我が家の大天使雪風   作:イモリ

6 / 6
約一年ぶりだぜぇ……(白目


天使弁当

 雪風との儀式的な朝食を終え、仕事へ向かう。

 俺の仕事場は家からバスで三十分程度の位置にあり、八時半に出れば九時に間に合う。

 

 今日も八時半に家を出て、近場のバス停に止まるバスに定期を使って乗り込み、三十分掛けて仕事場。

 ちなみに俺の仕事先は地元スーパー等への商品納品を承る仲介業者、そこの商品分別を司る課の課長だったりする。

 

 

 

 

 

「おはよ」

「おはようございまーす」

 

 タイムカードを押して自分の机に着く。

 実は俺の課は部下が殆どの仕事をしてしまうため、また書類仕事なんぞは数える程度なため結構暇だったりする。

 たまに輸送先を間違えたり、納品する商品の数や内容を間違えたり、確認書類と納品内容が違ったり等の仕事を増やすふざけた間違いはあるものの、まあ課長の仕事なんてのは書類確認と上との連携くらいだ。

 その連携が面倒なのだが。

 

「課長、岩室店からお電話です」

「繋いどくれ」

 

 県内某所の店からまた苦情の電話だ。今月に入って既に二件も受けている。

 商品のアレが足りない、コレが多過ぎる、時間が遅い、うんぬんかんぬん。

 搬入の連中め、またやらかしたな。訂正書類と謝罪書、そして始末書を書くはめになった。上からもいびられるだろう。

 新人教育が滞ってやがる。

 

 

 

 

「課長、受付に御家族の方が来てるらしいですよ?」

「家族?」

 

 時間は現在十一時半。あと三十分で昼飯休憩。

 そんな時間に家族?

 

 おかしい。

 

 俺は父に半ば勘当されている。母も、妹もそれを分かっているので会いに来る筈がない。

 ならば俺に会いに来る家族がいるわけもない。まさか飼い猫が会いに来るなんてこともないだろうに。

 

 訝しげながらも、受付に行こうとすると……

 

「しれぇ!」

 

 聞こえるはずのない声が聞こえた。

 声の方向、部屋の入口に目を向ければ、そこにはキラキラ星の弾ける笑顔を浮かべた雪風が。

 

 なんでやねん。

 

 雪風はトテトテと走り寄ってきて、手に持っていた風呂敷包を手渡してくる。

 

「お弁当です、しれぇ!」

 

 あぁ、そう。うん、ありがとうね。

 けどさ、なんで会社の場所知ってんのかしらね。そして何故来ちゃったのかね。

 お弁当は嬉しいよ。うん、お昼代が浮くからね。買うのと作るのだと費用がこれでもかと違います。

 しかしなんで来ちゃうの。貴女はゲーム中でも特に有名な艦なのよ。服装は違うとはいえ、ゲームやってる人にバレかねん。

 

「お、課長の娘さんですか?」

「あれ? 課長って未婚じゃなかった?」

 

 昼休憩に出かける課の部下共だ。

 ぞろぞろと来るあたり、俺を期に皆して昼食を取るのだろう。

 皆が俺と雪風の関係を(邪推しながら)ネタに談笑していると、ガタタッと音が響く。

 音の発信源は我が課の解語の花、│長良美邦《ながらみくに》。今年23の新卒の女の子。

 手に持った弁当箱を落とした音だった。

 

「そん、な……課長に、子ども……」

 

 なんで悲壮な表情をする。

 そのまま美邦ちゃんは走り去ってしまった。

 

「あー……美邦さん逃げちゃったよ……」

「課長のこと好いてたもんなぁ」

 

 いやまて。いろいろまて。

 色んなことがいっぺんに起きすぎて事態に付いていけない。

 

 とりあえず。

 

「……ちょっとおいで、雪風」

「はい!」

 

 雪風を連れて社内の食事ベースに逃げた。

 

 

 

 

 

 雪風が持ってきてくれた弁当ーー甘い卵焼き、ベーコンとほうれん草炒め、ひじきーーを食べながら事の次第を整理すること五分。

 雪風曰く「しれぇがお昼ごはんを持って行ってなかったので、雪風がお届けにあがりました!」とのことで、肝心の会社の場所について聞くと「てきとーにバスに乗り込んだら着きました!」らしい。

 運がいいとかじゃないからもう。会社名は名刺から分かるとして、まずなんでてきとーにバスへと乗り込むのか。この異能生存体の思考回路は今の俺には理解できない。

 

 まあ雪風だと気付いた者には幾億分の確率でラプラスの悪魔による原子完全停止現象で物理法則から消え失せるだろうから問題はないと思うんだが。

 それにしたって心配は心配。不安にもなる。雪風とてどっかの雪風提督とは違うんだ。何も知らない状態で練度20未満の艦隊で2-4を突破できるとも限らない。

 億が一がなくとも、兆の一を防ぐために色々と取り決めをしないとな。

 

「雪風、弁当ありがとな。俺はまだ仕事あるが、一人で帰れるか?」

「はい、大丈夫です!」

 

 その自信はどういった根拠から生まれるのだろうか。

 不安を覚えながら、帰っていく雪風を見送った。

 

 

 

 

 

「課長、どういう事ですか……?」

 

 部屋に戻ったら美邦ちゃんが怒っていたでござる。

 泣き腫らしたのか目の周りは真っ赤。化粧は涙と一緒に拭き取ったらしく、おそらくスッピン。

 未だ若干涙目っぽいが、完全に怒ってる顔だね。なんで怒ってんねん。

 

「どういう事ってなにが」

「さっきの子です……私という者がありながら、結婚して……こっ、子どもまで……!」

「あー待て待て。なにか勘違い起こしてるぞ。色々と」

 

 ヒステリックし始めた美邦ちゃんを落ち着かせようとドウドウする。

 なんとか落ち着かせるものの、さて雪風をどう説明しようか。

 「ゲームから現れた艦艇なんです」とか言ったら俺の頭を疑われる。

 ここは俺の妄想力で嘘を重ねまくるしかないか……!

 

「実はな、俺の親戚が最近亡くなったんだ」

「……」

「その親戚の子どもがな、あの子だ。行き場もなく、俺が養子組んで引き取らないと孤児院か、児相とかに連れて行かれていただろうな」

 

 ……どうだ?

 

「……最近亡くなった親戚さんて、課長葬儀とか行ってましたっけ?」

 

 ぎくっ!

 

「つーか、両親亡くした割に元気すぎだろあの子……」

 

 ぎくぎくっ!

 

「……そもそも、未成年の養子縁組は裁判所を通します。少なくとも一か月はかかりますが?」

 

 …………。

 

 

 

 その後、俺は雪風についての説明(嘘に嘘を塗りつぶし)にてんやわんやした。




まだ雪風は未着任(白目
誤字や脱字、文章についてのyaggy

副題、「てんし」と打ったら「雪風」に神変換()されてたので修正。
それと法律関係で、養子縁組は現在は未婚でも組めるらしいですね。ちょっと記憶が古かったです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。