クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 紫銀の月   作:MIDNIGHT

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鋼のメシア

ドラゴンに組み付かれ、動きを封じられたアイオーンに向かってヒュドラから放たれた閃光が迫り、そこへ傍で控えるドラゴン達の熱線も加わり、巨大な光の渦となって襲いかかった。

 

拘束されていたアイオーンはそれを直撃され、拘束していたドラゴン達の肉体が溶け、機械部品や骨までもがその熱量に耐え切れず、粒子となって霧散していく。

 

拘束されていたアイオーンもまた避けられず、その熱量に呑み込まれ、閃光が黒い姿を覆い尽くしていく。ドラゴンとは違い、簡単に融けはしないものの、降りかかる熱量の方が遥かに高く、かろうじて耐えていたその姿が白い閃光の中に掻き消える。その光景に戦場にいた者達が息を呑む。

 

「モ、モロだ…モロに喰らってしまった……」

 

タスクが掠れた声で絞り出した言葉に全員が非現実的な光景を認識する。光の中で溶けたアイオーンに呆然となる。

 

「そ、そんな………」

 

「いやぁぁぁぁぁぁっっっっ!!」

 

サラマンディーネは唖然となり、アンジュの慟哭が木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――死んだの……」

 

酷く感覚が不安定だ。まるで水中に身投げされたように身体が沈殿しているような状態をおぼろげな感覚で感じ取り、セラは定まらぬ視界のなかでそう呟いた。

 

身体が思うように動かず、まるで見えない糸に引っ張られるように深い…深い『ソコ』へと――――

 

「呆気なかったな―――ホント、命なんて安いものね………」

 

最期に見えたあの熱量は完全に機体ごと、己を呑み込んだ。回避もできず、直撃を受ければ間違いなく滅し飛ばせるほどの熱量だ。

 

その中に自分はアイオーンごと呑み込まれた――考えるまでもない、『死』だ………これまで何度もアルゼナルで見てきたノーマの末路だ。

 

いつかは己にも降り掛かる逃れられない運命―――人間であろうとノーマであろうと、等しく与えられる呆気ない最期―――それが今度は『己』に来たということだろう。

 

いくら腕を磨こうとも、戦場に身を置けば等しく与えられる運命―――覚悟はしていたはずだ。命を、生きるために重ねた『業』の果てに自分にもいつかは与えられる、と。

 

まるで他人事のような冷めた感情だったが、それでもやるせなさが、無力感が胸を刺す。

 

(ゴメン、アンジュ――――)

 

セラは恐らく哭いてしまうであろう姉へ謝罪した。そのまま堕ちていく感覚に身を委ねようとした瞬間―――――

 

 

 

――――――――諦メナイデ……

 

 

 

沈んでいく感覚のなか、不意に『声』が聞こえた。

 

どこかで聞いた憶えがある……不安定だった感覚がなぜか知覚し、先程よりも意識がハッキリしてくる。ぼやけていた視界がクリアになるように、見上げていた瞳がその先にある『ソレ』を捉えた。

 

暗闇の中で浮かぶ微かな炎のような光衣を纏う光―――それがセラを見下ろしている。まるで語り掛けるように輝く『ソレ』が何であるか、セラは理解した。

 

(アイオーン―――まだ、終わってないの……?)

 

語り掛けるセラに答は返ってこない。だが、それに応えるように光はますます輝きを増す。それにセラは不意に笑みを浮かべる。

 

(そう―――まだ、終わりじゃない。まだ、私には…『私達』はまだ、終われない――――!)

 

まだ何も成し得ていない―――自身のことも、その先にあるものも――――――セラの内に鼓動が大きく脈打つ。それに呼応するかのごとく、胸元のペンダントが輝き、光がセラの視界を包む。

 

 

 

――――――『ラグナメイル』ハ強イ『想イ』ニ応エルモノ

 

 

 

再度セラの内に響く声が語りかける。

 

 

 

―――――――『アナタ』ヲ真ノ乗リ手ト認メタ時……『アイオーン』ハ無二ノ力ヲ『アナタ』ニ――――――

 

 

 

頭に響くこの『声』は――ハッと眼を見開く。

 

そうだ――――何故気づかなかった……ずっと………物心つく前から聴いていたあの歌の――彼方で『永遠語り』を唄っていた声―――――

 

(お前は――っっ!!)

 

だが、そこで遮るかのようにその言葉と共にセラの意識は光の中へと消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

光の奔流に呑み込まれたアイオーンに誰もが呆然となり、そして慟哭を上げる。非現実的な光景に無力感が満ちていたが、未だ続くエネルギーの奔流を見つめていたトウハの眉が微かに顰まる。

 

真っ白な閃光の中に、微かに影が見える。

 

次に『ソレ』に気づいたのは、呆然となりながらもその光景を直視していたリーファとタスクだった。

 

「え……?」

 

「アレは―――まさか………っ!」

 

徐々に知覚した視界に飛び込んでくる光景を脳が処理し、理解してくると同時に次に湧き上がってきたのは戸惑いだった。

 

「滅えて、いない――――!」

 

思わず声に出して叫んだタスクの言葉に眼を逸らしていたサラマンディーネも思わず顔を上げ、慟哭していたアンジュも反射的に視線を向けた。

 

「そんな…あり得ない―――!」

 

サラマンディーネは直視した光景に眼を見開き、息を呑む。だが、アンジュは悲壮だった顔に安堵が戻る。

 

「いる―――! アイオーンが…セラ――――――――!」

 

奔流の閃光の中に滅えたはずのアイオーンの影が確かに『そこ』にいる―――――!

 

 

 

 

 

 

「―――っ!!?」

 

次の瞬間、セラの視界に別の光の奔流が飛び込んできた。己が座るのはアイオーンのコックピットであり、機体はあの閃光の中に呑み込まれていた。

 

まるで、時間が巻き戻ったかのような―――いや、隔世の世界から引き戻されたような感覚だった。

 

夢などではない、ハッキリと知覚できる。そして、『なに』をすべきかも――――眼前に迫る『死』にセラは動揺することもなく、落ち着いた面持ちで操縦桿を握りしめる。

 

未だ胸に微かに燻る疑念―――だが、今はそれを捨て、セラはアイオーンに呼び掛ける。

 

「アイオーン―――あなたが私を必要とするのなら、力を貸しなさいっ!!!」

 

セラの叫びに呼応するように、まるで応える鼓動の波紋が幾度も、幾重にも鳴り響く。アイオーンのツインアイに光が灯る。それは命の輝きを示すように爛々と燃え、それに連動し、機体の装甲が変形していく。

 

開かれた装甲下から抑えつけられていた粒子が一斉に放出される。真紅の粒子は閃光の中で溶け合い、アイオーンの周囲に守るかのように霧散していく。

 

閃光の中で舞う粒子がアイオーンの胸部の宝玉に反応し、真紅の色彩を変貌させていく。

 

 

 

――――CE-CBX000-X 『EX-DRIVE』

 

 

 

モニターに今まで見たことがない文字が表示された瞬間、包んでいた死の奔流を吹き飛ばすように粒子が膨張し、拡散する。

 

閃光が掻き消え、その下から眩いばかりの虹色の粒子が満ちる。溢れんばかり粒子がアイオーンから放出され、その姿に変化を齎していた。

 

「あの輝きは……っ!?」

 

その姿を視認したトウハは思わず眼を見開く。無意識に感じるそれは、『畏怖』だった。

 

戦場に満ちる粒子が『それ』を中心に回り、満ちている。それらが祝福するかのような輝きがアイオーンを包む。

 

「アイオーンが…白く―――?」

 

同じくその姿を視認したサラマンディーネは呆然と呟く。

 

漆黒の装甲がまるで虹色の粒子の洗礼を浴びたように白銀に変わり、その下のフレームはエメラルドグリーンの色彩を放つ。背後のスラスターから放出される粒子が形作る翼が雄々しく羽ばたき、以前のアルゼナルで見た形態とも違うその姿にアンジュは見入る。

 

「キレイ――――」

 

その姿は、堕天使が『真』の姿を取り戻したかのような神聖さがあった。魅入られるように見つめるアンジュだったが、ハッと我に返り、叫ぶ。

 

「セラ! セラ、無事なの!?」

 

声を荒げんばかりに呼び掛けると、いつもの『声』が返ってきた。

 

「―――無事よ、心配かけたわね」

 

いつもと変わらない不敵な調子の声――だがそれでも、こちらを気遣うように聞こえてくる声にアンジュは涙を浮かべる。

 

「バカ! 本当にいつも無茶ばっかりしてっ!」

 

思わず愚痴も出るが、今はただセラが生きていることを確認できただけで十分だ。

 

「話は後――来るわよっ!」

 

感傷に浸っていたが、再びドラゴン達が襲い掛かり、ようやく身構える。焔龍號もシステムの不備から立ち直り、応戦しようとするが、それより早く『彼女』が動いた。

 

虹色の粒子を放出していたアイオーンが一瞬身構えた瞬間、一気に加速する。光の軌跡を描きながらドラゴンに一気に間合いを詰め、ドラゴン達が反応した瞬間、その身体を大きく両断された。

 

まるで瞬きした一瞬の出来事―――そう錯覚するかのごとくのスピードだった。ドラゴン達は怯まず、咆哮を上げてアイオーンに襲い掛かる。

 

全身を覆う装甲のハッチが開放され、その下から顔を出した小型弾頭が一斉に発射される。白い尾を描きながらアイオーンに迫るミサイルだったが、アイオーンは翼を拡げて飛び、ミサイルの間隙を縫い、目標を見失ったミサイルに向かってレーヴァティンを放ち、空中で撃ち落とす。

 

だが、一瞬動きを止めたその隙を突き、別のドラゴンが口内に埋め込まれたレーザー口を斉射し、一直線に迫る。アイオーンの無防備な背中に直撃すると思われた一撃は次の瞬間、背後に回り込んだアイギスに防がれ、霧散する。

 

それに戸惑うことなく、今度は複数のレーザーが集中砲火するも、3つのアイギスが集い、巨大な光の盾を作り出し、それすらも拡散させて通さない。

 

伝承に伝わる『魔剣』と『神盾』のごとき、威力を見せる装備を振るうアイオーンにドラゴン達は戦法を変え、一斉に突撃する。

 

全火器を使って迫るドラゴンの攻撃を掻い潜り、加速するアイオーンはレーヴァテインを撃ち、ドラゴンを破壊する。巨大な爆発が満ちるなか、それに怯まず殺到するドラゴン達が先程と同じくアイオーンに掴みかかり、組み付いていく。

 

「また―――!」

 

「セラ―――!」

 

アイオーンの性能に呆気に取られていたが、ようやく復活したアンジュやサラマンディーネはセラを援護しようと向かうも、それを阻むかのようにドラゴンが塞がる。

 

無数のドラゴンに組み付かれ、拘束されるアイオーンのコックピットが振動と暗闇に包まれるも、セラは些かの動揺もなかった。

 

「やってみせなさい、アイオーン!」

 

操縦桿を押し、出力を全開にする。装甲とスラスラーから放出されていた粒子が増し、それは奔流となって組み付いていたドラゴン達を周囲に弾き飛ばす。

 

弾かれた隙を逃さず、アイオーンはその場から飛び、頭上を取るとともにレーヴァティンを撃ち、ドラゴン達を射抜く。

 

撃ち抜かれたドラゴン達が爆発に呑まれるなか、閃光の中から撃ち漏らしたドラゴンが迫る。それに向かってアイオーンはレーヴァティンを大きく振り抜き、一気に突き刺す。

 

加速していたドラゴンはカウンターで放たれた突きをかわせず、身体を貫かれる。刹那、刃に灼熱の焔が走り、それを一気に斬り上げる。

 

真っ直ぐに全身を両断されたドラゴンから離れ、背後で爆発が起こり、アイオーンを照らす。

 

畏怖を感じさせるその姿に唖然となっていたサラマンディーネは、不意に響いた通信に我に返った。モニターには、久遠の姿が映し出される。

 

《サラマンディーネ様》

 

「久遠?」

 

《ご無事ですか?》

 

「え、ええ…私は無事です」

 

唐突な通信に驚きはしたが、それでも眼の前の一部始終に思わず呆然となっていた意識を引き戻してくれた。そして、徐々に思考が冷静に回り始め、状況を分析する。

 

アイオーンのおかげで状況はこちらに好転している。この勢いを逃すわけにはいかない。そう考えるサラマンディーネの意思に応えるように久遠が続けた。

 

《サラマンディーネ様、『天羽々斬』、『火之迦具土神』を使います》

 

冷静な口調で告げられた内容に眼を見開く。

 

「アレはまだ使えないはず―――!」

 

《原因は不明ですが、現在一帯を高濃度の粒子が蔓延しています。それがシステムに何らかの影響を与えたかと思います。既にプログラムは二機に組み込んでいますので、使用は可能です》

 

戸惑うサラマンディーネに対し、落ち着いた口調で進言する久遠の胆力には逆に圧倒される。だが、現状を打破するためにも打てる手は打つべきだ。

 

本音を言えば、まだ『アレ』の存在は隠しておきたかったが、ここで潰えては意味がない。

 

「分かりました。すぐに射出準備を!」

 

《承知しました》

 

思わぬ状況だが、仕方がない。久遠の言葉を信じて、サラマンディーネはアンジュへと通信を繋いだ。

 

「アンジュ、聞こえますか?」

 

「何よ?」

 

「よく聞いてください。今からそちらに『ある』プログラムを転送します。それに従ってください」

 

「は? 何よそれ?」

 

突然の指示に思わず叫ぶ。

 

「話は後で、今は言う通りにしてください!」

 

「わ、分かったわよ!」

 

有無を言わせぬ口調に若干苛立ちと戸惑いを織り交ぜながら、アンジュが了承する。サラマンディーネはすぐさまコンソールを叩き、焔龍號とヴィルキスに組み込んだある『システム』を起動させる。

 

事態を見守っていたアンジュも突然コンソールモニターにプログラムの羅列が流れていく。やがて、認識を終えたのか、モニターにある言葉が表示される。

 

「何、これ?」

 

「起動キーです。音声入力で発動します、それを読み上げてください」

 

「はあ?」

 

今度こそ怪訝そうに声を上げる。

 

「何でそんなことしなくちゃいけないのよ!」

 

「いいから、今は言われた通りにしてください! セラを助けるのでしょう!?」

 

逆に一喝されたアンジュは苦く喉を鳴らす。今一番アンジュを説得するのにこれ程の効果があるものはないだろう。一瞬躊躇うも、やがて大きく頭を振る。

 

「ああもう! 分かったわよ! やればいいんでしょう、やればっ!!」

 

そもそも音声入力でしか起動しないなど、羞恥ものだが、この状況では 従うしかない。自棄を起こしたように大仰に悪態をつき、アンジュはモニターに表示された文字を叫んだ。

 

「Imyuteus amenohabakiri tron―――!」

 

「天来変幻!!」

 

同じくサラマンディーネもまた別の言葉を叫んだ。刹那、それがキーとなったように、神殿の方から別の機影が急速に接近してくる。

 

それに気づいたタスクやリーファが眼を向け、セラも思わず視線を向けると、二つの影が見えた。

 

全身を白亜の装甲で覆う白い龍と翼を雄々しく羽ばたかせる蒼穹の鳥が咆哮を上げながら飛翔し、向かってくる。それらは真っ直ぐに焔龍號とヴィルキスに向かう。

 

「ちょっ、何よあれ!?」

 

「シークエンスはそのまま―――アンジュ、今は指示通りに!」

 

「ぶ、ぶつかるぅぅ!!」

 

サラマンディーネの説明も聞こえず、激突するのではないかと思えるスピードで向かってくる二体にヴィルキスと焔龍號のシステムが反応し、回避するのでもなく、逆に向かう。

 

自動制御で動く二体に向かって分かれた龍と鳥が各々の機体へと向かい、寸前で全身に光のラインが走り、それに添って全身が分解する。

 

幾つもに分かれた鳥の蒼穹のパーツがヴィルキスの周囲に散らばるように飛び、戸惑うアンジュの前で囲うようにスタンバイする。同時にモニターにヴィルキスの全身CGが表示され、周囲にパーツの影が表示される。機体に吸い付けられるように脚部、腕部、腰部、胸部、肩部と蒼穹の装甲がドッキングし、ジョイントが固定される。

 

脚部のパーツからはバーニアノズルが顔を出し、胸部装甲からは排熱の煙が漏れる。スラスターを覆うように巨大な翼が拡がり、大きくなる。

 

 

 

【AMENOHABAKIRI COMPLETE】

 

 

 

モニターに文字が表示された瞬間、全システムがオールグリーンを示し、最後に分かれた尾の部分が変形し、鋭利な刃を覗かせ、ヴィルキスの右手に収まる。

 

それを大きく振り、蒼穹の鎧『天羽々斬』を纏った『ヴィルキス・(アマツ)』が顕現した。

 

ヴィルキスと同じく分解した龍の白いパーツもまた焔龍號の周囲に散らばるように舞い、サラマンディーネは落ち着きながらも強ばった面持ちでシークエンスを開始する。

 

純白の装甲が脚部を覆うように被さり、降りたパイプが連結し、ドッキングする。腕にも覆い被さり、伸びる腕のレバーを掴み、その先にある新しい拳が痙攣しながら開き、強く握り締める。

 

ボディに純白の装甲が装着され、翼が機械のスラスターバーニアに覆われ、巨大化する。そこに二対の刀と小太刀を収めた鞘が装備される。

 

 

 

【火之迦具土神 神機一体】

 

 

 

額に別のアンテナが装着され、左右に分かれる。装着を終えた焔龍號が拳を握りしめ、大きく繰り出し、全身から機械音が響く。

 

蒼穹の鎧『天羽々斬』を纏った『ヴィルキス・(アマツ)』、白亜の鎧『火之迦具土神』を纏った『焔龍號・(レッカ)』―――『武者』と『騎士』のごとき『特機外装束』を纏った2機が顕現した。

 

「な、何よこれ―――」

 

事態の変遷についていけず、呆然となっていたアンジュが現状に戸惑う。

 

「アンジュ、来ますわよ!」

 

だが、その逡巡もサラマンディーネの一喝に現実に引き戻される。ドラゴン達が二機に襲い掛かり、サラマンディーネは焔龍號の巨大なになったスラスターを噴射させ、一気に迫る。

 

「ちょ、ちょっと! これ、どう使えばいいのよ!」

 

対しアンジュは突然ヴィルキスに装備された鎧の使い道が分からずに反応できない。だが、そんな事情などお構いなしにドラゴンが襲い掛かり、反射的に操縦桿を動かした。

 

刹那、ヴィルキスに増設されたスラスターとバーニアが一気に動き、ヴィルキスは弾かれるように機動する。

 

「って! な、なによこれぇっ!」

 

普段よりも凄まじい反応に慄き、操縦がおぼつかない。ぎこちない動きで機動するヴィルキスにドラゴン達は翻弄される。

 

「このぉぉぉっ!」

 

振り回されそうになるなか、アンジュは必死に操縦桿を握り締め、ペダルを小刻みに動かし、機体を操る。スラスターとバーニアがそれに反応し、ヴィルキスは空中を旋回しながらドラゴンの攻撃の中を掻い潜る。

 

「武器は――これ!」

 

アンジュは反撃しようと操縦桿を動かし、ボタンを押す。それに連動し、ヴィルキスは右手に握る巨大な剣を構える。

 

 

【READY】

 

 

機械音声と同時に両手で剣を構えると、刀身が動き、鋭利な刃を突き立てる。アンジュは気迫と共に一気にヴィルキスを加速させ、ドラゴンに斬り掛かる。

 

「どぉりゃぁぁぁぁぁぁっっ!」

 

咆哮と共に振り下ろされた一撃がドラゴンを袈裟懸けに斬り裂き、真っ二つにされたドラゴンが吹き飛ぶ。その威力に一番驚いたのはアンジュ自身だ。

 

「すご――……って!」

 

だが、呆ける間もなく、ドラゴン達は雪崩込むようにヴィルキスに殺到し、アンジュは歯噛みする。その時、ヴィルキスのシステムが反応し、増設されたスラスターラックが開き、そこから飛び出した円形の飛翔体が周囲に熱の刃を展開し、高速で回転しながら弾き飛ぶ。

 

二対の光の輪刃は回転しながらドラゴンの皮膚を、装甲を切り裂き、怯ませる。致命傷にはならなくとも、まとわり付くそれらに反応できず、ドラゴン達が混乱する。

 

《聞こえますか? ヴィルキスのパイロット?》

 

呆気に取られていたアンジュのもとに通信が入り、ハッと我に返る。

 

「その声、さっきの!?」

 

映像が送れないのか、音声のみだが、スピーカーから聞こえる声は先程、ヴィルキスを受け取った際にいた女性、久遠のものだった。

 

《どうやら自動操縦もうまく作動しているようですね―――今から操作法を教えます。コンソールの画面を『天羽々斬』に繋いでください》

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! いきなり何を―――!」

 

《今はあなたの質問に答える時間はありません。言う通りにしてください》

 

戸惑うアンジュに対し、冷静な口調で、しかも平淡な口調で指示され、思わず青筋が浮かぶも、それを抑えてアンジュはせめてもと悪態を返す。

 

「分かったわよ!」

 

乱暴な手つきでコンソールのボタンを押し、リンクしているシステムに繋がると、別のウィンドウが表示される。

 

「何、これ?」

 

《向かって左のウィンドウに触れてください》

 

あちらはまるで視えているかのように首を捻るアンジュに指示を続け、口を尖らせながらウィンドウに触れる。刹那、起動したプログラムにヴィルキスが反応し、バイザーの下でツインアイが輝く。

 

 

【AXELL COMPLETE】

 

 

機械音と共に蒼穹の装甲の一部に光のラインが走り、装甲がスライドする。下から現れた内側から赤い粒子が放出される。

 

粒子と共に周囲の空気が波紋を拡げるかのごとく振動する。

 

 

【START UP】

 

 

モニターにタイマーが表示され、それがカウントを一気に刻んだ瞬間――ヴィルキスが掻き消えた。消失したヴィルキスにドラゴン達が目標を見失い、立ち往生するなか、一体が前触れもなく横断され、続けて別の個体が縦に両断される。

 

機械の眼がそれを視認し、高速で動く影を僅かに捉えるも、それはセンサーの反応を超えており、追随できない。そして、次の瞬間には眼前に迫る巨大な刃に頭部を真っ二つにされた。

 

瞬く間にその場にいたドラゴン達が駆逐され、離れた位置で消失していたヴィルキスが姿を見せる。モニターに表示されていたカウントが終了する。

 

 

【TIME OUT. REFORMATION】

 

 

同時に展開されていた形態が戻る。

 

「な、何だったの――今の………?」

 

コックピットの中で思わずアンジュは呆然となる。ヴィルキスが一気に加速した瞬間、ドラゴン達がまるで止まっているように見え、一気に攻撃した。

 

呆気に取られて思わず空中で静止したヴィルキスに残存していたドラゴンが一斉に襲い掛かり、アンジュがハッと我に返るも、今のシステムの影響か、反応が鈍い。

 

歯噛みするが、そこへ虹の粒子が満ち、割り込んだアイオーンがレーヴァティンを一閃し、ドラゴンを両断した。

 

「セ、セラ――」

 

「なにボウっとしてるの?」

 

咎める口調に呻き、すぐに不満そうに顔を歪める。

 

「わ、私のせいじゃないわよ! この妙な装備のせいよ!」

 

使い方が分からないものを使わされているので、これが終わったら文句の一つでもサラマンディーネに言ってやらねば気が済まない。

 

憤慨するアンジュに肩を竦める。出現していたドラゴンはほぼ駆逐した。シンギュラーからの増援もようやく途絶え、打ち止めかと思ったが、そこへ熱量が過ぎる。

 

咄嗟に分かれて回避するアイオーンとヴィルキス、セラとアンジュが顔を上げると、三つ首の大型ドラゴンであるヒュドラがこちらに咆哮を向けていた。

 

その巨体さを駆使するように咆哮を上げ、幾状ものレーザー口が全身から開放され、一気に斉射される。無数のレーザーの弾幕が襲うなか、アイオーンとヴィルキスは回避しながらヒュドラの動きを窺う。

 

セラはその間にアイオーンのセンサーでヒュドラをスキャンし、敵の構造を解析していく。詳細は出ないものの、大まかなもので充分だ。

 

やがて、熱反応が高い場所を特定し、小さく頷く。

 

「アンジュ、私が奴の注意を引く! あなたはその隙に奴の首の根元を狙いなさい!」

 

アンジュの返答を待たず、セラはアイオーンをヒュドラに向かって突撃させる。三つの首と全身から放たれるレーザーの嵐のなかを掻い潜るも、網目に近いレーザー幕は間隙を縫って接近できない。だが、注意はアイオーンに集中しているため、ヴィルキスが外れた。

 

セラがつくった隙を逃すまいとアンジュは先程の加速が出せないか、我武者羅にコンソールを操作するも、使用のためのインターバルがあるのか、システムの再起動までまだ数分掛かるカウントが表示される。

 

「ああもう! 他に武器はないの!?」

 

システムが変わっているせいでどうにも普段と勝手が分からず、苛立ちながらコンソールを操作していると、不意に『何か』が起動した。

 

 

【READY】

 

 

その音声と共に右手に握る巨大剣の刃が変形し、ヴィルキスのバイザーが光る。

 

 

【EXCEED CHARGE】

 

 

巨大剣:羽々斬にエネルギーが収束し、真紅の閃光が帯びる。アンジュは理論は理解できなかったが、彼女の直感が何であるかを理解した。

 

キッとヒュドラを見据え、両手で羽々斬を構え、一気にスラスターを噴射させた。増設されたスラスターの推進力を得て加速するヴィルキスは一気に距離を詰める。

 

アイオーンに攻撃を集中していたヒュドラがそれに気づき、ヴィルキスに攻撃を切り替えようとした瞬間、セラは一瞬の隙を突いて一気に距離を詰める。

 

二方向から加速するアイオーンとヴィルキスにヒュドラは攻撃を拡散させるも、弾幕の密度が薄まり、止めきれない。

 

セラとアンジュがタイミングを合わせて一気にヒュドラに斬り掛かる。狙うはエネルギーの収束する首と胴体を繋ぐ一点―――そこに組み込まれているエネルギー源を断つ。

 

クロスするように叩きつけられた斬撃が大きくヒュドラの身体に叩きつけられ、その衝撃で首が胴体から離れ、吹き飛んで粉々になる。それだけに留まらず、ヒュドラは全身を4分割にでもされたように切り裂かれ、爆散した。

 

その爆発の閃光を背後で受け止め、空中で静止するアイオーンとヴィルキス。コックピットのなかでセラとアンジュは互いを見やり、笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

ヒュドラから離れ、滞空する夜刀神のコックピットで、トウハは無言でアイオーンの姿を観察するように見つめていた。

 

その時、接近する反応を捉え、ハッと振り向くと、黄龍號とグレイブが迫る。

 

「おおおおっっ!!」

 

タスクが吼え、先行するグレイブがライフルを斉射する。弾丸が真っ直ぐに向かうも、夜刀神は左腕の大剣を振るい、弾丸を弾き飛ばす。

 

歯噛みするタスクはグレイブの剣を抜いて斬り掛かる。夜刀神は跳躍するようにかわし、そこへ黄龍號が飛び込む。

 

薙刀を振り被り、上段へと斬り上げる。だが、そんな動きを読んでいたかのごとく、動じることもなく大剣を振り上げ、刀身が幾条にも分かれ、別の意思を持った蛇のように薙刀に絡みつく。

 

絡め取られ、眼を見開くリーファに小さく鼻を鳴らすと、逆方向からタスクが再度迫る。振り下ろす剣を右手で刃を受け止め、驚愕する。

 

「なっ―――!?」

 

驚く間もなく、鋭い手で刀身を握り潰し、破壊する。破砕して割れた剣の反動でバランスを崩すグレイブに向けて絡め取っていた黄龍號を大きく引き寄せ、機体ごと大きく投げ飛ばす。

 

グレイブに激突し、2機のコックピットを振動が襲い、タスクとリーファは呻く。

 

「あに、うえ……」

 

呻くリーファは苦しげに見上げるも、夜刀神は無言で大剣を振り上げる。なんの躊躇いもなく振り下ろされる大剣に思わず眼を閉じ、衝撃に身構えるが、それより速く弾き飛ばされ、横へと機体が逸れる。

 

衝撃にハッと眼を開くと、黄龍號を弾いたグレイブに大剣が無防備に振り下ろされ、機体が縦に真っ二つにされる。

 

次の瞬間、断面から火花が迸る。声が出ないリーファの前でグレイブのハッチが開き、タスクが飛び出すと同時に機体が爆発した。

 

衝撃で吹き飛ぶタスクにリーファは無我夢中で黄龍號を動かし、落下するタスクの身体を手を差し出して受け止める。

 

「タスク殿、無事ですか!?」

 

思わず裏返る声にタスクは痛みを堪えながらも、なんとか苦笑で応じ、ホッと胸を撫で下ろす。安堵したのも束の間、リーファはキッと唇を噛んで夜刀神を睨みつける。

 

「兄上――っ!」

 

怒りと戸惑い、それらがごちゃ混ぜになって葛藤させる。

 

そんなリーファの思いに何の反応も示さず、夜刀神は左腕を引き、右手を鋒に添え、身構える。その態勢に眼を見開く。

 

『アレ』は、何度も見た兄の必殺剣の構えだ。瞬時にリーファは動揺する、あの技を自分は防げたことも捌けたこともない―――サラマンディーネでさえ、成し得ていない。おまけに今は生身のタスクを抱えており、派手な動きはできない。

 

せめてタスクは守らねばと掌の中に庇い、身構える黄龍號に向かって夜刀神が急加速するように飛び出し、大剣を真っ直ぐに繰り出す。

 

貫通力を増した一撃に貫かれると、身構えるリーファだったが、甲高い衝撃音が周囲に木霊する。呆然となるリーファと、眼前の光景にトウハはフッと小さく笑みを浮かべた。

 

大剣を突き刺す夜刀神の一撃から黄龍號を守るように立ち塞がる機影―――真紅の機体を覆う純白の装甲と翼が雄々しく映り、大剣を腕の盾で防ぐ焔龍號の姿があった。

 

「あね、うえ……」

 

『火之迦具土神』を纏った焔龍號は衝撃で震える腕で耐えながら、サラマンディーネは強引に弾き飛ばした。距離を取る夜刀神に向かって、苦々しく歯噛みする。

 

「久遠にかなり強化させたのですが、末恐ろしいですね―――」

 

なんとか防いだが、右腕の盾は表面に亀裂が走り、既に使用不能になっている。もはや二度目はないだろう―――むしろ、一度だけでも防げたのは僥倖というべきか。

 

「姉上」

 

「リーファ、あの者の相手は私が――あなたは退がりなさい」

 

前方への注意を緩めず、背中越しに制する。その言葉にリーファは一瞬躊躇うも、すぐに掌のタスクを思い出し、思い止まる。

 

「分かり、ました――姉上、お願いします」

 

悔しげに、そしてやるせなさを含んだ口調で黄龍號はその場を離れ、後退していく。背中越しにそれを確認し、サラマンディーネは夜刀神に対峙する。

 

「そんな『玩具』を使ったところで、何の足しになる?」

 

嘲笑するように焔龍號を笑うも、サラマンディーネも不敵に返す。

 

「このようなカタチになったのは確かに不本意ですが―――これは、エンブリヲを倒すために皆が造り上げたもの」

 

無意識に胸の前で手を握り締める。

 

「いえ―――我らの未来を掴むためのもの!」

 

胸に秘める覚悟を込めるようにサラマンディーネは凛と顔を上げる。焔龍號は背中に背負う二刀を掴み、強く引き放つ。

 

右手に握る太刀『桜花』と左手に握る小太刀『雛菊』―――抜き身の煌きが刀身に走る。

 

この鎧だけではない―――焔龍號もまた、サラマンディーネの想いと彼女の背負うモノのために造られたもの。だからこそ、負けるわけにはいかない。

 

「だからこそ、私はあなたを倒します! そして、その真意を問い質します!」

 

鋒を向け、宣言するサラマンディーネにトウハはフッと口元を緩める。刹那、夜刀神のツインアイが紫紺に輝き、返礼とばかりに斬り掛かり、焔龍號もまたツインアイを輝かせ、応じるように飛び出す。

 

相対する二体の龍の機神が刃をぶつけ、衝撃波が波紋となって振動する。鍔迫り合いのなか、互いの刀身が摩擦し、火花を散らす。

 

同時に相手を弾き飛ばし、距離を取り、互いに同じ構えを取る。

 

「「瞬剣光斬!!!」」

 

一気に加速し、空中で金属音と共にすれ違う。離れた瞬間、互いに致命傷ではないが機体の一部が欠ける。一拍後、すぐさま旋回した夜刀神が大剣を分解させ、大きくしなる大剣が振り返った焔龍號を弾き飛ばす。

 

衝撃に歯噛みするサラマンディーネだが、なんとか空中で踏み止まる。顔を上げると、頭上に接近する夜刀神が左腕を振り下ろし、斬撃を機体を逸らして回避し、懐に入った相手に小太刀を逆手に持ち替え、一気に振り上げる。

 

返しの斬撃を夜刀神は上体を逸らすが、完全にかわせず、微かな一閃が刻まれる。吹き飛ぶ夜刀神に追撃をかけ、焔龍號は二刀を構えて斬り掛かった。




大変お待たせしました。

アイオーンの覚醒とヴィルキス、焔龍號のパワーアップまで描きました。
今回は自分の好きな特撮のギミックネタを入れました。
その他にも細かなネタを入れてますが、全部わかった人は同志です><


欲を言えば、焔龍號と夜刀神の決着までは行きたかったのですが、ここで区切りました。
次回かもしくはその次くらいでドラゴン世界編を終えて、あちらの世界に戻りたいですね。

次はいつになるか分かりませんが、気長にお待ちいただければ幸いです。

次に書くのはどれがいいですか?

  • クロスアンジュだよ
  • BLOOD-Cによろしく
  • 今更ながらのプリキュアの続き

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