番だな、一応俺達は客の立場にあるんだからその客に対し」

 

「あーストップストップ!!だからその喧嘩腰で話すのは止めろ、垣根!お願いだから大切なお客さんを刺激するなよ、な!?…えっと、ところで俺と垣根が人間なのか?って質問だよな、証明しろと言われると垣根も上条さんもそれを証明する方法が無いだけに困るんだ。ほら、幻想郷の妖怪って人と姿形がそっくりなやつが多いだろ?」

 

それからすぐに『勿論俺と垣根は人間だ』と付け加えて当麻は半歩引き下がった

それはまったくフォローになってないぜ、黒髪じゃなくて上条!まぁ質問をした美鈴の聞き方にも問題があるよな、そもそも質問者の美鈴自体妖怪だけど見た目はこれ以上無いほど人間なんだぜ

でも外来人なんて珍しいな、それも2人ともただの外来人とは思えない何かを持っている予感がするぜ!

とりあえずこの外来人2人に助け舟を出してやろう、ついでに私も紅魔館に侵入(はい)れたら万々歳だからな。そう思って私が『2人が人間かどうかは置いておいて立ち話も何だから中に入ろうぜ』と言おうとした時だった

 

「へぇ、面白い人妖が揃ってるんだな。永い夜の異変で私に負けた2人と…外来人2人か、我が紅魔館に何か用でもあるのか?」

 

いつの間にか陽はその身のほとんどを地平線に隠し、辺りの景色を暗く染め上げていた。何かに反応するように夕闇を舞う蝙蝠、辺り一帯の景色とは反比例してその『紅』が目立つ紅魔館

そして極め付けはそんな空間が全て自分の引き立て役だと言わんばかりに悠然と宙に浮かぶ吸血鬼―――レミリア・スカーレットのにやりと笑みを浮かべた顔だった

 

やがて抵抗するように僅かに辺りを照らしていた陽も完全に沈んでしまった、そう……これからは吸血鬼達の時間である




危ない危ない、もうちょっとで更新間隔が二週間に達してしまう所でしたよ。さすがに二週間も開ける訳にはいきませんからね、と言うのもどうやら今まで以上に私情で厄介事が増えまして…言い訳にしかなりませんが申し訳ありません、更新間隔が落ちるかもしれません。失踪だけはしないことは確かなのでその点はご安心ください

さて、いよいよおぜうもといレミリアお嬢様が御自らご登場なさいました。やっぱり夜の紅魔館に辿り着くなんて上条さんの不幸は安定だな~、あはは~

P.S 私も皆さんのようにかっこよくルビが振りたい

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