とある魔王の魔法戦記   作:WARA

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ナギ無双の回です。


TURN03   英 雄 の 力

 燃え盛る炎の中、その村の小高い丘で、ローブを目深にかぶったナギと、ルルーシュが対峙していた。

 

「っつ…………まさか!!」

 

 ナギは僅かにルルーシュの方へと振り返った。

 

「ルルーシュか……大きくなったな。」

 

 ナギは、ルルーシュの無事を確認すると悪魔の方へと顔を向け、凄まじい殺気を放ちはじめる。

 

「…………少し待っていろ」

 

 ぞくりと、大気が震えた。

 

 膨大――そう表現するのも馬鹿らしい、魔力の奔流が吹き荒れる。

 

 ただ魔力を高めているだけでこの状況だ。

 

 ルルーシュはその場から押しのけられないように堪えなければならなかった。

 

「――――すぐに、終わらせる」

 

 特別張り上げたわけでない、静かな声。

 

 だと言うのに、その宣言は全ての者の耳に届いた。

 

『ウォオォオオオオ!!』

 

 悪魔達は雄叫びを上げ、たった一人の人間の元へと殺到する。

 

 そうしなければ、呑まれてしまうのだと彼らは本能的に感じ取っていた。

 

 前方より襲いかかる黒き津波。

 

 黒き波が迫る中、ナギは大きくその腕を横に薙ぎ払う。

 

 瞬間、剛風が吹き荒れる。

 

 嵐のような突風が黒き津波をさらい、その前線を後方へと押し戻す。 

 

「……来たれ雷精、風の精。

 

 雷を纏いて吹きすさべ南洋の嵐」

 

 ルルーシュのさっき使った呪文が、ナギの口から力ある言葉として紡がれる。

 

 この世に顕現した雷と暴風が腰だめに構えたナギの右腕へと収束する。

 

 そこに込められた魔力はルルーシュが『雷の暴風』を放つのに使用した十倍近い魔力をもって、ナギは『雷の暴風』を完成させた。

 

 そして、その威力は――――――

 

 ―雷の暴風!!―

 

 ――――――ルルーシュのそれを、遙かに上回る!!

 

 ガッ!!

 

 轟音と共に、光が弾けた。

 

 それだけしか、ルルーシュにはわからなかった。

 

 文字通り刹那の間。

 

 気付いた時、光ははるか遠くに聳え立つ山肌を貫いていた。

 

「……」

 

 呆然、唖然。

 

 ルルーシュの心情を表すには、そんな言葉がぴったりだった。

 

 後に残ったのは、大地に深く刻まれた爪跡と三分の一にまでその数を減らした魔の軍勢。

 

 ナギはそれらを一瞥し―――消えた。

 

「なっ何!?」

 

 目を離したわけじゃない。

 

 ただ本当に、忽然と消えたのだ。

 

 まるでロロのギアスを喰らった時のように――

 

 一体どこにと疑問を呈すよりも早く、答えは爆音となって現れた。

 

「っつ!?」

 

 ほとんど反射的に顔をその音源へと向ける。

 

 

 

     ●

 

 

 

 瞬動を用いた超高速移動術によって文字通り目にも止まらぬ速度でナギは悪魔に肉薄し、その勢いのまま大砲の如き拳を振りぬく。

 

「オラァッ!!!」

 

 ―魔法の射手・雷の一矢!!―

 

 無詠唱で雷を付与した拳を悪魔の腹部に叩きつける。

 

 その衝撃を殺しきれずに悪魔の巨体が浮き上がる。

 

 雷によって身体が痺れてしまい、男のする行動を見守るしかない刹那の間、追い討ちとばかりに蹴りをまたもや悪魔の腹部に喰らわせる。

 

 その一撃は悪魔を後方に弾き飛ばし、さらに弾かれた巨体は後方にいる悪魔達に激突し、盛大に巻き込みながら異界へと還っていく。

 

 その一連の動きに悪魔達が動き出す前に、既にナギは次の行動に移っていた。

 

 杖を持たない右手をパンチを出すように腕を前へと出す。

 

 ―魔法の射手・収束・光の13矢!!―

 

 巨大な光の帯が、ナギの右拳から放出され、大地を抉り取りながら突き進む。

 

 収束された光弾は砲撃の如き一撃となって、軍勢に襲いかかり、その数を削りとる。

 

 ようやく体勢を整えて群と成して襲い掛かる悪魔はナギにただ一つの傷をつけることすらも出来ないまま、存在を消滅させていく。

 

 闘いというには余りにも一方的で残虐的。

 

 最早どちらが化け物さえわからない、人智を超越した暴力。

 

 ルルーシュはそれを見ていると、あの苦々しい前世の記憶を思い出す。

 

 かつては、あの白兜、ランスロットが初めて戦場に現れたときと似たようなものだろう。

 

 たった一機でありながら、戦局そのものを変えかねない力を持ったナイトメア。

 

 何度、アレに煮え湯をのまされたことやら。

 

 苦い記憶を噛みつぶし、その戦闘を見続ける。

 

 拳を振るうたびに悪魔が宙を舞い、腕を薙ぎ払えば暴風が吹き飛ばす。

 

 瞬動は入りは愚か抜きさえも認識できないほど速く鋭く、放たれる魔法は全て必殺。

 

 今もまた、呪文を詠唱し、ナギの周囲に無数の槍が出現。

 

 《雷の投擲》の名を持つ帯電した長槍はその切っ先を軍勢へと向け、音速にも及ぼうかという速度を持って一斉に射出される。

 

 ルルーシュとは比べ物にならぬ魔力の込められた三十もの帯電した投げ槍が高速を持って軍勢へと襲い掛かり、串刺しにする。

 

 正に理不尽なまでの強さ。

 

(これが、ナギ・スプリングフィールドか!)

 

「来たれ 虚空の雷 薙ぎ払え」

 

 『雷の斧』

 

 雷の刃で対象を攻撃する上位古代語魔法。

 

 無詠唱近接「魔法の射手」で敵を怯ませてから、「雷の斧」でダメージを与える一連の攻撃は、ナギが得意とする連携の一つだ。

 

 そうはさせまいと詠唱の邪魔をするべく近くに居た悪魔達がナギに襲いかかる。

 

 振るわれる鋭い爪や拳を躱しながら、ナギは詠唱を完成させる。

 

 ―雷の斧!!!―

 

 本来ならば縦に振りおろす形で発動させる『雷の斧』を横向きに魔法を解放することで範囲を広げる。

 

 大戦期、鬼神兵すらも両断した雷斧が弧を描くように発露され、悪魔達を広範囲に焼き尽くす。

 

 ナギはそのまま瞬動でルルーシュの下に移動した。

 

「契約により 我に従え 高殿の王

 

 来れ 巨神を滅ぼす燃え立つ雷霆」

 

 たたみかけるように今度は膨大な魔力を練り上げ、超広域殲滅魔法である『千の雷』の詠唱を唱える。

 

 あれは、まずいとすぐさま詠唱を妨害しようにも先程から一連の魔法の連続攻撃で数が減り、ナギが後方へと下がってしまい距離がかなり開いてしまった為、悪魔達ではもはやどうすることも出来なかった。

 

「百重千重と重なりて 走れよ稲妻」

 

 ―千の雷!!!―

 

 瞬間、ルルーシュとナギ、二人の居る場所以外の全てが雷に飲み込まれる。

 

 轟音と共に凄まじい勢いで降り注ぐ雷撃。

 

 電撃系最大呪文。

 

 魔力は「雷の暴風」の十倍以上が必要だが、それに見合った超広範囲雷撃殲滅魔法。

 

 如何なる敵も一撃のもとに殲滅させる。

 

 それがこの戦闘――虐殺の終結だった。

 

 稲光から戻った視界。

 

 先程まであった光景は残っておらず、辺り一帯が天災にでもあったかの様な惨状だった。

 

 それはまるでクレーターのようにえぐられた地面。

 

 地面からはその威力による熱と煙が生まれてきている。

 

 もはや焼け野原という表現が生ぬるい程の破壊の爪跡が残っているだけだった。

 

 そこには黒き軍勢の姿はもうどこにもなく、残すはたった一匹の悪魔のみ。

 

 だがその一匹すら、既に満身創痍だった。

 

 光を反射しないのっぺりとした漆黒の体躯は至る所が傷つき、空を飛ぶための翼は肩口からもがれている。

 

 ナギは瞬動で距離を詰め、そんな瀕死の悪魔の首元を右手で掴むと、そのまま片手一本で持ち上げた。

 

 ぶらりと、宙に浮く悪魔の不気味な黄色い瞳が目の前の化け物を捉える。

 

 めくれたフードの下から零れ落ちる、赤い髪を。

 

「……そうか…貴様が…あの…」

 

 人語を解し、言葉を話す。

 

 それは、この悪魔が単なる下級の雑兵とは異なるという証。

 

 『千の雷』を喰らって、消滅してない時点でわかりきったことだが。

 

「くく……この力の差…どちらが化け物か……わからんな…」

 

 悪魔はニイっと笑う。

 

「……」

 

 無言のまま、ナギの右手に力がこもる。

 

 ゴキリと、嫌な音が響き――悪魔はその活動を停止させた。

 

 高々と燃え盛る炎の音が嫌に大きくルルーシュの耳に届く。

 

 止まった世界。

 

 それを動かしたのはナギだった。

 

 今の今まで闘っていたその人物は動かなくなった悪魔を放り投げると、ゆっくりとルルーシュの元へと歩み寄っていく。

 

 炎の光を受けて露わとなったその素顔。

 

 赤い髪に端正な顔立ちの容姿。

 

 ナギがルルーシュの前で立ち止まる。

 

「……わるい。来るのが……遅すぎた」

 

 悔いるように、嘆くようにナギは呟いた。

 

 ルルーシュはそんな今世での父の顔を見つめ――

 

「そうだな……もっと早く来ていれば村は無事助かっただろうな」

 

「……そう…だな」

 

「俺を村に預けたままほったらかし! 死んだと思ったら生きている! 一体何処で何をしているんだ?」

 

「……返す言葉もねぇよ」

 

 罵倒を受けるのはわかっていたのだろう。

 

 ナギは静かに顔を伏せた。

 

 沈黙の間。

 

「しかし……」

 

 はっと、ナギは顔を上げた。

 

「あんたが来なかったら、俺は助からず悪魔に殺されていただろう。……そのことは感謝してやるさ」

 

 そっぽを向いて、そう呟くルルーシュ。

 

 よく見れば、その頬には薄らと赤が灯っていた。

 

 はてさて、いったいこの捻くれた感じは誰に似たことやら。

 

(アリカじゃねぇってことは、俺の血のせい、か)

 

「まったく捻くれてやがんな……誰に似たんだか」

 

「ふん」

 

 もしかしたら初めてかもしれない親子のやり取り。

 

 ナギはそれまで固かった表情を崩し、乱雑にルルーシュの髪の毛をかき回した。

 

「バカっ! やめろ! 離せ!」

 

「照れるな照れるな。お父様からの愛情をしっかり受け取っときな」

 

「そんな気持ち悪いもの、いるか!」

 

 ルルーシュは振り払うようにその手を叩くが、ナギは気にした様子も無く、ルルーシュの髪を縦横無尽にかき回していく。

 

 結局何もできないのがわかったのかルルーシュはされるがまま髪をかき回される。

 

 こんな時ではあったが、確かにそこには親子としての姿があった。 

 

 だがそれは、ほんの僅かな時でしかなかった。

 

 

 

     ●

 

 

 

「……そろそろ行かねぇとな」

 

 しばらくしたら、ナギはそう言葉を漏らし折っていた膝を起こす。

 

 ルルーシュはナギへと詰め寄った。

 

「ふざけるな! こんな状況でもまだ放っておくつもりか!?」

 

「……すまねぇ」

 

「すまねぇじゃないだろうが! どんな理由だっ。親が子を遠ざけるなんて―――――」

 

 そこまで言って、ルルーシュは気づいた。

 

 ローブからのぞかせるナギの手が、段々と透けつつあることに。

 

「ちょっと、前に無茶やっちまってな。あんまし時間がねぇんだ」

 

「……何とかならないのか」

 

「すまねぇ」

 

「ちぃっ!」

 

 やり場のない苛立ちがルルーシュの口からこぼれる。

 

 すまねぇと、三度ナギは同じ言葉を紡いだ。

 

 そして何か思いついたのか、手に握った杖に目をやる。

 

「これを持っていろ」

 

 ナギはそう言ってルルーシュの手に自分の持っていた杖を握らせた。

 

「っ!」

 

 ナギはそのままルルーシュを抱きしめる。

 

「すまねぇ……もう時間がない。お前には……何もしてやれなくて……」

 

 歯を食い縛るギリギリという音が聞こえた。

 

 ナギはルルーシュの手を離して空中に浮かんだ。

 

「こんなこと言えた義理じゃねぇが、元気に育て、幸せにな!」

 

 ナギの姿が、まるで霞のようにぼやけていく。

 

 そして、ナギの身体は虚空へと消え去った。

 

 言葉を遺してナギが消え失せた後、ルルーシュは貰った杖を持ちながら、辺りを見回した。

 

 そして――

 

 

 

     ●

 

 

 

 ウェールズにある一つの村が消え去った。

 

 それから3日後、通信の途絶えた村に救助隊が到着した。

 

 救助隊が見たものは、変わり果てた村の姿だった。

 

 派遣された救助隊が生存者がいないか探してみるが、ただ死体の山と砕かれた石像の姿だけだった。

 

 保護された生存者は誰一人としていなかった――

 




後書き
ナギ無双ww
ルルーシュ、最上級の魔法発動体を手に入れました。
そういえば指輪と杖と比較すると、サブノートPC(指輪)とタワーPC(杖)くらいの差があるそうですね。
込められる魔力は杖より弱いみたいです。
その割には、原作では対して変わらなかったような(笑)


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