――メガロメセンブリア元老院――
――魔法世界。
北の連合(メセンブリーナ連合)の中心ともされる首都、メガロメセンブリア。
そこの最高機関『メガロメセンブリア元老院』。
会議室にて。
メガロメセンブリア元老院議員達は頭を抱えていた。
悩みの種は言わずもがな。
『ルルーシュ・スプリングフィールド』についてである。
といっても議員達がルルーシュ・スプリングフィールドの心配をしているわけではない。
むしろ彼らはルルーシュ・スプリングフィールドを邪魔だと考えている。
何故ならルルーシュが住んでいるウェールズの山間いの隠れ里に悪魔をけしかけたのはほかならぬ彼らだからだ。
『災厄の魔女』の息子を排除すべし――
これは元老院の総意に近いものだった。
無論、元『紅き翼(アラルブラ)』クルト・ゲーテルが反意を示すだろうことが容易に予測できるものには知らせてすらいないことではあるが。
議員達には忘れられない忌々しい過去がある。
彼らの思惑を無視し、過剰な活躍をした『紅き翼(アラルブラ)』。
戦争を長引かせるのは『完全なる世界(コズモエンテレケイア)』の思惑ではあったが、それは元老院にとっても悪いことではなかった。
端的に言えば、私腹を肥やす邪魔をされたという恨みがあった。
そして『災厄の魔女』アリカ・アナルキア・エンテオフュシア。
『完全なる世界』とつながっていた前ウェスペルタティア国王から王位を簒奪し、戦争を終結に導いた『魔女』。
彼女にも煮え湯を飲まされたものだ。
その『魔女』にすべての罪をなすりつけ、ケルベラス渓谷での処刑を執り行おうとしてみれば、再び立ちふさがったのはまたもや『紅き翼(アラルブラ)』。
そして今回の計画、多数の悪魔による襲撃。
イレギュラーにも対応するため、少なくとも何体かの『切り札』となる爵位持ちの召喚。
またしても邪魔したのが『紅き翼』のリーダー、ナギ・スプリングフィールド。
既に死んでいるはずの英雄が生きていた。
しかもかの英雄には何度も煮え湯を飲まされた存在であり、死んだという報告があったときなど拍手喝采が起こったほどであった。
そんな英雄の生存を受けて元老院はある決定を下した。
英雄の息子の意識を誘導し、自分達にとって都合の良い手駒にしよう、と。
英雄の息子に求めた役割は二つ、自分達にとって都合の良い暴力装置としての役割と、失踪した英雄をおびき出す生き餌の役割。
だが――
その決定を下した時、『計画』はいきなり頓挫した。
本来保護されているはずのルルーシュ・スプリングフィールドが『救助隊』に保護されていなかったのだから。
その報告を聞いた元老院は愕然とした。
そうだ、あの『千の呪文の男』と『災厄の魔女』の子供。
あれらの子なのだ。
イレギュラーを想定しなかったのがそもそもの間違いだったのだ、と――
ナギ・スプリングフィールドという一つのイレギュラーのせいで全てがご破算。
これまでの苦労が水の泡である。
どうやら魔法世界に来ているらしいルルーシュ・スプリングフィールドを確保しておきたいとは思うが、未だ手がかりすら入手できていない状況だ。
だが、手をこまねている場合でもない。
このまま親子共々『死んだふり』をされてはたまったものではない。
ならばどうするか?
ルルーシュ・スプリングフィールドが出てこざる得ない『生き餌』が必要となるだろう。
そして、彼らは暗躍する…自らの保身や私腹を肥やすために――
●
―メガロメセンブリアとエネスの間にある森林地帯―
森の中、疾走する小さな影が一つ。
何かを追っているわけではない。
何かから逃げるわけでもない。
小さな影は速い。
影は森の中を走る。
小柄な体とは思えないほどの凄まじいスピードだ。
木を蹴り跳躍、枝に乗る。
そしてそれを弾くようにしてまた跳んだ。
枝を縦横無尽に蹴って森の中を疾風の如く駆け抜ける。
もはや飛翔に近いだろう。
今、森の中を疾走している彼の名はルルーシュ・スプリングフィールド。
今、現在行方知らずの『英雄の息子』である。
●
―エネス―
「ここが……エネスか!?」
ルルーシュが魔法世界に来てから約半月が経った。
初っ端なから、いきなり災難に見舞われたルルーシュであったがどうにか切り抜け、首都メガロメセンブリアを脱け出し、行く先々の村や森を抜け、ここ――エネスへと辿り着いた。
メガロメセンブリアから東に約千キロほどにあるその都市は、メガロメセンブリアほどではないにせよ、外から見た印象を裏切らないだけの活気で満ちていた。
大通りの両脇には露天が並び、見たことのない物や雑貨類を売る客引きの声が飛びかう。
大通りに繋がる露地には奥行きがあり、入り組んだそこはまるで迷路のように見える。
かつて魔法世界が二分された大戦。
メガロメセンブリアを盟主に、旧世界より移り住んだ人間が中心となった北の連合。
対するはヘラス帝国、すなわち元より魔法世界に住んでいた亜人で構成された南の帝国。
メガロメセンブリアから比較的距離の近いエオスは、大戦時においては連合においては中心的な役割を担っていた。
白いマントのフードを深く被り、ルルーシュは大通りを歩く。
エネスの街中を歩くこと数十分、どうにか質屋を見つけたルルーシュは早速そこに入り、村でパクってきたモノや森で採取したなどモノを全て売り払い金に替える。
そうして得た金を持って次に向かったのはマジックショップ。
そこで念願だった年齢詐称薬を手に入れることができた。
年齢さえ誤魔化してしまえば、出来ることが増えるというもの。
幼すぎるということさえなければ働き口だって探せられるだろう。
後は、魔法修行用に幻想空間幽閉型の巻物、年齢詐称薬は高価な薬であるためたびたび購入するわけにもいかないので幻術を覚えるために幻術関係の魔導書、攻撃、補助系統魔術の魔導書、他には食糧や水などを購入し、鞄に入れる。
『魔導書』のたぐいがやたらと一番お金がかかったが。
まぁいざとなれば植物なんかの採取&売却を繰り返したり、錬金術にでも手を出すのもいいかも知れない。
●
―宿屋の一室にて―
ルルーシュはようやく一息をついた。
その日の夜、宿屋でのことである。
エネスで年齢詐称薬を用いて宿を取り、夕食後、部屋にひきこもった。
さして広くもない板張りの部屋にベッドとテーブルが一つずつと粗末な造りではあったが、手入れは行き届いているようだった。
部屋に入るなり、ドアに鍵を掛け、ローブを脱ぐ。
―解除!!―
そしてポン!と幻術を解き、子供の姿に戻る。
ベッドの上に腰を下ろし、鞄の中から、今日買った幻術関係の魔導書を取り出し開く。
内容としては簡単な幻術の基礎と、初期魔法から上級までの幻術魔法の呪文が載っている。
一枚、一枚、ページをパラリと捲りながら詠唱や術式を覚えていく。
●
魔導書を読み終えると次は鞄の中から、幻想空間幽閉型の巻物を取り出す。
この巻物は精神のみに作用する仕様で、精神の体感時間を一時間を一日に最大展開は三日と言う物。
あまり多用すぎると精神的疲労がたまるらしい。
巻物を開き、店主から聞いた時間設定のやり方で時間を三日にセットする。
ルルーシュはベッドに寝転び巻物を展開する。
そうすると巻物から光があふれ思わずルルーシュは目をつぶる。
●
―幻想空間―
そして、次に目を開けた時には故郷の小高い丘と似た場所に居た。
「ほう。ここが精神世界か?現実とたいして変わらないようだな」
ルルーシュはそう呟き、周囲を見回す。
人の方は、誰もいないようだ。
「魔法の方はどうだ……」
―戦いの歌!!!―
全身に魔力が巡り、肉体を強化する。
「肉体への魔力供給は問題なしと……次は」
―魔法の射手・連弾・光の七矢!!!―
無詠唱で魔法の射手を放つ。
そのまま地面に向かって直撃し、噴煙をあげる。
「こちらも問題なしか……ギアスの方はどうだ?」
瞬間、ルルーシュの両目が紅く染め上がる。
過重力で超高速を得る《ザ・スピード》を用いてその場で高速化した腕や足を振るう。
「ふむ。ギアスもちゃんと使えるみたいだな? やれやれ本当に魔法とは便利なものだ」
ルルーシュは感心したように呟く。
魔法の射手で地面に所々小さなクレーターを開けられている所もちゃんと再現されているのだから、ここの空間は現実とそう変わらないようだ。
「この空間なら、魔法の練習に最適だな」
後書き
元老院始動(笑)