クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 紫銀の月   作:MIDNIGHT

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隊長の意地

ドラゴンの出現に緊迫した空気に包まれるアルゼナル――警報が鳴り響くなか、ヴィルキスを除いた第一中隊のパラメイルがフライトデッキにスタンバイする。

 

ライダースーツに着替えた面々が待機するなか、サリアが号令をかける。

 

「総員騎乗!」

 

一斉にバイザーを下ろし、各々の機体へと駆け出し、飛び乗っていく。

 

「隊長より各機へ! アンジュは休み――今回の作戦は10機で編隊を組むわ」

 

ヴィルキスのいない中、火力が落ちるのは仕方ない。その分をカバーするため、サリアは作戦を思い浮かべる。

 

「ナオミ、今回はあなたは前衛に就いて!」

 

「イ、イエス・マム!」

 

突然の指名に一瞬眼を剥くも、上擦った声で頷く。これまでも何度か突撃兵としてこなしてきた。臆することなく頷くナオミを一瞥すると、サリアは複雑な面持ちで隣に控えるセラのアーキバスを見やる。

 

一瞬逡巡するが、やがて意を決して顔を上げる。

 

「セラ」

 

突然の呼び声に出撃準備をしていたセラが動きを止めて振り向く。

 

「今回は、あなたが前衛の中心になってちょうだい」

 

「はぁ? サリア、てめえ副長のあたしを差し置いて……!」

 

その指名にサリアの横にいたヒルダが声を荒げる。隊のNo.2――さらには突撃兵でもあるヒルダを差し置いてそのような指示には納得できるはずもなかった。

 

「アンジュのヴィルキスがいない以上、火力の低下は免れないわ――セラの機体はアーキバスだし、今回だけよ」

 

「けどな!」

 

「命令よ!」

 

噛みつくヒルダを一喝し、ヒルダは忌々しげに舌打ちする。

 

「――いいわね、セラ?」

 

再度確認の意味を込めて反芻するサリアに静かに頷く。

 

「イエス・マム」

 

短く応え、操縦桿を握り締める。サリアも前を見据え、全機に命令を飛ばす。

 

「各機へ、目標空域に到達後、全機密集陣形――戦力の不足は火力の集中で補う!」

 

『イエス・マム!』

 

作戦を伝えると同時に甲板員が離脱し、射出レールが点灯する。

 

《全機、発進準備完了! どうぞ!》

 

「サリア隊、発進します!」

 

誘導に従い、リフトから離脱したサリアのアーキバスが先陣を切って出撃し、続くように他の機体も飛び出していく。

 

アルゼナルより飛び立った第一中隊のパラメイルが空へ舞い上がり、加速していく。その光景を居住区の窓で確認したアンジュはまだフラつく身体に鞭打ち、動き出した。

 

 

 

編隊を組んで飛行する第一中隊は観測されたシンギュラーまで接近していた。

 

《シンギュラーまで距離2800!》

 

今回の観測地点はアルゼナル周辺に点在する無人島の一つだ。そして、周辺の空間が乱れ、空気が淀んでいる。

 

「全機、セーフティ解除! ドアが開くぞ! 戦闘隊形!」

 

『イエス・マム!』

 

サリアの指示に従い、サリアを中心に密集陣形に移行する。セラはサリアの前方に移動し、その周囲をヒルダ、ヴィヴィアン、そしてナオミが固める。ヒルダは面白くなさげにセラを一瞥するが、いつものことと無視した。

 

そうこうしている間にもシンギュラーの反応は大きくなり、前方に立ち昇っていた黒雲に紫電が走り、やがて空間が裂け、巨大なワームホールが形成される。

 

身構える第一中隊の前で、ワームホールは突然下を向き、その光景にセラが眉を顰める。吐き出されるように現われるスクーナー級はいつもと同じだが、次の瞬間――野太い唸り声がワームホールから轟いた。

 

巨大な体躯を誇るドラゴンが姿を現わし、無人島に降り立つ。その着地による振動は大地を震撼させ、まるで存在を誇示するように巨大な二本の角を持つドラゴンは雄叫びを轟かせた。

 

空気を振動させるその声に離れていても機体をビリビリさせる。

 

「な、何あれ!?」

 

「でか!?」

 

「あらあら大きいわね~」

 

ナオミはその巨体に慄き、ヴィヴィアンは思わず驚きに眼を見張り、エルシャは苦笑いをしながらも表情が強張っている。ココやミランダなどはあまりの威容に顔が引き攣ってしまっていた。

 

「サリア、あのデカブツどんな奴?」

 

不機嫌なヒルダがサリアにデータを求めるも、当のサリアも困惑していた。

 

「あんなの、見たこと無いわ……」

 

どこか唖然とした面持ちで漏らす一言に、ロザリーとクリスが驚く。

 

「サリアが見たことない? って事は!」

 

「じゃあまさか…まさか!」

 

「初物か!」

 

ヒルダは思わず喜びの笑みを浮かべる。

 

『初物』―――過去の遭遇例のないドラゴンの個体につけられる最初の呼称。セラも初めてのことだ――だが、それは言い方を変えればこれまでのデータがまったく通用しない…さらに言えば、こちらには何のデータもない状態で挑まねばならない一番厄介な相手だ。

 

強ばった面持ちを浮かべるセラとは対照的にヒルダ達はその未確認種に盛り上がっていた。

 

「コイツの情報持って帰るだけでも大金持ちだぜ!」

 

「どうせなら初物喰いして札束風呂で祝杯といこうじゃないか!」

 

「いいねえ!」

 

「うん、すごくいい!」

 

初物はデータがまったくないことから、その姿を捉え、データを収集するだけでもかなりの報酬が支払われる。もし倒せれば、それこそ当面は苦労しないだけのキャッシュが手に入るだろう。

 

ここ最近のアンジュのせいで稼ぎが少ないから盛り上がるのも無理はなかろうが、喝采を上げるヒルダ達に、セラは内心で悪態をつく。

 

(能天気のアホどもが!)

 

セラはドラゴンをモニターで確認し、できる限りその能力を探ろうと思考を巡らせる。

 

(飛行タイプじゃない…けど、ただの重量級とも思えないわね)

 

これまでのブリック級やガレオン級はすべて飛行タイプだった。加えて出現時の重量や飛行していないことから、地上タイプのドラゴンとは推察できる。

 

だが――そんな図体だけの見た目に惑わされては痛い目を見る………セラは無意識にそう確信した。セラは徐に通信を開き、サリアに向かって告げた。

 

「隊長――敵のデータがない以上、迂闊に仕掛けるのは危険だわ。まずは周囲のスクーナー級を排除しつつ、アルゼナルに増援を……」

 

相手は件のドラゴンだけではない――スクーナー級もいるのだ。ヴィルキスもいない今、このメンバーだけで挑むにはリスクが大きい。そう進言するセラを遮るように不機嫌な声が上がった。

 

「はぁ? 何言ってやがる!」

 

「増援なんて呼んだら、取り分減っちゃう」

 

「初物相手にビビっちっまたのかい? 臆病者さん?」

 

セラの横につくヒルダが嘲笑う。セラはそれを無視し、サリアに再度告げる。

 

「サリア、増援を」

 

その言葉にサリアは迷うが、そんなサリアの心境を煽るようにヒルダが鼻を鳴らす。

 

「はっ、あんたもすっかりビビリになっちまったね! ゾーラなら初物相手でもビビったりしなかったのにねぇ」

 

そう煽るヒルダにサリアは悔しげに唇を噛むも、セラは侮蔑するように告げる。

 

「なら――勝手に死ね」

 

「はっ! ついておいで、ロザリー! クリス!」

 

負け惜しみと歯牙にもかけず、ヒルダが先陣を切り、誘われた二人も後を追う。

 

「おっしゃあ!」

 

「ま、待ってよ!」

 

「報酬は私達だけで山分けだよ!」

 

一気に加速し、突撃を仕掛けるヒルダ達にサリアが慌てる。

 

「ちょ、ちょっと! 待ちなさい!」

 

だが、そんな制止など無視していくヒルダ達にサリアは歯噛みする。その傍ら、いつもなら勇んで突撃を仕掛けるヴィヴィアンが、どこか神妙な面持ちを浮かべている。

 

「なんだろ? なんか髪の毛がピリピリする」

 

自分でもよく分かっていないのか、そう口にするヴィヴィアンにサリアも怪訝そうな顔を浮かべる。

 

「セラ、あなたはどう思う?」

 

「嫌な予感しかしない――距離は空けておいた方がいい」

 

敵の能力が不明な以上、迂闊に距離を縮めることは自殺行為だ。ガレオン級などは遠距離攻撃も得意としている――あの未確認種にある存在感を際立たせる二対の角…アレがなにかしらのプレッシャーのようなものを感じさせる。

 

とはいえ――金に眼が眩んだ亡者どもはバカみたいに突撃をかけているが……周囲にいたスクーナー級に向かって発砲し、相手の陣形が崩れたところに掻い潜っていく。

 

それを過ぎったスクーナー級は後方に向かうヒルダ達に脇目も振らず、真っ直ぐにこちらに向かってきた。

 

「ファイア!」

 

サリアの号令に従い、向かってくるスクーナー級にトリガーを引く。迸る火線が空中に爆発と血飛沫を咲かせるなか、スクーナー級は積極的に仕掛けてこようとせず、まとわりつくようにこちらを威嚇する。

 

(こいつら……何を?)

 

動きの意図が読めずに困惑する。だが、徐々に戦場を移動させられている――まるで誘導されているような……そこまで気づいたセラがハッとドラゴンに視線を向ける。

 

ドラゴンに接近したヒルダが腹部が弱点と睨み、一斉に仕掛けようとした瞬間――ドラゴンが突如咆哮を上げ、スクーナー級が突如身を翻し、上空へと昇っていく。

 

その行動を不審そうに見るなか、ヴィヴィアンは先程から続く胸騒ぎに落ち着かない面持ちだ。だが、セラはその異変に嫌な予感が頭を擡げる。

 

そして、ヒルダ達がドラゴンに向かって一気に突撃する。懐に飛び込み、ヒルダが凍結バレットを構えて仕留めたと確信した瞬間―――ドラゴンが咆吼し、突如角が光を発する。

 

「!? ヒルダ戻れ!!」

 

「全機離脱!」

 

ヴィヴィアンが警告を促すと同時にセラは機体に逆制動をかけ、後退させる。セラの言葉に反応できたのは普段から指示を聞いていたナオミ達だけだった。

 

次の瞬間、ドラゴンを中心に魔法陣が展開され、それを起点に重力場が形成され、突如圧し掛かる重力にヒルダ達の機体が囚われてしまい、地上へと落とされる。

 

一瞬、何が起こったか分からずに戸惑うも、既に遅く―――重力の鎖に絡め取られた三機は大地に倒れ伏し、機体が軋む。

 

その圧力はコックピット内にも及び、身体に掛かる重力が三人を苦しめる。

 

「なっ!?」

 

「う…動けねえ……」

 

「い、いったい何なの…コレ!?」

 

突然の事態に混乱し、慄くヒルダ達だったが、それは上空で見ていたセラやサリア達も同じだった。

 

《新型ドラゴン周囲に高重力反応!》

 

「「重力!?」」

 

オペレーターからの解析結果に驚くも、その一瞬の隙がサリア達を襲った。

 

「サリア! 離れろ!」

 

ドラゴンが角をさらに光らせ、重力範囲が広がり、セラが咄嗟に叫ぶも、既に遅く―――サリア、エルシャ、ヴィヴィアンの三機も重力に囚われ、機体の制御が利かなくなる。

 

「ナオミ!」

 

セラはすぐさま傍にいたナオミ、ココ、ミランダに叫び、機体を旋回させる。それに反応し、セラ達はまだ離れた位置にいたおかげで重力に囚われず、離脱する。

 

だが、サリア達はそのまま大地へと引き寄せられていく。

 

「っ、各自駆逐形態! 防御体勢を取れ!」

 

咄嗟にその判断ができたのはまさに僥倖だった。落下しながらも機体が駆逐形態になり、寸前で不時着する。もし飛翔形態のままであれば、機体ごとペシャンコになっていただろう。

 

だが、身動きが取れず、危機は脱していない。

 

「サリア! ヴィヴィアン! エルシャ!」

 

空中で旋回するナオミが叫び、ココとミランダも戸惑っている。

 

「ど、どうしたらいいの…!?」

 

「分かんないわよ! でも、このままじゃ――!」

 

混乱して思考が纏まらないなか、セラはコンソールを叩き、ドラゴンの魔法陣を解析していく。スキャンをかけた結果、ドラゴンの角にエネルギーが収束しているのを確認し、思わず顔を上げる。

 

(あの角か! けど……っ)

 

魔法陣はドラゴンを中心に半径数十メートルに渡っている。あの魔法陣の中に居られては、外部から攻撃を仕掛けても重力に絡め取られ、届かない。それ以前に、あの角を破壊するだけの火力がない。

 

セラを含め残存の四機では火力が圧倒的に足りない。無論、ドラゴンのエネルギーが無尽蔵というわけではない…いずれは魔法陣も消えるが、それよりサリア達が潰される方が早い。

 

(どうする…!? 考えろ、セラ!)

 

セラは思考を回転させ、打開策を巡らせる―――その時、ヴィヴィアンのレイザーがゆっくりと立ち上がってくる。

 

「その角だな……皆を離せえぇぇっ!!」

 

機動力強化のための軽量化のおかげか、あの重力下の中でレイザーがブーメランを振りかぶり、ドラゴンの角目掛けて投擲する。

 

だが、ブーメランは上空に僅かに舞い上がっただけで届かず、すぐに重力に囚われ、大地に突き刺さる。ヴィヴィアンは歯噛みするも、その光景にセラはハッと気づく。

 

(重力場――上……そうか!)

 

光明が見えた瞬間、ナオミが声を上げる。

 

「セラ!」

 

その声にハッと意識を向けると、重力の影響が強くなっているのか、大地が深く陥没していく。それは、ドラゴンに近いヒルダ達の機体に深刻な影響を及ぼし始めていた。

 

強くなる圧力に機体の装甲が歪み、潰れていく。亀裂が走るなか、コックピットに掛かる負担も増大していく。

 

「う、動けねぇ…ぐるじい……」

 

「た、助けて…ロザリー、ヒルダ!」

 

圧迫される苦しみに呻くロザリーとクリスは徐々に迫る死の恐怖に慄き、顔が引き攣っていく。ヒルダはなんとか脱出しようとしているが、機体は反応を返さない。

 

「くそっ、動けよ! いくら金かけたと思ってるんだ! さっさと助けろよ、サリア!」

 

ヒルダは先程のことも忘れてサリアに助けを求める。その身勝手さには呆れるが、こちらも囚われており、まともに動くこともままならないのだ。

 

だが、このままでは間違いなくやられる――方策を巡らせるサリアのもとにセラからの通信が入る。

 

「サリア、聞こえる?」

 

「セラ? 無事だったの!?」

 

「ええ、間一髪――けど、これ以上私達も近寄れないわ」

 

確かに、迂闊に近寄れば、セラ達も囚われてしまう。その時、セラが言葉を続けた。

 

「サリア、ヴィヴィアン、エルシャ――あなた達のいる場所は重力の影響がまだ小さい。機体を捨てて脱出しなさい! あなた達を回収して一旦退却するわ」

 

その言葉にサリアは驚く。その事は今まさにサリア自身が考えていたことだ――部隊の全滅を避けるために、そして今後のためにはこの新型ドラゴンのデータは持ち帰らなければならない。

 

「ちょ、ちょっと待てよ……」

 

「わ、私達はどうなるの……」

 

その通信を同じく聞いていたロザリーやクリスが強ばった面持ちで問い返すと、セラは冷静に告げた。

 

「悪いけど――――運がなかったわね」

 

何の感情も宿さなさい冷淡な口調で告げられた一言は死刑宣告に近く、ナオミ達は驚き、サリアも息を呑む。

 

「勝手に突撃した自業自得でしょ…私は言ったわよね? 勝手に死ねと―――そこまで面倒を見るつもりはないわ。生きたいなら、自分達でどうにかしなさい」

 

その指摘にヒルダは小さく歯噛みし、ロザリーとクリスは恐怖に引き攣る。見捨てられた――その現実がジワジワと胸に広がり、鈍く響く。

 

「た、助けてくれよ……アタシ、死にたくねえんだ……」

 

「死にたくない! た、助けて……」

 

もはや恥も外聞もなく叫ぶロザリーとクリス、声に出さないだけヒルダはまだプライドが邪魔しているが、それでも表情が揺れている。

 

その様子にサリアは思わず呆然となる―――セラの言葉、今自分が考えていた言葉だからだ。自分が実際に下そうとした命令を目の当たりにして、サリアは動揺する。

 

「――分かったでしょ? 味方に撃たれるという現実が」

 

無言だったセラがそう口にするも、恐怖に染まる思考が混乱し、理解が進まない。

 

「自分達がこれまでしてきたことよ――味方に撃たれる、味方に裏切られる、味方に見捨てられる……少しはその意味が分かった?」

 

ハッと息を呑む。

 

「過ちは自分で気づかなきゃ意味がない――それが分かったなら、二度と勝手な真似はするな」

 

淡々と――そしてハッキリと告げると、セラはライフルを構える。

 

「サリア、奴の死角は頭上よ。そこはまだ影響が小さい――そこから重力を発生させている角を破壊する」

 

その言葉にサリアは驚愕する。

 

「セラ、まさか……!?」

 

「火力が足りない以上仕方ないでしょ」

 

まるで他人事のように告げるセラは、直上から一気に仕掛けるつもりだった。火力の一点集中――足りなければ、自身の機体をそのままぶつけて破壊する。

 

「ダ、ダメだよ! セラ、そんなの!」

 

ナオミも思わず声を上げる。

 

「他に方法はない――なら、犠牲は最小限に抑える方法を選ぶべきよ」

 

「でも……!」

 

募るナオミだったが、そこへ上空へ退避していたスクーナー級が襲い掛かり、慌てて応戦する。スクーナー級の相手に混乱しながらも必死に対応するなか、セラは機体を加速させ、スクーナー級を屠りながら上昇していく。

 

「セラ! っ!」

 

後を追おうとするも、スクーナー級が立ち塞がり、ナオミは歯噛みする。

 

その間にもセラは機体を上昇させ、新型ドラゴンの死角へと向かう。刹那、微かなざわめきが胸中を過ぎり、ハッと顔を上げる。

 

《シンギュラー反応新たに確認!》

 

オペレーターのその言葉は、更なる絶望を齎す。新型ドラゴンの頭上に紫電が走り、ワームホールが開く。その中から巨大な影が姿を見せる。

 

《ガレオン級です!》

 

姿を見せ、甲高い咆哮を上げるガレオン級がスクーナー級を伴って現われ、セラは舌打ちし、サリア達は絶望に染まる。

 

この状態でガレオン級まで現われるとは、何の冗談だろうか―――だが、これは現実だった。飛来するスクーナー級の攻撃がアーキバスに殺到し、セラは歯噛みして機体を旋回させる。

 

両手にライフルを構えて応戦するも、スクーナー級とガレオン級を相手にしていては、新型ドラゴンに向かえない。

 

「セラ! あなた達だけでも逃げなさい!」

 

「そうよ、このままじゃあなた達まで…!」

 

多勢に無勢の状況にサリアやエルシャは悲痛に叫び、ヴィヴィアンはなんとか動こうとするも、重力がさらに強まり、レイザーの関節部がひしゃげ、砕け散る。

 

万事休す―――誰もがそう思ったとき………通信機から咳き込む声が聞こえた。思わず顔を上げると、戦闘空域に向かってくるヴィルキスの機影が視界に入る。

 

だが、その飛行は酷くおぼつかなく、フラフラと危なげだ。

 

「ヴィルキス? アンジュなの……?」

 

上擦った声を上げるサリアにセラもスクーナー級を屠りながらそちらに視線を走らせる。

 

「あのバカ…まだ動けるような状態じゃないでしょうが!」

 

毒づくセラの言葉通り、ヴィルキスのコックピットではアンジュはまだ微かに赤い顔でライダースーツの上にどてらとマフラーを着込み、顔にはマスクがしてあった。

 

第一中隊の出撃を視認したアンジュはなんとか出撃しようと試みるも、モモカに制止された。多少マシになったとはいえ、まだ微熱と解熱剤の副作用で頭がフラフラする状態なのだ。それでも出撃をすると言い張るアンジュにいくらセラに託けられたとはいえ、モモカが逆らえるはずもなく、せめてもとライダースーツの上に防寒着を着せていた。

 

勇んで出撃したは良かったが、やはりまだまだ病床の身のため、操縦もおぼつかないが、そんな実感などなくただ頭がフラフラしているのだけが認識できていた。

 

「フラフラする~とっと終わらせよ~~」

 

呂律の回らない口調でぼやき、アンジュはヴィルキスを新型ドラゴンに向けていく。その様子に戦っていたナオミ達が慌てふためき、サリアが声を張り上げる。

 

「くるなっ、アンジュ! 重力に捕まるだけだ!」

 

「大丈夫よ~いつもどおり、私一人で充分だから」

 

フィルターのかかったような思考のなか、そう呟くアンジュにサリアは唇を噛み、肩がワナワナと震える。

 

「まったく、どいつもこいつも勝手なことばかり……いい加減にしろぉぉぉぉ、このバカオンナァァァァ!!」

 

シートを強く叩き、声を張り上げるサリアのあまりの怒声にアンジュは思考が無理矢理覚醒させられる。だが、その叫びはあまりに普段のサリアからは予想もできないほど鬼気迫るものだったので、他の面々も呆気に取られている。

 

「あんた一人でどうにかできるほど、このドラゴンはあまくない! いつもいつも勝手なことばかりして、死にたくなかったら隊長の命令をきけぇぇぇぇ!!」

 

通信越しに聞こえるあまりの怒声と気迫にアンジュは思わずたじろぐ。

 

「あ、はい……」

 

「よしっ! そのまま上昇!」

 

反射的に頷くと、サリアの指示に機体を上昇させる。その先にはガレオン級と交戦を行うセラがおり、アンジュが緊張感のない口調で呟く。

 

「あ、セラ……」

 

「セラ! ガレオン級を抑えておいて!」

 

「―――了解。アンジュ、あんたはサリアの指示に従いなさい!」

 

サリアの命令を受けてセラはガレオン級の注意を引きつけ、アンジュから引き離す。セラの言葉にアンジュは従い、そのまま上昇していく。

 

「修正! 右3度、前方20! そこで止まって!」

 

上昇するヴィルキスを見上げながらサリアは目標地点に向けて誘導していく。フラフラとなりながらもヴィルキスを誘導した先は、セラが見つけた死角―――新型ドラゴンの直上だった。

 

ヴィルキスに気づいたドラゴンは重力の範囲を上へと広げ、それに囚われたヴィルキスも引き寄せられるように落下していく。

 

「なんか、落ちてない……?」

 

急に掛かったGにうわ言のように呟き、機体が引き寄せられていることを自覚する。

 

「やっぱり落ちてる……?」

 

「熱でそう思ってるだけ! もう少し―――!」

 

サリアが必死に計算し、他のメンバーは現状に見入っている。やがて、ヴィルキスがドラゴンの頭上まで接近すると、サリアは声を張り上げた。

 

「今よアンジュ! 蹴れぇぇ!」

 

「はい?」

 

「蹴るのよ! 私を蹴ったみたいにね!」

 

先日の風呂場での一件を思い出し、やや腹立ち混じりに叫ぶサリアの言葉にアンジュは反応し、ヴィルキスが落下しながら体勢を変える。

 

右足を突き出し、キックの体勢で向かう先は―――ドラゴンの角!

 

落下スピードと合わさったヴィルキスのキックはドラゴンの角を根元から突き破り、砕く。だが、その衝撃でヴィルキスの右脚が破壊され、振動が機体を揺さぶり、アンジュは呻き声を漏らす。

 

ヴィルキスが大地に墜落するも、角を折られたドラゴンは悲鳴のような声を張り上げ、大地に膝をつく。そして、角が折れたことで重力フィールドを展開していた魔法陣も消え失せる。

 

「―――随分とまあ…大胆なことしたわね」

 

その光景にセラはどこか感嘆の声を上げる。そして、重力から解放されたサリア達の機体が立ち上がる。既にドラゴンは死に体に近い。

 

「総員、速攻でしとめるぞ!」

 

『イエス・マム!』

 

「セラ! ガレオン級はあなたに任せるわ! できるわね!?」

 

どこか吹っ切れたのだろうか、それとも興奮状態なのか、ガレオン級をセラ一人に任せるという判断をするあたり、普通なら考えにくいが、セラはどこか口元を緩めた。

 

「――愚問」

 

短く応えると、サリアはキッとドラゴンを睨む。

 

「総員、突撃!」

 

サリアの号令に従い、全機が一斉に殺到する。それを確認すると、セラは通信を開いた。

 

「ナオミ、あなた達もいきなさい!」

 

「え? でも……」

 

「いいから行きなさい! せっかくのチャンスなんだから!」

 

そう――『初物』をしとめられるまたとない機会だ。これを逃す手はない……セラの言葉に従い、ココやミランダは頷き、機体を加速させる。

 

だが、ナオミは一人でガレオン級に対峙するセラが気に掛かり、動けずにいる。

 

「ナオミ――心配しなくていい」

 

「――うん、分かった!」

 

その言葉に頷き、ナオミもまた機体を翻し、新型ドラゴンに向かっていく。それを見送ると、セラは眼前のガレオン級に向ける。

 

「さて――待たせたわね」

 

不敵に笑うセラに対し、ガレオン級は咆哮を上げる。味方を倒されたことへの怒りだとでもいうのか――ビリビリさせる振動に小さく肩を竦める。

 

「悪いわね――私達が生きるために、あんた達を殺す………」

 

それが引き金のようにガレオン級は魔法陣を展開して電撃を放つ。走る紫電をアーキバスを変形させてかわし、機体を翻す。それを追随するガレオン級は全身から光の渦を作り出し、一斉に放つ。

 

迫る光弾の波を掻い潜りながら、頭上で変形し、両手のライフルを一斉射し、光弾を打ち消す。打ち消した中へと飛び込み、ガレオン級に向かって両ライフルのガジェットを放つ。

 

真っ直ぐに加速するグレネードが被弾し、ガレオン級は怯む。

 

その隙を逃さず、セラは両手のライフルを捨て、左腕の凍結バレットを装填する。爆発から体勢を戻すガレオン級に突撃し、懐に飛び込む。

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

セラの気迫とともに繰り出されたバレットがガレオン級に左胸に突き刺さり、氷結が心臓を凍らせ、喰い破る。その衝撃に悲鳴を上げるガレオン級から離脱をかけるアーキバスだったが、突如ガレオン級は両手を伸ばし、左右から機体を掴む。

 

その行動に小さく息を呑むも、それは既に死の間際の最後の抵抗だった――もはや握り潰すほどの力もないガレオン級だが、それでも向ける眼は未だ衰えぬ戦意が漂っている。

 

セラは無言でコックピットからドラゴンを見据える。それは、相手への敬意を表すようだった。

 

見据えるセラを睨むガレオン級は断末魔の咆哮を上げる。

 

『―――偽り、民………アウラ――――』

 

刹那、セラの耳に――いや、まるで脳に直接響くような声が聞こえた。息を呑むセラの前で凍結バレットが弾け、身体を氷結させられたドラゴンが断末魔の声を上げ、アーキバスを離し、落下していく。

 

森に落ちたガレオン級はそのまま氷結し、氷塊に包まれる。サリア達が新型ドラゴンを倒したことなど既に眼中になく、ただ聞こえた声にどこか神妙な面持ちで見つめるセラは、微かな動揺を隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

戦闘を終え、基地へと帰還した第一中隊は、戦闘後の収支結果を受け取るべく事務へと駆け込み、報酬として支払われたキャッシュは、予想以上の額だった。

 

ある意味で『レア物』と称されるドラゴンの『初物』――その存在を確認し、データを持ち帰っただけでもそれなりだが、さらに狩った、となればその結果は目を見張るものがあった。

 

「うひょお! こんな大金夢みたいだ!」

 

「ううん、夢じゃないよ!」

 

基本的に収入の少ないクリスとロザリーは眼を輝かせて与えられた給料を凝視している。今まで持ったこともないような札束に感極まっている。エルシャはこれで幼年部の子供達にいろいろと用意してあげられると満足気な表情を浮かべ、ヴィヴィアンは言うまでもなく新しい装備を買おうとはしゃいでいる。

 

「本当、私見たことないよ…夢だったら覚めないでほしい――たたっ」

 

「夢じゃないでしょ?」

 

「なんで私の頬を引っ張るの!」

 

じゃれあいながらも、ココやミランダも両手に抱えるキャッシュの束に興奮を隠せずにいる。ヘタをしたら、一生かかっても稼げないほどの額に思えるのかもしれない。

 

サリアはそんな彼女達の様子を見ながら、自身も与えられた莫大なキャッシュにどこか満足気だった。

 

「……少ない」

 

周りがはしゃぐ中、アンジュは不機嫌気味に呟いた。アンジュに支払われた額は、サリア達に比べて極端に少なく、サリアが苦笑を浮かべる。

 

「仕方ないわね。角折っただけだもの―――でも、助かったわ。アンタが来てくれたおかげで」

 

サリアは素直に礼を述べる。

 

正直、セラが特攻紛いのことを仕掛けたようとしたときは肝を冷やしたし、そこへガレオン級の増援だ。もうダメかと思ったときにアンジュが来てくれたおかげでサリア達は生き延びることができたし、新型ドラゴンを狩って莫大なキャッシュを手にすることができた。

 

なによりも、『生きて』いることを実感できただけに、サリアはそう述べたのだが、そんな情緒もぶち壊すようにアンジュはジト眼で手を差し出し、憮然と言い放つ。

 

「迷惑料…貴女の命令に従ったせいで、取り分減った挙句ヴィルキスが壊れたんだから」

 

事実、アンジュのキャッシュがここまで減ったのは、ヴィルキスを破損させた分の修理代も差っ引かれてのものだっただけに、横で聞いていたナオミは表情を引き攣らせる。

 

「……さっきの感謝取り消しよ」

 

サリアは全力で後悔した。やはり反りが合わない―――だが、それも予測済みとばかりにサリアはキャッシュから少し取ると、アンジュに渡した。

 

「?」

 

てっきり断るとばかりに思っていただけに、アンジュも怪訝そうになっている。

 

「セラの報酬よ――アンジュは報酬が少なくて拗ねるだろうから渡してくれってね。ホント、見透かされてるわね?」

 

「なっ……」

 

途端に熱とは別に顔を赤くして動揺するアンジュにサリアはしたり顔で満足気に笑みを殺す。新型ドラゴンとまではいかなくとも、ガレオン級をしとめたセラにも相応の報酬が支払われたのだが、セラはそれをサリアに託けた。アンジュの行動を見越してだろうが、サリアとしてはアンジュの醜態が見れただけでセラに感謝したい気持ちだった。

 

「で、そのセラは?」

 

不満顔で訊ねると、ナオミがどこか顰めた面持ちで応える。

 

「それが…報酬を渡したらすぐにどっか行っちゃたんだ。少しひとりにしてくれって……なんか怖い顔してて――」

 

盛り上がる一同とはまるで逆に真剣な面持ちで去っていったセラの背中にナオミは不安を隠せなかった。サリアも気に掛かったものの、別のことで今は頭がいっぱいだった。

 

(分かってるわよ、セラ―――ここからが、(隊長)の仕事なのよね)

 

セラがサリアに託けるとき、自分の責任を果たせと告げた――そのために、セラは戦闘中にあんなお膳立てまでしたのだろう。その見透かしたようなやり方には正直呆れるしかないが、それでもそれを行うのはサリア自身だ。

 

確かにセラの言うとおり、そろそろ、区切りを付けなければならない。アンジュがやらかした事は赦せないことだ。だが、それも既に起こってしまったことだし、これ以上引きずったところで無意味だ。

 

この状態を長引かせれば隊内の悪影響は続くし、下手をすれば今回のようにこちらが死ぬかも知れない―――隊長としての判断、そして責務としてサリアは盛り上がるヒルダ達に声を掛けた。

 

「どう、満足したかしら?」

 

サリアの問いに、ロザリーやクリスはやや躊躇いながらも頷き、ヒルダは憮然と睨む。

 

「こうして大金を手にすることができたのも、生きて帰れたのもアンジュのお陰よね? それに、あのドラゴンの死角をセラが見つけてくれなかったら、私達はどうなってたかわからないわよ」

 

その指摘に、ロザリーとクリスは言葉に詰まる。

 

「戦闘中にアンジュを狙うの、もう止めなさい」

 

その言葉に明らかに動揺し、戸惑うロザリーとクリスだったが、ヒルダは眉を顰める。アンジュが気に喰わないのは構わない――サリアだって全面的に受け入れているわけではない。だが、誰しも長所短所がある。しかし、アンジュをこれ以上狙うのを容認するわけにはいかない。

 

隊長として、合理的・客観的に判断を下す―――サリアの有無を言わせぬ視線に、ロザリーとクリスは萎縮する。

 

「いろいろあったけれど、私達はこのチームで上手くやって行かなくちゃいけない。それは理解できるでしょ? アンジュも報酬の独り占め、止めなさい。放っておいてもアンタなら稼げるんだから」

 

苦言を呈され、アンジュは若干顔を顰めるも、それを視線で見据える。

 

アンジュが配属されてからの禍根にケジメをつける――ある意味で、これがサリアの隊長としての初仕事かもしれない。

 

(セラ――これが、『私』のケジメよ)

 

内心、ここにはいないセラに呟く。やがて、自身を見つめる第一中隊全員を見渡し、静かに告げた。

 

「これは隊長としての―――命令よ」

 

決然と告げた一言に一瞬、静まり返るも、ヒルダは鼻で笑って返した。

 

「ハッ、アンタの言葉なんて誰も―――」

 

「いいわよ」

 

ヒルダの言葉を遮るようにアンジュが了承を挟んだ。だが、それにはヒルダも驚きが隠せず、微かに戸惑っている。だが、素直に了承するほどアンジュはお人好しではなかった

 

「私の足さえ引っ張らなければね……」

 

「―――ひと言多いのよ、あんたは」

 

余計なひと言が多いのにはもう慣れた。サリアは小さく嘆息し、呆れを通り越して笑いが奥から込み上げて来た。アンジュもどこか不敵に笑い返す。なにか、知らぬ間に通じ合ったような様子にヒルダ達は困惑する。

 

「私も…いいよ」

 

やがて、クリスがおずおずと応える。その様子にヒルダが一番動揺する。いつも一番後ろで引っ込んでばかりのクリスがハッキリと自分の意見を述べたことに付き合いの長いサリア達も驚いている。

 

「アンジュが来てくれなかったら、私死んでた――それに、セラは私達を助けようとしてくれたし……」

 

なにより、先日のエレノアとの一件がクリスの中でずっと引っかかっていたのだろう。ゾーラのことは確かに赦せないが、ゾーラも死んだわけではないのだ。なにより、今回のような目に遭うのだけはもう懲り懲りだった。

 

「え、えーと……あたしも、この金がある内は…いい、かな……」

 

クリスの答に動揺しながらも、ロザリーは上擦った口調でそう応えていた。二人の様子にヒルダは眉を吊り上げ、声を荒げる。

 

「アンタ達何言いくるめられてんの!?」

 

「そ、そんなつもりじゃ……」

 

叱責されて萎縮するも、二人は態度を変えないことにヒルダは苛立つ。

 

「―――裏切り者」

 

孤立状態に陥ったヒルダは小さく舌打ちし、憮然と歩き去ってしまった。ロザリーとクリスは戸惑っているが、サリアは仕方ないと肩を竦める。

 

アンジュと一番確執が強いのはヒルダだ。そう簡単に気持ちの整理なんてできないだろうし、割り切ることもできないだろう。だが、無理に強制してもまた反発を煽るだけ。今は時間が必要だろう――サリアはそう判断した。

 

ヒルダが去った後、エルシャが唐突にアンジュに抱きつき、全員でお風呂に入ろうと提案する。今までのことを全部お湯に流そうという魂胆らしいが、ヴィヴィアンも楽しげにのり、アンジュを捕まえて連行していく。

 

元々アンジュに対しての蟠りも少なかったこともあり、ようやく気兼ねなくできるということかもしれない。その後、アンジュを巻き込んで全員でのお風呂タイムとしゃれ込むことになる。

 

そして――誰にも言っていないことだが、まだサリアの内ではアンジュに対しての嫉妬が燻っている。ヴィルキスに乗ることに対しての蟠りはあるが、今はまだ胸の内にしまっておこうと思う。

 

今なすべきこと――『自分』らしく隊長としての役目を全うする………来るべき刻(リベルタス)まで―――サリアは一人、その決意を秘めるのであった。

 

 

 

 

 

アンジュ達がお風呂にて過ごしている頃―――セラはひとり、アルゼナルの丘で夜空を見上げていた。

 

(何だったの……あれ――――)

 

先の戦闘で聞こえた声――アレは間違いなく……ドラゴンの声―――言葉すら理解できない異形の怪物が、言葉を話したなどと、誰かにしても笑い話にしかならないようなもの。だが、セラは確かにあの瞬間聞いたのだ。

 

(偽りの民―――何のこと?)

 

聞き取れたのは僅かなキーのみ……『偽り』――それはノーマである自分達を指しているのか、それとも別の意味があるのか、今は分からなかった。

 

そしてもう一つ――――

 

「アウラ―――」

 

何を指す言葉なのか……唯一分かっているのは、それがドラゴンのこの世界への侵攻の謎を解く鍵だということだけ。

 

「たとえ、何があろうと……私は、戦う―――」

 

自身の生き方を貫く―――そう決意を秘め、セラは空を見上げる。三日月に輝く月が、まるでセラを見守るように輝き、突然吹き荒れた旋風に晒され、髪を束ねていたゴムが外れ、解けた髪が風に靡く。

 

月明かりに髪が映えるなか、セラは月を見上げ続けた―――――




これで原作のサリア回も終了です。

次回からようやくフェスタ編に入ります。ここもオリジナルエピソードなどを挟みますので、長くなりそう(汗

それが終わるとようやく前半の山場、ミスルギ皇国編、そしてドラゴンと怒涛の展開が続く第一クールのラストまで駆けていきます。

ではでは、楽しんでいただければ幸いです。感想等ありましたらよろしくお願いします。

活動報告に新しいアンケートを載せましたので、よろしければそちらもどうぞ。

次に書くのはどれがいいですか?

  • クロスアンジュだよ
  • BLOOD-Cによろしく
  • 今更ながらのプリキュアの続き

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