クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 紫銀の月   作:MIDNIGHT

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遠き故郷

アウローラを脱出したセラ達がパラメイルで上空を飛行する中、突如現れた一撃に戸惑う余裕もなく、編隊を崩したナオミのミネルヴァは反転し、アイオーンへと襲い掛かる。

 

「ちぃっ!!」

 

舌打ちし、セラはアイオーンを旋回させ、アンジュ達と距離を取る。セラを追うようにナオミもまた進路を変える。ナオミの狙いが自分である以上、アンジュ達を巻き込みかねない。

 

距離を取ってナオミと離れるセラにアンジュが眼を見開く。

 

「セラ――っ!」

 

だが、気にかける余裕はすぐさまなくなった。彼方より別の機影が突入してくる。

 

エルシャとクリスのレイジア、テオドーラの二機がビームライフルを手に狙撃し、アンジュ達も回避のためバラバラになる。

 

だが、二機はアンジュ達を無視し、そのまま海上で止まるアウローラに向かっていく。

 

「アウローラが!?」

 

急ぎ反転しようとするが、接近を告げる警告が響き、ハッと顔を上げると、急降下してくるクレオパトラが映る。剣を振り上げ、迫る機影にアンジュも反射的にヴィルキスを変形させ、剣を掴み取る。

 

金属の衝撃音が響き渡り、空気を振動させる。ギリギリで間に合い、耐えるアンジュにクレオパトラのコックピットでサリアがほくそ笑む。

 

「見つけたわよ、アンジュ」

 

冷淡な口調で告げ、サリアは操縦桿を動かし、ヴィルキスを弾き飛ばした。

 

その間にレイジアとテオドーラはアウローラへ襲撃し、攻撃を仕掛ける。放たれるビームが海面を蒸発させ、水柱が幾度も上がり、船内が大きく揺れる。

 

揺れる船体のなか、負傷したジルを担架に乗せて、マギーは眼を覚まして合流したメイと共に医務室に向かっていた。

 

ジャスミンはゾーラと共にブリッジに上がる。ブリッジ内のパメラ達は、まだ催眠ガスの効果があるのか、コンソールに伏していた。

 

「ゾーラ、アンタは火器管制を!」

 

「分かった!」

 

今は一方的に狙われており、このままでは致命的な損傷を受けて、潜行することもできなくなる。ゾーラは空いているシートに着き、すぐさまアウローラの火器管制を起動させる。

 

船体上部甲板のカバーが開閉し、砲塔が顔を見せる。5連装になった砲塔が一斉に上部を向き、弾丸を発射し、対空弾幕を張る。

 

向かってくる弾頭にエルシャとクリスは一旦攻撃を止め、距離を取る。

 

「皆、しっかりしな! 敵襲だよ!!」

 

振動が軽減され、操舵用の舵を取りつつ、ジャスミンは声を上げてパメラ達を起こす。振動と大声にようやくガスの効果が薄れてきたのか、パメラ達が身をよじりながら、頭を振って覚醒する。

 

まだ思考がハッキリしないなか、パメラ達は急ぎ状況を確認する。モニターに周辺海域や空域の立体図が映し出され、アウローラの真上で複数の機影が入り乱れている。

 

「敵、ラグナメイル4機確認!」

 

「セラ機及びアンジュ機、敵ラグナメイルと交戦中!」

 

援護のつもりか、それとも単に優先目標が違うのか―――判別はできかねたが、敵の注意が逸れた今がチャンスだ。

 

「誰のせいでこんなことになったのか……わかってんのかねぇ、まったく」

 

苦々しくジャスミンは悪態を零した。元を正せば、ジルの暴走がこの状況を招いたとも言えるだけに、厄介なものだ。とはいえ、いつまでも海上で棒立ちしている訳にはいかない。

 

「急速潜行するよ、ハッチ閉鎖!」

 

「了解」

 

発進ハッチが閉じられ、同時に艦内へ海水を注水し、機体を潜行させて行く。その間に、上空では激しい攻防が繰り広げられていた。

 

アウローラの上空でアイオーンとミネルヴァは戦闘機動を行い、互いにぶつかり合う。

 

ミネルヴァが放つビームを掻い潜り、セラはレーヴァティンの照準を合わせるが、不意にアルゼナルで見たロッカーに貼られた写真が過ぎり、歯噛みする。

 

僅かにブレて放たれた一撃をナオミは難なくかわし、ミネルヴァのウイングビットを離脱させる。分たれたビットの先端から銃口が突き出し、熱が迸る。

 

無数に空中を走るビームの弾幕を回避し、距離を取りながらセラはレーヴァティンを近接用に展開し、構える。それに応じるようにミネルヴァもまた空中で静止し、ライフルを下げ、ウイングビットが背中に戻り、腰に帯刀するグラムを掴み取る。

 

対峙し、互いの視線が交錯した瞬間、アイオーンとミネルヴァは相手に向かって加速する。レーヴァティンとグラムの激突が轟き、密着した状態で刃を振るう。

 

幾度も煌く剣閃と金属のぶつかり合う音が木霊する。鍔迫り合いを行い、互いに弾くように距離を取った瞬間、ナオミは左腕に装備させていたグレネードを発射する。

 

完全に不意を突かれたセラは次の瞬間、衝撃が機体を襲う。

 

「っっ」

 

体勢を崩すアイオーンを捕らえようとナオミはミネルヴァを加速させようとした瞬間、下方から警告音が響き、反射的に機体を仰け反らせる。

 

掠めるように銃弾が過ぎり、セラとナオミが視線を向けると、ココとミランダのグレイブが突入してきた。

 

「ナオミ! やめて!」

 

「何やってるのよ、あんた!?」

 

葛藤を滲ませながらミネルヴァに向かう二人にセラは間髪入れず、叫んだ。

 

「ダメだ、戻れ!」

 

だが、それは届かず、威嚇するように迫る二機にナオミは唇を噛み、苛立たしげに一瞥した。

 

「邪魔、しないで―――――!!!」

 

ナオミの激情に突き動かされるように、ミネルヴァのウイングが離脱し、先端が鋭くなり、真っ直ぐに加速する。ココとミランダがそれを視認した瞬間、ウイングビットがグレイブ二機の主翼を破壊した。

 

「「きゃぁぁぁぁぁっっ!」」

 

制御を失い、ココとミランダのグレイブは蛇行しながら海面へと落下していった。その悲鳴にナオミは一瞬、辛そうに顔を顰めるも、振り切るように一瞥する。

 

「二人とも、ゴメン―――」

 

小さく謝罪を漏らすと、再びアイオーンへと視線を向ける。

 

「ナオミ、あなた―――!」

 

さしものセラもココとミランダが落とされたことに憤りを隠せず、操縦桿を握り締めた。

 

「セラ―――っ!」

 

ナオミもアイオーンを見据えながら、二機は互いに加速し、レーヴァテインとグラムの刃が激突し、空中に衝撃の波紋を広げた。

 

 

 

 

「このぉぉぉ」

 

弾き飛ばされたアンジュは体勢を戻し、アウローラを攻撃するレイジアとテオドーラに迫る。ビームを放ち、二機は攻撃を止め、距離を取る。

 

だが、別方向から銃弾が迫り、機体を翻す。ヴィルキスの援護のため、ヴィヴィアンのレイザーとリーファの黄龍號、タスクの飛行艇が向かってきた。

 

「急いでくれ、アウローラ!」

 

焦燥に駆られながら、タスクは眼下のアウローラを見やる。このまま無防備に沈められるわけにはいかない。袂を分かったとはいえ、あの艦もまだ必要なものだ。

 

だが、それに注意を取られたため、僅かな隙ができ、それを見留めたクリスがテオドーラのアンカーを発射する。射出されたアンカーが飛行艇を掠め、それによって制御が乱れる。

 

「うわっ!」

 

バランスを崩した拍子に、モモカの身体が後ろへと押し出され、次の瞬間には飛行艇から振り落とされた。

 

「きゃああああああああああ!!」

 

悲鳴を上げてモモカは真っすぐに落下していく。

 

「しまった…!?」

 

「モモカ―――!?」

 

タスクが歯噛みし、アンジュが悲痛な声を上げる。

 

「マナ! マナの光!! マナの光よ!!」

 

落下していくなか、モモカは混乱しながらも、必死にマナの光を顕現させる。光がスカートに集中し、まるでパラシュートのように浮遊し、落下スピードを緩和させていく。

 

減速し、垂直に降下していくモモカにアンジュは思わず胸を撫で下ろし、タスクも安堵して回収しようと降下する。

 

モモカも危機を脱したことに安堵して息を吐いて気を抜いた瞬間、彼女の背後の景色が歪み、凹凸が浮かび上がる。

 

タスクが眼を見開いた瞬間、モモカの背後に深紅のパラメイルが姿を見せ、そのまま腕を伸ばしてモモカの身体を捕まえた。

 

「きゃぁぁ、アンジュリーゼ様!」

 

「モモカ!?」

 

再度の悲鳴を聞き、アンジュも突然姿を見せたパラメイルに、驚く。

 

「光学迷彩!? 隠れていたのか?」

 

思わぬ伏兵にタスクが悔し気に唇を噛むと、パラメイルはモモカを引き寄せ、手にライフルを構えて飛行艇に向けて発射する。タスクは慌てて回避し、必死の表情で睨みつける。

 

「あの鼻垂れ坊主が随分、いい顔するようになったなあ」

 

唐突にパラメイルから聞こえた声にタスクが息を呑んで、呼吸が止まる。

 

「父親譲りかね!」

 

再度発砲し、茫然となっていたタスクがハッと我に返り、慌てて旋回する。だが、心持ちは搔き乱されたままだ。

 

「そんな、まさか……アイビス、さん―――」

 

脳裏をよぎる、幼い自分を撫でる母親によく似た女性の面影―――だが、それも降り注ぐ銃弾によって浸る間もなく、搔き消される。

 

「どうして、何故貴女がこんな―――!?」

 

訳が分からずに叫ぶ。タスクは眼の前のパラメイルに乗っているのがアイビス―――自身の姉のような存在であった叔母だと嫌でも理解し、困惑する。

 

「この娘は貰っていくぜ―――理由は、『アレクトラ』にでも訊きな!!」

 

戸惑うタスクに無情に告げ、アイビスの駆るディーヴァがライフルの銃身にセットしていたグレネードを発射し、飛行艇の眼前で自解し、細かな砲弾が飛び散り、降り注いだ。

 

タスクは咄嗟に回避するも、広範囲に渡って降り掛かる弾頭にすべてかわせず、飛行艇の主翼が破砕され、飛行艇も制御を失う。

 

「うわぁぁぁっっ」

 

呻きながら、タスクの飛行艇も海上へと落とされ、テオドーラと交戦していたリーファが動揺する。

 

「タスク殿――っっ!」

 

注意が逸れた僅かな隙を突き、クリスは背中に向けて容赦なく剣を振り下ろし、一閃を刻まれ、黄龍號が爆発に包まれる。

 

「くっ、これしき―――!」

 

不覚と自身を嗜め、反撃とばかりにファングを展開し、テオドーラに砲撃させる。ファングから放たれるビームに晒され、クリスは舌打ちする。

 

「鬱陶しい、腹立つ」

 

ボソッと苛立ちを漏らし、乱雑にビームを放って逆に攪乱し返す。無秩序に放たれるビームに、リーファも相手の出方を見極められず、動きが鈍る。

 

だが、そんな膠着状態にヴィヴィアンのレイザーが飛び込む。入り乱れるビームの中をトリッキーに掻い潜り、背中のブーメランを掴む。

 

「飛んでけー! ブンブン丸!!」

 

振りかぶって投げられたブーメランが、回転しながら曲線を描き、テオドーラの死角から急降下し、クリスは小さく悲鳴を上げながら操縦桿を引き、テオドーラが寸前で制動をかけるが、僅かに遅れたビームライフルの砲身が切り飛ばされ、爆発が起こる。

 

「もう一丁!」

 

怯むテオドーラに、手元に戻ったブーメランを再度振りかぶろうとした瞬間―――アンジュと交戦していたエルシャがそれを見留める。

 

冷静にヴィルキスを牽制し、銃口をあさってに構える。

 

「おイタはダメでしょ……ヴィヴィちゃん」

 

砲兵として培った経験故か、レイジアがレイザーに向けてビームライフルを放ち、長距離にも関わらず、レイザーの背中に直撃する。

 

「うわっっと!!」

 

「きゃぁぁぁ!!」

 

衝撃にヴィヴィアンが慌て、同乗するミスティが悲鳴を上げる。煙を上げながら推力を失い、落下していくレイザーにリーファも眼を見開く。

 

だが、それによって注意が逸れ、クリスは目敏くその隙を狙う。

 

「墜ちなさいよ!」

 

背後に忍び寄り、剣を振り下ろし、僅かに遅れて振り返った黄龍號の無防備なボディに一閃が刻まれる。刹那、爆発が起こり、衝撃が機体を襲う。

 

「あぁぁぁぁぁっっ!」

 

爆発に呻きながら、黄龍號もまた海面へと落ちていった。

 

「ヴィヴィアン! ドラゴン女!?」

 

瞬く間にレイザーと黄龍號が行動不能にされ、モモカも捕まった。頼みのセラもナオミとの戦いで手一杯なのか、援護に来れそうにない。

 

歯噛みしながら、ヴィルキスは向こうの世界で装備された龍神器と同じ高出力ビームライフルを構え、レイジアとテオドーラに向けて、砲撃する。

 

だが、相手がエルシャとクリスということもあって、照準を合わせることができない。そして、そんな精度の砲撃をかわせないほど、二人の腕は悪くはない。

 

「どうして、なんでよ!?」

 

アウローラを躊躇いなく攻撃したことといい、どうしてかつての仲間を撃てるのか―――戸惑うアンジュを他所に、二人はアウローラが海中へと完全に姿を消したことに眉を顰める。

 

ラグナメイルには海中を追撃できる機能はない――元々、アウローラの撃沈は『ついで』なのだ。本命は―――剣呑な視線がヴィルキスを捉える。

 

「クリスちゃん、やるわよ」

 

「分かった」

 

レイジアがヴィルキスに向けて、ビームライフルを斉射する。

 

「っ!」

 

途切れぬように襲い掛かる火線は、一射一射がエルシャの砲撃の腕を証明するように正確だ。晒され、翻弄されるヴィルキスにクリスのテオドーラが大きく弧を描き、横殴りにアンカーを発射した。

 

反応の遅れたアンジュはアンカーの衝撃をモロに受け、体勢を崩す。そこへレイジアもまたアンカーを発射し、ヴィルキスの右腕に巻き付き、拘束する。クリスもまたテオドーラのアンカーを引き戻し、再発射してヴィルキスの左腕を拘束する。

 

両方向から捕らえられ、動きを封じられるヴィルキスに、アンジュは嫌な既視感を思い出す。

 

「これって―――!?」

 

先日の出来事が脳裏を過ぎった瞬間、 今まで姿を消していたクレオパトラが上空から強襲する。剣を振り上げ、ヴィルキスのコックピットハッチを斬り飛ばした。

 

露になって顔を上げるアンジュの眼前にクレオパトラが静止し、ハッチを開く。

 

「陣形、シャイニング・ローズ・トライアングル2―――」

 

不敵に自画自賛するように笑うサリアが身を乗り出し、銃を構える。

 

「さようなら、アンジュ―――」

 

乾いた音をアンジュが近くしたと同時に胸が熱くなる。アンジュの左胸に一発の銃弾が撃ち込まれ、小さく血が噴き出し、意識が朦朧となる。

 

(セ…ラ…………)

 

セラに手を伸ばすように声を出そうとするが、アンジュの意識は途切れた。そのままハッチから機外へと身体が落ち、落下する。

 

それをクレオパトラが手を伸ばし、キャッチする。己の手の中で意識を失い、倒れ伏すアンジュにサリアは言いようのない快感を覚えた。

 

暫し、その快感に耽りそうになるが、エルシャが口を挟んだ。

 

「サリアちゃん、ナオミちゃんを止めないと」

 

名残惜しそうに眉を顰めるも、気を取り直し、サリアは視線を上空で交錯する二機へと向けた。

 

 

 

上空では、いまだアイオーンとミネルヴァの激しい攻防が続いていた。ココとミランダを墜とされたものの、全力を出しあぐねるセラと、全力で捕らえにかかるナオミの戦いは膠着していた。

 

互いに刃を交錯させ、機体同士が呼応する。歯噛みして弾き、距離を取った瞬間、別の声が割って入った。

 

「そこまでよ、セラ!」

 

唐突に割り込んだ声に、セラとナオミは動きを止め、声の方向に視線を向けると、セラは息を呑んだ。

 

モモカを捕えるディーヴァとヴィルキスを吊り下げるように拘束するレイジアとテオドーラ、そしてその前にはサリアのクレオパトラが悠然と佇んでおり、開かれたハッチに立つサリアの腕には、意識を失うアンジュが抱えられていた。

 

「おとなしくしてもらうわ――従わないなら、アンジュの命は保障しないわよ」

 

冷淡に脅しながら、サリアは持っている銃口をアンジュの頭に添える。その光景に舌打ちする。視線をモニターに走らせる。

 

アンジュ以外は既に墜とされた。なんとか海面に着水したらしく、無事なようだが、もう援護に戻るのは難しい。アンジュも意識を失っているが、胸に小さな傷がある。

 

多勢に無勢――まだアンジュが人質でなかったなら、強引に突き破れたかもしれないが、この場は『詰み』(チェックメイト)だと理解し、無言でレーヴァテインを下げ、投降の意を表した。

 

「アンジュと違って素直ね。ナオミ、セラを連れてきて」

 

満足気にするサリアに少し腹が立ち、何かを思い立ったのか、口元が不敵に笑った。

 

「随分、イタについてるじゃない、サリア―――『魔法少女』(プリティサリアン)より、そっちの方が似合ってるわよ」

 

不意打ち気味に告げられた言葉に、サリアは羞恥にたじろぐ。

 

「な、なな………ダイヤモンドローズ騎士団、帰還するわよ!」

 

慌てて声を張り上げ、アンジュを抱えたままクレオパトラが旋回し、エルシャは苦笑し、クリスは呆れたように嘆息して後を追った。

 

アイビスは何の感慨もないとばかりにモモカを掴んだまま飛び立つ。そして、静止するアイオーンの両肩をミネルヴァが抱え、後を追って飛び立つ。

 

連れられるなか、セラは今一度海面で漂うタスクやリーファ達を見やる。不安は残るが、ここは彼らの運を信じるしかない。

 

ともあれ、行き先はミスルギ皇国だろう。そこまでは何も起こるまい―――ふてぶてしくシートに座り込み、腕で後頭部を抱えて身体を休めた。

 

飛行するなか、ミネルヴァのハッチが開放され、ナオミが顔を出す。そのまま空中にも関わらず腕をつたって、アイオーンへと乗り移る。

 

そして、ハッチの開放スイッチを押した。唐突にハッチが開いたことに、怪訝そうにセラが顔を上げると、そこにはナオミが立っていた。

 

「ナオミ……?」

 

驚くセラだったが、ナオミは数秒見つめたまま、やがて眼に涙を浮かべ、コックピットに飛び込む。呆気にとられるセラに抱きつき、ナオミはセラの胸に顔を埋め、嗚咽を零した。

 

啜り泣くナオミにセラは複雑な面持ちだったが、今のナオミに声を掛けることも、応じることもなかった。そんな状態のまま、ミスルギ皇国へと連行されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンジュの意識は、水の中を漂うような浮遊感の中にあった。

 

(不覚だわ、サリアにやられるなんて……)

 

してやられたことに、悔しさを覚えるも、銃で撃たれたのを、アンジュは曖昧な感覚のなかで感じていた。このまま死ぬのかと、怒りと悲哀が満ちてくる。

 

やがて、アンジュの意識は『底』へと辿り着く。

 

(これって…お母様の育てていた薔薇の――――)

 

自分の周りから漂う香りに過去の記憶が呼び起こされる。同時に、ここが『あの世』かと思い始めていたアンジュの頭に声が聞こえてきた。

 

『アンジュリーゼ様、起きてください、アンジュリーゼ様』

 

(モモカ……?)

 

自身を遠くから呼ぶモモカの声が、アンジュの意識をすくい上げる。やがて、朦朧とする意識が覚醒し、ハッと眼を開けると、すぐ真上に覗き込むモモカの顔が映り、思わず眼を見開く。

 

「わっ!」

 

驚きに、ガバッと上半身を起こす。反射的に身を引いたモモカが顔を綻ばせる。

 

「おはようございます、アンジュリーゼ様」

 

「モモカ?」

 

「はい」

 

笑顔で頷くモモカに、まだ思考が纏まらず、無意識に口が動いた。

 

「ここは…?」

 

「アンジュリーゼ様のお部屋です!」

 

思わぬ答えに、アンジュは戸惑いの表情を浮かべる。

 

「部屋? 部屋ってどこの!? アルゼナル!?」

 

アウローラに回収されたのだろうか、と問い掛けるとモモカは軽く首を振る。

 

「違います! 本当に本物の、アンジュリーゼ様のお部屋です!」

 

手を広げて促され、室内を見渡すと―――確かに見覚えのある間取りをしていた。いや、そこは間違いなく半年前まで『皇女アンジュリーゼ』の部屋だった場所だ。

 

何故こんな場所にいるのかとさらに困惑し、視線を窓側に動かすと、大きな出窓の額縁に片脚を曲げて座るセラがいた。

 

「ようやくお目覚め?」

 

アンジュの視線に気づいたのか、こちらに顔を向けると、小さく息を吐いた。

 

「セ、セラ――」

 

自分の部屋にセラがいることに違和感を覚え、思わずベッドから立ち上がり、まだフラつく身体を支える。

 

「お掃除もお手入れもキチンとされていて、全部あの日のままです!」

 

確かに、半年間使っていなかったにしては、カーペットに埃もない。そのまま、セラも視線を向けている窓を覗き込むと、そこはずっと見ていた、変わらぬ光景が広がっている。

 

生まれ育った皇居とその傍で聳える暁ノ御柱、そしてその前に広がる街並み――アンジュの記憶の中にあるものと一致した。

 

「じゃあ、ここは…」

 

「ミスルギ皇国―――マナに堕落させられた国」

 

アンジュの言葉にセラは最大限の皮肉と侮蔑を込めて答えた。その言葉にアンジュは以前の処刑を思い出したのか、顔を顰める。

 

だが、不意に部屋に満ちる香りに気づき、視線を向けると、かつて自身が使用していたドレッサーの回りに、埋め尽くさんばかりの花が置かれていた。

 

先程の夢で感じたものはこれかと近づくと、ドレッサーの上に一枚の手紙が置かれているのに気づいた。それを手に取って見てみると、そこに書いてある名前に、アンジュは怒りで顔を顰めた。

 

「エンブリヲ――」

 

流暢なサインで綴られた名に思わず手紙を握りつぶした。グシャグシャに丸めたそれを放り捨てると、ようやく自分がネグリジェ姿だと気づき、モモカに着替えを要求した。

 

モモカは間髪入れず応じ、すぐさまクローゼットから一式を取り出し、駆け戻ってきた。

 

「お、おおおおお! 本物のシルク! スベスベ~!」

 

手に持つ真っ白なレースのパンティーに興奮するモモカに、アンジュは恥ずかしくなる。

 

「一人で履けるってば」

 

ただでさえ、セラが傍にいるのに、こんな恥ずかしい姿をいつまでも晒していたくない。ネグリジェを脱いで、生まれたままの姿で焦れるアンジュにモモカが全力で否定した。

 

「いけません! 皇宮の中では、私のお世話を受けていただきます!」

 

鼻息荒く、まるで使命だと言わんばかりに話すモモカに、嘆息する。

 

「じゃあ早くして、スースーする」

 

「はい!」

 

無駄に気合の入った返事とともに、モモカがアンジュに下着をはじめ、服を着せていく。その様を遠目で見ながら、セラはアルゼナルで最初、着替えも一人でできなかったアンジュを思い出し、ある意味でモモカが原因かと今更ながら納得した。

 

そんなセラの呆れを横に、着替えはスムーズに進むも、用意されたドレスにアンジュは難色を示す。

 

「ねえ、もうちょっと動きやすそうなやつって無いの? っていうか、セラのその服、どうしたのよ?」

 

アンジュは今更ながら、セラが着ているのは、アルゼナルの制服だと気づいた。少なくとも、この皇居にあんな服は無かったはずだ。

 

「はい、アレは私が用意しました」

 

モモカからの意外な返事に、戸惑う。反対にセラは苦虫を噛み潰したように顔を顰める。

 

「こういう時は便利よね―――好きにはなれないけど」

 

セラが今着ているアルゼナルの制服は、モモカがマナで構成したものだった。アルゼナルでセラの世話をしていた際に服の洗濯もやっていたので、細部までしっかりと記憶している。

 

サイズも計ったようにピッタリだ。

 

「本当は、セラ様にもドレスを着て欲しかったのですが―――」

 

モモカが残念そうにするも、セラが全力で拒否したからだ。

 

「あんなヒラヒラしたのを着るぐらいなら、マナで作った制服の方がまだマシよ」

 

この皇居に連れてこられた際に、モモカが用意したドレスは、セラの性に合わないほど辟易するものだった。だからこそ、不本意ながら、嫌悪するマナを使ってでも制服を用意してもらった。

 

微妙な表情を浮かべるセラに、アンジュもそれ以上言えず、やがて複雑な面持ちで窓の外の暁ノ御柱を見る。かつて、この部屋から見る暁ノ御柱がアンジュのお気に入りだった。 

 

「また、帰ってきたんだ……」

 

形容しがたい気持ちでアンジュが呟いた。帰りたいと願い、そしてジュリオに騙されて、シルヴィアや国民に処刑されかけた。激しく憎み、そして――もう二度と戻らぬ場所と思っていたかつての遠き故郷。

 

不意に、セラを見やった。

 

あの処刑の時は、まだ知る前でもあったし、それ所ではなかったが、セラにとってもこの国は故郷なのだ。その事実を知った彼女が、今何を思っているのか、彼女の横顔からは窺い知れない。

 

微かな不安が燻りそうになるも、無意識に首を振る。

 

「でも、どうしてサリアが私達をここに?」

 

「分かりません。私も、あの後気を失って、眼が覚めるとこちらにいましたので」

 

モモカもディーヴァに捕まった拍子に気を失い、次に眼が覚めたら、馴染みあるミスルギ皇居だったのだ。アンジュも確認したが、アウローラを脱出してからまだ数時間ほどしか経っていない。

 

不意に、視線が先程サリアに銃撃された胸元に向く。小さな絆創膏を貼られた後に、不機嫌気味になる。

 

(何がさよならよ、ただの麻酔銃じゃない)

 

正直、あの撃たれた時は一瞬、死を覚悟した。内心で悪態をつくアンジュは、セラを見やった。

 

「ねえ、セラ――あなたはここに連れて来られるまでのこと、分かる?」

 

おずおずと訊ねると、セラは小さく肩を竦める。

 

「あの後、あなたを人質にサリアに脅されて、投降した。そして、ここへと連れてこられたのが二時間ほど前」

 

淡々と話を続ける。

 

ミスルギ皇国へと着くと、そのまま気を失っていたアンジュと一緒にここへと案内された。さすがに機体は押さえられてしまったが、その後はアンジュが目覚めるまで放置されていた。

 

とはいえ、その先はまだ行動を決めかねていたため、こうして身体を休めていた。そこまで話を聞き、アンジュは不意に思い出し、声を上げた。

 

「タスクやヴィヴィアンは、あのドラゴン女は!?」

 

この場に居るのはこの三人のみ。だが、セラの話を聞く限り、残りの面々がここに連れてこられている可能性は低かった。

 

「最後に見た限りは、なんとか無事だったけどね」

 

海上で漂っているのを確認したのが最後――その後のことは分からない。

 

「無事かしら―――」

 

不安な面持ちで身を案じる。

 

「あの子達の悪運を、信じるしかないんじゃない」

 

無責任とも取れるが、タスクや他の面々も、ここまで生き残ってきたのだ。なら、その運を信じるしかない。それは決して悲観的なものではなく、信頼から来るものだと察し、アンジュも表情を和らげる。

 

「そうね……無事よね」

 

少しは気持ちが楽になった。そのタイミングで、テキパキと着替えを行っていたモモカが作業を完了する。

 

「はい、終わりました」

 

ひと仕事終えたとばかりに満足気になるモモカに頷き返し、そして服を触って身体の不調がないか確認し、ドレッサーの鏡を見やり、映る自分に不敵に笑い返す。

 

「よし」

 

アンジュは不敵な笑みを浮かべると、ドレッサーの引き出しを開け、そこに置かれていた万年筆やペーパーナイフなどを手に取る。

 

「アンジュリーゼ様?」

 

「本当は、ライフルかグレネードが欲しいところだけど、無いよりはマシね」

 

困惑するモモカを横に、武器になりそうなめぼしいものを集めると、それをドレスのポケットに入れる。

 

「アンジュリーゼ様、何を――?」

 

まだ行動の意味が分からずにいるモモカが不安気に問い掛けると、アンジュは小さく鼻を鳴らす。

 

「襲撃よ、この花と手紙の送り主のところにね」

 

さも当然とばかりに、告げるアンジュにセラは再び大きく嘆息する。ドラゴンの世界でもそうやって、失敗したというのに懲りないな、と呆れる。

 

だが、相手はまだ得体の知れない部分が見え隠れする相手だ。不意打ちもいいが、下手に仕掛けて返り討ちにあう危険もある。嗜めようと腰を浮かした瞬間―――

 

「それは許可できないわね」

 

第三者の声に立ち上がったセラと振り返ったアンジュとモモカは、無遠慮にドアを開けて入ってきた人物を見やった。

 

「サリア―――」

 

先頭で入室してきたのは、不敵に笑うサリア。その横には見慣れない顔の女性が二人、従うように立っていた。

 

アンジュはどこか、怒り混じりに見やる。セラはサリアの両隣にいる二人に眼を細める。

 

「あなた達、確か第三中隊の―――」

 

ドラゴン襲撃後の第一中隊の再編時に見た顔だった。確か、『イルマ』と『ターニャ』―――その二人も、サリアと同じ濃紺の制服を着ている。

 

「成る程、あなた達も見限ったってわけだ」

 

彼女達以外のメンバーはあの戦いで戦死した―――知ってか知らずか、どんな経緯があったかは知らないが、彼女達もジルを見限ったということだ。

 

軽蔑するような視線を向けると、イルマとターニャの二人は僅かにたじろぐ。

 

「相変わらずね、セラ―――でもね、私達は真に仕える主を見つけたのよ」

 

どこか芝居掛かった口調に、セラだけでなくアンジュも呆気に取られる。

 

「分かる? 私が今までとは違うって――こんな格言を知ってるかしら? 『女子三日会わざれば刮目して見よ』―――もう、私は昔の私じゃないわ」

 

相変わらず薄い胸板を、これでもかと張りながら声高に告げるサリアに、ドン引きしてしまう。そんな様子に、圧倒されていると勘違いしたのか、サリアは自信満々に話す。

 

「あなた達はエンブリヲ様の捕虜よ。勝手な行動は許さないわ」

 

「エンブリヲ様…ねぇ―――何があったの、一体? あんなに司令が大好きだった貴方が」

 

呆れ気味にため息をこぼし、訝しげに訊ねる。少なくとも、サリアのジルに対する信奉は、傍から見ていてもかなりのものだった。

 

それをこうもバッサリと心変わりしたことに、未だに理解できなかった。そんなアンジュに対して、サリアは鼻を得意気に鳴らす。

 

「別に。眼が覚めただけよ―――私が本当に仕える人が誰かね」

 

ミスルギ皇国によるアルゼナルの襲撃の運命の日―――アンジュに機体を破壊され、海に墜とされたサリアは、そのまま海の藻屑になりそうになった。

 

だが、サリアの心はその時、絶望と諦観に達していた。目標としていたヴィルキスのライダーになることは叶わず、そして信頼していたジルからの裏切り、そして、自分の全てを奪ったアンジュとの敗北―――もはや、生きる意味を失ったサリアは死を受け入れようとしていた。

 

満ちる海水がコックピットに充満し、潮水が呼吸を奪い、意識を完全に呑み込もうとしたタイミングで、サリアを呼ぶ声を聞いた。それに引き寄せられるように眼を覚ましたサリアが次に見たのは、このミスルギの皇居の一室だった。

 

そこでサリアを助けたのが、エンブリヲだった。

 

「あの方は、私を救ってくれた。私を生まれ変わらせてくれた―――」

 

目標を失い、信じる者に裏切られ、路頭に迷っていたサリアに優しげに声をかけ、接してくれた。それは、サリアが初めて味わう至福の一時だった。

 

アルゼナルでは決して、満たされることのなかったものに、落差を覚え、同時にジルに対する信頼が霧散していった。

 

「アレクトラは、最初から私を必要なんてしていなかった。いくら頑張っても、決して報われることはなかった―――でもあの方は…」

 

いつかの夜。テラスで、静かに星を見上げていたサリアに、エンブリヲは優しく囁いた。

 

『君の美しさ、君の強さ、君の価値は、私が誰よりも分かっている。この世界を変えるために、そして新たな世界を創造するため、力を貸してくれるかい? サリア―――』

 

そして、サリアの指にラグナメイルの鍵である指輪を付けてくれた。それは、図らずもサリアが愛読してやまない少女漫画の1シーンのように見え、サリアの心は完全に篭絡された。

 

「私は見つけたの。本当に護るべき人を」

 

指輪をはめた手を翳すと、うっとりとした恍惚な表情を浮かべる。

 

「私だけじゃない、彼女達もエンブリヲ様に身も心も捧げた、エンブリヲ様の親衛隊。その名も、『ダイヤモンドローズ騎士団』。そして、私はその騎士団長、ナイトリーダーよ」

 

ドヤ顔で宣言するサリアに、アンジュやセラの顔はますます引き攣る。

 

「ダイヤ…モンド……」

 

「長っ」

 

困惑するモモカに、まるで漫画に出そうな名前に、呆れ果てて辟易する。

 

「ま、要約すると、『飼い主』(ジル)に捨てられて路頭に迷っていたところを、『新しい飼い主』(エンブリヲ)に拾われたってことね」

 

「…っっ!?」

 

「餌をくれない飼い主より、可愛がってくれる男の方がイイってわけ? チョロすぎでしょ」

 

セラはジト眼で嗜めるように呟く。ジルのサリアに対する扱いも確かにどうかとは思うが、それでも少し優しくされただけでこの心酔ぶり―――アルゼナルに居た時より、妙に生き生きしている姿に、呆れてしまう。

 

身も蓋もないセラの言葉に、自覚はあったのか、サリアが言葉に詰まる。セラの毒舌にアンジュは思わず失笑してしまう。

 

「ダメ……っっ、でも、貴方に司令を捨てる勇気があったなんてね」

 

必死に笑いを抑えるも、堪えきれず吹き出す。同時に、アンジュも思ったことを口にしてしまった。怒りに震えていたサリアがアンジュを睨み、大股で歩み寄ると、その頬に平手を見舞った。

 

「アンジュリーゼ様!?」

 

突然のことにモモカが驚き、セラも視線を険しくする。僅かに空気が張り詰めたものに変わるなか、サリアはアンジュを睨みつける。

 

「今度侮辱したら許さないわ!」

 

憤りながら、サリアはその手をアンジュの前に翳し、指に光る指輪を見せつける。

 

「私はエンブリヲ様に愛されているの……あなたとは違う」

 

自信を込めて告げるサリアの姿は、どこか滑稽に見えた。それは、裏切られたが故の反転か―――愛憎は裏表とはよく言ったものだ。

 

「それは、よかったわね……っ!」

 

アンジュはサリアの手を押し退け、懐に飛び込むと、手に忍ばせていた万年筆でサリアの左胸の下部を突きつけた。キャップ越しだったので、痛みはないが、サリアは思わず怯み、その隙を逃さず、腰のホルスターに収まっていた銃を奪う。

 

「「騎士団長!」」

 

イルマとターニャが慌てて銃を抜くが、それより早くセラが腰にぶら下げていた雛菊を掴み、帯刀したまま放り投げた。

 

横から回転してくる小太刀が二人の持っていた銃を弾き飛ばし、驚きに固まる二人に向かってセラが駆け寄り、瞬時に距離を詰めると、ターニャの鳩尾に拳を叩き入れた。

 

「かはっ」

 

「ターニャ!?」

 

身体を襲う鈍いもどかしさに呻くターニャに、注意を取られるイルマの隙を逃さず、足払いでイルマの足を引っ掛け、転がされた拍子に身体を打ち付け、意識を失う。

 

「なぁっ……!?」

 

突然のことにサリアは呆気に取られるが、その隙をアンジュは逃さず、サリアの胸元を両手で掴み、あらん限りの力を込める。

 

「どっ、せい……!」

 

「え? きゃぁぁっ」

 

そのまま、一本背負いを仕掛け、サリアをベッドへと投げ飛ばした。ベッドの上に叩きつけられ、思わず悲鳴を上げる。

 

アンジュは、軽く一息つくと、悶絶するサリアに鼻を鳴らす。 

 

「弱っ。あのドラゴン女に比べたら弱過ぎよ。っていうか、さっきから聞いてれば、エンブリヲ様、エンブリヲ様って、イヌなのかしら?」

 

嘲笑されたことに、サリアの顔がまたもや真っ赤になる。

 

「あなたも、イタすぎ。ネーミングセンスも壊滅的だし、だいたい何? 『大根騎士団』って? ま、あなたは楽しそうだけど、私から見ると、イタイことこの上ないわよ」

 

これでもかと罵られ、サリアは悔しさに歯噛みする。掴みかかろうとするも、投げられた際の影響か、まだ三半規管がうまく機能せず、起き上がれない。

 

「行きましょ、セラ、モモカ」

 

「は、はい!」

 

モモカは慌てて応じ、セラも肩を竦めながら、ターニャとイルマが落とした銃を拾う。そのまま、三人は部屋を飛び出していく。

 

「ま、待ちなさい!」

 

なんとか、立ち上がり、フラフラした足取りで部屋を出るも、廊下には既にアンジュ達の姿は見当たらなかった。まだ1分も経っていないのに、まったく姿が消えたことに、サリアは困惑する。

 

「どこに消えたの!? アンジュ!」

 

苛立ちながら叫ぶも、応えるものはいない。サリアは拳をワナワナと震わせ、イルマとターニャを起こすべく、部屋へと戻る。

 

その様子を、アンジュ達は、廊下に備えられていた隠し扉から見つめていた。

 

「残念。ここ、私の家なのよね♪」

 

仮にも皇族の皇居なのだ。万が一に備えての隠し通路がいくつも備えている。ここに来て日の浅いサリア達では、分かるまい。

 

不敵にほくそ笑むアンジュにセラとモモカは顔を見合わせ、苦笑いする。三人はそのまま隠し通路から、皇居内を逃亡していった。

 




GW中には仕上げたかったのですが、思ったより時間が掛かってしまいました。

しかし、前回エンブリヲ様出ると書いておきながら、そこまで行けなかった(汗

やはり、ナオミとセラが絡むと話が長くなるなあ……あまり余計な事言わないようにしないと。

楽しんでいただければ、幸いです。評価、感想をいただけますと、励みになりますので、よろしくお願いいたします。

次に書くのはどれがいいですか?

  • クロスアンジュだよ
  • BLOOD-Cによろしく
  • 今更ながらのプリキュアの続き

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