クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 紫銀の月   作:MIDNIGHT

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前回の続きです。
いろいろバトルを詰め込みました。


番外編 アルゼナルでガンプラバトル!(後編)

モニターを通して中継される戦闘に観衆は興奮に包まれていく。

 

「さあ、盛り上がってまいりました! 果たして勝者は誰になるのか?」

 

モモカの司会でヒートアップするなか、4つの戦闘にそれぞれ変化が訪れる。

 

「えいっ!」

 

シャイニングは籠手に装備されたシャイニングショットを放つも、威力が低く、また射程も短いため牽制程度にしかならない。

 

ロザリーとクリスがエルシャと対戦しているが、シャイニングには武装といえるものがほとんどかなく、近づけさせまいと砲撃を繰り返していた。

 

「アッハハハ! エルシャ、データがミスったんじゃねえのか、そんな近接戦しかできねえなんてよ!」

 

これみよがしにロザリーが笑う。普段は重砲撃用のハウザーに乗っている分、予想外のチョイスだが、飛び道具がないのをいいことにジムキャノンⅡとゲルズゲーは砲撃を繰り返す。

 

二人とも、以前エルシャにボコボコにされたことを忘れていないだけに、執拗に狙っている。

 

「あらあら~どうしましょう?」

 

さして動揺した素振りは見せていないが、それでも決定打を出すには懐に飛び込むしかない。そのための『切り札』はあるのだが―――戸惑っていると、クリスが毒づく。

 

「ま、あんな派手な下着つけてるビッチだしね。だから頭もピンクなんじゃないの」

 

その一言にエルシャの口がヒクっと引き攣る。

 

「あらあら…二人にはお仕置きが必要のようね」

 

笑顔を浮かべながら呟くエルシャに二人は以前と同じ既視感を憶えるも、頭を振って抑え込む。どうやっても接近するしかないシャイニングでは距離を空けていればどうということはない。というよりも、終わった後のことなど考えていなかった。

 

だが、それも折込済みとエルシャは操縦桿のコンソールを引き出し、『SP』と書かれたウィンドウを選択する。

 

刹那、シャイニングが光に包まれ、戸惑うロザリーとクリスの前でシャイニングは機体の形状を変化させていく。両肩が上下に開き、脚部の外部バーニアが開き噴射する。籠手が上下に動き、最後にマスクが左右に開き、シャイニングは『スーパーモード』へと変身する。

 

「な、なんだよ、あれ!?」

 

「わ、わかんない!」

 

今までと違う雰囲気を発するシャイニングにロザリーとクリスは気圧され、慄く。例えるなら、エルシャの怒りのオーラが見えるような―――そう思った瞬間、シャイニングが消える。

 

「へ―――ぶわぁっっ!」

 

一瞬眼を瞬いた瞬間、シャイニングはジムキャノンⅡの眼前に現われ、正拳突きを放ち、ジムキャノンⅡの胸部装甲が砕ける。

 

衝撃で身体を叩きつけられるロザリー目掛けてシャイニングは止めることなく攻撃を叩き込んでいく。

 

「エルシャ・スペシャル!」

 

肘打ち、裏拳、蹴撃と、相手を離すことなく打ちつけるシャイニングに腕、脚、さらには頭部カメラまで割られ、もはやズタボロとなったジムキャノンⅡにシャイニングは右手に力を込める。

 

「シャイニング・フィンガァァァァァァッ!!」

 

「どわぁぁぁぁっっ!」

 

光り輝くシャイニングフィンガーがジムキャノンⅡに叩き込まれ、機体が爆発する。ロザリーの悲鳴とともに反応が消え、クリスが戦々恐々する。

 

「さぁて…クリスちゃん?」

 

「ひぃ……っ!」

 

ユラリと幽鬼のように聞こえるエルシャにクリスは声を引き攣らせる。恐怖にかられるようにクリスはゲルズゲーの全火器をシャイニングに向けて一斉射する。だが、それに臆することなくシャイニングは突撃する。

 

「シャイニング・フィンガァァソォォォド!」

 

両手に構えるビームサーベルから巨大な刃が迸り、それを真正面から斬りつける。ビームを切り裂き、ソードがゲルズゲーを真っ二つにし、爆発させる。

 

「そ、そんな……」

 

撃墜され、呆然となるクリスだったが、シャイニングもスーパーモードが消え、元の状態に戻る。

 

「あら?」

 

動きを止めたシャイニングにエルシャが首を傾げると、『Energy 0』という表示がされ、強制的にログアウトさせられた。

 

「おおっと、ここでロザリー選手とクリス選手がリタイヤ! しかし、エルシャ選手もリタイヤです! どうやら、エネルギー切れでの強制退場となったようです」

 

健在のはずのエルシャがリタイヤしたことに怪訝そうになっていた観衆がどよめく。パラメイルと同じでガンプラにはそれぞれエネルギーがあり、機体によって発動する特殊攻撃でそれが大幅に減少し、枯渇すると行動不能と判断されて強制的にリタイヤさせられる。

 

特殊攻撃は強力だが、使い所を誤れば自滅する諸刃の剣となる。

 

一気に三人が脱落したことに他の面々は対戦に集中して気づいていない。

 

アンジュのフリーダムとサリアのパラス・アテネは一際激しい応酬を続けていた。

 

ビームライフルを斉射するフリーダムの攻撃を掻い潜り、パラス・アテネは右腕の2連ビームガンで撃ち返す。間髪入れず両肩の拡散ビーム砲で追撃する。

 

かわすものの、ビームをシールドで受け止め、衝撃から姿を見せるフリーダムはビーム砲を連射してビームを相殺して打ち消す。

 

爆発のなかを掻い潜り、パラス・アテネがビームサーベルを抜いて急接近し、フリーダムはバルカンで牽制するも、それを物ともせず強引に懐に飛び込み、振り下ろすサーベルがシールドを斬り裂く。そのまま激突するパラス・アテネの衝撃に呻くも、アンジュは歯噛みしてやり返す。

 

「だぁぁぁぁっっ」

 

振りかぶった頭部でパラス・アテネの頭部に頭突きをお見舞いし、反動で仰け反るところへ右手のビームライフルを突きつける。

 

「させない―――っ!」

 

だが、サリアも素早く体勢を立て直し、左手でビームライフルの銃身を掴み、強引に射線を逸らす。ビームはあさっての方向へ飛び、そのまま力任せに銃身を握り潰す。追い打ちをかけるように振り下ろしたサーベルがシールドを斬り裂き、既に耐久力を失っていたシールドは真っ二つになる。

 

アンジュは舌打ちして右脚を振り上げ、パラス・アテネを強引に弾き飛ばす。同時に二機は急上昇し、一拍遅れてビームライフルが爆発する。

 

飛びながら交錯するフリーダムとパラス・アテネはビームサーベルをぶつけ合い、互いに切り刻んでいく。弾くように離れ、フリーダムのビーム砲が放たれ、パラス・アテネを掠め、バックパックを被弾させる。

 

爆発の衝撃で怯むサリアだが、すぐにビームガンを撃ち返し、反応が遅れたアンジュは頭部を掠め、頭部が半壊する。

 

加速するパラス・アテネの振り下ろすサーベルがフリーダムの左肩に喰い込む。アンジュは残ったバルカンを斉射して怯ませ、右手のサーベルで左脚を斬り飛ばす。同時に蹴りを叩き入れ、強引に弾き飛ばす。

 

「アンジュゥゥゥゥゥ!」

 

「サリアァァァァァァ!」

 

互いに吼えながらビームサーベルを振り下ろし、刃の干渉がスパークする。パラス・アテネは左手を握り締めてフリーダムを殴りつけ、怯むも振り上げた左手が握るサーベルがボディに突き刺さる。

 

そのまま斬り上げようとするが、先程の攻撃で耐久性が落ちていた左腕は肩ごと砕け散る。眼を見開くアンジュに向かってサリアは再度拳を振り落とそうとするが、それをさせまいと右手のサーベルを振り下ろしてパラス・アテネの左腕を斬り落とす。

 

歯噛みするサリアは残った右腕のメガビーム砲をフリーダムに突きつけ、アンジュもまたビーム砲をパラス・アテネに向けた。

 

同時にトリガーを引いた瞬間、ビーム砲がパラス・アテネの上半身を、メガビーム砲がフリーダムの腹部を貫き、両者は次の瞬間、爆発に呑まれて四散した。

 

ウィンドウがブラックアウトしたことにアンジュとサリアはすぐに反応できず呆然となる。

 

「こ、これは…ア、アンジュリーゼ様とサリア選手相打ちです! なんと激しい戦いだったのでしょう……!」

 

モモカの言葉通り、そのバトルの凄さに観衆は興奮冷めやまぬテンションで歓声を上げ、両者を称えるように拍手を送る。

 

だが、当の本人達はどこか釈然とせず、納得がいかないといった面持ちだった。

 

その横で未だバトルが続くデュナメスが両手のビームピストルを取り回してアッガイを狙っていたが、その鈍重さからは予想できないようなトリッキーな動きで回避する。

 

「ヴィヴィアン、なんでそんなに動けるの――!?」

 

思わずその動きにツッこむナオミにヴィヴィアンは鼻をこする。

 

「にゃははは! なんか知んないけど、こいつはすごいあたしと相性いいのだ!」

 

回避していたアッガイが跳び、クローを振りかぶる。ナオミは思わず身を屈ませ、クローが背後に陣取っていた岩塊を破壊する。

 

だが、ヴィヴィアンは素早く左手のクローを振り上げ、デュナメスは咄嗟に両腕をクロスさせて防御するも、クローが両手のビームピストルに喰い込み、銃身を破壊する。

 

「きゃぁぁぁぁっ!」

 

弾き飛ばされる振動に呻くナオミにアッガイがロケットランチャーを放ち、それに気づいたナオミはなんとか体勢を立て直し、シールドを掲げる。

 

誘導弾が着弾し、衝撃が機体を揺さぶる。

 

なんとか耐え切ると、爆風を裂き、ミサイルを膝とサイドアーマーから発射し、アッガイの周囲で爆発する。だが、さして効果はないのか、アッガイは悠々としている。

 

(どうしよう? こっちはもう武器が……)

 

主兵装の長距離狙撃ライフルは取り回しが悪い上、ヴィヴィアンに当てるのは至難の業だろう。あとはビームサーベルのみだが、こちらも格闘主体のアッガイに仕掛けるのは分が悪い。

 

「どうしたの、ナオミ? もう終わり?」

 

無意識なのだろうが、挑発するヴィヴィアンに歯噛みする。これまでか、と――そんな思考がよぎるも、首を振る。

 

(諦めちゃダメ!)

 

以前セラに言われた――生きるのを諦めるな、と。ゲームだから…ではなく、ナオミは打開策を巡らせる。その時、操縦桿コンソールを開くと、そこに表示されたものに眼を小さく見開く。

 

やがて、ナオミはデュナメスにビームサーベルを握らせ、身構える。

 

「まだだよ、ヴィヴィアン」

 

「そうこなくっちゃ! なら、こっちからいくぞー!」

 

反転し、デブリに足をつけ、思いっきり屈み込むアッガイは身構える。

 

「ドッカーン!」

 

刹那、アッガイはデブリを強く蹴り、機体を弾くように飛ばす。巨大な弾丸となったアッガイが凄まじいスピードでデュナメスに迫る。

 

モニターから固唾を呑んで見つめる観衆は、これで終わりかと思った瞬間―――

 

「今だ! トランザム!」

 

【TRANS-AM】

 

ナオミはコンソールの『SP』コマンドを入力する。その瞬間、デュナメスの機体を真紅の粒子が染め上げる。アッガイが直撃しようとした瞬間、デュナメスの姿が掻き消える。

 

「およっ!?」

 

姿が消えたデュナメスにヴィヴィアンが一瞬戸惑い、アッガイは進行先のデブリに強引に着地する。だが、動きを止めた瞬間、アッガイは背中に衝撃を受ける。

 

「うにゃぁっ」

 

呻くヴィヴィアンとヨロめくアッガイに紅い影が迫る。

 

真紅の粒子を纏ったデュナメスが超光速で迫り、アッガイがメガ粒子砲を放つが、それを回避する。まるで幾体も存在するかのように残像を見せながら移動するデュナメスはビームサーベルを抜く。

 

「やぁぁぁぁぁっっ」

 

「なんの! そこだぁぁぁぁっ!」

 

完全に背中を取った――だが、ヴィヴィアンは天性の反射神経でそれに反応した。振り下ろすサーベルと突き出されるクローが交差し、衝撃と閃光が一瞬モニターを覆い、観衆は眼を逸らす。

 

やがて光が収束すると、再び視線を向ける―――モニターには、粒子が消えたデュナメスとアッガイが折り重なるようになっており、また相討ちかと眼を凝らす。

 

デュナメスの左肩にクローが深く抉り込まれ、完全に破壊されている。対し、ビームサーベルはアッガイの頭部を完全に真っ二つに斬り裂いていた。

 

次の瞬間、爆発が起こり、二機は衝撃で離れる。アッガイは頭部にスパークを起こし、爆発四散する。対し、デュナメスは左腕こそ破壊されたが、まだ本体は無事だった。

 

「か、勝ったの……?」

 

ブースの中で呆然と呟くナオミ。

 

「そうだよ、ナオミ!」

 

「ヴィヴィアン?」

 

「にゃははは、負けちった! ナオミ強くなったね~あたし、驚きだよ!」

 

通信ウィンドウからヴィヴィアンの明るい声が響き、徐々に実感を帯びてくる。

 

「し、信じられない……」

 

隊のエースであるヴィヴィアンとサシで戦い、勝利したことに信じられない面持ちだったが、やがて嬉しさがこみ上げてくる。

 

「おおっと、ここで初めての勝者です! ナオミ選手がヴィヴィアン選手を破りました!」

 

モモカの言葉に観衆が声援を上げる。

 

「さあ、もう一つの戦いはどうなっているのでしょうか?」

 

最後の一つの戦闘がメインモニターに表示される。

 

セラのリゼルとヒルダのサザビーは激しい応酬を繰り広げていた。サザビーのビームショットライフルから放たれるビームを回避しながら、リゼルは変形し、宇宙を飛びながらライフルで狙撃する。

 

サザビーの周囲を跳ねるように旋回し、ビームを浴びせかける。

 

「鬱陶しいんだよ! このクリソツ女! ファンネル!」

 

ヒルダは舌打ちし、ファンネルを起動させる。飛び立つファンネルが弧を描きながらビームを浴びせかけ、セラは操縦桿を操り、機体のスラスターとバーニアを駆使して小刻みに機動しながら回避するも、すべてをよけ切れず、一撃が機体を掠め、シールドをパージする。

 

MS形態へと戻り、ビームライフルを構え、狙撃するも、サザビーは悠々と回避する。

 

「そうそう当たるもんじゃないよ!」

 

ニヤリと笑い、嘲るヒルダに向かってセラはリゼルを加速させ、ビームライフルの先端にロングビームサーベルを展開し、一気に飛び込む。

 

「はぁぁっっ!」

 

「ちぃぃっ!」

 

予想外の踏み込みにヒルダはビームサーベルを抜いて受け止める。スパークするエネルギーのなか、出力の差からリゼルが押し返される。

 

「そら、喰らいな――!」

 

強引に押し切ったサザビーにライフルが融かされ、握っていた左腕ごと斬り落とされる。セラは歯噛みするも、すぐに体勢を立て直す。

 

至近距離でバルカンを斉射し、サザビーの頭部が集中砲火を受け、蜂の巣になって被弾する。

 

「なに――っ!?」

 

突然のことに戸惑うヒルダ目掛けて右腕に残っていたビームサーベルを構え、振り上げる。ビームの刃がサザビーの右腕を吹き飛ばし、そのままサザビーを蹴り離し、離脱する。

 

「やりやがったな!」

 

蛇行するサザビーの中でヒルダは呻き、リゼルを睨みながらファンネルを向かわせる。襲いかかるファンネルにバルカンで牽制するも、ビームは容赦なく降り注ぎ、リゼルの右脚を撃ち抜き、破壊する。

 

「ぐっ!」

 

大きく体勢を崩すリゼルだが、残っているバーニアを噴射させて踏み堪え、セラは装備のメガビームランチャーを選択する。背後に背負っていた大型のライフルを手元に構え、サザビーを照準に合わせる。

 

マーキングが動き、捉えた瞬間、トリガーを引いた。

 

解放されるビームの奔流がファンネルを呑み込み、真っ直ぐにサザビーに迫る。頭部を破損し、反応の遅れたヒルダはそれを避けきれず、ビームがサザビーの右半身を穿つ。

 

大きく融けた半身にサザビーは爆発に身を包み、ブース内に異常を告げるシグナルが無数に表示される。ヒルダは歯噛みして操縦桿を握り締める。

 

「意地があんだよ、あたしにもな!」

 

『副長』の肩書きはただの酔狂ではない。なにより、これまで彼女を支えてきたプライド故に、ヒルダは最後の力を駆使し、サザビーを加速させる。

 

最後の左手に残ったビームトマホークを振りかぶり、加速するサザビーにセラはメガビームランチャーを向けるも、上方より降り注いだビームが銃身を貫く。

 

ハッとセラが顔を上げると、残っていたファンネルが役目を終えて自壊し、セラは舌打ちして捨てる。右手に残るビームサーベルを抜き、リゼルは身構える。

 

気迫を振り上げて迫るヒルダのサザビーにセラは呑まれそうになるなか、ジッと身構える。寸前まで迫った瞬間、サザビーのバーニアが爆発し、バランスを崩し、ヒルダの気概が削がれる。

 

体勢を崩すサザビーに向けてリゼルがカウンターでビームサーベルを突き刺し、トマホークがリゼルの肩アーマーを貫き飛ばし、ビームサーベルがサザビーのボディを貫いた。

 

次の瞬間、サザビーが爆発し、ヒルダはリタイヤとなってブースのコックピットが解除される。腹立たしげにブースを蹴るヒルダに対し、爆発の中から姿を見せたリゼルはなんとか残っている。

 

「セラ様とヒルダ選手の戦いも決着がつきました! ヒルダ選手はリタイヤです!」

 

モモカの言葉に歓声が起こる。それだけ手に汗握るバトルだった。興奮は最高潮に達している。セラも軽く息を吐く。

 

あの瞬間――もしサザビーの機体トラブルがなければ、どうなっていたか分からない。とはいえ、セラも楽観視できるような状態ではない。

 

リゼルは見るも無残な状態だ。左腕、右脚は欠損、右肩は装甲が飛ばされてフレームが剥き出し、スラスターも半壊している。

 

(あとは誰が残っている……?)

 

まだバトル終了の合図が出ない以上は、自分以外の機体が残っているはずだ。セラはコンソールを動かし、残存している機体情報を呼び出す。

 

「ナオミ?」

 

現在マーカーが残っているのは自分とナオミのみ。あとの面々は全員がリタイヤとなっている。その意外さにやや驚いていると、反応が表示される。

 

リゼルの前方にデュナメスが現われ、ナオミが弾んだ面持ちを浮かべる。

 

「セラ、やっぱりセラも残ってたんだね」

 

安堵するナオミに場違いな苦笑が浮かぶ。ゲームなのだが、ナオミの中ではまるで本物のように錯覚しているのかもしれない。

 

「ナオミこそ…強くなったわね」

 

誰と戦っていたかは知らないが、第一中隊のメンバーの中で生き残っているということは、彼女の操縦技術がそれに追いついてきたということ。

 

称賛するセラにナオミもまた照れ臭そうにはにかむ。

 

「なんか、お互いボロボロだね」

 

共に機体はボロボロ――満身創痍といっていい状態だ。

 

「そうね――けど、これはバトルロイヤルよ。最後の一体にならないと終わらないわ」

 

身構えるリゼルは右手にビームサーベルを構える。もはやこれしか武器はない。だが、それは同じなのか、デュナメスもビームサーベルを抜く。

 

「そうだね――それに見てもらいたいんだ、セラに。今の私を」

 

顔を上げたナオミがそう告げる。セラもそれに応えるように頷き、操縦桿を引く。

 

加速するリゼルとデュナメスが互いのビームサーベルを振りかぶり、相手に迫った瞬間―――――

 

 

《TIME OVER BATTLE END》

 

 

突如として機械音とウィンドウが互いのモニターに表示され、バトルフィールドが強制解除される。ベースの上に創造されていた仮想空間は消え、セラとナオミは何が起こったのか分からずに戸惑っている。

 

「こ、ここでバトル制限時間です! この場合は―――」

 

誰もが固唾を呑んでいただけに、肩透かしを喰らったような状態だが、モモカがルールを確認する。

 

「えー、『制限時間内に決着がつかない』場合は、勝者なしということになります」

 

その言葉に不満を上げたのは他ならぬ第一中隊の面々だった。

 

「なんだよそれ、聞いてねえぞ!」

 

既にリタイヤしているのだから関係はないのだが、ロザリーが声を上げると、主賓席に座っていたジャスミンは喰ったように笑う。

 

「何言ってんだい、ちゃんと渡したルールにも書いてあっただろ」

 

そう指摘され、サリアが急ぎルールブックを捲ると、サリアは呆れたように顔を疲れさせる。

 

「こ、こんなの読まないわよ……」

 

力なく告げるサリア。確かに書かれていた――だが、よりにもよって最後の一番下に小さく書いてあった。操作方法を覚えるのに必死で、誰もそこまで気づかなかった。

 

とはいえ、誰もが確信犯だと思ったが、当のジャスミンは満足気に席を立つ。

 

「見てもらった通り、これが『ガンプラバトル』だ。誰もが遊べる最高のゲームさ、是非とも遊んで欲しいね! うちじゃGPベースの他に各種データや裏コードも扱ってるからね!」

 

ジャスミンの謳いに歓声が上がる。今のバトルを見て誰もがゲームに対しての関心をもち、ヒートアップしている。

 

「それじゃ、素晴らしいデモンストレーションをしてくれた第一中隊の連中に拍手をしてやってくれ」

 

いけしゃあしゃあと称賛するジャスミンにつられるように会場から惜しみない拍手が送られるも、第一中隊の面々は微妙な顔だった。

 

完全にオイシイところを持っていかれ、あまり実りのないことに誰もが辟易する。そんな中、セラは肩を竦めた。

 

 

 

 

後日――――

 

食堂にて休むセラ、アンジュ、ナオミの姿があった。

 

「まったく、ジャスミンにまんまと利用されたわ!」

 

まだ根に持っているのか、不機嫌気味にぼやくアンジュにナオミは乾いた笑みを浮かべる。

 

「ま、まあまあ」

 

「サリアも変な因縁つけてくるし」

 

いつも突っかかってくるヒルダ達3バカはともかく、サリアまで私怨混じりに向かってくるので、アンジュの不機嫌はなかなか収まらない。

 

「アンジュリーゼ様、これを飲んでお機嫌をお直しください」

 

そこへ紅茶を淹れたモモカがカップをアンジュの前に置き、セラとナオミの前にも置く。

 

「セラ様とナオミさんもどうぞ」

 

「いいの?」

 

「はい」

 

「それじゃ、遠慮なく」

 

カップを持ってティータイムを満喫する。

 

「それにしても、あそこまで人気が出るとは思ってなかったわ」

 

ようやく気持ちが落ち着いたのか、アンジュがそう評する。今や、アルゼナルでは空前のガンプラバトルブームが巻き起こっていた。

 

あのプロモーションが功を奏したのか、誰もがGPベースを買い求め、さらにはゲームへの参加とジャスミンはホクホク顔だ。メイルライダーは元より、ライダー適正で落とされた者や、他の部署の面々も興味をそそられており、ゲームは人気で数時間待ちというのも珍しくない。

 

それに気をよくしてか、ジャスミンは機械を量産できないかとメイに持ちかけているらしい。メイにしてみればいい迷惑だが―――

 

「ココやミランダも気に入ってるみたいだしね……」

 

参加ができなかったココやミランダも観戦して興奮したのか、今は夢中になって参加している。対し、プロモーションに参加させられた第一中隊の面々は、ジャスミンに一杯喰わされて、あまり面白くないのか参加はしていない。

 

「それよりもセラ、正直あなたが参加するなんて意外だったわ」

 

アンジュが徐にセラを見やる。正直、彼女はこういったゲームや見世物的なものには興味がないと思っていただけに、アレへの参加をOKしたことには腑に落ちなかった。

 

「ま、たまにはドラゴン以外との戦闘も悪くないかな、って思っただけよ。それに……」

 

脳裏を過ぎる可能性、ドラゴン以外のものと戦うこともある…対パラメイル戦闘の経験のなさは―――そう言葉にしようとしてセラは呑み込んだ。口を噤むセラにアンジュとナオミは顔を見合わせる。

 

「なんでもない」

 

首を振って言葉を切るも、それ以上不審に思わず、モモカが不意に口を開く。

 

「そういえば、あの時最後まで残ってられたのはセラ様とナオミさんでしたね? あのまま続いていたら、どうなっていたのでしょう……?」

 

その言葉にセラとナオミは思わず互いを見やり、考え込む。

 

どうだろうか――今考えれば、あの時のダメージは両方とも相当なものだった。満身創痍に近い状態でぶつかっただけに、どうなっていたか予想もできない。

 

「分からない――どっちにしろ、今更考えても仕方ないしね。それに…あんな状況、ゲームの中だけだしね」

 

あんなボロボロになってまで対峙することなど現実ではあり得ない。ナオミはどこか苦笑混じりにそう返す。

 

「そうね、あの連中はともかく、セラとナオミが実際に戦うことなんてないだろうしね」

 

普段からヒルダ達と対峙しているアンジュはともかく、セラとナオミはそんな光景すら思い浮かばない。

 

 

【第一種遭遇警報発令! パラメイル第一中隊出撃準備!】

 

 

その時、突如として警報が鳴り響き、アルゼナル内は緊張に包まれる。

 

「ゲームよりも、まずは現実(リアル)を生き残らないとね」

 

そう――ノーマはドラゴンを相手に命を懸けた戦いをしている。ゲームの中でデータの戦いを呑気にしている人間とは違う。

 

「そうね…ちょうどいいわ」

 

鬱憤を晴らそうと気合を入れるアンジュが駆け出し、セラも続こうとし、その背中にナオミが声を掛ける。

 

「ね、セラ…さっきのことだけど」

 

「ん?」

 

「その、ね…よかったら、また一緒にやってくれるかな?」

 

恐る恐ると訊ねる。

 

今の自分がどこまでセラと一緒に戦えるようになったのか、セラに認めてもらえたのか―――不安気に見つめるナオミに肩を竦める。

 

「ナオミは強くなったわよ。それに、私はあなたを足手纏いなんて思ってないわよ」

 

その言葉に眼を剥く。

 

密かに感じていた不安が払拭され、ナオミは強く頷く。

 

「いくわよ……生き残るためにね」

 

「――うん!」

 

二人は駆け出す。ゲームの中ではない現実の戦いを生き抜くために―――――いつか、セラと戦ってみたい…そんな微かな夢を抱きながら、ナオミはセラの背中を見つめた。

 

いつか、追いつく背中を―――――




ネタのつもりが前後編になってしまった後半の回です。お付き合いいただき、ありがとうございます。

最初のプロットではアンジュとのラストバトルだったのですが、なぜこうなった?――とばかりのラストはナオミとでした。最初はボロボロの状態でやり合おうかなと考えていたのですが、そこまでやるとこの先が……(え?

最期はナオミにスポットを当てた回になってしまいました。本編はアンジュがメインだからいいか。

次回からまた本編に戻ります。次こそ魔法少女を!

次に書くのはどれがいいですか?

  • クロスアンジュだよ
  • BLOOD-Cによろしく
  • 今更ながらのプリキュアの続き

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