クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 紫銀の月   作:MIDNIGHT

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今回はネタ回です。

本編と直接関係はないので、飛ばしてくれても全然OKです。


番外編 アルゼナルでガンプラバトル!(前編)

『ガンプラバトル?』

 

第一中隊の面々が声を揃えて首を傾げる。

 

一同が集まっているのは、ジャスミンモールの一画であり、彼女らの前にいるのは主であるジャスミンである。突然彼女に呼び出された第一中隊の面々は、ジャスミンに見せたいものがあるとパーテーションで区切られた奥に設置された巨大な装置を前にして冒頭の言葉を告げられた。

 

「って、いったい何ぞ?」

 

ヴィヴィアンが首を傾げたまま問い掛ける。それはここにいる全員の代弁だろう。

 

「いったい何の用なんですか? 突然招集をかけるから、何事と思ったのですが……」

 

サリアが不可解といった面持ちで先を促す。指揮系統に関わりのないジャスミンからの招集は確かにおかしなものがある。それに対し、ジャスミンが不敵に笑う。

 

「まあまあ、そう焦りなさんな。まずはこいつの説明をしなくちゃね」

 

「何なんだよ、この機械?」

 

「すっげーでけーな」

 

「いったい何をするものなの?」

 

ヒルダをはじめ、ロザリーやクリスも興味津々に見ている。六角のベースが複数組み合わさった巨大なフィールドのような機器は、一見すると用途が掴めない。

 

「順番に説明するよ。こいつはバトルベース――まあ、ゲーム機みたいなものさ」

 

「ゲームって、随分違いますけど……」

 

ジャスミンモールに置かれているクレーンゲームやちょっとしたアーケードゲームを思い浮かべるも、ジャスミンは指を立てて振る。

 

「違うんだねぇ、こいつは外の世界での最先端ゲームなのさ」

 

自信満々に告げるも、一同は未だに理解が及ばず、クエスチョンマークを頭に浮かべている。

 

「まあ、詳しい説明はこの子に頼もうかね」

 

そう言って促す先にはモモカがおり、小さく頷くと向き直る。

 

「それでは、僭越ながら私から説明させていただきます。『ガンプラバトル』とは、『ガンプラ』と呼ばれるおもちゃのデータを用いて行う対戦ゲームです。こちらのバトルベースに各々の対戦データや機体データが入力された『GPベース』をセットすることで、プラフスキー粒子と呼ばれる素粒子がシステムから散布され、その粒子の影響によって仮想現実世界に再現されたガンプラが動作可能となり、さながら本物のような対戦を可能とする画期的なシステムです」

 

「まあ、分かりやすく言えば、パラメイルのシミュレーターをより大衆向けにしたゲームさ」

 

「最先端――アンジュ、知ってる?」

 

用途的にはなんとなく理解できたものの、まだどこかよく分かっていない面々のなか、ナオミがアンジュに訊ねる。

 

「私はやったことはないけど、話ぐらいは聞いたことあるわ」

 

最近まで外の世界でいたアンジュも何度かモニターで観戦したことがある。その人気は地球規模であり、大会も開かれ、老若男女関係なく幅広い人気を博している。

 

「へー、そうなんだ」

 

感心したように声を上げるナオミを横に、アンジュはどこか怪訝そうに見る。

 

「でも、これって確か供給不足で数が足りないって聞いてるけど……」

 

このゲームは人気が高く、街のゲームセンターやおもちゃ屋は愚か、国での開催も多いため、生産が間に合わないともっぱらの噂だった。

 

それに対し、ジャスミンは喰ったように笑う。

 

「そいつは教えられないね、企業秘密ってやつさ」

 

「どうせ、ロクでもないルートでしょうけど……」

 

ボソッと呟くセラに、ジャスミンは誉め言葉と取ったのか、小気味よく笑う。ジャスミンモールでの商品の仕入れを一手でやり繰りしているジャスミンの手腕は確かなのだが、あまり表に出せないルートも多岐に渡る。幼い頃からそれを見てきただけに、小さく肩を竦める。

 

「それで、この機械と私達を呼んだことが関係あるんですか?」

 

改めて問い掛けるサリアに、ジャスミンが小さく笑う。

 

「そいつはね……」

 

「大方、私達にこのゲームを実践してプロモーションしてみせろってことじゃないの?」

 

被せるように告げたセラの言葉に、台詞を取られたジャスミンは不満そうになるが、他の面々は驚きに眼を見張る。

 

「なんで私達が?」

 

アンジュも戸惑っているが、セラは要点を説明していく。

 

最新のゲームが手に入った――そこまではいい。問題はこれをどう、商品として売り出していくかだ。

 

一番手っ取り早いのは、実演させて大々的にプロモーション化することだろう。なら、当然そういった戦闘経験があり、操作に長けた者――つまりはメイルライダーに話が回ってくる。

 

そして、『第一中隊』という肩書きが、より注目度を上げてくれると踏んだのだろう。

 

「バカバカしい、付き合ってらんないわ」

 

アンジュが面倒臭いと悪態をつき、それに続くように他の面々からも不満が出てくる。

 

「あたしも御免だね、一銭の得にもならないものなんかやってられないね」

 

「あたしもだ。なあ、クリス」

 

「え…その、うん、そうだね」

 

ロザリーに振られたクリスはやや戸惑いながらも、どこかチラチラと筐体を見ている。

 

「えー? なんで、面白そうじゃん!」

 

ヴィヴィアンだけは乗り気のようで首を傾げている。

 

だが、概ね面倒臭いという意見が大半のため、それも折込済みとばかりにジャスミンは動揺も見せずに笑う。

 

「まあ、そう言いなさんな。無論タダとは言わないよ…参加してくれたら、ジャスミンモールで使える商品券をあげるよ」

 

その言葉にピクっと耳が動く者が数名――それを視認し、さらに畳み掛ける。

 

「さらに、優勝した奴には特別に賞金も出すよ!」

 

一部から歓声が上がる。

 

「よっしゃ、のるぜ!」

 

「うん!」

 

普段の稼ぎが少ないロザリーやクリスが意気込む。クリスの場合は、ゲームが好きということもあって、興味津々だったようだ。

 

「おもしろそーだから、あたしはやるよ!」

 

「そうね~賞金は魅力的ね」

 

最初から乗り気だったヴィヴィアンにエルシャも興味が沸いたのか、参加を申し出る。

 

「隊内でやりあうってわけか…こいつは上下関係をハッキリさせるいい機会だねぇ」

 

「変な言い回しはやめなさい。でも、隊の実力を把握する意味ではいいかもしれないわね」

 

こちらはどこか含んだ思惑を抱きながら参加を決める隊のトップであるサリアとヒルダである。

 

「ねぇ、セラ、アンジュ、ふたりはどうするの?」

 

メンバーが次々と参加を決めるなか、ナオミが訊ねると、アンジュはつまらなさそうに鼻を鳴らす。

 

「興味ないし、私は参加し……」

 

「私は参加してもいい。少し興味もあるし、たまにはそういった戦闘も経験しておきたいしね」

 

アンジュの言葉に被せるように告げる。思わずアンジュは口を噤み、ナオミは嬉しそうに頷く。

 

「そうなんだ、私も楽しそうだし、参加してみようって思ってたんだ」

 

楽しげになる二人にやや狼狽え、アンジュも口を挟む。

 

「わ、私も参加するわ! 少し興味もあったし……」

 

大仰に宣言するアンジュにセラとナオミがやや呆気に取られる。

 

「あ、そうそう忘れてた――こいつは参加できる人数が9人までだからね」

 

付け加えるようにジャスミンが補足すると、第一中隊の中でココとミランダは参加を辞退した。

 

「それじゃ、こいつを配っておくよ」

 

メンバーが決まると、ジャスミンは各々に『GPベース』と呼ばれる端末を渡す。この中に各々のメイルライダーとしての情報がインプットされているらしい。

 

わざわざメイに頼んでパラメイルの戦闘レコーダーからデータを抜き出して入力したというのだから、用意周到だ。

 

「こいつを本体にセットすると、その情報を基にあんた達に合った機体が選択されるシステムさ」

 

このGPベースにバトルによる経験や機体のカスタマイズデータをダウンロードすることでより強力な機体に仕上げていくことができる。これも人気の一つのようだ。

 

「それじゃ、バトル開始は一時間後だ――準備しといてくれよ」

 

小躍りでもしそうなぐらいにジャスミンはその場を後にし、設営の手伝いとモモカも連れて行かれた。残された面々は手引書を渡され、熟読するのだった。

 

 

 

一時間後―――ジャスミンモールの一画には大勢の人影が集まっていた。集まった面々は噂を聞いて興味津々に集まった他部隊のメイルライダーや、整備班、他にも一般職員など大勢の面々が集まっている。

 

無論、ドラゴンの襲来に対しての警戒もあるため、最低限の観測するオペレーターの人間はあまり出てこれなかったが、それでもアルゼナルにいるノーマの半分近くがいる。

 

元々閉鎖的な場所であるアルゼナルには総じて娯楽が少ない。それ故に、こうしたイベントごとはいい刺激になっている。

 

緊急に設置された観戦席の最前列には幼年部の子供達が陣取り、ジャスミンが特別にお菓子とジュースを振る舞い舌鼓を打っている。ケチなジャスミンしては珍しいのだが、エルシャから頼まれ、キャッシュを取ろうとしたところに、プロモーションに協力するのだからそれぐらいしろとセラがジト眼で告げ、ブツブツ言っていたのは余談だ。

 

そして、その場には一時間前にはなかったはずの巨大なステージが組み上げられている。そのバックには巨大なスクリーンモニターが設置され、遠くからでも観戦できるように配慮がされている。とても急ごしらえとは思えないステージの姿に呆れしかないが。

 

やがて、時間が来ると、会場内の照明が落ち、周囲が暗くなる。ざわめく中、ステージにスポットライトが入り、そこにマイクを持ったモモカが照らし出される。

 

「みなさま、お待たせいたしました! ただ今より、アルゼナル主催、ガンプラバトルを開催しまーす!」

 

その宣誓で歓声が起こる。

 

「司会は私、モモカ・荻野目が務めさせてまいります。それでは、まずルールの説明です!」

 

モモカの言葉にモニター画面に映像が入る。映し出されるのは、SF映画さながらの宇宙――星が無数に輝く静寂の世界を破るように突如爆発の華が咲く。

 

観衆が驚くなか、次々と爆発の灯が無数に煌く。その中に突如現れるパラメイルとは違う四肢を持つ人型のロボット――様々な形状を持つ機体群が宇宙を舞台に戦い、撃ち合い、破壊されていく。いうまでもないが、これはあくまでゲームの中のバーチャルのはずだが、まるで現実さながらの光景に観衆は興奮していく。

 

OP映像が終わると、バトルのルールが表示される。

 

「ルールは9人のファイターによるバトルロイヤル! 戦って、闘って、戦い抜いて! 最後の一体が勝者となります!」

 

バトルフィールドと呼ばれる仮想フィールドでの戦いは、総当りのバトルロイヤル――無論、タッグを組んでも構わないが、時間制限内に決着がつかない場合は、勝者なしということになる。

 

あとは、フィールドの範囲外から飛び出したら、強制的にリタイヤとなる。

 

「それでは、出場選手の入場です!」

 

ルールの説明が終わり、このセレモニーの主役達が入場する。どこからか煙が噴射され、その煙の奥からライダースーツに着替えた第一中隊の面々が姿を見せる。

 

「アルゼナル・パラメイル第一中隊の皆さんです! 盛大な拍手でお迎えください!」

 

司会に促され、拍手が起こるなかをステージの中央に進んでいく。

 

普段は経験することがない観衆からの視線にナオミやクリスなどは若干及び腰だ。というよりも、わざわざライダースーツに着替える必要はないのだが、演出だと強制的に着替えさせられた。

 

「それでは皆様、端末ブースについてください!」

 

バトルベースの9つの端末ブースに9人がつくと、システムが起動する。

 

【Plaese set your GP-Base】

 

機械的な音声と共に、各々のブースに入った面々の周囲に粒子でできた仮想のコックピットが形成される。粒子で形成されているが、機体のステータスや各種装備の表示、レーダーやセンサー類、モニターまでもが再現され、さながら本物のコックピットにいるような臨場感を味わえる。

 

正直、パラメイルのシミュレーターより高性能だ。

 

そして、各々がGPベースを眼の前の端末にセットした。

 

【Beginning Plavesky particle dispersal.Fiard1,Space】

 

プラフスキー粒子散布の音声と共に、ステージが選定され、ベース上に仮想フィールドが形成される。未だ人類が旅立てない空の向こう――未知の世界である宇宙空間だ。

 

「わっはー! すっげー!」

 

ヴィヴィアンが歓声を上げ、同じように観戦する面々から驚きのどよめきが起こる。かくいう他の面々も似たような表情だ。

 

仮想空間とは思えないもうひとつの世界が形成され、今からその中へと飛び込んでいく。

 

【Please select your GANPLA】

 

「さあ、数千にも及ぶガンプラの機体! GPベースに入力されたパーソナルデータから最適な機体を選択します!」

 

GPベース内のデータを読み取り、コンピューターがそのパイロットに最適な機体を選別し、処理を終えたのか、スクリーンにパイロットの写真とセレクトされた機体の概要が表示された。

 

 

 

アンジュ:ZGMF-X10A フリーダムガンダム

 

セラ:RGZ-95 リゼル

 

ナオミ:GN-002 ガンダムデュナメス

 

サリア:PMX-001 パラス・アテネ

 

ヒルダ:MSN-04 サザビー

 

エルシャ:GF13-017NJ シャイニングガンダム

 

ヴィヴィアン:MSM-04 アッガイ

 

ロザリー:RGC-83 ジムキャノンⅡ

 

クリス:YMAG-X7F ゲルズゲー

 

 

 

各々のGPベース内に機体のステータスが表示され、システム内の射出口にガンプラが形成される。データによる再現だが、質量ともに本物と違わない。

 

(へぇ、ヴィルキスに似てるわね……使い勝手は悪くなさそう)

 

(可変機か? なら、操作に違いはないな。武装オプションも多い…汎用機か?)

 

(ええっ? 長距離狙撃用? ライフルは強力だけど、扱えるかな……?)

 

(なによこの機体? 随分ごちゃごちゃしてるわね…でも火力はいいわね!)

 

(へぇ、なかなか面白そうな機体じゃないか)

 

(あらあら、意外ね? でも、一度試してみたい技もあったのよね♪)

 

(うっほー、なになに! すっごい強そうじゃん!)

 

(げっ、何だよこの機体? 動き鈍そうだし、弱っちそうじゃねえか)

 

(………いいかも)

 

セレクトされた機体のアビリティを確認した面々はそれぞれ機体を確認し、操縦桿を握る。それに呼応するように射出口の機体が動き、身構える。

 

【BATTLE START】

 

機械音声が開始のシグナルを告げた瞬間、各々が機体名を叫び、発進する。

 

「アンジュ、フリーダムガンダム、発進します!」

 

「セラ、リゼル、出る!」

 

「ナオミ、ガンダムデュナメス、いきます!」

 

「サリア、パラス・アテネ、発進します!」

 

「ヒルダ、サザビー、出るよ!」

 

「エルシャ、シャイニングガンダム、いきます!」

 

「ヴィヴィアン、アッガイ、いっくよー!」

 

「ロザリー、ジムキャノンⅡ、いくぜ!」

 

「クリス、ゲルズゲー、いくよ!」

 

射出口を滑り、各ガンプラがゲートを飛び出してバトルフィールドに躍り出る。飛び出したリゼルの操作を行いながら、セラは感覚を確かめる。

 

(成る程、確かにパラメイルの操作とさして変わらないな)

 

機体のバーニアを操作し、機体を慣らしながら進んでいく。

 

(それにしても…これが宇宙というやつなのね)

 

宇宙には重力がないというのは、フィクションの設定だが、確かにパラメイルで空を飛ぶ感覚とはまた少し違う。とはいえ、実際に宇宙に出たことなどない人類――マナによって堕落した世界では、そんな発想すら出ないかもしれないが…と、仮想現実の中を飛んでいることに奇妙な矛盾を感じていると、モニターが接近する反応を捉える。

 

全員が同じタイミングでフィールドに出ている以上、同じように向こうもこちらに気づいているはずだ。

 

「ナオミ?」

 

「あ、セラ!」

 

リゼルに並行して飛んでいたのは、ナオミのデュナメスだった。だが、ナオミはセラを確認するやいなや、機体をリゼルの傍に寄せる。

 

「ナオミ? なにやってるの?」

 

「え、何って? 一緒に飛んでるんだけど……」

 

あまりに真顔で告げるナオミの表情をモニターで確認し、セラは軽い頭痛を憶える。

 

「ナオミ…これ、バトルロイヤルよ?」

 

全員による総当たり戦だ。必然的にナオミとも戦わなければならないのだが、ナオミは首を傾げる。

 

「え、でも、タッグを組んじゃいけないってルールはないけど……」

 

さも当然のごとくそう告げるナオミに、やや呆れて嘆息する。そうだった――ナオミはこういう性格だった。とはいえ、こちらも毒気を抜かれたので、肩を竦める。

 

その時、前方で閃光が瞬く。

 

レーダーでも前方の宙域から熱分布が検出される。どうやら、既に始まっているようだ。セラはリゼルを巡航形態に変形させる。

 

「ナオミ、乗りなさい」

 

「え? あ、うん!」

 

促されるままにリゼルの上にデュナメスが乗り、セラは操縦桿を握る。

 

「振り落とされるなよ」

 

告げるやいなや、スラスターバーニアを噴射させ、リゼルは急加速する。慌てて機体を掴み、振り落とされまいとしがみつきながら、リゼルは戦闘空域に突入する。

 

セラ達が向かう宙域では、アンジュのフリーダムを追いかけるロザリーのジムキャノンⅡとクリスのゲルズゲーがいた。

 

堂々とアンジュを攻撃できるとあって、ロザリーとクリスの二人は徒党を組んでアンジュを真っ先に狙ってきた。

 

「このっ、ちょこまかと! 逃げんじゃねえよっ!」

 

悠々と飛行するフリーダム目掛けて両肩のビームキャノンを連射するも、アンジュはスラスターを駆使して回避し、逆に撃ち返す。

 

「わわっ」

 

ロザリーは慌てて回避するも、機体の鈍重さも合わさって反応が遅れ、強化外装が融かされる。ゲームとは分かっていても、被弾によるダメージの表示は緊張感を煽る。

 

だが、アンジュはその隙を逃さずビームライフルで追い打ちをかけるが、そこへクリスのゲルズゲーが割り込み、両肩のリフレクトシールドを展開し、ビームを掻き消す。

 

「効かないよ、フヒヒ」

 

強力な機体に乗っているからか、クリスは愉悦を抑えきれず、シールドを消して両腕と下半身の砲を向け、一斉射する。

 

アンジュは舌打ちして、攻撃を回避する。

 

見た目はゲテモノだが、あのシールドだけは厄介だ―――どう、突破口を開こうかと考えていると、頭上から別の攻撃が飛来し、反射的にシールドを掲げる。

 

受け止めるも、熱量にシールドが僅かに融解する。ハッと顔を上げると、そこには赤い機体が佇み、頭部のモノアイが不気味に輝く。

 

「はっ、よく受け止めたね、イタ姫様」

 

嘲笑を浮かべるヒルダにアンジュは、苦虫を噛み潰したように舌打ちする。

 

「ロザリー、クリス! あたしに続きな!」

 

「おうよ!」

 

「わかった!」

 

ヒルダのサザビーが加速し、それに続くようにジムキャノンⅡとゲルズゲーが迫り、多角からの攻撃に晒され、アンジュは歯噛みする。

 

「この、ゴキブリども――!」

 

大仰に毒づきながら、アンジュもフリーダムの全武装をフルバーストするが、ゲルズゲーのシールドに阻まれる。

 

「いきな、ファンネル!」

 

サザビーのバックパックから小さな物体が射出され、それが複雑な軌道を描きながらフリーダムに迫り、眉を顰めるアンジュに向かってビーム攻撃を浴びせかける。

 

舌打ちして回避するも、全方位からの攻撃は動きを抑制し、網目のように降り注ぐなかを間隙を縫って回避する。

 

回避するフリーダムに向かってヒルダはニヤリと笑い、大型ビームサーベルを抜いて急接近する。懐に飛び込むサザビーに気づいたアンジュが反射的にフリーダムのビームサーベルを抜いて、受け止める。

 

エネルギーの反発で弾かれる二機、体勢を崩すフリーダムに向けてジムキャノンⅡとゲルズゲーが銃口を向ける。回避が間に合わない――その時、彼方より飛来した一撃が空域を過ぎり、一同が驚きに包まれる。

 

「な、なんだ!?」

 

ロザリーが慌てて顔を上げると、高速で迫る機影が現われる。

 

「セラ!」

 

その機影を確認したアンジュが声を上げ、ヒルダは逆に舌打ちした。リゼルの上に乗ったデュナメスが長距離ライフルを構える。

 

スコープが下り、ナオミは照準を合わせる。

 

「狙い、撃つよ!」

 

トリガーを引き、放たれたビームがサザビーを狙い、ヒルダは機体を上昇させる。

 

「やろう――っ!」

 

「墜ちなさいよっ!」

 

応じて撃ち返すロザリー達にセラは機体に急制動をかけ、その反動でナオミは落ちそうになる。

 

「ナオミ!」

 

「え? わわっ!」

 

呼ぶや否や、デュナメスを弾き、リゼルはMS形態に変形し、ビームライフルを構える。

 

「もうっ!」

 

ナオミもやや不満そうながらも、長距離ライフルを構え、二機が応戦する。ビームの応酬が続くなか、そこへ別の機影が割り込んでくる。

 

「うりゃぁぁぁっ」

 

「うぇっ!?」

 

ゲルズゲーの上から割り込む影にクリスが眼を剥き、慌ててシールドを掲げると、繰り出されたクローの一撃が弾かれる。

 

「おおっ、硬い!」

 

弾んだ面持ちで驚くヴィヴィアンのアッガイ。あまり人のことは言えないが、その奇抜な出で立ちにクリスは応戦する。

 

「邪魔しないでよっ」

 

ビームを連射するゲルズゲーにアッガイは軽快な動きで回避し、跳び回る。本来なら、水陸用の機体なのだが、こまけぇことはいいんだよ――とばかりに、跳ねるアッガイにヴィヴィアンは楽しいのか、興奮している。

 

「うっほー、たのしー!」

 

ヴィヴィアンは戦闘に興味はないのか、ただ跳ねているだけであるのだが、それはクリスの苛立ちを煽る。

 

「馬鹿にしてぇ! ちょっと腕が立つぐらいで調子にのる能天気のくせに!」

 

ゲルズゲーが加速し、クローでアッガイを掴もうと伸ばすが、そこへ別の影が割り込む。振り下ろされたクローを両手で受け止めるのは、シャイニングだ。

 

「エルシャ?」

 

「私を忘れたら困るわね」

 

いつもののんびりした口調で嗜めると、シャイニングは掴んだクローごと機体を振り上げる。

 

「うぇぇぇぇっ!」

 

クリスの悲鳴とともにゲルズゲーが一本背負いで投げ飛ばされ、浮遊していたデブリに激突する。

 

「クリス!? この!」

 

ロザリーが眼を見開き、シャイニングに攻撃を仕掛ける。

 

「あらあら~困ったわね、この機体飛び道具がないのよ」

 

さして困っていない様子で回避するシャイニングに機体を起き上がらせたクリスも睨み、後を追う。

 

(さすがに混戦になってきたわね)

 

元々バトルロイヤルなのだから当たり前だが、そこへ複数向からのビームが降り注ぎ、セラはリゼルを回避させる。

 

「はっ、よくかわしたね! クリソツ女」

 

鼻を鳴らしながらファンネルを繰り出すサザビーにリゼルを加速させ、ビームの中を掻い潜りながらビームサーベルを抜き、迫る。

 

「させるかっ!」

 

サザビーもビームサーベルを抜いて振り払い、火花を散らせながら斬り結ぶ。鍔迫り合いと反発で押し合い、弾く。セラはバルカンを斉射すると同時に片腕のグレネードランチャーを放つ。

 

迫るミサイルを腹部のビーム砲で撃ち落とし、爆発が二機を包む。再び飛び出すリゼルとサザビーがブースターを噴射し、ビームサーベルを抜いて斬り結ぶ。

 

ぶつかり合う二機が火花を散らしながらセラとヒルダが互いに吠える。鍔迫り合いをしながら乱雑に飛び、二機はぶつかり合う。

 

「セラ! っ!」

 

思わず助けに向かおうとするアンジュだったが、別の接近に気づき、顔を上げる。フリーダムの頭上に現われる影がビームサーベルを抜き、フリーダムも応戦する。

 

火花が互いの機体を照らし、相手の姿を浮かび上がらせる。モノアイを輝かせ睨むのは、サリアの乗るパラス・アテネだ。

 

「サリア――!」

 

「アンジュ! いつもいつも私の命令を無視して、今日は少しあなたの立場を分からせてあげるわ!」

 

悪役みたいな台詞を叫びながら、パラス・アテネがフリーダムを弾き飛ばし、右腕の2連ビームガンで狙撃する。スラスターを噴かしてそれを回避し、両腰のレールガンを連射する。

 

パラス・アテネも拡散ビームを斉射し、レールガンを撃ち落とす。爆発が包み込むなか、閃光にアンジュが視界を覆われる。

 

閃光から飛び出すパラス・アテネの振り払うビームサーベルがフリーダムのレールガンを斬り落とし、爆発が機体を弾き飛ばす。

 

「っ、やったわね!」

 

お返しと吹き飛びながらビームライフルを放ち、パラス・アテネの左腕のシールドを掠め、吹き飛ばす。咄嗟にパージしたものの、サリアは歯噛みする。

 

「アンジュ! あんたはこんな時までヴィルキスそっくりの機体で私をバカにするのね――!」

 

「はああ!?」

 

衝撃で思わず口走ったサリアにアンジュは訳が分からず戸惑うも、サリアはさらに苛烈に攻める。

 

「絶対に分からせてあげるわ、私の実力を――!」

 

「なに訳のわかんないこと言ってんのよー!」

 

アンジュも応戦し、フリーダムとパラス・アテネの火器の応酬が轟き、周囲を爆発に包む。

 

「な、なんかみんな凄い……」

 

誰もが激しいバトルを繰り広げるなか、ナオミは置いてけぼりくらったように呆然となっている。

 

「およ、ナオミ?」

 

「ヴィヴィアン?」

 

ヴィヴィアンのアッガイがいつの間にか近くにやって来る。

 

「ナオミもハブられちゃった?」

 

「そ、そんなことないよ――」

 

一瞬言葉に詰まったものの、そう返すもセラもアンジュも相手との戦いに突入しており、置いて行かれた感は否めない。

 

「それじゃあたしとやろうよ! いっくよー!」

 

返事を待たずしてアッガイが跳び、腕のクローを振りかぶる。

 

「ええっ!? わわっ」

 

咄嗟に回避するも、突然のことに戸惑うナオミにヴィヴィアンは振り返りざまにロケットランチャーを放つ。迫るミサイルにナオミはライフルを背中に収納し、両腰からビームピストルを取り出し、狙撃する。

 

ミサイルを撃ち落とすと同時にフロントアーマーから小型誘導弾を発射し、アッガイもメガ粒子砲を拡散させて撃ち落とす。内蔵されていた粒子が飛び散り、周囲を彩る。

 

「ナオミ、やるね! とっても楽しいよ!」

 

「私だっていつまでもルーキーじゃないよ、それに、私も楽しいんだ!」

 

顔を引き締め、デュナメスがブースターを噴かして飛び、アッガイもそれに応じて加速する。




一度やりたかったガンプラバトルのネタです。設定も若干変えています。

ビルドファイターズは見ていて楽しかったですね。是非ともネタとして書きたく、今回クロスアンジュのキャラにガンプラ操縦させてみたら面白くないか?という感じで書き始めました。

プロデューサーもガンダムの監督やってた人ですし。

機体チョイスは趣味全開です! 一話限りのネタにするつもりが、予想以上に長くなってしまったので、前後編にしました。


近日中に後編もアップします。楽しんでいただければ幸いです。
本編をお待ちいただいている皆様はもうしばしお待ちください。

次に書くのはどれがいいですか?

  • クロスアンジュだよ
  • BLOOD-Cによろしく
  • 今更ながらのプリキュアの続き

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